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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

今月の主題 新しい不整脈診療 editorial

不整脈に関する新しい概念が日常診療にどの程度役に立っているか

著者: 比江嶋一昌

ページ範囲:P.6 - P.7

 最近,電気生理学的検査,Holter心電図などのテクニックの臨床への導入,各種の抗不整脈剤の開発,ペースメーカー療法や外科的療法の進歩などにより,臨床不整脈の分野は著しい発展をとげてきた.これらの発展は新しい概念を次々に生み,それらの概念が今日,不整脈の診断・治療に反映されつつある.
 それでは,どのような新しい概念が今日の診療に役立っているのであろうか.

新しい用語の解説と臨床例

entrainment—リエントリーの1所見

著者: 奥村謙

ページ範囲:P.8 - P.10

 頻拍症の最中に,頻拍症より速いレートでペーシングを行い,頻拍症をペーシングレートに増加(同調)させることをentrainmentという1,2)。頻拍症の機序が自動能であってもリエントリーであってもentrainmentは可能であるが,Waidoらはリエントリー性頻拍症のentrainmentを検討し,ペーシング中の心電図および心腔内電位にてリエントリーに特異的と考えられる所見を見出し,これにより頻拍症の機序としてのリエントリーを自動能と区別することを可能とした1)
 すなわち,リエントリーによる頻拍症ではペーシングの条件(レートおよび部位)を選べば下記の基準が満たされentrainmentが確立されるのに対し,自動能による頻拍症ではたとえ自動能のフォーカスがペーシングによりリセットされても下記の基準は満たされない.このentrainmentの診断基準は頻拍症の機序としてリエントリーを支持するものであり,またリエントリー性頻拍症の1所見でもある.

gap phenomenon—"過常伝導"との関係

著者: 相沢義房 ,   池主雅臣 ,   柴田昭

ページ範囲:P.11 - P.13

●定義
 心房(心室)に間隔を短縮させながら期外刺激を与えていくと,一旦房室(房室)伝導が途絶するゾーンがあるが,さらに短い間隔の心房刺激を与えると再び房室伝導が認められる場合があり,これを房室(室房)伝導におけるgap phenomenon(gap現象)という.

excitable gap—心房粗動の考え方

著者: 井上博

ページ範囲:P.15 - P.17

●心房粗動の機序とexcitable gap
 心房粗動の機序として,従来より異所性自動能元進と興奮旋回(reentry)の2説があり,後者はmacro reentryとmicro reentryに分けられる.その興奮旋回路に外からの刺激が入り込める余地(excitable gap,すなわち期外刺激で粗動周期が影響される)があるか否かについては議論が分かれていた1,2).
 Mines(1914)は心筋の輪状標本を使い興奮が旋回することを示したが,これはmacro reentryの代表的な例で,解剖学的な障害(興奮が伝導しない部分)の周囲を興奮が旋回するものでexcitablegapがあるとされる.Allessieら(1977)は,微小電極を用い兎の心房筋標本で,興奮旋回には固定した旋回路がなくとも興奮が不応期を脱した部分を次々に伝わり機能的にとりうる最小の旋回路を作り,その中心部分は常に不応期に入っているとするmicro reentryの概念(leading circle concept)を提唱した.このモデルにはexcitable gapがないとされる.表にこれらの特徴を示した3)

late potential—high riskの証明?

著者: 加藤貴雄 ,   金応文

ページ範囲:P.18 - P.20

 コンピュータを用いて数百心拍の心電図波形を加算処理することにより,通常の12誘導心電図では確認し得ない微小な電位を記録しようという試みがなされ,その臨床的意義の検討が行われている.とくにかかる方法によってQRS終末部に記録される心室遅延電位(late potential;LP)は観血的心臓カテーテル法で記録されるdelayed activityとほぼ同一のものであることが確認され,この微小な電位と心室頻拍や心室細動など致死性の重症心室性不整脈発生との関連性が注目されている.従来このような重症不整脈の臨床評価には,ホルター心電図や運動負荷心電図および心臓カテーテル法による心臓電気生理学的検査などが行われてきた.
 加算平均心電図法(signal-averaged electrocardiogram;SAE)によるLPの評価は,従来の方法に比べ記録時間が短くその場で評価ができ,かつ患者に対する負担,侵襲がまったくないという利点があり,非観血的で安全にくり返し検査ができることから,幅広い臨床応用が期待される.以下,本稿ではSAEの記録法ならびにそれにより認められるLPの臨床的意義について述べる.

