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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻4号

1989年04月発行

雑誌目次

今月の主題 輸血の実際と血液製剤

理解のための問題

ページ範囲:P.638 - P.639

血液製剤の入手と管理

血液製剤の入手法

著者: 浅井隆善

ページ範囲:P.560 - P.561

●献血事業の歴史1)
 わが国における血液事業は,昭和23年に起こった輸血による梅毒感染事件を契機に,血液銀行の設置と保存血液の供給などの輸血対策に取り組むようになった.昭和26年に民営の血液銀行が設置されたのが,血液銀行の始まりであり,翌27年には日本赤十字社直轄の東京血液銀行が設置された.その後,血液銀行は各地に設置され,昭和38年には公民合わせて47にまで増加した.しかし,当時,保存血液の大部分は売血によって得られたものであり,「黄色い血液」の問題に代表される輸血用血液の品質の低下や,輸血後肝炎の発症などの弊害が増加してきた.したがって,昭和39年には,閣議決定により,血液事業を献血によって行うことを決定した.この後,厚生省の指導のもとに,日本赤十字社と地方公共団体とが協力して,血液製剤を献血によって確保するようになった.昭和60年には,国民総人口に対する献血者数の割合は7.2%と,世界に誇れるまでに至っている.
 しかし,近来の医療における血液製剤の需要の増加は著しく,製剤の種類によっては,国内の献血血液では足りず,輸入製剤に頼っているのが実状である.ちなみに,WHOでは,1975年に無償を基本とする国営の血液事業の推進を,また,1983年には,自給自足を原則として,自国内で献血者を動員することを提言している.

血液製剤の保存と管理

著者: 広瀬豊

ページ範囲:P.562 - P.563

 輸血療法に使われる血液製剤は,ごく一部の院内採血を除いて,日本赤十字血液センターで採血し製剤化されたものである.ここでは,病院へ納品された血液が患者に輸血されるまでの流れを考えてみる.

血液製剤の特徴と適応

全血輸血と成分輸血

著者: 上平憲

ページ範囲:P.564 - P.565

 かつては,赤血球のみを必要としていたにもかかわらず,全血液成分を含む「全血輸血」が行われていた.一方,最近では血液成分分離装置の進歩もあり,輸血副作用は最小限に抑えて輸血効果は最大限にしようとする医療上の目的と血液の有効利用という供給上の両面から,患者に不足している成分のみを補う「成分輸血」が主流となった.輸血は,一種の同種移植であり,また一方でヒト由来の医薬品製剤のため生産量に限度がある点にも十分注意を払うべきである.
 表に現在実施可能な全血および成分輸血の種類を挙げた.この中で,アルブミン・凝固因子製剤などの一部の血漿蛋白分画製剤(blood derivative)を除けば,単一成分のみから構成される真の単一「成分製剤」はまだまだ少ない.したがって,現実的には製剤化のための費用・労力などの経済的事情と使用者側の理解不足なども加わり,不完全・中途半端な成分輸血の時代といえよう.なかでも,血球成分輸血については遅れが著しく,術後紅皮症という重篤な副作用を起こしてしまったことは憂うべき実情である.

赤血球製剤

著者: 倉田義之

ページ範囲:P.566 - P.569

 1975年頃より成分輸血が一般に普及し始めた.全血製剤に代わり,血漿製剤や赤血球製剤などの成分製剤が使われ始め,1980年頃には赤血球製剤の供給量が全血製剤の供給量を越え,成分製剤が主となっている.それ以降,毎年,全血製剤の供給は減少し続けて,それに代わって,赤血球製剤の増加傾向が続き,現在に至っている.1987年には全血製剤の供給量が142万単位に対し,赤血球製剤の供給量は454万単位と約3倍量に達している(図).
 赤血球製剤には表1に掲げるような製剤がある.以下に各製剤の製法および性状,適応について略述する.

血小板製剤

著者: 寮隆吉 ,   菅野亘 ,   吉田明憲 ,   足立昌司

ページ範囲:P.570 - P.571

 血小板輸血は,血小板減少や血小板機能異常による出血のトラブルにきわめて有効な治療法である.今回は抗癌剤投与後の血小板輸血の実際について述べてみたい.

