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雑誌目次

雑誌文献

medicina24巻3号

1987年03月発行

雑誌目次

今月の主題 甲状腺疾患—up-to-date

理解のための10題

ページ範囲:P.482 - P.484

甲状腺疾患へのアプローチ

甲状腺機能異常を疑うヒント

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.368 - P.371

 甲状腺そのものに由来する病気には表に示したごとく,色々な疾患がある.しかし,他臓器の疾患に比べ,最も特徴的なことは,①目にし,手に触れるところに異常があるため,そのほとんどの病気が外来初診時に気づかれ,そして,②気づかれさえすれば,現在の進歩した手段を用い,正確に診断することが可能であり,さらに,③熟練した手段,豊富な知識によって寛解させることが可能なことである.いいかえれば患者とともに喜び,医師としてやり甲斐を感ずることのできる分野が甲状腺疾患の診断であり,治療でもある.

甲状腺に腫瘤が触れるとき

著者: 藤本𠮷秀

ページ範囲:P.372 - P.375

甲状腺腫瘤の多くは医師が触診でみつける
 1)甲状腺腫
 甲状腺に大きい腫瘤ができると外から見えるところであるので,自分で気づいたり家族や友人が気づいて,それを主訴として医師を訪れる.そうした患者が主訴とする甲状腺腫瘤は,だいたい直径が3〜4cmはある.胸腔内あるいは腹腔内に生じる腫瘤に比べると,まだしも甲状腺の腫瘤は見つかり易いほうであるが,できることなら,とくに甲状腺癌はもう少し小さいうちに見つけ出して処置したいものである.
 甲状腺腫瘤の大部分のものがほとんど症状を出さない.医師が外来を訪れる患者について,ルーチン検査の1つとして甲状腺の触診を行うと,甲状腺に腫瘤を有する患者がかなり多くみつかる.筆者らのところに紹介されてくる患者の多くは,このようにして医師によって発見されたものである.

甲状腺機能検査

検査のすすめ方

著者: 女屋敏正

ページ範囲:P.376 - P.378

 甲状腺機能検査のすすめ方について述べるのが本稿の目的であるが,それまでの手順がかなり重要なのである.すなわち,ほとんどの甲状腺疾患患者は甲状腺腫を有しており,その視診と触診により診断可能な場合が多いからである.もちろん触診の技術に加えて的確に患者の訴えと臨床症状をとらえて,甲状腺機能検査や画像診断を選ぶことになる.

甲状腺機能異常診断のための負荷試験

著者: 小林功

ページ範囲:P.380 - P.384

 近年各種血中甲状腺パラメーター(T4,T3,TSH,Free-T4,Free-T3,TBG,サイログロブリン,TSHレセプター抗体など)の測定が一般化し,かつ保険適用項目となり,甲状腺疾患に関する情報量は,著しく豊富になったといえよう.さらにTSHの高感度測定法が開発されるに及び,微量な生体の内部環境の変化を把握することが可能となってきている.
 一方生体の病態を,ある時期の1回の採血を行い測定した血中パラメーターから把握するには限界があるため,甲状腺学の分野でも従来から負荷試験法があり,甲状腺機能異常の早期発見や病態のより正確な分析に用いられてきた.この中ではTRH試験,TSH試験,T3抑制試験を挙げることができる.

新しい甲状腺機能検査:高感度TSH assayと遊離型甲状腺ホルモン

著者: 満間照典

ページ範囲:P.386 - P.388

 近年甲状腺機能検査法の進歩は著しく,thyrotropin(TSH)の測定法としての高感度radioimmunoassay(RIA)法や遊離型thyroxine(fT4),3,3,5-triiodothyronine(FT3)測定のRIA法が開発された.これらの方法を用いて血中FT4,FT3を簡便,迅速に測定できるようになり,広く日常臨床にこれらの方法1〜5)が使用されている.ここでは高感度TSH RIA法およびFT4,FT3法で測定した血中TSH,FT4,FT3値の臨床的意義について記す.

