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雑誌目次

雑誌文献

medicina28巻8号

1991年08月発行

雑誌目次

今月の主題 心不全へのアプローチ

理解のための10題

ページ範囲:P.1438 - P.1440

心不全の理解のために

心不全とは

著者: 飯塚昌彦

ページ範囲:P.1320 - P.1321

●心不全の定義1)
 心不全の定義は難しく,万人を納得させるものはない.その主たる理由は次の二つである.一つは立場による相違であり,一つは経験の蓄積,知見・理解の進歩,治療目標の変化などに基づく定義あるいは診断基準に対する要求の変化である.
 生理学者を中心とする基礎医学者には,心臓のみを対象とする考えと全身の循環系を対象とする考えがある.前者は心機能のある程度以上の低下を心不全としている.この場合,たんなる心機能低下と心不全の区別の根拠が問題となる.後者の全身の循環を対象とする考えは臨床家のそれにより近い.この場合は臓器循環の障害をきたす程度の血行動態変化を心不全としている.

心不全時の心臓の機能,代謝障害

著者: 友田春夫

ページ範囲:P.1322 - P.1323

 心不全症例における心臓の機能,代謝障害については,基礎疾患の種類,程度により,質的,量的に若干の差が見られるが,以下,菅ら1,2)の学説を中心にモデル化した一般論につき述べる.

心不全時の神経体液性障害

著者: 夏目隆史

ページ範囲:P.1324 - P.1325

ポイント
1)心不全の代償機序として神経体液性因子は重要である.
2)心不全では血中カテコラミン濃度は上昇している.
3)心筋のβ受容体数は減少し,交感神経の反応性が低下する.
4)RAA系が亢進し,水・Na貯留の主役となる.5)AVP,ANPなどのホルモンも血中濃度が上昇する.

心不全の原因となる心疾患

著者: 芹澤剛

ページ範囲:P.1326 - P.1327

ポイント
1)心不全は症候群であって単一疾患ではない.
2)心不全による症状は基礎にある病態により異なる.
3)治療法は基礎にある病態により異なる.
4)手術可能な疾患では手術適応を誤らぬことが重要である.

心不全の原因となる非心疾患

著者: 岡田雅彦 ,   赤塚宣治

ページ範囲:P.1328 - P.1330

ポイント
1)心不全の原因となる非心疾患には,心臓を直接障害する疾患,左室前負荷の増加により高拍出量性心不全をきたす疾患,肺高血圧により肺性心,右心不全をきたす呼吸器疾患がある.
2)高拍出量性心不全は,心疾患が潜在し,心機能障害がもともと存在している状況で発症しやすい.
3)肺性心,右心不全は閉塞性肺疾患では低酸素血症が進行した状態で,拘束性肺疾患では呼吸機能低下が進行した状態で発症する.

心不全の原因となる内科治療—iatrogenicに心不全を惹起する内科的治療

著者: 宇井克人 ,   山口徹

ページ範囲:P.1331 - P.1333

ポイント
1)非心疾患治療中であっても,不適切な輸液・輸血管理や心毒性,腎毒性,肺毒性をもつ薬剤の使用などによって心不全をきたすことがある.
2)医原性心不全のなかには,急速に増悪し,死に至るものがある.
3)心不全の発症は基礎疾患の治療にも不利であり,早期に発見し対処することが大切である.

心不全治療と長期予後

著者: 藤田正俊

ページ範囲:P.1334 - P.1335

ポイント
1)心不全患者の長期予後の指標として,症状の改善,生活の質の向上,生存率の改善の3点が重要である.
2)血管拡張薬療法は,心不全患者の生存率を改善させる.
3)強心薬は急性ポンプ失調に対しては有効であるが,長期に使用するとむしろ予後を悪化させる.
4)心不全患者の長期治療薬としては,不全心のエネルギー消費を抑制する薬物が望ましい.

急性心不全の診断と治療

急性左心不全の診断

著者: 木村剛

ページ範囲:P.1336 - P.1338

ポイント
1)急性左心不全の診断は治療と並行して進めなければならないことが多い.
2)急性左心不全の診断は,病歴・症状・理学的所見・血液ガス分析.胸部X線写真・Swan-Ganzカテーテルによって行い,基礎疾患の診断は,心電図・心エコー図・左心カテーテル検査・冠動脈造影によって行う.

