icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina28巻7号

1991年07月発行

雑誌目次

今月の主題 リンパ系疾患の臨床

(editorial)リンパ系疾患へのアプローチ

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1128 - P.1131

 リンパ系疾患を考えていく場合に,大きく3つのグループに分けて考えると便利である(表1).
 まず,最初にリンパ系の反応的疾患で,リンパ球の増加あるいはプラズマ細胞(形質細胞)の増加として経験する.この範疇にはウイルス感染症(例:伝染性単核症)があげられる.他に薬剤によってひき起こされた反応性のものもある.

リンパ系疾患の基礎

リンパ球の産生と分布

著者: 三方淳男 ,   田丸淳一

ページ範囲:P.1132 - P.1133

 リンパ球のT,B2系統の分立は,1961年Millerの新生児マウスの胸腺摘出実験に端を発している.マウス,ラット,ウサギなどの胸腺を新生児期に摘出すると,成体となって細胞性免疫能の低下をきたす.一方,生後まもないニワトリ雛からファブリキウス嚢を摘出すると,液性免疫能の低下をもたらす.これらの実験結果に相当するヒトの先天性免疫不全症としては,DiGeorge症候群およびBruton型無γグロブリン血症がある.このような実験,臨床的事実に基づいて,リンパ球は,その由来・機能に従って,胸腺(Thymus)依存リンパ球と,嚢(Bursa)相当器官依存リンパ球の2系統に分けられるようになった.

リンパ球の生物学的反応—T-cellと抗原受容体

著者: 岩井一宏 ,   桂義元

ページ範囲:P.1134 - P.1136

ポイント
1)T細胞は,TcRにより異物抗原を自己MHC分子とともに認識し活性化される.
2)T細胞は,胸腺の中で生成する過程でTcRを介した選択を受ける.

リンパ球の生物学的反応—B-cellと免疫グロブリン

著者: 近藤直実

ページ範囲:P.1138 - P.1139

ポイント
1)B細胞と免疫グロブリン(Ig):B細胞は成熟してIgを産生する.Igは抗体として抗原排除に働く(分泌型Ig)一方で,B細胞膜上に存在し,抗原レセプターとして抗原認識に働く(膜結合型Ig).
2)B細胞の分化:血液幹細胞からリンパ球系幹細胞,pro B細胞,pre pre B細胞,pre B細胞,未熟B細胞,成熟B細胞,形質細胞へと分化する.
3)免疫グロブリン(Ig)の産生:Ig遺伝子の再構成,クラススイッチ,RNAスプライシングなどの遺伝子学的メカニズムによりIgが産生される.

免疫応答とマクロファージ

著者: 坂戸信夫 ,   杉山治夫 ,   扇間昌規

ページ範囲:P.1141 - P.1145

ポイント
1)マクロファージ(Mφ)は,単独またはリンパ球と共働してほとんどの免疫反応で多彩な機能を発揮する.
2)免疫応答におけるMφの最も重要な機能は,抗原を処理(processingプロセシング)し,これをMHC分子と会合させ,抗原エピトープとしてT細胞抗原受容体(TCR)に提示することである.
3)近年,内因性(endogenous)抗原および外因性(exogenous)抗原提示におけるMHCクラスIおよびクラスII分子の使い分け機構が明らかにされつつある.ゴルジ体では,インバリアント鎖(invari-ant chain;i鎖)がクラスII分子と強く会合しているため,内因性抗原はクラスI分子とだけ結合することができる.したがって,内因性抗原はMHCクラスI拘束性CD8陽性T細胞を活性化する.一方,ファゴリソゾームではi鎖が消化を受け,フリーとなったクラスII分子は処理された外因性抗原と結合することができる.このクラスII・外因性抗原複合体は抗原提示細胞表面に運ばれ,クラスII拘束性のCD4陽性T細胞レセプター(TCR)で認識される.

インターロイキンと役割

著者: 嶋本義範

ページ範囲:P.1146 - P.1148

ポイント
1)インターロイキン(IL)を含むサイトカインは,生体の恒常性維持のための液性生理活性物質で,免疫および造血系細胞などへ広汎な作用を示す.
2)IL-1,2,8,9,10は主にT細胞,IL-4,5,6,7,11はB細胞,IL-3,6,1は血液幹細胞へ作用する.TGF-β,TNF-α,IFNも免疫系細胞へ作用を示す.
3)炎症,自己免疫疾患,腫瘍,血液疾患などの病態に深くかかわっている.
4)サイトカインのあるものは治療応用されつつある.

