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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻8号

1986年08月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のための小児診療のコツ Editorial

小児診療の特殊性

著者: 松尾宣武

ページ範囲:P.1304 - P.1305

 子供は大人のミニチュアではないといわれるように,小児科診療は内科診療の亜型ではない.両者は全く別個のものといっても言い過ぎでない.しかし,小児科診療の相当な部分は,内科医や,小児科を専門としない一般実地医家の手に委ねられているのが,わが国の実態である.小児の時間外診療(その大部分は真の救急医療ではない),乳幼児健診,校医としての活動などもその例外ではなく,小児科医以外の医師の助力なしに,これらの業務を遂行することは困難と思われる.
 そこで,今回の特集では,当直などで小児科の患者を診る機会のある内科系研修医や勤務医,乳幼児健診,学校検診に従事する機会のある実地医家,を主たる読者対象に想定し,小児診療の特殊性,救急外来における小児科診療,学校検診の事後処置,思春期の異常の4つのトピックスをとりあげ,優れた臨床医として定評の高い先生方に,実地的立場から,解説をお願いした.読者諸兄姉の明日の診療に有益であることを期待したい.

小児診療の特殊性

アナムネーゼのとり方

著者: 舘石捷二

ページ範囲:P.1306 - P.1307

小児患者の特徴
 小児患者の問題点を正しく理解し,解決するためには,まず患者の訴えをよく聞き,主訴を中心に問診して診断確定のために必要な情報を得なければならない.
 小児患者の場合は,その訴えが母親の目から見た異常であることが多く,また病歴も患者自身から聞くよりも,母親から聞く場合が多い.

理学的所見のとり方

著者: 舘石捷二

ページ範囲:P.1308 - P.1309

診察の目的
 問診で得られた情報を参考にして視診,触診,打診,聴診により診断の手掛りをつかむ.小児患者の診察に際しては,まず以下の諸点をチェックする.
 (1)母親の訴えが単なる思い過ごしによるものか,真に病的な異常か.(2)緊急を要する状態ではないか.(3)重大な疾患の初期徴候がみられないか.(4)どんな病態(感染,アレルギー,遺伝,心因性など)が関与しているか.(5)成長や精神運動発達に遅れがないか.

神経学的診察法

著者: 広瀬源二郎

ページ範囲:P.1310 - P.1313

神経系の診察にあたって
 小児の神経学的検査法は,患者が学齢期に達しているか否かで異なる.学齢期に達していれば,成人の神経学的検査法がほぼそのまま通用するが,学齢期以前の小児,とくに新生児,乳幼児は,医師や種々の検査をいやがり,また特に知能発達障害のある場合には聞きわけがなく動きまわり,十分な診察ができないことが多い.そのため小児の診察,特に神経疾患患者の診察では,特殊なコツ,経験を要する.
 成人を取り扱う医師はとかく威厳を保つべくふるまうことが多いが,医師と小児患者との関係は特殊であり,子供をこわがらせないためには白衣を脱ぎ,忍耐強く笑顔で接するうちとけた態度が必要である.このようにして子供と友好的関係をつくると同時に,また医師と母親との関係でも十分な協力が得られるように配慮しなければならない.

発疹のみかた

著者: 武内可尚

ページ範囲:P.1314 - P.1317

 小児期にはさまざまな発疹性疾患に罹患する.そのほとんどは,非特異的なもので,急性ウイルス感染症に合併するものであり,毎回病原診断を必要とするわけではない.発疹を主訴に来院しても,発疹だけに注目するのではなく,患者の一般状態を把握することが大切である.次に問診や直接診察で大切なことは,随伴症状についてである.全身症状としての発熱,倦怠,食欲などに始まり,呼吸器症状,消化器症状,リンパ節腫,眼脂,関節痛などの他,神経系症状などをチェックする.そして患者の疫学的状況を必ず記録する.すなわち,家族構成,住居の立地条件,保育園や学校など患児の所属する集団,ペットの有無,キャンプなどの屋外生活経験,家族の職業,患児の趣味なども必要なことがある.
 次に,発疹の観察は,いわゆる記述皮膚科学の方法でポイントを押さえて診ることである.発疹1個の形状はどうか.直径何mmくらいで,辺縁は不整か否か.健常な皮膚から隆起した丘疹かどうか,盛り上がっていても中心部のみ隆起しているのか,全般的に膨隆しているのか,色調はどうか,水疱形成や痂皮の有無などである.

