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雑誌目次

雑誌文献

medicina26巻8号

1989年08月発行

雑誌目次

今月の主題 膵・胆道疾患の臨床 膵・胆道疾患診療の基本

膵・胆道疾患の身体的所見のとり方

著者: 辻井正 ,   中山雅樹

ページ範囲:P.1272 - P.1275

 腹部画像診断手技のめざましい発達により,膵・胆道系疾患の診断過程において,腹部の一般診察はややもするとなおざりにされやすい傾向にある.しかし,いずれの場合においても,まず正確に身体的所見をつかみとることは,速やかな病態把握,的確な検査ならびに治療方針を決定するうえできわめて重要である.また,腹部の不定愁訴の背後に潜む膵・胆道系悪性腫瘍を早期に診断したり,心身症あるいはノイローゼなどに起因する非器質的疾患を除外診断するうえでも,入念な身体的所見の把握は詳細な病歴聴取とともに診断過程の基本であることに変わりはなく,われわれ臨床医は常に患者の最終診断を身体所見にフィードバックさせ,腹部の診察技術の向上に努めねばならない.
 本稿では膵・胆道系疾患において高頻度に出現する腹痛,腫瘤触知,黄疸の際の身体所見からみた鑑別診断の要点を中心に述べる.

膵逸脱酵素阻害剤の種類,特性および使用法

著者: 中野哲

ページ範囲:P.1276 - P.1278

 急性膵炎では非活性型で分泌されている膵酵素がなんらかの原因により活性化され,膵の自己消化を起こし,重症例においてはこれらの活性化された膵酵素や有毒物質の全身撒布により遠隔重要臓器が重大な障害を受け,多臓器不全で死亡することがある.
 この膵酸素の活性化の最初の主役をなすのが図1に示すごとくトリプシンである1)

血清・尿中酵素値の読み方

著者: 竹内正 ,   平沢豊

ページ範囲:P.1280 - P.1283

●膵・胆道疾患の診断に用いられる酵素
 膵臓は主として消化酵素・重炭酸塩を含む膵液を分泌し,分泌された膵液は食物中の蛋白,脂肪,炭水化物を分解する.膵液は,通常でもわずかながら膵腺房細胞の間隙から血中およびリンパ液中に逸脱しているが,何らかの理由で膵液の流出が妨げられたり,膵実質障害が起こると,血中に逸脱する量が増加し,血中膵酵素濃度の上昇を見ることとなる.
 現在,膵疾患の診断に最もよく用いられる代表的な膵酵素と,各測定法における正常範囲を表に示した.

膵癌・胆道癌の診断における腫瘍マーカーの役割とfalse positive

著者: 澤武紀雄

ページ範囲:P.1284 - P.1286

 一般に腫瘍マーカーの臨床応用として,1)早期診断をめざした癌の存在診断,2)臨床経過を追跡するモニター,3)進行度や予後の判定,4)転移性や浸潤性などの悪性度の判定,5)ターゲッティングによる癌の画像診断や癌治療法への応用,などの分野がある.他の多くの癌と同様に膵・胆道癌においても,3),4),5)の領域において臨床的に有用性を高く評価できるものは未だ見られない.
 本稿では膵・胆道癌における1)および2)に関する腫瘍マーカーの果たす役割と疑陽性の出現しやすい疾患や病態について解説する.

注意すべき検査・処置の適応と偶発症

内視鏡的膵・胆管造影の適応と偶発症

著者: 大井至

ページ範囲:P.1288 - P.1290

 内視鏡的膵・胆管造影に限らず,ある検査法を選択し,施行する時には,1)その患者について,2)何を,3)どこまで知りたいか,ということが基本的な問いかけであると考えている.そして,この答えがその患者におけるその検査法の適応であろう.
 本稿を論ずるに当たって,まず,次の点を強調しておきたい.

