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雑誌目次

雑誌文献

medicina28巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

今月の主題 最新の肺癌診療

理解のための10題

ページ範囲:P.518 - P.520

的確な診断

X線写真の読み方と確定診断の進め方

著者: 大松広伸 ,   江口研二

ページ範囲:P.396 - P.405

ポイント
1)胸部X線像は肺癌診断の第一歩である.
2)ハイリスク症例や肺癌が疑われる症状があれば胸部X線写真をとらなければならない.
3)原発巣が小さくても先に転移症状が初発で発見される(とくに骨,脳など)ことがある.
4)肺門型扁平上皮癌は,腫瘤影より先に2次陰影や容積変化が出現しやすく,喀痰細胞診で陽性所見を得やすい.
5)小細胞癌は早期発見は困難であり,診断時すでにリンパ節転移や遠隔転移をきたしていることが多い.
6)腺癌では進展に伴う収縮性変化のため数カ月の経過では大きさが変わらないことがある.
7)肺野孤立性陰影は癌と良性疾患との鑑別が問題となることが多い.
8)同一人の経時的な比較読影が,精査か否かの振り分けに重要.
9)喀痰細胞診が陽性であっても可能であれば組織診を得ることが望ましい.とくに小細胞癌などでは治療方針にかかわり,また高分化腺癌などでは悪性か否かの境界病変もあり,判断の難しいことがある.
10)Thin slice CTなどの画像上癌が疑われるが確定診断が得られない場合は,現時点では開胸生検を行う必要がある.

肺野小型肺癌のCT診断—CTでどこまで診断できるか

著者: 山田耕三 ,   長嶺真生 ,   国頭英夫 ,   渡辺古志郎 ,   池秀之 ,   中村宣生

ページ範囲:P.406 - P.413

ポイント
1)CR断層写真,通常CTとthin-slice CTの描出能を比較してみると病変の辺縁の性状,周囲の血管・気管支の巻き込み像のいずれもthin-slice CTがすぐれていた.
2)thin-slice CTは1mm径の肺野の血管・気管支の同定が可能で小葉単位の読影に寄与すると考えられた.
3)画像診断のさらなる質的診断の向上のために,thin-slice CTの3次元的立体構築への転換を可能とするようなソフトの開発が今後必要と考えられた.

肺門部早期肺癌の気管支ファイバースコープ診断

著者: 雨宮隆太 ,   邵国光 ,   坪井正博 ,   永井完治 ,   輿石義彦

ページ範囲:P.414 - P.418

 肺門部(中心型)早期肺癌とは切除肺の病理学的検索にて肺門部(気管から区域気管支の範囲)の気管支に発生した原発性肺癌のうち,増殖範囲が気管支壁内に限局しており,リンパ節転移や血管侵襲を認めない腫瘍1)と規定されている.臨床的に肺門部早期肺癌は発生部位とその頻度より,一般には扁平上皮癌の早期例を指していると考えてよい.肺門部早期肺癌の確定診断法で最も重要なことは気管支ファイバースコープによる局在の識別であり,日本肺癌学会気管支鏡所見分類委員会2)では,表1のような内視鏡的肺門部早期扁平上皮癌の判定規準案を規定している.このような内視鏡的早期肺癌に該当する腫瘍は切除肺にて病理学的に早期癌と判定した症例の一部か,非切除例の微小癌例(8mm以下の腫瘍と仮定2))と考えてよい.本稿では内視鏡的に進行癌との鑑別が不可能な病理学的早期癌症例には触れず,内視鏡的早期扁平上皮癌の所見解析と気管支鏡による診断法についてのみ記述する.

肺門・縦隔リンパ節転移の画像診断

著者: 松井英介

ページ範囲:P.420 - P.424

ポイント
1)肺門リンパ節腫大の診断には通常の断層像が有力.
2)縦隔リンパ節の診断にはCTが必須.診断成績には,ばらつきあり.
3)CTによるN因子判定基準の策定.
4)リンパ節転移の質的診断技術が課題.