免疫不全症候群の分類とまとめ

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.1150 - P.1154

ポイント
1)原発性免疫不全症は,B細胞-抗体産生系の欠陥か,T細胞-細胞性免疫系の欠陥か,どのような遺伝形式をもつかを基に分類される.
2)X染色体性遺伝でB細胞が欠損しT細胞が正常なのはBruton型無ガンマグロブリン血症であり,B細胞・T細胞両系に発生障害があるのが重症複合免疫不全症である.
3)病因が明確なものは独立した疾患単位として扱われる.adenosine deaminase欠損症,purine nucleoside phosphorylase欠損症,MHCクラスⅡ欠損症などである.
4)臨床的に明確な症候を合併しているものも疾患単位として独立させている.Wiskott-Aldrich症候群(湿疹と血小板減少症を合併),ataxia telangiectasia(小脳性運動失調症と毛細血管拡張症を合併),Ⅲ,Ⅳ鰓弓症候群(胸線欠損,副甲状腺欠損,心奇形などを合併)などがある.

染色体異常とリンパ系悪性腫瘍

著者: 大屋敷一馬 ,   村上知文 ,   外山圭助

ページ範囲:P.1156 - P.1158

ポイント
1)免疫関連遺伝子の染色体部位における染色体異常の検出は,リンパ系悪性腫瘍の細胞帰属およびその診断を決定することができる.
2)リンパ系腫瘍における染色体異常の出現頻度は患者の年齢によって異なるため,その臨床的意義を的確に把握する.
3)染色体異常に密接に関連している分子生物学的変化の意味を理解し,総合的に解釈する.

リンパ系疾患の診断

リンパ節腫大のある症例への対応

著者: 山口潜

ページ範囲:P.1160 - P.1164

ポイント
1)リンパ増殖症候群で,家族歴の聴取が重要なものは,成人T細胞白血病(ATL)とBurkittリンパ腫である.
2)ATLでは,末梢血液で特徴的なATL細胞が多数みられるが,骨髄への浸潤は比較的軽い.
3)悪性リンパ腫では,表在リンパ節の腫脹のほか,消化管浸潤の対応がきわめて重要である.
4)伝染性単核球増多症は,良性の伝染性疾患であるが,悪性リンパ腫との鑑別上常に念頭に置かねばならない.
5)悪性リンパ腫の診断・経過観察に,腹部超音波所見はきわめて有用である.

リンパ系疾患の診断的検査方法

著者: 小川啓恭 ,   根来茂

ページ範囲:P.1165 - P.1167

ポイント
1)リンパ節腫大例では,正確な病理組織診断が最優先するため,時期を逸することなく,リンパ節生検を行う.
2)リンパ系悪性疾患の腫瘍表面マーカーの解析は,予後を予測する(T細胞性リンパ腫は,B細胞性リンパ腫より予後が悪い).
3)DNA解析(Southern blot法)は,腫瘍細胞のcell lineageを決定すると同時に,腫瘍の最大の特徴であるmonoclonalityを証明し得る.
4)微少残存腫瘍細胞の検出に,PCRが応用されつつある.

血液像から得られる情報

著者: 原田契一

ページ範囲:P.1168 - P.1169

ポイント
1)内科研修医は機会のあるたびに末梢血液像を検査室へ見に行く習慣をつけること.
2)ATLでは,数個の花弁状にくびれた核を有するリンパ球が特徴である.
3)Sezary症候群では,リンパ球の核に切れ込みがあるが,花弁状のくびれはまれである.
4)伝染性単核症では,リンパ球が多彩な形態の異型を呈する.

表面マーカーと臨床的意義

著者: 杉村和久

ページ範囲:P.1170 - P.1174

ポイント
1)1989年2月21〜25日,ウィーンで開催された第4回ヒト白血球分化抗原に関する国際会議で整理されたCD分類表を示した.
2)CD抗原の生理的機能について,基本的理解がもっと進めば,リンパ系細胞の表面マーカーの同定は,種々の疾患の診断のみならず.予後に関する情報を得るのに有用となるであろう.

