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雑誌目次

雑誌文献

medicina25巻13号

1988年12月発行

雑誌目次

今月の主題 輸液・栄養療法

理解のための10題

ページ範囲:P.2862 - P.2864

電解質輸液の基本的ルール

輸液の必要な患者へのアプローチ

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.2752 - P.2754

 体液管理への診断的アプローチとしては,昔からよく知られたものが多く,どの教科書を読んでも大同小異のことが書いてある.そうして受け継がれてきた伝統には敬意を表するが,ここではそれらに加えていささか新しい視点を取り入れながら話をすすめてみたい.

安全限界理論からみた輸液のあり方

著者: 佐中孜 ,   杉野信博

ページ範囲:P.2756 - P.2757

 Talbotら1)が輸液の安全限界理論を提唱してから約35年経た現在,多くの臨床医は無意識のうちにこれを実行しているといっても過言ではない.しかしながら,このようなすでに初歩ともいえる安全限界理論を無視した輸液に遭遇することも決して少なくない.
 生体が許容できる最大水分量と生体の機能維持に必要にして最少の水分量を予測できれば,水,電解質バランスや栄養障害をきたした患者に対して最も適切な形で治療できるということになる.この理想を求めて,提唱されたのが,Talbotらの輸液の安全限界理論であり,これは諸家によって種々検討され,批判,修正が加えられているが,その基本的な考え方は,変わらない.

体液欠乏量の推定法

著者: 本多一文 ,   斉藤寿一

ページ範囲:P.2758 - P.2759

 脱水を有する症例の輸液,飲水の量を決定する上で,体液の欠乏状態を評価することは重要である.生体の体液は臨床的には全身水分量,細胞外液量および循環血液量の3つに分けて考えることができる.これらを評価する方法としては,(1)身体所見による推定,(2)体液量を反映する諸検査成績の把握,(3)体液量の直接測定があげられるが,体液量の直接測定は放射性同位元素を用いるなどの点で手技が煩雑であり,広く臨床の場で利用されるまでには至っていない.したがって,実際上,体液量を反映するいくつかの指標を組み合わせて体液欠乏量の評価を進めて行くことになる.

輸液のモニタリング

著者: 中西太一 ,   椎貝達夫

ページ範囲:P.2760 - P.2761

 輸液のモニタリングとは,輸液の開始後に症状・検査所見などの変化をみながら,経過を観察することであり,これを基に現在の輸液が適切かどうか検討し,輸液の質・量・速度などを変更してゆく.輸液は通常24時間ごとにモニタリングの結果を総合し,次の必要量を推定し計画を立てるが,重症例や症状が急変する例では,12時間ごと,8時間ごと,緊急に輸液を開始した時には,1〜2時間ごとなどと,時間を細かく区切り対応してゆく.モニタリングの各項目について留意点を述べる.

輸液剤の分類と特性

著者: 富田公夫 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.2762 - P.2766

 ヒトは通常の状態においても,皮膚や肺からの不感蒸泄で800〜1,000mlの水分を消費し,また腎から代謝物の排泄に少なくとも500mlの水分を必要としているため,疾病により経口摂取が低下した場合には,エネルギー・栄養分を含め水・電解質の補充が必要になってくる.水・電解質輸液では,内科領域においては高張性,等張性を含め脱水を主体にしたものが多く,比較的短期間のものが多い.次いで,Na,K,Ca,Pなどの単独の欠乏症に対する輸液が特徴的であろう.輸液剤の選択にあたっては,まず病態を的確に把握し,水分の補給なのか,電解質の補給なのか,エネルギーの補給なのかを明確にし,その目的に最も適した輸液剤を選択し,常にinとoutのバランスを計算しながら行うべきであり,ただ漫然と輸液を続けるようなことがあってはならない.

