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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻13号

1986年12月発行

雑誌目次

臨時増刊特集 図解 診療基本手技 Ⅰ 病歴のとり方

1.患者との接し方

著者: 河野友信

ページ範囲:P.2190 - P.2193

 病歴には,病気に関する情報を収集するという目的のほかに,医療を進めやすくし,病人を理解するのに役立つという役割がある.もし病歴をめぐる情報が誤っていたり,不足したり,混乱したり,手落ちがあると,正しい医療が阻害されることになる.
 正しい病歴がとれるかどうかは,どのように患者と接するかにかかっているといって過言ではない.またこのことは,どのような医療を目指すのかにもかかっている.疾病中心でなく,疾病を担った病人を診るという全人的医療を志向した病歴のとり方であれば,患者の心深く踏み込んで,さまざまなパーソナルな情報を収集する必要があるので,患者との間に信頼のあるよい人間関係を作ることが特に必要となる.

2.病歴のとり方の技術

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2194 - P.2195

病歴のとり方の概念
 最初の患者との出会いに対する医師の態度は非常に重要で,今後患者を治療・指導してゆくのに大きな影響を及ぼす.患者からヒストリーをとる時に3つの要素がある.感情的要素・医学的要素・治療的要素である.

3.病歴のとり方の具体例—発熱と咳

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2196 - P.2197

病歴のとり方
 咳が主訴である時,咳の持続期間・喀痰の排出を伴っているかどうかを聞く必要がある.持続期間から急性であるのか慢性であるのかの判断ができる.急性である場合,発熱を伴っているのが重要な要点となる.つまり,感染症の存在の目安となる.慢性咳嗽には単なるたばこの咳嗽から閉塞性肺疾患・慢性誤飲・肺腫瘍といったものがあげられる.さらに咳嗽は喉頭性咳嗽と気管支性咳嗽に分けられ,喉頭性のものはせきばらい様として表現される.気管支性のものは喉頭より下部の病変によって引き起こされるものである.したがって,もっと深いところからの咳嗽である.何らかの気管支性疾患あるいは肺病変を伴っているのが常である(図).
 さらに喀痰が出るという訴えがあれば,のどからの分泌物なのか,気管支・肺からの分泌物であるのかをヒストリーから確認する必要がある.喀痰の性状を具体的にするには,一日の喀痰排出量・喀痰の色・喀痰の固さ・喀痰のにおい・血液の混入などを聞かなければならない.

4.病歴のとり方の具体例—胸痛

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.2198 - P.2199

 医師が診断を下す場合の思考過程には,次の4つの様式があると考えられている.
 ①パターン認識(pattern recognition) ②多分岐法(multiple branching method) ③仮説-演繹法(hypothetico-deductive method) ④徹底的検討法(method of exhaustion)

5.病歴のとり方の具体例—腹痛

著者: 木戸友幸

ページ範囲:P.2200 - P.2202

 腹痛は,医師を訪れる際の主訴のうちで,最も多いものの一つである.また,その原因は,千差万別であり,緊急処置(主に外科的)が必要な急性腹症の場合もありうる.この急性腹症に対し,原因を明確にする前に,対症的に鎮痛剤—特に麻薬系—を与えることは,かえって原因治療の時期の判断を誤らせ,悲劇を招くことになる.
 したがって,確実な方法は,詳細かつ迅速な病歴をとり,その後,あるいは同時に,同様の診察をすることである.これにより,診断の焦点がかなり定まり,処置あるいは検査の方針が決定できる.こう書くと,痛みに苦しむ患者を前にして,いくつもの質問をしているというイメージを持たれるむきもあろうが,実際には,診察を同時に行いながら,的確な質問をすれば,この経過が5分をこえることはまれである.しかし,このためには,必要な質問事項と可能性のある疾患のリストを頭の中に整理して入れておかねばならない.

6.POS(問題志向システム)によるカルテの書き方

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.2204 - P.2209

 POMR(Problem Oriented Medical System)という新語とそのフィロソフィーを考えだしたのは,Lawrence Weed(1968)であり,これは彼の名著 "Medical Records, Medical Education and Patient Care"(1969)により世界に紹介されるに至った.
 アメリカ合衆国でこの普及に一番貢献したのはJ. W. Hurst内科教授である.私は彼と友人であることからこれを日本に普及しようと思い,1973年からこれを聖路加国際病院で始めつつ,全国への普及をはかり,1973年11月,今から13年前に「POS(The Problem-Oriented System)医療と医学教育刷新のための新しいシステム」を医学書院から刊行した.

Ⅱ 理学的検査法

7.診察のすすめ方と全身のみ方

著者: 福原俊一

ページ範囲:P.2212 - P.2216

診察のもつ意義
 臨床医学における最近のハイ・テクノロジー化の動きには目ざましいものがある.診断過程において,新しい画像診断法や自動診断をはじめとして,その傾向が特に強いといえよう.このような状況にあって,診察のような再現性に乏しく,不確定性が強い「原始的な」手段は,将来いや現在においても意義をもつものであろうか?この素朴な疑問に答える前に,診察がなされる4つの代表的な設定を考えてみよう.

8.頭部・顔面

著者: 龍浩志 ,   植村研一

ページ範囲:P.2218 - P.2221

 □頭痛,顔面痛のみかた
 1)クモ膜下出血に伴う頭痛
 クモ膜下出血は診断を誤ると命取りとなる疾患であり,専門医以外の医者であってもこの頭痛を他の頭痛と混同してはならない最も重篤な頭痛で,ほとんどは脳動脈瘤や脳動静脈奇形よりの出血が原因である.その特徴は次のごとくである.
 ①全く突然に極めて激しい頑固な頭痛が起こり,瞬時にしてピークに達する.

9.眼

著者: 蓮沼敏行

ページ範囲:P.2222 - P.2225

 この項は,研修医または眼科以外の医師が,眼科的な救急患者を診察するときに役立つように記載した.眼科的検査を主体に,診断および簡単な治療までを含んでいる.