甲状腺ホルモン・データの読み方とその落とし穴

著者: 森徹

ページ範囲:P.390 - P.392

 甲状腺ホルモンに関するin vitro検査としては,T3摂取率(T3U),T4,T3,fT4,fT3,リバースT3(rT3),サイログロブリン(Tg),TBGおよびTSHがあり,近くTSH受容体抗体(TBII)が加わる.一人の患者にこれら全部の検査をすれば問題は少なくなるが,保険適用,患者負担の軽減,無駄などを考えると,より少ない検査で必要な情報が得られることが望ましい.
 本項では,各検査法の長所,欠点を概説し,データを読む上での落とし穴的なポイントを示すとともに,セットの組み方について筆者の考えを述べ参考としたい.

甲状腺疾患の画像診断

画像診断のすすめ方

著者: 小西淳二

ページ範囲:P.394 - P.396

 甲状腺疾患の画像診断には放射性ヨードを用いるシンチグラフィーが最も早くから行われているほか,種々の核医学検査が利用されている.これに加え近年,超音波装置の急速な進歩により超音波断層撮影が広く利用されるようになってきた.深部の情報を得るためにはX線コンピュータ断層撮影(CT)も用いられるが,最近導入されつつある核磁気共鳴映像法(magnetic resonance imag-ing:MRI)では,空間分解能,濃度分解能のいずれにおいてもX線CTより優れた画像が得られるようになっており,今後急速に臨床応用されるものと期待される.
 本稿ではこのような種々の画像診断法をどのように組み合わせて,効率よく甲状腺疾患の診断を進めていくか,その手順について筆者らの経験を中心に述べることにしたい.

甲状腺の超音波断層診断

著者: 貴田岡正史

ページ範囲:P.398 - P.402

 超音波断層検査は腹部臓器を中心にその普及は著しく,その有用性については論を待たない.甲状腺に関しても,超音波断層像は7.5MHzを中心とした,高分解能の装置を用いるようになってからその解像力は格段に向上し,甲状腺の各種の画像診断の中でその簡便さと無侵襲性,無被曝性の故に,第一選択とされることが多くなった.
 甲状腺疾患において,超音波検査の対象となるのは,甲状腺にび漫性腫大をきたすもの,限局性に腫瘤の触れるものなど,ほとんどの甲状腺疾患がその適応となる.甲状腺の超音波診断の目的は,大きく分けて3つが挙げられる.第1は結節性病変の存在診断であり,第2はその結節性病変の質的診断,第3はび漫性甲状腺腫の大きさの客観的評価とその形状の把握である.

甲状腺X線検査

著者: 小原孝男

ページ範囲:P.404 - P.408

 甲状腺X線検査を行うにあたっては,まず,その適応を考える必要がある.び漫性甲状腺腫を触れて臨床症状からバセドウ病や橋本病などが考えられる症例や,典型的な亜急性甲状腺炎とわかる症例には必ずしもX線検査を行う必要はない.一番の適応は,甲状腺の結節性病変を有する患者である.
 甲状腺X線検査の目的は,第1にその甲状腺結節が良性か悪性か,良性結節とわかるものでは経過観察でよいか手術適応に入れるべきか,悪性とすればどの病理組織型に相当するものであるか,などを判断することである.

radionuclide検査

著者: 笠木寛治 ,   小西淳二

ページ範囲:P.410 - P.414

 甲状腺は血中の無機ヨードを選択的に取り込み,これを有機化して甲状腺ホルモンを合成し,分泌している.したがって放射性ヨードを用いることにより,甲状腺内におけるヨード代謝の状態を観察することができる他,甲状腺内に集積した放射能を検出することにより,甲状腺の像を得ることが可能である.前者は主として甲状腺ヨード摂取率として甲状腺機能異常の診断に応用され,後者は甲状腺シンチグラフィーとして甲状腺の形,大きさ,位置異常,甲状腺内のヨードの分布状態に関する情報を提供し,甲状腺疾患の画像診断に応用されている.
 このような放射性ヨードとしてわが国では1952年より131Iが用いられてきたが,最近では被曝線量のより低い123Iまたは99mTcO4-99mTc-過テクネチウム酸塩)の使用が推奨されている.

biopsy

著者: 宮内昭

ページ範囲:P.416 - P.418

 甲状腺の疾患には,バセドウ病,プランマー病,粘液水腫などの主として機能異常によって分類される疾患と,癌,腺腫,慢性リンパ球性甲状腺炎などの主として形態学的に分類される疾患とがある.いうまでもなく,通常の生検は,採取した組織や細胞によって形態学的な診断を下すものであるので,後者の,とくに腫瘍の診断には非常に有用であるが,前者の疾患に対する診断的価値は限られている.