水,Naの投与量とスピード

著者: 内田俊也 ,   黒川清

ページ範囲:P.2768 - P.2770

 一般的に水,Naの輸液を必要とする病態はいわゆる脱水症であり,細胞外液量の減少した状態である.浮腫性病態で細胞外液量の減少していない症例においても輸液を行うことはあるが,ここでは扱わない.脱水症には水とNaの欠乏が伴うが,いずれが多く欠乏するかによって等張性脱水,高張性脱水および低張性脱水の3型に大別される.各々のタイプにつきその病態について考察しながら,輸液の正しい行き方について述べる.

Kの投与量とスピード

著者: 武藤重明 ,   浅野泰

ページ範囲:P.2772 - P.2774

■Kの体内分布と調節因子(図1)
 人体の総K含量は,約3,500mEqで,90%以上が細胞内に存在し,細胞外液(ECF),特に血漿に存在するのは全体の1.4%にすぎず,その血漿濃度は3.5〜5.0mEq/lと狭い範囲内に維持されている.一方,われわれが毎日食品から摂取するK量は,50〜100mEqで,90%は尿から,10%は便から排泄される.
 Kの調節因子をその作用部位により分類すると図1のようになる.調節臓器のなかで,最も大切なのは腎で,その他に大腸があげられる.また,細胞外液(ECF)と細胞内液(ICF)との間のKの移動も重要である.

Ca,Pの投与の考え方と実際

著者: 小椋陽介 ,   辻裕之

ページ範囲:P.2776 - P.2781

 CaおよびPの投与が問題となるのは,低Ca血症および低P血症の場合であり,以下それぞれの病態と治療法について述べる.

Mgの投与の考え方と実際

著者: 高橋進

ページ範囲:P.2782 - P.2784

 マグネシウム(Mg)は細胞内に主として存在する陽イオンであり,体内において多種多様の生物学的に重要な作用をもち,細胞の構造や恒常性,さらに成長と生命維持に不可欠な電解質の一つである.また,細胞外液中のMg++の役割,すなわち,Ca++と協同して骨格筋の興奮一収縮,心筋の張力の調節作用なども見逃せない.このように,Mgの重要性は認識されているにもかかわらず,同じ2価イオンであるCa++やリンに比較するとなじみが薄い.これはMg単独かつ特有の症状,徴候が乏しく,共存する他の電解質異常に覆い隠されてしまうことが多いこと,Mg欠乏症の診断が難しいこと,また,Mg測定の頻度が少ないことなどによると考えられる.
 近年,Mgと循環器疾患との関連1)が注目されるようになり,とくに虚血性心疾患,抵抗性不整脈とMg摂取量との関係,Mg欠乏が高血圧を誘発すること,また,利尿薬投与時にMg測定の重要性などが報告されるに至り,Mg測定の重要性が脚光を浴びてきている.

栄養輸液の基本的ルール

高カロリー輸液(中心静脈注射)の適応と禁忌

著者: 小野寺時夫

ページ範囲:P.2786 - P.2788

■栄養輸液施行上の基本的条件
 静脈栄養は,経管栄養を含めた経腸栄養が不可能な場合に行うことを原則とし,必要最低の投与期間にとどめるべきである.したがって,老人病院などで慢然と長期輸液を継続施行したり,術後経口摂取で間に合う状態になっても輸液を続けるなどは問題が多い.輸液を継続施行するために,かえって食欲の出ないことも少なくない.5%ブドウ糖液を500mlで100calでしかないし,アミノ酸液を投与しても同時にブドウ糖による十分なカロリー投与が伴わなければ,アミノ酸は蛋白合成に利用されずエネルギー源として消費される.また,輸液といえばビタミンを添加するという風習も反省する必要がある.経口摂取の多少の不足に対して,1日160〜200cal程度の補給をする際は,ほとんどビタミンの添加を必要としないことが多い.また,鼠径ヘルニアやとくに問題のない虫垂切除後などの輸液も,多くの場合数日以上を必要としないことが多く,ビタミンの添加の必要もない.

