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雑誌目次

雑誌文献

medicina25巻10号

1988年09月発行

雑誌目次

増刊号 診断基準とその使い方 巻頭言

診断基準とはどういうものか

著者: 吉利和

ページ範囲:P.1672 - P.1673

■難病とのかかわりあい
 「診断基準」という言葉は,そんなに古くから用いられたものではない.いろいろの単行本や,雑誌の特集号などで取り上げられるようになったのは,わが国で「難病」が取り上げられ,「一体難病とは何か」,「難病奇病」と呼ばれたことからも分かるように,奇妙な病気とか,今までの概念ではどういう病気かを中々表現しにくかったことに由来するといってよかろう.
 今日,「難病」として取り上げられるきっかけを作ったのは,いわゆるスモンが問題になってからである.したがって,難病を取り上げるきっかけはスモンから,といってよかろう.

I.循環器

1.狭心症

著者: 内藤政人

ページ範囲:P.1676 - P.1677

■狭心症の診断基準
 New York Heart Associationの「心臓血管疾患の分類命名法および診断基準」に,生理学的診断項目の1つとして記載されている狭心症候群の内容を表1に示す.これを基にして病歴のみから狭心症であるか否かの診断を行った後,その起こり方,時間的経過を考慮に入れて,労作,安静,不安定狭心症のいずれのタイプに相当するかを考える.この場合,国際心臓学会/WHO専門委員会による虚血性心疾患の分類(表2),アメリカ心臓学会の不安定狭心症の分類(表3)を参考にする.

2.心筋梗塞(いわゆるNon-Q Myocardial Infarctionを含めて)

著者: 高野照夫 ,   木内要

ページ範囲:P.1678 - P.1679

 急性心筋梗塞の治療はCCUと冠動脈内血栓溶解療法の普及により著しく進歩した.とくに後者は本症の根本的治療法である梗塞巣救出にあり,時間の制約を受けるので,発症後できるだけ早期にこれを行う必要がある.したがって,より早い正確な診断が要求される.また本症では持続性胸痛の発症は臨床的に冠動脈閉塞の指標となるが,胸痛の発症と心電図変化との間には時間差がある.これには急激な冠動脈閉塞による心筋反応や側副血行路の発達の違いと,かかる状態に対応する血行動態が大いに関係しているという.近年,わが国でも心筋梗塞を含む虚血性心疾患による死亡率は増加傾向にあるが,すでに米国では1940年代より本症発症の危険因子についての疫学的解明が開始され,Framingham StudyやWHOでは虚血性心疾患患者の背景となるものは高血圧,高脂血症,喫煙,耐糖能異常,肥満,家族歴であると指摘した.

3.僧帽弁逸脱症候群

著者: 羽田勝征

ページ範囲:P.1680 - P.1681

■疾患概念と疫学1〜3)
 本症候群は僧帽弁閉鎖不全の主たる原因として,また,狭心症と鑑別すべき疾患の1つとして,さらには自律神経障害との関連の上で神経循環無力症(NCA)とオーバーラップする疾患概念として注目を集めている.僧帽弁,ないしその一部が収縮期に左房に向かって「正常域」を越えて逸脱する(prolapse)形態学的異常を有する症候群に対して用いられる.
 1963年〜68年にかけてBarlow,Crileyらにより心音,左室造影所見から観察されたものである.1970年ShahらによるMモード法,1974年坂本らによる断層法の報告を踏まえ,今日では超音波検査にて診断される疾患単位として確立されている.

4.肥大型心筋症

著者: 古賀義則 ,   梶山公則

ページ範囲:P.1682 - P.1684

 特発性心筋症は原因不明の心筋疾患と定義され,肥大型,拡張型,拘束型に分類される.本症は原因ないし本体が不明であるため,その概念は時代とともに変遷してきたが,最近では1980年に開かれたWHOとISFCの連合委員会の提案が世界的に用いられるようになり,前述の定義・分類も同提案に基づくものである.本邦でも1977年特発性心筋症調査研究班により「特発性心筋症診断の手引き」が作製され,その後数回の改訂を経て現在に至っているが,ここでもWHO/ISFCの提案が基本的に採用されている.そこで本稿では,1986年に改訂された特発性心筋症診断の手引きに準じて,肥大型心筋症の診断基準およびその問題点について概説する.

5.拡張型心筋症・アルコール性心筋症

著者: 小出直

ページ範囲:P.1686 - P.1687

■疾患概念と疫学
 拡張型心筋症は特発性心筋症の一病型である.特発性心筋症は原因または関連の不明な心筋の疾患と定義される.これを言い換えれば,高血圧,冠状動脈疾患,その他のためでなく,原発性に心筋自体に発生した疾患であって,かつ特定の病因を同定・推定できないもの,ということになる.したがって,診断基準は表1のごとく他疾患を除外することによる.特発性心筋症はさらに肥大型・拡張型の2型に分類され,左室心筋の異常な肥大とそれに伴う左室拡張期コンプライアンス低下を特徴とする肥大型に対して,拡張型心筋症は心筋収縮不全とこれに伴う諸所見,ことに左室拡張と駆出分画の低下を特徴とする.このような疾患概念・診断基準から明らかなごとく,その内容は必ずしも単一疾患ではなく,発症時点では診断できない種々の心筋疾患の末期例を含む可能性がある.
 正確な発生頻度は不明であるが,1980年以降の本邦剖検輯報では,全剖検例中0.3%弱が拡張型心筋症と診断されている.ただし,病型の明記されていない特発性心筋症がほかにかなりあり,実数は0.3%を上回ると思われる.

7.低血圧症

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.1696 - P.1697

 ■診断基準1,2)(表1)
 低血圧の基準は高血圧と異なり,WHOで定められた一定の基準はない.
 一般に用いられている低血圧の診断基準は収縮期圧100~110mmHg,拡張期圧60~70mmHg以下とされている.

8.うっ血性心不全

著者: 田村勤 ,   宮下英夫

ページ範囲:P.1698 - P.1701

 心臓に種々の負荷がかかったり,心機能が低下すると一時的に心拍出量は低下するが,やがて代償機転が働き,心拍出量は全身の必要量に復帰する.この代償機転が破綻すると,全身への送血量は減少し,心臓の上流である肺または全身にうっ血をきたすことになる.この状態をうっ血性心不全と一般に定義している.これまでの成書にはこのようなうっ血性心不全の定義については記載されてはいるが,診断基準についての記載はあまりみられない.ただ,NYHAのCriteriaCommitteeが心不全の診断基準について提唱しているのみである.この診断基準は左心不全と右心不全に分けて述べられており,それを表1,2に示す.しかし,この診断基準とても日常の臨床の場では必ずしも使われてはいないのが現状である.
 このように心不全の診断基準についてあまりとりあげられることがないことの理由の最大のものは,心不全をどの時点からそう呼ぶかということについて必ずしも統一されていないということにある.正常の心機能のもとで,全身が必要とする量の血液を送ることができる状態が正常心と定義でき,この状態からはずれた状態は広い意味で心不全といえる.左室機能が低下するとStarlingの法則が働き,左室拡張期圧が上昇するかまたは拡張期容量が増加して心拍出量を正常に保とうとする.この状態は心拍出量からみると,正常といえるが,左室拡張期圧の上昇や拡張期容量の増加という異常状態を伴っている.

9.ショック

著者: 木全心一

ページ範囲:P.1702 - P.1702

■病態生理
 循環系は,ほぼclosedである.この循環系は,収縮を繰り返す心臓,各臓器へ行き渡っている脈管系,そしてその中にある血液から成り立っている.心臓の収縮性が低下し,血液が十分に駆出できないと,末梢動脈の収縮で血圧を維持しようとするが,限界があり,ショックに陥って行く.これが心原性ショックで次の項で説明する.
 心臓が拍出した血液を,一定の緊張で収縮している末梢動脈が受け止めるので血圧を生ずる.これが,精神的ショックで急に拡張すると,血圧が低下しショック状態となる.胸水,腹水が血管系を外から圧迫して小さくしていたのを,突然取り除くと,同じくショックとなる.

10.心原性ショック

著者: 木全心一

ページ範囲:P.1703 - P.1703

■心臓に起因する色々なショック
 心原性ショックに含める病態は立場によって異なって来る.ある立場は,心臓が原因となって生ずるショック全部,更には肺循環系に起因するものも含めている.筆者としては,診断する目的の中に,同時に治療方法を決めて行くことも含めて考えたく,以下のものは分けて取り扱うことにしている.

11.高血圧性心疾患

著者: 村松準

ページ範囲:P.1704 - P.1706

■疾患概念
 NYHA(New York Heart Association)におけるThe Criteria Committee(1973)によれば,高血圧による心疾患(heart disease due to hypertension)は"持続性の拡張期高血圧があり,左室肥大または左室不全を伴うもの"とされている1)
 本態性または二次性の拡張期高血圧が長期にわたって存在すると,左室圧負荷の代償機構として左室肥大(求心性肥大)が生じ,さらに圧負荷が持続すると左室拡大(遠心性肥大)が起こる.そして左室心筋障害を伴うと左室不全が惹起される.また,冠動脈粥状硬化が合併しやすい.虚血性心疾患を伴うと,左室不全または重症不整脈がしばしば認められるようになる.このような,高血圧に伴う心障害の発現はきわめて多様であり,これらは総称して高血圧性心疾患と呼ばれている.

13.弁閉鎖不全

著者: 吉川純一

ページ範囲:P.1710 - P.1714

■僧帽弁逆流の重症度の診断基準
 僧帽弁逆流の重症度の評価には,表1に示すような左室造影法によるSellersらの診断基準が広く用いられている.この診断基準ば,左室内で注入した造影剤の左房内への移行で僧帽弁逆流との診断を行い,その濃度の程度により逆流の重症度を4段階に半定量化しようとするものである.現在まで血管造影法以外に信頼すべき重症度の診断法がなく,僧帽弁逆流のみならず大動脈弁逆流の重症度診断のgolden standardとして,血管造影法が用いられている.
 しかし,本法には
 1)左心機能や血圧
 2)造影剤の量や注入速度
 3)カテーテルの種類・位置
 4)心臓カテーテル時に発生した不整脈
 などによって,逆流の重症度が影響を受けるという問題点が存在する.また本法は,観血的であり,合併症を引き起こす可能性があるため,気軽に繰り返して行えない.

14.Eisenmenger症候群

著者: 半田俊之介 ,   古野泉

ページ範囲:P.1715 - P.1715

■疾患概念
 先天性心疾患(表1)として大動脈-肺動脈,左右心室あるいは心房いずれかに短絡があり肺血管抵抗が上昇して体血圧レベルの肺高血圧症をきたし,左右短絡が右左短絡に逆転した症例および両方向性短絡となっている症例をEisenmenger症候群と定義する.

15.自動能亢進性不整脈

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.1716 - P.1719

 近年,臨床電気生理学的検査の普及に伴い,心臓ペーシングで誘発,停止される頻拍性不整脈の機序として,reentryおよびtriggered activityが注目されている.一方,自動能亢進による不整脈(自動能亢進性不整脈automatic arrhythmia)についての報告は少ない.したがって,その臨床不整脈における診断基準は必ずしも確立されていない.本稿では自動能に関する基礎電気生理学をもとにした診断基準をあげ,自動能亢進による心房性頻拍,接合部性頻拍,および心室性頻拍の診断の考え方について概説を加える.

16.Reentrant Arrhythmia

著者: 小川聡

ページ範囲:P.1720 - P.1721

 正常の洞調律により興奮している心臓では,洞結節から発したimpulseは心房から心室へと順次伝播された後に消滅する.心室まで達して心臓全体を興奮させたimpulseが消滅せずにどこかに残存し,不応期の終了後に心臓を再興奮させる現象がリエントリーである.心臓の有効不応期は長く,心房筋での150msecから心室プルキンエ線維での500msecまで幅があるが,少なくともこの間はimpulseは周囲の組織から機能的に隔離された伝導路の中へ迂回することにより生き残らなくてはならない(①伝導路の機能的縦解離によるリエントリー路の形成).機能的縦解離は解剖学的に分離しうる伝導路(例:正常の房室伝導路と副伝導路)においてのみならず,同一組織においても不応期の不均一性を有する場合に生じうる(例:心房,房室結節,プルキンエ線維-心室筋接合部,心室筋).この際,伝導速度が0.02m/secと著明に低下する心筋梗塞心では,わずか6mmの距離を迂回すれば300msecの不応期を有する心筋を再興奮させることができる(②遅い伝導速度).一方,再興奮される心筋の不応期が短縮すると伝導速度の低下が少ない,短い伝導路においても再興奮が生じやすくなる(③不応期の短縮).
 臨床的不整脈の大部分がリエントリーに起因すると考えられており,その診断基準はこれらの基本条件の成立を証明することではあるが,すべての不整脈で可能とは限らない.

17.Triggered Automaticity

著者: 飯沼宏之

ページ範囲:P.1722 - P.1723

■Triggered automaticity(TA)の概念
 TAは活動電位再分極終了直後にみられる膜電位の動揺(oscillatory afterpotential(OAP),あるいはdelayed afterdepolarization(DAD)と呼ばれる)により新たな活動電位が誘発される状態のことで,頻拍性不整脈の原因になるだけでなく,膜電位減少による伝導抑制を招くこともある.このような膜電位の動揺は,ジギタリス剤,カテコラミン,高Ca++,低Na,低Kなどの存在下で細胞内Ca++濃度が高まったときに生じる現象で,その発生に先行する活動電位を必要とするものの,脱分極自体は自然に生じるので自動能の範疇に属する.しかしreentry(Re)と同様,単発〜連続刺激により誘発ないし停止が可能(表1 I,II,III,IV)という点できわめて特異である.
 臨床上,TA性不整脈がジギタリス中毒時以外にもみられるか否か定かではないが,その原因となる細胞内Ca-overloadは虚血時をはじめ,病的状態ではよくみられる現象であるので,頻回にみられても不思議ではない.

18.左脚前枝ブロック

著者: 鈴木文男

ページ範囲:P.1724 - P.1724

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 左室内に分布する左脚は1本の枝ではなく,2本の分枝,すなわち左脚前枝と左脚後枝に分かれている.解剖学的には,そのようなはっきりとした2本の分枝に分かれている例は比較的少ないとする立場から,二分枝説に反対する学者もいるが,心電図学的見地からは解かり易い概念であり,また有用でもあるので,広く一般に受け入れられている.
 左脚の2本の分枝のうち,左脚前枝の伝導が完全に途絶したものが左脚前枝ブロックで,左室の興奮は左脚後枝のみから始まる.前枝ブロックでは,後枝支配領域である左室の後壁下壁より興奮が始まり,前枝支配領域である前壁側壁は,前枝後枝間の末梢プルキンエ線維網の連絡を通じて遅れて逆行性に興奮させられる.このために,心電図上,QRS軸は著しい左軸偏位(-45°〜-90°)をとり,また,QRS幅は0.02秒以内の延長を示す.

19.左脚後枝ブロック

著者: 鈴木文男

ページ範囲:P.1725 - P.1725

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 左室内に分布する左脚は2本の分枝,すなわち左脚前枝と左脚後枝に分かれているが,そのうち左脚後枝の伝導が完全に途絶したものが左脚後枝ブロックで,この場合,左室の興奮は左脚前枝のみから始まる.後枝ブロックでは,前枝支配領域である前壁側壁より興奮が始まり,後枝支配領域である後壁下壁は,前枝後枝間の末梢プルキンエ線維網を通じて遅れて逆行性に興奮させられる.このために,心電図上,QRS軸は右軸偏位(+90°〜+120°)をとり,また,QRS幅は0.02秒以内の延長を示す.
 左脚後枝は比較的短くて厚い分枝であるということ,左右両冠動脈より二重の血流支配を受けていることなどのために,右脚を含む3本の心室内刺激伝導系のうち,最もブロックを起こしにくい分枝となっている.このために,単独の左脚後枝ブロックが他の分枝ブロックを合併せずに起こることはほとんどありえないとも考えられている.

20.洞不全症候群

著者: 中田八洲郎

ページ範囲:P.1726 - P.1726

■疾患概念と疫学
 洞機能不全症候群とは,洞結節の自動能の低下,あるいは洞結節から心房への伝導能の低下の結果生じる不整脈に起因する徴候,症状を有する場合をいう.虚血,炎症,変性など各種の疾患に伴ってみられるが,現実には特発性と言わざるをえない場合がほとんどである.本邦における頻度は不明であるが,ペースメーカー患者では,その頻度は房室伝導障害とほぼ等しいと思われる.とくに男女差はなく年齢的には房室ブロックよりやや若く,50〜60歳代に多い.

II.呼吸器

1.肺癌—新TNM分類を中心に

著者: 本間威 ,   米田修一 ,   吉井章

ページ範囲:P.1728 - P.1731

■肺癌の概念と疫学
 肺癌の病理組織像は多彩であるが,発生頻度の高い組織型として扁平上皮癌,腺癌,大細胞癌,小細胞癌が挙げられる.各組織型の差は肺癌の病態とも深く関連し,多彩な臨床像として現れる.
 扁平上皮癌は太い気管支とくに亜区域支より中枢に発生する例が多い.まず粘膜上皮の癌化が起こり,気管支内腔に進展する.そのため咳,痰,血痰などの自覚症状で発見されることが多く,X線像は肺炎などの二次性変化としてみられる.

2.肺気腫

著者: 川城丈夫

ページ範囲:P.1732 - P.1734

■疾患概念と疫学
 肺気腫は「終末細気管支より末梢の気腔が非可逆的に拡大している状態であって,それらの壁の破壊を伴い,明らかな線維化を伴わないもの」という病理解剖学的定義が1987年Amer ThoracicSocietyによって採用されている.それによるとさらに肺気腫は,①細葉の近位部位である呼吸細気管支に主として病変が存在する細葉中心性肺気腫(centriacinar),②細葉を構成するいずれの部位にも病変がほぼ均等に存在する汎細葉性肺気腫(panacinar),③細葉の遠位部位である肺胞道・肺胞?に主として病変が存在する遠位細葉性肺気腫(distal acinar)に分類されている.これらが同一症例に混在することも少なくない.臨床の場においては,これらの終末細気管支・肺胞系の病理形態学的異常によってもたらされる病態をいかに検出するかが問題となる.
 一般に本症は比較的高齢になって労作時呼吸困難を自覚し,次第に呼吸機能が低下しそれによる労作制限が進行する.必ずしも全例ではないがその多くは呼吸不全の急性増悪を繰り返しながら経過する.しかしながら,生命予後は比較的に良い.なかには肺気腫でありながら健常人の平均余命を越えて生存する例も見られる.

3.びまん性汎細気管支炎

著者: 岩田猛邦

ページ範囲:P.1736 - P.1737

■びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis;DPB)の概念と診断基準
 DPBは本来,病理形態学的に規定された疾患で,診断は病理形態学的になされるべきである.しかし,その形態学的所見は非特異的で,経気管支肺生検では十分な組織,特に病変の主座である呼吸細気管支の採取が困難であり,開胸肺生検では侵襲が大きすぎるため,いきおい臨床診断にならざるをえない.幸い大量の膿性痰,強い労作時の息切れ,特徴的なX線所見などの臨床所見から臨床的にDPBの診断をすることは,それほど難しいことではない.表は昭和57年12月,厚生省特定疾患間質性肺疾患調査研究班がまとめたDPB診断の手引きである.この表にDPBの疾患概念と診断基準がまとめられている.

4.気管支拡張症

著者: 永井厚志 ,   滝沢敬夫

ページ範囲:P.1738 - P.1741

■疾患概念
 気管支拡張症は,器質的な病変に基づき気管支の異常な拡張が不可逆性にみられる状態と定義される.したがって,気管支拡張症は独立した単一疾患ではなく,一つの症候であり,その成因には種々の要因が関与をしている.
 気管支に不可逆性の拡張をもたらす機序としては,以下に挙げた3点に要約される.

5.気管支喘息

著者: 木村啓二 ,   井上洋西 ,   滝島任

ページ範囲:P.1742 - P.1746

■疾患概念
 気管支喘息とは,発作性の呼吸困難,喘鳴,咳嗽を主症状とし,種々の刺激に対する気道反応性亢進を特徴とする疾患と考えられている.現在,万人に認められている定義は存在しないが,American ThoracicSociety(1962)の定義が最も広く用いられている.以下,全文を引用する.
 喘息とは,種々の刺激に対する気管および気管支の反応性亢進を特徴とし,広範な気道狭窄を示す疾患である.この気道狭窄の程度は,自然に,あるいは,治療の結果により変化する."喘息"という言葉は,急性ないし慢性気管支炎のような広範な気道の感染,肺気腫のような肺の破壊的疾患,あるいは,心血管系疾患のみから生ずる気管支の狭窄に用いるのは適当ではない.ここに定義した喘息は,他の心肺疾患患者でも起こりうるが,これらの患者に生ずる気道閉塞は,原因となる疾患より二次的に生じたものである.

6.PlE症候群

著者: 森晶夫 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.1747 - P.1749

■疾患概念と疫学
 PIE(Pulmonary infiltration with eosinophilia)症候群とは,臨床症状として,咳,痰,発熱,重症例では呼吸困難を呈する疾患で,胸部X線上,様々な肺浸潤影を有し,末梢血中好酸球増多(400/mm3以上)を特徴とする症候群である.
 歴史的には,1932年Löfflerが,無症状あるいは軽い呼吸器症状を呈し,胸部X線上,一過性の浸潤影を有し,末梢血好酸球増多(blood eosinophilia)を伴う,予後良好の症例を報告したのが最初であり,後に,Löffler症候群と呼ばれるようになった.1952年Reeder,Goodrichが,少しずつ病像,予後の異なっている症例をまとめて,PIE症候群と総称することを提唱し,また,Croftonらが,pulmonary eosinophiliaとして,各群間に互いに移行があるとしながらも,
 ①simple pulmonary eosinophilia(Löffler syndrome)
 ②prolonged pulmonary eosinophilia
 ③pulmonary eosinophilia with asthma
 ④tropical eosinophilia
 ⑤polyarteritis nodosa(PN)
 の5群に分類した.

8.特発性間質性肺炎

著者: 田村昌士 ,   久保田公宜

ページ範囲:P.1752 - P.1753

■疾患概念と疫学
 空咳と労作時息切れで発症し,胸部X線写真でびまん性に粒状,網状陰影が認められ,呼吸機能上肺活量が減少し,低酸素血症を示し,組織学的に主にusual interstitial pneumonia(UIP)の所見を有する原因不明の間質性肺炎を,厚生省特定疾患調査研究班(1980年)では,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumomia;IIP)と呼んでいる.ここでいう間質とは狭義の間質を指し,主に胞隔の炎症,つまり胞隔炎(alveolitis)が本症の主病変であり,進展すれば細気管支および細気管支周囲などにも病変が及ぶことになる.
 英国では,原因不明の間質性肺炎をlonecryptogenic fibrosing alveolitis(CFA)と呼んでいるが,米国においては,idiopathic pulmonaryfibrosis(IPF)がIIPとほぼ同義的に用いられている.しかしIPFはIIPとやや臨床像上差があり,形態学的にはUIPのみならず一部desquamative interstitial pneumonia(DIP)を混在している.

9.過敏性肺臓炎(夏型過敏性肺臓炎を中心に,職業性のものも含めて)

著者: 安藤正幸

ページ範囲:P.1754 - P.1755

 過敏性肺臓炎は,アレルギー性呼吸器疾患の代表的なものの1つである.しかし,本症は,わが国では比較的新しい疾患であるために本症に対する認識が浅いこと,さらには本症の原因抗原を決定することが日常の臨床の場では容易ではないことから,本症の診断が常に正しく行われているとは言い難いのが現状である.したがって,過敏性肺臓炎の診断基準は,本症の臨床に不可欠な指標として重視されている.本稿では,わが国で最も多い夏型過敏性肺臓炎の診断基準を中心に概説する.

10.じん肺

著者: 斎藤芳晃

ページ範囲:P.1756 - P.1758

■疾患概念と疫学
 じん肺症は「粉塵を吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾患」と定義される.線維化を引き起こすのは一般に無機粉じんであり,職業性に暴露されることが多い.粉じんの種類によりけい肺,けい酸塩肺(石綿,タルク肺など),炭坑夫じん肺,黒鉛肺,鉄肺,アルミニュウム肺などがある.線維増殖性変化は離職後も年余にわたる経過で進展し,それに伴い気管支炎,気管支拡張症,気胸が続発してくる.
 わが国には,じん肺に関し適正な予防および健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的としたじん肺法がある.じん肺の定義は前記したように法律的に定められる.またじん肺と合併した肺結核その他(結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸)のじん肺の進展経過に応じて,じん肺と密接な関係があると認められる疾患を合併症としている.また粉じん作業の範囲は,労働省令で定められ,じん肺法施行規則に詳細に規定されている.

11.非定型抗酸菌症

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.1760 - P.1761

■非定型抗酸菌症の概念
 非定型抗酸菌症は非定型抗酸菌によって起こる感染症である.非定型抗酸菌とは結核菌以外の抗酸菌の総称であり,多くの菌種が含まれており,それぞれ多少病態が異なるので菌種にまで分類同定することが望まれる.
 非定型抗酸菌症の病態と治療については日本結核病学会治療専門委員会の「非定型抗酸菌症の治療にかんする見解」1)を参照されたい.

12.肺アスペルギルス症

著者: 家城隆次 ,   工藤翔二

ページ範囲:P.1762 - P.1765

 アスペルギルスは直径2〜4μmの分節菌糸の形態をとり,成長して,胞子分裂により分生胞子(conidialhead)を形成する.この特徴的な形態により,アスペルギルスと同定される.アスペルギルスは壁の厚い芽胞を産生し,乾燥には抵抗性で,感染は経気道で吸入により成立する.アスペルギルスは通常,肺の構造に異常がなく,免疫学的に正常な人に対して疾病をきたすことはない.菌種は200以上あるとされ,人に病原性を有するものは,A. fumigatus,A. flavus,A. niger,A. nidulans,A. terreusなどが知られているが,90%以上がA. fumigatusである.

13.原発性肺高血圧症

著者: 栗山喬之 ,   角坂育英

ページ範囲:P.1766 - P.1768

 肺高血圧は血行動態面で肺動脈平均圧が正常上限を越えた状態をいう.若年者における安静時の肺動脈平均圧は13±4mmHgであるが,WHOの基準1)によれば肺動脈平均圧が25mmHgを超えた場合に肺高血圧が存在するとされており,わが国でも厚生省特定疾患原発性肺高血圧症調査研究班による診断基準2)で肺動脈平均圧が25mmHg以上のものを肺高血圧症としている.ただし,日常経験する慢性呼吸器疾患では安静時肺動脈平均圧が25mmHg以上を呈することは決して多くはなく,原発性肺高血圧症を除いた呼吸器疾患では,肺動脈平均圧が20mmHgを示せば肺高血圧症が存在するものと一般的には理解されている.

14.肺血栓塞栓症

著者: 国枝武義

ページ範囲:P.1770 - P.1771

 肺血栓塞栓症は本邦では稀な疾患とされたが,近年,漸次臨床例の増加が報告されてきている.肺にはいわゆるフィルター作用があり,静脈系浮遊物を濾過して大循環系への移行を阻止する作用がある.このため肺は線溶系活性が高く,血栓性塞栓が起こっても単発性の小さいものは無症状か,あるいは症状があっても数日以内に溶解することが知られ,臨床で問題になることは少ない.
 臨床で問題になるのはマクロのレベルの肺血栓塞栓であり,これらは明確な臨床症状を有し,その原因が肺塞栓症によることから,臨床有意(clinically sig-nificant)あるいは臨床顕性(clinically manifested)な肺血栓塞栓症といわれる.ここでは,これら臨床有意な肺血栓塞栓症の診断基準について述べる.

