icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻5号

1986年05月発行

雑誌目次

今月の主題 水電解質と酸塩基平衡

EDITORIAL

著者: 黒川清

ページ範囲:P.742 - P.743

 今月は「水電解質と酸塩基平衡」の特集を組んでみた.水電解質と酸塩基平衡というテーマでは,以前にも何回か特集が組まれているが,これらは別々に扱われていることも多い.
 一般にこのテーマは米国では腎臓を中心としたテーマと併せて考えることも多いが,本邦ではどちらかというと別に考える傾向が強いように思われる.なぜこのような差があるのかは明らかでないが,腎臓の臨床あるいは腎臓に対する考え方の伝統的な違いがあるのかもしれない.

理解のための10題

ページ範囲:P.886 - P.888

水電解質の調節系概説

尿細管機能のホルモンによる調節

著者: 鳥養省三

ページ範囲:P.744 - P.746

 尿細管には形態と機能の異なる12種以上の細胞が固有の分節に位置しており,各分節を特徴づけている.図の左側に,ネフロン分節の基本的(ホルモン無しに表わされる)機能を示した.尿細管は大量の糸球体濾過液中の各成分を選択的に再吸収し,またその中へ溶質を分泌し,尿を生成する中心的役割を担うが,生体の水電解質平衡を保つためには,それらの機能の適当な調整が必要となる.
 内分泌・傍分泌・自己分泌のいずれかによって分泌されたホルモンは,尿細管機能の有力な調整役として,さまざまな方法で作用している.図の右側に,ネフロン分節への直接作用が明らかにされたホルモンの各々の作用を示した.さらに,同一の細胞における2つのホルモンの相互作用が持つ生理的意義を表1にまとめた.

水代謝調節系(体液浸透圧調節系)

著者: 吉田尚

ページ範囲:P.748 - P.750

水代謝調節系
 図1に生体の水代謝とその調節系を示す.正常男子の全体水分量は体重の約60%である.体内の水分は細胞内液・細胞外液に分かれて存在する.細胞内液は全水分量の約3/4(体重の45%),細胞外液は1/4(体重の15%)程度である.水代謝はこの水分の出入であるが,体内に入る水分は水および食物に含まれる水分の経口摂取と,体内で糖質・蛋白質・脂肪がエネルギーとして消費される時に生じる水(燃焼水)である.体外に失われる水には尿,大便中水分,不感蒸散,汗がある.このうち,水代謝として調節を受けるものは飲水量と尿量である.したがって,水代謝調節系は飲水量を調節する口渇感感受機構と腎からの水再吸収量を調節する抗利尿ホルモン分泌調節機構からなっている.

Na代謝調節系

著者: 阿部圭志

ページ範囲:P.752 - P.754

 Naの摂取量は日によって異なるが,生体内のNaのバランスはNa摂取量の多少には関係なく一定である.図1は生体内の各区域における電解質の組成を示したものである.Naは細胞外液の主なイオンであるのに対して,Kは細胞内の主なイオンであり,Naが細胞外から細胞内に流入するときには濃度勾配により受動的であり,一方,細胞内から細胞外へ流出するときは細胞膜のNa-K ATPaseによって行われる.

K代謝調節系

著者: 加藤暎一

ページ範囲:P.756 - P.758

体内量とその分布
 全体K量は成人で45〜55mEq/kg,70kgの成人で約3,500mEqである.脂肪を除いたleanbody massのK量は66〜70mEq/kg,したがって体重当りの%は脂肪の多少により変動する.加齢と共に体重の脂肪の%が増加し,一方,細胞のK保持能が低下するので,体重当りのK量は減少,逆にNa量は増加する.
 KはNaとは反対にその大部分が細胞内に存し,組織により異なるが110〜150mEq/L,一方,細胞外液には3.5〜5.0mEq/L,細胞外液を14l(体重の20%)とすれば70mEqで,総量の2%に過ぎない.計算上では0.5lの細胞内液中の量の移行で細胞外液(血漿)濃度は大きく変動し得る.

Ca代謝調節系

著者: 稲葉雅章 ,   森井浩世

ページ範囲:P.760 - P.762

 正常日本人成人では1日約10mg/kg体重のカルシウム(Ca)が経口にて摂取され,50%が体内に一旦吸収されるが,消化液中に再び分泌され最終的に経口摂取量の20%が吸収され,残り80%が便中に排泄される.腎では,糸球体において1日2g/kg体重ものCaが濾過されるが,尿細管においてその99.9%が再吸収され,最終的に体内に吸収されたと同量の2mg/kg体重/日のCaが尿中に排泄される.また,体内において細胞外液分画と主に骨との間でそれぞれ1日約2mg/kg体重のCaが平衡状態を保ちながらとりこみと放出を示す1)(図1).
 血清Caの正常値は約10mg/dlであるが,血中Caの生理作用はその約45%を占めるCaイオン(Ca++)に依存している.残り45%が血清蛋白と,10%がリン酸,クエン酸等の陰イオンと結合している2).最近,Ca電極により血清Ca++濃度が測定可能となったが,日常診療では血清総Ca濃度が測定されている.前述したように蛋白結合Caの存在のため,血清蛋白の濃度,組成に異常のある場合,蛋白濃度を以下の式3)により補正して考える必要がある.

