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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻7号

1989年07月発行

雑誌目次

今月の主題 内科エマージェンシー 救急基本手技

救急蘇生法

著者: 新博次 ,   高野照夫

ページ範囲:P.1076 - P.1081

 心肺機能の停止に際し,種々な方法により呼吸ならびに血液循環を維持し,各臓器の不可逆的障害を防止することを目的として行う手技が心肺蘇生法である.わが国においても「救急蘇生法の指針」1)が日本医師会によって昭和58年度に再編されるなど,その重要性が認識されるに至っている.
 救急蘇生法の指針によれば,特殊な器具や薬品を用いることなく行える気道の確保,人工呼吸,胸骨圧迫心マッサージからなる一次救命処置と,医師または十分に訓練を受けた者が医師の指導下にその一部を行うものとされる二次救命処置,すなわち器具を用いた気道確保,静脈確保や救急薬品の使用を含む人工的循環維持,そして心停止に対する処置を行うものとに分けられている.図1にAからIまでの心肺蘇生法の手順を図示する.このうちA,B,Cの3段階は一次救命処置として行われるが,必要に応じて二次救命処置がとられなければならない.本項では,これら救急蘇生法の手技につき解説する.

除細動

著者: 水野杏一 ,   宮本明

ページ範囲:P.1082 - P.1083

 除細動(defibrillation)とは,心室細動の心臓に大量の電気エネルギーを通電し,心臓全体を脱分極状態にすることにより正常洞リズムに回復させようとするものである.心房細動や上室性または心室性頻拍を正常洞リズムに戻すことをcardio-versionといい,defibrillationとは区別する.

循環動態のモニタリング

著者: 一色高明 ,   山口徹

ページ範囲:P.1084 - P.1087

 救急患者とくに重症の救急患者を管理する際には,初期の患者管理の良し悪しが予後に反映される場合も少なくないため,その循環動態を正しく把握し,時々刻々の変化にすばやく対応することが要求される.
 モニタリングはこのような必要性に応えることを目的としており,その指標となるものの条件として,①循環動態の根幹をなす心臓からの血液の拍出動態を反映するものであること,②技術的に容易で管理が複雑でないこと,③患者への肉体的負担の少ないもの,などがあげられる.これらの条件を充たして現在汎用されているものには中心静脈圧,肺動脈圧,動脈圧などがある.

緊急検査データの読み方と対応

末梢血検査

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1088 - P.1089

 エマージェンシーの症例を受け入れる態勢のある教育病院では,自動血球計測器にて末梢血の情報を簡単に得ることが可能となった.末梢血検査結果から,どうエマージェンシーに対応してゆくか,末血塗抹標本も含めて述べてゆく.

血液ガス

著者: 樅山幸彦

ページ範囲:P.1090 - P.1091

 血液ガスは比較的簡単に採血,測定でき,酸塩基平衡障害の診断に必須の検査である.pH,PaO2,PaCO2,HCO3-を総合的に判断して,基礎疾患の推定や重症度の判定に役立てる.

電解質

著者: 渥美義仁

ページ範囲:P.1092 - P.1093

 電解質の異常値で緊急性のある状態は種々あるが,今回はNa,Kに限って述べる.これらの電解質の異常が単独で診断されることは少なく,臨床経過,症状,他の検査と関連して異常値が得られ,考えていくべきことはいうまでもない.

BUN,クレアチニン

著者: 家口慶彦

ページ範囲:P.1094 - P.1095

 血清中の非蛋白含窒素物質(non-protein nitro-gen;NPN)の終末代謝産物である尿素,クレアチニンは主に腎を介して排泄されるため,これらの血清中濃度は腎機能の指標として利用される.そして救命救急を要するような病態において,これら検査値の異常を認める場合がある.本稿では内科エマージェンシーにおける尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cr)の臨床的意義とその対応について述べる.

肝機能検査

著者: 神山敏

ページ範囲:P.1096 - P.1097

 肝臓は代謝,解毒,排泄,胆汁分泌など多様な機能を営んでおり,そのため多数の異なった肝機能検査が存在する.当院では緊急時の肝機能検査として,血清ビリルビン,GOT,GPT,LDH,ALP,プロトロンビン時間,アンモニアを採用している.

凝固系検査

著者: 渡辺健太郎

ページ範囲:P.1098 - P.1099

 出血傾向のある患者へのアプローチの中で最も大切なものは,家族歴,現病歴,身体所見である.とくに現病歴では,①以前から出血傾向があったか(抜歯時,生理時の止血状態),②基礎疾患の有無(白血病,肝障害,進行癌など),③投薬内容(抗凝固剤など)が重要である.身体所見では,出血の部位,程度,出血斑などの特徴が重要であり,とくに出血が現在も続いているか,あるいは大きな出血の有無の判定は,補充療法を含めた迅速な治療開始の判断に欠かせない.検査値は以上のような情報を得たうえで読まれるべきである.

グラム染色

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1101 - P.1101

●グラム染色の特徴
 グラム染色は,緊急の場合に数分間で行える検査である.
 グラム染色に用いた検体に雑菌の汚染がない場合には,顕鏡される細菌は原因菌として考慮される.

