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雑誌目次

雑誌文献

medicina27巻10号

1990年09月発行

雑誌目次

増刊号 内科エマージェンシーと救急手技 救急手技

1.救急カートの準備

著者: 落合正彦

ページ範囲:P.1632 - P.1633

 救急カートには,患者の救命のために必要かつ十分な最小限の器具および薬品を,きちんと整理された形で準備しておく必要がある.そのためのポイントを以下に列挙する.

2.心肺蘇生法

著者: 上嶋権兵衛

ページ範囲:P.1634 - P.1641

ポイント
 1)心肺蘇生法の目標は脳機能の回復であり,一時的心拍再開ではない.
 2)心停止後3分以内に一次救命処置を開始し,速やかに二次救命処置可能な施設に搬入.
 3)一次救命処置には用手的気道確保,口対口人工呼吸,胸骨圧迫式心マッサージが含まれる.
 4)蘇生法が行えない場所からの移動などの場合を除き,5秒以上CPRを中止してはならない.
 5)塩化カルシウムは救急薬品から除く.

3.気道の確保

著者: 竹永誠 ,   小岩屋靖 ,   田仲謙次郎

ページ範囲:P.1642 - P.1647

ポイント
 気道確保は,
 1)タイミングを失することなく
 2)迅速,かつ確実に
 3)ただし,高濃度の酸素投与は要注意(CO2ナルコーシスの合併あり注)

4.酸素療法とレスピレーターの使い方

著者: 渡辺英一 ,   林田憲明

ページ範囲:P.1648 - P.1651

 呼吸は肺胞,上・下気道,胸郭,胸膜,呼吸筋,中枢および脊髄をはじめとした末梢神経系,心血管系などの1つのシステムから成り立っている.これらいずれかの障害によっても不全状態に陥る.呼吸不全を動脈血液ガスの値よりPaO2<60torr and/or PaCO2>50 torrとし,病態の違いよりhypoxemic failure(hypoxemia without hypercapnia)とventilatory failure(hypoxemia with hypercapnia)の2つに分類している.これらは,①低換気,②拡散障害,③換気血流不均等あるいは,④シャントなどによって起きる.

5.静脈路の確保

著者: 竹内弘明

ページ範囲:P.1652 - P.1655

ポイント
 1)翼状針による穿刺が最も重要な基本手技といえる.
 2)起こり得る合併症を常に念頭に入れて,アプローチ部位,アプローチ法を決める.
 3)穿刺法以外に,cut down法にも習熟すべきである.

6.救急薬品の投与法

著者: 樫田光夫

ページ範囲:P.1656 - P.1658

ポイント
 1)心停止:ボスミン®,メイロン®,硫酸アトロピン®
 2)心室細動:電気的除細動,キシロカイン®
 3)徐脈:硫酸アトロピン®,プロタノール®,体外ペーシング

7.除細動

著者: 永原俊弘

ページ範囲:P.1660 - P.1661

●電気的除細動
 現在は混乱がみられるが,本来の用語の定義は以下のとおりである.
 電気的除細動心室細動に対して行うものであるが,心房細動に対して用いてもよい.
 電気的cardioversion 心室細動以外の不整脈の治療目的に通電を行うもの.

8.循環動態のモニタリング(中心静脈圧測定法,Swan-Ganzカテーテル法,動脈圧測定法)

著者: 早崎和也

ページ範囲:P.1663 - P.1668

 循環動態のモニタリングを行う場合には,その意義と測定値をどう読むかを十分に理解することが必要である.本項では循環について総説し,その後個々の測定の意義と問題点に触れていきたい.

9.緊急ペーシング

著者: 木下栄治 ,   田辺晃久

ページ範囲:P.1670 - P.1672

 鎖骨下静脈窄刺による電極挿入法が導入されて以来,ペースメーカー植え込み術が簡便となり,適応に問題がない場合には,最初から植え込み術を行う症例が多くなった.しかし,生命の危機が大である重篤な不整脈が突然出現した場合,緊急ペーシングが必要不可欠である.以下,鎖骨下静脈穿刺による緊急ペーシングについて概説する.

緊急検査データの読み方と対応

10.末梢血検査

著者: 渡辺健太郎

ページ範囲:P.1676 - P.1677

ポイント
 1)末梢血検査データから読む疾患の緊急性は,多くの場合,その臨床症状と相関している.
 2)輸血は多くの場合,一過性の有用性しかなく,またしばしば重篤な副作用を呈する.
 3)症例に応じて,迅速な確定診断を下し,治療することが望まれる.

11.血液ガス

著者: 中川晋

ページ範囲:P.1678 - P.1679

ポイント
 1)酸塩基平衡障害が疑われたら,必ず血液ガス分析を行う.可能なら,電解質も同時に測定する.
 2)pH,PaO2,PaCO2,HCO3-,電解質から,酸塩基平衡障害のタイプを決定する.
 3)問診,身体所見を総合し,基礎疾患の診断・治療を行う.

12.電解質

著者: 久保明

ページ範囲:P.1680 - P.1682

ポイント
 1)緊急検査における電解質異常は,1つの異常にとらわれず,病態全体を理解しつつ対応することが大切である.
 2)臨床上高頻度なものはNa・K異常であるが.Mg・Ca異常も見すごされやすい.

13.BUN,クレアチニン

著者: 友成治夫

ページ範囲:P.1683 - P.1685

ポイント
 1)腎性の異常か,腎外性の異常かの鑑別
 2)可逆性の有無
 3)障害の程度
 4)透析や泌尿器科的処置などの必要性の有無

14.肝機能検査

著者: 林竜彦

ページ範囲:P.1686 - P.1687

ポイント
 1)肝機能検査は多数の異なった要因を含んでおり,おのおの非特異的である.
 2)肝胆道系疾患の診断には病歴,理学的所見に肝機能検査を組み合わせ,総合的判断が必要である.
 3)肝機能検査は肝疾患のスクリーニング以外に,その経過観察,重症度および予後の判定にも重要である.
 4)外科的治療を必要とする肝胆道系疾患を鑑別し,タイミングよく手術を行う.

15.凝固系検査

著者: リー啓子

ページ範囲:P.1688 - P.1689

ポイント
 1)出血傾向のある患者に対してまず行うべきことは,現病歴の把握と十分な理学的所見の診察である.
 2)この上で,血小板数,PT(Prothrombin Time),APTT(Activated Partial Thromboplastin Time),出血時間などのスクリーニング検査の成績を考慮し,出血傾向のもとになる病態を診断して,適切な処置を行うべきである.

16.尿検査

著者: 友成治夫

ページ範囲:P.1690 - P.1691

ポイント
 1)尿量の異常はないか
 2)色調,臭気などの異常はないか
 3)試験紙法によるスクリーニングでの異常のチェック
 4)沈渣をみること
 5)尿中への排泄物の濃度の測定

17.グラム染色

著者: 渡辺健太郎

ページ範囲:P.1692 - P.1692

ポイント
 1)グラム染色は,得られた検体に対し,直接的にすばやく行える単純な検査である.
 2)グラム染色から得られた情報は,肺炎や髄膜炎といった緊急を要する疾患に対し,その診断や抗生剤の選択に役立つ.

18.髄液検査(腰椎穿刺法を含む)

著者: 山形真吾

ページ範囲:P.1694 - P.1696

ポイント
 1)中枢神経系感染症,CTにて診断のつかないくも膜下出血は,緊急の髄液検査の適応である.
 2)検査前には,頭蓋内占拠性病変の有無を調べる.
 3)穿刺は,L3-4またはL4-5で,正中からずれないように行う.
 4)くも膜下出血では外観が,中枢神経系感染症では細胞,糖,染色が,緊急時の鑑別診断に最も有用である.

