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雑誌目次

雑誌文献

medicina27巻9号

1990年09月発行

雑誌目次

今月の主題 ウイルス肝炎1990

〈Editorial〉ウイルス肝炎研究の進歩と診療の変遷

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1452 - P.1453

“I know they call me old fashioned, against progress, but it's good. You think old things are bad... Why do people collect antiques?”(George E. Burch Jr.,MACP, 1910-1986)
 医学は日進月歩である.ことに肝炎の研究は,ウイルス学の進歩などの結果,近年急速な発展を遂げた感がある.疾患の病態が解明され,新しい診断法や治療法が次々に登場するのは誠に結構なことではあるが,臨床医にとっては,ここに一つ困った問題が生じてしまった.それは,いかに努力して正しい知識を身につけていても,次から次へと新しい知見が登場してきては,せっかく得た知識がすぐに過去のものとなり,役立たなくなってしまうのではないかという不安である.肝炎研究に日夜没頭している専門家はともかくとして,広範な内科領域の診療を行わなければならない内科医にとって,肝炎に関する新しい知識を身につけるために許される時間は限られている.「進歩に追いつくために勉強する時間がない,勉強しないから自信がなくなる,自信がないからそのような患者はなるべく自分で診ずに専門家に任せよう,診ないからますますわからなくなる,わからないから勉強しなくなる」,というのが急速に進歩する医学分野における典型的な悪循環のパターンである.

日常診療での肝炎マネージメント

急性肝炎の早期診断

著者: 柴田久雄 ,   渋谷明隆

ページ範囲:P.1454 - P.1457

●急性肝炎の早期診断の重要性
 今日急性肝炎を起こすものとして,肝炎ウイルス(A型,B型,C型,D型,E型,その他)とそれ以外のウイルスとがある.
 急性のA型肝炎およびB型肝炎のほとんどは一過性であり,予後は良好であるが,急性C型肝炎,急性非A非B非C型肝炎は慢性化することが多く,その早期診断は予後の判定のため必要である.初期に激しい負荷がかかる(例えば手術,高温環境,過労など)と重症化するので早期に診断し,指導することも重要である.

慢性肝炎の外来診療—検査と治療の具体的スケジュール

著者: 金山正明

ページ範囲:P.1458 - P.1460

 慢性肝炎は肝小葉の門脈域,およびその周辺を中心に壊死炎症反応が持続し,次第に線維化が進展して小葉構造の改変が生じ肝硬変へ移行する可能性のある難治の疾患である.
 臨床的には長年月にわたって病変が持続するにもかかわらず自覚症状に乏しく,肝機能検査や肝生検像などの検査結果を手がかりに長期間の外来管理を続けなければならない.

慢性肝炎と鑑別が紛らわしい慢性肝疾患

著者: 山室渡

ページ範囲:P.1462 - P.1463

 慢性肝炎は6カ月以上持続する肝のグリソン鞘の炎症と定義されており,広義には表1に示す原因があげられる.日常の臨床において,肝機能異常を示し慢性に経過する症例について,安易に慢性肝炎という診断が下される傾向が見受けられるが,わが国で単に慢性肝炎といえば肝炎ウイルス性のものを意味する1).慢性肝炎と紛らわしい疾患には治療法が全く異なるものがあり,定石に従って診断を進め,似て非なるものを除外する必要がある.以下,慢性肝炎と類似する病像を呈する主な疾患の鑑別について述べる.

肝炎の検査:Minimum Requirement

著者: 池上文詔

ページ範囲:P.1464 - P.1465

 肝疾患では問診・身体所見および一般的検査に加えて,肝機能検査と画像診断所見に肝生検を基本とした形態学的検査の成績を総合して診断が確立する.
 この中で簡便に行える肝機能検査は,臨床検査の内で最も重要な位置を占める補助診断の一つであることに異論はない.しかし肝機能検査は必ずしも肝障害を特異的に反映しないものも含まれているので,多くの施設で多数の検査を組み合わせたセット検査が行われ,その成績について総合的な判断をしているのが現状である.

肝炎患者の専門医紹介のタイミング

著者: 鵜沼直雄

ページ範囲:P.1466 - P.1468

●専門医紹介のタイミングはなぜ必要なのか?
 急性肝炎の約1%は劇症肝炎となり数日から数週のうちに死亡する.生存率はなお20%台と低い.少しでも生存率を上げるためのさまざまな特殊治療は,専門医のいる病院において行われる.そこでは徹底した24時間体制による監視と,真夜中でも血漿交換の行える機敏性が必要とされる.治療のための診断の遅れは半日たりともあってはならない.そこで専門医へ紹介するタイミングが必要となるのである.

肝生検と肝炎マネージメント

著者: 賀古眞

ページ範囲:P.1470 - P.1472

 肝臓の針生検は1939年,Iversen & Roholmにより急性肝炎100例についての報告がなされて以来1),臨床検査法として広く活用されるようになり,現在では肝疾患の確定診断,病態の正確な把握,および治療方針の決定のため日常検査として行われている.とはいえ,観血的な検査であり,肝生検を施行するに当たっては十分にその必要性を理解し,また患者の了解を得てから行う必要がある.本項では主としてウイルス性肝炎患者の診断,および治療と肝生検の関係について簡単に述べる.

