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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻12号

1989年11月発行

雑誌目次

今月の主題 凝固・線溶系の臨床1989 Edltorial

凝固・線溶系の臨床的意義

著者: 斎藤英彦

ページ範囲:P.2308 - P.2309

 血液は生命維持に不可欠なものであるので,血管内では流動性を保ち,たえず循環していることが必要であると同時に,血管損傷に際しては血液が血管外へ失われるのを防ぐために止血が起こらねばならない.血液のこの2面性—血管内における流動性と血管外での凝固—を調節しているのが血液凝固・線溶反応であり,一種の生体防禦反応として大きな役割を果たすものである.

トピックス

止血異常の分子生物学—先天性α2PI欠損症

著者: 青木延雄

ページ範囲:P.2310 - P.2312

 α2-plasmin inhibitor(以下,α2PI)は,1976年にヒト血漿より始めて分離精製され,その性質が明らかにされた生理的な線維素溶解(線溶)の阻止因子である1).α2PIは,その後α2-antiplasminとも呼ばれている.α2PIは,糖を11〜14%含有する糖蛋白で,cDNAと糖含量より推定した分子量は約58,000である.電気泳動上,α2領域に移動度を有する.

凝固因子の分子生物学—血友病

著者: 三上貞昭

ページ範囲:P.2313 - P.2316

 血友病は先天性凝固障害症のなかでは最も代表的な疾患であり,第VIII因子凝固活性の低下する血友病Aと第IX因子活性の低下する血友病Bとに分類され,ともに伴性劣性遺伝形式を示す.すでに第VIII因子遺伝子ではcDNA配列1),第IX因子遺伝子ではcDNA配列を含む全遺伝子配列2)が同定されている.
 血友病の遺伝子解析では,1)血友病遺伝子が家系内でどのように受け継がれているのかを観察する保因者診断および出生前診断(restriction fragment length polymorphisms,RFLPs,多型診断),2)患者個々の遺伝子欠陥部位(点変異,フレームシフト,遺伝子欠失など)を直接同定する試みがなされている.

血小板由来成長因子(PDGF)

著者: 藤村欣吾 ,   瀧本泰生 ,   木村昭郎 ,   藏本淳

ページ範囲:P.2317 - P.2319

 多くの培養細胞は血清依存性に増殖し,この増殖は血漿では起こらないことより,血小板から放出される物質が細胞分裂を誘導することが見いだされた(1974).その後,この物質はplatelet-derived growth factor(血小板由来成長因子,以下PDGFと略)と名付けられ,純化精製が行われた(1980〜1981).
 最近ではPDGFのアミノ酸配列がSimianSarcoma Virus(SSV)のV-sis癌遺伝子の産物であるp28sisのアミノ酸配列と96%相同性を有することが明らかになり,成長因子と発癌の係わり合いを示す興味ある話題を提供することになった(1983).

エンドセリン

著者: 井上明宏 ,   柳沢正史 ,   眞崎知生

ページ範囲:P.2320 - P.2321

 1988年に柳沢らにより見いだされたエンドセリン(endothelin,.以下;ETと略)1)は,血管平滑筋の収縮活性を指標にして,血管内皮細胞の培養上清より,同定,精製,構造決定されたペプチドである.現在では,ETは内皮細胞だけでなく,他の細胞でも産生され,かつその生理活性も血管平滑筋の収縮にとどまらず,多岐にわたっていることが知られるに至って,ますますこの物質に対する関心が高まっている.

凝固亢進状態の診断

著者: 中川雅夫 ,   宇野雅史

ページ範囲:P.2322 - P.2325

 凝固亢進状態は,DICをはじめ各種血栓症の発症・進展過程における共通の要因として重要と考えられている.これまでin vivoにおける凝固亢進状態を把握する目的で種々の凝血学的指標が検討されてきたが,いずれも鋭敏性および迅速性に乏しかった.近年,血液凝固に関する研究においてもmonoclonal抗体をはじめとする分子生物学的手法が導入され,凝固・線溶の進展過程において産生される種々の分子マーカーを検出することにより,従来把握の困難であった凝固亢進状態を早期かつ鋭敏に検出することが可能となりつつある.
 このような血液凝固の研究における進歩に基づき,昨年,厚生省血液凝固異常症調査研究班によるDIC診断基準が改訂され1),DIC診断のための補助基準として種々の分子マーカーが新たに採用されている.