髄液検査

著者: 竹内郁男 ,   高木誠

ページ範囲:P.1102 - P.1103

●内科エマージェンシーにおける髄液検査の適応
 1)中枢神経系の感染症
 ①急性髄膜炎 とくに急性細菌性髄膜炎は,一刻の診断の遅れが致命的となるので,猶予なく髄液を採取して診断を確定し,適切な抗生物質を開始しなければならない.この疾患では,どの検査より髄液検査が優先する.
 ②急性脳炎 この疾患が疑われても,神経学的な局所症状を認め,頭蓋内占拠性病変の疑いがあるときは,まずCTを行い占拠性病変を否定した上で髄液検査を行う.

付)簡単にできる緊急検査

著者: 河野均也

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 近年,Dry Chemistryや免疫学的手技を応用した簡易検査法の開発が急速に進み,多種多様な検査を緊急検査として実施できるようになった.ここでは,bed sideで簡単に実施できるものだけを取り上げ,一覧表とした.

症状からみた内科エマージェンシー

ショック

著者: 中村正人

ページ範囲:P.1106 - P.1109

 ショックは,臨床医にとってその診断,治療を行う上で一刻の猶予も許されない重篤な病態で,放置すればその多くは死に至る.

意識障害—昏睡

著者: 畑隆志

ページ範囲:P.1110 - P.1114

●まず行うべきこと
1)意識障害があるか?昏睡かどうか?の診断
 意識障害があるかないかの診断は,それが重症であればそれほど困難ではない.しかし,軽症の意識障害の場合には,痴呆や失語症,うつ状態などと鑑別することはけっして容易ではない.
 意識障害の重症度は,患者を覚醒するに必要な刺激の種類と強さ,刺激に対する反応が適切か否かにより判定する.意識障害の中で,自発的にも,言語刺激にも,さらには痛覚刺激に対しても開眼しない状態を昏睡という.半昏睡(semicoma),昏睡(coma)または深昏睡(deep coma)と分けることもある.この場合,半昏睡では痛覚刺激やその他生体にとって不都合と考えられる刺激に対して,払いのけや逃避など,ある程度の合目的的な運動がみられることもあり,対光反射,角膜反射,咳嗽反射,毛様体脊髄反射など,脳幹に中枢をもつ反射は保持されている.一方,昏睡(深昏睡)では,原則として疼痛刺激に対する反応や角膜・対光・嚥下・深部反射なども減弱ないし消失し,最低限の生命維持機構のみが働いている.

意識障害—せん妄

著者: 重松一生 ,   宇高不可思 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.1116 - P.1118

 せん妄は,広範な脳代謝の異常によって生じた,認知機能の一時的な障害を特徴とする精神症候群と定義され1),日常の臨床でしばしばみられる病態である.せん妄とは異常行動そのものではなく,意識混濁を背景にして幻覚や精神運動興奮を示す状態のことをさす.このような状態は種々の身体疾患や脳疾患を基礎に発生するが,通常は一過性,可逆性である.しかしこれに伴う異常行動は時として生命予後にも影響をおよぼすので,早期診断と適切な治療が必要である.

意識障害—一過性の意識消失

著者: 三田村秀雄

ページ範囲:P.1119 - P.1121

 一過性の意識消失はさまざまな原因で起こり(表1),その予後も良好なものから不整脈のように突然死をきたすものまで多彩である.

激しい頭痛

著者: 黒沢崇四

ページ範囲:P.1122 - P.1123

 救急治療を必要とする頭痛の多くは,何らかの基礎疾患を原因とする二次性頭痛症であるため,診断の遅れはときに致命的な結果を招くこともある.したがって,放置すると危険と思われる頭痛に遭遇した場合,迅速に鑑別診断を行い,治療にすすむ必要がある.

痙攣

著者: 亀井徹正

ページ範囲:P.1124 - P.1125

●まず行うべきこと
 1)呼吸状態,脈拍(血圧),心音の確認,チアノーゼの有無.心要なら,蘇生を行う.
 2)意識状態,瞳孔,眼位,項部硬直,上下肢の麻痺,左右差の有無.さらに,頭部外傷の有無および体温のチェック.

回転性めまい

著者: 日野英忠

ページ範囲:P.1126 - P.1127

 回転性めまいは周囲のものがぐるぐる回るもので,その原因の多くは末梢前庭性疾患である.しかし小脳や脳幹の血管障害をはじめとして,中枢性疾患においても回転性めまいは認められる.本症候を呈する代表疾患は,鑑別診断のポイントの項に示す.

急速な四肢麻痺

著者: 北野邦孝

ページ範囲:P.1128 - P.1129

 本項では,「急速な四肢麻痺」を呈して緊急な対応の必要な脊髄疾患,末梢神経障害,神経筋接合部疾患,筋疾患の主なものについて述べる.