検診で見つかった肝機能異常者への対応

著者: 加藤誠一 ,   川崎寛中

ページ範囲:P.1474 - P.1475

 検診において発見される肝疾患としては通常,自覚症状を欠く比較的軽度の肝障害が多く,初回検診時診断ではアルコール性肝障害,慢性肝炎,脂肪肝,肝硬変の頻度が高い1).しかし,肝細胞癌や原発性胆汁性肝硬変などもみつかる可能性があり,検診は重要な意義を有している.参考までに筆者らが携わっている某企業の集検成績を表に示したが,アルコール性肝障害が圧倒的多数を占めている.
 検診での肝機能異常者は,図に揚げたシステムで血液学的検査や腹部超音波検査などの2次スクリーニングを行って診断を進めるが,現実には実行されていないことが多く,今後より効果的な検診システムが望まれる.

HBVキャリアとその周囲への対応

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.1476 - P.1477

 B型肝炎ウイルス(HBV)のキャリアの人にとって問題であるのは自分の肝臓がどうなっており,どうなるのか,他人へ感染させないだろうかということである.
 これらキャリアの人の悩みに十分に応えるにはHBVキャリアとはどんなことかということを一度よく説明する必要がある.しかし,このためにはは基本的なことから素人の人に話をするために,かなりの時間を要する.常々感じることは,よく知られた先生方を受診していた人でさえ,あまりよくキャリアということについて説明を受けていないなということである.

肝炎患者に対する正しい生活指導・食事指導

著者: 渡辺明治

ページ範囲:P.1478 - P.1480

 つい50年程前までは肝疾患には黄疸がみられるものとされ,低蛋白・高炭水化物・低脂肪食による食餌療法と臥床安静療法を中心に,「肝庇護」の名のもとに生活指導がなされてきた.その後,カタール性黄疸の時代から慢性ウイルス肝炎の抗ウイルス治療へと肝疾患の診療レベルも飛躍的に向上してきた.栄養障害を背景とするアルコール性肝硬変に対する高カロリー・高蛋白食1)が,物資の乏しい戦後のわが国の肝疾患(主としてウイルス性)にも適応され,それなりの効果をあげてきた.昭和40年前後から,高度経済成長を経て電化製品の普及や車社会の到来など生活様式が大きく,急速に変化し,今日,栄養過剰や運動不足の問題が深刻化するに至った.
 このような観点から,肝疾患といえば一律に行われてきた古き時代の生活指導は,今日,肝疾患の木目細かな病期・病態に応じた個別的指導と大きく様変わりしなければならなくなった.とくに,患者の生活の質(QOL)の向上を意識した指導でなければならない点が大切である.

そこが知りたいウイルス肝炎最近の知見

ウイルス肝炎A,B,C,D,E

著者: 矢野右人

ページ範囲:P.1482 - P.1486

 ウイルス肝炎の中で,わが国で最大の患者数をかかえる非A非B型肝炎の関連抗体がカイロン社より発表され,HCV抗体としてその測定が普及するようになった.これを機に,A型,B型,非A非B型肝炎と3者に分類されていたものが,すでに発見されているデルタ感染症をD型肝炎,インド,ミャンマーなどで流行する水系感染をE型肝炎とし,HA,HB,HC,HD,HEと分類されるようになってきた.この分類は,1989年頃より肝炎学者の間で使われ始め,今年になりほぼ一般化したとは言うものの,C型肝炎ウイルス,E型肝炎ウイルス自体は未だ確認されたものではない.D型肝炎は,他のウイルス肝炎と異なりB型肝炎に付随して感染成立するものであり,病態,感染形態など,これらを並列して良いものか否か,検討を要する.ここでは,現時点でのA型肝炎よりE型肝炎につき,ウイルスとその反応である臨床形態につき述べる.

B型肝炎関連検査とその臨床的意義

著者: 赤羽賢浩

ページ範囲:P.1488 - P.1490

 周知のように,B型肝炎に関する多くの知見はAustralia抗原の発見に始まり,主として免疫血清学的な測定法の確立により,徐々にではあるが確実にその集積がはかられてきた.しかし,近年の分子生物学の急速な進展は,長い間培養が困難であったB型肝炎ウイルス(HBV)のウイルス学的側面を一挙に解き明かし,B型肝炎の解明は飛躍的に進展し,その疾患の制圧さえ指呼の間に迫る勢いを示している.
 本稿では,HBVに関する免疫血清学的検査の最近の進歩の一部と,遺伝子工学的手法を応用して得られた最近の知見の一部について述べる.

C型肝炎の感染経路と診断

著者: 三田村圭二

ページ範囲:P.1492 - P.1494

 主として血液を介して伝播する非A非B型肝炎ウイルス(parenterally transmitted or bloodtransfusion-associated non A, non B hepatitisvirus:B・NANBV)の遺伝子が解明され,C型肝炎ウイルス(HCV)と命名することが提唱されている1).この遺伝子の一部の発現がなされ,発現蛋白(C-100抗原)に対する抗体(抗HCV抗体,抗C-100抗体)の検出2)が日常臨床で可能となっている.C型肝炎とははHCVが起因ウイルスで,現時点では,抗HCV抗体の検出により診断がなされている.
 ウイルス感染においては,感染性病原体の存在する感染源とその感受性者とのかかわり(伝播様式→感染経路)によって感染が成立する.HCV感染においては,HCV持続感染者(HCVキャリア)が存在し,主要な感染源である.

