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雑誌目次

雑誌文献

medicina28巻1号

1991年01月発行

雑誌目次

今月の主題 不整脈診療プラクティス

(editorial)不整脈診療プラクティス

著者: 飯沼宏之

ページ範囲:P.6 - P.6

 最近の急速な人口の高齢化,生活レベルの向上,食〜生活習慣の欧米化,さらに健康についての社会的関心の高まり,および医療環境の整備などから成人病の受診者が急増している.不整脈の発生頻度は健常者でも高齢になるにしたがい増加するが,成人病の中心となる虚血性心疾患では不整脈が高頻度にみられる.したがって,成人病の増加に伴い不整脈の患者数も著増しているので,多くの実地医家が日常臨床の場で不整脈の診断と治療を実践しなければならなくなっているのは当然であろう.
 不整脈以外の疾患,たとえば高血圧,心不全,狭心症などの病態や重症度の診断は血圧測定,聴打診,および比較的簡単な検査などの計測値を比較することにより,わりと容易にある程度の正確さをもってなされるのに対し,不整脈の診断にはまずなじみがたい心電図の解析が必須となることが多いので,不整脈に対し若干苦手意識をもつ医師は少なくないと思われる.また不整脈の成因をベッドサイドで決めることは現状では不可能に近いこともあって,治療の際の薬物選択はどうしても試行錯誤的にならざるをえず,高血圧の治療でみられるコンセンサスの得られた一定の指針のようなものが今のところ存在しないということも,不整脈と取り組むことをためらわせる一因であろう.

新しい用語の解説

著者: 野崎彰

ページ範囲:P.7 - P.12

ポイント
1)リエントリー(reentry)
2)Triggered activity
3)リフレクション(reflection)
4)エントレインメント(entrainment)
5)Vaughan Williamsの分類
6)Proarrhythmia
7)Torsade de pointes(TdP)
8)Lownの分類
9)体表面心室遅延電位(late potential)
10)カテーテル・アブレーション(catheter ablation)
 について解説する.

不整脈へのアプローチ

どういうときに不整脈を疑うか

著者: 飯沼宏之

ページ範囲:P.14 - P.16

 不整脈患者の中には無症状の者が少数あるものの,多くはなんらかの症状(心臓の打ち方が普通と異なる)を自覚して来院するのであって,「どういう場合に不整脈を疑うか」という設問が成立するほど,不整脈の有無の診断は困難なものとは思われない.しかし,稀には不整脈に由来するとは直感できない症状を主訴として来院することもある.このようなときには,しばしば的はずれの検査を重ね,ついには正確な診断にたどりつけないといった事態になることもある.また不整脈があることは推定できても,その種類まで問診の段階で当てるのは容易ではない.
 ここでは,このような点を意識しつつ,不整脈患者の訴える症状からどのような不整脈を考えればよいかを解説してみたい.

治療の要・不要の鑑別と緊急度の判定

著者: 比江嶋一昌

ページ範囲:P.18 - P.21

ポイント
1)治療を要する不整脈は,致死的不整脈,血行障害をひき起こす不整脈,他の頻脈性不整脈の誘因になる期外収縮,器質的心疾患がなくても症状の強い不整脈などである.
2)心室性不整脈に対する薬物療法については,現在,まだわかっていないことが少なくない.1992年終了予定のCASTの成績によっては,これまでの薬物療法の概念が大きく変わるかもしれない.
3)治療の緊急度は,第1に患者の重症度によって判定される.現在無症状でも,将来重篤な不整脈ないし臨床状態の発生が予想される場合,治療を急ぐ必要がある.