経気管支穿刺吸引法,縦隔鏡検査の有用性と限界

著者: 楠洋子 ,   福岡正博

ページ範囲:P.426 - P.428

 肺癌の病期決定に際し,縦隔リンパ節転移の有無は手術適応を含め,肺癌治療の選択と予後の重要な因子となる.CTやMRIを含む画像診断の進歩により,縦隔リンパ節腫大の診断率は著しく向上したが,その正診率は必ずしも高くない.病理学的に縦隔リンパ節転移を証明する方法として,経気管支鏡的に穿刺針を用い,気管・気管支壁を通してリンパ節を穿刺吸引して細胞を採取する方法(transbronchial aspiration cytology:以下TBAC)と,縦隔鏡を用いて直接組織を生検する縦隔鏡検査(mediastinoscopy)とがある.
 縦隔リンパ節の中でも気管分岐部リンパ節(#7)への転移は手術適応を決める上で重要であり,転移の頻度も手術例の51%と高率にみられる報告もある1)

心縦隔浸潤の画像診断

著者: 森裕二 ,   原田尚雄

ページ範囲:P.430 - P.433

ポイント
1)縦隔浸潤が比較的限局なT3であるか,あるいは浸潤が広範なT4であるかの画像診断が,手術適応を決定する上で重要である.
2)肺癌の縦隔浸潤では肺門部を経由する場合と胸膜腔を経由する場合の2つの経路を考えなければならない.
3)各々の検査法の長所と短所をよく理解した上で,予想される浸潤部位によって検査法の組み合わせを選択する必要がある.

新技術を応用した肺癌の早期発見

著者: 金子昌弘 ,   江口研二 ,   小野良祐 ,   森山紀之 ,   山田達哉 ,   池田茂人 ,   大山永昭

ページ範囲:P.434 - P.438

 癌の特徴として,末梢発生のタイプが多いが,これを早期に発見するためにはX線に頼らざるをえない.現在,直径2cm以下で転移のないものが早期癌とされているが,2cm以下であっても転移のあるものが多く,さらに小さなものを発見する必要に迫られている.しかし,間接フィルムでの診断には限界があり,新たな技術の応用が検討されている.最近,開発された各種の撮影技術やその組み合わせによる,末梢発生の肺癌の早期発見方法について解説する.

肺癌遠隔転移検索の臨床的意義

著者: 一瀬幸人 ,   原信之 ,   大田満夫

ページ範囲:P.440 - P.442

ポイント
1)肺癌遠隔転移検索を行う前に,患者の病状把握が重要である.
2)単独の遠隔臓器(とくに肺,副腎,骨)に異常が認められた場合,肺癌転移の診断には十分留意しなければならない.

癌性心のう炎,癌性胸膜炎の診断と治療

著者: 野田和正 ,   野村郁男

ページ範囲:P.444 - P.446

ポイント
1)肺癌に伴う癌性心のう炎は,肺癌患者の2〜5%にみられ,腺癌に多くみられる.
2)心のう持続ドレナージにて,薬剤(MMC,CDDPなど)を非吸収性ステロイドとともに注入し,一定時間留置後に排液する.心エコーで心のう水再貯留がなくなったら,抜管する.
3)心のう水のコントロールにより,PSやQOLの改善に寄与し,在宅可能となる.
4)肺癌に伴う癌性胸膜炎は日常しばしばみられ,腺癌に伴うことが多い.
5)中等量〜大量に貯留している場合には,胸腔内持続ドレナージを施行し,胸水排除後に薬剤(MMC,ADR,CDDP,OK-432など)を注入し,一定時間留置後に排液して,胸膜を固定し胸水の再貯留を防止する.
6)癌性胸膜炎は,胸腔における薬剤投与に対する癌細胞や生体の影響を観察することができ,癌治療のモデル的側面も持っていると言え,今後の研究の成果が待たれる.

Paraneoplastic syndrome

著者: 中田紘一郎 ,   坪井永保 ,   成井浩司 ,   中谷龍王 ,   中森祥隆

ページ範囲:P.448 - P.450

ポイント
1)paraneoplastic syndromeは悪性腫瘍の症状に先行して発現することがあるので,早期発見の手がかりとして重要である.
2)paraneoplastic syondromeを転移症状と誤認し,適切な治療法の選択を誤ることがあるので,随伴症候群の可能性を念頭に置いて診断する必要がある.
3)治療によって症状が変動することがあり腫瘍マーカーとしての利用価もある.

