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雑誌目次

雑誌文献

medicina24巻11号

1987年10月発行

雑誌目次

今月の主題 虚血性心疾患の最前線 editorial

interventional treatmentの現況と問題点

著者: 山口徹

ページ範囲:P.2294 - P.2297

 最近の虚血性心疾患治療の進歩は目覚ましいものがある.その中心は,interventional treatmentと呼ばれる,心カテ室におけるカテーテル治療の出現と普及である.すなわち狭心症に対するPTCA(経皮的冠動脈形成術)と,急性心筋梗塞に対するPTCR(冠動脈内血栓溶解療法)である.両法の適応,有効性をめぐる問題点は,長期成績が明らかになるにつれ解答が出はじめている.

虚血性心疾患を見逃さないために

著者: 水野杏一 ,   堀内賢二

ページ範囲:P.2298 - P.2302

 虚血性心疾患(IHD)の患者が医師を訪れる場合,偶然に発見されることもあるが,症状が多様なので,診断が困難な場合が少なくない.また,胸痛を訴える患者がすべて虚血性心疾患ではないが,時として,心筋梗塞に移行しやすい不安定狭心症や急性心筋梗塞や解離性大動脈瘤といった重篤な器質的疾患が含まれており,虚血性心疾患を見逃さないためにも,初診時より秩序立った的確かつ迅速な診療を実施する必要がある(表1).
 本稿では,虚血性心疾患を見逃さないため,初診時の問診,検査計画などにつき言及する.

虚血性心疾患治療のプロトコール

著者: 原和弘 ,   山口徹

ページ範囲:P.2304 - P.2307

 虚血性心疾患は,心筋に壊死を生ずる心筋梗塞と,心筋に虚血を生じる狭心症に大別される.治療面では,最近までさまざまな合併症を有し,死亡率の高い心筋梗塞が注目されてきた.しかし今日では,単なる壊死の有無よりも,むしろ心筋虚血が急激に変わりつつあるといった時間経過(すなわち急性の変化)のほうが適切な治療にとって重要である.ここでは,虚血性心疾患の治療を,表1のように急性心筋虚血,慢性心筋虚血,基礎疾患に分けて,治療プロトコールの理解の助けとした.

発生機序はどこまでわかっているか

狭心症の発生機序

著者: 三嶋正芳 ,   児玉和久

ページ範囲:P.2308 - P.2309

 狭心症は種々の臨床病型(表1)1)に分類されるが,一過性の心筋虚血を共通の発症要因とする症候群である,この心筋虚血の発症には種々のメカニズムが想定され,それぞれが独立にあるいは複合して心筋虚血を惹起するものと考えられている(表2).

心筋梗塞の発生機序

著者: 友田春夫

ページ範囲:P.2311 - P.2313

 心筋梗塞発症の機序に関しては,従来諸説あり,これらのうちから定説を求めるのは必ずしも容易ではないが,現在までに明らかにされている基礎的,臨床的事実関係につき述べる.なお最初に,心筋梗塞は冠動脈閉塞性機転による心筋の不可逆的な機能的・形態的変化により生ずるとする立場をとり,その意味で,心筋梗塞発症の直接原因となる冠動脈閉塞機序を中心に述べることをお断りしたい.

心筋虚血の診断はどこまで可能か

心電図法

著者: 川久保清

ページ範囲:P.2314 - P.2317

 一過性心筋虚血の診断の根拠として,心電図変化は,客観的指標の1つではあるが,心筋壊死(急性心筋梗塞)時と比べて,心筋虚血の判定は難しい点が多い.その理由としては,心筋虚血時の代表的な心電図変化であるST下降は,非特異的な面が多く,虚血以外の要因に左右されやすい点があげられる.また心電図は体表面から記録するため,虚血の大きさや部位診断に限界がある.
 ここでは,狭心症例(無症候性心筋虚血を含む)を対象として,安静時(非発作時)心電図および負荷心電図(運動負荷心電図,ホルター心電図)のもつ診断的意義について述べる.

