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雑誌目次

雑誌文献

medicina28巻13号

1991年12月発行

雑誌目次

今月の主題 高血圧治療の実際と新たな展開

理解のための10題

ページ範囲:P.2170 - P.2173

疫学

わが国における高血圧管理の現況

著者: 柴田博

ページ範囲:P.2036 - P.2038

●高血圧管理の寿命への貢献
 日本人の平均寿命は,戦後驚異的に延長したが,この背景には2つの大きな要因があるだろう1).1つは,栄養状態の改善である.戦前の動物性蛋白質と油脂不足の食生活は戦後大きく改善された.そして,それらの栄養素の欧米にみられる過剰摂取に陥らなかったことも幸いした.
 いま1つの要因は,保健医療面の充実である.とりわけ,わが国独得のシステムといえるが,無料または安価な高血圧スクリーニングの意義は大きかったと考えられる.

高血圧の予後—危険因子としての高血圧

著者: 大森将 ,   上田一雄

ページ範囲:P.2039 - P.2041

ポイント
1)世界の先進諸国では高血圧は循環器疾患の最大の危険因子である.
2)本邦の脳血管障害は高血圧と密接な関連があり,降圧療法は高血圧の予後を著明に改善したという成績がある.
3)虚血性心疾患に対する高血圧のインパクトは,脳血管障害よりは小さく,降圧療法は必ずしもその発症予防に結びつかないと考えられる.

診断のためのステップ

高血圧治療における家庭血圧測定の意義

著者: 島田和幸

ページ範囲:P.2042 - P.2044

ポイント
1)家庭血圧の臨床的意義は,白衣高血圧の診断と過剰治療の防止にある.
2)測定機器の正確性と適切に測定されている保証が必要である.
3)測定値の評価に当たっては,自己判断させずに医師に任せる.
4)家庭血圧の正常値は統一されておらず,従来の外来基準かあるいは少し低めに設定する.

高血圧検査法の最近の進歩—二次性高血圧の鑑別

著者: 木村桂三 ,   島広樹 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.2046 - P.2048

ポイント
1)二次性高血圧は,高血圧を起こす原因が明らかなものであり,治癒可能な高血圧が少なくない.
2)高血圧の診断には問診,診察,一般検査が重要である.
3)新しい高血圧検査法には,従来の侵襲的な検査にとって換わるものが多く,その診断精度も高い.

治療

高血圧治療の進め方

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.2050 - P.2052

ポイント
1)治療を開始する前に,高血圧を生じている原因,高血圧の重症度および合併症をしっかりと把握する.
2)拡張期血圧が85mmHg以上となれば一般療法を開始し,降圧薬が開始されても一般療法を継続させる.
3)降圧薬の開始時期は拡張期血圧で95〜100mmHgのところであり,収縮期血圧では60〜80歳未満のものでは170mmHg以上を開始時期とする.
4)高血圧治療は長期間にわたるものであり,患者の高血圧に関する理解と,医師と患者の協力が大切である.

患者コンプライアンスを高めるには

著者: 道場信孝

ページ範囲:P.2053 - P.2055

 今日,高血圧症の治療が合併症発症の予防や死亡率の低下に有効であることについて疑いの余地はない.従来の中等症,あるいは,重症高血圧患者が主たる対象者であった時代とは異なり,現在では無症状の軽症高血圧症が大部分を占めることから,治療の対象となる患者の数は著しく増大しており,これらへの対応においては非薬物療法をベースにして,その上に必要に応じて薬物療法を重ねる方式が治療の原則となっている.このことは1988年の米国合同委員会の勧告で明確に示されており1),わが国においてもこのStepped Careの概念は現在広く受け入れられている.ここでは,このような高血圧症マネジメントの変化に伴って生じていた治療上の諸問題,特に患者コンプライアンスと,その向上のための対応について解説する.

降圧薬の減量と休止について

著者: 杉本徳一郎 ,   松岡博昭

ページ範囲:P.2056 - P.2058

ポイント
1)降圧薬投与中に血圧上昇の維持機構に変化が生じれば薬剤投与量の変更の可能性が生じる.
2)非薬物療法の成果が出てくる,あるいは二次的または偶発合併症のために血圧が変化してくる,などの場合がそれである.
3)降圧薬の減量に際しては,どの薬剤をどう減らすか,減量後どうフォローするかが重要である.
4)血圧のコントロールは常に正しく評価する必要がある.

高血圧治療とquality of life

著者: 藤井潤

ページ範囲:P.2059 - P.2061

ポイント
1)高血圧の長期治療では血圧のコントロールとともに患者のquality of lifeに支障がないように配慮する.
2)quality of lifeを低下させる要因としては診断(labeling effect),画一的非薬物療法,降圧薬の軽微な副作用などがある.

高血圧治療中に注意すべきポイント

著者: 倉持衛夫

ページ範囲:P.2062 - P.2063

 高血圧治療の目的は血圧を下降させて高血圧によってもたらされる心臓・血管合併症の発生,進展を防止し,快適な生活を維持しつつ長寿を全うすること,とされている.したがって,高血圧患者の診療にあたっては,その目的にかなった成果が得られるように種々の点検が常に要求されることになる.

