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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻5号

1989年05月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のための他科疾患プライマリ・ケア

プライマリ・ケアの実際—特にコンサルテーションを中心として

著者: 福原俊一 ,   青木誠

ページ範囲:P.724 - P.725

●プライマリ・ケアはなぜ必要か
 プライマリ・ケアが,診療,教育,そして研究のどれにおいても,現在のわが国に必要であることは明白であると考える.もちろんこれはプライマリ・ケアという言葉が正しい意味において解釈されるという前提ではあるが.すなわち,たんに初期医療や振り分けを担当するそれとしてではなく,ひとことでいえば主治医として患者あるいは健康人を継続的・包括的に診療をするという意味においてである.しかしこれは米国において必要であった,あるいは発展してきたから必要なのではなく,わが国の医療と医学教育の現状が必要としているからである.表1にプライマリ・ケアにょってもたらされうる利益を羅列したが,これからも容易にご理解いただけると思う.

Editorial

プライマリ・ケアとは

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.722 - P.723

 1973年に日野原重明先生がプライマリ・ケアという言葉を公にわが国に導入されてから,既に16年の歳月が経つ.この間,プライマリ・ケアの内容や定義をめぐって,医師や医療関係者の間に幾許かの混乱や誤解があり,臨床医学教育上のプログラムや医療制度へのプライマリ・ケアの表立った組み入れは,遅々として進まなかったのが実情と言えよう.
 プライマリ・ケアとは何かについては,1969年にファミリー・メディスンが20番目の専門医として認定され,1974年頃からはプライマリ・ケア内科(一般内科)の臨床教育プログラムが既に始められていた米国でさえ,1978年の時点で38もの定義があったという.

精神科

精神科プライマリ・ケアのオリエンテーション

著者: 前田久雄

ページ範囲:P.726 - P.727

 日常の診療において,内科医が遭遇する精神科的患者は次のような2群に大別できよう.
 まず第一は本来精神科医が診るべき患者群である.さまざまな主訴をもって内科医を訪れ,診察や検査をもとめるが,身体的な異常は認められない.その中の大半はその結果に自ら納得してあきらめ,受診しなくなるが,一部の患者は納得せずに執拗に内科での診療を求めてやまない.さらに一部の患者が,内科医の勧めや説得に応じて精神科医によるコンサルテーションを受けることになる.

行動医学的アプローチとBrief psychotherapy—短い精神療法

著者: 篠田知璋

ページ範囲:P.728 - P.730

 筆者は長年,内科・心療内科を専門として第一次から三次医療を通して,全人的医療を実践している.全人的医療すなわち"病む人間"とその人のもつ"疾病・疾患"の両者を全人的に取り扱い,癒やす援助をする医療は,第一次のプライマリ・ケアの段階から不可欠なものである.この医学の遂行は,倫理的にはわれわれの良心に恥じない医療をすることであり,また医学的には,より科学的で高度の医療に連なる道でもある.具体的な技法として筆者は行動医学的アプローチを用い,また常時,精神療法を併用している.以下に概要を解説する.

いわゆる不定愁訴

著者: 前田久雄

ページ範囲:P.732 - P.733

●概説
 焦点の定まらない多彩な生理的範囲内の心身の故障感の訴えに終始する状態のことを,内科領域では不定愁訴と呼びならわしているが,精神医学ではこれを心気状態と呼んでいる.ここでは以下,心気状態として述べることにする.
 心気状態を呈しうる疾患は後で述べるように極めて多種多様であるが,状態像そのものにも本質的に異なる2つの状態が含まれていることに留意しなくてはならない.すなわち,多彩な訴えの背景に重篤な疾患にかかっているという強い恐怖や信念があるものと,必ずしもそれがはっきりしないものとがあることである.狭義には前者を心気状態というが,日常臨床的には両者を含めることが多い.両者ともに,長期間にわたって熱心に病院へ通い,反面では医師の説明をなかなか素直に受け入れようとしないところは共通してみられる.しかし,前者が病気への強い恐れに基づく病態であるのに対して,後者ではしばしば満たされない依存欲求や怒りが潜在しており,おのずとその対応のしかたも異なってくる.後者は近年お年寄りに多くみられる.

うつ病,うつ状態

著者: 前田久雄

ページ範囲:P.734 - P.735

●概説
 ここ30年来の世界的傾向として,うつ状態のために医師を訪れる患者の数が確実に増えてきており,プライマリ・ケア医を受診する患者の10〜20%を占めているともいわれる.しかもその約半数は,身体症状を主訴とする仮面うつ病のかたちをとっており,うつ病としての診断・治療に手間取りやすい.
 うつ状態を示す疾患としては,後で述べるようなうつ病(内因性,心因性,身体因性)のほかに,精神分裂病や境界例,さらには老年期痴呆(特にその初期)などもあり鑑別を要するが,その細かな鑑別点についてここで触れる余裕はない.

不安・神経症

著者: 武市昌士

ページ範囲:P.736 - P.737

 ●概説
 不安は一般診療科を受診するすべての患者にみられると言っても過言ではない.
 一般診療科では,不安は診察室や待合室にいる患者が抱く不安などの許容できる正常範囲のものから,身体的侵襲が大きい検査や手術前後の不安,医師患者関係のもつれにより生じる不安,病名告知などの医師が引き起こす不安,臨死場面における不安など,あらゆる状況において不安はみられるため,治療の対象となる不安にはどのようなものがあるのか,さらには不安のもつ役割とその対処法を理解することが大切である.例えば,不安のもつ役割として,家族や職場における葛藤が無意識あるいは意識的に不安症状を引き起こし受診の動機となる場合,重症疾患にみられる不安は症状の存在を否定し,受診を躊躇させる結果,治療が手遅れになる場合など,不安のもつ役割はあらゆる場面で重要となる.