15.ARDS

著者: 川上義和 ,   長田博

ページ範囲:P.1772 - P.1773

■診断基準
 成人呼吸窮迫症候群adult respiratory distress syndrome(ARDS)の定義は必ずしも明確でなく,疾患概念も変化してきているが現時点ではPettyの診断基準が一般的に用いられている(表1).

16.呼吸不全

著者: 福地義之助

ページ範囲:P.1774 - P.1775

■疾患概念
 呼吸不全の概念として,現在最も広く受け入れられているのは,動脈血ガス,とくにO2とCO2が異常な値を示し,それがために生体が正常な機能を営みえない状態が呼吸不全であるとするものである.動脈血ガス分析は測定器機の自動化と普及により一般的な検査として施行できるようになった.しかし,生体の正常機能を鋭敏に反映する組織レベルでのガス交換の良否を判定するのに役立つ中心静脈血O2分圧(PvO2)測定は,ルーチン検査とはいえず,施行は限定される.したがって,現状では,動脈血ガス測定値に基づく診断が行われるが,あわせて肺以外の他臓器の機能障害も臨床的に把握できないかどうか,を念頭におく必要がある.

17.睡眠時無呼吸症候群

著者: 成井浩司 ,   太田保世

ページ範囲:P.1776 - P.1777

 睡眠時無呼吸症候群は,睡眠中の生理的機能の総合的モニタリングを意味するポリソムノグラフィーに基づき診断される.ポリソムノグラフィーから睡眠中の呼吸循環機能や睡眠相など,様々な情報を捉えることができるが,現在用いられている睡眠時無呼吸症候群の診断基準では,睡眠時の無呼吸の出現頻度と出現様式が診断の決定因子となっている.しかしその研究の結果,無呼吸以外の睡眠時呼吸異常に伴う病態を捉える必要性や,睡眠時無呼吸症候群の診断に際し,加齢の影響を考慮する必要性などが理解されるようになってきた.本稿では,睡眠時無呼吸症候群の診断基準と診断方法,それらの方法が導入された経緯と問題点などについて述べる.

III.消化管

1.食道癌

著者: 吉田操

ページ範囲:P.1780 - P.1783

 食道癌の臨床ならびに病理学的取り扱いは,食道疾患研究会により定められた「食道癌取扱い規約」1)があり,この中にはX線,内視鏡分類も含まれる.粘膜下層までの食道癌の臨床経験が重なり,病型分類を改定することとなり,病理肉眼分類,次に内視鏡型分類が根本的に変更されることになった.すでにその案が提示され,試験的に用いられ,間もなく取扱い規約に採用される.以下に内視鏡分類(案)を中心に食道癌の診断基準について述べる.

2.食道アカラシア

著者: 石上浩一 ,   村上卓夫 ,   水田英司 ,   岡正朗 ,   丹黒章

ページ範囲:P.1784 - P.1784

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 食道胃接合部の嚥下性弛緩不金による食物通過障害や,食道異常拡張が認められる機能的疾患であり,その成因は未だ不明である.

3.食道・胃静脈瘤

著者: 高瀬靖広 ,   渋谷進 ,   青柳啓介

ページ範囲:P.1785 - P.1787

■記載基準とstage分類
 食道静脈瘤症例の約20〜50%は臨床的に胃静脈瘤を伴っているが,胃静脈瘤症例からみると食道静脈瘤を伴わないほうが稀である.すなわち,食道静脈瘤は単独であることが多いが,胃静脈瘤が単独で存在することは少ない.また,食道静脈瘤は胃静脈瘤に比して出血しやすく,食道静脈瘤の治療時には併存する胃静脈瘤も併せて治療される.このような事情を反映して食道静脈瘤については全国的に統一された記載基準1)(表1)が使用されているが,胃静脈瘤には特定の基準はない.そこで本稿では食道静脈瘤を中心に述べ,胃静脈瘤については適宜追加するにとどめる.

4.胃炎

著者: 市岡四象

ページ範囲:P.1788 - P.1790

■慢性胃炎のX線診断基準(表1)
 ■慢性胃炎の内視鏡診断基準(表2)
 ■病態生理からみた分類(図)
 ■疾患概念と疫学
 胃炎は急性胃炎と慢性胃炎に分けられる.急性胃炎は主として胃粘膜の炎症性変化で,原因によって外因性胃炎(単純性,腐蝕性),と内因性胃炎(感染性,化膿性,アレルギー性)とに分類される.炎症が粘膜表層にとどまる軽症から,化膿性胃炎のように全層に及ぶ重篤なもの,腐蝕性胃炎などのように多発性潰瘍を伴うものまで,その病像は多彩であり,最近は急性胃粘膜病変acute gastricmucosal lesion(AGML)と呼ばれることが多いが,明確な診断基準はない.
 慢性胃炎は固有胃腺の萎縮が本態で,非可逆性の病変である.

5.Ménétrier病

著者: 正宗研 ,   千葉満郎

ページ範囲:P.1791 - P.1791

■疾患概念と疫学
 Ménétrier病は,Ménétrierの論文「Des polyadenomes gastriques et de leurs rapports avecle cancer de l'estomac(Arch Physiol NormPathol 1:32-35,236-262,1888)」,「胃のpolyadenomeと,それと胃癌との関係」に記載された7例のうち2例を,胃の腺腫性ポリープが横に連続的に広がったものと解釈して,polyadenomesen nappe(ナプキンを広げたようなpolyadenoma)と呼称した疾患である.多賀須は,Ménétrier病を胃粘膜の著しい増殖によって,胃粘膜襞が脳回転様にまで巨大になった病変と定義している.病理学的に,Ménétrier病では脳回転様,胎盤様と表現される切除胃の肉眼所見がきわめて特徴的である.病変の占拠部位は胃体部大彎がほとんどで,幽門前庭部が冒されることは稀である.幅1.5cm,高さ3〜4cmにも達する,光沢のある巨大皺襞が深い溝で隔てられているほか,皺襞の上に深い切れ込みがあり,顆粒状を示している.かつ,粘膜表面は多量の粘液で覆われている.
 組織所見の特徴は,胃底腺領域を中心に固有胃腺,腺窩上皮の過形成による胃粘膜層の著明な肥厚である.

6.胃潰瘍・十二指腸潰瘍

著者: 小林絢三 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.1792 - P.1794

■「診断基準」について
 胃潰瘍ならびに十二指腸潰瘍は消化性潰瘍とも称せられるが,一般的には胃液(塩酸,ペプシン)の強力な消化力が影響する部分に発生する境界明瞭な限局性組織欠損である(組織学的には粘膜筋板を越える).臨床的に潰瘍かびらんを区別することは出血を伴う場合には困難なことも多いが,一般的には,内視鏡的に白苔の付着を確認する限り,病変の大小に関係なく潰瘍とする場合が多いようである(表).
 消化性潰瘍という名称が指摘するごとく,胃液の影響が及ぶところ,すなわち,食道下端部から十二指腸下部にわたって発生する.その成因として,塩酸ならびにペプシンの強力な消化力が関与することは確かであるが,これら攻撃因子に対して抵抗する側の粘膜防御因子の関与は無視できず,むしろ,現在では粘膜防御因子の減弱を第一義的に考慮すべきであるとする考え方もある.すなわち,十二指腸潰瘍はほとんどが著明な胃酸分泌亢進を示すが,胃潰瘍はむしろ正常より低い酸分泌能を示すこと,また,健常人においても十二指腸潰瘍のそれに匹敵する高酸を呈する例も決して稀でないことが,粘膜防御因子を重視する考え方を支持するものともいえる.

7.Zollinger-Ellison症候群

著者: 岸本真也

ページ範囲:P.1796 - P.1797

■概念と疫学
 Zollinger-Ellison症候群は1954年の米国外科学会に両博士が膵島性腫瘍,難治性再発性空腸潰瘍,異常な胃酸分泌亢進のある女性の2症例を報告したのが最初1)であり,翌年にEiseman2)が症例を追加してその概念を報告している.本症候群の本体は腫瘍から分泌されるガストリンであり,本症候群を修飾する症状,病理,病態生理はすべてこのペプタイドホルモンに起因する.この腫瘍は非B島性細胞腫であり,膵に高頻度に発生し,尾部に最も多く,ついで体部である3).しかし,十二指腸,胃にも発生し,さらには思いがけない臓器にも発生する.腫瘍の50%は多発性で,2/3は悪性である.腫瘍の良悪性の判定は腫瘍の生物学的態度や病理組織像によってもなされるが,大部分の例では他臓器への転移の有無によって判定されている4).腫瘍の転移は所属リンパ節,肝臓が多い.腫瘍の産生するホルモンはガストリンのみの単一ホルモン産生腫瘍の例は少なく,複数のホルモンを産生する多ホルモン産生腫瘍の例が多い5,6).しかし,血中において証明されるホルモンはガストリンを除いて多くなく,したがって本症候群の臨床像は先述したように,ガストリンの作用に基づくものがほとんどである.
 1988年4月までの筆者の集計では本邦における本症候群の報告数は185例ある.筆者は5年毎に本症候群の集計を「医学中央雑誌」を中心に行っているが,その正確な症例数は把握していない.

8.胃癌

著者: 中村圭也 ,   青池晟 ,   川井啓市

ページ範囲:P.1798 - P.1800

■疾患概念と疫学
 胃癌は胃の粘膜より発生する上皮性の悪性新生物であり,癌組織が胃壁の粘膜下層までにとどまるものを早期癌(転移の有無は問わない),粘膜下層を越えて固有筋層以下の深部に浸潤したものを進行癌という.
 わが国の胃癌の訂正死亡率は男女とも世界で群を抜いて高く,最も低いアメリカ白人の約十倍である.年次別の胃癌の訂正罹患率は全癌のそれが若干の上昇ないし横ばいであるのに対し,男女とも減少傾向にあり,また訂正死亡率も順調に減少しているにもかかわらず,死亡数および死亡率はあまり大きな変化はなく,昭和60年の胃癌の死亡数は年間48,902人である1).これは人口の高齢化と高齢者ほど死亡率が高いことの反映であろう。胃癌発生率は40歳代から70歳までに高く,60歳代が32.6%と最も高い.男女比は約1.9:1で男性に多いが,40歳未満では女性のほうが多い.昭和56年以来,わが国では悪性新生物が死因の第1位となり,胃癌はその中でも約30%と最も多く,未だ国民病的な感が強い.

9.急性胃粘膜病変

著者: 並木正義

ページ範囲:P.1802 - P.1803

■診断基準とその解説
 診断上の必要条件を簡明にまとめたものを診断基準とするならば,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesions;AGML)のそれは表1のようになる.あえてエックス線診断を文中に入れなかったのは,確定診断はやはり内視鏡検査によらなければならないからである.実際において,表1に示したような急性の臨床症状を呈して来院し,AGMLが疑われる場合には,まず内視鏡でみるのが一般的である.そのほうが急性の粘膜変化,特に出血などの様相は具体的にわかるし,必要に応じて内視鏡的止血も可能だからである.もちろんエックス線検査でも,粘膜浮腫の状態や,多発する潰瘍性変化の所見は診断上参考になる.
 症状のところで,"多くの場合"としたのは,老年者などで,自覚症状がなくてもAGMLの所見を有する例に遭遇するからである.要は自覚症状よりも内視鏡所見が診断の決め手となる.またAGMLをみたなら,その発生要因については当然考慮しなければならない.主な発生要因を表2に示す.だが,AGMLの内視鏡所見は各要因によって様相が異なるといったことは,特別な場合を除いてはあまりない.内視鏡所見のところで,明らかな炎症性変化としたのは,ごく軽度の赤発,浮腫,点状出血斑まで含めたのではきりがないからである.

10.蛋白漏出性腸症

著者: 下山孝

ページ範囲:P.1804 - P.1805

■概念
 蛋白漏出性腸症protein losing enteropathyとは,血漿蛋白(とくにアルブミン)が,腸粘膜から異常に大量に漏出し,4.0g/d/以下の低蛋白血症を惹起している状態を総称する症候群である.
 低蛋白血症の原因が腸からの蛋白漏出であることを証明して確診するが,しばしば血中の免疫グロブリンも低下している.

11.吸収不良症候群

著者: 朝倉均 ,   田中伸

ページ範囲:P.1806 - P.1809

■診断基準(案)(表1)
 ■疾患概念と疫学
 吸収不良症候群とは,糖質,蛋白質,脂質,ビタミン,電解質,水などの単一または複数の栄養素の腸管における消化,または吸収障害によって引き起こされる欠乏症状を含む,種々な臨床症状を呈する疾患の総称である.本症によってもたらされる症状を大別すると,
 1)下痢,脂肪便,蛋白便,腹部膨満感,腹鳴,腎結石などの消化吸収障害によるもの
 2)体重減少,やせ,成長障害,浮腫,腹部膨満,腹水,貧血,皮下出血,骨軟化症,口内炎,末梢神経炎,無月経,テタニー,眼症状などの各種栄養素の欠乏症状によるもの
 がある.これらの症状をきたす病態の機序は単一のものではなく複雑な因子の絡みあったものによる.
 本邦における本態性吸収不良症候群のうち,セリアック・スプルーは5例,β-リポタンパク欠損症はごくわずかの症例報告があるにすぎない.本邦の大部分の吸収不良症候群は,腸管術後障害やクローン病などの小腸広範な病変による症候性吸収不良症候群や消化吸収障害性吸収不良症候群である.著明な消化吸収障害でtotal parenteral nutrition(TPN)のhome alimentationを行わなければならない疾患として,腸間膜動静脈閉塞症による手術後の短腸症候群と小腸型クローン病がある.刷子縁膜病としては,乳製品の消費量がまだ欧米に比べて少ない本邦では,乳糖不耐症が55〜73%の成人にみられる.

12.輸入脚症候群

著者: 小山眞

ページ範囲:P.1810 - P.1810

■診断基準(狭義の輸入脚症候群)
 疾患概念が明確でないため,ここでは狭義の本症候群の診断法を述べる.
 1)Billroth II型胃切除を受けている.
 2)特有の症状―食後の右上腹部痛と胆汁性噴射性嘔吐―を呈する.(胆汁性嘔吐により輸入脚逆流と鑑別)
 3)特徴的検査所見が得られる.
 (a)脂肪便を認めることが多い.
 (b)腹部のエコー,CT,単純X線で右上腹部にU字型の嚢状腫瘤を認める.
 (c)胃透視で,残胃の拡張はない.造影剤の輸出脚への流出は良好で,輸入脚への流入は認めない.(輸入脚逆流や輸出脚閉塞との鑑別)
 (d)99mTc-HIDAによる肝胆道シンチグラフィーで輸入脚内でのRI活性の停滞と,輸入脚への流出の遅延を認める.
 (e)セクレチンやCCK-PZにより症状の誘発を認める.

13.非特異性多発性小腸潰瘍(症)・腸型Behçet病

著者: 渡辺英伸

ページ範囲:P.1811 - P.1813

A.非特異性多発性小腸潰瘍(症)=慢性出血性多発腸潰瘍
 ■同義語
 同疾患は慢性出血性小腸潰瘍(症)や慢性出血性多発腸潰瘍chronic hemorrhagic multiple ulcersof the intestineと同義語である.潰瘍が大腸にも発生することがあるので,最後の病名が適切であろう1)

14.虚血性腸炎

著者: 水谷謙二 ,   馬場正三

ページ範囲:P.1814 - P.1815

■疾患概念と疫学
 1)概念
 腸管の虚血により生じる病変に対して様々な呼称があるが,最近ではischemic bowel disease(虚血性腸病変)が用いられている.虚血性小腸炎の報告はまれであるので症例を呈示するにとどめ(図),本稿ではischemic colitisを中心に述べる.1963年Boleyらは,主幹動脈に閉塞がないにもかかわらず大腸に虚血性病変が発症し,可逆的に治療した症例を報告し,reversible vascular occlusion of the colonという概念を提唱した.その後1966年になってMarston1)らが,血行障害に起因する病変が大腸の炎症性疾患に類似することから,これを総合的にischemic colitis(虚血性大腸炎)として報告して以来,一疾患単位として認められるようになり,最近本邦においても報告例が増加している.
 ischemic colitis(虚血性大腸炎)の臨床像は「50歳以上の高齢者で,腹痛,下血,下痢を主訴として発症し,左側結腸に好発して特徴的な注腸造影や内視鏡所見を呈し,一過性に軽快することの多い症例」とされている.早期に本疾患に気づけばその診断は比較的容易である.

15.感染性腸炎

著者: 増田剛太

ページ範囲:P.1816 - P.1817

■疾患概念と疫学
 感染性腸炎は細菌,原虫,ウイルスなどの微生物を原因として急性に発症し,下痢を主体とした臨床像を示す腸管感染症である.腸チフスやパラチフスAは腸管感染症ではあるが,その経過中に菌血相を有し,高熱を主訴とする全身感染症の像を示すため,感染性腸炎の範疇に含めない.感染性腸炎では下痢のほか血便,腹痛,嘔気,嘔吐や発熱,全身倦怠感などを伴うことがある.
 細菌としては赤痢菌やコレラ菌のように他個体への感染力がきわめて強く,わが国で法定伝染病として扱われるもののほか,食中毒の原因菌としてサルモネラ,腸炎ビブリオ,カンピロバクター,エルシニア,エロモナス,さらに,抗生物質の投与が契機となって発症する抗生剤関与性腸炎(偽膜性腸炎)の原因菌とされるクロストリデイウム・デフイシルなどが列挙される(表1).また,原虫としては赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫やクリプトスポリジウムが,ウイルスとしてロタウイルスなどが分離される.

16.潰瘍性大腸炎

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.1818 - P.1820

■潰瘍性大腸炎の診断基準(表)1,2)
 ■疾患概念と疫学
 TrueloveらやRothは「大腸の炎症や潰瘍は種々の原因によって起こるが,原因の明らかなものを除外してもなお一群の大腸炎が残る.これが今日,潰瘍性大腸炎という名称で呼ばれている」と述べているが,これは,歴史的背景からみて潰瘍性大腸炎の概念に関する基本的な考え方といってよい.ところが,1968年頃,潰瘍性大腸炎の一部が大腸クローン病(肉芽腫性大腸炎,限局性大腸炎)として分離されたので,現在,原因不明の大腸炎は潰瘍性大腸炎と大腸クローン病の2つに分類することとなっている.大腸クローン病はわが国の基準ではクローン病の大腸型とみなすことが決められているので3),原因不明の大腸炎は潰瘍性大腸炎かクローン病のどちらかである.
 WHOのCIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences医科学国際組織委員会)では各種消化器疾患の名称と概念を規定した用語集を刊行し,潰瘍性大腸炎の概念を次のように規定している(1973).

17.Crohn病

著者: 笹川力

ページ範囲:P.1821 - P.1823

■疾患概念
 クローン病は,口腔から肛門までの消化管を非連続性に,全層にわたって侵し,潰瘍や線維化およびリンパ球,形質細胞を主体とする細胞浸潤を伴う慢性の非特異性肉芽腫性炎症である.原因は不明で,好発部位は回盲部である.
 もともと本症は1932年にCrohnらにより回腸末端炎の名で発表され,回盲部結核とは異なる病気として報告された.わが国では1939年塩田教授により非特種性局所性腸炎として紹介されたが,本邦の症例の70%は急性型で,瘻孔や再燃がなく,組織診断を欠いており,慢性型を主とする欧米のものとは異なることがKyle(1972)により指摘された.

18.消化管ポリポーシス

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1824 - P.1826

■診断基準
 消化管ポリポーシスは決して1つの疾患単位ではなく,その中に多数の性質の異なった疾患が含まれている.各疾患の診断基準はその病理組織学的所見に基づいており,しばしば誤解されているように,単にポリープの数,分布などによって決められるわけではない.したがって,消化管ポリポーシスの病理組織学的分類が診断の基礎として最も大切であるので,これを表にまとめておく(表).
 各疾患の組織像はそれぞれ異なるので,その概念ならびに診断基準は,次項で各疾患ごとに述べることにする.

19.大腸癌

著者: 棟方昭博

ページ範囲:P.1827 - P.1829

 大腸癌の疾病の特性は表1に示したが,臨床的な診断基準はなく,確定には組織診断がすべてである.したがって,本稿では大腸癌の存在を疑わせる症状から,生検による組織診断に至るまでの診断手順を主に述べる.

20.過敏性腸症候群

著者: 佐々木大輔

ページ範囲:P.1830 - P.1831

■疾病概念と疫学
 過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)とは,腸管やその関連臓器,さらに全身の臓器に器質的な病変がないにもかかわらず,便通異常を訴え,大腸を主とした腸管の機能異常のある状態といえる.IBSの病態を検討してもIBSに特異的な所見は得られない.IBSは単一あるいは複数の疾病としての症候群ではなく,便通異常や腹痛を主とした症状群である.しかし,幾つかの症状があればよいというものでもない.消化管の機能の亢進が持続的または間歇的に存在している状態を指すのである.
 IBSの頻度は消化器疾患の中でも高く,日常臨床において遭遇する機会が多い.当科の集計では外来患者の1.7〜2.4%を占める.性比は1:1.7と女性に多い.年代別には20歳代から40歳代に多く,60歳以上の症例は少ない.

21.乳糖不耐症

著者: 石川誠 ,   高橋恒男

ページ範囲:P.1832 - P.1833

■概念と疫学
 乳糖不耐症とは通常量の乳糖の摂取によって腹痛,腹鳴,下痢などの症状を生ずるものであり,そのほとんどは小腸刷子縁の乳糖分解酵素ラクターゼの活性低下または欠損(ラクターゼ欠乏症)に起因する.また,主として牛乳や乳製品の摂取によって下痢などの腹部症状を生ずるため,牛乳不耐症という呼称がしばしが同義的に用いられる.しかしながら,これらは厳密には同じものではなく,牛乳不耐症の一部には牛乳蛋白に対するアレルギー反応によるものなどが含まれる.
 乳糖不耐症の原因となるラクターゼ欠乏症はその病因と発症年齢から3群に分類される.

22.消化管憩室症

著者: 久保明良

ページ範囲:P.1834 - P.1835

■疾患概念と疫学
 消化管憩室は,消化管壁の一部が外側に向かって嚢状に突出し,管腔と交通している状態である.憩室の好発部位は大腸で,大都市では最近大腸X線検査の10数%前後に発見され1),ついで十二指腸,食道の順であり,胃や空腸,回腸,虫垂ではきわめて少ない.
 消化管憩室は,一般に加齢とともに発見頻度が高くなり,とくに高年者に多くみられるが,性別では食道憩室および胃憩室は男女の間に差はなく,十二指腸憩室は女性にやや多く,小腸憩室および大腸憩室は1.5〜2対1の割合で男性に多いといわれている1,2)

IV.肝・胆・膵

1.劇症肝炎と肝不全(急性肝不全)

著者: 藤原研司 ,   富谷智明

ページ範囲:P.1838 - P.1839

■急性肝不全と劇症肝炎
 急性肝不全(acute hepatic (liver) failure)とは肝細胞壊死,機能低下の急速な進行により肝不全状態,すなわち肝性脳症,出血傾向,黄疸などを呈する病態であるが,その内容は内外ともにまちまちである.欧米では,基礎疾患として慢性肝疾患の有無,原因としてウイルス以外による場合の取り扱い,肝炎様症状発現から脳症発現までの期間などに関して異なった立場がある.一般的には急性肝不全は用語上fulminant hepatic failureと,とくに区別せずに用い,広範肝細胞壊死の急性発症例を指すことが多い.すなわち,進行性の黄疸,症状発現後8週以内のII〜IV度の肝性脳症の発現,剖検時に肝萎縮がみられ,肝障害の既往がないもの,病因としてウイルス以外にもハロセン,さらには薬剤,急性妊娠脂肪肝なども含めた症候群,として理解されている1).一方,劇症肝炎(fulminant hepatitis)はその由来が予後不良の流行性肝炎を指す用語として用いられたことから,急性ウイルス肝炎を意識して用いられている.本邦の劇症肝炎は欧米のacute hepatic failureの概念に基づいて定義づけられたので,欧米のものとは異なり症候群である.しかし,本邦における劇症肝炎は,80%以上がウイルス性と考えられるので,内容的には欧米のfulminant hepatitisと類似している.

2.慢性肝炎

著者: 古田精市

ページ範囲:P.1840 - P.1843

■慢性肝炎の診断基準
 慢性肝炎は基本的には肝における単核球を主体とした慢性,持続性の炎症性細胞浸潤を伴う病態である.わが国では1979年第11回犬山シンポジウムにおいて表1に示したごとく慢性肝炎の診断基準が発表された1).この場合,実際には慢性肝炎の定義と分類として発表されているが,疾病の診断はその定義に基づいて行われ,分類されるのは当然であり,したがって診断基準と考えてよい.この診断基準は肝生検による病理所見を重視している点が特徴であるが,臨床的には6ヵ月以上にわたり肝炎が持続しているものとして,肝生検が行われない場合でもこの基準が用いられうるようになっている.

3.ルポイド肝炎,自己免疫性肝炎

著者: 溝口靖紘

ページ範囲:P.1844 - P.1845

■自己免疫性肝炎の概念
 1956年Mackayは,LE細胞現象を伴い,いくつかのSLE様の臨床症状を伴う活動性の肝炎に対し,初めてルポイド肝炎(lupoid hepatitis)と名づけた.ところが,本症を特徴づけるLE細胞現象は,その検出が常時認められるものではなく,時期を失すると本来陽性であるべき症例でも陰性の結果しかえられないことが判明し,さらに自己免疫性を示す所見として,LE細胞現象のほかに,抗核抗体や抗平滑筋抗体などの自己抗体が本症で認められることが明らかとなった.そこで,1965年再びMackayは1)これら一群の活動性慢性肝炎が,たとえウイルス性肝炎として始まったとしても,肝における自己免疫反応の持続が,進行性の肝細胞破壊の原因であると考え,自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis)なる名称を与えた.ここではもはやLE細胞現象は必須とは考えられなくなった.現在,LE細胞陽性のルポイド肝炎,およびLE細胞陰性,抗核抗体陽性のルポイド肝炎類縁疾患を自己免疫性肝炎と呼んでいる.
 本疾患は異常な免疫応答能の存在によって生じた肝に対する自己免疫現象が病態の主体をなし,この病態の成立機序に免疫遺伝学的背景の関与が強く示唆される活動性で進行性,破壊性の慢性肝炎の一群として把握されると考えられる.

4.薬剤性肝障害

著者: 黒田肇

ページ範囲:P.1846 - P.1847

 近年,薬剤の種類とその使用頻度の増加に伴い薬剤に起因する肝障害が増加している.一般に薬剤性肝障害は起因薬剤を中止すれば予後良好な疾患であるが,起因薬剤に気づかずに投与を続けると肝障害の重症化につながる.したがって,薬剤の服用後肝障害が発生したとき,薬剤に起因した肝障害かどうかを正確に判断し,確診できれば速やかに起因薬剤の投与を中止することが大切である.しかし,薬剤性肝障害を早期に診断するには,どのような肝機能検査項目を指標とするかについて一定の指針はなく,診断に苦慮するこが多い.それ故,その臨床像の特徴を把握し,総合的に診断することが必要である.