RI法

著者: 西村恒彦

ページ範囲:P.2319 - P.2323

 心筋虚血の診断方法として,負荷心電図,心エコー図,造影法をはじめ,いくつかの方法が用いられている.心筋シンチグラフィは201TICI(塩化タリウム)が約10年前に導入されて以来,心筋虚血の診断法として心臓病学の中で重要な位置を占めている.本法は,心筋血流分布を視覚的に判定できるところに大きな利点がある.とくに負荷心筋シンチグラフィの評価法とその有用性,限界について,筆者らの施設における成績を中心に解説する.

造影法

著者: 佐久間徹 ,   相澤忠範

ページ範囲:P.2324 - P.2328

 心筋虚血を生じる原因は,冠動脈の器質的狭窄,冠動脈攣縮(スパスム),心筋因子,弁膜疾患(大動脈弁狭窄,閉鎖不全など),心外因子(貧血,甲状腺機能亢進など)があげられる.それぞれ単独に存在することもあるが,さまざまな原因が絡み合っている場合も多い.ここでは,主に冠動脈疾患による心筋虚血につき述べる.

心筋壊死の診断はどこまで可能か

心電図法

著者: 松下哲

ページ範囲:P.2330 - P.2331

心筋梗塞の心電図による診断率
 心筋梗塞の心電図のみによる診断率は,連続剖検例で5〜6割である.これは陳旧性梗塞を含めた数字であるが,表1のごとく剖検例で確かめられた急性心筋梗塞をとっても,典型的心電図変化をきたすものは60%であり,Q波の出現が一過性であったり,ST,T変化のみのもの,また梗塞部位不一致,また虚血性ST,T変化が存在し,新たな心電図変化のないものや左脚ブロック,右室ペーシング,WPW症候群があって,心電図からは心筋梗塞の診断の困難なことがある1)
 心電図診断においては,時間の軸上に複数の心電図をみることが情報の量,質を充実させ,発作の前後の心電図の比較,発作後の経過をみることが診断の向上をきたす.伝導障害があっても,発作の疑われる前後でST,Tの変化の質的,量的差があれば梗塞の疑いがおける.

超音波法

著者: 赤土正洋 ,   吉川純一

ページ範囲:P.2332 - P.2334

 冠循環障害に基づく心筋虚血の診断における心エコー図の役割には,①虚血心筋の検出,②左室機能の評価,③合併症の診断などがあるが,本稿では虚血心筋の検出を中心に,心エコー図法による冠循環障害の診断について述べる.

RI法

著者: 小西得司

ページ範囲:P.2336 - P.2337

 心臓核医学は,現在単に心筋梗塞の非観血的診断法として用いられるだけではなく,有意冠動脈病変すなわち心筋虚血の検出,心室機能の解析,生存心筋の確認などに用いられる.本法の欠点は,ベッドサイドでの検査が困難,高価,かつ放射線被曝があることである.現在本邦で広く用いられている核種の有用性1)とポジトロンについて述べる.

造影法

著者: 佐藤光 ,   立石博信 ,   内田俊明 ,   土手慶五

ページ範囲:P.2339 - P.2341

 左心室造影で心筋壊死量,または梗塞面積が推定できるかという問題は,古くて新しい問題である1)

狭心症のconventional treatment

抗狭心症薬の使い方

著者: 泰江弘文 ,   小川久雄

ページ範囲:P.2342 - P.2345

 狭心症は,心筋が一過性に虚血,つまり酸素欠乏に陥ったために生ずる特有な胸部不快感(狭心痛)を主症状とする臨床症候群である.心筋の酸素欠乏は心筋の酸素需要に対して供給が追いつかなくなって発生するのであるが,心筋の虚血をきたす最大の原因は,心筋表面を走行する太い冠動脈の動脈硬化による内腔狭窄のために,冠血流量が減少することである.
 しかしながら,冠動脈に器質的狭窄が存在しても,通常はそれのみでは狭心症は発生せず,これに心筋の酸素需要の増加が加わって発生する.心筋の酸素需要を増加させる因子としては,身体的労作,精神的興奮,頻脈,血圧上昇,心肥大,とくに高血圧,大動脈弁疾患による左室肥大,甲状腺機能亢進症などがある.

抗血小板薬の使い方

著者: 吉田章 ,   神原啓文

ページ範囲:P.2347 - P.2349

 虚血性心疾患の主たる背景となる冠動脈硬化巣の成立における血小板の役割として,Mustardらは,血管内皮細胞の損傷,血栓形成および平滑筋細胞の増殖を刺激する物質の放出が関与していると述べている.
 また近年,狭心症の不安定化および心筋梗塞の病態発生において,冠動脈攣縮とともに冠動脈内血栓形成が主な病像を呈し,血小板が重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた,このような観点から,狭心症の治療薬としての抗血小板薬が注目されるようになった.