long RP' tachycardia—上室性頻拍の新しい概念

著者: 鈴木文男

ページ範囲:P.22 - P.23

 long RP' tachycardiaとは,いわゆる上室性頻拍のなかで,頻拍中のP波の出現時相が,先行するQRS(R)波よりも,それにひき続くR波に近接するタイプの頻拍のことをいい,したがって,R-P'/P'-Rの比が1よりも大きい頻拍のことである.この際,P'波と表記するのは,この心房波の由来が洞性のものではなく,異所性P波ないしは逆伝導性P波であることを示すためである.
 本タイプの頻拍が注目をひくようになったのは,1967年,Coumelがその心電図的,電気生理学的特徴を報告してからである1)

regular,wide QRS tachycardia—心室性?上室性?

著者: 伊藤明一 ,   小野寺正輝

ページ範囲:P.25 - P.27

 R-R間隔が規則正しく,0.12秒以上の幅広いQRSを示す頻拍は,regular,wide QRS tachycardia1,2)(以下RWT),regular,wide QRS complex tachycardia3)あるいはregular tachycardia with wide QRS complexes4)と呼ばれている.RWTは,種々の機序で発現することが知られており(表1),心電図による鑑別が試みられているが(表2)5),その正確な診断は困難であることが多く,時に不可能である.しかし,近年の臨床心臓電気生理学的検査法の進歩により,それらの機序鑑別はより詳細になされるようになり,適切な治療が可能になった.

torsade de pointes—突然死の原因?

著者: 田嶋経躬

ページ範囲:P.28 - P.29

 Torsade de pointes(TdP)とは,房室ブロック例にみられた独特な形をした心室頻拍に対して,1966年Dessertenneにより提唱された用語である1)
 Torsadeとはねじれた総(ふさ)を,Pointesとは尖端すなわちQRS群の頂点を意味し,心室頻拍のQRS群の極性と振幅が漸次変化し,基線を中心にあたかも上下にねじれたような形をしているゆえに命名された用語である.多形性心室頻拍の1亜型と分類する人が多い2)が,同一心電図で単形性心室頻拍もみられたり,心室細動(VF)・突然死に至る危険性もあり,未だTdPの不整脈としての概念は確立されていない3).しかしながらTdPの治療は通常の心室頻拍と異なり従来の抗不整脈薬は効きにくく,禁忌なこともあるので,TdPの認識は不整脈の救急診療では重要である。

endless loop tachycardia—ペースメーカーの合併症

著者: 小倉俊介 ,   中田八洲郎

ページ範囲:P.31 - P.33

●定義
 心房に同期して心室を刺激するペーシングモード(VAT,VDD,DDD)では,心室刺激による心室興奮が心房へ逆伝導され,この結果生じた逆行性P波をペースメーカーが感知し,設定された房室遅延時間後に再び心室を刺激するという現象が時にみられ,これをくり返す場合にendless loop tachycardiaもしくはpacemaker mediated tachycardiaという.

不整脈誘発源となる特殊な背景

arrhythmogenic right ventricular dysplasia(ARVD)

著者: 松原哲

ページ範囲:P.34 - P.36

 右心室を主たる病変の場とするRight Ventricular Dysplasia(RVD)は,右心室筋の脂肪変性や線維化を病理組織学的特徴とし,心不全を主症状とする小児から学童期に多く発見されるいわゆるUhl's anomalyとして知られてきた疾患である.近年Fontaineら1)は,反復して出現する心室頻拍を主症状とする非虚血性心疾患で,RVDと同様に右心室筋の脂肪変性を主たる病理組織学的特徴とする一連の疾患に対して,Arrhythmogenic Right Ventricuiar Dysplasia(ARVD)という名称を提唱している.この名称に対する的確な日本名はまだなく,不整脈原性右室異形成と訳されていることもある.
 まだまだ不明な点が多い疾患であるが,原因として病理組織所見さらにヨーロッパでは地域的家族性発生が報告されていることなどから,胎生期からの心筋線維の構造的異常の結果であるとする考え1)と,ウイルス性心筋炎の関与も含めていわゆる心筋症が右心室に生じたものとする意見2)とがある.性別発生状況をみると,RVDが女性に多い3)のに対し,ARVDのほうは2:1の頻度で青年男子に多い1)と報告されている.

