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雑誌目次

雑誌文献

medicina24巻13号

1987年12月発行

雑誌目次

今月の主題 免疫不全とAIDS

理解のための10題

ページ範囲:P.2774 - P.2776

先天的免疫不全症

T-cell機能不全症

著者: 西谷皓次 ,   太田善介

ページ範囲:P.2682 - P.2684

 すべての免疫担当細胞は骨髄幹細胞から分化してゆくが,胸腺という器官中の上皮細胞から分泌される胸腺ホルモンの影響下でeducateされ,分化・成熟し末梢に排出した細胞を胸腺由来リンパ球(Thymus-derived cells,T-cells)と呼ぶ.T-cellsは免疫機構の中で,とくに細胞性免疫(Cell-mediated immunity)に関係した移植片拒絶反応,ある種の細菌感染(結核菌,癲菌など),真菌症,ウイルス感染,寄生虫疾患などに対する生体防御反応において重要な役割を果たす細胞である.また,T-cellsはその機能,膜表面型によりhelper/inducer,suppressor/cytotoxicという2つの主なsubsetsに区別される.本稿においては先天的に胸腺を欠損した疾患,あるいは先天的にT-cells機能に異常を生ずる疾患について概説する.

B cell機能不全症

著者: 早川浩

ページ範囲:P.2685 - P.2687

B cell不全症の種類
 B cellを中心とする原発性機能不全症は,B cellの個体発生的な機能の分化・成熟の障害として把握されており,その段階に応じてさまざまな疾患や病態が知られている.周知のように,B cellの分化・成熟にはT cellとその産生するリンホカインの関与が必要であり,これらによる調節機能の障害の結果としてB cellの機能不全をきたしている症例も数多い.また,重症複合免疫不全症などでは,T cell,B cell両系にわたる機能異常が,幹細胞レベルにおける障害によって起こっているものと考えられる.
 ここでは,主としてB cell機能に不全があり,抗体産生系の異常を中心とする原発性免疫不全症候群の主なものについて簡単に述べる.

慢性肉芽腫症

著者: 小林正夫

ページ範囲:P.2688 - P.2690

 食細胞の終極的目的は侵入した異物を貪食・殺菌することで,種々の微生物感染症の防御に重要な役割を果たしている.細菌による重症・反復性感染を主徴とし,その病因が食細胞機能異常によると考えられる多くの先天性・遺伝性疾患が報告されている.本稿では,最も頻度の高い代表的遺伝性食細胞機能異常症である慢性肉芽腫症(Chronic granulomatous disease,CGD)について臨床と病因を中心に概説したい.

周期性好中球減少症

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.2692 - P.2694

 周期性好中球減少症cyclic neutropeniaは周期性をもって末梢血中の好中球が減少する稀な疾患である.
 本症の最初の報告は1910年Lealeによってなされ1),1957年Pageらの総説によって2),本疾患の病像が明らかになった.現在では100を超える症例報告があるが,本稿では筆者らがその病態を検索する機会を得た典型的な1例のデータを中心に3~5),本症の臨床像,検査所見,治療,病因について述べてみたい.

補体欠乏症

著者: 近藤元治

ページ範囲:P.2696 - P.2698

 生体のもつ感染防御機構には,免疫系を中心に,それ以外にも数多くの因子があり,それぞれが直接あるいは間接に相互作用を営みつつ機能している.
 そのため,一つの系統の機能不全は,それだけでも生体防衛に破綻をきたして,易感染性をもたらすが,時には他の系でうまくカバーされて,臨床的な免疫不全状態としては発見されないこともある.

アデノシン・脱アミノ酵素欠損症

著者: 倉辻忠俊

ページ範囲:P.2699 - P.2701

 アデノシン脱アミノ酵素(Adenosine Deamin-ase以下ADA)欠損症はGiblettら1)が,重症複合型免疫不全症(Severe Combined Immuno-deficiency以下SCID)患者2人に認めて報告して以来,免疫能とADAの関係の研究が進み,欧米を中心に多数の報告がある.SCIDの3分の2が常染色体劣性遺伝で,その内の約3分の1すなわち全SCIDの20〜25%がADA欠損によると考えられている.本邦においては5例が報告されているのみである.

