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雑誌目次

雑誌文献

medicina27巻13号

1990年12月発行

雑誌目次

今月の主題 STROKE—脳卒中診療のポイント

理解のための10題

ページ範囲:P.2524 - P.2526

脳卒中診療の基礎知識

脳卒中の病型分類と成因

著者: 山口武典

ページ範囲:P.2386 - P.2388

 脳卒中の分類に関しては,米国NIHのAd HocCommittee(1958年)によって作成された分類1),それを基準とした文部省研究班(1961年)の分類2)が長年に亘って用いられてきた.その後,1975年にNIHによる改訂版3)が報告されたが,これはきわめて多面的に構成されており,すべてが病型の分類ではなく,①臨床病期,②病態生理(発症機序),③解剖学(血管別,障害部位別),④病理学(血管病変別,脳病変別),⑤臨床的事象(病歴,所見,一般検査,神経放射線学的検査,その他の特殊検査),⑥患者の状態(障害の程度,日常生活動作の程度別)の6つのカテゴリーについて,詳しく記述されている.この分類で新しいことは,「無症候性」の項目が加わったことと,臨床病期による分類にRINDが加えられ,症候消失までの期間を“3週間以内”と定められたことであった.しかし,その内容がやや詳細に亘りすぎ,やや実用性に乏しい感があった.
 1990年4月に報告された第3版4)では,第2版の①臨床病期,②病態生理,③解剖学の3つのカテゴリーを組み合わせた,きわめて理解しやすい,簡潔な臨床病型(Clinical Disorders)の分類がなされている.

脳血管の病理

著者: 星野晴彦 ,   厚東篤生

ページ範囲:P.2390 - P.2393

 脳卒中の理解のための基礎知識として,その原因となる血管病変の病理について概説する.

脳血管障害における脳循環代謝の基礎

著者: 福山秀直

ページ範囲:P.2394 - P.2397

 脳血管障害の病態を理解する上で脳循環の基本的なメカニズムを理解することは重要である.血管と脳神経細胞が虚血や脳血管の動脈硬化に伴ってどのように反応するかを念頭において,脳血管障害の病態を理解し治療に役立たせる必要がある.脳血管障害と一括して呼んでいるが,その中にはさまざまな病態が含まれている.
 これまで脳血管障害は脳梗塞や脳出血のように病理学的な変化のみに注意が注がれ,脳循環動態がどのような状態になっているか関心を持たれることは少なかった.これはX線CTが脳血管障害の診断に果たした役割が大きかったことに原因がある.X線CTやMRIなどでは脳循環動態よりも,その結果としての病理的変化を画像として表示するものであるからである.最近,123I-IMPなどによるSPECT(single photon emission CT)が脳血管障害の臨床診断に用いられるようになり,脳循環動態の重要性に注意が向けられるようになりつつある.

脳卒中のリスクファクター

高血圧と脳卒中

著者: 上田一雄

ページ範囲:P.2398 - P.2400

 高血圧が脳卒中の最大の危険因子であることは,多くの疫学研究の結果から明らかである.ここでは脳卒中と高血圧の関係を脳卒中の病型別に考察し,高血圧管理による脳卒中の予防効果を介入研究の結果に基づき述べる.

糖尿病と脳梗塞

著者: 井上徹 ,   伏見尚子 ,   宇高不可思 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.2401 - P.2403

 我が国における糖尿病患者の死因中脳血管障害は16%で,腎症,虚血性心疾患を押さえ第1位である.脳出血は高血圧が食事療法の徹底と降圧剤により管理されかなり減少したが,脳梗塞では著明な減少は見られていない.糖尿病例では一般に梗塞に比し出血はまれとされており,血管壊死は糖尿病の有無で差はないことより,糖尿病時の血液凝固亢進が血栓を形成しやすいためと考えられてきた.本稿では糖尿病と脳梗塞の危険因子につき疫学的検討に加え,脳梗塞の予防につき簡単に述べる.

