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雑誌目次

雑誌文献

medicina25巻3号

1988年03月発行

雑誌目次

今月の主題 消化性潰瘍とその周辺 Editorial

消化性潰瘍1988年

著者: 木村健

ページ範囲:P.388 - P.389

 Cruveilhier(1829年)が胃潰瘍を,ulcus veutriculi chronicum simplex s. rotundumと記載したごとく,消化性潰瘍は再発を繰り返しながら慢性に経過するものであり,文字通り慢性潰瘍である.一方,これと概念的に対峙するものに急性潰瘍(AGML)がある.これは,原因が明確であり,その誘因の除去と共に速やかに治癒に向かい,そこには再発は認められないことが本質的な特性とされている.
 近年,種々の近代的手法により胃粘膜の損傷と治療の機序の究明は著しい展開をみせている.就中,胃粘膜防御機構の解明には瞠目するものがある.しかし,これらはすべて急性潰瘍におけるものであって,これをヒトにおける慢性潰瘍,すなわち消化性潰瘍に直ちに敷衍するにはいささか無理があると思えてならないのである.

消化性潰瘍の成因

成因論の今日的展開

著者: 竹本忠良 ,   柳井秀雄

ページ範囲:P.390 - P.392

 Schwarzの"酸なくして潰瘍なし"という有名な言葉をはじめとして,消化性潰瘍成因論に関する名言は多いが,1954年に,Hollanderは,"Why does the living stomach of a warmblooded animal not digest itself?"という興味深い問いを発している.彼はその論文中で,すでに,消化性潰瘍の成因は,攻撃因子と防御因子の2つの要素の生理的バランス失調によるとの考え方を述べているが,この概念は,やがて,Sun & Shayにより天秤学説の図として広く知られるようになった.

疫学—遺伝因子と環境因子

著者: 渡辺能行 ,   川井啓市

ページ範囲:P.394 - P.395

 消化性潰瘍の発生要因については,依然として未知の部分が多い.本稿では,疫学的立場からみた消化性潰瘍の遺伝因子と環境因子について整理を行い,記述する.

酸分泌(酸分泌機構を含む)

著者: 武藤弘

ページ範囲:P.396 - P.397

 消化性潰瘍の原因論の多くは酸分泌との関連についてのものであるが,決定的なものはない.消化性潰瘍の発生における酸の重要性はSchwarzのno acid,no ulcerの仮説をもち出すまでもなく,日常診療においても身近に感じられるところである.特に最近のH2 receptor antagonistsの発達は,その革命的ともいえる抜群の病状消失の速効性,治癒期間の短縮により,酸の重要性を再確認させている.しかし,そのH2 antagonistsをもってしても,治癒しえない潰瘍の存在,再発の問題などが残っており,消化性潰瘍の問題は解決しえないことを物語っている.
 ここでは,酸分泌機構およびそれと消化性潰瘍との関連についてまとめてみたい.

mucus-bicarbonate barrier

著者: 重本六男 ,   川村雅枝 ,   横山泉

ページ範囲:P.398 - P.400

 "no acid, no ulcer"の言葉はあまりにも有名であり,酸は潰瘍発生に不可欠な存在といわれている.しかし,実際には過酸症は胃潰瘍で10%,十二指腸潰瘍でも30%位と言われ,潰瘍発生が防御因子と攻撃因子の破綻から生ずるとすれば,防御因子が潰瘍の発生に大きく関与していることは推測される.
 粘膜防御機構の概念は,"健康な胃粘膜がなぜ150mmol/lの強酸に抵抗できるか"という命題に完全に答えうるものでなければならないが,その一つとしてmucus(粘液)-bicarbonate(重炭酸イオン)barrierの存在は大きい1〜3)

微小循環

著者: 佐藤信紘

ページ範囲:P.402 - P.404

 消化性潰瘍は字のごとく,消化液による消化管粘膜の潰瘍性病変を指すが,ulcus pepticumと名づけれたのが19世紀中頃ときくので,古くから原因が特定化されていた病気である.これは消化液がきわめて多量に分泌されるために生じるか,消化液には著変がなくても粘膜抵抗が低下したために生じる.前者の典型はZollinger-Ellison Syn-dromeであり,後者の典型はストレス潰瘍である,後者は,ストレス(精神的および肉体的)により粘膜抵抗の減じた際に生じるが,ストレスのみでは小さな病変しか生じず,ストレスの際に,あるいはストレス後に消化液が粘膜抵抗の減弱の度合に応じて共存すると,臨床的に問題となる病変が生じる.消化液の関与は粘膜抵抗の減弱が著しいほど小さく,少量の酸で大きな潰瘍ができる1).酸の関与が少ないと考えられる老人性胃潰瘍や,萎縮の強い高位胃潰瘍でもH2ブロッカーが卓越した効果を示すのは,これらの潰瘍ではそれだけ粘膜抵抗が弱まっているため,少量の酸が攻撃因子として大きな意味を持つのである2)
 最近,粘膜抵抗については,粘液,重炭酸分泌,プロスタグランディン,細胞回転,血流といった種々な面から解明が進み,粘膜防御を高める薬剤も数多く開発され,潰瘍の成り立ち,患者の背景を考慮したきめ細かい処方が可能となった.

