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雑誌目次

雑誌文献

medicina27巻1号

1990年01月発行

雑誌目次

今月の主題 再灌流療法時代の急性心筋梗塞診療

—editorial—再灌流療法時代の急性心筋梗塞診療の問題点

著者: 山口徹

ページ範囲:P.6 - P.7

 急性心筋梗塞に対する血栓溶解薬あるいは機械的手法(PTCA)による再灌流療法の有効性が認識されるようになってから,ほぼ10年がたった.この間に急性心筋梗塞の死亡率は1/2あるいは1/3以下に減少したとされる.この成果は再灌流療法の効果もあるが,IABPの普及,静注可能な亜硝酸薬の出現などの効果も大きいと思われる.しかし急性心筋梗塞に対し再灌流療法を積極的に行っていたのは一部の第一線病院のみで,再灌流療法の恩恵を受けなかった患者のほうが多かったのが現状であろう.その意味では再灌流療法の成果発現は,ウロキナーゼが急性心筋梗塞に健康保険で認められ標準的治療法となるこれからであろう.とくにカテーテル室での冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)の有効性が強調された時代には,カテーテル検査の可能な施設とそうでない施設との差が大きかったが,静注法の普及でその差は縮まろう.
 しかし急性心筋梗塞の診療において,なおいくつかの問題点を残している.本特集ではそれらを並べ,臨床の第一線の諸先生に現時点での解説をお願いした.筆者も2,3の未解決の問題点をあげてみたい.

今月のglossary

著者: 山口徹

ページ範囲:P.8 - P.10

●冠動脈造影の読み方
 わが国では米国心臓学会(American Heart Association:AHA)から出された冠動脈疾患の精査を受けた患者の報告システム(Circulation 51:7,1975)に従って,冠動脈造影や左室造影の命名,病変評価がなされることが多く,AHA分類と称される,AHAでは各冠動脈枝をいくつかのsegmentに分けて記載するように勧めており,たとえば左前下行枝の近位部はsegment 6というように呼ばれる(図1).しかしこの呼称は米国ではほとんど用いられていない.
 狭窄度は正確にはデンシトメトリーあるいはコンピュータ処理により実測するが,通常は視覚的なGensiniの分類に従い,25%,50%,75%,90%,99%,100%の6段階,あるいは99%狭窄を造影遅延を伴うものと伴わないものに分け7段階に評価し,「segment 6の90%狭窄」のように表現する.90%狭窄とは76%〜90%狭窄を指し,75%狭窄とは51%〜75%狭窄を指す.通常,狭心症を生ずる有意狭窄は75%狭窄以上で,実測70%以上を有意と取り扱う場合も多い.

発生の機序と病態

心筋梗塞と血栓

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.12 - P.14

 これまで心筋梗塞の発生機序に関する研究は主として剖検例を対象とし,血栓の発現頻度について論じられてきた.しかし近年,不安定狭心症や心筋梗塞発症急性期に冠動脈造影が施行されるようになり,心筋梗塞発症早期の病態が明確に把握できるようになった.これらの臨床所見とこれまでの病理所見を対比すると,さらに心筋梗塞の発症機序がよく理解できる.

心筋梗塞と冠スパスム

著者: 桐ケ谷肇 ,   相澤忠範

ページ範囲:P.16 - P.17

 急性心筋梗塞の90%は冠動脈硬化症を基盤に発症するが,冠閉塞発現の機序は一様ではなく,少なくとも,①血栓形成,②血小板凝集,③動脈硬化プラークの破裂,④動脈硬化の進展,⑤冠スパスム(冠攣縮),などの数因子が関与している.
 冠スパスムは異型狭心症の発生機序に重要な役割を果たしていることは周知のとおりであるが,冠動脈造影検査時に冠スパスム誘発試験1,2)が広く施行されるようになった結果,異型狭心症以外の虚血性心疾患(労作兼安静狭心症,不安定狭心症,心筋梗塞)においても冠スパスムが関与していることが明らかになった.

フリーラジカル

著者: 葛谷恒彦 ,   鈴木敬一郎

ページ範囲:P.18 - P.20

 近年,急性心筋梗塞における再灌流障害などでフリーラジカルや活性酸素が原因として注目されている.フリーラジカルとは不対電子をもつ分子や原子で,一般に不安定で反応性に富んでいる.一方,活性酸素とは基底状態にある酸素分子(3O2)以外の活性に富む酸素種の総称で,その主なものはスーパーオキサイド(O2-),1重項酸素(1O2),ヒドロキシラジカル(OH・),金属酸素錯体などである.これらの活性酸素が不飽和脂肪酸などと反応してできるペルオキシラジカル(LO2・),アルコキシラジカル(LO・),脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)などもこの範疇にはいる.活性酸素の中にはラジカルと非ラジカルがあり,H2O2などは非ラジカルである.フリーラジカルは不安定で寿命が短く,濃度が低く,その正確な検出,同定,定量は難しい.現在,電子スピン共鳴(ESR)を用いたスピントラッピング法,ケミルミネッセンス法などが試みられている.