心疾患と脳梗塞—とくに心房細動との関係

著者: 山之内博

ページ範囲:P.2404 - P.2405

 ●心由来の脳塞栓の頻度
 全CVDの中では,脳出血に比べ脳梗塞のほうがはるかに多い.老年者の剖検例について検討した筆者らの成績では,有症状のCVDの3/4~4/5は脳梗塞である.この脳梗塞中,心由来の脳塞栓はどの程度を占めるだろうか.410例の有症状の脳梗塞について調べた筆者らの成績では,心由来の脳塞栓は28%に,いわゆる動脈硬化性血栓性脳梗塞は69%にみられた(表1)1).他の報告でも心由来の脳塞栓は10~25%を占めている.
 従来,いわゆる血栓型の脳梗塞が重視されすぎ,心由来の脳塞栓はあまり注目されなかった傾向がある.しかし,最近のデータによれば,心由来の脳塞栓は決して少なくない.このことは,治療,予防,などを考える上で重要である.

血小板,凝固・線溶系と脳卒中

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.2406 - P.2407

 近年の本邦の脳卒中のプロフィールは大きく変貌した.すなわち脳出血が激減し,代わりに相対的に脳梗塞(脳血栓,脳塞栓)の占める割合が増してきた.最近の統計では,都市,農村を問わず脳出血:脳梗塞の比は大体1:3〜5である.また脳梗塞の中でも大きな梗塞が減少し,小梗塞,ラクネ型,多発性小梗塞が増加しつつある.もちろんこれはCT,MRIなどの登場で診断技術が向上してきたというのも大きな理由の1つである.
 ここではこのような本邦の脳血管障害のプロフィールを念頭におき,リスクファクターとしての血小板,凝固・線溶系について述べる.

脳卒中の診断

脳卒中の診断の進め方—Overview

著者: 高木誠

ページ範囲:P.2408 - P.2412

 本稿では,急性期脳卒中の疑われる患者が来院した場合を想定して,その診断の進め方について解説する.

局在診断のための高次大脳機能の見方

著者: 森悦朗 ,   山烏重

ページ範囲:P.2414 - P.2415

 高次大脳機能の異常から大脳病巣の局在診断をするということの意義は,CTやMRIなどの画像診断の進歩によって大きく変化したが,その重要性を減じたわけではない.とくに脳血管障害の診療に当たっては,患者の病像を理解し,それに適切に対処する上で不可欠である.ここでは,脳血管障害の局在診断に有用な高次大脳機能障害の主なものについて概説する.

局在診断のためのベッドサイドの神経眼科

著者: 畑隆志

ページ範囲:P.2416 - P.2420

 脳血管障害の病巣診断における神経眼科的所見は視覚系や眼運動系が脳の広い部分に分布しているために,障害を受けやすく,また,病巣部位によって異なった症状を示すために重要である.さらにそれらの症状は反射的,不随意的な所見として捉えられるものが多く,意識障害のある患者でも詳細な観察が可能である.しかしこの分野の知見はまだ完全ではなく,異説や例外があり,これを詳細に記述すると返って混乱して理解の妨げになることも多いため,割り切って議論することをお許し頂きたい.

脳卒中の画像診断—MRI所見を中心に

著者: 澤田徹 ,   中村雅一

ページ範囲:P.2421 - P.2427

 X線CT(computerized tomography)が導入されてから,脳血管障害とくに脳出血と脳梗塞の病型鑑別や部位診断が飛躍的に向上したことは今更改めていうまでもない.さらに近年はMRI(magnetic resonance imaging)が登場し,脳血管障害の画像診断はより一層正確なものになってきた1〜5).X線CT(以下単にCTと略)はすでに一般化した補助診断手段となっているので,本稿ではMRIを中心に脳血管障害の画像診断についてまとめてみたい.