緊急画像診断のポイント

19.胸部X線

著者: 水野富一 ,   渡辺文彦

ページ範囲:P.1698 - P.1704

 胸部X線写真ほど費用,侵襲性,簡便性,迅速性に優れ,情報量の多い画像診断法は少ない.現在ではポータブル撮影でも画質はかなり向上しており,画質の悪い場合は,できるだけ再撮影をして,よい条件のX線写真を続影すべきである.異常所見の描出されていないX線写真をいくら眺めても,正しい診断には到達しない.
 胸部写真の読影に際しては,古いX線写真との比較読影が非常に役立つ.とくに陳旧性病変や慢性肺疾患のある患者の場合は,新しく現れた所見を知るのに欠かせない.読影に際しては,異常所見を漫然と探すのではなく,臨床症状や検査結果から,可能性のある疾患群を頭に描き,胸部写真上にそれらに相当する所見がないかどうか,ひとつずつチェックし,微妙な所見も見逃さないように心掛けることが大切である.また,異常所見が認められない場合でも,正常の所見を呈し得る緊急病変の存在を心得ておくべきである(表).

20.腹部X線

著者: 渡辺文彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.1706 - P.1711

 腹部単純X線写真は急性腹部疾患の画像診断において基本となる検査であり,臨床的判断から手術室に直行しなければならない一部の患者を除いて,すべての患者に最初に行うべき検査である.急性腹部疾患の診断に有用な腹部単純X線写真のチェックポイントについて述べる.

21.心エコー

著者: 中村憲司 ,   椎名哲彦 ,   酒井吉郎 ,   石塚尚子 ,   細田瑳一

ページ範囲:P.1713 - P.1721

 的確なる診断と適切なる処置は,心疾患の救急診療においてきわめて重要である.臨床症状,臨床所見,心電図,胸部X線写真,血液ガス,さらにはバルーンカテーテルによる右心系の心内圧の情報も重要なことはいうまでもないが,一刻の猶予も許されない救急診療の現場においては,まず早期診断を心掛けねばならない.また場合によっては,救急処置を優先しなければならないこともたびたびある.バルーンカテーテルによる心内圧,心拍出量の情報は,診断よりも治療に重点を置いて使用されるべきもので,急激な心血管の解剖学的・血流動態異常の診断には,迅速性,確実性,非侵襲性を兼ね備えた超音波検査法が有用である.

22.腹部エコー

著者: 唐沢英偉

ページ範囲:P.1722 - P.1726

 緊急の腹部症状に対して行う画像検査として,単純X線撮影,腹部エコー,CTがある.腹部エコーは簡便・無侵襲であり,検査結果が即座に分かる特徴を有する.緊急腹部エコーの第1の対象は急性腹症であるが,速やかな診断と治療を要する点から,原因不明の高熱や黄疸なども対象となる.ここでは,緊急腹部エコーの対象となる疾患,チェック・ポイントについて述べる.

23.頭部CT

著者: 星野晴彦

ページ範囲:P.1728 - P.1733

ポイント
 1)病巣を局所診断して撮影の部位を指定する.
 2)緊急でも必要により造影剤を使用する.
 3)脳梗塞は,発症直後はCTでは描出されない.
 4)くも膜下出血の一部の症例はCTで異常を認めない.
 5)腰椎穿刺の前にできればCTを撮影しておく.

24.胸部CT

著者: 広沢邦浩

ページ範囲:P.1734 - P.1742

 胸部疾患の画像検査としては単純X線撮影(以下,単純X-Pと略す)が基本的かつ第1選択の検査として施行されている.
 しかし,単純X-Pにも診断上の盲点あるいは限界があり,これを補完する検査として,CT検査(以下,CTと略す)が有用であることが明らかになってきている.とくに,単純XPでは診断の困難な縦隔,胸膜下,横隔膜近傍の病変に対してCTは優れた診断能を有しており,必須の検査法となっている.

25.腹部CT

著者: 板井悠二

ページ範囲:P.1744 - P.1749

ポイント
 1)検査法:経口・経静脈造影の要否,スキャン範囲・間隔を十分考慮する.
 2)適応:エコーを先行させ,問題の残る例に行う.CTを先行すべきものは少ない.
 3)CT所見:ガス像の存在,血腫を示す高吸収影,脂肪の吸収値上昇にとくに注意する.

症状からみた内科エマージェンシー

26.ショック

著者: 水野杏一 ,   疋田浩之

ページ範囲:P.1752 - P.1755

ポイント
 1)ショックが,循環血液量,心ポンプ機能,末梢血管抵抗のいずれが主として障害されて起こっているか,すばやく分析し,それに対して強力な治療を集約する.
 2)ショックをもたらした原因の除去をできるだけ早く行うこと(止血,感染巣の制御,心嚢穿刺,冠血栓溶解療法など).除去できなければ,いったんショックから離脱できても再びショックに陥る.

27.失神

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.1756 - P.1758

 失神(Syncope)とは,一過性の全脳虚血により一時的に意識を失う現象であり,一般的には数秒から数分で回復するものをいう.起立性低血圧などによるものでは,倒れれば脳血流が回復するので意識障害が数分以上続くことはまずないが,心原性などでは失神から昏睡まで連続的な変化として考える必要がある.また一過性意識障害ではその持続時間を正確に知ることは難しいことが多く,救急の場では低血糖昏睡など代謝障害も含めた広義の意味での鑑別が必要である.
 失神の救急といっても受診時には意識が回復していることが多いので,救急処置というよりも,生命の危険がある疾患に基づくものかどうかを鑑別することが最も大切である.

28.昏睡

著者: 早川功

ページ範囲:P.1760 - P.1764

 意識を正常に保つ中枢神経機構として,延髄・橋・中脳・視床下部・視床にまたがり存在する脳幹網様体賦活系(Reticular Activating System)と,自律神経の調節や大脳辺縁系(Limbic System)に関与する視床下部調節系(Hypothalamic Controlling System)とが互いに関連し合い,最高中枢である大脳皮質を賦活することが重要とされている.したがって,この3つのいずれかの部位が障害されても,昏睡に至るまでの意識レベルの低下が起こり得ると考えられる.
 3-3-9度方式(Japan Coma Scale;JCS)による意識レベルの分類法(表1)1)によれば,昏睡とは,III桁の高度な意識障害,すなわち深昏睡(Deep Coma,300点),昏睡(Coma,200点),半昏睡(Semi Coma,100点)をさしている.本項では,昏睡に至る1歩手前のJCS II桁である昏迷(Stupor,30点)を含む意識障害を呈する患者を診察するときの,ベッドサイドでの症候学を中心とした病態のイメージ,評価,鑑別診断につき述べることとする.各種疾患の検査・治療の詳細については,重復するため他項を参照されたい.

29.せん妄

著者: 岩本俊彦

ページ範囲:P.1766 - P.1767

ポイント
 1)せん妄は精神運動活動の異常を伴った意識混濁と定義され,的確な状態像の把握と正確な診断が治療の第一歩である.
 2)せん妄をきたす原因や誘因を検索,治療する.
 3)せん妄状態の薬物治療には,有効性,安全性の点からハロペリドール5mg(高齢者は半量)の静注(軽いものでは筋注)が勧められる.

30.激しい頭痛

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.1768 - P.1770

 頭痛は外来患者の主訴のうち最も多い症状の1つであり,急性頭痛と慢性頭痛があるが,ここでは救急医療の対象となる急性頭痛,とくに「今までで最悪の頭痛(the worst headache ever)」の救急手技について概説する.

31.痙攣

著者: 大生定義

ページ範囲:P.1772 - P.1773

ポイント
 1)痙攣とは不随意の全身的あるいは部分的な筋収縮をいい,大部分は意識障害を伴う.
 2)多くの痙攣は一過性で,受診時には軽快していることも多いが,意識が回復しないうちに次の発作をくり返す重積状態は内科エマージェンシーである.
 3)原因の追求とその是正は大切であるが,痙攣が続くこと自体がさらに脳障害を進めるので,何よりも先に痙攣を止めることが重要である.

32.回転性めまい

著者: 竹内郁男

ページ範囲:P.1774 - P.1775

ポイント
 1)エマージェンシーレベルで肝要なのは,めまいが中枢性疾患由来か,末梢性疾患由来かを迅速,的確に鑑別することである.鑑別すべき主な疾患を中枢性と末梢性に分け,表に示した.
 2)中枢性疾患を疑えば,多くの場合入院が必要となる.症状の推移を観察し,占拠性病変を除外すべくCTを行い,治療方針を決定する.
 3)末梢性疾患であれば,急性期に必要な処置に原因疾患ごとの差はない.