不眠

著者: 新福尚武

ページ範囲:P.738 - P.739

●概説
 睡眠障害のうち睡眠時間の減少(睡眠不足)を主とするものを不眠症と呼ぶが,その限界,定義は必ずしも明確ではない.とくに主観的な不眠の訴えと客観的な睡眠のあり方との間にはかなりの不一致があるので,短時間の問診ではしばしば見誤ったり,見落としたりする.
 出現頻度は正確には分からないが,成人人口では15%ぐらいから30%ぐらいにわたるようである.このうち医療を求めてくるものはその10%ぐらいで,残りの大部分は放置されて自然に消失したり,売薬や酒でごまかされたり,他の障害を引き起こし,あるいはさらにひどくなって医療を受けたりするようである.したがって受診者は不眠患者のうち何らかの理由でとくに医療を必要としたものだと考えなければならない.

器質精神病

著者: 武市昌士

ページ範囲:P.740 - P.741

●概説
 一般には,脳の一次的病変に基づく慢性の精神病(精神障害のうち,病識がなく,一過性あるいは持続的に人格のくずれがあり,症状の程度の重いものを精神病と呼ぶ)を器質精神病といい,脳の感染症,炎症,一酸化炭素や重金属などの中毒,変性,外傷などの外因によって起こる.
 この場合,脳を除いた身体疾患の随伴症状として精神異常を呈した場合を症状精神病,アルコールや覚醒剤などの中毒物質による精神変調は中毒精神病として区別している.

精神分裂病

著者: 長谷川朝穂 ,   黒澤尚

ページ範囲:P.742 - P.743

●概念
 思春期から30歳代にかけて発病,幻覚や妄想など多岐にわたる症状を呈し,慢性の経過をたどる精神病である.わが国での発病率は約0.7%とかなり頻度の高い疾患といえる
 Bleuler Eはこの疾患の基本症状して次の4項目をあげた.
 1)連合弛緩:思考の道筋が崩れ,意味がまとまらず,非論理的となる.
 2)感情障害:感情の動きが鈍くなったり,唐突に変化したりする.
 3)両価性:ひとつの対象に相反する感情を抱く(愛と憎しみなど).
 4)自閉:現実からはなれて自分の中に閉じこもる.

自殺

著者: 岩崎康孝 ,   黒澤尚

ページ範囲:P.744 - P.745

 全国の厚生統計上,死因順位の第7位は自殺である.一昨年1年間の自殺による死亡者数は24,460人と,交通事故による死亡者数の2倍を優に超える.しかも,これは既遂者のみの話である.この背後には数倍と言われる未遂者がひかえている.
 また,自分の患者が自殺した場合,何ら責任がなくとも主治医にはわりきれなさが残る.「自分は,何か大切な見落としをしたのではないか」と.さらに最近では,自殺患者のあとに残された家族による訴訟も起こっている.ここでは,これから自殺しようとしている患者の症状とその対応を述べることにする.

せん妄・健忘症候群

著者: 岩崎徹也

ページ範囲:P.746 - P.747

I.せん妄delirium
●概説
 せん妄は意識障害の特殊な型のもので,軽度ないし中等度の意識混濁に不安,興奮を伴い,錯覚や幻覚ことに幻視を生ずることの多い病像である.つまり,たんなる意識混濁にとどまらず意識内容の変化を来すもの,すなわち意識変容の代表的なものである.しかも,意識混濁,不安,興奮の程度が刻々と変化し,幻覚も出没するなど状態が動揺するのが特徴である.

皮膚科

皮膚科プライマリ・ケアのオリエンテーション

著者: 幸田弘

ページ範囲:P.748 - P.749

 ●皮膚科プライマリ・ケアの意義と条件
 家族歴,既往歴,現病歴の聴取が済むと,いよいよ現症をとるわけであるが,その第一が視診である.すなわち理学的検査の第一歩は患者を視ることから始まるが,この視診によって患者の漠然とした訴えの病因究明の方向を一気に狭めることができることもしばしばである.
 例えば,全身倦怠感を訴えて来院した患者に典型的な蜘蛛状血管腫が多発してみられたならば,その病因として肝疾患をまず第一に考え,その方向に沿って無駄なく検索を進めることができよう.すなわち,皮膚はたんに身体の表面を覆っているだけでなく,ひとつの臓器として種々の働きをすると同時に,全身の各臓器と密接な関連をもって,さまざまな変化を表現することを示している(発汗による体温調節もその一つ).これをdermadromeと呼ぶが,診断上重要な道標であり,少なくともしばしば遭遇する基本的なderma-dromeを熟知することは,皮膚科プライマリ・ケアの基本事項のひとつである.

発疹の記載法と鑑別診断

著者: 山崎雄一郎

ページ範囲:P.750 - P.754

●概説
 プライマリ・ケアという面から考えた皮膚の発疹の診かたについては,皮膚科医が一般に発疹を診断する場合の診かたに比較して,とくに違いがあるわけではない.包括的に考えれば,皮膚科学は内科学のひとつの分野であり,ただその特徴が発疹を主訴としている点にあるからである.
 したがって発疹の診断に当たって重要なことは「そこに存在する発疹が何であるか」ということである.

外用薬の用い方

著者: 渡辺匡子

ページ範囲:P.756 - P.759

●外用剤の種類
 外用剤は基剤と配合剤とから成り立っている.基剤を単独で用いる場合もあるが,組み合わせて1剤として用いることが多い.外用剤を薬効群ごとに分類すると表1のようになる.これらのうち,新薬の開発が進められ,注目されているのはステロイド外用剤,非ステロイド系消炎剤,抗真菌剤である.
 以下これらの適応,禁忌,使用法について述べる.