5.アルコール性肝障害

著者: 蓮村靖 ,   武内重五郎

ページ範囲:P.1848 - P.1851

■診断基準(表)
 ■疾患概念と病型,および疫学
 アルコール性肝障害(alcoholic liver disease)は,アルコール常習すなわち長年月にわたる常習飲酒が成因となって発生してきた肝障害の総称である.
 長年月の常習飲酒は,肝に対して種々の細胞生物学的変化を惹起させるので,アルコール性肝障害の病像はきわめて多彩である.すなわち,障害像が軽微な状態から,肝硬変や肝細胞癌に至るまでの各種の幅広い程度の肝障害が認められる.しかし,アルコールの肝に対する障害像は,病理形態学的には,次の2点に要約することができる.

6.脂肪肝

著者: 岩村健一郎

ページ範囲:P.1852 - P.1853

 ■診断基準の実施に当たって
 1)問診
 ①自覚症状:倦怠感,易疲労感,勤労意欲の低下など不定愁訴の有無.
 ②既往歴:内分泌性疾患,代謝性疾患の有無.妊娠との関連の有無.
 ③嗜好品:アルコール性飲料摂取状況,偏食の有無,間食習慣の有無.
 ④常用薬剤あるいは医療上の薬剤摂取状況.
 ⑤家族歴:糖尿病,高脂血症などの有無.

7.肝硬変症

著者: 沖田極 ,   古川哲也

ページ範囲:P.1854 - P.1855

■疾患概念と疫学
 肝硬変症は種々の慢性肝疾患の終末像としてとらえられており,病理形態学的には次のような特徴を有している.
 ①肉眼的に結節形成が存在する.(結節形成)
 ②Glisson鞘相互間およびGlisson鞘と中心静脈,または小葉間静脈との間に線維性隔壁が存在する.(線維性隔壁形成)
 ③肝の小葉構造に改築がある.(小葉改築像)
 ④肝臓全体にわたるびまん性の変化である.(びまん性変化)
 そして,これらの形態学的な変化は,肝細胞の機能障害,絶対量の減少,肝有効血流量の減少,肝内外短絡の形成などによるさまざまな臨床症状を引き起こしてくる.

8.原発性胆汁性肝硬変

著者: 上村朝輝

ページ範囲:P.1856 - P.1857

■診断基準
 本症の診断基準は,わが国では厚生省特定疾患難治性の肝炎調査研究班により表のようにまとめられている1)

9.特発性門脈圧亢進症

著者: 今井深 ,   亀田治男

ページ範囲:P.1858 - P.1860

■概念と疫学
 特発性門脈圧亢進症(Idiopathic Portal Hyper-tension;IPH)の概念は,厚生省特定疾患調査研究班(班長:亀田治男)の定義によると「脾腫,貧血,門脈圧亢進を示し,しかも原因となるべき肝硬変,肝外門脈・肝静脈閉塞,血液疾患,寄生虫症,肉芽腫性肝疾患,先天性肝線維症などを証明しえない疾患をいう」とされている.
 従来からのBanti症候群と呼ばれてきた疾患はほぼIPHと同一疾患と考えてよい.そしてIPHはわが国では中年女性に多発することも一つの特徴となっている.成因はいまだ不明確な点があるが,1975年以来の調査研究によりほぼその全容が明らかになってきた.とくに本疾患の発生原因は脾腫および門脈圧亢進状態が存在することから肝臓に起因疾患があるとする肝源説と脾臓に感染などの主病変があり,その結果として生ずる脾源説とが対立してきた.いずれにせよ肝組織所見の詳細な検討により,現在では本疾患の門脈圧亢進症状の発生原因は肝血流量に対し,類洞前の抵抗増大が主たる原因と考えられるに至っている.この裏づけとして組織学的に太い門脈壁の硬化性変化,周囲の線維化,末梢門脈枝の閉塞性変化,つぶれ,消失,門脈域の線維化などが認められており,このことからも肝内門脈閉塞に属するものと考えられている1).しかしこの門脈末梢枝への変化をもたらす原疾患については依然として不明である.

10.体質性黄疸

著者: 小笠原孟史 ,   瀧野辰郎

ページ範囲:P.1861 - P.1863

■疾患概念と疫学(表1,2)
 体質性黄疸は先天性のビリルビン代謝異常により血中ビリルビンの上昇した状態で,溶血,肝細胞障害,胆道閉塞が関与しないものである.黄疸出現の機序には,肝細胞におけるビリルビンの摂取,抱合,移送,排泄の機構になんらかの先天的な欠陥が存在するものと考えられている.血中に増量する優位ビリルビンの型により,診断基準に上げている病型に分類されている.各病型はこのほかに,遺伝形成,色素代謝,ビリルビン抱合酵素の活性,肝細胞内色素顆粒の有無,予後などにより特徴づけられている.
 1974年までの全国集計で,報告例はCrigler-Najjar症候群I型(CNJ-I)は1例のみ,II型は24例,Gilbert病は238例,Dubin-Johnson症候群(DJS)は298例,Rotor症候群(Rotor)は93例である.世界ではCNJ-1が約70例報告されている.Gilbert病は欧米では人口の3〜7%にあるといわれている.遺伝形式はCNJ-Iでは血族結婚が多く,CNJ-IIも家族内発症が多い.Gilbert病は常染色体優性と考えられ,DJSおよびRotorは常染色体劣性と考えられている.

11.胆嚢小隆起性病変

著者: 土屋幸浩

ページ範囲:P.1864 - P.1865

■診断基準(案)
 胆嚢隆起性病変のうち,最大径15mm以下の病変を胆嚢小隆起とする.これには正常組織構成要素の良性の増生(hyperplastic cholecystoses)とされるコルステロールポリープなど,および腫瘍性病変である腺腫や癌が含まれる.
 超音波検査の応用で容易に検出されるようになり,癌の早期発見や癌との鑑別などで注目されている.

12.慢性膵炎

著者: 細田四郎

ページ範囲:P.1866 - P.1871

■診断基準(表1,2)
 ■疾患概念と疫学
 疾患概念を示すものとして,慢性膵炎の定義(1983年,日本消化器病学会・慢性膵炎検討委員会)をあげる(表3).
 昭和60年度厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班研究報告書によれば,慢性膵炎I群を対象とした全国集計調査によって,表4にあげたような調査結果が得られた.協力を得られた全国584施設よりの報告症例数は4,917例であったが,脱落症例を除いて4,719例となった.このうち,成因に関して記載の明らかな4,326例について成因別頻度を示したものが表4である.男女比は4:1である.

V.内分泌

1.Cushing病

著者: 田中孝司 ,   伊藤祐子 ,   清水直容

ページ範囲:P.1874 - P.1875

■疾患概念と疫学
 コルチゾールの慢性的過剰分泌によって生じる症候群を総称してCushing症候群と呼ぶが,病因によって次の5つに大別される.
 1)下垂体性ACTH過剰分泌(Cushing病)
 2)異所性ACTH産生腫瘍
 3)異所性CRF産生腫瘍
 4)副腎皮質腫瘍(腺腫または癌)
 5)原発性副腎過形成(結節性過形成)
 このうち下垂体性ACTH過剰分泌によるコルチゾールの過剰分泌によるものをとくにCushing病と呼び,Cushing症候群の中で最も多く全体の約3分の2を占める.Cushing病では副腎皮質はACTHの過剰分泌のため両側ともに過形成となる.したがって,一般に副腎皮質過形成というときはCushing病を指す.

3.末端肥大症

著者: 中川光二

ページ範囲:P.1878 - P.1879

■疾患概念と疫学
 末端肥大症(先端巨大症)は,成長ホルモン(GH)の過剰が,骨端閉鎖後に生じたときに生じる疾患であり,骨端閉鎖前に生じたときには巨人症となる.GH過剰の原因は,ほとんどの場合が下垂体腺腫であり,したがって,GH過剰による症状と下垂体腫瘍による症状とが組み合わさったものとなる.まれには異所性GHRH産生腫瘍(この場合は下垂体は過形成になるが腺腫との区別は組織学的にも困難なことが多い)や異所性GH産生腫瘍による.
 わが国で昭和48年に行われた全国実態調査では,10年間に約900例が医療機関を受診したことが推定されたが,その後6年間では約800例が新たに報告され,1年間に150例ぐらいの発生があるものと推測される.英国の一地方で,年間発生率100万人当たり3人との推計もある.男女比は,上記のわが国の初めの調査では1.2:1,後の調査では1.03:1であり,性差はほとんどない.

4.無月経乳漏症候群

著者: 青野敏博

ページ範囲:P.1880 - P.1881

■診断基準とその解説
 乳汁漏出無月経症候群galactorrhea-amenorrheasyndromeは乳汁の漏出と排卵障害に基づく無月経を主徴とする症候群で,血中プロラクチンの上昇をもたらす各種の原因によって惹起されることが多い.
 本症候群の診断基準を整理すると以下の4項目にまとめられる.

5.中枢性尿崩症

著者: 吉田尚

ページ範囲:P.1882 - P.1883

■疾患概念と疫学
 中枢性尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH)欠乏のため著しい口渇,多飲,多尿を呈している状態である.ADHは視床下部室傍核および視索上核の神経細胞で作られ,下垂体後葉から血中に放出される.したがって視交叉から下垂体後葉にかけて存在する病変はすべて尿崩症を惹起する可能性がある.
 病因は原発性(遺伝性,特発性)と続発性に大別される.病因を頻度の高い順に列挙すると,特発性,腫瘍,脳外傷となる.腫瘍としては,視交叉近傍を好発とする腫瘍,すなわち胚芽腫(異所性松果体腫),頭蓋咽頭腫,視床下部に進展した下垂体腺腫が重要である.遺伝性尿崩症の多くは0〜5歳に発症する.男女はほぼ同数である.常染色体優性遺伝型式の家系と,伴性劣性遺伝型式の家系が報告されている.特発性尿崩症の病因は不明であるが,選択的に視床下部下垂体後葉系が障害されており,自己免疫性疾患とする説がある.

6.下垂体前葉機能低下症

著者: 大西利夫

ページ範囲:P.1884 - P.1887

■下垂体前葉ホルモン
 下垂体前葉から数多くのホルモンが分泌されているが,主なものを表1に示した.下垂体前葉ホルモンは,視床下部ホルモンによる分泌調節および下位内分泌腺ホルモンによるnegative feed-back機構を介して分泌調節を受けている(図1).

7.TSH単独欠損症

著者: 宮井潔

ページ範囲:P.1888 - P.1888

■疾患概念と疫学
 下垂体前葉からは甲状腺刺激ホルモン(thyroidstimulating hormone;TSH)のほか,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),成長ホルモン(GH),乳腺刺激ホルモン(PRL),性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH),黄体形成ホルモン(LH)が分泌されている.このうち一種類のホルモン分泌のみが欠如する疾患を単一前葉ホルモン欠損症と呼び,TSHの分泌のみが欠如した場合がTSH単独欠損症(isolated TSH deficiency)である.TSH欠如のため,2次性甲状腺機能低下症(secondaryhypothyroidism)を来す.
 頻度は低く,文献報告は20例余り,わが国の厚生省研究班で調査した限りでは10数例が判明したのみである.このうち6症例が先天性で,3家系中の4症例は,TSHβ鎖遺伝子の同一の点変異が原因であることが最近の著者らの研究で明らかとなった.

8.Empty Sella症候群

著者: 寺本明

ページ範囲:P.1889 - P.1889

■Empty sella症候群の診断基準(案)(表参照)
 ■疾患概念と疫学
 表に述べたごとくempty sellaはprimaryとse-condaryに大きく分けられる.前者は,先天的に下垂体隔膜が欠損ないし不完全であるためくも膜下腔がトルコ鞍内に陥入し,憩室状に拡大したものである.後者は,下垂体腺腫などの治療後に視神経や視交叉が拡大し空虚化したトルコ鞍内に落ち込み症状を呈する場合である.画像診断が発達する以前,腫瘍の短期再発と考え手術を行ってみると,トルコ鞍は空洞状態であったことに因む.
 Primary empty sellaは中年女性に多く,とくに経産婦に頻度が高い.典型的なものは比較的まれであるが,後述するごとくCTスキャンの普及後軽度な本症はごく日常的に診断される.

9.ACTH単独欠損症

著者: 富田明夫

ページ範囲:P.1890 - P.1890

■診断基準(表)
 Stacpooleら1)の診断基準をもとにACTH単独欠損症の診断基準を表のようにまとめた.

10.ゴナドトロピン単独欠損症

著者: 出村黎子

ページ範囲:P.1891 - P.1891

■診断基準
 広義には下垂体前葉機能低下症のうちの単独ホルモン欠損症に相当する.厚生省特定疾患下垂体機能障害調査研究班が昭和48年度に作成し,50年度に改訂した下垂体前葉機能低下症の診断の手引き1)では,欠乏ホルモンの程度により汎下垂体機能低下症,部分的下垂体機能低下症および単独欠損症に分類し,各ホルモン欠乏の症状および検査所見が示されている.2次的な病因による下垂体前葉機能低下症では病初期にまずゴナドトロピンが脱落しやすいものの,他の前葉ホルモンが全く正常な場合はまれで,このような病態は単独欠損症の概念には含めない.一般には先天性のゴナドトロピン欠損症であるKallmann症候群と同義に用いられている.Kallmann症候群の解釈も必ずしも一様ではないが,これまでの報告に基づき私案による診断基準を作成し表に示した.

11.視床下部(中枢)性肥満

著者: 井上修二 ,   佐藤忍

ページ範囲:P.1892 - P.1893

■診断基準(案)
 表1に視床下部性肥満のBrayとGallagherの診断基準と最近のCTスキャンによる部位診断の同定を加えた診断基準(案)を示す.

12.Cushing症候群(副腎腺腫,副腎癌,原発性異形成)

著者: 出村博

ページ範囲:P.1894 - P.1895

■診断基準
 副腎腺腫,副腎癌および原発性結節性異形成によるクッシング症候群の診断基準(案)を表にまとめた.

13.Addison病

著者: 山路徹

ページ範囲:P.1896 - P.1897

■診断基準
 アジソン病の診断基準は,厚生省特定疾患「ステロイドホルモン産生異常症」調査研究班の手により表1のようにまとめられている.

14.原発性アルドステロン症(アルドステロノーマ,癌)

著者: 竹田亮祐

ページ範囲:P.1898 - P.1899

■疾患概念と疫学
 原発性アルドステロン症は,副腎皮質に生ずるアルドステロン産生腺腫(aldosteronoma)または癌腫(まれ)によるアルドステロン分泌過剰症候群で,内分泌性高血圧症の代表的な疾患である.本症では副腎原発の腫瘍から自律的にアルドステロン分泌が持続するため,ナトリウム貯留により循環血漿量が増大し,"volume hypertension"を来す一方,低カリウム血症,代謝性アルカロージスを呈する.
 正常状態では,アルドステロンの生成・分泌は副腎皮質球状層で行われ,アンジオテンシンII,ACTHのほか,未固定の刺激因子とドパミンおそらく心房性ナトリウムペプチド(ANP)などの抑制系の制御を受けていると考えられているが,アルドステロノーマからのアルドステロン分泌調節は正常と少し違った様相を呈する.アルドステロン産生腫瘍のほとんどは小さな腺腫で複数に存在することがあり,まれに両側に見いだされる例がある.

15.特発性アルドステロン症

著者: 宮森勇

ページ範囲:P.1900 - P.1900

■疾患概念と疫学
 両側副腎球状層の過形成による高アルドステロン症である.病因として何らかの副腎皮質刺激因子の関与が想定されている.原発性アルドステロン症に占める特発性アルドステロン症の頻度は報告者により異なる.一般に欧米では高い頻度で報告されている.
 Bravo(1983)12.5% Gross(1985)24%
 Vetter(1985)18% Melby(1984)40%
 Hsueh(1986)30-50% 筆者ら(1988)6.4%

16.グルココルチコイド反応性アルドステロン症

著者: 小島元子 ,   福地総逸

ページ範囲:P.1901 - P.1901

 ■疾患の概念と疫学 グルココルチコイド(GC,糖質ステロイド)反応性アルドステロン症(GSH)は,高血圧と低カリウム(K)血症およびこれに基づく症状(四肢麻痺,テタニー,多飲多尿)を呈し,性徴異常がなく,血漿レニン活性(PRA)の抑制と血漿アルドステロン(Aldo)の過剰を示す疾患であり,比較的多量のGC[通常2mg/日のデキサメサゾン(Dex)]投与により症状の改善をみる.本症の副腎皮質には,球状帯から束状帯外層を主体とする過形成が認められる2).これは副腎原発の異常ではなく,何らかの刺激ホルモンの過剰に反応したもので,このホルモンがGCにより抑制されると考えられているが,詳細は不明である.
 わが国では,厚生省により,本症の集計がなされた.これによると,副腎原発のアルドステロン症(PA)は1977年から1981年までの5年間に626例,1982年から1984年までの3年間に373例あり,このうちGSHは前者で4例,後者で6例に過ぎない.

17.選択的低アルドステロン症(低レニン性,正-高レニン性低アルドステロン症)

著者: 森本真平

ページ範囲:P.1902 - P.1903

■疾患概念と疫学
 選択的低アルドステロン症は,糖質コルチコイド分泌には異常はないが,アルドステロン分泌が低下するため,高K血症,代謝性アシドーシス,低Na血症など水・電解質代謝異常を来す疾患である.本症には,その原因がレニン分泌不全にあるもの(低レニン)と副腎自体あるいはアンジオテンシンII生成の異常にあるもの(正-高レニン)があり,Batlleらは選択的低アルドステロン症を来す病態を低レニンと正-高レニンに分け,表1にように整理,分類している.これらのうち,低レニン性および正-高レニン性低アルドステロン症は,比較的高齢者で,基礎疾患に糖尿病,腎炎,痛風,高血圧,SLEなどを有し,軽度〜中等度の腎機能低下を伴う患者に合併することが多い.
 Schambelanらの報告によると,高K血症と軽度〜中等度の腎機能低下を伴う患者31例中23例に低アルドステロン症を合併しており,その内訳では,低レニン性が83%,正レニン性が17%である.CMO欠損症は,先天性または後天性にアルドステロン生成過程の後段階[コルチコステロン(B)→18-ハイドロオキシコルチコステロン(18-OHB)→アルドステロン]に関与する酵素が欠損するまれな疾患である.本症にはCMO I型とII型欠損症がある.

18.副腎リピド過形成,21-水酸化酵素欠損症,11β-水酸化酵素欠損症

著者: 五十嵐良雄

ページ範囲:P.1904 - P.1905

□副腎リピド過形成
■診断基準
 1)新生児,乳児期から発症している鉱質コルチコイドが有効な「塩喪失症候群」
(低ナトリウム,高カリウム血症を示す体重増加不良ないしは減少,嘔吐,哺乳力微弱,脱水などを示す.)
 2)外性器は男女とも女性型(潜伏睾丸を認めることもある.)
 3)血尿中すべてのステロイドホルモン低値
 4)全身色素沈着の増加と血漿ACTH,レニン活性の高値
 5)(治療中または疑わしい症例では)Dexamethasone 2〜4mg/m2日投与下に,ACTH-Zを連日投与しても,血漿ステロイドホルモン(cortisol,aldosterone,17-hydroxyprogesterone,11-deoxycortisolなど)がすべて増加反応を示さない.尿中17-OHCS,17-KS,17-KGSも増加しない.

19.17α-水酸化酵素欠損症

著者: 村瀬寛 ,   三浦清

ページ範囲:P.1906 - P.1906

■診断基準(表参照)
 ■疾患概念と疫学
 本症は副腎と性腺の17α-水酸化酵素欠損のため,本酵素が関与する種々のステロイド合成障害を来し,高血圧,低K血症,性徴異常を呈する疾患で,本邦では1985年まで31例報告されている1).常染色体劣性遺伝性疾患で,HLAとの連関はない2)

20.性ホルモン産生副腎腫瘍

著者: 加藤堅一

ページ範囲:P.1907 - P.1907

 性ホルモン産生副腎腫瘍は主要分泌ホルモン(アンドロゲンまたはエストロゲン)により,男性化副腎腫瘍(virilizing adrenal tumor)と女性化副腎腫瘍(feminizing adrenal tumor)に分類される.

21.褐色細胞腫

著者: 佐藤辰男

ページ範囲:P.1908 - P.1910

■疾患概念と疫学
 褐色細胞腫は副腎髄質もしくは旁神経節などの,いわゆるクローム親和性組織を発生母地とする腫瘍で,アドレナリン・ノルアドレナリンなどのカテコールアミンを産生・放出し,高血圧をはじめ種々の症状を呈してくる疾患である.しかも,腫瘍を外科的に切除すれば,ほとんどの場合,根治可能で,実地上重要な位置を占めている.
 本症はすでに前世紀の終わりごろから知られていたが,比較的まれな疾患で,全高血圧患者の0.1〜0.2%を占めるとされている.最近の集計によれば,本邦では年間約50例が手術ないし剖検されており,地域的な発生の偏りはみられない.

22.インスリン受容体異常症A型およびB型

著者: 葛谷英嗣

ページ範囲:P.1911 - P.1913

■疾患概念
 インスリンが標的細胞でその作用を発現するためには,細胞膜に存在するインスリン受容体との結合が最初のステップとして必要である.この受容体はαとβの二つのサブユニットがそれぞれ2個ずつdisulfide bondによって結合し細胞膜に存在していると考えられている(図).αサブユニットは分子全体が細胞外にあり,インスリン結合部位を有する.βサブユニットは細胞膜を貫通しており,その細胞内の部分にはチロシンキナーゼが存在している.チロシンキナーゼはインスリン結合のシグナルを細胞内に伝達する上で重要な役割を演じているらしい.
 さて,インスリン作用障害は,インスリン受容体レベルや受容体後のインスリン作用機構での異常によって起こる.前者は先天的あるいは後天的な原因により細胞膜のインスリン受容体数が減少したり,数の減少はなくとも機能に異常があったり,あるいはインスリンの受容体への結合が阻害されたりした場合に起こる.1976年Kahnらは黒色表皮症acanthosis nigricansとインスリン抵抗症を示す6名の女性を,"syndrome of insulinresistance and acanthosis nigricans"として報告した1)

23.Werner症候群

著者: 奥山牧夫

ページ範囲:P.1914 - P.1915

■疾患概念と疫学
 1904年Otto Wernerは低身長,老人様顔貌,若年性白髪,若年性白内障,強皮症様皮膚変化,四肢の筋ならびに結合織の萎縮,閉経早発を主徴とする4症例を"Über Katarakt in Verbindung mitSklerodermie"の題の下に報告した.1934年OppenheimerとKugelは同様の症例を追加するとともにWerner症候群の名称を提唱した.1966年Epsteinらは,それまでの報告122例に自験3例を加えて文献的考察を行い,本症の臨床的特徴として以下の各項を指摘した1).すなわち,①低身長,②皮膚の萎縮と角化症,③足部の皮膚潰瘍,④白髪,禿頭ならびに全身性の脱毛,⑤白内障,⑥四肢における筋,脂肪組織,骨などの萎縮,⑦音声の変化(high-pitched voice),⑧骨粗鬆症,⑨軟部組織の石灰化,⑩Möncheberg型の血管石灰化,⑪性機能低下,⑫耐糖能低下などである.他に各種の良性ならびに悪性腫瘍を伴いやすいことも指摘している.病理学的所見としては皮膚付属器ならびに皮下脂肪の萎縮,著しい粥状硬化症,Möncheberg型の動脈硬化症,心臓弁の石灰化,精細管の高度萎縮などを挙げている.

24.甲状腺ホルモン不応症

著者: 和泉元衛 ,   長瀧重信

ページ範囲:P.1916 - P.1917

■診断基準(表参照)
 ■疾患概念と疫学
 甲状腺ホルモン不応症は生体の各器官,組織細胞が甲状腺ホルモンに対して反応が低下している症候群である.下垂体も甲状腺ホルモンに対して反応が低下しているため,下垂体からのTSH分泌は甲状腺ホルモンによって抑制されにくい.その結果,血中TSHは増加し,甲状腺を刺激し,甲状腺肥大を起こし,甲状腺ホルモンの分泌を増加させる.血中の甲状腺ホルモンが増加しているにもかかわらず,なおTSHの分泌は抑制されにくく,血中TSHは増加ないし正常値を示している.全身型では下垂体以外の全身の各器官,組織も甲状腺ホルモンに対して反応が低下しているため,血中に甲状腺ホルモンが増加しているにもかかわらず,甲状腺機能亢進症のような代謝亢進状態とはならず,代謝状態は正常ないし低下状態を示す.
 一方,下垂体のみが甲状腺ホルモンに対して反応が低下した場合,血中に増加した甲状腺ホルモンに対して,下垂体以外の全身組織が反応し,甲状腺機能亢進症と同じような代謝亢進状態を示す(下垂体型).

25.Basedow病限局性粘液水腫

著者: 紫芝良昌

ページ範囲:P.1918 - P.1919

■疾患概念と疫学
 バセドウ病甲状腺機能亢進症例の下肢に発生する浸潤性皮膚病変で,実態はヒアルロン酸およびプロテオグリカンの組織への沈着である.原因は現在のところ不明で,バセドウ病IgGの作用,甲状腺ホルモン増加の影響などが考えられる.厚生省研究班の集計では,1次回答で51例が報告され,29例(男性例12例,女性例17例)が2次回答された.本邦での発生頻度は正確には不明だが,われわれの施設では甲状腺機能亢進症約800例中の7例で全国では0.5〜1%くらいではないかと推定される.

26.悪性眼球突出症

著者: 小西淳二

ページ範囲:P.1920 - P.1921

■疾患概念と疫学
 悪性眼球突出症とは主としてバセドウ病に伴う眼症状のうち,特に進行性で重症のものをいう.厚生省のホルモン受容機構異常調査研究班(井村裕夫班長)の調査1)ではバセドウ病患者のうち0.8%の頻度にみられ,212例の本症患者の男女比は1:1.06とほぼ男女同数であった.バセドウ病の男女比は1:4であるので,この比率は男性バセドウ病患者での悪性眼球突出症の発症率が女性に比べ4倍高いことを示している.初診時の年齢分布では40歳代にピークを示し,一般のバセドウ病患者ではそのピークが20歳代にあるのに比べ高齢であり,大多数が中年以後の発症である特徴を有する.

27.偽性副甲状腺機能低下症I型,II型

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.1922 - P.1923

■疾患概念と疫学
 偽性副甲状腺機能低下症とは,副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌は保たれているにもかかわらず,標的組織のPTHへの不応性により低カルシウム血症,高リン血症などの副甲状腺機能低下状態が惹起される疾患の総称である.本症患者の約半数に,Albright's hereditary osteodystrophyと呼ばれる中手骨・中足骨の短縮,皮下骨腫,低身長,円形顔貌などの身体的特徴の合併が認められる.本症は外因性のPTH負荷に対し,尿中サイクリックAMP(cAMP)排泄増加反応の認められないI型と,尿中cAMP排泄増加反応は保たれているものの,リン酸排泄増加反応を欠如するII型の2型に大別される.すなわち,本症I型はPTH受容体〜adenylate cyclase系に異常が存在すると考えられるのに対し,II型はcAMP産生以降の障害に基づくものと考えられている.本邦では,厚生省ホルモン受容機構異常調査研究班のアンケート調査により,200例以上の本症I型患者が確認されている.I型患者の性比は約1:2で女性に多く,特発性副甲状腺機能低下症の性比がほぼ1:1であるのと対照的である.これに対しII型患者はまれであり,また従来II型と報告されている症例の中にも,その診断に問題の残されている例が少なくない.したがって本症II型患者の診断は十分慎重に行う必要がある.