水電解質異常の病態生理

高Na血症

著者: 菱田明

ページ範囲:P.764 - P.766

 血清Na値は体内の水分量とNa量の相対比で決まるが,血清Na値の恒常性の維持は主に体内水分瞭の調節を介して行われる.すなわちNaバランスが負になるか水分バランスが正になって低Na血症に傾くと抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が抑制され,その結果,水利尿をきたし体内水分量が減少し,血清Na値は上昇する.逆に,図1に示すように,水分の喪失,Naの過剰摂取により高Na血症に傾くときにはADHの分泌が亢進し,尿濃縮・尿量減少が起きる.一方,高Na血症は口渇中枢を刺激し,飲水量を増加させる.これら尿量減少と飲水量増加の両者により体内水分量は増加し,血清Na値は低下することになる.
 高Na血症が出現するには,1)こうした水分調節機序が障害された場合,または2)調節能力を超えた水分の喪失またはNaの負荷があった場合である.

低Na血症

著者: 石川三衛

ページ範囲:P.768 - P.769

 臨床的にしばしば遭遇する低ナトリウム(Na)血症(血清Naが135mEq/l以下)の診断は,本病態を引き起こす基礎疾患の検索から始まる.健常人では,水を多飲しても低Na血症を起こすことなく一日10〜15lの尿排泄が可能である.これは,血漿浸透圧が1〜2%低下すると,抗利尿ホルモンADHの分泌が抑制されて腎集合尿細管における水の再吸収を抑える体液維持機構が作動するためである.しかし,心因性多飲症のように水道の蛇口やホースから多飲する場合には低Na血症がみられるが,これはむしろ例外といえる.

高K血症

著者: 斉藤郁夫 ,   猿田享男

ページ範囲:P.770 - P.771

 血清K濃度は,1)摂取量と腎からの排泄量のバランス,2)細胞内外の分布の調節により,正常では3.5〜5.0mEq/lの範囲内に保たれている.血清K濃度が5.0mEq/l以上となると高K血症というが,その成因はKの摂取過剰と腎からの排泄の低下(図1),細胞外へのKの移動の亢進,細胞内へのKの取り込みの低下(図2)に大別され,これらが単独ないし,合併して起こる(表)1,2)

低K血症

著者: 中山眞人 ,   佐藤辰男

ページ範囲:P.772 - P.774

 健康成人の体内総K量は約3,000mEq/lで,そのうち約98%は細胞内に,残りの約2%が細胞外液中に存在する.日常検査で測定される血漿中には,総Kのわずか0.4%しかなく,そのため血漿中濃度が必ずしも生体内Kの過剰ないしは欠乏を反映しているとは限らず,その値の解釈には十分な注意が必要である.正常者の場合,血漿Kは3.5〜4.5mEq/lの範囲に維持されており,3.5mEq/l以下を低K血症と呼ぶ.

高Ca血症

著者: 永田直一

ページ範囲:P.776 - P.778

 血清Caレベルは副甲状腺ホルモン(PTH)ならびに1,25(OH)2Dによる骨・腎・腸管の機能調節によって恒常性高く維持されている.表にはこの恒常性をやぶり,高Ca血症を来たす諸種の病態と,それぞれに関与する主な要因を示した.
 骨吸収の亢進は多くの病態でみられるが,これは生理的な因子であるPTH,1,25(OH)2Dの生成・作用の異常による場合と,腫瘍による骨破壊や腫瘍産生の局所的あるいは体液性骨吸収因子の関与する場合がほとんどである.

低Ca血症

著者: 古川洋太郎 ,   水梨一利

ページ範囲:P.780 - P.782

 血清カルシウム(Ca)は3つのCa調節ホルモンによる精妙な調節機構によってある狭い範囲に厳格に維持されている.血清Caの異常は,この恒常性維持機構が破綻をきたしたか,あるいはこの機構をもってしても代償しきれない状態になったときに生ずる.

酸塩基平衡の基礎と臨床—最近の話題

Hバランスの調節系

著者: 北岡建樹 ,   田村克彦 ,   越川昭三

ページ範囲:P.784 - P.786

 血液中のH濃度〔H〕は体内で産生される酸(HA)と塩基(A)の量的平衡関係により維持されている.酸とはHを供給するproton donorであり,塩基とはHを取り込むproton acceptorとして定義され,HA⇔A+Hの関係にある.
 ある一組の酸と塩基の平衡関係は質量作用の法則により次の関係式が成立する.

腎におけるH分泌機構

著者: 佐々木成

ページ範囲:P.788 - P.789

 腎は尿細管腔へのH分泌により体液HCO3濃度の調節を行っている.このH分泌の詳細については他にまとめた1)ので,本文では最近の話題2つについて述べる.

血液ガス値の読み方

著者: 黒川清

ページ範囲:P.790 - P.792

 酸塩基平衡の病態を理解し,臨床の場に応用するには,血液ガス値の読み方とその解釈を的確に行うことが第一歩である.血液ガス測定では,通常動脈血のpCO2,pHが測定され(Arterial bloodgas=ABGと略す),HCO3-はHenderson-Hasselbalchの式から計算される(表1).Acidosisとは体内にHCO3-を下げる(代謝性)あるいはpCO2を上げる(呼吸性)病態が,またAlkalosisはHCO3-を上げる(代謝性)あるいはpCO2を下げる(呼吸性)ような病態の存在することをいう.従って複数のacid-base disorderが共存する場合(mixed acid-base disorder),血液のpHはacidosisがあるからといって必ずしもacidemia(pHが7.40以下ということ)になるとは限らない.
 本稿では,われわれの使っているABGの読み方について,例を示しながら簡単に解説した."Base excess"は使用せず,実際のpH,pCO2,HCO3-を分析する.