10.耳・鼻・咽喉

著者: 小松崎篤

ページ範囲:P.2226 - P.2230

 耳鼻咽喉科領域の治療手技の特徴は,外耳道,鼓膜,鼻腔,口腔内,咽頭,喉頭など,いずれも管腔内の診療のため,一般に肉眼でただちに観察できないところが多い.したがって,これら管腔内の観察には,光を入れて観察することが大きな特徴である.その具体的な方法としては,額帯鏡などの反射光を用いる方法,近年,利用価値の高いファイバースコープを用いる方法,さらに,手術用顕微鏡を用いる方法などがあげられる.

11.頸部

著者: 三谷勇雄 ,   福原俊一

ページ範囲:P.2231 - P.2233

頸部の基本的診察の手順
 全身の項で述べたルーチンの系統的診察の一環として行う場合の頸部の診察には,①頸部の視診②頸部の可動範囲③リンパ節の触診④甲状腺の双手診⑤気管の診察が含まれる.なお,頸静脈と頸動脈の診察は心血管系の項に譲る.

12.乳房・腋窩

著者: 高橋勇

ページ範囲:P.2234 - P.2235

 乳房,腋窩の疾患の大半は,主として視診,触診によって診断される.その着眼点と手技を図とともに概説する.

13.胸部

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.2236 - P.2242

 診療の原点は常に患者の訴えに注意深く耳を傾け,自らの医学知識に基づいてその訴えを咀嚼し整理して患者が悩まされている疾患のオリエンテーションを得ることである.
 諸種の臨床検査はそのオリエンテーションに基づいて進められ,診断の方向づけの正当性や重症度の判定あるいは治療方針の判断に資するものであって,決して万能ではなく,むしろ患者の訴えや状態を無視した臨床検査はいたずらな数値の羅列にすぎず無価値に近い.

14.心臓・血管系

著者: 道場信孝

ページ範囲:P.2244 - P.2249

どのような所見をとらえるか
 心・血管系に限らず,すべての診察において,全身状態のチェックが重要であることは言うまでもない.それと個々の臓器に特異的な所見を組み合せ,さらにそれらに病歴からの情報を重ね合せることによって,ほとんどの疾患の形態や機能の異常に関する診断は可能である.
 心臓・血管系の診断に必要な診察所見には,(1)全身状態,(2)頸静脈の拍動,(3)頸動脈の拍動,(4)前胸壁の拍動,(5)心音の聴診,(6)末梢動脈の触診,そして(7)血圧測定などの手技が含まれ,適切な時期に最も適切な所見を正しくとらえることが出来るよう,これらの技術を修得しておかなければならない.

15.腹部

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.2250 - P.2254

 腹部の診察所見のとり方はなぜか軽視されているようである.確かに消化器疾患の各種検査法や画像診断法の最近の進歩は眼をみはるものがある.一方ここで述べる腹部の診察法には眼新しいものは何一つない.しかしながら,筆者が十数年前に学んだ診察法が今なお十分に通用することに是非注目していただきたい.現在最先端を行くと思われる各種検査法も10年後にその有用性を保ち得るかははなはだ疑問と言える.これから先も臨床医にとって一生の貴重な財産となり得る腹部の診察法を正しく憶えるのも決してむだとはならないであろう.

16.肩・背部

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.2255 - P.2257

肩の診察
 肩関節周囲の主な筋は三角筋,棘上筋および棘下筋である(図1).肩を前面および後面から観察し,外観,筋萎縮の有無,左右差,自発痛,局所圧痛と腫脹,運動に伴う疼痛と運動制限,放散痛などについて触診を行い検討を進める.とくに肩と上肢の運動検査は,図2のごとく各種のものがある.
 三角筋の明らかな萎縮は,廃用,腋窩神経の損傷によりおこり,棘上筋と棘下筋の萎縮は,神経損傷,肩の回旋筋腱板付着部の外傷あるいは石灰化性腱炎などでみられる.

17.神経系

著者: 大生定義 ,   本多虔夫

ページ範囲:P.2258 - P.2262

 神経系の理学的検査の項目は,表1に主なものを示したが,ここでは1,5,6について述べることとする.できるだけ簡単に,実際面を重視して述べる.

18.四肢

著者: 林清恵 ,   高木誠

ページ範囲:P.2263 - P.2265

 四肢の診察は,内科的診察の中でも見落としがちな項目である.本稿では四肢の診察の中で,日常臨床上,重要と思われる点につき,内科的観点からまとめてみたい.表1にポイントとなる診察項目を示したので,これに従い述べる.

19.皮膚

著者: 松尾聿朗

ページ範囲:P.2266 - P.2267

視診—皮膚のみかた
 皮膚病の診断の基本は,皮疹を正確に観察し,それをできるだけ正確にカルテに記載することである.理学的検査は主に原因の検索,病態の解明に利用される.
 そこで,皮疹をよりよく観察するための条件として,明るいところで診察するように心がける.その際,光源は太陽光であることが望ましい.人工光源ではどうしても皮疹の色調がはっきりしない.皮膚病には始発部位がある.そこで全身の皮膚を必ずみる.皮疹が無いと患者が言っても,全身の皮膚をみる習慣をつけるとよい.その際,毛,眼,口腔粘膜,歯,爪などに異常がないか注意深く診察する.特に先天性の疾患の場合には,皮膚以外にこれらの部位の病変が診断の決め手になることがある.

20.直腸・肛門

著者: 小林世美

ページ範囲:P.2268 - P.2269

 わが国では,一般臨床教育の中で直腸肛門診はルチンに行われていない.消化器病の臨床においてさえもおろそかにされている現状である.大腸疾患が増えつつある今日,直腸肛門診のルチン化はぜひとも必要である.

21.男性器

著者: 安田耕作

ページ範囲:P.2270 - P.2271

 男性器の理学的検査にあたっては,陰茎,陰嚢,睾丸,副睾丸,前立腺,精嚢の各臓器に対して,腫瘍,炎症,奇形などの疾患を念頭に検査をすすめていくことが大切である.特にこの領域においては理学的所見が診断のために最も重要となる場合が多いため,注意深い検査が必要である.

22.女性器

著者: 武田秀雄

ページ範囲:P.2272 - P.2273

 女性器に対する診察の基本は腟腹双合診(略して双合診,あるいは単に内診とも呼ぶ)であるが,腟鏡診,直腸診,外診も行われる.