最新の治療

現在の肺癌治療のコンセンサス

著者: 児島章 ,   新海哲

ページ範囲:P.452 - P.453

ポイント
1)まず,病理学的確定診断をつけ,病期を決定することから治療が始まる.
2)肺癌の治療法は未だ確立されたものではなく,倫理的,系統的,かつ科学的研究を展開し,より優れた肺癌治療法の確立に全力を注ぐ時期であることを強調したい.

小細胞癌の治療

著者: 近藤英樹 ,   西條長宏

ページ範囲:P.454 - P.460

ポイント
1)様々な試みにもかかわらず,現在小細胞癌の治療成績はプラトーに達している.
2)小細胞癌では,標準的治療が確立されており,前治療のない症例に対する新抗癌剤のphase II studyには倫理上困難な側面がある.
3)多剤併用化学療法として,従来CPA,ADM,VCR併用によるCAV療法が標準的治療法とされてきたが,最近CDDP, VP-16によるPVP療法がこれに変わりつつある.
4)非交叉耐性化学療法は,理論的には魅力的な方法であるが,現状ではまだこれに価する化学療法の組み合わせは見つかっていない.
5)化学療法におけるdose-intensityを増強させる方法として,intensive multidrug weekly chemotherapyが試みられており,優れた治療成績を挙げている.
6)化学療法と併用する放射線療法の方法として,最近concurrent法と,hyper-fractionation法が注目されている.
7)CRないしgood PRの得られた症例に対してPCIが考慮されるが,現時点ではPCIの意義は確立されていない.
8)pNO例の切除成績は良好であるが,手術療法の小細胞癌治療における意義は確立されていない.

非小細胞癌の治療

著者: 国頭英夫

ページ範囲:P.462 - P.467

ポイント
1)進行肺非小細胞癌において化学療法は一定の延命効果は認められるものの,基本的にはinvestigational therapyである.
2)現在化学療法の成績向上のため,薬剤の投与法の再検討や新薬の開発が行われている.
3)III期症例に対しては,同じIII期の中でも進行状況にかなりの差があることを認識し,各々に対しstudyを展開していく必要がある.

肺癌の手術療法

著者: 成毛韶夫 ,   野坂哲也

ページ範囲:P.468 - P.471

 肺癌患者は急速に増加しており,その死亡数も年々増加し,先頃発表された1988年度の人口統計でも死亡数は胃癌についで男女とも2位であり,まもなく第1位になることが予測されている.CTやMRIなど最新の機器の導入により肺癌の診断法は著しく進歩しているにもかかわらず,その切除率はいまだ40%程度であり,非切除例を含めた肺癌全体の5年生存率は20%と胃癌などに比較して治療成績は不良である.その理由は,患者の75%が来院時すでにIII・IV期の進行癌であることに他ならず,肺癌においてもやはり早期発見,早期治療がきわめて重要であると言えるであろう.また,他の癌と比べ多種類の組織型による進展の多様性が治療をより困難なものにしていることも挙げられる.実際に肺癌患者を治療するにあたって,その治療方法は患者の病期・組織型・全身状態を把握した上で決定されることになる.ここで述べる手術療法も日々進歩し安全性も向上,国立がんセンターではより早期の離床を目指すことにより,多くの患者が手術後2週間以内に退院して行くのが現状である.以下,各種の手術療法とその適応,成績について述べてみたい.

Neoadjuvant,Adjuvant化学療法

著者: 西山祥行 ,   西脇裕 ,   児玉哲郎

ページ範囲:P.472 - P.477

ポイント
1)小細胞癌の治療においても外科療法が見直され,Neoadjuvant治療法の1つとして組み込まれ,一定の効果がみられる.
2)小細胞癌のI期例に対する外科切除とその後のAdjuvant化学療法は有効である.
3)肺非小細胞癌に対するAdjuvant化学療法はシスプラチンなどの出現により成績の向上が期待される.
4)肺非小細胞癌に対するNeoadjuvant化学療法は期待されているが,その評価は今後のことである.