細胞内の抗凝固蛋白質—カルシウムイオン依存性の酸性リン脂質結合蛋白質

著者: 藤川和雄

ページ範囲:P.2326 - P.2327

 正常の血管内皮細胞は,凝固反応を促進しない.しかし,細胞損傷によって破壊された血管内皮細胞表面には,血小板が凝集し,続いて血塊を形成する.内皮細胞表面に存在するヘパリン様物質やトロンボモジュリンは凝固反応を抑制していると考えられるが,ここに述べる抗凝固蛋白質(以下,PAPと略)は主に細胞内に存在し,凝固反応の要素である酸性リン脂質に強く結合し,凝固反応を抑制する細胞性の抗凝固因子と考えられる.

トロンボモジュリン

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.2328 - P.2329

 血液は血管の中では,非凝固性で,円滑に循環している.これには血管内皮細胞(Endothelial cell,以下EC)が大きな役割を果たしている.すなわち,ECが,1)PGI2を合成,放出し,血小板機能を抑え,2)トロンボモジュリン(thrombomodulin,以下TM)を合成し,凝固を抑え,3)ヘパリン様分子を合成し,これにアンチトロンビンIIIを結合せしめて,活性型凝固因子を中和し,4)組織性プラスミノゲンアクチベーター(以下,t-PA)を産生,放出し,線溶を賦活する,などの機能を発揮し,抗血栓的であるからである.
 このうちTMは1981年にEsmon CTら1)により発見されたECの特異蛋白である.

出血性疾患の病態と診断

先天性血小板機能異常症

著者: 安永幸二郎 ,   間瀬勘史

ページ範囲:P.2330 - P.2335

 血小板は一次止血に重要な働きをしており,血管が破綻すると流血中の血小板はまず露出した血管内皮下組織(主としてコラゲン線維)に粘着する.粘着には血小板膜糖蛋白(Glycoprotein;以下,GPと略)Ibおよびvon Willebrand因子(以下,vWFと略)が関与している.ついでこの粘着した血小板はviscous metamorphosisを呈して,α顆粒,濃染顆粒,ライソゾーム顆粒より,その内容物質の放出が起こる.さらに放出されたADPなどの刺激により,血小板のGPIIb/IIIaがフィブリノゲンを介して血小板同士の凝集が起こり,血小板血栓が形成される(一次止血).ついで凝固系が作動し,強固なフィブリン血栓が形成される(二次止血).血小板はこの凝固系にも血小板第3因子(PF3)を介して関与している(図).
 先天性血小板機能異常症は,これらの血小板機能のうち,いずれかの部位に先天的に障害があり,止血異常を呈する疾患である.したがって分類は,障害部位から粘着障害を呈するもの,放出障害を呈するもの,凝集障害を呈するものに分類するのが一般的である.さらに血小板自身に異常があるもの(内因性〉と,血小板自身には異常がなく,外因性に血小板機能が障害されるものにも分類できる(表1).