内視鏡的胆道ドレナージ術(EBD)の適応,管理と偶発症

著者: 小野美貴子

ページ範囲:P.1292 - P.1293

 本稿では,閉塞性黄疸に対する非手術的減黄術のうち,十二指腸鏡を用いる方法について述べる.ここではEBD(endoscopic biliary drainage;内視鏡的胆道ドレナージ術)と仮称したが,この名称は未だ統一されたものではない.また,EBDにも2方法がある.ひとつは,十二指腸大乳頭から胆道内に長いチューブの一端を送り込み,他端を鼻腔から体外に出して胆汁外瘻とする方法1)(NBD;nasobiliary drainage;経鼻的胆道ドレナージ術)であり,もうひとつは,やはり乳頭から短いステントチューブを挿入し,胆道・十二指腸の内瘻化を計る方法2)(本稿ではEBD・Sと仮称する)である(図1).

経皮的胆管ドレナージ(PTCD)の適応,管理と偶発症

著者: 高田忠敬 ,   安田秀喜

ページ範囲:P.1294 - P.1297

 経皮的胆管ドレナージ(PTCD)は,非観血的胆道外瘻として閉塞性黄疸や胆道感染症に対して広く行われている手技である1~3).しかし,非手術的であるという利点が,一転して欠点になることもあり,その手技はもちろん,管理にも多くの注意が必要である.

膵疾患診療のポイント・アドバイス

急性膵炎の診断と治療

著者: 江口忠 ,   川口清隆 ,   小橋裕司 ,   友田伊一朗 ,   藤川潤 ,   久保勝彦

ページ範囲:P.1298 - P.1300

 急性膵炎は膵消化酵素が膵管より逸脱し,実質内で活性化し,自己消化を来す可逆的炎症で,腹痛発作,血中・尿中の膵酵素の上昇を伴うものである.膵炎の存在を常に念頭におき,上記のメカニズムを理解しておくことが,急性膵炎の診断・治療の根本となる.原因としてアルコール性,胆道性があげられるが,不明のことも多い.
 次項で重症膵炎が取り上げられるので,内科外来で高頻度にみられる軽症・中等症の急性膵炎を主に述べる.

重症膵炎の診断と治療

著者: 山本正博 ,   斎藤洋一

ページ範囲:P.1302 - P.1305

 重症膵炎では膵臓の出血,壊死などを主体とした膵局所の病変にとどまらず,早期から全身重要臓器の機能障害と後期には感染や出血を伴って,その治療成績はきわめて不良である.したがって,本症の診療にあたっては,局所と全身の多様な病態をできるだけ早期にかつ的確に把握し,各病期,病態に即した適切な治療法を選択する必要がある.
 このたび,厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班により急性膵炎の全国調査が実施され,わが国における本症の臨床実態が明らかにされた1).ここではその集計結果も参考に重症膵炎の診断と治療について概説する.

薬剤による膵炎,アルコールによる膵炎

著者: 建部高明 ,   吉田和正

ページ範囲:P.1306 - P.1307

●薬剤による膵炎
 近年,薬剤の投与を契機として発症した膵炎の報告は増加しつつあり,問題とされる薬剤はおよそ50種類にも達している.
 1980年にMalloryら1)は,薬剤性膵炎の根拠として,膵炎が,1)薬剤投与中に出現すること,2)投与中止によって寛解すること,3)再投与によって再発することの3点を提示し,約30種類の薬剤について根拠の確からしさを考察している.その後に報告された新たな薬剤を網羅して,Malloryら2)は同様の基準から薬剤性膵炎について再度考察している.このreviewを紹介しながら,薬剤性膵炎についての知見を要約してみたい.

慢性膵炎の診断

著者: 原田英雄 ,   越智浩二

ページ範囲:P.1308 - P.1310

 慢性膵炎の診断にあたっては,その存在診断にとどまることなく,成因の診断,病期の診断,合併症の診断,質的鑑別診断を含む総合診断を行い,治療・管理方針の決定につなげることが重要である.