不整脈の成因に関する最近の考え方

著者: 有田真

ページ範囲:P.22 - P.28

ポイント
1)頻脈型心室性不整脈の発生機序には,①リエントリー,②撃発活動,③異常自動能があり,この順序で発現度も高いと推定される.
2)リエントリーの遅い伝導は,「抑制されたNa電流」による場合と,「Ca2+電流」による場合がある.この区別は治療薬の選択上重要である.
3)撃発活動は,遅延後脱分極(DAD)によるものと早期後脱分極(EAD)によるものがあり,前者は細胞内Ca2+濃度の増加,後者は細胞膜のK透過性の減少が主因である.したがって治療も異なる.

診断についてのセミナー

不整脈の検査法—進め方の手順

著者: 山下武志 ,   杉本恒明

ページ範囲:P.30 - P.31

ポイント
1)不整脈発作時の心電図を得ることが,何よりも診断にとって重要である.
2)不整脈の検査を進める上で,患者の臨床的背景の把握を忘れてはならない.
3)非侵襲的な検査はくり返し施行することで,その感度が上昇する.
4)侵襲的な検査は,非侵襲的検査による十分な解析を前提とする.

不整脈の検査法—心電図による不整脈診断の実際

著者: 渡部良夫 ,   加藤孝和

ページ範囲:P.32 - P.41

ポイント
不整脈解析に用いる診断論理
 心電図で不整脈の解析を行う際に用いる診断論理の主要なもの11項目を挙げ,細胞電気生理学的知識をも踏まえて,調律異常心電図の読み方を解説する.
不整脈心電図解析の実際例
 1)異所性調律と非発作性頻拍(ペースメーカー移動,房室接合部調律,非発作性房室接合部頻拍,非発作性心室頻拍)
 2)伝導ブロックによる不整脈(洞房ブロック,房室ブロック)
 3)期外収縮と副収縮(心房期外収縮と心室期外収縮,房室接合部期外収縮,心室副収縮)
 4)発作性頻拍(異所性心房頻拍,多源性心房頻拍,発作性上室性頻拍,発作性心室頻拍)
 5)粗動と細動(心房粗動,心房細動)以上,各種の不整脈の実例につき解析を行う.

不整脈の検査法—ホルター心電図による不整脈診断の実際

著者: 平山悦之 ,   早川弘一

ページ範囲:P.42 - P.49

ポイント
1)ホルター心電図からは不整脈に関する多くの情報が得られる.
2)ホルター心電図の自動解析は未熟な部分があり,人間-器機対話を十分行う必要がある.
3)ホルター心電図のディスプレー解析は丹念に眺める必要がある.

不整脈の検査法—負荷試験と不整脈診断

著者: 村山正博

ページ範囲:P.50 - P.52

ポイント
1)患者の訴えが不整脈によることを診断するために負荷試験を行う場合,それが再現できる負荷法を工夫する.
2)器質的心疾患がなく,症状の乏しい不整脈は治療の対象とならない.
3)機能的(自律神経緊張),または器質的要因のいずれを背景にして起こるか確認するために,運動および自律神経遮断剤負荷が有用である.
4)虚血,心不全など一過性病態の変化による不整脈であれば,原病態の治療を優先する.
5)器質的心疾患(虚血性心疾患,肥大型心筋症,拡張型心筋症など)を背景とした心室期外収縮,心室頻拍などはとくに予後を決定するので,原疾患の治療とともに強力な不整脈対策が必要である.
6)徐脈性不整脈における運動に対する心拍数,房室伝導の反応から,その原因と治療方針決定が可能である.

不整脈の検査法—電気生理学的検査からわかること

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.54 - P.62

●EPSとは
 臨床電気生理学的検査clinical electro-physiologic study(EPS)とは,心腔内電位記録と心臓ペーシングからなる.近年の臨床不整脈の診断,治療の進歩において果たした役割は非常に大きい.診断,重症度評価,機序分析のみならず,抗不整脈薬の薬効評価,ペースメーカー療法や手術療法の適応決定に非常に重要な検査となっている1〜9).さらに植え込み型除細動器やカテーテルアブレーションなど,新しい治療法には不可欠となっている.本稿では,EPSからわかることについて概説を加える.