湿疹・皮膚炎

著者: 田中勝

ページ範囲:P.760 - P.761

●概略
 湿疹と皮膚炎は,多少のニュアンスの違いはあるがほほ同義として使われている.その代表的なものは接触皮膚炎であるが,接触原が不明のものを尋常性湿診として一括する.その他,アトピー性皮膚炎,脂漏性湿疹,貨幣状湿疹,主婦手湿疹,皮脂欠乏性湿疹などが日常の臨床で比較的よく見られるものである.
 接触皮膚炎は一次性のものとアレルギー性のものに分かれ,後者では48時間後に反応がピークとなるため,患者が原因を思い出せない場合もある.尋常性湿疹は急性湿疹と慢性湿疹に分かれるが,それを決めるのは経過の長さではなく,皮膚の肥厚すなわち苔癬化が見られるかどうかである.アトピー性皮膚炎の85%は小児のうちに軽快するが,15%ほどが成人例に移行する.また,家族歴・既往歴に喘息やアレルギー性鼻炎が見られる.脂漏性湿疹はフケ症の人に多く,ビタミンB2,B6が関係しているといわれている.主婦手湿疹は洗剤により皮脂が失われて刺激を受けやすくなっていることによるものであり,ピアノやタイプにより,同様の症状を呈することもあり,別名を進行性指掌角皮症ともいう.皮脂欠乏性湿疹は老人の下肢に好発し,特に冬に悪化する.

薬疹・水庖症

著者: 大坪東彦

ページ範囲:P.762 - P.763

I.薬疹
●概説
 薬疹はいかなる薬剤においても起こり得るということをまず念頭におくことが肝要であろう.発生頻度は一般的に薬物の使用頻度と並行しており,繁用薬物によって生じるものが多い.発症機序としては,アレルギー反応(allergic type)と非アレルギー反応(toxic type)の2つに大きく分けられるが,約80%はアレルギー機序によるものといわれている.ところで薬物の種類と発疹の形態のあいだには,1対1の対応は一般に認め難いが,多少の親和性がみられるものもある.

皮膚感染症

著者: 田中勝

ページ範囲:P.764 - P.765

●概略
 ここでは皮膚感染症のうち,細菌と真菌による代表的なものについて解説するにとどめる.皮膚感染症はさまざまな基礎疾患と関連して生じ,個体の免疫能の低下を示唆することもあるので,それのみとして捉えるべきではない.たとえば,糖尿病やAIDSに生じるカンジダ症はその代表的なものである.

皮膚腫瘍,母斑

著者: 山崎雄一郎

ページ範囲:P.767 - P.769

●概説—どのような患者に多いか(性,年齢,他疾患との関連)
 年齢についていえば,一般的には皮膚腫瘍は高齢者に多く,母斑は小児〜若年者に多い.ことばの使い方について注意すべきは,母斑ということばが2通りの意味で用いられていることである.1つは母斑細胞母斑の意味であるが,これはneural crest由来の母斑細胞の腫瘍のことである.もう1つは皮膚の過誤腫(hamartoma)の意味で用いられる.また皮膚の母斑のみならず,外胚葉系の臓器を主とした内臓諸器官の病変を伴い,ひとつの独立疾患をなす一群の疾患があり,母斑症(phacomatosis)と称する.この代表的なものとしてはレクリングハウゼン病やプリングル病がある.

瘙痒

著者: 三砂範幸

ページ範囲:P.770 - P.771

●概説
 瘙痒は疼痛の弱い感覚とする考えと,全く別の感覚系のものとする考えがあり,今日なお結論はでていない.いずれにせよ,表皮-真皮境界部に存在する神経終末(瘙痒受容器)で痒みの刺激が感受され,その刺激は脊髄-脊髄視床路-視床-大脳皮質という経路で伝わり,痒み発現に至るとされる1).起痒物質は多数知られているが,ヒスタミンが最も重要である.ヒスタミンは皮膚では肥満細胞の顆粒中に存在する.
 皮膚疾患は湿疹・蕁麻疹をはじめ多くのものが瘙痒を伴う.しかし,皮膚病変のない瘙痒もあり,これを皮膚瘙痒症という.ここでは皮膚瘙痒症を扱うが,皮膚を掻破することで生じた二次的皮膚変化を皮膚疾患と混同してはならない.皮膚瘙痒症は一般に中年以降でみられ,限局性瘙痒症と汎発性瘙痒症とがある.

脱毛

著者: 井上かがね

ページ範囲:P.772 - P.773

 脱毛症とは,本来,正常に存在していなければならない毛が,部分的あるいは全体として欠くか,または毛の数や太さが減少して粗になった状態をさす.ヒトにおける毛の成長は,毛包のひとつひとつが異なる周期(mosaic type)を持ち,またその毛の毛周期(hair cycle)によって,毛の数は一定に保たれている.しかし,毛周期の長さは身体各部によって著しく異なっている.頭毛においては成長期(anagen)が2〜6年,中間期(catagen)は2〜3週間,休止期(telogen)は3〜4カ月といわれている.頭毛の数は約10万本といわれており,1日50〜100本ぐらい抜けても生理的と考えられるが,この範囲を越えると毛の存在が疎となり脱毛症といわれる病的状態となる.

眼科

眼科プライマリ・ケアのオリエンテーション

著者: 麻薙薫

ページ範囲:P.774 - P.775

 われわれは感覚器官を通して,外部からさまざまな情報を取り入れるが,視覚情報はその約80%にも当たり,また大脳皮質の約3分の2以上を視覚情報の処理に当てているとも言われている.その視覚情報は精密な光学的器官である眼を通して入力される.
 眼瞼,結膜などの外眼部は眼球の保護を主としてあづかり,容易に視診できる.さらに外界の像あるいは光が通過して網膜に結像するまでの経路,角膜,前房,瞳孔,水晶体,硝子体そして網膜も透明であるため,専門医は特殊光学機器を駆使し,客観的に疾患の局在を診断することができる.しかし眼球より視覚中枢までの伝導系は直接には観察できず,視力,視野に代表される自覚的検査に加えて,視覚誘発電位などの電気生理学的検査,X線CT検査,MRI検査などの画像診断が必要である.