血栓溶解剤と出血性梗塞

著者: 藤原久義

ページ範囲:P.22 - P.23

 これまでヒトの心筋梗塞は貧血性梗塞で,出血性梗塞は稀とされてきた.ところが急性心筋梗塞に対しウロキナーゼ(UK)などを用いた血栓溶解療法がなされるようになり,図1,2に示すような出血性梗塞がみられるようになった.血栓溶解療法のなされた剖検例と,なされなかった剖検例に分けて,出血性梗塞の頻度を示したものが図3である.

stunned myocardium

著者: 児玉和久

ページ範囲:P.24 - P.25

 近年,心筋梗塞急性期の再疎通療法が広く普及し,きわめて早期に冠再疎通が可能となる例が増加するにつれて,冠灌流再開直後,心筋壊死には至らないが,収縮能が低下し,その機能回復に長時間を要するような可逆性心筋虚血の病態が明らかとなってきた.
 Braunwaldら1)は,かかる病態を“stunned myocardium”と名づけている.“stunned”とは直訳すると“気絶した”ということになるが,心筋梗塞という強烈な虚血に曝された心筋細胞が,死滅するには至らないが,気絶するがごとく一時的な機能喪失をきたし,時間経過を経て気絶した状態から覚醒するがごとく徐々に機能を回復するような過程を単純明解に表した表現である.このような病態は急性心筋梗塞の早期治療などに関連して,非常に重要な問題であるにもかかわらず,その発生機序はいまだ解明されていないのが現状である.

extensionとexpansion

著者: 本江純子 ,   田村裕男 ,   斎藤頴

ページ範囲:P.26 - P.27

 急性心筋梗塞の予後に影響を及ぼす重要な因子として,extensionならびにexpansionがある.本稿では,これらの病態とその対策について解説する.

診断と評価

超急性期の梗塞診断

著者: 佐藤光 ,   立石博信 ,   内田俊明 ,   土手慶五 ,   石原正治

ページ範囲:P.28 - P.30

 心筋梗塞は臨床医にとって,きわめて日常的な疾患であり,しかも重篤な経過をとることが多い.通常,急性期ほど死亡率は高く,さらに急性期の治療が大きく進歩し,一刻も早く診断をつけることが要求されている.しかし,その診断は初期ほど,厳密には困難であり,容易なことではない.

再灌流の非観血的診断

著者: 石綿清雄 ,   中西成元

ページ範囲:P.32 - P.33

 急性心筋梗塞に対する早期の血栓溶解療法は,これまでの多くの臨床的検討から,虚血心筋への血流を再開し,左室機能の改善と死亡率の低下をもたらすことにより,その有用性が明らかにされてきている.また,動物実験においても急性冠閉塞による心筋の壊死は,わずか18分で心内膜下に始まり,4,5時間で心外膜までおよび,さらに貫壁性の梗塞に進展するとされている.人においてもほぼ同様と考えられることより,虚血心筋を救い梗塞巣を最小限にとどめ,予後の改善を期するには,当然のことながらいかに早期に治療を開始するかにかかってくる.
 現在,血栓溶解療法には血栓溶解剤を末梢から静注する方法と,緊急冠動脈造影を行い,梗塞責任血管に冠動脈内注入するPTCR(経皮的冠動脈内血栓溶解療法)の2種類の方法がある.静注法はPTCR開始までの時間の損失を避けることができ,より実際的な手段であり,迅速にしかも効果的に血栓溶解療法を行うことが可能である.多施設の検討で,静注法にて約75%に再灌流が得られるという結果がでている.しかし再灌流の得られなかった残りの一部に緊急冠動脈造影を行い,PTCA(経皮的冠動脈形成術),緊急ACバイパス術などの侵襲的治療を行わなければならない症例もある.そこでより早い時期に再灌流を非観血的に,しかも簡便な方法で診断する必要があるわけである.

超音波検査法の役割

著者: 吉田清 ,   吉川純一

ページ範囲:P.35 - P.37

 心臓の超音波イメージングには,形態および動きをとらえようとする心エコー図法と,心臓内の血流動態を計測するためのドプラ法があり,両者は互いに補完的に用いられている.超音波イメージングは非観血的にくり返し施行することができ,リアルタイムに多方向から心臓を観察しうるため,心疾患の診断に欠くべからざる検査法となっている.

血液検査による診断と評価

著者: 永井良三 ,   磯部光章 ,   矢崎義雄

ページ範囲:P.38 - P.40

 心筋梗塞の大きさを早期に推定することは,臨床的に非常に重要である.心不全や重篤な不整脈などの合併症が,大きな梗塞であるほど高頻度に出現するからである.梗塞サイズを血液生化学的に評価する方法として,クレアチンキナーゼ(CK)やそのアイソザイムCK-MBの測定が一般的に用いられている.すなわち,CKの高い症例ほど心筋障害が激しい.しかし冠再灌流術を急性心筋梗塞症例に行うと,血中CK値が梗塞サイズを必ずしも反映しない.これは血中CK値を指標とすると冠再灌流療法の効果判定が困難であることを意味し,臨床上大きな問題となっている.
 本稿では,冠再灌流時の血中CKの動態と,新しい心筋障害の指標ミオシン軽鎖について述べる.