新鮮凍結血漿とアルブミン

著者: 田村眞

ページ範囲:P.572 - P.577

 与えられた題目は,「新鮮凍結血漿(Fresh FrozenPlasma;FFP)とアルブミンの性状と適応」であるが,これについては優れた成書1)があり,それとの重複を避けたい.そこで,医学的な事項をくり返すよりも,「善意に基づく<貴重な資源〉としての血液製剤」という観点に立っ使用を推進する背景に焦点を置いて述べることとする.ご了承ありたい.
 治療に用いられるある重要な製剤の使用が,国際的・経済的背景,またウイルス感染といった医学的な要素,さらに自由意志(Voluntary)というような人道的な範疇と密接に関係してくることがあるとすれば,これは驚くべきことに違いない.しかしその驚くべきことが,「血漿製剤」について起きているのである.

免疫グロブリン製剤

著者: 大戸斉

ページ範囲:P.578 - P.580

 免疫グロブリンはCohnの低温エタノール分画法により得られる.本来大量のグロブリン補充が必要な低(無)γグロブリン血症が適応とされていたが,重症細菌・ウイルス感染症,さらにはITP(特発性血小板減少性紫斑病)などの治療にも用いられるようになった.
 グロブリン製剤はアルブミン製剤と同時に製造されるので,本剤の大量使用に伴う問題は提起されていないが,非常に高価で医療費増大の点からは重大である.安易な大量長期の使用は厳に慎まなければならない.

凝固因子製剤

著者: 朝倉英策

ページ範囲:P.582 - P.583

 凝固因子製剤(表)の使用目的は,不足している血中成分の補充にあり,病態に応じてさまざまの製剤を使い分ける必要がある.

内科医のための輸血の実際

緊急輸血

著者: 大塚節子

ページ範囲:P.584 - P.587

●緊急輸血とは
 緊急輸血を論ずるにあたり,偽の「緊急輸血」(実際には緊急ではないのに結果的には「緊急輸血」になっている事例)を減らすことが前提条件である.たとえば手術予定で入院中の外科患者に用意される血液が手術直前にorderされるとか,急に手術日が早まり時間外に非専門家が検査するとかである.はっきりとした輸血予定日が決まっていなくても,輸血の可能性がある場合は,入院後速やかに血液型および"type and screen"を実施すれば「緊急輸血」を減らすことができる.その上で検査側と主治医側の対話によって真の緊急輸血に対する体制を確立することが重要である(表1,2).

慢性貧血の輸血

著者: 山口潜

ページ範囲:P.589 - P.592

●輸血の歴史
 1955年前後には,わが国では輸血用の血液は病室近辺の処置室などで職業売血者から,10%クエン酸ナトリウムを抗凝固剤として用いて100ml注射筒に採血し,これをただちに入院中の受血者に点滴でなく濾過装置も通さずに直接静注する方法が一般的であった.「枕元輸血」と呼ばれている方法である.この際,クロスマッチもほとんど行われず,供血者の持参した手帳にある既往歴,Hb量,血清梅毒反応所見程度の記載事項と,供血者耳朶血のABO式の「おもて」試験,Sahli法によるHb定量のみから輸血の可否を決定するという,実に危険な輸血法が採用されていたわけである.
 伝染性疾患に関しては,血清梅毒反応の陰性所見と既往歴の自己申告が手帳に記入されているだけで,肝機能の詳細はまったく不明で,輸血後肝炎が大きくとり上げられたのは比較的新しいことである.1964年,日本赤十字社が献血のみによる血液製剤の供給を開始してから,輸血後肝炎は激減した.