画像診断の利用と限界

著者: 古寺研一

ページ範囲:P.1176 - P.1177

ポイント
1)単純X線像:著明なリンパ節腫大は診断可能.とくに胸部では重要.
2)US,CT,MRI:非侵襲的にリンパ節腫大の診断が可能.リンパ節内部構造の描出は不可能.
3)リンパ造影:侵襲的であるが,唯一のリンパ節内部構造を描出できる画像診断法.
4)67Gaシンチグラム:悪性リンパ腫の病期診断に有用.

リンパ系疾患診療の実際 急性リンパ性白血病(ALL)

ALLのFAB分類

著者: 福谷久 ,   大野竜三

ページ範囲:P.1178 - P.1180

ポイント
1)FAB分類は形態学に基づいて1976年に成立した白血病の分類である.
2)ALLについては,L1,L2,L3の3つに分けられた.
3)L1,L2の分類はさらに1981年スコアリングシステムに改められた.
4)その後進歩した免疫学,細胞遺伝学とは十分対応しない.
5)リンパ球の分化に基づくMIC分類が1986年提唱されている.

小児急性リンパ性白血病

著者: 松下竹次 ,   新居美都子 ,   江木晋三

ページ範囲:P.1181 - P.1187

ポイント
1)小児では発熱などの感染症状で発症することが多い.
2)L1,CALLA陽性のものが多く,これらは治療にもよく反応する.
3)5年間の無病生存率は60%以上になりつつある.
4)患児と家族を支える十分なシステムが必要である.

成人急性リンパ性白血病

著者: 大野竜三 ,   福谷久

ページ範囲:P.1188 - P.1190

ポイント
1)成人白血病では,ALLの発症頻度はAMLの約1/4である.
2)小児ALLに比し,化学療法反応性は悪く,約80%の完全寛解率が得られるものの,寛解例の長期生存率は30%以下で,AMLより不良である.
3)化学療法の治療成績は,若年者ほど予後成績が良好であり,いくつかの報告も対象患者の年齢中央値が低ければ良好の傾向があるので,注意して解釈する.
4)prospectiveランダマイズ試験の結果が待たれるが,成人ALLでは第1寛解期でも骨髄移植療法が化学療法より優れている印象にある.

慢性リンパ系白血病

慢性リンパ系白血病の分類とまとめ

著者: 望野唯明 ,   片山勲

ページ範囲:P.1194 - P.1197

ポイント
1)B-CLLs(略語については表参照)
 ①CLL原則として10×109/l以上の持続性のリンパ球増加症であり,SmIg弱陽性,M-rosette++,CD5,FMC7/CD22±である.
 ②CLL/PL and others CLL/PLはCLL細胞とprolymphocyte(10〜55%)の2相性を示す.
 ③PLL原則として白血球数100×109/以上で,その55%以上がprolymphocyte.SmIg強陽性,M-rosette-,CD5±,FMC7/CD22++である.
 ④HCL hairy appearanceとCD25++,LeuM5,HC2が特徴.本邦例には欧米例と異なる点がある.
 ⑤HCL-V形態はhairy cellとprolym-phocyteの中間的であるが,免疫形質はPLLに近い.
 ⑥SLVL巨大脾腫と流血中の病的細胞のhairy appearanceが特徴.2/3の症例がM蛋白を示す.
 ⑦leukemic phase of NHL白血化を主徴候とするNHLで,濾胞性リンパ腫かびまん性リンパ腫中細胞型のことが多い.
 ⑧PCL初めから白血化を示すmyelomaで,急激な経過をとる.
2)T-CLLs
 ①T-CLLほとんどはlarge granularlymphocyte(多くはCD3,CD8,CD4-,Leu7)の単クロ-ン性の増生である.

慢性リンパ性白血病(CLL)

著者: 石山泰二郎 ,   鶴岡延熹

ページ範囲:P.1198 - P.1201

ポイント
1)CLLは,Bリンパ球(まれにはTリンパ球)の増殖する腫瘍性疾患である.
2)CLL細胞は,形態的には成熟しているが,生物学的に未熟である.
3)B-CLL細胞は,自己免疫疾患で増加していると報告されているCD5陽性B細胞である.
4)B-CLL患者の大部分は全身状態良好であり,無治療でも比較的良好な経過をとる.