甲状腺炎

急性化膿性甲状腺炎

著者: 小原孝男 ,   児玉孝也

ページ範囲:P.420 - P.422

 急性化膿性甲状腺炎は,文字通り化膿菌によって起こる甲状腺の急性炎症である.本症はBauchet(1857年)による5例の報告をもって嚆矢とする古くから知られた疾患である.従来,本症は,きわめて稀な疾患と考えられ,甲状腺の専門書にさえ十分な記載のないことが多かった.しかし最近になって,本症の感染経路の1つとして先天性の頸部機構異常の関与が確認され,この疾患が改めて注目されるようになった.そのつもりになってみるとこれは,それほど稀な疾患ではなく,甲状腺疾患の1つとして病態を是非知っておく必要がある.

亜急性甲状腺炎

著者: 山本邦宏

ページ範囲:P.424 - P.425

 甲状腺に強い炎症性変化をきたす疾患であるが,その原因は明らかではなく,ウイルス感染によると考えられている.およそ1〜3カ月の経過で自然治癒する.

無痛性甲状腺炎

著者: 浜田昇

ページ範囲:P.426 - P.427

 無痛性甲状腺は,もともと亜急性甲状腺炎と同様の臨床経過をたどるが,亜急性甲状腺炎とは異なり,甲状腺に疼痛のない症例に名づけられたものである.一般に,び漫性甲状腺腫,甲状腺機能亢進症状を有し,バセドウ病と考えられる症例で,131I甲状腺摂取率が非常に低値であることにより発見される.数週から数カ月の経過で自然によくなる病気で,不明の原因により甲状腺に急性の炎症を生じ,そのため甲状腺濾胞が崩壊し大量の貯蔵されていたホルモンが血中に放出され,一時的に甲状腺中毒症状を生ずるものである(図).この病態を表現するのに無痛性甲状腺炎のほかに,Silent thyroiditis,Lymphocytic thyroiditis with spontaneous resolving hyperthyroidismなど多くの呼び名があり,産後にみられる一過性の甲状腺中毒症もこの範疇に入るものと考えられている.

慢性甲状腺炎

著者: 阿部好文 ,   矢島義忠

ページ範囲:P.428 - P.430

 慢性甲状腺炎(橋本病)は人口の1〜2%の頻度にみられ,早くから臓器特異的自己免疫疾患として確立しているにもかかわらず,その成因や経過に関しては未解決な点が多い.しかし最近いくつかの重要な事柄が報告されたので,それらについて解説しながら,橋本病の成因と経過について述べてみたい.

甲状腺機能低下症

診断から治療への実際

著者: 石井淳 ,   池田斉

ページ範囲:P.432 - P.434

 甲状腺機能低下症は,成人女子では全体の約1.4%に,男子では約0.1%に見られる比較的頻度の高い疾患である1).原因別に分類すると,甲状腺疾患によるもの(原発性),下垂体からのTSH分泌低下によるもの(二次性),および,視床下部からのTRH分泌低下によるもの(三次性)の3つに分けられるが(表11))参照),いずれの場合も,甲状腺ホルモンの分泌低下によって甲状腺ホルモン欠乏症状を呈する.本稿では,本症の95%を占める原発性甲状腺機能低下症を中心に,本症の診断,治療上,実際役立つと思われる事項について述べる.

甲状腺中毒症

甲状腺クリーゼ

著者: 小出義信

ページ範囲:P.436 - P.437

 甲状腺クリーゼは,内分泌領域で最も重篤な救急疾患である.本症の病因,病態生理は未だ不明だが,甲状腺ホルモン過剰により生じた代謝異常に対する各臓器の適応が,なんらかの誘因を引金に,一勢に破綻した状態と理解できる.本症の頻度は抗甲状腺剤の導入以後減少したが,致命率は依然として高い.言うまでもなく,治療の成否は,早期診断と病態生理に即した迅速な治療にかかっている.本稿では,その要点を簡単に述べてみたい.