慢性膵炎と腹痛—心身医学の立場から

著者: 陶山匡一郎 ,   小田義英 ,   長谷川千賀

ページ範囲:P.1312 - P.1316

 今回,経験した症例は26症例で,うち慢性膵炎II群(心身症)12例,慢性膵炎疑診(心身症)14例である.胆道疾患またはアルコール嗜癖(過度の飲酒)が認められず,膵酵素逸脱を伴う,臨床的に6カ月以上に及ぶ上腹部痛,圧痛,背痛が持続または継続する症例で,PFD70%以下のものをII群,その他を疑診とした.全症例とも何らかの心身医学的問題点を具有している.
 中井らは,慢性膵炎に強迫的性格を有するものを75%に認め,疑診例(疑診群,II群)では一次的な心身相関を認める現実心身症としてのニュアンスが強いことを指摘している.また,確診例(I群)ではアルコール依存症を介しての心身相関をうかがいうる性格心身症ともいうべき病態を呈するものが多い.そして疑診例ではdepressionや過敏性腸症候群の合併頻度が各々54%,78%と高く,中枢の関与および消化管の機能異常に基づく病態が示唆されることを報告している.

慢性膵炎の薬物および食事療法

著者: 奥野府夫 ,   石井裕正

ページ範囲:P.1317 - P.1319

 慢性膵炎は急性膵炎様の腹痛発作を繰り返しつつ,次第に膵機能が低下し,膵が荒廃していく進行性,不可逆性の疾患である.萎縮し,線維化した膵を積極的に修復する根本的治療は現在までのところないので,日常生活・食生活を含む再発防止と,疼痛対策,膵機能の補充と膵庇護の原則に則って対症的に治療する.
 厚生省特定疾患慢性膵炎調査研究班による慢性膵炎の臨床経過からみた治療方針1)を図に示した.それによると,1)急性発作期の治療,2)間欠期の治療,3)膵不全期の治療に3大別される.各時期の治療内容を表にまとめ,以下で少し詳しく述べる.

膵石症

著者: 細田四郎 ,   吉岡うた子

ページ範囲:P.1320 - P.1321

●臨床的意義
 膵石症(慢性石灰化膵炎)は,膵管内に炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする大小の結石が存在し,かつ膵に種々の程度の慢性炎症像が認められる病態である.膵石症は慢性膵炎の合併症として理解されており,膵石の証明は慢性膵炎の診断基準の一つに取り上げられている.
 病因上,アルコール性と非アルコール性に分類できるが,アルコール性のものが多い.慢性膵炎の全国集計1)によると,慢性膵炎の40.1%に石灰化を認めており,石灰化症例の成因別ではアルコールが66.1%を占め,ついで特発性18.6%,胆石性3.1%,その他12.2%であった.また慢性膵炎のうち,アルコール性では49.2%,胆石性では16.3%,特発性では29.7%に膵石を認めている.

膵仮性嚢胞,真性嚢胞,嚢胞腺癌

著者: 富士匡 ,   佐々木敏行 ,   野口隆義 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1322 - P.1324

 膵嚢胞とは膵実質内および膵外に大小種々の大きさの単発または多発に形成された嚢胞と定義される1).今日では本疾患は腹部超音波やCTで容易に描出され,また1cm以下の小さな膵嚢胞も偶然発見されている.一方で,内視鏡的逆行性膵管造影(以下,ERP)で描出される主膵管や分枝膵管の部分的な拡張をも本疾患に含めるか否かといった新たな問題も提起され,本疾患の定義に根本的な見直しが迫られている2)
 ところで,膵嚢胞は嚢胞壁内に上皮細胞を有する真性嚢胞と,これを欠く仮性嚢胞に分けられるが,画像診断だけでは真性か仮性かの区別をつけることが灘しい症例も少なくはない.したがって,膵嚢胞は画像診断で鮮明にとらえられてはいるものの,その病態については,ERPをはじめとする膵の診断法を駆使して,十分に把握したうえで認識されるべき疾患であるということができる.