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 塚田理康

ページ範囲:P.2336 - P.2341

I.特発性血小板減少性紫斑病Idiopathic thrombocytopenic purpura(ITPと略)
 ITPは,血小板寿命の短縮,血小板結合免疫グロブリン(PAIg)の増加を特徴とし,骨髄では巨核球数は正常あるいは増加を示し,他の血液疾患の存在を示唆する所見を認めない免疫性の血小板減少症のうち,膠原病,リンパ増殖性疾患,薬剤アレルギーなどの原因疾患の認められないものを指す.
 ITP患者血清を健常人に注射し,血小板減少を起こさせたHarringtonら1)の成績は,自己免疫の機序を想像させた.ITP症例において血小板の寿命の短縮2),またITP症例の血小板膜表面に大量の免疫グロブリン(IgG,IgMまたはIgA)あるいは補体の結合が証明され3),血小板自己抗体による末梢血中での血小板破壊の充進がITPの病態と考えられている.

von Willebrand病

著者: 藤村吉博

ページ範囲:P.2342 - P.2344

 von Willebrand因子(以下,vWFと略)は,第12番目の常染色体上の遺伝子支配により血管内皮細胞および骨髄巨核球内で産生される巨大分子糖蛋白質である.循環血液中に分泌されるとvWFは凝固第VII因子と非共有結合による複合体を形成して存在し,その安定化に不可欠の要素として働く.また血管壁の傷害が起こると,それに対応して血小板が血管内皮下組織に粘着する血栓形成の初期反応において両者の"分子糊"として働く作用を有する.このような生理機能は一般にvWF subunitが重合して生ずるheterogenousmultimer(分子量50万〜1,500万)の中でより大きな分子量を有するものほど強い1)
 vWFの先天性機能欠損に基づく出血性素因がvon Willebrand病(以下,vWDと略)で,通常,常染色体性優性遺伝形式を示し,男女両性に出現し,著明な出血時間の延長と皮膚・粘膜出血などの浅在性出血症状を主徴とする.vWDには表のごとく数多くの変異病型があるが,大別すると,vWFの量的低下のみを示し,すべてのmultimer型を有するtype I,large multimerを欠きvWFの質的異常の見られるtype II,そして常染色体性劣性遺伝形式を示す稀な病型type IIIとがある.

ビタミンK欠乏症

著者: 白幡聡

ページ範囲:P.2346 - P.2347

 ビタミンK(以下,VKと略)はわが国でなお欠乏症が多発している例外的ビタミンである.Γγ-カルボキシグルタミン酸の発見を契機として,近年のVK機能の研究の進展には目をみはるものがある反面,VKの生体内動態に関してはVK測定法の開発の遅れのために十分解明されていなかった.最近になりVKの優れた測定法が開発され,VKの生体内動態がかなり明らかにされてきたので,本稿では成因を中心にVK欠乏症の臨床病態と診断について要点を述べることにする.

DICの新しい診断基準

著者: 小林紀夫

ページ範囲:P.2349 - P.2351

 従来,DICの診断は,顕著な出血症状や各種臓器症状を呈し,消費性凝固障害の明らかな典型的DICを主たる対象としてなされてきた.したがって,迅速に診断して治療する必要のある場合が多い.そこで,DICの診断は一部の専門家に委ねることなく,また時間を要する,あるいは特殊な技術と機器を要する検査に頼ることなくなされることが望まれてきた.
 このような事情を踏まえ,比較的簡便な検査法を用いたDICの診断基準がいくつか報告されてきた.それら比較的初期の診断基準のうち,1974年Minnaら1)により提唱された基準はわが国にも紹介され広く利用されてきた.わが国でも1980年,厚生省DIC診断基準が公表された2)

血管性紫斑病

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.2352 - P.2354

 ラテン語の紫(purple)に由来する紫斑(purpura)は直径3mm以上の斑状出血(ecchymosis)と,それ以下の点状出血(petechiae)があり,毛細血管からの出血で,臨床上,血小板や血管壁障害との関連を示す重要な所見となる.したがって出血時間延長を示し,血小板異常を認める場合,出血時間延長を示すが,止血検査異常を認めない場合,および出血時間が正常でも紫斑を来す場合がある.
 本稿では血小板系関与のない紫斑を述べるが,家族歴と既往歴を含めた病歴を正確に把握することが重要である.止血検査で血管機能を直接正確に表示するものはなく,血小板が関与する出血時間や毛細血管抵抗試験では血小板が正常であることを別の方法で確認した後に血管系異常が指摘され,血管生検は血管構造欠損,異常蛋白沈着やコラーゲン形成異常を示すが,多くの血管障害は原因不明である.

