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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻10号

1989年09月発行

雑誌目次

増刊号 これだけは知っておきたい検査のポイント 第4集 尿検査

1.尿量,尿比重,浸透圧

著者: 佐藤隆 ,   下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.1628 - P.1629

●異常値を示す疾患
 正常人の尿量は,通常1日800〜1,600mlであり,尿比重は1.015〜1.024,浸透圧は500〜800mOsm/kgH2O程度である.
 これらは,浸透圧や体液量などの恒常性を維持する機構によって調節されているが,尿量は飲水量や食物摂取量が増大すれば増加し,発汗,不感蒸泄,下痢,嘔吐など腎から以外の水や電解質の喪失が増大すれば減少する.1日尿量2,500ml以上を多尿,400ml以下を乏尿,100ml以下を無尿という.表に尿量異常をきたす疾患を示した.

2.尿外観(色調,混濁)

著者: 佐藤隆 ,   下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.1630 - P.1631

●異常を示す疾患
 正常人の尿の黄色調は,主として,urochromeによるもので,1日の排泄量はほぼ一定である.そのため,黄色調の程度は,水利尿状態や尿の濃縮の程度などの影響を受け,尿量によって変化する.表1に尿色調異常とその原因を示した.
 urochromeは,腎臓で産生されるため,腎不全の尿は血尿などがない場合,ほとんど無色で,尿量が減少しても変化しない.尿崩症と糖尿病でも,ほとんど無色となるが,多尿に伴うことが多く,尿比重は尿崩症では低値,糖尿病では高値となる.

3.尿pH

著者: 佐藤隆 ,   下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.1632 - P.1633

●異常値を示す疾患
 正常人の尿は,弱酸性でpH6.0程度であるが,食事の内容によってpH4.5〜8.0の間を変動する.動物性食品では酸性,植物性食品ではアルカリ性に傾きやすい.発熱,下痢,脱水では酸性となり,激しい運動後には一過性のlactic acidosisにより酸性になることが多い.尿pHには日内変動があり,睡眠時は換気量の減少のため呼吸性acidosisとなり,酸性尿になる.午前中には,夜間に蓄積したHCO3-が排泄されるために,アルカリ尿となる.また,食後には,胃酸が分泌され,血液がalkalosisに傾き,アルカリ尿となる.
 腎における酸塩基平衡の調節は,①H+の排泄,HCO3-の再吸収,②リン酸,乳酸などの滴定酸の生成,③NH4+の排泄などにより行われている.ネフロンの近位部では,大量のH+が排泄されるが,糸球体濾液中のHCO3-によって中和されるため,pHの変動は少ない.しかし,ネフロンの後半では,HCO3-が少ないため,H+の分泌に伴って,pHは低下する.最終的に,尿のpHを決定するのは集合管以下である.尿のpH異常をきたす疾患を表に示した.

4.尿蛋白

著者: 酒井糾

ページ範囲:P.1634 - P.1634

 尿蛋白は,正常では150mg/日以下であるが,150mg/日以上持続的にみられる場合は,その原因を十分検索しなければならない.

5.尿糖

著者: 酒井糾

ページ範囲:P.1635 - P.1635

 尿糖は血糖値の上昇に伴ってみられるoverflow型と,腎尿細管機能障害に際してみられる腎型に分けて考えなければならない.前者には糖尿病,ガラクトース血症,果糖不耐症,良性果糖尿症,乳酸不耐症,Cush-ing症候群,甲状腺機能亢進症などがあり,後者には腎性糖尿病,五炭糖尿症,Fanconi症候群,Lowe症候群,シスチン血症などが含まれる.また,ネフローゼ症候群でも糖尿を認めることがあるが医原性の場合が多い.
 次に異常についての確認および判定に際しての注意事項を述べる.

6.ブドウ糖以外の尿糖

著者: 崎山武志 ,   渡邊干晶

ページ範囲:P.1636 - P.1638

●ブドウ糖以外の尿糖を認める疾患
 通常,成人の尿中で尿糖を認める場合は,そのほとんどがブドウ糖尿である.しかし,新生児や妊婦あるいはある種の食物を大量に摂取した成人には,時にブドウ糖以外の尿糖を生理的にも認めることがある.日常検査で,ブドウ糖尿を認めた場合は,ブドウ糖尿がそれ以外の尿糖に伴って検出されることがしばしばあるので,他の還元糖の存在をチェックすることが望ましい.
 臨床的に問題となるのは,先天性代謝異常症であるが,通常の尿糖試験紙を用いた検査ではブドウ糖以外の尿糖は検出されないため,還元法による尿糖検査を行うことが重要である.表1に尿糖の鑑別法を,表2にブドウ糖以外の尿糖を呈する原因を記した.これらの疾患の早期発見には,疑わしい症状,例えば哺乳や離乳の開始と同時に発症した嘔吐,下痢,低血糖症状とか,痙攣,黄疸,肝脾腫,発育障害などを認めた場合に表2のような各種疾患を念頭に置き,鑑別診断を進める必要がある.特に問題となる疾患は,ガラクトース尿を認めるガラクトース血症,果糖尿を認める遺伝性果糖不耐症や,乳糖尿を認める乳糖不耐症などである.また,肝障害や薬物内服によって二次性のブドウ糖以外の尿糖を認める場合があることに留意する必要がある.

7.尿アセトン体

著者: 遠藤治良 ,   原田裕治

ページ範囲:P.1640 - P.1641

 ケトン体はアセト酢酸(AcAc),アセトン,βヒドロキシ酪酸(OHBA)の総称である.AcAcおよびOHBAは強酸である.アセトンは常温以上では揮発性の高い物質である.ケトン体が血中で濃度を高め,それが腎排泄閾を超えると尿中にケトン体が出現する.
 尿ケトン体の検出はもっぱらニトロプルシド反応が用いられている.試験管内で行う検出法があるが,今日ではニトロプルシド・アルカリ緩衝液をしみこませた試験紙を用いることが多い.市販の尿ケトン体検出用試験紙に数種あって,3種の化合物についての検出感度が異なる.AcAc5〜10mg/dl,アセトン70〜80mg/dlで反応するが,OHBAには全く反応しない.このことは尿ケトン体検査の結果を評価するときやや不利な点となっている.

8.尿ビリルビン

著者: 高阪彰

ページ範囲:P.1642 - P.1643

 ●異常値を示す疾患
 赤血球が網状内皮系で破壊されると,ヘモグロビンのポルフィリン環が開環してビリルビンとして循環血液中に流出する.ビリルビン分画とその性質を表1に示す.非抱合型ビリルビン(Bu)は水に非常に溶けにくいため血中では血清アルブミンと結合して肝に運ばれ,肝細胞でグルクロン酸と抱合し,水可溶性の抱合型ビリルビン(Bc)として肝内および肝外胆管を経て十二指腸に排泄され,その一部は腸肝循環により再び血中に戻る.肝・胆系に閉塞があると,大量のBcが血中に逆流し,血中濃度は高くなるが,血清アルブミンとBcと相互作用によりアルブミンと共有結合したビリルビン(デルタビリルビン,Bδ)1)が血中に漸増する.ジアゾ法でビリルビンを測定すると間接型ビリルビンはBuに対応するが,直接型ビリルビンはBcとBδの和に近位する.これらのビリルビン分画のうち尿中に排泄されるのは主としてBcのみであり,アルブミンと強く結合しているBδやBuが尿中に排泄されることは少ない.

9.尿ポルフィリン体

著者: 高阪彰

ページ範囲:P.1644 - P.1645

●異常値を示す疾患
 ポルフィリンは環状のテトラピロール化合物であり,骨髄の赤芽球系細胞と肝細胞において図に示すようにグリシンとサクシニルCoAを母体としてヘモグロビンやミオグロビンを形成して行く過程で産生される中間物質である.ポルフィリン体とは図のポルフォビリノゲン(PBG)からプロトポルフィリン(PP)までの中間物質を総称しているが,ウロポルフィリノゲンやコプロポルフィリノゲンは自動酸化され,それぞれウロポルフィリン(UP),コプロポルフィリン(CP)として測定される.δ-アミノレブリン酸(ALA)もポルフィリン体に含めて呼ぶこともある.
 ポルフィリンは400nmで励起され強い赤色螢光を発するので検出にも利用される.個々のポルフィリン誘導体は水に対する溶解性が異なっており,PBG>UP>CP>PPの順で水によく溶ける.最も水溶性の低いPPは胆汁に排泄されるが,CPは尿中にも一部は排泄される.UPとPBGはほとんどが尿に排泄される.したがって,尿ではPBG,UP,CP,糞便ではCPとPP,赤血球ではUP,CP,PPが主な測定対象となる.

10.尿クレアチン,クレアチニン

著者: 酒井紀 ,   小倉誠

ページ範囲:P.1646 - P.1647

 クレアチンは,グリシン,アルギニン,メチオニンの3種のアミノ酸から合成される.腎においてtransaminidaseにより,グリシンとアルギニンからグアニド酢酸が形成され,次に肝臓においてmethyltransferaseにより活性メチオニンからメチル基が転位されクレアチンが生成される.クレアチンの98%は筋に存在し,CPK(CreatinPhosphokinase)によりクレアチン燐酸の形で高エネルギー燐酸結合を保持することにより,筋肉運動に必要なエネルギー代謝において,重要な役割を果たしている.クレアチニンは,クレアチンからの非酵素的な脱水により生成される(図).
 クレアチンおよびクレアチニンは,いずれも腎臓から排泄される.腎糸球体で濾過されたクレアチンは,通常近位尿細管においてほとんどが再吸収される.その排泄閾値は約0.6mg/dlであり,血中濃度がそれ以上になった場合に,明らかなクレアチン尿が出現する.一方,クレアチニンは腎糸球体を自由に通過するが,尿細管で再吸収も分泌もされず尿中に排泄される.このため血中クレアチニン濃度が上昇するのは,主に腎排泄機能が低下した場合である.なお,クレアチニンはクレアチンから,毎日ほぼ一定量生成されるため,尿中排泄量は筋肉量に見合った量と考えられる.

11.顕微鏡的血尿,尿潜血反応

著者: 三宅一徳

ページ範囲:P.1648 - P.1649

●異常を示す疾患
 顕微鏡的血尿は腎・尿路系疾患をはじめ多岐にわたる原因(表1)により引き起こされる症候である.その検出は尿沈渣鏡検による赤血球数の算定によるが,試験紙法による尿潜血反応も尿中赤血球の簡便な検出法として集検やベッドサイドでのスクリーニングに欠かせない検査となっている.
 尿試験紙による潜血反応の原理は,試験紙中の過酸化物から,ヘモグロビンやミオグロビンのヘム部分が持つペルオキシダーゼ様作用により生じた酸素を指示薬の色調変化で検出することによる.通常,潜血反応の結果は尿沈渣鏡検による血尿の有無とよく相関するが,本法は非特異的な検出反応であり,血尿以外に血管内溶血によるヘモグロビン尿や,筋組織障害によるミオグロビン尿でも陽性化するので,沈渣鏡検による赤血球検出と組み合わせて,これらの病態の検出を行うことができる(表2).

12.肉眼的血尿

著者: 岸洋一

ページ範囲:P.1650 - P.1651

●異常を示す疾患
 血尿とは赤血球が尿に混入した状態を示し,尿中の赤血球は糸球体から外尿道口までの尿路のいずれかの部分よりの出血である.そしてこれは尿の性状の異常の代表的症状である.眼でみて,血尿とわかる状態を肉眼的血尿といい,尿1,000ml中に血液1ml以上が混在している.肉眼上,正常にみえるが,沈渣での検鏡で赤血球が認められるものを顕微鏡血尿と称し,臨床上,区別している.
 血尿をきたす疾患は種々あるが,肉眼的血尿を示すものを表にあげた.

13.先天性代謝異常症のスクリーニング

著者: 大和田操

ページ範囲:P.1652 - P.1654

●スクリーニング方法と異常を示す疾患
 先天性代謝異常症(inborn errors of metabolism,以下IEM)のスクリーニングは,疑わしい症状を認める症例に行うスクリーニング(ハイリスク・スクリーニング)と早期診断を目的としたマス・スクリーニングに大別される.ハイリスク・スクリーニングとしては,表1に示す尿の呈色反応を利用した簡易テスト1)が広く使用されてきたが,最近では種々の器機分析が普及し,より詳細な検討が可能となったため2),簡易テストの診断的意義は薄れつつある.しかし,治療中の患者のコントロールの良否の簡易判定法として,これらのテストは有効に使用されている.また,臨床検査として日常一般的に行われている血液検査においても,表2のようなIEMのスクリーニングが可能である.
 一方,有効な治療法と確実なスクリーニング法があり,しかもある程度の頻度をもつIEMに対しては,無症状のうちに一般人口集団の中から患者をすくい上げる方法―マス・スクリーニング―が行われている.わが国でも表3に示す疾患がその対象として取り上げられており,その成果が報告されている3)

14.妊娠反応

著者: 近藤泰正 ,   高木繁夫

ページ範囲:P.1655 - P.1657

 産婦人科領域には妊娠に関連した重要な疾患が多く,直ちに生命の危険にさらされる救急疾患も多い.そこで妊娠を早く,正確に診断することは,これらの疾患を診断するうえできわめて重要である.今日,救急疾患のプライマリーケアの観点より,妊娠反応検査は,内科,外科など救急疾患を取り扱う医師にとり必要事項である.一方,妊娠反応検査とhCG同定検査とは同様には扱えないが,近年における免疫学の進歩により,微量のhCG同定検査が短時間に測定可能となり,妊娠反応検査の有する概念が変わりつつある.そこで本稿では最近発達の著しい妊娠反応,低単位,微量hCG測定を中心に解説する.

15.尿沈渣

著者: 伊藤機一

ページ範囲:P.1658 - P.1659

 尿沈渣鏡検は若干の暇と手間および判定能力が要求されるため,最近では,検査の対象を尿試験紙による定性検査で何らかの異常を認めた例のみに絞る施設が多い.しかし,定性正常でも沈渣異常の例が外来患者で20%近くもあり1),この検査の診断的価値は依然として高い.

16.微量尿蛋白と尿中酵素

著者: 芝紀代子

ページ範囲:P.1660 - P.1661

●異常値を示す疾患
 1)アルブミン(Alb)
 尿中微量Alb排泄増加は糖尿病性の腎症進展への危険因子であるため,その測定は腎症の早期診断に不可欠な検査法となりつつある.糖尿病性腎症の病期分類としてMogensenらのI型糖尿病で5期に分けた病期分類(表)が広く用いられているが,尿タンパクが陰性である病期1,病期2で尿中Alb排泄率は増加しており,特に運動負荷により著明に増加する.タンパク尿が明らかとなる病期までは15〜300μg/分の例が多く,毎年24±28μg/分の割合で急増するとされている.尿中Alb排泄量は血糖のコントロールにより減少するので,微量Alb尿の検出は糖尿病性腎症の早期診断だけでなく早期治療にも重要な手段となる.

17.エステラーゼと亜硝酸塩

著者: 宮地隆興

ページ範囲:P.1662 - P.1664

●異常値を示す疾患
 尿中の白血球由来のエステラーゼの検出と亜硝酸塩の検出は,尿路感染症のスクリーニング検査として用いられる.前者(エステラーゼ反応)は生体反応を示す膿尿を,後者(亜硝酸塩反応)は細菌尿を検出する.膿尿や細菌尿は,腎,輸尿管,膀胱,尿道および前立腺の炎症から生ずるので,両反応は尿路感染症に対する検査として用いられる.尿路感染症と膿尿や細菌尿との関係は表に示した.

糞便検査

18.便潜血反応

著者: 齋藤博 ,   吉田豊

ページ範囲:P.1666 - P.1667

●異常値を示す疾患
 便潜血テスト陽性をきたすのは,原則的には消化管にびらんや潰瘍を形成する疾患である.それらを表に示す.これらのうち誌面の都合上,重要な疾患とポイントについて述べる.

19.寄生虫

著者: 影井昇

ページ範囲:P.1668 - P.1669

 糞便検査を必要とする寄生虫性疾患には多くの種類があるが,それらの中で第二次大戦後非常に高率・高濃度の感染が見られた土壌伝播寄生虫病(回虫・鉤虫など)はその後ほとんど見られなくなった.しかし,現在諸外国で感染し日本で発見される者は少なくなく,注意を怠ってはならない.その他,未だ糞便検査で見出される寄生虫性疾患としては鞭虫,糞線虫,横川吸虫を含む異形吸虫類,肝吸虫,肝蛭,ウエステルマン肺吸虫,広節裂頭条虫などがあり,近年は新しい海洋性裂頭条虫や大複殖門条虫,Cryptosporidiumなどが見いだされ,さらに海外渡航者によってもたらされる輸入の寄生虫病としての赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫,フィリッピン毛頭虫,住血吸虫類,肺吸虫類,棘口吸虫類,有鉤・無鉤条虫などの存在も知っておかねばならない.

髄液および穿刺液検査

20.圧と外観

著者: 藤本司

ページ範囲:P.1672 - P.1673

 頭蓋内圧は,頭蓋腔内に存在するすべてのものが関係して形成されており,髄液腔,脳実質,脳血管床などが色々な原因で容積を増すと圧が上昇する.この頭蓋内圧の測定方法として最も一般的なのは,水平横臥位での腰椎穿刺による方法である.一方,脳脊髄液は,脳および脊髄を取り囲んで循環しており,その異常を反映しやすく,中枢神経系の疾患の診断や病態の把握にきわめて有用である.

21.髄液蛋白

著者: 高瀬貞夫

ページ範囲:P.1674 - P.1676

●異常値を示す疾患
 正常髄液の2/3は脈絡膜叢より,1/3は脳や脊髄の実質組織より産生され,その蛋白成分はほとんどすべて血清より移入したものである.一方,各種疾患ではそれぞれの病態を反映して総蛋白量の増加ならびに蛋白組成の異常が認められる.その異常病態は,①血清蛋白の髄液への移入増加,②血液中の蛋白異常が二次的に髄液に反映する.③中枢神経組織の変性崩壊に伴う組織成分の濾出,などの場合が考えられている.

22.髄液糖

著者: 高瀬貞夫

ページ範囲:P.1677 - P.1679

●異常値を示す疾患
 髄液糖値の異常,なかでも糖減少は髄膜炎の診断,治療経過,予後決定などに関して非常に重要なfactorである.したがって,髄液採取や保存および測定法などには十分な配慮が必要である.
 成人正常者の髄液糖は脳室液50〜90mg/dl,腰椎部液45〜80mg/dl(2.5〜4.4mmol/L)であり,一般に脳室液は腰椎部液に比し6〜18mg/dl高値とされている.なお,新生児の正常値(腰椎部液)は58.2〜78.8mg/dlで,幼児期の正常値は71〜90mg/dlである.

23.髄液中の細胞と細菌

著者: 佐藤能啓

ページ範囲:P.1680 - P.1682

●異常値を示す疾患
 正常髄液には15/3mm3以下の細胞が含まれ,その内訳はリンパ球と単球が主体で,それぞれ64±9%,34±8%含まれ,他には少数の組織球と好中球を認める場合がある.また,髄液中リンパ球サブセット正常値はLeu4細胞77.3%,Leu2a細胞22.0%,Leu3a+3b細胞46.9%である.
 髄液細胞増多を示す場合,その程度と細胞の種類により髄膜疾患(主に髄膜炎)の鑑別が可能となる.表1にその概要を示した.

24.穿刺液検査(外観,蛋白,糖,酵素)

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.1684 - P.1685

 臨床検査材料としての穿刺液には胸水,腹水,心のう液,関節腔液,陰のう液などがある.ここでは臨床検査として検査頻度の高い胸水と腹水についてまとめて記述する.
 胸水や腹水とは非炎症性の漏出液が体腔内に生理的に存在する量を越えて貯留した状態をいうが,広義には漏出液のみならず,炎症性滲出液を含めて体腔内に貯留した場合をいう.