診察用具

著者: 山下文雄

ページ範囲:P.1318 - P.1319

 診察とは,情報を集め,問題点を明らかにし(同定identification),診断の仮説をつくり,行動選択にいたる判断過程(decision making process)である.
 ダブル・オー・セブンが敵地に潜入し,情報をとるには,地域の文化人類学的・歴史的背景,習慣,思考過程,コトバをよく調べ,土地や人にあった方法でないと失敗する.診察も同様で,子どもを知り,子どもにあうふんい気づくりと診察法がいる.

Laboratory dataの正常値と年齢差

著者: 長秀男

ページ範囲:P.1320 - P.1322

 小児は,発育あるいは成熟しつつある個体であるという点で,既に完成された個体である成人と根本的に異なる.従って,検査成績の評価を成人の結果と全く同一に論ずることは必ずしも妥当ではない.
 出生から成人に至るまでのいわゆる小児期は,①母体(胎内環境)の影響の名残りと,生体機能の未熟性により特徴づけられる新生児〜乳児期,②着実な成長を続ける幼児〜前思春期(preadoles-cent),③二次性徴が発現し,成人へと成長,成熟してゆく思春期,に大別され,検査成績にも,それぞれのstageに特徴的な所見が見られる場合が少なくない.

薬用量

著者: 山下直哉

ページ範囲:P.1324 - P.1326

 小児薬用量を決定する時に考慮すべき重要なことに成長発育がある.薬物の体内分布に影響がある細胞外液量,排泄に大きな働きがある腎糸球体濾過量などは体表面積にほぼ平行して増加するが,他の薬物の体内動態の因子,たとえば,消化管における吸収,蛋白結合,血漿esterase活性,肝の酵素活性,尿細管機能は生後数年(多くは2~3年)の内に大きな変化を遂げる.このため,体表面積や体重を成人と比較して,成人薬用量から小児薬用量を算出する方法では正確でないことが多い.特に新生児期には表1に揚げたような点で成人と大きな差がある.
 日常の診療で使用することが多い抗生物質を例にして小児薬用量について述べてみる.薬物は投与されると一度は血中に入り体内に分布される故,薬物の血中濃度の推移は体内動態を知る上で重要な指標の一つである.

救急外来における小児科診療

発熱

著者: 遠藤紀雄

ページ範囲:P.1328 - P.1329

 正常体温は37.0±0.7℃とされている.小児は発熱しやすく,種々の因子の影響を受けやすい.本稿では,緊急診断治療を必要とする化膿性髄膜炎と,救急外来でみられる発熱を伴う疾患の内で,頻度の高い疾患について述べる.

腹痛

著者: 小林昭夫

ページ範囲:P.1330 - P.1333

 腹痛は小児科領域でよくきかれる訴えである.腹痛は非特異的な症状で,その原因は少なくない.しかも,腹部疾患以外でも腹痛をひき起こすことがある.さらに困ることには,年長児を除いて小児は何らかの苦痛をすべて「お腹がいたい」と表現してしまうことが少なくない.

喘息発作

著者: 近藤信哉

ページ範囲:P.1334 - P.1335

喘息発作の重篤度の判定
 個々の患児がこれまでにおこしてきた発作の程度とは無関係に,発作毎の重篤度が生命を左右する.問診では,患児がステロイド依存性であるか,最後に服用した気管支拡張剤の種類,量,服薬時刻などを手短に聞く.呼吸困難で苦しむ患児を前にして,診察も手短に行うが,喘息に特有の理学的所見は必ずしも発作の重篤度を反映しているわけではない.意識,チアノーゼ,脱水などの一般状態,聴診上の換気の程度の把握につとめる.可能であれば,ピークフローメーターによる気道閉塞の客観的評価や,血液テオフィリン濃度を測定しておく.患児が治療によってひとまず落ち着いたところで動脈血ガス分析を行い,総体的な肺機能の評価の参考とする.
 来院時に重篤な臨床所見を示していても,治療に良く反応する例は必ずしも重篤な発作と考えなくてもよい.逆に,治療に抵抗したり,治療後短時間のうちに発作が再発してくる例は,臨床所見とは無関係に,重篤と考えられる.また,このような例においては,薬剤副作用の重なりによる増悪の可能性も考えておかなければならない.