急性左心不全の治療方針と救急処置

著者: 柳瀬治 ,   本宮武司

ページ範囲:P.1340 - P.1343

ポイント
1)急性左心不全は急激な時間経過で発症した左室ポンプ機能の障害であり,的確かつ迅速な重症度判定と基礎疾患・病態に応じた治療が必要である.
2)初期治療のポイントは理学的所見から肺水腫,末梢循環不全の有無を判断しながら,基礎にある血行動態を推測し,利尿薬,血管拡張薬および陽性変力薬を適宜使い分けることである.
3)肺水腫から高度の呼吸不全をきたしている場合は人工呼吸,広範な左室収縮力低下による心原性ショックでは大動脈内バルーンポンピングを併用する.
4)左心不全の原因が急性心筋梗塞と診断され,発症6時間以内であれば,可能な限り冠動脈再開通療法を施行する.

急性右心不全の診断と治療

著者: 早崎和也

ページ範囲:P.1344 - P.1347

 急性右心不全は,左心不全,あるいは僧帽弁狭窄症の続発症状として起こる場合と,右心不全のみで起こる場合があるが,臨床的には前者が多い.
 左心不全には心筋症,弁膜症,虚血性心疾患など多くの原因があるが,これらの慢性左心不全の経過中や,急性左心不全の続発症状として急性右心不全がしばしば生じる.

慢性心不全の診断と重症度評価

症状から

著者: 西永正典 ,   島田和幸

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 心不全の症状には,息切れや呼吸困難,起坐呼吸,咳,痰に加えて,全身倦怠感,浮腫,嘔気・嘔吐などがある.しかしながら,これらの症状はいずれも心不全に特異的なものではなく,呼吸器疾患や腎疾患など,他の疾患と鑑別を要する.また,心不全には左心不全と右心不全があり,左心不全症状には息切れ,呼吸困難が,右心不全には浮腫が特徴的である.
 これらの症状から心不全を正しく診断するためには,理学的所見や胸部X線写真などを含めた総合的な診断が必要であるが,この中で,臨床症状は鑑別診断を行うにあたって重要であることはいうまでもない.

理学的検査から

著者: 玉井秀男

ページ範囲:P.1350 - P.1351

ポイント
1)全身所見
 ①交感神経緊張亢進……頻脈
 ②肺うっ血……呼吸困難,ラ音
 ③静脈うっ血……肝腫大,浮腫
2)心臓所見
 ①頻拍,交互脈
 ②病的III音(奔馬調)
 ③僧帽弁,三尖弁逆流による収縮期雑音

非侵襲的検査から

著者: 永田正毅 ,   西上和宏

ページ範囲:P.1352 - P.1353

ポイント
1)慢性心不全における非侵襲的検査として心エコー法,RI検査,心肺運動負荷試験がある.
2)心エコー法は心内構造物の時間的動態および血流動態の分析に有用である.
3)RI検査は心機能の解析に適している.
4)心肺運動負荷試験は運動耐用能の評価が可能である.

侵襲的検査から

著者: 弘田雄三

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 現在,侵襲的(観血的:invasive)検査,すなわちカテーテルによる心内圧,心拍出量測定,血管造影による画像診断から慢性心不全の診断と重症度を評価することの重要性は,20年前と比べ非常に低下している,心臓カテーテル法が心疾患の定量的確定診断の唯一の手段であった時代は,もはや終わり,検査でなく治療の手技に変化した現代では,冠動脈疾患の部位と狭窄度判定のみに診断が限定されているといって過言ではない.
 本稿では,従来侵襲的検査で得られた血行動態の諸指標を非侵襲的検査で得られるそれと対比しながら,心不全の診断と重症度評価について述べる.

重症度分類

著者: 田口淳一

ページ範囲:P.1356 - P.1358

ポイント
1)重症度分類においても,具体的にどの程度の身体活動ができるのか把握しておくことが重要である.