非薬物療法

高血圧食事療法の実際とその限界

著者: 吉村学

ページ範囲:P.2064 - P.2066

ポイント
1)食事療法は個人が短期間施行するのでなく,家族と共に一家全員が生涯にわたって行うものである.
2)食塩摂取制限は血圧下降を促し,また降圧薬による降圧効果を増大させる.一般に8g/日以下に制限し,食塩感受性高血圧症では6g/日以下に制限する.
3)腎機能障害を伴わない患者では,K,Ca,Mg含有食品や動物性蛋白質を多量に摂取するよう指導する.
4)アルコール摂取量は一定量以下とする.5)肥満患者では,カロリー摂取を制限して肥満を是正し,標準体重に近づける.

運動療法の適応と効果

著者: 斉藤俊弘 ,   稲垣義明

ページ範囲:P.2068 - P.2071

 高血圧症に対する運動療法は1960年代から欧米を中心に試みられ,現在広く行われているが,降圧効果および降圧機序については一定の見解が得られていない.しかし,最近の報告では有効とするものが多くなっている(表).また,運動療法がすべての例に一様に効果があるわけではないことも明らかになってきた.そこで本稿では,本態性高血圧症に対する運動療法の適応と効果について述べる.

高血圧治療における肥満とその対策

著者: 久代登志男 ,   梶原長雄

ページ範囲:P.2072 - P.2074

ポイント
1)肥満者高血圧において減量療法は第1選択となる降圧療法である.
2)降圧機序にはインスリン,交感神経機能,アルドステロンの減少などが考えられている.
3)減食に伴い必須栄養素の不足をきたさない注意が必要である.
4)減量後の体重維持には生活習慣の変容が必要であり,運動療法の併用が有用である.

高血圧と喫煙,飲酒,ストレス—生活指導

著者: 斉藤郁夫

ページ範囲:P.2076 - P.2077

ポイント
1)喫煙は動脈硬化の危険因子であり,かつ降圧薬の抗動脈硬化作用を阻害する.高血圧患者は禁煙することが必要である.高血圧患者の治療にあたる医師はこのことを患者に教育し,繰り返し説得すべきである.
2)アルコールの過剰摂取は血圧を上昇させるが,日本酒1合あるいは,ビール大1本あるいは,ウイスキー80mlまでなら許可してよいとされている.
3)精神的ストレスを軽減することは高血圧の非薬物的治療として有用と考えられる.しかし,タバコ,アルコールなどによる精神的ストレスの解消は勧められない.

薬物療法

薬物療法の進め方

著者: 安東克之 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.2078 - P.2081

ポイント
1)第一選択薬は,降圧良好で,副作用少なく,他剤が併用しやすいものがよい.個々の症例では患者の病態を考慮して決定する.
2)重篤な症例以外は薬剤の効果を十分(1〜3カ月)観察してから変更・追加を考える.また,長期服用なので,薬剤は可能な限り減らす.
3)血圧は落ち着いたら4週間ごとのチェックを行い,年に最低1回は検査を行う.

利尿薬の問題点と有用性

著者: 日和田邦男

ページ範囲:P.2082 - P.2084

ポイント
1)軽症高血圧患者の降圧薬療法における利尿薬の位置づけは第二選択薬と考えてよい.
2)中等症高血圧患者の場合,利尿薬はアジュバント療法として用い,少量(最小維持量)を使用する.
3)重症高血圧患者ではループ利尿薬を併用する.
4)腎障害(血清クレアチニン2mg/dl以上),脳循環障害,糖尿病,高脂血症,痛風,高尿酸血症を合併した高血圧患者ではサイアザイドは処方しない.

β遮断薬の使い方のこつ

著者: 築山久一郎 ,   大塚啓子

ページ範囲:P.2086 - P.2088

 降圧薬療法は高血圧性心血管系疾患の発症予防と進展阻止を目的とするが,降圧薬別の予後の差異は必ずしも明確でない.しかし,β遮断薬に関しては軽中等症高血圧でmetoprololを用いると致死的ならびに非致死的な冠動脈疾患発症が利尿薬に比し低率で(MAPHY研究,1988,1991),欧米諸国では一次薬として選択される頻度は高く,西独では医師の92%が45歳白人男性ではβ遮断薬を一次薬とする調査報告があり1),評価は高い.
 β遮断薬は最近,降圧効果持続性や血管拡張作用など薬理作用上の特徴をもつβ遮断薬が開発され,適応範囲は拡大している.QOLへのβ遮断薬の悪影響が報告されているが,薬剤間で差異があり,atenololはACE阻害薬とはQOLの面で差がないとされる.したがって,代表的な2〜3のβ遮断薬の薬理作用を理解して降圧薬として使用することは重要である.