プロスタグランディン

著者: 寺野彰 ,   平石秀幸 ,   太田慎一

ページ範囲:P.406 - P.407

 ■プロスタグランディンとは?
 プロスタグランディン(以下PG)はアラキドン酸の代謝産物であり,1934年,von Eulerによって発見された強力な生理活性物質である.身体のあらゆる組織に分布しており,消化管,特に胃粘膜にPGE2およびPGI2が多量に含まれている.これらのPGには,強力な胃酸分泌抑制作用があることはかなり以前より知られており,抗潰瘍剤としての可能性が期待されていた.

二重規制学説

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.408 - P.410

 二重規制学説とは,消化性潰瘍の外科的切除胃をもとに,胃粘膜および胃筋構造の面から,潰瘍の発生部位についての組織形態学的な検討成績とこれに基づく潰瘍成因に関する学説とからなる.
 この学説は,大井実によって提唱されたものであり,昭和30年(1955)に粘膜法則1)として発表され,その後10年経過して昭和41年(1965)には筋法則を含めた二重規制学説2)として完成した.

上部消化管出血へのアプローチ

診断

著者: 小林正文 ,   津久井拓 ,   秦泉寺亮 ,   大矢智恵 ,   渡淳 ,   高田啓介

ページ範囲:P.412 - P.415

 消化性潰瘍の合併症のなかで,出血は最も頻度が高く,また上部消化管出血の原因として消化性潰瘍は,その第1位を占めている.したがって,日常の臨床の場で消化性潰瘍の出血例を診ることはきわめて多い.出血の程度も便潜血反応により証明される程度の例から,ショック状態に陥る例までさまざまであり,重症例では早期に適切な処置が取られないと生命の予後に大きな影響を及ぼすことになる.

薬物療法

著者: 黒川きみえ ,   光永篤

ページ範囲:P.416 - P.417

 消化管出血では吐血,下血といったかなり劇的な症状があり,ショック症状で緊急対応を迫られることも稀ではない.この消化管出血のうち,上部消化管出血は70%を占め,このうち50〜60%が消化性潰瘍出血である.その出血源の早期診断は直視下内視鏡診断が行われるが,この潰瘍出血に対し内視鏡下止血手技が一般的に行われるようになったのは昭和50年以降である.
 しかしそれでも潰瘍出血は外科手術適応とされるものが少なくなかった.消化管出血の治療には高周波電流による焼灼止血や,アルコール局注法など内視鏡的に種々の方法の開発があったが,一方で新しい潰瘍治療薬の開発があり,これが潰瘍出血が内科治療適応として考えられるようになるのに大いに寄与した.わが国では昭和56,7年以降であろう.

内視鏡的止血法

著者: 浅木茂

ページ範囲:P.418 - P.419

 吐血や下血を示す消化管出血の約80%程度は上部消化管由来の出血である.消化管出血のなかでも大出血を繰り返したり,出血性ショックを伴うような大出血は,ほとんどが上部消化管由来である.上部消化管出血を示した症例が個々にその後どのような経過をたどるかは予測が困難である.その予後を大きく左右する因子として,患者の栄養状態(貧血や低蛋白血症)や合併する基礎疾患の重症度,出血状態,出血血管の太さなどがあり,これらの各因子に大きな影響を与えるものに,受診までの時期があり,さらにいかに対応するか,などがある.
 したがって,吐血や下血に遭遇したら直ちに出血病変および出血状態の診断と内視鏡的止血を目的とした治療的緊急内視鏡検査を行い,内視鏡的止血の適応外と判断される出血には薬物療法や外科手術を行うことが大切である.

手術適応—H2ブロッカー登場前後の合併症の推移

著者: 塚本秀人 ,   比企能樹

ページ範囲:P.420 - P.421

 H2ブロッカー(H2受容体拮抗剤)の開発・普及などによる薬物療法の進歩によって,消化性潰瘍の手術症例数は減少傾向にあり,とくに難治性潰瘍の激減が目立っている1).しかし,出血や穿孔,穿通,狭窄,変形などの合併症を伴う消化性潰瘍は絶対的手術適応とされることが多く,全消化性潰瘍手術例数に対する合併症症例数の比率は近年増大している.ここでは消化性潰瘍の手術適応とその推移,および出血性胃・十二指腸潰瘍の治療方針とその手術適応について述べる.

消化性潰瘍の治療

消化性潰瘍の薬物療法の現状と展望

著者: 木村健 ,   木平健 ,   吉田行雄 ,   笠野哲夫

ページ範囲:P.422 - P.427

 消化性潰瘍の治療の目標は,1)症状改善,2)治癒促進そして,3)再発防止である.抗潰瘍剤の革命児とされるヒスタミンH2受容体拮抗剤の出現,さらにはユニークな薬理作用をもつ数々の防御因子増強剤の開発により,これら治療目標のうち,症状改善と治癒促進はきわめて容易に達成されることになった.しかも,端的に言って,目標をこの2つに限れば,薬剤はH2ブロッカーのみで十分である,あえて防御因子増強剤を併用する必要もない.まして,防御因子増強剤のみでなければならないとする根拠は全く存在しない.