原発性免疫不全症と悪性腫瘍

著者: 崎山幸雄

ページ範囲:P.2702 - P.2704

 原発性免疫不全症(primary ID)の悪性腫瘍による死亡率は正常人の年齢相応に比して10〜200倍とされており,中でもリンパ網内系細胞の悪性腫瘍が好発することが知られている.このことは免疫の仕組みにおける欠陥が悪性腫瘍の発症に密接な関連を有する可能性を示唆しており,従来より以下のような考えがなされている.1)持続する,あるいは過剰な抗原刺激が免疫担当細胞自体の発癌遺伝子を活性化する.あるいは免疫担当細胞以外の細胞の増殖に関与する因子を産生する.2)免疫の欠陥が異常な増殖過程を制御できない.すなわち免疫監視機構の欠陥が存在する.3)Ataxia telangiectasiaに代表されるprimary IDでは存在する遺伝的欠陥が免疫不全と悪性腫瘍発症の両者の基因になっている.
 ここではImmunodefiiciency-Cancer Registry(ICR)の最近の報告を中心にprimary IDにおける悪性腫瘍について概説することにしたい.

後天的免疫不全症

白血病における顆粒球減少

著者: 柴田弘俊

ページ範囲:P.2706 - P.2710

 急性白血病においては,その疾患自体の正常骨髄機能の低下による顆粒球産生能の低下,さらに寛解導入療法中では抗白血病剤の多剤併用療法により,顆粒球はさらに減少する.また,白血病においては,顆粒球の減少とともに,種々の要因により免疫不全の状態が増幅され,易感染性はますます増大する(図1).しかし,白血病の治癒をめざした治療を行うにあたっては,この顆粒球の減少は治療計画を立てた時点より予測され,その時期も予測可能であり,かつその時期に発症するであろう感染症を克服しなければ,白血病の治療は成り立たない.本文では,急性白血病の顆粒球減少時の感染症の特徴を明らかにし,その予防法について述べる.

多発性骨髄腫(B-cell不全の例)

著者: 山崎竜弥 ,   古沢新平

ページ範囲:P.2711 - P.2713

 B-cell系に属する形質細胞の悪性腫瘍である多発性骨髄腫において,感染症,ことに細菌感染症を合併し易いことはよく知られており,その対策は本症の予後を左右する重要な問題である.本症における易感染性の機序として,(1)B-cell機能不全,(2)T-cell機能不全,(3)好中球異常(好中球減少,好中球機能異常),(4)単球機能異常,(5)補体活性化機構の低下などが報告されており,きわめて多様である1).しかしこれらの中で,B-cell不全は治療前から本症にほぼ必発であり,本症は後天性B-cell不全の代表的疾患に挙げられている.その他の免疫不全については,症例や報告者によってその存在は必ずしも一定せず,また易感染性との関連性も不明な場合が多いが,B-cell不全を含む複数の免疫不全が併存する例の存在も考慮する必要がある.ここでは,多発性骨髄腫におけるB-cell不全を中心に,その病態,発生機序,臨床的特徴について概説する.

T細胞機能不全症をきたす疾患

著者: 四宮範明

ページ範囲:P.2714 - P.2716

 免疫機構が種々の原因あるいは要因により異常をきたし,免疫系の活性化や,機能に変異を生じた状態が,後天的免疫不全症と考えられる.後天的免疫不全症のうち,T細胞機能不全症は,現象的には主に細胞性免疫の低下として認められる.液性免疫の主である免疫プロブリンの産生も,多くの場合T細胞系の調節を受けているため,T細胞機能不全の状態では異常をきたすこともある.
 後天的免疫不全症を惹起する種々の原因あるいは要因を表1に示した1).これらの原因とともに遺伝的素因の関与が考えられる.

医原性免疫不全症に伴う感染症の治療

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.2717 - P.2719

 近年は医療の進歩により,薬剤および治療法に基づく宿主側の機能障害が重要な問題としてとりあげられてきており,これらは医療に基づく副作用や副現象として医原性(iatrogenic)と総称されている.さらにこの医原性と総称されているのは単に副作用または副現象のみでなく,これが原因となって新しい疾患が誘発されることを指している1).螺良ら2)はこの医原性免疫不全をきたす原因を表1のごとく,(1)免疫担当臓器を切除した場合,(2)放射線治療による免疫抑制,(3)薬剤による免疫抑制,(4)薬剤による免疫抑制および骨髄抑制をあげており,医原性免疫不全は続発性免疫不全の誘因となる基礎疾患ならびに病態の重要な地位を占めている.医原性免疫不全は液性免疫不全,細胞性免疫不全,好中球機能不全などが複雑にからみあい続発性不全をきたし,通常は表2に示すごとく病原体により日和見感染のかたちで発症することが多く,医原性免疫不全では,一度免疫不全としての症状が出現してからでは感染症は致死的であるので,その予防対策と管理が治療にもまして重要である.