Prolymphocytic leukemia(PLL)

著者: 早田央 ,   朝長万左男 ,   上平憲

ページ範囲:P.1202 - P.1203

ポイント
1)臨床的特徴は巨脾(孤立性脾腫)と著明な白血球増多である.
2)PLはCLLに認められる小リンパ球よりも広い胞体をもつ大型細胞であり,円形核で,核網構造は濃染傾向,明瞭な大型核小体を有する.
3)PLの表面形質は,SmIg+(CLLより強い),M-rossettes-,HLA-DR++,FMC 7/CD 22++,CD 19/20/24++,CD5-/+,CD10-/+,CD 25-,CD 38-でCLLとは明らかに異なる.
4)CLLに有効な治療にほとんど反応せず,予後もCLLに比べきわめて短い.

Hairy cell leukemia(HCL)

著者: 青木定夫

ページ範囲:P.1204 - P.1205

ポイント
1)Hairy cell leukemiaは,慢性リンパ増殖性疾患の1亜型であり,通常緩徐に進行する.白血病細胞の表面から毛状の突起が出ているという形態的特徴がある.
2)本症の末梢血の白血球は,増加するとは限らずpancytopeniaを示すことがあり,注意を要する.
3)著明な脾腫を呈することが多い.
4)治療は摘脾,IFNαなどが有効である.最近DCFが著効を示すことが報告されている.

Large granular lymphocyte leukemia

著者: 谷本光音

ページ範囲:P.1206 - P.1207

ポイント
1)LGL白血病は,アズール顆粒を有する大型のリンパ球様細胞の絶対的な増加を特徴とする.
2)LGL白血病細胞は,主としてCD3のT細胞型と,CD3-のNK細胞型に大別される.
3)他の炎症性反応との鑑別には,LGL細胞におけるclonalityの証明(染色体分析やTCR遺伝子再構成検査)が必要である.
4)臨床像は,比較的高齢者に発症し,脾腫,顆粒球減少およびくり返す感染を認めることが多く,ときにリウマチ様関節炎を合併する.
5)治療法は,慢性型では抗白血病療法は行わず,主として感染からの防御と輸血などの保存的療法が選択される.
6)最近,LGL白血病の中に,抗白血病療法にまったく反応せず急激な経過をとる症例が認められる.これら急性型の細胞形質はNK型LGL細胞のことが多い.

Sézary syndrome

著者: 古沢新平 ,   斉藤憲治

ページ範囲:P.1208 - P.1210

ポイント
1)掻痒感の強い全身性紅皮症で,組織学的に真皮上層から表皮に至るSézary cellの浸潤
2)白血化(10%または1,000/μl以上)
3)Sézary cellは脳回転状核を有し,CD4+CD8-,CD25-,抗HTLV-I抗体陰性
4)予後不良で,生存期間中央値約2.5年

リンパ腫

非Hodgkinリンパ腫(NHL)の分類とまとめ

著者: 竹内仁 ,   片山勲

ページ範囲:P.1214 - P.1218

ポイント
1)主な分類としてLSG分類,Working Formulation,Kiel分類があり,腫瘍細胞の大きさに主眼をおいた点で前2者がよく相関している.
2)LSG分類では,NHLを濾胞性とびまん性に分類する.濾胞性リンパ腫はB細胞性,濾胞中心細胞由来で,予後が一般に良好である.
3)びまん性リンパ腫は,heterogenousな群であり,T細胞性かB細胞性かを明確にする必要がある.
4)LSG分類では,腫瘍細胞の大きさにより分類しているが,多形細胞型(T),リンパ芽球型(T),バーキット型(B)は特徴的な臨床像,病理像を示すので独立させている.

B-cell リンパ腫

著者: 林恭一 ,   大熨泰亮

ページ範囲:P.1220 - P.1223

ポイント
1)Bリンパ腫は,組織型,自然経過,治療への反応性,予後などを含めてhetero-genousな疾患群である.
2)節外性リンパ腫の一部にはBリンパ腫が多く,また,免疫異常,慢性炎症などに伴ってBリンパ腫が発生することが知られている.
3)治療方針は,組織型,病期,発生部位などに基づいて決定される.

