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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

今月の主題 体液・電解質補正の実際

理解のための10題

ページ範囲:P.1016 - P.1018

輸液の基本的ルール

輸液剤の分類と特性

著者: 川島洋一郎 ,   加藤貞春 ,   杉野信博

ページ範囲:P.936 - P.938

 輸液療法は画一化されたものではなく,各患者の病態に応じて調節されるべきものである.現在,種々の病態に適合するように数多くの輸液剤が開発・市販されているが,これらの特性を十分に理解し使用する必要がある.

水,Naの投与量とスピード

著者: 北岡建樹 ,   高山公洋 ,   越川昭三

ページ範囲:P.940 - P.941

 輸液の量と速度を決めることは,輸液療法を実施する上での重要な事項である.過剰な輸液量や急速な投与では肺浮腫や心不全を誘発する危険があるし,過少な投与量では輸液治療の効果が遅延することになる.このような輸液技術は輸液法の違い(維持輸液や欠乏量輸液),患者の循環系の機能あるいは体液量の程度によっても異なる点を理解しておく.

Kの投与量とスピード

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.942 - P.944

 Kは主として細胞内に存在し,細胞の代謝に重要な役割をなしている.Kが欠乏すると低K血症をきたしたり,種々の臨床症状がみられ,直ちにKの補給を必要とすることが少なくない.しかし,Kは与えすぎても高K血症をきたす危険があり,できる限り正確なKバランス状態を把握し,それに従ってKの投与量や投与スピードを決めて,安全かつ効果的な治療を行う必要がある.

Ca,Pの投与量

著者: 小椋陽介

ページ範囲:P.946 - P.949

 Ca所要量,P目標摂取量ならびに低Ca血症,低P血症に対する経口および経静脈的Ca,P投与量について述べる.

Mgの投与量

著者: 吉田政彦

ページ範囲:P.950 - P.951

 マグネシウム(Mg)欠乏症をきたす疾患は多数あり,日常臨床上無症候性ないし潜在性Mg欠乏症が見逃されていると思われる1).これにはいくつかの理由がある.すなわち,Mg欠乏症自体の診断が難しい,Mg欠乏症に固有ないし特徴的症候,症状が少ない,他の電解質に比べ血清Mgの測定される頻度が少ない,原疾患由来の病態に被い隠されてしまうことなどである.
 軽症Mg欠乏例では,食事摂取可能であれば経口的にMgの豊富な肉,魚,緑色野菜,穀物などでとらせることで充分量のMgを補充できる.Mg欠乏の著しい症候性Mg欠乏例に対しては非経口的にMg塩で治療が必要となり,この治療法が安全で効果的である.

安全限界理論

著者: 佐藤登志郎 ,   竹内昭博

ページ範囲:P.952 - P.953

 輸液は体液の欠陥を補うと共に,経口摂取が不可能な場合に体液を維持する目的で行われる.このような条件下では正常な体液量とその組成は腎による体液調節によってのみ保たれるのであるから,水・電解質の許容量は腎調節能の限界内にあるべきことはもちろんである.このことは加藤ら1)によってTalbotの安全限界として紹介され,また阿部・古川2)らによって種々の病的な状態に拡張して論ぜられた.
 この論理は定常状態における腎の水・溶質排泄の限界から導かれたものであるが,輸液を行うときには生体の過渡的な応答も考慮しなければならない.腎は体液の変化に直ちに反応しうるわけではなく,体液各相の一つである血液相に与えられた液体が,全体に配分され欠陥を補う間に生体に不利な状態が起こらないとは限らない.このことを考慮すると,輸液の速度の安全限界,さらに進んで最適な輸液注入のパターンの議論が導かれる3〜5)

体液欠乏量の推定法

著者: 熊谷裕通 ,   本田西男

ページ範囲:P.954 - P.955

 体液欠乏量の算出を正確に行うことは困難である.なぜなら,各コンパートメントに分かれた体液量を正確に測定するのは,RIを用いた煩雑な方法によらねばならず,技術的にも難しく,またその正常値は個人差が大きい.したがって,現状では,本稿で述べるような種々の推定法によってきわめて大雑把に欠乏量を推定し,その推定値に基づいて補正を行い,さらにもう一度欠乏量を推定し直して補正を繰り返して行き,次第に正常に近づけていくといった方法をとらざるをえない.しかし,綿密に検討を加えれば,臨床的にはこの方法で十分であることが多い.