AIDS

HIV感染とAIDS発症の疫学

著者: 北村敬

ページ範囲:P.2720 - P.2723

 1981年にAIDSが流行の形で認識されて以後,本症の生態に関して多くの知見が蓄積されてきた.しかし,AIDSの原因としてHIVが発見され,抗体検査法が開発されて無症候のHIV感染者の検出ができるようになるまで,AIDSの原因に関する情報は臨床的に免疫不全を起こした症例に限られ,明確な疫学像は描かれなかった.

Human immunodeficiency virus(HIV)のウイルス学

著者: 原田信志

ページ範囲:P.2724 - P.2726

 1981年,突如として発生したAIDS(後天性免疫不全症候群)は,当時,男性同性愛者の間に広まった奇病の観があった1).しかし今では,このAIDSはウイルス感染症であることが明確となり2),AIDS自体も特殊なグループの枠を超えて広がりつつある.このように,AIDSそのものは,基本的には,血液および性交渉を介して伝播していく伝染性疾患である.しかし,その死亡率の高さ,治療法の無さから,AIDSは米国やヨーロッパのみならず全世界の社会的,医学的最重要課題となっている.
 AIDSを理解するためには,この病気の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルスhumanimmunodeficiency virus(HIV)の知識が必要である.本稿では,HIVのウイルス学的かつ一般的特徴を述べ,AIDSの一端を窺ってみたい.

AIDSの免疫不全の起こり方

著者: 中村玲子

ページ範囲:P.2728 - P.2729

 1981年に最初のAIDS症例が報告されてからわずか4年の間に病原ウイルスが発見され,その塩基配列までが同定されるに至ったが,AIDS発症に至るメカニズムについては,CD4のT細胞(OKT4,Leu3a)にHIVが感染して,これが破壊され減少するために免疫不全の状態になるという事実以外には,詳細は依然謎に包まれている部分が多い.HIVはCD4T細胞に選択的に感染して細胞変性効果を発現する.ヘルパー/インデューサーT細胞の減少は宿主の免疫機能を低下させ,日和見感染を合併し,AIDSに至るわけであるが,その間に長い潜伏期があり,ここに発症の引きがねとなるなんらかのメカニズムの存在が想定される.この機序の解明がAIDS研究の重要な鍵である.

HIVの感染経路

著者: 相澤好治 ,   冨永衛 ,   高田勗

ページ範囲:P.2730 - P.2731

 1981年に,アメリカで初めて報告されたAIDS(後天性免疫不全症候群)は,その後世界各国に広まり,1983年にはレトロウイルスの一種(HIV-humanimmunodeficiency virus)が原因であることが判明した.このウイルスは,体内に入ると細胞性免疫能を低下させ,その結果として日和見感染や,ある種の悪性腫瘍をひき起こしたり,中枢神経系にも影響を及ぼすために,恐れられている.
 HIVは感染力が非常に弱く,普通の日常生活のなかで感染することはほとんどないといわれているが,感染経路として最も重要なものは,表1のごとく「性的接触」,「血液による感染」,それに「母児感染」の3つであろう.

AIDSの病期分類

著者: 南谷幹夫

ページ範囲:P.2732 - P.2734

 AIDSはHIV(human immunodeficiencyvirus)の感染に由来する後天性免疫不全症候群で,helper T細胞の破壊減少,機能障害の結果,日和見感染症,悪性腫瘍,脳脊髄障害を起こしてくる複雑な症候群である.
 AIDSが発見された翌1982年,アメリカのCDCはAIDSのサーベイランスに必要な報告のためにAIDSの定義を定めて細胞性免疫不全,とくにT4リンパ球数減少,機能不全による免疫異常をきたす病態,例えばカリニ肺炎のような日和見感染症やKaposi肉腫を発症しており,その免疫不全が薬剤や放射線療法によるものでなく,またある種の悪性腫瘍や先天性疾患などによるものではないものとした.その後AIDSの原因ウイルスとして,LAV(Montgnier,1983),HTLV-III(Gallo,1984),ARV(Lavy,1984)が発見され,1986年にはHIVが統一名称に採用され,また検査法が開発されるに及び,1986年には定義を改訂して,HIVが証明されたり,抗HIV抗体が陽性である人にみられる日和見感染症およびリンパ系腫瘍を有するものとした.