Ⅲ 救急手技 A 救急蘇生法

23.救急蘇生法の手順—新しい心肺蘇生法

著者: 田伏久之 ,   太田宗夫 ,   有馬三郎 ,   高岡諒

ページ範囲:P.2276 - P.2279

 本邦における救急蘇生法は1977年の日本救急医学会による「救急蘇生法の指針1)」刊行,さらに1983年の日本医師会案による「救急蘇生法の指針改定2)」によりまとめられ,そこに基本的な方法が示されるている.これらの中心である心肺蘇生法(cardio pulmonary resuscitation;CPR)は1974年および1980年に米国で報告された「救命処置と救急心臓治療法の基準と指針」が参考にされている.これらの内容は一般によく知られているBLS(basic life support),ALS(advanced life support)であり,特に詳しい解説を加える必要もないと思われる.

24.気道の確保

著者: 片岡敏樹

ページ範囲:P.2280 - P.2283

 気道の確保は救急蘇生法の第一歩となる基本的な手技であり,その方法として,①気道異物の除去,②用手的気道確保法,③エアウエイ法,④気管内挿管法,⑤輪状甲状軟骨間穿刺および切開法,⑥気管切開法がある.本稿ではこれらの気道確保法の適応,手技,注意点,合併症などについての基本的な事項について述べることとする(詳細な手技,合併症およびその対策に関しては優れた成書,文献が数多くあるのでぜひ参照されたい).

25.人工呼吸法

著者: 益子邦洋

ページ範囲:P.2284 - P.2286

 人工呼吸法には何らかの器具を用いた方法と全く器具を用いない方法とがあり,時,ところ,目的に応じて使い分ける必要がある.そこで本稿では現在行われている様々な人工呼吸法を解説し,実施上のポイントを述べることにする.

26.酸素投与法

著者: 高橋秀則 ,   森田茂穂

ページ範囲:P.2288 - P.2291

適応—低酸素血症の予防または治療
 原因としては大きく分けて低換気,拡散障害,換気・血流不均等,シャントの四つに分けられる.
 この中でシャントによるものの場合,酸素投与によってほとんど改善が見られない.

27.人工呼吸器の使い方

著者: 小澤みどり ,   大村昭人

ページ範囲:P.2292 - P.2297

適応
 急性呼吸不全は肺自体に異常がある場合以外にも,敗血症,低栄養状態,心不全,腎不全,肝不全,DIC,神経筋疾患,外傷,開胸・開腹術後など様々な背景が存在する.したがって人工呼吸器による呼吸管理が必要か否かを判断する基準は必ずしも検査データの数値だけに限られないが,大方の目安として,
 Pao2<50mmHg(room air吸入時)
 <70mmHg(酸素吸入時)
 またはPaco2>50mmHg
の時は適応ありとしてよい.最終的には,患者の全身状態や検査所見から医師が臨床判断に従って決定すべきである.その際,人工呼吸器による管理は必ずweaningの可能性も考慮しなくてはならない.Weaningの見込みのない患者に適応すれば,患者やその家族に与える苦痛や負担が増大するばかりであることを忘れてはならない.

28.心マッサージ

著者: 本田喬

ページ範囲:P.2298 - P.2301

適応
 心マッサージは,突然,有効な心拍動が停止し,心臓からの血液拍出が消失した状態,すなわち心停止を確認したら直ちに開始しなければならない.
 心停止の確認は,①意識消失 ②頸動脈および大腿動脈の拍動を触れない ③無呼吸,または下顎呼吸(胸郭の動きがない) ④心音聴取不能 ⑤チアノーゼまたは顔面蒼白 ⑥瞳孔散大 ⑦動脈圧の著しい低下 ⑧心電図上,心室細動,心静止,または著しい徐脈,などによって行う.

29.血管確保

著者: 真栄城優夫

ページ範囲:P.2302 - P.2305

 血管確保は,救急に際し,蘇生法のABCに次いで重要である.これは日常診療においても繁用され,すべての医師が習熟していなければならない手技の一つである.

30.救急薬品の投与法

著者: 安田和弘

ページ範囲:P.2306 - P.2307

 Advanced life support(ALS)の中で薬剤の適切な投与は最も大切な処置の一つである.心肺蘇生時の薬剤投与は静脈内投与を原則としており,皮下・筋肉内投与は効果がないばかりか,循環改善後薬剤の過剰効果が出現するおそれがある.よって,静脈路の確保は極めて大切であり,中心静脈ラインがとれればそこからの注入はより効果的である.
 なお,hypovolemic shockの場合には,十分な輸液・輸血を行うことが蘇生のための必要条件であり,乳酸加リンゲル液で輸液を開始する.

31.心腔内薬物注入法

著者: 竹内弘明 ,   山口徹

ページ範囲:P.2308 - P.2308

適応
 心腔内への薬物注入は末梢静脈からの注入では薬物が心腔内へ達しない時,すなわち心停止時にのみ行うものである.したがって使用する薬剤は心臓に強力に作用するボスミン(アドレナリン)やカルチコール(塩化カルシウム)(注1)などの薬物に限られる.

32.心電図モニター

著者: 高尾信廣

ページ範囲:P.2310 - P.2314

 心電図モニターの普及に伴い,不整脈を中心とした心電図の持続的監視は日常的なものとなった.不整脈の検出も一部は自動化されるようになったが,やはり監視する人の能力によるところが大きい.不整脈の多くは機能的に起こり重要な意味を持たないが,救急処置ないしは治療を開始しなければならない場合もあり,その鑑別が重要となる.ここでは主として不整脈の鑑別について述べる.

33.除細動

著者: 高尾信廣

ページ範囲:P.2315 - P.2317

 ここでは電気的除細動法を中心に述べる.心臓に強い電流を短時間流すと,心臓全体が同時に脱分極を起こし収縮する.そしてこれにより再分極の位相がそろい,正常の興奮生成および伝導が開始される.特にリエントリー機序により生じる不整脈に対して電気的除細動は有効である.除細動という訳語にはdefibrillationとcardioversionの両方の意味があり,心室細動(Vf)に対してはdefibrillationが,それ以外の不整脈に対してはcardioversionが使用される.その相違は通電時期がQRS complexと同期(通常R波同期)しているか否かにより区別され,cardioversionは同期しており,通電時期が受攻期vulnerable phaseにかからないようになっている(図1).適応と禁忌を表1に掲げる.