心身医学的アプローチ

著者: 川上澄

ページ範囲:P.428 - P.432

 消化性潰瘍(Peptic ulcer)は,胃あるいは十二指腸局所に潰瘍という器質的病変を現す疾患であるが,その発生や再発には心理・社会的因子あるいは性格的因子(いわゆるストレス)が強く関与している症例が多く,心身症(Psychosomatic Dis-ease, PSD)としても重要視される(図1)1)
 したがって,治療も身体医学一辺倒の薬物療法のみでは十分ではなく,どうしても心身医学的な治療が必要である.

薬物療法―ヒスタミンH2受容体拮抗薬

著者: 岡崎幸紀

ページ範囲:P.434 - P.436

■H2ブロッカーの特徴
 ヒスタミンH2受容体拮抗薬(以下H2ブロッカー)は,薬理学的には,胃粘膜壁細胞のH2受容体に対し,ヒスタミンと拮抗し,その作用を阻止することにより酸分泌を抑制する.
 この作用は図にみられるように,最初に臨床的に応用されたシメチジンでは,ヒスタミンの構造式にみられるものと同じイミダゾール環の働きが中心となっている.その後開発されたH2ブロッカーでは,必ずしもイミダゾール環を必要としないことが明らかとなり,ラニチジンはフラン環,ファモチジンはチアゾール環,ロキサチジンは3-ピペリジール・メチルフェニール基が,酸分泌抑制の働きをしている.

薬物療法―プロトン・ポンプ阻害剤

著者: 塚本純久 ,   中澤三郎

ページ範囲:P.438 - P.439

 強力な酸分泌抑制作用を持つヒスタミンH2受容体拮抗剤が抗潰瘍剤の中心として使用されるに至り,入院治療や外科的治療を要する症例が減少してきた.近年,H2拮抗剤よりも更に強力な酸分泌抑制作用を持つプロトン・ポンプ阻害剤が登場し,消化性潰瘍が更に早く治癒することが期待できる状況になった.本稿では,このプロトン・ポンプ阻害剤の最近の知見について述べることとする.

薬物療法―選択的ムスカリン受容体拮抗剤

著者: 石森章

ページ範囲:P.440 - P.441

 ピレンゼピンpirenzepineの登場は,ムスカリン受容体が複数のサブクラスに分類されることを明らかにし,したがってムスカリン受容体拮抗剤(抗コリン作動剤)は表のように従来の非選択的ムスカリン受容体拮抗剤と選択的ムスカリン受容体拮抗剤に二大別され,後者はさらにM1ならびにM2受容体拮抗剤に分類される.消化性潰瘍治療薬として用いられるのは,非選択的ムスカリン受容体拮抗剤と選択的ムスカリン受容体拮抗剤のうちムスカリンM1受容体拮抗剤である.ここではムスカリンM1受容体拮抗剤について述べるが,現在のところピレンゼピンpirenzepineとテレンゼピンtelenzepineの2種類が知られている.

薬物療法―制酸剤

著者: 加藤善久

ページ範囲:P.442 - P.443

 近年,H2-プロッカー,ピレンゼピンなどの強力な酸分泌抑制剤の開発・導入により,消化性潰瘍や過酸症候例の治療は一変したといっても過言ではない.これら新薬剤の導入以前には,副交感神経遮断剤(抗コリン剤)その他と共に,多種類の制酸剤が用いられ,一定の効果をあげてきた.本項では攻撃因子抑制剤としての近年の胃酸分泌抑制剤開発導入に際し,多年にわたる研究および臨床蓄積から,その促進要因となった制酸剤について記す.

薬物療法―粘液分泌・組織修復促進剤

著者: 森賀本幸

ページ範囲:P.444 - P.446

 消化性潰瘍の発生を攻撃因子と粘膜防御因子の対立関係の不均衡でもって説明することは,そこに胃および十二指腸粘膜が正常に保持されて機能していくための条件,すなわち健常な粘膜には攻撃因子である胃酸およびペプシンに抵抗する粘膜防御因子の存在を想定しているものである.その粘膜防御因子(粘膜関門)という概念を構成する諸因子については表のようにまとめることができる1,2)
 それら粘膜防御因子を増強して消化性潰瘍の治療を目指す治療薬剤が,わが国において近年多く開発されている.その開発の背景には,消化性潰瘍のうち胃潰瘍の頻度がわが国において高いこと,その胃潰瘍の病因は粘膜防御機構の破綻ないし減弱として理解されることが多いことなどであろうと思われる.

