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雑誌目次

雑誌文献

medicina27巻6号

1990年06月発行

雑誌目次

今月の主題 わかりやすい心電図の臨床 心電図の読み方

心電図の読み方の基本

著者: 小沢友紀雄

ページ範囲:P.900 - P.904

 心臓に発生した電気的興奮は,同時に伝導体である身体各部に伝わり電場を生ずる.この電場(主に体表)に電極を置いて心臓の活動電位を心電計に誘導し,増幅記録したものが心電図である.すなわち,心臓の主な生理学的特徴である自動性,伝導性,興奮性,収縮性(拡張性)のうちで,前3者の電気的現象の把握を主体とする検査法であることを忘れてはならない.心臓の形態的あるいは機械的側面を解析するには,心電図は電気現象の変化を介しての間接的検討であり,確定診断には他のより直接的な検査法を必要とする.一方,不整脈の診断には心電図が欠くことのできない検査であり,他の疾患でも心電図のみで診断の確定するものもある.心電図の判読にあたってまず第一に留意すべきは,こうした心電図の特徴と有用性を理解し,限界をよくわきわまえることにある.その上で心電図を使いこなせば,検査法の簡便さ,再現性の良さ,患者への負担の少なさ,普及性,情報量の多さなどきわめて有用な検査法であることが理解されよう.

心電図の読み方のpitfall

著者: 大林完二

ページ範囲:P.906 - P.907

 心電図診断は心電図波形のパターン認識に基づくものであるから,名人芸的診断ができる反面,専門家でも判読に迷うほど難しいことや,心電図だけをみていると意外な落とし穴に陥ることもあり,診断にあたっては常に臨床症状,理学的所見,種々の検査成績を参考にするように心がけることが大切である.

P波

著者: 小林明

ページ範囲:P.908 - P.910

●正常P波
 心臓収縮は,まず洞結節にて興奮が形成され,その興奮が左右心房に伝播されて,心房が収縮を起こす.P波はこの心房の収縮に伴う電気活動の表現である.したがって,心房収縮のない心房細動では心電図上P波は認められず,P波に変わって細動波(f波)が存在する.
 P波は通常2峰性であり,初期は右房興奮,後期は左房興奮,中期は両房の興奮より合成される.標準12誘導心電図における正常P波の特徴を表に示す.P波は年齢,呼吸や交感神経緊張などの生理的変動にも影響される.したがって,年齢別のP波正常値が決められている.

QRS波

著者: 高垣健二 ,   大江透

ページ範囲:P.912 - P.913

●QRS波の正常像
 心室の脱分極によって形成される大きく急峻な波をQRS波という.QRS波のうち,初めに見られる陰性の振れをQ(q)波,それに続く陽性の振れをR(r)波,R波のあとの陰性の振れをS(s)波と呼ぶ.正常では,QRS時間は0.12秒未満で通常0.06から0.10秒であり,QRS電位は肢誘導では1.0mV前後,胸部誘導では1.0から2.0mVくらいである.肢誘導のI.II誘導ではqRs・qR型で陽性の振れが主であり,aVR誘導ではrSr'・rS型で陰性の振れが主となる.QRS平均電気軸は+1100から-30°の範囲にあるものを正常とするが,+90°から-10°の間にあるものが多い.胸部誘導では,V1誘導でrSr'・rS型であり,V6誘導でqRs・qR型である.R波とS波の比をとるとV1誘導からV6誘導へ順次増大する.R波とS波の振幅がほぼ同じ大きさのところを,移行帯transitional zoneといい,普通はV3誘導あたりに認められる.

ST偏位

著者: 中島克彦

ページ範囲:P.914 - P.916

 心室心筋の脱分極によって生ずるQRS波と,再分極によるT波とのあいだをST部と呼ぶ.心室収縮期の始まりから極期にかけての時期に相当し,心電図で心筋傷害を診断する際に最も重要な部分である.正常では,この時期は心筋全体が脱分極しているので,外部から電位差は検出されず,基線と一致した直線となる.
 心筋に傷害があると,静止電位が減少あるいは消失し,健常部と傷害部の間に傷害電流が流れ,基線(TP間)が偏位する.これがST偏位の主たる原因と考えられている.すなわち,ST部の電位差は0であっても,基線が偏位しているためSTが偏位しているように見える.また心筋興奮時に傷害部の脱分極が不完全であると,健常部との問に傷害電流が流れ,さらにST偏位が増強する.