処方原則

著者: 遠藤昌夫

ページ範囲:P.2790 - P.2794

 一般的に輸液療法という場合には,主として循環血漿量の確保あるいは細胞外液の調整を目的として,水,電解質,膠質浸透圧物質などが投与される.それに対し,栄養輸液は十分な熱量とともに細胞内における必要物質を投与して,細胞内環境に対してまで直接の影響を与えようとするもので,その輸液組成の組み立てにはまた異なった考え方が必要になる.

手技と管理—カテーテル敗血症予防のための注意点

著者: 井上善文 ,   根津理一郎 ,   中井澄雄 ,   高木洋治 ,   岡田正

ページ範囲:P.2796 - P.2798

 カテーテル感染は高カロリー輸液(TPN)の管理上最も注意すべき問題の1つである.本章では手技と管理についてその予防という観点から述べる.

栄養輸液と経腸栄養

著者: 長谷部正晴

ページ範囲:P.2800 - P.2801

 栄養療法の効果を最大にするためには個々の病態に即した栄養法を行わなければならない.消化器外科の術後に限らず急性期の患者の栄養管理には静脈栄養が広く用いられているが,いったん静脈栄養が行われると,これがいつまでも漫然と続けられる傾向がある.静脈栄養が最善の方法とはいえない場合に,これを継続することは栄養療法の基本的ルールにもとる.患者の病態によっては,他の栄養法に移行したり,あるいは他の栄養法を併用した方がより大きな栄養効果が得られる場合がある.以下に,静脈栄養とともに高カロリー栄養法の両輪の一つである経腸栄養の臨床的意義を明確にし,静脈栄養を行っている患者に対し経腸栄養をいかに有効に取り入れていくべきかについて述べる.

栄養輸液における脂質の利用法

著者: 日置紘士郎 ,   中川学 ,   駒田尚道 ,   平松義文 ,   山本政勝

ページ範囲:P.2802 - P.2803

 現在静脈栄養に用いられている三大栄養素はブドウ糖,アミノ酸,脂質であり,これらはどれ1つとして欠かすことができないものである.特に脂質はブドウ糖,アミノ酸に比べ,1gにつき9kcalと単位当たりのカロリーが高く,エネルギー基質として魅力のある素材であるが,単一での使用よりは各栄養素とのバランスのとれた投与方法が必要であると考えられる.

高カロリー輸液におけるビタミン投与のありかた

著者: 島田慈彦

ページ範囲:P.2804 - P.2806

 わが国で高カロリー輸液療法(TPN)が開始されて約20年が経過しようとしている.当時は基本輸液(電解質加高濃度糖液)の調製に先ず細心の注意が払われ,さらに,鎖骨下静脈からのカテーテル装着などの手技と感染防止,そしてカテーテルの材質などの研究,開発などが行われてきた.その後,1979年,80年と続いて基本輸液が発売となり,今日では,数種類の市販製剤の中からある程度選択して使い分けられるようになってきている.また,当初は外科中心で実施されていたものが,各科で広く行われるようになるにつれ,臨床栄養学として確立され,糖質,アミノ酸,脂肪乳剤,微量栄養素を含む総合栄養輸液剤として多くの研究,臨床治験が報告されるようになった.
 内科領域においても,経口投与あるいは経腸栄養剤投与が不能,もしくは不適当な疾患や末期癌患者の管理にquality of lifeの目的で施行される例が多くなってきた.さらにCrohn病で代表される炎症性腸疾患,外科手術後内科転院の短腸症候群などの患者で経腸栄養剤で管理できない例,また腸管安静を目的としてTPN療法が実施されることもある.これら対象となる疾患の多くはもともと栄養状態が悪く,しかも長期に及ぶことが多い.

栄養輸液とトレースエレメント

著者: 山東勤弥 ,   根津理一郎 ,   高木洋治 ,   岡田正

ページ範囲:P.2808 - P.2811

 近年の高カロリー輸液(TPN)の発展により,種々の病態の治療成績が飛躍的に向上した.しかし一方では,その適応症の拡大ならびに長期施行例の増加に伴い,通常の経口摂取下では起こりえないとされている種々の微量元素の欠乏症が出現することが判明し,これら微量元素の栄養学的意義が注目されるようになった.以下,現在注目されている元素を中心に述べる.

