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雑誌目次

雑誌文献

medicina27巻8号

1990年08月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のための小児診療のコツ

理解のための10題

ページ範囲:P.1416 - P.1418

小児診療のコツ

病歴のとり方

著者: 加藤裕久

ページ範囲:P.1280 - P.1282

●問診は医師と患者の最初の出会い—暖かい人間的な場をつくる
 病歴を含めた問診は医師と患者が出会って,まず最初に行われるものである.問診は診断や患者の問題点の分析のための情報集めと同時に,もうひとつの重要な役割をもっている.それはこの場が医師と患者,家族との出会いの場であるからである.それは人と人との出会いであり,人間的なものでなければならない.暖かい,思いやりのある出会いの場を作ることは医師と患者の良いコミュニケーションを作るうえで重要なことである.
 患者は身体的,心理的な苦しみ,不安,悩みを持って病院を訪れる.初めて病院を訪れる時はとくにそうである.さらに先生はやさしい良い先生だろうか,痛い検査や注射をされないだろうかなどの心配もそれに加わる.ある意味では正常の心理状態ではないともいえる.そのために医師と患者の出会いは普通の人の出会いより,より暖かく,思いやりに包まれたものでなければならない.

子ども,そして親への近づき方のコツ

著者: 近江恵子

ページ範囲:P.1284 - P.1285

 小児科の診療は,一般に,短時間のうちに,かなりの人数の患者およびその親との対話で行われることになる.患者本人の申し立て,訴えを直接聞くことの多い内科と異なり,小児科の場合にはは病気の経過,病状の説明は,主として附添いである親から聞きとりながら,同時に患者である子どもの様子を眺めて,考えるべき病気を頭の中で組立てるという,二段構えの姿勢が要求されているのである.
 的確な診断と望ましい対応がスムーズに行われるためには,患者である子どもと,その状況を伝える親に対して,いかに近づくか,そして,よい情報を入手するかということが,小児科医あるいは小児を診る医師にとっては重要なことになるのである.そこで,このテーマが登場してくるのである.

新生児診察法

著者: 星順 ,   仁志田博司

ページ範囲:P.1286 - P.1289

 新生児期は胎外生活への適応の時期であり,新生児の診察は疾患がその適応を妨げていないかスクリーニングすることが一番の目的である.新生児の疾患は罹患時期という点から,奇形や代謝異常などの先天性疾患,新生児仮死に代表される周産期の異常による疾患,水平感染などの出生後の原因による疾患に分けられる.そのため母体歴(糖尿病,心疾患,投与薬剤,他),妊娠歴(妊娠中毒症,胎児発育,他),分娩歴(前期破水,胎児仮死,新生児仮死,他)といった一般の問診にあたる出生前後の情報聴取がきわめて大切である.

乳幼児診察法

著者: 川戸英彦

ページ範囲:P.1290 - P.1293

 内科医といえども乳幼児の診療にあたらざるを得ないことは少なくない.一方,外来で乳幼児の急性疾患を系統的に診察し,的確な臨床診断を下し,臨床検査にて確診に至り,さらに必要にして十分な治療を行うことは容易ではない.筆者自身,小児医療に従事して30年余を閲するが,乳幼児急性疾患に対して必要かつ十分な外来診療を行っているとの自信はない.
 乳幼児急性疾患の外来診療が難しい理由には以下のような点があげられる.

臨床検査の選択のコツ

著者: 月本一郎

ページ範囲:P.1294 - P.1295

 ほとんどすべての病気の診断は,日常行われている詳細な問診と診察所見から決定されるものである.しかしながら,臨床検査がしばしば病気の診断に決定的な支持を与えるために,私たちは必要以上に検査結果にたよる傾向がある.医学書の疾病の項目を見てみても,検査の部分が過剰に取り扱われている傾向にある.病院の中央検査室や一般診療所への検査センターの出張サービスは,多くの検査項目の結果を早急に検査伝票のチェックのみで報告してくれる.
 一般には多くの無用,無目的,無評価の検査が行われ過ぎていると思われる.検査は小児患者に苦痛と恐怖感を与え,侵襲による危険を伴い,親の経済的負担および医療費を高騰させるものである.検査は,これらを上回る効果がある時のみに実施すべきである.