けいれん

著者: 黒川徹

ページ範囲:P.1336 - P.1337

 小児のけいれんにおいて救急を要するものとしては,(1)けいれん重積状態(けいれん発作が反復して出現し,発作間欠期に意識が回復しない状態),(2)けいれん重延状態(けいれんが長時間,通常30分以上続く状態)の2つがある.
 けいれんをみたとき,そのけいれんが患児にとってどのくらい危険であるかを見極めることが大切である.そのためには患児の顔色,vital signをすばやくみる.

Cardiac emergency

著者: 森川良行

ページ範囲:P.1338 - P.1339

 小児循環器領域で遭遇する頻度の高い救急疾患について,すなわち心不全,上室性頻拍,無酸素発作をとりあげ,救急処置のポイントを記述する.

誤飲(毒物)

著者: 舘石捷二

ページ範囲:P.1340 - P.1342

 誤飲事故が最も多いのは探索行動の盛んな乳幼児期であり,家庭内にある種々の化学的物質が誤飲の対象となり,急性中毒の原因となる.従って,危険と思われるものは子供の手の届かない所に保管するよう日頃から親を指導し,事故防止に努めることが大切である.

下痢・脱水

著者: 小林昭夫

ページ範囲:P.1344 - P.1346

 下痢は小児科臨床ではもっとも多い症状の1つである.下痢から栄養障害になるのは慢性下痢症の場合で,脱水症になるのは急性下痢症の場合である.そこで,ここでは急性の乳幼児下痢症の取扱いについて述べることにする.

学校検診の事後処置

血尿,蛋白尿

著者: 長谷川理

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 本邦における学校検尿の普及はめざましく,世界にその類をみない.また診断確定後は学校用腎疾患管理指導票をもとに,ある程度の管理システムが確立されている.しかしながら異常尿所見に対する診断の進め方については決められた方式がなく,日常診療でその判断を迫られることが多い.
 血尿,蛋白尿という所見は疾患特異性に乏しく,原因,原疾患は多岐にわたる.診断上,ほかに指標となる症状を伴う場合には診断も進め易いが,血尿,蛋白尿以外に症状のない例も少なくない.

糖尿

著者: 松浦信夫

ページ範囲:P.1350 - P.1352

 近年,学校における集団検尿が広く普及し,この中に尿糖検査が加えられるようになってから,糖尿を主訴に来院する子供が増えてきている.そこで尿糖を来す機序,疾患,および鑑別診断をするための検査方法,手順を中心に述べたいと思う.

不整脈

著者: 辻敦敏

ページ範囲:P.1354 - P.1357

 学童,生徒の心臓検診が義務づけられ,心電図検査が行われるようになり,小児でも不整脈を指摘される機会が多くなっている.その不整脈の中には突然死の一因と考えられているものも見出されており,問題は少なくない(表1).
 不整脈を指摘されて来た学童,生徒に対して,まず第1に基礎心疾患の存在の有無を検討すること,第2に不整脈そのものの意味を正しく判断することが必要である.その結果,第3として最も適した管理を考えることになる.

心雑音

著者: 辻敦敏

ページ範囲:P.1358 - P.1359

 学校検診により心雑音を指摘された学童,生徒に対して,まず心雑音が器質的なものかあるいは機能的なものかを鑑別しなければならない.
 小児の心疾患の大部分のものは先天性心疾患であり,表1に示した心疾患が85%を占めるが,チアノーゼ型心疾患が学校検診で初めて発見されることは稀である.学校検診で指摘される頻度の高い疾患は心房中隔欠損,肺動脈狭窄,後天性心疾患では僧帽弁閉鎖不全,僧帽弁逸脱症候群などである.

ツベルクリン反応自然陽転

著者: 黒川博 ,   雉本忠市

ページ範囲:P.1360 - P.1361

 結核は小児領域でも急速に減少し,稀な疾患となっている.しかしながら乳児検診や学校検診でツベルクリン自然陽転を主訴に来院する症例は多く,適切にINH予防内服を指導しなければならない.

思春期の異常

肥満

著者: 日比逸郎

ページ範囲:P.1362 - P.1363

 思春期年齢の小児の肥満は,ほとんど成人肥満と同じように取り扱って差し支えない.