栄養輸液における合併症とその対策

著者: 岩佐正人

ページ範囲:P.2812 - P.2814

 近年の高カロリー輸液(TPN:total parenter-al nutrition)をはじめとする栄養輸液の発達と普及には著しいものがあるが,これに伴い副作用・合併症の発生も増加している.
 栄養補給という,治療の基本的な手段に際しては,合併症・副作用の発生には十分注意することが必要なことはいうまでもなく,いったん発生した場合には,その後の治療計画全体に大きな影響を与えることを銘記すべきである.

長期栄養輸液の対策とその実際

著者: 根津理一郎 ,   井上善文 ,   高木洋治 ,   岡田正

ページ範囲:P.2816 - P.2819

 近年の静脈栄養法(TPN)における栄養器材,輸液製剤,ルート管理,代謝管理などの発達により,本輸液が長期間安全に施行されることが可能となった.TPN長期施行患者の中には,TPNを行っているという以外はなんら入院を要しない患者も少なからず存在し,また癌末期患者でもTPNと制癌剤の併用により小康状態にある時期に,たとえ短期間であっても家庭での生活を望むものも多い.本項では長期栄養輸液のうちでも家庭でのTPN(HPN)の実際につき述べる.

各種病態における輸液のあり方

小児における輸液の特性

著者: 斉藤正峰 ,   松尾宣武

ページ範囲:P.2820 - P.2821

 体水分・電解質異常は,小児においては比較的短期間に出現し,より重症となる傾向がある.すなわち,小児は,1)体重当たりの必要水分量は成人に比し著しく大であること,2)体水分量,組成の違いにより体水分量が細胞外に比較的偏在していること(乳児),3)嘔吐,下痢をきたすことが多いことなど,により循環不全徴候を呈しやすく,急速に重篤化しやすい.
 小児の輸液療法は成人のそれとは全く別個のものと考え,小児の水・電解質代謝の特性に基づいた輸液療法を行うことが肝要である.

高齢者における輸液の特性

著者: 多川斉 ,   梅津道夫

ページ範囲:P.2822 - P.2823

 高齢者には水電解質異常をきたす病態が多い.また心肺機能,腎機能をはじめ諸臓器の機能低下があるために,体液調節系の応答の幅が狭く,しかも自覚症状が少ないために,知らぬ間に高度の体液異常をきたして,全身状態が悪化する場合が多い.
 輸液療法の目的は体内環境のホメオスターシスの回復にあり,その基本は,①病態の把握と,②輸液の効果・副作用を認識し輸液の調節に還元するいわゆるfeedbackである.高齢者においては,輸液による体液是正がしばしば必要であるが,体液調節能が低下しているため,輸液の安全域が狭いことを考慮しなければならない.ショック状態や糖尿病性昏睡などのような緊急輸液の場合を除いて,1日あたり補正量の上限を水電解質の欠乏量の1/3とするのがよい.さらに,輸液に対するバイタル・サインと検査成績の変化を頻繁に監視し,輸液をきめ細かく調節すること,すなわちfrequent feedbackが大切である.

嘔吐,下痢の輸液

著者: 大石和久 ,   菱田明

ページ範囲:P.2824 - P.2825

 消化管臓器は,各種栄養素の消化吸収とともに,水・電解質の吸収を行い,生体の内部環境保持の一役を担っている.正常人では,1日に約8lの消化液の分泌があり,この分泌量の約50%が空腸で,30%が回腸で,残りが大腸で吸収される.消化液の電解質の特徴は,表に示すごとく,Na+濃度は唾液,胃液,腸液の順に高くなり,K+濃度は逆に順次低くなり,腸液でNa+,K+濃度は細胞外液とほぼ等しくなる.また,胃液は塩酸(HCl)が,膵液は重炭酸イオン(HCO3-)が主であることが特徴である.
 嘔吐・下痢時には,電解質を含有する胃液や腸液の喪失のために,1)種々の電解質異常,2)有効循環血液量の減少,3)酸塩基平衡異常などが生じる.これらには軽症のものから緊急に適切な治療を必要とするものまであり,その治療にあたっては,嘔吐・下痢の病態を把握して適切な処置を行う必要がある.