QT延長症候群

著者: 渡辺一郎 ,   斉藤頴

ページ範囲:P.38 - P.40

●分類
 心電図上QT時間が延長する原因は,一次性(先天性)と二次性(後天性)に分けられる(表1).
 一次性QT延長症候群は,遺伝性の持続的なQT延長,発作性心室性頻拍性不整脈,これによる失神発作,急死などを特徴とする.狭義には,常染色体劣性遺伝があり,先天性聾唖を合併するJervelle and Lange-Nielsen症候群と,常染色体優性遺伝形式をとり,先天性聾唖を欠くRomano-Ward症候群とに大別できるが,広義には同様の諸特徴を有しながら,遺伝関係が不明ないしは調査困難の孤発症例も特発例として本症候群に含められている.

特発性心筋症

著者: 大西哲 ,   笠貫宏

ページ範囲:P.41 - P.44

 特発性心筋症(idiopathic cardiomyopathy;ICM)は原因不明の疾患であり,拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy;DCM),肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy;HCM)および拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy;RCM)に分類されるが,前2者が主なものである.HCMのうち左室流出路に閉塞を作るものは肥大型閉塞性心筋症(hypertrophic obstructive car-diomyopathy:HOCM)とよぶ.HCMは心筋の肥大を主徴とし,血行動態上は拡張期コンプライアンスの低下を特徴とする.自覚症状は少ないが,突然死は死因の半数を占める.一方,DCMは左室の拡張を主徴とし,左室機能の低下をきたす.自覚症状も多く心不全による死亡が多いが,突然死の頻度も高い.ICMの突然死の原因として,心室頻拍(ventricular tachycardia;VT)や心室細動(ventricular fibrillation;Vf)などの頻脈性不整脈や房室ブロックなどの徐脈性不整脈が重要である.
 ICMの組織学的特徴は,心筋細胞の肥大と錯綜配列および線維化である.心筋におけるこれらの変化が,リエントリー回路を形成し,心室性期外収縮(VPC)やVTの原因にもなり得る.また刺激伝導系に線維化が及ぶと,種々の伝導障害をきたす.

僧帽弁逸脱症

著者: 坂東重信

ページ範囲:P.46 - P.47

 僧帽弁逸脱症(mitral valve prolapse;MVP)は頻度の高い弁膜疾患であり,非リウマチ性弁膜症のなかでも重要な位置を占めている.
 本症はしばしば種々の不整脈を伴うため,不整脈を合併しやすい心疾患の1つとして注目されている.

特発性心室頻拍

著者: 臼田和生 ,   池田孝之

ページ範囲:P.48 - P.51

 近年Holter心電計の普及により,虚血性心疾患などの明らかな基礎心疾患が認められないにもかかわらず心室頻拍が発見される機会が増加している.このような基礎心疾患を伴わない心室頻拍は特発性心室頻拍(idiopathic ventricular tachy-cardia;以下IVT)と呼ばれており,その臨床像も次第に明らかとなりつつある.本稿では,特発性心室頻拍の臨床的・電気生理学的特徴ならびに治療について概説する.

抗不整脈剤

著者: 内藤政人

ページ範囲:P.52 - P.53

 抗不整脈剤使用中に既存の不整脈が悪化したり,新たな不整脈が出現してくることを,抗不整脈剤の催不整脈作用(proarrhythmia)とか,不整脈発源作用(arr-hythmogenesis)と呼ぶ(表1).しかし,たとえば心室性期外収縮などはその数が日によってかなり変動するので,抗不整脈剤投与後にその数が増えたとしても,それは単なる自然変動であるかもしれない.また,抗不整脈剤投与後に新たに心室頻拍が出現してきた場合,それは基礎心疾患が進行したためかもしれない.抗不整脈剤という言葉からして不整脈を抑制する薬剤を連想しがちであるが,頭の中では"電気生理学的作用を有する薬剤"と理解しておいたほうがよい.

不整脈の新しい診断法

ホルター心電図法

著者: 小林明

ページ範囲:P.54 - P.55

 不整脈の発生が慢性・持続性であれば,通常の安静心電図記録によりその診断はけっして困難なことではない.しかし,期外収縮を含め多くの不整脈の出現は不安定で,しかも短時間内でその発生が大きく変化する.たとえば発作性頻拍性不整脈の出現を短時間心電図記録により把握することは困難である.一方,ホルター心電図は短時間内,一過性にしか出現しないような不整脈をも記録把握することが可能であり,現在不整脈の診断に不可欠な検査法になっている.