粘液産生膵腫瘍

著者: 高木國夫

ページ範囲:P.1326 - P.1328

 近年,膵の検査法が進歩し,とくに1969年ERCPが臨床に導入されて膵内膵管系の診断が可能になり,さらにUS,CTによる診断も加わり,膵癌とともに膵内の良性病変の診断も容易になってきている.
 とくに膵癌の早期診断が検討され,膵癌を腫瘤として,出来るかぎり小さい時期に発見することが強調されたが,直径2cm以下の小膵癌が報告されても,予後が必ずしも良好でないことが判明し,直径1cm以下の微小膵癌が検討されてきている.

膵癌診療の問題点

著者: 吉森正喜

ページ範囲:P.1329 - P.1331

 わが国の膵癌の患者数は近年急激に増加の傾向を示しており,最近では毎年1万人以上がこの病気で死亡している.そのため,臨床医はもとより,基礎の研究者を含めて多くの人々がこの病気に強い関心を持ちはじめ,広い範囲で研究が進められようとしている.しかし,臨床の場では,膵癌が以前から難治癌の代表とされてきた状態はいまだに改善されておらず,完全に治しえない患者を相手にする場合がほとんどであるといっても言い過ぎではない.

胆道疾患診療のポイント・アドバイス

急性胆嚢炎の治療

著者: 谷村弘 ,   杉本恵洋

ページ範囲:P.1332 - P.1334

●胆石による腹痛と胆嚢炎の鑑別
 胆嚢炎に胆石を伴った場合には,いわゆる"疝痛"が就寝後に起こり,しばしば救急患者として来院する.その際,ショックの有無,腹壁の筋性防禦やBlumberg徴候など腹膜の刺激徴候の有無に注意して,緊急手術を必要とするかどうかを速やかに判断する.
 その鑑別は,ブスコパン®20〜40mgなど鎮痙剤を20%ブドウ糖20mlに混ぜて,ゆっくりと静注する.注射終了後10分位して,もう一度腹部を触診すると,腹部の緊張がとれて腹部所見の正確な範囲あるいは緊急処置の必要性の有無を確認でき,急性胆嚢炎の手術適応の決定に役立つ.

急性化膿性胆管炎の診断と治療

著者: 伊藤慎芳 ,   多賀須幸男

ページ範囲:P.1336 - P.1337

 古くから重篤な疾患として知られていた化膿性胆管炎は,重症化し多臓器不全を起こすといまだに予後不良である.しかし,早期に察知し,時期を失せず適当なドレナージを行えば,重症化を未然に防ぐことができるので,その対応が重要となってきている.

胆石溶解療法—その適応と限界

著者: 松崎靖司 ,   田中直見 ,   大菅俊明

ページ範囲:P.1338 - P.1340

●胆石溶解療法の背景
 食生活の欧米化に伴いわが国の胆石保有率は約10%にも及び,胆石症は日常臨床上遭遇する頻度の高い消化器疾患の一つとなってきた.従来より手術治療が完成されているとはいえ,非観血的胆石治療法の発展が待たれていた.
 コレステロール胆石の生成機序の研究が進み,本症の患者においてはコレステロール過飽和肝胆汁が生成され,コレステロールを溶存すべき胆汁酸のプールが減少していることが判明した.このことから1972年Danzingerら1)は,ガチョウの胆汁の主成分であるchenodeoxycholic acid(CDCA)を服用することで,初めて胆石溶解に成功した.