ショックと輸液

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.2826 - P.2827

 ショックとは末梢に十分な循環を保持できない状態を指し,表にあげた様々の原因疾患がある.本稿では,これらのうちで輸液が治療の中心になる,1)Hypovolemic shock,2)敗血性ショックの2つを主にして述べる.
 輸血やカテコールアミン製剤などの循環器薬が治療の中心となる出血性ショックや,循環不全などについては,触れなかったので成書などを参考にしていただきたい.

浮腫と輸液

著者: 清水倉一 ,   廣田彰男

ページ範囲:P.2828 - P.2830

 浮腫とは細胞間隙に過剰に細胞外液(Na,水)が貯留した状態であり,その成因には全身性と局所性因子がある.前者は体液の貯留に関係し,腎における水,Naの排泄障害が主役を演じる.後者は体液の分布に関係し,微小血管系での体液の出入り,リンパ流などが主役を成している.
 輸液に際しては,このような体液の貯留,分布の状態を念頭に置くことが大切である.

術中,術後の輸液

著者: 篠沢洋太郎 ,   安藤暢敏 ,   相川直樹

ページ範囲:P.2832 - P.2833

 周術期における輸液では,1)循環血液量の維持,2)水,電解質の補充,3)栄養補給が目的となるが,術中,術後早期(0〜1病日)のebb phaseでは1),2)が,その後のflow phaseでは3)が主体となる.

熱傷と輸液

著者: 久志本成樹 ,   八木義弘

ページ範囲:P.2834 - P.2836

 熱傷,特に広範囲熱傷は外科的侵襲の中でも最大のものであり,きわめてdynamicな全身的反応を引き起こす.受傷直後より進行する循環不全,熱傷ショックは早期の予後を左右する重篤な病態であり,本稿では熱傷ショック期の輸液について主として述べる.

糖尿病と輸液

著者: 羽田勝計 ,   吉川隆一 ,   繁田幸男

ページ範囲:P.2838 - P.2839

 糖尿病患者に輸液療法が必要な場合は,1)糖尿病治療として輸液が必要な場合,および2)糖尿病に合併する他疾患に対して輸液が必要な場合,に大別される.前者には糖尿病性ケトアシドーシス,高浸透圧性非ケトン性昏睡および低血糖が挙げられ,後者には輸液療法を必要とする種々の内科的疾患および外科手術が該当する.本稿では前者の代表として糖尿病性ケトアシドーシスを,後者の代表として外科手術を取り上げ,両者における輸液療法の原則を概説したい.両者とも,適正なインスリンの使用および水・電解質の補給が重要であり,それに加え後者では,ブドウ糖によるカロリー補給が必要である.

腎不全と輸液

著者: 二瓶宏 ,   大図弘之

ページ範囲:P.2840 - P.2841

 近代医学がもたらした治療技術の進歩の中でも,輸液療法は抗生物質の開発に比肩しうるものの一つである.その歴史は1930年代に遡りうるものの,評価が定まり汎用されるに至ったのはごく最近である.まして,体液の恒常維持に関わる腎臓が,その機能を十分に発揮できない腎不全状態での輸液療法には,それなりの配慮が必要である.

肝疾患と輸液

著者: 上桝次郎 ,   徳本明秀 ,   川崎寛中

ページ範囲:P.2842 - P.2843

 肝疾患の輸液療法はその病態に応じて行う必要がある.たとえば,急性または慢性肝炎では,経口カロリー摂取不足を補う程度の輸液を行うのに対し,劇症肝炎などの急性肝不全または肝硬変による慢性肝不全の場合,肝以外の多臓器障害を併発しているので,綿密な輸液管理が重要となる.本稿では主要な肝疾患をとりあげ,それらに対する輸液療法のポイントを述べる.