高カロリー輸液の処方原則

著者: 井上善文 ,   岡田正

ページ範囲:P.956 - P.957

 高カロリー輸液(TPN)は,現在外科領域はもちろん,臨床医学の広い分野に恩恵をもたらしており,手技,器具,製剤のすべての面で著しく進歩し,安全かつ容易に実施できるようになってきた.現在各種TPN用基本製剤,アミノ酸製剤,脂肪製剤,ビタミン製剤が市販されており,これらを組み合わせて用いることによりTPNを実施することはできるが,種々の代謝上の合併症が発生する危険性もある.以下に筆者らのTPN処方を中心に,その処方原則について述べる.

高カロリー輸液の術式と管理

著者: 小野寺時夫

ページ範囲:P.958 - P.960

 中心静脈カテーテルの留置に関する注意点
 中心静脈カテーテル留置手技は誌面の都合上省略し,主な注意点を述べる.
 (1)高カロリー輸液用中心静脈カテーテルは種々のものが市販されている.いかなる種類のカテーテルでも静脈中に留置すると,カテーテルの表面にフィブリンの被膜を生じ,菌血症発生の促進因子になる.シリコンラバー製のカテーテルが比較的フィブリン被膜の形成が軽度である.

小児における維持輸液

著者: 藪田敬次郎

ページ範囲:P.962 - P.963

小児の維持輸液の定義と適応
 生理的に必要な水分,電解質を経口投与ができないために輸液によって投与する場合,これを維持輸液maintenance fiuid therapyという.小児とくに乳児では嘔吐をしやすいので,鼻腔ゾンデで必要水分,電解質,栄養などを長期間入れることはあまり好ましいことではない.嘔吐したものが気管,肺に入って肺炎を起こす危険もあるからである.また2歳から6歳頃までの幼児では意識障害がない限り,長時間ゾンデを入れておくことは嫌がって,抜いてしまうので不可能である.したがって,維持輸液の適応となる場合は,小児では成人に比べてはるかに多い1).経静脈栄養(高カロリー輸液)は広い意味では維持輸液の一種である.従来,輸液は水分電解質のみの注入を意味していたが,最近では身体発育に必要な栄養も静脈内注入が可能となり,生理的に必要な水分,電解質はもちろん,身体維持,発育に必要なエネルギー(栄養)も輸液により行われるようになったのである.
 小児の維持輸液の適応となる疾患をあげると,1)意識障害を伴う神経疾患.脳炎,髄膜炎,脳腫瘍,痙攣重積状態,急性脳症などで経口摂取が不可能な場合.

高齢者における維持輸液の特性

著者: 石田尚志 ,   前波輝彦 ,   富田均

ページ範囲:P.964 - P.965

 高齢の入院患者は若年者に比べて輸液療法を必要とする機会が多い.その際,若年者と同様の輸液を慢然と行うとしばしば予期せぬ水・電解質異常を経験することがある.本稿では高齢者の体液平衡の特徴と輸液を行う際の注意点について述べる,

術中の輸液

著者: 遠田正治

ページ範囲:P.966 - P.967

 手術という外界からの侵襲をうけると,生体は防禦的に反応する.しかしながらその反応は一時的には都合の良いようにみえても,時間の経過,手術の進行によっては危険な状態を作りかねないので,体液の変化を理解して管理してゆかなければならない.以下,水分,電解質異常のない一般的な例を述べる.

術後の輸液

著者: 加賀美尚

ページ範囲:P.968 - P.969

 外科の臨床での治療の根幹は手術である.しかし,術前・術後の管理の実際では,輸液はきわめて重要な補助療法の1つで,手術の成否に大きく影響することがある.輸液は術後に限られたものではなく,ある意味では術前・術中のそれのほうが重要なことも少なくない.ここでは一応,術後の輸液についての私見を述べて,御批判を仰ぐことにする,

各種糖液の特性と選択

著者: 安東明夫

ページ範囲:P.970 - P.971

 糖質輸液の目的は,エネルギー供給にあり,経口摂食不可能な病態を適応としている.近年,術後その他で多量の栄養輸液が行われ糖質輸液の重要性はますます高まっている.
 ブドウ糖以外にも各種の糖質が用いられ,それぞれの糖でそれなりの特性が述べられているが,筆者はブドウ糖が糖質輸液の基本であると考えており,インスリン非依存性糖質の常識を修正する必要があると考えている.本稿では,現在糖質輸液剤に用いられている各種糖質について,その特徴と問題点について概要を述べてみたい.