薬物療法―粘膜血流改善剤

著者: 早川滉

ページ範囲:P.448 - P.451

■胃粘膜血流と胃粘膜防御機構
 消化管粘膜の防御機構を構成する上皮細胞の機能は粘液産生・分泌,重炭酸分泌,細胞回転,粘膜内pH調節,細胞間tight junction,細胞膜の機能などから構成されている.これらの機能の維持には好気性の代謝が必要であり,すべてを支配する共通の因子として粘膜血流,粘膜微小循環1)が注目されている.

薬物療法―プロスタグランディン製剤

著者: 谷内昭 ,   矢花剛

ページ範囲:P.452 - P.454

 胃粘膜にも存在する高度不飽和脂肪酸の一種であるプロスタグランディン(以下PG)E1,PGE2およびPGI2(プロスタサイクリン)の強力な酸分泌抑制および抗潰瘍作用については早くから注目され,副作用の少ない各種PG誘導体が相次いで開発されている.本稿ではこれまでわが国において消化性潰瘍に対してその臨床効果が検討され,その実用化の目どのついたPG製剤の概要を述べてみたい.

治癒速度論による薬効評価

著者: 笠野哲夫 ,   吉田行雄 ,   広瀬完夫 ,   木平健 ,   鈴木勉 ,   木村健

ページ範囲:P.455 - P.457

 抗潰瘍薬の従来の薬効評価の判定基準は,しかるべき投与期間での累積治癒率を見るというきわめて単純なものである.この方法は,ある一点の時間的な断面での統計的数値に過ぎず,その時点に至るまでの過程の評価は,一切行われていないのである.したがって潰瘍の治癒過程の経時的評価には,治癒率を時系列的に,dynamicに解析することが望ましいのである.
 今,累積治癒率を時間の関数として表示できれば,全過程を通じての治癒の時間的変化を表す適切なパラメーターを求めることが可能となる.しかもこのパラメーターは,各々治癒速度を意味するものであり,この操作により薬剤をはじめとする多くの治癒を規制する因子の数量的解析が可能となると考えられる.そこで,従来までのstaticな方法に代わり,潰瘍の治癒過程を時系列的に,dynamicに評価する方法として,潰瘍の治癒速度の統計学的解析を試みた.

消化性潰瘍の食事療法

著者: 平塚秀雄

ページ範囲:P.458 - P.459

 消化性潰瘍の治療法において,食事療法は重要な位置を占めていたが,その基本は潰瘍で侵されている胃・十二指腸粘膜をなるべく刺激しないように保護しながら,十分な栄養をとって全身の栄養状態を改善し,潰瘍の治癒促進をはかることである.すなわち,人間が本来もっている自然治癒力を高めて回復をはかるのであるが,そのためには安静とバランスのとれた食事が不可欠である.また食物には酸中和作用もあり,薬物としての作用も兼ねているが,従来はややもすると"いけない主義"の制限食,低栄養の食事を続けている場合があるが,注意すべきことと考える.

消化性潰瘍の管理

潰瘍症

著者: 岡部治弥

ページ範囲:P.460 - P.461

■消化性潰瘍は全身疾患
 Palmer EDが,peptic ulcerは全身性疾病であるのに,不幸にして局所の潰瘍(組織欠損)をそのまま病名としているために,ややもすると,一臓器の病変と見なされがちであると述べてあるのを読んで,なるほどと思ったのは,もう20年以上の昔である.その本が何であったか,今定かでないが,ふと思いついて,書棚の中からPalmer EDのClinical Gastroenterology,Second Edition 1963(初版1957年)年版をとり出して見ると,D.u.の項により精しく同様のことが述べられている.それを紹介すると,
 「消化性潰瘍は日常の診療にきわめて一般的な疾患であるために,この疾患に対する医師の取り扱い方は驚くほど定形化され,患者の個性,特性は全く無視されている.その診断と治療には型にはまった方法がすすめられて来ており,潰瘍治療薬の効果の判定は患者群の相対的治癒率を基にして判断されている状態である.また,逆に一人の患者にbestであったものは,すべての患者に最良であると見なされてしまうのである.その結果として,本疾患は他のどの消化器病よりも患者の特性の認識が必要とされるものでありながら,全く個性の消失となってしまっている.

ヒスタミンH2受容体拮抗薬使用後の再発

著者: 中村孝司

ページ範囲:P.462 - P.463

■再発防止についての考え方の変遷
 ヒスタミンH2受容体拮抗薬(以下H2ブロッカー)の出現する以前から,潰瘍の再発抑制には治癒後も治療を継続することが有効であることは一部で主張されていたが1),維持療法の必要性は一般には必ずしも認識されず,主治医が適当に行うという状況が長く続いていた.しかしH2ブロッカーが登場すると,それまでに比べて潰瘍がきわめてよく治癒する一方,治癒後H2ブロッカーを中止するとその後の再発率が驚くほど高くなることが報告されはじめ1),その対策として維持療法が重要であることが広く認識されるようになって,今日では潰瘍の治癒後直ちに投薬を中止することなく,適切な維持療法を続けることが常識となってきた.