頸動脈病変の非侵襲的診断法

著者: 星野晴彦

ページ範囲:P.2428 - P.2430

●脳梗塞の成因・予防治療における頸動脈病変の意義
 内頸動脈起始部は動脈硬化の好発部位であり,頸部皮下数cmと浅いところを走行しているために,内膜摘除術による手術的な治療が可能な部位である.
 内頸動脈起始部で動脈硬化に伴い内膜肥厚によるplaque形成が起こりやすい原因は明らかにはされていないが,内頸動脈起始部は狭窄のない正常でも渦流を呈しており,その複雑な血流動態によって生ずるshear stressによる微小な障害の繰り返しが,plaque形成の1つの原因と考えられている.plaqueの脳卒中の成因に及ぼす機序としては,狭窄による血流不全によるもの(hemodyna-mic effect)と,artery-to-arteryの塞栓源としての2つが重要である.狭窄病変が直径にして50%,内腔面積にして75%以上の狭窄になると,末梢の血流低下が起こるとされている.また,plaqueは経時的に次第に大きくなるのみならず,縮小することも報告されている.さらに,plaqueは大部分は比較的安定したものであるが,plaque内出血や潰瘍形成により,急激に狭窄の程度が増したり,さらには血管を閉塞させる機転が推定されている.このため,経時的なplaqueの変化をとらえ,さらにその性状を詳細に知ることが,脳卒中の病態を解明・予防する上で重要である.

脳SPECTで何がわかるか

著者: 坂井文彦 ,   鈴木秀一

ページ範囲:P.2431 - P.2433

 脳血管障害患者における局所脳循環動態の正確な測定は,病態を正しく理解するのみでなく,積極的な治療を行う上できわめて重要である.疾患の予後,あるいは治療効果の判定に際しても局所脳循環諸量の把握が必要なことはいうまでもない.

脳卒中:病型別の臨床

TIAの診断と治療

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.2434 - P.2435

●TIAの診断
 TIA(一過性脳虚血発作)とは短時間の脳虚血により神経症状が一過性に生じるもので,その診断基準は表に示したごとくである.一般にTIAの発作そのものを観察する機会は少なく診断には問診が重要となる.かつてはTIAは脳梗塞を伴わないものと考えられていたが,CT,MRIなどの画像診断の進歩により,CT上は梗塞に陥っている例も稀でないことが明らかにされた.これは我が国で比較的多いとされる穿通枝領域のlacunar infarctionによるTIAに多い.しかし,Murrors et al1)は284例のTIAで34例にCT上脳梗塞を認め,頸動脈狭窄と有意の関係を認めたとしている.TIAの発症機序としては頭蓋外主幹動脈のアテローム潰瘍に形成された血小板血栓による脳動脈への塞栓(通常数分間)が最も多いが,穿通枝動脈血栓によるものもある.TIAの脳梗塞発症率は3.5〜62%と報告者によるばらつきが大きい.TIAの症状は脳梗塞などと同様であり,あらゆる局所神経症状を呈しうるが,内頸動脈系に特徴的なものとして一過性黒内障がある.これは眼動脈塞栓による一側の失明発作で数分以内に消失することが多いが,筆者は種々の治療にもかかわらず塞栓子が完全に融解せず視野の一部欠損を残してしまった例を経験したことがある.回転性めまいや意識障害発作のみの場合は,稀に椎骨動脈系の高度狭窄によるものもあるが,一般には他の原因を考えるべきである.

Lacunar strokeの診断と治療

著者: 早川功

ページ範囲:P.2436 - P.2438

●lacunar strokeの概念
 lacunaとは,本来病理学的用語であり,ラテン語で小さい空洞を意味する.剖検では直径15mm以下の不規則な空洞を伴った梗塞巣としてみられる.1965年,Fisherは1)lacunaを臨床病理学的に検討し,lacunaによる脳梗塞発作をlacunarstroke(LS)とよび,独立したclinical entityとしてはじめて臨床の場で用いた.当初LSは,特徴的な臨床症候を示す病型として,Pure motor hemiplegia(PMH),Pure sensory stroke(PSS),Homolateral ataxia and crural paresisのちにAtaxic hemiparesis(AH),Dysarthria clumsyhand syndromeのいわゆるclassical lacunar syndromes(CLS)と呼ばれる4つに分けられた.その後LSは諸家の関心を集め,さらに進んだ臨床病理学的およびCT導入による臨床検討がなされ,Fisherはこれらの成績をまとめ2),1982年にlacunar syndromesとして21型の病型に分類し(表),lacunaによる特徴的な神経症状を呈する脳梗塞がいかに多いかを指摘している.