モニタリング

著者: 酒井糾

ページ範囲:P.972 - P.974

 体液の管理も,輸液治療の進歩や薬剤の新たな開発に支えられて,より一層緻密さを兼ね備えて来ているが,最近では治療中の管理にコンピューターまでもが導入され,まさに体液理論の数理モデルによる解析が一般臨床においてすらも役立つ時代に入って来た.
 本稿にあっては輸液療法でのモニタリングと題して,初診時,および維持治療期でのチェックポイント,および急性腎不全を脱却できない場合の合併症に対する処置,そしてそれらに付随した管理上のモニタリングについて簡単に述べる.

病態と輸液

成人脱水症の輸液

著者: 丸茂文昭 ,   梅谷直樹

ページ範囲:P.976 - P.977

脱水の成因
 脱水dehydrationとは体内からの水分の喪失を言い,それが純枠な水の喪失であるのか,Naを伴った水分の喪失であるかを問わない.しかし,治療上そのいずれであるかによって治療内容に大きい差が生ずる.したがって,脱水の成因を明確にすることは治療上絶対的に必要である.
 ヒトの如き陸棲動物は積極的に摂取しないかぎり水分が体内に入らないにも拘らず,1日800〜1,000mlの水分が不感蒸泄として体表より失われている.一方,1日1501にも及ぶ血液が糸球体で濾過され,その99%を尿細管により再吸収することにより,老廃物を捨てるというシステムを有している.このように,いつでも脱水になるような条件を持っているようなものである.ヒトは脱水に陥らないよう何重もの自動制御装置を有しているが,それに故障が生ずるか,制御能力を上まわる体液の喪失が起こると脱水は避けられない.

小児脱水症の輸液

著者: 松尾宣武 ,   佐藤清二

ページ範囲:P.978 - P.979

 小児脱水症の輸液は,われわれ小児科医にとっては,最も基礎的な臨床的素養の一つである.本稿においては,普段内科診療に従事している医師が救急外来や混合病棟などにおいて小児を診察するという場面を想定し,乳幼児の下痢・嘔吐に続発する脱水の救急法を中心に述べたい.

嘔吐,下痢の輸液

著者: 石橋賢一 ,   椎貝達夫

ページ範囲:P.980 - P.981

 消化管と腎は生体の水電解質バランスをつかさどる主たる器官であり,多くの類似点がみられる.消化管はいってみれば一つの巨大なネフロンであり,輸送を行う上皮が連続してつながり,しかも分節ごとに機能分化がみられる.消化管に入る液体の75%は食事以外に分泌された体液であり,吸収というより再吸収という名がふさわしい.ここでは上部消化管の分泌液の喪失である嘔吐と,下部消化管の分泌液の喪失が主な下痢の病態とそれを補正する輸液の要点について述べる1).

ショックと輸液

著者: 加賀美尚

ページ範囲:P.982 - P.983

 ショックは種々の原因によって起こり,その病態にも様々な形態,段階があることはよく知られている.ショックの病態の特徴は,主要な臓器の血流の減少,あるいは血流の不適切な配分,灌流不全によって起こる低酸素状態といえるだろう。
 ショックの治療の原則は,循環不全をできるだけ速やかに改善し,臓器,組織の低酸素状態の持続を可能な限り短縮して離脱することである.したがって,ショックの治療には,輸液,輸血が重要な役割を果たすことになる,