Ca拮抗薬の使い方のこつ

著者: 鈴木哲 ,   今泉勉

ページ範囲:P.2090 - P.2092

ポイント
1)心血管系への影響,臓器特異性,あるいは作用持続時間などの特徴をつかんで各症例に適した薬剤を選択する.
2)軽一中等症高血圧では持効性のCa拮抗薬を用い,血圧変動を少なくしコンプライアンスを高めるように考慮する.
3)nifedipineなどのDHP系と異なり,diltiazem,verapamilは心抑制作用が比較的強いため,2度以上の房室ブロック症例では使用を避け,徐脈や心不全症例でも注意が必要である.また,β遮断剤と併用しないことが望ましい.

変換酵素阻害薬の使い方のこつ

著者: 島本和明 ,   増田敦 ,   中川基哉

ページ範囲:P.2094 - P.2096

ポイント
1)ACE阻害薬は高・正レニン群のみならず低レニン本態性高血圧患者にも有効.
2)腎血管性,腎性高血圧では,ACE阻害薬は有効であるが腎機能低下に注意.
3)ACE阻害薬は原発性アルドステロン症には無効.
4)ACE阻害薬は糖・脂質・尿酸代謝に悪影響せず,むしろ改善効果が期待される.
5)副作用として咳に注意する.
6)併用薬としては降圧利尿薬・Ca++拮抗薬が良い.

降圧薬の作用に影響を与える薬剤

著者: 海老原昭夫

ページ範囲:P.2098 - P.2099

 薬を併用するとき,薬を投与する以前に複数の薬を配合すると潮解,中和などの物理化学的変化を起こすことがあり,これは配合不適prescription incompatibiltyと呼ばれている.
 複数の薬を併用するとき,薬を投与した後に体の中で互に影響し,効果に影響したり,副作用の原因になったりすることがあり,これは薬物相互作用drug interactionと呼ばれている,薬物相互作用はまた薬物間相互作用drug-drug interaction,薬物-食物間相互作用drug-food interactionなどに分けられる.

降圧薬の併用療法における留意点

著者: 三上洋 ,   荻原俊男

ページ範囲:P.2102 - P.2104

 高血圧症の治療は,原因の除去が可能な一部の二次性高血圧症を除けばほとんどの場合,降圧薬を用いた対症療法である.しかし,優秀な降圧薬が次々と開発されたことにより,ほとんどの例において血圧のコントロールは可能となった.しかし,単独の降圧薬投与ではコントロール不十分な頻度も高く,2薬あるいは3薬併用を要することが多い.このような場合,降圧薬併用によってもたらされる降圧効果の増強,また逆に単独では見られない副作用などの出現もありうるので,投与する降圧薬の作用機序,代謝などについて熟知する必要がある1).この項では降圧薬相互の併用による影響に限定して,好ましい併用2)と避けるべき併用あるいは禁忌について述べる.

特殊な高血圧の治療

白衣高血圧における治療の意義

著者: 片山茂裕

ページ範囲:P.2106 - P.2108

ポイント
1)医師が血圧を測定すると,平均20mmHg程度の血圧の上昇が認められる.
2)白衣高血圧は,診察室では高血圧を示すものの,家庭では正常血圧を示す.
3)白衣高血圧は高血圧の22〜58%を占める.若年者や女性に多い.
4)白衣高血圧でも心血管系の臓器合併症が認められ,降圧治療が必要である.血圧レベルだけでなく,最高(ピーク)血圧を低下させることも重要である.

老年者の高血圧における治療の考え方

著者: 大内尉義

ページ範囲:P.2110 - P.2112

ポイント
1)老年者高血圧の治療開始の基準は収縮期圧160ないし170mmHg以上,拡張期圧90mmHg以上のいずれか一方を満たす場合とする.
2)降圧の目標は,収縮期圧150〜160mmHg,拡張期圧85mmHg前後と成人に比べ甘くし,過度の降圧に注意する.
3)老年者では高血圧以外の疾患を合併していることが多く,薬物療法の選択には注意を必要とする.
4)収縮期高血圧も脳血管障害の危険因子になるが,その治療法は確立されていない.

小児高血圧の管理上の問題点

著者: 雨宮伸

ページ範囲:P.2114 - P.2116

ポイント
1)血圧測定は小児の上腕長の2/3のマンシェトを用いること.
2)高血圧の判定は年齢によって異なる.
3)年少となる程,二次性高血圧の割合は高くなる.その80%は腎実質性疾患であるが,原因疾患の鑑別は十分にすること.
4)小児の本態性高血圧にはまず体重のコントロールが基本となる.薬物療法の前に一般療法をすべきである.クロニジン抑制試験が褐色細胞腫との鑑別となる.
5)小児での利尿・降圧剤の使用は成人のstep care療法に準じるが,使用経験の不十分な薬剤が多いことに注意すべき.

高血圧緊急症の治療

著者: 瀧下修一

ページ範囲:P.2118 - P.2120

ポイント
1)高血圧緊急症は,単に血圧が異常に高い状態ではない.
2)病態や基礎疾患の迅速な把握が重要であり,これに応じた降圧薬を選択する必要がある.
3)降圧の速度とレベルは病態により異なる.
4)緊急期を脱すれば維持療法に移行するが,臓器障害を伴った症例であり厳重な長期のフォローが必要である.