高脂血症の治療法

著者: 加藤泰一

ページ範囲:P.2350 - P.2351

 疫学的研究から,高コレステロール(Ch)血症は有意に虚血性心疾患の発生率を増加させることが明らかにされている1).家族性高Ch血症とくにホモ接合体患者では高度の高Ch血症がみられ,多くの症例が30歳までに虚血性心疾患で死亡することが知られている.さらに,高Ch食を動物に与え実験的高Ch血症を作ると,ヒトに類似した動脈硬化性病変の起こることが知られている.これらの事実より,高Ch血症が冠動脈硬化症の発生および進展に重要な役割を演じていることが考えられている.
 高Ch血症と虚血性心疾患との間に因果関係があるとすれば,高Ch血症を治療することにより虚血性心疾患の発生および進展を防ぐことが当然考えられる.Lipid Research Clinics2)は,高Ch血症患者3,806名を対象に,コレスチラミンによる治療を7.4年間行い,対照群に比べ血清総Ch値において8.5%,心筋梗塞死および非致死性心筋梗塞発生率において各々24%,19%の減少を認め,高Ch血症の治療が虚血性心疾患を予防することを明らかにした.すでに発症してしまった虚血性心疾患については,高Ch血症の治療はその進展の防止と症状の改善を期待しているが,動脈硬化の退縮が高Ch血症の治療により実際に生じ得るかは,現在まだ明確な解答が得られていない.

重症狭心症のCCU治療

著者: 本田喬 ,   谷野俊輔

ページ範囲:P.2352 - P.2357

 今日,硝酸薬,カルシウム拮抗薬,β遮断薬などの抗狭心症薬が多数開発され,またPTCAや冠動脈バイパス手術(CABG)などによる治療も著しく進歩し,狭心症の治療は容易となり,その予後も改善されてきた.
 しかし,狭心症のなかには,種々の抗狭心症薬を,大量に,しかも数種類併用しても狭心症発作を予防することができなかったり,心筋梗塞(MI)を発症したり,突然死する例も少なからず認められる.このような重症狭心症に対しては内科的治療の工夫が必要であり,一方では内科治療の限界を知り,時期を失することなくPTCAやCABGを施行することが重要である.

薬物治療のend point

著者: 大村延博 ,   土師一夫

ページ範囲:P.2358 - P.2360

 狭心症の治療目的は,狭心発作を除去,予防して日常生活の質的向上を得るとともに,心筋梗塞の発症を阻止して延命効果を計ることにある.その方法はこれまで,内科医が行う薬物治療と外科医が行う冠動脈バイパス術に二分されていた.したがって,解剖学的に冠動脈バイパス術が施行可能な症例において,薬物治療がend pointに到達することは内科治療の断念を意味しているため,密度の高いものが求められた.
 しかしながら近年,閉塞性冠動脈疾患のより直接的でしかも内科医が行い得る治療法として経皮的冠動脈形成術(PTCA)や冠動脈内血栓溶解療法が登場して以来,薬物治療のend pointのレベルは一歩後退した感がある.さらに最近では,冠動脈造影検査が安全に施行できるようになり,入院と同時に本法を行って,薬物治療の効果を十分評価する前に最終的治療手段を決定する場合も少なくない.

運動療法

著者: 小川剛 ,   牛山和憲 ,   石井正徳

ページ範囲:P.2362 - P.2364

 心臓リハビリテーションは,急性心筋梗塞のみならず狭心症患者に対しても運動耐性ならびに冠危険因子の改善をもたらし,有効であったとの報告が多い.
 ここでは,狭心症患者における運動療法(Physical training;PT)の効果,適応,実施方法について述べる.