肺癌に維持療法は必要か

著者: 田村友秀 ,   西条長宏

ページ範囲:P.478 - P.481

 “維持療法”の明確な定義はなく,日常広い意味で漠然と使われることが多い.維持療法を初回治療で得た最大効果を維持するための治療法と考えると,一般には少し弱めの治療を初回治療に引き続き行うような印象を持つ人が多いかもしれない.しかし,このような維持療法が成り立つには,初回治療において十分な効果が得られること,その維持療法の有効性が確立していることが大前提である.他項で述べられているように肺癌化学療法の効果はいまだ不十分であり,現在の最大の課題は,今得られる化学療法効果を維持することではなく,初回治療での効果を増強することにあるといえる.他方,化学療法有効例に対してその化学療法をいつまで続けるかという治療継続期間の意味での維持療法は,患者のQOL(quality ofIife)を考えても,臨床試験のデザイン,また結果の評価においてもきわめて重要な問題である.したがって,本項では,主に初回化学療法の至適治療継続期間という意味を含む“維持療法”について検討してみたい.

肺癌患者の疼痛対策

著者: 水口公信

ページ範囲:P.482 - P.484

 最近,肺癌患者の疼痛治療の依頼を受ける機会が増加し,その大部分の症例は末期癌患者である.そのため鎮痛対策と同時に患者の死を看とるための人間的医療が望まれる.筆者らは過去3年間に経験した肺癌症例を中心に,疼痛機序と鎮痛対策,心理的対応を解説する.

肺癌治療における消化器症状対策

著者: 弦間昭彦 ,   仁井谷久暢

ページ範囲:P.486 - P.488

ポイント
1)Cisplatinによる悪心,嘔吐の対策として,metoclopramide,domperidoneやcorticosteroidなどが使用されているが,満足な結果は得られていない.現在,5-HT 3受容体遮断剤の臨床検討が行われ期待されている.
2)Vink alkaloidなどによる麻痺性イレウスは可逆性だが,prostaglandinの投与が行われることもある.
3)CPT-11による下痢は将来,問題になると考えられ,塩酸モルフィンなどの投与や輸液管理が必要とされる場合がある.
4)口内炎に対しては口腔内洗浄や局麻剤の塗布を行う.methotrexateによる場合は,leukovorinによる洗浄が有用である.

肺癌治療におけるlnformed consent

著者: 久保寺いづみ ,   浦ユリ子

ページ範囲:P.490 - P.492

 医療を進める上で,Infomed consent(以下IC)を求める声は最近とみに高まり,医師の裁量一つで治療方針が決められ患者はそれに従うといった時代は過去のものとなりつつある.とくに肺癌の治療法を考えると化学療法単独ではほとんど治癒を期待できず,しかも副作用の程度は強い.また放射線照射や外科手術も他の悪性腫瘍に比べ,満足するような成績は得られにくい.治療後の呼吸機能の低下やそれに伴う日常活動の制限も深刻な問題である.このような治療を選択するとき,患者本人のその人なりの人生観が反映される必要があるのではないだろうか.また患者の治療に対する積極性を維持する上でもICがきわめて重要といわれている1).ICをとる上では,病名の告知はもとより,それ以外の情報も提供しなければならず,米国ではこれらの情報を本当に患者が理解できているかについても問題提起されている2).しかし,日本では病名の告知自体がほとんどなされておらず,家族に告知した上で本人には偽りの病名を告げ,治療しているのが大部分であるので,以下本稿ではICの前提条件となる癌の告知について述べる.

肺癌患者のQuality of Life

著者: 吉田清一

ページ範囲:P.494 - P.498

ポイント
 肺癌患者のQOLを高いレベルに保つため,
1)症状コントロールと同時に心理面のケアーについて,先ずホスピス医療から学びながら,日本独自の文化性になじむ全人的な医療の実践が求められる.
2)闘病中の各断面において,目的に適したQOLの物差しを開発して,客観的評価が必要である.