腎血管性高血圧の治療方針

著者: 江藤胤尚

ページ範囲:P.2122 - P.2124

ポイント
腎血管性高血圧の診断と治療方針(図)は以下のごとく要約される.
1)腎血管性高血圧の臨床的特徴を有する高血圧患者に対し,
2)カプトプリル負荷試験などのスクリーニング試験により症例を選別し,
3)腎血管造影で狭窄の存在・程度を診断し,
4)さらに分腎機能に関する成績を参考に治療法を決定する.
5)1側性の有意な腎動脈狭窄に対し経皮経管腎動脈形成術(PTRA)や外科的治療を行う.
6)それ以外の症例やPTRAまたは外科療法後にも降圧不十分な症例に対し降圧薬の投与を含む内科的治療を行う.

ミネラルコルチコイド過剰による高血圧の診断と治療

著者: 上田美樹 ,   安東克之

ページ範囲:P.2126 - P.2129

ポイント
1)本症は頻度は少ないが大部分が外科手術により治癒しうるので重要である.
2)高血圧,低K血症,レニン-アンギオテンシン系の抑制を三徴とする.
3)本症の75%は副腎腺腫で手術により治癒しうるが,数〜20%を占める過形成は手術無効であり,両者の鑑別は重要である.

高血圧患者における手術前の血圧管理

著者: 菊池健次郎 ,   沢井仁郎 ,   滝沢英毅 ,   石黒俊哉

ページ範囲:P.2130 - P.2132

●手術前の高血圧管理の要点
 高血圧患者が各種合併症の治療や二次性高血圧の根治治療として外科手術を必要とすることは少なくない.その際の術前の高血圧管理の原則,要点をまとめると以下のごとくなる1).①降圧治療は手術直前まで適切かつ十分に行う.②術者と打ち合わせ,術前の術式,手術侵襲の程度などを把握しておく.③その上で合併症の種類,程度,病態の特徴などを総合し,最適な降圧薬を選定,コントロールすべき血圧レベルを設定する.④手術前に使用していた降圧薬の種類,投与量.至適血圧レベルを外科医,麻酔医に伝達する.⑤術中,術後,殊に経口投与不可能症例に使用すべき降圧薬の種類,投与経路,投与方法を術前に外科医,麻酔医と相談し決定しておく.このような方法で血圧をコントロールすれば術中,術後も安全に高血圧管理を行うことができる.

合併症を伴う高血圧の治療

脳血管障害後の高血圧治療

著者: 高野健太郎 ,   藤島正敏

ページ範囲:P.2134 - P.2136

ポイント
1)脳血管障害急性期には脳血流の自動調節能は障害され,脳血流は血圧依存性に増減する.
2)脳梗塞・脳出血急性期の血圧上昇は自然降圧するため原則として降圧治療はしないが,脳出血の超急性期における血圧の異常高値・変動には十分な注意が必要である.
3)慢性期には再発防止のため脳循環に悪影響のない降圧薬により降圧治療を行うが,過度の降圧に注意する.

心疾患を伴った高血圧治療の実際

著者: 佐野博志 ,   横山光宏

ページ範囲:P.2138 - P.2140

ポイント
1)心疾患を合併した高血圧では,病態に即した治療法を選択する.
2)心肥大の退縮は,交感神経抑制薬,ACE阻害薬,Ca拮抗薬で認められる.
3)労作狭心症ではβ遮断薬が,安静時狭心症ではCa拮抗薬が適応である.その際,過剰降圧を避けるとともに,血圧以外の他の危険因子の是正に努める.
4)心不全では,ACE阻害薬が適応となる.利尿薬の使用に際しては電解質異常に注意する.

腎機能障害のある高血圧患者の治療の実際

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.2142 - P.2143

 腎機能障害を有する高血圧患者は表1のようにいくつかの型に分けることができる.これには治療上でも若干異なる.さらにこれらに加えて腎機能障害の程度によっても治療法が異なってくる.したがって,一概に治療法を述べることは難しい.さらに本態性高血圧と異なり,降圧レベルをどこに設定するかも明確にはされていない.現在拡張期血圧で95〜90 mmHg前後,収縮期で140mmHg前後が目標とされている.さらに過度の降圧は,腎血流量を減少させる恐れがあることより注意する必要がある.本稿ではまず一般の高血圧の治療と同様に非薬物療法と薬物療法とに分けて述べる.