血行動態のモニタリング

著者: 田村勤 ,   杉村洋一

ページ範囲:P.42 - P.43

 心筋梗塞の合併症のうち,ポンプ失調(うっ血性心不全,心原性ショック)をいかに管理・治療するかは,現在でも大きな問題として残されている.そのための心機能評価は自覚症状,Gallop rhythm・ラ音などの身体所見,胸部X線所見,心エコー図などを総合して行われるが,スワンガンツカテーテルによる血行動態モニターも心機能評価の把握に重要な情報を与え,心筋梗塞の急性期の管理に必要欠くべからざるものとなっている.

緊急冠動脈造影

著者: 光藤和明

ページ範囲:P.44 - P.45

 心筋梗塞急性期の治療として再灌流療法が広く行われるようになった現在,心筋梗塞発症直後の冠動脈造影(AMI-CAG)もまた広く行われている.歴史的にみると,Sones1)がCAGを始めた頃はAMI-CAGは禁忌とされていた.1975年のGensiniのtextbook2)では,AMI-CAGは一般的には禁忌としているものの,手術療法が必要な場合には例外としている.さらに進んでRentrop3)らにより再灌流療法が行われるようになってからは,AMI-CAGを禁忌と考える人はまずいなくなったといってよい.
 このようにAMI-CAGが広く受け容れられるようになった理由としては,次の2つのことが考えられる.すなわち,①手術やPTCR,PTCAといった治療法の進歩・多様化に伴い,AMI-CAGによる情報が治療方針の決定の中で果たす役割が次第に大きくなってきたこと,そして,②CAGそのものが簡潔となり,造影剤の改良と相まって,安全性が飛躍的に向上したことである.

RI法の役割

著者: 田中健 ,   相澤忠範

ページ範囲:P.46 - P.49

 再灌流療法により,急性心筋梗塞の虚血発作にさらされた心筋を,一部ではあるが壊死から救い得るようになった.この結果,心筋壊死と心筋虚血の間に位置する重篤な虚血発作にさらされた心筋の病態が注目され,stunned myocardiumなどの概念が提唱されるようになったが,詳細に関しては不明な点が多い.心筋の血流状態を反映し,心筋viabilityを直接画像化するTl-201心筋断層像(Tl像)は,これに関する有力な検査方法として最も期待されている.さらに最近では,交感神経末梢に取り込まれるmetaiodobenzylguanidine(MIBG)を用いた1-123 MIBG心筋像(MIBG像)により,このような心筋の交感神経機能も評価し得るようになった.

PETで何が分かったか

著者: 神原啓文

ページ範囲:P.50 - P.51

●PETの特色
 PET(positron emission tomography)は,小型サイクロトロンで生成されたポジトロン核種を用いる放射性断層イメージ法である.通常の放射性核種はsingle emissionと呼ばれ一方向性の放射線を出すのに対し,ポジトロンは180°対向方向に544keVのγ線を放出する性質を有する.したがって,対向型γカメラを用い同時に両カメラに入射した放射カウントを測定すると,図のようにその位置によらず深部減衰を正確に補正することが可能である.また,その分解能は筆者らの使用する機器では6×6mmと通常のSPECTより良好である.
 ポジトロン核種としては11C,13N,15Oなど生体の構成元素を利用できるため,代謝産物を標識することにより,心筋血流のみならず,心筋代謝の測定が可能となる.心筋血流を知るトレーサーとして現在13NH3を用いているが,高血流領域では心筋摂取率が低下して過小評価する可能性があり,定量的な評価には問題が残る.H215Oは血中より細胞膜を自由に通過して細胞内にはいるため心筋血流をより正確に反映するものとして期待されているが,血液中のカウントをC15Oなどを用いて差し引く必要があるため,その操作は煩雑である.しかも絶対値を求めるためには血中濃度を経時的に測定する必要があり,この点も制約となる.

再灌流療法

再灌流療法の有効性

著者: 一色高明 ,   山口徹

ページ範囲:P.52 - P.57

 急性心筋梗塞に対する再灌流療法は,1979年にRentropら1)がstreptokinaseを用いて以来,またたく間に急性心筋梗塞初期治療の根幹をなす治療法となった.従来の治療は心筋壊死の進行を阻止するものではなく,壊死が完成した後に開始され,ひき続いて発生する不整脈に備え,心不全を管理することがその主たる内容であった.これに対し,再灌流療法は心筋壊死の進行を阻止することにより,心筋梗塞を完成させずに最小限に抑えることを目的としているという意味で画期的なものである.再灌流療法を導入した当初,再灌流に成功した患者にはほとんど手がかからないことにCCUの医療担当者は驚愕し,本療法が心筋梗塞治療を大きく変化させたことを実感したのである.
 本稿ではこの再灌流療法の有効性に関し,総論的見地からその概略を示す.

