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雑誌目次

雑誌文献

medicina28巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

今月の主題 輸液療法の実際

理解のための代表的臨床例10題

ページ範囲:P.1074 - P.1081

電解質輸液の進め方

輸液を必要とする患者へのアプローチ

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.926 - P.928

ポイント
1)輸液を必要とする患者が来院した場合に,まず必要とされることは情報の収集を行うことである.
2)その入力情報としては病歴,身体所見,検査所見などがある.
3)これらを輸液量という定量的な出力情報に変えてゆくには,どのような論理に基づいて思考を進めるかを中心に解説した.

これだけは知っておきたい輸液の基礎知識

著者: 木嶋祥麿

ページ範囲:P.930 - P.931

ポイント
 輸液療法に関しては投与する溶液にいろいろな単位があるので,目的に応じた濃度表示で投与量を決定していかねばならない.また近年,国際単位系が普及してきているので,これらについての認識も必要である.

これだけは知っておきたい検体を出す際の注意

著者: 星野忠 ,   河野均也

ページ範囲:P.932 - P.934

ポイント
 体液中電解質の測定結果は検体の採取や保存条件に大きく影響される.
1)溶血を避けて採血することが大切.
2)血液はなるべく速やかに血清に分離を.
3)全血のまま保存する場合は室温に保存.冷蔵保存は厳禁.
4)血漿で測定するときはヘパリンリチウムを抗凝固剤に.
5)血小板や白血球が増加した症例では血清カリウムが高値を示す.
6)電極法による測定ではプロム含有薬剤の投与でクロールが高値を示すことがある.

体液バランスの評価の仕方—水分調節と水代謝異常

著者: 清水倉一

ページ範囲:P.936 - P.940

 輸液に当たっては,患者の病態を迅速に把握し,的確に対応することが要求される.このためには,水電解質代謝の理解が不可欠である.本稿では水代謝の生理と病態生理についての基本事項を解説する.

体液バランスの評価の仕方—電解質調節と電解質代謝異常

著者: 大和田章 ,   富田公夫

ページ範囲:P.942 - P.944

ポイント
1)電解質異常では,高□血症では,電解質過剰,電解質濃縮のどちらが主たる原因なのか,また,低□血症では,電解質欠乏,電解質希釈のどちらが主たる原因なのかを鑑別する必要がある.
2)低Na血症では,尿中Na排泄量測定が鑑別に有用で,腎性では,尿中Na濃度≧20mEq/lで,腎外性では,腎機能正常であれば,尿中Na濃度≦10mEq/lである.

体液バランスの評価の仕方—酸塩基平衡とその異常

著者: 北岡建樹

ページ範囲:P.946 - P.948

 正常人においては,血液中の酸素(pH)は7.4±0.05の限られた範囲に調節されている.この体液中のH+濃度の恒常性を調節する機構を酸塩基平衡というが,主として体液中の緩衝系(buffer),肺,腎により調節されている.体内における緩衡系の中でも炭酸―重炭酸系が最も量的に大きく,しかも肺と腎における作用との関連が深く重要である.この炭酸―重炭酸系におけるHenderson-Hasselbalchの式は,血液のpHを規定する次のようなよく知られた関係式で表すことができる.

投与されたNa,Nを尿中に排泄するのに必要な尿量の求め方

著者: 齊藤博

ページ範囲:P.950 - P.951

ポイント
1)食事やIVHなどに含まれるNとNaは浸透圧負荷となり,尿量に関係してくる.
2)多くの場合,患者は自分で飲水量を調節し,自然に体内の恒常性は保たれる.
3)尿濃縮能低下のため等張尿や低張尿しか出せない場合で,しかも患者が自分で自由に飲水できない状態にあるときは,輸液量あるいは総水分投与量の設定が少なすぎると電解質異常をきたすことがある.