34.緊急ペーシング

著者: 横山正義

ページ範囲:P.2318 - P.2319

適応
 緊急ペーシングは次のような場合に行われる.
 ①急性期心筋梗塞患者で房室ブロックがある.
 ②徐脈患者でAdams-Stokes発作がある.
 ③心臓手術後患者で房室ブロックや不整脈がある.
 ④ペースメーカー患者で急性ペーシング不全がある.
 ⑤麻酔中または出産時の患者で,房室ブロックや不整脈がある.

B 循環動態および呼吸機能検査法

35.中心静脈圧測定法

著者: 田中啓治

ページ範囲:P.2320 - P.2321

 中心静脈圧(CVP)は右心房に近接する大静脈(主に上行大静脈)の静脈圧で,右房圧や右室拡張終期圧を反映し,これは循環血液量,心機能,胸腔内圧,末梢静脈の緊張度などによって影響される.
 本稿ではこのCVPの測定法および測定の意義について述べるとともに,より簡便なCVP推定法についても触れる.なお,CVP測定用カテーテルの挿入法については,別稿に記載されているので,これを参照していただきたい.

36.Swan-Ganzカテーテル法

著者: 田中啓治

ページ範囲:P.2322 - P.2327

 Balloon-tipped flow-directed catheterは発案者であるSwan, HJCとGanz, Wの名をとり"Swan-Ganzカテーテル"と呼ばれる(American Edwards Laboratoriesの商標).特徴はカテーテル先端にバルンがついていることで,これを膨らますことによって,X線透視装置を用いないでも,安全にカテーテルを右房,右室,肺動脈へとすすめることができる.

37.動脈圧測定法

著者: 石原昭

ページ範囲:P.2328 - P.2329

 動脈圧測定法には非観血的測定法と観血的測定法とがある.救急医療を要するような症例では,まず非観血的測定法にて測定し,異常な低血圧や血圧の変動の激しい時には,直ちに観血的血圧測定法に移るのが一般的である.

38.血液ガス測定方法と分析

著者: 塚本玲三

ページ範囲:P.2330 - P.2333

□血液ガス測定目的とそのパラメータ
1)酸素加の評価
動脈血02分圧Pao2
Hbの02飽和度Sao2
動脈血02含量Cao2
=1.39×Hb(g/dl)×SaO2(%)×(1/100)+0.003×Pao2
混合静脈血02分圧Pvo2
2)換気状態の評価
動脈血CO2分圧Paco2

C 緊急穿刺法

39.胸腔穿刺法と脱気法

著者: 武野良仁

ページ範囲:P.2334 - P.2335

適応
 胸腔に液および,または空気の貯溜している症例(排液の場合は当然検体をとることができる)

40.心膜穿刺法

著者: 堀越茂樹 ,   新井達太

ページ範囲:P.2336 - P.2337

 心嚢内には正常でも少量の心嚢液が存在するが,内圧はほとんどゼロである.何らかの原因で心嚢内に液体が貯留した場合,貯留液量が80〜120 mlまでは内圧の上昇は少ない.しかし,それ以上になると,急速に貯留した場合には50ml加わっただけで内圧は著しく上昇し,ショックに陥ることがある.一方,徐々に貯留した場合には数100 ml貯留しても余り影響を及ぼさない場合さえある.このことは貯留液量よりも貯留速度,すなわち,急速に上昇する心嚢内圧が血行動態に大いに関係していることを示す.実際には心嚢内圧が上昇し,CVPが15〜20 cmH20以上になると,代償機構がくずれ,非代償性となり,急激に血行動態が悪化する.このような状態,すなわち心タンポナーデの時,心膜穿刺法を行い心嚢内液を排除し減圧を図る必要がある.特に,急性心タンポナーデではわずか20〜30 mlの排液で血行動態は劇的な改善をみせるものである.

41.腹腔穿刺法

著者: 鈴木宏昌 ,   小林国男

ページ範囲:P.2338 - P.2339

 試験的腹腔穿刺は1906年にSalomonらによって臨床応用され,初期は腹膜炎の鑑別診断に用いられた.腹部外傷による腹腔内出血の鑑別に用いられるようになったのは1940年代からで,Wrightらは肝破裂の診断に応用し現在も広く行われている4分画穿刺法(four quadrant par-acentesis)を確立した.
 1960年代に入ってより正診率が高く鋭敏な腹腔洗浄が普及し,腹腔穿刺単独よりも腹腔洗浄を合わせ評価されるようになってきた.腹腔洗浄は鋭敏過ぎてfalse positiveも少なくないが腹腔穿刺では判定困難である消化管損傷や横隔膜損傷,膵損傷の鑑別に有用である.主に腹部外傷における腹腔内出血の診断を目的とした腹腔穿刺法について適応と手技を示す.

42.膀胱穿刺法,導尿

著者: 安田耕作

ページ範囲:P.2340 - P.2341

膀胱穿刺法の適応
 導尿,膀胱穿刺法の絶対的適応としては,尿閉が挙げられる.尿閉の原因として,前立腺肥大症や尿道狭窄などの器質的下部尿路閉塞疾患,神経因性膀胱,心因性尿閉,出血性膀胱炎(エンドキサンによる化学性膀胱炎など)や膀胱腫瘍の出血のためのコアグラタンポナーデなどが考えられる.
 相対的適応としては,尿閉と無尿の鑑別が必要な場合,残尿量を測定する場合や尿量を正確に把握したい場合などがある.

D 緊急検査法

43.腹部超音波検査法

著者: 秋本伸 ,   及川悦雄

ページ範囲:P.2342 - P.2347

腹部診療における超音波検査の位置
 超音波検査(以下US)が他の画像診断法をはじめとした各種検査法に比べ際立った特色を持つ点は,かつては無侵襲の一点がそのすべてであった.Grey-scale表示と電子スキャナーの実用化以来,広いtarget・実質と血管など管状構造双方の情報獲得・real timeの情報獲得が主な特色として加わったと言えよう(表1).ここから導き出されるUSの役割は多岐にわたり,集団検診や人間ドックにおけるスクリーニングから治療方針決定にかかわる精密検査に及ぶ(表2).
 重要な点は,腹痛や腹部腫瘤など多くの有所見患者に対するdecision treeにおいて,USは要めに位置し,診断から治療に至る診療の流れをいかに効率よく進めるかのキーポイントになるということにある.多くの腹部疾患の臨床にとってもはやUSは必要不可欠な手段であり,これを使いこなし,そこから得られる情報を的確に拾い出すことが,良い臨床医であるための条件の一つと言っても過言ではなかろう.