心筋梗塞のconventional treatment

薬物療法

著者: 南野隆三 ,   佐々木達哉 ,   楽木宏美

ページ範囲:P.2366 - P.2367

 急性心筋梗塞の予後を左右する最大の要因は,広範囲梗塞による心不全,心原性ショックと重症不整脈の発生である.しかし,今日のCCUにおいてはprimary arrhythmiaによる死亡はほとんどみられず,急性心筋梗塞の死因の2/3を占める心原性ショックに関しても,その病態生理の解明と治療法の進歩〔強心,利尿剤に加え,血管拡張剤,補助循環,梗塞拡大防止を目的とした梗塞発症早期の冠動脈血栓溶解療法(PTCR)および冠動脈形成術(PTCA)〕により著しい改善がもたらされつつある.
 本稿では,急性心筋梗塞の心不全,不整脈の薬物療法に関し,その適応と限界について述べる.

血行動態モニタリングをどう活用するか

著者: 高野照夫 ,   鈴木健

ページ範囲:P.2369 - P.2371

 急性心筋梗塞の心機能評価法には,理学的所見に基づくKillip分類,心エコー,RI法などの非観血的方法と,Swan-Ganzカテーテル法によるものがある.Swan-Ganzカテーテル法の血行動態モニタリングは著しく普及し,患者の病態や重症度の把握および治療効果判定に役立っている.しかし,このカテーテルの長期間静脈内留置は好ましくない.それゆえ,上記非観血的心機能評価法との対比が重要となる.

高齢者治療の問題点と対策

著者: 樫田光夫 ,   山口徹

ページ範囲:P.2372 - P.2373

 高齢化社会を迎えた今日,高齢者の心筋梗塞を治療する機会が増えた.本稿では,高齢者心筋梗塞の問題点をふまえ,その対策につき,最近の再灌流療法も含めて述べる.

リハビリテーションはどう変わったか

著者: 斎藤宗靖

ページ範囲:P.2374 - P.2375

 急性心筋梗塞症における侵襲的治療法とならんで,最近心臓リハビリテーションが大きなトピックスとなっていることは喜ばしいことである.ますます専門化・高度化する医療の中にあって,心筋梗塞症を治療するのではなく,心筋梗塞症患者を治療するという見方は非常に重要である.
 救急治療,冠動脈内血栓溶解療法(ICT),経皮的冠動脈形成術(PTCA)などの華やかさに比べ,心臓リハビリテーションはいかにも地味である.しかし,心筋梗塞症患者は心筋梗塞の発症によって新たに生じた身体的・精神的な後遺症をもって社会復帰し,生涯生きていかなければならないのである.この意味で,単に病気を治すだけでなく,疾病を有する患者の身体的・精神的なコンサルタントとしてのあり方は,内科医の醍醐味であり,リハビリテーションそのものである.

社会復帰と生活指導

著者: 新田政男 ,   谷口興一

ページ範囲:P.2376 - P.2377

 心筋梗塞患者における日常生活の質的低下を最小限にとどめ,社会復帰に意欲をもつように指導し,社会的経済的損失を防止するべく努力することが大切である.社会復帰の指導は,患者の病状の程度,理解力,職種,役職などによりきめ細かに行う必要があり,たとえば不整脈や心不全を有する患者に軽症例と同じ運動療法を勧めてはならない1).個々の患者の立場をよく理解し,その病状をよく把握し,その病態について具体的かつ簡明に納得のいくように指導し,患者が希望と自信をもって有意義な社会生活が送れるように,懇切丁寧な説明を行うことが肝要である.

interventional treatment

狭心症に対するPTCA

著者: 延吉正清 ,   堀内久徳

ページ範囲:P.2379 - P.2382

 PTCAは,1977年Gruentzigが人間の冠動脈疾患の治療法として発表して以来広く普及し,A-Cバイパスに匹敵する効果を発揮してきている.今回筆者に与えられたテーマが狭心症に対するPTCAであるので,筆者の経験を中心に述べたいと思う.

狭心症に対するCABG

著者: 布施勝生

ページ範囲:P.2384 - P.2387

 1960年代後半に始まった冠動脈バイパス手術(CABG)は,狭心症に対する積極的な治療法としての役割を確立してきたが,他方,本症の原因である冠硬化症からみれば,あくまで姑息的な治療手段であることも明らかとなり,それに伴った問題点も指摘されてきている.また,1979年頃より始まった急性心筋梗塞に対する冠血栓溶解療法(coronary thrombolysis)と経皮的冠動脈形成術(PTCA)の普及は,CABGに大きな影響を与えてきている.そこで本稿では,現段階におけるCABGの適応,評価,問題点などについて述べてみたい.