血液検査

25.ヘモグロビン濃度

著者: 池本卯典

ページ範囲:P.1688 - P.1689

 赤血球中には,飽和に近い状態でヘモグロビン(Hb)が含有されている.そのHbは4個のピロール核の中心に鉄を配位したヘムと,ヘムを支えるグロビン部分とで構成され,グロビンはサブユニット鎖の4個から形成される4量体である.正常成人の赤血球中に含有されるHbは同一種類ではなく,約93%の成人ヘモグロビン(HbA1:約90%,HbA2:約3%),約1%の胎児ヘモグロビン(HbF),約4%のHbA1のβ鎖のN末端にグルコースを結合しているHbA1cとを含んでいる1)

26.ヘマトクリット値と赤血球数

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.1690 - P.1691

 現在は多項目自動血球計数器が広く普及しており,赤血球に関する3項目,すなわちヘマトクリット値(Ht),赤血球数(RBC)およびヘモグロビン濃度(Hb)はそれぞれ単独ではなく同時に測定し,さらに赤血球指数も自動的にプリントアウトされた報告が検査室から手元に戻ってくるのが普通になっている.これらの3項目のデータは総合して意味づけを行わねばならないためである.
 ここでは企画に従いHtとRBCだけを取り扱うが,前項のHbおよび次項の赤血球指数と記述内容の重複は避けられないことをご承知いただきたい.

27.赤血球指数

著者: 入交清博

ページ範囲:P.1692 - P.1693

 赤血球指数は赤血球,血色素量およびヘマトクリット値の測定値から算出し,赤血球の形態的特徴を表し,貧血の診断に役立たせるものである.従来は色素指数,赤血球指数および飽和指数が用いられたが,現在ではWintrobeの赤血球恒数が用いられている.Wintrobeは従来,赤血球恒数という言葉を用いていたが,今は彼も指数を用いている.この指数を用いて,貧血を大球性正色性貧血,正球性正色性貧血,小球性正色性貧血,小球性低色性貧血に大別し,貧血の診断の大きな目安として用いられている.

28.網赤血球数

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.1694 - P.1695

●網赤血球について
 骨髄中の赤芽球は成熟するにつれ胞体内でのヘモグロビン合成が盛んになり,核はクロマチンの濃縮が起こり小型化する.成熟が一定度に達したものは静脈洞へ放出され,多くはそのとき脱核して網赤血球となり末梢血中を循環する.この場合ニューメチレン青などの超生体染色をすると,内部に点状または網状の構造物が認められることから,網赤血球(reticulocyte;RET)と命名された.
 網赤血球は幼若な赤血球で形態学的には成熟赤血球に比しやや大型で,多染性を示し,ヘモグロビン含量が少なく低比重であることが知られているが,末梢血中で1日を経過すると内部構造が失われ成熟赤血球と区別できなくなる.

29.白血球数

著者: 大西昌之 ,   柴田昭

ページ範囲:P.1696 - P.1698

●異常値を示す疾患
 白血球数の増加は腫瘍性に増殖する白血病と反応性に増加する白血病以外の疾患に大別される.白血球は好中球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球より成るが,種々のサイトカインがこれら細胞の造血に関与することが知られている.colonystimulating factor(CSF)は顆粒球マクロファージ系の造血因子の総称である.図にヒトのCSFの作用機序を示すが,GM-CSF(granulocyte-macrophage-CSF),G-CSF(granulocyte-CSF),M-CSF(macrophage-CSF)の3種が骨髄移植例をはじめとした臨床例に試みられてその有用性が認められている1,2)
 白血病以外の疾患,特に感染症や組織破壊性の疾患ではこれらの造血因子が産生され,未知の因子も含めて病巣の局所,および全身性に働き反応性に好中球数を増加させると考えられる.好酸球は主にアレルギー性疾患や寄生虫疾患において特徴的に増加する.好塩基球の増加は絶対数が少ないため直接算定法で算定しないと把握し難い3)が,慢性骨髄性白血病や粘液水腫,ネフローゼ症候群などで増加する.表1(1)に白血病を除く白血球増加の主な原因を列挙する.

30.血小板数

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.1700 - P.1701

●異常値を示す疾患
 血小板数の異常は表1に示すような疾患あるいは状態で起こる.
 血小板減少の起こる機序は大きく,①産生の低下,②破壊の亢進,③脾の貯留に分けられる.産生の低下は幹細胞の障害(再生不良性貧血,急性白血病など)と成熟障害(ビタミンB12あるいは葉酸欠乏,不応性貧血など)に分けられる.

31.好酸球数

著者: 森真由美

ページ範囲:P.1702 - P.1703

●異常をきたす疾患
 1)臓器への浸潤を伴う疾患
 ①Eosinophilic syndrome
 1,500/μl以上の持続性の好酸球増加と,心内膜,心筋,肝(Al-pの上昇のみ),脾,中枢神経,末梢神経,肺,消化管など全身への好酸球の浸潤を伴う.増加および浸潤している好酸球はいずれも成熟型で副腎ステロイドに大部分は反応する.
 ②好酸球性白血病 末梢血に未熟な好酸球が出現し,貧血,血小板減少を伴う.非常にまれな白血病であり,時にPh染色体の出現を伴う.

32.赤血球形態

著者: 松本昇

ページ範囲:P.1704 - P.1705

●異常を示す疾患
 正常赤血球は両面なかくぼみ円盤形(bicon-cave disc shape)を呈し,その直径は6〜8μmである.塗抹(ギムザまたはライト染色)標本では立体感は失われるが,エオジンに染まったヘモグロビンは円盤の周辺に多く分布し,中央部には乏しいため,中央淡明(central pallor)を形成する.このような形,大きさ,染色性から逸脱したもの,あるいは内部構造の変化(封入体の存在)が形態異常としてとらえられ,診断を確立し病態を把握するうえで,重要な情報源となる.
 このような形態異常は,骨髄内での赤血球産生過程(造血亢進,異常造血,ヘモグロビン合成障害)で,あるいは末梢血に出現した後に加わる種々の要因(機械的作用,化学物質,脾臓内微小環境,血漿成分の変化)によって生じる.したがって,形態異常は貧血,溶血などを裏づける検査所見となる.表に形態異常と疾患の関係を示した.

33.白血球形態

著者: 桑島実

ページ範囲:P.1706 - P.1708

 白血球形態を観察して得られる白血球分類はCBC(Complete Blood Count)の一部であり,入院時などのルーチン検査として利用されている.超音波や胸部X線写真を自分で見て判断するように,本来,白血球,赤血球,血小板を含む塗沫標本は医師自らが観察することが望ましい.自動血液検査機器の発達と普及,他の臨床検査の進歩,医療情勢の変化に伴って血球形態に対する認識や依存度が変化したとはいえ,血球形態は高価な機器を備えなくても顕微鏡さえあれば観察でき,しかも,それから得られる情報は依然多い.塗沫,染色が一定であれば標本だけからでも血球数の推定はある程度可能であるが通常,血球計数器などのデータ,正常白血球百分比(表1)1)(図)2)を参考にし,白血球形態を観察する.

34.血球形態の新しい認識法(粒度分布および5-part diff)

著者: 巽典之 ,   津田泉

ページ範囲:P.1710 - P.1713

 TVの食品のコマーシャルで,「私,作る人.あなた,食べる人」というのがあった.臨床検査は今,測る人と読む人が異なっている.読む側が,測る側の方法やその苦労を知ることは病態解析をより円滑にしてくれる.
 多くの検査室において正常白血球分類はギムザ染色標本を観察しない方法で行われている現状は,臨床病理学の医師以外には案外知られていない.これは自動血球計数器によるAuto-diff(自動機器分類)と呼ばれるもので,酵素化学的方式(テクニコン・H-1)と電子・光学的方式に大別される.このうち,市場占有率の高いのは後者であり,さらに後者には,3-part diff方式(粒度分布によるdiff)とその発展型である5-part diff方式に分けられる.

35.赤血球酵素

著者: 藤井寿一

ページ範囲:P.1714 - P.1715

●異常値を示す疾患
 赤血球酵素活性の異常値を示す疾患は大別して,①遺伝性溶血性貧血,②溶血以外の赤血球異常を呈するもの,③血液疾患以外の疾患で赤血球酵素活性測定が診断に役立つもの,④後天性疾患の診断に役立つもの,に分けられる(表).ほとんどの場合,酵素活性低下を示す場合が問題となる.ただし,アデノシンデアミナーゼは例外で,活性低下は重症複合免疫不全症を呈するが,活性増加の場合もあり,この場合は遺伝性溶血性貧血をきたす.
 赤血球酵素活性測定を必要とする疾患は,まず,遺伝性溶血性貧血で遺伝性球状赤血球症などの赤血球膜異常や不安定ヘモグロビン症などのヘモグロビン異常が否定され,なお原因不明の遺伝性非球状性溶血性貧血の症例があげられる.赤血球酵素異常による遺伝性溶血性貧血の原因となる酵素は表に示した15種が明らかになっている.

36.異常ヘモグロビン

著者: 上田智

ページ範囲:P.1716 - P.1717

●異常値を示す疾患
 異常ヘモグロビンは遺伝的疾患であり,ヘモグロビンを構成しているα鎖または非α鎖(β,γ,δ鎖)の,①アミノ酸配列に異常をきたしたもの,および,②産生抑制をきたしたものをいう.
 正常ヒトヘモグロビンは,5種類存在しており,胎児期から出生後にかけてα鎖の構造遺伝子は染色体#16の5'側からζ,α2,α1と並んでおり,β鎖の構造遺伝子は染色体#11上にε,Gγ,Aγ,δ,βと並んでいる.そして卵黄?造血期にはζ2ε2(Gower 1),α2ε2(Gower2)のヘモグロビンを産生しており,それから後はα2γ2(HbF)が主成分となり,出生を境にα2β2(HbA)が主成分となる.その他に微量成分としてα2δ2(HbA2)と成人ではHbFが存在する.

37.毛細管抵抗試験と出血時間

著者: 松野一彦

ページ範囲:P.1718 - P.1719

 毛細管抵抗試験は,毛細血管に圧をかけ赤血球が血管外に漏れやすいかどうかをみることにより,毛細血管の抵抗を検査するものである.方法としては,吸引カップで皮膚に陰圧をかけて毛細管の抵抗をみる陰圧法と,マンシェットを用いて圧を加え,前腕からの静脈の血流を抑えて毛細管の抵抗をみる陽圧法(Rumpel Leede試験)がある.毛細血管の構造や透過性の要因の他に,血小板や線溶因子なども関与している.血小板,凝固,線溶検査が進歩した現在では,以前に比べ臨床的価値は低くなっているが,血管性出血傾向の数少ない簡便な検査として今なお用いられている.
 一方,出血時間も古くから行われてきた止血検査であるが,出血の際に血小板が内皮下組織に粘着し,凝集・放出を介して血小板血栓を形成し一次止血を完了するまでの経過を総合的に把握できる検査として,現在も臨床的意義は大きいと考えられる.わが国では従来より耳朶を穿刺するDuke法が用いられてきたが,精度,再現性ともに悪く,一次止血における血小板-血管内皮細胞の反応を詳細に検討するには不適である.最近はこれに代わる方法として,40mmHgの駆血下に前腕の皮膚に一定の切創を加えるtemplate Ivy法,およびそれに準拠しディスポーザブルの器具を用いるSimplate法が採用されてきている.

38.血小板機能検査

著者: 服部晃

ページ範囲:P.1720 - P.1721

 血小板は止血,血栓形成,炎症などの反応において,粘着,凝集,各種物質の分泌(放出)反応,血餅退縮,凝固線溶の促進あるいは抑制など多彩な機能を果たす.それに対応し,各種の機能検査があるが,ここでは,血小板機能低下症の解析,また機能亢進を探る粘着,凝集能検査を中心に述べる.

39.部分トロンボプラスチン時間(PTT)

著者: 若杉佳代子 ,   風間睦美

ページ範囲:P.1722 - P.1723

 部分トロンボプラスチン時間partial thromboplastin time(PTT)は,内因系および共通系凝固系異常の有無を総合的に判断する検査で,被検血漿にカルシウムイオンとリン脂質を加えてフィブリンが析出するまでの時間を測定するものである.本法では被検血漿中のXII因子などの接触因子群の活性化の程度が測定値に大きく影響して精度管理がきわめて難しいので,検体にセライト,カオリンなどを添加して接触因子を十分に活性化させて測定する活性化トロンボプラスチン時間(APTT)が広く用いられている.

40.プロトロンビン時間(PT)

著者: 若杉佳代子 ,   風間睦美

ページ範囲:P.1724 - P.1725

 プロトロンビン時間(PT)測定法は血漿に組織トロンボプラスチンとカルシウムを添加し,フィブリンが析出するまでの時間を測定するものである.この反応には第VII,第X,第V,第II因子(プロトロンビン)およびフィブリノゲンが関与するので,PTは外因性および共通性の凝固過程の異常を検出するもので,プロトロンビン活性だけを測定するものではない(図).凝固因子のうち第II,第VII,第IXおよび第X因子はもっぱら肝細胞で,ビタミンKの存在下に合成され,ビタミンK依存性凝固因子と総称される.

41.トロンボテストとヘパプラスチンテスト

著者: 稲葉浩 ,   藤巻道男

ページ範囲:P.1726 - P.1727

 トロンボテスト1),ヘパプラスチンテスト2)の両者はプロトロンビン時間(PT)を改良したものであり,血液凝固系において外因系で働く因子,すなわち第II因子(プロトロンビン),第VII因子(プロコンバーチン),第X因子(スチュアート因子)の消長を総合的に測定することができる.これら3つの因子は肝機能障害や経口抗凝固薬の影響を受けやすく,したがって,トロンボテストは経口抗凝固薬のモニタリングに,ヘパプラスチンテストは肝機能検査として有用である.トロンボテストは内因系凝固系を活性化する血小板第3因子(リン脂質)とウシ脳から抽出した組織トロンボプラスチン,さらに内因性凝固因子群の供給源としてウシ吸着血漿の加わった試薬に試料を加え,Quickの一段法にて凝固時間を測定する方法である.ヘパプラスチンテストは原理的には前述のトロンボテストと同様であるが,トロボテストでは組織トロンボプラスチンがウシ脳由来であったのに対し,ヘパプラスチンテストでは家兎脳から抽出されるものを用いており,PIVKA(Protein inducedvitamin K absence or antagonist)の影響を除外できる.これによりヘパプラスチンテストはトロンボテストと併用することで次式に示すPIVKA様物質の量(Inhibitor Index)を検出できる.

42.フィブリノゲン

著者: 佐守友博

ページ範囲:P.1728 - P.1729

 フィブリノゲンは,分子量約34万の肝で産生される蛋白質で,凝固第I因子として知られている.この血漿中のフィブリノゲンが不溶性のフィブリンとなって析出すると血液は凝固する.このように,フィブリノゲンは血液凝固の中心となる蛋白質であると同時に,血小板凝集にも必要で,その代表的な生理作用は止血機構におけるものである.しかし,それ以外にも,創傷の治癒機転に関与したり,感染などの外的侵襲(急性炎症)の際に増加をみたり,加齢や妊娠によっても増加することから,生体の防御反応や妊娠の成立維持にも重要な役割をもつことが推測されている.
 実際にどのような時にフィブリノゲン量の測定を行うかというと,出血傾向や血栓傾向のある場合にはスクリーニング検査としても必須で,出血や血栓の予測される病態の時にも検査をしておくべきである.その他,各種疾患のAcute phasereactantとして測定されたり,創傷治癒遅延のある時や,赤血球沈降速度の促進・遅延の原因のわからない時にも測定してみることが必要と思われる.

43.フィブリンモノマーとフィブリノペプタイドA,B

著者: 松田保

ページ範囲:P.1730 - P.1731

●トロンビン形成の証明
 血管内にフィブリンを生じ,血管を閉塞すると,血栓症を生ずるが,フィブリンの形成にはトロンビンの存在が必要である.何らかの原因によってトロンビンを生ずると,生じたトロンビンは,フィブリノゲン分子を分解してフィブリノペプタイドA(FPA),フィブリノペプタイドB(FPB)を分離してフィブリンモノマーとなる.生じたフィブリンモノマーは互いに重合してフィブリンポリマーとなるが,重合が進んでフィブリンポリマーの分子量が大きくなると,水に溶けにくくなり血液中から固体として析出してくる.これが血液の凝固である.
 血栓傾向の存在を証明できれば,治療上便利であり,この点,血管内にトロンビンを生じていることを証明することができれば理想的である.しかし,血管内に生じたトロンビンは,生じたフィブリンに急速に吸着され,また,アンチトロンビンIIIと血管壁のヘパリノイドの作用によって活性を失うので,直接血中のトロンビンを測定するのは不可能である.

44.アンチトロンビンIII

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.1732 - P.1733

 血管壁は陰性荷電を帯びて血小板や白血球などの付着による障害を防ぎ,その内皮細胞にはプロスタサイクリン,プラスミノゲン・アクチベータ,トロンボモジュリンやグリコサミノグリカンズを産生して血栓の形成を抑制し,血流のスムーズな流動を維持している.アンチトロンビンIII(AT III)はグリコサミノグリカンズ(GAG)と複合体を形成して,凝固亢進によって血中に出現する活性型凝固因子(セリン蛋白分解酵素)のうち第Xa因子やトロンビンを強力に阻害してトロンビンによるフィブリン形成を抑制している.AT IIIの他にヘパリン-コファクタII(HC II)も同様に作動するがトロンビンのみを阻害する2).AT IIIはGAG(デルマタン硫酸,ヘパリン硫酸,コンドロイチンポリ硫酸,ヘパリン)(ヘパリンは微量にしか存在しない)のうちのデルマタン硫酸とは複合体を形成せず,HC IIはすべてのGAGと結合する.AT IIIの欠乏状態ではHCIIがこれを代替している.
 AT IIIはGAGがないと第Xa因子やトロンビンを緩徐に抑制し(遅効性阻害),GDGが存在すると速効性(即時性阻害)に抑制するが,AT IIIの欠乏や異常による即時性阻害作用の欠如では凝固阻害に障害が惹起されて血栓症が併発される1〜3).これらを確認するためには生物学的測定法と免疫学的手技による抗原量を測定する.

45.その他の凝固因子

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.1734 - P.1735

 血液凝固因子の異常による凝固障害症(coagulo-pathy)として,止血血栓における出血傾向と血栓傾向とがあり,その検索が行われる.

46.線溶現象

著者: 青木延雄

ページ範囲:P.1736 - P.1737

●線維素溶解機構
 血液凝固の結果,フィブリンが析出し血栓が形成されると,フィブリンを溶解して血栓を処理(溶解)しようとする生理的反応が起こる.これを線維素溶解(線溶)という.すなわち,フィブリンが析出すると,循環血中のプラスミノゲンアクチベーター(血管内皮で産生され血中に放出されている)とプラスミノゲン(肝で産生される蛋白分解酵素原)が析出フィブリンに吸着され,フィブリン分子上で,プラスミノゲンがプラスミノゲンアクチベーターで活性化されプラスミンになり,プラスミンがフィブリンを分解する.その結果,フィブリン分解産物(FDP;他章参照のこと)が出現する.フィブリンが析出しない場合は,アクチベーター(ウロキナーゼや組織プラスミノゲンアクチベーター)を静脈内投与する血栓溶解療法や,アクチベーターが過剰放出された特殊な病態など以外では,通常,プラスミノゲンの活性化は循環血中では起こらない.この線溶の反応系が制御なく進行すると,止血のために損傷血管に形成された血栓(止血栓)も,損傷血管の修復以前に崩壊することになり,出血傾向が招来される.そこで,その反応を制御する機構が存在する.

47.フィブリン分解産物(FDP)

著者: 依藤寿 ,   池松正次郎

ページ範囲:P.1738 - P.1739

 FDPとはフィブリノゲンあるいはフィブリンのプラスミン分解(線溶)による数多くの分解産物の総称である.1分子のフィブリノゲンの分解では,X分画,Y分画を経て最終的には1分子のE分画と2分子のD分画が生成されるが,おのおのの分画にもプラスミン分解程度がわずかに異なるためいくつかの亜分画が存在している.一方,凝固過程でクロスリンクを受けた安定化フィブリンのプラスミン分解では,高分子の分解中間産物やDD/EさらにはDダイマーという終末分解産物が出現する(図).このFDPの出現は,直接に生体内に線溶現象が起きていることを意味するため,その測定はDIC,血栓症ならびに血栓溶解治療などの診断や経過観察に確固たる位置を占めるようになってきた.このためFDPの検出には各種の測定法が開発され,FDPの全体を半定量的に捉える方法や,より詳細な,病態把握や治療効果の判定を目的とした定量性あるいは分画特異性を有する方法などがある.しかし反面測定法により標準値も大きく異なるため,測定値を直接比較することが困難であるという問題がある.