血栓溶解薬(ウロキナーゼとt-PA)

著者: 上松瀬勝男 ,   松田正 ,   梶原長雄

ページ範囲:P.58 - P.59

 urokinase(UK)はplasminogenの直接的なactivatorであるが,血栓に対し親和性がないことから,血栓を溶解するためには,循環血液中の線溶能の充進が必要である.投与されたUKはplasminogenを活性化させplasminを生成するが,血中に存在するα2 plasmin inhibitor(α2PI)により失活され,血栓を溶解するに至らない.このα2PIを中和するほどのUKの投与により,すなわち,全身の線溶能の充進があってはじめて血栓は溶解される.大量のUKはfibrinogen,fibrin,種々の凝固因子を分解し,出血を生じるとされている.
 一方,tissue plasminogen activator(t-PA)は血栓に親和性があることから血栓に直接作用し,血栓形成過程で取り込まれたplasminogenをplasminにすることにより血栓を溶解するとされている.したがって血中のfibrinなどの凝固因子もさほど分解させずに,それゆえ,静脈内投与でも血栓の溶解が容易とされている.

プライマリケアでの静注法

著者: 玉井秀男

ページ範囲:P.60 - P.61

 急性心筋梗塞(AMI)における治療の目標は,発症早期に閉塞冠動脈の再疎通を得,急性期死亡率の低下および慢性期心機能の改善にある.AMIの発症には種々の機序が考えられているが,発症後はほとんどの症例において冠動脈内血栓が認められるため,再疎通法としての血栓解療法は一定の評価がなされてきた.
 冠動脈に直接血栓溶解剤を注入する冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)では再疎通率は75%前後といわれ,早期再疎通症例では慢性期左心機能の改善も認められるとされている.また近年,閉塞血管を直接拡張する経皮的冠動脈形成術(PTCA)がAMIに適応されるようになり,その再疎通成功率は90%前後との報告が多く,左心機能の改善も良好であるとの報告もみられる.しかしながらPTCRは,心臓カテーテル検査を行い得る施設においてのみ可能な治療法であり,PTCAはさらに高度の技術を必要とし,ともに第一線の一般病院における急性期治療法とはなり難い.

PTCR

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.63 - P.65

 心筋梗塞は冠動脈に血栓が生じ,血流が遮断されるために生ずるとされている.冠血流が杜絶すると心筋が壊死(necrosis)に陥るが,壊死はその冠動脈の支配領域の中央の心内膜側にまず発生し,時間が経つにしたがい,心外膜側へ,また,周辺へと波及する(wavefront現象1)).イヌ実験では冠閉塞20分後で心内膜側に壊死が生じ,その後周辺に波及する.壊死がすべてに拡がらないうちに血栓を溶解し,血流を再開させえれば,壊死に陥るべき運命の心筋を救済(salvage)することができよう.これが心筋梗塞に対する血栓溶解療法(coronary thrombolysis)の原理である2)(図1).
 この考えに基づき,主としてヨーロッパでは1970年前半より臨床研究がなされていたが,発症後時間を経過した症例を対象としたり,ストレプトキナーゼ(SK)使用量が少なかったりしたためか,効果は不明瞭であった.1979年RentropおよびGanzらは,発症3時間以内の心筋梗塞に冠動脈造影(coronary angiography;CAG)を施行し,SKを梗塞の責任冠動脈(infarct-related artery)内へカテーテルを介して注入し血栓が溶解することを示し,その有効性を証明し,血栓溶解療法の幕明けを作った.

PTCA

著者: 銕寛之

ページ範囲:P.67 - P.69

●急性心筋梗塞治療におけるPTCAの導入
 1978年,梗塞発症機転として冠動脈内血栓の関与が心筋梗塞急性期の冠動脈造影にて証明され,さらにRentropらによるストレプトキナーゼ(SK)を用いた冠動脈内血栓溶解療法(Intra-cor-onary Thrombolysis;ICT)が急性心筋梗塞(AMI)の原因的治療として画期的な成功をおさめ,AMIの急性期死亡率を減少させた.しかしICTの成功率は60〜75%と不十分でしばしば高度狭窄を残すため,心筋梗塞の再発や梗塞後狭心症はむしろ増加を示した.そこに経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary An-gioplasty;PTCA)が冠動脈閉塞部位の血栓のみならず器質的狭窄をも十分に拡大し得るという,これまでのICTの欠点を解決する手段として脚光をあびてきた(図1).

内科サイドからみた緊急冠動脈バイパス術

著者: 野坂秀行 ,   延吉正清

ページ範囲:P.70 - P.72

 ACバイパス術による急性心筋梗塞の梗塞巣sal-vageを目的とした冠血行再建の試みは1970年初めから報告されており1),現在広く行われるようになった血栓溶解療法,PTCAによる早期再開通療法もその延長線上にあるといってよい.内科的な早期再開通療法の急速な進歩と普及により緊急ACバイパス術の適応は狭くなったが,内科的治療のback upとして,より緊急性のある重症例がその適応として残り,どのような症例に対しどのようなタイミングで心臓外科医にcallするかは,内科医にとって急性心筋梗塞の早期治療の一環として重要である.