肺癌のレーザー療法

著者: 加藤治文 ,   斉藤宏 ,   小中千守 ,   土田敬明

ページ範囲:P.500 - P.502

ポイント
1)肺癌のレーザー治療はNd-YAGレーザーに代表される高出力レーザー治療と,光感受性物質と低出力レーザーを用いたPhotodynamic Therapy(PDT)の2つに分けられる.
2)Nd-YAGレーザーは速やかに腫瘍を焼灼できるため救命救急的な気道の開大を目的に照射される他,気道の狭窄,閉塞を伴う腫瘍に適応がある.
3)PDTは高齢,基礎疾患などで手術適応とならない中心型早期肺癌の良い適応である.また進行癌では気道閉塞を改善することにより全身状態を改善し,他の合併療法を行うことを目的に照射される.

トピックス

肺癌とモノクローナル抗体

著者: 岡部哲郎

ページ範囲:P.504 - P.507

ポイント
 肺小細胞癌に対するモノクローナル抗体の臨床応用について述べた.
1)現在まで多数の肺癌のモノクローナル抗体が作成されているが,画像診断など臨床応用に実際的に使える抗体は少なく,抗CEAモノクローナル抗体による画像診断のようにコンピューターでサブトラクションして,ようやく判読できる程度の報告が多い.
2)筆者らが作成したモノクローナル抗体は特異性が比較的高く,テクネシウムに標識することにより画像診断など臨床応用が可能であった.
3)喀痰や胸水,骨髄中の腫瘍細胞の検出はモノクローナル抗体により高い検出率を得られる.
4)モノクローナル抗体を用いて喀痰細胞診により,high risk groupのスクリーニングが可能か否か扁平上皮癌を含めた今後の検討が待たれる.
5)自家骨髄移植を併用した小細胞癌の治療で,モノクローナル抗体を骨髄中の腫瘍細胞除去に用いることができる.

肺癌の腫瘍マーカー

著者: 有吉寛

ページ範囲:P.508 - P.510

ポイント
1)肺癌の臨床で汎用されている腫瘍マーカーの臨床的有用性を,発現の確率,組織型との相関,病態や治療効果の反映,予後との相関,その他の臨床的情報の有無などの観点から評価した.
2)現時点においてはCEA, SCC, SLXおよびNSEはそれぞれ上記の項目のいくつかについて,臨床的に有意義な情報をもたらす可能性が高い.
3)その情報とは,非小細胞癌と小細胞癌の鑑別または組織型の示唆,stagingの補助手段,治療効果判定,臨床経過のモニタリングあるいは予後因子などである.こうした状況から肺癌の臨床において,腫瘍マーカーはきわめて重要な武器になりつつある.

肺癌の前癌病変

著者: 児玉哲郎

ページ範囲:P.512 - P.514

ポイント
1)扁平上皮癌の前癌病変として,異型扁平上皮化生(異形成)があり,ときに上皮内癌に接して異型扁平上皮化生を認める.しかし,前癌病変を経ない“de novo発癌”も経験される.
2)腺癌の前癌病変として,異型腺腫様過形成があり,腺癌例,多発癌例で高頻度にみられる.腺癌を囲んで異型腺腫様過形成が存在する症例が,高分化乳頭腺癌にみられ,異型腺腫様過形成からの腺癌発生を示唆する.異型腺腫様過形成は,腫瘍性病変であって,腺腫と呼ぶべきとの意見もある.
3)小細胞癌,大細胞癌においては,現在のところ前癌病変の存在は,確認されていない.

肺小細胞癌の生物学的特性

著者: 下里幸雄

ページ範囲:P.516 - P.517

ポイント
1)小細胞癌の発生ならびに増悪とかかわる染色体ならびに遺伝子異常が明らかになってきた[3p(-),13q(-),17p(-);myc genes]
2)神経内分泌細胞への分化を示す.GRPはautocrine growth factorとして,またNSEとともにmonitoring markerとして重要である.またcluster 1 small celllung cancer antigen(NCAM)を認識する抗体が注目を浴びている.
3)形態と生物学的性状から,定型と亜型に分けられ,増殖性・治療に対する反応など臨床上にも反映しているようであるので,新しい組織分類が提唱されている.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・25

Vinebergの手術

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.522 - P.524

●Vinebergの手術を施行した例
 症例 71歳,男
 現病歴 55歳の頃から駅の階段歩行時や平地歩行でもスピードを速めると胸部圧迫感があった.当院外来を受診し,労作性狭心症の診断を受け,精査のため入院をすすめられた.
 冠動脈造影では前下行技と右冠動脈に75%狭窄を認めたため,昭和40年10月,内胸動脈を左室前壁心筋内に植え込むVinebergの手術を受けた.術後狭心症は軽快し,再び外来通院加療を受けていた.