内科医にできる眼科的診察・治療法

著者: 松元俊

ページ範囲:P.776 - P.777

●簡単な器具を用いた眼科的診察
 眼科的診察はほとんどがスリットランプなどの特殊器械を用いなければならず,一般内科医には扱いにくいが,なかには簡便な器具で重要な情報を得られる場合もあるのでその具体的な方法について述べる.

眼底所見の診かたと記載法

著者: 土坂寿行 ,   手塚ひとみ

ページ範囲:P.778 - P.782

 眼底の血管は唯一直視下に観察できるものであり,全身状態を把握するためには重要な所見である.眼底検査は一般的には眼科で検査が行われるが,その都度眼科を受診することは患者にとっても大きな負担であり,できれば受け持ち医が頻回に検査を行いたい.しかし,正確な眼底所見を得るためには若干熟練を要するため,実際には疎まれがちな検査である.
 本稿では気軽に眼底検査が行えるよう,その基本的な手技について述べたい.

結膜炎

著者: 林清文

ページ範囲:P.784 - P.785

●概要
 結膜炎は,充血,眼脂を主徴とし,細菌やウイルスなどの感染,アレルギー,各種の刺激など種々な原因があり,全身疾患に合併するものもある.
 充血には,表在性,鮮紅色の結膜充血のほか,結膜深部,角膜周囲に紫紅色の毛様充血があり,後者は虹彩毛様体炎や角膜炎などでみられるため,鑑別の必要がある.

緑内障

著者: 大野新治

ページ範囲:P.786 - P.787

 緑内障とは,その眼が耐えうる以上の眼圧の亢進によって視機能が障害される疾患群である.
 眼圧の亢進は主に眼房水の流出障害により起こるが,統計学的な正常眼圧(normal pressure)は10〜21mmHg(平均15〜16mmHg)である.しかし個々の眼が健全な視機能を果たすことのできる眼圧は視神経乳頭部の神経軸索流,血液供給量や灌流圧などの要因によって異なるので個体の正常眼圧は健常眼圧(normativepressure)という概念をとる必要がある.

白内障

著者: 清水公也

ページ範囲:P.788 - P.789

●概説
 白内障とは眼の中の水晶体(カメラにたとえるとレンズに相当する)が濁った状態である.進行すると視力低下を招くが,手術により治癒可能である.ほとんどが老人性白内障でKini1)らは視力低下の原因のうちで老人性白内障が占める割合は,65歳から74歳では18%,75歳から85歳では46%であると報告している.

麦粒腫と霰粒腫

著者: 井上洋一

ページ範囲:P.790 - P.791

●麦粒腫と霰粒腫
 麦粒腫と霰粒腫は眼瞼疾患の代表的なもので,トラコーマの撲滅された現在,外見上目立ち,炎症を伴う疾患の性質上,内科一般医を受診することも少なくない.

耳鼻咽喉科

内科医にできる耳鼻科的診察・治療法

著者: 野末道彦

ページ範囲:P.792 - P.793

●耳の異常について
 耳に関する症状の主なものは耳痛・耳漏・耳鳴り・難聴などがある.このような症状を起こす疾患はいろいろあるが,ともかくまず外耳道や鼓膜などに病的所見があるかないかをみる必要がある.最近は額帯鏡を必要としない手持ちのオトスコープがあるので,耳鼻科医でなくても所見をとることは可能である(図1).
 もし耳垢や耳漏がある場合は,綿棒などできれいにしてから見る必要がある.そして外耳炎・中耳炎などの診断は可能であろう.このような疾患は全身的に抗生物質や消炎鎮痛剤を投与することにより,1週間前後で治癒することが多い.

咽頭炎・喉頭炎

著者: 進武幹

ページ範囲:P.794 - P.795

●概説
 咽頭・喉頭は解剖学的に上気道に属し,連続した管腔臓器であり,急性炎症ではかぜ症候群の部分症としてみられ,いわゆる上気道炎として咽頭,喉頭粘膜およびリンパ組織に発症する.しかし,局所的に所見が強いこともあり,とくに幼少児の喉頭炎は呼吸困難が加わり,要注意である.なお,咽頭では口蓋扁桃に炎症が主在するときは扁桃炎として区別する.主病変の所見より,次のように病型は分類されている.

咽喉頭異常感症

著者: 織田正道

ページ範囲:P.796 - P.797

●概説
 咽頭・喉頭に異常感を訴えて来院する患者は最近増加傾向にある.このような異常感は,局所の病変で起こることもあれば,全身的疾患の一症状として起こる場合もある.さらに精神的要因によって起こることもある.したがって,訴えに見合うような病的所見が局所に見いだせないものも少なくない.このような場合を総称して"咽喉頭異常感症"という.その取り扱いのなかで最も重要なことは,咽喉頭,上部食道の悪性腫瘍を除外診断することである.

鼻アレルギー

著者: 向高洋幸 ,   野末道彦

ページ範囲:P.798 - P.799

●概説
 鼻アレルギーは鼻粘膜で起こるI型アレルギーである.その代表的な抗原としては,通年性のものとしてハウスダスト,ダニ,季節性のものとしてスギ(2月〜4月),イネ科(5月および9月),ヨモギ(8月〜9月),ブタクサ(8月〜9月)などが知られている.
 近年,鼻アレルギーの患者数は増加の傾向にあり,その要因として,大気汚染,ストレス,食生活の変化などが挙げられているが,結論は得られていない.