主幹動脈病変による脳梗塞の診断と治療

著者: 田川皓一

ページ範囲:P.2440 - P.2442

 主幹動脈病変として,内頸動脈の起始部や中大脳動脈水平部の動脈硬化による狭窄や閉塞を念頭において,それを原因とする脳梗塞の病態生理や臨床症状の特徴,診断の進め方,治療の考え方などについて解説を加えたい.

心原性脳塞栓症の診断と治療

著者: 峰松一夫

ページ範囲:P.2444 - P.2446

●心原性脳塞栓症の今日的意義
 心臓由来あるいは心臓を介する静脈由来の凝血塊,腫瘍組織などによって脳動脈が突然閉塞され,梗塞巣を生じるものを心原性脳塞栓症という.近年の診断技術の進歩により本症の臨床診断が容易になるにつれ,脳梗塞全体に占める頻度がかなり高いこと(欧米では約15%1),本邦でも10〜24%),臨床像にも特徴があり,予防,治療,再発防止対策も他の脳梗塞と異なることなどが明らかとなっている.NINDSの新しい分類の中でも,本症は3つの脳梗塞カテゴリーの1つとして取り上げられ,その臨床的重要性が強調されている(「脳卒中の病型分類と成因」参照)2)

高血圧性脳出血の診断と治療

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.2448 - P.2450

●脳出血の原因
 脳出血の原因としては,高血圧によるものが最も多い.その他の原因としては,脳動脈瘤破裂,動静脈奇形,海綿状血管腫,コカイン,アンフェタミン,アルコールなどの薬物乱用,出血傾向をきたす血液疾患,抗凝固療法,アミロイドアンギオパシー,脳腫瘍などがある.

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血—手術までの管理と手術のタイミング

著者: 欅篤 ,   鍋島祥男

ページ範囲:P.2452 - P.2453

 くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,以下SAHと略)の発生率は人口10万人に対して10〜20人で,その約80〜90%が脳動脈瘤破裂によるといわれている.そして,初回の出血発作で約20%の人が病院に到達せずに死亡し,病院に搬入されても約30%の人が出血とその合併症のために死亡し,初回出血より回復しても治療されなければ約30%の人が再出血で死亡するといわれるように1),その予後はきわめて不良である.一方,剖検例で2〜5%に動脈瘤が発見されることより,MRI(magnetic resonance imaging)やDSA(digital subtraction angiography)などの侵襲度の低い検査を用い未破裂の状態で動脈瘤をみつけ,治療することが行われつつあるが,現状では出血発作により発症し治療が開始される例が大部分である.
 以下,脳動脈瘤破裂SAH患者の管理ならびに手術のタイミングについて述べる.

脳卒中の治療

脳卒中急性期患者の管理—Overview

著者: 岡安裕之

ページ範囲:P.2454 - P.2457

 脳血管障害が疑われる患者,すなわち急性発症の脳局所症状や意識障害を認める患者は,正確な診断と適切な治療を行うために,原則として全員入院させる必要がある.超重症で深昏睡,血圧下降あるいは脳ヘルニアが進行して呼吸不規則,瞳孔散大対光反射消失という患者でなければ,移送にも支障がないと考えられるので,嘔吐,気道閉塞に気をつけて病院へ移送する.

脳卒中急性期の合併症とその対策

著者: 石川良樹

ページ範囲:P.2458 - P.2460

 脳卒中急性期の直接的な死因としては,まず第一に脳のヘルニアが挙げられるが,肺炎や脱水などのさまざまな合併症も,脳卒中の予後を左右する大きな因子である.死亡する原因となるばかりでなく,合併症のために臥床期間が長期化し,リハビリテーションが円滑に行えないような状態が続けば,機能的な予後にも大きな影響を及ぼすこととなる.とくに高齢者においては合併症が起こりやすく,慎重な対処が重要である.本項では急性期の合併症の対策の要点について触れることとする(表1).