T波とU波

著者: 沢登徹

ページ範囲:P.918 - P.921

〔T波〕
●T波の成立機序
 心電図波形を構成するT波は心室の再分極に関係し,心電図上ではQRS波の後に認めるもう一つの山で,それは心室脱分極波QRSと同方向である.このことは興奮順序が心室壁の内膜側から外膜側に進行し,活動電位波形が外膜側に比べ内膜側で持続時間が長く,その両者の差から説明されている.心室表面を冷却すると表面側の活動電位持続時間(APD)は長くなり,加温するとそれとは反対にAPDは短縮し,内膜側APDが変化せず伝導時間が変わらないとすれば,T波の極性が変わる.その際心室内外で30〜50msの差が必要である1).前者ではT波は陰転し,後者ではT波は増強される(図1).心尖部と心基部の間でも,心尖部が心基部の活動電位の持続時間が長い場合に成立する.まとめると,T波変化は興奮伝導時間と心筋細胞固有の活動電位持続時間の総合として考えられる.この考え方は異常条件下のT波では固有の活動電位持続時間は変わらない状態で,心室性期外収縮のT波は伝導時間の遅れでT波がQRS波と反対方向を向くことが説明される.

危険な不整脈

著者: 杉薫

ページ範囲:P.922 - P.924

 不整脈は,日常よく遭遇する循環器疾患の1つであり,その種類の多さを反映して,病態の重症度も様々である.危険な不整脈と考えられるのは,1)直ちに治療を行わないとそれ自体で心臓突然死を起こす不整脈(致死性不整脈)と,2)致死性不整脈に移行する可能性のある不整脈(警告不整脈),さらに,3)重篤な心不全状態を惹起する不整脈であろう(表).致死性不整脈として心室細動(ventricular fibrillation:VF),心拍停止(cardiac standstill,asystole)が挙げられ,両者は合わせてcardiac arrest(心停止)と呼ばれている.心拍数が多いために心拍出量がきわめて低下する心室頻拍は心室細動か心迫停止に移行し,著しい徐脈は心室細動に移行して心臓突然死を起こすと考えられているので1),これらは警告不整脈に分類した.器質的心疾患の有無は,不整脈症例の予後を大きく左右し,とくに心筋梗塞や拡張型,肥大型心筋症に合併した心室性不整脈の予後は悪い.

頻拍性不整脈

著者: 小川聡 ,   井上宗信

ページ範囲:P.926 - P.929

 不整脈と聞くと一般内科医でも診療に躊躇してしまう場合がある.おそらく診断と治療の過程が他の病態と比べて短時間で行われなければならないことと,心室細動から心停止に直結する不整脈の見落としにストレスを感じるためであろう.本項では,その点では一番厄介な頻拍性不整脈(QRS波数>100/分)の心電図診断の考え方について解説した.

徐脈性不整脈

著者: 飯沼宏之

ページ範囲:P.930 - P.935

 ここでは徐脈性不整脈について,その心電図診断を中心に概説してみたい.
 徐脈の定義は心室収縮回数の低下であるから,心電図の上では一定時間におけるQRS数の低下,すなわちRR間隔の延長としてとらえられる.その成因は,1)洞興奮の低下,2)洞房ブロックによる心房興奮の低下,3)房室ブロックによる心室興奮の低下,のいずれか,ないしそのいくつかの組み合わせによると考えられる.以下,上記の機序別分類に従って話を進めてゆきたい.