臨床検査値解釈のコツ—小児の正常値

著者: 戸谷誠之

ページ範囲:P.1296 - P.1298

 小児の臨床検査値の解釈にあたっても,検査値解釈上の注意点として,検査手技,検査精度,検体採取と保存条件など,成人検体による場合と同様に共通する問題がある.本稿では,これらのすべてに触れることは誌面の制約から困難であるので,とくに代表的なことについて実例を交えて概説する.
 検査値解釈上の要点の第一は,1)正常値(臨床参考値)の年齢推移,2)検査値の病態変動像,3)検査法の特殊性,などで小児を対象とした検査値の解釈が成人における場合と異なる点がある.これらの差異がある理由として次の事柄が挙げられる.小児は,1)発育過程にあり,個体間の格差が大きい,2)病態の変化が速い,3)項目(生体成分)によっては小児独特の生理変化を示す,4)年少児では検体確保が困難である,5)キット試薬や測定機器が小児検体用になっていない.

採血・注射法のコツ

著者: 田村正徳

ページ範囲:P.1300 - P.1301

●採血・静注にあたっての注意点
 小児の採血・静注にあたっては以下の点に留意すべきである.
 1)体格が小さいのに比例して血管が細い したがって静注や点滴時には,血管の大きさに見合った針,翼状針(21G〜27G)を使用し,静注速度もゆっくり行う必要がある.小学生以下の児で点滴を施行する場合は,原則的には微量点滴セットを使用したほうがよい.しかし,採血の場合は,針が細いと溶血や血液凝固を起こしやすいので,静脈採血では21Gか22G,動脈血では23G〜25G針が適切なサイズとなる.

処方と薬用量決定

著者: 藤田昌宏

ページ範囲:P.1302 - P.1303

●処方および投薬計画
 小児の医療において薬物療法のもつ意味は複雑である.診断(または症候の組み合わせ)なる類型化に続いて,投薬という意志決定が行われるが,それは再び個々の患者へ個別化する過程であることをまず銘記する(図).
 処方するか否かの検討が重要で,投薬がもたらす目的効果と既知の有害効果(心理・経済・生態学的効果なども含む)を検討すべきである(cost-benefit).小児においては副作用のみならず,目的作用すら成人とは異なっている可能性がある.

主な症状・疾患の診療の要点

発熱

著者: 富樫武弘

ページ範囲:P.1304 - P.1307

●高体温の病態生理
 体温が異常に上昇している状態を高体温というが,これはうつ熱と発熱とに分けられる.前者は放熱量を越えて熱発生が増加した状態,後者は体温調節レベルが高温側にずれた状態ということができる.
 体温の調節は体温調節中枢がこれを行うが,間脳の視床前野,前視床下部に存在し,インターロイキン1(IL-1)自身あるいはIL-1により誘起されたプロスタグランディンE(PGE)が作用して,末梢骨格筋,皮膚,血管に対して,調節指令が出され,ある一定レベルまでの体温の上昇,下降が行われる.皮膚血管収縮によって熱放射が減少し,立毛筋収縮および骨格筋攣縮によって(体温調節行動)熱発生が起こり,高体温がセットされる.
 発熱の原因が除去されると,皮膚血管の拡張と発汗によって熱放散が増大して体温が低下する.