血栓性疾患の病態と診断

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

著者: 伊藤和彦

ページ範囲:P.2356 - P.2357

 Thrombotic thrombocytopenic purpura(以下,TTP)は,表1の5徴候を示す疾患で,1924年にMoschcowitzによって初めて報告された.稀な疾患であるが,電撃的な経過をとり,予後がきわめて悪いため,症例に遭遇したことのない読者でも,頭の片隅にTTPの病名は覚えておられることと思う.さらに近年,TTPが注目されている理由は,早期診断し,プラスマフェレーシスを中心にした治療を行うことによって,大部分の症例が救命できるようになったことである.めったに遭遇する症例でないが,TTPの概念を把握し,症例に出くわしたときには早期診断し,適切な治療を行うことのできる態勢を整えておく必要がある.

先天性血栓傾向

著者: 高松純樹 ,   利見和夫 ,   松下正 ,   濱口元洋

ページ範囲:P.2358 - P.2360

 先天性血栓傾向については,既に今世紀初頭にその存在が推定されていた.しかし実体が明らかになったのは1965年Egebergらにより先天性アンチトロビンIII(以下,AT IIIと略)欠乏症の報告以来である.
 その後,プロテインC,S,プラスミノゲン,フィブリノゲンなどの欠乏や分子異常により血栓傾向がみられることが明らかにされてきた(表1).本稿では「I.確定的であるもの」のみならず,今後,血栓傾向との関係がより明らかになるであろう「II.可能性のあるもの」についても述べる.「III.今後,発見される可能性のあるもの」については今後の検査法の普及などで発見される可能性があると思われる.

深部静脈血栓症

著者: 今岡真義

ページ範囲:P.2361 - P.2363

 血管内を流れる血液は,本来流動性を保って流れるべきもので,血管内での血栓形成は生体にとって不都合なものである.
 深部静脈血栓症といえば通常大循環系の静脈血栓症を指すが,門脈の血栓も静脈血栓のひとつであり,門脈血の途絶は生命を脅かす危険性が高い.

肺血栓塞栓症

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.2364 - P.2365

●定義(概念)
 肺血栓症は,肺動脈に一次性に形成された血栓によって肺動脈が閉塞された病態であり,肺塞栓症は,静脈で形成された血栓が遊離して塞栓子となり,肺動脈を完全ないし不完全に閉塞した病態である.また,肺梗塞症は,血栓ないし塞栓子によって閉塞された肺動脈部位より末梢部位に出血性壊死の出現した病態である.肺血栓症と肺塞栓症とは,病理学的にも鑑別不可能であるために,臨床的には両者をまとめて肺血栓塞栓症と呼称している.

ループスアンチコアグラント

著者: 川野晃一 ,   池田康夫

ページ範囲:P.2366 - P.2368

 Lupus anticoagulantループスアンチコアグラントは,初めに全身性エリテマトーデス患者血漿からプロトロンビン時間を延長させる因子として見いだされた.その後の研究で,この因子は全身性エリテマトーデス以外の患者にも存在し,陽性者は臨床症状として出血傾向ではなく,逆に血栓症を合併しやすいこと,この因子の大部分がカルジオリピンを含む種々のリン脂質に対する抗体であることが明らかにされ,さらに,抗リン脂質抗体症候群antiphospholipid syndromeという疾患概念も提唱されるに至っている.

全身性疾患と凝固・線溶系

糖尿病—糖尿病における止血因子とその変動

著者: 服部晃 ,   和田研

ページ範囲:P.2369 - P.2371

 糖尿病において血栓症は予後を左右する大きな因子の一つであり,基礎となる血管病変や血液側の変化に対してさまざまな検索が行われてきた.
 一般には血液は過凝固状態にあると考えられる.これは本症の治療方針や薬剤の選択にも大きく係ってくる重要なポイントと考えられる.しかし具体的にどのように本症の病因,病態進展と関連しているかは不明の点も多い.