44.心臓超音波検査法

著者: 鈴木順一 ,   羽田勝征 ,   坂本二哉

ページ範囲:P.2348 - P.2353

適応と禁忌および合併症
 心臓超音波検査法は心臓・胸部大血管系の形態的情報,機能的情報および血流情報を提供するものであり,その非侵襲性と検査手技の簡便性とから,本法は緊急時に十分対応し得る検査法である.したがって緊急時に,これらの情報が診断および治療に必須と考えられるすべての場合が適応であり,禁忌となる場合はない.
 実際には,突然の呼吸困難,胸痛およびショックが本法の適応となる症状である.急性心筋梗塞,狭心症,解離性大動脈瘤,心タンポナーデ,心筋炎および先天性心疾患,後天性弁膜症,うっ血型心筋症,心膜疾患,肺疾患などによる急性心不全が鑑別疾患である.

45.骨盤部超音波検査法

著者: 作山攜子 ,   原上子

ページ範囲:P.2354 - P.2357

検査の手技とポイント
 1)膀胱充満
 骨盤内超音波検査を行うにあたって,膀胱を充満させることは最も重要である.その理由は,①膀胱を"sonic window"として利用し,膀胱の後方に存在する子宮や腫瘤などの描出を良好にするためと,②膀胱を充満させることにより,超音波検査に不適当な腸管を上方に押しやることにある.緊急検査において膀胱が充満していない場合は,膀胱内に逆行性にカテーテルを挿入し,微温程度に温めた生食水を注入して検査を開始する.

46.緊急内視鏡検査法

著者: 亀谷章

ページ範囲:P.2358 - P.2360

緊急内視鏡検査とは
 消化管出血早期(48時間以内)の内視鏡検査,および急性腹症や消化管異物に対する内視鏡検査を意味する.

47.血液型判定と交差適合試験

著者: 小松文夫

ページ範囲:P.2362 - P.2365

 輸血がどんなに緊急に必要であっても,血液型の判定と交差適合試験を省略して輸血を行うことはできない.誤った輸血,とくにABO式異型輸血を起こした場合,患者は急速に重篤に陥り,死亡することがあるからである.急性出血を起こしやすい患者など,緊急輸血を行う可能性のある患者については,前もって型判定と不規則性抗体のスクリーニングを行っておいたほうがよい.これらの検査が実施されていれば,緊急時の検査はかなり簡単にすますことができる.

E その他

48.Sengstaken-Blakemore tube使用法

著者: 杉原隆 ,   幕内博康 ,   三富利夫

ページ範囲:P.2366 - P.2369

 食道静脈瘤破裂に対するballoon圧迫止血は,1930年のWestphalに始まり,以後種々の管が考案されてきたが,現在臨床の場で広く使用されているものはdouble balloon tubeである.これには3腔構造のSengstaken-Blakemore tube(S-Btube)と,これを改良した4腔よりなるMinnesota tubeがある.S-B tubeは,食道・胃balloonの送気用と,胃内容吸引洗浄用の3腔管であり,一方,Minnesota tubeは,さらに食道balloonの口側に食道内吸引用の孔が付いており,食道内の血液や唾液を除去できる利点がある(図1).また特殊なものとして,内腔から静脈瘤の出血部位を観察できる出月氏tubeも考案されている.
 S-Btubeは,食道静脈瘤出血に対して最も手軽で有効な止血手段として,世界的に広く用いられている.その適応および使用法につき解説する.

49.大動脈内バルーンパンピング法

著者: 上松瀬勝男

ページ範囲:P.2370 - P.2372

原理
 大動脈内バルーンパンピング法(Intra-Aortic Balloon Pumping;IABP)は,大腿動脈から挿入したバルーン付きカテーテルを胸部大動脈に留置し,心拍に同期させ左室拡張期にバルーン(30ないし40ml)をヘリウムガスで急速に膨張させることにより,拡張期大動脈圧を上昇(diastolic augmentation)させ,冠血流量を増加させようとするものである.一方,左室収縮期の直前にバルーンを急速に閉じて大動脈内圧を下げ,左室の駆出抵抗を低下(systolic unloading)させることにより,左心仕事量の軽減を図るものである.したがって,拡張期には心筋への酸素供給の増加が,収縮期には左心仕事量の軽減が期待でき,虚血心筋を保護できる.図1に原理の模式図を示す.

50.救急透析

著者: 元木良一 ,   遠藤幸夫

ページ範囲:P.2374 - P.2375

 救急透析とは,外因性の有害薬物や体内に蓄積した代謝産物,過剰の水分,電解質などを,緊急に除去するために行う透析療法(または血液浄化法)をいう.慢性透析に比して,敏速性,確実性が要求される.

51.急性中毒の治療

著者: 佐藤重仁

ページ範囲:P.2376 - P.2381

 急性中毒の治療は対症療法が基本であり,予後は,いかに速く,かつ完全に原因毒物を除去できるかにかかっている.外来で異常がなくても,できるだけ入院させて経過を観察するのが基本.自殺企図者の場会は,とくに再発防止をかねて全員入院.

Ⅳ 診療手技 A 注射法と輸血・輸液

52.注射法—成人

著者: 西崎統

ページ範囲:P.2384 - P.2386

皮内注射(Intracutaneus injection)
 皮内注射は,ツベルクリン反応やアレルゲンによる即時型の皮膚反応に用いられる(また皮膚の局所麻酔のときにも用いられる).
 通常,注射部位としては前腕屈側の皮膚に行うが,一度に何種類かのテストを行う場合には,上腕屈側の皮膚にも行うことがある.

53.注射法—小児

著者: 武内可尚

ページ範囲:P.2388 - P.2392

 乳幼児では,注射のような苦痛を与える処置に対し理解が得られない.こちらの目的をスピーディに達成することは,小児の苦痛や恐怖をより少なくする上で大切であるばかりでなく,不測の事故を招かないためにも大事なことである.注射を確実に,そして安全に行うための要諦は次のようになる.