中耳炎・中耳カタル

著者: 小名愛

ページ範囲:P.800 - P.802

●概説
 中耳炎(otitis media,Mittleohrentzündung)とは,中耳腔粘膜の炎症である.中耳腔は図1のように3),鼓室を中心に耳管や乳突洞,乳突蜂巣と交通し,含気蜂巣と呼ばれる骨性の小さな部屋が入り組んでいて,複雑な構造をしている.そのうえ,聴力に関与する耳小骨を含む上鼓室と中鼓室の間はくびれて最狭部をなし,2つの領域に分かれているので,相互の空気や液の交流が困難である.蜂巣の発育状態には個人差があり,中耳炎の経過と大いに関連する.また中耳腔は上咽頭に通じる細長い耳管によって外界と交通しているので,感染する機会が多い.以上のように中耳の特殊な構造が中耳炎の発症,経過に密接に関与している.
 中耳の炎症は細菌感染,ウイルス感染,耳管閉塞などによって起こり,アレルギーも関与すると考えられている.

めまいの鑑別診断

著者: 渡邉宏

ページ範囲:P.804 - P.805

●概説
 「dizziness(動揺感)で無く,vertigo(回転感)だから,メニエール病」というわけにはいかぬ.僅かな頻度ではあるが,めまいを訴えない蝸牛型メニエール病というタイプもある.メニエール病が末梢性めまいのかなりの割合を占めるといっても,めまい全体からみると12.3%1)と1割強程度にすぎぬ.重要なことは,内科医が最も得意とする高血圧症,低血圧症,脳動脈硬化症などに起因するめまいのほうが,圧倒的に多いということである.

耳鳴り

著者: 森川郁郎

ページ範囲:P.806 - P.807

 耳鳴りとは外部からの明らかな音源がないにもかかわらず感じる音感をいう.これは一部の特殊な場合を除いて,患者の表現によるしかない漠然とした症状であり,その原因,病態もいまだにほとんど明らかでない.したがって,耳鳴りについての的確な診療体系も確立されておらず,臨床医が苦慮しながら個々に診療しているのが現状であろう.
 ここでは耳鳴りの性質上どうしても概念的なものになるが,その取り扱いの現況を簡単に述べてみる.

頭頸部の腫瘍

著者: 折田洋造

ページ範囲:P.808 - P.809

●概説
 頭頸部の腫瘍を部位別に以下に概説する.
 1)耳 良性は極めて稀で,悪性では癌が外耳道や中耳に稀に発生し,当該部位の慢性炎症と関連がある.
 2)鼻・副鼻腔 良性では血管腫や乳頭腫などが鼻腔に,嚢胞や骨腫などは副鼻腔に多い.悪性では癌が大部分で,副鼻腔,殊に上顎洞に好発し,次いで鼻腔に多い.男性に多く,40〜50歳代に好発し,慢性副鼻腔炎との関連が深い.悪性リンパ腫は鼻腔に好発し,悪性黒色腫,Wegener肉芽腫症,悪性正中肉芽腫などが稀にみられる.

鼻出血

著者: 猪忠彦

ページ範囲:P.810 - P.811

 小児に限らず高齢者であっても,鼻出血の大部分はその原因が単純で,出血部位も処置しやすいところにあって止血も容易である.一方,外傷や血液疾患や全身性疾患を原因として鼻腔深部から出血していて止血が困難なことも少なからずある.

副鼻腔炎

著者: 大石公直

ページ範囲:P.812 - P.813

●概説
 副鼻腔炎には急性と慢性があり,その成立機序にはいろいろな要素が加わって複雑である.かぜなどのウイルス感染後の二次感染から始まり慢性疾患に移行するが,その背景には鼻腔や副鼻腔の形態異常,アレルギーの関与,局所粘膜防御機能の低下,鼻腔・副鼻腔の換気障害,生活環境などが考えられている.特殊な例として,上歯の感染から生じる歯陸上顎洞炎がある.

小児科

発熱

著者: 宮崎澄雄

ページ範囲:P.816 - P.817

 発熱は小児における最もポピュラーな臨床症状のひとつである.発熱のメカニズムは図のように説明されている.すなわち,外因性発熱物質および食細胞に作用して産生される内因性発熱物質が体温調節中枢に作用する.そしてプロスタグランディンEやサイクリックAMPなどの伝達物質が産生されて発熱が生ずる1).なお,小児の基礎体温は高く,37.5℃以上を有意の発熱としている.

腹痛

著者: 大塚親哉

ページ範囲:P.818 - P.819

 幼児期から小児は腹痛を訴えることができる.おそらく,プライマリ・ケアで必要になる小児の腹痛の訴えは10〜20%と思われる1).比較的多い訴えであるが,その鑑別診断はそれほど容易ではない.たとえば幼児の急性虫垂炎の鑑別診断は困難なことがしばしばみられる.その理由として,腹痛の部位が特定できないことが挙げられる.特に幼児では,疼痛部位を尋ねると,大部分の患児が臍部を指さす.
 本稿では腹痛を訴えて来院する小児の主な疾患を取り上げて,その鑑別診断,治療法,さらに内科医が他科へ診療依頼をするタイミングなどについて述べる.

嘔吐,下痢

著者: 大塚親哉

ページ範囲:P.820 - P.821

 嘔吐も下痢も日常外来でよくみる症状である.しかし,うっかりするとどちらも脱水状態に陥り,重大な事態に発展しかねない.とくに乳児では細心の注意をもって経過をみるべきである.
 嘔吐を主訴とする疾患のなかには,救急処置を必要とする疾患がある.とくに外科的処置を必要とする疾患もあるので,鑑別診断を手ぎわよく進めるべきである.対症療法にのみこだわると思わぬ失敗をする.