胸・背部痛

著者: 石村孝夫

ページ範囲:P.1130 - P.1134

 胸痛は日常診療においてよく遭遇する症状であるが,その中には直接生命に関わり緊急を要するものから,生命の危険のないものまでさまざまである.原因疾患は胸部のみならず,ときに腹部の臓器の障害のこともありうる.背部痛については「腰痛,頸肩部痛を除く背面,胸椎レベルの痛み」とする.

呼吸困難

著者: 蝶名林直彦

ページ範囲:P.1136 - P.1140

 「呼吸困難」は,程度の差はあれ,内科医として頻繁に遭遇する重要な臨床徴候であるが,発症のしかた,その後の経過,程度によって,きわめて緊急な対応を要するものから,しかるべき検査をした後に原因疾患の治療をしても遅くない場合まで,多種多様であり,臨床医の実力がためされる病態といってもよい.
 本稿では,Hugh-Jones分類のIV度ないしV度の呼吸困難(休みながらでなければ歩けない程度以上のもの)について,まず初診時のチェックポイントを重症度の判定,緊急処置,血液ガスの点から述べ,次に臨床症状と理学所見の解析・必要な検査からの鑑別診断について述べ,最後に治療について概説する.

喀血

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.1142 - P.1143

 およそ呼吸器症状の中で,血液を激しい咳とともに喀出することほど患者にとって衝撃的なイベントは他に類例がない.また,喀血が大量だと致死的窒息を起こすので,実地医家にとってもきわめて危険な症候であり,その処置法を熟知しておくことは,とくに初期診療に携わる医家に必須の課題と思われる.
 その程度は,48時間以内に600ml以上を喀出する,いわゆる大量(massive),100ml以上の多量(major),およびそれ以下の少量(small)から,疾に線状,点状に血液を混ずる血疾(blood-streaking,blood-tinged)に至るまでさまざまであるが,喀血の臨床的とらえ方は緊急処置を要する大量喀血と少量の場合とではまったく趣きを異にし,ここでは内科エマージェンシーとしての大量喀血の臨床的アプローチのみを記述する.

吐血,下血

著者: 椎名泰文 ,   三輪剛

ページ範囲:P.1145 - P.1147

 吐血,下血で発症する消化管出血は,日常診療でしばしば遭遇する病態である.悪心,嘔吐,めまいなどの症状とともに,突然の吐血,下血が出現し,その出血量が多量であったり,持続性である場合には,ショック状態に陥り,死に至ることもあるため,早期の診断と治療を必要とする.このため出血源の検索,出血量の判断,輸血の必要性などにおいて,的確でかつ早急な検査が必要となる.
 最近では,出血性ショックに対する治療法の進歩,出血源検索のための緊急内視鏡検査の普及,内視鏡を用いた非観血的止血法の確立などにより,消化管出血のために緊急手術を行う症例は数少なくなっている.

急性腹痛

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.1148 - P.1150

 急性の腹痛は日常私たちが外来,とくに夜間救急外来などで扱う頻度が高く,診断に苦慮することも稀ではない.腹痛の患者の診察にあたってはまず,腹部以外の原因も念頭に置く必要があるi筆者は腹痛の原因疾患を,表に示すごとく4つに整理して記憶している.また,患者がさまざまに表現する腹痛を,内臓痛(visceral pain),腹膜痛(parietal pain),関連痛(referred pain)の3種類に整理すると鑑別診断に役立つ.

急性下痢

著者: 荒川正一

ページ範囲:P.1152 - P.1153

 夏の日の夜に当直していると,下腹部を押さえ,体を折り頻回にトイレにかけこみながら顔を歪めて救急室を受診する人が多い.昼食に少し味の変わったものを食べ,しばらくすると少しの吐き気を催し,その後で腹痛,下痢が始まったと話す患者は,日常遭遇することの多い内科エマージェンシー的な消化器疾患である.ここでは,急性下痢に対する診断と治療を述べることとする(表).

黄疸

著者: 住野泰清

ページ範囲:P.1154 - P.1156

 黄疸とは,血清や組織中にビリルビンが増加し,皮膚や粘膜などが黄染した状態をいう.
 ビリルビンの大部分は赤血球のヘモグロビンに由来する.ヘモグロビンは,まず網内系で分解され脂溶性の非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)となり,肝細胞に運ばれグルクロン酸抱合を受けて水溶性の抱合型ビリルビン(直接ビリルビン)となる.抱合型ビリルビンは肝細胞より胆汁中に排泄され,胆道を経て腸管に達し,ここで一部は再吸収され腸肝循環をするが,大部分はウロビリン体となって体外に排泄される1)

乏尿,無尿

著者: 小西孝之助

ページ範囲:P.1158 - P.1159

●乏尿,無尿の分類
 乏尿とは通常,1日尿量が400ml以下の場合を指す.無尿とは尿量がまったくない状態であるが,臨床的には1日尿量が100ml程度以下の場合を指すこともある.乏尿,無尿は,成因により腎前性,腎性,腎後性,の3種類に分けて考えるとよい(表1).
 腎前性乏尿,無尿は,循環動態の異常に腎臓が反応して尿量が減少する場合である.腎性乏尿,無尿は,腎の器質的病変のために腎機能が低下して起こる(「急性腎不全」の項参照⇒p1238).腎後性の乏尿,無尿は尿路閉塞によって起こり,通常両側上部尿路の閉塞または下部尿路の閉塞で起こる.稀に一側の腎臓が欠如するかその機能が廃絶しているうえに,他側の上部尿路が閉塞して乏尿,無尿をきたす場合もある.