肝炎の新しい生化学的検査

著者: 岡部和彦 ,   加藤行雄

ページ範囲:P.1495 - P.1497

●急性ウイルス肝炎
 A,B,CおよびD型肝炎は各々のウイルス抗原・抗体の測定により確診される.従来A,B,非A非B型肝炎の生化学的検査成績については一定の見解が得られている.表1は筆者らの成績であるが,A型はB,非A・非Bに対しTTT,IgMおよびγ-GTPで有意に高値を示し,一方,非A・非BはA,B型に対しGPTで低値を示している.この際の非A・非B型はIgM型HA抗体(A型),HBs抗原・IgM型HBc抗体(B型),およびIgM型EBV抗体,CMV抗体陰性例であり,HC抗体測定例ではない.最近Atono Y1)らはA,B型肝炎でCRPが著明に高値を示し,回復過程で急速に低下・正常化するが,非A・非BではA型に対し有意に低値を示すことを認めている.

ウイルス肝炎と免疫学

著者: 森實敏夫

ページ範囲:P.1498 - P.1502

 ウイルス肝炎ではウイルスを体内から排除するために,ウイルスの構成成分を異物として認識する免疫反応が起きている.ウイルスは肝細胞内で増殖するため,これを完全に排除するためには,必然的に肝細胞の破壊を伴う反応がなければならない.したがって,肝炎ウイルスに対する免疫反応は肝炎という病態ではきわめて重要な役割を果たしている.本稿では紙数の関係で主にB型肝炎について述べる.

ウイルス肝炎とアルコール

著者: 戸塚慎一 ,   蓮村靖

ページ範囲:P.1504 - P.1505

 慢性肝疾患の成因には肝炎ウイルス,アルコール,自己免疫,薬剤,代謝異常などが挙げられるが,その多くは肝炎ウイルスとアルコールである.肝炎ウイルスに関してはB型肝炎ウイルス(以下,HBV)に加えて最近,非A非B型肝炎ウイルスの大部分を占めると考えられるC型肝炎ウイルス(以下,HCV)の血中マーカーの測定が可能になってきており,慢性ウイルス性肝疾患の成因はある程度明確にされうると期待される.一方,本邦におけるアルコール消費量の増加に伴いアルコール性肝障害の頻度も増加傾向にあり1),両者の関与が考えられる症例に遭遇する機会はおのずと増えているといえよう.本稿では,おもにウイルス肝炎に及ぼすアルコールの影響について最近の考え方を述べる.

STDとしてのウイルス肝炎

著者: 田中慧

ページ範囲:P.1506 - P.1508

 性行為および病気対応行為は人類保存の基本的行為であるが,その性様式また病気観には人種あるいは地域の,また時代の特色が反映していると考える.現時点で,ウイルス肝炎をわが国でSex-ually Transmitted Disease(STD)として位置づけることにいささか疑問を感じる.HBV carrierの少なくないわが国では,STDとの表現が一般社会に定着した場合,疾患概念の誤解を招き,HBV carrierを差別しかねない誤りを懸念するからである.
 近年,ウイルス肝炎の解明は分子生物学の進歩につれて急速に進展してきた.わが国での肝炎ウイルスの感染経路を中心に述べることとする.感染経路,感染率も20歳代前後で大きく変化している.また,ウイルス感染では感染成立,持続感染成立,また発病は臨床的には異なる現象としても理解すべきである.カイロン社が発表したC型肝炎抗体(C-100)1)による臨床データも含めて述べることとする.しかし,それのみでC型肝炎の確定は保留としておくべきであろう.

肝炎ウイルスと肝細胞癌

著者: 金子周一 ,   足立浩司 ,   鵜浦雅志 ,   小林健一

ページ範囲:P.1510 - P.1511

 肝細胞癌(肝癌)は,胃癌,肺癌についで頻度の高い癌であり,比較的若年から発症すること,また発症後の生存率が低いことから社会的にも大きな問題となっている.
 肝癌の発症に関与する因子としては,肝炎ウイルス,かび毒,喫煙などが重要視されているが,なかでもB型肝炎ウイルスと肝癌の密接な関係はは疫学1)だけでなく感染実験からも証明されている.また,C型肝炎ウイルスは1989年に報告された2)ばかりであるが,このウイルスが多くの肝癌症例に関与していることが明らかとなってきた.

臨床状況に応じたウイルス肝炎の予防

海外渡航者に対するウイルス肝炎の予防

著者: 森次保雄

ページ範囲:P.1512 - P.1513

 わが国の海外渡航者が最近激増し,昨年の出国者は1,000万人を越えたと報じられている.海外渡航者が増加すれば,国外における様々な感染症の罹患者が増加するのは当然であろう.ウイルス肝炎も例外ではないと考えられるが,残念ながらその実体は不明である.ここでは予測される事態に対応しやすいように,ウイルスの種類,感染経路などを解説し,一般的な予防対策を述べるにとどめた.

母子垂直感染の予防—HBウイルスを中心として

著者: 白木和夫

ページ範囲:P.1514 - P.1516

 肝炎ウイルスのうち,現在その母児感染が明らかで,感染防止措置が行われているのはB型肝炎のみで,C型肝炎に関しては母児感染が起こっていることは確実と考えられるものの,その疫学はまだ明確でなく,母児感染防止措置を講ずる段階に至っていない.

家庭内・職場内でのウイルス肝炎予防対策

著者: 宮島透 ,   小島秀男 ,   上村朝輝

ページ範囲:P.1518 - P.1520

 近年,A型肝炎およびB型肝炎についてはは各々の起因ウイルス,疫学,臨床像などが明らかにされ,さらにHCV抗体の測定系の確立によってC型肝炎の診断も可能となった.このような診断面における進歩に伴って,ウイルス肝炎の予防,および肝炎ウイルスの慢性感染に対する治療が重要視されている現状である.ここでは母児感染を除く家庭内および職場内におけるA型肝炎の予防と,B型および非A非B型肝炎(NANB型肝炎,主としてC型肝炎)のキャリアからの感染予防対策について述べる.