33.急速な四肢麻痺

著者: 松井孝道

ページ範囲:P.1777 - P.1780

ポイント
 1)急速な四肢麻痺をみた場合,呼吸筋麻痺,脳神経障害,膀胱直腸障害の有無に注意する.
 2)中枢神経から筋肉まで,責任病巣を推定した検査計画をたてる.

34.胸痛

著者: 吉村宏

ページ範囲:P.1781 - P.1783

ポイント
 1)胸痛をきたす疾患は多岐にわたるため,その性状を正確に把握するため十分な問診が必要となる.
 2)鑑別診断に際しては,胸痛以外の随伴症状に着目し,検査を進める.
 3)バイタルサインの悪い例,重篤感のある例では,確診を待たず,早目に専門医,高次医療機関へのコンサルトを考慮する.

35.呼吸困難

著者: 楠目馨 ,   松井祐佐公

ページ範囲:P.1784 - P.1788

 呼吸困難(dyspnea)とは,呼吸することが難しいという患者の主観的な訴えである.患者は呼吸に関して多種類の不快感を経験し,これらの感覚を表現するために,多くの言葉で表現する.すなわち,“空気が足りない(cannot get enough air)”,“空気が肺内に十分いきわたらない(air does not go all the way down)”,“胸に窒息感を感じる(smothering feeling in the chest)”,“胸部の窮屈な感じ(tightness in the chest)”,“胸部の疲労感”および,“息づまり感(choking sensation)”などである.したがって,心肺疾患の主要症状としての呼吸困難とは,呼吸運動を行う際に感じる異常に不愉快な知覚(abnormally uncomfortable awareness of breathing)と定義される1〜3)

36.腰・背部痛

著者: 大島寛史 ,   小野寺壮吉

ページ範囲:P.1789 - P.1791

ポイント
 1)多数の疾患が腰・背部痛の原因になりうる.各自の専門領域ばかりでなく,他科領域をも含めて原因疾患を考察する必要がある.
 2)重篤な疾患の部分症状であったり,生命を脅かす事態も存在する.vital signから全身状態を判断し,必要に応じ救急処置を行う.
 3)専門的な治療や緊急手術を必要とする場合を的確に判断し,早目にコンサルテーションを受けるべきである.

37.喀血

著者: 本田和徳

ページ範囲:P.1792 - P.1794

ポイント
喀血のマネージメントのゴール
1)窒息の防止
2)出血の防止
3)原因疾患の治療

38.吐血,黒色便

著者: 加藤眞明 ,   佐島敬清

ページ範囲:P.1796 - P.1798

 消化器疾患のなかで吐血,黒色便はよく遭遇する症状であるが,その原因はさまざまであり(表),同一の原因でも軽症から重症,さらにはショックから死に至る場合もある.外来にそのような患者が来院したときには,消化管出血が急性なのか慢性なのか,循環動態が安定しているのかいないのかを早急に判断し,的確な処置を講じなければいけない.最初の目標は循環動態の安定であり,そのうえで個々の治療が考えられる.
 吐血は通常Treitz靱帯より上部の消化管が出血源であるが,時として幽門輪以下の場合に胃内への逆流が認められず,大量の出血があっても吐血しないことがある.黒色便は,消化管内に少なくとも100〜200mlの血液があれば認められる.出血源としては上部消化管が多いが,小腸や時に大腸が出血源のこともある.本項では主に上部消化管出血による吐血,黒色便について述べ,下部消化管出血は他項にゆずる(「39.新鮮下血」の項参照⇒P 1800).

39.新鮮下血

著者: 多田正大

ページ範囲:P.1800 - P.1801

●新鮮下血の定義
 消化管出血のために肛門より血液が排泄される状態を総称して下血と呼ぶが,鮮血が排泄される状態を新鮮下血(hematochezia)という.下血時の色調は出血の起こる部位のみならず,血液が腸管内に停滞している時間にも左右されるが,新鮮下血は直腸やS状結腸からの出血であることが多い.口側からの出血であっても一時に大量の出血が起こり,しかも腸管の蠕動運動が充進している場合には新鮮下血をきたすこともある.

40.急性腹痛

著者: 篠崎伸明

ページ範囲:P.1802 - P.1805

 急性腹痛は,救急疾患では最も多い症状の1つである.急性腹痛は時にその原因疾患が致命的であったり,またしばしば外科的治療を要するものであることがあるので,安易に鎮痛剤を投与して時間を費やすことなく,早急に治療方針を立てる必要がある.とりわけ,外科的治療を要する,いわゆる急性腹症の予後は,発症から的確な治療が行われるまでの時間に左右されるので,迅速かつ合理的な病歴聴取,身体所見,検査を行い,急性腹症か否かを決定しなくてはならない.また大切なことは,急性腹症の場合,術前の質的診断にこだわることによって手術のタイミングを逸しないことである.

41.急性下痢

著者: 桜井幸弘

ページ範囲:P.1806 - P.1807

ポイント
 1)通常みられる細菌性腸炎と,それ以外の疾患の鑑別が問題
 2)検査では白血球,Hb,電解質に注意

42.黄疸

著者: 六倉俊哉

ページ範囲:P.1808 - P.1810

ポイント
 1)病歴,理学所見,血液検査,腹部エコーにて,おおかたの鑑別診断は可能.
 2)必要に応じ,CT,ERCP,PTBD,肝生検を施行する.
 3)治療は原疾患により異なるが,ショック,意識障害のある患者には診断と治療を並行して行う.
 4)劇症肝炎で意識障害が進行する場合には,肝補助療法を考慮する.
 5)閉塞性化膿性胆管炎に対しては,早急にドレナージ手技が必要である.

43.乏尿,無尿

著者: 小西孝之助

ページ範囲:P.1812 - P.1813

●乏尿,無尿の分類
 乏尿とは通常1日尿量が400ml以下の場合を指す.無尿とは尿量がまったくない状態であるが,臨床的には1日尿量が100ml程度以下の場合を指すことも多い.乏尿・無尿は,成因により腎前性,腎性,腎後性,の3種類に分けて考えるとよい(表1).
 腎前性乏尿・無尿は,循環動態の異常に腎臓が反応して尿量が減少する場合である.腎性乏尿・無尿は,腎の器質的病変のために腎機能が低下して起こる.腎後性の乏尿・無尿は,尿路閉塞によって起こり,通常両側上部尿路の閉塞または下部尿路の閉塞で起こる.稀に一側の腎臓が欠如するかその機能が廃絶しているうえに,他側の上部尿路が閉塞して乏尿,無尿をきたす場合もある.

44.出血傾向

著者: 半田誠

ページ範囲:P.1816 - P.1819

ポイント
 1)出血傾向の原因は,血小板,凝固,線溶そして血管系因子の障害に大別できる.
 2)出血傾向の症状,出血所見は,原因の鑑別診断,緊急度の把握に最も重要である.
 3)皮膚の点状出血,紫斑は,血小板系の異常ならびにアレルギー性紫斑病に特徴的である.
 4)血小板系の異常は一次止血障害であり,受傷と同時に出血は起こり,通常,遷延しない.
 5)凝固・線溶系の異常は二次血栓の生成障害であり,一度止血した部位からの後出血が特徴である.
 6)DICは,血小板,凝固,線溶系をまきこんだ複雑な病態を呈する.
 7)緊急を要する出血傾向の処置の基本は,不足した因子の補充療法である.