負荷心電図,特殊心電図の適応と読み方

運動負荷心電図—Master's two step test

著者: 斉藤俊弘

ページ範囲:P.936 - P.941

 運動負荷試験は今日では循環器疾患の診断およびリハビリテーションになくてはならない検査法である.この運動負荷試験には種々の方法があるが,本稿では簡便さと低コスト故に実地臨床において最も広く用いられているマスター2階段試験(Master two step test)について述べる.
 Master1)は1929年運動負荷量を年齢,性,身長,体重により規定し,負荷に対する心拍数と血圧の反応を観察した.この時に,階段昇降1分半の負荷直後の心拍数と収縮期血圧が,運動終了後2分以内に運動前の状態に回復する階段昇降数を目安にして,年齢,性,身長,体重により補正し,標準化した階段昇降数の表を作った.身長は後に省かれた.1942年に心電図を判定基準に組み入れた2,3).この方法がMasterのsingle two step testであるが,1961年にはこの2倍量の運動負荷,double two step testの判定基準4)を定め,今日最も広く使用されている.

運動負荷心電図—Treadmill,Ergometer

著者: 川久保清

ページ範囲:P.942 - P.943

 単一水準負荷法であるMaster 2階段試験に比較して,Treadmillや自転車Ergometerによる多段階運動負荷心電図法は,被験者の運動能力に応じた負荷を行え,また運動中の心電図・血圧測定が容易である利点があり,臨床の場で広く用いられるようになってきた.しかし,その歴史は比較的浅く,統一した基準がないのが現状である.ここでは,日本循環器学会「運動に関する診療基準委員会」(村山正博委員長)の1988年度報告を参考に,多段階運動負荷心電図法の適応,方法,判定基準について述べる.

Holter心電図

著者: 田辺晃久

ページ範囲:P.944 - P.950

 現在,ホルター心電図法においては,解析は他の医師または技師が行い,担当医は送り返された圧縮心電図や異常部心電図をもとに最終評価を行うという場合が多い.
 しかしながら,ホルター心電図法では実際解析していると異常の意義,たとえば心電波形が電気現象ではなく,単なるアーチファクトであること,などが容易に理解できても,一片の送り返された心電図記録となってしまうとその評価に迷うことが少なくない.

臨床電気生理学的検査

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.952 - P.958

 近年,臨床不整脈の診断,治療は著しい進歩をとげたが1),その中で臨床電気生理学的検査clinical electrophysiologic study(EPS)の果たした役割は非常に大きい.すなわち,診断,重症度評価,機序分析のみならず,抗不整脈薬の薬効評価,ペースメーカー療法や手術療法の適応決定に非常に重要な検査となっている.さらに植え込み型除細動器2)やカテーテルアブレーション3)など,新しい治療法には不可欠となっている.
 EPSは心腔内電位記録と心臓ペーシング法からなるが,本稿では各々の適応について概説を加える.

ペースメーカー心電図

著者: 谷川直

ページ範囲:P.960 - P.962

●ペースメーカー植え込みの対象
 ペースメーカー植え込みの対象となる不整脈は完全房室ブロック,洞機能不全症候群などの徐脈性心疾患である.完全房室ブロックはヒス束心電図からAHブロック,HVブロックに分類される.この分類は補充収縮のQRS幅が狭く,正常のものと,幅の広いものに簡単に対応することも可能である.
 洞機能不全症候群は,1)洞性徐脈,2)洞停止,洞房ブロック,3)徐脈-頻脈症候群に分類される.

心電図自動診断の効用と限界

著者: 広木忠行

ページ範囲:P.964 - P.967

 電子計算機による心電図自動解析の日常臨床への導入もすでに4分の1世紀の歴史を経ている1).この心電図自動解析システムの創成期には,心電図自動解析そのものの必要性の是非が議論されていたが,近年はさすがにそのような議論はなくなり,心電図自動解析システムの必要性についてはほとんどの心電図専門家が肯定的であり,したがって,現在では心電図自動解析プログラムの改良,心電図ファイリングや心電図時系列比較のためのデータベース,電話回線,無線,宇宙衛星を介した心電図データ電送などによる心電図の集中管理に関する議論がなされている.以下,先ず心電図自動解析システムの現況について,効用と限界の面から要約することにする.

心電図異常と他の検査法

心エコー図の必要な心電図異常

著者: 大木崇 ,   井内新 ,   小川聡 ,   福田信夫

ページ範囲:P.968 - P.972

 心電図は,本来,心臓の電気的変化を記録したものであり,したがって不整脈や心筋傷害の存在および部位診断にはきわめて重要な情報を提供する.また,その記録方法は簡単で,検者によって影響を受けない点も無視しえない長所といえよう.
 一方,心電図から心臓の形態および機能異常の多くを読み取ることについては本質的な限界があり,このような隘路を打開するためには心エコー法のような他のアプローチを併用する必要がある.