48.トロンボエラストグラム

著者: 緇荘和子

ページ範囲:P.1740 - P.1741

 血液の凝固性を総合的に把握し判定する方法として,従来からトロンボエラストグラフ(TEG;Thrombelastgraphy)が用いられている.この装置は,1948年に西独のHartertによって考案され1),血液凝固過程における弾性変化をトルジオンの歪みによって検知し,その変化を自動的に記録する装置である.測定の結果出来あがった記録図(トロンボエラストグラム)より,r(Reaction-zeit),k(Koagulationsgeschwindigkeit),ma(Maximale Amplitude),me(Maximum Elasfizifät)を計測する(図1).
 rは内因性トロンボプラスチンの生成速度を示し,kはプロトロンビンのトロンビンへの反応時間を示すと考えられている.したがって,r,kは血液の凝固開始(内因系)からフィブリン形成までに関係する凝固諸因子,血小板由来の凝固関連諸因子,赤血球(全血の場合)などの諸因子の活性や濃度に依存する.また,kはmaと関連して,フィブリノゲン量や血小板数・機能の影響を受ける.maは血餅の強さを示し,血小板,フィブリノゲン,第XIII因子,赤血球(全血の場合)などの量や機能が関係する.

49.赤血球沈降速度検査

著者: 武藤良知

ページ範囲:P.1742 - P.1743

 抗凝固剤を加えた血液をガラス管に入れて垂直に立て,赤血球の沈降で出来た血漿の厚さを計る方法である.正式名称は赤血球沈降速度erythrocyte sedimentation rate(ESR)検査であるが,赤沈あるいは血沈と呼ばれている.

50.赤血球抵抗試験

著者: 八幡義人

ページ範囲:P.1744 - P.1745

 赤血球抵抗試験は,種々の病因による赤血球膜異常に基づく細胞膜物性の脆弱性を検索する物理・生理学的検査法の総称である.
 この赤血球膜物性の異常を検討する方法論として,1)対浸透圧変化,2)対shear stress変化,3)対加熱変化などが利用されている.したがって,この3項目にそれぞれ該当する検査法の概略を述べ,その臨床的意義に触れる.

51.血液粘度

著者: 谷口興一

ページ範囲:P.1746 - P.1748

●血液粘度と血液組成
 血液は液体成分である血漿中に有形成分である血球(赤血球,白血球,血小板)を含む懸濁液であり,血球の体積百分率hematocrit(Ht)は40〜50%である.
 静止状態において赤血球はbiconcaveの円板状で直径7〜8μm,中心陥凹部の厚さ1μm,周囲の最厚部は約2.4μmである.流血中では速度に応じて円板状から弾丸状に変形し,内径8μm以下の毛細血管内でも通過できるが,生食液中ではコンペイト状を呈し,弾性が低下する.一方,血漿中にはタンパク質や低分子の有気・無気物質を含んでいる.

免疫血清検査

52.CRP(C反応性蛋白)

著者: 西田陽

ページ範囲:P.1750 - P.1752

 C-reactive protein(CRP)は生体内で炎症などの傷害が起きた時,早期に上昇するいわゆる急性相反応蛋白の1つで,Ca2+存在下で肺炎球菌の菌体C-多糖体と沈降反応を起こすことから発見された.従来,CRPは健常者には全く存在しない異常蛋白として認識されてきたが,正常者血中にも微量存在することが確認されている.またCRPの機能としては補体の古典的経路の活性化,リンパ球の活性化,血小板凝集作用など免疫学的に合目的に作用することが知られてきた.現在インターロイキンII,VIなどのサイトカインとの関係を含め,その産生機構や代謝についても研究が進みつつある.
 他の急性相反応蛋白が異常上昇に24時間以上を要し,数倍から数十倍であるのに対し,CRPはわずか数時間で数百倍の蛋白量の変化を示し,炎症の沈静化に伴い24〜48時間を半減期とし,速やかに減少するため,血球沈降速度(ESR)とともに,炎症の早期診断,スクリーニングおよび経過観察に広く用いられている.

53.ASO,ASK,ADN-B

著者: 藤川敏

ページ範囲:P.1754 - P.1755

●ASO,ASK,ADNB測定の臨床的意義
 レンサ球菌は,A,B,Cなど18群に分類され,ヒトに感染症を起こすのは主にA群であるがC,G群も稀に病因となり,またB群は新生児の重症感染症の起因菌として知られている.A群はさらに約70種の菌型があり,4,12,20型などは腎炎起因株として知られている.
 A群レンサ球菌は多くの菌体抗原,菌体外抗原を保有している.

54.寒冷凝集試験

著者: 藤岡成徳

ページ範囲:P.1756 - P.1757

●異常値を示す疾患
 寒冷凝集試験は低温下,通常4℃で赤血球凝集を起こす血清中の寒冷凝集素(cold agglutinin,以下CA)を調べる検査である.CAは赤血球膜抗原と低温で特異的に結合する自己抗体であるが,37℃で解離するので,正常者にみられるわずかな量では症状は起こらない.CA価が異常に高価な状態や反応温度域が高温側にずれると,溶血性貧血,循環障害,Raynaud症状などの臨床所見を呈する.
 CA価の上昇する疾患には一次性のものとして特発性慢性寒冷凝集素症がある.その多くはCAがIgM-κの単クローン性であり,一部がIgM-λ,稀にIgA,IgGなどで起こる.二次性ではリンパ系造血器腫瘍に合併することがあり,単クローン性CAが腫瘍性異常クローン細胞に由来する例も示されている.感染症に続発するものはマイコプラズマ肺炎が最も有名であり,CA価上昇が補助診断法として役立っている.EBウイルス感染による伝染性単核症でもCA価が異常となる.感染症によるCAは一般に多クローン性である.表1にCA価が上昇する疾患を示した1)

55.マイコプラズマ抗体

著者: 佐藤雅志

ページ範囲:P.1758 - P.1759

 ヒトより分離されるMycoplasmaは,12種が知られており,ヒトに病原性を示すのはMyco-Plasma Pneumoniae(以下M.pと略)のみであるとされてきたが,近年,Mycoplasma hominis,Ureaplasma urealyticumなども尿道炎,卵管炎などの泌尿生殖器疾患および流産などとの関連について検討されている.また,M.p感染症は,表1に示す通り,多彩な病像を示すことが明らかにされてきている1)
 通常,マイコプラズマ抗体といえば,M.pに対する抗体を指すものであり,ここではM.p感染症であるマイコプラズマ肺炎を中心に述べる.

56.トキソプラズマ抗体

著者: 亀井喜世子

ページ範囲:P.1760 - P.1761

 現在,日本の検査室で行われているトキソプラズマ抗体の検査法には,赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,螢光抗体法などがある.しかしこれらの方法は,厚生省の認める体外診断用医薬品を用いて検査するよう指導されているので,以前に比べると検査方法が限定され,検査結果相互の比較が可能になってきた.研究室レベルでは,この他,色薬試験,ELISAなどが行われている.
 トキソプラズマは不顕性感染が多く,最近は日和見感染を起こす原因の一つとして注目されているが,抗体価と現疾患を結びつけることが困難な場合が少なくない.抗体の存在は,一般的には体内に抗原性物質があることを意味するが,感染が起こっても反応が陽性になるまで時間がかかり,病態と必ずしも並行するものではない.したがってトキソプラズマ抗体の測定は補助診断にすぎず,抗体価の意義付けに苦しむところであるが,1)色素試験で高値を示す,2)ペア血清の抗体価が4倍上昇あるいは下降する,というようなことが見られると,ほぼトキソプラズマ症を疑って良い.

57.Clostridium difficile毒素

著者: 本田武可 ,   山下保喜 ,   浦敏郎

ページ範囲:P.1762 - P.1763

●Clostridium difficileと偽膜性大腸炎
 抗菌薬起因性大腸炎には,偽膜性大腸炎,急性出血性大腸炎,非特異的大腸炎の3病型が分類されている.これらのうちClostridium(以下C. )difficileは,偽膜性大腸炎の主要な病原菌として注目されている.抗菌薬投与により一種の菌交代症としてC. difficileが腸管内で異常増殖し,多量の毒素を産生(ある種の抗菌薬は毒素産生を促進)し,偽膜性大腸炎が引き起こされると考えられている.ほとんどすべての抗菌薬が誘因となるが,リンコマイシン,セフェムおよびペニシリン系抗菌薬に伴う症例が多い.

58.A群溶連菌抗原検出法

著者: 杉田麟也

ページ範囲:P.1764 - P.1765

 急性扁桃炎,咽喉頭炎は小児,成人がしばしば罹患し,多くはウイルス感染症で約10〜20%が細菌,マイコプラズマである.細菌感染の最も主要な原因菌はA群β溶血性レンサ球菌(A群溶連菌)であって,A群溶連菌の診断,治療が最も大切である.筆者の成績では中等症,重等症ではA群溶連菌は75%の検出率であり,慢性から急性扁桃炎まで種々の症例では17%の検出率である.
 A群溶連菌は急性糸球体腎炎やリウマチ性心疾患の原因となりうるので,A群溶連菌かそれ以外であるかを早く診断し,10〜14日間のペニシリン系抗生物質の投与が必要である.従来から実施されている細菌培養検査は菌の同定から薬剤感受性検査が判明するまで3〜4日が必要で,一般の診療所では設備の関係から自分で行うことは難しい.

59.梅毒血清反応

著者: 津上久弥

ページ範囲:P.1766 - P.1767

●梅毒血清反応の種類
 Wassermanが1906年に開発した歴史の古い検査で,その後改良され,新しい術式も多く生れてきたが,表1は現在わが国で常用されている検査法である.脂質(Cardiolipin)抗原を用いる通称STS(serologic test for syphilis)とTP(Treponema pallidum)抗原を用いる検査法に大別される.
 また,近年,梅毒IgM抗体を検出する検査法も開発されている.

60.HTLV-I

著者: 吉原なみ子

ページ範囲:P.1768 - P.1769

●HTLV-Iの特徴と疫学
 ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)によって引き起こされるATL(adult T cell leukemia,成人T細胞白血病)は高月らにより日本で発見された白血病の一種である1).ATLは日本の南西地域に多く見られ,発症すると治療薬がなく,ほとんどが1年未満で死亡する.HTLV-IはAIDSの原因ウイルスであるHIVと同様レトロウイルスに属するが,HIVが細胞破壊性であるのに対して,HTLV-Iは長期間,宿主のリンパ球に組み込まれキャリアとなり,1,000〜2,000人に1人の割合で腫瘍化するHIVとは全く別のウイルスである.
 20歳代から70歳代の成人に発症し,特に45歳代で発症率が高く,性差はほとんどない.日本の南西部が多発地域で,カリブ海沿岸とアフリカの一部に見られる.

61.HIV(HTLV-III/LAV)

著者: 吉原なみ子

ページ範囲:P.1770 - P.1771

●AIDSの免疫血清学的特徴
 AIDSは原因ウイルスであるHIVに感染してから発病までに数カ月から数年かかり,現在のところ残念ながら発病後治癒した報告例は見当たらない.このウイルスに感染すると,ウイルスと抗体が共存し,終生この状態を持続する.ウィルスと抗体が共存しているため,免疫学的方法で抗原を検出するのは非常に困難であり,一般的にはHIV抗体を検査して感染を推測している.HIVに感染してから抗体が検出されるまでに平均6〜8週間かかるといわれており,症例によってはウイルスが分離されてからHIV抗体が検出されるまでに約3年かかった例1)がある.
 HIVの感染経路は血液,精液などからであり,B型肝炎に比べ感染力が弱いので,思い当たる行為がなければ感染は考え難い.

62.その他のSTDの血清検査(クラミジア,単純ヘルペスウイルス)

著者: 田口誠治 ,   片庭義雄

ページ範囲:P.1772 - P.1773

 近年,STD中最も頻度の高い疾患として非淋菌性尿道炎・子宮頸管炎が注目されてきている.その病原体のうちChlamydia trachomatis(CT)が最も重要なものとして挙げられている.CTはまたSTDとしての鼠径リンパ肉芽腫症を引き起こす.単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus,HSV)は1型と2型があり,STDとしての陰部ヘルペスおよび口唇その他の単純ヘルペスを引き起こすほか,非淋菌性尿道炎の原因ともなり得る.
 CTおよびHSV感染の診断としては,1)病巣から病原体であるクラミジア,ウイルスを分離すること,2)病巣からの細胞塗抹材料にクラミジア抗原,ウイルス抗原を検出すること,3)血清学的に有意な抗体上昇を認めること,などが挙げられる.

63.Paul-Bunnel反応とEpstein-Barrウイルス抗体

著者: 浅川英男

ページ範囲:P.1774 - P.1775

 伝染性単核症(IM)はEBウイルス(Epstein & Barr,1965)によって引き起こされる疾患で,発熱,咽頭痛,扁桃炎,全身のリンパ節腫脹,肝・脾腫,肝機能障害,特有の異型リンパ球(Downy細胞)が出現する.このとき日本では大多数において患者血清はヒツジ赤血球を凝集し,しかもこのとき患者血清をモルモット腎抽出液で吸収しても,ヒツジ赤血球の凝集素価は変わらない.この異好抗体の一種であるPaul-Bunnel(P-B抗体)は,IMの重要な診断根拠であるが,日本人では本抗体は上昇しない.したがって,日本人のIMの診断は異型リンパ球(Downy細胞)の証明が重要となる.日本人のIMでP-B抗体価の上昇しない理由はおそらく免疫応答遺伝子の問題と考えられるが,明瞭ではない.日本人のIMの診断には,その他,EBウイルスのIgM抗体価の上昇が重要な診断根拠となる.
 表1に異好抗体であるForssman,P-B,H-Dの3種類の抗体のヒツジ赤血球,ウシ赤血球,モルモット腎抽出液の反応態度を示した.モルモット腎抽出液はForssman,H-D抗体とは反応するが,P-B抗体とは反応しない.これを用いたのがP-B抗体証明のためのDavidsohnの吸収試験である.すなわち,P-B抗体はモルモット腎抽出液では吸収されない性質を持っていることで,Forssman抗体やH-D抗体と区別される.

64.ウイルス血清抗体

著者: 山根誠久

ページ範囲:P.1776 - P.1777

●異常値を示す疾患
 血清中のウイルス抗体価を測定することは,採血した時点での特定のウイルスに対する自然感染,ワクチン既往歴を過去に振り返って追跡することにほかならない.したがって,多くの臨床検査項目で決められているような正常値,異常値という概念はウイルス血清抗体価の評価にはそぐわない.血清抗体測定の目的は,1)感染ウイルスを診断する,2)特定のウイルスに対する免疫状態を診断する,という2つであるが,検査に際しては,複数の血清(ペア血清)を用いる場合,単一の血清で診断する場合,の2つがある.

65.風疹ウイルス

著者: 菅沼優

ページ範囲:P.1778 - P.1780

●風疹ウイルスについて
 風疹ウイルスは,Toga virus科,Rubi virus属の非節足動物媒介ウイルスで,ヒト→ヒトの感染経過をたどると考えられている.ゲノムにsingle strand⊕ RNAをもち(図11)),capsidは正20面体構造をし,リピッドのenvelopeをもった中型のウイルス(60nm)である.ゲノムは他のpositive strand virusと同じように,mRNA構造をし,その3′末満の約1/3に,5′側からc(capsidを作る.),E2(envelopeの糖蛋白の1つを作る.E2aとE2bに切断される.),E1(同じくenvelopeを構成する糖蛋白の1種を作る.赤血球凝集能があるとされている.)の3遺伝子が存在すると考えられている.ゲノムRNAの分子量からして,他に2〜3の遺伝子の存在が考えられるが,5′末端側の解析が遅れている.RNA replicaseを合成するための遺伝子(1〜2遺伝子)を除いても末だ1〜2遺伝子の存在が予測される.
 妊娠初期の婦人が感染すると先天性畸形が起こることは良く知られているが,畸形発生と関連する遺伝子(催畸遺伝子とでも言うべき)が,この中に存在するかどうか興味のあるところである.

66.HBV抗原・抗体,DNAポリメラーゼ

著者: 宮崎吉規 ,   赤羽賢浩

ページ範囲:P.1782 - P.1783

 B型肝炎ウイルス(HBV)は一過性感染(急性肝炎,劇症肝炎など)や持続感染(無症候性キャリア,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌など)において種々の病態と関係する.HBV関連マーカーとしては表に示したような免疫血清学的マーカーやウイルス学的マーカーが知られている.

67.HAV抗原・抗体

著者: 上村朝輝

ページ範囲:P.1784 - P.1785

 A型肝炎は発症前後の時期における患者糞便中に排出されるA型肝炎ウイルス(HAV)が感染源となり,経口感染によって伝播する.いったん患者が発生すると,家族内,地域,集団などにおいて二次感染,三次感染と順次感染が拡大して,時に大規模な流行に至る場合もある.したがってA型肝炎は早期に診断し,多発を防止しなければならない.
 A型肝炎の診断は,血清学的にHAVに対する抗体(HA抗体)を測定することによりなされる.定型的なA型肝炎の臨床経過とHAVに関連する抗原抗体系の推移を図に示した.

68.血液型

著者: 圓谷敏彦

ページ範囲:P.1786 - P.1787

 血液型は,既知および未知の血球と血清の間の凝集反応によって判定を行うのであるから,その凝集塊発生の時間的,量的な異常が,血液型検査での異常である.その典型がABO式血液型における,おもて検査とうら検査の判定の不一致であるが,そのほかにも稀な血液型の判定の過程,あるいは血清蛋白の変化に伴う凝集異常などが見られる.

69.免疫グロブリンの定性・定量

著者: 加納正

ページ範囲:P.1788 - P.1790

●異常値を示す疾患
 免疫グロブリン(immunoglobulin;Ig)は抗体分子の総称で,5つのクラス(IgG,IgA,IgM,IgD,IgE)があり,それぞれに2つのタイプ(κ,λ)がある.さらにIgGとIgAについては,それぞれ4種と2種のサブクラスが区別される(表1)1).Igは抗体であるから,抗体産生系の異常(腫瘍,免疫不全症,自己免疫疾患,感染症など)に際して変動する(表2).Ig異常の正確な評価には,各Igの性状・機能についての正しい理解が大切である.

70.IgE

著者: 石井周一 ,   櫻林郁之介 ,   河合忠

ページ範囲:P.1792 - P.1793

●異常値を示す疾患
 血清IgE量の異常を示す疾患を表1にまとめた.
 1.異常高値を示す疾患
 代表的なものがアレルギー性疾患で,アレルギー性アスペルギルス症,アトピー性喘息,アトピー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎などで高値を示す.アレルギー性アスペルギルス症はI型,III型およびIV型のアレルギーが発症に関与しているが,IgEは著明な高値を示す.アトピー性喘息やアトピー性鼻炎では減感作療法を行うと初期には一時IgEは増加するが,その後,徐々に低下する.

71.β2-マイクログロブリン

著者: 伊藤喜久 ,   金衡仁

ページ範囲:P.1794 - P.1795

 β2-マイクログロブリン(以下,β2-mと略)は分子量11,800の低分子蛋白であり,HLAクラスI抗原のL鎖の構成成分として全身の有核細胞に存在している.
 β2-m測定の臨床的意義はひとことで言って,血清,尿中濃度の上昇を指標として,腎糸球体尿細管障害の検定,悪性腫瘍,感染症,膠原病など生体内の異常をスクリーニングし,多発性骨髄腫,慢性リンパ性白血病などでは,予後の推定,治療効果の判定に用いられる.

72.補体価と補体蛋白

著者: 出口雅子 ,   竹村周平 ,   近藤元治

ページ範囲:P.1796 - P.1798

 補体とは約20種類の酵素系蛋白の総称で,生体の免疫反応の過程で活性化され,種々の生物活性を現す反応系である.補体の活性化には,主として抗原抗体複合物によってC1(C1q,r,s),C4,C2,C3,C5,C6,C7,C8,C9の順に活性化が進む古典的経路(classical pathway)と,微生物由来の多糖体などによりC1,C4,C2を介さず,直接C3が活性化される第二経路(alternative pathway)がある.補体を構成する蛋白としては,両経路に関与する成分の他に,C1 esterase inhibitor(C1 INH),Factor I,Factor H,C4 binding protein(C4 bp)などの制御蛋白がある.
 抗体により感作されたヒツジ赤血球(EA)はC1を活性化し,その結果,赤血球膜上で次々と補体成分の活性化が生じる.C9まで補体成分が反応すると,細胞膜に孔があき溶血する.この原理により測定されるのが補体価(CH 50)で,1CH 50とは,7.5ml反応液中に存在するEA 5×108個の50%を37℃,60分間で溶血させるのに必要な補体量のことである.C1からC9にいたる活性を総合的に反映する補体価は,補体系異常を知るスクリーニング検査として広く用いられている.