ウイルス肝炎の院内感染予防対策

著者: 小坂義種 ,   山舗昌由 ,   為田靱彦 ,   高瀬幸次郎 ,   近藤功

ページ範囲:P.1522 - P.1524

 病室内や医療行為の際に患者間,あるいは患者―医療従事者間で発生する病原微生物の感染は,院内感染(nosocomial infection,hospital infection)と呼ばれ,従来は不測の事故として放置されてきた.しかし,近年,病原体とその感染ルートの解明が可能となったことから,各医療機関においてはその予防対策が急務となってきている1).本学では1982年よりウイルス肝炎予防対策委員会を設置して積極的な対応を実施してきたが,1987年7月にHBVによる痛ましい汚染事故が発生したことは記憶に新しく,予防対策の重要性を改めて再認識させられた.本稿ではB型肝炎ウイルス(HBV)の院内感染予防対策を中心に述べるとともに,C型肝炎対策についても若干触れることとする.

医療従事者の感染事故への対応

著者: 小俣政男

ページ範囲:P.1526 - P.1528

 医療従事者が医療の現場において針刺し事故などにおいて肝炎ウイルス,あるいは海外においては実験中にAIDSウイルスに感染したという報告がある.本邦においてはAIDSウイルス感染者の数は未だ少ないので,本稿では肝炎ウイルス汚染事故の対応につき概説する.

輸血後肝炎をどのように予防するか

著者: 片山透

ページ範囲:P.1530 - P.1532

●現在までに行われた輸血後肝炎予防対策
 我が国における輸血は,第二次世界大戦直後までの「枕もと輸血」は別として,1951年以降のことである.そして間もなく血清肝炎の多発を招くこととなった.その頃の血清肝炎患者の中に,最近になって肝硬変,肝癌に進展して苦しんでいる人が数多い.
 その後,輸血後肝炎の予防法としては4つの対策が採られてきた.最初は,1964年に決められた献血推進,次は1972年からの献血に対するHBs抗原プレチェック,第3は昨年暮からのanti-HCVプレチェックであるが,同時に併せてanti-HBcも調べるようになった.

ウイルス肝炎の特殊治療

ウイルス肝炎に対する一般薬物療法の適応と限界

著者: 松嶋喬

ページ範囲:P.1534 - P.1536

 ウイルスに起因する慢性肝炎への治療体系は,今後,インターフェロン(IFN)をはじめとする,いわゆる抗ウイルス剤を第1選択薬として,これに一般薬物療法が併用されてゆくものと思われる.すなわち,IFNなどの抗ウイルス療法のみでは,ウイルス起因性の慢性肝疾患の鎮静化は不可能で,例えば抗ウイルス療法に抵抗する症例,または病態が存在することは日常経験することであり,また副作用のために抗ウイルス剤の使用量および対象疾患にも当然制限が加えられ,いわゆる一般薬物療法による治療が必要となる.本稿では,B型およびC型慢性肝炎に対する一般薬物療法の実際について,筆者らの経験した症例を提示しながら述べてみることにしたい.

B型肝炎に対する抗ウイルス療法

著者: 岩田滉一郎 ,   中尾國明 ,   四柳宏 ,   金井弘一

ページ範囲:P.1538 - P.1540

 B型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法にはウイルスに直接作用するものと,免疫系を介して抗ウイルス効果を示すものがあり,前者としてはInterferon(IFN),Ara-A,Ara-AMP,Acyclovirが,後者としてはステロイド(CS)離脱療法,Interleukin 2,OK 432,cianidanolなどがあげられる.現在実地に使用されているのは,そのうちでCS,IFN,および両者の併用である.適応はHBe抗原陽性のB型慢性肝炎であるが,そのなかでも,①感染してからの期間が比較的短い,②HBウイルス量が少ない(DNAP,HBVDNAが低値),③トランスアミナーゼが高値(200以上),④組織学的に活動性の強い症例に有効率が高いと考えられている.効果判定は血中HBe抗原の陰性化をもって有効とする(表1)I,II).

C型肝炎に対する抗ウイルス療法

著者: 中野善之 ,   清沢研道

ページ範囲:P.1542 - P.1544

 1989年,米国カイロン社のグループは,非A非B型肝炎ウイルスの遺伝子に対するcDNAをクローニングすることに成功し,さらにそのcDNAから発現させたpolypeptide(C100-3抗原)を用い,非A非B型肝炎ウイルスに関連する血清抗体の測定方法を開発した.この肝炎ウイルスはC型肝炎ウイルス(HCV),その血清抗体はHCV抗体と命名された.HCV抗体は非A非B型慢性肝炎の約80%に陽性となり,同肝炎の大部分がC型肝炎であることが明らかとなった.
 現在のところC型肝炎に対する確立された治療法はない.HCVの発見以前より非A非B型慢性肝炎はウイルス感染症と考えられていたことよりacyclovirや,B型肝炎と同様にcorticosteroidによる治療が試みられたことがあったが有効ではなかった.1986年,Hoofnagleら1)がrecom-binant interferonαによる治療の有効性を報告して以来,C型慢性肝炎に対してはインターフェロン(IFN)治療が有効な症例があることが報告されている2)

劇症肝炎の特殊療法

著者: 杉原潤一 ,   村上啓雄

ページ範囲:P.1546 - P.1549

 劇症肝炎は,急激かつ広範な肝細胞壊死あるいは高度な肝機能低下に基づいて,肝性昏睡を主徴とする肝不全症状が出現する肝炎である.本症の生存率は1987年度の全国集計1)でも16.2%と低く,肝移植をはじめさらに新しい治療法の開発・導入が望まれている.
 本症の治療にあたってはは肝炎の劇症化を予知し,速やかに予防対策を講ずることが肝要である.多臓器不全の病態を呈することから,常に全身状態の観察を行い,早期の治療対策が重要である2).したがって,本症の治療としてはは特殊療法とともに全身管理・合併症対策が基本となる.