脳卒中急性期のリハビリテーションの進め方

著者: 里宇明元

ページ範囲:P.2462 - P.2464

●急性期からのリハビリの重要性
 急性期には救命救急処置,脳障害の進展防止,全身管理が優先され,その一環として安静が指示される.しかし過度の安静は精神・身体両面に悪影響を及ぼし,本来の障害に加えて廃用症候群と呼ばれる各種の合併症を生ずる.廃用症候群が一度起こるとその治療には多くの時間と労力を要し,その後のリハビリの大きな妨げとなるので,急性期からの予防が大切である.

抗脳浮腫療法の適応と実際—脳浮腫の病態と脳卒中急性期における抗脳浮腫療法

著者: 赫彰郎 ,   片山泰朗 ,   南澤宏明

ページ範囲:P.2466 - P.2467

●疾患概念
 脳浮腫は脳組織内に水分が異常に増加した病態と定義できる.そしてこの病態は脳血管障害,脳腫瘍,頭部外傷,脳脊髄膜炎,低酸素症,薬物中毒などの多くの疾患により生じる.半閉鎖領域である頭蓋内での水分の異常な増加は必然的に頭蓋内圧を亢進させ,脳循環および脳代謝に障害を与え,これが更に脳浮腫を増悪させる連鎖を生じて致命的な脳ヘルニアを起こすことになる.そのために抗脳浮腫療法は脳血管障害患者の治療において最重要の課題である.

抗血栓療法の適応と実際—抗血小板剤,抗凝固剤,線溶剤

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.2468 - P.2474

 抗血栓療法には抗血小板療法,抗凝固療法,血栓溶解療法がある(図1)1).抗血栓療法の適応となるのは虚血性脳卒中であり,一過性脳虚血発作(TIA)と脳梗塞が対象となる.本稿では,抗血栓薬の種類と作用機序,適応と禁忌,使用法のポイントについて述べてみたい.

頸動脈内膜摘除術とその適応

著者: 高木康行 ,   高木誠

ページ範囲:P.2476 - P.2478

 1950年代の半ばに,脳血流不全に対する頸動脈再建術の初めての成功例が報告されて以来,頸動脈内膜摘除術Carotid endarterectomy(CEA)は,頭蓋外の頸動脈病変に対する外科治療として,主として欧米において急速に普及してきた.米国では1971年から1985年の間に,年間のCEAの施行例は15,000例から,103,000例にまでも増加しているが1),その理由としてCEAが無症候性病変や軽度の頸動脈狭窄に対しても無差別に行われる傾向があったことが指摘されている.しかし,最近になりCEAに対する再評価の機運が高まり,CEAの適応がより厳密に見直されるようになった結果,米国におけるCEAの施行例は1987年には81,000例にまで減少している2)
 これに対しわが国では,1987年の年間の総CEA数は600件程度であろうと推定されている3).このように米国と日本におけるCEAの件数には極端な差があるが,これにはわが国ではTIAや脳梗塞の責任病変として,頭蓋外の頸動脈病変の占める割合が低いこと,頸動脈病変に対する非侵襲的検査法の普及率が低いことなどが関与しているものと思われる.しかし近年,わが国においても生活の欧米化から頸動脈病変の頻度が増加しつつあることが指摘されており,今後CEAの意義は次第に高まるものと考えられる.

特殊な脳卒中

若年者の脳卒中

著者: 渡邊禮次郎

ページ範囲:P.2480 - P.2482

 脳卒中は中高年者にごく普通にみられる疾病であるが,40歳以下の若年者にも稀ならず発症する.しかし,若年性脳卒中は原因の多彩なこと,機能予後の比較的良好なことなど,中高年者の脳卒中に当てはまらない点も少なくない.ここでは若年性脳卒中の発現頻度,原因につき述べ,あわせて,その対策,予後についても簡単に触れることにする.