45.発熱

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.1820 - P.1821

 小児では,急性脳症や熱性痙攣が発熱のために起こることがあるが,成人では発熱が単独でエマージェンシーの対象になることはほとんどない.しかし,消耗性疾患患者や高齢者で起こりやすい組織のカタボリズム,脱水は発熱によってひき起こされることがある.これらは全身の衰弱やうっ血性心不全などの原因にもなりかねず,早急に処置しなければならない.したがって,発熱患者を診療するときは,まず発熱と全身状態の評価を行い,これらに対する処置をし,次に発熱原因の追求をする.その結果に基づいて原因疾患の治療をするのが最終目標である.
 内科エマージェンシーとして緊急に改善しなければならないものは,発熱,カタボリズム,脱水,患者の自覚症状(苦痛)である.

46.好中球減少時の発熱

著者: 青木泰子

ページ範囲:P.1822 - P.1823

ポイント
 好中球減少時の発熱に対しては,
 1)迅速に対応する.感染が否定できないときは,ただちに広域抗菌薬を投与する.起因菌は緑膿菌を含むグラム陰性菌の頻度が高いが,最近,グラム陽性菌と真菌が増加している.
 2)感染巣の把握と起因菌の検出に努める.
 3)有効な抗菌薬を十分投与する.
 4)初期治療に反応しない場合は再評価を行い,適切な治療に変更する.

47.全身性発疹

著者: 高野慎

ページ範囲:P.1824 - P.1825

ポイント
 1)全身性発疹の性状,出現時期,薬剤投与の有無などから,その鑑別診断をまず行う.
 2)血圧の維持,気道の確保,水・電解質の補正,出血の防止など全身状態の管理を行う.
 3)皮膚病変に対して局所治療を行い,感染の予防に努める.
 4)全身性発疹の原因疾患に対する特異的治療を行う.

疾患からみた内科エマージェンシー 神経疾患

48.一過性脳虚血発作(TIA)

著者: 高木誠

ページ範囲:P.1828 - P.1829

ポイント
 1)TIAの正しい診断や重症度の判定には,詳細な問診が最も重要である.
 2)発作が頻回に起こるようなTIAでは,脳梗塞発症の危険が切迫している.
 3)TIAに対する特異的な治療法には,抗血小板剤,抗凝固剤,頸動脈内膜摘除術などがあり,原因や病態に応じた適切な治療法を選択する.

49.脳梗塞

著者: 峰松一夫

ページ範囲:P.1830 - P.1832

ポイント
1)発症当初は,症状の軽重にかかわりなく入院,床上安静とする.
2)水・電解質管理は脳梗塞治療の基本.
3)血圧は下げてはならない.
4)特殊療法は,病型,病態を把握した上で選択する.

50.脳出血

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.1834 - P.1837

ポイント
1)脳浮腫治療,血圧管理が治療の中心.
2)被殻出血,皮質下出血,小脳出血の重症例は,救命目的に外科治療も考慮する.
3)重症例では,感染症(肺炎,尿路感染症),消化管出血などの合併症対策が必要.

51.くも膜下出血

著者: 岡安裕之

ページ範囲:P.1838 - P.1839

ポイント
1)内科医にとって頭痛の患者を診たときには,くも膜下出血の可能性を常に考慮する必要がある.
2)診断確定はCTで,CTがないか陰性である場合は髄液検査で行う.
3)脳外科治療の対象となる疾患であるので,バイタルサイン安定を待って速やかに脳外科医の治療に引き継ぐ.

52.髄膜炎

著者: 北川泰久

ページ範囲:P.1841 - P.1843

 髄膜炎はいかに早く診断し,治療を開始するかが予後を決定する.ここではエマージェンシーとしての髄膜炎の診断と治療について述べる.

53.脳炎

著者: 亀井聡

ページ範囲:P.1844 - P.1848

ポイント
1)急性脳炎は内科的緊急事態である.
2)本症の診断は,初診時から迅速かつ適切な,病歴の聴取,全身および神経学的診察,さらに集中的な諸検査を必要とする.
3)刻々と変化する患者の状態および諸検査の結果により,適時治療法の変更を要する可能性がある.
4)適切な早期治療が,予後の面から重要であり,とくに単純ヘルペスウイルス脳炎において有効な抗ウイルス剤を早期に使用する.

54.Guillain-Barré症候群

著者: 中林治夫

ページ範囲:P.1850 - P.1851

ポイント
1)四肢遠位部から始まり,進行する脱力をきたす疾患の鑑別.
2)日々の症状の変化を正確に診察する.
3)呼吸筋麻痺,自律神経症状の出現に対する準備.

55.筋無力性クリーゼ

著者: 井田雅祥

ページ範囲:P.1852 - P.1853

ポイント
1)筋無力性クリーゼか,コリン作動性クリーゼか:エドロフォニウム・テストによる病態の把握
2)治療は,呼吸管理,誘因除去,MGのコントロール
3)呼吸管理:早めの気道確保と補助呼吸.気道分泌物除去
4)誘因・増悪因子の除去,合併症の治療

循環器疾患

56.不安定狭心症

著者: 加藤修

ページ範囲:P.1854 - P.1858

ポイント
1)不安定狭心症(以下UA)に対する緊急治療の目的は,梗塞進展の予防,急死の予防,狭心発作のコントロールである.
2)UAに対して緊急処置を行う場合,UAの病因,病態に対する考慮が不可欠である.
3)緊急CAGの適応を早急に判断し,病因,病態に応じた治療選択,とくに緊急血行再建術の必要性を判断すべきである.

57.急性心筋梗塞

著者: 星野恒雄

ページ範囲:P.1861 - P.1865

 急性心筋梗塞の治療は,初期の救命緊急治療と再疎通療法,および合併症に対する治療,の3つからなる.重要なことは,患者の予後の大部分は初期治療によって決定されるという点である.したがって,できるだけ早期に適切な治療を行うことが大切で,中でも発症早期の再疎通療法は重要で有効な方法である.

58.頻脈性不整脈

著者: 新博次

ページ範囲:P.1866 - P.1870

ポイント
1)Vital signを速やかにチェックし,緊急性を判断する.
2)頻脈性不整脈は直流通電により停止が可能であり,その適応と判断されたなら速やかに施行する.
3)緊急性が低いときには,抗不整脈薬などにより頻拍発作を停止させる.
4)薬剤の中毒などで抗不整脈薬を使用しにくい状況下では,ペーシングによる停止も可能である(心室細動,心房細動を除く).
5)以上,いずれの場合においても,気管内チューブなど心肺蘇生の準備を整えておく必要がある.

59.徐脈性不整脈

著者: 田辺晃久

ページ範囲:P.1871 - P.1875

 高度房室ブロックや洞不全症候群(洞停止,洞房ブロック,徐脈頻脈症候群)など徐脈性不整脈でAdams-Stokes発作や心不全などが生じた場合には救急治療を要する.
 多くの場合,将来にわたり心拍数の下限を保証するため長期ペースメーカ植え込みが必要となるが,緊急時には心拍数を増加させる薬剤を投与しつつ一時ペーシングを行うか,直接一時ペーシングを行う.

60.急性心不全

著者: 有馬新一 ,   田中弘允

ページ範囲:P.1876 - P.1879

ポイント
1)急性心不全の初期治療として,起坐位,酸素療法,即効性血管拡張剤(ニトログリセリンまたはニトロール®の舌下あるいは静注)が基本である.
2)急性肺水腫には塩酸モルヒネが有効である.
3)急性心不全を合併した急性心筋梗塞では血行動態監視は必須であり,Forrester分類により治療指針を決定する.

61.心タンポナーデ(心膜穿刺法を含む)

著者: 北爪秀政

ページ範囲:P.1880 - P.1882

ポイント
1)低血圧の鑑別診断
2)血圧の呼吸性変動が著明
3)肺うっ血はない
4)原因は外傷,心筋梗塞,悪性腫瘍の浸潤が多い
5)速やかな排液が命を救う
6)ドレーンは詰まりやすい
7)(蘇生が不能なとき考慮する)

62.解離性大動脈瘤

著者: 光藤和明

ページ範囲:P.1884 - P.1885

 大動脈解離(aortic dissection)は各種診断法の発達,手術治療の進歩が目覚ましい今日にあっても,やはり死亡率の高い重篤な疾患である.とくに急性大動脈解離は,急性心筋梗塞,肺塞栓と並んで,循環器疾患のemergencyとして最も早期診断,早期治療が要求される疾患である.