慢性心不全の治療指針

慢性心不全の治療方針

著者: 半田俊之介 ,   吉川勉

ページ範囲:P.1360 - P.1363

ポイント
1)慢性心不全は心ポンプ機能の障害を中心としたうっ血および低心拍出量による症候群である.治療方針は心不全の原因となった基礎疾患,すなわち病因,病態解剖および生理,重症度により異なる.
2)基礎疾患の診断により,心ポンプ機能の4因子,すなわち心拍数,前負荷,後負荷および心収縮性が病態にどのように関わっているかを明らかにする.主因および誘因を取り除くべく治療選択を行う.心負荷や心拍数の管理治療は内科的ばかりでなく外科的にも可能である.
3)心筋障害による心収縮性の低下,いわゆる心筋不全の場合には問題が残る.伝統的に強心薬が用いられ,利尿薬も基本とされている.血管拡張薬の有効性が知られ,一部の症例ではβ遮断薬が症状,心機能および長期予後を改善するとされる.
4)選択した治療手段が患者のmorbidityとmortalityにどのような改善効果をもたらし,逆にどのようなdemeritを生じるのかを配慮する必要がある.とくに注意すべきは致死的不整脈である.

慢性期心不全の誘因・増悪因子

著者: 出川敏行

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 心不全とは,心機能の低下より全身臓器に対して適当な循環を維持できなくなった状態を言う.心不全は原因疾患があって発症し,病態の進行により増悪するが,種々の誘因・増悪因子により病態の進行が修飾される.
 慢性期の代償性心不全患者において心不全の悪化がみられる際には,往々にして誘因・増悪因子が存在する.したがって,慢性期の治療の目標は基礎疾患に対する対策とともに誘因.増悪因子への対策・除去に向けられる.表1に心不全の誘因.増悪因子を示した.

老年者心不全の治療

著者: 桑島巌

ページ範囲:P.1366 - P.1367

 老年者心不全では心臓疾患以外にも,さまざまな疾患を合併しているのが特徴であり,治療法も複雑である.また短期間に再入院する頻度が高いのも特徴で,Vinsonら1)によれば,70歳以上の老年者心不全で,退院した140例中,実に66例(47%)が90日以内に再入院し,その大部分(57%)が心不全の再発による入院であったという.その理由として気管支炎や肺炎などの感染症を起こしやすいこと,薬物コンプライアンスの悪いこと,食事がよく守られていないことなどがあげられている.
 老年者心不全の基礎疾患としては弁膜症が減少し,虚血性心疾患が急激に増えているが,心アミロイドーシスや腎不全に伴って発症する心不全など,老年者特有の病態もあり,その治療に当たっては基礎疾患,合併症を考慮した治療法の選択が必要である.

虚血性心疾患の心不全治療

著者: 鷹津文麿

ページ範囲:P.1368 - P.1370

 虚血性心疾患によって起こる心不全は,左心室の機能低下(心拍出量の低下,左室拡張期圧の上昇)によるものである.多くの場合,大きな心筋梗塞または多発性心筋梗塞といった非可逆性の心筋壊死が原因となっているため,利尿剤および血管拡張剤による内科的治療が原則である.大きな心筋梗塞が心室瘤を形成し,薬剤抵抗性の心不全を呈する場合には,心室瘤切除術の適応となるが,かかる症例は実際には少なく(図1),今日,心室瘤切除術は他の手術(A-Cバイパスなど)の「ついで」に行われるか,薬剤抵抗性の心室頻拍,心室細動に対して行われることが多い.
 薬剤の選択,使用法に関しては,本特集の他項に詳述されているので参照して頂きたいが,基本的には,まず徐放型亜硝酸剤(経口または経皮)と利尿剤(フロセミド,アゼソミド,スピロノラクトンなど)の併用でコントロールを試み,次に血管拡張剤の使用を考慮する.

拡張型心筋症と類似疾患の心不全治療

著者: 古賀義則 ,   金光弥寿子

ページ範囲:P.1372 - P.1374

ポイント
1)心不全症状の軽減のみでなく,quality of lifeの向上,予後の改善を治療目標とする.
2)血管拡張薬,利尿薬,ジギタリスが基本的治療薬である.
3)心室性不整脈の抑制,心機能の改善にβ遮断薬が有効な例がみられる.