肝不全時の輸液

著者: 高木俊和 ,   石井裕正

ページ範囲:P.984 - P.986

 肝不全時と一言に表現しても,その原因は様々であり,経過もまちまちであるが,その転帰は,肝性脳症,肝腎症候群などの重篤な病態をきたし,その輸液管理には臨機応変の対応が要求される.
 劇症肝炎に代表される急性肝不全は,広汎な肝細胞壊死をきたしたことにより,種々の肝機能(糖代謝,蛋白代謝,ビタミン代謝,ビリルビン代謝など)の低下により,高ビリルビン血症,出血傾向,腹水,肝性脳症,肝腎症候群,腎不全などの重篤な状態をきたす.しかし,この病態の場合,肝が再生され,肝機能が回復するまでの期間,維持療法を行えば救命しうることとなる.これに対して非代償期の肝硬変に代表される慢性肝不全の場合は,肝細胞が広汎に結合組織によって置換されており,肝細胞の再生による機能回復が困難であるため,いかに現在の肝機能を維持し,肝への負担を軽減するかが治療の原則となる.

浮腫と輸液

著者: 折田義正

ページ範囲:P.987 - P.989

輸液は浮腫のあるとき必要か
 浮腫と輸液とのテーマは本来矛盾するもので,通常の観念に従えば浮腫のあるときの輸液は禁忌である.
 しかし,浮腫のあるとき,生体内にはナトリウム,水が貯留しているが,一般に循環血漿量は減少している.筆者にも微少変化群によるネフローゼ症候群患者がステロイド離脱後急激な再跳が生じ,1日尿蛋白量50g以上に及んだ例で,全身浮腫とともに血管は全く虚脱,カットダウンも容易でなく,ショック状態となった経験がある.したがって,ある種の浮腫では輸液により循環血漿量を増加させる必要がある.

腎不全に対する補液療法

著者: 重松隆 ,   川口良人

ページ範囲:P.990 - P.993

 腎不全とは,腎機能の低下ないしは廃絶によって体液の恒常性を維持しえなくなった状態と定義され,経過および病態より,急激に発症し回復の可能性がある急性腎不全と,慢性に進行し不可逆性である慢性腎不全とに大別される.今日,腎不全の治療には血液浄化法が導入され治療成果をあげているが,非透析時においては補助療法としての輸液療法も重要な治療手段の一つである.以下,急性腎不全と慢性腎不全とにわけて指針を述べる.

呼吸不全と輸液

著者: 横山剛

ページ範囲:P.994 - P.995

 呼吸不全には,動脈血02分圧が60Torr以下の低酸素血症のみを呈する群と,低酸素血症に加えて,動脈血CO2分圧が45Torr以上の高炭酸ガス血症を示すものとの2群に分けられている.低酸素血症を呈するいわゆる1型呼吸不全は,肺癌,喘息,肺炎,肺線維症などのほか,呼吸器以外の疾患たとえば肝硬変症,脳卒中などでもみられ,日常臨床では最もしばしば遭遇する病態である.これに対してCO2蓄積を伴うII型呼吸不全は,肺気腫,慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患(COLD)に多くみられ,急性のCO2蓄積はこれらCOLDの急性悪化のほか,重症喘息,重症肺水腫などでみられるものである.
 したがって呼吸不全の水電解質異常は,低酸素血症のみを呈する場合と,CO2蓄積すなわち呼吸性アシドーシスをきたしている場合とで明らかに病態が異なるものである.低酸素血症あるいは高炭酸ガス血症が,水電解質代謝にどのような影響を及ぼすかは興味あるテーマであるが,いまだ不明な点が多い.さらに昨今のように人工呼吸器の使用が日常化されてくると,その長期使用による水分代謝の異常もゆるがせにできない問題である.これらの点について現在の知識を簡単に述べてみたい.

熱傷と輸液

著者: 二宮宣文 ,   八木義弘

ページ範囲:P.996 - P.997

 熱傷,特に重症熱傷は,(1)ショック期(0〜48時間),(2)ショック離脱期,利尿期(2〜7日),(3)感染期(1〜3週),(4)回復期(3週以後)の経過をとって治療に至る.熱傷治療は熱傷面積,深度などの重症度の判定,輸液,呼吸,栄養管理,感染対策などの全身療法,また局所療法,精神介助が重要なポイントである.このうち全身療法としての輸液はショック期,ショック離脱期,感染期に必要となってくる.