心疾患と不整脈

著者: 日吉康長 ,   桜田春水

ページ範囲:P.64 - P.67

ポイント
1)急性心筋梗塞では,心室細動予防のため,全例に抗不整脈薬(リドカイン)を使用することが薦められる.
2)急性心筋梗塞に生じる徐脈性不整脈の性状や予後は梗塞部位により異なる.
3)基礎心疾患を有する例に生じる持続性心室頻拍にはプログラム刺激が,重症心室期外収縮にはホルター心電図が治療の選択や指標に有用である.
4)不整脈が心不全に伴う場合は,致死的不整脈でない限り,心不全の治療を優先する.

小児不整脈の特徴

著者: 長嶋正実 ,   西端健二 ,   長井典子 ,   長谷川誠一 ,   辻明人

ページ範囲:P.69 - P.72

 不整脈の診断は成人と同じであるが,小児の不整脈には種々の特徴がある1)

高齢者不整脈の特徴

著者: 大川真一郎

ページ範囲:P.73 - P.75

 不整脈の頻度は加齢とともに増加することが知られている.その原因として,刺激伝導系およびその周辺組織の変性,線維症,石灰化による伝導障害が老年者に多いこと,心筋障害,心不全,心予備力の低下の表現として期外収縮,心房細動などが高齢者で多くみられることなどが挙げられる.また高齢者では各種薬剤により過敏な異常反応として不整脈を呈したり,血清電解質異常と関連した不整脈をみることがある.本稿では,高齢者不整脈の頻度と治療につき述べる.

ペースメーカー不全

著者: 山口巖

ページ範囲:P.76 - P.78

ポイント
ペースメーカー不全の心電図所見
1)断線では不規則な,パルスの欠落
2)刺激閾値の上昇と電極移動では間歇的な無効スパイクの出現
3)感知不全では等間隔のパルスの出現
4)電池消耗ではペーシング頻度の減少とスパイクの減高
 対策上,発生部位が重要であり,全体のシステム<心臓<電極と心臓の接点<電極<パルス発生器,の順に緊急性が高くなる.

治療についてのセミナー

不整脈治療薬の分類と使い分け

著者: 橋本敬太郎

ページ範囲:P.81 - P.85

 不整脈治療薬の分類は,不整脈の発生機序と抗不整脈薬の作用機序の十分な理解の基に行われなければ,臨床使用の論理的な指針とはならない.不整脈治療における薬物療法は,電気療法や手術療法が不整脈発生部位を目的としているのに対し,心臓全部に分布して,発生部位と正常な心筋細胞の機能を変える可能性が考えられる.心筋細胞の電気活動に関しては,活動電位を発生させる能動的な機能と,心筋細胞同士の電気的な結合に関係するケーブル特性などの受動的な機能がある1,2).心筋の能動的な電気現象はイオンチャネルのレベルでほとんど解明されており,したがって抗不整脈薬の分類は,この能動的な性質を基にしたVaughan Williamsのものが頻用されている1)

新しい抗不整脈薬

著者: 新博次

ページ範囲:P.86 - P.87

ポイント
1)Class Ic,IIIの新しい抗不整脈薬が今後登場する.
2)Class Icは強力な抗不整脈作用を有するが,その催不整脈作用には注意をしたい.
3)Class IIIの薬剤は活動電位持続時間,不応期を延長し,頻脈性不整脈に対する効果が期待される.