高脂血症

著者: 出口克巳 ,   森美貴

ページ範囲:P.2372 - P.2373

 高脂血症(あるいは高リボ蛋白血症)とは血漿(血清)中に存在する脂質―コレステロール(TC),トリグリセリド(TG),燐脂質(PL),遊離脂肪酸―のうち1つ以上〔あるいは,lipoprotein(Lp)〕が正常範囲を超えた病態の総称である.
 高脂血症は動脈硬化症(粥状硬化症)や動脈血栓症の危険因子の1つとして挙げられている.また,血小板,凝固・線溶因子が血栓症の発症・進展に関与することもよく知られている.脂肪酸,脂質,高脂血症と血小板機能との関係については,精力的な研究がなされており,かなり詳細な知見が得られている.

腎疾患

著者: 三室淳 ,   坂田洋一

ページ範囲:P.2374 - P.2375

 腎障害と凝固・線溶系の異常を示す病態を考える時には,どちらが一義的原因になっているかをまず知る必要がある.本項ではそれぞれを大別して話を進める.

肝疾患

著者: 苅家利承 ,   佐野雅之

ページ範囲:P.2376 - P.2378

 肝疾患では出血傾向がみられることが多いが,この原因としては,以下に述べる凝固・線溶系の異常の他,血小板減少などの血小板因子や,門脈圧亢進の結果起こる血管(静脈)の異常などの因子が考えられる.
 これらの異常は,通常,肝疾患の結果として起こってくるため,これらの異常の程度を把握することにより,原疾患の重症度を知ることができる.たとえば,肝硬変における肝予備能を見るには,アルブミン,コリンエステラーゼなどと共にプロトロンビン時間が良い指標である.

白血病

著者: 杉浦勇

ページ範囲:P.2380 - P.2381

 白血病患者にしばしば伴う重篤な出血傾向の原因は,白血病細胞の直接的影響と白血病の治療によるものとがある.
 前者には白血病細胞による骨髄巨核球の血小板産生障害,および白血病細胞中の凝固・線溶促進物質によるものなどがある.
 また後者には抗癌剤の副作用による血小板減少,低栄養状態での長期抗生物質の使用によるビタミンK依存性凝固因子の低下(ビタミンK欠乏症),特殊なものではL-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ®)使用時の凝固因子産生障害などがある.

妊娠・分娩

著者: 寺尾俊彦 ,   朝比奈俊彦

ページ範囲:P.2382 - P.2385

 母体は妊娠すると,胎児・胎盤系と共存するために非常に特異的な変化をする.凝固・線溶機構においても例外ではなく,血液の流動性の保持と,分娩時出血の止血という相反する2つの目的達成に向けて変化してゆく.

治療—最近の動向

難治性特発性血小板減少性紫斑病の治療

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.2386 - P.2387

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombo-cytopenic purpura,以下ITP)に対する標準的な治療は副腎皮質ステロイド療法,摘脾および免疫抑制剤投与であり,これによっては血小板数を出血の恐れがないレベルに維持できない場合を難治性とみなす.
 このような難治性ITPに行われる治療のうち,新しい試みをいくつか取り上げてみる.

血友病治療の進歩

著者: 福武勝幸 ,   池松正次郎

ページ範囲:P.2388 - P.2389

 血友病にはVIII因子の先天性欠之症である血友病AとIX因子の先天性欠乏症である血友病Bの2種類がある.ともにX染色体上に遺伝子をもち,伴性劣性遺伝を示す遺伝性疾患であるため,現在のところ原因に対する根治的療法はなく,出血時に血漿分画製剤による欠乏因子の補充療法が行われている.