運動負荷法

著者: 林博史 ,   波多野潔

ページ範囲:P.56 - P.57

 安静時に観察される不整脈は運動の影響をうけ,増加したり,消失したりする.また,安静時には観察されない不整脈が運動によって初めて誘発されるものもあり,不整脈の診断,評価に運動試験は必須である.運動負荷法により種々の不整脈の誘発が可能であり,本法は不整脈の診断,治療方針の決定,治療効果の判定,運動能力の判定,運動処方,予後の推定などに有用である.

電気生理学的検査法

著者: 谷川宗生 ,   深谷真彦

ページ範囲:P.58 - P.64

 His束心電図などの心腔内電位の記録法に,各種プログラムの心臓ペーシング法を組み合わせた臨床心臓電気生理検査(electrophysiologic study;EPS)が,各種不整脈に広く行われている.これにより,洞結節や房室結節機能の判定,各部位の不応期の測定,各種頻拍性不整脈の誘発や停止および機序の解明がなされている.

経食道心房ペーシング法

著者: 平尾見三 ,   比江嶋一昌

ページ範囲:P.66 - P.68

 非観血的に心房をペーシングする方法として,経食道心房ペーシング法(以下,食道ペーシング法)がある.本法は,食道内に置いた電極を介して,心房を電気刺激するものである.筆者ら1)は,1982年より本法を臨床応用してきたが,以下,一部で実例を呈示しつつ,解説を加える.

体表面電位図法

著者: 鎌倉史郎

ページ範囲:P.70 - P.73

 体表面電位図とは,胸部と背部に多数の電極を配置して心電図を記録し,各誘導点での瞬時瞬時の電位分布を天気図の気圧配置のように等高線(等電位線,等時線)で表示したものである.本法は12誘導心電図やベクトル心電図で表出困難な右胸部,背部の電気的情報を有し,かつ心臓の興奮伝播過程を経時的に,平面あるいは立体的拡がりとして表現できるため,不整脈解明の有力な手段となりつつある.
 本稿では,WPW症候群における副伝導路部位(心室早期興奮部位)推定法,ならびに心室性不整脈の発生部位同定法を中心に述べる.

不整脈の新しい治療法

新しい抗不整脈剤

著者: 新博次

ページ範囲:P.74 - P.77

 従来わが国で使用されている経口抗不整脈剤はquinidine,procainamide,disopyramideであり,静注ではprocainamide,lidocaine,disopyramideが主流となっている.また最近では,経口剤のみならず静注も可能なmexiletine,またaprindineといった新しい薬剤が登場し,不整脈の薬物療法も多岐にわたるようになった.しかしながら実際,これらいずれの抗不整脈剤によっても効果が得られない重症不整脈患者も少なくない.そこで,より強力な抗不整脈作用を有し,かつ副作用の少ない新しい薬剤の開発が待たれている.ここでは新しく登場した薬剤,そして近い将来一般臨床で使用されるであろう抗不整脈剤を紹介するとともに,抗不整脈剤の選択につきその概略を述べる.

上室性頻脈性不整脈の薬物療法

著者: 小松親義 ,   野本淳

ページ範囲:P.78 - P.81

 上室性頻脈性不整脈には,表1に示すように種々の不整脈が含まれる.しかしここで示した上室性不整脈の中で臨床的に問題となるのは,主に頻脈を伴う心房細動,粗動と,リエントリー機序による発作性上室性頻拍症(PSVT)であるので,以下この2つを中心に,これらの薬剤治療について述べる.表2に上室性頻脈性不整脈によく使用される薬剤と,その投与量を示す.

心室性頻脈性不整脈の薬物療法

著者: 傅隆泰

ページ範囲:P.82 - P.85

 心室不整脈の種類およびこれをもたらす基礎疾患ないし病態は多彩である.したがって,薬物治療の適応および使用薬剤は,これらの点を考慮に入れて決定すべきである.以下に心室不整脈の種類別に,薬物治療の適応および治療の実際について記述する.