高血圧

著者: 鈴木光明

ページ範囲:P.1364 - P.1369

 高血圧は最大死因である脳・心血管損傷をおこす原因として大きな注目を集めてきた.とくに成人高血圧の基盤が思春期以前にあることが,最近明らかになりつつある5).例えば,成人でも思春期でも,高血圧の大部分が一次性(本態性)であることはその有力な証拠ともいえる.しかし,思春期高血圧は成人のそれと定義その他で異なる方面も多く,これについて最近の知見を掲げ,考察を加えた.

生理不順

著者: 前坂機江

ページ範囲:P.1370 - P.1372

初潮と月経周期
 小児期にも卵巣内の卵胞は周期的に発育しているがその大きさは極めて小さく,全身に変化を及ぼす程のエストロジエンを分泌せずに消失する.思春期前になると卵胞の発育は次第に成人に近づき,エストロジエン分泌量も増加してくる.この女性ホルモンの分泌増大により乳房や内・外性器が発育し,身体の急速な発育がおこり,やがて子宮内膜も増殖し,この程度が著明になるとエストロジエン分泌低下後消褪出血がくる.これが初潮であり,乳房腫大から2〜3年後で乳房成熟度が成人に近く,陰毛発生前にみられることが多い.しかし,初潮の発現は性機能の完全な成熟や生殖能の獲得を意味するものではなく,初潮後数年を経てはじめて性機能が完成していく.この間,視床下部-下垂体-卵巣系はまだ発達の過程にあり不安定で,精神的ストレスや環境の変化などにより容易に影響をうけ,周期の不規則さをもたらす.また,卵巣自体も未成熟で初潮後数カ月〜数年は無排卵性であったり,黄体形成不全の状態であり,このため,さらに性周期が不規則となり,月経日数や月経時の出血量が一定しないことになる.こような生理的に月経が不規則な時期に,これが病的なものか,生理的なものか,判定することはむずかしい.そこではじめに正常な思春期の女児の月経について述べ,その後に病的な原因によるものを述べる.

第二次性徴遅延

著者: 大山建司

ページ範囲:P.1374 - P.1376

第二次性徴発育段階
 思春期に対する明確な定義づけは行われていないが,一般的には,第二次性徴の出現を始まりとし,成長のスパートが起こり,body compositionが変化し,第二次性徴が完成し,性腺機能が成熟し,身長増加が停止するまでとされている.第二次性徴の出現は男子では睾丸容量の増加,女子では乳房の発育で始まる.
 第二次性徴の発育段階はTannerの基準に従って示されることが多い.表1はTanner分類に従った性成熟度とその他の身体変化を示したもので,各部位毎にTanner 2度,3度と表現される.男子では睾丸,陰茎がTanner 3〜4度で陰毛の出現を見,睾丸の発育から外陰の完成までは約4.7年,陰毛の出現から完成まで約2.7年を要する1).女子では乳房発育Tanner 3〜4度で陰毛の出現を見,陰毛発育Tanner 3度で初潮を見る.初潮は乳房発育出現後2〜3年,身長スパートのピークを過ぎてから1年前後である.

性早熟

著者: 大山建司

ページ範囲:P.1378 - P.1379

判定基準と原因別分類
 第二次性徴は,女子では乳房発育,恥毛,初経の順で,男子では睾丸発育,陰嚢皮膚の変化,陰茎発育,恥毛の順で起こる.第二次性徴の発育段階は前項(表1)に示したTamer分類に従って表現されている.健常小児の第二次性徴の出現時期は,大体表1のごとくであるが,最近では若干これより早まる傾向にある.
 性早熟症(思春期早発症)の判定基準は,男子が男性,女子が女性として第二次性徴が出現した場合(同性化性早熟症)は表2の基準に従って判定される1).性早熟症の原因別分類を表31)に示す.性早熟症の原因は多岐にわたっているが,要点はまず第一に特発性か器質性かを判断することである.女子では70%以上が特発性だが,男子では50%以上が器質性である.

低身長

著者: 津﨑さゆ美 ,   小佐野満

ページ範囲:P.1380 - P.1381

 「成長」は小児に認められる特徴的な現象であり,多種多様な因子の影響をうける.悪影響を及ぼす因子が存在する場合,その結果として成長障害(低身長)という現象が生ずる.しかし,悪影響を及ぼす明らかな因子が存在しない場合でも成長障害(低身長)が認められることがある.その代表的な例が思春期遅発症である.