抗不整脈薬としてのβ遮断薬,Ca拮抗薬

著者: 内藤政人

ページ範囲:P.89 - P.91

ポイント
1)β遮断薬,Ca拮抗薬はともに不整脈以外にも種々の病態,疾患に使用される薬剤である.
2)β遮断薬は,交感神経緊張に伴う上室性・心室性不整脈のいずれにも有効であるが,僧帽弁逸脱症候群,肥大型心筋症,QT延長症候群に伴う不整脈にも適応がある.
3)Ca拮抗薬は3種類に大別されるが,そのうち抗不整脈作用を有するのはVera-pamilとDiltiazemである.
4)Ca拮抗薬は,発作性上室性頻拍症の発作停止のための第1選択薬になりつつある.
5)Ca拮抗薬は,心房細動の心室応答数の調節にも使用可能であり,従来のジギタリス剤に比べ,静注により比較的急速に心拍数を低下させることができ,また経口投与下では運動時の心拍数の増加の程度が少ないという利点を有する.
6)Ca拮抗薬は,心室性不整脈に対してはほとんど無効であるが,例外的に左軸偏位を伴う右脚ブロック型の特発性心室頻拍に対してVerapamilが著効を示す.

抗不整脈薬の効果判定

著者: 加藤貴雄

ページ範囲:P.92 - P.94

ポイント
1)抗不整脈薬を投与した目的は何であったか,その目的が達成されたかどうかを判定する.
2)不整脈が安定して出現していない例では,通常の心電図のみでは判定が難しいことが多いので,Holter心電図を用い判定するのがよい.
3)効果判定の基準とすべき項目
A.期外収縮の場合
a.期外収縮数の変動
b.重症度の変化(Lown分類)
c.自覚症状の変化
B.上室性頻脈性不整脈の場合
a.発作回数の変動
b.持続時間の変動
c.発作中の心拍数の変動
d.自覚症状の変化
4)副作用の有無,種類,程度,およびその経過を考慮する.
5)投与継続?投与中止?増量?減量?他の薬剤への変更?併用?を判断する.

抗不整脈薬の副作用と対策

著者: 山中功一 ,   傅隆泰

ページ範囲:P.96 - P.97

 抗不整脈剤の副作用は,他の薬剤と同じく過量投与による場合と過敏反応による場合がある.前者は生体側の条件(肝臓,腎臓の障害,併用薬)により血中濃度が上昇する場合を常に考慮すべきである.一方,これらの薬剤は心臓血管系への直接作用をもつことが多く,重大な副作用となりうる.以下,Vaughan Wil-liams分類に従って,各種の抗不整脈剤の副作用について述べる.

抗不整脈薬による不整脈増悪

著者: 小川聡 ,   宇野恵子

ページ範囲:P.98 - P.100

 抗不整脈薬の投与中にそれまで認められなかった不整脈が出現したり,既存の不整脈が増悪することを抗不整脈薬のproarrhythmia(催不整脈作用)と呼ぶ.1964年にキニジン投与中の失神の原因が心室頻拍・細動であることが確かめられて以来1),催不整脈作用が認識され,最近報告されたCASTの研究成績2)により,薬剤投与群での突然死発生がより高率であることが示され,催不整脈作用が初めて客観的に立証された.本来不整脈治療や予防の目的で投与される薬剤が致死的不整脈を誘発するという点で臨床家に大きな問題を投げかけているが,その病態生理を正しく理解することにより回避可能な副作用である.
 催不整脈作用により誘発される不整脈は徐脈性不整脈や,期外収縮の増加,心室頻拍および細動と種々であるが,QT延長をきたすVaughan Williams分類のIA群薬およびIII群薬によるtor-sade de pointesが有名である.

不整脈専門医へのコンサルテーションのタイミング

著者: 相沢義房

ページ範囲:P.102 - P.105

 不整脈の診断は,不整脈が心電図で記録された瞬間に可能である.しかし,重症不整脈は発作性に出没する場合が多く,発作時の心電図記録を試みることは効率が悪いばかりか危険さえ伴い,治療を施した場合もその有効性を判定することにも困難が伴う.さらに抗不整脈薬による治療はしばしば無効で,非薬物治療の適応の決定とそのための検索を行う必要がある.このために電気生理学的検査法を駆使して,診断から治療効果判定まで一貫したアプローチをすることが専門医に期待される.