体液欠乏量の求め方

著者: 飯田則利 ,   水田祥代

ページ範囲:P.952 - P.954

ポイント
1)欠乏量の推定には,病歴の聴取,臨床所見の把握が基本である.
2)入院患者では,バランスシートからの算出が簡便である.
3)欠乏量算定の種々の計算式は,あくまでも一つの目安であり,病歴,臨床所見より総合的に判断しなければならない.

輸液量と輸液組成の決め方

著者: 古屋清一

ページ範囲:P.956 - P.959

 細胞外液は細胞の培養液であり,その性状が一定の範囲に維持されなければ細胞の生命は維持できない.また,ヒトなどの多細胞動物では,物質交換のために培養液を循環させる必要があるため,その量も一定の範囲に維持されなければならない.
 ここでは,細胞外液の代謝(turnover)は細胞活動の総量に比例するという考え方に基づいて,その指標としてエネルギー代謝量を用いた方法を述べる.エネルギー代謝量を基準にする考え方は,老人や小児の場合などにも柔軟に対応することができる.

輸液療法のモニタリング

著者: 松川重明

ページ範囲:P.960 - P.963

ポイント
1)輸液療法の施行に際しては,病歴,臨床症状,臨床検査所見を総合的に判断して,水・電解質異常の病態と程度を的確に診断し,異常に見合う輸液量と輸液速度の決定を行う必要がある(単一のパラメータのみで水・電解質異常を的確に判断しうるものはない).
2)尿中電解質の測定は,電解質異常の原因が腎外性か腎性かの鑑別に重要で,かつ腎外性異常の場合,体内の異常をよく反映する.
3)体重の変化は体液量の変化の最も鋭敏な指標であり,1kg/日以上の体重変化は体内総水分量の変化と考えられる.
4)輸液計画は患者の病状に応じて,一定の間隔で立案して,適宜その量と内容を検討する.この際バランスシートによる輸液管理は有用であるが,何日分も加算すると誤差が大きくなるので,常に現症との比較を行う.
5)輸液療法の施行中は輸液量と輸液速度の安全限界を念頭におき,輸液による医原性の異常を付加しないように注意する.

輸液製剤の分類と特性

著者: 清水禮壽 ,   平林由広

ページ範囲:P.964 - P.968

ポイント
1)血清電解質の測定および血液ガス分析に基づいて,体液の変化を的確に把握し,いくつかの輸液製剤を組み合わせることによって対処する.
2)輸液剤の選択に際して各輸液剤の組成,特徴および使用上の注意をよく理解しておく.
3)等張複合電解質輸液剤は細胞外液の補給に適している.
4)低張複合電解質輸液剤は水として本来の性質を保持している自由水の補給に適している.
5)糖質の補給にはブドウ糖を使用する.
6)酸-塩基平衡に異常がみられる場合には輸液剤のみで電解質異常に対処することはできない.

輸液療法の合併症とその対策

著者: 申性孝 ,   和泉雅章 ,   折田義正 ,   鎌田武信

ページ範囲:P.970 - P.972

ポイント
1)輸液療法を開始する前に病態を正確に把握することが重要である.
2)輸液製剤の選択,投与量,投与速度などは病態によって決定されなければならない.
3)輸液療法施行中は臨床症状,血清電解質,酸塩基平衡,尿中電解質,血糖などに注意する必要がある.
4)カテーテル留置に伴う主な合併症は静脈炎,感染,血栓形成などである.

高カロリー輸液の進め方

高カロリー輸液を始める必要のある患者へのアプローチ

著者: 小野寺時夫

ページ範囲:P.974 - P.977

●高カロリー輸液か経管栄養かの適応の判断
 栄養管理が必要になった時,先ず高カロリー輸液と経管栄養のどちらが適切であるかを判断する必要がある.高カロリー輸液は原則として経腸栄養が不可能か,経腸栄養だけでは不十分な時に限って用いるべきものである.
 経腸栄養のほうが,無菌管理を厳重にしなければならないなどの管理が煩らわしくなく,菌血症やカテーテルトラブルなどの合併症も少なく,より生理栄養補給経路で,費用も高カロリー輸液に比較して著しく少なくて済む.