アシドーシスと輸液

著者: 高橋進

ページ範囲:P.998 - P.1001

 酸・塩基平衡障害には,表1に示すごとく4つの基本的な型がある.血液のpHが正常域7.35〜7.45より低い場合を酸血症(acidemia)といい,これが生体内に起こる病的過程をアシドーシス(acidosis)という.血液のpHが正常域より高い場合をアルカリ血症(alkalemia)といい,これが生体内に起こる病態過程をアルカローシス(alkalosis)と呼んでいる.
 呼吸性因子としてCO2分圧(Pco2)が増加する場合を呼吸性アシドーシス,Pco2が減少する場合を呼吸性アルカローシスという.また,代謝性因子としての重炭酸〔HCO3-〕の減少する場合を代謝性アシドーシス,〔HCO3-〕の増加する場合を代謝性アルカローシスという.

糖尿病と輸液

著者: 久保明 ,   松岡健平

ページ範囲:P.1002 - P.1004

急性代謝失調時の輸液
 糖尿病性ケトアシドーシスや非ケトン性高浸透圧性昏睡時の輸液は同じプロトコールで行うのが実際的でありその方法を表1に示す1,2).Kは5.5mEq/l以上ならば投与せず,4.5〜5.5mEq/lでは10,3.5〜4.5mEq/lでは30,3.5mEq/l未満では60mEq/lを投与の目安とする.またPを80mmol/日程度補給することもある.

座談会

輸液をめぐる諸問題

著者: 酒井糾 ,   松尾宣武 ,   加賀美尚 ,   和田孝雄

ページ範囲:P.1005 - P.1014

 和田(司会)本日はお忙しいところお集まりいただきまして,どうもありがとうございます.
 輸液の座談会は,今まで幾つかの雑誌で企画もございますし,それからわれわれより一世代先輩の権威者が,すでにいろいろなお話をされているわけです.そういう点からいうと,いまさらという気がしないでもないわけですが,今回はジェネレーションが同じ先生方に,気軽に,無責任な発言もどんどんしていただいて,座談会というよりは放談会をやらせていただこうと思い,こういう人選になったわけです.

Current topics

睡眠と呼吸—とくに呼吸器疾患の臨床と関連して

著者: 太田保世 ,   高崎雄司 ,   成井浩司 ,   金山一郎 ,   鈴木英雄

ページ範囲:P.1050 - P.1064

 既成概念にとらわれず,視点を変えて物事を見る重要性は医学に限ったことではないが,本稿では,睡眠中の患者に目を向ける重要性を,特に,呼吸に焦点を合わせて強調したい.歴史的に,睡眠と呼吸の係わりを19世紀のCheyne-Stokes呼吸の記載などに見ることができ,Robin92)が,睡眠と各種疾患との示唆に富む論文を発表してからでもおよそ30年になる.彼はその中で言う.「To the physician, the patient lives on a 16-hour-a-day basis, In reality, man is a 24-hour-a-day organism. The sleeping patient is still apatient」.
 こうしてみると,睡眠と呼吸の話題も,ある意味では「Nothing new under the moon」58)かも知れないが,睡眠無呼吸症候群という概念が登場したのはこの10年ほどのことであり,最近の知見をまとめておくことも意義があろう.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

紫斑(出血斑)の疾患別特徴

著者: 石川英一 ,   大西一徳

ページ範囲:P.1020 - P.1021

 概念 紫斑の色調は始め鮮紅色または紫紅色で,やがて黄(褐)色となり消褪する.局所の循環障害たとえば静脈瘤がある場合は紫斑の消褪は遅れ,ヘモグロビンの変化したヘモジデリンが沈着するため,紫斑のあとは褐色調となる.紫斑は臨床的に硝子圧で褪色しないことより紅斑と鑑別される.