劇症肝炎に対する肝移植の現況

著者: 永末直文

ページ範囲:P.1550 - P.1551

 人における肝移植は1963年3月,Starzlらによってコロラド大学で初めて施行された.ヨーロッパでは1968年,ケンブリッジ大学のCalneらによって第1例目の肝移植がなされている.1970年代は欧米のいくつかの限られた施設で,技術的あるいは免疫学的問題の解決のための死闘がなされた10年間といっても過言でない.1980年代に入るとcyclosporine Aの登場により肝移植の成績は飛躍的に向上し,今や肝移植を末期肝臓病の治療法として用いていない国は西側諸国では数少ない.1980年代前半にはいくつかの大学では本法を劇症肝炎の治療法として用い始めている.

肝炎患者の早期社会復帰

著者: 石田暉

ページ範囲:P.1552 - P.1554

 一般に肝炎をはじめとする肝臓疾患は自然治癒も多いが,一部慢性化する場合もあり,再発・再燃に対する不安から入院・療養が長期化し,社会復帰までの期間が長びくことが常識とされてきた.しかしながら,リハビリテーションの立場から,可及的早期で,安全な社会復帰を求める考え方は以前から存在していた1).とくに,比較的予後の良い肝炎(B型,NonA,NonBの一部を除く)に対し,安静期間の短縮のいくつかの試みがなされてきた.朝鮮戦争,ベトナム戦争の経験から病後における安静は必ずしも必要でないことが叫ばれ(Kricker & Zilberg,1966)2),Chalmersら3)は460名の兵士に対しコントロールスタディを行い,運動群と安静群の間に再発率,回復までに要する期間は差のないことを示した.さらに,急性期であってもビリルビンの値が正常であれぼ強い負荷も安全に行うことができると述べている.その後次々に運動負荷の安全性に関する論文が発表され,段階的運動負荷の安全性や肝生検における安静群との間に有意差のない事実が,運動負荷積極論者の根拠となっている.しかしこれらの対象になった被験者は,兵士を含め病前には比較的体力に恵まれたもの達で,結果をすぐさま一般人にあてはめることは慎重にならざるをえない.以上の変遷を踏まえ,早期社会復帰を目的に,安静期間を短縮する筆者らのリハビリテーションプログラムの紹介を兼ねて述べていきたいと思う.

理解のための10題

ページ範囲:P.1556 - P.1558

ウイルス肝炎 Q & A

慢性肝炎患者の入・退院のタイミングを教えて下さい./慢性ウイルス肝炎と脂肪肝は肝生検をしなくても鑑別できるか.

著者: 金山正明 ,   山室渡

ページ範囲:P.1460 - P.1460

 慢性肝炎患者が入院が必要な場合は,急性増悪時か,検査や特殊な治療のための入院のいずれかです.黄疸や極度の倦怠感など自覚症状が出現したり,それまで100〜150IU/L以下だったトランスアミナーゼが,急に300IU/L以上に上昇して2〜4週以上高値が続く場合は,入院治療が必要と考えられます.入院治療により自覚症状が消失し,トランスアミナーゼが100IU/L以下に下降し,2週間この程度の数値が続いたら退院とし,1〜2カ月は2週毎に外来で経過を観察します.


しなくても可能と考える。すなわち本号の筆者の稿でも述べたが,脂肪肝では検査成績でコリンエステラーゼ,ヘパプラスチン試験が高値を示し,高脂血症を伴うことが多い.さらに超音波検査にて,bright liver,深部エコーの減衰,肝腎コントラストの所見が得られれば脂肪肝の存在は確実といえる.しかし,慢性肝炎との合併例では肝病態の主体を知ることが困難なことがある.すなわち上記の特徴的な検査成績と画像診断の所見がある症例で,HBs抗原陽性例,HCV抗体陽性例,あるいはそのいずれもが陰性であっても,GOT, GPTの動揺が激しい,ZTT, IgG,γ-グロブリン値が高い場合である.治療法を選択するうえでも,このような症例では肝生検が必要と考える.

急性・慢性肝炎の患者を診てゆくとき,どの検査をどれぐらいの間隔で行うのが一般的ですか.

著者: 池上文詔

ページ範囲:P.1468 - P.1468

 急性HA・HB肝炎では,劇症化しない限り週1回,Bil, GoT, GPTと肝炎ウイルスマーカー位を測定すれば十分でしょう.急性HC肝炎は40%位が慢性化するといわれてます.肝機能はいったん正常化しても,動揺することが多いので,発症2カ月間は週1回,4カ月までは月2回,それ以後は月1回位で良いでしょう.HCV抗体が慢性化・予後と関連するとの報告もあり,経時的に観察すべきでしょう.
 慢性肝炎では1〜3カ月毎で十分でしょう.再燃,硬変化,発癌がポイントになりますので,GOT,GPT,ChE,アルブミン,蛋白分画,AFPは毎回採血すべきです.ICGは6〜12カ月,肝シンチグラムも年1回は施行すると良いでしょう.HBV,HCV陽性例は3〜6カ月毎に腹部超音波検査を行い,早期,小肝癌の発見に努めるべきでしょう.