嘔吐

著者: 前田正人 ,   山城雄一郎

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 日常の小児診療において嘔吐はしばしばみられる症状であるが,その原因となる疾患は多種多様であり,治療を要しないような生理的嘔吐と考えられるものから,内科的あるいは外科的に緊急な処置を必要とするものまである.嘔吐を主症状とする小児の診療にあたってはは年齢によって嘔吐の成因に特徴があるのを知ること,嘔吐の特徴および吐物の性状について詳細に観察することが重要であり,これらのことが適切な治療につながる1).以上より,本稿では患児の年齢に従って嘔吐をきたす疾患の診療の要点について述べる.

下痢・便秘

著者: 小林昭夫

ページ範囲:P.1310 - P.1313

I.下痢
 下痢は小児科臨床でもっとも多い症状のひとつである.下痢の患児が来院した場合,まず急性下痢か長びいている下痢かを区別する.

腹痛

著者: 今野多助

ページ範囲:P.1314 - P.1317

 小児での腹痛の訴えはきわめて日常的なことである.それをできるかぎり正しく評価することが大切である.多くの場合は機能的あるいは心因性といえるもので,器質的病変を伴うことは少ない.しかし,外科的治療対象となるいわゆる急性腹症は稀でないので,診断上,注意しなければならない.また,腹部臓器疾患のみならず,急性上気道炎,肺炎,中耳炎,髄膜炎などの場合も腹痛を主訴とすることがあるので留意が必要である.
 言葉のできない乳児や自覚症状を正しく表現できない幼児の場合には,両親などの養育にあたる人を代弁者とするので,腹痛の性状は必ずしも正しく把握できない.しばしば介添者や周囲の人々の主観が加わって伝えられるので,信頼し難いことがあるので注意を要する.また,痛みの感受性や表現には個人差が大きいことを念頭に置く必要がある.

食欲不振・過食

著者: 熊田聡子 ,   岡庭真理子

ページ範囲:P.1318 - P.1320

●食欲不振
 食欲不振は多様な器質的疾患に伴うが,小児特有の精神的要因によるものも多い.また,成長の各時期に応じた原因があるので,年齢を考慮して診断をすすめていく.表1に各年齢層における食欲不振の原因を挙げる.

黄疸

著者: 住山景一郎 ,   小池通夫

ページ範囲:P.1321 - P.1323

 肉眼的にはっきり黄疸といえるのは,成人・年長児は総ビリルビン(以下,ビと略)3mg/dl以上,新生児4〜5mg/dl以上である.原因も年長児がウィルソン病など一部を除き成人と違わないのに比べ,新生児・乳児では多彩である.

発育不良・やせ

著者: 新美仁男

ページ範囲:P.1324 - P.1325

 発育不良は,乳幼児期に体重増加が悪いときなどをいい,やせとは外見上の体型についての観察であって,標準より体重が少ない状態をいっている.しかし,この両者はほぼ同様な病態を指していることが多い.

肥満

著者: 山崎公恵 ,   村田光範

ページ範囲:P.1326 - P.1327

 肥満および肥満が原因となる医学的異常の多くが動脈硬化性疾患のリスクファクターとして重視されているが,これら肥満との関連が深い異常のなかで,従来成人特有の疾患とされてきた高血圧症,インスリン非依存型糖尿病,高脂血症などが小児期にすでに認められることが判明し,「小児成人病」という言葉が広く用いられるようになってきた.これらの異常は,正常の体型の小児と比較して肥満児にとくに高頻度に認められることから,小児肥満に多くの関心が寄せられている.
 本稿では,小児における肥満の判定基準,肥満が小児の心身の健康に及ぼす影響とその診断および治療について述べてみたい.

低身長・高身長

著者: 大関武彦

ページ範囲:P.1328 - P.1331

●低身長
 小児では,多くの病的状態により成長への影響が出現することが,大きな特徴のひとつである.身長発育の異常の原因として,内分泌疾患が重要なものであることがよく知られているが,それ以外の多くの疾患が,身長増加へ影響を及ぼす.それとともに,人種,家系などの素因も,最終身長,成長のパターンに関連し,時代的変化が存在することもよく知られている.
 本稿ではは小児の低身長と,その判定法の要点を記す.