28.偽性偽性副甲状腺機能低下症

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.1924 - P.1924

■疾患概念と疫学
 偽性偽性副甲状腺機能低下症とは,副甲状腺機能が正常でAlbright's osteodystrophy(以下AO)の骨格異常を呈する病態のことである.AOのうち,家族歴の認められるものはAlbright's hereditary osteodystrophyと呼ばれる.本症は偽性副甲状腺機能低下症患者の家族内に認められることが多いことから,"副甲状腺機能低下症"という病名が付けられているが,本症患者のカルシウム,リン代謝は正常である.

29.偽性特発性副甲状腺機能低下症

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.1925 - P.1925

■疾患概念と疫学
 偽性特発性副甲状腺機能低下症とは,副甲状腺から生物活性の低下した副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されることにより,低カルシウム血症,高リン血症などの副甲状腺機能低下状態が惹起される疾患である.本症で認められる異常なPTHはradioimmunoassay(RIA)で検出され,またこのPTHは低カルシウム血症に反応して分泌が亢進することから,RIAで測定したPTH(immunoreactive PTH:iPTH)値は高値を示す.本症の報告は文献上いくつか認められるが,PTHの特異性の高いRIAがほとんど存在しなかったこと,また異常なPTHの本体が明らかにされた例のないことなどから,厳密な意味での本症は,存在しても極めてまれであると考えられる.

30.ビタミンD依存症I型,II型

著者: 松本俊夫

ページ範囲:P.1926 - P.1927

■診断基準(表参照)
 ■疾患概念と疫学
 臨床的にも検査所見上もビタミンD欠乏症と全く区別がつかないにもかかわらず,常用量のビタミンD治療に反応しない.しかしながら,薬理量のビタミンD投与に反応しすべての異常が完治する例があり,これをビタミンD依存症I型と呼ぶ.本症は常染色体性劣性遺伝を示すまれな疾患で,生後1年以内に発症する例が多い.本症患者では,血清25(OH)D濃度が正常であるにもかかわらず血清1,25(OH)2D濃度は著明に低下しており,また生理量の1,25(OH)2D3または1αOHD3の投与により,その病態はすべて正常化する.したがって,腎での1α水酸化酵素による25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換が障害されていることが,本症の原因であると考えられている.
 一方,同様の病態を呈しながら,薬理量のビタミンD治療にも反応しない症例が存在する.しかもこれらの例では,生理量の1,25(OH)2D3投与にも反応せず,血清1,25(OH)2D濃度は著明な高値を示す.更に,これらの例の中には大量の活性型ビタミンD製剤の投与にも反応しないものもある.このような例をビタミンD依存症II型と呼ぶ.本症患者の末梢細胞は,1,25(OH)2D3に対する反応性が欠如しており,したがって本症は1,25(OH)2Dに対する標的器官の受容機構障害によりもたらされるものと考えられている.

31.低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病

著者: 松本俊夫

ページ範囲:P.1928 - P.1929

■診断基準(表参照)
 ■疾患概念と疫学
 低リン血症,くる病・骨軟化症を主徴とする疾患である.腎尿細管のリン再吸収の選択的障害が本症の本態と考えられている.本症患者の多くは家族性発症を示し,X染色体性優性遺伝を示すものが多いが(X-linked hypophosphatemic rickets;XLH),わが国における集計では単発例が多く,約60%を占めている.とりわけ,成人発症の単発例の中に,主に中胚葉系の良性腫瘍を持つ例が存在し,腫瘍の摘除によりすべての病態が消失する.このような例は,腫瘍性低リン血症性骨軟化症(oncogenic hypophosphatemic osteomalacia;OHO)と呼ばれる.腫瘍自身は極めて小さいこともあり発見が困難である場合も多いことから,成人の単発例のかなりの例がこのような原因によるのではないかという可能性もある.
 XLH患者では,低リン血症は生後1年以内に出現するが,歩行を始めてから骨の異常に気付かれることが多い.本症患児における主徴は,低身長,O脚などの骨変形とともにくる病の所見である.ビタミンD欠乏症や依存性と異なり,低カルシウム血症は認められず,筋力低下,テタニーも認められない.加齢によっても低リン血症,骨の変形は残存するが,骨軟化症の所見は消失し,血清アルカリフォスファターゼ値も正常化する場合が多い.

32.Ellsworth-Howard試験実施法

著者: 多久和陽 ,   山本通子

ページ範囲:P.1930 - P.1931

■Ellsworth-Howard試験の臨床的意義
 Ellsworth-Howard試験は外因性副甲状腺ホルモン(PTH)に対する腎の反応性(尿中リン酸増加反応とサイクリックAMP(cAMP)増加反応)を指標に,副甲状腺機能低下症の鑑別診断を行う検査である.副甲状腺機能低下症は,低Ca血症,高リン血症の生化学的異常と低Ca血症に基づく精神神経症状を特徴とする症候群である.本症候群は病因から,PTHの分泌低下によるものと,標的器官のPTHに対する不応性によるものの2つに大別される.前者は副甲状腺の形成不全,さまざまな機序による副甲状腺の破壊,損傷によるものなど種々の原因からなるものが知られているが,頸部手術後の副甲状腺機能低下症を除けば大部分は,原因の明らかでない特発性副甲状腺機能低下症(idiopathic hypoparathyroidism;IHP)と呼ばれるものである.一方,PTH不応症を特徴とする副甲状腺機能低下症は,1942年,Albrightらにより初めて記載され,偽性副甲状腺機能低下症(pseudohypoparathyroidism;PHP)と総称される.PHPは現在では更に,PTH不応性の機序に基づき,レセプター・アデニレートサイクレース系に異常がある病型(type I)と,cAMP産生以後のステップに異常があると考えられる病型(typeII)の2型に分類されている.

33.ACTH不応症

著者: 田苗綾子

ページ範囲:P.1932 - P.1932

■疾患概念と疫学
 ACTH不応症は内因性および外来性ACTHに対し副腎皮質におけるグルココルチコイド反応が欠如している状態をいう.病理学的にみると,副腎束状層と網状層の萎縮が著明で,球状層が比較的保たれているか,束状層と球状層の区別がっかず全体に萎縮性で,すべてが球状層細胞から成っているなどの副腎低形成がみられるので,ACTHレセプターの異常による疾患として注目された原発性副腎疾患である.
 遺伝的要因が強く同胞発症がみられること,生下時よりの皮膚色素沈着,塩喪失症状,低血糖症がみられることから,先天性ACTH不応症congenital adrenocortical unresponsiveness to ACTH1),あるいは家族性グルココルチコイド分泌不全症familial glucocorticoid insufficiency2),アルドステロン分泌が正常に保たれていることからcongenital,familial syndrome ofadrenocortical insufficiency without hypoaldosteronismなどと報告されてきた.同胞発症例で発病前には副腎からのコルチゾール分泌が正常であることから,本症は他の副腎低形成同様に発症は進行性の変性過程が示唆されている.

34.Laron型小人症

著者: 高野加寿恵

ページ範囲:P.1933 - P.1933

■疾患概念と疫学
 血中GH濃度が高値あるいは正常値にもかかわらず,臨床症状が下垂体性小人症と同様の様相を示す小人症は,その発見者の名をとってLaron型小人症と呼ばれている.第1例は1966年に報告されているが,現在までには数十例の報告がある.このタイプの小人症はユダヤ系の人が多くを占め,遺伝形式は常染色体劣性遺伝形式をとると言われている.

35.TSH不応症

著者: 小西淳二

ページ範囲:P.1934 - P.1934

■疾患概念と疫学
 血中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇しているにもかかわらず,甲状腺細胞の反応が不良のため甲状腺機能低下症を呈するものは広く原発性甲状腺機能低下症と呼ばれている.この中には種々の甲状腺障害が念まれるが,それらのうち,TSHの受容機構における異常のためにその作用が発現しない,もしくはその作用発現が抑制されているものをTSH不応症と定義する.これには,①TSH受容体そのものの異常によるもの(先天性)と②TSH受容体抗体などによる後天性不応症の2つが考えられる.このうち①については偽性副甲状腺機能低下症I型に伴うものが知られ,Gs蛋白の欠損によるものと考えられている.これに対し,②は1987年に初めて筆者らが報告した症例1)以来,世界的にその存在が知られるに至った.以下,この後天性TSH不応症について述べるが,現在明らかにされているのはTSHの甲状腺刺激作用をブロックする「阻害型TSH受容体抗体によるTSH不応症」である.

36.グルココルチコイド不応症

著者: 名和田新

ページ範囲:P.1936 - P.1937

■疾患概念
 1976年オランダのVingerhoedsら1)は,高コルチゾール血症を示すにもかかわらずCushing症候群の特異的諸徴候を全く示さない父子例を最初に報告した.米国NIHのChrousos2),Lipsettらはこの症例を詳細に検討し,コルチゾール不応症の原因はグルココルチコイド受容体(GR)異常によることを明らかにし,原発性コルチゾール不応症と呼称した.原発性コルチゾール不応症は全身性のGR異常により代償性に下垂体ACTH,ついで副腎皮質ステロイドホルモンの分泌亢進を来し,末梢におけるコルチゾールの代償性維持機構が作動していると考えられる.次いで筆者らもGR異常症の若年女性を,更にIidaら,Brönnegard,Lámbertsらも相次いで原発性コルチゾール不応症の一家系を報告している(表1)3).これとは別にKontulaらによりコルチゾール産生副腎腺腫を伴ったコルチゾール不応症が報告されている(表1).これらの報告例より高コルチゾール血症を示すにもかかわらずCushing徴候を欠如する原因として証明されたことは,標的臓器である末梢血単核白血球または培養線維芽細胞GRの検索により受容体の結合親和性の低下,不安定受容体,受容体のDNA結合の低下,および受容体数の減少と受容体の質的,量的異常である.

37.偽性アルドステロン低下症

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.1939 - P.1939

■疾患の概念
 腎臓および副腎機能が正常であり,アルドステロン分泌に障害がなく,血漿アルドステロンが正常あるいは高値にもかかわらず高K血症を呈する病態である.その原因として腎尿細管,主としてアルドステロンの作用する遠位尿細管から皮質集合管に至る部位のアルドステロンに対する反応性低下が考えられている.
 最初の報告は1958年Cheek & Perry1)によるもので,Na喪失と低血圧を主徴とする小児例での報告であり,その後,同様の症例が欧米で40〜50例,本邦でも数例発表されている.いずれも小児例の報告であり,その発症には遺伝的要因の関与が示唆されている.このような一連の報告とは別に,高血圧と高K血症を呈する偽性低アルドステロン症の症例もみつかってきた2).従来の症例がアルドステロンに対する尿細管の不応性のためにNa喪失を来す一方,高K血症を来し,Na・水喪失から有効循環血液量の減少を生じて,血漿レニンが高値であることが多いのに対し,後者の症例では,アルドステロンに対する尿細管の不応性があるものの,Na喪失は生ぜず,逆にNa排泄が低下して循環血液量が増加して高血圧を来している.このようにアルドステロンの不応性があっても,両病態はかなり異なることから,Schambelanら3)は,前者を偽性アルドステロン症Type I,後者をType IIと命名している.

38.腎性尿崩症

著者: 大関武彦

ページ範囲:P.1940 - P.1941

■疾患慨念と疫学
 腎性尿崩症nephrogenic diabetes insipidusは腎集合管に対するarginine vasopressinの作用の欠如により,尿濃縮障害を呈する疾患である.腎性尿崩症なる名称は,先天性腎性尿崩症に対し初めて命名されたことより,しばしばこれに限って使用されることがある.この他にいくつかの疾患において,vasopressin不応性の尿濃縮障害が発症することがあり,後天性腎性尿崩症と分類される.
 先天性腎性尿崩症はこれらの中でも重要な病型であり,多くの腎性尿崩症の特徴を含んでおり,本項もこれを中心に述べることとする.

39.睾丸女性化症候群

著者: 松本圭史

ページ範囲:P.1942 - P.1943

■診断基準
 近年の研究によって,アンドロゲンの標的細胞にはアンドロゲン・レセプター蛋白が存在し,これを介してアンドロゲンの作用が発現されることが明らかになった.このアンドロゲン・レセプター異常のためにアンドロゲン作用発現に欠損のある疾患が本症である.したがって,アンドロゲン作用発現欠損の完全なものから不完全なものへと種々の段階のアンドロゲン不応症が存在するが,理解しやすくするために欠損が完全なものについて述べる.完全型の診断基準を表に示す.

VI.代謝

1.糖尿病

著者: 葛谷健

ページ範囲:P.1946 - P.1947

■診断基準
 診断のプロセスは表1に示す.典型的な糖尿病の諸症状があって,任意時に採血した血糖値が200mg/dl以上であれば糖尿病と診断しうる.この場合,診断だけのためにブドウ糖負荷試験をあえて行う必要はない.症状を欠く場合には診断のための糖負荷試験を必要とする.その場合の判定基準は表2に示す.簡単のために静脈血漿値のみを掲げた.全血では血漿よりもやや低く,毛細管血の場合は静脈血よりもやや高い値が出る.
 糖尿病患者の診断に当たっては,単に糖尿病があるかどうかだけではなく,治療を緊急に必要とするか,インスリン欠乏の程度の評価,合併症の有無とその程度などについても判定する必要がある.

2.低血糖症

著者: 大島一洋 ,   島健二

ページ範囲:P.1948 - P.1949

■疾患概念と疫学
 低血糖症とは,血糖値がある一定値(通常40〜50mg/dl)以下になった低血糖状態に,臨床症状(主に中枢神経系の機能障害)が随伴した病態をいう.
 中枢神経系は,そのエネルギー源をブドウ糖に依存しているにもかかわらず,自分自身ではブドウ糖を合成できず,貯蔵量も2〜3分間で消費される程度の量に過ぎない.しかも,細胞内へのブドウ糖の取り込みは,血中と組織中の濃度勾配によってのみ規定されているため,血中ブドウ糖濃度(血糖値)の急激な低下は,ただちに中枢神経系の機能障害として種々の症状を呈する.

3.高乳酸血症

著者: 伊藤道徳 ,   黒田泰弘

ページ範囲:P.1950 - P.1951

■診断基準
 高乳酸血症の統一した診断基準は定められていないが,一般には血中乳酸値が18mg/dl(2mM)以上を示した場合,高乳酸血症と診断される.また,血液ガス分析により明らかな代謝性アシドーシスが認められる場合に乳酸血症性アシドーシスと診断される.

5.ムコ多糖症

著者: 折居忠夫

ページ範囲:P.1955 - P.1957

■疾患概念と疫学
 1)疾患概念
 本症は酸性ムコ多糖(MPSと略す)の,分解に関与するリソゾーム由来の酵素である各種のグリコシダーゼおよびスルファターゼ欠損症である.全身組織の細胞内リソゾームに不完全に分解されたMPS断片の蓄積を来し,その蓄積物質の種類により異なるが,臨床的に特異な顔貌,身体所見,多毛症,軟骨内化骨障害,関節の運動制限,肝脾腫,心障害,角膜の混濁,精神運動発達遅滞などの徴候が出現しMPS尿を伴うことを特徴とする.

6.高脂血症

著者: 松沢佑次 ,   垂井清一郎

ページ範囲:P.1958 - P.1962

 高脂血症とは脂質(原則としてコレステロールとトリグリセライド)の血中レベルが正常以上に高値を示す病態を指し,原発性高脂血症と,原因となる諸疾患や薬剤による2次性高脂血症に分けられるが,ここでは原発性高脂血症について述べる.原発性高脂血症自体も単一の疾患ではなく,種々の病態の総称であり,しかもそれぞれの病因がすべて明らかにされているわけではないため,従来その診断基準については,一部の特異な病態に対してのみ論じられていたにすぎず,すべての病態についての疾患単位も明確にされていなかった.また脂質は血中では種々のリポ蛋白〔カイロミクロン,very low density lipoprotein(VLDL),intermediate density lipoprotein(IDL),low densitylipoprotein(LDL),high density lipoprotein(HDL)〕に分布して存在していることから,脂質の増加が,どのリポ蛋白の増加に基因するのかを考慮した分類,いわゆる表現型の分類(I型,II a型,II b型,III型,IV型,V型)が比較的広く知られ,高脂血症の診断として用いられてきたが,これはあくまで病態の分類であって,決して病因に対応した疾患単位の分類ではなかった.

7.肥満症

著者: 石川勝憲

ページ範囲:P.1964 - P.1965

 肥満は多くの原因をもったひとつの症候群である.
 肥満症の診断は,①肥満であることの診断,②類型の診断,ことに単純性肥満と症候性肥満の鑑別,③合併症の検索,④原因の解明の段階を経て行う1)

12.高アミノ酸血症

著者: 大柳和彦

ページ範囲:P.1976 - P.1977

 高アミノ酸血症を来す疾患はフェニールケトン尿症をはじめ数多くの疾患が知られている.これらの疾患の成因は主に先天的な酵素異常に基づくものである.診断に当たっては血中のアミノ酸分析が不可欠で,確定診断には,肝組織,培養皮膚線維芽細胞,末梢血液などを用いて酵素学的検索を行うことによりなされる.表に高アミノ酸血症を来す疾患を挙げた.

13.アミノ酸尿症

著者: 松田一郎

ページ範囲:P.1978 - P.1979

■診断基準
 尿中のアミノ酸排泄量が増加する疾患は表示のごとく多数ある.表には尿中アミノ酸をキイワードとして,それぞれのアミノ酸の増量が認められる場合,考えられる疾患名を列記してある.この中にはシスチン尿症のときのシスチンのように,常に尿中排泄量の増加が認められる疾患の他,アルギニノコハク酸尿症の場合のリジンのように,排泄量の増加が常時認められるわけではない疾患についても記載してある.
 尿中へのアミノ酸排泄が増加する機構としては,血中のアミノ酸の増加に伴って生ずる,いわゆるoverflow型と腎尿細管での連送(再吸収)不全に基づく再吸収不全型の二つがある.前者では特定の血中アミノ酸が上昇するが,後者では血中アミノ酸はほぼ正常である.ただし,腸管での吸収も低下する場合は,特定のアミノ酸の低下が認められることがある.

15.Wilson病

著者: 岩崎裕治

ページ範囲:P.1982 - P.1982

■診断基準(案)(表参照)
 ■疾患概念と疫学
 本症は肝硬変,進行性の錐体外路症状,Kayser-Fleischer角膜輪を3主徴とする先天性銅代謝異常症である.組織における過剰な銅の沈着,血清中のセルロプラスミン合成の減少,尿中への過剰な銅の排泄がみられる.常染色体劣性遺伝で,わが国における頻度は,遺伝子頻度0.0033〜0.0066,出生15,000〜70,000人に1人,ヘテロの保因者は80〜150人に1人ぐらいと推察されている.

16.Hemochromatosis

著者: 土屋雅春 ,   東俊文

ページ範囲:P.1984 - P.1985

 ■疾患概念
 ヘモクロマトーシス hemochromatosis(以下HCと略す)はヘモジデリン hemosiderinが間葉系組織のみならず肝細胞,膵外分泌腺細胞など実質細胞にも大量に蓄積し,そのために諸臓器障害を来す疾患を示し,原因不明で家族性の発症するものを特発性ヘモクロマトーシス idiopathic hemochromatosis(以下IHC)といい,原因が明らかなものを続発性ヘモクロマトーシス secondary hemochromatosis(以下SHC)と呼ぶ.IHCは鉄の先天的代謝異常で,腸管から過剰に吸収された鉄が長年にわたって徐々に全身の諸臓器に蓄積される結果発症するといわれ,発症年齢は45~55歳が最も多い.常染色体遺伝形式で,圧倒的に男子に発症し,男女比は10:1である.膵の著しい鉄沈着に伴う線維化,ランゲルハンス島の減少の結果糖尿病となり,また,副腎機能不全の結果皮膚基底層にメラニン色素が増加する.このため典型例では青銅色を呈し,bronze diabetesとも呼ばれる.糖尿病,皮膚色素沈着,肝硬変を合わせ三徴,さらに心機能障害,性機能障害のいずれかを加えて四徴という.鑑別診断において特に問題となるのはヘモジデローシス hemosiderosis(以下HS)である.一般に,HSはHCに比しヘモジデリンの沈着がKupffer細胞を中心とした網内系に著明であり,皮膚色素沈着,肝機能障害以外に組織障害を伴わないとされる.しかしアルコール過飲者に見られる肝硬変症では,しばしば糖尿病や皮膚の色素沈着を伴う.アルコールの中でもワインは鉄含有量が多いため,腸管からの鉄の吸収は増加し鉄の沈着が促される.IHCでは血清中の鉄結合性蛋白の大部分が鉄に飽和されUIBCが極端に低くなるのに対し,アルコール性肝硬変や他の肝硬変ではUIBCは特に低値をとらない1)

17.ポルフィリン症

著者: 佐々木英夫

ページ範囲:P.1986 - P.1987

 ポルフィリン症(ポ症)はポルフィリンの代謝障害に基づく症候を呈し,ポルフィリンまたはその前駆物質を大量に産生し,大量に排泄する疾患である.大半は遺伝性であるが,一部は症候性にも生ずる.本症はポルフィリン代謝障害のある臓器の差から表のごとく,骨髄型,肝型,骨髄肝型の3病型に大別されるが,臨床的には急性型と皮膚型に分けるほうが便利である.

18.有機酸尿症

著者: 成澤邦明

ページ範囲:P.1988 - P.1991

 有機酸尿症は酵素の遺伝的欠損に基づいて,それに関連した有機酸ないしその誘導体が血中や尿に大量に認められる疾患である.その主な疾患を表1に示した.これらの発生頻度の詳細は不明であるが,われわれが昭和60年に行った本邦における有機酸尿症の全国調査によれば,過去10年間の有機酸尿症の総数は148例で,そのうち頻度の高いものは高乳酸血症(67例),メチルマロン酸血症(47例),プロピオン酸血症(18例),イソ吉草酸血症(6例)であった.最近では毎年少なくとも20例以上の新しい症例が見いだされている.
 有機酸尿症の多くはその発見が遅れ早期治療がなされないときは,精神発達の遅れや時には命取りになることも少なくない.したがって早期診断が重要であるが,現時点では診断基準はまだ作成されていない.有機酸尿症の診断基準作成の難しさは,各疾患に特異的な症状や臨床検査所見に欠けており,診断の大部分が尿や血中の有機酸分析に依存していることによると思われる.

19.高アンモニア血症

著者: 辻井正 ,   山尾純一

ページ範囲:P.1992 - P.1993

 ■高アンモニア血症の診断基準とその注意点 血中アンモニアが以下の正常値を越えて高値であれば,高アンモニア血症と診断される.
 なお,血中アンモニア値の評価にはいくつかの注意が必要である.まず,血中アンモニアは運動および蛋白摂取により増加するので,安静空腹時に採血しなければならない.次に,血液を常温放置するとアンモニアは増加するので,採血後直ちに測定するか,あるいは除蛋白操作後,測定まで冷所に保存する.また先天性尿素サイクル酵素異常症などでは,空腹時の血中アンモニアが正常で,食後著増する場合がある.このような症例では,5gの酢酸アンモニウムを経口負荷し,75分まで経時的に血中アンモニアを測定して(アンモニア負荷試験),負荷後の血中アンモニアの著明な上昇を確認することが重要である.なお,正常人では,負荷後のアンモニア上昇はわずかである.

20.高ビリルビン血症

著者: 山本俊夫 ,   長峯保郎

ページ範囲:P.1994 - P.1995

 高ビリルビン血症は黄疸と同意義であって病態は多岐にわたるが,ここではビリルビン代謝異常のみに基づく体質性高ビリルビン血症の診断基準とその用い方の注意について述べる.

21.ビタミン依存症

著者: 多田啓也

ページ範囲:P.1996 - P.1997

■疾患概念
 ビタミン依存症とは,十分量のビタミンを食品から摂取しており生理的意味でのビタミン欠乏はないにもかかわらず,ビタミンの多量(生理的需要量をはるかに越えた量)の投与により臨床症状の改善がみられ,投与を中止すると再び悪化するという一連の疾患の存在が知られ,ビタミン依存症Vitamin dependencyという概念が提示された.
 現在までに知られているビタミン依存症を病因論的に分類すると,
 1)アポ酵素の構造異常によるもの
 酵素の質的変異によって補酵素との親和性が低下し,通常の濃度では反応せず多量のビタミンの存在を必要とするもの.
 例えば,ビタミンB6依存症.

22.色素性乾皮症

著者: 市橋正光

ページ範囲:P.1998 - P.1999

■診断基準(案)
 一般的診断基準はない.今回,色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum,XP)をXPA群型,XPバリアント型,およびその他に分類し,A群とバリアントの診断基準を私案としてまとめた(表).

VII.血液

1.再生不良性貧血

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.2002 - P.2003

■再生不良性貧血とは
 再生不良性貧血は骨髄中における血球の産生が全体的に低下した状態である.そのため骨髄の低形成と末梢血での汎血球減少を血液学的な特徴としている.骨髄の低形成が赤血球,顆粒球,巨核球-血小板の3系統の血球のいずれにおいても認められることから,再生不良性貧血はこれらの血球の母細胞,すなわち未分化な造血幹細胞の異常であると考えられている.造血幹細胞に異常をもたらす原因として,各種の薬品・薬剤が挙げられている(2次性再生不良性貧血)が,臨床的に因果関係を証明することは困難である.わが国では大部分(70〜80%)の再生不良性貧血は原因の分からない本態性の型に属しているが,その中の一部の症例で免疫学的な機序による造血幹細胞の抑制がinvitroの培養系ならびに臨床的な観察によって証明されている.

2.先天性溶血性貧血

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.2004 - P.2007

■溶血性貧血の概念
 溶血性貧血は疾患群で諸種の病因による多くの疾患からなるが,その本質は,何らかの機序によって赤血球崩壊が亢進した結果生じる貧血の総称である.
 一般的に貧血,脾腫,黄疸がみられるが,すべてが出そろうとは限らない.黄胆のため,臨床診断とくに身体所見からtentative diagnosisをつける場合に,黄疸を呈する疾患として頻度がずっと高い肝・胆道系の疾患と誤診されやすい点に注意を喚起したい.すなわち,黄疸のある患者を診たときに,溶血性貧血である可能性は常に考慮に入れておく必要がある.

3.免疫性溶血性貧血

著者: 小峰光博

ページ範囲:P.2008 - P.2009

■疾患の概念と分類
 赤血球破壊の亢進が免疫学的な機序によってもたらされる溶血性貧血群で,表のように①自己免疫性,②同種免疫性,③薬剤起因性に大別される.赤血球膜上の抗原に向けられたか,あるいは元来赤血球とは無関係の薬剤に向けられた抗体が産生され,免疫反応の結果赤血球膜が傷害されて早期崩壊に至る.抗原抗体反応は赤血球膜上で直接起こることも,また薬剤起因性の一部の場合のように血中で生じた免疫複合体が赤血球膜上に沈着する形を取ることもある.これに補体の活性化が加わることが多い.傷害赤血球は多くの場合,網内系細胞に捕捉貧食されて崩壊するが,抗体の性質や反応の激しさにより血管内溶血が主なこともある.溶血の様式には抗体の免疫グロブリン種,補体結合性,反応至適温度などが関与しており,各病型に特有の臨床像とも対応している.自己免疫性の場合は,臨床経過から急性(数カ月)と慢性に,また先行ないし随伴する有意の基礎疾患の有無により続発性(2次性),特発性(1次性)に区分される.