糖尿病を伴った高血圧の治療

著者: 竹田亮祐

ページ範囲:P.2144 - P.2146

 高血圧症患者はしばしば耐糖能障害または糖尿病を伴っており,肥満,高脂血症,高インスリン血症などとともにインスリン抵抗性に基因する1つの症候群とみなす仮説が台頭してきた.この仮説の是非はともかく,高血圧は糖尿病におけるmacroangiopathyの重要な危険因子であるばかりでなく,microangiopathy(腎症,網膜症)の増悪因子とされている.したがって,高血圧のコントロールはこれら合併症の発症および進展を阻止する上できわめて大切である.ところが糖尿病を伴った高血圧の治療は時として逆説的な問題をはらんでいる.その1つはある種の降圧薬のもつ糖および脂質代謝に対する増悪効果であり,また一方で稀ながら起こりうる低血糖である.さらに合併症の進展した糖尿病例における起立性低血圧,また著しい収縮期性高血圧,あるいは末期腎症(ESRD)にしばしばみられる降圧薬に抵抗性を示す重症高血圧への対応の難しさである.ここでは糖尿病を伴った高血圧に対する治療についての現状を述べる.

高血圧と高脂血症を合併した症例の治療

著者: 大荷満生 ,   秦葭哉

ページ範囲:P.2148 - P.2151

ポイント
1)高血圧と高脂血症は,ともに動脈硬化性疾患の二大危険因子であり,両者の合併は動脈硬化の進展を相乗的に増加させる.
2)高血圧治療の目的は,それに引き続く動脈硬化性疾患の発症や進展を予防することである.このため,単に血圧を正常範囲に保つだけでなく,もう一方の危険因子である高脂血症の存在を見落とさないよう注意し,高血圧治療中に高脂血症を悪化させたり,他の危険因子をつくり出さないよう注意することが重要である.
3)高血圧の治療に際しては,降圧薬の脂質代謝への影響を十分に考慮し,高血圧と高脂血症の両方に好ましい薬剤を選択することが重要である.

鼎談

高血圧治療のポイント

著者: 三浦幸雄 ,   栃久保修 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.2152 - P.2168

 藤田(司会) 本日は「高血圧治療のポイント」をテーマに鼎談を開くことになりました.高血圧の治療の目的は,申すまでもなく高血圧性心血管系合併症の発症予防にあるわけで,臓器障害の予防という観点に立っと,比較的早期から治療を開始することが望ましいということになります.
 しかしながらその一方では,薬物療法,非薬物療法にかかわらず治療によってもたらされる患者への負担とか,不利益を考えると,早期からの治療は一概によしとするわけにはいかないわけです.それが高血圧治療のジレンマを生じることになろうかと思います.

Q&A

高血圧はなぜ治療するのですか.

著者: 上田一雄

ページ範囲:P.2038 - P.2038

A 高血圧を保持する多くの人達は自覚症状を欠き,元気に日常生活を送っている.しかし世界の先進諸国における疫学的研究では高血圧が循環器疾患の最大の危険因子であり,また高血圧を管理することにより,特に脳血管障害を予防できる可能性が示されている.高血圧の治療は,高血圧例の予後を改善するのみならず,循環器疾患を予防し,健常な老年期を過ごし得る点においても意義が大きい.高血圧の治療には非薬物療法,薬物療法があり,降圧薬もいくつかの異なる作用のものが開発されているが,治療法の選択基準は一概にはいえない.高血圧の人を注意深く観察し,血圧レベルとその変動,標的臓器障害の程度,合併する他の危険因子についての情報を把握する.その後治療法を選択するが,長期に密着して副作用その他の観察を行う.降圧薬を使用する場合でも,非薬物療法は重要で,その他の危険因子を改善し,降圧薬の効果を高めると期待される.

家庭血圧測定の指導とその評価は.

著者: 島田和幸

ページ範囲:P.2044 - P.2044

A 家庭血圧測定の指導を患者に行うときは,非常に神経質な人やノイローゼ傾向の患者は,むしろ対象にしないほうがよい.ある程度の知能と理解力,目的意識を持った人であることが望ましい.老人や身体的な障害のある患者は,自己測定は困難である.
 患者には,収縮期,拡張期血圧,心拍数の概念と,これらは時間変化するものであること,およびカブを正しく装着することの重要性を教える.1日の一定の時刻(できれば午前中)に連続2回測定させる.聴診法の場合は,できればY管を用いて,患者と同時に聴診し,コルトコフ音の聞き分け方を指導する.測定は,少なくとも安静5分後に,リラックスした坐位で腕を適切な位置に保って行う.心拍数も自動でないときは自分で数える.時々,自己測定が正確に行われているかチェックする.得られた血圧値の評価は,必ず医師に仰ぎ,降圧療法の方針について自己判断はさせない.

高血圧患者の初診時のチェックポイントは.

著者: 西尾一郎

ページ範囲:P.2048 - P.2048

A 高血圧患者の初診時に当たっては,高血圧の重症度と二次性高血圧の鑑別が重要となる.高血圧の重症度は,血圧値だけでなく臓器障害の程度も重要である.当科では,東大3内科高血圧重症度分類に沿って,脳,眼底,心,腎,血圧値の重症度を評価している.眼底も初診時に評価することが望ましい.また,血圧値は随時血圧のみでなく,家庭血圧を参考にしたり,携帯型自動血圧計による日内変動をなるべく早期に実施するようにしている.二次性高血圧の鑑別は,最近優れた検査法が開発されているが,問診・診察,検尿・一般検査が重要である.これらは,外来診療でも可能であるが,高血圧重症度の高い症例や悪性高血圧などはすぐ入院が必要であり,二次性高血圧の鑑別に際して,摂取食塩量を変化させたり,無投薬下での血圧管理ために入院を考慮する.