学校不適応・登校拒否

著者: 近江一彦

ページ範囲:P.1332 - P.1333

●登校拒否が増えている
 登校拒否は,学校を休んでいるもので,精神障害によるもの,怠けによるもの,一過性のもの,学校に対する明確な拒否によるものを除いたものと定義される.毎年の文部省の統計によると,一時横這いだった登校拒否者が小・中学校とも最近急速に増えだしている.中学では,1校平均2.7人が登校拒否しており,長欠者の過半数になっている.

知能障害

著者: 大塚親哉

ページ範囲:P.1334 - P.1335

 知能はヒトが環境に適応するときに必要となる認知力のすべてであるといわれる1).したがって,その障害1は知的に環境へ適応する能力を低下させ,日常生活の自立や学習を困難にさせる.
 アメリカ精神医学会発行のDSM-III-R(Diagnosticand Statistical Manual of Mental Disorders, ThirdEdition, Revised.)2)は精神疾患の分類と診断基準として,広く世界的に利用されている.その中には知能障害という項は認められず,発達障害の中に精神遅滞として記載されているものが知能障害に当たるものであろう.

夜尿

著者: 三好邦雄

ページ範囲:P.1336 - P.1337

 夜尿症は,ポピュラーな疾患である.下限の年齢は4〜5歳に置くことが多い.小学校低学年の年齢で,5%程度に夜尿があると考えられる.患児の約20%は,昼間遺尿を合併するか,あるいは昼間遺尿の既往がある.
 夜尿の自然治癒率は高い.1年経過するうちに,15〜30%が治癒すると報告されている.しかし,成人にまで持ち越す例もあり,あるいは成人になってから発症する例も見られる.

けいれん

著者: 飯沼一宇

ページ範囲:P.1338 - P.1340

 けいれんは小児においては非常によくみられる症状である.小児科医ならずとも,医師は必ずけいれんに遭遇しているといっても過言ではあるまい.まず,けいれん様症状がどのようなものに属するかということを考える必要がある.間代性けいれんと,振せん,悪寒などとの鑑別が問題となるが,間代性けいれんの場合は,急速相と緩速相が交互に起こる点が特徴的である.
 本稿では乳幼児期からそれぞれの年代に応じて,けいれんないしけいれん様症状を呈する各種の疾患に対して,その主な鑑別点,具体的な留意点および治療について述べたい.

意識障害

著者: 二瓶健次

ページ範囲:P.1342 - P.1344

 小児は意識障害に陥りやすく,その原因もさまざまである.意識障害の患者を診療するにあたり,もっとも重要なことは意識障害の原因を知ることである.原因により,その対処の仕方,治療法が異なるし,当然,予後も違ってくる.意識障害に対する緊急的な対症療法はもちろん重要であるが,原因に即した治療を行わないと,なかなか意識障害は改善しないことが多い.

頭痛・めまい

著者: 関亨

ページ範囲:P.1346 - P.1347

●頭痛
 頭痛の主な成因を急性,慢性再発性に分けて表1に示した.鑑別の要点は以下のように要約される.

チアノーゼ

著者: 保崎純郎

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 チアノーゼは皮膚および粘膜がびまん性の青紫色の色調を呈することである.小児でチアノーゼがみられる代表的な疾患は先天性心疾患と呼吸器疾患で,稀は神経疾患でもみられる.
 チアノーゼは毛細血管や細静脈の発達している口唇,頬,耳,鼻の先端,四肢の先端などで認めやすい.そして,血液中の還元ヘモグロビンが5.0g/dl以上場合にチアノーゼはみられるので,貧血を伴うとチノーゼはわかりにくくなる.

不整脈

著者: 柳川幸重

ページ範囲:P.1350 - P.1352

 小児の不整脈は,成人と異なり,とくに基礎疾患のないものが大部分であり,治療を要しないものが多い.基礎疾患の有無を調べて,問題がなければたんに経過観察すれば良いことがほとんどであるが,小児の不整脈としては珍しく緊急の治療を要する疾患から述べてみる.