DICの治療

著者: 松田保

ページ範囲:P.2390 - P.2391

●汎発性血管内凝固の治療の原則
 汎発性血管内凝固(以下,DICと略)は全身の,主として細小血管内に血栓が多発し,その結果,血液の凝固に必要な血小板やフィブリノゲンなどが血栓の材料として消費されて低下し,このため,消費性凝固障害と呼ばれる凝固異常を呈し,その本態が極端な凝固亢進状態であるにもかかわらず,しばしば出血傾向を来す症候群である.
 DICにはその原因疾患が存在し,そのため,何らかの機序により凝固系の活性化を生じているので,その原因を取り除くことが治療上もっとも重要である.なお,DICの治療の開始は早ければ早い程よく,この点,その早期診断が重視される.

濃厚血小板製剤の適応

著者: 高橋孝喜 ,   十字猛夫

ページ範囲:P.2392 - P.2394

●血小板輸血の必要性
 急性白血病,再生不良性貧血患者などで強力な化学療法による骨髄機能抑制の結果,血小板減少症となる症例の対策に苦慮することが多い.原疾患に対する強力な治療はもちろん重要であるが,それを生かすためにも出血傾向などに対する治療が適切でなければならない.
 原疾患にもよるが末梢血中の血小板数が2万以下となると,出血傾向が強まってくる.治療効果により当然骨髄機能が抑えられる期間,感染症の有無による体内破壊の亢進などの危険因子を想定して,適切な時期に十分な血小板輸血を行う必要がある.

TIAの治療

著者: 田村乾一 ,   東儀英夫

ページ範囲:P.2396 - P.2398

●一過性脳虚血発作の定義
 一過性脳虚血発作(transient ischemic attack,以下TIA)とは,脳の虚血性の循環障害により一過性に脳の局所症状を呈するもの,と定義される臨床的な概念である.一過性とは,症状の持続時間が24時間以内で,2〜15分間で症状が消失してしまうことが多い.

急性心筋梗塞の血栓溶解療法

著者: 木全心一

ページ範囲:P.2399 - P.2401

●急性心筋梗塞の病態生理と治療方針
 急性心筋梗塞の発現機序は単一ではない.しかし,大半の症例は,高度の器質的狭窄部に,血小板凝集,血栓形成を見て,内腔が閉塞し,その支配領域の心筋に壊死を生じたものである.
 冠動脈内腔閉塞後,時間が経つにつれて壊死に陥る心筋細胞の数が増加する.このため早期に血栓を除去し,血流を再開通することが望ましい.しかし,再開通しても,残存狭窄が強く,血流量が十分に確保できず,また再閉塞するのでは有効とはいえない.このため,早期に再開通できると同時に,十分な血流量を維持できる方法を求めて現在検討が進んでいる.

座談会

経口抗凝固療法の実際

著者: 木下忠俊 ,   青崎正彦 ,   山之内博 ,   斎藤英彦

ページ範囲:P.2402 - P.2413

 斎藤 今日は内科領域における経口抗凝固療法の臨床についてお話し合いいただきたいと思います.経口抗凝固療法は,かなり長い歴史のある治療法で,血栓症,塞栓症の予防および治療に用いられています.もちろん,血栓症,塞栓症の治療として,抗血小板薬,あるいはヘパリン,血栓溶解剤などもあるわけですが,歴史が長いという点では,経口抗凝固療法ではないかと思ます.
 実際,日本で使われているのはワーファリンだと思いますが,その作用機序がよくわかってきたのはここ10年くらいのことでして,まずそのへんから木下先生いかがでしょうか.

理解のための10題

ページ範囲:P.2414 - P.2416

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・9

PTCA後の再狭窄

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.2420 - P.2422

●PTCA施行後早期にみられた再狭窄例
 症例 40歳,男
 本症例はPTCA施行後まもなく再狭窄を起こし,剖検となった.PTCA施行部位では内膜の断裂(図1Bの矢印)により,内腔の拡大が認められる.バルーン拡張により内皮細胞の剥離がみられた部位では一層のフィブリンが認められるのみであるが,血管壁の障害部位(図1Dの矢印)では血栓の形成が認められ,いったん拡大した内腔を再び狭窄している.