リンパ節疾患の臨床病理

リンパ芽球型リンパ腫

著者: 片山勲

ページ範囲:P.1031 - P.1033

 リンパ芽球型リンパ腫は,最も典型的な場合には幼小児の縦隔洞腫瘍として発症する.まずそういう典型例を第1例として提示しよう.乾性咳嗽と発熱を主訴として入院した3歳の女児で,胸部X線像(図1)および胸部CT像(図2)で前縦隔部に大きな充実性陰影が発見され,しかも67Gaスキャンにより強いとり込みが認められた.針穿刺生検によりリンパ芽球型リンパ腫と組織診断されたので,ただちに放射線照射と化学療法の併用を行ったところ,腫瘍はまったく消失し,全身状態も寛解した.目下,維持療法を施しつつ経過観察中である,
 第2例は17歳男児で,突発した右下腹部の激痛のため入院.緊急開腹手術により回盲部の腸重積症(図3,矢印のところで回腸が盲腸のなかに入りこんでいる)が発見され,回盲部切除術が行われた.切除された腸管を開いてみると,回腸に発生した約2.5cm直径の球形で有茎性の腫瘍が尖端となって盲腸腔内に嵌入しているのが認められた(図4).リンパ芽球型リンパ腫と組織診断され,化学療法が行われたが,全身性播種により約1年後に死亡した.

グラフ 内科医のための骨・関節のX線診断

(5)内分泌・代謝疾患の骨病変

著者: 水野富一

ページ範囲:P.1034 - P.1042

1.末端肥大症,巨人症
 脳下垂体前葉の好酸性腺腫や好酸性細胞の過形成により,成長ホルモンの過剰分泌が起こると,成長板の閉鎖前では巨人症,閉鎖後では末端肥大症となる.
 巨人症では長期にわたる骨の急速な成長により,骨の長さと横径が増加し,身長が異常に高くなる.骨の成熟は正常か遅延する.

消化管造影 基本テクニックとpitfall

食道(5)—隆起性病変をどう読むか

著者: 山田明義 ,   西澤護

ページ範囲:P.1044 - P.1049

 西澤 今回は食道の隆起性病変のX線像についてのお話をおうかがいしたいのですが,隆起といえば,何といっても上皮性の食道ポリープ,粘膜下腫瘍,あとは悪性腫瘍ということになりますが,まず良性のものについて写真を提示していただきながらお話をうかがいたいと思います.

演習

目で見るトレーニング

ページ範囲:P.1023 - P.1029

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

体重増加,四肢のこわばり/嚥下困難,四肢の筋力低下

著者: 石沢晋

ページ範囲:P.1065 - P.1068

 15歳のとき,身長が112cmしかないため,近医を受診し,甲状腺ホルモンの投与をうけた(薬剤名や量は不明).その後,服薬を続けたが,25歳のとき,通院をやめ服薬を中止した.その後2年間で70kgの体重が104kgとなり,全身倦怠感と易疲労感を認め当院を受診した.約1年前,某医院で肝障害を指摘されている。患者の言語,動作は緩慢で四肢のしびれとこわばりを訴えている.学歴は高校卒で成績は中等である.他の既往歴,家族歴に特記すべきものはない.
 入院時現症:身長145cm,体重104.5kg,脈64/分・整,呼吸15整.皮膚は粗造で乾燥す.体温36.2℃,血圧106/70,頭髪は粗で脱毛あり,両側眉毛の外側やや希薄,貧血(-),黄疸(-),舌肥厚,甲状腺腫(-),肺野・清,心音・微弱なるも純,腹部・肝脾腎触知せず,陰部・著変なし.四肢非圧迫性浮腫(+),聴力やや減弱,腱反射・弛緩時間やや遅延.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・6

甲状腺機能亢進症

著者: 斎藤公司 ,   山本邦宏

ページ範囲:P.1072 - P.1076

 甲状腺疾患は日常診療でみられる内分泌疾患の中では最も多く,その中でも甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)または甲状腺中毒症(thyro・toxicosis)は良くみられるものである."甲状腺機能亢進症"は原因のいかんによらず甲状腺自体の機能亢進を意味しており,"甲状腺中毒症"は甲状腺自体の機能のいかんによらず,甲状腺ホルモン過剰による代謝亢進状態を意味している.しかし甲状腺機能亢進症または甲状腺中毒症のうちの大部分がグレーブス病(バセドウ病)であるため,これらの言葉はしばしば混同して用いられている.甲状腺中毒症の分類を表1に示す.このうちグレーブス病は最も高頻度にみられるのでその病因病態に関する知見について述べる.またグレーブス病の他に,甲状腺炎による甲状腺中毒症も日常診療においてしばしばみられるが,それぞれ甲状腺ホルモン過剰に関連した病態が異なる.前者は刺激性甲状腺中毒症,後者は破壊性甲状腺中毒症というべきものであり,これらの違いについても述べてみたい.