合併症に対する治療

心原性ショック

著者: 延吉正清 ,   野坂秀行

ページ範囲:P.74 - P.76

 心原性ショックは急性心筋梗塞症の合併症として起こることが大部分である.通常は太い冠動脈の急激な閉塞や多枝疾患患者で狭心発作が重複した場合などに起こるとされている.心原性ショックはMirowskiら1)によると1,246例の急性心筋梗塞症中12%に発生し,87%が通常の内科治療で死亡し,その予後はきわめて不良である.

心不全

著者: 早崎和也

ページ範囲:P.77 - P.83

 急性心筋梗塞の救命率は著しく向上しているが,その主な原因は,不整脈死が減少し,心不全に対する治療がより確立されたことによる.
 急性心筋梗塞の心不全合併率は23〜50%といわれているが,Killip分類(表1)でみると,その頻度は,Killip I 33〜64%,II 18〜38%,III 6〜10%,IV8〜19%程度であるので,軽〜中等度の心不全が合併する頻度は20%前後,高度の心不全合併は10%,死亡率では,前者で15%,後者で20%程度である1〜3).心不全は発症より数時間から数日と,不整脈よりやや遅れて出現することが多いが,その兆しは早いことが多い.

不整脈

著者: 林田憲明 ,   山科章 ,   高尾信廣 ,   田村明紀

ページ範囲:P.84 - P.86

 再灌流療法時代における不整脈といえば,再灌流性不整脈(reperfusion arrhythmia:RA)があげられるが,これは虚血心筋が血流を回復する過程で生ずる不整脈であり,胸痛,ST再上昇とともに再灌流障害の1つの表現と考えられている.冠動脈血栓溶解療法(ICT)や経皮的冠動脈形成術(PTCA)が急性心筋梗塞の積極的治療として認められつつある現在,以前より指摘されていた結紮冠動脈の再開通時に心室細動(Vf)をはじめとする心室性不整脈を誘発しやすいという動物実験での事実は,より身近なものとして注目され,多くの症例を通じて臨床医の共通の認識となっている.
 結論としてRA発生機序についての詳細は未だ不明であるが1),実験的事実と臨床的経験により明らかになりつつあるものについて要約し,治療法を考えてみたい.

梗塞後狭心症

著者: 山崎純一 ,   矢部喜正 ,   大沢秀文 ,   森下健

ページ範囲:P.89 - P.92

 梗塞後狭心症(post infarction angina;PIA)とは,心筋逸脱酵素が再上昇することなく,急性心筋梗塞後に出現する一過性の胸痛発作を伴った狭心症である.その発生頻度は18〜85%と比較的高率であるが1),PIAの病態や発生機序が必ずしも単一でなく,治療困難な症例もしばしば経験することがある.そこで本稿では,PIAの治療を中心に,その診断基準,病態,発生機序について述べる.

心破裂の予防と治療

著者: 木内要 ,   田中啓治 ,   高野照夫

ページ範囲:P.94 - P.95

 心破裂は心不全,不整脈に次いで心筋梗塞による死亡の重要な原因である.心筋梗塞後の心破裂としては,自由壁破裂,心室中隔穿孔,乳頭筋断裂がある.ここでは自由壁破裂の病態とその対策について述べる.
 自由壁破裂の臨床像を表1に,また表2には筆者らの施設における頻度と特徴を示した.

心室中隔穿孔

著者: 鈴木紳

ページ範囲:P.96 - P.98

 梗塞によって心筋が壊死に陥ると,この部分に亀裂を生ずることがある.これが自由壁に生ずると自由壁破裂となり,心室中隔に生じた場合には心室中隔穿孔(Ventricular Septal Perforation,VSP)となる.自由壁破裂の場合はほぼ100%が突然死のかたちをとるが,中隔穿孔の場合には突然死は稀で,徐々に血行動態が悪化し,ポンプ失調に伴う多臓器不全を合併して死に至ることが多い.一方,VSPは外科治療によって救命が可能な疾患でもあり,内科治療による心不全のコントロールを十分に行うとともに,手術の時期も逃さないようにしなければならない.

左室内血栓

著者: 田中伸明 ,   松崎益徳

ページ範囲:P.100 - P.101

 急性心筋梗塞発症後の左室内血栓は,時に動脈塞栓症の原因となり,心筋梗塞後の合併症の1つとして重要である.今回その臨床像につき,簡潔に述べる.