63.末梢動脈閉塞

著者: 星野智 ,   桑島巌

ページ範囲:P.1886 - P.1887

ポイント
1)末梢動脈閉塞は動脈血栓症と動脈塞栓症に分けられる.
2)治療の遅れは肢の機能回復が望めないばかりでなく,生命の危機をももたらす.
3)できる限り早急に血栓除去術を行い血行再建をはかるのが原則.

64.高血圧エマージェンシー

著者: 川原史生 ,   阿部仁 ,   倉持衛夫

ページ範囲:P.1888 - P.1889

ポイント
1)高血圧緊急症では迅速な降圧が必要.しかし,過度の降圧は合併症を惹起する可能性もある.
2)降圧薬は,病態に適し,効果発現の速いものを選び,目標の血圧に達するまで徐々に増量する.
3)目標とする血圧値と降圧のスピードは,病態により異なる.
4)降圧の際は,虚血症状,腎機能に注意する.

呼吸器疾患

65.急性呼吸不全

著者: 木村謙太郎

ページ範囲:P.1890 - P.1894

●急性呼吸不全とは
 広義の呼吸器系を構成する多様なサブシステムのいずれかに生じた,器質的,機能的破綻の結果,生体のエネルギー代謝が急速に危機に瀕する病態を急性呼吸不全と理解したい.
 具体的な病態指標は,動脈血中のPaO2の低下であるが,機能障害のあり方によっては,肺胞換気量の相対的減少を反映するPaCO2の上昇を伴うこともある.しかし,数時間から数日の時間経過で発症し,放置すればほぼ確実に破局に至るこの病態は,血液ガス異常を共通の契機とする複雑な悪循環連鎖過程であり,誘因や原因疾患に修飾された全身的な症候群でもある.単なるガス交換障害と考えてしまうと,「木を見て森を見ない」破目に陥ることになる.図1のようにトータルな悪循環連鎖過程と理解し,表1に挙げるような急性呼吸不全の属性をよく配慮して対策を講じなければならない.

66.COPDの急性増悪

著者: 石原享介 ,   中井準

ページ範囲:P.1896 - P.1897

ポイント
1)臨床症状および身体的所見の把握
2)動脈血ガス分析と初期酸素療法
3)急性増悪の誘因の認識
4)感染の制御と気道クリーニング

67.気管支喘息

著者: 藤村直樹

ページ範囲:P.1898 - P.1903

 喘息は“種々の刺激に対する気管・気管支樹の充進した反応性によって特徴づけられる臨床症候群である.この過反応性の生理学的表現は,変化する気道閉塞”であり,①気管支平滑筋攣縮,②気道粘膜浮腫,③過分泌を伴1).喘息は救急診療上遭遇し得る頻度のきわめて高い疾患であり,事実人口の3〜5%が喘息を有していると考えられている.また1989年の厚生省“成人気管支ぜんそく実態調査研究班”によると,1989年9月の5日間,32呼吸器専門病院を受診・入院した2,800人の喘息患者中,59.5%に入院歴があり,51.7%が夜間救急外来受診歴を有していた.
 喘息そのものが慢性,反復性疾患であり,厚生省調査研究班の報告でも52.6%の患者が10年以上の期間治療を受け続けている.さらに成人喘息死の約半数が自宅または来院途中での,いわゆる“dead on arrival=到着時死亡”例であることも,ニュージーランドや欧米での報告と一致するものであり,喘息治療の基本が日常の重症化防止への対策にあることは明らかである1,3).本稿では,喘息救急受診時の診断,治療,対策を中心に,その日常コントロールについても略記したい.

68.肺塞栓症

著者: 西山秀樹

ページ範囲:P.1904 - P.1906

 肺塞栓症は,塞栓子が肺動脈を閉塞することにより生じる病態であるが,塞栓子の多くは静脈内に発生した血栓である.一方,肺動脈局所での血栓形成によるものは肺血栓症であるが,両者の鑑別は困難で,両者を併せて肺塞栓症と総称している.

69.肺炎

著者: 田口善夫 ,   岩田猛邦

ページ範囲:P.1907 - P.1909

 肺炎とは,肺胞および間質に炎症をきたす疾患群の総称である.ここでは感染性の肺炎について述べることとするが,実際の臨床においては,感染性の肺炎か,非感染性の肺炎かを鑑別することが困難な場合も少なからず経験する.感染性肺炎の診断さえつけば,起炎病原体の推定および同定が治療,予後に最も重要であることはいうまでもない.
 また,外来治療のみで容易にコントロールされる症例から,致死的な症例まで患者の重症度にかなりの幅がみられるが,適切な治療が行われなければ,すべての症例は急性に進行し,死に至るものであり,その点からはすべての肺炎がエマージェンシーといえる.

70.気胸(胸腔穿刺法,脱気法を含む)

著者: 島田一恵

ページ範囲:P.1911 - P.1913

 気胸とは,胸腔内に空気の貯留した状態をいい,自然気胸,外傷性気胸,人工気胸に大別される.
 自然気胸とは,何らかの原因によって,肺臓側胸膜から胸腔内へと空気が侵入するものをいい,肺胸膜直下の気腫性嚢胞の穿孔による原発性気胸と,肺疾患が原因で,これによって起こる続発性気胸とがある.原発性気胸では,平生健康な若い男性に突然発症することが多く,続発性気胸の基礎疾患としては,肺気腫,肺結核,肺癌などがある.

71.胸水,膿胸,血胸

著者: 吉川正洋

ページ範囲:P.1914 - P.1917

ポイント
1)病歴,症状,理学的所見,胸部X線所見などから,胸腔内液体貯留の存在とその量を推定する.
2)治療は,原因疾患の治療を基本に,続発した症状の治療を併せて行う.
3)血胸,膿胸の場合には原則として持続閉鎖ドレナージを施行し,外科的開胸術の適応があれば,ただちに外科にコンサルトする.

72.過換気症候群

著者: 網谷良一 ,   久世文幸

ページ範囲:P.1918 - P.1918

ポイント
1)生命に影響しない機能的疾患である.
2)心理的要因が発症に深く関連する.
3)診断確定には動脈血ガス分析がきわめて有用(PaCO2<30torr,pH>7.50).
4)患者への詳細な問診と病態の説明が重要.

消化器疾患

73.食道静脈瘤破裂(Sengstaken-Blakemoreチューブ使用法を含む)

著者: 大政良二 ,   鈴木博昭

ページ範囲:P.1920 - P.1924

ポイント
1)食道静脈瘤破裂症例に遭遇した場合には,まずショック対策が重要である.
2)ショック例や緊急内視鏡が不可能な診療体制下では,SB-tubeを積極的に用いて循環系の安定に努めること!すなわち患者の重症度や診療体制の状況を常に考慮して治療方針を決める.
3)緊急硬化療法で確実に止血するためには,出血源,出血部位の正確な診断が前提である(門脈圧充進症例の上部消化管出血のうち,静脈瘤以外の胃,十二指腸の病変からの出血が約30%あることも忘れてはいけない).正確な診断のためには,太い鉗子孔のスコープや食道胃洗浄チューブを用い,良好な内視鏡視野を得る工夫が必要である.
4)SB-tubeの挿入,緊急内視鏡,硬化療法を円滑に行うために,除痛法を用いて患者の苦痛と不安を和らげることも大切である.