ウィリス動脈輪閉塞症

著者: 高嶋修太郎

ページ範囲:P.2484 - P.2486

 ウィリス動脈輪閉塞症は頭蓋内内頸動脈末端,前および中大脳動脈近位部に狭窄または閉塞がみられ,その付近に異常血管網がみられる疾患であり,未だ原因は不明である.本邦にとくに多く,若年者における脳血管障害の重要な原因疾患の一つである1)

Binswanger病

著者: 岩本俊彦

ページ範囲:P.2488 - P.2490

●概念
 進行する痴呆と片麻痺などの局所神経症状を呈する8症例を報告(1894年)したBinswangerは,その特徴的な病理所見に基づいて,梅毒による進行麻痺から分離した.すなわち大脳の白質には著明な萎縮があるものの,皮質は保たれ,脳動脈に高度のアテローム硬化を認めたというもので,彼は痴呆が白質障害に由来するとし,脳動脈硬化をその原因と考えた.その後Alzheimerらがこれに着目してBinswanger病と名づけたが,この疾患の定義や診断基準が明確でなかったため,疾患単位としての位置づけをめぐって混乱を招いた.
 以来病理学的に大脳白質のびまん性脱髄を共通の所見として,いくつかの名称で呼ばれた1).その変化は大脳白質に選択的にみられ,U-fiberや大脳皮質にはないか,あっても軽いのが特徴とされる.髄鞘は消失(オリゴデンドログリアの機能不全)し,淡明化した部位ではグリア反応と軸索の減少を伴い,一般にこれらは循環障害による不全軟化巣と考えられている.また多くは大脳深部白質や基底核にラクネの多発(état lacunaire)がみられ,これらの変化に時間が加われば脳室拡大や脳梁萎縮をきたす.

抗リン脂質抗体と脳梗塞

著者: 北川泰久

ページ範囲:P.2492 - P.2494

 近年,免疫学的診断の進歩とともに,脳血管障害の発症要因の1つとして抗リン脂質抗体の関与が考えられている.本稿では抗リン脂質抗体と脳血管障害との関連について解説する.

慢性期患者の管理

脳卒中の再発予防への対策

著者: 石原直毅 ,   柚木和太 ,   佐藤周三

ページ範囲:P.2496 - P.2498

 近年,わが国において致命的な脳出血は激減する一方,軽症の脳梗塞罹病頻度はむしろ高くなっている.軽症な脳卒中は再発を繰り返し,脳血管性痴呆や寝たきり老人を増加させ,Quality of lifeに重大な関わりをもってくる.

脳循環改善薬と脳代謝改善薬の使い方

著者: 長田乾

ページ範囲:P.2500 - P.2503

 脳卒中慢性期の治療は,神経脱落症状の改善,自覚症状,精神症状の改善,そして再発の予防が大きな目標となる,神経脱落症状に対しては適切な時期に効果的なリハビリテーションを実施することが第一とされており,自覚症状や精神症状の改善,および再発の予防については,脳循環改善薬や脳代謝改善薬などによる薬物療法が主体となることから,慢性期脳卒中症例を管理する上で,脳循環改善薬や脳代謝改善薬の選択と使い方が重要な意味を有する.
 一般に,脳循環改善薬はもっぱら自覚症状の改善に,一方,脳代謝賦活薬は精神症状の改善に効果があると見なされているが,ここでは主な脳循環改善薬と脳代謝改善薬の薬理作用の特徴と適応,副作用などについて概説する.

脳血管性痴呆の診断と対策

著者: 高木繁治

ページ範囲:P.2504 - P.2505

 脳血管性痴呆はまずその患者に痴呆があるかどうか,そして痴呆があるとすればそれが脳血管障害によるものかどうか,によって診断される.