Anion Gap;その意義と解釈

著者: 深川雅史 ,   奥田俊洋

ページ範囲:P.794 - P.795

Anion Gap(以下AGと略す)の定義と意義
 血中には陽イオンと陰イオンが存在し,各々の総電荷数は等しい.図の(a)に示すごとく,Na+,Cl-,HCO3-はこれらイオンの大部分を占め,しかも臨床の現場で日常的に測定されている.この稿で扱うAGの定義としては,〔Na+〕-〔Cl-〕-〔HCO3-〕を用いる.このAGの変化を検討することの意義は,日常的に測定される〔Na+〕,〔Cl-〕,〔HCO3-〕の間の関係の変化から,この三者以外の測定されていない陽イオン(unmeasured cation:UC+)や陰イオン(unmeasured anion:UA-)の変化を知ろうとする試みであり,特に代謝性アシドーシスの分析に際し有用である.前述のごとく血中の陽イオンと陰イオンの電荷は等しいので,
 〔Na+〕+〔UC+〕=〔HCO3-〕+〔Cl-〕+〔UA-
これより
 〔AG〕=〔Na+〕-〔CI-〕-〔HCO3-〕=〔UA-〕-〔UC+
 すなわち〔AG〕が増加するのは相対的に〔UA-〕が増加するか,〔UC+〕が減少する場合であり,〔AG〕が減少する場合はその逆ということになるのが理解されよう.

呼吸性アシドーシス,アルカローシスの病態生理

著者: 𠮷田稔

ページ範囲:P.796 - P.798

 組織における物質代謝の結果,産生されたCO2は換気作用により,肺胞より大気中に放出され,動脈血CO2分圧,Paco2は正常域,35〜45mmHgに保たれる.したがって,肺胞換気量が急激に減少するようなことがあれば,Paco2は上昇してくる.このように呼吸が原因でCO2(炭酸H2CO3)が増加し,水素イオン濃度Hが増加した状態が呼吸性アシドーシスである.これに対し,血中のCO2(炭酸H2CO3)の減少した状態が呼吸性アルカローシスである1-3).その原因が呼吸性であれ,代謝性であれアシドーシスの結果pHが低下した状態が酸血症であり,逆にアルカローシスによりpHが上昇した状態がアルカリ血症である.このように呼吸性の酸・塩基調節は動脈血中のCO2分圧,pHとの関連において評価される.そこで,まず生体内でのCO2運搬の機序について述べる.

代謝性アシドーシスの病態生理

著者: 石田尚志

ページ範囲:P.800 - P.801

代謝性アシドーシスの定義
 代謝性アシドーシスとはHCO3-の減少が出発点となり,pHが低下するすべての病態を意味する.Henderson-Hasselbalchの式pH=6.1+log〔HCO3-/(0.03×Pco2)〕においてHCO3-が代謝性因子であり,0.03×Pco2が呼吸性因子である.この2つの因子のどちらかの変動がきっかけとなりpHが変化する.代謝性アシドーシスではHCO3-の低下が問題となる.

代謝性アルカローシスの病態生理

著者: 小椋陽介

ページ範囲:P.802 - P.805

定義
 代謝性の一次的因子によって血漿HCO3-濃度([HCO3-p)が増加し,二次的代償性反応が加わらなければ血漿H+濃度が減少(血液pHの上昇)を招くような病的過程(酸塩基平衡障害)を代謝性アルカローシスという.

特殊な疾患;最近の話題—糖尿病性ケトアシドーシス

著者: 加藤哲夫

ページ範囲:P.806 - P.807

 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は,血中にケトン体(KB)が蓄積して起こり,Anion Gap(AG)が増加するMetabolic Acidosisの代表的な例のひとつとして知られる.しかし,DKAをインスリン等で治療し,代謝状態を改善させ,増加したAGが正常化しても,AGが正常のMetabolic Acidosisを呈する症例が見られることがある.この原因については従来,DKAに伴う腎尿細管の酸排泄障害,HCO3-とCl-の細胞内外のdistributionの差などが考えられてきた.しかし,最近,尿中へのKBの喪失がその原因であるとの説が実証されつつある.本稿は,DKAの発生から治療までの経過を概観しながら,正常AGのMetabolic Acidosisが起きるメカニズムを解説する.

特殊な疾患;最近の話題—サリチル酸中毒

著者: 三上裕司 ,   折田義正

ページ範囲:P.808 - P.809

 サリチル酸中毒ではサリチル酸が呼吸と代謝の両方に用量依存性に作用して混合酸塩基平衡障害(呼吸性アルカロシーシスと代謝性アシドーシス)を起こすことが知られている.