貧血(鉄欠乏性)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1382 - P.1383

 鉄欠乏の原因は何であるにせよ,もっとも多くみられる貧血は鉄欠乏によるものである.生理学的に鉄欠乏状態になる最初の時期は幼児期である.この時期には成長が速いわりに,鉄の摂取が限られている.また,思春期にも鉄欠乏状態になりうる.この時には成長が速く,食習慣上動物性ヘム鉄の摂取低下,月経開始による鉄の損失といった鉄欠乏の原因が存在する.成人の女性では月経に加え,妊娠,授乳の欠乏原因があげられる.常に女性は男性に比較して食物摂取が少なく,思春期・幼児期にも同様な傾向にある.従って,男性に比し鉄欠乏状態になりやすい.
 成人の平均鉄保有量は5.0g/dodyであり,乳幼児の保有量は0.5g/bodyとなっている.つまり,成人になるまでに4.5gの鉄(0.8mg/day)を吸収しなければならず,鉄の生理的損失を考慮すると,15歳までに0.8-1.5mg/dayの鉄を吸収してゆく必要がある.このように特に出血をきたす疾患がなくても,鉄欠乏性貧血にはなりやすい.

鼎談

小児救急医療の実際

著者: 武内可尚 ,   石田治雄 ,   松尾宣武

ページ範囲:P.1384 - P.1392

 松尾(司会)本日は,日頃,小児の救急医療の第一線で活躍し,後輩の指導に中心的な役割をしておられるお二人の先生方と,小児の救急医療の問題について,実地医家にすぐ役立つ事柄を中心に話し合っていきたいと思います.
 内科系の先生方には小児の救急医療にある種の拒絶反応があるのではないかと思うのですが,夜間あるいは休日診療で遭遇する頻度の高い疾患にどう対処するかということから話を進めていきたいと思います.

理解のための10題

ページ範囲:P.1394 - P.1396

Current topics

食道静脈瘤の内視鏡的硬化療法

著者: 三條健昌 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1428 - P.1433

 食道静脈瘤の治療は確実に進歩してきているが未解決の問題も多い.食道静脈瘤の治療は原疾患の治療ではなく合併症である1つの症状を治療目的としており,その治療成績は原疾患の病態に大きく影響され,natural historyが予後を決定する因子として重要である.治療は,食道静脈瘤を完全に消失させることが望ましいが,病態においては食道静脈瘤からの出血を止めること,あるいは出血の予防で満足しなければならないことが多い.いずれにしても治療法は原疾患に対する影響がないものが望ましい.治療成績は,肝機能障害度,門脈圧亢進症の原疾患,食道静脈瘤からの出血量,病状の悪化因子,治療期間,熟練度などにより異なる.
 内視鏡的硬化療法は,CrafoordとFrenckner2)により,1939年に始められたが,その後Fearon3),Orloff4),Hunt5)により行われている.JohnstonとRodgers6)は硬化療法を117症例に217回施行し,81%症例で止血し,73%は1回の注入で十分であったと報告した.その後,多くの報告が行われているが,わが国でも内視鏡的硬化療法は,内視鏡が普及していることもあって多くの施設で採用され,硬化療法を受ける患者は急速に増している.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

サルコイドーシスの皮膚病変

著者: 石川英一 ,   渡辺剛一

ページ範囲:P.1400 - P.1401

概念,臨床
 サルコイドーシスは2つ以上の臓器に亘ってみられる非乾酪性類上皮細胞肉芽腫をいい,主病変は肺,リンパ節,皮膚,眼,骨などに見られる.皮膚病変は,1)結節性紅斑,2)瘢痕浸潤,3)皮膚サルコイドに分けられる.結節性紅斑は皮下脂肪織の急性炎症で,種々の病因でおきる原則として非特異的な皮膚病変である.瘢痕浸潤はサルコイドーシスの活動期に皮膚瘢痕部が腫脹する病変をいう.皮膚サルコイドはサルコイドーシスそのものの皮膚病変を指す.皮膚サルコイドは臨床的に結節型,局面型,びまん浸潤型,皮下型,苔癬様型などに分けられる.皮膚症状は一般に亜急性の経過をとるサルコイドーシスに観察されることが多い.結節性紅斑,瘢痕浸潤は発病初期に出現し,比較的急性の経過を辿るのに対し,皮膚サルコイドは一般に肺病変よりも遅く出現,慢性,持続性の傾向がある.
 結節性紅斑:サルコイドーシスの発病初期に両側下腿に有痛性浮腫性の紅色結節が,発熱,関節痛とともに出現する.臨床的に他の原因で起きる結節性紅斑と鑑別が困難で,他臓器にサルコイドーシス病変が出現して初めて診断できることが多い.組織学的に皮下の炎症細胞に混在して,類上皮細胞肉芽腫の像をみる.