自己免疫性溶血性貧血の輸血

著者: 中山志郎

ページ範囲:P.594 - P.595

●病因
 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia;AIHA)は,産生される自己抗体の性状より温式AIHA,寒冷凝集素症(cold agglutinindisease;CAD),および発作性寒冷血色素尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria;PCH)の3病型に分類される.
 1)温式AIHA体温(37℃)付近で自己赤血球と結合する温式抗体が出現する.抗体の免疫グロブリンは主としてIgGであるが,IgM,lgA,ないしその組み合わせのことがあり,また抗補体で反応するものがある.血液型特異性はなく,いずれの血液型の赤血球をも凝集するpanagglutininの性格を示すものが多い.しかしRh血液型特異性を示すことがあり,とくに抗e抗体の性質をもっものが多い.感作赤血球は主に脾臓で捕捉,除去される(血管外溶血).補体が活性化されて溶血に関与することはほとんどない.貧血は重症で,しばしば輸血が必要となる.

急性白血病,リンパ腫の輸血

著者: 森眞由美

ページ範囲:P.596 - P.597

 急性白血病では,高度の貧血,血小板減少,正常白血球の減少を伴うことが多い.また強力な化学療法により骨髄抑制状態が生じ,治療中から治療後数週間にわたって汎血球減少が持続する.悪性リンパ腫でも,第3世代といわれる強力な化学療法が行われるようになり,治療に伴って高度の汎血球減少を生ずることが多くなった.これらの状態では,抗生物質などの薬物療法とともに適切な輸血を行い,出血,感染などの危機を乗り切らなければならない.頻回に血液検査を行い,時期を逸することなく輸血を行う必要がある.

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の輸血

著者: 森孝夫

ページ範囲:P.598 - P.599

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic throm-bocytopenic purpura;ITP)は,原因不明の血小板減少症であるが,直接の原因は,抗血小板抗体の関与による血小板の破壊と考えられている.
 治療として,副腎皮質ステロイド剤(以下副ス剤),免疫グロブリン製剤,免疫抑制剤の投与や摘脾などが行われるが,病型(急性型と慢性型),重症度,合併症,各治療法に対する反応性などを考慮して,治療スケジュールを決める必要がある.ここでは,それらの一般的治療については割愛し,血小板輸血を中心として,ITPにおける止血管理について述べる.

播種性血管内凝固症候群(DIC)の輸血

著者: 西川健一

ページ範囲:P.600 - P.601

●DlCの概念と治療
 DIC(disseminated intravascular coagulation)とは,何らかの原因による血管内での血液凝固機序の亢進によって微小血管内に血栓を生じ,その結果循環障害による臓器不全を起こし,さらには消費による各種凝固因子や血小板の減少,二次線溶のために高度の出血傾向を生ずる病態であり,その原因疾患は多岐にわたる.
 したがって治療は,①原疾患の治療(DICを生じさせている原因の除去),②DICそのものに対する治療(血栓の形成抑制),③補充療法(消費により減少した凝固因子,血小板などの補充),の3つが柱となる.DICにおける輸血は補充療法であり,①,②と併用して初めて効果があるのであって,その実施にあたっては原疾患ないし基礎疾患のことを十分考慮する必要がある.たとえば産科的な原因におけるDICの場合,骨髄の造血能は正常であり,DICの状態が改善すれば血小板は速やかに回復するが,白血病の場合は骨髄機能が抑制されているため,血小板数の改善は望めず,したがってこれらの点も考慮した補充療法が必要になる.

血友病,von Willebrand病の輸血

著者: 滝正志

ページ範囲:P.602 - P.604

 血友病,von Willebrand病の出血に対する治療の原則は,欠損している因子を補充することである.本稿では血友病,von Willebrand病に使用する血液製剤とその具体的な使用方法にっいて述べる.