発疹

著者: 武内可尚

ページ範囲:P.822 - P.824

●鑑別すべき疾患と診断方法
 小児期にみられる麻疹などの古典的発疹性疾患は,感染性発疹症infectious exanthems1)とも呼ばれ,小児の感染症の中で重要な位置を占めている.これらの中から,麻疹,風疹,水痘,突発性発疹,猩紅熱,伝染性紅斑,手足口病,伝染性膿痂疹,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群,川崎病の10疾患を選び,表に鑑別の要点をまとめた.
 発疹は色調,形状,大きさ,発現部位,癒合しているか否か,痒みの有無,時間的経過などを記載する.その他の随伴症状としては,発熱,咳嗽,嘔吐,下痢,腹痛,咽頭痛,関節痛などであり,診るべきポイントとしては,一般状態,眼や口腔・咽頭粘膜の所見,リンパ節腫脹の有無などである.典型例では発疹を見ただけで診断可能ではあるが,年齢,季節,環境,ワクチン歴などの疫学的要素と諸症状を総合的に考慮したうえで診断に持って行くのが本来の形である.小児では重複感染も少なくない.

小児の常用薬用量

著者: 武内可尚

ページ範囲:P.826 - P.829

 小児の薬用量は体重あたりで計算すると成人に比べ一般に多くなるが,体表面積の割合からみると,成人量と似通った量になる.
 体表面積(cm2)=5.99√体重(g)×身長(cm)で,日本人の標準的体格で計算すると,新生児0.2m2,6カ月児0.44m2,2歳児0.6m2,4歳児0.75m2,10歳児1.0m2,成人1.68m2となる.これを体重で比較すると,新生児0.07,10歳で0.03,成人では0.025となり,乳児が体重に比べ体表面積が大きいことがわかる.

産婦人科

子宮筋腫

著者: 鈴木秋悦 ,   遠藤芳広

ページ範囲:P.830 - P.831

●概説
 子宮筋腫は子宮筋層の平滑筋細胞に由来する良性腫瘍であり,女性性殖器に発生する腫瘍のなかで最も頻度が高いといわれている.月経発来以前にはほとんどみられず,性成熟期にその頻度は増加し,30歳以上では約20%に認められる.更年期,特に閉経後では子宮筋腫は増大せず,むしろ縮小あるいは消失する場合が多い.
 子宮筋腫の発生要因として年齢,内分泌異常,肥満体質および遺伝などが考えられているが,内分泌異常の関与が重要視されている.卵巣性ステロイドホルモンのなかでエストロゲンの分泌過多あるいは過剰刺激が子宮筋腫の発生発育と密接な関係にあることは明らかであるが,他の性ステロイドホルモンの分泌平衡失調も影響していると考えられている.

子宮頸癌

著者: 安田允 ,   青木雅弘

ページ範囲:P.832 - P.834

●概説
 子宮頸癌はわが国における女性性器癌のうちで最も罹患率が高く,次いで卵巣癌,子宮体癌の順である.頸癌の死亡率は1950年に18.5(人口10万対)であったものが,昭和40年代に集団検診が行われ,O期やI期の早期癌が多数発見された結果,治癒率は向上し,最近の死亡率は半減している.この傾向は55歳以下で著明で,高齢者では明らかではないが,このことは早期診断技術の向上と子宮癌検診の普及による(表1).
 子宮癌の発生は扁平上皮化生に何らかの異常が生じ,異形成,上皮内癌,浸潤癌の過程が認められている.また最近ではヒトパピローマウイルス(HPV)の16型,18型および31型,34型の感染が引き金となって発生するとの説が強まっている.内科疾患との関連性は特にない.

不正性器出血の鑑別診断

著者: 国本恵吉

ページ範囲:P.835 - P.837

●不正性器出血の成因
 不正性器出血の診断では,その症状の成因となり得る疾患が非常に多岐にわたることから,個別的に鑑別していくことが重要である.
 このことから,不正性器出血を訴える症例に遭遇した場合,表1のように,まず原疾患を想起することが必要である.

骨盤内感染症

著者: 淵勲

ページ範囲:P.838 - P.839

●概説
 PID(pelvic inflammatory disease)の発生は10代後半から20代前半の若い世代に多く,複数のsexual partnersをもつ場合,monogamous(一夫一婦)の場合より4.6倍もあるといわれ1),また年々増加傾向にある2)
 PIDはNeisseria gonorrhoeae(N-gonorrhoeae)によるものが多いということは以前より知られた事実であるが,最近Chlamydia trachomatis(C-trachomatis)が流行し,その王座を奪う趨勢にある.他にMycoplasma hominus,Ureaplasma Urealyticumも関与するが,その報告はほとんど見当たらない.

子宮外妊娠,卵巣嚢腫茎捻転

著者: 関賢一 ,   斉藤寿一郎

ページ範囲:P.840 - P.842

●概説
 子宮外妊娠(以下,外妊と略),卵巣嚢腫茎捻転(以下,茎捻転と略)は,いわゆる婦人科急性腹症と呼ばれる疾患の中で代表的なものであり(表1)1),ともに急激な下腹痛を主症状とするため,まず最初に内科医を受診することも稀でない.
 外妊は妊卵着床部位の腫大や妊卵の腹腔内への流産,着床部位の破裂による腹腔内出血のための腹膜刺激症状のため疼痛を来し,また茎捻転は組織や血管の絞拒による組織の変性や壊死が疼痛の原因となることが多い(実際には茎捻転は卵巣嚢腫のみに起こるのではなく,水腫状に腫大した卵管や副卵巣嚢腫などの付属器にもかなりの頻度で発生する).さらに両者とも慢性に経過した場合には,周囲組織との癒着や腹膜炎併発などによりイレウス症状を起こし,それが疼痛の原因となることもある.