栄養アセスメント

著者: 根津理一郎 ,   岡田正

ページ範囲:P.978 - P.980

ポイント
1)栄養アセスメントとは,患者の栄養状態を科学的,客観的に評価することであり,栄養療法適応の決定,投与組成,量の選択,栄養療法の効果判定に重要と考えられる.
2)栄養状態は,各種栄養指標の意義,特性を理解し,総合的に評価する必要がある.

適正投与量の決め方—カロリー,糖,アミノ酸,脂肪

著者: 真島吉也

ページ範囲:P.982 - P.985

 栄養輸液施行にあたっては,どの位のエネルギー量をどのような糖,アミノ酸,脂肪比率で投与するかが問題となる.これらの適正投与量の決定には,通常の経口栄養の知識が理論的背景となろうが,輸液という特殊な投与方法のため,使用可能な栄養輸液製剤,投与できる水分量,あるいは患者の病態などの様々な条件も考慮する必要がある.以下に静脈栄養の組成を考えるに必要な事項を挙げ,種々病態下の静脈栄養輸液組成につき,これまでの筆者らの検討結果より述べてみたい.

適正投与量の決め方—Ca,Mg,P,微量元素とビタミン

著者: 柏崎修 ,   久保宏隆 ,   吉井修三

ページ範囲:P.986 - P.990

ポイント
1)高カロリー輸液が実用化される前は,その補給の必要性がほとんど問題にならなかった電解質のカルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),リン(P)なども,適正投与量が注目されるようになった.
2)高カロリー輸液の適応の拡大や,長期施行例の増加に伴い3大栄養素,電解質の他に微量元素・ビタミンの投与の必要性が認識されている.
3)長期高カロリー輸液症例に,種々の微量元素・ビタミン欠乏症の報告などがみられ,微量元素・ビタミンの適正投与量が注目されるようになった.

高カロリー輸液製剤の分類と特性

著者: 長谷部正晴

ページ範囲:P.991 - P.997

ポイント
1)高カロリー輸液用基本液を用いる場合は,糖質の種類,糖濃度,電解質組成,の違いを認識しておかなくてはならない.
2)現在用いられている主なアミノ酸液は,アミノ酸組成のバランスを重視したタイプの製剤と,病態別アミノ酸製剤である.
3)現在では,これらの基本液とアミノ酸液を適切に組み合わせて投与し,さらに脂肪乳剤を適宜用いることにより,多くの患者に対して有効なTPNを行うことが可能になった.
4)高カロリー輸液剤に関する当面の課題は,輸液剤調製のさらなる簡便化と,新しいアミノ酸製剤,脂肪乳剤,また微量元素製剤の開発である.これらの課題はすでに取り組まれており,近い将来,より安全なTPNが一層広く行われるようになり,またさらに多くの病態に適した栄養法が現実のものとなろう.

高カロリー輸液の手技とその管理法

著者: 前田純 ,   山川満

ページ範囲:P.998 - P.1002

ポイント
1)無菌操作の徹底
2)安全で確実なカテーテル留置と合併症防止
3)輸液調製時の汚染防止
4)輸液ラインからの汚染防止
5)フィルターとエンドトキシン
6)一体型TPN専用輸液ラインなどの新素材の採用

高カロリー輸液療法のモニタリング—実施前・実施中の検査

著者: 竹山廣光 ,   谷口正哲 ,   由良二郎

ページ範囲:P.1003 - P.1005

ポイント
1)ベッドサイドにおける注意深い観察が最も重要である.コツは患者の訴えを良く聴くことである.
2)尿糖の出現・体温の上昇は重大な病態変化を意味する.
3)最も危険な合併症は非ケント性高浸透圧性昏睡である.尿糖・血糖・尿量を確実にチェックする.
4)すべての合併症を念頭において疑いながら検査し,評価する.