54.中心静脈カテーテル挿入法

著者: 中江純夫 ,   前村達

ページ範囲:P.2394 - P.2397

 心内圧モニタリング法,一時的経静脈ペーシング法,完全中心静脈栄養法および救急蘇生法の進歩は,迅速かつ信頼性の高い種々の中心静脈到達法の開発を促進した.
 本稿では,穿刺による中心静脈カテーテル挿入の適応,禁忌,手技,注意点,コツ,合併症などに関し記述する.

55.皮内反応

著者: 木村亮 ,   高林克日己

ページ範囲:P.2398 - P.2399

適応
 ①ツベルクリンの遅延型反応(ツ反)
 ②抗生物質,アレルゲンの即時型反応

56.輸血

著者: 遠山博

ページ範囲:P.2400 - P.2404

輸血のシステム
 現在わが国では,輸血をする場合,大部分の血液製剤(全血または各成分)の供給を日本赤十字血液センターより受け,ごく一部は病院内採血血液でまかなわれている.後者は,緊急時の大量全血輸血を行う場合と,連続血液成分遠心分離装置で大量の顆粒白血球や血小板を採集して,これを輸血に用いるようなこともすっかり普及してきた.これらの供血者については採血基準があるが,昭和61年4月より"新採血基準"が設定・実施されている.これによると,一定の条件を満たしている人については,従来の200ml採血の他に,①400ml採血,②400mlの血漿成分採血(ダブルプラスマ・フェレーシス),③大量血小板採血をも施行できることになった.

57.輸液

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.2406 - P.2409

患者へのアプローチ
 図1に示すように,われわれは来院時に患者のhistoryを聞きだすことによって,現時点にいたるまでのバランス状態を知ろうとする.これは出納簿の収支計算にあたる.しかしその計算の裏付けとして,手元にある現金の状態も把握しておく必要がある.この現金勘定にあたるものが身体所見(status presens)である.この両者は家計簿においては完全に一致することが要求されるが,診療行為ではなかなか完全にはいかない.そこに臨床家の勘といったものが入ってくるのである.
 入院治療が開始されると,バランスシートによって収支計算がより正確に行われるが,これのみに頼りすぎて失敗することがよくある.これは現金勘定を無視したための失敗である.身体所見だけでなく,血液その他の検査所見も現金勘定のほうに入る.

58.高カロリー輸液

著者: 碓井貞仁

ページ範囲:P.2410 - P.2413

 高カロリー輸液法(intravenous hyperalimentation;IVH)は,上大静脈内にカテーテルを挿入留置し,高濃度糖,アミノ酸をはじめ,電解質,ビタミン,ミネラルなど生体に必要な栄養成分を持続的に投与する栄養法である.IVHは本邦に導入されて以来,栄養成分を確実に投与でき,治療効果がきわめて優れていることから急速に普及した.消化器外科領域ではとくに不可欠の治療手段となっており,手技の修得は必須といってもよい.

59.経管栄養

著者: 正田良介 ,   松枝啓

ページ範囲:P.2414 - P.2419

 入院患者の20〜50%にProtein-Calorie Mal-nutrition(蛋白栄養不良症,以下PCM)が存在し,そのPCMが患者の予後を悪化させることが知られている.このPCMを改善するためには栄養療法が必要であるが,栄養療法開始への第一歩はPCMをもつ患者の発見である.すなわち,病歴,理学的所見(体重,Anthropometric measurementなど),検査所見(血清アルブミン値,血清トランスフェリン値,尿中クレアチニン値,クレアチニン・ハイト・インデックスなど)および免疫学的検査(末梢血リンパ球数,皮内反応など)に基づいて,総合的にPCMの存在を的確に診断し,栄養療法を早期に開始することが重要である.

B 消化器検査法

60.胃透視法

著者: 細井董三

ページ範囲:P.2420 - P.2424

 胃の透視検査は,能率の向上とX線被曝の軽減の目的で,今日では一般にルチーン検査と精密検査に分けて行われている.
 ルチーン検査の目的は,病変の拾いあげにある.多数の受検者の中から能率よく異常者を拾いあげるためには,表のような一定の検査手順に従って,一定時間内に検査をすませる必要がある.そのためには,診断は写真判定で行うようにし,従来のように透視に時間をかけすぎないことである.

61.小腸造影法(二重造影法)

著者: 小林茂雄

ページ範囲:P.2426 - P.2429

 胃や大腸のX線検査は二重造影法が中心であるが,小腸のX線検査は,つい最近まで経口検査しか行われていなかった.造影剤を,ゾンデから小腸へ直接注入する方法は,古くから発表されていたがあまり活用されていなかった.経口検査では,小腸の微細な変化の描出ができなかった.したがって診断学も,病変の間接所見の記述が主であった.最近になり,SellinkやHerlingerらにより,水またはメチルセルロース溶液を追加注入する方法(いわゆる薄層法)が発表され,小腸の検査法も様変わりしてきた.当然,小腸のX線診断学も変わっていかなくてはならないが,欧米の診断学にはあまり大きな変化はみられなかった.
 一方,本邦では,筆者らおよび中村らによって空気を用いた方法(いわゆる二重造影法)が発表され,診断学が急速に変化した.これは,空気による二重造影像が,微細診断に適していたからである.八尾,司,牛尾らによって,小腸病変の詳細な記載がなされ,完全に欧米を追い越したといってよい.

62.注腸二重造影法

著者: 牛尾恭輔 ,   石川勉 ,   山田達哉

ページ範囲:P.2430 - P.2435

 約20年前までは,消化管症状を訴えた患者に対し,上部消化管の検査のみで終わる例が多かった.しかし最近では,炎症,腫瘍を問わず大腸疾患の増加が著しい.これには,①食生活の欧米化,②大腸検査法の進歩と簡便化,③医療側および患者側の大腸疾患に対する関心の深化,などが相互に関連し合っているためと考えられる.その結果,一般の診療の場で,注腸X線検査や大腸内視鏡検査を行う頻度は,急速に増えてきている.そして現在,腹部症状を訴えて来院する患者に接して,大腸疾患の知識と大腸検査法の習得なしでは,日常の診療活動に支障をきたす状況となっている.そこで以下,大腸検査のうちで主体を占める注腸X線検査について,その適応,禁忌,手技,注意点,合併症について概説する.