臨床ウイルス学・9

肝癌とウイルス

著者: 服部信 ,   小林健一 ,   金子周一 ,   村上清史

ページ範囲:P.1078 - P.1083

序説
 臨床的にウイルス肝炎患者の経過を長年月追及すると,慢性肝炎,肝硬変を経て,肝細胞癌を合併する症例の観察されることを,米国のSheldonとJames1)が初めて発表したのは1948年のことである.他方,米国では,フィラデルフィア動物園で,動物の屍体を1901年から剖検した結果,1933年獣医Ratcliffe2)により,鳥類において,ウイルス肝炎,肝硬変,肝細胞癌が観察される事実が発表された.1968年この動物園からSchneiderは,ウッドチャックに肝炎と肝細胞癌の存在を発見し,ウイルス性であろうと類推した.1977年同じフィラデルフィアのフォックス・チェース癌研究所のSummersらにより,ウッドチャック肝炎,肝細胞癌を有する動物に,B型肝炎と構造の近いウッドチャック肝炎ウイルスを発見した.フランスのGalibertら4)は,Maxamらの方法を利用して,ウッドチャック肝炎ウイルスDNAの全構造を決定し,B型肝炎ウイルスDNA構造と類似している事実が明らかにされた.図1にB型肝炎ウイルスDNA(左)と,ウッドチャックウイルスDNA(右)の化学構造を示す.また,西岡により,1973年に国立がんセンター病院に,市田,石井,服部を集め,WHOの会議を開催し,肝細胞癌の患者血清中にいわゆるオーストラリア抗原が高率に含まれている事実を明らかにした.この主旨の発言をしたのは,西岡,市田,石井である.

海外留学 海外留学ガイダンス

英独仏語医学会話(1)—初診患者

著者: 大石実

ページ範囲:P.1086 - P.1091

世界の言語
 世界の言語を,母国語とする人数が多い順に並べると,中国語,英語,スペイン語,ロシア語,ヒンディー語,ベンガル語,ポルトガル語,アラビア語,日本語,ドイツ語,インドネシア語,フランス語の順になる(図1).
 また,その言語で書かれている医学雑誌の数が多い順に並べると,英語,フランス語,ドイツ語,ロシア語,日本語,イタリア語の順になる(図2).

CPC

感冒様症状に続き,著明な心拡大,肝腫大をきたした11歳男児

著者: 尾世川正明 ,   赤塚章 ,   鈴木孝徳 ,   丹波嘉一郎 ,   田辺雄三 ,   小方信二 ,   寺井勝 ,   浅田学 ,   安藤正彦 ,   吉田尚 ,   埜中征哉 ,   橋田潤 ,   近藤洋一郎 ,   斎木茂樹 ,   中原利郎 ,   桜井信清

ページ範囲:P.1092 - P.1106

症例
 患者 11歳,男児
 初診 昭和60年6月3日

一冊の本

「白楽天」—(漢詩大系12,田中 克己,集英社,昭和39年発行)

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1085 - P.1085

 人生の真髄は詩である.人は時にそれを真理と呼び,またロマンと呼んだりする.形として小説,随筆,和歌,俳句など色々の表現をとることもある.私は,1,100年前の白楽天の遺してくれた多くの漢詩にその凝縮したものを感ずる.白氏文集75巻,2,800を数えるという彼の漢詩からの選集がこの一冊である.
 私達の年代は今の若い人々よりも日本の古典,中国の漢文に親しむことが多く,簡潔,雄勁な文章を素読する習慣をえたことから,幾百の現代ものより鮮やかに記憶に残る読書ができた.わが国の古典でも特に愛好した源氏物語,枕草紙,徒然草,そして西行や芭蕉に至るまで白楽天の影響が至る所に見られ,関心はこの漢詩にさかのぼらざるを得なかった.有名な「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き,香爐峯の雪は簾を撥げて看る」という美的表現や,「天に在りては願わくは比翼の鳥と作(な)り,地に在りては願わくは連理の枝と為らん」と愛誦された長恨歌にみる白楽天の二人の貴人の愛情への深い共感などはしばしば引用されている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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