4.発作性夜間血色素尿症

著者: 藤岡成徳

ページ範囲:P.2010 - P.2011

 発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;PNH)は夜間の血管内溶血により,早朝尿が濃赤褐色のヘモグロビン尿を呈する特徴的な症状があるため,古くから記述のあった疾患である.血管内溶血の機序は補体が関与し,補体溶血しやすいPNH赤血球のクローナルな出現が病因であり,赤血球膜異常の機構も明らかにされつつある.その異常は白血球,血小板,さらに骨髄にも及んでいる.臨床的には溶血発作,深部静脈血栓症,白血病などさまざまな特異な合併症が起こり,しかも慢性に経過するので,正確な診断と病態の把握が適切な診療をする上で極めて大切である1)

5.血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

著者: 伊藤和彦

ページ範囲:P.2012 - P.2013

■疾患概念
 TTPは病因不明で急性経過をとる予後不良の疾患である.毛細血管および細動脈に血栓が多発性に形成される.これによりMoschowitz 5徴候と呼ばれる出血,溶血性貧血,神経精神症状,腎機能障害,発熱が出現する.適切な治療をしないと大部分の症例は死亡する.死亡した症例の約半数は診断後1週間以内に死亡している.この点からも早期診断,早期治療が重要である.
 病因は不明であるが,治療効果などから複数の病因の存在が推測されている.特発性が大部分であるが,続発性と考えられる症例もある.特発性のなかに家族発症例があり,遺伝的素因の存在が推測される.伝染性はない.

6.鉄欠乏症と鉄過剰症

著者: 内田立身

ページ範囲:P.2014 - P.2015

■鉄欠乏症の概念と疫学
 生体の鉄は正常人で総量3,000〜5,000mgあり,うち約65%がヘモグロビン鉄,約30%が貯蔵鉄,他に消化管上皮や爪などの組織鉄,血清中のトランスフェリン結合鉄,酵素などに存在する微量の鉄に大別される.鉄欠乏状態を来すと,まず貯蔵鉄の減少を来し(貯蔵鉄欠乏),ついで貯蔵鉄,血清鉄が減少し貧血には至らないが鉄欠乏の潜んだ状態(潜在性鉄欠乏)となり最終的には鉄欠乏性貧血となる.

7.不応性貧血と骨髄異形成症候群

著者: 吉田弥太郎 ,   小熊茂 ,   山岸司久 ,   内野治人

ページ範囲:P.2016 - P.2019

■疾患概念と疫学
 不応性貧血は狭義には原発性に赤芽球過形成髄を呈し,かつ治療不応性の貧血を指す.広義には骨髄異形成症候群myelodysplastic syndrome(MDS)の中の貧血を主とする病態,すなわち狭義の不応性貧血refractory anemia(RA),環状鉄芽球を伴う不応性貧血RA with ringed sideroblasts(RARS),芽球増加を伴う不応性貧血RA with excess of blasts(RAEB)などを含めると理解される.ここでMDSとは,骨髄低形成によらない原因不明の血球減少で,しかも異形成dysplasiaと総称される一連の血球形態異常を呈する病態を指す.
 不応性貧血もMDSも主として高年齢層にみられ,しばしば急性非リンパ性白血病を発症するが,感染や出血などの骨髄不全死も白血病化に劣らず多発する.血球減少のほかにも血球機能の障害が知られ,しかもこれら血球の量的質的異常がしばしば複数血球系にみられるので,その本態は多能性造血幹細胞の異常に基因すると考えられる.血球減少は骨髄低形成によるのではなく,血球産生と分化とが障害されるためである.造血の面では,幹細胞から成熟血球に至る過程での血球死滅すなわち無効造血であり,無効造血はまた血球分化からみれば分化異常として把握できる.

8.赤血球増加症

著者: 平嶋邦猛

ページ範囲:P.2020 - P.2021

■診断基準
 赤血球増加症は正確には赤血球量の増加を示す場合に限って用いられるべき用語である.ヘマトクリットなどの末梢血液の測定値の上昇はあるが赤血球量の増加はないような病態が存在し,これを偽性赤血球増加症(spurious erythrocytosis),また相対的赤血球増加症,ストレス赤血球増加症,Gaisböck症候群と呼ぶ.真の赤血球増加症は顆粒球系と血小板系の増加をも伴った骨髄増殖性疾患である真性多血症(polycythemiavera;PV)と2次性赤血球増加症(secondaryerythrocytosis)に分類することができる(表1).
 末梢血の検査所見での血球数の上限値をどこにおくかについて,自動血球計数器により得られた正常値±2倍の標準偏差の数値をその目安とすると,赤血球増加症を疑って検査を進めるべき数値は,赤血球が600万/μl(男子),550万/μl(女子)以上,ヘモグロビン量18g/dl(男子),16g/dl(女子)以上,ヘマトクリット52%(男子),47%(女子)以上となる.真の赤血球増加症の診断には,循環赤血球量の測定が必要で,51Cr-クロム酸ナトリウムによる赤血球標識法により測定するのが一般的である.正常値は,女子25±5ml/kg,男子30±5ml/kgである.

9.脾機能亢進症

著者: 刈米重夫 ,   出羽和

ページ範囲:P.2022 - P.2023

■診断基準(表)
 ■診断基準の作成された経緯
 脾機能亢進症として,上記の条件に当てはまる疾患としては,いろいろ挙げられている.Primaryのものと,secondaryのものがあるというのが共通した意見である.Dameshek(1955)によれば,亜急性ないし急性感染症の脾腫,種々の門脈圧亢進症,Gaucher病などの脂肪代謝異常症の脾腫,脾原発のリンパ肉腫,チステや過誤腫など比較的良性なものを含む腫瘍,たいした障害もなしに脾腫のみの有る例などを脾機能亢進症として挙げている.彼は脾機能亢進症のcytopeniaは脾腫が造血抑制物質を過剰に産生するためと考えているようである.Crosby(1966)のころには,RI標識血球を用いた血球動態の観察から,脾機能亢進症の概念の把握がより確実になっている.すなわち,脾機能亢進症では脾に大きな血球プールが形成され,血球の貯留があることを指摘した.溶血性貧血例にRI標識自己赤血球を投与すると,放射能は脾に集まり,赤血球が濃縮されていることを指摘した.特発性血小板滅少性紫斑病では,脾において血小板の破壊の亢進があるが,患者の血漿中にある自己抗体のせいで,脾の異常によるわけでなく,骨髄の巨核芽球が未成熟のものが多いのは,造血抑制のためでなく血小板の産生亢進のためである.

10.Congenital Dyserythropoietic Anemia(CDA)

著者: 山口延男

ページ範囲:P.2024 - P.2026

■疾患概念と疫学
 CDA(congenital dyserythropoietic anemia;先天性赤芽球異常症または先天性赤血球異形成性貧血の訳語が充てられている)は赤芽球の特異な形態異常と貧血,間欠的黄疸,肝脾腫などの症状を伴い,やがて鉄過剰症やその合併症(糖尿病,肝硬変,性腺機能障害など)を来す先天性遺伝性疾患である.血球異常は赤血球系に限ってみられ,白血球系や巨核球血小板系の異常はまずみられない.赤芽球の形態異常と赤血球膜の血清学的特徴から通常3病型(CDA I,II,III型)に分類されているが,それ以外の非定型例(IV型その他変異型)もありなお病態解析が必要である.かなりまれな疾患で欧米で百数十例(1型16家系17例,II型55家系84例,III型4家系23例-1976年),わが国で15例程度(I型3家系,II型2家系,III型2家系-1985年)が報告されている.男女にみられ,常染色体性遺伝で,I,II型は劣性,III型は優性と考えられている.なお,全体を通じて遺伝歴が証明されるのが約60%,他は散発例ないし不明例である.

11.顆粒球減少・増加症,類白血病反応

著者: 外山圭助 ,   川口正人

ページ範囲:P.2028 - P.2029

■顆粒球減少症
 1)診断基準 現在のところ顆粒球減少症の診断基準はとくにない.顆粒球減少で臨床的に問題となるのは好中球減少であり,案としては表1のようになる.
 2)疾患概念 顆粒球の回転は,骨髄→末梢血(循環プール←→壁在プール)→組織,という一方向の流れを保持しており,逆行することはない.また,血算で求められる顆粒球数は,末梢血循環プール内の量を反映している.よって,顆粒球減少は,この回転動態より考えると,①骨髄での産生の減少,②骨髄より末梢血への動員の障害,③骨髄または末梢血での破壊の亢進,④末梢血循環プールより壁在プールへの移行の亢進,⑤末梢血より組織への移行を含めた顆粒球消費の亢進,のいずれか,あるいはその組み合わせとして捉えられる.具体的な原因としては表2のような項目があげられる.

12.好酸球増加症—Hypereosinophilic Syndromeを中心に

著者: 古沢新平

ページ範囲:P.2030 - P.2031

■好酸球増加症とhypereosinophilic syndrome(HES)の概念
 末梢血好酸球数の正常値は100〜300/μlで,日内変動が大きい(朝が最低で,夕方に最高).通常450/μl以上が好酸球増加症(eosinophilia)とされており,その原因となる主な基礎疾患を表1にあげた.好酸球増加が1,500/μl以上と高度の場合をhypereosinophiliaと呼び1),そのうちで原因疾患を伴わず,心,肺などの臓器系の障害を伴う場合を総称してHES2),あるいは特発性HES1,3,4)と呼ぶ.

13.急性白血病

著者: 大島年照

ページ範囲:P.2032 - P.2035

 急性白血病は正常骨髄細胞の未分化な段階で腫瘍化し,増殖に伴って芽球の形態的な特徴を発現するものと考えられる.一口に急性白血病といっても,細胞形態は多彩で,染色体,臨床像,治療に対する反応,および予後などに差異がみられることから,正確な病型診断が必要とされる.
 急性白血病の形態分類としては,1976年French-American-British(FAB)Co-operative groupによって提唱されたFAB分類が臨床的には最も有用である.FAB分類の意義は,普通染色が基本で,定型的な急性白血病のみを対象とし,非定型性白血病の多くをmyelodysplastic syndromes(MDS)として分け,骨髄性とリンパ性白血病の区別をペルオキシダーゼ反応の簡単な技法で行ったことにある.

14.慢性骨髄増殖症候群

著者: 柴田昭

ページ範囲:P.2036 - P.2039

 慢性骨髄増殖症候群(chronic myeloproliferative disorders;CMPD)は,1951年Dameshekの提唱による1)もので,彼はこの症候群に属する疾患として,表1の①〜④までのものを挙げた.その後,⑤のCMMoLをこれに含めようという動きもあるが,本症は白血病に関するFAB分類(French-American-British Classification)のmyelodysplastic syndrome(MDS)の一員として取り扱われているので,本稿では省略する.代わって本稿では,CMLのvariantとも考えられる慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia;CNL)について付言することとする.
 近代的な意味での造血幹細胞の概念が出る以前に,このような症候群を提唱したことは,今日からみればまことに卓見であったというべきである.Dameshekがこのような概念に到達するに至った動機は,長年にわたる多数の症例の綿密な検討の結果,次の2点に注目したためである.すなわち,①骨髄は出血や溶血などの刺激に対して,ある1つの細胞系統(cell lineage)で反応することはむしろ珍しく,全体(en masse)として反応する特質をもっていること,②表1に掲げた疾患は経過中に相互に移行することが少なくないこと,の2点である.

15.成人T細胞白血病

著者: 山口一成 ,   高月清

ページ範囲:P.2040 - P.2041

 Human T lymphotropic virus type I(HTLV-I)はヒトではじめて発見されたRNA腫瘍ウイルス(レトロウイルス)であり,成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである.日本では少なく見積もっても年間300名はATLで死亡しており,HTLV-Iキャリアは100万人以上存在する.

16.慢性リンパ性白血病(Hairy Cell Leukemiaを含む)

著者: 木谷照夫

ページ範囲:P.2042 - P.2043

■診断基準(表)
 ■疾患概念
 リンパ系細胞の腫瘍性増殖のうち,経過が慢性で,末梢血に正常リンパ球とほぼ同じ形態の白血病細胞が増加する疾患を慢性リンパ性白血病(CLL)という.この白血病細胞の免疫学的性格より大多数の例(95%以上)はリンパ球のうちのB細胞に由来した白血病であることが明らかにされており,形態的には核クロマチンの濃縮した,細胞質の少ない小リンパ球である.
 その後,CLLの中にT細胞形質をもつ例が見出された.このT-CLLの白血病細胞は形態的に小リンパ球の例は稀で,アズール顆粒をもった大リンパ球(large granular lymphocyte:LGL)のことが多い.元来正常末梢血LGLは免疫形質からみて多彩であるが,T-CLLのそれも同じく多様である.なかにはLGLの機能であるNK,ADCCなどをもつものがある.

17.ホジキンリンパ腫

著者: 白川茂 ,   池田健 ,   川上恵基

ページ範囲:P.2044 - P.2047

■診断基準
 ポジキンリンパ腫(ポジキン病)は悪性リンパ腫の一大病型であり,非ポジキンリンパ腫に対応している.ホジキン病に比較的特徴的な臨床症状があるものの,診断確定に至るものはなく,確定診断は腫大リンパ節ないしリンパ組織の生検組織診断に基づく.このため,ここには表1にホジキン病診断の要点を列挙し,表2にRye分類における組織診断基準を示した.

18.非ホジキンリンパ腫

著者: 大西一功 ,   大野竜三

ページ範囲:P.2048 - P.2051

■非ホジキンリンパ腫の病理組織分類
 1)非ホジキンリンパ腫のLSG分類(表1)
 2)非ホジキンリンパ腫の国際分類(表2)
 3)国際分類とLSG分類の比較(表3)
 4)非ホジキンリンパ腫の新病期分類案(表4)

19.免疫芽球性リンパ節症ないし血管免疫芽球性リンパ節症(IBLないしAILD)

著者: 森茂郎

ページ範囲:P.2052 - P.2053

■診断基準
 1)免疫芽球性リンパ節症(IBL)ないし血管免疫芽球性リンパ節症(AILD)の確定は病理組織学的診断による.すなわち,T・B両系統のリンパ球および非リンパ系細胞である好酸球,好中球,類上皮細胞を含む組織球など多種類の細胞により構成された病変があり,かつ間質を構成する要素である血管や濾胞の樹状突起細胞などの顕著な関与があり,これによってきわめて特徴的組織像を呈するものをこう呼ぶ.他方,胚中心の消失ないし極端な萎縮は本病変のnegative側の重要な組織学的特徴である1)
 2)臨床的には全身の系統的リンパ節腫大,発熱,皮疹,肝・脾腫,多クローン性高ガンマグロブリン血症などの症状をみることが多いが,これらの有無は本症の確定診断のための必要条件とはならない.

20.骨髄腫とその他のPlasma Cell Dyscrasia

著者: 加納正

ページ範囲:P.2054 - P.2057

 血清,尿中にM成分を,骨髄・リンパ組織にBリンパ球・形質細胞の単クローン性増生を認める状態を一括してplasma cell dyscrasia(PCD)と称する.PCDの代表は多発性骨髄腫であるが,PCDのすべてが腫瘍性というわけではない.一過性にM成分が消失する場合がある(表1).血清中にM成分を証明する頻度は60歳台で1〜2%,80歳台で5〜6%で,年齢とともに増加する.このうち一部が多発性骨髄腫で,その頻度は,欧米人で10万人あたり年間発生率2〜3人,本邦人では1人以下であるが,増加傾向にあるとみられる.一般に39歳以下では稀であるが,小児例の稀有な報告が知られている.男女差はない.

21.LGL増加症

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.2058 - P.2059

■診断基準
 表1に診断基準を示す.

22.特発性血小板減少性紫斑病

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.2060 - P.2063

■診断基準(表1)
 ■疾患概念と疫学
 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,特発性という病名が示すように,原因不明の血小板減少に基づく出血を主要症状とする疾患である.ITPでは血小板の血管内寿命が著しい短縮を示すが,これは血小板が早期に脾,肝などの細網細胞によって捕捉処理されるためである.ITPの血小板には,正常に比べ大量の免疫グロブリンが付着しており(PAIgG),血漿中にもしばしば血小板と結合する免疫グロブリン(PBIgG)の増量が証明される.PAIgGおよびPBIgGの少なくとも一部は抗血小板自己抗体であり,これが結合した血小板はFcレセプターを介して細網細胞に取り込まれてしまうため,流血中の血小板が減少すると考えられている.
 すなわち,ITPは自己免疫性疾患であるとみなす見解が一般的であり,そこで,ITPのIは免疫性immuneのイニシアルと理解するむきもある(さらに詳しくautoimmuneと規定し,本症にATPの略語をあてることがある).しかし,抗血小板自己抗体がどのようにして,なぜ生成されるのかという問題は依然として不明のまま残されており,この観点から,Iはやはり特発性idiopathicの略号としておくのがよい.

23.汎発性血管内凝固症候群(DIC)

著者: 小林紀夫

ページ範囲:P.2064 - P.2068

■診断基準
 厚生省DIC診断基準を表1に示した.

24.血友病とvon Willebrand病

著者: 高松純樹 ,   斎藤英彦

ページ範囲:P.2070 - P.2073

■診断基準(表)
 ■血友病
 血友病は1,000年以上前にもその疾患の記載がある,伴性劣性遺伝形式を示す男子にのみみられる先天性出血性疾患であり,凝固第VIII因子活性の低下するものを血友病A(以下A),第IX因子活性の低下するものを血友病B(以下B)という.出血の特徴は関節内・筋肉への出血で,その他軟部組織への出血,中枢神経系への出血もみられ,外傷,手術後の止血困難もよくみられる.臨床的には第VIII因子,第IX因子の活性により重病型(活性値1%以下),中等症(1〜5%),軽症型(5%以上)に分類される.
 病因論的にはA,Bともにほとんどが蛋白が欠乏したいわゆる蛋白欠乏型CRM-(cross reactive mate-rial negative)であるが,Aでは約10%がCRM+(cross reactive material positive)で,Bでは約25%がCRM+であり分子異常と考えられる.遺伝子解析や蛋白化学的研究により,これら異常症の解析も行われ,Aでは1塩基置換のためArg-Glnとアミノ酸置換がみられ,そのために第VIII因子活性が低下した症例の報告もある.一方,Bでも解析が進んでおり,IX因子Chapel HillではArg-145-Hisに,IX因子AlabamaではAsp-47-Glyに,IX因子KashiwaraではVal-182-Pheというアミノ酸置換が報告されている.

25.循環抗凝固因子

著者: 加藤淳 ,   青木延雄

ページ範囲:P.2074 - P.2075

■疾患概念と疫学
 循環抗凝固因子(circulating anticoagu-lants),あるいは後天性抗凝固因子(acquired in-hibitors of blood coagulation)とは,体内で産生され,特定の凝固因子活性あるいは活性化を直接抑制する病的な物質を意味し,その本体は一部の例外を除き抗体である.
 この凝固阻止因子(以下インヒビターと略)は,種々の先天性凝固因子欠乏症患者において,血液製剤投与後二次的に産生される場合と,それまで出血傾向を示さず,凝血学的にも正常と考えられる症例において,輸血歴の有無にかかわらず発生する場合とがある.

VIII.膠原病・免疫・アレルギー

1.慢性関節リウマチ

著者: 七川歓次

ページ範囲:P.2078 - P.2082

■慢性関節リウマチの疾患概念と疫学
 慢性関節リウマチ(RA)は原因不明の慢性の炎症性多発関節炎であって,病変は早期に関節滑膜にみられ,滑膜組織が肥厚増殖し,ついで軟骨,骨破壊を起こす.したがって最初は関節の痛み,腫れ,運動制限といった可逆的症状であるが,後には関節の変形,脱臼,強直のような不可逆的障害をきたし,身体障害者を作りあげる.
 関節の炎症変化に伴って,全身的な炎症反応もみられ,発熱,貧血,白血球増多,血沈の亢進のような検査成績の異常が認められ,皮下結節,虹彩強膜炎その他血管炎に伴う諸病変を呈し,RAが全身病とされるゆえんである.

2.全身性エリテマトーデス(SLE)

著者: 横張龍一

ページ範囲:P.2084 - P.2087

■SLEの診断基準
 「SLEと診断するには,これだけの条件を満足すべきである」あるいは「これこれの条件を満たしていれば,SLEの診断以外は考えられない」というような診断基準(diagnostic criteria)は,提唱されていない.診断基準としてしばしば引用されるアメリカリウマチ協会(ARA)の基準は,分類基準(classification criteria)として発表されたものである.分類基準は一種の約束事であり,SLEに関する研究報告に際し,この分類基準を適用することによって,対象とした患者の診断を保証することを目的としている.

3.皮膚筋炎・多発性筋炎

著者: 西海正彦

ページ範囲:P.2088 - P.2089

■診断基準
 多発性筋炎(polymyositis, PM)および皮膚筋炎(dermatomyositis, DM)の診断基準には,WHOの試案,Medsgerの基準,本邦厚生省による「診断の手引き」などがある1)が,1975年にBohanとPeterの基準2)が提出されてからは,世界中でこの基準のみが使われているので,ここではこれをとりあげる(表).

4.強皮症

著者: 植木宏明

ページ範囲:P.2090 - P.2091

■診断基準
 ARAの予備診断基準案1)(表1)
 厚生省強皮症研究班会議の基準案2)(表2)

5.混合性結合組織病

著者: 粕川禮司

ページ範囲:P.2092 - P.2094

■混合性結合組織病の診断手引き
 厚生省特定疾患混合性結合組織病調査研究班は,昭和58年に主として疫学調査のための診断手引きを作成した.表1のごとく,3項目よりなり,共通所見としてのレイノー現象か,指ないし手背の腫脹かのいずれかがあり,抗nRNP抗体が陽性で,全身性エリテマトーデス様,強皮症様,多発性筋炎様所見のいずれか2つが陽性の場合に,混合性結合組織病と診断する.

6.Sjögren症候群

著者: 烏飼勝隆 ,   田村いつ子

ページ範囲:P.2095 - P.2097

■診断基準(表1)
 ■疾患概念と疫学
 自己免疫性の機序によって外分泌腺,その中でも主として涙腺と唾液腺とに慢性の炎症性病変が起こる疾患である.その結果,口内乾燥症や乾燥性角結膜炎が生じる.自覚症状としては,口渇,口腔粘膜や口唇の乾燥感や疼痛,パンなどの乾いた食物の嚥下しにくさを訴える.他覚的には,齲歯が多く,口腔粘膜の萎縮や潰瘍を生じることがある.一方,眼の症状は,眼の乾燥感,異物感,眼精疲労などの症状を訴える.
 涙腺と唾液腺のみではなく,膵や気道分泌腺,汗腺などの他の外分泌腺も侵される(表2).さらに,外分泌腺以外にも,関節,腎,肺,肝なども罹患する(表3).

7.Behçet病

著者: 橋本喬史 ,   本間信

ページ範囲:P.2098 - P.2100

■診断基準(表1)
 ■疾患概念と疫学
 Behcet病は,滲出傾向の強い急性炎症を反復しつつ遷延性経過をとる.1937年にH. Behçetにより口腔粘膜,眼,外陰部の再発性潰瘍を主徴とした1疾患単位をなすものとして報告され,眼病変については最初は上強膜炎や角膜潰瘍が重視されたが,そののち前部および後部ぶどう膜炎が本質的なものであることに修正された.その後の臨床観察例の増加に伴い,Behcet病の病変は口腔粘膜,眼,外陰部にとどまらず,皮膚,関節,副睾丸,消化管,血管,中枢神経,肺,腎などをも侵す全身病であることが判明し,失明率の高さや少なからざる致死例の存在から,多大な社会的関心が寄せられるようになった.
 Behçet病の病因については,遺伝的素因の解明が進み,HLA-B51の保有率が高いことが明らかとなった.しかし,家族内発生は2%前後にすぎず,遺伝的素因に何らかの環境因子の影響が加わることにより発病するものと考えられている.環境因子としては,ウイルス感染や微量化学物質の影響についての多くの研究がなされてきたが,確証が得られず,現在わが国では細菌とくに連鎖球菌の感染を重視した研究が進められている.

8.血管炎症候群

著者: 橋本博史

ページ範囲:P.2102 - P.2105

■診断基準
 1)表1 結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎)診断の手引き(厚生省特定疾患調査研究班,1973)
 2)表2 ウェゲナー肉芽腫症(厚生省特定疾患調査研究班,1973)
 3)表3 ウェゲナー肉芽腫症の診断基準(案)(厚生省特定疾患調査研究班,ウェゲナー肉芽腫症小委員会,1987)
 4)表4 アレルギー性肉芽腫性血管炎の臨床診断基準(長沢による,1988)

9.大動脈炎症候群

著者: 原まさ子

ページ範囲:P.2106 - P.2107

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 大動脈炎症候群は,大動脈とその太い分枝の基部,肺動脈に起こり,内,中外膜全層に及ぶ原因不明の動脈炎である.中膜の変性と線維組織の増殖,外膜の線維化,それに対応して内膜が肥厚し内腔が狭窄,閉塞することによる末梢領域の虚血性変化と高血圧性変化により種々の症状を呈する.弾力線維の破綻が強く瘢痕化が軽い場合には,拡張や動脈瘤の形成に至る.
 1908年,高安右人が花環状動静脈吻合を呈した眼底所見を発表,1948年清水,佐野が大動脈弓と主幹動脈の炎症により脈が触れないことから脈なし病と命名したが,1960年代に入り病変分布が大動脈弓,胸腹部大動脈とその分岐動脈,肺動脈に及ぶことから大動脈炎症候群として包括された.原因は不明であるが,東洋人の女性に多いことから,人種的,遺伝的素因,感染アレルギー,内分泌異常,自己免疫の関与などが考えられている.

10.リウマチ性多発筋痛

著者: 星智

ページ範囲:P.2108 - P.2109

■疾患概念と疫学
 リウマチ性多発筋痛(polymyalgia rheumatica,PMR)とは,①50歳以上の高齢者に発症する,②1カ月以上持続する躯幹近位筋,すなわち項頸部,肩甲帯,骨盤帯,上腕などの激しい痛みと朝のこわばりを主症状とし,③赤沈値の亢進をはじめとする急性期炎症反応の強陽性を認め,④その症状,検査所見が少量の副腎皮質ステロイド剤で速やかに軽快する,という4つの特徴をもった原因不明の疾患である.人種により罹患率に違いがある.白色人種では稀な疾患ではなく,とくに北方系に多い.米国ミネソタでの集計では,PMRの年間発病率は人口10万あたり全年齢層で11.1人,50歳以上で53.7人となっている.また最近のデンマークでのPMRと側頭動脈炎(temporalarteritis,TA,または巨細胞動脈炎giant cellarteritis,GCA)の疫学調査(対象患者の約90%にPMRを認めている)では,全年齢層で21.5人,50歳以上で76.6人と集計されている.黒人と東洋人での報告は少ない.わが国では近年報告例が増加しつつある.性比は1.05〜7.4と女性に多い.日本人では女39例,男21例と集計されている.PMRの約15〜30%にTAの合併がみられる.

13.Shulman症候群

著者: 栗原誠一

ページ範囲:P.2112 - P.2113

 Shulman症候群(以下SS)は,独立した疾患か,強皮症の亜型なのか議論のあるところで,これまでの報告を検討すると,一個の疾患としてとらえたものと,強皮症の側からみたものとでは診断自体に若干の混乱があるようで,本症候群が解析途上にあることが窺われる.