心筋梗塞に対する血栓溶解療法

著者: 上松瀬勝男 ,   長尾建 ,   佐藤洋一 ,   梶原長雄

ページ範囲:P.2388 - P.2392

 心筋梗塞発症6時間以内に冠動脈造影を実施してみると,その70〜80%の症例では責任冠動脈の完全閉塞をみる.これは原因なのか,結果であるのか長い間論争となっている.剖検所見の結果,心筋梗塞後,時間の経過とともに冠動脈内の血栓の頻度が少なくなってくるとするものは原因だと考え,反対に時間の経過とともに血栓の頻度が増したとしたものは血栓は結果であると考えた.しかし,1980年,DeWoodらの急性心筋梗塞症例における多数例の報告により,すなわち,胸痛出現後4時間以内では81%(168/208例),12〜24時間では65%(37/57例)に完全閉塞がみられたとの冠動脈造影の成績が発表され,生体では梗塞後早期ほど血栓の頻度は高いことが定説となっている.
 しかし,冠動脈造影は心筋梗塞発症後に行っているので,梗塞の原因が血栓であることを証明しているわけではない.1982年,金子らは,心筋細胞の自己崩壊説Kinetic cell deathの概念を形態学的立場から提唱している.彼らは,血栓は梗塞後二次的に形成されたものとしている.

心筋梗塞に対するPTCA

著者: 光藤和明

ページ範囲:P.2394 - P.2398

 急性心筋梗塞の発生機転についてはさまざまな論議があるが,冠動脈の血栓性閉塞がその主役であることには疑問の余地がない.さらに最近では,粥状プラークの亀裂による内膜内出血から,冠動脈内壁在血栓を生じ,冠閉塞に至るとの見方が有力となっている.冠閉塞を放置持続させると,その冠動脈の灌流域は凝固壊死に陥るが,閉塞後早期に再灌流すると,灌流域の心筋の一部をsal-vageすることができる.
 再灌流の方法としては,冠動脈内血栓を溶解する血栓溶解療法(冠動脈内注入法,静注法)という化学的方法と,PTCAという物理的・機械的方法があるが,ここでは心筋梗塞に対するPTCA1)の有用性と限界とについて考えてみたい.

トピックス

心筋虚血とプロスタノイド

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.2400 - P.2401

 心筋虚血は冠血流量の絶対的,相対的減少により発生するが,冠血流減少機構には器質的冠狭窄病変,血栓および機能的冠攣縮(スパスム)がある.冠血栓形成に血小板が重要な役割を果たしていることに疑問はないが,粥状動脈硬化の発生や冠スパスムの発生にも血小板の関与が推定され,血小板と血管壁でのプロスタノイド(prostanoids)産生のバランスの乱れが,血流のホメオスターシスの破綻に一定の役割を果たしていると考えられている.さらに最近,ロイコトリエン(leukotrien;LT)が心筋梗塞巣の拡大に関与するとの報告がされ,これらプロスタノイドやロイコトリエン産生を修飾する薬剤の虚血病態への応用も試みられている.
 プロスタグランジン(prostaglandin;PG)はホルモンと異なり,体内で貯えられることはなく,各種刺激に応じて産生され,局所で活性を示し,短時間で失活する.ヒトにおける主たるPGの前駆体は不飽和脂肪酸のアラキドン酸であり,循環器系に活性の高いものとしてトロンボキサンA2(TXA2)とプロスタサイクリン(PGI2)がある.TAX2は主に血小板で産生分泌され,きわめて強力な血管収縮,血小板活性化作用を有する.一方,PGI2は血管壁で産生分泌され,TXA2に拮抗する強力な血管弛緩,血小板機能抑制作用を有する(図).