Plasmapheresisの適応

著者: 飯野靖彦

ページ範囲:P.606 - P.607

●Plasmapheresis(PP)とは
 PPは一般に血漿交換療法と呼ばれているが,語源的には血漿plasmaと除去apheresisを結合した言葉である.つまり,plasmapheresisは瀉血などの血液除去法を源として発展した.瀉血の基本的考え方は,疾病の原因が血液中の毒性物質にあり,その除去により疾病の治癒が期待できるとの発想からきており,部分的には現在の血漿交換療法に通じている.当初は皮膚の乱切や静脈切開によっていたし,中世にはヒルが用いられることもあった.また,米国大統領Washingtonの死亡の際にも,2日間に41という大量の瀉血が行われたという1).しかし,現代医療の発展とともに瀉血の意味が失われ,現在ではほとんど行われていない.
 全血ではなく血漿成分だけを除去しようという試みは,Johns Hopkins大学のAbelによって行われた2).血漿分離には遠心分離法と膜分離法があるが,とくに日本の線維メーカーが優秀なため,膜分離法が主流を占めるようになった(図).しかし,それぞれの分離法には特徴があり,目的によって使い分けが行われている.さらに最近では,血漿の特定成分を除去する吸着剤を用いた選択除去法も開発されている.

手術時の輸血のガイドライン

著者: 湯浅晋治

ページ範囲:P.608 - P.612

 全血輸血から成分輸血へと転換してから十数年を経,一般の輸血では成分輸血が定着してきたが,手術時の輸血となるとまだ問題なしとはいえない.すなわち外科手術では全血が失われるのだから,やはり全血で補うという伝統的な考えが一部にある.しかし今日では,どのような症例であろうと,輸血が必要だからといってただ漫然と全血を輸血することは,臨床的にもはや正当化されるものではない.患者の必要とする成分のみを輸血することは医学的に合理的のみならず,輸入に大きく依存している血漿製剤の国内確保にもっながるもので,とくに外科・手術においては濃厚赤血球の適応と使用を促進することが重要である.
 血液製剤の適正使用についてはすでに厚生省のガイドラインが出ているが,ここではとくに外科・手術の際の輸血について述べる.

副作用・合併症の対策

よくみられる副作用と合併症

著者: 池田康夫 ,   半田誠

ページ範囲:P.613 - P.617

 輸血治療は患者が重篤な状態の際に行われることが多いこともあって,ともすれば,その効用のみに目が奪われ,輸血副作用の予防,治療に対する真剣な取り組みに欠けているようにも思える.輸血副作用は時に致命的になることもあり,薬物治療と同様,あるいはそれ以上の副作用対策がたてられなければならない.ここでは,臨床上しばしば遭遇する輸血副作用をとりあげ,その対策について記載したい.

ウイルス感染と輸血—HTLV-1,HIV,CMV

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.618 - P.621

 医療技術の進歩にともない,大規模で失血量の多い手術や,造血そのものを抑制してしまうほどの強力な化学療法や免疫抑制療法などの臨床応用が可能になってきた.これらの治療方法を支えるものに輸血があり,輸血技術の進歩の重要性はますます高くなっている.しかし,血液はまだ未知のものも含めて多くの成分や機能から成り立っている.このため,輸血による不利益も十分考慮しておかなければならない.
 20世紀初めから輸血の技術が臨床に応用され,それと同時に,輸血による病原体の感染例が報告されている.ここでは,ATL(adult T-cell leukemia)の原因ウイルスであるHTLV-1(human T-cell lymphotropic virus type-1),AIDS(acquiredimmunodeficiency syndrome)の原因ウイルスHIV(human immunodeficiency virus),サイトメガロウイルス(CMV)の感染と輸血について述べてみたい.

肝炎と輸血

著者: 則岡美保子 ,   伊藤和彦

ページ範囲:P.622 - P.624

 輸血後肝炎は血液製剤使用に伴って発症する.わが国では,売血血液を輸血に使用していた頃をピークとして,その後血液供給制度の改変,B型肝炎(HB)のスクリーニング導入により,輸血後肝炎発症件数は減少してきた.
 輸血後肝炎起因ウイルスとしてB型と非A非B型(NANB)が知られている.
 NANBという意味ではcytomegalovirus(CMV),Epstein-Barrvirus(EBV)による輸血後肝炎もあるといわれているが,高力価抗体価をもつドナー血の輸血で輸血後肝炎発症率が高いことよりの推測であり,明確な発症件数はわからない.そして,一般的にはNANB肝炎ウイルスとは1種または2種以上の不明のウイルスを指すものとして扱われている.
 1988年5月,アメリカ合衆国Chiron社が,NANB肝炎ウイルスとみられるRNAウイルスのクローニングに成功したと発表した1).この時点では2種以上のウイルスの存在については否定的であると報じたが,1988年後半の研究ではこの点について再検討が加えられているようである.したがって,この結論については今後の研究を待たねばならない.