AIDSの診断方法

著者: 行山康

ページ範囲:P.2735 - P.2737

 後天性免疫不全症(以下AIDS)は繰り返す感染,および悪性腫瘍の合併を主要な徴候として発病後4,5年以内に不幸の転機を辿るきわめて難しい疾患である.
 AIDSの病態の根底にはHIVまたはHTLV-III(LAV)ウイルスの感染がある.このウイルスは細胞性免疫の主役を担うTリンパ球を特異的に障害する.このために起こってくる様々の免疫不全の症状がAIDSの病態を構成する.すなわちHIV感染が原因となって身体の感染抵抗性の低下,および細胞性免疫の低下が現れる病態をAIDSと定義しているのである.

AIDSの自然経過

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.2738 - P.2739

 AIDS症例が初めて報告されたのは1981年である.現在までにおよそ6年が経過しているにすぎず,多くのAIDS症例,無症候性キャリアの経過観察が行われている段階であり,HIV感染の自然経過や発病のメカニズム,発病率など,すべてが解明されているわけではない.したがって,これから述べるHIV感染の自然経過も確定したものではないのが現実である.

AIDSにみられる日和見感染症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2740 - P.2741

 AIDSを発症した段階においてみられる病変は日和見感染症と悪性腫瘍である.大部分のAIDS患者はカリニ肺炎で発症することが多い.ついでその他の感染症,カポジ肉腫があげられる(表1).AIDSの日和見感染症と原因菌は表2にあげてある.
 治療には一般例と比較して長期間を要するのは宿主側の免疫不全の存在するためである.

AIDSにみられる悪性腫瘍

著者: 今井浩三 ,   仲川尚明 ,   谷内昭

ページ範囲:P.2742 - P.2743

 AIDS患者においては,カポジ肉腫(KS),悪性リンパ腫,扁平上皮癌などの悪性腫瘍が好発することが知られている1).最近原因ウイルスであるHIV自身が癌を誘発するプロモーターあるいはエンハンサーを有していると報告される一方,Galloのグループは,種々のリンパ増殖性疾患患者の末梢血B細胞中に,形態学的にヒトヘルペスウイルスに類似した新しいvirusを同定し,これをhuman B lymphotropic virus(HBLV)と名づけた2).AIDSに合併したB細胞リンパ腫以外にも,菌状息肉腫,リンパ芽球性リンパ腫,皮膚型リンパ腺症,angioimmunoblastic lymphadenopathy,Tcell typeのALLでも検出されることから,AIDSに伴うB細胞リンパ腫との因果関係は明らかではないが,注目すべき報告と思われる.ここでは主にAIDS患者に高頻度にみられるカポジ肉腫および悪性リンパ腫について要約する.

AIDSの神経症状

著者: 濱田潤一 ,   厚東篤生

ページ範囲:P.2744 - P.2747

 AIDS患者にしばしば神経症状を認めることはよく知られている.多数例を集積した報告によると,約10%の症例では神経症状をもって初発し,全体では30〜60%に何らかの神経症状を認める1〜3).神経病理学的には,病変の頻度はさらに高く,80〜90%に達すると報告されている1,2,4).AIDSの存在が知られるようになってしばらくの問は,神経障害のほとんどが日和見感染によると考えられていた.しかし,最近になってAIDSの起因ウイルスであるHIV(human immunodeficiency virus)自体が,神経障害の発現に重要な役割を果たしていることが明らかにされている.本稿では,AIDS患者に認められる,これらの多彩な神経障害につき概説する.

AIDSの治療

著者: 中村健

ページ範囲:P.2748 - P.2750

 AIDSの病因がウイルスであることがわかってから,対AIDS戦略は具体的になって来た.ウイルス病の対策として基本的な戦略は,社会的対策を除けばワクチンによる予防と抗ウイルス剤による治療である.AIDSでは免疫系が侵され,日和見感染をみるので,免疫増強剤療法と日和見感染に対する治療が加わる.
 ウイルス病に対する戦略は,抗ウイルス剤の開発がきわめて困難であることから,これまではワクチンの開発による予防が主流であった.天然痘では種痘により,天然痘を地球上から絶滅するのに成功している.麻疹が同様な目標になっている.ポリオはわが国から絶滅させるのに成功している.しかし毎年のワクチンの接種を試みながら,インフルエンザ(Flu)の流行の阻止は必ずしも成功していない.この原因の一つに,流行するFluの抗原が毎年変異を起こして変化することがあげられる.流行する抗原を予測して,ワクチンに使用する抗原を毎年変えてFluワクチンは作成されている.しかし予測が外れることはありうる.AIDSの病因ウイルスであるHIV(humanimmunodeficiency virus)はFluウイルスの抗原変異よりも激しく,感染を受けている生体内ですらかなり抗原変異を起こす.これまでのウイルスのエンベロープの部分を使うワクチン開発の技術とは異なる方法を取らないと,AIDSに有効なワクチンは得られない.

