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雑誌目次

雑誌文献

medicina29巻10号

1992年10月発行

雑誌目次

今月の主題 心電図の読み方から不整脈診療へ Editorial

心電図診断と不整脈診療

著者: 杉薫

ページ範囲:P.1718 - P.1721

 心電図の教科書は様々な場面で応用できるように,理論から解説されることが多い.いきおい初めから読み出すと,その難解なところもあって,途中で投げ出すことになる.そこで,ここでは馴染みの少ない理論を省き,心電図診断と不整脈診療を見渡して,心電図を読む時に間違えやすいところ,注意すべき要点をあげてみる.

標準12誘導心電図—読み方の基本

心電図の読み過ぎ,読み落としを防ぐために

著者: 池田孝之

ページ範囲:P.1722 - P.1723

ポイント
1)心電図診断の拠り所は次の2つである.
 ①調律診断
 ②波形診断
2)波形診断を行う際の読み過ぎ,読み落としを防ぐための注意点を次の5点について述べる.
 ①P波
 ②Q波
 ③R波高
 ④QRS幅
 ⑤デルタ波

心電図自動診断の問題点

著者: 加藤貴雄

ページ範囲:P.1724 - P.1728

ポイント
1)心電図自動診断は,健康診断におけるスクリーニングに適している.
2)大量高速処理は可能であるが,解析精度は十分とはいえない.
3)現状のシステムは,重要疾患の見落としを避けるため診断基準を甘くしてあるので,false positiveが多くみられる.
4)診断の再現性は比較的良好であるが,計測値の微妙な差が影響することもある.
5)P波の認識不良によると思われる誤診が少なくない.
6)不整脈診断精度をさらに上げるためには,新たな診断ロジックの開発も必要である.
7)今後はfalse pesitiveを減らし,正診率を高める必要がある.

P波異常から何を考えるか

著者: 栫英夫 ,   高柳寛 ,   高畠豊

ページ範囲:P.1730 - P.1732

ポイント
1)正常P波波形は両心房の電気的現象を示す.
2)左房負荷は左房の圧負荷,容量負荷で生ずる(高血圧症,僧帽弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症,大動脈弁狭窄症,肥大型心筋症,心室中隔欠損症,重篤な心不全など).
3)右房負荷は右房の圧負荷,容量負荷で生ずる.肺気腫,気管支喘息,肺線維症,肺動脈弁狭窄症,心房中隔欠損症,Fallot四徴など.
4)P波の消失を認めた時に電解質の異常も考慮する必要がある.

心室内伝導障害の臨床的意義

著者: 松原哲

ページ範囲:P.1734 - P.1739

ポイント
1)ヘミブロックを診断するにあたっては,診断基準をみたすだけでは不十分で,除外診断も必要である.
2)右脚ブロック,左脚ブロック,ヘミブロックは,いずれも単独では予後に影響を及ぼさない.
3)2束あるいは3束ブロックからAdams-Stokes syndromeを生じる症例は10%足らずであるが,いずれの症例においても定期的follow-upが必要である.
4)びまん性心室内伝導障害は原因により治療法が異なるため,基礎疾患や治療薬剤にも注意を払わなければならない.

心室肥大と診断される心電図変化

著者: 安部良治

ページ範囲:P.1740 - P.1743

 心室肥大は,種々の原因で生じるが,その診断には心電図が重要な役割を果たしている.主要な変化は,①QRS波高電位,②ST-T変化,③心室興奮時間(ventricular activation time;VAT)延長,④軸偏位,であり,それらの単独または組み合わせにより診断の指標としている.心室肥大には,心室に加わる負荷が内圧上昇による収縮期負荷(systolic overload)と心室の拡張に伴う拡張期負荷(diastolic overload)があり,以下にその心電図所見,診断基準,鑑別点を示す.