73.免疫複合体

著者: 松田重三

ページ範囲:P.1800 - P.1801

●異常値を示す疾患
 免疫複合体は健康人では通常存在しないので,検出された場合は異常である.異常値,すなわち免疫複合体が検出されうる疾患には,それが原因であれ,結果であれ,表に示すごとく多数のものが報告されている.
 しかし,これらの疾患すべてで必ず陽性であるとは限らず,その病態,病状とともに,検査法によっても成績が左右されることを認識すべきである.

74.T,Bリンパ球

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.1802 - P.1803

 以前,単一細胞と思われていたリンパ球の中に,種々の役割の異なる細胞集団(サブセット)があることが判明し,それらサブセットと各種疾患との関係が次第に明らかとなってきた.リンパ球サブセットの中には,大きく分けて,胸腺の中で分化成熟するTリンパ球と,それ以外の場所(骨髄,扁桃などが示唆されているが未確定)で分化成熟するBリンパ球とに分けられる.Tリンパ球は主として細胞性免疫を,Bリンパ球は液性免疫を司り,お互いに密接な関係を保ちながら免疫機構を制御している.
 T,Bリンパ球分画を検索するのに,従来は,Tリンパ球であれば,ヒツジ赤血球がヒトのTリンパ球に特異的に付着する性質を利用したEロゼット形成試験,Bリンパ球であれば,ポリクローナルな抗免疫グロブリン抗体を用いた細胞表面免疫グロブリンの検索,もしくはBリンパ球のFcレセプターによるEAロゼット形成試験,補体レセプターによるEACロゼット形成試験が主として用いられてきた.しかし最近ではヒトのTリンパ球,Bリンパ球に対するモノクローナル抗体が数多く作製され,螢光標識したモノクローナル抗体と,それを実際に分析するフローサイトメーターとにより,以前に比べ客観的な結果が比較的手軽に得られるようになったため,現在では以前のロゼット法などの方法にとってかわってモノクローナル抗体による方法が使われるようになってきた.

75.リンパ球機能検査

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.1804 - P.1805

 リンパ球には抗体産生,リンホカイン産生,細胞傷害,免疫調節といったさまざまの機能があり,リンパ球の機能が保全されているか否かを評価するには,それらを個々に測定するのが望ましいが,一般検査としてすべてを取り上げるには難がある.リンパ球が機能を果たすには通常まず増殖反応を起こすので,それが正常かどうかを把握することが基本である.リンパ球増殖反応(芽球化反応)は古くから広く行われてきた検査である.T細胞からのリンホカイン産生能を総合的に簡便に知る方法として皮膚遅延型過敏反応惹起能をみることがすぐれている.細胞傷害活性についてはNK(K)細胞活性が比較的簡単に測定できる.以下それらについて述べる.

76.モノクローナル抗体を用いた白血球表面マーカー

著者: 伊藤忠一 ,   金沢裕子

ページ範囲:P.1806 - P.1807

●白血球膜抗原(表面マーカー)に対するモノクローナル抗体(MoAb)
 従来,白血球に関する臨床検査は顕微鏡で観察し,数を算定したり,あるいは形態や染色性などの所見から細胞を同定するということに限られていた.しかしこれらの臨床情報は主観的であり,またしばしば不完全でもあった.ところが1970年代後半より細胞融合技術を用いることによって,白血球などの膜抗原に対するMoAbが作られ始め,これらを利用することによって白血球を機能を異にする亜分画に分別して定量したり,細胞由来や分化段階を同定することが可能になってきた.
 現在までに作製されてきたMoAbは膨大な数にのぼるが,「ヒト白血球の分化抗原に関する国際ワークショップ」で検討され,CD分類法によって表示されている.すなわち,同一特異性を有するMoAbによって認識されるエピトープをClusterof differentiation antigenの略語CDを冠した番号で示すという統一命名法が決定された1).表1に主なる膜抗原のCD番号,分布や,それを認識するMoAbを示した.

77.好中球機能

著者: 辻芳郎 ,   松本和博

ページ範囲:P.1808 - P.1809

 食細胞,なかでも好中球は,生体に侵入した化膿菌を補体,抗体などの液性因子との相互作用によって非特異的に排除する.食細胞の主役は好中球で,その機能は,1)血管内皮細胞への付着および血管外への遊出,2)化学走性(走化)とランダム運動,3)オプソニン化された異物の貪食,4)細胞内殺菌,に大別される.これらのどの過程に異常があっても好中球機能は全うされず,易感染や難治性感染に陥りかねない.
 好中球の機能不全を疑った場合,量的,質的検索とともに,体液成分の検索も行わなければならない.

78.HLA検査

著者: 関口進

ページ範囲:P.1810 - P.1812

 1987年に行われた第10回HLAワークショップと会議の後のWHO国際HLA命名委員会で討議合意に達したHLA抗原の名称は表1のごとくである.
 いわゆるクラスI抗原(T・B細胞・血小板膜に存在・HLA-A,B,C抗原)とクラスII抗原(B細胞・単球上に存在・活性化T細胞に出現するが血小板上には認められない.HLA-D,DR,DQ,DP抗原)に最近ではHLA抗原を分けて考えている.

79.抗核抗体

著者: 東條毅

ページ範囲:P.1814 - P.1815

 抗核抗体はAntinuclear Antibodiesの頭文字をとって,ANAと略されることが多い.これは真核細胞核内の抗原物質群に対する,多種類の抗体群の総称である.膠原病患者血清中には,高率にANAが検出される.その中心的疾患は全身性エリテマトーデスであるが,膠原病各疾患にも広く分布している.
 核内の抗原は多彩であり,その抗原特異性に従ってANAは個々の特異抗核抗体に分類される.核内の抗原性物質には生理的溶液(PBSなど)に可溶性のものと,不溶性のものとがある.このため溶液内の免疫学的反応では,多数のANAの中のごく一部しか検出することができない.

80.抗DNA抗体

著者: 東條毅

ページ範囲:P.1816 - P.1817

 抗DNA抗体の検査は,全身性エリテマトーデス(SLE)の診断をすすめるうえで有用性がある.アメリカリウマチ学会による1982年改訂のSLE分類基準には,抗DNA抗体の検査が新しく基準項目の中に追加された.この時の根拠となったデータでは,抗DNA抗体はSLEの113/168(67%)に検出された.同時に測定した非SLE対照例における陽性率は7/91(8%)であった.このためSLEを分類する感度(67%)と特異度(92%)にすぐれた指標として,基準に採用されたのである.
 ただしこの場合の抗体は,とくに抗nativeDNA抗体と指定してある.DNAに関して抗原決定基となりうる成分には,1)一次構造の塩基部分,2)デオキシリボースと燐酸により構成される骨格構造(二次構造部分),3)ヌクレオチド鎖のつくる高次構造,の3種がある.

81.抗ENA抗体(Sm抗体,抗RNP抗体)

著者: 東條毅

ページ範囲:P.1818 - P.1819

 ENAはExtractable Nuclear Antigensの略で,可溶性核抗原と訳される.MCTD(混合性結合組織病)を提唱したG. C. Sharpらは,高い抗体価の抗ENA抗体をMCTD患者血清中に証明した.
 本抗体は受身血球凝集反応によってENAを感作した羊血球を凝集する抗体として見いだされたため,抗ENA抗体と呼ばれるようになった.抗体価は数千倍から数万倍以上となることが多い.この感作血球をRNaseで処理して再検査すると,抗体価が有意に低下する血清と低下しない血清とがある.血清によっては反応が陰性となるものもある.このような抗体価の低下のみられる血清中の抗体は,RNase感受性ENA抗体と呼ばれた.これに対して抗体価の有意の低下のみられない抗体は,RNase抵抗性ENA抗体と呼ばれた.RNase処理血球との反応が完全に陰性となる抗体は,RNase感受性抗体の単独陽性例と呼ばれた.

82.抗血小板抗体

著者: 倉田義之 ,   林悟 ,   椿尾忠博

ページ範囲:P.1820 - P.1822

 抗血小板抗体には血小板自己抗体と血小板同種抗体の2種類がある.血小板自己抗体は自己免疫疾患の一つである特発性血小板減少性紫斑病(以下,ITP)患者にしばしば認められるもので,患者自身の血小板にも反応する抗体である.一方,血小板同種抗体は輸血や妊娠により産生されるもので,他人の血小板に対する抗体であり,抗HLA抗体や血小板特異抗原に対する抗体が含まれる.本稿では,主として血小板自己抗体につき解説する.

83.LE細胞試験

著者: 久保信彦

ページ範囲:P.1824 - P.1825

 LE細胞とはRomanovsky染色上観察される赤紫色の無構造体(LE体)を貪食した好中球を指し,この細胞が見いだされる現象をLE細胞現象という.
 本細胞は1948年,Hargravesらにより全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus;SLE)患者の骨髄塗抹標本中に最初に発見された.白血球核成分と自己抗体との間に起こった抗原抗体反応を,白血球が処理する過程として形態的にとらえられているものである.

84.リウマチ因子

著者: 岩本幸子

ページ範囲:P.1826 - P.1827

 リウマチ因子,またはリウマトイド因子(rheumatoid factor;RF)は,慢性関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)患者血清中に高頻度に出現するIgGに対する自己抗体で,ヒトIgGのみならずウサギなど他種の動物のIgGとも反応する.
 IgGの抗原としての反応部位はH鎖のFc部分にあり,未変性のIgGよりも変性重合したIgGおよび抗原抗体結合物を形成するIgGと強い反応性をもつ.RFの大部分はヒトIgGおよびウサギIgGの両者と反応するが,ヒトIgGとのみ反応するRF,ウサギIgGとのみ反応するRFなど少なくとも3種のRFが存在する.RFの免疫グロブリン(Ig)クラスとしては以前はIgMとされていたが,最近ではIgG,IgA,IgE,IgDのすべてのクラスに属するものが知られている.それぞれの臨床的意義については種々論じられているが,いまだに解明されていない点が多い.

85.クームスCoombs試験

著者: 小島健一

ページ範囲:P.1828 - P.1829

●クームス試験の原理と意義
 クームス試験(抗グロブリン試験)には直接クームス試験(DAT)と間接クームス試験(IAT)がある.
 DATは赤血球表面が不完全抗体(および/または補体)によってコートされているかどうかを検査するもので,検査対象は(in vivoで感作された)赤血球である.

86.抗サイログロブリン抗体,抗マイクロゾーム抗体

著者: 玉置治夫 ,   網野信行

ページ範囲:P.1830 - P.1832

 自己免疫性甲状腺疾患,すなわちバセドウ病,橋本病においては,種々の抗甲状腺自己抗体が血中に存在する1).現在わが国では,そのうちの抗サイログロブリン抗体と抗マイクロゾーム抗体が,日常検査として受身凝集反応法で測定され,自己免疫性甲状腺疾患の診断にきわめて有用と考えられている1,2).従来よりタンニン酸処理赤血球(tanned red cell)の凝集反応によって測定される抗サイログロブリン抗体がTRC抗体と呼ばれてきたが,抗マイクロゾーム抗体の測定もTRC法であり,筆者らは,前者をTGHA,後者をMCHAと略しており,現在国際的略号として定着している2).その後,赤血球の代わりに人工的粒子が開発されたが,測定結果に変わりはない.最近,英国のスミスらにより,ラジオイムノアッセイによるこれら自己抗体の測定法がキット化されているが,今後普及していくものと考えられる.

87.TSHレセプター抗体

著者: 玉置治夫 ,   網野信行

ページ範囲:P.1834 - P.1835

 自己免疫性甲状腺疾患患者血中には,種々のタイプの自己抗体が存在する1).これらのうちTSHレセプター抗体(TSH receptor antibody,TRAb)は,バセドウ病における甲状腺機能亢進症および一部の甲状腺機能低下症の発症原因と考えられ,その測定は疾患の診断および経過観察には不可欠である1)
 TRAbの測定法については,従来さまざまな方法が開発されてきた.初期のMcKenzieのbioassayに加えて,ヒト甲状腺スライスを用いたadenylate cyclase活性やcAMPの上昇,あるいはcolloid droplet形成などを指標としたstimulation assay法と,TSHレセプターへの標識TSHの結合阻害を指標としたradioreceptorassay法などが開発されてきた1).そして後者の測定法は,英国のスミスらによりキット化され,わが国でも次第に多く用いられつつある1,2).このキットで測定された抗体が一部ではTRAbと呼ばれているが,ラジオレセプターアッセイで測定した抗体であることを明示するため,TBII(thyrotropin-binding inhibitor immunoglobulin)と呼ぶべきであると考えられる.以下,TBIIについて述べる.

88.AFP(α-fetoprotein)

著者: 石井勝

ページ範囲:P.1836 - P.1837

●異常値を示す疾患
 健康成人および小児の血清α-fetoprotein(以下,AFP)は10ng/ml未満である.乳児の血清AFPは,出生直後がもっとも高値で数万〜10万ng/mlで,その後漸減し,生後9カ月前後で10ng/ml未満に達する.したがって,生後10カ月以降の健康人の血清AFPは10ng/ml未満であり,異常値は10ng/ml以上である.
 AFPは原発性肝細胞癌と卵黄嚢腫瘍(ヨークサック腫瘍)のすぐれた腫瘍マーカーである.原発性肝細胞癌および卵黄嚢腫瘍患者の血清AFPは著しく高値のことが多い.この2疾患以外に血清AFPが異常値を示す疾患として,胃癌,膵癌などの消化器癌,特に転移性肝癌,良性疾患としては急性および慢性肝炎,肝硬変症,乳幼児期の疾病として乳児肝炎,肝芽腫,転移性神経芽細胞腫,肝間葉性過誤腫,肝血管腫,先天性疾患として先天性胆道閉塞症,チロシン血症,ataxia telangiectasia,さらに妊娠などが挙げられる.
 血清AFPが異常値を示す場合,血清AFP値の程度によって疾患を考える必要があるが,高濃度異常値(2,000ng/ml以上),中濃度異常値(2,000〜200ng/ml),低濃度異常値(200〜10ng/ml)別の各疾病を表1に示した.

89.CEA(carcinoembryonic antigen)

著者: 谷内昭 ,   有村佳昭

ページ範囲:P.1838 - P.1840

 CEA(carcinoembryonic antigen)は糖を40〜60%含む分子量18〜20万の糖蛋白で,消化器癌を中心に広く腫瘍マーカーとして血清診断に応用されている.最近,CEAの遺伝子クローニングの成功により,その一次構造が判明し,Ig super-gene familyに属していると考えられ,複雑な糖鎖構造も解明されつつある.

90.CA19-9

著者: 神奈木玲児 ,   繁田勝美 ,   板井茂行 ,   高田亜希子 ,   橋本京子

ページ範囲:P.1842 - P.1845

 近年,癌細胞の抗原の研究がモノクローナル抗体を用いた方法によって大きく前進した.その結果,いくつかの抗原が実地臨床において癌の血清診断に活発に応用されるに至っている1-3)
 これらの抗原の生化学的本体は,いずれもムチン様の糖蛋白質抗原であり,用いられている抗体の認識する抗原エピトープの構造から,1型糖鎖を認識するもの(CA19-9,CA-50,SPan-1,KM01,2D3シリーズなど),2型糖鎖を認識するもの(シアリルSSEA-1,CSLEX-1など),母核糖鎖を認識するもの(CA72.4,シアリルTnなど),構造不明の糖鎖またはコア蛋白部分と考えられるもの(CA15-3,CA125など)にそれぞれ分類されている4-6)

91.その他の腫瘍マーカーとCombination assay

著者: 漆崎洋一 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.1846 - P.1848

●その他の腫瘍マーカー
 表1に現在一般診療で汎用されている腫瘍マーカーを示した.これらのマーカーの中には臓器特異性が高く,特定の臓器腫瘍の診断に役立っものと,臓器特異性が低いが,癌の存在診断には役立つものがある.
 臓器特異性の高いマーカーとしては,AFP,PIVKA-II,CA19-9,Du-Pan-2,SLX,NSE,SCC,CA125,CA15-3,PAP,γ-Sm(γ-seminoprotein)などがあげられる.これらのなかで,AFPとCA19-9については他の項で詳述されるのでここでは省略する.

血液化学検査

92.血清蛋白

著者: 大谷英樹

ページ範囲:P.1850 - P.1851

 ヒト血漿中には少なくとも100種類以上の蛋白成分が存在するが,それらの量的ないし質的異常をきたす病態を血漿蛋白異常plasma proteinabnormalitiesと呼ぶ.それらを発見するためのスクリーニング検査としては,血清総蛋白量とセルロースアセテート電気泳動による血清蛋白分画があげられ,またIgGやCRPなどの定量法もよく利用されている.
 ここでは血清総蛋白量と血中濃度mg/dlレベルの比較的濃度の高い蛋白成分の主なものについて述べることとする.

93.電気泳動

著者: 大谷英樹

ページ範囲:P.1852 - P.1854

 蛋白の日常検査に用いられている電気泳動にはセルロースアセテート電気泳動による蛋白分画法(CAEP)と免疫電気泳動法(IEP)がある.
 CAEPにより血清蛋白は陽極側よりアルブミン,α1,α2,βおよびγの5分画に分けられる.各分画の変動は病態によって比較的特徴ある異常パターンが認められ,疾患の診断ならびに病態の把握に役立っ情報が得られる.

94.血糖

著者: 菊池方利

ページ範囲:P.1856 - P.1857

●異常値を示す疾患
 1.高血糖を来す疾患
 1)糖尿病 膵ランゲルハンス島のインスリン産生細胞(B細胞)が破壊されてインスリン分泌が不足するインスリン依存性糖尿病(IDDM),およびインスリン分泌B細胞と標的細胞にグルコースに対する感受性の低下が生じるインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)に高血糖が最も生じやすい.
 2)その他の遺伝的疾患 糖尿病は遺伝性疾患であり,他の内分泌系遺伝性疾患の一環であることもありえる.膵島B細胞の破壊(膵島炎)は自己免疫機構の破綻によるとの考えが有力であるが,成長ホルモン単独欠損症,汎下垂体機能低下性小人症,多発性内分泌腺症が膵島炎を伴う.嚢胞性線維症やSchmidt症候群は膵島炎のみでなく膵変性を伴う.神経変性を伴うFriedreich失調症,染色体異常症を伴うDown,Turner,Kleinfelter症候群,視神経萎縮・糖尿病症候群などもIDDM併存に近い存在である.

95.グリコヘモグロビンとフルクトサミン

著者: 老籾宗忠 ,   増田章吾

ページ範囲:P.1858 - P.1859

●Glycation
 蛋白と糖の非酵素的,非特異的結合反応であるglycationはMaillard反応とも言われ,hemoglobin(Hb),血清蛋白など生体内の種々の蛋白に生ずる反応である.最近,これらHb,血清蛋白のglycationが血糖コントロールの指標として臨床に応用されてきた.
 通常のHbであるHbAOに対してHbに糖の結合したものをHbA1(グリコヘモグロビン)と名付け,これをカラムクロマトグラフィーで分離すると,HbA1a,HbA1b,HbA1cに分けることが出来る.HbA1の大部分をHbA1cが占め,血糖の変化に最も敏感に反応するため,糖尿病の臨床ではHbA1cがHbA1の代表と考えられてきた.

96.ピルビン酸と乳酸

著者: 清水孝郎

ページ範囲:P.1860 - P.1861

 ピルビン酸,乳酸の正常値と異常値を表に示す.
●異常値を示す疾患
 1)循環不全
 心不全の程度に応じて血中乳酸,ピルビン酸が上昇する1).ショックの際,乳酸値は予後の指標として重要とされる.しかし,乳酸の上昇が急性かつ一過性の場合は,この限りでない.したがって,予後判定には治療に対する反応性を検討することも重要である.また,ショック状態でも肝血流が保たれているとき(たとえばエンドトキシンショックのとき)は,末梢組織の酸素欠乏にもかかわらず,血中乳酸はそれほど上昇しないことがあるので注意する.

97.シアル酸

著者: 亀井幸子

ページ範囲:P.1862 - P.1863

●シアル酸とは
 シアル酸(sialic acid)は,1936年Blixらによって顎下腺のムチンから結晶状に単離された.単一の物質ではなく,ノイラミン酸とよばれるカルボキシル基をもつ糖の,一連のアシル誘導体の総称である.15種類以上のものが知られているが,正常なヒトの体内に認められるシアル酸はほぼ100%がN-アセチルノイラミン酸(NANA)である.