座談会

脳虚血の成因と治療をめぐって

著者: 峰松一夫 ,   早川功 ,   内山真一郎 ,   高木誠

ページ範囲:P.2506 - P.2522

 高木(司会) 今日はお忙しいところをお集まりいただきましてどうもありがとうございました.本日は,日頃脳卒中の臨床と研究の第一線で御活躍されている3人の先生方にお集まりいただき,「脳虚血の成因と治療をめぐって」という座談会を行いたいと思います.
 虚血性の脳血管障害,とくに脳梗塞は,脳卒中の中でも最も頻度が高く,臨床的に重要な疾患であると同時に,この10年ぐらいの間に考え方や,治療面でかなり新しい点が出てきていると思います.本日は“medicina”の読者の皆さん,とくに若い研修医の先生方が脳卒中を理解する上で,少しでもお役に立てるような内容にしたいと思いますので,先生方の日頃の豊富な臨床経験を交えながら,活発なご討論をお願いしたいと思います.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・22

CABG後のグラフト狭窄に対するPTCA

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.2528 - P.2530

●CABG後PTCAを2回施行し,再狭窄のため再手術時にグラフトを摘出した例
 症例 71歳,男
 嗜好品 タバコ40本/日,酒5合/日
 現病歴 65歳の時に急性心筋梗塞の診断にて大学病院へ入院し,CABG目的で当院へ紹介された.冠動脈造影上,3枝障害のため,前下行枝(Seg 7)に大伏在静脈を使用し,CABGを施行した.退院1年後に狭心症状が出現したため再び入院し,グラフト吻合部近くに90%狭窄を認めたため(図1A),PTCAを施行し(図1B),25%狭窄にまで拡大した(図1C,D).翌年,再び狭心症状が出現したため,再度PTCAを施行し,60%狭窄にまで開大した.その1カ月後に1〜2回狭心症発作がみられたが,ニトログリセリン舌下錠にて改善していた.CABG6年後,安静時に強い胸痛発作があり,不安定狭心症の診断により入院した.グラフトは90%の再狭窄を示し,右冠動脈(Seg 1)も99%狭窄を示したため,左内胸動脈を前下行枝(Seg 7)に,右内胸動脈を右冠動脈(Seg 2)にCABGを施行し,その際にグラフトを摘出した.

Oncology Round・14

腹膜偽粘液腫

著者: 森永正二郎 ,   金田智 ,   高橋幸則 ,   片山勲

ページ範囲:P.2539 - P.2542

 腹膜偽粘液腫は,ゼリー状の粘液性腹水が大量に貯留する稀な臨床病態である.病理学的には粘液産生源は単一ではなく,卵巣や虫垂などの粘液腺癌がよく知られている.その他,稀ながら膵,結腸,尿膜管,子宮体部,総胆管などの腺癌に基づくものが報告されている.原発不明例も少なくない.粘液産生細胞が大量の粘液とともに腹腔内に放出されることによって発生すると考えられているが,きわめて緩徐な増殖を示し,腹腔外への浸潤や遠隔転移を起こさない点で,通常の癌性腹膜症とは異なっている.しかし,腹腔内に広範に播種し,完全摘除が不可能なために,やがてイレウスをひき起こし,患者を死に至らしめるというコントロールの困難な病態である.
 以前の診断法は開腹手術に限られていたが,近年CTや超音波などの画像診断法により,ある程度推定することができるようになった.腹水の画像診断上,是非頭に入れておきたい病態である.ここにその1例を紹介する.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2532 - P.2537

講座 図解病態のしくみ 膠原病・5

強皮症

著者: 熊谷安夫

ページ範囲:P.2544 - P.2550

 強皮症は全身性強皮症(進行性全身性硬化症:以下PSS)と,限局性強皮症(localized scleroderma,morphea)とに大きく分類される.これらの疾患は組織学的には共通する点も多いが,臨床的にはかなり異なっている.以下PSSに限定し,発症に影響を及ぼす要因とくに環境因子,抗核抗体などの免疫異常,血管病変および結合組織の代謝異常,動物疾患モデルについて研究の現況を述べる.
 PSSは皮膚および関節滑膜,筋肉,消化管,肺,心,腎などの全身結合組織の線維化,変性を特徴とする中年女性に多い疾患である.病理組織では,早期に炎症所見があり,極期には真皮結合組織の増生に基づく皮膚の肥厚がみられる.またレイノー現象に代表される全身の血管閉塞病変もきわめて重要である.

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「medicina」第27巻 総目次

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基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻4号(2023年4月発行)

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60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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