呼吸困難

著者: 岩田力

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 呼吸困難(dyspnea)は本来主観的な症状を表す言葉であり,したがってみずから表現ができない乳幼児や年齢の低い小児ではdyspneaという用語はおそらく適切ではなく,呼吸窮迫(respiratory distress)という用語のほうがよいという意見1)もあるが,ここでは以下に述べるような徴候を示すときに呼吸困難があるものと判断して,より一般的に呼吸困難の存在を疑うべき疾患群を挙げて,それらへのアプローチおよび対処の仕方を考えていきたい.

喘鳴・咳

著者: 海老澤元宏 ,   飯倉洋治

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 小児は,診療していくうえで成人とはさまざまな点で異なる.第一に,患者が自分で症状を的確に表現できず,母親からできる限りの情報を得なくてはならぬということである.つぎに,大人の想像もつかぬ行動をとることがあり,「灯油や漂白剤を飲んでしまう」とか「おもちゃや画鋲を口にいれてしまう」ことなどが,小児科領域では「咳,喘鳴」に結びつくことがある.また,小児の気道は解剖学的に成人と非常に異なっていることを認識しておくべきである.
 この3点は,小児科領域の喘鳴・咳という症状を診ていくうえで非常に大切なことである.

リンパ節腫脹

著者: 別所文雄

ページ範囲:P.1358 - P.1359

●はじめに—小児とリンパ節
 小児期には著しいリンパ系の発達がみられる.乳児の胸部X線単純写真で,前上縦隔の大きな胸腺が異常腫瘤陰影と間違われることも稀でないし,扁桃もしばしば咽頭が見えないほど巨大である.リンパ節も同様で,まったく正常と思われる小児でも全身各所のリンパ節をよく触知し,後頭部の毛髪の生え際に沿って触知するリンパ節に気が付いた母親が,この「クリクリ」はなんでしょうかと心配そうに尋ねてくることも稀でない.さらにこれらのリンパ節は,湿疹やウイルス感染など日常しばしばみられる軽微な疾患により容易に大きさを増す.小児期の一定の時期にこれらのリンパ組織が明瞭でない場合にはむしろ免疫不全を疑う必要があるほどである.

腫瘍・腫瘤

著者: 櫻井實

ページ範囲:P.1360 - P.1361

 小児の悪性腫瘍は成人と病型を異にしており,それを認識のうえで診察を行う.
 小児の悪性腫瘍のうち約45%が急性白血病で,その白血病のうち80〜85%は急性リンパ性白血病である.他の60%位は固型腫瘍であるが,成人に見られる腺癌,上皮癌はほとんどなく,大半はいわゆる“胎児性癌”と呼ばれるもので,発生年齢や病理組織像からみると,胎児期由来の腫瘤であることが考えられる.固型腫瘍の主たるものは,頻度からみると,脳腫瘍(良性の腫瘍も含む)が11〜12%,神経芽腫10%,リンパ腫7%,Wilms腫瘍,網膜芽腫がそれぞれ5%と続いているが,他は比較的稀である.

貧血

著者: 宮崎澄雄

ページ範囲:P.1362 - P.1363

 小児の貧血はまず顔面蒼白で気付かれることが多い.仮性貧血といって,血液学的には貧血を認めないが,蒼白い子といわれる子供達は少なくない.その多くは自律神経失調症とか起立性調節障害と呼ばれている.
 ここでは血液学的な貧血について,小児の特徴を述べる.貧血の定義は年齢的あるいは性差によりWHOが表のように定義している.

出血傾向・紫斑

著者: 絹巻宏

ページ範囲:P.1364 - P.1366

 小児で鼻出血や紫斑など出血傾向を疑わせる症状をみることは稀でない.たんなる外傷性のものから重篤な出血傾向に基づくものまで,その原因はさまざまである.本稿では,内科医の外来診療を念頭におき,その取り扱いの要点を述べる.新生児疾患は除いた.