14.成人発症Still病

著者: 星恵子

ページ範囲:P.2114 - P.2114

■疾患概念と疫学
 小児に発症する慢性関節リウマチのうち,発熱,発疹を伴う全身型をスチル病と呼ぶが,成人でも同様の症例がみられるようになり,これを成人発症スチル病という.なお,Subsepsis allergica,Wissler's syndromeは,本症の別名でもある.
 臨床所見は,多発関節炎に加え,発熱(日差が著しく,下熱時には平熱以下になることがある.spiking feverと表現される)と,発疹(麻疹様の小さな紅斑で,色はサーモンピンク.下熱時に消退することがある)が特徴的な所見で,腱滑膜炎,心膜炎,胸膜炎などの漿膜炎,リンパ節炎,肝・脾腫を合併することがある.検査所見では,赤沈の亢進,白血球数増加をみるが,リウマチ因子は陰性で,seronegative arthritisの1疾患である.抗核抗体も陰性である.

15.強直性脊椎炎

著者: 梁瀬義章 ,   田中清介

ページ範囲:P.2115 - P.2117

■疾患概念と疫学
 強直性脊椎炎(AS)は脊椎の炎症性強直を特徴とし,遺伝的要素の明らかな血清反応陰性脊椎関節炎(seronegative spondyloarthritides)に属する疾患である.すなわち,リウマチ因子が陰性で皮下結節がなく,末梢の関節が炎症性の関節炎を呈し,X線上,仙腸関節炎の所見を認め,家族内発生がみられる疾患群である(表1).
 ASの病因は不明であるが,HLA-B27が関与していることは,AS患者のHLA-B27陽性率が高い(白人約90%,日本人約85%,黒人約50%)ことからも明らかである.HLA-B27陽性者の約20%が,ASや他の血清反応陰性脊椎関節炎を発生する.そしてASの人口あたりの有病率はHLA-B27の人種陽性率と相関しており,HLA-B27陽性頻度は地域で異なる.アメリカインディアン2.0%,白人1%と多く,黒人や日本人では少ない.わが国におけるASの有病率は0.047%と推定されている.男性では脊椎病変が進行するため,男女のAS発生比率は3対1である.

16.偽痛風

著者: 赤岡家雄 ,   山内俊一 ,   金子希代子 ,   藤森新

ページ範囲:P.2119 - P.2119

 偽痛風(関節軟骨石灰化症,またはピロリン酸カルシウム結晶沈着症)の最も新しい診断基準は表1に示した1).一般に結晶性関節炎(crystal deposition disease)とよばれる疾患はいくつかあるが,その第1が痛風で,第2が偽痛風である.
 本疾患は関節の線維軟骨を中心にピロリン酸カルシウム・二水化物(calcium pyrophosphate dihydrate;CPPDと略)が沈着して多発性石灰化症を起こす1つの全身性疾患である.本症は,①遺伝性,②特発性,③代謝疾患に随伴する二次性のものがある.発症頻度は成人の約5%と推定され,60歳以上の高齢者に多い.本邦の一地区での住民検診では緒方によれば300名で,加齢とともにCPPD結晶沈着症は増加し,90歳以上では40%に認められるという2).一方,遺伝性のものは若年性のものが多い.

17.後天性免疫不全症候群(AIDS)

著者: 高橋浩文 ,   松本孝夫

ページ範囲:P.2120 - P.2123

■疾患概念と疫学
 後天性免疫不全症候群(AIDS;acquired immunodeficiency syndrome)はレトロウイルス科に属するRNAウイルスであるHIV(human immunodeficiency virus)感染によりひき起こされる免疫不全症候群である.1981年,米国Los Angelsにおいて男性同性愛者に発症したカリニ肺炎の報告に端を発した本疾患は,1982年米国防疫センター(CDC;Center forDisease Control)によりAIDSと名付けられ,診断基準が作成された.その後,1983年フランスにてLAV(lymphadenopathy associated virus),1984年米国にてHTLV-III(human T-lymphotropic virus typeIII)が原因ウイルスとして分離され,現在呼称がHIVと統一されている.HIVは主にヒトヘルパーTリンパ球上にあるCD 4蛋白に結合し感染することにより,ヘルパーT細胞やマクロファージの障害を生じ,重篤な免疫不全状態をつくりだす.
 HIV感染症は1988年2月現在,世界各国においてすでに500万〜1,000万人にのぼると推定され,AIDS患者数も140カ国108,176人が確認されているが(1988年7月現在),WHOは実際上の患者数を約15万人と推計している.

18.アミロイドーシス

著者: 宮坂信之

ページ範囲:P.2124 - P.2125

■診断基準
 表1に,厚生省特定疾患研究班による一般アミロイドーシスの診断基準を示す.

19.Graft versus host disease

著者: 高橋孝喜 ,   吉野谷定美

ページ範囲:P.2126 - P.2128

■移植片対宿主病
 移植片対宿主病(graft versus host dis-ease;GVHD)は,移植片(graft)中のリンパ球が宿主(host)内に生着し,提供者(donor)のリンパ球からみれば非自己(non-self)であるhostの組織を攻撃するという病態である.移植骨髄がhostに生着した場合にしばしばみられる骨髄移植(bone marrow transplan-tation;BMT)後のもの(BMT-GVHD)がよく知られている.

IX.腎・尿路

1.無症候性血尿・蛋白尿

著者: 北島武之

ページ範囲:P.2130 - P.2130

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 一般に自覚症状を伴わない血尿や蛋白尿,あるいは両者を無症候性血尿・蛋白尿と呼んでいる.わが国では学校や職域での集団検尿が普及し,このような機会に発見される蛋白尿や血尿のことをchance蛋白尿/血尿とよんでいるが,これが無症候性血尿・蛋白尿と同義語のように用いられている.しかし,この場合は発見の動機をもって表現したものなので,厳密には同義語とはいい難いが,わが国の現状では大きな支障はない.
 厚生省特定疾患「進行性腎障害」調査研究班(班長:東條静夫)が昭和60年の1年間に入院した腎疾患患者を対象に全国アンケート調査を行ったところ,chance蛋白尿/血尿患者の実態は,内科系施設で2,926名の腎疾患入院患者のうち559名(19.1%),小児科系では同じく210名中88名(41.9%)であった.これらの原発性糸球体疾患の占める割合は,内科系が1,078名(36.8%),小児科系で146名(69.5%),さらに,このうちchance蛋白尿/血尿は541名(50.1%)および83名(56.8%)であった.原発性糸球体疾患のうち非ネフローゼ群についての検討で,内科系では293名(45.9%),小児科系20名(19.0%)がIgA腎症であった.

3.腎性糖尿

著者: 浅野泰

ページ範囲:P.2132 - P.2132

■診断基準
 1)正確にはブドウ糖負荷による近位尿細管の再吸収曲線によるが,その他,
 2)常に尿糖が存在すること
 3)空腹時血糖値120mg/dl以下
 4)経ロブドウ糖負荷試験が正常範囲内にあること(50gGTTで170mg/dl以下)
 5)内分泌疾患など他の疾患がないこと

4.ネフローゼ症候群

著者: 小山哲夫 ,   小林正貴

ページ範囲:P.2133 - P.2136

■診断基準
 ネフローゼ症候群の診断基準(厚生省特定疾患調査研究班,昭和48年)1)を表1に示す.
 (参考)WHOの診断基準:大量の尿蛋白,浮腫,低アルブミン血症およびしばしば高コレステロール血症を呈する症候群.多彩な糸球体障害から生ずる.

5.特発性浮腫

著者: 長瀬光昌

ページ範囲:P.2137 - P.2137

■概念
 現在では特発性浮腫についての明確な定義というものはみあたらないが,内外の諸家により提唱されているものの共通点をあげて1つの案としたい.しかし元来,特発性浮腫とはその名の示すごとく,浮腫を呈する既存の疾患を除外した浮腫状態,体重増加状態をよぶ傾向にある.したがって,この状態の原因,機序が解明されるにしたがって,1つの疾患単位として"特発性浮腫"とよばれる群より離れていく可能性も含んでいるわけである.現在では,おおむね次のような特徴的臨床所見を有する.
 1)初経〜閉経の間の女性にみられる.
 2)浮腫(体重増加)が周期的(cyclic)に出現するが,この周期は特異的なものでなく,月経周期とは関係ない.
 3)しばしば感情的,精神的不安を示す.
 4)浮腫の原因となる他の疾患が否定できる.

6.低Na血症,高Na血症

著者: 秋葉隆

ページ範囲:P.2138 - P.2138

 ■低ナトリウム血症
 1)疾患概念 血清ナトリウム(Na)濃度は138~147mEq/l(当院正常値)と非常に狭い範囲に調節されている.低Na血症を便宜上血清Na濃度が135mEq以下と定義すると,入院患者の経過中に比較的高頻度(15~25%)にみられる電解質異常である1).心不全,肝硬変などの重症疾患に伴う1症状として起こることも多い.また,甲状腺機能亢進症,脳下垂体機能低下症,Addison病などの症状として起こり,原疾患診断のきっかけとなることがあるので,低Na血症の病因の検索は重要である.

7.低K血症,高K血症

著者: 秋葉隆

ページ範囲:P.2139 - P.2139

■低力リウム血症
 1)疾患概念
 細胞内外カリウム(K)濃度は細胞膜の膜電位の形成に重要で,細胞の機能を大きく支配している電解質である.体内K総量はNa摂取量,アルドステロン,酸塩基平衡などにより調節される腎臓からの排泄量と,経口摂取量と,下痢などによる喪失量とにより決まる.さらに体内K総量,pH,アルドステロン,インスリン,カテコールアミンなどにより細胞内外の分布が調節され,最終的にK血清濃度が決定されている.したがって,血清K濃度の異常は,前記のどの異常によっても起こりうる.
 2)診断の問題点
 血清K濃度の測定には,血清Na濃度の測定と同様,炎光光度計法とイオン電極法のいずれかが用いられている.どちらの方法も安定で,血清K濃度の低値は,ほとんどの場合体内総K量の低下を意味するが,稀にアルカローシスなど体内総K量の低下を伴わない,細胞内へのKの移動による低K血症があるので,動脈血ガス分析などを施行すべきである.

8.高Ca血症,低Ca血症

著者: 三木隆己 ,   森井浩世

ページ範囲:P.2140 - P.2140

■疾患概念
 カルシウム濃度異常に基づく症状には,イライラやシビレなどの不定愁訴から,低カルシウムによるテタニーや高カルシウムによる脱水,腎不全,さらに意識障害にいたるまで多彩である.しかし,オートアナライザーの導入により,無症状の症例の頻度が増加している.総カルシウム低下の原因として副甲状腺機能低下症,副甲状腺切除のほか,高カロリー輸液患者においても認められるが,最も頻度の高い原因は低蛋白血症である.一方,著しい高カルシウム血症は悪性リンパ腫,骨髄腫やその他の悪性疾患が原因であるが,軽度の高カルシウム血症は,サイアザイド利尿剤やビタミンD投与患者に認められる.高カルシウム血症のうち副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍によるものが70〜80%を占める1)

9.高P血症,低P血症

著者: 西沢良記 ,   森井浩世

ページ範囲:P.2141 - P.2141

■診断基準(表1)
 ■概念
 燐(P)は生体内で無機および有機の燐酸として存在し,骨や細胞の重要な成分として用いられる.燐酸は細胞内において高エネルギー燐酸化合物(ATPなど)としてエネルギー代謝に必須である.
 P代謝の調節は,①経口摂取量,②腸管からの吸収〔1,25(OH)2D3による促進〕,③尿中排泄(PTH,カルシトニンは再吸収抑制,代謝性アシドーシスや細胞外液増加による排泄促進),④血清Pレベル(PTH,カルシトニン,ビタミンD,ステロイドホルモン,エストロジェンなど),⑤P代謝調節機構(ビタミンD活性化機序への血清P濃度のフィードバック機構)などが関与因子と考えられる.これらの因子の障害により,種々のP代謝異常がみられる(表2).

10.高Ca尿症

著者: 岡崎亮

ページ範囲:P.2142 - P.2142

■診断基準案(表)
 ■疾患概念と疫学
 高Ca尿症は,尿路Ca結石の危険因子として最も重要なものである.Ca結石患者の約40%にみられ,その家系内にもほぼ同様の頻度でみられる.一方,高Ca尿症の発見を契機としてみつかる疾患も少なくない.この場合,高Ca尿症は二次性のものであり,その代表として原発性副甲状腺機能亢進症(1゜HPT)がある.明らかな基礎疾患がなく,高Ca尿症がある場合を特発性高Ca尿症と呼ぶ.表2に高Ca尿症を原因別に分類した.

11.SIADH

著者: 清水倉一

ページ範囲:P.2143 - P.2145

■診断基準
 診断基準ならびにその補助診断所見を表1に示した.また,具体的数値として,SIADHを呈した異所性ADH産生腫瘍の検査成績を表2に示した.

13.呼吸性アシドーシス,アルカローシス

著者: 飯野靖彦 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.2148 - P.2149

■疾患概念
 呼吸性アシドーシスとは,PaCO2が増加し,血液のH+増加あるいはpH減少(アシデーミア)を生ずる病態である.また,逆に呼吸性アルカローシスとは,PaCO2が減少し,血液のH+減少あるいはpH増加(アルカレーミア)を生ずる病態である.前項の代謝性変化と異なることは,原因が呼吸器(肺)にあることである.
 呼吸性アシドーシス,呼吸性アルカローシスでは,基本的変化として表1に示すようなPaCO2の増加あるいは減少があり,これに反応して腎での代償が生じ,HCO3-の増加あるいは減少を生ずる.ただし,代謝性変化による呼吸性代償とは異なり,呼吸性変化による腎での代償には数日を要する.つまり,急性と慢性の呼吸性酸塩基障害では,その代償の程度が異なる.急性変化においては,呼吸性アシドーシスあるいは呼吸性アルカローシスも,ともにPaCO2の変化に対し0.75の〔H〕変化を生ずる.これは体内での炭酸-重炭酸系緩衝系以外の緩衝作用(骨,赤血球,蛋白)によるものである.慢性になると腎でのHCO3-産生が代償作用として変化し,表1に示したHCO3-の変化が生ずる.

14.尿細管性アシドーシス

著者: 塚本雄介

ページ範囲:P.2150 - P.2151

■疾患概念
 尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis;RTA)とは,尿細管障害により生じる高Cl血症性代謝性アシドーシスで,血清anion gap(〔Na++K+〕-〔HCO3-+Cl-〕)が増加していない病態を示す.最初のAlbrightら(1946)の定義によれば,糸球体機能が低下していないことが前提とされていたが,Kidney Nomenclature(1975)によれば,糸球体濾過値の低下があっても,その程度に比例しない尿酸性化能の高度な障害があればよいと記されている.
 RTAの診断基準は未だ作成されていないが,病態が詳細に追求されるにしたがい,その分類は逆に混沌としてきている.したがって,ここでは日常診療を念頭に置き,診断上有用な分類ということで整理してみたい.

15.Fanconi症候群

著者: 折田義正 ,   山内淳 ,   鎌田武信

ページ範囲:P.2153 - P.2153

■概念
 1936年Fanconi1)が最初にまとめた本症の概念は,発育障害を伴うくる病で,尿蛋白,腎性糖尿,低リン血症がみられるというものであった.シスチン蓄積症(cystinosis)と同一視された時期もあった(Lignac-Fanconi症候群)が,その後表1に示すごとく,種々の先天性代謝異常症や薬物中毒などの後天性疾患でも同様の症候を起こしうることが明らかとなった.現在では,主として近位尿細管におけるアミノ酸,ブドウ糖,リン酸,重炭酸,尿酸,低分子量蛋白,K,Ca,Na,Mg,水など多彩な再吸収障害を特徴とする尿細管疾患として捉えられ,古典的概念で最も特徴的であったくる病様の骨病変は必ずしも必須とされない場合が多い.

16.原発性糸球体疾患

著者: 甲田豊 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.2154 - P.2157

■診断基準
 腎臓疾患は数多いが,原発性糸球体疾患は最も頻度が高く,予後もさまざまであるため,実地臨床上十分な理解が必要である.原発性糸球体疾患は,しばしばその病型診断について理解し難い印象を与えてきたが,現在はわが国でも,WHO(1982)の分類が多用されるようになった1)
 WHOの分類は,臨床概念を症候群として,組織形態概念と明確に区別しており,それぞれ臨床症候群分類(表1)と純粋に形態学的立場からの光顕組織像の分類(表2)を示している.これに加え,わが国で広く用いられている疾患概念(表3)がある.この中には臨床的ならびに病理学的に特徴ある疾患単位として,ほぼ確立している疾患概念がある.

17.IgA腎症

著者: 酒井紀

ページ範囲:P.2158 - P.2159

■診断基準
 IgA腎症の診断基準は国際的に統一されたものはないが,本症の提唱者であるBergerらが報告した形態学的な所見を中心とした疾患概念が診断の基本となっている.
 本症の形態学的診断基準としては,表に示すような光顕・電顕・蛍光抗体法などの所見が示されている.その概要は,糸球体メサンギウムにIgAのびまん性沈着を認め,メサンギウム増殖を主体とする病変をきたす原発性糸球体疾患をさしている.しかし,本症の確診には,本症の免疫組織像ときわめて類似した所見を呈する紫斑病性腎炎,肝硬変に合併した肝性糸球体硬化症,あるいは一部のループス腎炎などを臨床的に除外診断する必要がある.

18.Alport症候群

著者: 赤司俊二

ページ範囲:P.2160 - P.2160

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 本症は無症候性血尿ないし蛋白尿で発症し,同一家系内に進行性腎炎(腎不全),神経性難聴の患者が存在するもので,男性での予後が不良である.本症の病因としては糸球体基底膜構成成分の遺伝的な異常が指摘され,本症の基底膜にはGood-pasture症候群でみられる抗基底膜抗体を生じる抗原が認められないとされている.遺伝形式は一般的には常染色体優性遺伝であるが,常染色体劣性遺伝,伴性優性遺伝の報告もある.
 本症は比較的稀な疾患であると考えられていたが,集団検尿の普及で無症候性の尿異常者の検討が進むにつれ,その発見率は高まっている.

19.家族性良性血尿症

著者: 赤司俊二

ページ範囲:P.2161 - P.2161

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 1966年McConville1)らは,家族検尿にて血尿の認められるものが存在するにもかかわらず,家族歴に進行性腎炎が認められず,本人の腎機能もまったく正常である疾患の存在を指摘し,Alport症候群と区別され,家族性良性血尿性の存在が確立された.1973年Roger2)らが,本症は糸球体基底膜の広範な菲薄化が特徴的所見であることを指摘し,thin membrane diseaseとも呼ばれている.遺伝形式は常染色体優性遺伝とされ,その頻度は高く,集団検尿で発見される顕微鏡的血尿症の10〜30%にみられる.

20.悪性腫瘍に伴う腎障害

著者: 小柳光 ,   成清卓二

ページ範囲:P.2163 - P.2163

 悪性腫瘍患者では,原疾患や病期によりさまざまな腎障害が生じ得る(表).的確な管理,治療のためには,予想される腎障害の認識と,発現した腎障害の病態の速やかな把握が必要である.診断基準は現時点では提唱されていないが,本稿では悪性腫瘍に伴う主な腎障害について概説し,診断の手掛かりとしたい.

21.糖尿病性腎症

著者: 大沢源吾

ページ範囲:P.2164 - P.2165

■疾患概念と疫学
 糖尿病病態が長年月持続したことに伴って起こった,細小血管症(microangiopathy)の一環としての主として糸球体の硬化性病変(diabeticglomerulosclerosis)に基づく,蛋白尿を主徴とした腎障害を糖尿病性腎症(diabetic nephropathy)と呼んでいる.
 なお,糖尿病の腎障害には糖尿病に特異性の高い糸球体硬化症や細動脈病変のほかに,非特異的ながら動脈粥状硬化症や腎盂腎炎なども高頻度に合併し(表),臨床症候的にこれらの病変を区別することが必ずしも容易でないし,多くの事例でこれらの腎病変が混在するという理由から,これらの病変を含めて糖尿病に伴う蛋白尿,浮腫,高血圧,高窒素血症などの諸症状を一括して糖尿病性腎症とよんでいる場合もある2)

22.紫斑病性腎炎

著者: 酒井糾

ページ範囲:P.2166 - P.2167

■診断基準(表1)
 ■疾病本態の歴史
 アナフィラクトイド紫斑病の最初の報告は19世紀初期にさかのぼり,William(1808)が四肢の浮腫と紫斑を伴ったものをpeculiar visceralcrisesとして記載したのが始まりといわれている.その後30年を経過して,Schönleinが関節痛を伴った紫斑病を"peliosis rheumatica"として報告し,続いてHenoch(1874)が消化器症状を伴う紫斑病4例を報告した.
 1900年代に入り,Frank(1915)が本疾患に対し,初めてアナフィラクトイド(anaphylactoid)という言葉を適用し,Osler,Glanzmannらの支持をうけて,一応アナフィラクトイド紫斑病(anaphylactoid purpura)としての症候論が確立された.その頃Henoch,Oslerらにより,本疾患に腎炎症状を合併することが指摘され,腎不全例や死亡例も報告された.しかしながら,最初の報告からすでに180年を経過した現在,未だ発症機序に対する定説がなく,治療法も対症療法の域を出ていないのが現状である.

23.溶血性尿毒症性症候群

著者: 酒井糾

ページ範囲:P.2169 - P.2169

■診断基準(表)
 ■疾病の本態とその特徴
 溶血性尿毒症性症候群(Hemolytic UremicSyndrome,以下HUSと略す)は急性腎不全,赤血球の破壊を伴った溶血性貧血と血小板減少を特徴とする症候群であり,単一の疾患を示しているものではない.このためHUSは世界各地でみられるが,その頻度,年齢,重症度に相違がみられることも理解できる.
 アルゼンチンではすでに,1,000近くの症例が報告されており,その患者数は年々増加してきている.これは,その地域の小児科医や一般医の病気に対する認識が高まってきたことが,一番の原因としてあげられている.そのほかの国やわが国においてもHUSは多数報告されているが,小流行をたまにみることはあるものの,一般に散発し,多くの施設において少数例を経験しているのが現状である.

24.肝腎症候群

著者: 中本安

ページ範囲:P.2170 - P.2171

 肝腎症候群(hepatorenal syndrome;HRS)の診断基準は特徴的な腎機能パターン,つまり病態生理所見が背景になっているので,まず,それについて言及し,ついで診断基準を述べる.

25.間質性腎炎

著者: 北本清

ページ範囲:P.2172 - P.2173

■疾患概念
 間質性腎炎は,種々の原因による炎症性変化を腎の間質および尿細管に認める病理組織学的疾患概念といえる.間質にはリンパ球,形質細胞を主とした細胞浸潤および浮腫または線維化がみられ,尿細管炎も散在する.
 臨床的には発症および経過から急性間質性腎炎と慢性間質性腎炎とに大別することができるが,それぞれの原因は多様である(表1).

26.尿路感染症

著者: 松本文夫

ページ範囲:P.2174 - P.2175

 尿路感染症は腎尿路系の微生物による炎症性疾患であって,上部尿路感染症(腎盂腎炎)と下部尿路感染症(膀胱炎)に分別される.本症の原因微生物のほとんどはグラム陰性桿菌であり,ブドウ球菌,腸球菌以外のグラム陽性菌の分離頻度はきわめて低率である.また本症は女子において好発するが,とくに思春期以降増加傾向著しく,男子では前立腺肥大のみられる年齢以降好発する.腎盂腎炎の多くは偏腎性である.
 尿路感染症は感染部位によって,治療法,予後を異にするので,本症では腎尿路系における感染症の存否とともに感染部位の決定が診断の要点となる.下部尿路感染症は臨床症状によって診断が可能であるのに対して,上部尿路感染症とくに慢性症は不定の臨床症状にとどまり,しかも腎不全にまで進展することがあるので,尿路感染症の診断は腎盂腎炎の診断に集約される.

27.逆流腎症

著者: 小磯謙吉

ページ範囲:P.2177 - P.2177

■逆流腎症の診断基準
 表に逆流性腎症の診断基準を示す.

28.急性腎不全

著者: 菱田明 ,   山田雅仁

ページ範囲:P.2178 - P.2179

■診断基準
 急性腎不全は,急激な腎機能の低下によって体液の恒常性が維持できなくなった状態であり,急速な高窒素血症の進行,尿毒症症状,電解質異常,代謝性アシドーシスなどを認める状態と定義される.しかし,どの程度腎機能が低下した場合に急性腎不全とするか,また,血圧の低下,尿管閉塞など腎以外の原因で腎機能が低下している場合も含めるかなどについて一致した見解はない.したがって,明らかな診断基準といえるものはない.

29.慢性腎不全

著者: 川口良人

ページ範囲:P.2180 - P.2181

■診 断1)
 1)血清クレアチニン濃度が2mg/100ml以上を持続しているもの.
 2)血清クレアチニンを測定していないときは,血液尿素窒素(BUN)が20mg/100ml以上であるか血清残余窒素(NPN)が30mg/100ml以上を持続しているもの.
 診断基準使用のポイント BUNのみで腎不全の確定診断を下すことは適切ではなく,必ず血清クレアチニン濃度を用いるべきである.なぜならばBUNは低栄養,感染症,発熱,消化管出血,消耗,ステロイド使用など生体が異化亢進状態にある場合,また脱水により体液量が減少している場合に腎機能以上に上昇するからである.NPNは測定法が繁雑であり,臨床的診断価値はない.血清クレアチニンは個体の筋肉量に依存して正常値に多少の個体間の差は存在するが,血清濃度は安定しており,臨床的には糸球体機能を直接反映するものとみなすことができる.すなわち,血清クレアチニン濃度が正常域以上にあるならば糸球体濾過値GFR(クレアチニン・クリアランスで代行)は50%(正常を100%とした場合)以下と考えることができる(図).

30.腎静脈血栓症

著者: 高橋進

ページ範囲:P.2182 - P.2183

■診断基準(表1)
 腎静脈血栓症(Renal Vein Thrombosis;RVT)の診断上の要点は,第1にRVTに関する正確な知識があって,初めて疑診が可能となり,次に確定診断は,腎静脈内のclottを証明することである.RVTを疑い,次のステップとして,腎盂撮影,CT,超音波などの画像診断が不可欠となる.

31.妊娠中毒症

著者: 木田寛 ,   竹田慎一 ,   横山仁

ページ範囲:P.2184 - P.2184

■概念と疫学
 妊娠中毒症は,腎疾患,高血圧などの基礎疾患あるいは既往がなく,妊娠によりはじめて高血圧,蛋白尿,浮腫が出現するに至った病態を総括したものであり(表1),妊娠の5〜10%にみられる.

32.アルミニウム骨症

著者: 井上聖士

ページ範囲:P.2185 - P.2185

■疾患概念と疫学
 1976年Alfrey1)らが見当識障害,痴呆などを呈した透析患者の脳組織にアルミニウム(Al)が高濃度に含まれていることを発見,透析脳症の原因を脳のAl中毒と報告した.その後,これらの患者に高頻度に治療抵抗性の骨軟化症の合併がみられ,これもAlによる骨化障害によることが解明されAl骨症と呼ばれるようになった.
 わが国でも,とくに水道水中のAl含有量の多い地方(200ppb以上)や,高リン血症治療に用いるアルミゲルを多量に服用した透析患者でAl骨症の発生が散見されたが,Al骨症の概念が広く知れわたり,予防策が講じられてからは,重症なAl骨症の発生は著減している.