対症療法

著者: 内村英正 ,   久保田憲

ページ範囲:P.438 - P.439

 甲状腺機能亢進症患者に認められる種々の症状は,治療を開始し,その効果が出てくるとほとんど消失するものである.しかし,バセドウ病患者にみられる眼球突出や比較的大きな甲状腺腫などは患者がeuthy-roidとなり,その状態が続いても持続して存在することが多く,甲状腺機能亢進症患者における対症療法は病初期に患者の自覚的,他覚的症状が強い場合に通常の治療法による治療効果が出てくるまでの比較的短期間における処置といえる.
 表1にバセドウ病患者に認められる自覚的,他覚的症状の頻度を示したが,甲状腺機能亢進状態(甲状腺中毒症)でみられるものとほぼ一致する.他覚的所見では甲状腺の血管音や眼球突出などはバセドウ病に特有のものといえる.また,亜急性甲状腺炎では頸部の疼痛を訴えることが多い.

バセドウ病の治療指針

著者: 玉井一

ページ範囲:P.440 - P.441

 バセドウ病の治療法は主として甲状腺ホルモンの合成,分泌,その作用を抑制するものであり,それらには,1)抗甲状腺剤療法,2)放射性ヨード療法の内科的療法と手術による,3)外科的療法があるが,どの治療法を選ぶかはそれぞれ一長一短があり,各治療法の適応と禁忌,患者の症状,それに社会的,経済的,地理的条件により決定されているのが現状である.そこで著者に与えられた論題はバセドウ病の治療指針についてであるが,本稿ではバセドウ病の薬物療法を中心に述べたい.

バセドウ病の治療指針

著者: 伊藤圀彦

ページ範囲:P.442 - P.443

 バセドウ病に対する治療法には抗甲状腺剤治療,アイソトープ治療,外科的治療の3つがあるが,いずれも本症でみられる甲状腺機能亢進症に対する治療法である.しかし近年甲状腺刺激IgGの一つであるTBII(TRAb)が臨床の場に提供されるようになってからは,本症の治療効果も病因論的に論じられるようになった.

バセドウ病の随伴症状

著者: 高松順太

ページ範囲:P.444 - P.445

 たとえば,心房細動のため循環器外来にて治療を受けてきた高齢患者で,たまたま血中甲状腺ホルモンを測定された結果,甲状腺機能亢進症であることが発見される,というできごとは決して珍しいものではない.この状態は,いわゆるmasked hyperthyroidismとして表現されてきた.しかしながら,あらためてていねいに診察するとバセドウ病の徴候が他にもいくつか認められることが多い.このことは,患者は決してマスクをして医師の前に坐っているのではないことを示している.むしろ,医師が自分自身の眼にマスクをかけて診察している結果であるともいえよう.Masked hyperthyroidismという病名が近い将来に消滅することを期待しつつ,以下にバセドウ病の随伴症状について述べてゆきたい.

甲状腺疾患と免疫

甲状腺疾患と免疫—Overview

著者: 永山雄二 ,   長瀧重信

ページ範囲:P.446 - P.450

 代表的な甲状腺疾患であるバセドウ病と慢性甲状腺炎(橋本病)は,臨床的には大きな差異があるものの,いずれも自己免疫疾患と考えられており,遺伝的・病態的には多くの共通点が認められる.しかし多くの研究者の活発な研究にもかかわらず,その発症機序については不明なことが少なくない.本稿ではまず両疾患に共通していると思われる免疫異常について述べ,次にバセドウ病と橋本病および特殊な病態として出産後甲状腺機能異常について最近の知見を中心に述べる.

TSH受容体抗体と臨床

著者: 市川陽一

ページ範囲:P.452 - P.455

 甲状腺のTSH受容体に対する自己抗体がバセドウ病,および一部の特発性甲状腺機能低下症(粘液水腫)の病因となっていることは,ほぼ確立したといってよい1).以下,本抗体の生物学的活性,測定法の原理および臨床的意義についてまとめてみたい.