悪性腫瘍と輸液

著者: 小野一之 ,   加賀美尚

ページ範囲:P.2844 - P.2845

 悪性腫瘍患者の場合であっても,輸液療法の基本,注意点は大きく変わるものではない.比較的,高齢者が多いことから,輸液量,輸液速度,投与熱量に制限を受けることはあるが,これは悪性腫瘍に特徴的と言うよりも,むしろ高齢者の輸液という観点から考えるべきである.
 しかし,悪性腫瘍患者の輸液に際し,考慮すべき点もいくつかあるので指摘しておきたい.

座談会

輸液・栄養療法

著者: 二瓶宏 ,   遠藤昌夫 ,   菱田明 ,   和田孝雄

ページ範囲:P.2847 - P.2860

輸液の難しさの背景
 和田 今日は輸液の臨床に携わっておられる先生方をお迎えして実際的なお話をしていただこうというわけです.輸液は多くの権威者がいろいろな本も書かれているし,座談会も開かれて,さんざん議論され尽くされた感じもあります.しかし,それにもかかわらずこうやって輸液の座談会なり,いろいろな特集が組まれるということは,それなりに輸液が常に多くの問題をはらんでいて,なかなか難しい点が多いからだろうと思うんです.
 また読者の立場からすると,輸液は何か訳がわからない.特に数値をひねくり回すものですから,他の臓器の話と比べてつかみどころがない.そういう点からいってわかりにくいという感じを与えるのだろうと思うのですが,輸液は何でわかりにくいかということです.そういう点について,皆さん一わたりお話しいただきたいと思います.皮切りに二瓶先生,いかがでしょうか.

カラーグラフ 眼と全身病

皮膚疾患と眼

著者: 宇山昌延

ページ範囲:P.2866 - P.2867

 皮膚病変はしばしば眼病変を伴う.眼病変が現れても程度が軽く気付かないことが多いが,中には重篤な視力障害を発生する.最近症例が増加し,今後注意を必要とする全身性皮膚疾患に伴う眼疾患を紹介する.

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

拡張期僧帽弁逆流を認めたannulo-aortic ectasiaの1例

著者: 大木崇 ,   福田信夫 ,   内田知行 ,   恵美滋文 ,   小川聡 ,   森博愛

ページ範囲:P.2876 - P.2885

■心音図・心機図所見
 1)心音図と頸動胴皮曲線(図1)
 心音図は心尖部〔Apex,左第6肋間前腋窩線(6LAAL)〕,第4肋間胸骨左縁(4L)および第2肋間胸骨右縁(2R)の同時記録を示すが,重要な所見は次の4点である.①心尖部I音(I),すなわちI音僧帽弁成分の減弱,②II音の逆分裂と大動脈弁成分(IIA)の減弱,③2Rに最強の駆出性収縮期雑音〔SM(1)〕と拡張期逆流性雑音〔DM(1)〕,④心尖部に最強の全収縮期雑音〔SM(2)〕と拡張期ランブル〔DM(2)〕.
 I音僧帽弁成分の減弱は,本例における僧帽弁狭窄合併の有無を判断する好材料となる.一般に僧帽弁狭窄を合併すれば,僧帽弁の器質的変化がよほど著明でない限り,心尖部I音は亢進を示す.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

小腸(4)—虚血性腸炎,腸型Behcet病,simple ulcer

著者: 松川正明 ,   西澤護

ページ範囲:P.2886 - P.2892

 西澤 前回はCrohn病のX線所見の特徴を詳しく述べていただきましたが,今回はCrohn病との鑑別疾患にはどんなものがあるかということと,それらのX線所見,鑑別方法についてお伺いします.
 まずCrohn病との鑑別で一番重要なのは腸結核ですけれども,これはすでに前々回で済んでおりますので,今回はそれ以外の,虚血性腸炎,腸型べーチェット,simple ulcerなどについて伺いたいと思います.ところで虚血性腸炎は最近増えているのではないですか.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2869 - P.2875