出血傾向

著者: 朝倉英策

ページ範囲:P.1160 - P.1162

 出血傾向をきたしている患者の多くは緊急の処置を要することが多いが,出血の原因により治療法が異なるため,病態を速やかに把握した上で対処することが重要となる.

発熱

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.1164 - P.1165

 発熱が単独でエマージェンシーの対象になることはほとんどない.小児では,発熱による急性脳症や痙攣の出現することもあるが,成人ではきわめて稀である.しかし,発熱は患者に不快感をもたらすばかりでなく,とくに消耗の激しい疾患にかかっている患者には直接的な不利益をも生む.発熱による組織のカタボリズムや脱水は,全身症状の悪化やうっ血性心不全をひき起こすことがあり,早期に発熱原因の解明をし,原因の除去をする必要がある.また,同時に,原因のいかんにかかわらず,発熱そのものの解消と脱水の改善など対症療法が重要である.

好中球減少時の発熱

著者: 青木泰子

ページ範囲:P.1166 - P.1167

 近年,白血病治療をはじめとする化学療法の普及により,好中球減少が稀な病態ではなくなってきた.感染症の治療は本来起因菌に対し最適な抗菌薬を選択して行うべきであるが,好中球減少時には重症感染の頻度が高く,治療の遅れは致死的であることから,発熱時にただちに広域抗菌薬を投与するempirical therapyを施行するのが通例である1).このような好中球減少時の発熱に対する特有の対応について述べる.

全身性発疹

著者: 高野慎

ページ範囲:P.1168 - P.1169

 全身性発疹を伴うエマージェンシー病態には,発疹そのものが重症である場合と,発疹をきたした基礎疾患が重篤である場合とがある.いずれも早急な診断と治療が必要である.

疾患からみた内科エマージェンシー 神経疾患

一過性脳虚血発作(TIA)

著者: 峰松一夫

ページ範囲:P.1170 - P.1171

●概念および成因
 一過性脳虚血発作(transient ischemic attack;TIA)とは,脳の循環障害によるさまざまな症状が急速に出現し,短時間(一般に24時間以内)のうちにその症状・徴候が完全に消失する臨床病態である.本症の原因はさまざまであるが(表),潰瘍性アテローマ由来の微小塞栓と脳血管不全との2つが重視されている.わが国のTIAには脳内小動脈病変によるものも多く,心源性脳塞栓によるTIAの重要性も指摘されている1,2)

脳梗塞と脳出血

著者: 高木誠

ページ範囲:P.1172 - P.1175

 本稿では,脳梗塞または脳出血の疑われる患者が救急外来を受診した場合を想定して,その初期診療のポイントにつき解説する.原則として急性期の脳梗塞・脳出血患者はすべて入院治療の適応がある.

くも膜下出血

著者: 早川功

ページ範囲:P.1176 - P.1177

 くも膜下出血(Subarachnoid Hemorrhage;SAH)は,頭痛を伴って外来を受診する患者のうち,最も見逃してはならない疾患の1つである.なぜならば,その原因の約70%を脳動脈瘤破裂が占め,予防できる決定的な薬剤のない現在,できるだけ早く治療方針を決定することが予後を決めるため,確診が得られれば,手術を前提としていち早く脳神経外科のもとに担送する必要がある.したがって,第一線の医師にとって,SAHの治療は,まず診断することにつきる.
 本項では,脳動脈瘤を主とした臨床症候,検査,鑑別診断,応急処置について述べる.

髄膜炎

著者: 大生定義

ページ範囲:P.1178 - P.1179

 化膿性髄膜炎は放置すれば致死的であり,治療が遅れれば重大な後遺症を残す.髄液の防御機構はきわめて弱く,静注での最小細菌致死量の100万分の1を実験動物のクモ膜下に注入するだけで,髄膜炎,敗血症で死亡してしまうという.また髄液所見の悪化が数時間で著明となり,生菌数の増加をみることも実際に経験され,即時の判断が強く要求される.髄膜炎の鑑別診断と治療はまさに内科エマージェンシーである.

脳炎

著者: 山崎正博

ページ範囲:P.1180 - P.1181

 脳実質の炎症である脳炎には種々のものが含まれ,いろいろな観点から分類されている1).重症度別にみると,意識障害が強く特異的な症状を呈し,重篤で予後不良である単純ヘルペス脳炎(HSE;herpes simplex encephalitis)や脳膿瘍から,神経親和性の腸炎ウイルスや風邪ウイルスにより髄膜炎症状が目立ち,軽症で予後良好な非特異性ウイルス脳炎まで,幅広い臨床スペクトラムがみられる.感染様式からは,原発性脳炎と,先行感染やワクチン接種後に続発する傍感染性(parainfectious),後感染性(postinfectious)脳炎に分類され,感染部位別には,大脳炎,小脳炎,脳幹脳炎に分類される.さらに,経過からみて亜急性,慢性脳炎に分類されるものに亜急性硬化性全脳炎(SSPE;subacute sclerosing panencephalitis)や進行性多巣性白質脳症(PML;progressivemultifocal leucoencephalopathy)など重要なものがある.
 これらの中で日常診療で診断あるいは治療上neurological emergencyとして問題になるのは単純ヘルペス脳炎や脳膿瘍であり,本稿ではこれらを中心に述べる.