慢性肝炎の患者は,食後30分〜1時間ぐらい横になって安静をとるべきと言われていますが,現実には難しくありませんか./病院職員がHBVキャリアであったら業務内容に注意が必要ですか.

著者: 渡辺明治 ,   飯野四郎

ページ範囲:P.1480 - P.1480

 横臥位になっての安静は必ずしも必要ではありません.肝血流量は横臥位から座位になるだけで低下しますので,肝血流量を維持しなければならないというのなら座ることすらできないことになります.食後30分くらい,食事をした場所かまたは席を移して仲間と話しをしたり,新聞や雑誌を読んだりして静かにしていればよいと思います.あくまで,食後すぐに動きまわらないという意味です.この程度のことなら,少し朝早く起きて出勤までの時間をゆっくり過ごすよう工夫すれば実行可能です.また,職場で昼食をとった後でも,環境に応じた休息の仕方を考え出してほしいと思います.
 ただ,食後の安静が必要なのは何も肝臓病の患者だからという理由では決してなく,健康な人でもこの良き習慣を守ることは大切だと思います.


 患者に接することがない事務職員の場合は当然のことながら,問題とはならない.
 患者と接する医師・看護婦などの職員の場合,まず第一に本人がHBVキャリアであることを自覚し,キャリアとして日常注意すべき事項(主として出血時の対応)を完全に履行できる場合には問題とはならない.第二に,HBe抗原陽性の場合にはは幼児とくに新生児に接することはできるだけ避けたほうがよいと思われる.これは接触によって感染が起こるというのではなく,万一,他の原因で感染が起きても,第一に感染源として疑いを持たれる可能性があるからである.

F型肝炎は存在するか.

著者: 矢野右人

ページ範囲:P.1486 - P.1486

 ウイルス肝炎がA型,B型,C型,D型,E型と分類され,次にくるF型肝炎があるか否かが議論されている.輸血後肝炎の残る10%,散発性肝炎の20%,つまり,散発性非A非B型肝炎の70%にこの問題が問いかけられる.非A非B型肝炎中HCV抗体陽性のC型とその他のもので,臨床的解析を行っても両者に差はみられない.このことより,臨床的形態はウイルス感染症としてもおかしくない.しかし,肝臓の異物に対する反応は,ウイルスもウイルス以外の原因も,同じものである可能性は否定できない.この分野にF型がないとは断定できないものの,もし,F型肝炎が存在しても,全肝疾患の5%にも満たないものであろう.臨床上,対応を迫られる肝炎としては,現時点で把握されるこれらの5型でほぼカバーされる頻度と考える.

HBe抗原からHBe抗体にseroconversionした後でも肝炎は進行しますか.

著者: 赤羽賢浩

ページ範囲:P.1490 - P.1491

 HBVキャリアではHBe抗原のseroconversionに伴いしばしば肝病変の一過性の増悪がみられ,HBe抗体期の成立とともに肝病変の非活動化,鎮静化が認められる.しかもHBe抗原の消失,HBe抗体の出現により循環血液中のウイルス量は極端に減少するのが一般的である.
 しかし,HBe抗体の出現にもかかわらず,ALTの異常が遷延する症例が稀ならず経験される.これらの症例の成立機序としてはδ因子(HDV)の重感染,HCVの重感染などの可能性もあるが,これらの症例の中にはHBe抗体陽性でありながらHBVの活発な増殖が持続する症例が存在するのは確実である.地中海地方や台湾の報告では,これらのHBe抗体陽性でありながら,HBV-DNAが検出されるB型慢性肝炎は重篤で進展する危険性がとくに高いことが強調されているが,最新の報告では,これらの症例ではHBV-DNAのpre-C領域の83番目の塩基がguanineからadenineに点変異をきたし,pre-C領域にコードされるべき29個のアミノ酸のうち28番目のコドンがstop codonとなり,HBe抗原の前駆蛋白が産生されないmutantが活発に増殖していることが明らかにされている.

散発性のC型肝炎とE型肝炎はどのように鑑別しますか.

著者: 三田村圭二

ページ範囲:P.1494 - P.1494

 C型肝炎ウイルス(HCV)は主として血液を介して伝播するが,散発性C型肝炎では感染経路が不明な例が多い.E型肝炎ウイルス(HEV)は糞便を介して経口感染する.C型肝炎は抗HCV抗体の対血清における陽転によって診断されるが,発症時あるいは急性期には必ずしも確定診断ができない.E型肝炎の診断法は近い将来可能になるであろうが,現時点では確定診断はできない.しかし,E型肝炎の発症は地域的に特徴があり,流行地が亜熱帯と熱帯地域であり,その疫学はかなり明らかである.
 発症時には,散発性C型肝炎とE型肝炎のわが国における鑑別診断は難しいであろう.E型肝炎の二次感染の可能性は低いので,問診によるE型肝炎の流行地域への旅行,滞在などの有無の情報が鑑別診断に役立つであろう.なければ,現在ではC型肝炎を想定してよいであろう.経過により抗HCV抗体が陽転すればC型肝炎と診断される.陽転しなければ,非A,B,C,E型肝炎となる.

非A非B型肝炎の母親から生まれる子供にはどのような予防法が必要か./A型肝炎ワクチンは開発されていますか.