98.総コレステロール

著者: 中野栄二

ページ範囲:P.1864 - P.1865

●異常値を示す疾患
 1)高コレステロール血症
 高コレステロール血症は,本態性(家族性の意味も含め)と続発性に大別される.本態性高コレステロール血症が動脈硬化のリスクファクターであることは,疫学的にも実験的にも確認されている.とくに冠動脈硬化性疾患はコレステロール値が高ければ高いほど,その発症率も高くなることが疫学的調査(Framingham Study)で明らかにされている.
 総コレステロールの約3/4は低比重リポ蛋白(LDL)に含まれており,LDLコレステロールが血管壁に蓄積されるメカニズムが実験的にはかなり解明されつつある.

99.中性脂肪(TG)

著者: 古賀震 ,   岡嶋研二 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.1866 - P.1867

●異常値を示す疾患
 血清中性脂肪(Triglyceride;TG)が異常値を呈する疾患を表に示す.
 原発性代謝異常としては,家族性複合型高脂血症,家族性高TG血症の2つが比較的頻度が高く,0.5〜1.0%に認められる.

100.遊離脂肪酸

著者: 宇治義則 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.1868 - P.1869

●異常値を示す疾患(表1,2)
 遊離脂肪酸(free fatty acid;FFA,またはnon-estrified fatty acid;NEFA)の血中での半減期(turnover)は1〜2分といわれており,他の脂質成分に比べて血中での含有量は微量ではあるが,その代謝活性はきわめて高く,脂質代謝のみならず糖代謝,内分泌性の影響を敏感に受け,生理的条件の変化によっても大きく変動するので,その臨床的意義の解釈には注意が必要である.
 血中FFAは脂肪の水解より生成され,脂肪組織のトリアシルグリセロールの水解もしくは筋,肝組織などへの血中トリアシルグリセロールの吸収の際にリポプロテインリパーゼ(LPL)の作用により血中に存在する.この脂肪の移送時には,種々のホルモンが関与することが知られている.水解促進効果のあるホルモンとしてはACTH,MSH,GH,TSH,グルカゴン,エピネフリン,ノルエピネフリン,抑制効果のあるものとしては糖,インスリン,プロスタグランジンなどがある.FFAの代謝動態を図に示す.

101.過酸化脂質

著者: 中村治雄 ,   宮島恵美子

ページ範囲:P.1870 - P.1871

 生体において,組織を中心に脂質の過酸化が起こることが知られ,とくに血小板凝集,プロスタグランジン生成,動脈壁内,白血球などが臨床的に注目されている.近年,動脈硬化発生に果たす低比重リポ蛋白(LDL)の変性などは,一部は動脈壁内で酸化を受けることにより生ずると考えられている.
 これら局所の変化がどの程度血中に影響するか問題であるが,従来から過酸化脂質を血中で測定しようという努力がなされていた.しかし直接それぞれの過酸化脂質を測定するのではなく,チオバルビツール酸(TBA)と反応して生じたマロンジアルデヒドを測定して,その値としていた.

102.リポ蛋白分画

著者: 櫻林郁之介

ページ範囲:P.1872 - P.1874

 脂質代謝異常症の診断を行うには,通常スクリーニング検査として血清中の総コレステロール,トリグリセリドおよびHDL-コレステロールの測定を行う.そしてスクリーニング検査で何らかの異常が認められた場合に,リポ蛋白検査が行われる.

103.HDLコレステロール

著者: 野間昭夫

ページ範囲:P.1876 - P.1877

 高比重リポ蛋白(high density lipoprotein;HDL)が動脈硬化性疾患で低下することは以前から推察されていたが,リポ蛋白分析法の不完全さや動脈硬化促進因子としての低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL)の重視によって,それほど注目されていなかった.しかし,1975年にMillerらによって虚血性心疾患でHDLコレステロール(HDL-C)が低いことが示され,その後Framingham studyなどによって低HDL-Cが冠動脈疾患の独立した危険因子であることが統計的に証明されてから,HDLの増減が注目されるようになってきた.
 しかし,これらはすべて疫学的な証明であり,HDLが動脈硬化進展防止において,いかなる役割を果たしているかは必ずしも完全に解明されているわけではない.ただHDLがいわゆるコレステロール逆転送系に重要な働きをしていることは確実であろう.

104.アポリポ蛋白

著者: 武内望

ページ範囲:P.1878 - P.1879

 脂質は疎水性であるため,血漿中では遊離脂肪酸を除き特異的なアポリポ蛋白と複合体を形成し,リポ蛋白として存在している.したがって,脂質代謝異常の病因や病態を理解するためには,その蛋白部分であるアポリポ蛋白に関する情報を必要とする場合が多い.とくに虚血性心疾患の発症や進行に関しては,血漿脂質(コレステロールや中性脂肪)よりもアポ蛋白(アポAやB)との相関が強いという疫学調査結果もあり,アポ蛋白からの解析を行わなくてはならない.それは組織への脂質の沈着は,アポ蛋白の脂質転送能と密接に関係するからである.現在サブクラスを含めて20種類あまりのアポ蛋白が知られているが,そのうち主要なアポ蛋白の種類ならびに正常値,機能などを表1に示した.

105.LCAT(lecithin:cholesterol acyltransferase)

著者: 高木康

ページ範囲:P.1880 - P.1881

 Lecithin:cholesterol acyltransferase(LCAT,EC 2.3.1.43)は肝臓で合成され,血流中に分泌される分子量65,000~69,000の糖蛋白酵素である.血流中に分泌されたLCATは高比重リポ蛋白(HDL)表面に存在し,レシチン(ホスファチジルコリン)のsn-2位のアシル基(脂肪酸)をコレステロールの3β-OH基に転移させ,エステル型コレステロールとする.このエステル型コレステロールは一部VLDL,IDLに移行するが,大部分は原子型HDL(nascent HDL)内に蓄積され,HDLを成熟型とする.この成熟型HDLはアポEレセプターを介して肝臓に取り込まれる(HDL-LCATシステム,図).
 このように,LCATは末梢組織から肝臓への“reverse cholesterol transport”に重要な役割を果たしている.なお,LCAT活性発現にはHDLの主要アポ蛋白であるアポA-Iがcofactorとして重要な役割を果たしている.

106.尿素窒素

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.1882 - P.1883

●異常値を示す疾患
 尿素は主に蛋白代謝の最終産物として,肝臓で生成され,腎を通して排泄される.したがって血清中の尿素(以下,尿素窒素BUNと表現)値は,摂取蛋白や異化蛋白量と,尿中へのBUN排泄能との均衡により左右される.BUN異常値を示す疾患を表にまとめた.BUN0〜10mg/dl程の異常低値を示す疾患としては,低蛋白食摂取や尿素生成の阻害,蛋白同化作用の亢進によるもの,その他があるが,実際少ないケースである.
 一方,BUN上昇の疾患は,各種の腎疾患を中心に,比較的軽度の上昇を示す腎前性および腎後性の高尿素窒素血症がある.BUN異常高値の腎疾患の中でも,軽度上昇の糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,腎結石などから,100〜400mg/dl程の異常高値の尿毒症まであり,鑑別診断や症状の推移の把握には,BUNを中心とした各種の検査成績が重要な指針となる.

107.クレアチニン

著者: 山田雅仁 ,   菱田明

ページ範囲:P.1884 - P.1885

 クレアチニンは筋肉細胞内でクレアチンから産生されるクレアチンの代謝最終産物であり,血清クレアチニン濃度は筋肉での産生量と尿中へのクレアチニン排泄量によって決まる.クレアチニンの産生量は,食事中のクレアチンやクレアチニンの影響をほとんど受けないとされており,筋肉量に比例して増加する.また,クレアチニン産生量は,発熱や糖質ステロイド投与のような筋肉の異化の変化の影響も受けにくいとされている.
 一方,血中のクレアチニンは,腎糸球体を通過した後,尿細管での再吸収,分泌をほとんど受けずに尿中に排泄されることから,尿中へのクレアチニン排泄量は糸球体濾過率(GFR)に依存する.

108.血漿アンモニア(血中アンモニア)

著者: 宮城芳得

ページ範囲:P.1886 - P.1887

●異常値を示す疾患
 血液アンモニアの測定は,重症肝疾患ことに肝性昏睡,肝脳症候群,さらに新生児の高アンモニア血症などの診断の際の指標となり,生化学的検査として重要視されている.このほか先天性尿素サイクル酵素欠乏症とか,何らかの理由で尿素サイクル酵素活性の低下などでもアンモニァレベルの上昇がみられる.また,尿中アンモニア窒素(別名尿中アンモニア)も蛋白性食品多食で上昇する(表1,2).

109.アミノ酸(総遊離アミノ酸量,遊離アミノ酸分画)

著者: 宮城芳得

ページ範囲:P.1888 - P.1890

●異常値を示す疾患
 異常値を示す疾患の以前の問題として,アミノ酸分析の必要性とそれに対応する方法が理解されなければならない.
 まず,臨床症状から判断してしらべようとするターゲットアミノ酸を測定するのか,痙攣とか発育が悪く知能の発達がおくれているが,いろいろしらべても判断がつかないときにどこかに代謝障害でもあるのかと疑う場合とか,代謝経路の異常をより明確にするため分画(1つ1つのアミノ酸)の変動をしらべる場合とか,疾患により経口摂取が不十分か,あるいは不可能なため体蛋白の崩壊を招き,いわゆる負の窒素平衡がみられるだろうと予想するときなどに,生体内のアミノ酸情報をさぐるため血漿ならびに尿中アミノ酸の測定の必要が生じる.

110.尿酸

著者: 中村徹 ,   津谷寛

ページ範囲:P.1892 - P.1893

●異常値を示す疾患
 生体内では尿酸が産生と排泄との平衡状態にあり,正常人の血清尿酸値(Sua)は一定範囲,すなわち男4〜6mg/dt,女3〜5mg/dlに保たれている.Suaの異常値としては,この範囲を超えて上昇する高尿酸血症と,低下する低尿酸血症とがある.これらの異常は尿酸の産生または排泄の増加または減少,およびそれらの組み合わせによって発生し得るので,これらの成因によって高尿酸血症および低尿酸血症を分類することができる.さらに,これらの病態をきたす原因疾患が別に存在する場合,すなわち二次性高尿酸血症または低尿酸血症と存在しない場合,すなわち一次性のそれらとを区別することができる.それぞれの群に属する疾患とその分類を表に示した.
 Suaの異常値を認めた場合に尿酸クリアランス法を行い,尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランス(Cua)を測定することは,臨床診療において尿酸の産生と排泄の状態をそれぞれ推測する上に有用である1,2)

111.グアニジノ化合物

著者: 石崎允

ページ範囲:P.1894 - P.1895

●腎疾患とグアニジノ化合物(GC)
 尿毒症病態発現と血中メチルグアニジン(MG)濃度との関係は,Giovannettiらにより動物実験で証明されて以来,わが国でのGC測定法の画期的な開発,とくに中島らの酵素法の開発がなされ,慢性腎不全の病態解明の手段として使用されつつある.MGはそれ自体強力なUremic Toxinであるが,青柳らはクレアチニンから活性酸素,なかでもヒドロキシル・ラジカルの存在でMGが異常産生されるとした.すなわち,MGの測定により,慢性腎不全患者の活性酸素の動態を把握することが可能である.とくに血中MG値とクレアチニン値の比は,長期透析患者の適性透析の指標として,その重要性がクローズ・アップされてきた.
 つぎに,腎機能の良好な腎疾患患者でも,尿細管障害の程度によりグアニジノ酢酸(GAA)の尿中排泄量が減少する.GAAも白兼らの酵素法による測定法が開発され,大量の検体処理が可能になった.従来の腎機能の指標として使用されてきたクレアチニン・クリアランスや尿中NAGでは,腎炎などの病態把握ができない場合があったが,尿中GAA排泄量を測定することにより,その低下で腎組織障害の存在が示唆される.

112.ビリルビン

著者: 戸谷誠之

ページ範囲:P.1896 - P.1897

 高ビリルビン血症のため皮膚や粘膜にビリルビンが沈着し,黄染した状態が黄疸である.血清ビリルビンが3mg/dl以上になると,肉眼的にも明らかな黄疸として確認される.1〜2mg/dl程度では肉眼的には不明瞭であるが,いわゆる潜在性黄疸といわれる状態になる.
 ビリルビンはヘモグロビンなど,ヘム蛋白のヘム部分が異化された生産物である.図に示すように,網内系でポルフィリンが酸化的に解環したテトラピロール化合物(主にIXα型)である.

113.胆汁酸

著者: 松崎靖司 ,   田中直見 ,   正田純一 ,   大菅俊明

ページ範囲:P.1898 - P.1899

 胆汁酸は肝細胞において特異的にコレステロールより生成され,胆汁中に排泄される.腸管に放出された胆汁酸は回腸末端を中心とした腸管より約95%が再吸収され,門脈を経て肝細胞に効率よく摂取される.閉鎖的腸肝循環を行うため,胆汁酸の大循環系への漏出は,末梢血中で10μM以下と微量である.したがって,もし肝障害が存在すれば,肝細胞による胆汁酸摂取率が低下し,末血中胆汁酸濃度は増加する.腸管からの吸収が正常と仮定すると,この現象は肝機能検査として利用できる.近年,血清胆汁酸微量定量法が確立され,日常臨床において広く利用されるようになってきた1)
 3αの位置にOH基をもつ胆汁酸は15種類ある.この3α-OH胆汁酸総量を計り込む測定法(酵素法)と個々の胆汁酸を計る測定法(高速液クロ法,GC法,GC-MS法)などがある.酵素法では個々の胆汁酸が増加しても包括的に測定できる利点があり,分画測定は個々の胆汁酸の動きをみるときに有用である.

114.血清鉄,鉄結合能,フェリチン

著者: 内田立身

ページ範囲:P.1900 - P.1901

●異常値を示す疾患
 鉄は生体において,大別してヘモグロビンと貯蔵鉄に存在しているので,鉄および貯蔵鉄であるフェリチンは,ヘモグロビン合成障害をきたす各種の貧血,鉄貯蔵臓器である肝の障害および分布異常が示唆される二次性貧血などで異常値を示す.詳しくは表のとおりである.
 血清鉄は鉄欠乏性貧血,潜在性鉄欠乏,二次性貧血で低値であるが,総鉄結合能(TIBC),フェリチンを同時に測定すると各々を鑑別できる(図1).血清鉄高値は造血障害,鉄過剰,肝細胞障害による逸脱などでみられる.

115.血清銅

著者: 鶴岡延熹

ページ範囲:P.1902 - P.1903

 銅は体内に100〜150mg存在し,アポ蛋白と結合して重要な生理作用をになっている.血清銅の変動は,さまざまな病態を反映し,疾病の種類,重症度とも関係がある.

116.セルロプラスミン

著者: 青柳豊 ,   鈴木康史

ページ範囲:P.1904 - P.1905

 セルロプラスミン(ceruloplasmin,以下CPLと略す)は,1944年スウェーデンのHolmberg & Laurellによって初めて単離精製された主要な血清蛋白の1つである.本物質は1分子中に6〜8個の銅イオンを含有する1,046残基のアミノ酸よりなる1本鎖のポリペプチドであり,4カ所のN-グリコシド型結合による糖鎖(約8%)をもつ分子量約13万の糖蛋白である.電気泳動上はα2グロブリン分画に属し,ρ-フェニレンジァミンや,カテコールアミンなどの酸化能を有し,遺伝変種が存在する.

117.ナトリウム(Na)

著者: 高野朋子 ,   黒川清

ページ範囲:P.1906 - P.1908

●異常値を示す疾患
 血清Naの正常値は135〜150mEq/lで,134mEq/l以下を低Na血症,151mEql以上を高Na血症と定義している.高Na,低Na血症はNa代謝異常と誤認されていることが多いが,実は水代謝異常であるということをまず銘記して頂きたい.細胞膜は水を自由に透過させ,細胞内外の浸透圧較差にしたがって水は移動し,細胞内外の浸透圧は等しく保たれている.細胞外液の主な溶質は電解質であり,Naは細胞外液の陽イオンの大部分を占める.したがって,細胞外液の浸透圧は細胞外液のNa濃度の約2倍となる.つまり血清Naの測定とは,原則として浸透圧の測定のかわりと考えられる.したがって,血清Naの異常は細胞内外液の浸透圧異常として捉えられるべきである.
 低Na血症は比較的頻度が高く,入院患者の約2.5%にみられる.正常の場合,腎は最大60mOsm/kg・H2O(すなわち糸球体で濾過された原尿の5倍)まで尿を希釈できる.皮質集合管に到達する尿量は約25ml/minとなっており,ADHが働かないためそれ以上の水の再吸収は起こらず,尿量は25ml/minとなる.この25mlのうち5mlは等張尿であり20mlは自由水であると考えられるので,正常腎は最大希釈時,約1.2l/時の自由水を排出することができることになる.

118.カリウム(K)

著者: 北岡建樹

ページ範囲:P.1910 - P.1911

●異常値を示す疾患
 カリウムは主として細胞内に存在する電解質で,体内の酵素反応,糖・蛋白代謝,神経・筋肉の興奮性などに重要な役割がある.体内の総カリウム量は45〜55mEq/l体重(体重60kgの人では約3,000mEq)とされる.このうちの約98%は細胞内に存在し,細胞外液中には約2%程度でしかない.臨床的には,このわずかな分布量である,血清カリウム濃度により体内の動態を推測するしかないという制約がある.
 正常人の血清カリウム濃度は,3.5〜5.0mEq/lの範囲に保たれている.これに対して,細胞内のカリウム濃度は110〜140mEq/lであるといわれる.このような値に調節されるためには,細胞外に漏れやすいカリウムを細胞内に能動的に取り込むために,Na-Kポンプなどが作用している.全身的には,主として腎臓による調節が行われている.

119.クロール(Cl)

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.1912 - P.1913

 クロライド(Cl)イオンは細胞外液の主要な陰イオンであるが,Clの変化はナトリウム(Na)イオンの変化に対応もしくは酸塩基平衡に関与することが多い.一般に血清中のNaとClの比は1.4:1と考えて差し支えない.脱水状態では高Na血症となり,たとえばNa濃度が140から154mEq/Lに上昇した場合は,Cl濃度は100から110mEq/Lに上昇する.逆に溢水状態では,Na濃度が140から133mEq/Lに低下すると,Cl濃度は95mEq/Lに低下すると考えて差し支えない.
 もしこれらの均衡状態が保たれていない場合には,酸塩基平衡の変化に目を向ける必要がある.すなわち,Na濃度に比し,より低Cl血症がみられるときには,代謝性アルカローシスもしくは代償性の呼吸性アシドーシス(多くは慢性)を考える.逆にNa濃度に比し,より高Cl血症がみられるときには,高Cl性代謝性アシドーシスもしくは慢性呼吸性アルカローシスの存在を疑う.

120.カルシウム(Ca)

著者: 松本俊夫

ページ範囲:P.1914 - P.1916

●異常値を示す疾患
 血清カルシウム(Ca)値が異常高値を示す疾患を表1に,異常低値を示す疾患を表2に示した.
 血清Ca濃度の調節上最も重要な役割を演じているのは,副甲状腺ホルモン(PTH)である.また,ビタミンDの活性型ホルモンである1,25水酸化ビタミンD〔1,25(OH)2D〕は,腸管Ca吸収の調節上最も重要なホルモンである.これらのホルモンはいずれも骨代謝回転および腎尿細管Ca再吸収の促進作用を示すが,その作用の発現には両者の存在が必要である.したがって,これらのうち一方が欠乏しても,低Ca血症などのCa代謝異常症がもたらされる.

121.リン(P)

著者: 小椋陽介

ページ範囲:P.1918 - P.1922

●異常値を示す疾患
 1)低P血症
 低P血症の成因は,①腸からのP吸収減少,②細胞内へのP移行,③腎からの排泄増加(Tmp/GFRの低下),④その組み合わせ,に大別される.それぞれの原因は図に示した.
 ①細胞内移行 Pは細胞内におけるP化合物の生成に用いられるから,この生成が亢進すると細胞外液のPが細胞内に動員され,血清Pが低下する.このような細胞内Pの取り込みは,急速に成長している細胞,ブドウ糖または果糖の静注,グリセロール,キシリトールの点滴で起こる.また飢餓からの回復時,高カロリー輸液でも認められる.