リンパ節疾患の臨床病理

B cell型リンパ腫

著者: 片山勲

ページ範囲:P.1411 - P.1415

 非ホジキンリンパ腫(表)のうち,濾胞性リンパ腫は3型ともB cell型であり,一方,7つのびまん性リンパ腫のうち,多形細胞型とリンパ芽球型はT cell型,バーキット型はB cell型で,残る小細胞型から大細胞型までの4つのびまん性リンパ腫は,それぞれB cell型のこともT cell型のこともある.今回は非ホジキンリンパ腫に関する連載の最終回として,これら4つのびまん性リンパ腫のB cell型と濾胞性リンパ腫について述べることとする.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

胃(1)—撮り方,正常例の読み方

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.1416 - P.1427

 西澤 今回から数回にわたり,西俣先生に胃の造影診断についてお話を伺いたいと思います.普通,上部消化管のX線診断というと,食道,胃,十二指腸球部までをルチンの検査として撮ることになりますが,食道に関しましては本シリーズで前回まで数回ディスカッションしてきましたので,今日は胃のところから話を始めたいと思います.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1403 - P.1409

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

胸部圧迫感を伴う意識消失発作/突然の呼吸困難

著者: 後藤葉一

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 51歳の機械工.既往歴に特記すべきものはない.
 2年前の12月,朝食後(午前7時頃)に前胸部圧迫感(しめつけられる感じ),冷汗,便意に引き続いて意識消失をきたし,救急車で近くの病院に運ばれた.意識消失は約10分間持続したが,病院に到着した時には意識は回復し,心電図,X線,神経学的検査には異常はなかったという.以後同様の症状が2回あり,また3カ月に1回程度は意識消失を伴わない胸部圧迫感の発作があったが,いつも後遺症なく回復するので特に加療は受けていなかった.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・8

甲状腺腫瘍

著者: 斎藤公司 ,   山本邦宏

ページ範囲:P.1440 - P.1445

 甲状腺腫瘍は臨床的にはそのほとんどが非中毒性結節性甲状腺腫として扱われるが,その内訳は表1に示すように多種に亘っている.このうち良性腫瘍である腺腫が最も多く,悪性腫瘍でも分化型の腺癌(乳頭腺癌,濾胞腺癌)が多い.これらの癌は成長が遅い.したがって,腫瘍全体の比較でも癌のみの比較でも甲状腺の腫瘍は,他臓器の腫瘍に比して予後が良い.このことは甲状腺腫瘍の1つの特徴であり,ありがたいことであるが,甲状腺腺腫と甲状腺濾胞腺癌との鑑別診断が病理組織学のレベルでも困難な場合があることと裏腹である.こうした中で頻度は少ないが,扁平上皮癌,未分化癌,悪性リンパ腫が時にみられ,これらは悪性度が非常に高いことを念頭に置いておくと良い.
 内分泌腺腫瘍という観点からは,ホルモン産生腫瘍に興味が持たれるが,甲状腺以外の内分泌腺腫瘍と異なり,甲状腺ではホルモン産生腫瘍が非常に少ない.これも甲状腺腫瘍のもう1つの特徴であろう.こうした中で甲状腺髄様癌は,カルシトニンを含めて種々の活性物質を分泌しうる腫瘍であることに加えて,いわゆる多発性内分泌腺腫瘍症の一部を成すものであり興味が持たれる.