抗頻拍ペースメーカー

著者: 笠貫宏 ,   大西哲

ページ範囲:P.86 - P.88

 近年,抗頻拍ペースメーカー(antitachycardiapacemaker)の開発,改良により頻脈性不整脈に対するペースメーカー(PM)療法が注目され,その適応は拡大されつつある1,2).薬物療法や手術療法とは異なった利点を有するが,その適応と至適条件の決定および長期管理などについて残された問題も少なくない3).本稿では,抗頻拍PMの適応および問題点について概説を加える.

カテーテルアブレーションと植え込み型自動除細動器

著者: 磯部文隆

ページ範囲:P.90 - P.92

●カテーテルアブレーション
 電気生理学的検査の急速な進歩により,不整脈の機序のみならず不整脈起源部位の正確な位置確認ができるようになった.この不整脈起源に対し,開胸することなくカテーテルを用い局所に大量の電流を流し,発生する熱により心筋を熱焼灼し不整脈を根治する新しい治療法が,カテーテルアブレーションである.

外科的療法

著者: 三崎拓郎 ,   岩喬

ページ範囲:P.94 - P.97

 各種の新しい抗不整脈剤の登場にもかかわらず,依然として薬剤抵抗性不整脈が存在する.かかる不整脈に対する外科的治療は,WPW症候群にとどまらず,房室結節性リエントリー,異所性心房性頻拍および心室性頻拍に対しても試みられ,良好な成績が得られている.そこで本項では,筆者らの経験を交えて不整脈の外科的療法につき述べる.

不整脈をめぐるcontroversies

発生機序としてのreentryとtriggered activity

著者: 今西愿

ページ範囲:P.98 - P.102

 異常自動能とreentryは共に頻拍性不整脈成因の代表である.近年,異常自動能の中にtriggeredactivity(TA)が加えられ,またreentryの中には定まった旋回回路を必要としない"leading circle"や反射(reflection),さらに異方向性伝導(anisotropic conduction)に起因するreentryなどが指摘されている.本稿では,これらの新しい知見をも含め,reentryとTAの概説を試みる.

クラスI薬の分類

著者: 児玉逸雄

ページ範囲:P.104 - P.107

 Vaughan Williamsらの分類によるクラス1の抗不整脈薬(局所麻酔作用を有するNaチャネル抑制薬)は,従来は主として心筋の活動電位持続時間(APD)に対する作用の差から,Ia:APDを延長させる薬物,Ib:APDを短縮させる薬物,Ic:APDに影響を及ぼさない薬物,の3群に分けられてきた.これに対して,最近ではクラス1薬をNaチャネル受容体に対する親和性や結合解離動態の面から細分類し直す試みがなされている1).後者の細分類はHondeghem,Katzung2)らが提唱したmodulatedreceptor仮説に基づく考え方であり,抗不整脈薬の興奮頻度依存性効果と密接な関連を有する.本稿ではこのmodulated receptor仮説の概要を説明するとともに,新しい細分類の臨床的意義について触れてみたい.

心室性期外収縮に対する治療の是非

著者: 桜井正之

ページ範囲:P.108 - P.110

 心室性期外収縮は,日常診療で遭遇する最も多い不整脈の1つである.その内容も,まったく治療の必要のないものから,放置すれば心室頻拍あるいは心室細動に移行する危険性があり,迅速な処置が要求されるものまで多彩である.かつて,Hissらは健康な成人121,309人(年齢16〜49歳)において通常心電図検査を施行したところ,心室性期外収縮の出現頻度は0.77%(952人)であり,また多源性のものはわずか3人にのみ認められたと報告している1)
 しかしながら,近年のHolter心電図検査法の普及により,健常者においても,その総数は多くないが,40〜55%に心室性期外収縮が検出され,さらに多源性あるいは連発で出現する型も7〜22%に認められ,この傾向が年齢の増加に伴って高くなることが知られている.さらに,虚血あるいは肥大など心筋に器質的変化がある場合には,心室性不整脈の検出率はますます高まってくる.このような多大な情報量が得られる検査法が普及したことが,同時にこの不整脈をどこまで治療したらよいのかという疑問を深刻に投げかけたともいえる.