AIDSと血友病

著者: 山田兼雄

ページ範囲:P.2752 - P.2754

 HIV(human immunodeficiency virus)に汚染された血友病製剤を輸注したことにより,血友病患者がHIVに感染してしまったことは,今世紀における最大の医療の悲劇であった.加熱製剤がいち速く普及したので,新たなHIV感染者が血友病患者の中から出ることはなくなった.しかしアメリカでは血友病Aは90%,血友病Bは50%陽性で,日本でも約40%の陽性者がいる.多くのキャリアを抱え,われわれはどのように対策をたてていくかが問題である.

AIDSと医療従事者

著者: 牛島廣治

ページ範囲:P.2756 - P.2759

 AIDSは歴史上これまでに流行したペスト,梅毒,天然痘に匹敵し医学を越えて社会的な重要な問題とされている.世界で初めて認められた4年後の1985年,わが国でも初めてAIDS患者が報告された.欧米諸国ほどではないが確実に増加している.血清肝炎対策とこれらの国,主として米国のAIDS対策が今後のわが国のAIDS対策に有力な参考になると思われる.
 医療従事者とAIDSを考える場合,つぎの2つの項目が考えられる.(1)AIDS感染者に対する医療従事者の対応の仕方,(2)医療従事者のAIDS感染の現状と予防である.前者に関しては,感染経路がいかなる場合でも医療従事者は患者の治療に責任を持たなければならない.他の病気と同様,苦しみ,不安,死の恐怖を持つ患者に尽す心が必要である.ここでは,むしろ後者が主題と考えられる.まず医療従事者のAIDS感染の現状についてのCDC(Centers for Disease Control)のレポートを年を追って述べ,つぎに総括的な報告を,さらにAIDS感染予防に対する留意点について主としてCDCおよび厚生省の通達を参考にして述べてみたい.

AIDSと予防対策

著者: 川名林治

ページ範囲:P.2760 - P.2762

 今世紀最大の難病としてのAIDSが医学的にはもちろん,社会的にも非常な関心を集めており,その病原,臨床,疫学,診断,治療など各方面から精力的な研究が進められていることは周知の通りである1)
 欧米の医学雑誌には毎月AIDSの論文のないものはないほど多数のものが掲載され,この方面に関する研究の進歩がうかがえる.

日本のAIDSの現況と対策

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.2764 - P.2767

 AIDSは1981年,アリメカで初めて発見された疾患である.現在の患者数は,アメリカ(以下USAを示す)40,051人(1987年8月10日,CDC),世界で56,765人(1987年8月12日,WHO)である.AIDSに対しては現在治療法はなく,死亡率も高い.しかも,患者の背後には,多数の無症状のキャリアーがおり,その数は患者数の50倍から100倍とされている.
 日本のAIDSの問題を述べるには,常に欧米諸国,とくにアメリカの状況と対比しながら進めなければならない.日本のAIDSの今日の状態は,すでにこれらのAIDS先進国で経験済みであり,われわれはその経験に学びつつ,対策を行わなければならないのである.

AIDSの症例

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.2768 - P.2772

 東京都立駒込病院感染症科では1985年10月よりAIDS専門外来を設け,診療にあたってきた.1987年5月までに7例のAIDS発症者を経験しているので,これらの症例の概略を述べ,うち2例の臨床経過を記載する.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