心血管造影を必要とする心電図異常

著者: 横井尚 ,   高谷純司

ページ範囲:P.974 - P.976

 心電図は,簡便さとそれに含まれる情報の多さからいって,循環器疾患に限らずその他の疾患においても必要不可欠な非観血的検査である.対して心血管造影は診断や治療方針を確定する上で非常に有用性が高いが,観血的検査であり患者に対する侵襲を考えその適応を十分考慮することが必要である.近年では胸部X線や心音図に加え,心エコー図,CT, RI, MRIなどの非観血的検査の発達により先天性心疾患や弁膜疾患,心膜疾患などは診断可能となったため,ここでは主に与えられたテーマに関して,虚血性心疾患,心筋疾患について述べてみたい.

Rl検査の必要な心電図異常

著者: 山科章

ページ範囲:P.978 - P.980

 心臓核医学は近年めざましい進歩を遂げ,今や心疾患の診療において欠くべからざる検査法となっている.なかでも虚血性心疾患においては非観血的に心筋灌流状態,梗塞部位の描出,心機能の定量的評価が可能であり,心エコー検査とならび重要な検査法となっている.簡便性,経済性からまず心エコーが行われるが,各種の心電図異常に対して心臓核医学検査が考慮される.

疾患と心電図異常

Stokes-Adams症候群と心電図異常

著者: 東祐圭 ,   堤健

ページ範囲:P.982 - P.984

●概念
 高度の徐脈,心停止,心室細動,または心室頻拍などの不整脈に基づく有効心拍出量の減少は脳血流の低下をきたし,脳血流の低下の程度,持続時間により眩暈,ふらつきなどの軽度の症状から,眼前暗黒感,失神,痙攣などの症状を呈する.これらの症状をStokes-Adams症候群,またはAdams-Stokes症候群と称する.症状の出現が発作性であることからAdams-Stokes発作とも言われる.Stokes-Adams症候群とAdams-Stokes症候群の名称は同義語で通常,Adams-Stokes症候群の名称が一般的に用いられる.
 Adams-Stokes症候群の名称の由来は1827年にAdamsが,1846年にStokesが徐脈と失神,痙攣,突然死などをきたした例を報告したことによる.Stokes-Adams症候群の言葉が用いられるのはStokesの報告がAdamsの報告に比べ,より詳細であったためである.同様の報告は1700年代にすでにMorganiらにより述べられており,Morgani-Adams-Stokes症候群の名称も見られる.Stokesの記載によればこの症候群は徐脈と失神,痙攣発作を伴うもので,頻脈性不整脈によるものは含まれない.

心筋梗塞と心電図異常

著者: 鷹津文麿

ページ範囲:P.986 - P.992

 心筋梗塞における心電図(ECG)は最近,他の種々な検査法の発展により,以前に比しその重要性が薄れたかのような印象がある.しかしながら,きわめて迅速に記録を行えること,記録法が確立されていること,機器が安価であることなど,臨床上の価値は現在においても(非侵襲的検査では)将来ともに他の検査をはるかに凌駕すると思われる.
 心筋梗塞の典型的ECGは成書に示されており,本稿では,一見,診断しにくいが,よく見れば診断できるECG所見を症例中心に述べる.

狭心症と心電図異常

著者: 鈴木紳

ページ範囲:P.994 - P.997

●狭心症とは
 狭心症とは心筋が必要としている十分量の酸素が供給されなくなる(心筋酸素需要と供給の不均衡)ために,一過性の心筋虚血が生じ,これに基づいて胸痛を主体とする一連の狭心症状が出現する状態と考えられる.