特殊な疾患;最近の話題—Renal tubular acidosis

著者: 岡本玖美 ,   荒井純子 ,   杉野信博

ページ範囲:P.810 - P.811

 腎尿細管性acidosis(RTA)は糸球体濾過値の低下がないか,あってもその程度に比例しないような水素イオン(H+)の排泄や重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収の障害があるものをいう.
 RTAはその障害部位により近位型と遠位型に分けられ,現在は大きくtype I,II,IVに分類される.表1に各々の特徴を示す.

水電解質異常の臨床—アプローチと症候治療

Hyperosmolar syndrome

著者: 丸茂文昭

ページ範囲:P.812 - P.814

 ヒト血漿の浸透圧(Posm)は,
 Posm(mOsm/L)PNa×2+BUN(mg/dl)/2.8+glucose(mg/dl)/18+他の塩類(mg/dl)-10…1)で与えられるが,一般的には,
 Posm=PNa×2+BUN/2.8+glucose/18……2)として考えられ,283±11mOsm/Lが正常とされている.高浸透圧症候群(hyperosmotic syndrome)は,この血漿浸透圧を構成する要素のいずれかが上昇した時,あるいは諸物質の溶媒である水分の著しい欠乏のあった時に発症する.1)式をみて一目瞭然であるがごとく,Naの相対的過剰によって起こることが最も多く,高Na血症がほとんどである.しかし,図1に示すように他の要因についても考慮する必要がある.

Hypoosmolar syndrome

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.816 - P.817

hypoosmolar syndromeと低Na血症
 hypoosmolar syndromeとはその名の通り,体液,ことに血液の浸透圧の低下した状態をいう.この状態は血漿浸透圧の大部分をしめる血清Na濃度の低下した状態,つまり低Na血症にほぼ一致する.しかし低Na血症でも浸透圧の正常の場合や,むしろ上昇している場合さえもあるので,完全なる同義語とはいえない.

高K血症

著者: 木野内喬

ページ範囲:P.818 - P.820

 通常,血清K濃度が5.5mEq/lを超すと高K血症という.高K血症の成因は,①K負荷量の増加もしくは排泄量の減少による体内K量の増大,②細胞内より細胞外へのK移送の増大,に大別される.
 血清K濃度の急激な上昇はしばしば致死的なので,原因を適切に診断し,可及的速やかに治療する必要がある.

低K血症

著者: 藤田敏郎

ページ範囲:P.821 - P.821

低K血症の鑑別診断
 一般に,低K血症はK欠乏の結果として生ずる.しかし,Kが細胞内に主として存在するイオンのため,K欠乏がなくても,細胞内外の分布の異常によって低K血症を示すことがある.従って,低K血症の原因は,1)K欠乏(K摂取不足,または体外へのK喪失),2)細胞外から細胞内へのK移行に大別できる(表).
 食品中には,かなりの量のKが含まれているので,摂取不足のみで低K血症を起こすことは少なく,体外へのK喪失(利尿剤の使用,下痢など)が合併していることが多い.

高Ca血症

著者: 深瀬正晃

ページ範囲:P.822 - P.824

原因
 臨床的に高Ca血症は致命的な疾患から無症状で生化学的異常にとどまるものまで幅広いスペクトルを持つ.同じ高Ca血症を来す代表的疾患のうちでも,癌に伴うもの(Cancer associated hypercalcemia,CAH)と原発性副甲状腺機能亢進症(Primary hyperparathyroidism,I°HPT)では異なる臨床経過をとり,CAHでは通常高Ca血症が次第に増悪するパターンをとり,I°HPTにしばしばみられる腎結石や全身掻痒感などを認めない.それはCAHでは高Ca尿症や高Ca血症の罹病期間が短いことによるものと思われる.
 高Ca血症とは血清Ca値が10.0〜10.2mg/dl以上を指すが,その臨床症状は血清Caの上昇につれ顕著となり,嘔気,嘔吐,多尿,便秘や嗜眠,錯乱,昏迷や昏睡状態が出現し,しばしば癌の末期症状と見誤られることもある.しかし緊急治療の対象となるのは一般に血清Ca値が14〜15mg/dlを超えた場合であり,CAHやビタミンD,ビタミンA中毒症やサルコイドーシス等の場合に多く,一方,I°HPTや家族性低Ca尿性高Ca血症(Familial hypocalciuric hypercalcemia,FHH)では稀である.

低Ca血症

著者: 川口良人

ページ範囲:P.826 - P.827

診断
 1.血清(漿)Ca値
 8.5〜8.0mg/100ml(4.25〜4.0mEq/l)以下.
 Ca値と同時に測定し,考慮しなければならない
検査所見
 ①血清アルブミン値:血清アルブミン1.0g/100mlの低下は血清Ca濃度0.8mg/100ml(0.4mEq/l)の低下を来たす.

浮腫と脱水

著者: 田村克彦 ,   出浦照国

ページ範囲:P.828 - P.830

浮腫(edema)
 概念
 浮腫とは細胞外液のうちの組織間液が異常に増加した状態と定義される.浮腫は図1に示すような全身性因子と局所性因子により成立している.

水電解質代謝調節ホルモンの話題

Vasopressin

著者: 野中達也 ,   清水倉一

ページ範囲:P.832 - P.833

 Vasopressin(大部分の哺乳類ではArginine Vasopressin:AVP)は抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)と呼ばれるように,その腎作用を通じて,水分排泄を調節するペプチドホルモンである.生体の内部環境を構成する浸透圧の恒常性維持がその主要な生理作用である.