74.出血性胃・十二指腸潰瘍

著者: 椎名泰文 ,   三輪剛

ページ範囲:P.1926 - P.1930

ポイント
1)まずバイタルサインをチェックし,出血性ショックに陥っている場合はただちに全身状態の改善をはかる.
2)状態が安定しているような症例でも,必ず静脈路の確保を行う.
3)緊急血液検査など必要な検査を行いつつ,出血前後の自覚症状,既往歴,吐下血の性状など,できる限りの問診を行う.
4)経鼻胃管を用いて胃洗浄を行う際,排液の性状をよく観察し,出血が持続しているかどうかを判断し,治療方針の決定,緊急内視鏡による内視鏡的止血時の参考にする.
5)内視鏡的止血術は多くの方法が報告されているが,いずれの方法においても止血成績に大きな違いはないため,各々の方法の長所短所を熟知し,最も適した方法を用いる.
6)内視鏡的に止血した後,48時間は経鼻胃管を留置して再出血の早期発見に努め,また胃内pHが酸性に傾くと血小板凝集能が低下し再出血の誘因となるため,胃管からの排液のpHを時間ごとに観察し,再出血をきたさないように治療を行う.
7)外科へのコンサルテーションは,バイタルサイン,出血量,輸血量,潰瘍歴,患者の社会環境などすべてを考慮して行う.

75.消化管穿孔と急性腹膜炎(腹腔穿刺法を含む)

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.1932 - P.1935

ポイント
1)高齢者,ステロイド使用者,意識状態が低下している患者では,穿孔性腹膜炎の症状と実際の病状が一致しない.
2)横隔膜下free airの出現率は,上部消化管穿孔で80〜90%,下部消化管で30〜50%.
3)穿孔性腹膜炎における超音波やCT検査の重要性はますます増加する.
4)腹腔穿刺や腹腔洗浄は穿孔性腹膜炎の最も確かな検査であり,手技に精通しておく.
5)腹膜炎を疑ったらまず抗生剤を投与し,早期外科コンサルトを躊躇してはならない.

76.腸閉塞,イレウス

著者: 三富弘之 ,   勝又伴栄 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1936 - P.1938

ポイント
1)イレウスの分類:図1,表参照.
2)問診:腹部手術の既往の有無は重要.
3)処置:輸液・栄養管理,吸引減圧療法.
4)造影検査:イレウスの原因検索のためにガストログラフィンを用いて注腸造影,小腸造影を行う.
5)保存療法の限界:臨床症状,腹部単純X線,イレウス管からの排液量の変化,造影検査所見で7日以内に決定する.

77.虚血性大腸炎

著者: 北野厚生 ,   小林絢三

ページ範囲:P.1940 - P.1941

 腸管が侵される急性虚血性病変としては腸間膜領域の急性虚血性病変(急性腸間膜動脈閉塞症,腸間膜血行不全),虚血性大腸炎(ischemic colitis:IC)が知られている1)
 1963年Boleyら2)が,腹痛,顕出血を主訴として発症し,発症初期では注腸造影にて拇指圧痕(thumb printing)像を呈し,その後病変の消失した一過性の虚血性病変例を報告した.そしてこれらの病変は大腸血管の可逆性閉塞に基づくものと考え,“reversible vas-cular occlusion of the colon”なる疾患単位を提唱した.1966年にはMarston3)らはBoleyと同様の症例について“ischemic colitis”という病名を提唱し,現在に至っている.

78.電撃型潰瘍性大腸炎

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1942 - P.1943

ポイント
1)潰瘍性大腸炎の重症度の判断は,ベッドサイドの診察所見と最小限の検査(血液検査,単純X線写真)のみで可能で,むやみに侵襲を加える検査は慎むべきである.
2)電撃型潰瘍性大腸炎の治療方針決定の上で,初期から内科・外科のチーム・アプローチが必要である.
3)内科的治療の基本は,経静脈的ステロイド投与と腸管安静である.
4)抗コリン剤,止痢剤,麻薬系鎮痛剤の使用は避ける.
5)積極的な内科的治療に24〜72時間以内に反応しなければ手術適応となる.

79.大腸憩室症

著者: 北洞哲治 ,   岩井力

ページ範囲:P.1944 - P.1945

ポイント
1)大腸憩室は多くは無症状であるが,憩室炎,出血,穿孔などの合併症により,重篤な経過をたどることがあり,常に念頭に置くべき大腸疾患の1つである.
2)大腸憩室症は保存的療法が選択されるが,合併症の状態によっては速やかに外科医との連携が計られるべき疾患である.
3)大腸憩室炎および癌は,今後わが国でも高齢者に増加する疾患と予測され,その鑑別は慎重になされなければならない.

80.消化管異物

著者: 片岡伸一 ,   広岡大司 ,   大地宏昭 ,   圓尾隆典 ,   川崎正 ,   上江洲朝弘 ,   仲本剛 ,   牧本伸一郎 ,   山田泰三 ,   松尾吉郎

ページ範囲:P.1946 - P.1948

 消化管異物症例は小児が約7割を占め,発症のピークは生後6ヵ月から3歳とされる.ほとんどが遊びで口腔内に異物を入れたまま転んで泣いたり,驚かされた際などに誤飲するために生ずる.成人では精神病患者,自殺企図者などに多く,高齢者では義歯,薬剤包装の一種であるPTP(press through pack)を誤飲することが多い.

81.劇症肝炎

著者: 清水勝

ページ範囲:P.1949 - P.1951

●診断と重症度の把握
 劇症肝炎は急性肝炎の経過中,広汎な肝細胞壊死に基づく意識障害をはじめとする肝不全症状をきたす予後不良の肝炎である.高橋らの全国集計によれば,生存率は16〜28%である.劇症肝炎の治療にあたっては,正確な診断と重症度(昏睡度)の把握が重要である.診断基準を表1に示したが,①発症より8週間以内に肝性昏睡II度以上,②プロトロンビン時間40%以下が要点である.発症から10日以内に肝性脳症を発現する急性型と,それ以後に発現する亜急性型に分けるが,前者は予後がよい.肝性脳症は通常5段階に分類されており(表2),診断基準の1つであるII度では,羽ばたき振戦の出現,指南力・計算力の低下,異常行動,傾眠状態などがみられる.
 原因は本邦では大部分がウイルス性である.A型,B型,非A非B型肝炎ウイルスに起因するが,最近ではHCV抗体陽性のC型劇症肝炎の存在することも明らかになっている.起因ウイルスの種類により予後も異なる.A型劇症肝炎は比較的稀であるが,生存率は高い.B型は急性型で発症することが多く,一方,非A非B型は亜急性型の経過をとり,死亡率が最も高い.

82.胆石症,胆道感染症

著者: 永田博司

ページ範囲:P.1952 - P.1955

ポイント
急性胆嚢炎
1)根治治療は手術(cholecystectomy)である.
2)内科医の使命は,急性胆嚢炎の確定診断を得ること,手術時期の決定,手術前の全身状態のコントロールである.
3)手術時期は,①症状の持続性〔胆道合併症(suppurative cholecystitis,empyema,gangrene,perforation,liver abscess)の可能性〕,②全身の合併症(敗血症,糖尿病)の有無,③診断の確実性,④operative risk,の4点から決定すべきである.
急性胆管炎
1)胆管の閉塞機転の解除が治療の根本である.
2)胆管閉塞の原因が結石か腫瘍かによって対応が異なる.
3)高頻度に敗血症を合併し,治療が遅れるとendotoxin shockに陥る.急性胆管炎が疑われるすべての症例に血液培養を入院時に施行すべきである.