人工ペースメーカーの適応と機種およびその選択

著者: 進藤剛毅

ページ範囲:P.106 - P.110

ポイント
1)ペースメーカーの適応:徐脈性不整脈群と頻脈性不整脈群に分ける.頻脈群での適応決定には,とくに電気生理学的検査(EPS)が不可欠.
2)機種の表記法:アルファベット3(5)文字による“3文字コード方式”,“5文字コード方式”.第1文字…ペーシング部位,第2…センシング部位,第3…応答様式,第4…プログラム機能,第5…抗頻拍性不整脈機能を表す.
3)機種の選択:①心室ペーシング(VVI)…あらゆる房室ブロック.②心房ペーシング(AAI)…房室ブロックのないSSS.③心房心室順次ペーシング(DVI).房室ブロック,心房細動のないSSS.④DDDペーシング…ほとんどすべての徐脈性症例.⑤レート応答型ペーシング(VVIR,AAIR,DDDR)…すべての徐脈性症例.⑥植え込み式除細動器(AICD)…頻脈性心停止,反復する持続性心室頻拍.

不整脈治療の実際

不整脈治療の進め方

著者: 東祐圭 ,   真島三郎

ページ範囲:P.111 - P.113

 不整脈治療を行うにあたり,まず不整脈の正確な心電図診断とともに,不整脈の重症度,症状の有無と程度,不整脈の原因となっている基礎疾患がないか,不整脈の基礎疾患への影響,患者背景などにつき検討する必要がある1)
 以上の諸点を考慮した上で,治療の進め方として,①対象とする不整脈が治療を必要とするか否か,②どのような治療が適切であるか,③選択した治療が有効であるか,副作用はないか,の順で治療を進める1).①〜③の問題は別項に詳細に述べられており,本項では主な原則を述べる.

期外収縮

著者: 田辺晃久 ,   木下栄治

ページ範囲:P.114 - P.117

 心臓の収縮が次に予測されるよりも早期に生じる場合を,期外収縮ないし早期収縮(premature contraction)という.心房から生じたものを心房性期外収縮,房室接合部から生じたものを房室接合部性期外収縮というが,両者は臨床的に類似したものであるため,しばしば包括して上室性期外収縮とよぶ.これに対し,心室から発生した期外収縮を心室性期外収縮という.

上室性頻拍

著者: 藤木明

ページ範囲:P.118 - P.121

ポイント
1)上室性頻拍の機序の診断は,頻拍中のQRS波とP波の関係,P波形に注目する.
2)抗不整脈薬は,作用機序を理解し,さらにその副作用にも注意して使用する.

心室性頻拍

著者: 橋本悦男 ,   大江透

ページ範囲:P.122 - P.125

ポイント
1)心室頻拍は種々の疾患に基づいて,多様な形態で起こるため,頻拍発作のみにとらわれず,基礎疾患の病態も含めた治療が必要である.
2)基礎疾患,心室頻拍の出現様式で,有効薬剤が比較的限定されるので,それに従った選択をする.
3)抗不整脈薬を使用する場合には,その目的を明確にし,できるだけその有効性を客観的に評価する.
4)抗不整脈薬の陰性変力作用および催不整脈作用に十分注意する.

心房細動・粗動—発作性

著者: 清水昭彦 ,   深谷真彦

ページ範囲:P.126 - P.127

 発作性心房細動・粗動は,心室頻拍に比して危険性の少ない不整脈と一般的に考えられている.しかし,その頻度ははるかに多く,日常の診療にもよく認められる不整脈である.さらに,血栓塞栓症などの合併症を生じることがある点でも臨床的に重要な不整脈である.また,WPW症候群に伴う発作性心房細動・粗動のように,心室頻拍と同等に考えて緊急に停止させる必要がある場合もある.
 通常,発作性心房細動・粗動はくり返し起こるので,その予防も重要となる.また,心房細動・粗動時の心室の心拍数のコントロールのみで症状あるいは血圧低下の改善が得られる場合もある.