Oncology Round・3

甲状腺原発悪性リンパ腫

著者: 片山勲 ,   三村孝 ,   森永正二郎

ページ範囲:P.2431 - P.2434

 悪性リンパ腫は本邦では全悪性腫瘍の1%弱であるが,けっして稀な腫瘍とはいえない.しかし,悪性リンパ腫というと,リンパ節に発生するもののみが想定されやすく,リンパ節以外の臓器に発生する悪性リンパ腫も少なくないことは忘れられがちである.したがって,身体いずれの部位を問わず,悪性腫瘍の鑑別診断には常に悪性リンパ腫の可能性も考慮しておく必要がある.今回は,小細胞癌との鑑別が問題となった甲状腺原発の悪性リンパ腫症例を提示しよう.

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

右室流入路狭窄と拘束型血行動態を示した重症漏斗胸の1例

著者: 福田信夫 ,   大木崇 ,   井内新 ,   小川聡 ,   青山好美 ,   森博愛

ページ範囲:P.2436 - P.2443

■心音図・心機図所見
 1)心音図(図2)
 図2Aは呼気時,Bは吸気時に呼吸を停止した際の心音図で,心尖部(Apex),第4(4L)および第2肋間胸骨左縁(2L)の同時記録を示す.
 心音に異常はみられない.呼気時に比べて,吸気時には以下の2つの異常心雑音の出現を認める.①4Lの拡張期雑音(DM),②Apexおよび4Lの収縮期雑音(SM).

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

大腸(7)—早期癌

著者: 松川正明 ,   西澤護

ページ範囲:P.2444 - P.2451

 西澤 前回は大腸の進行癌のお話をしましたが,漿膜から癌が露出し,癌性腹膜炎や肝転移を起こしたり,あるいはリンパ節転移などで全身症状が出てくる前に発見したい.というわけで,今日はこのぐらいならばまだ助かるという症例について話したいと思います.
 まず最初の症例は直腸ですけれども,読み方はどうでしょうか(図1).

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2424 - P.2429

心電図演習

著者: 岩瀬孝 ,   西山信一郎

ページ範囲:P.2459 - P.2462

 48歳の男性が労作時の動悸と胸部圧迫感を主訴として受診した.
 既往歴・家族歴 特記すべきことなし.喫煙歴なし.
 現病歴 2年前から急に動いたり,重い荷物を持ち上げたりした時に,動悸,胸部圧迫感を自覚していたが放置していた.5ヵ月前,入浴後に突然胸部圧迫感が出現,15分持続したのち消失した.翌日,近医を受診し,狭心症と診断され,ニトログリセリン(NTG)を処方された.その後,症状出現時にNTGを舌下するも,その効果は不確実であった.マスターダブル試験は陰性であった.原因精査の目的で,当科を紹介受診し,入院となった.

内科専門医による実践診療EXERCISE

全身倦怠感,肝機能障害

著者: 司城博志

ページ範囲:P.2463 - P.2464

 48歳,女性,主婦.既往歴,家族歴には特記すべきことなし.手術歴,輸血歴はない.現病歴:生来健康で著患を知らない.1年前の健康診断では肝機能は正常であった.約1カ月前より全身倦怠感を自覚するようになり,近医を受診.肝機能障害(GOT 126IU,GPT 164IU)を指摘され,慢性肝炎の診断で投薬を受けていた.服薬後も症状は軽快せず,食欲不振,37℃台の微熱も出現するようになり,精査目的にて当院へ紹介された.
 身体所見:体格,栄養は中等度.血圧126/82,脈拍68/分,体温37.4℃.貧血はみられないが,眼球結膜に軽度の黄疸が認められ,肝臓を右鎖骨中線上にて3横指触知した.肝表面は整であったが,辺縁は鈍で圧痛が認められた.脾臓は触知しなかった.下肢の浮腫,腹水,クモ状血管腫,手掌紅斑などは認められなかった.