体外衝撃波による胆石治療の現状と将来

著者: 菅田文夫 ,   平田信人

ページ範囲:P.1342 - P.1343

 超音速で飛行する航空機にあたった水滴により発した衝撃波が,機内の部品に損傷を与えたことからヒントを得て開始された体外衝撃波による結石破砕治療法(以下,ESWLと略)は,まず腎結石に対し開始され,その後,結石の位置確認方法にX線の代りに超音波が導入されたことから,胆嚢胆石への応用の道が開かれた(総胆管胆石の位置確認にはX線がなお一般的に用いられている).
 本来,胆汁酸による経口的コレステロール胆石溶解療法が,その有効率の低さ(筆者の成績で完全溶解率約20%),長期間の服薬の必要性に対するcomplianceの問題などを是正するために開始されたESWLであるが,現在は経口溶解療法,内視鏡的胆石除去法,直接溶解療法とともに,非開腹的胆石除去法としてかなりな地位を占めるに至りつつある.

胆石の内視鏡的結石摘出術

著者: 山川達郎 ,   遠藤格

ページ範囲:P.1344 - P.1345

 胆石症の病態はさまざまで,当然その治療法も多岐にわたるが,内視鏡的切石術の確立は,たしかに複雑な病態を示す,ことに胆管結石の治療成績向上に貢献してきた.本稿では,その方法と臨床的位置づけにつき言及する.

肝硬変と胆石

著者: 太田康幸 ,   宮内聡一郎 ,   多田康二

ページ範囲:P.1346 - P.1348

 肝硬変に合併する胆石は,胆嚢内結石で無症状であることが多い.成因の特殊性や先行する肝障害を考えあわせると,基礎疾患を伴わない無症状胆石と比べ,治療方針を決定するうえで考慮しなければならない点が多い.

胃切除と胆石

著者: 渡部洋三

ページ範囲:P.1350 - P.1351

 胃切除術後胆石とは,手術前の胆嚢検査で胆石が証明されず,胃切除術後および各種迷走神経切離術(以下,迷切術と略)後1〜2年から数年の間に発生した胆石をいう.しかし,厳密に胃手術との間の因果関係を証明することは難しい.

糖尿病と胆石

著者: 豊田隆謙 ,   丹野尚昭

ページ範囲:P.1352 - P.1353

●糖尿病に合併する胆石症の頻度
 胆石症は糖尿病に高頻度に合併する.欧米の剖検資料では非糖尿病症例の胆石保有率10〜20%に比べて,糖尿病症例では約30%と高率であった.超音波検査を用いて行った本邦の集団検診,人間ドックの成績は2〜6%の胆?胆石保有率を示しているが,糖尿病症例では17.4%(男性12.1%,女性21.9%)と高率である1)
 しかし,今までの報告では胆石の種類については明らかにされていなかった.そこで,土屋らの分類に従い,超音波で胆石の種類を同定すると,当科の糖尿病外来に通院している212例中28例(13%)に胆?胆石が発見され,24例(約11%)がコレステロール系胆石(コ系石)であった2).したがって,糖尿病にはコ系石の合併が多いと考えられた.

先天性胆道拡張症・膵管胆道合流異常

著者: 古味信彦

ページ範囲:P.1354 - P.1356

 先天性胆道拡張症(Congenital biliary dilatation:CBD,以下,拡張症と略)は日本からの報告例が多く,世界の報告例の3分の1を占めるといわれている.この疾患に膵管胆道合流異常(Anomalous pancreaticobiliary duct;APBD,以下,合流異常と略)が合併する率が高いことは今日では周知の事実である.
 この合流異常が拡張症の原因と考えた報告1)がわが国に紹介2)された当時は,合流異常は拡張症の病因として注目された.しかし,実験的研究3)が主としてわが国で行われ,合流異常モデルで必ずしも臨床例にみられるような胆道拡張が得られないこと,また胆道拡張のない胆嚢癌の症例にしばしば合流異常が認められることなどから,病因論としての合流異常は重視されなくなった.