突然死を予知するうえでのホルター心電図の役割

著者: 田辺晃久

ページ範囲:P.112 - P.115

 本稿におけるテーマは"突然死を予知するうえでのホルター心電図の役割"とのことから,出現頻度が比較的高く,かつ突然死との関連で臨床的に重要な心室不整脈について稿をすすめる.
 まず,実際ホルター心電図記録中の突然死において,どのような不整脈が原因であったかを文献および自験例で考察する.ついで日常生活上最も突然死と結びつきやすい陳旧性心筋梗塞例のホルター心電図上の予知因子を述べ,最後にホルター心電図上記録された心室頻拍の長期予後,とりわけ突然死との関連を筆者らの成績を中心に報告する.

突然死を予知するうえでの電気生理学的検査の役割

著者: 相原直彦 ,   大江透

ページ範囲:P.116 - P.119

 心臓突然死を記録しえたホルター心電図記録をまとめた報告によると,そのうち1割が徐脈性の不整脈,9割が持続性の心室性頻脈型不整脈であった.この心室性頻脈型不整脈の9割が心室細動で,ほとんどの場合,種々の持続時間の心室頻拍や心室粗動が先行していたと報告している.このように重症心室性不整脈の出現は,突然死において重要な役割をはたしている.
 重症心室性不整脈に対する検査法として電気生理学的検査法(EPS)が,観血的ではあるが他の方法と比較して有用な方法であるとされている.そこで今回は,突然死との関連においての重症頻脈型心室性不整脈に対するEPSの意義や限界点などについて述べていく.EPSの有効性や意義は,対象となる患者群によりその有効性が違う可能性があるため,本稿では疾患別に述べる.

座談会

不整脈診療の実際

著者: 飯沼宏之 ,   小川聡 ,   三崎拓郎 ,   比江嶋一昌

ページ範囲:P.121 - P.133

 比江嶋(司会) 不整脈の診断,治療にはここ十数年間に著しい進歩,発展がみられました.ヒス束心電図が臨床に登場したのは1969年,昭和44年ですが,それ以前では不整脈を解析するにあたって,長く記録された心電図や,2チャンネルの同時記録心電図があればいいほうでして,大抵は,たまたま記録された1チャンネルの短い心電図で,不整脈を解析しなければならなかったわけです.したがって,その解析はともすれば正確さを欠き,また不整脈の発生機序を説明するのに,それまでに動物実験で得られた機序を"外挿"したものでした.
 一方,不整脈の治療の面では,当時抗不整脈剤として使用できた薬剤は,キニジン,プロカインアミド,アジマリンしかありませんでした.徐脈性不整脈に対するペースメーカー療法も,世界で最初に埋め込みが行われたのは1958年,昭和33年といわれますので,わが国では当時まだ黎明期にあったわけです.それが今日では,不整脈の診断,機序の解明においては,電気生理学的検査法,ホルター心電図法などの新しい方法の臨床への導入,発展によって多くの不整脈の発生機序が明らかにされ,また,複雑な不整脈の解析が容易になりました.

理解のための10題

ページ範囲:P.134 - P.136

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・1【新連載】

冠動脈造影所見と模式図/加齢に伴う冠動脈病変

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.138 - P.140

 冠動脈造影法は虚血性心疾患の診断に非常に有用である.近年,狭心症や心筋梗塞の治療として経皮的冠動脈拡大術や冠動脈血栓融解療法,冠動脈バイパス手術などが本邦においても広く行われており,これらの治療法を選択するうえでも冠動脈造影上の狭窄部位がどのような病変を示しているかを知ることは非常に重要である.しかし,これまでに冠動脈造影所見と組織像を対比検討した報告は比較的少なく,必ずしも十分だとは言えない.
 そこで冠動脈造影所見と組織像を対比しえた症例について疾患別にカラーグラフで呈示し,簡単な解説を加えてみたい.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

小腸(5)—腫瘍

著者: 松川正明 ,   西澤護

ページ範囲:P.152 - P.159

 西澤 今日は小腸の腫瘍についてお話を伺いたいと思います.この場合,十二指腸を除くトライツ靱帯から肛門側の空腸,回腸に発生する腫瘍ということになります.小腸の腫瘍は悪性腫瘍が良性腫瘍より統計的に多く,悪性腫瘍の中では非上皮性の腫瘍の方が上皮性の腫瘍よりも多い.すなわち悪性リンパ腫とか,肉腫の方が癌より多い.それから,良性でも非上皮性の腫瘍が上皮性のものよりも多い.すなわち粘膜下腫瘍が腺腫のようなものよりも多い.
 これから実際にそういう良性腫瘍,悪性腫瘍がX線上どういうふうに現れるか,そしてどういう撮り方をしたらうまく診断ができるのかというようなことについて話をしていきたいと思います.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.142 - P.148