再発促進因子

著者: 小越和栄

ページ範囲:P.464 - P.465

 消化性潰瘍,特に胃潰瘍はいったん治癒してもその70〜80%は生涯のどの時期かに再発を起こす疾患である.その理由としては昔から潰瘍体質という言葉が使われており,ストレスなどを受け易い人に発生および再発が多いと考えられていた.最近潰瘍についても種々な発生要因や再発要因が解明されるにつれ,その因子も次第にはっきりとして来ている.それらは予防できるものもあり,また現在では予防不可能なものもある.したがって,現段階では潰瘍の再発については,その因子を分析することにより,頻度を減少させることはできるが再発の防止は不可能である.

維持療法

著者: 吉田行雄 ,   木村健

ページ範囲:P.466 - P.469

 維持療法とは病変の再発,再燃の防止を目的とした薬物療法であり,なにも潰瘍治療に限って行われているものではない.例えば,心不全におけるジギタリス療法や,潰瘍性大腸炎のPSL療法などでも古くから一般に行われているものである.
 消化性潰瘍においても維持療法は古くから行われていた.しかし臨床的に特にその必要性が強調されるようになったのはH2ブロッカーの出現以後のことである.これは,①H2ブロッカーの出現により,従来潰瘍治療の主眼であった治癒が比較的容易に得られるようになったこと,②H2ブロッカー投与中止後,早期に高率の再発がみられること,③H2ブロッカー投与に伴い,防御因子の低下やガストリン分泌の亢進1)など再発に関与するいくつかの可能性が指摘されていることなどによるものである.

消化性潰瘍と類縁疾患

急性潰瘍と慢性潰瘍の概念

著者: 福地創太郎

ページ範囲:P.470 - P.472

 単に胃潰瘍,十二指腸潰瘍というときは,慢性潰瘍を意味していることが多い.潰瘍は再発しやすい疾患であるとか,潰瘍症として捉えられる病態がそれである.他方,急性潰瘍は急性胃粘膜病変(AGML:acute gastric mucosal lesion)あるいは急性胃病変を構成する病変であり,一般の胃潰瘍,十二指腸潰瘍とは,発生様式,内視鏡所見も異なり,短期間に治癒し,再発することも少ない点で,臨床的に異なった疾患と考える見解が,臨床家の間では有力である.しかし,昔から,びらんや急性潰瘍から慢性潰瘍が生ずるという見解は一部の学者にあり,現在でも,後記するように急性胃病変と慢性潰瘍の関連を想定する意見が一部にある.急性潰瘍と似て非なるものに,慢性潰瘍の急性増悪がある.また慢性潰瘍でも初発の潰瘍は未だ潰瘍底の線維化を伴わない急性潰瘍と,類似した組織像を示す時期があると推定されるが,これは通常の急性潰瘍とは別個に扱われるべきであろう.

ストレス潰瘍

著者: 白浜龍興 ,   大庭健一 ,   箱崎幸也

ページ範囲:P.474 - P.475

 ストレス潰瘍とは種々のストレッサーにより引き起こされたストレス状態において,胃や十二指腸を始めとする上部消化管に発生した急性潰瘍で,精神的ストレスによる急性潰瘍,肉体的ストレス(厳しい訓練,運動など),熱傷患者にみられる急性潰瘍(Curling's ulcer)および頭部外傷,脳手術にみられる急性潰瘍(Cushing's ulcer)などが良く知られている.これらの中,我々内科の臨床医が日常の診療でよく遭遇するのは心労,心配事などの精神的ストレスや過労,苛酷な訓練などの肉体的ストレスなどによる上部消化管の急性潰瘍を含む病変がほとんどである.
 最近の消化管の内視鏡機器の開発,改良および普及は著しく,消化器症状を有する患者に対して緊急,または早期内視鏡検査が容易になされ,ストレス潰瘍の診断の機会は益々増えてくると考えられる.並木は1,2)精神的ストレスによる消化管の急性病変について多くの研究を行い,その胃粘膜の内視鏡所見は,急性胃潰瘍,出血性エロジオン,びまん性の粘膜出血の3つの形態を示し,それらが単独でみられたり,混在してみられたりすると述べている.筆者らは,不規則な食事,睡眠時間など非常に厳しい,苛酷な環境の下で行われる精神的にも肉体的にもストレスの多い,いわゆるレンジャー訓練(7週間)に際して胃や十二指腸の上部消化管に急性病変が発症してくることを経験している3,4)

薬剤性潰瘍

著者: 原田一道

ページ範囲:P.476 - P.477

 治療を目的として投与した薬剤が,不幸にも消化管粘膜障害の発生をきたすことがある.なかでも上部消化管とくに胃粘膜障害が最も多い.与えられたテーマは薬剤性潰瘍となっているが,実際には薬剤による急性の潰瘍性変化1)2)(粘膜出血,びらん,潰瘍),つまり急性胃病変3)として捉えられるものであり,以下その観点から述べる.薬剤による急性胃病変の実際については,並木4)が最近の5年間(1981〜1986年)における全国アンケート調査の報告がある.その詳細は論文をみていただくとして,今回はその中から参考となる事項をいくつか取り上げてみたい.