臨床ウイルス学・11

癌とレトロウイルス

著者: 西澤誠 ,   豊島久真男

ページ範囲:P.1446 - P.1451

 今までの連載講座でかなりの重要なヒトの癌ウイルスが取り上げられているので,ここではレトロウイルスの研究から,ヒト癌の発癌機構の解析の鍵を握る癌遺伝子の研究が展開されて来た過程を中心に,現在までの進歩をまとめた.
 レトロウイルスのレトロとは「逆」を意味する言葉である.生物の遺伝情報はDNA→RNAの方向に伝わるというセントラルドグマに反し,増殖の過程にRNA→DNAへの逆転写を含むからである.レトロウイルスのうち細胞や個体を急性に効率よく癌化する能力をもつ強発癌性ウイルスをRNA腫瘍ウイルスとも言う.RNA腫瘍ウイルスはニワトリ,マウス,ラット,サルなどの実験動物で数十種類も見つかっているが,ニワトリのウイルスが最も盛んに研究され,いわゆる癌遺伝子の研究に最も貢献したと言ってよかろう.筆者らが主に扱ってきたのもニワトリのRNA腫瘍ウイルスであるので,これを中心に話しを進めたい.

海外留学 海外留学ガイダンス

英独仏語医学会話(3)—入院患者

著者: 大石実

ページ範囲:P.1454 - P.1459

フランス語の医学書
 日本語で書かれた医学書を読むと,原著と異なる記述がしばしばある.とくにフランス人の名前の付いた脳幹部の症候群などは,原著やフランス語の医学書と異なるものが多い.誰もが認めるような疾患概念の変化があれば,現在のフランス語の医学書にも原著と異なる記述があるはずであるが,実際には大部分がそうではないので,この相違は原著を読まずに英語の医学書からとってきたためと思われる.
 私は米国で4年間臨床研修を行い,多くの教授と接したが,米国の教授も外国語が苦手で,原著を自分で読まずに,専門家でない人に翻訳させている人が多かった.英語の医学辞典や教科書を翻訳した私の経験からも,ちょっとした翻訳ミスで意味が大きく変わることがかなりある.

一冊の本

「風貌」—(土門拳全集9巻,小学館,1984)

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.1453 - P.1453

 ひとは年をとると大抵の場合「一冊の本」をもっていて立ちどころに提示できるものらしいが私は若い時から感受性が鈍いというか忠誠心に乏しいというか一冊の本,一人の人間に傾倒した経験がない上,老来関心が一層散漫となり人生の焦点そのものがボケてしまったので答に窮する.
 したがって,知識や心構えのために繰り返し読む本ではなく,反対に,乱読に倦んだ時,気晴しにパラパラめくるものとして土門拳の写真集「風貌」でもあげるしかない.若い女性の写真ではなく,多くは60歳を過ぎた老顔の集まりだから若い人達の美的感覚を満足させるようなものでないことは致し方のないことであり,私自身にしても実際にはそれぞれの顔の背後にそれらの人々の作品や業績を見ているに過ぎないのかも知れないが,少くとも直接の関心は,このリアリズム派の写真が大写しにした顔のシワ,シミ,ヒゲそのものであるから我ながら索漠の感を免れないのである.

学会だより

アメリ力内科学会(ACP)総会印象記

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1460 - P.1463

 日頃消化器病診療に携わる医師として,これまで国内外の消化器関係の学会には随分頻繁に足を運んできたが,なぜか海外の内科学会には一度も出席したことがなかった.このたび,第67回アメリカ内科学会(ACP)総会に召集を受け出席し,きわめて新鮮なimpactを得たのでその印象を綴ってみたい.

新薬情報

デソパン錠—〔持田製薬〕一般名:トリロスタン—副腎皮質ホルモン合成阻害剤

著者: 水島裕

ページ範囲:P.1465 - P.1465

概説
 トリロスタンは,1970年スターリング・ウインスロップ研究所のNeumannらによって合成された化合物で,アルドステロンやコーチゾールなどの副腎皮質ホルモンの生合成を阻害する薬剤である.その作用点は,3β-hydrooxysteroid脱水酵素を拮抗的に阻害するものであり,その作用は可逆的である.このような性質から,トリロスタンは原発性アルドステロン症,クッシング症候群の治療薬として,1980年より英国において使用されている.最近,わが国においても,基礎研究,臨床研究が進み,上記疾患でアルドステロン,コーチゾールの分泌過剰状態,低カリウム血症や高血圧が改善され,それに伴う種々の症状の軽快も認められ,有用な治療薬であることが認められている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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