心房細動・粗動—慢性

著者: 小松親義

ページ範囲:P.128 - P.130

 慢性心房細動・粗動(Af,AF)は,通常心疾患や甲状腺機能亢進症などに合併して生ずることが多いが,基礎疾患のない場合にも生ずることがあり,これはlone Afと呼ばれている.これまでとくに僧帽弁狭窄症やうっ血性心不全に心房細動が合併すると,塞栓症の発生する頻度がきわめて高くなるので注目を浴びてきたが,近年,基礎疾患の有いlone Afでも,塞栓症の合併が予想以上に多いことが知られるようになった.とくに近年,頭部CTなどの検査法の進歩により,脳梗塞が正確に診断されるようになったため,心房細動と脳梗塞との問題が改めて注目を浴びている.

心室細動—心肺蘇生術の実際

著者: 瀬﨑和典 ,   松尾博司

ページ範囲:P.132 - P.134

 心室細動(Vf:ventricular fibrillation)とは,形・幅・大きさがまちまちの心室波が不規則に連続するもので,QRS・ST-Tを区別できない.心室細動では心室がポンプ機能を失った状態であるから,5〜15秒で意識消失が,3〜4分で不可逆的な脳障害が起こる.したがって,この間に有効な心肺蘇生術(CPR:cardiopulmonary resuscitation)が施行されない限り,死亡するか,蘇生後脳症,植物状態に至る.ここでは,着院時心肺停止(DOA:death on arrival)の1例を紹介し,CPRの実際について触れる.

WPW症候群

著者: 伊藤明一

ページ範囲:P.136 - P.138

ポイント
1)WPW症候群の治療は,房室リエントリー性頻拍と心房細動の予防にある.
2)臨床心臓電気生理学的検査は,WPW症候群の治療方針の決定に有用である.

洞不全症候群

著者: 池田孝之 ,   臼田和生

ページ範囲:P.140 - P.143

ポイント
1)Rubensteinによる分類が診断および治療指針に用いられる.
2)ペースメーカーの適応に関しては,臨床症状を中心とした総合的評価が必要である.

房室ブロック

著者: 中里祐二 ,   中田八洲郎

ページ範囲:P.144 - P.148

ポイント
1)房室ブロックは,その程度より第1度,第2度,第3度に,また部位よりA-H,BH,H-Vブロックに分類される.
2)診断には心電図,ホルター心電図,ヒス束電位図検査が用いられる.
3)ブロック部位の診断は,治療決定や予後の上で大切である.
4)ペースメーカー治療の適応は,臨床症状,検査所見により決定される.

不整脈治療の外科適応

著者: 三崎拓郎 ,   岩喬

ページ範囲:P.150 - P.151

 最近,抗不整脈剤のもつ催不整脈性が判明し,非薬物療法である外科治療,カテーテル焼灼治療が注目を浴びている.いずれの方法も不整脈そのものの根治が可能であるが,カテーテル焼灼法は登場したばかりであり,その成績,安全性に関しては未だ不明な点も多い.一方,直視下で不整脈起源を同定し治療できるマッピングガイド下手術は,安定した成績をあげており,現在ではWPW症候群,心室性頻拍,その他の上室性頻拍が手術適応となっている.

トピックス

Late potentialの臨床的意義

著者: 小沢友紀雄

ページ範囲:P.153 - P.156

 致死的心室性不整脈出現の可能性について,最近late potentialの体表面からの記録でそれを検討しようとする試みがなされている.
 ここでは,その臨床的意義について述べてみたい.