心肥大と心電図異常

著者: 夏目隆史

ページ範囲:P.998 - P.1000

 心房・心室の肥大は,心臓に対する圧あるいは容量などの血行力学的負荷や,心筋それ自体の病的変化として生じるもので,日常診療の中でしばしば認められる,重要な心電図学的所見である.
 心筋の肥大とは心筋線維がその径を増大させ断面積が増すことにより,心房あるいは心室壁の厚さが増加することである.心電図学的に見られる基本的な変化は,心筋の肥大に伴う心筋線維の内部抵抗の減少と電流増加,心房・心室壁の肥厚に伴う心表面積の増加,およびそれによる心臓の胸壁接近により肥大心房・心室側に向かう平均瞬間ベクトルの大きさが増大することであると考えられる.さらに壁厚の増大による興奮伝導時間の延長や,再分極過程の変化による二次的なT変化なども認められる.

心筋炎,心膜炎と心電図異常

著者: 古野陽一郎 ,   村里嘉信 ,   永元康夫

ページ範囲:P.1002 - P.1004

 心筋炎,心膜炎は原因不明のいわゆる特発性心筋炎,心膜炎が最も多いが,その多くはウイルス性と推測されている.しかし,ウイルスの証明される頻度は30%にすぎない.病因ウイルスとしては,心臓親和性の強いコクサッキーB群の他にエコー,単純ヘルペス,ムンプス,インフルエンザなどが報告されている.その他の原因として膠原病,悪性腫瘍の転移,代謝性疾患などがある.

電解質異常と心電図異常

著者: 山崎純一 ,   小竹寛 ,   真柴裕人

ページ範囲:P.1006 - P.1009

 血清電解質異常が心臓に対して種々の影響を及ぼすことはよく知られている.今回は,特徴的な心電図波形の変化が出現する血清KとCa異常について概説する.

薬物と心電図異常

著者: 杉村洋一 ,   田村勤

ページ範囲:P.1010 - P.1012

 臨床上使用されている種々の薬物が,刺激伝導系あるいは固有心筋に直接,または間接的に作用して,いろいろな心電図変化を起こすことは良く知られている.以下に心電図波形の変化,あるいは各種の不整脈を起こす代表的な薬剤について述べる.

非特異的ST-T変化

著者: 林博史 ,   長坂真

ページ範囲:P.1014 - P.1016

●非特異的ST-T変化の定義
 ST-T部分は心室の再分極過程を反映するのみでなく,心室脱分極さらには自律神経,血行動態,電解質,代謝など心臓外の因子も含め幅広い影響を受ける.またこれらの変化はST部分,T波同時に受けることが多いためST-T変化と表現される.Goldmanによれば,心電図そのものにより病因診断されないST-T変化を非特異的(Non-specific)という.従来,非診断的なST-T変化はMyocardial damage(心筋傷害)と呼ばれてきた.しかしこれは実際の心筋障害の有無に関係しないために,最近はやや漠然と非特異的ST-T変化(Non-specific ST-T change),あるいはMinor ST-T abnormalitiesという言葉がよく用いられる.これらの用語は現在のところ明確に定義されてはいない.非特異的という言葉を人によっては非虚血性と同意義に用いたりあるいは非心疾患性,狭義には正常者に見られる軽度のST-T異常という意味合いで用いられているのが現状であると思われる.

不整脈の治療

除細動と緊急ペーシング

著者: 竹永誠 ,   小岩屋靖 ,   田仲謙次郎

ページ範囲:P.1018 - P.1020

 いずれも,心臓に対して電気刺激を与えて十分な拍出を伴う心収縮を回復させる,または維持させる治療法である.しかし,以下に述べるように両者の持つ意義は全く異なる.

上室性期外収縮,上室性頻拍

著者: 磯本正二郎 ,   深谷眞彦

ページ範囲:P.1021 - P.1023

 上室性期外収縮および上室性頻拍の治療には,経過観察のみでよいものから比較的緊急を必要とするものまである.また,治療法の選択には不整脈の重症度のみならず,自覚症状,基礎疾患などを考慮しなければならない.

心房細動,心房粗動

著者: 林潤一

ページ範囲:P.1024 - P.1026

●心房細動atrial fibrillation
 心房細動の治療は大きく5つに分けて考えられる.第1は心房での高頻度(400〜700/分)の興奮が,房室伝導が正常の房室結節を通り心室に伝達される場合の頻脈を制御する治療であり,第2は心房細動を停止させ洞調律に戻すための治療である.第3は心房細動が継続することにより起こりうる心房内血栓症と,その遊出による塞栓症の予防,第4は洞調律に復帰後の心房細動再発防止,第5は心房細動を引き起こした誘因疾患の治療である.