Atrial natriuretic peptide

著者: 雪村時人

ページ範囲:P.834 - P.835

 哺乳動物の心房内に顆粒が存在することはおよそ30年ほど前から知られていたが,この顆粒が摂取食塩量の変化により増減することから,水電解質代謝の調節への関与が推測された.1981年にいたり,deBoldらはラット心房の粗抽出物中に強力な利尿作用をもつ物質が存在することを見出し1),その後の研究からこの物質は心房顆粒内に存在するペプチドであることが明らかになった.1984年にはKangawa and Matsuoにより,ヒト心房から3種のペプチドが分離・精製され,そのうち最も低分子量のアミノ酸配列を明らかにし,α型ヒト心房性Na利尿ポリペプチドα-human atrial natriuretic polypeptide=α-hANPと命名した(図1)2).ほぼ同時にラット心房のNa利尿ペプチドについても種々の長さのアミノ酸配列をもつものが報告された(図2).さらに遺伝子工学的手法を用いてその前駆体のmRNAのcDNAの構造解析から全アミノ酸配列が明らかにされた3)

内因性ジギタリス様物質

著者: 田中祐司 ,   小島至

ページ範囲:P.836 - P.837

 内因性ジギタリス様物質(EDS)は,かつてNa利尿ホルモンと呼ばれたものである.現在では,その作用が"Na利尿を起こしながら高血圧を惹起する"という極めてユニークなものであることがわかっている.原発性アルドステロン症におけるエスケープ現象を説明する"第3因子"と呼ばれたものも,EDSに他ならない.同じくNa利尿作用を持つ心房性ポリペプチドとの対比を表に示したが,かなり性格が異なることがわかる.本項では,EDSの研究の背景に簡単に触れ,体液量調節と高血圧発症に果す役割を概説する.

カテコールアミン

著者: 梅村敏

ページ範囲:P.838 - P.841

 カテコールアミンが腎で水・電解質を調節する機序にはいくつかの経路が考えられる.第1に尿細管への直接作用,第2に全身および腎血行動態を変えることによる作用,第3に腎に作用するホルモンの分泌を調節したり,その作用を修飾することによる作用である.さらに,カテコールアミン(ノルエピネフリン,エピネフリン,ドーパミン)は各種カテコールアミン受容体(α1,α2,β1,β2,D1,D2)に作用するため,その腎での水・電解質代謝調節に与える影響は複雑であり,不明の点が多い.
  しかし,近年,腎尿細管各部位でのカテコールアミン受容体の局在が明らかにされつつあり,カテコールアミンの腎での作用を明らかにする上で重要な進歩をとげつつある.

PTH

著者: 富田明夫

ページ範囲:P.842 - P.843

 副甲状腺ホルモン(PTH)はカルシウム(Ca)調節ホルモンの一つとして生体内のCa homeostasisの維持に最も重要な役割を演じている.このPTHの主な作用としては骨における骨吸収促進作用,腎に対してはCa再吸収促進作用,P再吸収抑制作用がみられ,腸管に対しては活性型ビタミンDを介してCa吸収促進作用がみられる.本項ではこれらPTH作用のうち,その直接作用と思われる骨と腎に対する作用について解説する.

ビタミンD

著者: 清野佳紀

ページ範囲:P.844 - P.845

ビタミンDの代謝
 体内に摂取されたビタミンD3あるいは皮下に存在するprovitamin D3(7-dehydrocholesterol)が紫外線および熱異性化反応により変換したビタミンD3は図1のように肝に運ばれ,25位が水酸化され25OHD3となる.その後,腎に運ばれ最も重要な1α位の水酸化をはじめ,図1に示すようにさまざまに代謝される.
 腎における1α位の水酸化反応は血中のCa濃度により調節される.血清Ca値が低下するとPTHの分泌が促進されるとともに1α位の水酸化が促進される.逆に血清Ca値が上昇するとPTHの分泌が抑制されるとともに1α位の水酸化が抑制される.1α,25(OH)2D3は各種ビタミンD3の中で最も活性が高く,腸管Ca吸収および骨吸収作用を促進し,血清Ca濃度を上昇させる.

カルチトニン

著者: 折茂肇

ページ範囲:P.846 - P.849

 カルチトニン(CT)はカルシウム代謝調節ホルモンの一つで,最近CTのprecursorからのプロセシングの過程が解明され,その中枢作用が注目されている.

アルドステロン

著者: 東原英二 ,   武内巧 ,   奴田原紀久雄

ページ範囲:P.852 - P.854

 ネフロンの電解質転送に及ぼすアルドステロンの作用は,①Na+再吸収の促進,②K+分泌の促進,③H+分泌の促進にある.図1に示すように,アルドステロンに対する高い親和性は皮質部集合管(Cortical collecting duct,CCD),髄質外層集合管(Outer medullary collecting duct,OMCD),髄質内層集合管(Inner medullary collectingduct,IMCD)にあることが示されている1).Na+の再吸収とK+の分泌能はCCDがOMCDより高く,H+の分泌能はCCDよりOMCDの方が高いことがin vitroの単離尿細管微小灌流実験で示されている.IMCDは微小灌流実験には適さないので,主としてin vivoの微小穿刺法で研究されているが,Na+の再吸収とH+分泌の容量はかなりあるが,Kについては生理的条件の差によって分泌も再吸収もあることが示されている.アルドステロンはCCDではNa+とK+の転送を2),OMCDとIMCDではH+分泌を調節支配するホルモンとして働いている3).アルドステロンのNa+-K+とH+に対する2つの調節作用は,ネフロンの異なった部位に区分されていることになる.