トピックス

euthyroid sick syndrome

著者: 葛谷信明

ページ範囲:P.456 - P.457

 euthyroid sick syndromeというあまり聞き慣れない症候群だと感じる読者の方があるかもしれない.本症候群はlow T3 syndromeとも呼ばれ,種々の全身性疾患やカロリー制限,手術後またはある種の薬剤投与を受けている患者に見られ,血中T3濃度の低下を特徴的にきたす病態を指している1).本症候群の血中甲状腺ホルモン濃度の変動は,甲状腺のprimaryな異常によるホルモン分泌異常によるものではなく,末梢臓器における甲状腺ホルモンの代謝が変動することが主な原因である.このような甲状腺ホルモンの代謝の変化は病的状態に対してエネルギー消費を防ぎ,異化を抑えるための適応現象であろうと解釈されている.そして,血中濃度の低下にもかかわらず.末梢組織における甲状腺ホルモン作用は正常に保たれていると考えられているので,euthyroid sick syndromeと名づけられている.本症候群の末梢組織がeuthyroidかどうかについては現在もhotな議論のあるところであるが,本稿ではeuthyroid sick syndromeの病態生理,鑑別診断,治療を中心に解説したい.

妊娠と甲状腺疾患

著者: 百溪尚子

ページ範囲:P.458 - P.459

 妊娠が関わってきた場合に特別な配慮が必要となる可能性のある甲状腺疾患は,自己免疫性甲状腺疾患すなわちBasedow病,慢性甲状腺炎(橋本病),特発性粘液水腫(萎縮性甲状腺炎)である.念頭に置くべき問題としては,甲状腺機能異常による妊娠経過あるいは胎児への影響の他に,機能異常を起こしている甲状腺刺激抗体あるいは抑制抗体の,児甲状腺機能への直接作用である.また妊娠,出産は免疫能の変化を伴うことから,妊娠中や産後にこれらの疾患の経過が一時的な修飾を受けることも少なくない.
 本稿では,妊娠中の甲状腺機能の判定,妊娠中のBasedow病および慢性甲状腺炎の診断法と,治療にあたっての留意点と治療法,児に甲状腺機能低下症のみられる場合のある特発性粘液水腫について述べる.

新生児の甲状腺疾患

著者: 中島博徳

ページ範囲:P.460 - P.463

胎児期および新生児期の甲状腺機能
 ヒト胎児甲状腺は胎生70日ですでに甲状腺ホルモン合成可能であり,下垂体甲状腺系の機能は胎生中期に確立される.新生児血中TSHは出生直後急激に上昇するが,24時間まで急激に,それ以後は徐々に下降し,T4,T3はTRHに反応して24時間でピークを示し,その後徐々に下降する.いずれも生後5日目ごろまでにはおおむね成人正常値を示すようになる.後述のスクリーニングのための新生児採血の生後5〜7日ではすでに十分安定した状態である.

視床下部・下垂体疾患による甲状腺機能異常

著者: 斎藤史郎

ページ範囲:P.464 - P.465

 甲状腺の機能は甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されているが,TSHの分泌は,①視床下部の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によって促進的に,②同じくソマトスタチンとドーパミンによって抑制的に,さらに,③血中甲状腺ホルモンのフィードバック機構によって調節されている.したがって,種々の原因により視床下部下垂体系が障害されると,TSH分泌は亢進または低下し,二次性に甲状腺機能異常を引き起こす.

甲状腺ホルモン不応症

著者: 中村浩淑

ページ範囲:P.466 - P.468

 甲状腺ホルモン不応症とは,体内に十分量存在している甲状腺ホルモンに対し,標的組織がこれに十分反応できない疾患である.同じようなホルモン不応症は,アンドロゲン(睾丸性女性化症),副甲状腺ホルモン(偽性副甲状腺機能低下症),ADH(腎性尿崩症),インスリン(レセプター異常に基づくインスリン抵抗性糖尿病),グルココルチコイド,ACTH,成長ホルモンなど多くのホルモンにおいて知られており,一般にレセプター病として理解されている.

鼎談

甲状腺疾患の臨床

著者: 網野信行 ,   伊藤國彦 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.470 - P.481

尾形(司会) 今日はお忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございます.甲状腺の病気はそれぞれ重なりはあると思うのですが,大きく3つにくくれるかと思います.1つは,甲状腺からは甲状腺ホルモンという生命の維持に大切なホルモンが分泌されており,分泌が多すぎても,少なすぎても異常が起きます.こういう意味での甲状腺の機能の異常というのが1つの塊かと思います.2つ目は,甲状腺はいろいろな病理変化の場であり,いわゆる炎症としてくくられるものがあるかと思います.3番目は,病理変化としてとくに大事な腫瘍,とくに悪性腫瘍が問題になるかと思います.今日はその3つのジャンルについて先生方のご意見をお伺いしたいと思います.
 甲状腺の病気として,その3つのうちのどれかがきっかけになって私どものところに来るのだろうと思うのですが,まず最初にその機能の異常で,一般の先生方のところに直接来ることは,あるいは少なかろうと思いますが,臨床医としてこの患者は甲状腺の機能に異常があるか,亢進があるか,あるいは低下なのか,そういうことを思いつくきっかけとして,アドバイスいただけることがありましたらお話しいただきたいと思います.