心室性期外収縮,心室頻拍

著者: 加藤貴雄

ページ範囲:P.1027 - P.1029

 心室性期外収縮が重症化したものが心室頻拍で,両者は一連の病態と考えられる.ここではこれらの頻脈性心室性不整脈に対する治療適応の考え方,治療法の選択とその実際などについて述べる.

ブロック

著者: 早野元信

ページ範囲:P.1030 - P.1033

 ブロックは心臓興奮の伝導障害を意味し,すべての部位で生じうるが,一般には,伝導障害の部位により,大きく4つに分類される.
 すなわち,1)洞房ブロック(洞房接合部組織の伝導障害),2)心房内ブロック(心房内の伝導障害),3)房室ブロック(主として房室接合部の伝導障害),4)心室内ブロック(心室内の伝導障害)である.その他ヒス束にも伝導障害が生じうる.これらのブロックのうち,房室ブロックが最も臨床的頻度が多く,一般に心ブロックといえば,房室ブロックを指すことが多い1).本稿では,誌面の関係で房室ブロックのみに限定して,その分類と治療について述べることにする.

洞不全症候群

著者: 山口巖 ,   前田裕史

ページ範囲:P.1034 - P.1037

 洞不全症候群(あるいは病的洞結節症候群,sicksinus syndrome;SSS)は洞結節の刺激生成異常,洞房伝導時間,さらに刺激伝導系全体の機能低下に起因する徐脈による臨床症状を慢性的に有する症候群をいう.SSSは全ペースメーカー植え込み例の6.3〜24%を占めており,洞結節機能評価の目的はペースメーカーの適応の決定にある.

WPW症候群

著者: 伊東祐信 ,   衛藤由香里 ,   桑原寛

ページ範囲:P.1038 - P.1040

 WPW症候群はすでに1930年Wolff, Parkinson, Whiteにより“健康な若年者において短いPR間隔を伴った脚ブロックで発作性心頻拍になりやすいもの”として11例について詳細に報告された1).すなわち,心臓の洞結節からの興奮が心房を通って心室へ伝わるさい,正常の房室結節-ヒス・プルキンエ伝導系のみの場合よりも早く心室の一部,または全部を興奮させるもの(心室早期興奮,ventricular pre-excitation)をいうが,典型的には心電図上次の4つの特徴がある.
 1)P-R間隔の短縮
 2)デルタ波の出現
 3)異常QRS波(幅広い0.12秒以上のQRS波)
 4)ST-T部の変化
 このような心電図異常があるだけで頻拍性不整脈を伴わない場合には,単に“WPW心電図”と呼んで,“WPW症候群”と区別することもある2)

心筋梗塞の不整脈

著者: 桑子賢司

ページ範囲:P.1042 - P.1043

 急性心筋梗塞の急性期には,ほぼ全例に何らかの不整脈が見られる.しかし,患者をCCUに収容し心電図モニターをするようになってからは,不整脈死は著明に減少した.
 心室細動や高度房室ブロックなどは直ちに死に結びつくので,もちろん素早い治療が必要である.死に直接結びつかないその他の不整脈でも,徐脈性のものは心拍出量を低下させて血行動態を悪化させるし,頻脈性のものは酸素消費量の増加と,やはり心拍出量の低下をきたすので適切な治療が必要である.

ペースメーカー不全

著者: 横山正義

ページ範囲:P.1045 - P.1047

 ペースメーカーの植え込み症例は,わが国で年間1万5千個といわれ,植え込み施設は1,500カ所を越えている.病院のみならず小さな有床診療所でもペースメーカー治療が行われるようになった.ペースメーカー不全について最も頻度の多い項目について概説する.