肺性心の心不全治療

著者: 上田国彦 ,   中野赳

ページ範囲:P.1376 - P.1377

ポイント
1)慢性肺性心の治療では,呼吸不全の程度,原疾患の重症度に左右されるため,原疾患の治療が重要である.
2)長期酸素療法では,その予後において有効性が証明されている.
3)血管拡張療法は原理的には有効な治療であるが,種々のdemeritにより未だ確立されておらず,try and errorで治療されているのが現状である.

薬物治療—適応,使い方,副作用

利尿剤

著者: 田村勤

ページ範囲:P.1378 - P.1380

ポイント
1)利尿剤はほとんどのうっ血性心不全のファーストチョイスであり,少量から開始し,漸増する.
2)副作用としての電解質異常,脱水に注意し,それに対する対応が必要である.
3)多くの種類ではなく,ループ利尿剤とカリウム保持利尿剤各々1種類ずつ(たとえばラシックス®とアルダクトンA®)に精通して使いこなせるようにする.

ジギタリス

著者: 諸岡成徳

ページ範囲:P.1382 - P.1383

ポイント
1)頻脈性上室不整脈合併のとき良い適応である.
2)心臓の基礎疾患や合併症および年齢で,適応,使用量が異なる.
3)強心効果は比較的弱く,ジギタリス中毒がやや多いので注意.

血管拡張薬

著者: 栃久保修 ,   木村一雄

ページ範囲:P.1384 - P.1386

ポイント
1)心不全治療に用いられる血管拡張薬には静脈拡張型,動脈拡張型,混合型がある.
2)静脈拡張型は前負荷軽減に,動脈拡張型は後負荷軽減に用いられる.
3)ACE阻害薬は慢性投与で,死亡率低下とquality of lifeの改善がみられる.
4)適応:高血圧性心不全,虚血性心疾患や拡張型心筋症や逆流性弁膜症などによる心不全.
5)非適応:狭窄性弁膜症,閉塞性肥大型心筋症による心不全や高拍出量性心不全など.

カテコラミン

著者: 佐藤光 ,   立石博信

ページ範囲:P.1387 - P.1389

●catecholamineによるinotropic therapyを始める前に
 静注法によるinotropic therapyを始めるのは,急性心筋梗塞や急性心筋炎による心臓性ショックや急性心不全,慢性の低心拍出量性うっ血性心不全,心臓手術時であるが,臨床症状により,心臓性ショックや心不全を判断してinotropic the-rapyを直ちに始める前に,動脈圧,肺動脈圧や心拍出量といった血行動態をできるだけ正確に把握することが大切である.
 心拍出量や血圧の低下,さらにhypoperfusionによる臨床症状に加えて,左室充満圧の上昇(>15mmHg)を認めたときに適応となる.もし左室充満圧の低下または正常にとどまる時は,循環血液量の低下による可能性を考慮しなければならない.したがって,血行動態の正確な連続測定とその記録,心拍出量の定時的な監視も大切である.

α遮断薬,β遮断薬

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.1390 - P.1392

 心不全では心ポンプ機能を保持するために種々の神経体液性機構が作動している.とくに交感神経系の役割は重要であり,交感神経終末より分泌されたカテコラミンは心筋に対しては陽性変時・変力作用を,末梢血管に対しては収縮作用を示し,同時に間接的にレニン・アンギオテンシン系などの体液性因子を賦活させ,末梢血管収縮,体液貯留をもたらす.これらの作用は心不全における心拍出量や重要臓器灌流圧の保持に重要な役割を果たしている.
 しかしながら長期にわたる交感神経系活性の亢進は心筋のカテコラミン感受性を低下させるため,もはや心筋収縮性増強作用に結びつかず,逆に血管収縮による前,後負荷の増大や頻拍化によりポンプ機能の低下や肺うっ血,心筋酸素消費量増大が進展し,心不全はさらに悪化する(図).
 この心不全の悪循環を是正する治療法として,近年,α遮断薬を含む種々の血管拡張薬やβ遮断薬による治療が試みられるようになった.