Current topics

プロスタノイド—研究と臨床の現況

著者: 平田文雄

ページ範囲:P.510 - P.524

 1935年,フォン・オイラーが前立腺由来として命名したプロスタグランジン(PG)は,爾来50年の研究の進展により数々の生理活性に特徴のある同族体が発見され,いまや第2のステロイドとも考えられ,これら一連の物質群はプロスタノイドあるいはエイコサノイドとも総称されるまでになっている.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

全身性強皮症重症型にみられる皮膚変化

著者: 石川英一 ,   田村多絵子

ページ範囲:P.486 - P.487

 全身性強皮症は皮膚硬化を特徴とする難治性結合組織病である,かかる疾患においては,とくに重症型を早期に正しく判断し,将来におこる変化に対処することが必要なことは今更言うまでもない.従来は皮膚硬化の範囲によって病型分類を行い,重症度を判断してきた.そして皮膚硬化が四肢のみならず躯幹にもみられるものが重症型(diffuse scleroderma)と考えられてきた.しかし発病間もない初期例では硬化を含む皮膚病変の範囲を正確に判断することは容易ではない.従って出来れば皮膚硬化以外の分り易い皮膚症状で重症型を判断することが出来ればというのが,本文執筆の目的である.厚生省強皮症調査研究班の調査研究および筆者の経験で,重症型と考えられる強皮症にはdiffuse scleroderma以外に,モルフェア様皮疹をみる強皮症,および皮膚筋炎/多発性筋炎を合併する強皮症が該当することが明らかとなってきた.

リンパ節疾患の臨床病理

壊死性リンパ節炎

著者: 茅野秀一 ,   片山勲

ページ範囲:P.496 - P.497

 壊死性リンパ節炎(necrotizing lymphade-nitis)は日本で最初に報告された疾患で,後述するようにその特異な臨床像,病理像が注目を集めてきたが,病因は未だ不明である.日頃,われわれ病理医がみるリンパ節生検例のなかでも遭遇する機会の比較的多い疾患である.本疾患の同義語としては亜急性壊死性リンパ節炎,壊死性組織球性リンパ節炎,貪食性壊死性リンパ節炎,黄色肉芽腫性リンパ節炎などの名称があり,それぞれに病理形態をうまく表現した診断名であるが,本稿では最も一般的に用いられている壊死性リンパ節炎という名称を用いることにする.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

胃(8)—潰瘍の良性サイクル,悪性サイクル

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.498 - P.508

 西澤 前回は,検査をしてニッシェがあった場合に,良性か,悪性かというお話を伺いましたが,今日は,そのニッシェが第1回目に検査した時点でどうかということだけではなく,経過観察することによって良性,悪性の鑑別がどういうふうになるかということ,あるいは良性サイクル,悪性サイクルとはX線上どういう所見を呈するものなのかについてお伺いしたいと思います.
 第1例(図1)は経過をみている症例ですが,どうでしょうか.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.489 - P.495

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

胸部圧迫感

著者: 後藤葉一

ページ範囲:P.525 - P.526

 61歳の会社役員.既往歴に特記すべきものなし.
 約6ヵ月前から,胸やけ様の胸部圧迫感が時々起こり,最近では3日に1回くらい起こるので来院した.症状は夕方から夜間の安静時または睡眠中に出現し,持続は1〜5分間で,冷汗,動悸,呼吸困難は伴わず,食事との関係も明らかではないが,疲労時や飲酒後に多いという.労作時に同症状が出現したことはなく,また駅の階段や坂道を昇って動悸,息切れ,胸痛を自覚したこともない.タバコ15本/日,ビール中びん1本/日.家族歴に特記すべきものなし.