腟炎—トリコモナス,カンジダ

著者: 武田秀雄

ページ範囲:P.844 - P.845

●概説
 腟炎は女性に特有な疾患であり,少女期から高齢婦人までのあらゆる年齢層の女性に起こる腟腔内の炎症であるが,トリコモナス(原虫),カンジダ(真菌)による腟炎は比較的成熟期の婦人に多くみられる.これらはいわゆる性病ではないが,性交によって人から人へ感染するため,その機会が多い成熟期婦人に頻度が高いのであろう.また入浴とか下着を介しても感染しうるため,母親から女児への感染の可能性もあることを銘記しておきたい.
 腟腔は元来腟粘膜の上皮細胞がグリコーゲンを多く含有し,常在菌であるデーデルライン桿菌がこれを分解して乳酸を産生するために常に酸性を保ち,外部からの細菌の侵入を防御しているが,身体の防御機構が著しく低下したり,抗生物質の投与によって腟内常在菌が抑制されると,菌交代現象として真菌(カンジダ)の発生をみることがある.

妊娠と高血圧,妊娠中毒症

著者: 北井啓勝 ,   金子宜淳

ページ範囲:P.846 - P.847

●概説
 1.妊娠中毒症の定義(日本産婦人科学会による)
 妊娠に高血圧,蛋白尿,浮腫の1つもしくは2つ以上の症状がみられ,かつこれらの症状が単なる妊娠偶発合併症によるものでないものを妊娠中毒症という.
 注1)妊娠中毒症は単一疾患ではなく,いくつかの病態の複合した症候群と考えられる.
 注2)最近国際的には妊娠中毒症を狭く解釈して,高血圧を主症状とする考え方が強い.しかし,わが国では当分の間,浮腫のみ,蛋白尿のみの場合でも妊娠中毒症に含める.

更年期障害

著者: 本多洋

ページ範囲:P.848 - P.849

●概説
 更年期障害とは,読んで字のごとく婦人の更年期に起こってくるさまざまの身体的・精神的な異常症状を指していう言葉である.
 さらに詳しくいえば,心身の異常症状ではあるけれども,それが当事者の婦人に著しい苦痛として感じられるときのみをいい,あまり苦痛と感じられていなければ,これを更年期症状といって疾病とはしない,という考え方がある.これに従えば,婦人の更年期に起こる心身の自覚的苦痛を伴う変調を更年期障害ということになる.

妊娠時に注意を要する薬物

著者: 柳沼忞

ページ範囲:P.850 - P.852

 現在,薬物の数は非常に多く,内科疾患の治療には大いに役立っていると考える.しかし,妊婦(胎児)に対して安全であることが知られている薬物はごく限られたものにすぎない.そして,この限られた薬物以外のすべての薬物は,妊婦にとって危険といいうる.それは,妊婦に対して安全ということは,比較的な問題でしかないからである—そこで,私は内科医の皆さんに,ある疾患あるいは症状に対して安全なほうの薬物を記憶しておかれることをいつもおすすめしている.あるいは,このようなことが簡便に書かれた小参考書を診療の際に座右に置かれることをおすすめする.この意味で,次の本は私の訳で恐縮であるが大変便利である.
 「妊婦のための薬剤ハンドブック第2版」(Handbook for Prescribing Medications during Pregnancy, 2nd ed,メディカル・サイエンス・インターナショナル刊,1988)
 次に,内科医の先生に役立ちうると思われる事項を簡単に説明する.

月経異常

著者: 伊藤博之

ページ範囲:P.853 - P.855

●概説
 正常な月経とは一定の周期日数(25〜38日),持続日数(3〜7日),経血量(20〜120g)を有し,病的な随伴症状もなく自然に止血する子宮内膜からの出血をいう.月経異常とはこれらのいずれかに異常を来したもの,ならびに月経発来,閉経の異常を加えた症候群であり,表1にその種類を示す.月経異常の原因は多岐にわたるのでその検索は容易でない.

整形外科

腰痛の鑑別診断

著者: 土方貞久

ページ範囲:P.856 - P.859

 腰痛を訴えて来院する患者は多く,整形外科の外来患者の15〜20%にも及ぶが,これらは腰部に痛みを訴えるものばかりでなく,腎部から大腿後面,あるいは大腿外側部の痛みや,さらに下腿の内・外側から足背,足底部にまで至る痛みや,しびれ,冷感,つっぱりなどを伴うこともある.
 これらの多くが腰椎部の疾患に起因し,脊椎,椎間板,腰筋,下肢に分布する神経のみならず,一部血管系の障害として上記のごとき訴えを来し,包括的にいわゆる腰痛症として診断・治療されているが,その原因疾患は多岐にわたり,その確定診断は必ずしも容易でない.

変形性関節症—頸椎症と膝関節症

著者: 岡元勉 ,   斉鹿稔

ページ範囲:P.860 - P.861

I.頸椎症
●概念
 頸部椎間板の退行変性を基盤として,頸,肩,腕にかけての神経痛様疼痛あるいはしびれ感,運動障害が出現する一連の病変があり,一般に頸椎症,頸部脊椎骨軟骨症,頸部椎間板症などの病名がつけられる.
 この退行変性は,頸椎単純X線像(前後像,側面像,斜位像)で,椎間板狭小,骨棘(前棘,後棘),鉤椎結合部骨変化,椎間孔狭小,前方・後方へのずれなどとして確認される(図).

胸郭出口症候群

著者: 今釜哲男

ページ範囲:P.862 - P.865

●概説
 日常私達の外来診察で頸・肩・腕に疼痛,しびれ,冷感,こわばり,手指の運動障害を有する患者に遭遇する機会は多い.その原因疾患として胸郭出口症候群は代表的な疾患のひとつである.
 本症は,胸郭出口部において種々の原因により腕神経叢や鎖骨下動・静脈が直接圧迫され,肩甲部や上肢に多彩な神経症状および血管圧迫症状をもたらす疾患として注目されている.