キニン・カリクレイン系

著者: 富田公夫

ページ範囲:P.856 - P.857

 カリクレインはキニノーゲンに作用し,分子量およそ1,000のキニンを遊離する.キニンを腎動脈に注入するとNa利尿をおこすことよりNa代謝に関与するものとして知られている.臨床的には高血圧との関係において多くの研究がなされているが十分に解明されてはいない.おそらく急激な体液量の変化に対応する系というより,他の系ではできない最終的な細かな調節系を担っているのではないかと考えられる.

プロスタグランディン

著者: 佐藤牧人 ,   阿部圭志

ページ範囲:P.858 - P.860

 腎プロスタグランディン(PG)は産生局所で作用するautacoidであり,抗利尿ホルモン(ADH),レニン-アンジオテンシン系,カリクレイン-キニン系などと密接な相互作用を持ちながら,腎の水電解質代謝に機能維持的な役割を果している.

臨床の話題

尿崩症

著者: 太田善介 ,   橋本浩三

ページ範囲:P.862 - P.864

尿崩症の病型と原因(表1)
 a)中枢性尿崩症
 抗利尿ホルモン(ADH)であるバゾプレッシンは視床下部の視束上核,室旁核で産生され,これが下垂体後葉に貯えられ,そこから末梢血中に分必され腎集合管で尿濃縮を行っている(図1).原発性尿崩症の成因としてはバゾプレッシンニューロンの系統的変性か,視束上核,室旁核中のバゾプレッシン産生大細胞のクローンの選択的欠如が考えられている.続発性のものでは中央隆起部より中枢側に種々の器質的障害が加わった場合にADH産生細胞に逆行性の変性が生じ尿崩症となる.

SIADH

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.866 - P.868

概念
 ADH分泌不適合症候群(Syndrome of inappropriate secretion of ADH)とは,異所性ADH産生腫瘍または下垂体後葉からの原発的なADH分泌亢進に由来した,持続性の低Na血症を主徴とした病態である1).異所性ADH産生腫瘍としては肺小細胞癌が多く,また下垂体後葉よりのADH分泌亢進を来す原疾患としては,①中枢神経系疾患,②胸腔内疾患,③薬剤性の各種病態が知られている2)
 低Na血症があると,正常の下垂体後葉機能が維持されていれば,ADHの分泌は抑制され,腎集合管における水再吸収は低下して水利尿が促進される.低Na血症があるにもかかわらず,ADH分泌が持続し,これが低Na血症の維持に主要な役割をはたしている病態が2つある.すなわち,①SIADH:以下に述べる本稿の主題であり,②有効循環血液量低下:脱水,浮腫あるいは腹水などを伴って容量受容系を介した,むしろ適切(appropriate)なADH分泌,の2つである.

特発性浮腫

著者: 福田祐幹 ,   土谷健

ページ範囲:P.870 - P.871

特発性浮腫とは
 特発性浮腫(idiopathic edema,周期性浮腫cyclicまたはperiodic edema)とは「深層の精神的異常を基盤に多元性因子による立位姿勢時の体液量調節異常(水・Na貯留)」と推察されるが,身体の姿勢,気節,一定周期により浮腫は軽減,増悪をくり返し病勢の一貫性を維持し得ないことが本症の病態解明をより困難にしている.今回は本症におけるdopamineの役割について記載する.

Mineralocorticoid過剰症候群

著者: 竹田亮祐 ,   武田仁勇

ページ範囲:P.872 - P.873

 ミネラロコルチコイド(mineralocorticoid)は,電解質代謝に大きな影響を及ぼす副腎皮質ホルモンで,特にアルドステロンは最も強力な作用を有する(図1).その他,作用はアルドステロンに比し弱いが,デオキシコルチコステロン(deoxycorticosterone,DOC)および18-ヒドロキシデオキシコルチコステロン(18-hydroxy-deoxycorticosterone,18-OH-DOC)がミネラロコルチコイドに属するとされている.このうち18-ヒドロキシコルチコステロン(18-hydroxycorticosterone,18-OHB)は,電解質作用は極めて弱く1)(図1),その意義は乏しい.
 ミネラロコルチコイドは,腎遠位尿細管に作用し,Na+-K+およびNa+-H+の交換を促進し,さらにNa交換を伴わないK排泄機構も刺激する.近位尿細管では,Naの再吸収を促進しCl及び水の再吸収を二次的に促す.その結果,細胞外液中のNaは増加し,Kは減少し,HCO3は増加し,Naは細胞内のKと交換する.また,Na再吸収とK排泄促進効果は,腎以外では,汗腺,唾液腺,小腸粘膜において行われている.