非虚血性ST-T変化の鑑別

著者: 板岡慶憲 ,   樫田光夫

ページ範囲:P.1744 - P.1747

 ST-T部分は,心室心筋の再分極により生じ,この部分の変化は心電図により心筋虚血を診断する際,最も重要である.
 その反面,このST-T部分の変化は心筋虚血以外でもしばしば認められ,日常診療においてその原因を検索する必要に迫られることがある.

狭心症を疑う心電図

著者: 柴田仁太郎 ,   武市耕

ページ範囲:P.1749 - P.1752

ポイント
1)狭心症の初期や軽症のものは正常心電図を示す.
2)非発作時にST低下のあるものは重症例もしくは非狭心症例であることが多い.

非定型的心筋虚血の診断—特にSyndrome Xについて

著者: 奥村謙

ページ範囲:P.1754 - P.1757

ポイント
1)労作時の狭心痛と運動負荷時のST低下を示すが,冠動脈は正常である.
2)中年以降で,女性に比較的に多い.
3)予後は良好である.
4)細小冠動脈の異常収縮または拡張障害による冠血流予備能の低下が指摘されており,microvascular anginaとも呼ばれる.

急性期心筋梗塞の心電図変化

著者: 雨宮浩

ページ範囲:P.1758 - P.1761

ポイント
1)急性期心筋梗塞の心電図変化は,T波の増高・尖鋭化とST上昇に代表される.
2)典型例における心電図診断は容易であるが,発症からの時間経過,梗塞部位,発症様式,伝導障害などにより,12誘導心電図で特異的な心電図変化を呈さない症例が存在し,その頻度は10〜20%と推定される.
3)これらの診断のためには,数多くの急性心筋梗塞心電図を経験し,鋭い観察力を養うようにトレーニングに励むこと,典型的な心電図変化をしないいくつかの場合を,十分に理解しておくことが必要であり,繰り返し心電図を記録し,その変化を見逃さないことが重要である.

QT延長をみたときに何に注意するか

著者: 満岡孝雄

ページ範囲:P.1762 - P.1766

ポイント
1)QT延長はBazettのQTcを用いて判定し,0.46秒以上を延長とする.
2)QT延長を認めた時には,QT延長症候群を疑う.
3)QT延長症候群は遺伝性と二次性に大別されるが,その鑑別は治療上重要である.
4)二次性QT延長症候群は抗不整脈剤によって生じることがほとんどであるが,徐脈や低カリウム血症が合併することもある.
5)遺伝性QT延長症候群の発作予防にはβ遮断剤が有効である.
6)Torsade de pointesを認めた時には,心室ペーシングをまず行う.

U波にあらわれる心電図異常

著者: 川野誠子

ページ範囲:P.1768 - P.1770

ポイント
1)心電図上のU波は心疾患および種々の疾患,電解質異常の検出に有用である.
2)U波の高さが1mm以上,または同一誘導でT波高より高い時は異常陽性U波である.
3)異常陽性U波は低カリウム血漿の診断に非常に有効である.
4)陰性U波は虚血性心疾患の存在を示唆する.

電解質異常を考える心電図

著者: 松本万夫

ページ範囲:P.1772 - P.1775

ポイント
1)電解質異常は徐脈性,頻脈性各種の不整脈を生じうる.不整脈をみたら電解質をチェックせよ.
2)高K血症はテント状T波増高と伝導障害が特徴的.低K血症はST低下,T波減高とU波出現と増高,QU延長と頻脈性不整脈の出現が特徴的.
3)CaイオンはST部分に影響し,高Ca血症ではST部分の短縮によるQTaが短縮し,低Ca血症ではST部分の延長によるQTが延長する.
4)Mgイオンは細胞内イオン濃度低下により頻脈性不整脈を呈しうる.