肘管症候群,手根管症候群,外側大腿皮神経症候群

著者: 堀内行雄

ページ範囲:P.866 - P.867

I.肘管症候群cubital tunnel syndrome
 尺骨神経溝の入口部から尺側手根屈筋の二頭間に張るOsborne靱帯の出口までを肘管と呼び,この部は尺骨神経の移動性が極めて少なく,さらに中枢の部分では肘関節の運動により神経幹に外力が加わりやすい.
 原因としては,上腕骨外顆偽関節後の外反肘(遅発性尺骨神経麻痺),変形性肘関節症,先天異常(滑車上肘筋,fibrous bandの存在,内反肘など),ganglion,慢性関節リウマチ,外傷に続発するものなどがあげられる.

骨粗鬆症—大腿骨頸部骨折と脊椎圧迫骨折

著者: 紫藤徹郎

ページ範囲:P.868 - P.870

●骨粗鬆症とは
 骨粗鬆症とは,1)骨量が減少して,骨折などの危険性が増し,支持機能としての役割に破綻を来した状態で,2)かつ骨組織そのものの構成成分は正常に保たれているものをいう.
 骨組織では,骨芽細胞骨細胞による骨増殖とCa,Pなどのミネラル沈着が,一方,破骨細胞では既成の骨組織を吸収して,そこに新たな骨形成を誘導して骨改造が行われている.ここに骨形成と骨吸収のバランスの障害,すなわち骨吸収が優位であると骨粗鬆が進むことになり,かならずしも病的なものばかりでなく,正常でも加齢とともにみられる過程である.そして粗鬆化とともに,骨の構造物としての支持機構に破綻を来すと,種々の症状がでてくることになる.

転移性骨腫瘍

著者: 高田典彦

ページ範囲:P.872 - P.875

 骨転移癌は続発性骨腫瘍のうちでは最も発生頻度の高いものであり,原発性骨腫瘍に比較するとはるかに多い.一般に癌の骨転移というと予後不良の代名詞のごとく考えられ,その治療も対症的なものになりがちであるが,骨転移癌は確かに進行期(Advanced stage)ではあるが,原発巣により経過が短いものから長期間の生存が期待されるものまでいろいろあり,必ずしも末期(End stage)ではないことを理解しておくことが大切である.ここでは骨転移癌の診断と治療法について述べる.

その他

乳房腫瘤の鑑別診断

著者: 内田賢 ,   桜井健司

ページ範囲:P.876 - P.877

 乳房の異常で外科の外来を受診する女性の訴えは,乳房の腫瘤と疼痛,それに乳頭からの異常分泌がほとんどを占める.
 乳房に異常があると,多くの患者はやはり乳癌を心配する.外科以外の科の医師が乳腺疾患について相談を受けた場合,多くは良性の疾患であろう.しかし,乳癌を見落としたり誤った判断をしたら,乳房が体表にあるだけに,後で言い訳がきかない.乳房の疾患を診たとき,外科へはどの時点で依頼をすべきか,そのタイミングを心得ておきたい.

鼠径ヘルニア

著者: 藤田哲二 ,   桜井健司

ページ範囲:P.878 - P.879

 鼠径部のヘルニア(groin hernia)には鼠径ヘルニア(inguinal hernia)と大腿ヘルニア(femoral hernia)がある.
 鼠径ヘルニアは外鼠径ヘルニア(indirect hernia)と内鼠径ヘルニア(direc hernia)に分類される.外鼠径ヘルニアの原因は腹膜鞘状突起の開存と内鼠径輪の開大であり,内鼠径ヘルニアの原因は鼠径管後壁の脆弱化である.外鼠径ヘルニアは男児に多く見られ,右側で精巣下降が遅れることから右側に多い.内鼠径ヘルニアは高齢者に頻度が高い.

著者: 穴沢貞夫 ,   又井一雄 ,   桜井健司

ページ範囲:P.880 - P.881

 いわゆる「痔」とは肛門疾患を総称する言葉で,いぼ痔(痔核),きれ痔(裂肛),あな痔(痔瘻)などが代表的なものである.この他にも肛門には多彩な病変が発生し,その診療は外科の中でも最も経験を要する分野である.したがって内科医が肛門診を苦手とするのはやむを得ないことかもしれない.しかし直腸癌の半分は肛門診によって診断可能の位置にあること,また肛門診には体外から腹腔内を診る唯一の理学的診療法である指診が含まれていることなどから,おっくうがらずに肛門を診る習慣をもつことが大変重要である.

口内炎と舌癌

著者: 赤坂庸子

ページ範囲:P.882 - P.883

 口内炎の病態は,局所的なものから全身疾患に続発するものまで多岐にわたり,臨床症状も多様なため,診断や治療に苦慮することも稀ではない.一方,舌癌も単純な舌炎や潰瘍との鑑別が困難なことはしばしば経験されることである.
 口内炎も舌癌も患者が最初に内科に受診することは比較的多い.したがって,両者の鑑別とくに舌癌の早期診断は,予後を左右するうえで重要である.本稿ではその点にポイントをおいて概説する.

尿路結石症

著者: 中西正一郎 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.884 - P.885

 尿路結石症は泌尿器科領域における最も主要な疾患のひとつである.一方,結石による疼痛を主訴とし,内科,救急外来を受診する例も多く,内科医にとっても常に念頭におくべき重要な疾患と思われる.

前立腺肥大と前立腺癌

著者: 仁藤博

ページ範囲:P.886 - P.889

 前立腺は男子の膀胱の出口(膀胱頸部)から後部尿道にかけて尿道を輪状に取り巻くように位置し,大きさはおよそ横径3.5cm,縦径2.5cm(重さ約15g),栗の実形の分泌臓器である.腫大すると尿道を外から圧迫し,排尿困難をもたらす.前立腺は加齢と共に増殖性変化を来すが,45歳をすぎると急速に腫大し,臨床的には60歳以上になって肥大症としての症状を呈することが多い.
 わが国も高齢者が人口の10%以上を占める時代となり,前立腺肥大や前立腺癌の患者が近年増加している.これらの十分な理解とケアは,泌尿器科医のみならず老人医療に携わるすべての医療従事者にとっても重要となっている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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