著者: 白木和夫 ,   森次保雄

ページ範囲:P.1516 - P.1516

 非A非B型肝炎のうちC型肝炎については現在その垂直感染の疫学を検討中である.妊婦がChironのHCV抗体陽性の場合,生まれた児を追跡していると,しばしば肝機能障害が認められるが,多くは生後1年以内に正常化する.この場合HCV抗体は必ずしも陽性化しないが,一部の症例では陽性となり持続する.現在までのところ,C型肝炎ウイルスの垂直感染でB型肝炎と同様のキャリア化がどの程度起こっているか,また乳児の劇症肝炎の原因にどの程度関与しているかは明らかでないが,その可能性はかなりあると考えられる.
 現在のところC型肝炎ウイルス垂直感染の予防法はない.


 A型肝炎ワクチンは現在開発途上である.弱毒ワクチン2)と不活化ワクチン3)の2種類が開発研究されているが,わが国では細胞培養増殖ウイルスの精製不活化ワクチンが試作され4),現在第2相の臨床試験が進行中である.わが国のワクチンの実用化は2〜3年後と思われる.

配偶者が肝炎患者であったら,夫婦生活は制限を受けるか.

著者: 上村朝輝

ページ範囲:P.1520 - P.1520

 配偶者が急性肝炎であればA型,B型,NANB型肝炎(C型肝炎)のいずれにおいても夫婦生活は制限を受けるのは当然であろう.
 一方,配偶者がB型あるいはNANB(C)型肝炎のキャリアである場合を考えてみると,①配偶者がB型肝炎ウイルスキャリア,とくにHBe抗原陽性の場合1は感染性が強いので,配偶者がキャリアと判明した時点でHBs抗原・抗体の検索を行う.感染防御抗体であるHBs抗体が陽性であった場合は夫婦生活に制限は必要はない.抗原・抗体両者陰性の場合はHBVワクチンを接種し,HBs抗体を獲得するまではコンドームなど使用することで感染予防することが望ましい.

輸血後肝炎の原因ウイルスはC型だけですか.

著者: 片山透

ページ範囲:P.1532 - P.1532

 本誌で他の執筆者が書いておられるが,肝炎ウイルスとしては現在5種類が認められている.その中で,輸血あるいは血液を介して伝染するのは,B,C,Dの3種類である.
 ただし,肝機能異常を呈するウイルス疾患は他にもあるし,その中にはblood-borneの感染を起こすものもあるが,これらは鑑別診断として考慮しなければならないことはあっても,ウイルス肝炎とは言わない.

海外では肝炎に対してあまり薬が使われていないそうですが本当ですか.

著者: 松嶋喬

ページ範囲:P.1537 - P.1537

 欧米の慢性肝炎はCPHとCAHとに組織学的に分類され,CPHは進行性の経過をとらないため積極的治療は行わず,CAHが薬物療法の対象になっているようである.欧米のCAHの主因は自己免疫性でプレドニゾロン,アザチオプリンまたは両者の併用療法が行われている.また,B型慢性肝炎に対するインターフェロンα,β,Ara-A, Ara-AMP,Acyclovirなどの抗ウイルス療法,レバミゾール,インターフェロン-γ,トランスファーファクター,ステロイド離脱療法,シアニダノールなどの免疫増強または調整作用のある薬剤による治療は,有効率が必ずしも高くないことから,一般には使用されていないようである.ただし,欧米とわが国とではHBVの感染様式,キャリアの成立,肝炎の発症年齢などが同じではないので,B型慢性肝炎に対する治療成績の評価も同じ観点で論ずることはできないことを念頭におく必要があると思われる.

肝炎の抗ウイルス療法は外来でも安全に行えるか.

著者: 清沢研道

ページ範囲:P.1544 - P.1544

 IFNの副作用として多いものは,発熱,関節痛,筋肉痛,脱毛,白血球減少および血小板減少などである.これらの副作用の程度は投与量や投与方法によっても異なるが,白血球数,血小板数については肝硬変に近い症例で投与前より減少している場合を除けば通常問題にならないことが多い.発熱は個人差が大きく一般には一過性であるが38〜39℃になる症例もあるため,当科では最初の2週間程度の入院を原則とし,以後外来で治療を継続する方法を行っている.最近は最初から外来で治療を行う症例もあるが大きな問題はみられていない.多くの症例では外来でも安全にIFN療法を行えるものと思われる.IFN治療は長期に及ぶことが予想され,今後は自宅での自己注射療法も考えるべきであろう.

劇症肝炎の予後はどのように判定するのか.

著者: 杉原潤一

ページ範囲:P.1549 - P.1549

 ①年齢・性:一般に高齢になるほど予後が悪いが,性差はない.②成因:HAV, HBVやアセトアミノフェンによるものはNANBVや薬剤性のものより予後が良い.③臨床病型:全国集計によると,いずれの年でも亜急性型に比し急性型のほうが生存率が高い.④極期昏睡度:重症度を反映すると考えられ,やはり昏睡IV度以上に達する症例の予後は不良である.⑤血液生化学検査:脳症発現時において,死亡例では生存例に比し総ビリルビン値,血漿遊離芳香族アミノ酸(Tyr+Phe)濃度が高く,直接/総ビリルビン比,AFPが低い.生存例では血漿交換後の凝固因子は50%以上に改善を示すことが多い.⑥画像診断:死亡例では,腹部CTより求めた全肝CT総値が30lHU以下を示す.⑦負荷試験:肝予備能を知るためのグルカゴン負荷試験などは,予後の指標になる.⑧合併症:死亡例は心不全,腎障害,肺感染症,DICなどの合併症や,呼吸促迫,異常呼吸や低血圧が多くみられる.

なぜ日本では肝移植が立ち遅れているのですか.