GVHDと輸血

著者: 品田章二

ページ範囲:P.626 - P.627

●輸血によるGVHDの特徴
 輸血後約1週間(3〜30日後)に突然,39℃台の発熱,ゆでだこ様の紅皮症,白血球減少,肝障害(GOT, GPTが100単位前後に上昇),下痢などの症状が出現する.一度発症すると,ステロイド,抗胸腺グロブリン,メトトレキセート,サイクロスポリンなどを投与しても無効のことが多く,1週間以内に強い骨髄抑制所見(汎血球減少症)に陥り,90%以上の症例が細菌感染症や出血などで死亡する,重篤な輸血後副作用である1,2)
 この病態は,輸血された血液中の分裂能をもつリンパ球が,患者の組織適合性抗原を異物と認識し攻撃するGraft-versus-Host Disease(GVHD)であると解釈されている.

輸血のトピックス

自己血輸血

著者: 原宏 ,   大江与喜子

ページ範囲:P.628 - P.629

 輸血による輸血後感染症や,同種抗体による溶血,発熱,発疹,さらにはアレルギー反応など,他人の血液の輸血に関わる合併症は,患者にとって長期にわたる障害となる場合もある.そこで,できるだけ他家血輸血を減らし安全に手術ができるように,各科領域とくに外科,麻酔科領域で,自己血輸血が積極的に取り入れられるようになった.

腎移植と輸血

著者: 山本実

ページ範囲:P.630 - P.632

 1945年にOwenが自然界に発見した寛容の現象がBurnetの免疫理論に展開し,そこで予言されたことが1953年Medawarによって現実に人為的に実証された.Medawarはこの発見をもとにさらに研究を進め,ついに免疫学的寛容という現象を実験的につくりだすことに成功し,臓器移植の問題が再びよみがえった.
 同種移植免疫抑制は,今日われわれが直面している最も重要な研究課題の1つである.免疫抑制の方法は抗原抽出物投与による寛容性の獲得,放射線照射を経て薬剤による同種移植免疫抑制が主流となり,臨床腎移植の成績が向上してきた.

人工血液

著者: 関口定美 ,   伊藤敬三

ページ範囲:P.634 - P.635

 血液の有するすべての機能を人工的に代用しうる真の意味での人工血液は存在しない(表).現時点で人工的に血液の機能を代用するものとして,わずかに代用血漿である血漿増量剤デキストラン,HES溶液などがあるにすぎない.この他,血液の主要構成物である赤血球を代用するものとして,現在人工的酸素運搬体が開発されつつあり,一般にはこの酸素運搬体を人工血液と称している.
 人工血液は,次の3種に分類できる.第1世代は酸素易溶性の有機フッ素化合物を用いたパーフルオロケミカル(PFC)であり,第2世代としてヒトのヘモグロビン(Hb)修飾体があげられる.前者は試験的に臨床使用され,後者もphase I studyに達した研究グループがある.さらに第3世代としては合成ヘム錯体を脂質二重膜内に包埋したまったく新しいタイプのものがあるが,ようやく小動物実験のレベルまで達したにすぎない.

エリスロポエチン

著者: 八木田旭邦

ページ範囲:P.636 - P.637

 エリスロポエチン(erythropoietin;EPO)は,骨髄中に存在する赤血球前駆細胞の分化と増殖を促進する造血ホルモンである.最近の遺伝子工学の進歩により遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン(rt-EPO)が大量に産生されるようになり,慢性腎不全に伴う血液透析患者の貧血症に劇的な効果が証明されつつある1,2)
 一方,輸血はさまざまな疾患あるいは病態における貧血症の有力な治療手段の1つであるが,ウイルス感染などの媒介あるいは新鮮血輸血などでは移植片対宿主病(GVHD)の誘因とも考えられている.また,悪性腫瘍症例に対する輸血は免疫抑制的に作用し,術後の生存率を不良にするとの報告が筆者も含めて多数なされている.