感染の反復

著者: 河野三郎

ページ範囲:P.1368 - P.1370

●反復感染の原因を考える
 感染を起こす頻度が異常に多く,感染が重症になったり,通常では起こらないような異常症状が出現し,経過が遷延し難治性であり,感染はどの部位にも起こりうるが,とくに外部と接する皮膚とこれに続く粘膜,内臓では呼吸器系,消化器系,尿路系に多く,感染巣が限局されず,拡大すれば,髄膜炎や敗血症も起こる,などが特徴である.
 感染防御に機能する免疫系(広義)に欠陥が存在するとき,すなわち白血球の質的・量的異常,Tリンパ球の異常,体液中の免疫グロブリン(体液免疫)の異常,補体系の異常などにより感染を反復する先天性免疫不全症候群による場合の他,癌,白血病,栄養障害,感染など,種々な疾患の経過中,後天性(続発性,二次性)に同様な病態が起こる場合も増加してきている.

関節痛・筋肉痛

著者: 藤川敏

ページ範囲:P.1372 - P.1373

●関節痛,筋肉痛を見たら
 小児が関節痛,筋肉痛を訴えることは比較的多い.まず第一に考慮しなければならないことは,外傷性か(両親が知らないこともある),非外傷性かを診断し,非外傷性であれば,炎症性か,膠原病性か,悪性腫瘍性であるかを常に念頭におきながら鑑別する必要がある.この際,年齢的な考慮も大切である.

浮腫・乏尿

著者: 村上睦美

ページ範囲:P.1374 - P.1375

I.浮腫
●発生機序
 1.局所性因子
 細胞間液と血管内液の間には常に毛細血管壁を通して水分の交流があり,これらに異常をきたした場合に組織内に水分の貯留が起こる.このような異常をきたす因子としてはは毛細血管静水圧の亢進,組織の膠質浸透圧の低下,毛細血管透過性の亢進,組織圧(組織間液の静水圧)の低下,リンパ液の阻止などがある.
 2、全身的因子
 局所性因子は直接的に浮腫の発生に関与しているが,全身性の強い浮腫が発生するためには生体内に過剰な水分が存在することが条件になる.このような状態をきたす因子としてはは糸球体尿細管平衡,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系,抗利尿ホルモン,腎内血行動態などの異常がある.その他,近年心房性利尿ホルモンなどの関与する浮腫の存在も考慮されている.

発疹・湿疹

著者: 向山徳子

ページ範囲:P.1376 - P.1377

 小児の日常の診療で発疹症に遭遇することはきわめて多い.しかし,その正確な診断は困難なことが少なくない.発疹をきたす疾患は表のように数多く,ほとんどあらゆる疾患の経過中に発疹が生ずるということを念頭におかなければならない.
 発疹症の多くは特別の処置を必要としないことが多いが,川崎病のように全身状態が問題になるものや,アトピー性皮膚炎,薬疹など,アレルギー性の発疹も多く,これらを総合的に診断する眼をもつ必要がある.

チック・心因反応

著者: 赤坂徹

ページ範囲:P.1378 - P.1381

●分類
 チック(ticまたはhabit spasms)とは,不随意的,突発的,急速・反復性,非律動的,常同的な運動または発声をいう1)
 DSM-III-R精神障害の分類と診断の手引によると,その症状から運動性チックと音声チックに分け,経過から一過性,慢性に分類される(表1).また,汚言を伴う特異な不随意運動疾患はGuillesde la Touretteによってトレッテ症候群として1885年に発表された2).いずれも21歳以下の発症で,小児期に特有の疾患であると考えられる.