122.マグネシウム(Mg)

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.1924 - P.1925

 Mgはアルカリ土類金属に属し,非遷移金属であるため,配位・共有結合を可能にするような低エネルギーd軌道関数をもった電子をもたず,亜鉛,銅,鉄,などの遷移金属と比較すると,より静電結合の化合物を形成しやすく,窒素より酸素原子を選択する可能性が強い.このような特性をもつMgは,細胞内の酵素的反応(リン酸の受け渡し,とくにATPにかかわるパスウェイ)における活性化因子として,また,アミノ酸の活性化と蛋白の合成に関与し,リボゾームの保全,RNAとDNA反応,正常な筋神経系の働きなどに必須なものである.

123.Paco2(動脈血CO2分圧)

著者: 吉川隆志 ,   川上義和

ページ範囲:P.1927 - P.1929

 吸気中のCO2濃度はごくわずかで(約0.04%),新たにCO2が加えられた場合以外は静脈血,肺胞気,動脈血PCO2は組織の代謝により決定される.血漿中のpHはHenderson-Hasselbalchの式で説明される.
 血漿pH=6.10+log血漿〔HCO3-〕/0.03・Paco2
 上式で〔HCO3-〕は腎における,Paco2は肺における調節を受けている.末梢組織より血液で運ばれたCO2は,換気により肺胞から放出される.CO2排泄には肺胞換気量が重要で,肺胞換気量(VA)と肺胞気CO2分圧(PAco2)は双曲線で表され,これを代謝双曲線(metabolic hyperbola)と呼ぶ(図1)1)

124.Pao2(動脈血O2分圧)

著者: 吉川隆志 ,   川上義和

ページ範囲:P.1930 - P.1931

 動脈血O2分圧(Pao2)は肺におけるガス交換の状態を示す重要な指標であり,疾患の重症度や酸素投与の適応を決める際必須な検査である.肺疾患が存在してもPao2を正常域まで戻そうとする代償機構があるため,Pao2は必ずしも低下しない.しかしこのような場合でもA-aDo2は開大することがあり,Pao2の異常値を考える際A-aDo2も同時に考慮する必要がある.
 PAo2は肺胞気式から,
 PAo2=P1o2-PAco2/R〔1-F1o2(1-R)〕
 (R:呼吸商,F1o2:吸入気酸素濃度)
 で求められるが,吸入気が1気圧の場合Rを0.8として簡略化すると,
 PAo2=P1o2-Paco2/R≒150-Paco2/0.8
 で算出される.A-aDo2の正常上限は10Torrといわれるが,Rを仮定した場合などは15〜20Torrといわれる.

125.HCO3-

著者: 諏訪邦夫

ページ範囲:P.1932 - P.1933

 〔HCO3-〕は,酸塩基平衡のパラメーターであって,単独で評価することは稀で,前項の炭酸ガス分圧Pco2,次項のpHなどと組み合わせて評価する.検体の対象は動脈血であることが多いが,静脈血,脳脊髄液,尿,その他の分泌液や組織液を対象とする場合も時にある.

126.動脈血pH

著者: 諏訪邦夫

ページ範囲:P.1934 - P.1935

 動脈血pHも前項のHCO3-と同様に酸塩基平衡のパラメーターであって,単独で評価することは稀で,前項の炭酸ガス分圧Pco2とHCO3-を組み合わせて評価する.検体は静脈血,脳脊髄液,尿,その他の分泌液や組織液を対象とする場合もあるが,ここでは動脈血に限定する.

127.Base excessとanion gap

著者: 川口哲 ,   吉矢生人

ページ範囲:P.1936 - P.1937

●Base excessとは何か
 血液のpHは呼吸性因子であるCO2分圧(以下Pco2)と代謝性因子である血漿重炭酸イオン濃度(以下HCO3-)によって規定される.Pco2が肺胞換気量によって支配されるほぼ純粋な呼吸性因子の指標であるのに対し,〔HCO3-〕はPco2の影響を受け,〔HCO3-〕以外のバッファーであるHb,リン酸,蛋白などの因子が表されていない.ここでより包括的な代謝性因子の指標が求められ,base excess(BE)という概念がSiggaard-Andersonらによって導入された.
 BEの定義は「血液をin vitroでPco240torr,37℃としたときにpHを7.40に戻すのに必要な強酸あるいは強アルカリの量(mmol/l)」であり,正常な状態からの偏差を示す.強アルカリが必要なときはbasedeficitとも呼ばれる.

128.Siggaard-Andersenの酸塩基チャートの使用法

著者: 川口哲 ,   吉矢生人

ページ範囲:P.1938 - P.1940

 代謝性因子の指標として使用されているbaseexcess(以下BE)はin vitro測定法による基準であり,in vivoでは呼吸性因子であるCO2分圧(以下Pco2)の影響を受ける.そこでSchwartzらが,Pco2の影響による代謝性酸塩基平衡因子の変動幅を示すものとして,significance bandを提唱した.
 Significance bandとは生体を種々のPco2に保ったとき,単純な呼吸性障害のみの場合95%の信頼度でとりうる血漿重炭酸イオン濃度(以下HCO3-),BEの範囲を求め,図示したものである.横軸にPco2,縦軸に〔HCO3-〕あるいはBEをとった図でsignificance bandは帯状を呈し,その帯域からの逸脱が代謝性障害の存在を表す.急性・慢性呼吸性アシドーシス,アルカローシス患者用と各種のsignificance bandが作成されている.一方では,生体を種々の〔HCO3-〕あるいはBEに保ち,Pco2の正常範囲を求めた呼吸性酸塩基平衡の基準となるsignificance bandもある.

129.血清アミラーゼ,アミラーゼ・アイソザイム

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.1942 - P.1943

●血清アミラーゼの由来とアイソザイム分析の意義
 アミラーゼは膵臓および唾液腺から消化管内に分泌されて消化酵素として働くが,一部は腺房から血液中へ移行している.正常の場合,血中のアミラーゼはほぼ一定のレベル(60〜160Somogyi単位または110〜300IU/l**)に保たれている.
 血清アミラーゼのほとんどすべては膵臓および唾液腺に由来する.これら2臓器のアミラーゼはアイソザイム(同じ反応を触媒する酵素のうち別の遺伝子支配をうけ,物理化学的性状に相違のある酵素)である.それぞれ膵型アミラーゼ,唾液腺型アミラーゼと呼ぶ.

130.血清膵リパーゼ

著者: 宇治義則 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.1944 - P.1945

●異常値を示す疾患(表1)
 膵リパーゼ(EC 3.1.1.3,Triacylglycerol Lipase:LP)は膵のacinar細胞で生成され,消化酵素として外分泌され,食物中のトリグリセリド(TG)を水解してジグリセリド(DG),モノグリセリド(MG)とし,腸管からの吸収を助ける.消化のためには唾液,舌腺,胃,十二指腸,小腸,大腸などのLPも働く.これらの各臓器のLPは,膵LPとは至適pH,分子量,熱安定性などが異なる.血清中のLPのほとんどは膵由来とされ,炎症などで血中に漏出してくる.臓器特異性が高く,膵疾患診断の指標として重要な検査であるが,測定方法が煩雑なため,現在まで膵疾患の検査としてはアミラーゼが主に用いられてきた.しかし,アミラーゼは膵臓,唾液線と2つの主要産生臓器をもち,特異性に欠ける.LP測定法として近年,安定した測定法が開発されつつあり,自動分析機への適用も可能で,今後一層の普及が期待されている.
 異常値を認める疾患として,急性膵炎ではその70%以上にLP活性の上昇が認められ,LP活性高値はアミラーゼ活性高値よりも長く持続する.慢性膵炎,膵癌では臨床経過のどの時点で測定したかによって高値を示す場合と低値を示す場合があり,膵臓機能の荒廃が進んだ慢性膵炎や膵線維症ではむしろLP活性は低値を示す.

131.アルカリ性ホスファターゼ(AP),APアイソザイム

著者: 菰田二一 ,   小山岩雄 ,   三浦雅一

ページ範囲:P.1946 - P.1949

 近年,ヒトAP遺伝子の解析が進み,臨床診断への応用としてcDNAプローブを用いた癌診断や先天性低ホスファターゼ血症の出現頻度や早期発見など話題は多いが1),ここでは利用度の高いものについて述べる.
 図1は,現在知られているAPアイソザイムの種類とセ・ア膜電気泳動上の易動度,主な疾患ならびにその抗原性について略記し2),また図2は,欧米で最近よく利用されているディスク電気泳動法による易動度を示す3)

132.γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)

著者: 吉川智加男 ,   中恵一

ページ範囲:P.1950 - P.1952

 γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:EC 2.3.2.2)は,グルタチオンのγ-グルタミル基を受容体であるアミノ酸,ペプチドに転移させる酵素であり,近年γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)と呼ばれている.本酵素はγ-グルタミルサイクルの中で唯一の膜結合酵素であり,グルタチオンの代謝に関与して各種のアミノ酸の細胞内への取り込みを担っているものと考えられている.実際,γ-GTPは腎,膵,肝組織の順に活性が高く,とくに腎では近位尿細管,肝では毛細胆管,膵では膵腺房や膵管系などの吸収,分泌に関連する膜系に広く分布している.肝細胞のγ-GTPは大部分ミクロソーム分画に局在し,血清中にはわずかに可溶化された形で存在する.血清のγ-GTPは肝由来であり,膵疾患,腎疾患でも膵,腎由来のγ-GTPは血中に反映しない.また尿中γ-GTPは腎由来であり,その他乳汁中,精液中にも高い活性がみられる.

133.コリンエステラーゼ

著者: 松田信義

ページ範囲:P.1953 - P.1955

 生体内にはアセチルコリンを加水分解する2種類の酵素が知られている.その1つはtruecholinesterase(EC 3.1.1.7,AChE)と呼ばれ,神経線維,神経筋接合部,赤血球膜および胎盤などに多く分布している.他の酵素はpseudocholinesterase(EC 3.1.1.8,PChE,ChE)と名づけられ,この酵素は血清中に多く含まれている.通常,臨床検査で測定されるのは後者のChEである.

134.酸性ホスファターゼ

著者: 金山良男

ページ範囲:P.1956 - P.1957

 酸性ホスファターゼ(ACP)は,酸性領域に至適pHをもつリン酸エステル水解酵素であり,細胞内では主としてリソゾーム,ゴルジ装置に局在する.全身の臓器,組織に広く分布するが,とくに前立腺(重量あたりの含量が最も多い),肝臓,血小板,赤血球,白血球,網内系細胞,乳腺上皮などに多く含まれる.
 ACPは電気泳動上少なくとも7種のアイソザイムが区別されるが,正常人血清中に検出されるACPは大部分がL酒石酸抵抗性のアイソザイム5で,ほかに血小板に由来する(血液凝固時に放出される)酒石酸感受性のアイソザイム3がごく微量存在する.前立腺癌,とくに骨転移を伴う進行前立腺癌では,酒石酸感受性のアイソザイム2および4が血中に逸脱してくるため,前立腺癌の病期診断や治療効果の判定,経過観察の指標として重要視される.ただし,アイソザイム分析が臨床的に用いられることはなく,従来は生化学的な手法で血清ACP活性を総活性と酒石酸感受性分画とに分別し,後者を前立腺ACP活性とみなしてきた.

135.GOT,GPT

著者: 中恵一

ページ範囲:P.1958 - P.1959

 現在臨床検査で最も日常測定されている血清酵素はトランスアミナーゼであり,アミノ酸のアミノ基をαケト酸に転移する反応を,ピリドキサルリン酸(PALP)を補酵素として触媒する.アミノ酸としてアスパラギン酸を基質とするものをアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:EC 2.6.1.1:ここでは今日国内で一般的に用いられているグルタミン酸・オキサロ酢酸トランスアミナーゼの略,GOTを用いる),アラニンを基質とするものをアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:EC 2.6.1.2:ここでは同様にグルタミン酸・ピルビン酸トランスアミナーゼの略,GPTを用いる)と呼ぶ.
 GOTもGPTも種々の臓器に存在しているが,血清GOTの上昇に関与するのは主に肝,心,筋疾患であり,GPTは主に肝疾患である.GOTは細胞質画分(細胞上清分画)とミトコンドリア画分のそれぞれに存在するアイソザイムが知られ,両アイソザイムはすべての臓器細胞に存在するが,赤血球では前者のアイソザイムしか存在しない.前者のアイソザイムをsGOT(supernatantの頭文字),後者をmGOT(mitochondrialの頭文字)と呼ぶ.

136.乳酸脱水素酵素(LDH)

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.1960 - P.1961

 乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27:LDH)は,生体のあらゆる臓器に広く分布する.したがって,いわゆる遊出酵素という観点でこの酵素活性の上昇を評価するときには,限定された臓器に焦点をしぼることができないという欠点ももち合わせている.しかし,それは臓器損傷の非特異的マーカーという点で逆に利用すべきことである.
 この酵素活性を測定して,損傷臓器の推定を行う場合には,2つの方法が用いられている.その1つは,他の酵素活性との組み合わせ(ASTまたはCK)を利用するか,2つめはアイソザイムの分析である.アイソザイムの分析については後述するので,ここでは他の酵素活性との組み合わせによる評価について述べることとする.

137.LDHアイソザイム

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.1962 - P.1963

 乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27:LDH)は,2つのHおよびMのサブユニットからなる4量体である.したがって,5つのアイソザイムが存在し,それぞれの臓器・組織によってそのアイソザイム含量が異なることから,臨床的には損傷臓器の推定にアイソザイム分画を用いることとなる.この血清LDHアイソザイム分画を損傷臓器の推定に用いる場合に,2つの問題点がある.1つは,アイソザイム分画の似ている臓器が存在することと,2つは,各アイソザイムの血清での半減期が異なるために血中へ遊出してからパターンの修飾を受けることである.
 はじめの問題点は,「136.乳酸脱水素酵素(LDH)」の項(p1960)で述べたLDH/AST比を組み合わせることで臓器推定を確実にすることができる.また,後者は,半減期による修飾を考慮してアイソザイムパターンを評価することで,損傷臓器の推定はより確実とすることができる.

138.ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)

著者: 村井哲夫

ページ範囲:P.1964 - P.1965

 血清中LAP活性の臨床的意義を最初に報告したFleisher(1957)らは,L-ロイシルグリシンを基質とする測定法で,急性肝炎患者の血清中LAP活性が著明に増加することを指摘した.しかし,彼らの方法は測定法が複雑なため普及しなかった.一方,Green(1955)らは,新しい基質としてロイシル-β-ナフチルアミドを合成し,比色法による簡便な測定方法を発表した.Goldbarg(1959)らは,本法によって測定される酵素活性の増加は種々の原因による肝胆道の閉塞時に共通して上昇を認めると報告した.以来,本法により測定される酵素が"LAP"として臨床診断に広く利用されるようになった.この時期に"LAP"として臨床診断に用いられている酵素は,大きく分けて2種類の酵素からなり,とくにGreenらの方法により測定される酵素活性の主要な部分は,m-LAPであることが明らかにされるべきであった.
 一方,胎盤機能検査法として利用されているCAPもまた,"LAP"活性の測定に利用される合成基質を水解するため,妊娠でも"LAP"が増加するとされてきた.

139.CK(クレアチンキナーゼ),CKアイソザイム

著者: 五味邦英

ページ範囲:P.1966 - P.1967

 クレアチンキナーゼ(creatine kinase;CK)は骨格筋,心筋,脳および平滑筋に高濃度に分布し,他の組織および臓器にはあまり存在していない.このため,臨床検査でのCKの有用性は当初,進行性筋ジストロフィーの診断に,次いで心筋梗塞の早期診断を中心とする心疾患において認められている.また最近では骨格筋・心筋疾患以外に,中枢神経疾患および内分泌疾患においても広く測定されるようになってきている.
 血清で測定されるCKは,通常細胞上清に含まれるcytoplasmic CKで,そのアイソザイムはCK-BB,CK-MB,CK-MMの3種が知られている.この酵素の基本となるサブユニットはM(muscle)とB(brain)で,CK-BBは主として脳に,CK-MMは骨格筋に存在し,CK-MBは混合型で心筋に最も高濃度に存在している.他にCKのアイソザイムには,細胞内局在の異なるmitochondrial CK(m-CK)が存在し,細胞傷害がミトコンドリアにおよぶと,血中に出現する.

140.アルドラーゼ

著者: 浅香正博

ページ範囲:P.1968 - P.1969

 アルドラーゼは嫌気性解糖系酵素の一員であり,果糖-1,6-2リン酸(FDP)と,果糖-1-リン酸(FIP)の分解を可逆的に触媒している.血清アルドラーゼ酵素活性測定は,一般臨床検査で広く行われている検査の1つであるが,筋肉疾患,肝疾患,癌疾患などで上昇し,疾患特異性には欠けていた.アルドラーゼにはA,B,C3種のアイソザイムが存在し,それぞれ臓器特異性が高いことが知られている.したがって,血清アルドラーゼ活性の上昇を認めたときにアイソザイムレベルの検討を行うと,診断的価値が増加することは明らかである.
 ヒト血清アルドラーゼアイソザイムの分析は電気泳動法を用いて行うことが困難であるため,筆者らはアルドラーゼA,B,Cそれぞれに特異的なRIA法を確立しアイソザイム分析を行っている1)が,未だキット化されていないため,一般臨床検査として普及するに至っていない.

141.エラスターゼ

著者: 高阪彰

ページ範囲:P.1970 - P.1971

●異常値を示す疾患
 エラスターゼはエラスチン(水に不溶性の硬蛋白)を加水分解して可溶化する蛋白分解酵素であり,ヒトでは膵,白血球,脾,動脈壁,皮膚などに存在し,臨床的には血清中の膵エラスターゼ蛋白量の測定が利用されているが1,2),最近,白血球エラスターゼの測定3)も可能になった.
 膵エラスターゼは膵の腺房細胞にプロエラスターゼとして局在し,膵液として十二指腸に分泌されトリプシンにより活性化され,消化酵素として利用される.膵には性質の異なるエラスターゼIおよびIIが存在する.分子量や酵素的性質が異なり,免疫学的にも非交差性である.エラスターゼIは分子量約3万でanionicな糖蛋白であるのに対し,エラスターゼIIは分子量約2万5千のcationicな蛋白である.現在はエラスターゼIの測定が可能である.膵エラスターゼIが血清中に増量する疾患を表に示す.

142.BSP試験とICG試験

著者: 石原扶美武

ページ範囲:P.1972 - P.1974

 肝はきわめて大きな予備能,代償能を有する臓器であるが,この予備能や肝障害の程度を判定するすぐれた検査法の1つが色素排泄試験である.これは色素を生体に注入し,肝から胆汁中に排泄する機能をみる方法である.古くから種々の色素,すなわちrose bengal,azorubin Sなどが用いられていたが,現在ではBSP(bromsulfophthalein)とICG(indocyanine green)が最も広く用いられている.しかしBSP試験はICG試験に比べてアレルギー反応やショックをひき起こす率が高いため,体質性黄疸の鑑別などの特殊な場合を除いては,ほとんど行われなくなってきている.

143.血中薬物濃度の測定

著者: 辻本豪三

ページ範囲:P.1976 - P.1977

 近年,簡便で迅速かつ正確な薬物定量技術の発達により,多くの薬物の血中濃度測定が他の日常臨床検査と同様に行い得るようになり,血中薬物濃度測定が薬物投与設計を補助する重要な手段の1つとしてベッドサイドで用いられつつある.しかし投与されている薬物いずれもがその血中濃度モニタリングを必要とするのではなく,とくに,
 1)治療域と中毒域との差があまりなく,科学的根拠のある有効治療域立定められている薬物
 2)てんかん発作の予防などのように,薬物の効果を判定することが短時間では困難であるか,または不可能な薬物
 3)薬物動態が個人間または病態により大きく変化する薬物
 4)治療効果が不十分な場合,それが投与量の不足なのか,または薬物選択自体が誤りなのか早急に検証することが必要な薬物
 といった条件を満たす薬物または臨床的状況下において,血中薬物濃度モニタリングが治療計画作成において重要な鍵を握ることとなる.

膵外分泌機能検査

144.PFD(pancreatic function diagnostant)試験

著者: 中澤三郎 ,   越知敬善

ページ範囲:P.1980 - P.1981

 膵酵素の一つであるchymotripsinはタンパク質の芳香族アミンを含むペプチド結合を分解することが知られているが,この原理を膵外分泌機能検査に応用したのがPFD試験である.合成基質であるn-benzoyl-l-tyrosyl-p-aminobenzoic acid(BT-PABA)を経口投与すると,chymotripsinによってn-benzoyl-l-tyrosineとp-aminobenzoic acid(PABA)に分解される.BT-PABAは腸管から吸収されないが,遊離したPABAは小腸で吸収され,肝で抱合を受け,腎から尿中に排泄される.尿中のPABA排泄量を測定し,経口投与量に対する回収率から間接的にchymotripsin活性を知ることができる.PFD試験の実施方法を表1に示す.試薬の経口投与と蓄尿だけで済む簡便なPFD試験は,無管法の膵外分泌機能検査法として広く行われている.正常値ば70%以上である.