免疫不全症候群にみられる皮膚変化

著者: 石川英一 ,   石川治

ページ範囲:P.2778 - P.2779

 生体の防御機構には,T,Bリンパ球による細胞性および液性免疫機構,好中球による貪食機能を含む一連の反応が関係している.従って,これらの機能異常は免疫不全状態を起こす.皮膚に慢性・反復性の感染を認めることが多い.さらに慢性肉芽腫症,Job症候群,Wiskott-Aldrich症候群,IIおよびIII型原発性免疫不全症などでは湿疹病変を,lazy leukocyte syndromeでは歯肉・口内炎を,Chediak-Higashi症候群では色素異常を,ataxia-telangiectasiaでは毛細血管拡張を認め,これらが原疾患発見の端緒となることが少なくないので,注意深く観察する必要がある.本文では原発性(病因不明もしくは先天性)の免疫不全症候群にみられる皮膚所見について述べる.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

十二指腸潰瘍(2)—出血性潰瘍,薬剤性潰瘍,吻合部潰瘍など

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.2788 - P.2794

 西澤 前回に引きつづき,十二指腸潰瘍についてです.十二指腸潰瘍も胃潰瘍と同じように年々手術例は減ってきておりますが,何といっても出血と穿孔は十二指腸潰瘍の一番恐ろしい合併症で,今でも緊急手術の対象となります.また,近年は多数の薬剤が使用されるため,薬剤による潰瘍も増えてきています.また,術後の吻合部潰瘍も難治とされています.それらについてお話を伺いたいと思います.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2781 - P.2787

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

多発関節痛,脱力感/悪心,高血圧

著者: 美田誠二

ページ範囲:P.2795 - P.2798

 51歳の主婦.家族歴,既往歴に特記事項はない.約6ヵ月前から両手指,手,肘関節の不定の運動痛が出現し,また徐々に全身倦怠感や,時に脱力感を認めるようになった.なお約1年前より,口渇感ならびに眼の異物感があり,近くの眼科医より点眼薬の投与を受けている.
 診察所見:身長154cm,体重46kg,体温36.2℃,血圧126/72mmHg,脈拍76/分整.眼球結膜黄疸 なし,眼瞼結膜 軽度充血,口腔 う歯多数,アフタ(-),甲状腺腫 なし,耳下腺腫脹 なし,リンパ節触知せず.胸腹部:特に異常なし.四肢に浮腫なし.関節の圧痛軽度あり,変形は認めず.筋握痛・筋力低下はなし.皮膚に著変なし.Raynaud現象なし.神経学的異常所見なし.

講座 内科診療における心身医学的アプローチ

代謝・栄養障害をもつ患者(2)—糖尿病,肥満

著者: 山内祐一

ページ範囲:P.2802 - P.2808

 糖尿病や肥満は人の食行動とかかわりの深い病態である.しかもさまざまな代謝,内分泌系の変動を招くので,身体医学的にも興味がつきない領域である.しかし,健康科学の立場からは,もっと重要な問題を内蔵する疾患群といえる.何故なら,糖尿病にせよ肥満にせよ,それ自体が直接死に関与することはほとんどなく,問題はこれらが招く合併症だからである.たとえば動脈硬化,高血圧,心・腎・肝疾患,脳血管障害など,いわゆる成人病と直結してくる.したがって,予防医学的な視点でも捉えるべき病態である.同時に,食の病理を考えるうえで不可欠な人の心理,行動,健康教育なども介入せざるを得ない.そして,これらを体系化して実践科学として結実させていく必要がある.それ故に,最近の医療学に幅広く取り入れられつつある行動科学の知識とその応用が大切になってくる1).筆者はこうした立場から日常臨床にたずさわっているつもりであるが,ここでは,糖尿病と肥満の自験例をとりあげながら心身医学的アプローチの成果を紹介してみたいと思う.

検査

検査データをどう読むか

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.2810 - P.2813

 症例:6か月,男児.
 主訴:発熱,痙攣,嘔吐.

CPC

心房中隔欠損症手術(6歳)後普通生活をしていたが妊娠出産後労作時息切れ,浮腫が増強し,少量の喀血を繰り返して死亡された20歳女性

著者: 小塚裕 ,   宇田川秀雄 ,   斉藤陽久 ,   清水可方 ,   栗山喬之 ,   依光一之 ,   前田敏郎 ,   大西基喜 ,   七条裕治 ,   落合賢一 ,   奥田邦雄 ,   吉田尚 ,   内山睦 ,   森尾比呂志 ,   伊良部徳次 ,   大島仁士 ,   近藤洋一郎 ,   三方淳男 ,   大江健二 ,   斎木茂樹 ,   神田順二 ,   吉原明江 ,   鈴木勝

ページ範囲:P.2814 - P.2838

症例
 患者:20歳,女性,事務員.
 初診:1986年2月18日

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「medicina」第24巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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