胆嚢隆起性病変の診断と治療方針

著者: 土屋幸浩

ページ範囲:P.1358 - P.1359

 予後不良な胆嚢癌の早期診断を背景として,超音波で検出される小さな隆起性病変の臨床での取り扱い方が問題となっている.ポリープ状隆起は3〜5%程度と高率に描出されるのであるが,その大多数はコレステロールポリープである.したがって,この病変の典型的なパターンを認識することが鑑別や治療方針の決定の基本となる.また,最近の高分解能超音波装置を応用すると,早期胆嚢癌のうち表面隆起型(IIa型)の検出も可能である.したがって,粘膜に着目した超音波診断が要求される.

胆道癌診療の問題点

著者: 小菅智男 ,   尾崎秀雄 ,   幕内雅敏 ,   木下平

ページ範囲:P.1360 - P.1361

 胆道癌は比較的進行の早いものが多く,しかも門脈,肝動脈などの重要な血管に近接しているため,診断が遅れると,その間にこれらの脈管に浸潤して切除不能となってしまう.また,閉塞性黄疸に対する処置が遅れると肝機能の障害がすすみ,胆道ドレナージを行っても機能の回復に長期間を要するようになる.したがって,迅速な診断と胆道閉塞に対する適切な処置が不可欠である.
 本稿では日常診療における診断と治療上の問題点を中心に述べる.

座談会

膵・胆道疾患の画像診断

著者: 竹原靖明 ,   有山襄 ,   板井悠二 ,   多賀須幸男

ページ範囲:P.1362 - P.1371

 多賀須(司会) お忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございます.さて,最近の膵臓・胆道疾患の画像診断の中心になるのが超音波で,非常に多くの方が関心を持って実際にやっておられると思うのですが,これを十分会得するのはなかなか難しい.
 私自身も必要に迫られて超音波をいろいろ勉強して,講習会や講演会など伺わさせていただくのですが,どうしてもよく理解できにくいところがある.今日は,そういうものの代表として,この方面の文字通りの第一人者の3先生にいろいろ教えていただくという形でこの座談会を始めさせていただきたいと思います.

理解のための10題

ページ範囲:P.1372 - P.1374

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・6

PTCA施行後にみられる形態学的変化

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1376 - P.1378

●PTCA施行により冠動脈狭窄部の拡大がみられた例
 症例 59歳,男
 現病歴 58歳の頃,釣に行き,約20m歩行すると間歇性跛行が出現したため,近くの病院へ入院した.心臓カテーテル検査の結果,閉塞性動脈硬化症,胸部大動脈瘤,陳旧性心筋梗塞と診断された.閉塞性動脈硬化症に対して両側総腸骨動脈から大腿動脈にかけて人工血管によるバイパス手術を施行した.胸部大動脈瘤は胸部CTにて直径45mmであったため,外来経過観察中であった.しかし最近,胸部CTにて直径71mmと増大傾向を認めたため,手術適応と考えられ,当院を紹介された.

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

Sail soundと特異な三尖弁逆流を認めたエプスタイン奇形の1例

著者: 福田信夫 ,   大木崇 ,   河野智彦 ,   小川聡 ,   細井憲三 ,   森博愛

ページ範囲:P.1386 - P.1393

■心音図・心機図所見
 1)心音図(図1)
 心尖部(Apex)と第3肋間胸骨左縁(3L)の同時記録心音図において,診断上のポイントとなるのは次の5点である.①3Lにおける強大な収縮早期過剰心音と拡張中期過剰心音,②II音の病的分裂と肺動脈弁成分(IIP)の減弱,③右心性IV音,④Apexと3Lの全収縮期雑音,⑤Apexの収縮中期クリック.
 3Lにおける収縮早期過剰心音は,小さな第1成分(T1)と強大な第2成分(T2)からなり,心尖部のI音(IM)に比べて著しい遅延(IM-T2=100msec)を示す.また三尖弁エコーとの同時記録によれば,ビーム方向の違いによって両成分に一致した三尖弁閉鎖が記録できる(図2).したがって,これらの心音は三尖弁閉鎖に関連して生じたものと解釈できるが,本心音あるいは三尖弁閉鎖の異常な遅延は右脚ブロックのみでは説明しえない.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