実践診療dos and don'ts

テルモ熱,他

著者: 矢木晋

ページ範囲:P.632 - P.632

 17歳の男性が37.2〜37.4℃の微熱を主訴に外来を受診してきた.たぶんこの年齢ならば,受験のストレスかヒステリーによるものだろうと思いながら,本人に会ってみると,何と色黒の,苦労なんぞまったくないという顔をした好青年?であった.
 予想が外れ多少ぶぜんとしている私に,彼は「3カ月前に自然気胸を起こし,近くの病院へ入院しました.気胸はすぐに改善しましたが,その後より自覚的には何ともないのですが,体温を計ると昼から37.2〜37.4℃なんです.それまでは平熱だったのに……」と訴えた.体温測定をしたところ36.8℃であり,一応の診察をしたが,いたって健康であり,さらに血液検査,胸部X線なども何等異常を示唆させる所見は認めなかった.「特に異常はないようですがね……」と言いながら,使用体温計をたずねると入院先の病院で病院用電子体温計をすすめられ,それ以来,水銀体温計は使用していないとのことであった.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・4

梗塞前の狭心症と心筋梗塞

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.642 - P.644

〔はっきりした狭心症状がなく,冠動脈造影施行5年 後に心筋梗塞を発症した例〕
 症例 70歳,男
 現病歴 65歳時の初回梗塞発症約1年前頃から寒い時や飲酒後などに胸部圧迫感が出現していたが,最近になり発作の回数が増加してきたため4月6日不安定狭心症の診断により入院した.いったん軽快退院したが,7月29日午後9時頃急に胸痛が出現し,急性心筋梗塞(下壁)の診断により近くの病院へ入院した.冠動脈造影では右冠動脈4PDに99%狭窄を認め,前下行枝Seg.6に50%の求心性狭窄を認めた(図1A).その後は経過良好であり,とくに狭心症状は認めなかった.しかし初回梗塞発症5年後に今度は前壁中隔梗塞を発症し4日後に死亡した.
 剖検により冠動脈造影所見と組織像を対比検討した.冠勤脈造影上狭窄を認めない部位でも組織像では内膜の肥厚が認められた(図1B).また前下行枝Seg.6に50%の求心性狭窄を認めた部位では内膜内に粥腫(Ath)の沈着がみられ,血管壁を構成している内膜膠原線維の破綻部(矢印)に一致して血栓の形成がみられた(図1C).

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

突然に心雑音が出現したValsalva洞動脈瘤破裂の1例

著者: 福田信夫 ,   大木崇 ,   内田知行 ,   恵美滋文 ,   細井憲三 ,   森博愛

ページ範囲:P.654 - P.662

■心音図・心機図所見
 1)心音図(図2)
 心尖部(Apex),第4肋間胸骨左縁より3横指外側(4L lat.)および第2肋間胸骨左縁(2L)の同時記録心音図を示すが,診断上ポイントとなるのは次の3点である.
 a)4L lat. の連続性雑音
 b)2Lの収縮期雑音
 C)II音の幅広い分裂とII音肺動脈弁成分(IIP)の減弱
 4L lat. の心雑音は,心音図上収縮期,拡張期を通じて持続的に認められ,高低両周波数成分に富み,かつ収縮期成分よりも拡張期成分の振幅が著明に大であることから,荒々しい性質を有し,しかも拡張期強勢を示す連続性雑音であることが理解できる.以上述べた特徴,最強点の位置および表在性の性質から,本雑音の原因疾患として最も可能性の高いものはValsalva洞動脈瘤の右室内破裂である(medicina vol. 26,no. 2,p. 322の本シリーズ参照).