在宅中心静脈栄養法(Home Parenteral Nutrition)

著者: 高木洋治 ,   岡田正

ページ範囲:P.1006 - P.1010

 患者のquality of lifeの向上,医療費の節減をもたらすものとして在宅中心静脈栄養法(HomeParenteral Nutrition;HPN)が行われる.

高カロリー輸液療法の合併症と対策

著者: 溝手博義 ,   柳瀬晃 ,   掛川暉夫

ページ範囲:P.1012 - P.1015

ポイント
1)挿入手技に関した合併症
気胸,動脈穿刺,血腫,血胸,空気塞栓,Mislodging,Misplacement,神経損傷,胸管損傷
2)留置に関した合併症
Extravasation of fluid,カテーテル塞栓,血栓症,カテ熱,敗血症
3)代謝に関した合併症
高血糖,浸透圧利尿,低血糖発作,電解質異常,酸塩基平衡異常,肝機能異常,肝腫大,高アンモニア血症,必須脂肪酸欠乏症,Zn欠乏症,Cu欠乏症,ビタミン過剰症
4)絶食に関した合併症
胆汁うっ滞,消化管粘膜の萎縮

各種病態における輸液療法の実際—私の処方

低Na血症の是正

著者: 石田尚志 ,   安田隆 ,   近藤聡 ,   前田昭生

ページ範囲:P.1016 - P.1018

ポイント
1)低Na血症の治療に先立って,病歴の聴取・身体所見,検査所見から原因あるいは疾患の病態を把握する.
2)治療は一般に血清Na 130mEq/lを目標とし,2〜3日以上かけて行う.急速な補正が必要な場合には,血清Na 125mEq/lを目標とする.
3)治療開始後は臨床経過と治療効果をみながら適時対処していく.

高Na血症の是正

著者: 竹内正至 ,   飯野靖彦

ページ範囲:P.1019 - P.1021

ポイント
1)高Na血症は,自力で飲水不能な幼児や老人で頻度が高い.
2)血清Na濃度160mEq/l以上の死亡率は高い.
3)循環血漿量の減少がある場合は,まずその是正を行う.
4)発症が急性か慢性かで是正する時間も異なる.

低K血症の是正

著者: 安藤明利 ,   二瓶宏

ページ範囲:P.1022 - P.1024

●生体のK代謝
 生体のK量は体重1kg当たり約50mEqで,98〜99%は細胞内に分布する.生体のKバランスはKの摂取と排泄よりなる.摂取Kの10%は便中に排泄され,残りの90%は腎より排泄されKバランスが保たれている.腎不全例で尿中への排泄量が減少し,その代償として大便中への排泄量は総排泄量の20〜35%程度にまで上昇する.この大腸でのK分泌にもアルドステロンが関与している.

高K血症の是正

著者: 塚本雄介

ページ範囲:P.1025 - P.1027

●高K血症治療の原則
 Kは細胞内に圧倒的に多く(130〜180mEq/l),細胞外に少ないため(3.5〜4.8mEq/l),血清K値が必ずしも体内蓄積量を反映しない.このことから血清K値を補正する場合その補正量の正確な予測は不可能である.また,細胞内外のK濃度異常は膜電位を変化させ,心電図に変化をきたす.このため高K血症でも,低K血症でも心電図の変化がその重症度を判定する決め手となる.高K血症の症状としては,しびれ感,痙攣などが挙げられるが,こうした症状よりも致命的な心室細動のほうが先行する場合が多い.したがって,心電図をモニターすることが必須である.一般に,血清K値が6.0mEq/l以上になると治療を考えるが,その値にかかわらずT波増高に加え他の心電図変化(図1)がある場合は緊急治療が必要である.まず緊急性の有無を判断した後原因の鑑別とその治療に移る.