Mineralcorticoid欠乏症候群

著者: 飯野靖彦

ページ範囲:P.874 - P.875

病態生理
 Mineralcorticoid(aldosteroneなど)は主として腎尿細管(他に唾液腺,汗腺,腸管)に作用して,Na再吸収,H分泌,K分泌を促進する1).したがって,原因の如何にかかわらずmineralcorticoid作用が欠除している病態は,類似した病状を呈し,mineralcorticoid欠乏症候群として一括することができる.欠乏が生ずると,まずNaの腎からの喪失が生じ細胞外液量が減少する(図1).これは皮質部集合尿細管へのaldosterone作用の欠除によりNa再吸収がこの部位で低下するためである.症状としては低血圧,低Na血症を生ずる.さらに,aldosteroneは髄質部集合尿細管外層(outermedullary collecting duct)においてH分泌を刺激する作用があり2),欠乏状態では高Cl性代謝性アシドーシスを呈する.また,K分泌も減少し,K貯留により,高K血症となる.従って糸球体濾過量が高度に障害されていない状態(15ml/min以上)で,高K血症,代謝性アシドーシス,Na喪失を認めた場合には,mineralcorticoid欠乏症候群を疑う必要がある.

副甲状腺機能低下症のビタミンDによる治療

著者: 山本通子

ページ範囲:P.876 - P.877

副甲状腺機能低下症の治療の原理
 副甲状腺機能低下症の治療目的は,低カルシウム(Ca)血症に起因する症状・徴候を消失させCa代謝を正常化することであり,低Ca血症の是正が具体的な治療目標となる.本症の低Ca血症の原因は,副甲状腺ホルモン(PTH)作用不全とこれに起因する1,25水酸化ビタミンD(1,25(OH)2D)作用不全なので(図1),本症における代謝異常を完全に是正するためにはPTH作用の正常化が必要である.しかしPTH製剤を慢性的な補充療法として用いることは不可能なので,これに代わるものとして活性型ビタミンDによる治療が行われている.図1から明らかなように,1,25(OH)2D作用を正常化すれば,副甲状腺機能低下症の代謝異常のかなりの部分が是正される結果になる.活性型ビタミンD剤として現在用いられているのは,1,25(OH)2D3のアナログである1α水酸化ビタミンD3(1αOHD3)である.1αOHD3は体内で25位に水酸化をうけ,1,25(OH)2D3となって作用する.以下に実際の治療方法を,古川らがまとめた治療基準(厚生省特定疾患ホルモン受容機構異常調査研究班副甲状腺分科会による)にそって概説する.

悪性腫瘍の高Ca血症

著者: 松本俊夫

ページ範囲:P.878 - P.880

 悪性腫瘍に伴う高Ca血症は,高Ca血症の原因のうちで最も頻度が高いもののひとつである(「高Ca血症」の項参照).当初は,全て骨転移による局所での骨溶解に基づく(local osteolytic hypercalcemia,LOH)ものと考えられていたが,その後,腫瘍からの液性因子の産生を介するもの(humoral hypercalcemia of malignancy,HHM)が存在することが明らかとなった,さらに,このような液性因子の産生を介するものが全体の半数以上を占めること1,2),この惹起因子の発現が腫瘍遺伝子の発現と密接に関連している可能性があること,などからHHMの発現機序に関する研究が急速に注目をあびるようになった.

Hypocalciuric hypercalcemia

著者: 久貝信夫

ページ範囲:P.882 - P.883

 血清自動化学分析装置によるカルシウム(Ca)の測定が普及し,化学型の原発性副甲状腺機能亢進症(I° hyperparathyroidism:HPT)をはじめとする無症候性高Ca血症の発見頻度が高くなっている.これらのうち家族性に発症し,予後が良好なことからfamilial benign hypercalcemia,あるいは尿中Ca排泄が少ないことからfamilialhypocalciuric hypercalcemia(FHH)と呼ばれる一群が注目されている.同一家系内に重篤な新生児I° HPTが発生し,両者の関連が示唆され必ずしも良性とはいえない面もあり,後者の呼称が一般に用いられている.I° HPTとは異なり高Ca血症に対して副甲状腺手術は無効であり,また新生児I° HPTが発生する可能性に対処する意味から確実に診断することが重要である.

ビタミンD過剰症

著者: 森田陸司

ページ範囲:P.884 - P.885

 ビタミンDの過剰は腸管からのカルシウム(Ca)吸収の亢進と骨よりのCa放出を促し,その結果,血中Caを上昇せしめるが,その増加が腎よりのCa排泄閾値を越えると,高Ca血症となる(図).
 これはビタミンDの大量投与,つまり骨軟化症や副甲状腺機能低下症の治療に,ビタミンD剤が過剰に投与された場合にみられ,ビタミンD中毒症(vitamin D intoxication)とよばれる.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

肝炎に伴う皮膚病変

著者: 石川英一 ,   石川治

ページ範囲:P.890 - P.891

 概念 肝は代謝の中心臓器であり,肝は他の全身諸臓器と相互に直接・間接に影響しあう.皮膚も例外でなく,肝細胞機能低下による蛋白・糖・脂質・ホルモンなどの,生成・異化障害,肝線維化に伴う循環動態の変化などの影響を受け,種々の皮膚病変を呈するとともに,皮膚疾患とくに膠原病で肝障害,肝炎を合併することが少なくない.本文では紙面の都合上,肝硬変,胆汁うっ滞,急性肝炎などに見られることの多い皮膚病変に限って記載する.