降圧治療に精神安定剤を用いてよいでしょうか.

著者: 藤井潤

ページ範囲:P.2061 - P.2061

A 不安や葛藤により高血圧が発症するという心身医学者の一派からみると,精神安定剤は高血圧の予防,治療に積極的に投与すべき薬剤かもしれない.しかし,精神安定剤の降圧作用は偽薬なみであり,知的活動に対するマイナス面もないとはいえない.したがって,高血圧患者に漫然と投与すべき薬剤ではない.
 適応となるのは,不安やいらいら感の強い高血圧患者,興奮しやすい高血圧患者などである.精神安定剤には筋弛緩作用があるので頭痛,肩こり,腰痛などの自覚症に有効のこともある.軽微な症状でも,個々の患者の自覚症に何の手も打たないのはよい臨床医とはいえない.本来の適応とはいえない不定愁訴に対し,苦しまぎれに少量の精神安定剤を投与することもある.かかる場合は,1〜2週で効果がなければ連用すべきではない.

K,CaやMgの摂取は高血圧の食事療法として有効か./臥位血圧と坐位血圧の違いについて.

著者: 吉村学 ,   久代登志男

ページ範囲:P.2067 - P.2067

A 本態性高血圧症ではK,CaおよびMgの尿中排泄量が多く,体内では負の出納を呈しやすい.特に,利尿薬を服用すると負出納は著しくなる.K,Ca,Mgは降圧的に働くことから,これらの不足は昇圧的に働き,その補充療法はミネラル・バランスを是正し,また降圧を促すことから,患者指導上重要である.肉,牛乳,いも,果物を主食とする欧米ではこれらミネラル不足はきたし難く,また生じても程度も軽く,したがって,これら食事療法はWHOや全米高血圧委員会の非薬物療法の指針に含まれていない.しかし,食生活を異にする本邦では米飯と塩物が主食でありまた,蛋白性食品摂取が少ないことから,K,Ca,Mg不足をきたしやすい.特に,降圧利尿薬が繁用される本邦では,Na利尿に伴いK,Ca,Mg利尿を呈することからその不足をきたしやすく,K,Ca,Mg補充療法は必須と考えられ,本邦独自の食事療法の確立が望まれる.Kの降圧効果はヒトおよび動物で認められるが,CaおよびMgは未だ欧米人では認められず,本邦人で摂取量を調べた上での検討が必要である.


A 臥位から坐位/立位をとると重力による血液の下半身へのシフトのため,右心への還流血液量と心拍量は一時的に減少する.それを補正するため,圧受容体反射を介した急性の反射性交感神経緊張が生じる.健常人では受動的立位により1回拍出量は減少するが,心拍数と末梢血管抵抗の増加により収縮期圧は維持されるか軽度低下する.拡張期圧は大動脈に拍出された血液が末梢に流れにくくなると増大するので軽度増加することが多い.これらの変化は,健常者では高齢者でも同様であるとされている.自律神経障害,末梢血管の機能異常,体液量減少(脱水,出血時),および本態性低血圧では立位時に収縮期,拡張期圧ともに著明に低下することがある.臥位と立位の収縮期血圧の差が20mmHg以上あれば起立性調節障害が存在すると考えられる.
 血圧は臥位と坐位/立位で異なっているが,高血圧の診断と血圧管理の指標としては,坐位での測定値が基準となっている.

高血圧を合併した妊婦に対して使用してよい降圧薬は.

著者: 斉藤郁夫

ページ範囲:P.2084 - P.2084

A 1)まず,非薬物的治療の可能性を最大限,追求する.
 2)降圧薬治療の適応について本当に必要か慎重に考慮し,患者に効果と副作用を十分に説明し,同意をえる.

『J型カーブ』とは何ですか.

著者: 築山久一郎

ページ範囲:P.2088 - P.2088

A 高血圧の治療上,降圧の程度を増すと冠動脈の灌流圧が冠循環の自動調節能の下限閾値を越えて低下し,このため降圧により冠循環障害をきたし虚血性心疾患の罹患率や死亡率は低下せず,むしろ増加すると生理学的に想定されてきた.Cruickshank JMら(1987)は高血圧902例を平均6.1年降圧薬治療すると,虚血性心疾患合併例で治療中の拡張期圧85〜90mmHgで心筋梗塞死が最低頻度となると発表した.治療中の拡張期圧がこれより高くても低くても心筋梗塞死が高頻度で,治療中の血圧値と心筋梗塞死の頻度の関係が『J』の関係を示すことから『J型カーブ』と呼ばれ,類似するSamuelsson Oら(1987,1990)やAIderman MH(1989)などの疫学的報告が続いた.『J型カーブ』の最低となる血圧範囲は拡張期圧85〜90mmHgとする見解が多いが,最近,81mmHg程度とする報告もあり,虚血性心疾患合併例でなくとも観察されている.しかし,批判も多く,その存在はなお論争中である.