不整脈診断の実際

内科医に必要な不整脈の発生メカニズム

著者: 碓井雅博 ,   井上博

ページ範囲:P.1778 - P.1781

ポイント
1)不整脈発生のメカニズムは,①刺激生成の異常,②興奮伝導の異常,③①と②の両者の合併,に分類される.
2)刺激生成の異常では,誘発活動が重要であり,早期後脱分極(EAD)と遅延後脱分極(DAD)がある.
3)興奮伝導の異常では,一方向性ブロックと伝導遅延を伴うリエントリー機序が重要であり,臨床における発作性頻拍の大部分と粗動はこれによる.

理学的所見・症状から疑う不整脈診断

著者: 東祐圭

ページ範囲:P.1782 - P.1786

ポイント
1)不整脈は発作性に出現するものが多く,問診で不整脈の内容,重症度を推測し,その後の検査および治療方針を決めなければならない場合があり,詳細な問診が必要である.
2)不整脈の症状には動悸,胸痛、胸部不快感などで不整脈が直接自覚されることによる症状と,失神,心不全など不整脈が血行動態に影響を及ぼし出現する症状がある.
3)理学的所見により不整脈の有無,重症度,不整脈の原因となる基礎疾患,心疾患の有無と程度を検討する.

不整脈心電図診断の導きかた

著者: 三上雅人 ,   伊藤明一

ページ範囲:P.1788 - P.1792

ポイント
1)不整脈の心電図診断を行うとき,心電図記録時の臨床症状が重要である.特に,発作性に出現する不整脈の場合,発作時の心電図記録に努めるべきである.
2)基礎心疾患によって不整脈の意義や治療方針は異なる.不整脈のみならず,患者の臨床的背景も把握すべきである.
3)P波とQRSの関係,およびその規則性を把握することが重要であるので,不整脈を解析するためにP波を同定可能な誘導で記録しなければならない.

心房性不整脈の鑑別診断

著者: 瀬川和彦

ページ範囲:P.1793 - P.1796

ポイント
1)心房頻拍と心房粗動の鑑別
心房頻拍はPとPの間に等電位線があり,レートが200/分前後.心房粗動は鋸歯状波でレートが300/分前後.ただし両者にoverlapもある.
2)上室性頻拍の鑑別
迷走神経刺激やベラパミル,ジギタリスなどの薬物で房室伝導を抑制すると,房室結節を回路に含むリエントリー性頻拍はレートが遅くなり,停止.心房頻拍は2:1以上の房室伝導となっても持続.房室伝導を抑制することにより心房波形の観察が容易となる.
3)洞不全症候群の分類
Rubensteinの分類が広く用いられている.I型は持続性洞徐脈,II型は洞停止,III型は徐脈頻脈症候群.

期外収縮診断のポイント

著者: 加藤林也

ページ範囲:P.1798 - P.1802

ポイント
1)上室期外収縮の診断1,2)
 ①P波の有無とP波形
 ②連結期とPR間隔
 ③連結期とQRS波形
2)心室期外収縮の診断3,4)
 ①QRS波形による発生起源の推定
 ②心室期外収縮の重症度診断

上室性頻拍の鑑別診断

著者: 藤木明

ページ範囲:P.1803 - P.1806

ポイント
1)頻拍中のQRS幅
2)房室ブロックの有無
3)P波の位置
4)電気的交互脈

QRS幅の広い頻拍の鑑別診断

著者: 伊東敏弘 ,   桜井正之

ページ範囲:P.1807 - P.1810

ポイント
 幅広のQRS波形を呈する頻拍に対して,その起源が心室性か上室性かについての体表12誘導心電図の鑑別ポイントを示す.
 1)房室解離,融合収縮,捕捉収縮の有無
 2)QRS波の幅の程度
 3)左軸偏位の程度
 4)QRS波形の解析
 5)規則性の有無

心筋虚血により生じる不整脈

著者: 宮崎利久

ページ範囲:P.1812 - P.1814

 心筋虚血により生じる不整脈はときに致死性であり,突然死の要因の1つとされる.本稿では心筋虚血による不整脈を広義に捉え,心筋梗塞の急性期,回復期,慢性期にみられる不整脈と,狭心症発作により生じる不整脈のすべてを含むものとする(表).以下に各々の不整脈を概説し,最後にその発生を修飾する因子にふれたい.