63.直腸鏡検査法

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.2436 - P.2438

 直腸鏡検査は直腸病変の診断にとって最も大切な検査法であるばかりでなく,大腸疾患についても有益な情報を与えてくれる検査である.直腸鏡検査が第一線の医療施設でもっと頻繁に行われていれば,直腸癌の早期発見の頻度はもっと上昇するに違いない.本稿では本検査法の実際について概説することにする.

64.コロノスコピー(大腸内視鏡検査)

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.2440 - P.2443

 コロノスコピー(大腸内視鏡検査)は,経肛門的に内視鏡を挿入して,大腸,終末回腸の粘膜を観察する検査である.検査の目的は,病変の発見,観察(診断),治療にある.

65.十二指腸液採取法

著者: 竹内正

ページ範囲:P.2444 - P.2445

十二指腸液採取法
 一般に行われている方法は,経口または経鼻的にチューブを挿入し,先端を十二指腸下行脚に位置するようにし,胆汁排泄促進剤として硫酸マグネシウム液をチューブから注入し,その後チューブからサイフォンの原理で流出する胆汁を分画採取して黄疸指数,沈渣,細菌などを検査するもので,メルツァー・リオン(Meltzer-Lyon)法といわれるものである.胆嚢の機能,胆道疾患の診断に用いられ,治療法としても行われるものである.
 胆汁排泄促進剤として,セルレイン,コレシストキニンなどの注射も行われる.

C 穿刺および生検法

66.肝生検法

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.2446 - P.2449

 肝疾患の診断における各種血液検査や画像診断法の飛躍的進歩にもかかわらず,肝の病理学的検査法の重要性は今も変わらない.肝の組織小片を採取する方法を肝生検法といい,表1のように多くの方法が実際に用いられている.このうち通常肝生検法と呼ばれているものは体外から肝を"blind"に穿刺する肝盲生検法であり,特殊な器械を要さないため最も広く行われている.ここではその肝盲生検法の手技を中心に述べる.

67.腎生検法

著者: 阿部昌洋 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.2450 - P.2453

適応
 原発性および続発性両側性びまん性腎疾患の組織学的診断に用いられる.

68.骨髄穿刺・生検法

著者: 浦部晶夫 ,   高久史麿

ページ範囲:P.2454 - P.2455

 骨髄穿刺ならびに骨髄生検は血液疾患の診断上,欠くことのできないものであるが,他の全身性疾患の診断に際しても必要になることがある.一般には骨髄生検よりも骨髄穿刺の方が多く行われるが,穿刺してもdry tapの場合は生検が必要になるし,また,疾患によっては骨髄穿刺と生検の両方が必須の検査になる.

69.髄腔穿刺法

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.2456 - P.2459

〔腰椎穿刺〕
 目的
 脳脊髄液の圧,性状などに関し,情報を得るために髄液採取の目的で行うことが多いが,ミエログラフィーなど放射線検査のために行う場合もある.

70.Douglas窩穿刺法

著者: 徳川英雄

ページ範囲:P.2460 - P.2461

 ダグラス窩穿刺は,骨盤腔内の貯留液を採取することによって,腹腔内の炎症性病変や出血,卵巣腫瘍などを診断したり,気腹法などに応用されたりしている.また,必要とあれば,穿刺に引き続いて小切開を加えるだけでダグラス窩ドレナージに移行することができ,CTスキャンやエコー検査が発達している今日においても,診断,治療の両面から,まだその意義は失われていない.また,患者に対する侵襲や合併症が比較的少なく,特別な装置を要せず迅速かつ簡便に実施できるという利点を有する.

71.関節腔穿刺法

著者: 吉田輝明

ページ範囲:P.2462 - P.2464

適応
 急性化膿性関節炎,関節結核,痛風,偽痛風,外傷性関節血症,慢性関節リウマチ,変形性関節症,その他関節液貯留をきたす疾患において,関節液を採取し分析することは,関節疾患の診断に必要な情報を提供してくれるので,一種の生検ともいえる.さらに滑膜や軟骨の壊死物質(debris)を洗浄(pumping)するなど治療にも応用される.

D 外来検査法

72.細菌染色法

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2466 - P.2467

 細菌染色法には最もよく使用される,グラム染色,チール・ネールセン染色があげられる.

73.細菌培養法

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2468 - P.2469

血液培養
 1)採血の仕方
(1)採血のタイミング
 菌血症が持続的である場合—心内膜炎・網内系の感染症.採血のタイミングはそれほど重要でない.
 菌血症が一過性である場合—膿瘍・好中球減少時.採血のタイミングは重要である.細菌数の最高時は発熱の1時間前とされている.

74.白血球数算定

著者: 土屋達行 ,   河野均也

ページ範囲:P.2470 - P.2471

 末梢血中白血球数の算定は,一般スクリーニング検査の一つとして,または白血病などの血液疾患の診断や治療過程の観察に不可欠な基本的な診療手技として実施されている.その算定には従来,顕微鏡下に直接算定する目視法が主として用いられてきたが,現在では迅速かつ高精度に測定できる自動血球計数器を用いる方法が検査室には広く普及してきた.本稿では,簡単な器具のみで測定できる目視法を中心に述べる.

75.ヘマトクリット測定

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.2472 - P.2473

 ヘマトクリット(HCT)に関してはWintrobe法と毛細管法があるが,現在ではWintrobe法は用いられることが少ないので,本文では毛細管HCT法だけを扱うこととする.

76.末梢血液像

著者: 黒川一郎 ,   木村寿之 ,   小柳陽子 ,   伊沢明子

ページ範囲:P.2474 - P.2478

 末梢血液細胞は骨髄およびリンパ組織で生成された芽球から分化・成熟し,末梢血液中で成熟赤血球(含網状球),顆粒球(好中球,好酸球,好塩基球),リンパ球,単球,血小板として出現するが,骨髄機能,体内各種組織の状態の変動に応じて体内を循環する末梢血球は量的(数の変化),質的(種類の変化)に複雑な所見をきたす.それら体内の変化を末梢血液像の検索によってかなり詳しく知ることができるが,このためには骨髄-末梢血-組織の3相の相互関係を念頭におかなければならず,また日常で光学顕微鏡によく親しんで,観方に熟達するように心がけなければならない.同時に他の自動血球計数器による情報を参照しなければならない(図1).