アシドーシスの是正

著者: 永野正史 ,   多川斉

ページ範囲:P.1028 - P.1030

ポイント
1)代謝性アシドーシスには様々な病態が含まれており,アシドーシス是正目標は病態によって異なる.
2)乳酸アシドーシスには循環不全を伴っていることが多く,基礎疾患の治療と誘因の除去が最優先される.
3)ケトアシドーシスでは,インスリンの十分な投与と輸液が重要である.
4)腎不全に伴う代謝性アシドーシスに対しては,重曹の経口投与によってHCO3-を20mEq/lに維持する.
5)サリチル酸剤やアミノ酸輸液によって薬剤性アシドーシスをきたすことがある.
6)尿細管性アシドーシスは続発性のことも多く,原因疾患の診断と治療が必要である.
7)急性呼吸性アシドーシスには乳酸アシドーシスを合併することもある.

アルカローシスの是正

著者: 花井順一 ,   内田俊也

ページ範囲:P.1032 - P.1034

ポイント
1)代謝性アルカローシス,呼吸性アルカローシスは病態であり,治療はまず原疾患に向けられるべきである.
2)代謝性アルカローシスの鑑別には尿中Cl濃度の測定が有用である.多くは低K血症を合併しており,KClによるK補給が必要である.
3)呼吸性アルカローシスに対しては,原則として酸剤・呼吸抑制剤を用いるべきではない.

嘔吐と下痢の輸液療法

著者: 高添正和 ,   瀬田克孝

ページ範囲:P.1036 - P.1038

ポイント
1)原疾患の治療を積極的に行う.
2)喪失消化管液の内容に応じた電解質補給を行う.
3)腎前性高窒素血症(BUN/Creat.>20,尿中Na+<20mEq/l)を指標とし,有効循環血液量の評価と補正を行い,併せて中心静脈圧などのモニタリングにより輸液過剰に伴ううっ血性心不全に注意する.

心不全の輸液療法

著者: 須藤憲一

ページ範囲:P.1040 - P.1042

 心不全は心臓のポンプ機能の障害により組織に必要な量の血液を供給できない状態を指すが,その病態は様々である.全身あるいは肺循環のうっ血をきたすため臨床的にはうっ血性心不全と呼ばれる.
 心不全の原因としては心筋梗塞,弁膜症,心筋症,高血圧,不整脈,先天性心疾患などが多い.その病態は多様であるが,概ね表1のように整理すると理解しやすい.

呼吸不全の輸液療法

著者: 福井俊夫

ページ範囲:P.1044 - P.1045

ポイント
1)呼吸不全の輸液はそれぞれの症例の病型,病態,臨床症状によって異なるので,総合的判の下に輸液の適否,方法および内容を検討,調節することが必要である.
2)I型呼吸不全では脱水と代謝性アシドーシスに注意すべきである.
3)II型呼吸不全ではKとClの補給が必要である.

腹水貯留肝硬変症の輸液療法

著者: 三浦総一郎 ,   芹澤宏 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.1046 - P.1048

ポイント
1)非代償期の肝硬変では,肝内外のリンパ管のうっ滞,門脈圧亢進,肝でのホルモン分解能低下など種々の原因で腹水が貯留しやすい状態となっている.
2)安静,減塩食を基本とし,薬剤として利尿剤投与,さらに血液製剤の補給により血漿浸透圧の増加を図る.
3)しかし,急激な利尿は電解質異常,高アンモニア血症,黄疸など他の肝不全所見の増悪を招くことがある.
4)したがって,毎日の体重や尿量からみた水分バランス,血清,尿中電解質などの検査成績を評価しつつ慎重に行わなければならない.

腎不全の輸液療法

著者: 武田茂幸 ,   浅野泰

ページ範囲:P.1050 - P.1051

ポイント
1)腎不全とは,腎機能の低下により体液の恒常性が維持できない状態であり,輸液療法は量的,質的な制限を受ける.
2)急性腎不全では,腎前性,腎性,腎後性の鑑別が重要である.
3)急性腎不全では,乏尿期,利尿期が輸液療法の対象となるが,溢水および高カリウム血症に十分注意する必要がある.
4)慢性腎不全の代償期の輸液療法では,低ナトリウム血症,高カリウム血症に注意して,非代償期には溢水にとくに注意する.
5)輸液療法の限界を見極め,透析療法は早期に導入を検討し,導入後は頻回に施行する.