循環器疾患

不安定狭心症

著者: 相澤忠範

ページ範囲:P.1182 - P.1183

 不安定狭心症は,急性心筋梗塞への移行,突然死の危険性を考慮した臨床経過を重視した分類であり,新規労作狭心症,症状変化型狭心症および新規安静狭心症の3つの亜型に分類される.不安定化の要因としては,①冠動脈硬化病変の進展,②粥腫崩壊や出血,③冠動脈内血栓形成,および④冠動脈攣縮などがあげられるが,これらはとりもなおさず急性心筋梗塞の発生要因としても知られている.不安定化の要因を明らかにし,それに基づいて適切な治療を行うことは,急性心筋梗塞への移行を防止する上できわめて重要であるが,ベッドサイドでの検査所見から判断することは容易ではない.
 本稿では内科エマージェンシーが主題であるので,薬物治療抵抗性の症例について,その急性期治療を中心に述べる.

急性心筋梗塞

著者: 中西成元 ,   岩瀬孝

ページ範囲:P.1184 - P.1186

 急性心筋梗塞(AMI)の死亡例の40〜75%は発症1時間以内に起こる突然死で,そのほとんどが心室細動(Vf)などの重症不整脈による.梗塞巣が左室心筋の記0%を超えると心原性ショックに陥り,この死亡率は70〜90%にものぼる.合併症の発現は,梗塞巣の大きさや,発症後の心負荷などに左右される.したがってAMI発症時の治療の目的は,不整脈死を予防し,梗塞巣を最小限にとどめ,ポンプ失調の出現を防ぐことにある.

不整脈

著者: 林田憲明 ,   山科章

ページ範囲:P.1188 - P.1193

 放置すれば死に直結するために,緊急治療を必要とする不整脈は表のようにまとめられる.
 これらの不整脈に対する当面の治療は,今から述べるように,ほぼパターン化している.

急性心不全

著者: 諸岡成徳

ページ範囲:P.1194 - P.1196

 急性心不全をここでは急速に発現した心臓ポンプ機能障害とこれに関連する症候の意味で用い,以下この処置と治療について述べる.この病態は脳障害,腎不全,呼吸不全など全身各臓器障害の末期にしばしば起こるが,これらでは基礎疾患の治療が主となるため,ここでは循環器が主因となった場合とする.表は比較的多くみられる成因である.

心タンポナーデ

著者: 松崎益徳

ページ範囲:P.1197 - P.1199

 心タンポナーデ(cardiac tamponade)とは,何らかの原因による心膜液貯留により,著明な心膜腔内圧の上昇の結果,とくに右心系の著しい充満障害をきたし,心拍出量の低下や異常な血圧の低下を発生した状態と定義することができる.急性に発症する心タンポナーデの原因としては,心筋梗塞後の心臓破裂,急性解離性大動脈瘤,胸部外傷や,心臓カテーテル検査時の壁穿孔などがあり,また,比較的ゆっくりと発症する原因としては,心膜への癌転移による癌性心膜炎や,結核性心膜炎,ウイルス性心膜炎の炎症性心膜炎によるものや,また,膠原病に伴う心膜炎や尿毒症性心膜炎などがある.

解離性大動脈瘤

著者: 出川敏行

ページ範囲:P.1200 - P.1201

 解離性大動脈瘤は,前兆もなく突然に発症する重篤な疾患である.治療に際しては,解離の部位と拡がりにより多彩な病態を呈することを念頭に置き,早期の診断と対応が望まれる.

呼吸器疾患

急性呼吸不全

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.1202 - P.1204

●急性呼吸不全の定義と診断
 急性呼吸不全とは,広義には生体の需要に急激に呼吸機能が対応できなくなる状態のことであり,狭義には呼吸器が生体の需要に応えて静脈血を動脈血化し得ない状態のことである.
 呼吸不全の診断は,PaO2≦60TorrおよびPaCO2≧50Torrを基準値とすることが多く,60<PaO2≦70Torrを準呼吸不全とするのが一般的である.

気管支喘息

著者: 江頭洋祐 ,   牛島正人

ページ範囲:P.1206 - P.1207

 気管支喘息発作は,救急疾患として日常よくみられるが,重症化すると死亡に至る例もあり,適切な処置が必要である.本項では,発作時の対応,とくに重積状態を中心として解説する.