睡眠時無呼吸症候群とは何ですか.

著者: 片山茂裕

ページ範囲:P.2092 - P.2092

A 睡眠中に1時間に5回以上の,あるいは一晩に30回以上の無呼吸あるいは呼吸低下を引き起こすものを,睡眠時無呼吸症候群(OSA:obstructivesleep apnea)と総称する.成人の1〜3%にみられ,男性に多い.いびきのみならず,日中にも傾眠傾向や記銘力の低下をきたす.無呼吸発作時には血圧は一過性に低下し,ついで上昇する.覚醒後さらに上昇し,平均48/32mmHgの血圧の上昇をみる.この原因として,低酸素血症が大動脈や頸動脈球に存在するchemoreceptorを刺激し,脳幹部を介して交感神経を刺激するためと理解されている.
 OSAは日中も高血圧を示すことが多く,本態性高血圧症患者の18〜35%にOSAがみられると報告されている.また,肥満者に多い.左室肥大をきたしたり,冠動脈硬化症の危険因子を合わせ持つために,突然死を含め心血管死が高率である.治療としてはまず体重を減少させる.アルコールやある種の降圧薬(利尿薬・β遮断薬・αメチルドーパ)がOSAを悪化させていることもあり,注意すべきである.

24時間携帯型自動血圧計にはどのようなものがありますか.

著者: 島本和明

ページ範囲:P.2096 - P.2096

A 24時間血圧測定計が普及し,日常診療での応用が容易になってきている.現在本邦で入手可能な機器について述べる.最も使用頻度の高いものはABPM-630(コーリン電子)(日本コーリン販売)である.重量780gで,CO2,ガスにより加圧し,オシロメトリック法とコロトコフ音法の両者による測定が可能である.価格はレコーダ30万円,解析装置50万円である.少々重いことと加圧にCO2ボンベを使用するため維持費がかかることが問題点としてあげられる.一方,同じ国産品としてTM-2420,TM-2020(タケダメディカル)(エーアンドディ販売)がある.重量390gと軽く,昇圧がモーターポンプでボンベが不要,更には価格もレコーダー23万円,解析装置12万円と安価であることが特徴となる.しかし,血圧測定がコロトコフ音法のみで,再測定の多いのが欠点となる.米国Space Labo社製のModel 90207(日本光電工業販売)も入手可能である.350gと軽く,オシロメトリック法で血圧測定するが,価格はセットで164万と高価である.

無症候性ラクネとは何ですか.

著者: 和田博夫

ページ範囲:P.2112 - P.2112

A 無症候性(asymptomatic)とは病変が存在するにもかかわらず自他覚症状のない病態を言う.またラクネ(lacunae)とは本来「小窩」あるいは「小さな空洞」を意味するが,ここでは脳内の小梗塞を意味する.最近無症候性脳梗塞について議論されているが,これは症状に出ないような微小脳梗塞がCTあるいはMRIで初めて偶然に発見されるものをいう.梗塞部位としては大脳深部白質や脳幹部が多い.大きな脳動脈の穿通枝である小血管に小梗塞が存在するにもかかわらず症状のないものが「無症候性ラクネ」である.梗塞部位にもよるが一般的には梗塞巣が小さい程無症候となる.無症候性ラクネの危険因子としての高血圧の関与は35%程度であり,症候性ラクネの場合程ではなく,また心房細動(特にNVAF)などの心疾患との関係が議論されている.しかし,その病的意味や予後(特に痴呆との関連)に関しては今後の検討が必要と考えられる.

高血圧は男性に多く女性に少ないのはなぜですか.

著者: 安東克之

ページ範囲:P.2129 - P.2129

A 閉経前の比較的若年の女性では原疾患を有しない本態性高血圧は男性に比較して少ない.また,女性の高血圧患者では心血管合併症の頻度も少ないことが報告されている.古くは,女性では毎月の生理出血により体液量が低めに維持されているために高血圧が起こりにくいという考え方もあった.少なくとも高血圧合併症に関しては卵巣摘除をしても閉経後と同様に頻度が増えるが,卵巣を残して子宮のみ摘出しても頻度は変わらないことから,エストロジェンの関与が示唆されている.実際,エストロジェンが血管壁に直接作用してコラーゲンの合成を抑制することが報告されている.最近では遺伝子の解析が進み,自然発症高血圧ラットのYクロモゾームに高血圧に関係する部位が存在することが示唆されている.また,同じ遺伝子でも性によって発現様式が異なる場合があり,高血圧に関与する遺伝子で男性では常染色体優性,女性では常染色体劣性を示す部位があるという報告もある.

血圧の正しい測定法は.