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・18

解離性大動脈瘤

著者: 飯田要 ,   小関迪

ページ範囲:P.2452 - P.2457

概念
 解離性大動脈瘤は大動脈壁がなんらかの原因によって解離し,その結果大動脈壁の裂開を生じたものであるが,病因は不明である.突然の胸痛で発症し,高血圧症の関与によることが最も多い.その予後は解離発生の部位によっては非常に悪く,とくに発症後2週間以内の急性期の死亡率がきわめて高い.また急性期を脱しても解離腔の拡大,破裂をきたしやすく,したがって迅速に診断し治療方針を決めることが要求される.現在,解離腔の部位によりDeBakeyの分類やStanfordの分類が用いられており,予後の判定に利用されている.
 本症は近年増加傾向にあるが,その診断方法も進歩し,血管外科手術の発達もめざましいため,急性期の生存率も上昇してきている.また外科的療法をfirst choiseと考えがちであるが,本症に伴う高血圧のコントロールに対し薬物療法も重要視され,DeBakey III型では薬物療法のみで経過を診ていることも多い.

呼吸器疾患診療メモ

ベッドサイド呼吸器病学(2)—胸郭外理学所見と呼吸器疾患

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.2468 - P.2469

 呼吸器は他臓器との関係がきわめて密であり,呼吸器疾患の診断に胸郭外の理学所見が重要な手掛かりとなることが少なくない.そして,呼吸器の核心に迫る前に,あたかも徳川家康の"大阪城攻め"における外堀埋めのように,胸郭外の所見を注意深く埋めていくことが大切なのである.呼吸器臨床といえどもcomplete physical exami-nationが要求される所以である.以下に,筆者が日常のベッドサイドの診療に資している胸郭外所見の数々を思いつくままに列挙してみたい.
 ①全身状態体重減少やるい痩は慢性消耗性疾患を疑わしめ,悪性腫瘍,慢性感染症(肺結核,肺膿瘍,膿胸,放線菌症など),過換気を伴う慢性呼吸不全(肺気腫,肺線維症,肺結核後遺症)などに多い.肥満は肺胞低換気を伴いやすく,末梢性の睡眠時無呼吸症候群の原因となる.粘液水腫や全身浮腫は,それだけでも呼吸筋機能障害の原因となるばかりでなく,内分泌学的,肺・循環生理学的障害による呼吸不全をももたらしやすい.

実践診療dos and don'ts

忘れられた常識/禁煙指導

著者: 吉岡成人

ページ範囲:P.2368 - P.2368

 一般外来で毎日のように診療をしているといかに"風邪"をひく人が多いかがわかる.一般週刊誌をにぎわす"今年の風邪の傾向と対策"もつかめてくる."今年の風邪は嘔気,嘔吐,腹痛,下痢といった消化器症状が強い"というような情報が自然に医者の頭のなかにインプットされてしまう.そうすると,全身状態が比較的良い患者が嘔吐や軽い腹痛を訴えている場合=風邪(ウイルス性胃腸炎)と診断してしまうようになる.
 先日,嘔気と腹痛を訴えて17歳の高校生が私の外来を訪れた.診察したところ腹部は全体に柔らかく,心窩部に軽い圧痛があるのみであった.もちろん最終生理については確認して妊娠の可能性が無いことは確認した.本人と付き添ってきた母親には"風邪"だと思うが経口摂取が十分摂れていないようなので取り合えず点滴をして様子をみようと話した.1,000mlの点滴の後で,患者の自覚症状も落ち着いたので帰宅せようと思い,もう一度診察した.その瞬間"まずい"という思いが私の脳裏をよぎった.右の下腹部に僅かだが筋性防禦があり,反跳痛を伴った圧痛が認められたのである.緊急検査の白血球数は13,000/μl!患者と母親への説明はやりなおし.ただの"風邪"は急性虫垂炎に衣替えし,緊急手術となった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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