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・10

陳旧性心筋梗塞

著者: 鰺坂隆一

ページ範囲:P.2894 - P.2903

定義
 心筋梗塞は,その病期により急性および陳旧性心筋梗塞に分類される.両者は病理学的変化も異なるが,臨床的な意味からもその取り扱いに差がある.概念的には陳旧性心筋梗塞とは,梗塞による心筋壊死部の線維化が完成され,比較的安定した状態といいうるが,それが発症後いつからであるかについては梗塞の大きさや性状などにより一定していないため,明確に規定するのは困難である.概略,発症後数カ月(遅くとも6ヵ月)以上経過したことをもって陳旧期に入ったとみなせばよいであろう.

検査

検査データをどう読むか

著者: 小出典男 ,   武南達朗 ,   辻孝夫

ページ範囲:P.2904 - P.2907

 症例:45歳,女性.主訴:肝精査.既往歴:特記すべきものなく,輸血歴,アルコール歴もない.家族歴:母が胆石症.現病歴:昭和61年2月,交通事故にあい,頸椎捻挫の診断で鎮痛剤の投与を受ける.昭和61年3月の健康診断で初めて肝機能異常を指摘され,その異常が持続するため,同年8月,精査目的にて当科入院となる.倦怠感,食欲低下,発熱,発疹,掻痒感,腹痛,下痢などの自覚症はない.入院時現症:身長153.2cm,体重55.7kg.浮腫,発疹,貧血,黄疸はなく,手掌紅斑,クモ状血管腫もない.四肢,頭部,胸部に異常なく,腹部では心窩部に肝を3横指触知したが脾は触知しなかった.

消化器疾患診療メモ

「早期診断」は本当に有用か

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.2908 - P.2909

 「早期診断」の定義:ある疾患を症状発現以前にみつけること.
 (例1)A氏は一流企業のエリートサラリーマンでした.これまで仕事一筋に打ち込んできて体力には自信がありました.40歳になったのを機会に人間ドックを受けてみたところ,肝機能検査に異常があるといわれました.精密検査を受けるように勧められ,某院に入院し肝生検の結果,非活動性の慢性肝炎と診断されました.とくに治療の必要はないといわれたものの,どうしても肝炎のことが頭にこびりついて離れませんでした.これまで遅くまで仕事をしてクタクタに疲れてもたいして気に止めませんでしたが,これ以来すべて肝臓に結びつけるようになりました.仕事をしていても常に肝臓のことが心配で集中できず,休みがちとなり,ライバルが昇進していくのを横目で見ながら頻繁に休むようになり,ついに給与もカットされるようになりました.

神経疾患診療メモ

クモ膜下出血の誤診を避けるために

著者: 豊永一隆

ページ範囲:P.2910 - P.2911

 クモ膜下出血は脳動脈瘤の破裂により起こる場合が最も多いが,典型的な病歴と脳CTスキャンの結果を参考にすればその診断は比較的容易である.しかし非定型的な発症をする症例や,CTを行ってもクモ膜下腔に血腫の存在を示す高吸収域が認められない症例では,診断が遅れたり見逃されてしまう.動脈瘤の再破裂の時期は初回発作後2週間以内が多いとされていたが,最近ではもっと早く起こるとされ,それも24時間以内が多いといわれている.周知のとおり,再破裂を起こした症例の死亡率は40%の高率である.したがって,クモ膜下出血による死亡率を低下させるには,血管攣縮の予防とともに,再破裂を起こす前に的確な診断を下すことが大切である.
 本院では年間約400名の脳血管障害の患者を診療しているが,そのうち脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血の患者は35名前後である.本院では初診は研修医により行われるが,やはり年に1,2件は診断のミスが生じている.これらの中にはクモ膜下出血をまったく疑われなかった症例もある.しかし,CTまで行われたものの異常がないので髄液検査が行われず,帰宅可となった症例のほうが多い.クモ膜下出血の診断では表に示すような種々の原因により誤診が起こってくる.今回はこのような誤診をさけるための診療上のポイントについて述べる.

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「medicina」第25巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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