リンパ節疾患の臨床病理

バ—キット型リンパ腫

著者: 片山勲

ページ範囲:P.893 - P.895

 今回の主題は悪性リンパ腫の一亜型であるバーキット型リンパ腫である.まず,主題に入る前に簡単ながら悪性リンパ腫の分類にふれ,そのなかでバーキット型の占める位置を明らかにしてみよう.
 悪性リンパ腫はポジキン病と非ポジキンリンパ腫に2大別され,さらにポジキン病は4亜型(Rye分類とも呼ばれている)に,非ポジキンリンパ腫は10亜型にそれぞれ分類されている.ポジキン病のRye分類はほぼ確立しており,世界的に広く使用されている.しかし,非ポジキンリンパ腫の分類には意見の異なる専門家達からいくつかの異質的な分類が提唱されており,混乱が著しい.わが国においては,愛知がんセンターの須知博士を中心とするLymphoma Study GroupのLSG分類(表)が一般に用いられている.表のごとく,濾胞性リンパ腫3亜型とびまん性リンパ腫7亜型の計10亜型に分けられ,バーキット型はその最後の項目にあたる.この最後尾にあるバーキット型とリンパ芽球型(次回に述べる)を最初にとりあげる理由は,この2亜型は他の8亜型と異なり,非常に特徴的な臨床像と病理組織像を呈するので理解しやすく,この2亜型から始めることが非ポジキンリンパ腫の全体を理解するために一番の近道と考えられるからである.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとpitfall

食道(4)—食道炎,食道潰瘍

著者: 山田明義 ,   西澤護

ページ範囲:P.896 - P.904

 西澤 今回からは具体的な食道疾患について,鑑別診断,見落としなどについておうかがいしたいと思います.
 まず,X線像をみて比較的平坦な病変,陥凹病変といいますと,食道炎と食道潰瘍が重要になります.食道炎ですと,食道裂孔ヘルニアに伴うものと,Barrett上皮の食道炎がある.それから,そういうものがない食道炎ということでよろしいでしょうか.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・5

尿崩症

著者: 石川三衛 ,   斉藤寿一 ,   葛谷健

ページ範囲:P.906 - P.912

 多尿,口渇を主訴とする尿崩症には,中枢性尿崩症と腎性尿崩症がある.中枢性尿崩症は,バゾプレシン(抗利尿ホルモンADH,AVP)が分泌刺激に反応して下垂体後葉から適切に分泌されないため,腎における尿の濃縮が減弱して多尿状態に陥る疾患である.本症は,患者がいつから発症したか話すことができるくらい突然発症することが多い.完全型尿崩症では尿量が1日8〜12lに及ぶことがあり,また不完全型尿崩症でも1日3〜6lになるため,患者は多尿および口渇に悩まされる.ADHは腎集合尿細管に作用してcyclic AMPを介して水の再吸収を亢進させるが,このADHの作用が発現しないため,多尿を引き起こす病態が腎性尿崩症である.本稿では,ADHの生理的分泌調節と尿崩症の病態について解説する.

診療基本手技

輸液—その選択と適応

著者: 西崎統

ページ範囲:P.914 - P.915

 日常臨床,とくに緊急時やベッドサイドにおいて患者をみる際,輸液を必要とする場合が非常に多い.そのためにも輸液についての基本的知識を整理しておく必要がある.

一冊の本

「結核の病理」—(岩崎 龍郎,保健同人社刊,昭和26年10月発行)

著者: 梅田博道

ページ範囲:P.917 - P.917

 昭和24年春,私はフレッシュマン出張で,国立療養所天龍荘に赴任した.敗戦直後のことで,食糧事情は悪く暗い時代ではあったが,私は国民病と対決する心意気で胸をふくらませていた.結核のことなら何でもやる.内科も外科もない.細菌検査も病理解剖も.小野譲先生の講習会に上京し,気管支鏡の手技も身につけた.テレビなど無い時代だから,X線透視に眼をならすため朝から色眼鏡をかけ,食事もそのままとる.人工気胸,ヤコベース,胸成術とスケジュールは決っている.ひまをみつけてはCorrylosのKollaps Therapieをひもとく.
 そのような頃,私のあこがれの人は岩崎龍郎先生であった.人里離れた山の療養所で,今と違って自動車などとても使える身分ではない.しかし,「岩崎先生来る!!」の知らせをうけると,先生の講義をききに浜松まで,喜々として出掛けたものである.だから,岩崎龍郎先生の「結核の病理」が発行されると,この本は直ちに私のバイブルとなった.

新薬情報

ミラクリッド(Miraclid)—〔持田〕 一般名:ウリナスタチン—物理化学的性質・薬理作用

著者: 水島裕

ページ範囲:P.918 - P.919

概略
 ヒト尿中にトリプシン阻害物質が存在することは,1909年Bauerらによりすでに報告されていたが,ミラクリッドは持田製薬がはじめて製剤化に成功した多価・酵素阻害剤である.
 本剤はその性質から急性膵炎およびショックに有効なばかりでなく,手術の侵襲による蛋白分解の亢進を抑制することによる抗手術侵襲作用が期待されている.また,本剤は動物実験においても毒性が非常に低く,配合変化が少ないので各種薬剤との併用が可能である点が大きな特長である.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?