T-cell リンパ腫

著者: 大野敏之 ,   桝屋正浩 ,   西井一浩 ,   北堅吉

ページ範囲:P.1224 - P.1228

ポイント
1)T-LBLは縦隔腫瘤,白血化および中枢神経系への浸潤を高率に伴い,青年期(10〜20歳代)の男性に好発する幼若T細胞の腫瘍である.急性白血病に対する治療が行われており,予後の改善が認められている.
2)PTCLは臨床病態,組織形態ともに非常に多種多様な症例からなる成熟T細胞の腫瘍である.B細胞リンパ腫と比較し予後不良であるが,強力な治療にて治癒の可能性がある.

成人T細胞白血病(ATL)

著者: 服部俊夫

ページ範囲:P.1229 - P.1231

 成人T細胞白血病(ATL)は,ヒトにおいてレトロウイルス発癌が初めて証明された疾患である.その原因ウイルスはHuman T cell lympho-tropic virus type 1(HTLV-1)であり,わが国の西南部に流行する1).近年は欧米の薬物中毒患者を中心に流行の兆しがみられ,また南米やイランにも流行地域が存在することが明らかになり,HTLV-1感染に対する対策は全世界的な規模で講じる必要が生じてきた2,3
 またHTLV-1は,HTLV-1 AssociatedMyelopathy(HAM)と呼ばれる神経疾患をも生ずることが明らかにされた.後天性免疫不全症候群(エイズ)が同様に免疫系の指揮官であるT4細胞に感染し疾患を生ぜしめることと奇しくも一致し,ヒトレトロウイルス感染症は免疫と神経系の認識あるいは発生機構を解析する上で新たな手段となりつつある.

Angioimmunoblastic lymphadenopathy(AIL)

著者: 別所正美

ページ範囲:P.1232 - P.1233

ポイント
1)全身のリンパ節腫脹,肝脾腫,多クローン性高γグロブリン血症などの臨床的特徴を示す.
2)診断はリンパ節の病理組織所見(リンパ節構造のびまん性の破壊,小血管の増生,免疫芽球や形質細胞の増殖)による.
3)ステロイド単独あるいは悪性リンパ腫に準じた多剤併用療法を行うが,予後は不良である.一部は悪性リンパ腫に移行するが,多くは感染症で死亡する.
4)一部の例でT細胞のクローン性増殖が証明されるが,病気の本体(細胞起源,腫瘍性か否かなど)はなお不明である.

Hodgkin病

著者: 近藤誠

ページ範囲:P.1234 - P.1235

ポイント
1)非Hodgkinリンパ腫と異なり,順序よく進展する.
2)したがって,放射線治療の役割も非Hod-gkinリンパ腫よりも大きい.
3)診断がついたら,よい施設を探して転院させるのが,一般病院勤務医の義務である.

骨髄腫と関連疾患

多発性骨髄腫

著者: 高橋幸則

ページ範囲:P.1236 - P.1237

 多発性骨髄腫は,主に骨および骨髄を侵す形質細胞の増殖性疾患である.したがって広範な骨破壊,骨髄障害,腎障害,さらに血清や尿の異常蛋白の増加によるさまざまな全身性の症状をひき起こす.
 診断についてはDurieらの基準が広く用いられており,これを表に示す.また病期についてはさまざまな提唱がなされているが,治療効果あるいは生存期間との相関は必ずしも高くない.現在,腫瘍量と腎機能の両者に影響をうけるβ2ミクログロブリンが,予後に関して単独の指標として評価されている(I.4mg/l未満,II.4〜6mg/l,III.6mg/l以上).また血清IL-2高値の症例で長期生存傾向が認められたとの報告1)もあり,今後は予後因子の解析により治療法の選択が多岐にわたる可能性がある.

Waldenström(原発性)マクログロブリン血症

著者: 加納正

ページ範囲:P.1238 - P.1239

ポイント
1)Waldenstrom(原発性)マクログロブリン血症はIgM型M成分(>1g/dl),リンパ球-リンパ球様形質細胞-形質細胞の単クローン性増生を特徴とする.
2)初発症状:全身倦怠感,体重減少,出血傾向,神経症状など.検査で偶然発見されることもある.
3)臨床症状:①腫瘍増生と関係するもの;脾腫,肝腫,リンパ節腫大,末梢血・骨髄中での多様なリンパ球-リンパ球様形質細胞-形質細胞の増多,消化器症状など.②M成分に関係するもの;高粘度症候群(Bing-Neel症候群など),出血傾向,末梢神経障害,寒冷凝集素病,cryoglobulin血症など.
4)骨髄腫と比較してまれな所見:骨痛,骨破壊像,Bence Jones蛋白尿,高Ca血症,腎不全,アミロイド症など.