大腸(4)—クローン病

著者: 松川正明 ,   西澤護

ページ範囲:P.1394 - P.1400

 西澤 前回は潰瘍性大腸炎についての話でしたが,今回はクローン病についてです,クローン病は治りにくく,手術をしても再発しやすいことがよく知られていますが,まず診断の手掛りとしてどういうことがありますか.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1380 - P.1385

心電図演習

著者: 柳下芳樹 ,   西山信一郎

ページ範囲:P.1401 - P.1404

 68歳の女性.2日前より咳,呼吸困難が出現し,次第に増強するため,救急車にて来院,緊急入院した.
 既往歴 特になし,喫煙10本×40年

内科専門医による実践診療EXERCISE

意識障害,失語症/発熱,全身倦怠,腎不全

著者: 高木誠

ページ範囲:P.1405 - P.1408

 39歳,男性,独り暮らしの土木作業員.3月25日,知人がアパートを訪れたところ,様子がおかしいことに気付き救急車にて当院に搬送,入院となる.1週間前までは工事現場で働いていたことが確認されているが,それ以後の病歴は意識障害,失語症のため患者本人からの聴取ができず詳細は不明である.
 一般身体所見:身長160cm,体重42kg.血圧124/90mmHg,脈拍54,整,体温36.8℃.貧血・黄疸なし.表在リンパ節触知せず.甲状腺腫(-).項部硬直(±).心雑音なし.肺野:聴打診上異常認めず.腹部:肝脾腫大なし.下腿浮腫なし.来院時尿失禁(+).頭部,体表に明らかな外傷なし.

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・16

特発性拡張型心筋症

著者: 飯田啓治

ページ範囲:P.1410 - P.1415

概念
 拡張型心筋症(DCM)は,特発性心筋症の一型であり,心室の拡張と収縮不全を特徴とする心筋疾患である.厚生省特定疾患調査研究班による「特発性心筋症の手引」1)に従えば,特発性心筋症とは原因不明の心筋疾患であり,原因または全身疾患が明らかな心筋疾患は,特定心筋疾患(二次性心筋疾患)として区別される.特定心筋疾患として,①産褥心,アルコール性心疾患,原発性心内膜線維弾性症,②心筋炎,③神経・筋疾患に伴う心筋疾患,④結合織病に伴う心筋疾患,⑤栄養性心疾患,⑥代謝性疾患に伴う心筋疾患(Pompe,ヘモクロマトーシス,Hurler,Hunterなど),⑦その他(アミロイドーシス,サルコイドーシスなど)がある.
 DCMの病因は不明であるが,その発症には種々の因子の関与が考えられており(図1),本症がhomogenousな疾患でない可能性も強い2)

CPC

気管支拡張症と臨床診断され,肺炎を反復して死亡し,剖検によりリポイド肺炎と診断された71歳男性

著者: 内山富士雄 ,   相澤信行 ,   篠崎伸明 ,   佐伯典之 ,   竹大禎一 ,   村山章裕 ,   仲地善昭 ,   小沼正和 ,   縣陽太郎 ,   蓮沼敏行 ,   塚本玲三 ,   鈴木隆夫 ,   渡雅文 ,   金國鍾

ページ範囲:P.1416 - P.1423

症例
 患者 71歳男性,印刷業
 主訴 咳,痰,呼吸困難
 現病歴 約10年ぐらい前より,咳,痰が慢性的に続いており,昭和59年,他院にて気管支拡張症と診断されている.この1,2年間,咳,痰が増強してきて,昭和61年7月と11月の2回,肺炎の合併で当院へ入院している.今回,2〜3週間前より急に咳と呼吸困難が強くなり,痰はやや黄色調で,量が増加してきた.食欲も低下し,体熱感もでてきたため来院して,昭和62年3月25日入院となった.喫煙も飲酒もしない.