145.消化吸収試験

著者: 馬場忠雄

ページ範囲:P.1982 - P.1983

 消化吸収試験は栄養素の消化吸収障害を評価する検査法の総称であるので,栄養素の種類により,同じ栄養素でも用いる物質によりそれぞれ消化吸収試験がある.消化吸収試験は消化吸収に関与する消化器のすべての機能を反映するものであるが,指標とする物質,試験方法あるいは測定試料によって,それぞれの評価は異なる.
 栄養素のなかで脂肪は最も複雑な消化吸収過程を経るので,消化吸収障害を受けやすい.したがって,脂肪消化吸収試験は消化吸収障害をチェックする基本的検査である.糖質や蛋白質では消化管内未消化物は腸内細菌により代謝されるので,糞便でこれらを測定しても過少評価され,その結果,消化吸収障害として現れにくい.

146.膵刺激試験

著者: 石森章 ,   川村武

ページ範囲:P.1984 - P.1985

 膵に何らかの刺激を与えることにより膵機能や障害の程度を評価する方法を膵刺激試験とすると,内分泌機能や外分泌機能など膵がもっている諸機能にそった種々の試験法が考えられるが,ここでは外分泌機能検査(表1)に限って述べる.ワゴスチグミン試験は主に慢性膵炎の診断に用いられたが,膵に特異的ではなくモルフィン,セクレチン,パンクレオザイミンなども同様の効果を示すことから,パンクレオザイミンーセクレチン試験(P-S試験)と一緒に膵酵素誘発刺激試験として行われることが多い.エーテル反射試験,塩酸反射試験,試験食試験なども刺激法が粘膜面を介し生理的であるなど良い点もあるが,採取液へ試験液が混入し判定上若干問題があり既に古典的方法となった.現在のところ,日本膵臓病研究会試案によるP-S試験が標準法として広く実施されている1).さらに最近では,膵液測定検討小委員会からセクレチン静注法の報告もされた2)(表2).しかしこれらの方法においても厳密には膵液だけではなく,いわゆる十二指腸液が採液されるわけであり,胆汁や胃液などの混入も考慮する必要があることから,経内視鏡的に膵管から直接採取する純粋膵液採取法なども試みられている3).その他間接的膵外分泌機能検査としては,BT-PABA試験(別項目参照)や,刺激試験ではないが血中膵酵素測定,さらに最近では糞便中キモトリプシン測定なども膵外分泌機能を知る指標として用いられている.

内分泌機能検査

147.血漿ACTH,Rapid ACTH試験

著者: 出村博

ページ範囲:P.1988 - P.1990

●血漿ACTH値が異常を示す疾患
 ACTHの分泌は,①覚醒時に高い日内変動,②ストレス,および③negative feedback機構の三つによって調節されているが,生理的な基礎分泌は①による.血漿ACTH値は夕刻から深夜にかけて最低となり,早朝覚醒前後に頂値を示す日内変動がある.この間もACTHは平坦にではなく,脈動的(episodicまたはpulsatile)に分泌されている.またACTHの分泌は心身のストレス,食事や運動の影響を受けやすい.以上より血中ACTHの基礎値は,原則として早朝空腹安静時に採取された試料を用いる.正常値は10〜100pg/mlである.
 表に示したように異常高値を示す疾患としては,Addison病(結核性および自己免疫性),先天性副腎皮質過形成(副腎性器症候群),副腎皮質ACTH不応症(レセプター病)などで,これらは原発性副腎不全によってnegative feedback機構によって血中ACTH値が増加した場合である.

148.血清コルチゾル,尿中17-OHCS,尿中17-KS

著者: 斎藤史郎 ,   新谷保実

ページ範囲:P.1991 - P.1993

●異常値を示す疾患
 コルチゾルは副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドで,下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)により分泌調節を受けている.17-OHCSはステロイド骨格の17α位にOH基を有するステロイドの総称で,大部分は糖質コルチコイドに由来する.17-KSは17位にC=O基を有するステロイドの総称で,大部分はアンドロゲンに由来しており,コルチゾルの約10%以下が17-KSとして代謝されている.成人男性では尿中17-KSの2/3は副腎由来,1/3が睾丸由来である.したがって,血清コルチゾルおよび尿中17-OHCS,17-KSの測定は下垂体副腎皮質系機能を評価する上に重要である1)
 異常値を示す主な疾患は表1に示したとおりである.血清コルチゾル値は一般には尿中17-OHCS,17-KS値とほぼ平行して増減し,Cushing症候群ではいずれも高値となり,下垂体機能低下症やアジソン病ではいずれも低値となる.しかし,病態によっては両者の値が解離する場合があり,神経性食欲不振症や肝硬変では,ステロイド代謝が障害されるため血清コルチゾルはやや高値となるが,尿中17-OHCS,17-KSは低値である.逆に,甲状腺機能亢進症では肝臓のステロイド代謝が亢進するため,血清コルチゾル値は正常でも尿中17-OHCS,17-KSは軽度増加することが多い.

149.成長ホルモン(GH)

著者: 藪由紀子

ページ範囲:P.1994 - P.1995

 成長ホルモン(GH)の測定法にはバイオアッセイ,イムノアッセイ(RIAおよびEIA),ラジオレセプタアッセイがあるが,臨床検査には主としてRIAが用いられる.健常人の早朝安静空腹時の血漿GH濃度は5ng/ml以下で,健常人の約60%は測定感度以下である.最近,高感度GH測定法が開発され,測定感度が0.05〜0.1ng/mlとなったが,なお10%の健常人は測定感度以下であり,基礎値のみで健常人とGH分泌低下患者との鑑別はできない.

150.抗利尿ホルモン(ADH)

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.1996 - P.1997

 ADHは下垂体後葉より分泌されるペプチドホルモンで,体液浸透圧の上昇や循環血液量の減少によりその分泌が促進される.腎集合管に作用して強い抗利尿効果を示し,臨床的にはその欠乏や作用の低下は多尿を,また過剰は低ナトリウム血症を招く.三菱油化キットなど最近開発された高感度ADH測定系の確立により,血漿ADH測定の意義は,診断や病態把握に重要度を加えつつある1)
 血漿ADHの値は生理的にも,多量の飲水後には測定感度以下に低下し,また長時間の飲水制限や立位の後では10pg/mlを越えて上昇し,幅の広い変動を示す.一方,臨床的にADHの低下を示す尿崩症や相対的な高値を示すSIADHでも,血漿ADHの絶対値は多くがこの生理的変動域の範囲内にとどまっている.その点で,測定されたADH濃度が疾病を反映する異常であるか否かがまず評価されなくてはならない.それには,血漿浸透圧に照らして相対的に決まるADHの正常域から測定値がどのように変移しているかを判定しなければならない(図1).次に異常な低値または高値であると判定されたときに,これが視床下部下垂体後葉系自体の異常に由来するのか,それともその分泌調節系に影響する血圧や有効循環血液量の異常であるのかが決定されなければならない.

151.ヒト胎盤性ラクトゲン(HPL)

著者: 高木哲

ページ範囲:P.1998 - P.1999

 HPLは胎盤から分泌される蛋白ホルモンで191個のアミノ酸から成り,糖質や脂質を含まない.分子量は22,308で2つのS-S結合を有している.
 成長ホルモン(GH)およびプロラクチン(PRL)と構造や生物活性の類似性がありhuman chorionic somatomammotropin(HCS)とも呼ばれる.抗乳腺作用とともに母体血中のFFAやグルコースの濃度を高め,間接的に胎児発育促進作用を有することが知られている.

152.血中TSH,TRH試験

著者: 内村英正

ページ範囲:P.2000 - P.2001

●血清TSH濃度
 甲状腺機能の主要な調節系は視床下部,下垂体甲状腺系であり,血中TSHの測定は甲状腺疾患の診断,治療のために最も重要なものである(図1).ヒトTSHは分子量約28,000でα,βの2つのsubunitからなり,β-subunitはTSHに特異的である.TRHの刺激により下垂体で産生,分泌されその調節は上位視床下部からのTRHおよび下位甲状腺からはT3,T4によりnegative feedbackのコントロールを受けている.
 測定法は近年,モノクローナル抗体を利用したイムノラヂオメトリックアッセイあるいはイムノエンザイモメトリックアッセイなどのいわゆるサンドイッチ法が用いられるようになり,測定感度,特異性が格段と進歩したことにより,その測定の臨床的有用性はさらに増加した.新しい測定法の原理は,固相化した特異的な抗体と125Iや化学発光物質で標識した抗体とで検体TSHをサンドイッチ状にはさみその複合体を検出するものでサンドイッチ法と呼ばれる.原理上は検出機の性能がよければ固相化された抗体に結合した1分子のTSHでも検出することが可能である.

153.甲状腺ホルモン

著者: 橋本琢磨

ページ範囲:P.2002 - P.2004

 臨床検査で甲状腺ホルモンを測定する意義は,まず第1にGraves病やその他の原因によるhyperthyroidismの診断,治療に用いたり,クレチン症などの甲状腺機能低下症の診断,治療のモニターとして用いることにある.第2義的には,非甲状腺疾患での重症度の判定に甲状腺ホルモンの測定が行われることである.T3およびT4は,そのほとんどがTBG(thyroxine binding globulin)をはじめとするcarrier proteinと結合しており,わずかにT3の0.3%,T4の0.03%が遊離型(free T3,free T4)として存在する.甲状腺ホルモンがその生理作用を発揮するのは,TBGなどのcarrier proteinに結合しているものではなく,この微量の遊離型のものである.1978年以来,FT3,FT4のradioimmunoassay(RIA)が開発され,今日では日常検査として広く臨床で応用されている.本稿では,FT3,FT4測定の臨床検査診断学的意義を記述しつつ,FT3,FT4RIAの問題点,さらに非甲状腺疾患における低T3血症,低T4血症について記述する.

154.副甲状腺ホルモン

著者: 山本逸雄 ,   森徹

ページ範囲:P.2006 - P.2007

●異常値を示す疾患
 副甲状腺ホルモン(PTH)のアッセイは,近年,IRMA法によるintact PTH(PTH-1-84)のアッセイの開発1)や,あるいはC末端フラグメントのアッセイにおける高感度のmid-Portionアッセイの開発により飛躍的に進歩した.ともにキットとして発売され2,3),わが国の大手のアッセイラボにおいても採用され,広く用いることが可能となっている.
 副甲状腺より分泌されたPTH-(1-84)は肝臓にてPTHの中間部つまり,33と34位の間や37と38位の間などが切られ,それぞれN末端とC末端のフラグメントに分解される.肝において生じたC末端フラグメントには生物活性はなく,腎にて代謝される.一方,N末端フラグメントはPTH-(1-84)と同等の生物活性を有するが,末梢血中では検出されず,末梢血中で極めて早く代謝されてしまうか,あるいは肝より流出してこないものと考えられる.末梢血中の生物活性のあるPTHは,したがって,PTH-(1-84)が主体である.C末端フラグメントの末梢血中の代謝速度は,PTH-(1-84)の約1/10と遅く,その末梢血中濃度はPTH-(1-84)に比し約10倍高く,従来のC末端フラグメントに対する抗体を用いたC端アッセイや,mid-portion(CフラグメントのN末端よりに対する抗体を用いている)アッセイではほとんどが生物活性のないPTHフラグメントを測定していた.

155.男性ホルモン

著者: 宮地幸隆

ページ範囲:P.2008 - P.2009

 男性ホルモン作用を持つホルモンをアンドロゲンと総称する.アンドロゲンは生体では性腺(睾丸,卵巣)および副腎皮質より分泌され,テストステロン,ジハイドロテストステロン,アンドロステンジオン,デヒドロエピアンドロステロンなどが含まれる.それらのアンドロゲン作用の強さをテストステロンを100として表1に示す.アンドロゲン作用の強いジハイドロテストステロンは末梢組織で5α-reductaseによりテストステロンから転換され,一部が血中に分泌される.ジハイドロステロンはテストステロンと併行して変動するが,その血中濃度は低く,しかも大部分がテストステロン-エストロゲン結合蛋白(TeBG)と結合しているため,血中アンドロゲンとしての重要性は低く,臨床的意義はほとんどない.ここではテストステロンに異常を来す疾患について考える.

156.下垂体性ゴナドトロピンと卵巣性ステロイド

著者: 仲野良介

ページ範囲:P.2010 - P.2011

●下垂体性ゴナドトロピンと卵巣性ステロイドの分泌調節
 排卵,月経を象徴的事象とする女子の性機能は視床下部-下垂体-卵巣系の機能環を中心として制御されている.
 すなわち,視床下部から視床下部ホルモンであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が分泌され,下垂体前葉からの下垂体性ゴナドトロピン,すなわち卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌を調節している.FSHとLHは卵巣において卵胞発育と成熟,排卵,黄体化,黄体退縮という一連の卵巣周期を調節しているが,FSHは主に卵胞発育に関与し,LHは排卵と黄体化に関与している.FSHの作用によって卵胞からエストロゲンが,LHの作用によって黄体化らプロゲスチンが分泌されている.このように卵巣ではoogenesis, follic ulogenesisとsteroidogenesisの機能が表裏一体をなして営まれている.

157.インスリン(IRI)とプロインスリン(IRP)

著者: 岩本安彦 ,   葛谷健

ページ範囲:P.2012 - P.2014

 インスリンは膵B細胞よりCペプチドと等モル(1:1)の比率で分泌され,同時に,インスリンへの転換を受けなかったプロインスリンも少量分泌される.
 血中インスリンの測定は,膵B細胞の機能を知るために重要であり,糖尿病や低血糖症など糖代謝異常を示す種々の疾患の診断や病態の把握のために広く行われている.通常,空腹時だけでなく,グルコース負荷などの分泌刺激試験における反応をみるが,そのさい血糖値も同時に測定すべきである.インスリンは一般に免疫学的方法(radioimmunoassay;RIAとenzyme immunoassay;EIA)により測定され,測定値はIRIとして表される.

158.C-ペプチド

著者: 松田文子

ページ範囲:P.2016 - P.2017

 C-ペプチドは膵B細胞でインスリン1分子と同分子の割合で作られ,理論上はインスリンの分泌時に同じ分子量比率で分泌される.血中C-ペプチドは血中インスリンとほぼ平行して変動する.しかし,実際の血中濃度はインスリンより濃く,モル比で空腹時には約10倍,インスリン分泌直後は約5倍である.これはインスリンと異なり肝に取り込まれないので血中からの消失がインスリンより遅延するためである.体内からの除去はもっぱら腎からの排泄によるので腎障害の影響を受けやすい.RIAで測定された値はC-ペプチド以外にプロインスリンなどを含むのでCPR(C-ペプチド免疫活性)と呼ぶ.
 尿中のC-ペプチドも市販のRIAキットで測定できる.

159.耐糖能試験

著者: 渥美義仁 ,   松岡健平

ページ範囲:P.2018 - P.2020

 糖忍容力低下が糖尿病の特徴であるので,糖忍容力を検査する耐糖能試験は糖尿病を疑って行うことがほとんどである.糖忍容力の異常を経口的な糖負荷試験で調べるため,腸管からのブドウ糖の吸収状態や,膵B細胞の血糖刺激に対する感受性や,B細胞からのインスリン分泌の遅滞・減少や,肝あるいは末梢組織におけるブドウ糖の放出と収納の状態が大きく影響することを知って判断する.

160.ガストリン

著者: 松崎勉 ,   関口利和

ページ範囲:P.2022 - P.2023

●ガストリンとは
 ガストリンは胃幽門前庭部,十二指腸球部に存在する基底顆粒細胞(G細胞)から分泌される消化管ホルモンである.その分子構造は,主にcomponent I,big gastrin(G 34),little gastrin(G 17),mini gastrin(G 14)の4種類が知られている.胃前庭部粘膜では,G17が免疫活性ガストリンの90〜95%を占め,G34が4〜5%,component I,G14が共に1%以下であり,血清中ではG34とG17が主な分子型でG34が主になっている.ガストリンの主な生理作用は,胃底腺領域の壁細胞に作用し,胃酸の分泌を促進させることであり,他には,消化管運動に対しても刺激作用を有する.ガストリン分泌は種々の分泌調節機構により影響を受けて生理的変動がみられる.ガストリンの血中濃度は食事摂取後約30分でピークを示し,朝食後が一日の中で一番ガストリンの血中濃度が高い.

161.血漿レニン活性

著者: 泉洋一 ,   本多正信

ページ範囲:P.2024 - P.2025

●異常値を示す疾患
 血漿レニン活性(PRA)は主に高血圧に関連した検査項目に加えられるが,他の疾患や生理的状況においても変化するため,生態のホメオスタシスの状態を知るために参考になる.脳や副腎その他の臓器にもレニン様物質が存在し,何らかの局所的な役割を担っていると考えられるが,臨床上問題となるレニンは腎の傍糸球体装置から分泌されたものである.図1に見られるようにレニンは肝由来のアンジオテンシノゲンをアンジオテンシンIに変える酵素であり,PRAはこの酵素活性を測定したものである.今日,一般的に使用されているのはHaber1)の方法であり,血漿を37℃で1時間インキュベーションして産生されたアンジオテンシンIの量をradioimmunoassayで測定して表している.しかし,実際に血管収縮作用やアルドステロン分泌刺激作用などの生物学的活性を持つのはアンジオテンシンIIである.最近では,モノクロナール抗体により直接レニンが測定できるようになったが,PRAの値と良く相関している2)

162.カテコールアミン

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.2026 - P.2027

 カテコールアミンの分泌は,低血糖,出血,酸素欠乏その他さまざまのストレス(精神的ストレスも)によって起こる.交感神経終末から分泌されたノルアドレナリンは,近傍の作用臓器に取り込まれ作用を及ぼすが,大部分は再び交感神経終末端に再摂取される.副腎髄質から分泌されたアドレナリン,ノルアドレナリンは循環血中に入り遠隔の作用臓器に作用を及ぼす.カテコールアミンはα,β-受容体への刺激によってその作用を発現する.カテコールアミンの中,アドレナリンとノルアドレナリンはα,β-受容体への刺激効力が異なるので,アドレナリンは心臓賦活作用,糖や脂質に及ぼす作用が強く,一方,ノルアドレナリンは血圧上昇作用が著明である.各作用臓器に取り込まれたカテコールアミンは代謝され尿中に代謝産物が排泄される.すなわちアドレナリン,ノルアドレナリンそのまま,メタアドレナリン,ノルメタアドレナリン,VMA,MHPG(MOPEG),DOPEG,DOMAなどである.この中で尿中アドレナリン,ノルアドレナリン,メタアドレナリン,VMAがよく測定されている.

163.バニリルマンデル酸

著者: 三浦史博 ,   梅田照久 ,   佐藤辰男

ページ範囲:P.2028 - P.2029

 バニリルマンデル酸(4-hydroxy-3-methoxy-mandelic acid,vanillylmandelic acid;VMA)は,カテコールアミン(CA)のうち,ノルアドレナリン(NA)およびアドレナリン(A)の終末代謝産物で,すべて遊離型として尿中へ排泄され,その量もmg単位と多く,かつ安定である.したがって,尿中VMAの測定はCAの分泌量を直接反映しており,実地上,CA産生腫瘍である褐色細胞腫および交感神経芽細胞腫の診断,治療効果の判定ならびに経過観察に極めて有用である.また尿以外にも,血中や髄液中のVMA測定も行われている.

164.セロトニン

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.2030 - P.2031

 セロトニンの生体内分布は約90%が消化管に存在し,残りが血小板と脳に分布し,ほかの組織には極めてわずかである.セロトニンの作用としては,①血管や気管支などの平滑筋収縮,②消化管の分泌,運動の調節,③血小板凝集促進,④知覚,睡眠,精神行動,性行動への関与(この作用は中枢神経系セロトニン・ニューロンを介して)など,多彩な作用が知られている.
 セロトニンは図のようにトリプトファンより,トリプトファンハイドロキシラーゼにより5-ハイドロキシトリプトファン(5-HTP)となり,芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素によりセロトニン(5-ハイドロキシトリプタミン)となる.セロトニンの代謝についてはMAO(モノアミンオキシダーゼ)によって脱アミノされ,5-ハイドロキシインドールアルデヒドを生成する.5-ハイドロキシインドールアルデヒドは,NAD+を補酵素とするアルデヒドデハイドロゲナーゼにより酸化され5-ハイドロキシインドール酢酸(5-HIAA)となるが,一部はNADHを補酵素とするアルコールデハイドロゲナーゼの働きによって5-ハイドロキシトリプトホールヘ代謝されていく.5-HIAAと5-ハイドロキシトリプトホールの尿中排泄は前者が90%を占め,後者はわずか2〜3%に過ぎない.