83.急性膵炎

著者: 田口進 ,   野崎保雄 ,   林由里 ,   竹内義雄 ,   八田善夫

ページ範囲:P.1956 - P.1957

ポイント
1)重症度を含めた病状の把握
2)multiple organ failure(MOF)の管理,とくに補液の重要性
3)蛋白分解酵素阻害剤の使用法

腎疾患・電解質異常

84.急性腎不全

著者: 小沢尚

ページ範囲:P.1958 - P.1961

ポイント
1)急性尿細管壊死(ATN)の診断
2)緊急透析の適応,透析導入時期の決定
3)各透析方法(HD,PD,SCHF)の選択基準およびその注意点
4)ブラッドアクセス,ダブルルーメンカテーテル
5)合併症予防と栄養管理,利尿期(回復期)

85.脱水症

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.1962 - P.1963

●脱水症の症状と重症度
 脱水症とは体液の喪失を意味する言葉である.したがって,脱水症の症例の多くは,水分だけでなく,電解質ことにNaの喪失を伴っている.水分とNaの喪失の比率は症例によってさまざまで,検査所見なしに判定することは困難である.またそれに加えて重症度も問題になってくるので,脱水症を単一のスケール上で論じるとなると,なかなか難しい問題がある.
 表1に示すように,脱水症の症状には4つある.第1は細胞外液の浸透圧上昇によるもので,口渇,尿の濃縮が主であり,重症になれば精神症状を生じる.第2は細胞外液の減少によるもので,皮膚,粘膜の変化,眼圧低下などがある.第3は循環血漿量の減少によるもので,循環系の虚脱,BUNの上昇などが主である.第4は細胞内水中毒による症状で,頭痛,嘔吐,痙攣,意識障害,などを含む.このうち第2,第3はwater depletion,salt depletionの両者に存在しているが,第1はwater depletion,第4はsalt depletionに特徴的であるとされる.しかし実際には分類不可能なケースが多いので,まず両者を一緒にしてしまい,単に脱水症とのみ診断する.そうした上で上記の症状がはっきりと認められれば,中等症あるいはそれ以上,ショックや精神症状が出現すれば,重症の脱水症として扱う.
 いずれにしても,とりあえず無難な輸液を行いながら,検査所見が得られるのを待つのである.

86.低ナトリウム血症

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.1964 - P.1965

●低Na血症の原因疾患
 低Na血症の治療にあたって最も考慮しなければならないのは,低Na血症イコールNa欠乏と考えてはいけないということである.表に示すように,低Na血症には4つのカテゴリーが存在する.
 第1はNa欠乏性のものである.このときには腎外性の原因によって生じたものであれば,尿中のNa濃度は10mEq/l以下になっていて,一般にはゼロに近いと考えてよい.しかし腎からのNa喪失であれば,当然ながら尿中のNa濃度は低下し得ない.ところがこの第1のカテゴリーは,低Na血症の原因としてはむしろ少数派に入るのである.多くは第2か第3のカテゴリーに入ると考えてよい.

87.高カリウム血症

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.1966 - P.1967

●高K血症の原因
 高K血症の原因疾患としては,摂取量の増加や尿排泄量の減少に加えて,細胞内液から細胞外液へのKの移行によるものがある(表1).
 第1の摂取量の増加によるものは,それ単独ではあまり高度な高K血症を招くことはなく,他の2つのカテゴリーによるものが加わると,にわかに問題となる.この種の原因として最もよく知られているのは,保存血輸血であろう.健康人では血清K濃度の上昇はわずかであり問題とはならないが,腎不全患者や高度の脱水症によるショックでは腎からのK排泄を急に増加し得ないために危険とされている.ただし保存血輸血の後のある一定時期を過ぎるとKは赤血球の中に戻り,かえって低K血症を生ずる.したがって,高K血症を生じるか否かは,投与量,投与速度との兼ね合いで決まることになる.また幼児の場合には体が小さいためK容量が少なく,ペニシリンのK塩をワンショットで静脈内に投与したり,保存血による大量の交換輸血を行うことによって心停止をきたした報告がある.またKClなどの注射液を希釈せずに静脈内に投与したことによる心停止は,成人でもかなり多い.

88.代謝性アシドーシス

著者: 林松彦

ページ範囲:P.1968 - P.1969

ポイント
1)診断動脈血ガス分析により,pHと重炭酸濃度(〔HCO3-〕)を測定する.また,血清電解質濃度からanion gap(AG)を求める.
A G=〔Na+〕-(〔Cl-〕+〔HCO3-〕)
2)鑑別診断AG増加を伴う代謝性アシドーシスに,急性疾患が多い.この中で,とくに,糖尿病性ケトアシドーシス,乳酸アシドーシス,薬物中毒が臨床上重要である.
3)治療原疾患の治療が優先される.アシドーシスの補正が必要な場合は,動脈血pHが7.2以下となった場合に限られる.この場合,下記の式より求めた欠乏量の半量を投与し,動脈血pH 7.2以上となった時点で中止する.
〔HCO3-〕欠乏量=(〔HCO3-〕目標値-〔HCO3-〕実測値)×体重(kg)×0.4

内分泌・代謝疾患

89.甲状腺クリーゼ

著者: 高松順太

ページ範囲:P.1970 - P.1971

 甲状腺クリーゼには2つのタイプがある.甲状腺機能充進症に伴うサイロイドストーム(thyroid storm)と,甲状腺機能低下症に併う粘液水腫昏睡(myxedema coma)がそれであり,診断治療を誤れば死に直面する.とくに老齢者に発症しやすいので,日本の将来の高齢化社会を考慮すると,決して稀な疾患ではなくなるであろう.

90.粘液水腫昏睡

著者: 小澤安則

ページ範囲:P.1972 - P.1973

ポイント
1)放置され続けた粘液水腫に精神安定剤投与,感染,寒冷暴露などが加わり発症する.
2)昏睡,呼吸不全,低体温,粘液水腫症状を主徴とする.
3)呼吸管理,保温,サイロキシンの大量投与などを早急に行う.

91.急性副腎不全

著者: 関原久彦

ページ範囲:P.1974 - P.1975

ポイント
1)正常のヒト副腎皮質からは,1日約20mgの生命維持に必要な糖質コルチコイドであるコルチゾールが分泌されている.副腎皮質からのコルチゾールの分泌は,生体がストレスにさらされると,必要に応じて1日300mgまで増加する.
2)副腎皮質からのコルチゾールの分泌が急激に低下したり,ストレスに対応してコルチゾールの分泌が増加できなかったりすると,糖質コルチコイドの不足状態となり,急性副腎不全の状態に陥る.
3)アジソン病の症例で,糖質コルチコイドの補充療法を行っていても,また,ステロイド療法を行っている症例でも,ストレスにさらされた際,内服しているステロイド薬を増量しない場合には,糖質コルチコイドの不足状態となり,急性副腎不全の状態に陥る.
4)急性副腎不全に陥ると,患者は,高熱,悪心,嘔吐,腹痛などを訴え,ショック状態となる.
5)救急処置として,ただちに,十分量のハイドロコルチゾンの静脈内投与を行う.さらに,十分量の補液,ブドウ糖の補給を行う.
6)適切な処置を行えば,救命可能である.

92.糖尿病性昏睡

著者: 河津捷二 ,   伴野祥一

ページ範囲:P.1976 - P.1980

ポイント
1)昏睡が糖尿病に関連したものか否かを疑い,尿糖,尿ケトン体,そして血糖測定を行い,さらに状況証拠(糖尿病の既往など)もあれば,診断は確実なものとなる.
2)糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡:IDDM,若年者に多い.脱水,Kussmaul大呼吸,尿糖,高血糖,尿中・血中ケトン体の増加,アシドーシス(pH<7.3)を認める.生食輸液による水分の補充とインスリン少量持続静注.
3)高血糖性高浸透圧性非ケトン性昏睡:NIDDM,高齢者で多い.著明な脱水,高血糖,高Na血症を呈し,ケトアシドーシスは明らかでない.中枢神経症状も目立つ.血清浸透圧上昇(>330mOsm/L).大量の半生食輸液とインスリン少量持続静注.
4)必要に応じて,O2吸入,感染症対策(抗生物質投与)を行い,回復期にはK補充を考慮.

93.低血糖

著者: 鈴木晟時

ページ範囲:P.1982 - P.1983

ポイント
1)意識消失発作の患者をみた場合に,鑑別診断の1つに低血糖性昏睡を思い浮かべることが重要である.
2)低血糖性昏睡は,患者の既往歴が重要で,インスリンやスルフォニールウレア剤で治療中の糖尿病患者が急に意識消失したとき,あるいは長時間食事摂取なしにアルコールを飲んで意識が消失した場合の2つが主なものである.
3)低血糖性昏睡の特徴的病像は,アルコールによる場合を除いて,全体的に静かに眠っているようにみえることである.呼吸は正常かやや浅く,脈圧も十分ある.アルコール性低血糖性昏睡では,乳酸アシドーシスのために呼吸数は増大する.
4)低血糖性昏睡の救急療法は,ただちに血糖測定用の静脈採血を行い,同部位より50%ブドウ糖40〜60ml静注する.次いで覚醒の有無に関係なく10%ブドウ糖持続点滴に移行し,血糖値(静脈血漿)を150〜200mg/dlに維持する.もし,点滴開始後1時間しても覚醒がなければpost-hypoglycemic comaで,脳浮腫に対する治療も開始する.ハイドロコーチゾン100mg静注し,1時間後覚醒がなければデキサメサゾン10mg静注し,20%マニトール1〜2g/kg体重前後を20分以上かけて点滴する.デキサメサゾンは,0.1mg/kg体重/8hで静注する.