著者: 菊池健次郎

ページ範囲:P.2132 - P.2132

A 血圧を正しく測定するためには一定の条件下で行う必要があります.以下に聴診法による正しい血圧測定法(日循協血圧小委員会)の概略を述べます.①点検済の血圧計を用い,②マンシェットの幅は12cm,長さ22cm以上のゴム嚢を有するものを用い,③膜型の聴診器を使用する,④予め排尿させ,同一体位を5分以上安静下に保持し,数回の深呼吸後に測定する.⑤室温は20℃前後とし,⑥体位は外来では椅子坐位で,通常は右上腕で肘関節を伸ばし,測定部位は心臓と同じ高さにする,⑦マンシェットは,ゴム嚢の中央を上腕動脈の直上におき,指が1〜2本入る位に巻く,⑧まず,触診法で最大血圧を推定し,いったん圧を零に落とす,さらに推定圧値より30mmHg上に水銀柱を上げ聴診法で,⑨水銀落下速度は測定点付近では1拍動2mmHgとし,最大血圧(コロトコフ音第1点)と最小血圧(同5点)を測定する,⑩測定値は偶数値(2mmHg単位)で表し,中間の場合は低い値をとる.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・34

冠動脈バイパスグラフト狭窄に対するPTCA

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.2178 - P.2180

●冠動脈バイパス狭窄にPTCAを施行した例
 症例 60歳,男
 現病歴 42歳より労作狭心症,48歳より安静時狭心症が出現し,精査のため入院した.冠動脈造影により3枝病変のため,右冠動脈と回旋枝に大伏在静脈を用いてバイパス手術を施行した.57歳頃から軽労作でも狭心症が出現し,不安定狭心症の診断にて入院した.グラフトのdistalの右冠動脈に80%狭窄を認めた(図1A)ため,PTCAを施行し,25%と開大した(図1C).約6カ月後,急性心筋梗塞の診断により入院.右冠動脈(Seg3)とバイパスグラフト吻合部に,それぞれ99%狭窄を認め(図1D),PTCAにて25%に開大した(図1F).その後一時経過良好であったが,狭心症の増悪のため,さらに2回のバイパス再手術を受けたが,再梗塞を発症し,2回目のPTCA施行3年後に永眠した.

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・9

肺癌(5)—転移癌症例

著者: 松井祐佐公 ,   田中茂 ,   羽賀博典

ページ範囲:P.2188 - P.2193

症例1
 患者 69歳,女性
 主訴 胸部異常陰影の精査
 現病歴 1991年5月の市民検診で,右中肺野と左心陰影内に結節影を認め,精査治療目的で当科を受診.自覚症状は認めない.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2182 - P.2187

心エコー図演習

著者: 吉田清

ページ範囲:P.2195 - P.2200

41歳の男性が胸痛と労作時の呼吸困難を訴えて来院した
 既往歴 特記すべきことなし
 家族歴 父親が突然死しているが詳細は不明
 現病歴 5年前検診で心電図異常を指摘されたが放置していた.平成元年2月下旬より胸痛を自覚するようになったが,運動や労作とは関係がなかった.同年6月より労作時の息切れが出現するようになったため,近医を受診した.その際,胸部X線および心電図の異常を指摘され,精査のため当科を紹介された.

血液疾患診療メモ

汎血球減少症の臨床的アプローチ

著者: 岡田定

ページ範囲:P.2201 - P.2203

 日常臨床で血球数の異常が問題になることは多い.もっとも頻度の高いのは,赤血球数の減少(貧血)であるが,赤血球,白血球,血小板の3系統の血球数がすべて減少した汎血球減少症も稀ならず経験される.
 汎血球減少症をきたす疾患は表のようにまとめられる.その多くは血液疾患であり,骨髄検査により診断できるが,骨髄検査をしても診断できない血液以外の疾患もある.汎血球減少時には,白血球減少による重症感染症や血小板減少による重篤な出血の危険性が高く,初診時のプライマリ・ケアは重要である.

呼吸器疾患診療メモ

慢性呼吸不全急性増悪時の呼吸管理

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.2204 - P.2206

 慢性呼吸不全の急性増悪時の呼吸管理は,フグ中毒や有機燐性薬物中毒,気管支喘息発作重積状態などの急性呼吸不全のそれとは大きく趣きを異にする.急性呼吸不全の呼吸管理は,最大吸気圧測定値に反映される吸気筋力の低下や疲弊,肺活量や1回換気量その他の換気力学的パラメーター,A-aDO2,の開大などを指標として挿管や人工換気の適応基準が定められるのに対し,慢性呼吸不全の呼吸管理は,積極的または調節的酸素療法を最優先し,人工換気の導入は可及的に避けたいとするのが一般的である.とはいうものの,回復可能な患者の呼吸停止に対して人工呼吸を施すことに異論をはさむ余地はない.また,たとえ呼吸が停止していなくとも,外呼吸(換気と拡散)障害が重篤で薬物療法や従来の酸素療法その他に反応しない慢性呼吸不全の急性悪化の場合にも,人工呼吸が適用されることは論をまたない.

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「medicina」第28巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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