徐脈性不整脈の診断のポイント

著者: 八木洋 ,   姜龍溢 ,   大口純人 ,   今井忍

ページ範囲:P.1815 - P.1819

ポイント
1)洞房ブロックとは洞結節内,洞結節周囲組織に生じた進出ブロック(exit block)である.
2)洞停止とは,洞結節自動能の一過性ないしは恒久的停止である.
3)房室解離とは,房室伝導系の生理的現象と関連し,心房と心室が独立して興奮する現象である.
4)房室ブロックとは,房室伝導系における伝導の遅延ないしは途絶である.

眩暈・失神の鑑別の仕方

著者: 傅隆泰

ページ範囲:P.1820 - P.1822

 失神とは,突然に生じる意識喪失発作で,数分以内に四肢麻痺,その他の後遺症を残さずに完全回復する徴候をいう.病歴がはっきりしていれば一過性脳虚血発作やてんかん発作との区別は比較的容易であるが,ときには脳波検査や脳のCT検査を行い鑑別しなければならないこともある.程度が軽い場合には,“気が遠くなる”,“目の前が暗くなる”,“ふらつく”,など脳貧血様症状にとどまる.

ペースメーカー心電図の異常発見のポイント

著者: 臼井孝

ページ範囲:P.1824 - P.1826

ポイント
1)ペーシング不全はないか? 刺激が捕捉され,心収縮が得られているか?
2)センシング不全はないか? センシング不全には,undersensingとoversensingがある.
 ①心室(あるいは心房)収縮は感知されているか(undersensing)?
 ②心室(あるいは心房)収縮以外の信号が感知されていないか(oversens-ing)?
3)ペーシングモードはなにか? 一般には3文字コードで表示される.
4)刺激間隔,センシングと次の刺激までの間隔(escape interval)は設定通りか?

危険な不整脈—Life-threatening arrhythmias

著者: 秋山淳一 ,   青沼和隆

ページ範囲:P.1828 - P.1831

ポイント
1)生命に危険な不整脈としては,心筋梗塞急性期のwarning arrhythmias,心室頻拍,心室細動,Long QT症候群,WPW症候群に合併した発作性心房細動などがあげられる.
2)頻発性,多形性,2連発以上,R on T型の心室性期外収縮はwarning arrhyth-miasと呼ばれるが,これらを認めない例でも心室細動が発生することも少なくなく,注意を要する.
3)心室頻拍の鑑別診断は特に重要で,12誘導心電図で,房室解離,心室捕捉,心室融合収縮を認めるかが,鑑別上ポイントとなる.
4)Long QT症候群では,Torsades depointesと呼ばれる特徴的な多形性心室頻拍を伴うことがある.
5)WPW症候群に伴う発作性心房細動では,RR間隔が著しく不整で,narrowQRSから様々な程度のデルタ波を伴うQRSが認められる.
6)以上のように,生命に危険な不整脈は,通常,12誘導心電図などの詳細な波形分析により大部分診断可能である.迅速な治療の開始が不可欠であるため,日頃から十分な心電図学的な知識の習得に努めることが必要である.

不整脈検査の適応

どのような時にホルター心電図を記録するか

著者: 田辺晃久

ページ範囲:P.1833 - P.1839

 標準12誘導心電図の記録時間はたかだか数十秒〜数分であり,発作性あるいは一過性に起こる心電図異常の検出には必ずしも適当でない.その点,ホルター心電図は24時間という長時間心電図記録を1単位としており,それだけ一過性の心電図異常をとらえやすい.したがって,一過性の動悸,脈の乱れ,不整脈感など不整脈の疑われる患者,発作性の胸痛,胸部圧迫感など狭心症状を訴える患者はホルター心電図記録の適応となる.
 また,期外収縮,発作性頻拍,狭心症発作などの発生数の多寡を把握したいとき,抗不整脈薬や抗狭心症薬の効果の有無・程度を知りたい時,あるいはペースメーカー異常の有無を評価したい時などにもホルター心電図記録は有用である.