ウイルス感染症とリンパ球

Epstein-Barr Virus感染と伝染性単核症,リンパ系増殖疾患

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1240 - P.1243

ポイント
1)Epstein-Barr Virus(EBV)感染は感染症と感染後にみられる悪性腫瘍がある.
2)感染症の典型例は伝染性単核症である.
3)悪性腫瘍とEBVの関連は,Burkitt' slymphomaと鼻咽頭腫瘍に証明されている.
4)免疫不全状態にてEBVはリンパ腫の発症を起こしうる.

HTLV-I感染とリンパ系

著者: 田口博國

ページ範囲:P.1244 - P.1247

ポイント
1)HTLV-Iはレトロウイルスで自身の増殖やIL-2の発現と関係するpXという特徴的な遺伝子をもつ.
2)HTLV-I感染によりATLが発症する機構は,まだよくわかっていない.
3)HTLV-I感染細胞を排除する宿主の免疫能が正常であればキャリアーにとどまり,低下していればATLに進展,過強であればHAMなどのHTLV-I関連病態になるという仮説を述べる.

HIV感染とAIDS

著者: 松下修三

ページ範囲:P.1248 - P.1250

ポイント
1)HIV感染から発症までには長期間を要す.
2)病期・病態の把握には以下の検査が重要である.①HIV抗体,②HIV抗原(P24抗原),③ヘルパーT細胞数,④免疫グロブリンの増加,⑤遅延型過敏反応の低下
3)注意すべき合併症状:①日和見感染症,②AIDS痴呆症,③悪性腫瘍,④他の感染症

リンパ系疾患の治療の話題

インターフェロンとリンパ系疾患

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.1252 - P.1253

ポイント
1)IFN(α,β,γ)は種々のリンパ系悪性腫瘍に対して抗腫瘍効果を有する.
2)IFN単独治療が有効と考えられる疾患としてhairy cell leukemia, cutaneousT-cell lymphomaがあげられるが,これらの疾患については他の有効な治療法との比較検討が行われている.
3)IFN単独治療の成績が,従来の化学療法に劣る多発性骨髄腫,non-Hodgkin's lymphomaでは,化学療法とIFNの併用,化学療法後のIFNによる維持療法の効果が検討されている.
4)IFN療法のリンパ系悪性腫瘍に対する適応が今後のclinical trialで明確にされることが期待される.

Large cell lymphomaと化学療法の進歩

著者: 大熨泰亮

ページ範囲:P.1254 - P.1255

ポイント
1)Large cell lymphomaは,本邦における非ホジキンリンパ腫の60〜70%を占める.
2)aggressiveな経過を示すが化学療法に対する反応は良好であり,強力な治療を与えることにより治癒可能な腫瘍である.

自家骨髄移植とリンパ腫

著者: 中尾真二 ,   舟田久

ページ範囲:P.1256 - P.1258

ポイント
1)自家骨髄移植を併用した強力な化学,X線療法により,難治,再発性悪性リンパ腫の約40〜60%に永続的な寛解が期待できる.
2)採取方法の改良の結果,末梢血幹細胞移植は悪性リンパ腫に対する幹細胞移植療法の主流になる可能性がある.

HIV感染と抗ウイルス剤

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.1260 - P.1261

ポイント
1)HIV感染は慢性進行性の感染症で,ヒトの免疫機構を傷害し,種々の合併症を伴う重症の病態へと進行する.比較的早期から中枢神経系病変を起こす.したがって抗HIV剤には,いくつかの条件が課せられている.
2)抗HIV剤の条件には次のものがある.
 ①十分に,有効性の科学的証明があること
 ②長期にわたる使用に耐え得ること;副作用が少ないこと,投与法が簡便であること
 ③中枢神経系への薬剤の移行ないし効果があること
 ④比較的安価であること