肺塞栓

著者: 中島明雄 ,   月野光博

ページ範囲:P.1208 - P.1210

 肺塞栓症は主として下肢静脈,骨盤腔内静脈に存在した血栓が剥離し,肺動脈を閉塞した結果,肺循環障害を惹起した病態である.その他の塞栓子としては,脂肪,空気,造影剤,タルク,腫瘍細胞などが列挙される.本邦では本症の発生頻度はなお欧米諸国の1/10程度と推定されているが,年々増加を示し,対剖検総数比率でみると,昭和40年代では0.15%,昭和57〜59年度の3年間では0.5%,死因の約1%を占めていると推定されている1)
 本症は発症後1時間以内の死亡率が11%2)もの高値を示す重篤な疾患であり,何よりも早期診断,早期治療が必要である.しかしながら,本症に特異的症状や所見はなく,LDH,GOT,GPTなどの血清酵素値は診断的価値は低く,発症初期から臨床診断される率は25%3)と低い.本症の診断の手掛かりは,①何よりも肺塞栓症の発生を疑うこと,②他の疾患を否定すること,である.

肺炎

著者: 桜井滋

ページ範囲:P.1211 - P.1213

 エマージェンシー医療が他の医療領域と大きく異なるのは,診断と処置・治療を常に同時に進行させる点である.生命の危機にさらされている患者にとって,いかに高度でも診断のみに時間を要していては意味がないからである.
 重篤な病態に素早く対処するためには,やや不確実であっても迅速性のある検査や,結果的に必ずしも最適とはいえない治療法を積極的に導入しなければならない場合が多い.たとえば,詳細不明の感染症に対する経験的(empiric)な抗生物質投与や,予想される合併症に対する予防的処置がそれである.

気胸

著者: 伊礼壬紀夫

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 気胸は,痩せた長身の健康な若年あるいは中年男性(18〜40歳)に多い.男女比は5:1程度である.また,50歳以降,肺気腫の増加とともに若干の気胸の増加をみる.
 気胸の原因はブラあるいは胸膜下のブレブの胸膜腔への破裂といわれ,このような病変は上肺野に多く,無症状でX線上も正常のことが多い.痩せた長身の男性の胸郭はやはり上下に長いため,肺尖部により物理的な負荷がかかりやすく,このため上肺野にブラやブレブが発生しやすいと考えられている.

消化器疾患

上部消化管出血

著者: 横山靖 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1216 - P.1217

 上部消化管出血症例に遭遇した場合には,必ず緊急内視鏡検査にて出血源の検索をし,必要に応じて止血術がなされることは,今日では常識化している.ここでは,一般的処置を概説し,さらに頻度の多い消化性潰瘍と食道静脈瘤からの出血に対する治療法を主体に述べる.

下部消化管出血

著者: 光島徹

ページ範囲:P.1218 - P.1219

 下部消化管出血をきたす疾患の鑑別診断,病因論などについては別項(「吐血,下血」⇒p1145)に述べられているので,本項では,大量の新鮮血下血を主訴として救急外来を訪れる,重篤な下部消化管出血患者に対する実際の診療の進めかたに問題を絞って,筆者らの施設の現況を中心に解説する.

胃・十二指腸潰瘍

著者: 佐島敬清 ,   池田典次

ページ範囲:P.1220 - P.1222

 H2レセプター拮抗剤の出現以来,胃・十二指腸潰瘍の手術数が著減したのは周知のことである.しかし,最近,再び手術症例が増加し,しかも従来とはその内容が異なり,緊急手術例が増加している.図は当院における胃・十二指腸潰瘍手術症例と緊急手術率の過去10年の推移で,昭和55年,66例の手術症例中,緊急手術は9例(1316%)であったが,昭和63年は26例の手術中14例(53.8%)が緊急手術であった.このように胃・十二指腸潰瘍は瘢痕化し得る症例の増えた反面,緊急を要する症例も増加している.
 緊急処置を要する胃・十二指腸潰瘍として,①出血性胃・十二指腸潰瘍,②穿孔性胃・十二指腸潰瘍,③AGML(急性胃粘膜病変),④Mallory-Weiss症候群,が挙げられよう.以下,これらにっいての緊急処置について述べる.

急性腹膜炎

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1224 - P.1225

 種々の原因によって起こる腹膜炎のうち,内科エマージェンシーとして重要なものは,急性細菌性腹膜炎と一次性(原発性)細菌性腹膜炎の2つである.

腸閉塞,イレウス

著者: 雨宮厚

ページ範囲:P.1226 - P.1227

 イレウスは,救急外来で最も頻繁に遭遇する急性腹症の1つである.イレウスの初療にたずさわる者には,迅速かつ的確な診断・蘇生の施行とともに,経験ある外科医との密な意見交換が要求される.

消化管異物

著者: 六倉俊哉

ページ範囲:P.1228 - P.1228

 消化管異物に対するアプローチの方法を決める上で,異物の大きさ,形状,部位,患者の年齢,全身状態,治療に協力的か否か,症状の有無などが重要である.これらにより,自然排泄を待つか,内視鏡的に除去するか,あるいは手術療法に踏み切るかが決定される.魚や鶏の骨,食物塊,コイン,ようじ,クギ,PTP包装薬物,義歯などがその主なものであるが,異常者がカミソリの刃を故意に飲み込んだり,肛門から異物を挿入して来院することもある.