reperfusion injury

著者: 片桐敬 ,   望月衛 ,   梅津一彦

ページ範囲:P.2402 - P.2403

 近年,急性心筋梗塞や不安定狭心症の発症早期に冠動脈造影を行い,閉塞部位に選択的にウロキナーゼやtissue plasminogen activator(TPA)を動注して血栓を溶解(intracoronary thrombolysis;ICT)1)し,また経皮的冠動脈形成術(percutaneous transluminalcoronary angioplasty;PTCA)によって狭窄冠動脈の拡張を行う,冠血流再開術が臨床的に現実的になった.再還流により梗塞発症の抑制,梗塞サイズの縮小が可能であり,予後の改善が期待できる.
 一方,梗塞早期の冠血流再開の研究は,以前から動物実験的に有効時間,適応などが研究され,再還流に伴って,いまだに生存している虚血傷害心筋細胞の壊死の促進,梗塞巣内出血など,かえって悪化させてしまうことが報告され,「reperfusion injury;再還流傷害」として定義された2).ICTやPTCAなどに伴い,臨床的にもreperfusion injuryは重要視されている.また,再還流に際して心室頻拍(VT)や心室細動(VF)などの重症不整脈が高頻度にみられ,厳密にはreper-fusion injuryには入らないが,無視できないものである.

t-PA,Pro-UK

著者: 岡田清孝 ,   松尾理

ページ範囲:P.2404 - P.2406

 現在,血栓溶解療法にはUrokinase(UK)あるいはStreptokinase(SK)が使用されている.しかし,有効な結果を得るためには大量投与が必要で,そのため循環血漿中のfibrinogenをも分解させ,出血傾向を生じてしまう.最近の研究の成果により,新しい血栓溶解酵素としてtissue-typeplasminogen activator(t-PA)やPro-urokinase(Pro-UK)1)が実用化されつつある.両酵素はおもに血栓(fibrin)上でplasminogenをplasminに活性化するため,UKやSKよりも高い血栓溶解特性を示す特徴を有する.
 本稿では,t-PAとPro-UKの構造と機能,および臨床治験成績について述べる.

PTCA後の病理組織像

著者: 森本紳一郎 ,   平光伸也 ,   水野康

ページ範囲:P.2407 - P.2410

 近年,経皮的冠状動脈拡大術(PTCA)が考案され1),一部の虚血性心疾患患者にとっては福音がもたらされたといっても過言ではなく,本法施行例は内外において増加の一途をたどっている.本法の利点は大きいが,その反面,合併症など不測の事態を生じることも少なくない.また,本法施行数カ月後に再狭窄をきたす例が約30%にみられる2)など問題点も多い.そこで本稿では,PTCAによる口径の拡大と再狭窄の機序3)を中心に,その病理組織像について簡単に述べる.

座談会

心筋梗塞の治療をめぐって

著者: 上松瀬勝男 ,   光藤和明 ,   本宮武司 ,   山口徹

ページ範囲:P.2411 - P.2424

 山口(司会) 心筋梗塞の治療は,最近interventionが積極的に行われるようになってから非常に大きく変わってきました.本日は「心筋梗塞の治療をめぐって」と題して,とくに第一線の病院で最近どういう治療が行われているかということを中心として,先生方にお話を伺っていきたいと思います.
 とくにPTCRと呼ばれる血栓溶解剤を冠動脈内に注入する方法とか,あるいは最近ではPTCA(経皮的冠動脈形成術)をPTCRにひき続いて,あるいは直接に応用するということで,治療が非常に様変わりしました.こういう新しい治療法が加わってから,心筋梗塞の死亡率が減少したという印象があるのですが,いかがでしょうか.

理解のための10題

ページ範囲:P.2426 - P.2428

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

結合組織病皮膚病変のみかた(その2)

著者: 石川英一 ,   山蔭明生

ページ範囲:P.2430 - P.2431

皮膚粘膜ヒアリノーシス
 顔面に扁平に隆起した黄色丘疹と類円形痘瘡状に陥凹した瘢痕が多発する.特徴として,白色蝋様の丘疹が眼瞼縁に沿って真珠の首飾り状に配列する.その他,肘頭・膝蓋に疣贅様小結節を,掌蹠に角化をみる,口腔粘膜にも多数の蒼白色小結節が認められ,咽喉頭の病変のため嗄声を生ずる.両親が血族結婚であることが多い.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