呼吸器疾患診療メモ

喘息死の予防

著者: 松本強 ,   宮城征四郎

ページ範囲:P.1424 - P.1425

 喘息が致死的疾患であることは意外に知られていない.あの著名な内科医であるWilliam Osler博士でさえ,喘息死はあり得ないとそのテキストに明言したほどである.喘息は3,000年も前から知られている病気であるが,喘息死が注目されるようになったのは過去50年足らずのことである.
 私どもの病院で,過去に3回も喘息重症発作のため挿管および人工換気を受けたAさんが,たまたま某病院に入院した.病気を心配して尋ねるAさんに,主治医は笑顔でこういったそうである.「大丈夫,喘息は絶対死なないから」.青ざめたAさんが私どもの病院に逃げ帰ってきたのはいうまでもない.Bさんは喘息大発作のため,一命はとりとめたが,低酸素性脳症のため3年間植物状態で入院している.皮肉なことに,その後喘息そのものは発作を起こさない.たった一度の大発作が,50歳のBさんのその後の人生を無為にしたのである.

循環器疾患診療メモ

放射線性心障害radiation-induced heart disease(RIHD)

著者: 高尾信廣 ,   山科章

ページ範囲:P.1426 - P.1427

 放射線治療は,食道癌,乳癌,Hodgikin病などによく用いられている.放射線の照射部位が心臓にかかる場合,それが原因で心臓にいろいろな疾病が生じることがある.この放射線性心障害(以下,RIHDと略す)について,内科医が知っておきたい事柄に関して簡単に解説する.

消化器疾患診療メモ

胆道ジスキネジーの新しい概念:十二指腸乳頭括約筋(Oddi括約筋)機能不全

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1428 - P.1429

 「胆道ジスキネジー」という疾患名は,もしかしたら若手の読者諸氏にはもうすでに馴染みが薄いかも知れない.かっては胆道系疾患を疑わせる症状があり,種々の画像診断検査で胆石やその他の形態的異常を認めない症例では,胆道系の機能異常があるに違いないとのことで,大ざっぱにつけることができた,いってみれば便利な診断名であった.ところが医学の進歩による各種疾患の病態解明の流れに取り残され,漠然とした解釈しか得られなかった「胆道ジスキネジー」は,年々1つの疾患概念としての位置が軽視され,ついに消化器病学の権威ある教科書である,BochusやSleisengerのテキストの最新版では,辛うじて文中にその用語を見出すことができる程度に格下げになってしまった.
 では「胆道ジスキネジー」という疾患は過去の存在であり,もうすでに消滅してしまったのであろうか.答えは「ノー」である.過去の臨床医の能力はそのように低いものではない.かつて漠然と診断されていた「胆道ジスキネジー」の少なくとも一部が,最近のテクノロジーを用いて病態解明がすすみ,十二指腸乳頭括約筋(Oddi括約筋)機能不全という名の疾患概念として近年脚光を浴びつつある.

実践診療dos and don'ts

利尿剤の功罪/頭痛の診断

著者: 堅村信介

ページ範囲:P.1334 - P.1334

 飲まず食わずの遭難者が救助されたが,昨晩から尿が数ccずつ程度しか出ていないという.血液を採取したが,検査結果が出るまで時間がかかる.脱水補正のため経静脈的に点滴を始めたが尿意はまだない.膀胱カテーテルを入れたが,2cc程度の尿を認めただけであった.血液検査の一部が判明し,BUN 38mg/dlと報告を受けた.
 この場面で,利尿剤を使おうと考える人も結構いると思う.頭の中で,key wordが脱水から乏尿無尿に,無意識の内に置き変わっているとなおさらである.膀胱カテーテルのわずかな尿を調べることなく,もし利尿剤を投与したら,脱水状態をさらに悪化させるだけでなく,大切な"情報"を自ら放棄することになる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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