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

大腸(2)—変形,壁異常をどう読むか

著者: 松川正明 ,   西澤護

ページ範囲:P.664 - P.671

 西澤 前回は大腸の撮影の仕方,および大腸のX線像の読み方,特にネットワークパターンなどについていろいろお話を伺いましたが,これから疾患の読影の仕方などについて話を進めたいと思います.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.646 - P.651

心電図演習

著者: 梅澤剛 ,   石村孝夫

ページ範囲:P.673 - P.677

 72歳の男性が呼吸困難を訴え来院した.
 患者72歳,男性
 既往歴 40歳:胆石手術施行.喫煙20本/日×30年.70歳:心筋梗塞にて入院歴あり.
 家族歴 特記するものなし.
 現病歴 70歳,初回の胸痛発作にて近医受診,心筋梗塞の診断にて約1カ月入院.退院後,外来通院.胸痛はなかったが,坂道歩行で息切れと動悸を覚えることがあった.入院10日前,引っ越しをし,過労気味で,以後平地歩行など比較的軽い日常労作で息切れが出現.咳嗽,喀痰などの上気道症状もあったため風邪と思い様子を見ていた.

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・14

大動脈弁疾患

著者: 田村勤 ,   小田中順

ページ範囲:P.682 - P.689

 大動脈弁疾患は狭窄性病変と逆流性病変とに分けられ,心不全その他の症状をもたらす疾患として臨床上重要な位置にある.臨床上は大動脈弁狭窄(AS),大動脈弁閉鎖不全(AR),大動脈弁狭窄兼閉鎖不全(ASR)の3通りの病状を示す.ここでは,ASとARの病態生理について述べることにする.

検査

検査データをどう読むか

著者: 堤寛

ページ範囲:P.692 - P.693

 患者:50歳,男性.18年前より,胃潰瘍の内服治療を受け,15年前より,A大学病院で半年ごとの定期胃内視鏡検査が行われていた.この間,特に自覚症状はなかった.1986年9月の定期検査の際,生検biopsyにて印環細胞癌の病理診断が下され,手術目的でB大学病院外科へ入院となった.
 図1は,この時の生検組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)である.線維増生desmoplasiaを伴い,浸潤性に増殖する低分化腺癌ないし印環細胞癌の所見が明らかである.

CPC

不明熱,急性腎不全で入院し,副腎皮質ホルモンの投与により血液透析から離脱したが,急性呼吸不全を呈して死亡された71歳女性

ページ範囲:P.698 - P.711

症例
 患者71歳,女性,無職
 初診昭和62年10月27日
 入院昭和62年10月27日
 死亡昭和63年1月3日
 主訴 発熱
 既往歴 20歳代より高血圧,40歳卵巣腫瘍摘出,数年前より気管支拡張症の治療を受けている.
 家族歴 父親は脳卒中で死亡,母親も高血圧
 現病歴 20歳代後半より高血圧と診断されて降圧薬内服,数年前より気管支拡張症の治療も受けているが,とくに日常生活に支障はなかった.

神経疾患診療メモ

複視

著者: 西平竹夫

ページ範囲:P.678 - P.680

 物が二重にみえると訴える場合,神経学的意義をもつのは両眼複視の場合で,単眼視で複視が消失することをまず確認しなければならない.両眼複視は眼球運動の共同運動障害によって生じ,第III, IV, VI脳神経核の存在する脳幹部,またはそこから出て外眼筋に至るまでの末梢神経のどこかに障害が存在するとき,複視として自覚する.
 複視の原因となる病変部位を表1に示す.これらの病変部位を理解するためには,第III, IV, VI脳神経核の存在する脳幹部の解剖,脳神経核より出て眼球運動を支配する外眼筋に至るまでの複雑な末梢神経の局所解剖学の理解がとくに大切で,大抵の神経学のテキストに図示されている.臨床所見から病変部位を予測し,確定診断のための諸検査や神経放射線学的検査で最終診断,治療方針を決定する.

消化器疾患診療メモ

炎症性腸疾患と妊娠

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.694 - P.695

 潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患は,比較的若い年齢層にみられる疾患である.したがって,このような疾患を有する妊婦に遭遇する機会はけっして少なくない.よく外来などで患者や家族から次のような質問を受けることがあるが,読者諸兄は明確に答えられるかどうか,是非お試しいただきたい.
 これらのきわめて実際的な質問の返答に窮するようでは,臨床医はつとまらない.では以下を参考にし,知識を整理していただきたい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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