高齢者に対する対策

著者: 樫田光夫

ページ範囲:P.102 - P.104

 急性心筋梗塞に対する再灌流療法として冠動脈内血栓溶解療法が開始された当時,診断の冠動脈造影の適応は多くの施設で70歳以下とされていた.したがって当初,冠動脈内血栓溶解療法の適応も70歳以下とされたが,再灌流療法の効果が明らかになるにつれ適応が拡大し,治療成績の悪い高齢者の心筋梗塞に対しても積極的に再灌流療法が行われるようになった.本稿ではそれらの成績をふまえ,再灌流療法時代の高齢者心筋梗塞の治療方針を述べる.高齢者の定義には混乱があり,70歳以上とすることが多いが,高齢化社会を迎えた今日では75歳以上とすることも多くなってきた.

予後と予防

死亡率は減少したか

著者: 舘田邦彦 ,   平沢邦彦 ,   大崎純三 ,   柴田淳一

ページ範囲:P.106 - P.107

 AMI(急性心筋梗塞)の死亡の原因は従来の不整脈よりショックや心不全のポンプ失調によるものが多く,ポンプ失調を少なくさせるため,梗塞巣を減少させる目的で最近ICT(冠動脈内血栓溶解療法)やPTCA(経皮的冠動脈血管形成術)の再灌流療法が試みられるようになってきた.
 再灌流療法により冠動脈の開存は高率で得られるが,心機能の改善については,再灌流障害,再閉塞などの問題もあり,明確にはされていない.

リハビリテーションはどう変わったか

著者: 野村周三 ,   本宮武司

ページ範囲:P.108 - P.110

 急性心筋梗塞発症早期に閉塞した梗塞責任冠動脈を再開通させる血栓溶解療法や緊急PTCAが広く施行されるようになり,院内死亡の減少傾向が認められている.この「再灌流療法時代」,日本における心臓リハビリテーションも少しずつ変化してきている.心臓リハビリテーションは,急性心筋梗塞発症から退院までの期間に行われる急性期リハビリテーションと,退院後に社会復帰を目指して行われる回復期リハビリテーションに分け、られるが,本稿では主に急性期について述べる.

心筋梗塞症例の予後—内科的治療の効果

著者: 茅野真男 ,   高橋哲夫

ページ範囲:P.112 - P.113

●生命予後を決める因子
 急性心筋梗塞患者の退院後予後とは,退院後1〜2年の生命予後を意味し,とくに退院直後の半年間がhigh riskである.2年以降の予後は一般に,慢性虚血性心疾患としての長期予後で扱われる.
 急性心筋梗塞患者の退院後予後の決定因子を表に示す.一番重要な因子は左室機能で,次に,残った生存心筋に虚血が発生しうるかが重要である.

心筋梗塞症例の予後—interventionの効果

著者: 加藤修

ページ範囲:P.114 - P.115

 従来,急性心筋梗塞は致死性不整脈による死亡が高率で,急性期致命率は約30%とされていた.CCU導入以来,抗不整脈剤の開発などにより不整脈死は著明に減少し,病院内致命率は15〜20%に減少した.しかし,IABP(大動脈バルーンパンピング法),新しいカテコールアミンの普及にもかかわらず,重症ポンプ失調合併例(重症心不全,心原性ショック)の致命率は減少せず,急性期死亡原因の60〜70%はポンプ失調とされている.
 近年,発症早期に梗塞責任冠動脈の再疎通を計るinterventionとして冠動脈血栓溶解療法,緊急PTCA(経皮経管冠動脈形成術)や緊急CABG(冠動脈-大動脈バイパス術)が普及し,急性心筋梗塞の急性期予後の改善が期待されている.とくに,最近では再疎通による梗塞巣縮小効果とともに,急性期血行動態の改善効果によるポンプ失調死の減少や,梗塞巣修復過程の改善による心室瘤形成抑制や心破裂の予防効果が期待されている.そこで,本稿では急性心筋梗塞の死亡原因について解説し,筆者らの成績を含め再疎通療法の急性期予後に対する効果を述べる.

心筋梗塞と高脂血症

著者: 寺本民生

ページ範囲:P.116 - P.118

 最近は,高脂血症治療薬の目ざましい進歩により,まったく対応できない高脂血症はほとんどないといっても過言ではない.このような状況下では,適切な治療法の選択が要請されることは言を待たないが,それとともに高脂血症治療の理論的バックグラウンドの認識が必要である.
 高脂血症の治療目標は,動脈硬化症の予防である.動脈硬化症と高脂血症との関連については,
 1)レトロスペクティブな疫学的調査
 2)プロスペクティブな一次予防,二次予防疫学調査
 3)コレステロール負荷による動物実験
 4)家族性高コレステロール血症(FH)においては動脈硬化症が必発であること
 5)人のFHのモデル動物であるWHHLウサギの動脈硬化症
 などの事実があげられるが,本稿では疫学調査を中心に,高コレステロール血症と動脈硬化症の関連について概説したい.