言語障害

著者: 加我牧子

ページ範囲:P.1382 - P.1385

 小児の言語に関する主訴の特徴は「言葉が遅い」との訴えが圧倒的に多いことである.この原因としては,1)聴力障害,2)精神発達遅滞,3)原因のはっきりしない話し言葉のみの遅れ,4)自閉症,5)いわゆる“微細脳機能障害”,6)脳性麻痺,7)環境性などがある.この他,「発音が悪い」,「言葉が出なくなった」などの訴えがあり,成人と同様に後天性に失語症も起こりうる.しかしその病像は小児の年齢,発達段階に左右される.
 言語障害を主訴に来院した子供は他の病気と同じように,直ちにあるいは機会を見て小児科医,専門医に紹介すべき子供と,家族に適切な取り扱い方を指示して,経過観察してよい子供とを見分けることが必要になる(表1).

外表奇形

著者: 木田盈四郎

ページ範囲:P.1386 - P.1389

 クリアリングハウス国際先天異常監視計画(Inter-national Clearinghouse for Birth Defects Monitor-ing System, ICBDMS)は,1974年に始まり,1986年には22カ国,年間300万人の出生児を対象に,先天異常の発生頻度を調査している全世界最大の調査機関である.本稿では,ここで取り扱っている11症状1疾患について解説し,合わせて発生頻度の基準値を提示する.わが国の発生頻度は日本母性保護医協会(日母)をあげた.

小児保健指導の要点

病児の生活指導

著者: 山中龍宏

ページ範囲:P.1390 - P.1391

 小児の各種疾患に対する検査法や治療法の進歩によって,近年治療成績は格段に向上し,慢性疾患患者として治療・経過観察されている子どもたちが増加している.医療におけるquality of lifeが重要視され,慢性疾患をもった子ども達に対しても,子どもが生活している場所(家庭や学校)を中心とした医療,またtotalcareを志向する傾向が強まりつつある.
 小児医療においては,まず子どもの年齢に応じた発育,発達を考慮する必要があり,さらに子どもをとりまいている環境や生活全般についての相談にのらなければならない.ここでは便宜的に,急性疾患と慢性疾患の患者の生活指導に分けて述べる.

育児相談

著者: 加藤忠明

ページ範囲:P.1392 - P.1395

 育児は,各々の親が皆,いろいろな哲学をもとに,また,さまざまな考え方に従って試行錯誤しながら行っているものである.したがって,育児に関して相談を求められた場合は,極力,親自身の考え方を尊重したい.しかし,医師は,現代の医学の知識に基づいてなんらかの助言はできることが多いので,一定の基本線はもっていたい.育児に関して心配ごとがあり,相談をもちかけられた場合は,自分の医学的知識や経験などをもとにしながら,親身になって相談にのり,必要な場合は他の専門家を紹介したり,個々の子どもに適した指導,助言を行うことが望まれる.

予防接種

著者: 井関幹郎

ページ範囲:P.1397 - P.1401

●予防接種全般に共通する事項
 1.予防接種は何歳から何歳まで行えるか?
 予防接種法では,接種を受ける年齢が定められている(図1).しかし,予防接種の本来の目的を考えれば,なるべく早期に接種を終えることが望まれる.
 細菌またはウイルスの感染防御抗原を抽出し,免疫原とする不活化ワクチン(図1)は,新生児から老人に至るどの年齢に接種しても,臨床の現場で問題とせねばならないほどの抗体産生の差や,副反応の差は見られない.しかし,生きた菌体またはウイルスを接種する生ワクチンは,弱毒化されているとはいうものの,菌体が体内で増殖し,その結果,被接種者が感染防御能を獲得するため,免疫力の低い新生児や免疫不全患者には,原則的に接種を控える.