急性肝不全

著者: 与芝真 ,   竹内ゆかり ,   関山和彦

ページ範囲:P.1229 - P.1233

 急性肝不全とは,ウイルス性や薬剤性の劇症肝炎,妊娠性脂肪肝,Reye症候群など肝細胞の急激な壊死変性に基づき,急速に肝不全症状に陥る病態である.欧米では薬剤性の頻度が高いが,日本は大半がウイルス性劇症肝炎なので,本稿では主としてウイルス性劇症肝炎について述べる.
 現在わが国の劇症肝炎の治療法は血漿交換(PE),インスリン-グルカゴン療法(G-I),特殊組成アミノ酸療法で,普及率はそれぞれ80〜90%である。それでいて,昭和62年の厚生省難治性肝炎班会議による全国集計の生存率はわずか16.2%でしかない.このような治療が普及する前の生存率が約12%であったことを想起すると,これらの治療にどれほどの効果が期待し得るか,きわめて疑問である.

急性胆管炎

著者: 広岡大司 ,   大地宏昭 ,   片岡伸一 ,   圓尾隆典 ,   仲本剛

ページ範囲:P.1234 - P.1235

 急性胆管炎は,胆管の狭窄や閉塞により胆汁のうっ滞をきたし,さらに細菌感染が加わって発症する.原因として胆石や悪性腫瘍などがあるが,今回は胆石による急性胆管炎の診断と治療法について述べる.
 急性胆管炎は上腹部痛(右季肋部痛),発熱,黄疸,ときに意識障害やショック症状などを主症状とするが,臨床症状,肝・胆道系酵素の上昇,白血球数の増加,腹部超音波診断(以下エコー)で胆管結石の証明(70〜80%に結石を証明),胆管拡張と緊満の証明などにより確定診断される.

急性膵炎

著者: 杉山恵一 ,   中野哲

ページ範囲:P.1236 - P.1237

 急性膵炎は,さまざまな原因,機序により膵酵素が活性化され,それにより膵自体が消化される,いわゆる膵の自己消化に起因する疾患である.本症の大多数は通常良好に経過するが,重症膵炎では凝固・線溶系,免疫系などの機能不全を伴い,病変は膵やその周辺臓器にとどまらず,心,肺,腎,肝,脳などにおよんで,いわゆるMOF(多臓器不全)をきたし,予後はきわめて不良である1).したがって,本症ではできるだけ早期に正しい診断と成因の究明を行うと同時に重症度判定を行い,重症化の傾向があればただちに時期を失することなく積極的に治療を開始することが肝要である.

腎疾患・電解質異常

急性腎不全

著者: 白井大禄

ページ範囲:P.1238 - P.1240

 急性腎不全は,糸球体濾過値をはじめとする腎機能の急激な低下により高窒素血症などの病態をきたす症候群である.一般に乏尿を伴うことが多いが,25〜50%に非乏尿性急性腎不全といわれるような,尿量が減少しないで高窒素血症をきたす場合もある.急性腎不全は多くの原因により起こるが,その原因によって根本的な治療法が異なるため,通常,腎前性,腎性,腎後性腎不全に分類されている.そして原因疾患の治療を行うことがまず大切であり,原疾患が治療されない限り,病態を改善させることができない.これは,急性腎不全に対する直接の特異的な治療法がないためである.そこで急性腎不全では,原因に対する治療をできる限り行うとともに,腎不全によって生じた種々の病態を対症的に治療することである.したがって,ここでは急性腎不全の一般的な経過のなかの早期に治療を必要とする発症期および維持期の治療法について述べる.

脱水症

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.1241 - P.1241

●脱水症とは何か
 脱水症とは,主として水分ならびにNaが欠乏した状態である.一般的に,脱水症は水分欠乏とNa欠乏とに分類される.表はこの2つのタイプについて,典型的な症状をMar-iottが対比して示したものである.しかし,エマージェンシーという立場からみると,両者の混合タイプとして扱うのが実際的であり,この分類にこだわるのはあまり意味がない.

低ナトリウム血症

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.1242 - P.1242

●低Na血症とは
 低Na血症はその名のとおり血液のNa濃度の低下を示すものであるが,それをそのままNaの欠乏として受け取ると誤解のもとになる.低Na血症はNaの不足でも起きるが,大部分は水分の貯留によって生じるものである.その原因疾患を表に示す.もしNa喪失によるものであれば,BUNの上昇があるはずである.これが大きな鑑別点になる.

高カリウム血症

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.1243 - P.1243

●高K血症の原因分類
 高K血症はほぼKの貯留の結果であると考えてよい.ただしKはNaと違って,主として細胞内の電解質であることに注意すべきである.その原因疾患は表に示すごとくであるが,摂取量の増加や排泄量の減少だけではなく,上記の理由により細胞内から細胞外への移行が大きな因子となっている.