アスピリンと心筋梗塞

著者: 久津見恭典 ,   宮保進

ページ範囲:P.119 - P.121

 急性心筋梗塞の一次予防として,抗凝固療法は従来より多くの研究がなされてきたが,治療の根幹に関わる問題点は必ずしも解明されていなかった.一方,冠動脈内血栓溶解療法が実際的な急性心筋梗塞の初期治療法として確立し,血栓形成が心筋梗塞の原因として重要視されるにいたり,抗凝固療法は再び脚光を浴びてきた.ことに抗血小板療法は血小板機能の発現や調節機序が血小板受容体レベルで解明されつつあり,また各種疾患による血小板機能の変化も報告されていることから,注目されるようになった.
 本稿ではこのような背景をふまえ,急性心筋梗塞に対する抗血小板剤の位置づけを臨床報告を中心に述べることにする.

β遮断薬と心筋梗塞

著者: 上嶋健治 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.122 - P.123

 急性心筋梗塞による死亡が,年々増加傾向を示しており,急性心筋梗塞患者の救命および二次予防の確立が,医学的,社会的に急務となっている.
 ここでは,心筋梗塞急性期に,梗塞巣の縮小,抗不整脈効果を期待して,また慢性期に心筋梗塞の二次予防を含めた予後の改善効果を期待して行われてきたβ遮断薬の効果と問題点について述べる.

トピックス

silent myocardial ischemia

著者: 出川敏行

ページ範囲:P.126 - P.127

 silent myocardial ischemiaとは,胸痛およびそれに関連する症状をまったく伴わないで起きる無症候性心筋虚血のことである.
 近年の201Tl心筋シンチグラフィー,ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)などの核医学検査,運動負荷心電図,ホルター心電図などの進歩により,無症候性心筋虚血の存在が容易に捉えられるようになり,その臨床的意義が注目されるようになった.

冠動脈内視鏡

著者: 水野杏一

ページ範囲:P.128 - P.129

 急性心筋梗塞の診断,治療に用いられている冠動脈造影は,死亡後の病理や冠動脈バイパス手術中の血管内腔所見との対比をすることにより,造影そのもので,ある程度冠動脈の状態を推察できる.しかし,造影所見はあくまでも造影による影絵であり,直接目で見ているものとは違う.その点,血管内視鏡は色彩の区別ができ,より詳細な内腔観察ができるので,急性心筋梗塞の病因,病態,治療に役立つものと思われる.しかし,冠動脈に関しては細径のファイバーがなかったこと,またファイバーができても彎曲のある冠動脈ではなかなか血管内腔が同軸で観察されにくいなどより,臨床に広く応用できにくかった.
 筆者らは最近,内視鏡先端にバルーンをつけ,一方向曲げ機構やガイドワイヤーを狭窄部に留置したまま生理食塩水をflushできるover the guide wire方式の内視鏡カテーテルを開発し,急性心筋梗塞はじめ種々の虚血性心疾患に内腔観察を行っている1〜5).それを基にして,急性心筋梗塞の血管内視鏡の有用性などを述べる.

補助人工心臓(VAD)

著者: 住吉徹哉

ページ範囲:P.130 - P.131

 近年,強力な薬物治療にも反応しない高度の心機能障害例に対して,種々の補助循環法が開発され実用化されてきた.その中でも大動脈内バルンポンプ法(IABP)は経皮的にバルンを挿入できるという適用の容易さもあって汎用され,心筋虚血が関与した心不全例などに救命的効果をあげている.しかしIABPは単に血圧の時相を変えるだけの圧力補助装置であり,極端に心拍出量が低下した心筋原性の心原性ショック(myocardial fail-ure)に対しては満足な成績が得られていない1)
 最近臨床応用が可能となった補助人工心臓(ventricular assist device:VAD)は,心臓のポンプ機能を必要に応じて100%まで代行できる機械的な血液ポンプシステムであり,IABPも含めた現行の治療法に反応しない重症のポンプ失調例に装着して一時期の生命を維持することができ,その間に心機能の回復を期待し,あるいは積極的に手術などの治療を行うことが可能である.

心筋コントラストエコー法

著者: 伊藤浩 ,   南野隆三

ページ範囲:P.132 - P.134

 心筋コントラストエコー法(Myocardial Con-trast Echocardiography;MCE)は,冠動脈内にコントラストメディウムを注入することにより心筋エコー輝度の増加として心筋内血流を可視化する手法である.概念は,すでに1982年Armstrongらにより提唱されていたが,近年,安全でかつ定量的なコントラストメディウムが開発されるにつれ,実験的検討とともに臨床例的知見が急速に集積されつつある.

non-Q心筋梗塞

著者: 有馬新一 ,   田中弘允

ページ範囲:P.136 - P.137

 Q波心筋梗塞(QMI)あるいはnon-Q波心筋梗塞(NQMI)は,多くの場合それぞれ貫壁性心筋梗塞(TMI)および非貫壁性心筋梗塞・心内膜下梗塞(NTMI)に対応するものとして使われている.しかしTMIやNTMIは病理学的根拠を必要とする用語であり,QMIやNQMIと厳密に対応するものではないとして,Spodick1)は孔子の言葉を引用して,QMIやS-Tinfarct(NQMI)を心電図上の分類に限って使用するように強く戒めている.以降も用語に関する論議はくり返されているが,この間QMI対NQMI,TMI対NTMIの間の異同についての知見が多数報告され,それぞれ心筋梗塞における独立したclinical entityとして認められてきた.本稿では,NQMIの診断,臨床像,治療についての最近の動向を概説する.