ホルター心電図検査の有用性と注意点

著者: 加世田俊一 ,   李建軍

ページ範囲:P.1841 - P.1843

ポイント
1)ホルター心電図の第1の適応は不整脈であり,その定性診断や期外収縮数などの定量評価に有用である.
2)頻脈発作などの発作頻度が低ければ1回のホルター心電図で異常をとらえる可能性が低いため,必要に応じて誘発試験などのほかの検査法も行う必要がある.
3)期外収縮数の定量による治療効果の判定にあたっては,不整脈出現に大きな日差変動があることを理解しておく.
4)ホルター心電図の第2の適応は虚血性のST変化の検出であり,特に異型狭心症発作時のST上昇の記録に有用である.
5)労作性狭心症患者の一過性ST低下については,sensitivity,specificityともに低く,その応用は限定される.本法の所見のみを根拠に労作性狭心症を診断することは避けるべきである.

判断に迷うホルター心電図所見

著者: 西崎光弘 ,   有田匡孝

ページ範囲:P.1845 - P.1847

ポイント
1)洞停止とnon-conducted PAC(心室伝導を認めない心房性期外収縮)の鑑別は心室停止前のT波形に注目すべきである.
2)第2度房室ブロックの鑑別にはPR間隔の延長ばかりでなく,ブロック直後のPR間隔が重要である.
3)心室内変行伝導を伴った上室性頻拍と心室頻拍は,QRS波形およびそれに先行するP波や頻拍周期により鑑別される.
4)アーチファクトとの鑑別は体動および自覚症状の有無,T波の存在,PQ,QRS,QT間隔に注目し,両誘導で検討するべきである.

ホルター心電図による薬効評価

著者: 芹田巧 ,   清水昭彦 ,   深谷真彦

ページ範囲:P.1848 - P.1850

ポイント
1)Holter ECG法による不整脈に対する薬効評価においては,出現数(量的)および重症度(質的)の検討が必要である.
2)不整脈の出現状況には少なからず日差変動があり,Holter ECG法による薬効評価に際しては,各症例における不整脈の出現状況を十分検討することが重要である.

不整脈症例の運動負荷心電図

著者: 池田こずえ

ページ範囲:P.1852 - P.1855

ポイント
1)不整脈症例の運動負荷の目的は,不整脈の診断,心筋虚血の判定,不整脈の運動負荷に対する反応,治療効果の判定などである.
2)運動負荷時は,不整脈発生に対する十分な注意と救急処置の用意が必要である.
3)冠動脈疾患患者では運動負荷誘発性の連発性・多形性心室性期外収縮,心室頻拍は心事故発生を予測する因子である.

運動負荷心電図による薬効評価

著者: 小林洋一

ページ範囲:P.1857 - P.1860

●運動負荷試験で薬効判定可能な不整脈
1)心室性不整脈
 運動負荷試験で薬効を判定するためには運動誘発性不整脈で,かつ運動による再現性が高いことが条件となる.一般に心室性不整脈が対象となることが多い.

不整脈治療の基本

不整脈症例,入院治療か外来診療かの判断

著者: 三田村秀雄

ページ範囲:P.1863 - P.1865

ポイント
1)受診時に不整脈が持続していれば,その心電図により入院の適否を判断する.
2)受診時に不整脈が出ていないときには,症状(動悸,めまい,失神),心筋梗塞,心筋炎,肥大型心筋症など器質的心疾患の有無,12誘導心電図の異常の有無(WPW,QT延長,ブロックなど)をもとに入院の適否を判断する.
3)入院の判断は即日行わなければならない.