代謝改善薬

著者: 山沖和秀 ,   矢崎義雄

ページ範囲:P.1394 - P.1399

 心筋は,種々の負荷に対する適応現象として細胞肥大をきたすが,十分な毛細血管の増生を伴わないため,心筋は相対的に虚血となる.また,肥大心筋が酸素消費量を増加するため,ますます虚血が進展する,こうした,虚血によるエネルギー産生効率の低下・細胞内pHの低下や,細胞膜・筋小胞体の機能障害が加わり,心不全が発症すると考えられている1)
 一般の強心薬は,このような弱った心筋を,いわば,鞭打って収縮を改善しようとするもので,残り少ない心筋エネルギーを枯渇させる危険性があり,実際,予後をむしろ悪化させる可能性も指摘されている.

抗不整脈薬の選択

著者: 長谷川彰彦 ,   吉本信雄

ページ範囲:P.1400 - P.1402

ポイント
1)重症心不全患者の予後は悪く,突然死の占める割合も高い.これには,重症心室性不整脈の関与が大きいものと考えられる.
2)抗不整脈薬は,陰性変力作用(VaughanWilliams分類の,とくにIA,II,IV群)および催不整脈作用を持っため,心不全患者への投与には注意が必要である.
3)心不全状態では,薬物動態が変化するため,抗不整脈薬による中毒症状を起こしやすい.また,肝臓での代謝や腎臓での排泄が低下し,薬物の半減期が延長するため,抗不整脈薬は少量より開始し,慎重に投与量を決定すべきである.

重症心不全の治療

電解質,代謝異常への対策

著者: 岩瀬孝 ,   中西成元

ページ範囲:P.1403 - P.1406

ポイント
1)心不全における低Na血症には,体内Na量の減少していない希釈性低Na血症と,体内Na量の減少している喪失性低Na血症という相反する2つの病態が存在する.前者では利尿薬などによる除水が,後者ではNaの補給による循環血液量の増加が治療の中心となる.
2)重症心不全では,低蛋白血症を中心とした栄養障害による心機能および生体防御能低下とが予後に強く影響しており,十分な対応が必要である.

呼吸管理

著者: 竹永誠 ,   小岩屋靖

ページ範囲:P.1407 - P.1409

 組織への酸素運搬能は[動脈血酸素含量×心拍出量]で表され,循環動態と呼吸機能は密接に関係する.心不全においては循環不全が呼吸不全を惹起し,呼吸不全がさらに循環不全を悪化させる(表1,2)1).病態の改善にはこの悪循環を断つ呼吸管理が重要である.
 本稿では主に左心不全に伴う呼吸不全に対する酸素療法と人工呼吸器療法について述べる.

IABP

著者: 平山治雄

ページ範囲:P.1410 - P.1412

ポイント
1)補助循環を必要とするのは一過性の急性重症心不全
2)IABPは後負荷軽減作用と冠動脈灌流量の増加を目的とした,左心系の補助循環装置
3)IABPはあくまでも補助循環である.IABPで全身の臓器循環を維持する間に,原因疾患の治療を積極的に行わねばならない.

血液透析,濾過法

著者: 梅津道夫

ページ範囲:P.1413 - P.1415

ポイント
心不全における血液浄化法
1)心機能の予後・生命予後を考慮して,血液浄化法の適否を検討する.
2)可及的に緩徐持続的な方法を施行する.
3)熟練したスタッフの監視下で施行する.

心不全患者のケア

入院治療のタイミング

著者: 有馬新一 ,   田中弘允

ページ範囲:P.1416 - P.1417

 心不全の病態は,急性・慢性,左心不全・右心不全・両心不全,重症度,治療に対する反応性,原因となる心疾患により,そのスペクトラムは幅広く多様である.したがって心不全の治療を行ううえで,入院が必要か否かの判断は症例毎にその病態に応じてなされているのが実情である.とくに入院のタイミングについては,最近になり,自覚症に基づいた重症度からだけでなく,quality of life(QOL)の面からも入院治療のメリット,デメリットを検討することが強調されつつあり,重要な問題と思われる.
 以下,私たちの経験をもとにこの問題に対する考えを述べたい.