94.痛風発作

著者: 作山理子 ,   西岡久寿樹

ページ範囲:P.1984 - P.1985

ポイント
1)痛風発作時には非ステロイド系抗炎症剤の短期衝撃療法を行う.
2)発作がおさまった後に尿酸コントロール剤投与を開始する.
 痛風は壮年男性に多い高尿酸血症を基盤とする母趾基関節などに起こる急性単関節炎である.痛風患者は患部に突然急激な痛みと発赤,腫脹を訴え歩行困難となるため,早急に治療されねばならない.

血液疾患・悪性腫瘍

95.急速に進行する貧血

著者: 鶴岡延熹

ページ範囲:P.1986 - P.1987

ポイント
1)急激な貧血をみた場合は,出血,溶血,薬剤による骨髄抑制などを疑う.
2)出血性貧血では,赤血球濃厚液による輸血を行う.
3)溶血性貧血,薬剤による再生不良性貧血など免疫学的機序を介した貧血は,副腎皮質ホルモンにより治療する.輸血は洗滌赤血球による.
4)輸血によるGVHDの存在に留意する.

96.播種性血管内凝固症候群(DIC)

著者: 青木延雄

ページ範囲:P.1988 - P.1990

ポイント
1)臨床症状のみで,その存在が強く疑われるような状態の播種性血管内凝固(DIC)は,予後転帰に予断を許さない重篤な疾患であることを認識し,速やかに診断を確定し,対処する必要がある.
2)DIC発症頻度の高い基礎疾患を認識し,それら疾患においては,定期的な血液凝固学的検査を施行し,DICの発症を早期に検出し,早期に適切な治療を開始することが治療効果をあげる上で重要である.
3)基礎疾患とその重症度,出血症状,検査結果などを総合的に考慮して,治療方針を決定する.

97.急速に進行する血小板減少

著者: 小林勲 ,   栗原淳

ページ範囲:P.1992 - P.1993

ポイント
1)原疾患の正確な診断と適切な治療が必要である.
2)血小板輸血は必要最少量にする.
3)血小板輸血は一般的に血小板数2万〜5万/μlでは相対的に,2万/μl以下では絶対的に必要となるが,病態によっては異なる.

98.悪性腫瘍におけるエマージェンシー—脊髄圧迫症候群

著者: 竹田雄一郎 ,   江口研二料

ページ範囲:P.1994 - P.1996

ポイント
1)早期診断,早期治療開始が,神経機能の回復に大きく影響する.
2)腰痛,脊椎骨の疼痛のある患者は,本症候群発生の可能性を念頭に置く.
3)緊急処置としてデキサメサゾンの大量療法を実施し,早期に放射線治療または外科治療を実施する.

99.悪性腫瘍におけるエマージェンシー—上大静脈症候群

著者: 佐々木康綱

ページ範囲:P.1997 - P.1999

 本稿では,悪性腫瘍の部分症状としての上大静脈症候群(Superior Vena Cava Syndrome;以下SVCS)の診断と治療につき,背景となる悪性腫瘍に対する考え方を含めて解説する.

100.悪性腫瘍におけるエマージェンシー—高カルシウム血症

著者: 相澤信行

ページ範囲:P.2000 - P.2001

 高カルシウム血症は,致命的になる場合があり,原因の検索をする前にただちに治療を開始する必要がある1).また,悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は予後不良の徴候ではあるが,治療により生活機能(quality of life)の改善が得られ,治療する意義はある2)

急性中毒

101.急性アルコール中毒と離脱症候群

著者: 駒ケ嶺正純

ページ範囲:P.2002 - P.2004

●急性アルコール中毒
ポイント
1)診断時には他の原因による意識障害を除外する必要がある.
2)血中アルコール濃度400mg/dl以上では昏睡から呼吸停止となる可能性がある.
3)気道の確保に注意する必要があり,呼吸抑制が認められた場合にはレスピレータが必要である.

102.食中毒

著者: 荒川正一

ページ範囲:P.2005 - P.2007

ポイント
 食中毒とは,細菌や毒素に汚染された飲食物を摂取することで発生した中毒のことである.
必要条件
1)食中毒の原因となる飲食物を摂ったことが確認できる.
2)複数以上の患者が存在する.
特徴
1)細菌による食中毒が多い.
2)季節は夏が多い.
3)対症療法のみにて治癒する.
4)腹痛,下痢,嘔気・嘔吐の消化器症状が主体である.
5)重症度の判定は循環動態による.

103.急性—酸化炭素中毒

著者: 石川良樹

ページ範囲:P.2008 - P.2009

ポイント
1)一酸化炭素中毒が疑われた場合には,まず100%酸素の吸入を行う.
2)意識障害があれば高圧酸素療法が必要である.高圧酸素療法は発症後12時間以内に開始することを目標にする.
3)一般的な全身管理とともに,眠剤中毒などの合併に注意する.

104.急性薬物中毒,急性農薬中毒

著者: 佐藤重仁

ページ範囲:P.2010 - P.2014

 中毒患者の治療にあたる前に,まず関係者から,①毒物を摂取した時刻,②毒物の成分,③推定内服量(情報が不正確なときは最高量を見積もる),④外来到着までの状況,⑤既往歴,などに関する情報を集める.原因毒物が判らないときは,表1を参考にして推測する.原因物質は最終的に血液や尿で確認する.

その他の疾患

105.敗血症

著者: 稲松孝思

ページ範囲:P.2016 - P.2018

 敗血症は,原発感染病巣の感染を局所にとどめることができず,間歇的ないしは持続的に流血中に細菌が流れ込み,全身諸臓器に転移性の感染病巣を作り,流血中の微生物やその産生する毒素により,高熱,循環不全,諸臓器障害などによる激しい全身症状を呈し,適切な治療が行われないと致死的な経過をたどる細菌感染症の最も重篤な病態である.

106.熱射病

著者: 大村昭人

ページ範囲:P.2019 - P.2019

 発汗による気化熱,血管拡張による熱の放散などの体温降下機構が熱産生充進(運動,労作),高温,多湿の環境に対処できなくなり,著しい体温上昇(40℃以上),意識混濁,昏睡などの中枢神経症状を呈する状態を熱射病(heat stroke)と呼び,速やかな治療がなされなければ,重篤な後遺症,死亡をきたしうる.高齢者,乳児,全身疾患とくに循環器疾患などを有する患者では,労作がなくても起こる.

107.溺水

著者: 当銘正彦

ページ範囲:P.2020 - P.2021

●溺水の病態
 海水または淡水の如何を問わず,溺水の基本的な病態は,窒息による低酸素血症と,それに随伴する代謝性ならびに呼吸性アシドーシスであり,その時間的長短が重症度を決定する.溺水患者の10〜15%は,浸水時に喉頭攣縮のまま呼吸停止するため,dry drowningの型をとるが,大多数は,水中でもがき苦しむ過程で肺内に水を吸引するwet drowningの型をとり,それがまた,進行性の呼吸不全の原因となる.

108.医療従事者の針刺し事故への対応

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2022 - P.2022

 HBs抗原陽性の血液の針刺し事故あるいは粘膜被曝の肝炎感染頻度は6%といわれる.しかし,事故直後の予防接種にて,1.4%にまで落とすのが可能となった.針刺し事故後の予防接種の方法を表にあげる.
 針刺し事故を起こした医療従事者の予防接種の状況と血液のHBsAgの状況によって,治療方針が変わってくる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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