難治性潰瘍

著者: 斉藤利彦

ページ範囲:P.478 - P.479

 最近では内視鏡診断に機能的内視鏡検査が加味され,一層,消化性潰瘍の病態が解明されるようになってきている.一方,治療に関してもH2-Blocker製剤の登場により,飛躍的に向上しているが,消化性潰瘍の予後判定からみた病態,殊に難治性潰瘍については依然として残された課題である.

老人性潰瘍

著者: 岸清一郎

ページ範囲:P.480 - P.481

 近年,高齢者の増加,社会的環境の変化など種々の要因により老人性潰瘍が増加傾向にある.平均寿命が延長した今日,老人を年齢のみで規定するのは適当でないかもしれないが,日本老年医学会では60歳以上を老年者としているため,60歳以上にみられる消化性潰瘍を老人性潰瘍としている報告が多い1〜5).老人性潰瘍がすべての点で若年者のそれと異なるとは考えられないが,胃潰瘍では,発生部位,潰瘍の大きさ,背景胃粘膜,症状,胃液分泌,合併症など多くの点において両者間に相違が認められることも事実であり,治療にあたっても特別な配慮が必要なことも知られている.本稿では,老人性潰瘍の特徴および治療法について述べる.

食道潰瘍

著者: 木暮喬 ,   林三進 ,   野口雅裕 ,   嶋田守男

ページ範囲:P.482 - P.485

 組織学的には食道粘膜以下の欠損を食道潰瘍と定義している,しかし臨床的には"びらん"と"潰瘍"を明確に区別しえず,X線にしろ内視鏡にしろ,やや深い粘膜欠損は潰瘍として扱うことになる.
 部位は,頸部,胸部,腹部のいずれにも発生する.頻度は逆に下部食道が多く,上部食道に向かって少ない.ただし,原因によりそれぞれの好発部位が異なることが食道潰瘍の特徴と言える.治療法を考える上には,原因の除去が第1であるので,先ず原因につき述べ,次にそれぞれの潰瘍の診断上の特徴治療について述べる.

吻合部潰瘍

著者: 田中三千雄 ,   井田一夫

ページ範囲:P.486 - P.487

 「吻合部潰瘍anastomotic ulcer」は「吻合口潰瘍stomal ulcer」,「吻合縁潰瘍marginal ulcer」ともよばれ,胃と腸を吻合した手術後にその吻合部やそれに近接する粘膜に発生する潰瘍である.そのほとんどの例は消化性潰瘍の術後に発生するものであるが,本邦においてはその発生頻度は手術例(広範囲胃切除,幽門洞切除兼迷切)の1%以下である1)
 吻合部潰瘍の治療にあたっては,何よりもまず吻合部潰瘍に特有な成因を十分に理解しておかなければならない.

Zollinger-Ellison症候群

著者: 青木照明 ,   柏木秀幸

ページ範囲:P.488 - P.489

■概念
 1955年Zollinger & Ellisonが,①胃全摘術以外の潰瘍治療に抵抗し,②著しい高酸分泌に起因する十二指腸・空腸潰瘍と,③膵島腫瘍のtriasを示す2症例の報告を行った.1960年Gregoryはその病態にgastrinの関与を報告し,以後病態の解明とともに,Zollinger-Ellison症候群(ZES)はgastrin産生腫瘍(gastrinoma)による高gastrin血症と胃酸の過剰分泌に起因し,難治性再発性消化性潰瘍を招く病態を意味するようになった.近年古典的なZESのtriasを呈するnon-gastrin scretagogue producing pancreatic tumorの報告1)もあり,その概念の見直しが必要となってきているが,本章では従来通りgastrinomaとしてのZESに対する診断,治療について述べる.

胃潰瘍の診断—癌との鑑別

X線診断

著者: 日高徹 ,   奥原種臣 ,   春間賢

ページ範囲:P.490 - P.492

 胃潰瘍の診断は胃疾患診断学の基本であるが,実際の臨床の場では,癌との鑑別が容易でない場合が多い.鑑別困難な例としては,1)急性期潰瘍と癌性潰瘍,2)治癒期潰瘍とIII+IIc型早期胃癌,3)瘢痕期潰瘍とIIc型早期胃癌などがある.また,良性,悪性の鑑別に一定期間の経過観察を要するものがあり,結果的に悪性サイクルの一端を観察することも臨床の場ではよく経験する.
 以下に症例を呈示しながら鑑別について述べる.