33.透析脳症

著者: 鈴木正司

ページ範囲:P.2187 - P.2187

■疾患概念と疫学
 本症は長期透析を受けている慢性腎不全例に出現する,特有な代謝性脳症である1).その本態は,アルミニウム(Al)過剰蓄積によるものと考えられている2).本邦での発生は比較的少ないが3),かつては欧米,豪州の各国で,一定地域内の透析施設に多発する傾向にあった.透析液中の高濃度のAlがその主要原因となり,100〜500μg/lを超えていると本症発現の危険性が高い.高濃度では数カ月でも発症する.近年,原水中のAl含量が多い施設では水処理を完全に行うようになったため,本症発現は激減している.稀にはAl含量が安全域(5〜10μg/l)の施設での本症発現例が報告されているが,この場合には経口摂取されたAl含有制酸剤や燐キレート剤が原因と判断される.

34.(透析による)手根管症候群

著者: 下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.2188 - P.2189

■診断基準(案)(表)
 ■疾患概念
 手根管症候群は,一般に中年の女性に多くみられる特発性のものと,手根管部の外傷や職業的に手関節を反復して動かす場合や,甲状腺機能低下症,末端肥大症,アミロイドーシスなどに合併して起こるものとが知られている.
 1975年Warren and Otieno1)が血液透析患者に手根管症候群の発症が多いことを報告したことから,透析患者の特異な合併症としてこの病気が注目されるようになった.

35.透析アミロイドーシス

著者: 下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.2190 - P.2190

■診断基準(案)(表1)
 ■疾患概念
 アミロイドーシスとは,β-構造を示す特異なアミロイド蛋白が細線維を形成して,細胞間隙に沈着する疾患をいう.最近,長期血液透析患者に手根管症候群を典型的な症状とする骨・関節症状が発症し,その病変部には,通常の透析では除去されないβ2-microglo-bulinを構成成分とするアミロイドの沈着がみられることが明らかにされた1,2).さらに,β2-microglobulin由来のアミロイド沈着は骨・関節部位にとどまらず,内部実質臓器にも及ぶことが知られるようになった.したがって本症は,全身性のアミロイドーシスと理解される.そして長期の(血液)透析患者にみられることから,透析アミロイドーシス(dialysis amyloidosis)と呼称される.
 従来,全身性アミロイドーシスは,免疫グロブリンL鎖をアミロイド蛋白とするALタイプ,アミロイドA蛋白のAAタイプ,異型アルブミンのAFタイプの3つに分類されていたが,本症は4番目の新しいタイプに位置づけられる.このアミロイドはβ2-micro-globulinを構成蛋白とすることから,"AB"の略称が適当と考えられる(表2).

36.多嚢胞化萎縮腎と腎癌

著者: 石川勲

ページ範囲:P.2191 - P.2191

■多嚢胞化萎縮腎の診断基準案
 1)多発性嚢胞腎症を除外した他のすべての末期腎疾患.
 2)血液透析や腹膜灌流など透析療法を受けている場合,ないし長期にわたる慢性腎不全状態にあるとき.
 3)臨床的にはCTスキャンまたは超音波検査で,腎の両側に1〜5個以上の嚢胞を示す低吸収域ないし低エコー域がみられるとき.病理学的には嚢胞が腎実質の25〜40%以上を占めているとき.
 4)腎が透析期間や腎不全期間に比して腫大しているとき.
 5)嚢胞の破裂や腎癌の合併による肉眼的血尿をみたとき.
 診断基準として,1)〜3)が必須である.

37.不均衡症候群

著者: 木野恭子 ,   秋沢忠男

ページ範囲:P.2192 - P.2192

■診断基準(表)
■疾患概念と疫学
 不均衡症候群とは,腎不全患者血中の貯留物質が血液浄化法(主として血液透析)により除去されることに起因する症状を総称し,狭義には血漿・脳組織間の,広義には各体液コンパートメント間の溶質バランスの異常に基づく症状と定義される.発症頻度は諸透析技法により異なるが,広義には50%を越える.
 Kennedyらにより,急激な透析に伴い頭痛,悪心,嘔吐,不安感,視力障害,譫妄状態,意識障害,全身痙攣,昏睡などを生ずる症候群として報告された(1962年).彼らはそのメカニズムを,脳から血液関門を経て血漿中へ移動する溶質の移行速度は,血漿から透析により体外に除去される速度に比して遅く,血漿と脳との間に尿素濃度較差が生じ,それによる浸透圧差を是正するため血漿より脳に水の移動が起こり,脳浮腫,脳圧亢進をきたすと説明した(reverse urea effect).

38.CAPD腹膜炎

著者: 酒井信治

ページ範囲:P.2193 - P.2193

■診断基準(表)
 ■疾患概念と疫学
 古典的な腹膜炎は,早期に外部から発見し診断を下すことが困難であって,生命をも脅かす重篤な疾患である.これに対し,CAPD腹膜炎は腹腔との交通があり,1日に4回行うバック交換時に排液を観察することによって早期発見ができ,CAPD治療により腹腔洗浄がただちに行えるという特徴がある.したがって,ほとんどのCAPD腹膜炎は,適切な抗生剤治療を行うことにより短期間で治癒する.現在のCAPD療法は,腹腔とバック間の完全なクローズドシステムの確立とバック交換操作の改良により,CAPD腹膜炎の発生頻度は著しく減少してきている.

39.腎移植における拒絶反応

著者: 東間紘

ページ範囲:P.2194 - P.2195

■腎移植における拒絶反応の種類と主要所見(表1)
 腎移植の大多数はいわゆる同種間で行われる(稀に同系=一卵性双生児間で行われる)ことが多いので,非自己移植抗原(移植腎)に対し,レシピエントは免疫学的拒絶反応を生じることが多い.最も一般的な拒絶反応は急性拒絶反応で,これは移植抗原(HLA Class IおよびClass II)を認識した後およそ1週間ぐらいで発症する細胞性免疫反応が主体であるが,このほかに表1のように非常に早い時期から起こってくるものもあれば,慢性進行性に移植腎が破壊されていく慢性拒絶反応もある.

X.神経・筋

1.Bálint症候群

著者: 服部孝道

ページ範囲:P.2199 - P.2199

■疾患概念と疫学
 Bálint1)が1909年に精神性注視麻痺(Seelen-láhmung des Schauens),視覚性運動失調(optische Ataxie),空間性注意障害(ráumliche Störung der Aufmerksamkeit)を有する症例の臨床病理学的所見を発表して以来,これらの3症状を有する症例がBálint症候群の名称で発表されてきた.現在では空間性注意障害は視覚性注意障害(disturbance of visual attention)と呼ばれている.Bálint症候群は非常に稀であるが,個々の症状が単独で見られることは決して稀でない.

2.多発梗塞性痴呆

著者: 水谷智彦

ページ範囲:P.2200 - P.2201

■疾患概念と疫学
 多発梗塞性痴呆(Multi-infarct dementia;MID)という言葉は,Hachinskiら1)が1974年の総説で用いたのが最初のようである.そこでは,脳動脈硬化のみでは痴呆は生じないこと,また,血管病変が痴呆の原因となる時は,大小の脳梗塞の多発によって生ずること(MID)がそれぞれ強調されている.
 MIDが脳血管性痴呆と同義語のように使われる時もあるが,痴呆は梗塞ではないBinswanger型脳症(progressive subcortical vascular encephalopathy)や多発脳出血,視床・後大脳動脈領域などの限局性脳梗塞でも起こることから,MIDは脳血管性痴呆の主因ではあるがそのI型であり,脳血管障害による痴呆の総称として用いるのは適切ではないとする考えが現在一般的である.

3.Subcortical Arteriosclerotic Encephalopathy(いわゆるBinswanger病)

著者: 東儀英夫

ページ範囲:P.2202 - P.2203

■疾患概念と疫学
 この病態はBinswanger(1894)によって最初に記載されたものであり,脳血管障害による白質の禰漫性の脱髄を主要所見とする.Encephalis subcorticalis chronica progressiva(Binswanger,1984),subcortical arteriosclerotic encephalopathy(Olszewski,1962)あるいはBinswanger病とも呼ばれる.しかし,Binswangerの報告は肉眼所見の記載のみであったため,のちにさまざまな解釈の余地を残した.本来は病理学的な概念であるにもかかわらず,病理学的な定義も厳密になされていない.Binswanger病という名称を避けるべきであるという意見もある.しかし,CTやMRIが用いられるようになってから,CT上,白質の瀰漫性の低吸収域を呈する例,あるいはMRIでperiventricular hyperintensityを示す例をBinswanger病として扱った論文が多数みられるようになった.
 そこで,現在どのような例がBinswanger病として扱われているかを念頭において,診断基準(案)(表)を作成した.

4.Willis動脈輪閉塞症(モヤモヤ病)

著者: 内山真一郎 ,   小林逸郎

ページ範囲:P.2204 - P.2205

■診断基準
 表1に厚生省特定疾患研究班による診断の手引きを示す.

5.上矢状静脈洞血栓症

著者: 荒木信夫 ,   厚東篤生

ページ範囲:P.2206 - P.2207

 上矢状静脈洞血栓症は従来,ほとんど剖検によりはじめて診断されてきた.近年,脳血管撮影やCTスキャンの開発により,生前に診断される症例が多くなり,さまざまな知見が得られてきたが,症状も多様であり,比較的稀な疾患でもあるため,診断基準の作成は困難であるし,実際に作られていない.ここでは,診断に役に立つと考えられる症状,基礎となる疾患,検査所見などを中心に述べる(表).

6.Tolosa-Hunt症候群

著者: 城下裕

ページ範囲:P.2208 - P.2209

■疾患概念と疫学
 Tolosa-Hunt症候群は海綿静脈洞の非感染性非特異的肉芽腫性炎症が原因で同部位を貫通する脳神経III,IV,V1(三叉神経第1枝),VIの障害を生じ,別名Painful ophthalmoplegiaともいわれステロイドが有効な疾患である.

7.亜急性硬化性全脳炎(SSPE)

著者: 浜野建三

ページ範囲:P.2210 - P.2211

■疾患概念と疫学
 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は,小児から青年期にみられる中枢神経系の変性疾患で,Bouteilleら1)によって1965年,脳組織中にパラミキソウイルス様構造物が発見され,その後,脳組織中の麻疹抗原の存在や髄液および血清中の麻疹抗体の上昇などの報告がなされ,麻疹ウイルスと関連して発症することが確認されたが,その真の病因・病態については今なお議論のあるところである.
 SSPEの頻度は報告によって多少異なるが,米国での356例を対象とした1960〜74年での検討2)では,麻疹罹患者100万人あたり年間5.2〜9.7人,平均6.2人の発症をみている.男女比では2.4と男子に多い.一方,本邦では,奥野ら3)の1963〜81年における113例の調査によると,麻疹罹患者100万人あたり年間0.7〜22.7人,平均9.2人が発症している.しかし,麻疹ワクチンが普及した後では,麻疹接種者100万人あたり年間発症数0.5〜1.1人(米国),0.5人(本邦)と発症頻度が激減している.

8.進行性多巣性白質脳症(PML)

著者: 高橋昭

ページ範囲:P.2213 - P.2213

■疾患概念
 本症は,Papova群のpolyoma SV 4O-K亜群に属するJCウイルスによるヒトの中枢神経の日和見感染症で,いわゆるslow virus infectionと考えられる疾患である.病理学的には特異なoligodendrogliaとastrocyteの出現を伴う多巣性の脱髄を特徴とする.
 リンパ系の増殖性疾患,とくに慢性リンパ性白血病やHodgkin病を基礎疾患にもつ者に発症しやすく,免疫不全状態を前提とした特殊なウイルス感染症とされている.

9.Creutzfeldt-Jakob病

著者: 黒田康夫

ページ範囲:P.2214 - P.2215

 クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease;CJD)は,臨床,検査および病理所見のいずれにおいても特徴があり,診断は困難ではない.しかし,診断基準はわが国だけではなく,外国においてもまだ作成されていない.したがって,本稿では厚生省遅発性ウイルス感染調査研究班(班長:立石潤九大教授)の試案(未発表)を参考にして筆者が作成した診断指針を提示し,解説を加える.

10.HTLV-I-associated Myelopathy(HAM)

著者: 納光弘

ページ範囲:P.2216 - P.2217

■診断基準
 昭和61年度厚生省特定疾患調査研究班(班長:井形昭弘)において,HTLV-I-associated myelopathy(以下HAM)の診断指針が表1のように改定された.

11.Acute disseminated Encephalomyelitis

著者: 塚田直敬

ページ範囲:P.2218 - P.2219

■疾患概念および疫学
 Acute disseminated encephalomyelitis(ADEM)は臨床的に感染後あるいはワクチン接種後に,多彩な責任病巣に基づく神経症状を呈するもので,急激な炎症症状を伴って発症し,通常再発は認められず,単相性の経過をとる疾患である.病理学的に中枢神経系に散在性に静脈周囲性の脱髄を伴う炎症性細胞浸潤が認められる.
 発生頻度は日本では比較的稀な疾患1)であるとされているが,欧米では多発性硬化症(MS)が多いことに対応して,ADEMは稀な疾患ではないとされている2).疫学的に感染およびワクチン接種による特異的な流行の局在性は認められない.死亡率は25〜30%で,後に神経症状を残すものが30%あるとされる.ADEMは成人よりも小児期によくみられることが多い3)

12.多発性硬化症

著者: 田平武

ページ範囲:P.2220 - P.2222

 多発性硬化症(MS)を臨床的に確実に診断する方法はまだないので,その診断は病歴,臨床症状,神経学的所見,検査所見から診断基準を参考にして行われる.MSの診断基準は沢山あり,歴史的に変遷してきている1).以下によく用いられる診断基準を2つ示す.

13.神経Behcet病

著者: 笹ケ迫直一 ,   糸山泰人

ページ範囲:P.2224 - P.2225

 Behget病(B病)は,再発性の口腔内アフタ,陰部潰瘍,皮膚病変,ブドウ膜炎を主症状とする原因不明の炎症性疾患である.
 1937年のBehcetによるB病の提唱以来,それに伴う精神・神経症候は古くから注目されている.B病の中で神経系合併症の頻度は約10%と言われているが,そのうちその精神・神経症候が主症候となり,生命や機能的予後に大きな脅威となるものをneuro-Behcet's disease(N-B病)と定義してよいものと考える.

14.Mollaret's Meningitis

著者: 柳務

ページ範囲:P.2227 - P.2227

■疾患概念と疫学
 1944年にMollaretが初めて報告した再発を繰り返す原因不明の良性反復性無菌性髄膜炎(Mollaret髄膜炎)は稀な疾患で,その報告は欧米では40数例,本邦では12例余にすぎない.発症年齢は1歳から83歳にわたり,好発年齢,性差はない.
 臨床経過は特徴的で,頭痛,発熱,項部強直などの髄膜炎の症候が急速に出現し,数日で消退するが,数日から数年の不規則な間隔で再発が起こる.再発回数は最高37回である.髄液はリンパ球を主体とする種々の細胞増多を示すが,初期には内皮細胞様のMollaret細胞が出現する.髄液中のγグロブリン,IgG,IgMがときに上昇する.

15.正常圧水頭症

著者: 田代邦雄

ページ範囲:P.2228 - P.2229

■疾患概念と疫学
 正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus,以下NPH)はAdams, Hakimら(1965)により提唱された概念で,痴呆,歩行障害,失禁を3主徴とし,髄液圧が正常を示す交通性水頭症であり,髄液短絡術により治療可能な痴呆症として注目を集めるようになった.
 本邦においては1978年より厚生省特定疾患特発性脳室拡大調査研究班が発足し,ここでいう特発性脳室拡大とはNPHの概念にあたり,「成人において,脳室は拡大しているにもかかわらず髄液圧は正常範囲内にあり,神経症候として精神症状(dementia),歩行障害,尿失禁の症候を備えているか,あるいはそのうち2つの症候を備えているもの」(森安信雄班長,総括研究報告より)と定義され,NPHの成因,治療,予防に関する全国レベルの研究が開始されている.

16.本態性(良性)頭蓋内圧亢進症

著者: 長嶋淑子

ページ範囲:P.2230 - P.2231

■疾患概念
 "本態性頭蓋内圧亢進症"とは,頭蓋内圧の亢進を示す症状(表1を参照)があるが,髄液圧の上昇以外はmass lesionを示唆する異常検査所見が見出されず,概して良好な経過をたどる症候群の総称である.本症は独立した疾患単位ではなく,種々の疾患に伴って起こり得る病態の1っである.
 本症を来す疾患としては次のようなものが掲げられている3)

17.Primary Lymphoma of the Central Nervous System

著者: 設楽信行

ページ範囲:P.2232 - P.2234

 中枢神経系に発生する頭蓋内悪性リンパ腫の症例が最近増加している.これはリンパ球サブセットに対するモノクローナル抗体や,免疫グロブリンに対する免疫組織化学的染色法が普及したことと,最近の欧米での後天性免疫不全症候群(acquired immuno-defciency syndrome:AIDS)に合併する頭蓋内悪性リンパ腫の急増が要因であると考えられている.

18.Chiari奇形,頭蓋底陥入症

著者: 森惟明 ,   坂本貴志

ページ範囲:P.2236 - P.2237

■Chiari奇形
 1.診断基準
 臨床症状だけから診断することはできず,診断は神経放射線学的検査によらなければならない(図1,表).
 2.疾患概念と疫学
 Chiari奇形は後脳の奇形で,小脳扁桃あるいは同時に小脳下部が大後頭孔レベルより舌状に下垂突出し,延髄も進展,歪曲し,大後頭孔を通って脊柱管内へ下降し,下垂したこれらの構造と上部頸髄との間にクモ膜の肥厚癒着を来したものである.後頭蓋窩は小さく,第4脳室は大後頭孔より下降することもあるが,それより上にとどまる場合もある.

19.Lennox-Gastaut症候群

著者: 原美智子

ページ範囲:P.2238 - P.2240

■疾患概念
 国際てんかん連盟(ILAE)が1985年てんかんおよびてんかん症候群の国際分類の試案を示した.これはてんかんの臨床像と脳波学的特徴を関連づけたclinico-electrical aspectと,年齢依存性という概念を基盤としていることが特徴となっている.本症はその代表的な疾患である(表1).乳幼児期に発症する関連疾患にはWest症候群,EIEE(大田原),SMEI(Dravet)などがある.その特徴は表2に示した.年齢依存性というのは,てんかんの発症が年齢に強い関連性を持っていることを言い,本症では幼児期前期に発症する.乳児期にあるいは10歳以降に初発することはほとんどない.発作型は短い強直発作を主軸として多種類のものが同一人に現れるのが特徴で,特異的な脳波所見を示しており,てんかん症候群を形成している.

20.Crow-Fukase症候群

著者: 相澤仁志 ,   清水輝夫

ページ範囲:P.2242 - P.2243

■疾患概念と疫学
 Crow-Fukase症候群(以下CFSと略す)は多発神経炎,浮腫,皮膚変化,内分泌障害,臓器腫大,免疫グロブリン異常など多彩な臨床症状を呈し,plasma cell dyscrasiaを特徴とする症候群である.
 1968年に深瀬らが本邦第1例1)を報告し,また国外では1956年にCrowが同様の症候を呈した症例2)を報告した.これらの報告を重視し,末梢神経疾患研究班(厚生省神経疾患研究委託費)では本症候群をCFSと呼ぶことにした.このほかにもTakatuki病,PEP症候群(a peculiar progressive polyneuritis associated with pigrnentation, edema, plasma cell dyscrasia),POEMS症候群(Plasma cell neoplasia with polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M protein andskin changes)などとも呼ばれている.

21.Neuroaoanthocytosis

著者: 鎌倉恵子

ページ範囲:P.2244 - P.2245

■疾患概念
 1960年のLevineらの記載以来,米国,英国,日本での報告が続き,1981年に34例のまとめを行った.その後,北欧,南欧,プエルトリコからの報告,日本の症例報告も続き,剖検報告も増えている.
 若年成人で発症し,家族性のあるものが多く,口周囲および四肢の不随意運動,末梢神経障害,正常または軽度低下の知能,末梢血赤血球のacanthocytosisなどの臨床的特徴を持つ.

22.Alzheimer病

著者: 松下正明

ページ範囲:P.2246 - P.2248

■痴呆の診断基準
 Alzheimer病の診断を論ずる前に,一般的な痴呆の診断基準を明確にしておく必要がある.
 痴呆の診断基準については種々の報告があるが,最近よく用いられているのは,アメリカ精神医学会によるDiagnostic and Statistical Manualof Mental Disorders,Third Edition(DSM-III)による診断基準である(表1).
 アメリカ精神医学会による診断基準の第3版(DSM-III)は1980年に国際疾患分類(ICD-9)を基本にして提案された分類法であり,精神医学の領域では頻用されているが,その作成された経緯についてはここでは触れない.最近(1987年),第3版の改訂版(DSM-III-R)が提案され,現在世界の各所で検討されている最中である.

23.Huntington病

著者: 金澤一郎

ページ範囲:P.2249 - P.2251

■疾患概念と疫学
 1.概念
 ハンチントン病とは,1873年に米国のGeorgeHuntingtonによってはじめて正確に記載された遺伝性神経変性疾患である.その特徴は,①成人発症の舞踏運動症であること,②知能・精神障害を伴うこと,③これらの症状が進行すること,④常染色体性優性遺伝すること,である1).本症の脳神経病理の特徴は大脳基底核,特に線条体の小細胞を主とする変性・脱落とそれに基づく著しい線条体の萎縮と大脳皮質のさまざまな程度の萎縮であり,脳CTによって生前にもその存在を知ることができる1)

24.Meige症候群

著者: 廣瀬和彦

ページ範囲:P.2252 - P.2253

■疾患概念と疫学
 Meige症候群は最初の報告者Henry Meigeにちなんだ冠名である.眼瞼痙攣blepharospasm(以下BS)の他に,口・顎部などの異常運動oromandibular dystonia(以下OMD)を伴い,BS-OMD症候群とも呼ばれる.さらに痙性発声障害spasmodic dysphonia(以下SD),痙性斜頸spasmodic torticollis(以下ST)を伴う症例の存在することから,頭・頸部ジストニーcranial-cervical dystoniaとも呼称されている.BS,OMD,SD,STはいずれも限局性ジストニーfocal dystoniaで,成人発症の特発性ジストニーの一種とみなす見解が注目されている.
 Meige症候群を構成する症候に関しては次のような見解がある.一つは,本症候群を本態性眼瞼痙攣essential blepharospasmと同義とみなし,BSが一次的で,その拡大あるいは随伴症状として,他の顔面筋や顎・頸部の筋に異常運動をみるとする見解である.他は,BSとOMDを本症候群の一部分症とみなし,BSとOMDの両者を示す症例を完全型,一方のみを示す例は不全型とみなす見解である.さらにOMDの性状について,ジストニーとジスキネジーを区別しジスキネジーを除外する立場と,区別しない立場とがある.

25.Parkinson病

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.2254 - P.2255

■疾患概念と疫学
 Parkinson病とは振戦,固縮,無動,姿勢保持障害を主症状とする変性疾患のひとつで,責任病巣は黒質緻密層ドーパミン性神経細胞である.本神経細胞は線条体に投射しているので線条体および黒質のドーパミンが著明に低下する.
 Parkinson病は白人に多く有病率は人口10万につき約150名,本邦ではその3分の1で約50名である.初発年齢は50代,60代が最も多いが,40歳以前の発症もあり,若年性parkinsonismと呼ばれる.中高年発症のParkinson病は大部分孤発例で遺伝性は通常見られないが,若年性では家族内発症の頻度が高い.遺伝形式は一見常染色体性優性遺伝の場合と劣性遺伝の場合がある.進行は遅くL-Dopaの導入以来,平均余命は一般人口と変わりなくなっている.

26.Shy-Drager症候群

著者: 松岡幸彦

ページ範囲:P.2256 - P.2257

■Shy-Drager症候群の原著
 Shy-Drager症候群(以下SDSと略)の名は,1960年Shy & Drager1)が1剖検例を含む2症例を報告したのに因んで付けられたものである.彼らが臨床症状として記載したのは,①起立性低血圧,②尿尿失禁,③発汗減少,④虹彩萎縮,⑤外眼筋麻痺,⑥筋固縮,⑦振戦⑧連合運動の欠如,⑨無緊張性膀胱,⑩陰萎,⑪肛門括約筋の緊張低下,⑫線維束性攣縮,⑬遠位筋の萎縮,⑭脊髄前角細胞障害を示す筋電図所見,⑮筋生検における神経原性所見などである.
 剖検所見としては,自律神経節,脊髄中間質外側核,下オリーブ核,迷走神経背側核,動眼神経核,黒質,青斑,小脳プルキンエ細胞,尾状核,被殻などに,神経細胞の変性・脱落およびグリオーシスを認めたと述べている.

27.Dentato-rubro-pallido-luysian Atrophy

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.2258 - P.2259

 ■疾患概念
 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentato-rubro-pallido-luysian atrophy:DRPLA)は病理組織学的に歯状核赤核系と淡蒼球ルイ体系とに連合性の変性萎縮を呈するものを総称している.その臨床像は単一でなく,varietyがあり,筆者は3つの臨床病型を提唱した.
 第一の病型は,われわれの小脳萎縮症に関する一連の研究の中で,従来の疾病分類には該当しない特殊なものとして取り上げたものである.すなわち,臨床的には進行性の運動失調が主体をなし,時期が進むについてchoreo-athetosis型の不随意運動が加わる.これをataxo-choreoathetoid formとした.臨床と病理との関連が比較的理解し易い.

28.Joseph病

著者: 酒井徹雄

ページ範囲:P.2260 - P.2261

■疾患概念
 Joseph病は当初,アメリカ在住のポルトガル移民子孫,ポルトガルAzores諸島およびポルトガル本土から報告された.これらの家系の中で,Antone Josephを先祖とするアメリカで最も大きな家系(Joseph家)に因んでJoseph病と命名された.1982年まではポルトガル人あるいはその子孫にのみ認められる遺伝性(常染色体優性遺伝)脊髄小脳変性症と考えられてきた.しかしながら1983年,筆者は,わが国にもJoseph病の家系が存在することを剖検例とともに初めて報告し1),以後,わが国での報告が相次いでいる.さらにカナダ・フランス・インド・スペインからも報告され,現在ではポルトガル人子孫との関係が不明瞭な場合でもJoseph病と診断されるようになった.

29.OPCA, LCCA, Spino-pontine Atrophy

著者: 清水夏繪

ページ範囲:P.2262 - P.2263

■OPCA(olivo-ponto-cerebellar atrophy) オリーブ・橋・小脳萎縮症
 診断基準の私案を表1に示す.
 1.疾患概念と疫学
 中年以降に発症し,進行性の小脳失調症を呈し,遺伝歴のない症例の臨床および神経病理所見が,1900年Dejerine & André-Thomasによって報告され,OPCAという名称がはじめて提唱された.臨床的にも病理学的にもよく似た疾患で遺伝歴のあるものは,既に1891年Menzelによって報告されており,1954年Greenfieldにより,孤発例はOPCA,遺伝歴のあるものはMenzel型と呼ばれるようになった.脊髄障害はMenzel型の報告にはあるが,Dejerine-Thomasのそれには欠けている.しかし症例を重ねた今日,脊髄病変はいずれの型にも存在し得ることが明らかとなり,2つの型を区別する所見ではなくなっている.病理学的には,橋核と下オリーブ核の神経細胞と軸索の変性が本態で,二次的に小脳の変性が起こる.歯状核,大脳基底核(視床,黒質),脊髄(後索,脊髄小脳路,クラーク柱,側索)の変性も高頻度に出現する.なお,OPCA,Shy-Drager症候群,線条体黒質変性症を多系統変性症として扱うことを提唱する人もいる(Oppenheimer).