R-R間隔変動と自律神経機能

著者: 矢永尚士 ,   西村敏博

ページ範囲:P.158 - P.160

ポイント
1)R-R間隔より自律神経機能を知る方法には,時系列を主体とする解析法(CV値,RR50など)とスペクトルを主体とする解析法がある.
2)CV値やRR50は加齢,心不全,糖尿病で減少し,主として迷走神経遠心路障害の表現と考えられる.
3)R-R間隔のスペクトル解析によりHF(高周波成分)とLF(低周波成分)に分けられ,HFは副交感神経機能を,LFは主として交感神経機能を表す.
4)本分析法は非侵襲的,定量的ではあるが,ノイズ,期外収縮が混入するときは,その信頼性は落ちる.

Torsade de pointes

著者: 沢登徹

ページ範囲:P.162 - P.165

ポイント
1)Torsade de pointes(TdP)の診断は心電図による.
2)心電図波形ではQTあるいはQU間隔が延びていることが多い.
3)原因は多数・多種類に及び,医原性の場合がしばしばある.
4)抗不整脈剤のうちⅡ群とⅣ群によるTdP出現の報告例はほとんどない.
5)発生機序としては異常自動能やリエントリーがあげられる.とくにtriggeredactivityの寄与が指摘される.
6)予防には電解質是正,QT間隔のモニターが重要である.
7)治療はTdP発生状態により異なる.

再灌流不整脈

著者: 山崎昇 ,   金子雅則 ,   林秀晴 ,   小林明

ページ範囲:P.166 - P.169

ポイント
最近,再灌流不整脈の発症要因の1つとして,活性酸素ラジカルの関与が注目されている.再灌流不整脈とフリーラジカルとの関連性について要約すると,
1)虚血/再灌流心筋において,再灌流不整脈が発生する時点で心筋内フリーラジカルは増加している.
2)ラジカルスカベンジャーなどを再灌流直前から投与することにより,再灌流不整脈は抑制される.
3)フリーラジカルが心筋の活動電位に変化を及ぼし,不整脈を発生し得る.
以上のことから,心筋の虚血/再灌流不整脈の発生にフリーラジカルが関与していることが強く示唆される.

細動誘発閾値に関する諸問題

著者: 碓井雅博 ,   井上博

ページ範囲:P.170 - P.171

 不整脈治療の最も重要な目標は心室細動の予防にあり,抗不整脈薬の細動予防効果を定量的に評価することは臨床上も重要である.心室細動になりやすいか否かを定量的に評価する方法として,電気刺激を用いる心室細動閾値(VFT)測定法がある.VFTは心室細動を誘発するのに必要な電気刺激の最低の強さをいい,刺激の個数,持続時間,電流量などで表す.図に,繁用されるVFT測定法を模式的に示した1)

除細動閾値に関する諸問題

著者: 村川裕二

ページ範囲:P.172 - P.173

ポイント
1)通電量と除細動成功率の関係は,おおよそS状曲線に回帰させることができる.
2)除細動閾値は“通電量対除細動成功率”の関係を表すための便宜的指標として用いられる.
3)心室細動持続時間,除細動の方法,抗不整脈薬などにより除細動閾値は変化する.

植え込み型除細動器(AICD)

著者: 大西哲 ,   笠貫宏 ,   細田瑳一

ページ範囲:P.174 - P.176

 心室細動は自然停止することは少なく,突然死の原因として最も重要である.心室細動に対する治療は,直流通電による電気的除細動(electrical defibrillation)が必須である.心室細動に対する電気的除細動は,QRSと同期せずに直流通電を加え洞調律に復させるもので,その装置を除細動器(defibrillator)と呼ぶ.1962年Lownらが,CCUにおいて心室細動に対して電気的通電を行い除細動に成功して以来,体外式除細動器により多くの患者を救命することが可能となり,除細動器は心肺蘇生に不可欠となった.
 心臓急死(心室細動)から救急蘇生により回復した患者の半数以上は,持続性心室頻拍から心室細動に移行しているといわれており,持続性心室頻拍は心臓急死の原因として重要である.持続性心室頻拍の停止には,通常,薬物,ペーシングおよび体外式除細動器によるcardioversionが用いられる.心室頻拍に対するcardioversionは,直流通電による心室細動の発生を防ぐためQRS波に同期させて通電し,洞調律に復させるもので,その装置をcardioverterと呼ぶ.