腎機能検査

165.クレアチニンクリアランス

著者: 折田義正 ,   福原吉典 ,   柿原昌弘 ,   鎌田武信

ページ範囲:P.2034 - P.2035

 1921年Van Slykeが尿素クリアランスなる概念をはじめて確立した.その後,この概念は内因性・外因性の諸種物質のクリアランス測定へと応用され,糸球体機能,尿細管機能,腎の血行動態を定量的にとらえることができるようになった.
 今,単位時間(通常分単位)の尿量をV(通常ml),ある物質Xの尿中濃度をUx,血漿中濃度をPxとすれば,Xの腎クリアランスCxは,Cx(ml/分)=Ux・V/Pxで表される.ここでは腎クリアランスの中で頻用されているクレアチニンクリアランス(Ccr)について概説する.クレアチニン(Cr)は糸球体で主として限外濾過された後,尿細管で一部排泄される(10〜40%)ため,イヌリンクリアランス(Cin)のように,真の糸球体濾過値(GFR)を反映しない.しかし,正常者や軽度の腎機能低下者ではCcr/Cin=1.16でよく一致する(表1).Crは骨格筋の終末代謝産物で内因性物質であるため,尿素窒素ほど食事の影響を受けず,その血中濃度および尿中排泄量の日内変動が少ない.また,負荷を必要としないため頻回の測定が可能である.さらに,至適尿量は1〜2ml/min前後で,極端な乏尿や利尿時は避けなければならない.しかし,USAの腎不全保存療法のmulticenter studyではCcrの有用性は否定され,125I iothalamateクリアランスなどが採用されているのが現状である.

166.PSP排泄試験

著者: 折田義正 ,   上田尚彦 ,   柿原昌弘 ,   鎌田武信

ページ範囲:P.2036 - P.2037

●異常値を示す疾患
 PSP排泄試験は腎の血行循環機能を知る検査のうちで最も実施容易で,かつ患者にも負担の少ない有用な検査である.15分値がRPF(CPAH)と相関が高いことから,RPFの推定を第1の目的とし,第2は近位尿細管の機能推測である.アンピシリン,セファロスポリン系(セファレキシン)薬物は糸球体濾過,近位尿細管排泄を受けるため,腎機能低下患者では,CcrとPSP排泄試験15分値の両方を用いて投与間隔を決定することが合理的である.堀らは,この理論により実用的な投与間隔推定のためのノモグラムを作成した(図1).さらに経時排泄の観察により,尿路死腔の有無やその大きさの推定,採尿の完全性のチェックが可能となる.
 15分値が低下するのは,近位尿細管機能低下によりPSP除去率が低下する腎実質障害(とくに慢性糸球体腎炎,慢性腎不全)が最も多いが,腎循環障害によりRPFが低下する出血,ショック時や腎前(浮腫,腹水).腎後性(尿路異常)因子のように直接腎機能と関係のない疾患も多いのに留意すべきである.

167.Fishberg濃縮試験

著者: 丸茂文昭

ページ範囲:P.2038 - P.2039

●なぜFishberg濃縮試験をするか
 腎血漿流量(RPF)や糸球体炉過率(GFR)といった腎臓が老廃物をどのくらい排泄しているかという腎の排泄機能検査とは,Fishberg濃縮試験は基本的に異なった意味をもっている.RPFやGFRは腎臓の老廃物排泄機能を示すのに対し,Fishberg濃縮試験は尿の濃縮機能,すなわち腎髄質の機能検査である.腎髄質の病変のみが現れるか,ネフロン全体の機能低下に先立って現れる場合には極めて診断的価値が高い.典型的な例としては,慢性腎盂腎炎のように上行性に繰り返し炎症が起こり髄質内層の炎症反応が強く現れる場合で,この時はFishberg濃縮試験の悪化に比し,RPF,GFRの低下は相対的に軽度となる.
 図1にみるようにヒトには皮質ネフロン(shortloop)と傍髄質ネフロン(long loop)があり,数としては少数のlong loopが尿の濃縮を強く行っている.このlong loopはcounter current systemの主要な因子で,とくにこのsystemの特徴として腎質内層の存在が大きい.ネフロンの部位,皮質か髄質のどこが障害を受けるかによってFishberg濃縮の成績とその診断的意義が大きく変わる.

168.分時尿検査

著者: 飯野靖彦 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.2040 - P.2041

 尿は絶えず産生されており,1日尿量は1〜2lである.もちろん,飲水量により尿量の増減は認められ,たとえば強制多飲症(compulsive water drinking)の患者では1日5l以上の尿が産生される場合がある.したがって,分時尿検査を行う場合,水分の負荷量はどの程度か,また逆に脱水が存在しないかを把握する必要がある.
 分時尿で重要なパラメータは,①尿量,②電解質や溶質排泄量,③その他の尿中排泄物質に分けることができる.しかし,実際に1分間の尿量が問題になることは少なく,せいぜい時間尿が重要になる程度である.

細菌検査

169.原因菌の決定

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2044 - P.2045

 感染症の治療において抗生剤の選択は治療の成否にかかわっており,迅速かつ的確に行われる必要がある.そのための原因菌の決定方法は迅速でかっ感度(sensitivity)と特異性(specificity)の高いものが望ましい.

170.喀痰の細菌検査

著者: 山口恵三

ページ範囲:P.2046 - P.2049

 感染症において起炎微生物を決定することは最も直接的な診断法であり,適正な治療法を選択する上においても非常に重要であることはいうまでもない.
 呼吸器感染症の起炎微生物は細菌,真菌,クラミジア,ウイルス,原虫,寄生虫と多岐にわたっており,①形態学的,②免疫学的,③分離培養法などによって決定される.

171.血液培養

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.2050 - P.2051

●異常値を示す疾患
 健康者では血液中から細菌などの微生物が検出されることはない.したがって,血液培養での微生物の検出は異常値と見なされる.血液培養で微生物が検出された場合は,敗血症,腸チフス,ブルセラ症,感染性心内膜炎,一過性菌血症などが疑われる.
 敗血症は感染症の進行に伴い,病巣から断続的に血液中に微生物が侵入する状態に由来する.このため血液分離菌は敗血症の侵入門戸となった原病巣の起炎菌と同種の菌が分離されるため,血液分離菌より逆に原病巣が特定できる場合もある.しかし,血液疾患患者などでは著しい好中球減少時に,とくに原病巣が見当たらなくとも敗血症が生じる場合がある.

172.細菌尿

著者: 熊坂一成

ページ範囲:P.2052 - P.2053

 細菌尿とは,"本来,無菌的である尿中に細菌の存在している状態"をいう.しかし,通常の尿検査のために用いる中間尿では,検体採取時に尿道常在菌の混入を避けることは不可能である.また,その後の尿検体の保存,運搬,尿培養操作のいずれの過程でも雑菌が混入する可能性がある.したがって,尿からたとえ菌が分離培養されたとしても,その菌が真の起炎病原菌であるか否かが常に問題となる.

173.感受性試験の読み方

著者: 岡田淳

ページ範囲:P.2054 - P.2055

 感受性検査は感染症の治療における化学療法剤の選択には不可欠の重要な検査である.抗菌剤の開発は目覚ましく,とくに1980年以降にはいわゆる"第3世代セフェム剤",モノバクタムmonobactam,カルバペネムcarbapenem,新キノロンnew quinolone薬などが次々と開発され,難治性感染症の治療に大いに貢献している.反面,これらの優れた抗菌力を有する薬剤の不適切な使用(誤用,濫用,大量投与など)によって,耐性菌の増加や新しい耐性菌の出現を助長することとなった.病院環境の中での耐性菌は年々変還しており,黄色ブドウ球菌(MRSA),腸球菌,緑膿菌などの耐性化が強調されているが,耐性株の出現頻度は施設(病院)により異なる.薬剤感受性試験は原因菌に対して抗菌力をもつ薬剤を選択するために行われるが,裏を返せば耐性菌のスクリーニングが主たる目的である.
 本稿は感受性試験の読み方について解説するものであるが,感受性検査法の現状について簡単に説明し,方法別に感受性検査の読み方(成績の解釈)を記すこととしたい.

細胞診

174.細胞診判定分類

著者: 森三樹雄

ページ範囲:P.2058 - P.2060

●細胞診判定分類のパパニコロウ分類
 細胞診は本邦でも広く普及し,病理診断とともに種々の疾患の形態学的鑑別診断に必須の検査となっている.細胞診では主として細胞の大きさ,核の大きさ,核の形,核小体の有無とその大きさ,核クロマチン構造,核:細胞質の比,細胞と細胞の関連などについて形態学的に観察し判定分類する.現在行われている細胞診としては,採取方法の相違により,1)剥離細胞診(exfoliative cytol-ogy),2)穿刺吸引細胞診(aspiration biopsy),3)自己採取による細胞診(selfsmear cytol-ogy),4)捺印細胞診(stamp cytology)などがあるが,細胞診判定分類はほぼ同じものを用いることが多い.細胞診判定分類はパパニコロウ分類を基本として用い,それに細胞病理学的診断を併記する方法が一般的に利用されている.
 パパニコロウ分類は1941年にPapanicolaouによって考案された方法で,1954年に改訂され世界中でかなりの施設がこの分類を利用している.パパニコロウ分類は診断する側,結果を受け取る臨床医側にもわかりやすく便利であるので普及している.表1にパパニコロウ分類を示した.この中でClass IとClass IIは正常細胞や良性病変を表し,Class IIIは異型細胞を認めるが,良性か悪性か確定できない場合に用いる.

175.消化器系の細胞診

著者: 武藤良弘

ページ範囲:P.2062 - P.2063

 細胞診は癌早期発見(集検)と組織診のように病変の良悪性の細胞形態学的診断との二つの役割を担っている.消化器系の細胞診においては,内視鏡検査(endoscopy),CT検査(computed tomography)や超音波検査(ultrasonography;US)の発達普及により,これらの検査法により発見された病変(存在診断)を細胞レベルでの診断(質的診断)に主として用いられている.

176.呼吸器系の細胞診

著者: 加藤治文 ,   池田徳彦

ページ範囲:P.2064 - P.2067

●呼吸器系の細胞診の目的と限界
 呼吸器系は鼻腔,口腔から肺末梢に至る範囲を占めるが,ここでは気管,気管支,肺領域の細胞診について述べる.細胞診は病巣より脱落した細胞,病巣表面の擦過細胞,あるいは直接病巣の中を穿刺して得た細胞について検索するもので,喀痰細胞診,病巣擦過細胞診,病巣穿刺細胞診(経皮的針生検,経気管支鏡的針生検)が挙げられる.細胞診は従来,悪性腫瘍の疑われる場合に行われてきたが,昨今,肺の良性疾患(良性腫瘍,サルコイドーシス,結核,Pneumocystis cariniiなど)にも行われるようになってきた.
 肺の悪性疾患には,肺癌以外に転移性肺腫瘍,非上皮性悪性腫瘍がある.非上皮性悪性腫瘍の診断は,悪性との診断は得られるが,組織型までの推定は困難なことが多い.肺癌では,分化の高い場合は組織型の判断は容易であるが,低分化な腫瘍ではその判定に悩むことが多い.また,肺癌の細胞診は診断のみならず,これによって各種治療経過における細胞の変化から治療結果の判定,あるいは治療法の選択も可能である.

177.産婦人科領域の細胞診—内分泌細胞診

著者: 石和久 ,   喜納勝成

ページ範囲:P.2068 - P.2069

 細胞診は主に悪性腫瘍のスクリーニングに用いられ発展してきたが,歴史上Papanicolaouらにより腟内の細胞診の動向からホルモン消長を知り得る簡便な方法として紹介されたのが始まりである.現在,本邦で内分泌細胞診はあまり用いられていないが,これはRIAのようなホルモン測定法に比し定量性に欠け,またホルモン変動による細胞学的変化が若干明確でない点にあると思われる.しかし,検査法としては安価で簡単迅速であり,患者への侵襲もないことから臨床内分泌学的検査法の一つとしてもっと利用されてよい検査法の一つである.

178.産婦人科領域の細胞診—腫瘍細胞診

著者: 石和久 ,   古谷津純一

ページ範囲:P.2070 - P.2071

 剥離細胞の形態観察の試みは,19世紀中ごろよりなされており,婦人科領域では1847年のPouchetの著書で,子宮腟部の細胞像とその性周期に伴う変化についての記載がある.腫瘍細胞診はGluze,Babesらの報告がその最初とされているが,Papanicolaouが事実上の方向性をもたせたといっても過言ではない.本法はその後各国に広まり実用化され今日に至っている.
 細胞診の主な目的は悪性腫瘍のscreeningであり,とくに前癌病変や初期癌の早期発見に欠かせない検査の一つになっている.産婦人科領域では子宮頸部異形成上皮,子宮頸癌,子宮体癌,腟癌,外陰癌,卵巣腫瘍,絨毛性疾患の診断および治療効果の判定に用いられている.とくに最近の細胞診は単に良・悪性の判定にとどまらず,細胞の剥離してきた母組織の病変まで推定可能となっている.

179.染色体分析

著者: 堀池重夫 ,   阿部達生

ページ範囲:P.2072 - P.2073

 1970年代に開発された染色体分染法は,精神発達遅滞や先天異常として不明のまま残されていた疾患の多数が染色体異常に基づくことを明らかにした.また,一方で,細胞遺伝学は分子細胞遺伝学を経て新遺伝学へと展開している.腫瘍の領域でも,造血器腫瘍診断,leukemogenesisから最近は固形腫瘍の発がん機構の解明まで,細胞遺伝学は深くかかわりをもつようになっている.
 本シリーズでは前回まで主に先天性異常領域を中心に述べられてきたため,今回は染色体異常疾患や出生前診断は成書に譲り,造血器あるいは固形腫瘍の知見を中心に述べることにする.

付)検査をめぐる基本知識

180.単位の標準化—SI単位

著者: 河合忠

ページ範囲:P.2076 - P.2079

●一般的な動向
 古い時代には,物を測るときに使用する単位は,さまざまな学問領域や産業領域で,さらに各国でばらばらに決めていた.しかし,科学技術が高度に専門分化し,学際的かつ国際的協力が必要となった近代では,世界的規模の計量単位の統一が要求されてきた.そこで第二次世界大戦以後問もなく1948年に,メートル条約による第9回国際度量衡総会が開かれ,すべての領域での単位制度の統一が決議された.その後の努力によって,第11回国際度量衡総会で採択されたのが,国際単位系(Systéme International d'Unites, International System of Units)(世界共通の略称SI)である.これを受けて国際標準化機構(ISO;International Organization for Standardization)も検討を重ね,各国,団体,各学会などに意見を求め1960年に規格ISO/R1000を作成した.これによって,各国で国内での体制を固め,積極的に取り入れはじめた.EECの指令により,ヨーロッパでは1970年代にいっせいにSI単位系を導入しはじめ,一部を除いて,ほぼSI単位系への変換を完了している.

181.臨床検査成績に影響を及ぼす薬剤

著者: 林康之

ページ範囲:P.2080 - P.2089

 与薬は,その効果により,副作用により,あるいは薬剤自体が試料中に混在することにより,検査成績に影響を与える.このうち,薬剤の混入による場合を検査成績への干渉とか修飾,あるいは端的に直接妨害と呼んでおり,副作用によるものは間接妨害ということになっている.
 薬物療法において,その効果,あるいは副作用を正しく判断しようとすれば,直接妨害を除外したのちに,はじめて可能となる.これはもちろん検査データのみに関しての判断規準であり,臨床所見による判定ではないが,最近の臨床検査データはかなり診療上の有効数字として利用されているとの前提に立っての話である.

182.臨床検査の正常値とその考え方

著者: 屋形稔 ,   岡田正彦

ページ範囲:P.2090 - P.2091

●正常値の定義
 現在,国際的に広く普及している正常値の定義は,「健常と考えられる集団の95%の人々が含まれる検査値の範囲」とされている.データが正規分布するような検査については,その平均値mと標準偏差σからm±1.96σの範囲を求めれば,おおよそこの定義を満たす値が得られる.計算を簡単にするためにm±2σで代用することもあるが,正常範囲は若干広めとなる.

183.精度管理Quality Control

著者: 臼井敏明

ページ範囲:P.2092 - P.2093

●情報の信頼性
 臨床検査データは患者の客観的計測情報として診療に広く使われるようになったが,これが真に診療に役立つためには,このデータの信頼性が保証されなければならない.これを利用する医師にとって,報告書に記載された数値はこれを無条件に信頼するしか方法がなく,直接その数値の正しさを証明する方法を持たない.この検査データの信頼性を保証する手法が精度管理である.それぞれの検査室ではいろいろな精度管理手法によってデータの精度を保つと同時に,これを利用する医師は,「測定には必ず誤差が存在する」という意識のもとに,データの利用にさいして注意する必要がある.

184.サンプル採取条件と保存法

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.2094 - P.2095

 嫌気性菌の培養に対して,好気的な条件で試料を採取して検査を依頼しても目的の菌が検出されないことは誰でも知っている.しかし,血液生化学,免疫学,血液学的検査の試料採取に対しても基本的には同じような姿勢が必要であることは,あまり強調されていない.むしろ,一度の採血ですべての検査ができないものだろうかという疑問だけが,いつも投げかけられてくる.試料の前処理についてさらに研究が進められれば可能となることかも知れないが,生体側の問題もあるので簡単ではない.ここでは,現状においてどこまで試料採取に際して配慮が必要か,要点だけをまとめることとする.

185.臨床検査の自動化とセット検査

著者: 伊藤圓

ページ範囲:P.2096 - P.2099

 各種の臨床検査の開発導入により,臨床検査データなくして今日の診断や治療は成り立たなくなっている.これら臨床検査は年々多様化して検査項目も増多の一途をたどり,さらに各種の自動分析装置が開発導入されて,不必要で過剰なデータの氾濫も否定し得ない現状にある.しかし,これら多種多様の検査データの臨床的意義や評価についての十分な知識が一般臨床医に普及し,有効に活用されているか否かについては疑問があるといわざるを得ない.これらの見地から,臨床検査の自動化とセット検査の問題点とメリットについて,われわれの病院の実例を供覧しながら考察してみたい.

186.臨床検査の選び方と使用法の原則

著者: 久道茂

ページ範囲:P.2100 - P.2102

 医療には検査はつきものである.検査をせずに,問診による病歴聴取や簡単な診察(理学的所見)で診断が確定でき,治療方針が立てられるならば,こんな簡単なことはない.しかし,多くの場合,患者が診療所を訪ねてくれば何らかの検査をすることになる.本来,患者が何らかの訴えを持って受診したとしても,①検査をせずに治療も必要としない場合(放置,経過観察)もあるし,②まず検査をし,その結果をみて治療を行うか,③検査をしないですぐ治療を始めるか,のいずれかの選択を医師は決断しなければならない.したがって,数ある種類の中からなぜその検査を選んだのか?その検査の精度はどうか?安全性は?患者に与える苦痛は,費用はどうか?結果がわかるまでの時間は?などなど,多くの医師は,自分の経験や知識,あるいは自分の所属する施設の能力などを考慮して判断している.本稿は,検査の目的とその特性を示す種々の指標について解説し,用語の正しい使い方と実際の例で判断できるようにすることが目的である.

187.Clinical Decision AnalysisとDecision Tree

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.2104 - P.2106

 臨床行為の大きな特徴のひとつは,さまざまな不確定要素が存在するなかで決断が下されなければならないことである.臨床上の不確定要素としては,大まかにいって,①データそのものが誤っている可能性のあること,②身体所見の評価.解釈の不一致,③臨床データと疾病存在が1対1の関係でない(つまり,検査特性—感度や特異度—が100%完全でない)ことが多いこと,④多くの治療法は100%確実に効くとは限らないこと,などが挙げられよう.
 このような不確実性が存在する状況下で,確率論的手法を用いて,最も望ましい結果の期待される臨床決断を行おうとするアプローチがclinicaldecision analysisであり,decision treeは,そのようなdecision analysisを行う場合に不可欠となる図示法をいう.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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