消化性潰瘍の診断—癌との鑑別

内視鏡診断

著者: 飯石浩康 ,   竜田正晴 ,   奥田茂

ページ範囲:P.494 - P.497

 胃の潰瘍性病変には良性の消化性潰瘍のほかに,癌や肉腫(平滑筋肉腫,悪性リンパ腫など)に伴う潰瘍があり,その鑑別診断は日常臨床の場においてきわめて重要である.以前には,治りやすい潰瘍は良性であり,治りにくい潰瘍が癌であると考えられていたが,早期胃癌のなかにも潰瘍が短期間に縮小治癒してしまう例が少なからず存在し(悪性サイクル1)),潰瘍の治りやすさが必ずしも良・悪性の鑑別には役立たないことが明らかとなった.内視鏡による潰瘍の鑑別には,病変の正確な読み,的確な部位からの生検,経過を追っての再検などが必要となる.今回は潰瘍性病変を伴う陥凹型早期胃癌との鑑別診断を中心に述べる.

トピックス

胃粘膜微小循環障害から見たfree radicalsの役割

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.498 - P.500

 Free radicalとは原子や分子の周りにある電子に,ペアをなさないいわゆる不対電子を持つ原子あるいは分子と定義される.この中で電子受容体として酸素がかかわる反応性の高い分子を活性酸素と称し,superoxide,hydroxyl radical,過酸化水素,一重項酸素の4種が含まれる.生物は進化の過程で酸素を有効に利用し,活性酸素の障害から生体を防御する仕組みを獲得してきた.ところがいったん虚血や低酸素といった侵襲が加わると,急激な活性酸素産生とその消去系の破錠が生じ,その酸化作用による組織障害(oxidative stress)を引き起こすことが明らかになって来た.本稿では胃粘膜障害における活性酸素の関与について胃粘膜微小循環との関連で述べてゆく.

Campylobacter pylori

著者: 井上宏之 ,   三上淳 ,   堀信治 ,   福田能啓 ,   田村和民 ,   下山孝

ページ範囲:P.502 - P.504

 ヒスタミンH2受容体拮抗剤(以下H2ブロッカーと略す)が出現して以来,胃・十二指腸潰瘍の治療は著しく変貌した.
 消化性潰瘍の成因についてはSun & Shayのバランス説が広く引用されてきたが,H2ブロッカーに抵抗する潰瘍の存在が知られてから,防御因子と攻撃因子のほかに第三の因子が想定されるようになってきた.

壁細胞におけるプロスタグランディンの局在

著者: 松本誉之 ,   荒川哲男 ,   樋口和秀 ,   小林絢三

ページ範囲:P.506 - P.507

 プロスタグランディン(以下PGと省略する)は,膜に存在するリン脂質に由来するアラキドン酸を基質として生合成される生理活性物質である.胃粘膜においてはPGE2とPGI2が豊富に存在し,細胞保護作用や,酸分泌抑制作用などを通して,胃粘膜防御機構の中枢を構成している.筆者らは,これまで困難とされていた胃粘膜内PGの局在を免疫組織化学的手法により証明することに成功した.そこで本稿では,PGの胃粘膜内における局在について述べるとともに,その制御機構との関係などについて,最近その役割が注目されている壁細胞を中心として解説する.

難治性胃潰瘍の内視鏡的超音波断層像

著者: 山中桓夫 ,   吉田行雄 ,   笠野哲夫 ,   木村健

ページ範囲:P.508 - P.509

 胃潰瘍の診断は,X線・内視鏡検査によって行われる.超音波内視鏡は,X線・内視鏡検査によって確認された潰瘍の超音波断層像を描出して,その評価を行う.すなわち,超音波内視鏡による潰瘍の評価は,従来のX線・内視鏡による粘膜表面の変化に基づく潰瘍の評価と異なり,潰瘍の断層像による評価である.このことが超音波内視鏡による潰瘍の評価の特徴であり,新たな観点からの潰瘍の評価方法として期待される所以である.
 本小論では,超音波内視鏡による胃潰瘍の超音波断層像を示し,而して難治性胃潰瘍の特徴について言及したい.難治性胃潰瘍の概念については別項で示されるが,ここでは,内科的治療により3カ月以上治癒(瘢痕)に至らない胃潰瘍とした.

座談会

消化性潰瘍の治療の現状と展望

著者: 岡崎幸紀 ,   森賀本幸 ,   浅木茂 ,   宮田道夫 ,   木村健

ページ範囲:P.511 - P.532

 木村(司会) 本日の主題は「津化性潰瘍の治療の現状と展望」でございます.消化性潰瘍の治療となると,何をおいてもH2-block-erは大きな役割を占めています。1978年でしたか,そして数年遅れて日本でも使用されてきていますが,消化性潰瘍の治療は,やはりH2-blockerを無視しては語れないのが現状かと思います.