糖尿病の輸液療法

著者: 窪倉俊隆 ,   池田義雄

ページ範囲:P.1052 - P.1054

 糖尿病患者で輸液療法が問題となるのは,①糖尿病性昏睡,②高カロリー輸液施行時が挙げられる.ここでは,以上の2点に加え一般的な注意点についても言及する.

脳卒中の輸液療法

著者: 池田秀敏 ,   吉本高志

ページ範囲:P.1056 - P.1057

ポイント
1)脳卒中急性期では,脳卒中に伴うあらゆる病態に対処するために,血管確保は必須である.
2)脳卒中急性期には,脱水をほとんどの場合随伴する.この補正には,脱水量を推定し,half correct(半量補正)を繰り返すことで,緩徐に行うことが重要である.
3)脳卒中急性期には,脱水・電解質異常の補正を主眼とする.
4)脳卒中急性期には,脳浮腫対策,脳血流改善,降圧療法などの輸液が病態に応じて必要となり,これらの補液の組成・量をも包括した1日の輸液計画を立てる.

高齢者の輸液療法

著者: 東徹

ページ範囲:P.1058 - P.1060

ポイント
 高齢者には脱水の傾向があり,しかも調節幅が狭いので,水過剰になりやすい.したがって,高齢者の輸液の要点は大量・急速投与を避けることである.量は控えめ,スピードは遅めにするのがコツである.

ショックと輸液療法

著者: 相川直樹 ,   堀進悟

ページ範囲:P.1062 - P.1064

 ショックは急性全身性循環障害で,重要臓器や細胞の機能維持に十分な血液循環が得られない結果発生する種々の異常を伴う症候群である.ショック患者では,循環血液量の絶対的不足があるか,血管床に対し血液量が相対的に不足していることが多く,輸液が治療の中心となり,体液異常と循環障害を把握して輸液計画を立てる必要がある.

重症感染症の輸液療法

著者: 小野聡 ,   玉熊正悦

ページ範囲:P.1066 - P.1068

 重症感染症,つまり感染の影響が全身に及んだsepsis患者の輸液は,水・電解質輸液による細胞外液補正→循環動態の安定化と,栄養管理の2つが主な目的である.感染極期には前者が中心となるが,ある程度急性期を脱して来ると当然のことながら,上記の2つの目的を満足した輸液が必要となる.この急性期の水分,電解質を中心とした輸液はおそらく前章のショックの項などで論じられるであろうため,ここでは重複を避け後者の栄養管理を中心に述べる.
 重症感染症の生体では一般にエネルギー需要量が増加し,hypermetabolicな状態にあるといわれている.増加の程度はストレスの種類や大きさによって変わるが,正常時の40〜70%増と言われている.図1にエネルギー需要量の増加と尿素窒素排泄量の増加について侵襲別に比較したが,広範囲熱傷時で最も多く重症感染症時ではそれに次いでいる1).侵襲時のこのようなhypermetabolicな反応は,主にカテコールアミン,コルチゾール,グルカゴンなどのストレスホルモンの分泌増加によって引き起こされると考えられ,これらのホルモンはいずれも抗インスリン作用を有し,蛋白質の異化が亢進して窒素排泄量は著しく増加する傾向にある.

癌患者の輸液療法

著者: 五関謹秀 ,   小野寺時夫

ページ範囲:P.1070 - P.1072

ポイント
1)癌患者の栄養状態の把握.
2)栄養指標による栄養管理の適応の有無の判断.
3)栄養管理方法の選択(できるだけ経腸栄養を!!高カロリー輸液を行う場合には無菌管理をより徹底する!!)