慢性心不全患者に対する運動療法

著者: 小川剛 ,   安井和彦 ,   牛山和憲

ページ範囲:P.1418 - P.1420

 健康人ならびに心筋梗塞後患者に対する運動療法は,運動耐性の増加,各種の生化学的ならびに心理学的因子の改善をもたらし,有用であったと報告されている.
 この運動耐性の改善は最大体酸素消費量(VO2max)の増加と密接に関連しており,心拍出量の増加(中枢効果)ならびに動・静脈酸素較差(AVO2D)の増大(末梢効果)により招来される.

外来での生活指導

著者: 野村雅則

ページ範囲:P.1422 - P.1423

 心不全とは,何らかの原因によって心臓のポンプ機能が低下し,身体の諸臓器が必要とする血液を供給できなくなった状態をいう.心不全はその経過より急性心不全と慢性心不全に分けられ,重症度分類としてはNYHA旧分類が一般に用いられる.
 通常,外来治療の対象となる心不全患者は,急性期に入院治療を受け,状態の安定した患者,あるいは症状が未だ顕性化していない患者など,NYHA心機能分類I,II度の慢性心不全患者である.しかし,近年心不全治療は著しく進歩し,従来は入院治療が必要であった患者も外来通院での治療が可能となった.

心不全患者の外科手術

著者: 小泉克己

ページ範囲:P.1424 - P.1425

 米国(1988年)における年間の心血管疾患罹患数は250万人(心筋梗塞は約150万人)であり,米国国民の4人に1人は心血管疾患をもっていると推計されている.Manganoら1)によれば,non-cardiac surgeryは1988年に2,500万件以上行われたが,このうち約100万人の冠動脈疾患患者を含め700〜800万人が周術期における心血管疾患のhigh risk groupと考えられた.死因全体に占める虚血性心疾患の割合は欧米では約1/3にのぼるが,わが国ではその割合は米国や北欧の約1/7程度と少ない.しかし,今後,高齢者の増加に伴って手術時における心血管疾患の危険は増大していくものと憂慮されている.
 本項では心疾患患者とくに心筋梗塞患者の手術に伴う心合併症についてとりあげ,術前のリスク評価について述べたい.

座談会

慢性心不全の治療

著者: 半田俊之介 ,   大川真一郎 ,   中西成元 ,   山口徹

ページ範囲:P.1426 - P.1436

 山口(司会) 今日は,とくに慢性の心不全を中心に,患者を実際に見た場合にどう対処するかという,診療のポイントを,第一線でご活躍の先生方にお伺いしたいと思います.

カラーグラフ 冠動脈造影所見と組織像の対比・30

弾性線維性仮性黄色腫の心血管病変

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.1442 - P.1444

●17年間経過観察中の弾性線維性仮性黄色腫
 症例 32歳,女
 現病歴 小学生の頃,速く走ると前胸部絞扼感があり,3〜4分の安静により軽快していた.中学3年の時,近医を受診し,運動負荷心電図にて陽性所見がみられ,労作狭心症と診断され,以後投薬を受けていた.高校1年の時に当院へ精査のため入院し,弾性線維性仮性黄色腫と診断された.以後,亜硝酸薬,Ca拮抗薬,β-遮断薬の服用により症状が軽快していた.時折歩行時に症状が出現するため,今回17年ぶりに入院した.頸部,腋窩,鼠径部に淡黄色の丘疹を認めた(図1C).冠動脈造影では前下行枝(Seg 6)に100%,回旋枝(Seg 13)に90%狭窄を示し(図1A),右冠動脈はSeg 1に75%,Seg 3に99%,4PDに100%狭窄を認めた(図1B).左室造影では駆出率63.8%と良好であった.最近では症状がでないように生活しているが,ニトログリセリン錠を使用しながら,水泳,登山などを楽しんでいる.

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・5

肺癌(1)—結節影症例

著者: 松井祐佐公 ,   安場広高

ページ範囲:P.1460 - P.1465

症例
 患者 56歳,女性
 主訴 胸部X線異常影の精査
 現病歴 生来健康であったが,他人のすすめで某病院の人間ドックを受診.その結果,胸部X線上,左上肺野に異常影を指摘され,1カ月間の肺結核症の治療を受けた後,当院に精査治療目的で紹介入院となった.