学校保健

著者: 衛藤隆

ページ範囲:P.1402 - P.1405

 学校保健の歴史を振り返ると,古くは「活力検査」なる言葉が用いられ,明治30年には「学生・生徒身体検査規定」が訓令によって定められ,「身体検査」という用語がかなり長い間用いられた.上記の規定は同33年には省令となり,これと相前後して,学校医,環境衛生,学校伝染病予防などに関する基本的な施策が立てられ,次第に今日の学校保健の骨格ができあがっていった.昭和にはいると学校看護婦,学校歯科医等に関する訓令や勅令がだされ,これらの職が設置された.戦争色の濃くなった昭和16年には国民学校令により養護訓導の制度ができた.第二次世界大戦後は,占領軍,とくにアメリカの強い影響下で,それまでの学校衛生から医学的要素と教育的要素が強化された学校保健へと変貌した.昭和33年,学校保健法が制定され,学校における保健管理が法律的にも,また制度的にも確固たるものとなったといえる.

座談会

内科医のための小児診療のコツ

著者: 吉田尚義 ,   塙賢二 ,   福岡和子 ,   早川浩

ページ範囲:P.1406 - P.1414

 早川(司会) 今日は「内科医のための小児診療のコツ」というテーマで,内科医の吉田先生,小児科医の塙先生,福岡先生に,お話合いしていただこうと思います.
 小児科医もだんだん増え,小児科だけを標榜して開業している先生もだいぶ増えてきたとは思うのですが,全国的にみますと,まだ必ずしもそうではなく,やはり本来内科専攻の先生に小児のプライマリー診療の多くをお願いしなければならないのが実情ではないかと思います.したがって,そういう意味で,今回の特集は,内科の先生方にとって,大変役に立つのではないかと思います.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・18

CABG後,早期にみられる形態学的変化

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1422 - P.1424

●CABG後早期にグラフトを検索した例
 症例 69歳,男
 現病歴 1月9日,午後5時頃,突然胸痛が出現した.一晩中起坐呼吸の状態であり,翌日近医の往診を受け,救急車にて近くの病院へ入院した.肺水腫の状態であり,同時に第4肋間胸骨左縁に全収縮期雑音を聴取した.内科治療にても改善しないため,12日,当院へ転院した.入院後,大動脈内バルーンパンピングを施行したが,肺うっ血がさらに著明となり,冠動脈造影施行後,心室中隔穿孔閉鎖手術とバイパスグラフト手術を行った.術前からみられた腎不全状態は術後も改善せず,手術6日後に死亡した.

グラフ 非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

交互脈と左室機能不全を示した高血圧性心疾患の1例

著者: 福田信夫 ,   大木崇 ,   井内新 ,   谷本雅人 ,   藤本卓 ,   清重浩一

ページ範囲:P.1426 - P.1434

 症例 31歳,男性
 主訴 労作時呼吸困難,睡眠時無呼吸

検査

検査データをどう読むか

著者: 北林耐 ,   新居美都子 ,   江木晋三 ,   戸谷誠之

ページ範囲:P.1436 - P.1439

 小児科外来において,発熱を主訴として来院することはよくあることである.今回ここに呈示する症例は,「持続する発熱」を主訴として来院し,精査・加療を行った症例である.

呼吸器疾患診療メモ

ニューモシスチス・カリニ肺炎の臨床

著者: 宮城征四郎 ,   喜屋武幸男

ページ範囲:P.1440 - P.1442

 過去20数年,ニューモシスチス・カリニ肺炎(Pneumocystis carinii pneumonitis,以下PCP)は,免疫不全ないし免疫抑制患者における日和見呼吸器感染症の主な疾患として最もよく認識されてきた.その罹患頻度が最近,本邦においてもとみに増加しており,単に呼吸器専門家のみならず,一般臨床家にとってもきわめて重要な疾患として注目を浴びつつある.
 その理由のひとつに悪性疾患や臓器移植患者,あるいはSLEなどを中心とした膠原病患者などにおける副腎皮質ホルモン薬の大量投与や免疫抑制剤の使用,加えて最近,とくに耳目を集め始めた後天性免疫不全症候群(Acquired ImmuneDefficiency Syndrome;AIDS,以下エイズ)の本邦への上陸などが挙げられよう.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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