理解のための10題

ページ範囲:P.534 - P.536

カラーグラフ 眼と全身病

真菌による眼内感染症

著者: 宇山昌延

ページ範囲:P.538 - P.539

 免疫抑制剤,抗癌化学療法剤,大量の抗生物質やステロイド剤の長期投与で,個体の抵抗力や免疫性が低下した患者に日和見感染が起こりやすい.その結果,サイトメガロウイルスやトキソプラスマ原虫の感染による重篤な網脈絡膜炎を生じて失明例が多くなったことは本誌1,2月号の本欄で紹介した.
 このような免疫能や抵抗力の低下状態にある患者が,中心静脈管栄養や点滴静注のために血管内留置カテーテルが長期間行われていたり,胸部・腹部臓器の手術後でドレーンが長期間留置されているときには,それをつたって,日和見感染の1つとして真菌感染が発生しやすい.外科の大手術,手術の反復実施のあとの患者にみられることが多い.真菌血症を起こし,全身の各部に真菌感染症を来すが,この際,真菌は血行性に網膜,脈絡膜,毛様体などの眼内組織にも定着し,そこに膿瘍を作り,激しい炎症を生じる.やがて炎症は眼内全組織に拡がり,とくに硝子体に膿瘍を生じ,眼内全組織の壊死と化膿を来す.真菌性眼内炎fungal endophthalmitisとよばれる.

グラフ MRIの臨床

脊髄

著者: 南俊介

ページ範囲:P.542 - P.545

 脊髄領域のMRIにおいて,頭蓋頸椎移行部および高位頸髄を検査するときは頭部用コイルを,他の部位を検査するときは表面コイルを,筆者らは使用している.使用するパルス系列はスピンエコー法であり,T1強調像としてTR/TE=600/25を,T2強調像としてTR/TE=2,000/80を用いている.T1強調像では,脊髄が高信号域,脳脊髄液が低信号域となり,解剖学的詳細が見やすく,実際上はT1強調像のみでほとんど診断できる.T2強調像では,腫瘍,梗塞,浮腫,脳脊髄液などがそのT2の長さのため高信号域となるので,病変自体が見やすくなる.とくに脊髄内小病変(梗塞,多発性硬化症のplaque)の描出には,心電図同期を併用したT2強調像が不可欠である.以下,種々の脊髄疾患のMR像を供覧する.

演習

心電図演習

著者: 上原哲史 ,   石村孝夫

ページ範囲:P.547 - P.551

労作時の息切れ,動悸を訴えて来院した72歳男性
 既往歴 45歳頃より高血圧(拡張期圧100〜/20mmHg)および痛風で加療中.60歳,脳血栓にて4カ月入院.現在ごく軽い右片麻痺を残す.喫煙80本/日/40年.
 家族歴 母,脳梗塞のため死亡.
 現病歴 61歳頃より,坂道や階段の昇行時,急に気分が悪くなり,息切れ,動悸,顔面蒼白となり,冷汗が出現する.約10分間その場に立ち止まっていると自然に消失する.同発作は年に4〜5回あった.安静時に出現することはなく,ニトログリセリン舌下錠は使用したことがない.また記憶に残るほどの激しい胸痛を覚えたことは一度もない.

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・3

心不全

著者: 垣花昌明

ページ範囲:P.552 - P.557

 心不全とは,身体各部が必要とするに十分な血流量を心臓が送出しえない状態のいわば総称名,ないし症候群である.したがって,心不全をきたす具体的な疾患名,異常循環動態名は多岐にわたる.心不全の存在を察知して,改善の手段を講ずることはいうまでもなく重要であるが,心不全を引き起こした元の疾患,異常循環動態は何であるかの追求を怠ってはならない.

救急 図解・救命救急治療

救急室でみられる不整脈

著者: 黒川顕

ページ範囲:P.558 - P.565

 救急室でみられる不整脈は種々の原因で起こる.心臓そのものに原因がある場合もあるが,むしろ心臓以外に原因をもつ場合が多い.
 そこで不整脈とその治療を考える際,単に不整脈のみを別個のものとして考えると,大きな誤りをおかす.不整脈の原因は何か,不整脈のためにhemodynamicsが障害されているか,それまでにいかなる治療がなされていたか,合併症は何か,などを考慮に入れる必要がある.hemodynamicsの評価は,ことに脳,心,腎においてなされなければならない.

一冊の本

「外科学序説」

著者: 林四郎

ページ範囲:P.567 - P.567

 1947年という戦後の混乱の時代に大学を卒業して以来,この40年間に入手した本の中には他人に譲ったり,図書館に寄付したりして,姿を消したものも少なくないし,時代の変遷とともに内容も古くなり,また研究の主題も変って,ページをめくる機会もなくなり,ただ若い頃の思い出に過ぎなくなったものもある.しかし体裁,内容に時代の流れを感じさせるものがあっても,入手した頃の感激が今なお脈々として生き続けている本も少なくなく,Klempererの「内科診断学」や青山徹蔵先生の「小外科総論」などもその実例であるが,冒頭にあげた「外科学序説」もこれまたこの範疇に入る,私にとって記念すべき蔵書である.
 1958年に木村高偉氏(名古屋大学出身で勝沼内科から斉藤外科に転じられた)により医歯薬出版から日本語訳が刊行されたもので,その原本は1951年フランス外科学会の長老Rene Lericheによって書かれたもので,本来の題名は「外科の哲学La philosophie de la chirurgie」である.残念ながら現在では新しい本を入手不可能であるが,この名著の一部を拙著「明日の外科―一外科医の回想と期待」(からだの科学選書,日本評論社,1985年)に取りあげさせていただいた.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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