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・11

リウマチ性僧帽弁膜症

著者: 石光敏行

ページ範囲:P.162 - P.167

病因
 リウマチ熱は,心炎,多発性関節炎,発疹,皮下結節,舞踏病などの症状を特徴とする疾患(表1)である.この疾患はA群連鎖球菌による咽頭炎に引き続いて起こる.急性期に重篤な心炎で死亡する場合もあるが,重要なのは心内膜,とくに弁および弁下構造物に,進行性の器質的障害をきたし,その結果,弁の狭窄あるいは閉鎖不全を生じることである.リウマチ熱は,通常5歳から15歳までの小児が罹患し,6歳から8歳にかけて最も高率に発病する.第二次大戦前には12歳以下の小児の10%から15%が本症に罹患したと推定されているが,抗生物質使用の普及とともに激減し,現在都市部においては発病の報告がほとんどない.
 弁膜症は,心炎を伴ったリウマチ熱患者の50%で発病後10年以内に出現し,15%では10年以上たって出現する(図1).残りの35%は恒久的な心障害を生じることなく治癒する.弁病変としては僧帽弁狭窄が最も多く,Bland and Jonesらの報告によれば,僧帽弁狭窄を有さないリウマチ性弁膜症は316例中の27例にしかすぎない1)

肺癌診療・8

肺癌に対する外科治療の現況

著者: 近藤晴彦 ,   成毛韶夫

ページ範囲:P.168 - P.175

 近年における肺癌患者の増加は,部位別にみた悪性新生物による訂正死亡率で人口10万人あたり男17.1人,女6.1人(1986年)と第2位となっており,第1位の胃癌が漸次減少傾向がみられるのと比較して,肺癌は男女とも増加の一途を辿っており,社会的にも憂慮される問題となってきている1)
 この肺癌に対しての根治的治療法としては現在までのところ,残念なことに外科的切除のみであるといわざるをえない.しかし,外科的治療の対象となるものは全肺癌患者の30%内外にすぎず,また根治切除がなされたものでも再発率が高く,外科切除のみの治療成績も十分満足のゆく段階ではないというのが現況である.このため,現在,臨床面では,早期肺癌発見2),より有効な抗癌剤の開発,拡大切除の試み,neoadjuvant chemother-apyに代表される,全身化学療法と外科治療・放射線治療などを組み合わせた集学的治療の試みなど,様々な試行がなされている.

検査

検査データをどう読むか

著者: 小出典男 ,   松島寛 ,   辻孝夫

ページ範囲:P.176 - P.179

 症例:20歳,男性.主訴:意識障害.既往歴:特記すべきことなし.輸血歴:なし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:昭和63年1月22日頃より感冒様症状があったが放置していた.1月24日頃より食欲不振,発熱があり近医受診.肝機能異常を指摘され,1月28日入院.1月29日夕方より興奮状態となり,1月30日当科入院となる.入院時現症:意識,昏睡度III度.手掌紅斑,クモ状血管腫(-).眼球結膜に軽度黄疸を認める.眼瞼結膜には貧血を認めない.心,肺には特に異常を認めず,腹部では肝を心窩部に3横指触知したが,脾は触れなかった.腹水,浮腫は認めなかった.

消化器疾患診療メモ

「消化不良(Dyspepsia)」;古い言葉の新しい概念

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.180 - P.181

 読者諸兄は「消化不良」という言葉を今まで何回となく使ってきたことと思います.医師になる前から,医学部に入学する前から,子どもの頃から,何回となく聞き,話してきた言葉ではないでしょうか?それではこのような馴染みの深い言葉のもつ意味を,プロの医師の頭脳で考え,下のスペースに書いてみて下さい.そしてその症状から考えられる疾患名もついでに書いてみて下さい.
 随分いろいろな意味づけ,定義づけと,可能性のある消化器疾患が出てきたことと思います.これではとてもまとまりがっきません.少なくとも医学用語として用いるには不適切でしょう.それでは「消化不良」という言葉は医学的には死語として葬り去りましょうか?でもちょっと待って下さい.最近またこの言葉が脚光を浴びているようなので,少しだけ時間をさいてこの続きを読んでみて下さい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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