講座 内科診療における心身医学的アプローチ

神経・筋疾患—筋収縮性頭痛患者,片頭痛患者,自律神経失調症

著者: 渡辺克己

ページ範囲:P.528 - P.531

 内科診療において,日常よく遭遇する神経・筋肉系の症状としては頭痛やめまい,しびれ,運動障害などがある.ここでは,その中で頭痛といわゆる自律神経失調症について,心身医学的なアプローチの仕方を,症例をとおして紹介してみたいと思う.

救急 図解・救命救急治療

重症患者の集中治療におけるモニタリング

著者: 西山博明 ,   黒川顕

ページ範囲:P.532 - P.535

 重症患者の集中治療におけるモニタリングの重要性は,患者の病態・重症度を把握し,診断ならびに治療を行っていく上で,診断根拠,治療効果を示すパラメーターを得ることにある.たしかに,患者から得られる情報は多ければ多いほどよいが,情報にふりまわされることなく,系統立った状況把握が必要である.
 それには,まず第1に,モニタリングを連続的あるいは経時的に行い,その変動に注目しなければならない.

CPC

後腹膜腫瘍の術後2年より,腹痛,血圧の著明な変動が出現し,腹部膨隆とacidosisを来して死亡した66歳,女性

著者: 安達元郎 ,   吉田象二 ,   中田瑛浩 ,   神田順二 ,   鈴木良一 ,   奥田邦雄 ,   丹波嘉一郎 ,   鈴木孝徳 ,   山田健一 ,   平澤博之 ,   登政和 ,   近藤洋一郎 ,   浅田学 ,   松嵜理 ,   依光一之 ,   伊良部徳次

ページ範囲:P.544 - P.556

症例
 患者66歳,女性
 初診 昭和57年1月28日

症例から学ぶ抗生物質の使い方

感染性心内膜炎

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.536 - P.538

症例 25歳,女性が2〜3週持続する発熱で入院した.発熱は37〜38℃の持続した熱で,悪寒戦慄は伴っていない.最近,呼吸器系症状,尿路系症状はみられず,手術,歯科的治療もうけていない.既往歴としては甲状腺機能亢進症が数年前にあり,内科的治療でよくコントロールされている.
 入院時所見として陽性であったものは,歯科的処置をされていない多数の齲歯,僧帽弁逆流音,オスラー結節,血尿,発熱(38.3℃)であった.血液培養を3セット(6本)行い,心エコーでは僧帽弁にvegetation(疣贅)を確認した.

循環器疾患診療メモ

Torsades de pointes

著者: 山科章 ,   高尾信廣

ページ範囲:P.540 - P.542

 1966年,Dessertenneは心電図上,心室波形の極性が漸次変化してゆき,あたかも結び目を作りながら捻れてゆくように見える頻拍性心室性不整脈の特殊型をTorsades de pointes(以下TDP)と命名し報告した.最近注目を集めるようになってきてはいるが,本不整脈はいまだ疾患概念として確立されておらずその適切な定義もないため,心室細動あるいは心室性頻拍症と誤って診断され,適切な治療がなされていない場合が稀ではない.異型心室性頻拍症とも呼ばれ心電図所見にて特殊な形態を示す本不整脈について解説する.

一冊の本

「ヨブ記」—浅野 順一,岩波新書,1968年

著者: 吉倉広

ページ範囲:P.539 - P.539

 神の人が主の命によって,ペテルの町に現われたが,「そこでパンを食べ水を飲み,又来た道から帰ってはならない」と命ぜられていた.ところが,そこに住む年老いた預言者が神の人と共にパンを食べようと考え,立ち去った神の人を追いかけ神の人をさそう.勿論断わられる.老預言者はそこで次のように言う.「わたしもあなたと同じ預言者であるが,天の使が主の命によってわたしに告げ,『その人を一緒につれ帰り,パンを食べさせ,水を飲ませよ』と言った」と.その人は彼と共に引き返し,その家でパンを食べ水を飲み立ち去る.神の人は,道でししに会い裂き殺される.
 我々は小学校から大学を出る迄ずっと教育を受けて来た.知識の伝達はその中で大きな役割を果たす.大学でも講義を聞きノートをとる.試験を受け合格する.或いは追試験を受ける.知識とはそれを与える側にとって見れば,その人の血であり肉であるものを学生に伝えるということである.血であり肉である伝達さるべきものは,その人の原体験に基づくものでなくてはならぬ.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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