講座 図解病態のしくみ 膠原病・11

膠原病周辺疾患—ベーチェット病

著者: 平野隆雄 ,   坂井慶子 ,   稗田正志

ページ範囲:P.1466 - P.1473

 1937年,トルコイスタンブール大学皮膚科のH. Behçet博士より,口腔粘膜,眼,外陰部を中心とする全身諸臓器に炎症が反復して起こる疾患が報告されたが,以来,この疾病はベーチェット症候群,ベーチェット病と呼ばれるようになった,わが国では1924年,重田らが報告した1例がその最初であるが1),この疾患が注目されるようになってから,トルコ,イタリアをはじめとして,地中海沿岸諸国,中近東などの同緯度地域に発生することが多いとされている(図1).今回はベーチェット病の臨床像,治療などを中心に紹介したい.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1446 - P.1451

心エコー図演習

著者: 小川聡 ,   福田信夫 ,   大木崇

ページ範囲:P.1453 - P.1458

66歳の女性が動悸と胸部不快感を訴えて来院した
 家族歴 特記すべきことなし
 既往歴 リウマチ熱の既往なし
 現病歴 約6年前より労作時あるいは心配事のあるときに動悸,胸部不快感が出現するようになった.このような症状は30分程度持続するが,最近その頻度が次第に増加してきたため,精査を目的として当科を受診した.
 理学的所見 身長155cm,43kg.血圧130/70mmHg,脈拍70/分不整.心聴診では心尖部に強大な収縮中期クリックとLevine 2/6度の収縮後期雑音を聴取した.肺にラ音を聴取せず,肝腫大および下腿浮腫もみられなかった.

検査

検査データをどう読むか

著者: 橋本琢磨

ページ範囲:P.1474 - P.1476

診断に必要な検査
 表1に甲状腺機能亢進症を発症する病名を列挙した.甲状腺機能亢進症を示す疾患群で最も代表的なものは,バセドウ病(Graves病)であり,甲状腺機能亢進症と同義語で用いられる場合もある.バセドウ病はび漫性甲状腺腫と動悸,頻脈,発汗過多,体重減少,手指振戦を特徴とする.動悸,頻脈あるいは心房細動がみられることにより循環器疾患と誤診されている場合があるので注意を要する.特に老人の場合は甲状腺腫がほとんど触れない場合があり,長期間誤った治療が行われていることがある.頻脈と体重減少があれば,スクリーニング的に甲状腺機能検査を行うべきである.

血液疾患診療メモ

リンパ節腫脹の臨床的アプローチ

著者: 岡田定

ページ範囲:P.1477 - P.1479

 日常診療でリンパ節腫脹を訴える患者を診ることは稀ではない.このような患者にアプローチするうえで臨床的にもっとも重要なことは,リンパ節腫脹の原因疾患が,急いで診断をして治療を開始しなければいけない悪性疾患か,ゆっくりと経過観察のできる良性疾患かを鑑別することである.
 リンパ節腫脹をきたす疾患は,表のようにまとめられる.本項では,1)悪性疾患を疑う時,2)良性疾患を疑う時,3)悪性疾患か良性疾患かの判断に迷う時の3つの場合に分けて,臨床的なアプローチについて考えてみたい.

循環器疾患診療メモ

循環器系薬剤と飲食物・嗜好品

著者: 高尾信廣 ,   山科章

ページ範囲:P.1480 - P.1481

 日常臨床での薬物治療を行ううえでとかく忘れやすいものの一つが,食べ物や嗜好品と薬剤との相互作用であろう.忙しい外来の中でももっとも注意しているのはワーファリン服用時の納豆の禁止程度である.このような食べ物や嗜好品との相互作用の情報は個人的な経験や断片的な知識によることが多く,医薬品の添付文書などにはほとんど記載されていない.
 最近出版された「飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用」1)の中から,日常頻用する循環器系薬剤と飲食物・嗜好品の相互作用について抜粋し,まとめてみた.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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