著者: 永末直文

ページ範囲:P.1554 - P.1554

1)医師側の勇気と責任感,使命感が弱いこと.
2)リーダーシップを取って移植を進めようとする人,または集団がいないこと.
3)少数の反対意見のほうが重視されるという日本の民主主義の型があること.
4)弱い立場の患者さん側が強い要望を出さないこと.
5)弱い人,病める人に対する共感が弱い民族であること.
6)事実を直視できない日本人の弱さ.
7)日本人の論理性のないこと.

Current Topics

横紋筋融解症の臨床

著者: 相澤信行

ページ範囲:P.1588 - P.1590

 横紋筋融解症は日常非常に多く見られる疾患である.しかし,教科書の記載も多くはなく,臨床報告でも適切な治療がなされていないと思われる論文や学会報告例もある.重症例では正しい治療をしなければ腎不全に陥り,人工透析をせざるを得なくなる.したがって,臨床医は横紋筋融解症についての十分な知識を身につけておく必要がある.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・19

大伏在静脈使用バイパスグラフトにみられる内膜肥厚

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1560 - P.1562

●CABG施行23日後に死亡した例
 症例 77歳,男
 現病歴 心筋梗塞の診断により近くの病院へ入院.退院後も食後や入浴後に胸痛発作があり,精査のため再入院.冠動脈造影上,右冠動脈(Seg 1)に90%狭窄,左冠動脈主幹部(Seg 5)に90%狭窄を認めたため,手術を目的として当院へ転院した.

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

偽腔内に流動エコーと血栓を認めた解離性大動脈瘤の1例

著者: 大木崇 ,   福田信夫 ,   井内新 ,   細井憲三 ,   吉本和代 ,   谷本雅人

ページ範囲:P.1570 - P.1580

 症例 73歳,男性
 主訴 胸痛,労作時呼吸困難

Oncology Round・12

病期の進行した低分化肺癌

著者: 新井栄一 ,   清水禎彦 ,   金子公一 ,   片山勲

ページ範囲:P.1583 - P.1587

 近年肺癌の増加は著しく,男性においては肝癌をぬき胃癌に次ぐ第2位,女性においても子宮癌・乳癌および肝癌・結腸癌を抑えて,胃癌に次ぐ第2位となっている.いずれ胃癌をぬいて,肺癌が全癌の中で死亡率第1位になるものと予測される.このため,定期検診による肺癌の早期発見への努力は続けられているものの,その成果は必ずしも芳しいものではなく,初診時すでに手術不可能の症例も少なくない.今回は,そのような症例を提示し,肺癌診療上の問題点にふれていくこととする.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1564 - P.1569

内科専門医による実践診療EXERCISE

全身倦怠感/発熱,胸背部痛/食欲不振,口渇,意識障害/学校検診で見つけられた無症候性蛋白尿

著者: 吉岡成人

ページ範囲:P.1591 - P.1598

 33歳,男性.既往歴,家族歴に特記すべきことはない.現病歴:約3カ月程前より体がだるく,汗もかきやすくなり,サウナ風呂に入るのが苦痛になったとのことで来院した.体重減少や動悸はない.下痢はない.
 身体所見:身長175cm,体重67kg,体温36.4℃,血圧120/62mmHg,脈拍72/分,整.黄疸,貧血なく,頸部触診にて甲状腺を触知しない.頸部血管雑音なし.胸腹部にて異常所見なし.手指振戦を軽度認める.皮膚は全体的にやや湿潤している.

講座 図解病態のしくみ 膠原病・2

膠原病理解のために(免疫学概論)

著者: 平野隆雄

ページ範囲:P.1600 - P.1610

 膠原病の理解のための免疫学概論というタイトルは,大変な表題と思われる.私は免疫学を志してからはや10年以上経過しているが,免疫学の発達は目覚ましい.1978年頃,私が免疫学入門を志した頃は,細胞性免疫学,とくにヘルパーT細胞,サプレッサーT細胞の機能,機構の研究が全盛であり,数多くのすばらしい研究が報告された.モノクロナール抗体が出現しはじめた頃であり,その後分子生物学の導入があり,免疫学の概念は一年一年大きな変革と進歩があり,これをfollowすることは,並大抵のことではない.したがって,膠原病理解のための免疫学を解説することは大事業である.基本的な免疫学を踏まえて,膠原病疾患に関連した理解すべき事柄と,最近の治験について私なりの解説を試みたい.

検査

検査データをどう読むか

著者: 太田正康 ,   戸谷誠之

ページ範囲:P.1612 - P.1615

 臨床検査の進歩により多くの検査項目が微量検体で迅速に測定されるようになり,臨床像からは予測されなかった検査値の乱れから,思わぬ病態を発見することも多くなった.
 ここに示す症例は術前検査として行った内容でクレアチンキナーゼ(CK,creatine kinaseまたはcreatine phosphokinase)の異常高値が偶然に発見され,病気の診断にまで至った例である.

循環器疾患診療メモ

腎不全時の循環系薬剤の投与法

著者: 山科章 ,   高尾信廣

ページ範囲:P.1617 - P.1619

 腎は肝とともに薬物の代謝,排泄にとってもっとも重要な臓器であり,腎障害時には薬物蓄積による副作用を防ぐために投与計画を変更する必要がある.腎障害時にはたんに腎による薬物クリアランスが低下するだけでなく,その薬物分布容積,蛋白結合率,腸管からの吸収,肝での代謝速度,透析による薬物除去,薬物相互作用などの多くの因子を考慮する必要がある.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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