内分泌・代謝疾患

甲状腺クリーゼと粘液水腫昏睡

著者: 盧在徳 ,   伊藤國彦

ページ範囲:P.1244 - P.1245

 甲状腺機異常によってもたらされる重篤な病態としては,機能亢進にみられる甲状腺クリーゼと,機能低下にみられるmyxedema comaがある.いずれも,検査,治療の進んだ今日ではきわめて稀である.

糖尿病における昏睡

著者: 久保明

ページ範囲:P.1246 - P.1248

 糖尿病における昏睡の代表的なものはケトアシドーシス性昏睡(diabeticketoacidotic coma;DKA)と非ケトン性高浸透圧性昏睡(hyperosmolarhyperglycemic nonketotic coma;HHNC)である.このほか低血糖性昏睡,肝性昏睡,脳血管障害などを常に念頭におく.本項では治療を中心に述べる.

痛風発作

著者: 加賀美年秀

ページ範囲:P.1249 - P.1249

●痛風性関節炎発作(痛風発作)の特徴
 痛風発作は20歳以降,とくに中年以後の男性の,主として,片側栂趾関節に,早朝もしくは夜半,突如として発症し,24時間以内にピークに達する,発赤,腫脹,熱感を伴った激烈な疼痛発作を特徴とする.約2/3は揖趾に初発し,足関節,足背部,膝関節がこれに次ぐが,手・指・肘関節に初発することもある.また,初期は1つの関節が侵されるが,罹病期間の長い症例においては複数の関節が侵されることがある.20〜30:1と圧倒的に男性に多く,女性の多くは閉経後に発症する.
 発作の誘因となるものは大酒,肉類の食べ過ぎ,過労(とくに,窮屈な靴をはいての歩きすぎ),ストレス,降圧利尿剤による血清尿酸値の上昇,尿酸降下剤による急激な血清尿酸値の下降などがあげられる.

その他の疾患

敗血症

著者: 那須勝 ,   後藤陽一郎

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 敗血症は,早期より適切な診断と治療が行われなければ,ショック,播種性血管内凝固症候群(DIC),多臓器障害(MOF)などの合併症を起こし,しばしば死に至る感染症である.多くは基礎疾患をもっている患者に併発し,予後は早期診断と適切な治療,および基礎疾患の重症度に左右される.

急速に進行する貧血

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.1252 - P.1253

●診断
 急速な貧血の進行を認めたら,「急性の出血」か「急激な溶血」である.その病態は図1に示すように異なる.つまり,急性出血では循環血液量の急激な低下が問題であり,急激な溶血では急激な酸素運搬能の低下が問題となる.以下の点が,その鑑別のポイントである.

播種性血管内凝固症候群(DIC)

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.1254 - P.1255

 播種性血管内血液凝固症候群(DIC)が内科的エマージェンシーとなるのは,急性DICの病態が進展したときである.そのようなとき,患者は一見重篤な感じを受け,出血あるいは採血した血液が凝固性に乏しく,何となくさらさらした印象を受けることが多い.以下,急性DICの治療について簡単に述べる.

悪性腫瘍におけるエマージエンシー—脊髄圧迫症候群

著者: 北川泰久

ページ範囲:P.1256 - P.1257

 悪性腫瘍による脊髄圧迫症状は,早急かつ適切な処置が予後をきめる.ここではその診断,治療について述べる.

悪性腫瘍におけるエマージェンシー—上大静脈症候群

著者: 森田正重 ,   江口研二 ,   小野良祐

ページ範囲:P.1258 - P.1260

●上大静脈症候群の発生機序と症状
 上大静脈症候群(superior vena cava syn-drome;SVCS)は,縦隔,肺に発生する各種の原因によって上大静脈または両側腕頭静脈が圧迫され,狭窄あるいは閉塞をきたし,静脈血の還流障害が生じて起こる一連の症候群である.原因の大部分は成人では悪性腫瘍,とくに右上葉の原発性肺癌が多い.上大静脈が狭窄あるいは閉塞をきたした場合には,上半身の血流は側副血行路を通じて右心房に還流される.主要な側副血行路としては奇静脈,内胸静脈,外側胸静脈,椎骨静脈があるが,奇静脈は直接上大静脈に合流するため,側副血行路としてとくに重要である.
 SVCSでは,自覚症状は顔面を含む上半身の浮腫,頸静脈怒張が多く,他に息切れ,呼吸困難,起坐呼吸などがあり,脳血流のうっ滞によると思われる頭痛,耳なり,種々の程度の意識障害,頸部や肩甲部の痛みも出現しうる.症状の軽重は,病変の部位と範囲,腫瘍の発育速度,上大静脈の狭窄や閉塞の程度,奇静脈の閉塞の有無,側副血行路の発達の程度に左右される.原発性肺癌が原因である場合,咳,血痰,嗄声を伴う症例もある.

悪性腫瘍におけるエマージェンシー—高カルシウム血症

著者: 高槻健介

ページ範囲:P.1262 - P.1263

 高Ca血症は悪性腫瘍に最も高頻度にみられる随伴症状の1つで,それ自体致命的であり得るとともに,腫瘍に対する治療遂行を妨げるため,コントロールの成否が予後を決定することも稀ではない.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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