不整脈症例を専門医へ紹介するタイミング

著者: 小松親義

ページ範囲:P.1866 - P.1867

ポイント
1)症状(失神,めまい,胸痛など)を伴う不整脈は原則として専門的な治療を要する.
2)器質的心疾患に伴って生じる不整脈は要注意.
3)不整脈により虚血や心不全が増悪し,悪循環を形成することがある.
4)QT延長症候群は,たとえ不整脈が捕えられない場合でも,突然死を来す可能性がある.

緊急度の高い不整脈への対処

著者: 大平洋司 ,   佐竹修太郎

ページ範囲:P.1868 - P.1871

ポイント
1)I群からIV群のすべての抗不整脈剤は心筋の収縮力を低下させ血行動態を悪化させる可能性があり,またその催不整脈性によりさらに重篤な不整脈を招来する場合がある.
2)血行動態が不安定な場合には,胸部叩打,心マッサージ,電気ショック,体外ペーシングなどの物理的な治療を優先する.

抗不整脈薬の種類と投与法

著者: 相沢義房

ページ範囲:P.1873 - P.1877

 近年の基礎電気生理学の進歩はめざましく,単一のイオンチャネルのレベルでの電気生理学的解析が進んでおり,抗不整脈薬の作用もチャネルとの結合解離を含めて詳細が明らかにされている.これらの抗不整脈薬の作用機序を知ることは不整脈の合理的な治療のために重要なことである.
 ここではテーマである抗不整脈薬の分類と,抗不整脈薬の特徴および使用法について述べる.

抗不整脈薬の催不整脈作用・副作用

著者: 渡辺一郎

ページ範囲:P.1878 - P.1881

ポイント
1)抗不整脈薬投与中,新たな不整脈の出現や既存の不整脈の増悪を,proarrhythmiaという.
2)頻度は非観血的検査法では1〜15%,電気生理学的検査法では5〜36%である.
3)Ia群・III群によるtorsade de pointes,Ic群によるincessant型サインカーブ様心室頻拍に要注意.
4)器質的心疾患のある例,持続性心室頻拍や心室細動のある例,左室機能低下例は危険群である.

どこまで期外収縮を治療するか—治療の適応

著者: 桜田春水

ページ範囲:P.1882 - P.1884

ポイント
1)期外収縮例では,それに基づく症状,および基礎心疾患の有無を明らかにする.
2)心疾患のない例の心室性期外収縮は,原則として治療の必要性はなく,症状の強い例のみが適応となる.
3)心疾患がある例の心室性期外収縮に対する定まった治療基準はないのが現状であるが,個々の症例の病態を的確に判断し,致死的不整脈を生じ得る可能性が考えられる例が,治療の適応となる.
4)心房性期外収縮例では,症状のある例,心房細動既往例が治療の対象となる.
5)漫然と抗不整脈薬を投与し続けることは避け,一定期間ごとに再検討する.

期外収縮治療の薬物選択の基準

著者: 新博次

ページ範囲:P.1886 - P.1888

 現在10種を越える抗不整脈薬が一般に使用可能となり,期外収縮治療の薬剤選択につき一定の方針を示すことは容易ではない.その理由は,期外収縮のタイプによる薬剤の反応性についてまだ一定の見解が得られていないためであり,薬剤の選択はおもに患者背景,殊に基礎心疾患,心機能の状況により行われていると考えられる.

心房細動への対処の仕方

著者: 井上大介

ページ範囲:P.1889 - P.1891

ポイント
1)診断:RR間隔の絶対不整(徐脈性心房細動では規則正しいこともある.)
2)発作性心房細動(頻脈性)の治療:心室レートのコントロール(ベラパミル静注)の後,薬物的除細動(ジソピラミド,プロカインアミド)
3)上記で除細動されない場合:直流通電(100〜200J).対象は心房細動持続時間が6ヵ月内かつ左房径が5.0cm以内のもの
4)慢性心房細動の心室レートコントロール(ジギタリス,βブロッカー,カルシウムブロッカー)
5)高齢者(60歳以上)における血栓塞栓症の予防薬投与(ワーファリン,アスピリン,パナルジン®