77.尿の定性検査

著者: 竹中道子

ページ範囲:P.2480 - P.2482

 尿は患者にほとんど負担をかけずにいつでも採取でき,その定性検査は即時に結果が判明するため,診察前検査としても重視されている.
 検査法は,Dip and Read式の試験紙法が主流で,即時性,簡便性にすぐれているが,制約も多い.また単項目,組み合わせを含め実に90種類の製品が市販され,それぞれ特徴があり,項目により,感度,発色の種類,判定時間,比色の段階に差があるのが実情である.

78.尿沈渣

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.2484 - P.2485

標本作製法(図)
 1)新鮮尿を用いる.時間が経過した尿では正確な成績が得られない.
 2)遠心管は専用のものを使う.丸底のものや先端の絞りの浅いものは回収率や再現性が悪いので用いてはならない.

79.便潜血反応

著者: 伊藤機一 ,   日野原茂雄

ページ範囲:P.2486 - P.2489

 便潜血反応は消化器系癌・潰瘍のスクリーニング検査として古くから多用されているが,偽陽性がきわめて多いことから,その陽性所見は軽視されがちであった.そのため精検さえ行えば簡単に検出される消化器系癌は見逃され,自覚症状が著しくなって初めて精検を受け,診断される事例が多かった.潜血反応偽陽性の最大原因はヒト血液以外の物質にも反応する点にあり,そのため面倒な潜血反応食の摂取も必要であった.ところが最近,これらの欠点を一掃するかのごとく,ヒトのヘモグロビン(Hb)のみを検出する免疫学的測定法が相次いで開発され,わが国での大腸癌例の増加という疾病構造の変化も相まって,便潜血反応の有用性は飛躍的に高まってきた.

E 外科的治療法

80.局所浸潤麻酔法

著者: 梅山孝江 ,   稲田豊

ページ範囲:P.2490 - P.2494

 局所浸潤麻酔法は,局麻薬を皮内や皮下に注射することにより手術部位を含む周囲組織の知覚神経の小末梢枝をブロックする方法である.これには,手術部位を囲むように局麻薬を浸潤させる周囲浸潤麻酔法(Field block)も含まれる.現在臨床上,浸潤麻酔によく使用されるのは,プロカイン,リドカイン,メピバカインである.これらの方法は,局所的,選択的であるため,麻酔された身体部位以外には影響はないので,患者の生命の危険性はほとんどない.しかし,局麻薬の使用にあたっては,効力,毒性,使用濃度,極量,組織浸透性,作用発現および作用持続時間,局所および全身の中毒性を考慮しなければならない(表1).また,中毒反応を引き起こす血中濃度は個体差が大きい.おそらく,血中ならびに細胞内のpHの違いによる局麻薬の解離の差や,血漿蛋白との結合の多少によるものと考えられる.したがって極量値は,あくまでも目安とすべきである.

81.止血法

著者: 西尾剛毅

ページ範囲:P.2496 - P.2498

 外傷や手術時のみならず思いがけない所から出血が起こり,なかなかとまらず,つらい思いをすることは少なくない.特に,内科系の医師は出血に慣れていないため,それらのコントロールに難渋することも多いと思う.
 大量輸血,肝障害,DICなど重篤な疾患を扱うにしたがって,凝固系異常を伴う患者を治療する頻度も多くなる.これらの凝固系の異常やDICなどの患者では,それらの治療,補正が第一であることは言うまでもない.しかし最も重要なことは,それらによる出血傾向が出る前に,予測し,治療を開始し,出血を未然に防ぐことである.

82.小外科法

著者: 桜井健司

ページ範囲:P.2500 - P.2504

小外科の器具
 一般に「生命に別状のない手術」あるいは外来で行う手術を小外科と称している.小外科用には汎用性のある器具をセットとして組み,パッケージ,滅菌しておくとよい.
 表1に小手術セットの1例を挙げておく.

F その他

83.経鼻胃腸管挿入法

著者: 鈴樹正大

ページ範囲:P.2506 - P.2508

用具
 ①胃管または胃腸管カテーテル,市販のものでよい.
 ②キシロカインゼリー
 ③注射筒(10〜50mlのものが適当)
 ④膿盆

84.胃洗浄

著者: 浅田学

ページ範囲:P.2510 - P.2511

適応
 1)睡眠薬や農薬の誤飲,服毒
 毒・薬物の服用後4時間以内で意識障害のある患者がよい適応となる.しかし胃洗浄はあくまでも補助手段であり,呼吸,循環管理が最も重要である.重症例では血液浄化法による治療も考慮すべきである.腐蝕性毒物(強酸,強アルカリなど)の場合は胃洗浄により消化管の穿孔を起こすことがあるため,胃洗浄は行わず,中和剤の服用や希釈液の注入を試みる.

85.気管内吸引,気管支洗浄

著者: 山口修 ,   沼田克雄

ページ範囲:P.2512 - P.2515

 人工気道下に呼吸管理を受けている患者は,効果的な咳を行うのが困難なことが多い.したがって喀痰の吸引は気道の清浄を維持する上で欠くことのできない手技といえる.しかし,元来呼吸不全に陥っている患者の酸素療法や人工換気を中断して行う気管内吸引には危険が伴うのも事実である.効果的な吸引を短時間で行う必要がある.

86.体位ドレナージ,吸入療法

著者: 蝶名林直彦

ページ範囲:P.2516 - P.2521

 体位ドレナージおよび吸入療法は,ともに気道内の分泌物を効率よく取り除き,常に気道を十分に開存させておくという共通の目的をもっている.今回,それぞれの手技の実施法および合併症などについて,具体的に示していく.

87.人工透析法

著者: 東間紘

ページ範囲:P.2522 - P.2528

 Quinton, Scribnerによる外シャントの発明が道を拓いた慢性透析療法はその後信じられぬほどのスピードで,質量ともに大きく発展し,すでに透析20年時代へと突入したばかりか,それは血液浄化療法という新しい装いのもとに,慢性腎不全以外の各種疾患の治療法としても発展を続けている.
 現在行われている主な透析療法としては以下のものがある.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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