座談会

急性心筋梗塞治療の最前線

著者: 相澤忠範 ,   野坂秀行 ,   高野照夫 ,   山口徹

ページ範囲:P.138 - P.151

 山口(司会) 急性心筋梗塞の治療もaggressiveな治療法が効果をあげておりますが,とくに血栓溶解療法が大分普及し,最近ウロキナーゼ(UK)の静注が許可されるという状況になっていますから,実際にプライマリケアの段階でもUKを使う事態が十分考えられるような時代になったと思います.そういう時代を睨んで,心筋梗塞の診断,治療というものをこれからどういうふうに考えていくかということについて,第一線の先生方にご意見を伺っていきたいと思います.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・11

急性心筋梗塞—不完全閉塞

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.154 - P.156

●梗塞発症1カ月後の冠動脈造影にて99%狭窄を認め,剖検により血栓を確認した例
 症例 60歳,男
 現病歴 これまでとくに胸痛発作はなかったが,4月5日出勤時に胸部圧迫感があった.4月7日近医を受診し,狭心症の診断により投薬をうけた.その後も歩行や労作時に胸部圧迫感が出現し,ニトログリセリン錠舌下にて改善した.21日にやや強い胸痛発作があり,それ以後,発作は全くなくなった.4月26日当院外来を受診し,心電図上,II,III,aVFにおいて異常Q波を認めたため,そのまま入院となった.
 入院時の生化学検査ではLDH,HBDの上昇を認め,21日発症の下壁梗塞と考えられた.梗塞発症1ヵ月後の冠動脈造影では回旋枝(Seg 12)に99%狭窄を認めた(図1A).

Oncology Round・5

悪性腫瘍を疑わせた梅毒疹

著者: 新井栄一 ,   中山坦子 ,   片山勲

ページ範囲:P.165 - P.168

 顔面の腫瘤を主訴として来院し,その臨床像が悪性皮膚腫瘍を強く疑わせたため皮膚生検が施行された症例を紹介する.初診時に施行された梅毒血清反応の結果より梅毒の診断はついたものの,腫瘤が悪性でないことを病理学的に否定しておくことは必要であると考えられた.梅毒の2期疹としては大型で,著明に腫瘤状を呈したため悪性疾患との鑑別が必要となったのである.
 皮膚には,悪性腫瘍を強く疑わせる臨床像をもって発症する良性疾患が少なからず認められる.生検さえ行えば良性性格が明らかになるわけであるが,不必要な生検や手術を避けるためにも,比較的頻度の高いものについてその存在を予知しておくことは大切である.症例提示のあと,いわゆる皮膚の偽悪性疾患について概説する.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.158 - P.163

心電図演習

著者: 船内武司 ,   石村孝夫

ページ範囲:P.175 - P.179

49歳の男性(事務職)が,労作性呼吸困難と心電図異常で紹介されてきた.
 既往歴 30歳時,網膜色素変性症指摘.喫煙30本×30年
 家族歴 特記すべきことなし.
 現病歴 約10年前より数百メートルの歩行で呼吸困難が出現.近医で高脂血症と肥満を指摘され,体重を85kgから67 kgに減量した.これにより歩行距離はのびたが,それ以外の労作でも呼吸困難は出現していた.今回,眼科手術前の検査で心電図異常を指摘され,精査目的にて当科へ紹介されてきた.

検査

検査データをどう読むか

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.170 - P.173

 アイソエンザイム(アイソザイム)の分画は,乳酸脱水素酵素,アルカリ性ホスファターゼなど大部分が電気泳動分析を主体として行われている.これらの酵素は電気泳動分析の泳動パターンが臨床的な評価として確立されているが,クレアチニンキナーゼ(CK),アミラーゼなどは分画の分離状況,分画された各アイソザイムの量的な比率などから,電気泳動分析とその他の免疫学的な定量分析とが目的に応じて振り分けられる必要がある.
 電気泳動分析は原因不明の高酵素血症などで,どのような分画の酵素活性が上昇しているかを検索するのに重要な方法である.CKの場合を例にとるならば,ミトコンドリア-CK,酵素結合性CK(マクロCK)などは電気泳動分析で初めて検出されるものである.しかし,胸部痛を主訴としている患者で,電気泳動分析はアイソザイム分析の目的を果たすことはできるのだろうか.

循環器疾患診療メモ

抗不整脈薬による不整脈誘発proarrhythmia

著者: 陣内陽介 ,   山科章 ,   高尾信廣

ページ範囲:P.180 - P.182

 ジギタリス中毒による不整脈は有名であるが,従来不整脈を治療すべき抗不整脈薬が不整脈を誘発したり悪化させたりすることがあり,pro-arrhythmiaとも呼ばれ,最近注目されている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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