非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

興味ある左室流入様式の変化を示した拡張型心筋症の1例

著者: 大木崇 ,   福田信夫 ,   井内新 ,   小川聡 ,   細井憲三 ,   藤本卓

ページ範囲:P.532 - P.542

■心音図・心機図所見
 図1は,入院時および病態改善時の心尖部低音心音図と心尖拍動図を示す.
 入院時には,心音図上明瞭なIII音と小さなIV音を認める.63歳という年齢を考慮すれば,これらの所見は明らかに病的であり,左室拡張期荷重増大の存在を考えるべきである.その理由は,一般に加齢とともに左室心筋の拡張期伸展性は低下するようになり,高齢者ではIII音よりもIV音のほうが優勢になることが多いためである.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.526 - P.531

内科専門医による実践診療EXERCISE

食後上腹部痛/全身倦怠感,意識障害/多飲,多尿,頭痛

著者: 外山学 ,   矢崎一雄 ,   霜山龍志

ページ範囲:P.543 - P.548

 35歳男性.飲酒歴があり,以前は1日5合,最近はウイスキーストレート1杯.以前より胸やけがあったが,9月6日より上腹部痛出現.食後,痛みが増すとのこと.便は軟らかいが,タール便ではない.周囲に同症状の人はいない.輸血歴はなく,4年前に献血をしている.家系にHBキャリアといわれた人はいない.
 一般身体所見:血圧130/90,体温36.8℃.結膜貧血はないが,黄疸著明.心肺異常なし.腹部は軟らかいが,上腹部に圧痛がある.肝脾触れず,静脈怒張もない.手掌紅斑なし,クモ状血管腫なし.

検査

検査データをどう読むか

著者: 露岡清隆 ,   神奈木玲児

ページ範囲:P.550 - P.554

 症例:K. S.,68歳,男性.主訴:食欲不振,全身倦怠感.家族歴:父,心不全,母,心筋梗塞,姉,肺結核,脳梗塞.既往歴:昭和48年,胃潰瘍,昭和56年より狭心症.現病歴:昭和56年秋より狭心症の診断のもとに,近医で通院加療を受けていた.昭和62年12月,狭心症発作のため,同院入院.入院時,貧血を指摘され,合計1,600mlの輸血を受ける.その後,軽快退院した.昭和63年3月28日同様の狭心症発作のため,同院入院.再度貧血を指摘され,1,600mlの輸血を受ける.4月末頃より,全身倦怠感,食欲不振,黄疸,肝機能異常出現.精査,治療目的で,5月10日本院転院となる.飲酒歴(-).入院時現症:身長159.0cm,体重49.0kg,体温36.4℃,心拍:74/分,整,血圧:114/60,意識:清明,皮膚:土色の色素沈着および著明な黄疸,眼球結膜:著明な黄疸,前胸部:クモ状血管腫あり,四肢:手掌紅斑あり,バチ状指あり,下腿浮腫なし,表在リンパ節:触知せず,心肺:異常なし,腹部:肝を8cm触知,辺縁鈍,硬く,圧痛あり.脾:触知せず,腹水なし,直腸診にて痔核あり.神経学的に特記事項なし.

血液疾患診療メモ

血液疾患で見逃されやすい検査値の異常

著者: 岡田定

ページ範囲:P.556 - P.557

 血液疾患に伴って検査値の異常を認めることは多い.しかし,その異常が重大な血液疾患を示唆しているのに見逃していたり,生体内には異常がないのに検査値が偽性の異常を示して診断を誤ることもある.1)血清膠質反応の異常,2)血沈,CRPの異常,3)検査値の偽性の異常,の3つについて概説してみたい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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