手術で治る不整脈

著者: 三崎拓郎 ,   岩喬

ページ範囲:P.1048 - P.1049

 手術で治る不整脈として最初に登場したのがWPW症候群である.1968年Sealyら,1969年岩ら1)は心表面マッピングを用い副伝導路の部位診断を行い,手術により副伝導路を切断し頻拍の根治に成功した.その後,WPW症候群で得られた知識が応用されそれ以外の頻拍に対しても手術が行われるようになった.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・16

冠動脈に有意の狭窄を認めない心筋梗塞

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1052 - P.1054

●梗塞発症急性期に高度の狭窄を認めたが,第19 病日目の造影上,有意の狭窄を認めなかった例
 症例 48歳,男
 現病歴 朝起きて歯をみがいていたところ,胸部不快感が出現し,冷汗を伴っていた.横になって安静にしていたが軽快しないので近医を受診し,心筋梗塞の診断により,救急車にて当院へ入院した.

Oncology Round・10

腎結石でマスクされた早期尿管癌

著者: 新井栄一 ,   楠山弘之 ,   伊藤浩紀 ,   片山勲

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 早期尿管癌の症例を紹介する.血尿を主訴としたが,腎結石を合併していたため,その存在はマスクされていた.初回の検査では診断に至らなかったものの,癌痛出現のため連続して提出された尿細胞診に,境界領域の細胞(クラスIII)が反復して出現し,移行上皮癌が疑われた.そこで,再度行われた排泄性腎盂造影により尿管癌と診断され,右腎・尿管摘出術が施行された.早期の移行上皮癌であり,予後は良好と考えられる.

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

僧帽弁輪および大動脈弁輪石灰化を合併した肥大型心筋症の1例

著者: 大木崇 ,   福田信夫 ,   小川聡 ,   細井憲三 ,   影治好美 ,   吉本和代

ページ範囲:P.1062 - P.1070

 症例 70歳,男性
 主訴 意識消失
 既往歴・家族歴 特記すべきことなし
 現病歴 昭和60年11月頃より時々胸内苦悶を訴えていたが放置していた.昭和62年9月歩行時に突然めまいを生じ,その直後意識消失をきたした.救急車にて近医に運ばれ,心電図で完全房室ブロックを指摘された.12月23日ペースメーカー植え込み術(DDD type)を施行し,その後経過は良好であるが,現在の病態把握のために当科を紹介される.
 現症 体格中等度,脈拍70/分整,血圧144/70mmHg.左第5肋間鎖骨中線のやや外側に抬起性心尖拍動を触れた.聴診では,II音の奇異性分裂に加えて,心尖部から心基部にかけてLevine1〜2/6度の駆出性収縮期雑音,第4肋間胸骨左縁にLevine 1/6度の灌水様拡張期雑音を聴取した.肝腫大および下腿浮腫は認めなかった.

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・23(最終回)

精神的ストレスと心・血管系疾患

著者: 小川剛 ,   牛山和憲

ページ範囲:P.1072 - P.1079

 従来より精神的ストレスは狭心症症状,虚血性心電図変化,ならびに不整脈を招来することが知られており,精神的ストレスは運動負荷と同様に重要な意義を持つとされている1〜4).さらに,近年虚血性心疾患患者においては一過性,かつ無痛性心筋虚血が日常生活内で高頻度に発生し,その出現機序として精神的活動あるいは精神的ストレスが関与することが示唆されている2,5)
 本稿においては精神的ストレスの,とくにその急性効果の各種心・血管系疾患に及ぼす影響について述べる.

循環器疾患診療メモ

循環系薬剤の副作用—症候別分類

著者: 山科章 ,   高尾信廣

ページ範囲:P.1080 - P.1082

 すべての薬剤には副作用があるが,循環系薬剤も例外でなく,多種多彩な副作用がみられる.作用機序からして循環系の副作用がみられるのは当然であるが,それ以外のまったく関係のない副作用も見られ,つい副作用と認識されず重篤になったり,あるいはその副作用に対して新たな薬剤が投与され泥沼化することもあり,副作用に関して十分な知識を持つ必要がある.
 本稿では循環系薬剤の副作用につき,症状,症候を中心に分類し,治療中に出現する副作用を見たときの手引とした.なお降圧剤による低血圧などの循環系薬剤の直接作用による副作用については省略した.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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