胃(14)—薬剤性潰瘍,Mallory-Weiss症候群,Zollinger-Ellison症候群

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.2440 - P.2446

薬剤性潰瘍
 西澤 ステロイドを用いると潰瘍ができるということは大分前から言われていますが,その後,いろいろな薬剤性潰瘍が報告されるようになりました.薬剤性潰瘍も前回お話した出血例とよく似た像を示すことがあるように思うのですが,図1の症例はどのような薬が原因だったのでしょうか.
 西俣 この症例の場合,患者はカゼ薬としてピリン系の薬剤を服用し,数日後に腹痛を訴えてきたわけですが,二重造影像や腹臥位圧迫像で潰瘍の存在は明らかです.さらに前庭部は拡がりが悪く,バリウムのぬりつきも悪くて粘膜全体が浮腫状で急性胃炎の場合と同様の所見を呈しています.また十二指腸の下行脚にはケルクリングひだの腫大を思わせる所見も認められ,この部位にも前庭部と同様の変化がみられるのではないかと思われます.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2433 - P.2439

心電図演習

73歳の男性(鉄工所経営)が胸痛を訴え,ショック症状を呈し,来院した.

著者: 梅澤剛 ,   石村孝夫

ページ範囲:P.2447 - P.2451

 既往歴:67歳より高血圧,高脂血症指摘,喫煙歴なし.
 家族歴:特記するものなし.

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

全身倦怠感,黄疸/頭痛,動悸,立ちくらみ

著者: 池田健次

ページ範囲:P.2471 - P.2474

 53歳,女性,主婦.30歳のとき卵管結紮術の手術を受けたことがある.輸血歴なし.喫煙・飲酒ともに行わない.家族歴では,父が61歳の時,肝硬変にて死亡.
 11ヵ月前に心窩部痛,全身倦怠感,黄疸出現し,近医受診.肝機能障害を指摘され,同院に入院.入院時,総ビリルビン 18.4mg/dl,GOT 758,GPT 399といわれた.グリチルリチン製剤,ビタミン剤,ステロイド剤,グルタチオン製剤などの投与を受けたところ,症状は徐々に軽快し,黄疸もほぼ消失した.退院後,再び黄疸の出現,肝機能の増悪あり,当院受診した.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・18

アルドステロン症と褐色細胞腫

著者: 岡田耕治 ,   斉藤寿一

ページ範囲:P.2454 - P.2461

アルドステロン症
 1)概念
 アルドステロン症は,種々の原因でアルドステロンが過剰に分泌される病態である(表1).レニン分泌抑制を伴う原発性アルドステロン症(primary aldosteronism)と,レニン分泌亢進による続発性アルドステロン症(secondaryaldosteronism)とに大別される.原発性アルドステロン症はConn症候群1)ともいわれる.原発性アルドステロン症と全く同様な症状と検査所見を有するが,副腎皮質は過形成を示す特発性アルドステロン症や,グルココルチコイド投与により症状が全く消失するグルココルチコイド反応性アルドステロン症があり2),鑑別診断のとき注意が必要である.

内科診療における心身医学的アプローチ

消化器疾患(4)—食道アカラジア,胆道ジスキネジー,慢性膵炎

著者: 中井吉英

ページ範囲:P.2462 - P.2465

食道アカラジア
 食道アカラジアは,病理組織学的にはアウエルバッハ神経叢神経節細胞の変性ないし消失に基づく自律神経の器質的障害による疾患といわれているが,病因は不明な点が多い疾患である.患者の自覚症状は情動に影響されやすく,精神緊張時に増悪しやすいといわれ1),本症は消化器系心身症の代表的な疾患の一つとされている.

検査

検査データをどう読むか

著者: 櫻林郁之介

ページ範囲:P.2466 - P.2468

 症例:29歳,男性.約2年前より背部痛(両側肩甲骨間)が短時間(10秒)出現し,3ヵ月前より胸骨後部の重圧感を伴うようになった.前日,上記主訴の増強があり,3時間持続したため精査目的で緊急入院となった.

循環器疾患診療メモ

褐色細胞腫のcrisis時の心電図と心エコー

著者: 高尾信廣 ,   山科章

ページ範囲:P.2476 - P.2477

 褐色細胞腫のcrisisは外傷,手術,血管造影などのストレスの際に異常高血圧として見られることが多い.既に褐色細胞腫の診断が確定している場合には,これに対処するのはさほど困難ではない.しかし診断が確定せずcrisisで見つかる場合は大変である.カテコールアミンの定量には少なくとも数日を要するので迅速な診断には適さない.従ってそれ以外の検査や臨床経過から,このcrisisを疑う必要がある.以下,その要点と治療を説明する.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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