30.脊髄性進行性筋萎縮症

著者: 渥美哲至

ページ範囲:P.2264 - P.2265

■疾患概念
 脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)は下位運動ニューロンのみ障害される運動ニューロン疾患の1型で,上位運動ニューロンの障害を伴わないことが筋萎縮性側索硬化症(ALS)との違いであると定義される.

31.Hereditary Moter and Sensory Neuropathy(HMSN)

著者: 尾野精一

ページ範囲:P.2266 - P.2267

■概念
 遺伝性末梢神経疾患にはCharcot-Marie-Tooth病,Dejerine-Sottas病などが含まれているが,最近Dyckは個々の疾患名を用いず,これらの疾患をまとめて遺伝性運動感覚性ニューロパチーhereditary moter andsensory neuropathy(HMSN)とし,第I型〜VII型まで分類することを提唱しており,最近この分類法が用いられるようになってきている.
 これによるとtype IはCharcot-Marie-Tooth病のhypertrophic form,type IIはCharcot-Marie-Tooth病のneuronal form,type IIIはDejerine-Sottas病,type IVはRefsum病,type Vは痙性麻痺を伴うもの,type VIは視神経萎縮を伴うもの,type VIIは網膜色素変性症を伴うもので,type V〜VIIはきわめて稀なものである.type I〜IVの診断基準は表に示したが,それ以外の重要事項について補足説明する.

32.重症筋無力症,Lambert-Eaton症候群

著者: 高守正治

ページ範囲:P.2268 - P.2271

■重症筋無力症(表1)
 1.疾患概念と疫学
 神経筋接合部の後シナプス膜に存在するアセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を中心にすえた機序,すなわち,①抗体による受容体崩壊促進,②補体介在性細胞性反応,③受容体活性直接阻害によって成立する自己免疫性受容体疾患の一つであり,この病原性抗体産生の背景には,AChRで感作された免疫細胞,胸腺が重要な役割を演ずる.最近,厚生省免疫性神経疾患調査研究班でわれわれが行った疫学調査では,全国患者数約5,000〜7,000,推定有病率人口10万対5.1,調査症例の50%弱に胸腺異常,76%に抗AChR抗体陽性,99%に薬物検査陽性,81%に誘発筋電図検査陽性を認めた.

33.周期性四肢麻痺

著者: 栗原照幸

ページ範囲:P.2272 - P.2273

■疾患概念と疫学
 本疾患は発作性に繰り返して四肢の脱力が起こり,多くは完全に可逆性で,筋肉の脱力は脱分極性ブロックによって起こる.本邦では家族性に起こるものは6%と少なく,甲状腺機能亢進症に伴って男性に起こる場合が41〜56%と多い.発作時の血清K値により低K血性周期性四肢麻痺と高K血性周期性四肢麻痺がある.

35.先天性ミオパチー

著者: 埜中征哉

ページ範囲:P.2277 - P.2279

■疾患概念,分類
 先天性ミオパチーとは乳児期から筋緊張,筋力低下のためにフロッピーインファント(筋緊張低下してグニャグニャした子供をいう)であり,処女歩行の遅延など発達の遅れがあり,明らかな神経原性の変化を認めないものの総称である.広義には先天性筋ジストロフィー,代謝性ミオパチー,先天性筋緊張性ジストロフィーが含まれ,狭義では比較的予後がよいとされる先天性非進行性ミオパチー(congenital nonprogressive myopathy,CNMと略す)をさす.CNMは筋生検による病理学的特徴より,さらにネマリンミオパチー,セントラルコア病,ミオチュブラーミオパチー,先天性筋線維タイプ不均等症などいくつかの疾患に分けられる.
 先天性筋ジストロフィーは中枢神経系異常(精神薄弱,けいれんなど)を伴う福山型と,中枢神経系異常を伴わない非福山型に二大別できる.CNMは多くの疾患に分類されているが,臨床的には個々の疾患に特異的なものは少なく,臨床像のみからの鑑別診断は不可能といっても過言ではない.個々の疾患の遺伝,臨床的特徴,病理学的特徴を表2にまとめた.

36.Isaacs症候群,Schwartz-Jampel症候群,Stifl-man症候群

著者: 廣瀬源二郎

ページ範囲:P.2280 - P.2281

■Isaacs症候群
 診断基準を表1に示す.
 1.疾患概念と疫学
 1961年Isaacsは,一見筋緊張(ミオトニー)に似ている持続性筋線維活動を特徴とする新しい症候群を報告し,Armadillo病の呼び名が適しているとした.次いで1965年Mertensらは同様の病態をNeuromyotonieと命名し報告した.
 1978年までに22例の報告があり,発症は孤発性で,男性にやや多くみられ,発症年齢は新生児期から53歳までの報告があり,その80%は15〜25歳に発症している.

37.Painful Legs and Moving Toes, Restless Legs Syndrome

著者: 葛原茂樹

ページ範囲:P.2282 - P.2283

■Painful legs and moving toes
 1.診断基準
 定式化された診断基準はない.最初の記載者であるSpillaneらの記載に準拠して,一般に使用されている診断基準を表1に示した.

XI.小児

1.川崎病

著者: 川崎富作

ページ範囲:P.2286 - P.2287

■診断基準
 川崎病では,"診断の手引き"と称し,診断基準とは呼んでいない.表に昭和59年9月に厚生省川崎病研究班が作成した"診断の手引き"改訂4版を掲載した.

3.糖尿病(小児)

著者: 北川照男

ページ範囲:P.2292 - P.2293

■概念と疫学
 わが国の小児慢性特定疾患治療研究事業の公費負担制度の対象となっているのは,18歳以下の糖尿病児であり,18歳以下で発症した糖尿病を小児糖尿病とするのがよいと考える.
 小児糖尿病もインスリン依存型糖尿病,インスリン非依存型糖尿病,その他の糖尿病に分類され,その疫学についての報告がある.それによるとインスリン依存型小児糖尿病の小児人口における有病数は,1万人に対して約1例であり,年間の発生頻度は小児人口10万人について,約0.8例であるという1).年齢別発症数のピークは10歳より15歳で,若年発症例ほど診断時の臨床症状が重篤である.そして,小児期発症インスリン依存型糖尿病の約10%は診断時に糖尿病昏睡を呈している.

4.再生不良性貧血(小児)

著者: 長尾大

ページ範囲:P.2294 - P.2296

■診断基準
 再生不良性貧血(aplastic anemia)は,多能性幹細胞の異常であり,骨髄は低形成となり,3系統(赤血球・好中球・血小板)の全てが減少する汎血球減少症(pancytopenia)を示す.しかし,詳しく考えると,いろいろな病因により発生し,病態もまたさまざまである.従って,単一包括的診断基準を作ることはかなり難しい作業である.現在,最も広く用いられている診断基準は,表1に示した,厚生省再生不良性貧血研究班(日比野進班長)により作られたものである1)
 再生不良性貧血はさらに,特発性・二次性(肝炎・薬剤などに伴う)・先天性などに分けられる.小児科においては,特に先天性再生不良性貧血が問題となる.先天性再生不良性貧血も幾つか知られているが,主なものの診断上の特徴を表2に示した2).先天性再生不良性貧血の中には,貧血のみを示すことの多いDiamond-Blackfan型赤芽球凄(pure red cell anemia)や,好中球減少症のみから汎血球減少症まで示すShwachman-Diamond症候群なども含められている.

6.若年性関節リウマチ

著者: 宮田晃一郎

ページ範囲:P.2301 - P.2303

■概念と疫学
 15歳以下に発症した慢性関節リウマチを若年性関節リウマチ(JRA)と呼ぶ.症状は病型によりかなり異なり,特異的な検査所見もなく,発症早期の診断はきわめて難しいことが多い.発症年齢は6ヵ月未満は稀で,多関節型は1〜3歳と8〜10歳に,少関節型では2〜3歳にピークを認める.性差は多関節型・少関節型で女児が2〜3倍多い.

7.先天性風疹症候群

著者: 植田浩司

ページ範囲:P.2304 - P.2305

■疾患概念と疫学
 妊娠中の風疹ウイルス感染による,白内障,心疾患,難聴などの多彩な先天性異常を先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome;CRS)と称する.1941年,オーストラリアの眼科医Greggにより発見,記載された.
 風疹は潜伏期(2〜3週)の後半(発疹出現前1週間)にウイルス血症を起こす.たまたま妊娠していると胎芽または胎盤から胎児に感染し,胎児にウイルス血症を起こし,播種性に胎児の多くの器管に感染する.妊娠初期の8〜12週間の胎児の感染は持続感染となる.それ以後は胎児がある程度の免疫能力をもつようになり,持続感染は成立しにくくなる.風疹ウイルスの胎児の持続感染は細胞の増殖を抑制し,胎児に多彩な先天性の異常を起こす.胎児の持続感染は出生時まで続くので新生児期の急性症状をみるものがある.感染は更に出生後も3〜6ヵ月,長いもので12ヵ月持続する.

8.新生児壊死性腸炎

著者: 志村浩二

ページ範囲:P.2306 - P.2307

■疾患概念と疫学
 未熟な腸管に虚血・粘膜損傷をもたらすperi-natal asphyxiaが関与し,多くはさらに細菌の浸潤,授乳が増悪因子として加わり発症する後天性の消化器疾患である(図).
 極小未熟児の救命率向上とともに一時増加傾向をみたが,幸いに本症への関心の高まりと,早期対応により古典的な典型例の発症は減しつつある.一方,突然消化管穿孔をみる授乳前発症例を,重篤な疾患を有する早産例で散見しており,最近では消化管奇形よりも高い死亡率(20〜56%)をみるに至っている.

10.乳幼児気管支喘息

著者: 赤坂徹

ページ範囲:P.2310 - P.2312

■乳幼児気管支喘息の診断基準
 乳幼児気管支喘息の診断基準としてAsthma Prospective Score(APスコア)は1),表1のように二親等以内の主要なアレルギー疾患(気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,反復性じんましん)があり,血清IgE値が年齢別の正常値に比べて高いことを大項目とする.

12.新生児肝炎

著者: 岡庭真理子

ページ範囲:P.2318 - P.2319

■疾患概念と疫学
 1.概念
 新生児肝炎は,1952年最初にCraig & Landingにより"Form of hepatitis in neonatal periodsimulating biliary atresia"として病理学的に報告され,同年Hsiaらにより,乳児期の原因不明の閉塞性黄疸として記載された.それから30余年経過したが,本症の概念は必ずしも統一されていない.
 欧米では,閉塞性黄疸の有無にかかわらず,乳児期の全ての肝障害を総称する考え方がある.また,Alagilleのように,その中で,原因が感染性と思われる場合に限定するもの,Danksらのように,肉眼的黄疸の有無にかかわらず,灰白便があればこれに含めるものなど,報告者により本症の原因,あるいは閉塞性黄疸に関してくい違いがみられる.したがって,欧米では多くの原因の明らかな疾患,例えばα1-antitrypsin欠損症をはじめとする種々の代謝性疾患,あるいは風疹,HBウイルス,サイトメガロウイルスなど既知のウイルス感染症が含まれていることが多い.

13.胆道閉鎖症

著者: 松井陽

ページ範囲:P.2320 - P.2321

■疾患概念と疫学
 胆道閉鎖症は肝外胆管が胎生末期または生後まもなく,またあるものは新生児期に閉塞,破壊または欠如したために,胆汁を腸管にまったく分泌できない状態と定義される.病因は不明である.わが国では「先天性」胆道閉鎖症(CongenitalBiliary Atresia;CBA)と呼びならわされてきたが,胆道閉塞が真の奇形と考えられるものはわずかで大部分は炎症性病変である.出生児1万人に1人の頻度で発生する稀な疾患で,男女比は1:2と女児に多い.同胞発生はきわめて稀である.

14.胎児性アルコール症候群

著者: 高島敬忠

ページ範囲:P.2322 - P.2323

 近年,欧米諸国において,主として慢性アルコール症の妊婦から,特徴的な臨床像を有する先天性異常児が出産していることがわかった.これは胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome=FAS)と称し,予防が可能な先天異常児であるだけに,慢性アルコール症の問題と相俟って大きな社会的反響を呼ぶにいたった.アルコールの胎児への影響は胎芽期のみならず胎児期にも,殊に脳発達に障害を及ぼすと考えられているので,胎芽・胎児症であろうと想像されている.
 FASにつき歴史的にみると,アルコールの胎児毒性に関しては,すでに古代ギリシャやローマ時代から推測されていたところであり,1700年代には親のアルコール摂取が出生率の減少や虚弱児の出産に関連すると述べられている.また,1800年代半ばには,イギリスのSir Frances Galtonらは,妊婦のアルコール症が,その産まれた児に悪影響をもたらした事実を報じている.しかしながら,一つの症候群として確立されたのは,1970年代に入ってからである.

15.小児心電図心室肥大判定基準

著者: 保崎純郎

ページ範囲:P.2324 - P.2327

 小児の心電図心室肥大の判定には1971年に作成された小児心電図心室肥大基準が参考にされてきた.1986年,心室肥大の判定を理解しやすくするため,そして年長児や性差も考慮した表1のごとき「点数制による小児心電図心室肥大判定基準」が,日本小児循環器学会の小児心電図専門委員会より発表された.しかし,その基準がやや繁雑過ぎたので,表2のごとき「小児心電図心室肥大判定のめやす」が1987年に発表された.そこで,表3の従来の「小児心電図心室肥大判定基準」と比較しながら小児心室肥大判定について述べる.

16.起立性調節障害

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.2328 - P.2329

■疾患概念と疫学
 起立性調節障害(以下OD)は自律神経失調症の一種であり,とくに起立時の循環調節反射の失調が主症状となるものである.正常の人間であれば,起立時に下肢の血管,とくに静脈系が直ちに収縮して血液の下半身へのプーリングを防ぐが,本症ではこの反射が不十分で,立ちくらみを起こしたり,脳貧血を起こしたりする.
 ODは10歳以上の小児に多くみられる.男女差はこの時期にはそれほど明らかではないが,成人にまで症状が残存するのは女性が多い.

17.特発性血小板減少性紫斑病(小児)

著者: 赤塚順一

ページ範囲:P.2330 - P.2331

■疾患概念と疫学
 特発性血小板減少性紫斑病(以下ITPと略)は,末梢血では,血小板減少を認めるが,骨髄穿刺液中の巨核球数は増加,もしくは正常で,しかも血小板減少を惹起するような他の病態,たとえば薬物の使用,急性感染症,播種性血管内凝固症候群,脾腫,あるいは膠原病などを合併しないのが特徴とされている.またITPにおける血小板減少は,末梢血中における血小板の破壊亢進によるものである.
 ITPは通常発症からの出血症状および血小板減少の持続期間により,急性ITP,慢性ITPおよび再帰型ITPに3大別される.成人のITPが大部分慢性型でしかも20〜30歳代の女性が多いのに対し,小児では急性型が多く,その大部分がしばしば感染症,特にウイルス感染症経過後に発症するものが多い.成人では男女比は約1:4といわれているのに対し,小児ではほとんど性差がないのも特色である.

18.熱性痙攣

著者: 前川喜平

ページ範囲:P.2332 - P.2332

 熱性痙攣はヒポクラテスの時代から,幼小児は発熱の際に痙攣を起こし易く,このような痙攣は予後良好であるという記載がある位良く知られた疾患であるが,定義は以外と曖味である.現在のところ,熱性痙攣とは「発熱の原因が中枢神経疾患に関係ない発熱に伴ってみられる幼小児の痙攣発作」をいう.この定義は一見,明瞭なようにみえるが必ずしもそうとは言えない.予後良好と考えられる熱性痙攣の中に,てんかんの小児が混入しており,治療上,両者を区別しなければならないのが混乱の最大の原因のようである.
 発熱がみられる中枢神経疾患とは髄膜炎,脳炎,脳症,脳膿瘍などであるが,痙攣の原因として熱性痙攣以外に最も一般的なてんかんは発熱を起こさない.従って最初は両者の区別がつき難い.また脳性麻痺や小頭症などの脳障害の存在する小児は正常児と比較しててんかんになる率は高い.特発性てんかんの家族歴のある小児も,そうでないものと比較しててんかんになる率は高い.そこで両者を区別するために,痙攣の様子,持続,後遺症,年齢,神経学的所見の有無,発熱の程度,痙攣の回数並びに頻度,脳波所見などが問題となってくる.そして予後良好な熱性痙攣を単純型(良性)熱性痙攣,てんかんの危険性のあるものを複合型熱性痙攣という.

19.Reye症候群

著者: 山下文雄

ページ範囲:P.2333 - P.2335

■診断基準
 CDC(Center for Disease Control, Atlanta)の疫学調査用診断基準(表1)を示す.診断用語に次の種類がある.(1)肝生(剖)検による「確定的なReye症候群(Definitive Reye Syndrome;DRS)」と,(2)同じく肝組織で「にせもの」とわかったReye症候群疑似症(Reye Syndrome Mimicker, or Simulator, or Reye Syndrome-like Diseases),(3)ならびに肝生検なしの臨床的Reye症候群(Clinical Reye Syndrome:CRS)とがあり,(3)は(1)と(2)を含む.疑似症が多いので報告や研究対象にする場合には,確定,臨床的,疑似の別,すなわち肝生(剖)検所見を含めた診断名か否かを明記する.診断では,ステージ(または重症度)分類(表2)も行う.ステージ別に治療,予後が違うからである.これにも各種があるため,CDCは統一分類を設定した.

20.多発性神経炎

著者: 舘延忠

ページ範囲:P.2336 - P.2337

 多発性神経炎すなわちGuillain-Barré症候群(以下GBSと略す)は,1916年Guillain,BarréおよびStrohlが,運動麻痺,腱反射消失,軽度の感覚障害,髄液中の蛋白細胞解離を呈した予後良好な2症例を報告したことにより確立された疾患単位である.
 GBSは,症候学的にかなりのvariationがあり,時に広義に名称を用いられるようになり,定義が曖昧になってきたため診断基準が必要になってきた.OslerとSidell(1960)は,Guillainらの報告に則して厳格な診断基準を作成した.これは少し厳格過ぎるとする批判もあるが,GBSの概念を拡大させないためには重要である(表1).

21.小児自閉症

著者: 中根晃

ページ範囲:P.2338 - P.2339

■疾患概念と疫学
 何らかの中枢神経系の障害によって精神機能の発達が部分的あるいは全体的に障害されているものを発達障害というが,自閉症は個々の精神機能の発達が広範囲に,かつ重篤に障害されたものであって,その病理的基盤は知覚ないし認知にかかわる機能系の障害であるとされる.
 自閉症の症状は現在までのところ,物質現象として定量的あるいは定性的に検出することができないので,診断は表のような行動特徴の存在によって行われる.

22.注意欠陥多動障害・学習障害(微細脳機能不全)

著者: 長畑正道

ページ範囲:P.2340 - P.2344

 微細脳機能不全(minimal brain dysfunction,MBD)とはClements1)によると次のように定義されている.すなわち「微細脳機能不全といわれるものは,知能がほぼ正常か正常以上の子どもで,さまざまな程度の学習あるいは行動上の問題を有しているもののことである.そしてかかる障害は中枢神経系の機能障害に由来するものと考えられている.この機能障害は認知・概念構成・言語・記憶および注意力・衝動あるいは運動機能のコントロールなどの面に単独あるいは種々の組合わせで出現する.」となっている.つまりMBDには行動面の異常がみられる場合と認知・学習面の異常がみられる場合とがあり,また両者が合併することもある.
 しかし,最近はMBDという用語は次第に用いられなくなってきた.脳障害ないし脳機能不全があると診断されると,たとえ微細であるにしても親や子どもが絶望的になってしまい,そのうえ現在の医学的検査では症状の他に脳機能不全を立証することがまだできない状態であるからである.したがって現状では原因を思わせる診断名をさけ,状態像のみをあらわす診断名にするのがより適切である.つまりMBDの代わりに注意欠陥多動障害あるいは学習障害(特異的発達障害)とするのが最近の傾向である.そこで診断基準の解説にあたってもこの2つに分けて述べることにする.

23.アトピー性皮膚炎

著者: 阿南貞雄 ,   吉田彦太郎

ページ範囲:P.2346 - P.2347

 アトピー性皮膚炎の診断基準については,さまざまな提案がなされているが,すべてが満足できるものは確立されていない.それは本症の病因,発症機序が完全に解明されておらず,意見の統一をみていないためである.
 アトピー性皮膚炎なる名称をはじめて提唱したのはWiseとSulzbergerで,1933年のことである.当時彼らは,気管支喘息やアレルギー性鼻炎などと同様に,本症もアトピー型のアレルギー反応によって発症すると考えた.しかし,I型アレルギーを代表する「アトピー性」という形容詞を「皮膚炎」という別の次元の概念,すなわち形態学的所見を根拠とした症候名に結合したために,一種の自己矛盾を内包することになった.

XII.感染症,その他

1.不明熱(FUO)

著者: 那須勝 ,   後藤陽一郎

ページ範囲:P.2350 - P.2351

■疾患概念と疫学
 日常の診療において発熱はしばしば経験される一症候である.感染症をはじめとして悪性腫瘍,炎症性疾患などの多くの疾患が発熱の原因となるが,たんに発熱のみが前景にたち,その基礎疾患の存在が明らかでないことも少なくない.
 不明熱(Fever of Unknown Origin;FUO)という概念は決して診断名ではなく,病因が決定できなくて説明のつかない発熱という意味である.適切な診断手段を用いると,正しい病因診断が得られるものである.

2.細菌性肺炎

著者: 倉澤卓也 ,   鈴木克洋

ページ範囲:P.2352 - P.2354

■疾患概念
 細菌性肺炎は,種々の細菌感染に起因する肺の気腔および間質の炎症と定義される.
 肺炎の分類には放射線学的分類(大葉性肺炎,巣状肺炎など),起炎菌の侵入経路による分類(気管支行性,血行性など),病理組織学的分類(線維素性肺炎,化膿性肺炎,出血性肺炎など),病理解剖学的分類(肺胞性肺炎,間質性肺炎),など多くの分類法が用いられている.

3.院内感染の肺炎

著者: 林泉 ,   大沼菊夫

ページ範囲:P.2356 - P.2357

 日本感染症学会,日本化学療法学会,日本環境感染学会など院内感染にかかわると思われる諸学会,あるいは種々の書物において院内感染の肺炎の診断基準を明記したものはない.本稿では一つの案として提起する.
 診断基準(案)を表1に示す.

4.喉頭蓋炎

著者: 宮田英雄

ページ範囲:P.2358 - P.2359

 急性喉頭蓋炎acute epiglottitisについて述べる.本症の決まった診断基準はないのではじめに疾患概念と疫学について記し,その後で診断基準の私案を述べる.

6.感染性心内膜炎

著者: 小林芳夫

ページ範囲:P.2362 - P.2364

 Reynら1)により1981年に発表された感染性心内膜炎(Infective endocarditis;IE)の診断基準を取り上げ,これに解説を加える.その診断基準を表1に示した.

7.細菌性髄膜炎

著者: 国富泰二 ,   濃野信 ,   小谷信行

ページ範囲:P.2366 - P.2367

■診断基準
 1.症状と所見からみた診断基準
 発症は通常急激であるが,症状と所見は発症年齢によって著しく異なる(表1).年長児や成人の症状は典型的であるが,新生児,幼若小児では特異的な症状を欠くことが多く,様子がおかしいというだけのこともある.嘔吐,呼吸の状態から疑いを持つことが重要で,少しでも疑われたら積極的に髄液の検査を進めるべきである.発熱がなく白血球数も減少した場合には重症である.
 2.髄液の所見による診断基準
 髄液の所見では細胞数が最も重要である.髄液の細胞数が正常範囲(表2)1)を超えると髄膜炎と診断し得る.髄膜炎が細菌性であるためには髄液中の糖が低下していることが最も重要で,ついで細胞分類で多核球が優位に増加していることである(表3)2).表4に細菌性髄膜炎のその他の髄液所見を列記した.

8.敗血症

著者: 泉川欣一

ページ範囲:P.2368 - P.2369

 血液中より病原菌が検出される場合を一般に菌血症(bacteremia)といい,そのうちこの病原菌により全身感染を惹起したものを敗血症(sepsis)と称する.最近の特徴として,悪性腫瘍,血液疾患,胆道疾患,糖尿病,腎不全などの基礎疾患を有する患者の治療中に併発し,通常急性の経過をとり,的確な化学療法を施さないと,難治性で,致死的な疾患である.原因菌は多種におよぶが,大腸菌(E.coli),肺炎桿菌(K.Pneumoniae),緑膿菌(P.aeruginosa)などのグラム陰性桿菌や黄色ブドウ球菌(S.azarezas)が多く検出される1-3)

9.クリプトコッカス髄膜炎

著者: 草場公宏 ,   長沢浩平

ページ範囲:P.2370 - P.2372

 クリプトコッカス症はCryptococcus neofor-mans感染によって引き起こされる慢性あるいは亜急性の感染症である.ヒトの深在性真菌症の中では比較的発生頻度の高い疾患で,基礎疾患の無い原発例もあるが,最近ではとくに,さまざまな原因によって感染防御能の低下した免疫不全宿主に併発する致命的な感染症の1つとして重要な疾患である.
 本菌は世界中の土壌や,果実の表面などに広く生息しているが,ヒトへの感染源としてはハトなど鳥類の乾燥した糞が重要である.

10.播種性カンジダ症

著者: 伊藤章

ページ範囲:P.2374 - P.2375

■診断基準
 播種性カンジダ症の診断基準として今までに決まったものはないが,螺良1)による深在性カンジダ症の各診断法の組合せによる診断の確実性の表があるので参考までにあげておく(表1).
 著者の案として播種性カンジダ症の診断基準を表2に示す.

12.カリニ肺炎

著者: 菅守隆 ,   安藤正幸

ページ範囲:P.2378 - P.2379

■疾患概念と疫学
 ニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)は,1952年Venekらにより,乳幼児の肺炎を引き起こすことが明らかにされて以来,本症の報告が増加した.その後の研究により,ニューモシスティス・カリニは原虫のなかに分類され,免疫不全に陥った宿主に重篤な肺炎を発症させ,現在では,日和見感染症の重要な病原体である.
 本症は先天性免疫不全症のほか,癌,白血病,悪性リンパ腫の化学療法や,臓器移植後あるいは自己免疫疾患に対する免疫抑制療法による免疫不全宿主の発症が大部分を占めている.抗癌剤や免疫抑制剤の使用が増加したことにより,本症も飛躍的に増加傾向を示している.さらに最近ではAIDS(後天性免疫不全症)の合併症として注目されている.

13.マイコプラズマ肺炎

著者: 森島恒雄

ページ範囲:P.2380 - P.2381

■診断基準
 マイコプラズマ肺炎の診断の上で,厳密な意味で診断基準といえるものはない.したがって,表1には診断上大切と思われるポイントをまとめてみた.

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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