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・28

冠攣縮性狭心症

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1084 - P.1086

●13年間観察した冠攣縮性狭心症例
 夜間に胸痛発作があり,心電図上,II,III,aVFに一過性のST上昇を認めた.冠動脈造影では有意の狭窄を認めず,冠攣縮性狭心症と診断された.13年経過するうちに右冠動脈に90%,99%の狭窄がみられた(図1A).剖検では狭窄は主として線維性肥厚であり(図1B,C,D),内膜の破綻や血栓形成は認められなかった.

Oncology Round・18

アミラーゼ産生性若年型肺癌の1例

著者: 前田昭太郎 ,   塚原佳世子 ,   岩名敦子 ,   今泉孝敬 ,   哲翁弥生 ,   片山勲

ページ範囲:P.1089 - P.1093

 今回は胸部X線上,びまん性細網結節状陰影を呈し,粟粒結核,転移性肺癌などとの鑑別が問題となったアミラーゼ産生性若年型肺癌の1剖検例を提示する.

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・3

マイコプラズマ肺炎

著者: 月野光博 ,   中島明雄

ページ範囲:P.1094 - P.1100

症例
 患者 42歳,女性
 主訴 乾性咳嗽,高熱
 現病歴 1週間前より悪寒,38℃以上の発熱,乾性咳嗽出現.近医を受診するも軽快しないため当科受診した.
 既往歴 19歳時,肺結核を罹患.3者併用療法(PAS, SM, INH)施行.

演習

心エコー図演習

著者: 井内新 ,   福田信夫 ,   大木崇

ページ範囲:P.1101 - P.1105

26歳の女性が労作時呼吸困難と下腿浮腫を訴えて来院した
 既往歴 小児期より上気道感染に罹患しやすい傾向にあった.
 家族歴 特記事項なし
 現病歴 妊娠(22歳)時に心電図異常を指摘されたが,無症状のため放置していた.平成元年3月初旬,感冒様症状とともに労作時の呼吸困難と下腿浮腫を自覚するようになり,近医を受診した.その際,胸部X線および心電図の異常を指摘され,精査目的で当科に紹介された.

講座 図解病態のしくみ 膠原病・9

MCTD(Mixed Connective Tissue Disease)

著者: 高崎芳成

ページ範囲:P.1108 - P.1115

 Mixed Connective Tissue Disease(MCTD)は1972年,Sharpら1)によっていくつかの膠原病の症状を併せ持ち,特徴的な血清学的所見を認める一つの独立した疾患単位として報告された.以後この疾患の臨床像,免疫学的異常所見,病理学的所見などについて多彩な報告がなされた,しかし,これらの報告では同一の所見について検討しながらも,しばしば一様な結果が示されていない.このことは,種々の膠原病の症状を併せもつこの疾患自体の特性に加え,その明確な診断基準が示されず,各施設によって抽出された患者群が異なっていたことによる可能性もある.これらの問題点をふまえ,本稿では厚生省の混合性結合組織病調査研究班の報告を主として参考にし,この病気の概念,診断および治療などについて述べる.

血液疾患診療メモ

造血器腫瘍患者のターミナルケア

著者: 岡田定

ページ範囲:P.1116 - P.1118

 造血器腫瘍の治療成績の進歩にはめざましいものがある.各種の抗腫瘍剤,支持療法の進歩に加えて,最近では種々のサイトカインの臨床応用,骨髄移植成績の向上などにより,悪性リンパ腫や急性白血病などは,治癒を目指し得る悪性腫瘍の代表的疾患と考えられるようになった.
 しかし,そのような造血器腫瘍でも再発して治療抵抗性となると,他の悪性腫瘍と同じように,強力な治療を行っても治癒させることは不可能となり,数カ月以内に死が予測される終末期を迎えるようになる.終末期の患者に対するターミナルケアは,医療者にとって心身の重荷になるが,治癒を目指す治療と同様に重要なものである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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