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・29

大動脈炎症候群の冠動脈病変

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1264 - P.1266

●冠動脈起始部狭窄を認めた大動脈炎症候群
 症例:11歳,女.
 現病歴:入院5カ月前から全身倦怠感があった.運動中に何度か意識消失発作があり,精査のため入院.運動負荷試験ではII,III,aVF,V4〜V6においてST降下を認め,陽性所見を示した.冠動脈造影では左冠動脈起始部に狭窄像を認めた(図1A,C).手術時,肥厚した大動脈内膜が冠動脈入口部を狭窄しており,この内膜を切除した.切除標本の冠動脈起始部の内膜は肥厚しており(図1B),炎症細胞浸潤を伴う(図1D)典型的な大動脈炎症候群の所見を呈していた.術後の冠動脈造影では冠動脈起始部に狭窄像を認めなかった.

Oncology Round・19

上大静脈症候群を伴った悪性胸腺腫の1例

著者: 時松秀治 ,   片山勲

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 胸腺腫は縦隔内に発生する腫瘍のなかでは,最も頻度の高いものの1つである.とくに前上縦隔に発生する腫瘍の場合には,幼小児であればリンパ芽球型リンパ腫(Oncology Round 6,medicina 27:311,1990参照),成人であれば胸腺腫が最も多い.今回は,呼吸困難と上大静脈症候群を主要微候として来診した悪性胸腺腫の症例を提示する.

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・4

オウム病

著者: 鶴田良介 ,   中島明雄

ページ範囲:P.1280 - P.1285

 患者 76歳,女性
 主訴 発熱,乾性咳嗽
 現病歴 1週間前より38℃以上の発熱,頭痛,乾性咳嗽出現.近医受診し,胸部X-Pにて異常陰影を指摘され,当科を受診した.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1268 - P.1273

講座 図解病態のしくみ 膠原病・10

膠原病周辺疾患—血清反応陰性関節炎

著者: 小林茂人 ,   田村直人

ページ範囲:P.1288 - P.1293

 seronegative arthritisは血清中のリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陰性の関節炎と定義される.欧米に比し本邦でseronegative arthritisを診る頻度はあまり高くないと思われるが,seronegative arthritisは数多くのリウマチ性疾患や膠原病のなかのリウマトイド因子陰性の関節炎を鑑別,診断する際の出発点であると考えられる.seronegative arthritis=RF陰性の慢性関節リウマチと性急に診断せず,既往歴や全身の臨床症状,検査所見などから診断を決定していく多くの過程が重要である.関節炎が今まで知らなかった多くの疾患の際に起こりうることを知ることが大切であると考えられる.

呼吸器疾患診療メモ

レジオネラ肺炎の臨床

著者: 喜屋武幸男 ,   宮城征四郎 ,   斎藤厚

ページ範囲:P.1295 - P.1297

 1976年7月,米国フィラデルフィアにおいて在郷軍人の集会が開かれた際,集団発生した原因不明の肺炎が,McDadeらによりLegionella Pneumophilaという分類学上新しい細菌による疾患であることが確認されたのが,Legionnaires' diseaseの始まりである.
 わが国では1981年に斎藤ら1)が初めてレジオネラ症を報告して以来,同症は本邦においても報告が相次いでいる.

循環器疾患診療メモ

心肺蘇生法のポイント

著者: 高尾信廣 ,   山科章

ページ範囲:P.1298 - P.1300

 研修医にとって心肺蘇生(以下,CPR)は不可欠な手技であり,知識だけでなく実際のトレーニングが必要である.今回はCPRについての実際的なポイントと最近のトピックスについて簡単に触れたい.CPRで実際に頻用される薬剤はわずか数種類であり,CPRの時に慌てないように,その使用法を知る必要がある(表).

血液疾患診療メモ

フィラデルフィア染色体陽性白血病

著者: 岡田定

ページ範囲:P.1302 - P.1304

 フィラデルフィア(Ph1)染色体は,1960年に発見されて以来,慢性骨髄性白血病(CML)に特徴的な染色体異常として注目されてきた.最近になり,Ph1染色体は,CMLだけでなく急性白血病の一部にも認められることが明らかとなり,Ph1転座に伴う分子生物学的変化についても詳細に検討されるようになった.
 本項では,1)Ph1転座に伴う分子生物学的変化,2)各種白血病でのPh1転座,BCR遺伝子再構成を認める頻度,3)Ph1陽性急性白血病の特徴について概説してみたい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?