アブレーション

著者: 鈴木文男

ページ範囲:P.178 - P.180

ポイント
1)アブレーションとは,カテーテル電極を用いた頻脈性不整脈に対する新しい治療法.
2)カテーテルを介して直流通電や高周波通電を行い,心筋を焼灼.
3)重篤な症状を伴う薬剤抵抗性の心房細動(WPW症候群を含む)や心室頻拍が適応として考慮される.
4)未だ実験的段階にあり,不整脈専門の医療機関で実施されるべき治療法.

抗不整脈薬による心臓突然死の予防—CASTをめぐって

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.181 - P.183

ポイント
1)不整脈治療の最大目標は予後の改善,ことに突然死の予防にある.
2)抗不整脈薬が長期予後を改善するかどうかはまだ分かっていない.
3)また,どのような不整脈を治療すべきかも必ずしも明確とはいえない.
4)CASTにより心筋梗塞後の心室性期外収縮にI-C群の薬剤を用いることは好ましくないことが示された.
5)しかし,CASTではとくに用量設定に問題があり,なお検討が必要である.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・23

CABG—内胸動脈使用例

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.186 - P.188

●内胸動脈バイパスグラフトの狭窄例
 症例 38歳,男
 現病歴 労作性狭心症の診断により入院し,左冠動脈主幹部に90%狭窄を認めたため,左内胸動脈を使用し,前下行枝にバイパス手術を施行した.手術17日後に確認造影を施行し,内胸動脈に狭窄像は認められなかった(図1A).手術42日後に胸痛発作があり,43日目に造影を施行し,バイパス吻合部に99%狭窄を認めた(図1B).そこで50日目に大伏在静脈を使用し,再手術を施行し,その際,狭窄部の内胸動脈を摘出した(図2).

講座 図解病態のしくみ 膠原病・6

多発性筋炎・皮膚筋炎

著者: 戸叶嘉明

ページ範囲:P.194 - P.199

 多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)は,筋肉あるいは皮膚の炎症を主体とする膠原病である.PM/DMの診断は,典型的な筋病変や皮膚病変の症状があれば容易である.しかしながら,一部の症例では非特異的症状で発症したり,合併症で発見される場合もあり,この疾患を念頭に置いておかないと見逃される可能性もある.この項では,PM/DMの診断・治療の基本的なことについて述べていきたい.

血液疾患診療メモ

貧血,とくに小球性貧血と大球性貧血

著者: 岡田定

ページ範囲:P.190 - P.191

 日常診療で貧血の患者を診ることは多い.WHOの貧血の診断基準は,成人男子でHb≤12 g/dl,Ht≤39%,成人女子でHb≤11g/dl,Ht≤36%とされている.貧血をみたら,まず造血器以外の臓器に問題がある続発性貧血か,造血器に原因がある原発性貧血かを鑑別することが大切であり,つぎに,Wintrobeの赤血球指数,とくに平均赤血球容積(MCV)から貧血の鑑別をするのが有用である.
 MCV(fl)=Ht(%)/RBC(106/μl)×10であり,
 正球性:80〜100(90前後)
 小球性:80以下
 大球性:100以上
と判断するのが実用的と思われる.Hb,Htの数値だけにとらわれないで,MCVをみて貧血の原因を鑑別する習慣が大切である.MCVによって,代表的な貧血疾患は表1のように分類される.
 貧血の中で,続発性貧血が約60%,鉄欠乏性貧血が約20%と圧倒的に多く,再生不良性貧血,溶血性貧血,悪性貧血などはかなり稀である.若年〜中年女性では,とくに鉄欠乏性貧血が多く,中高年者では悪性腫瘍,骨髄異形成症候群(MDS),悪性貧血が相対的に多い.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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