上室性頻拍の治療

著者: 内藤政人 ,   石川士郎

ページ範囲:P.1892 - P.1895

ポイント
1)発作性上室性頻拍の治療は,発作の停止および再発作の予防とにわかれる.
2)発作停止の治療の原則は,臨床所見および頻拍の心電図診断により,その頻拍にどのくらいの時間耐えうるかを判断し,治療の緊急度の判定を行う.
3)初めての発作時には,患者は不安に陥っている場合が多いので,決して心停止などには至らないことを告げて,安心させることが大切である.
4)一般に自・他覚所見が軽ければ,薬物療法,重篤であれば,直流除細動を行う.5)発作停止後は再発作予防のための治療の要否を決定し,治療を行う場合はその治療様式を選択する.

心室頻拍の治療

著者: 大西哲 ,   笠貫宏 ,   細田瑳一

ページ範囲:P.1896 - P.1899

ポイント
1)心室頻拍の治療においては,その重症度評価が重要である.
2)薬物療法では,抗不整脈薬の薬物動態の理解が必要である.
3)心機能低下例では,陰性変力作用・催不整脈作用が出現しやすく,薬物動態学的指標が変化する.
4)非薬物療法には,手術療法,カテーテルアブレーション,植え込み型除細動器(抗頻拍ペーシング)がある.
5)個々の症例に応じて,適切な抗不整脈薬の選択,非薬物療法の適応を決定することが重要である.

経過観察可能な徐脈性不整脈

著者: 井川修 ,   小竹寛 ,   真柴裕人

ページ範囲:P.1900 - P.1903

ポイント
1)経過観察可能な徐脈は,めまい,失神,息切れ,易疲労感など自覚症状がないことが前提.
2)徐脈の病態評価,治療方針決定にホルター心電図検査,薬剤負荷試験および運動負荷試験が有用.
3)病態評価困難なとき臨床心臓電気生理学的検査を積極的に行う.
4)徐脈の背景(原因疾患,修飾因子)を正確に診断し,その治療を優先させる.

徐脈性不整脈の段階的治療

著者: 久賀圭祐 ,   山口巖

ページ範囲:P.1905 - P.1909

ポイント
1)徐脈性不整脈に対する治療には,重症度・緊急度に応じて,①救命的即時治療,②即時治療,③要治療,④無処置・経過観察,がある.
2)Adams-Stokes症候群を伴う徐脈例では,緊急のペーシング治療が必要とされる.
3)Adams-Stokes症候群は,高度〜完全房室ブロックあるいは洞不全症候群のうち徐脈頻脈症候群にみられることが多い.
4)ACC/AHAのペースメーカー植え込みのガイドラインでは,徐脈による症状が重視されている.

ペースメーカー患者の禁忌と可能な処置

著者: 村上新 ,   三崎拓郎

ページ範囲:P.1910 - P.1912

 近年不整脈の診断・治療の進歩は著しく,ペースメーカー療法もペースメーカーの小型化と信頼性の向上によって適応が拡大され,それにつれてペースメーカー患者が専門外来以外で診断や治療を受ける機会も多くなっている.一方では最近の新しい医療機器などの普及に伴い,ペースメーカー患者に対する制約は増加している.そこで本稿では医療機器などに対するペースメーカー患者の禁忌と可能な処置につき述べることとする.

トピックス

カテーテルアブレーション

著者: 笠貫宏 ,   大西哲 ,   梅村純 ,   庄田守男 ,   細田瑳一

ページ範囲:P.1914 - P.1917

ポイント
1)カテーテルアブレーションは難治性頻脈性不整脈の新しい根治療法であり,現在,急速に進歩している領域である.
2)WPW症候群における副伝導路に対する高周波によるアブレーションは,高い有効率と安全性が確認されている.
3)難治性心室頻拍に対する直流通電および高周波によるアブレーションは,特殊例に限定され,さらに今後の研究が必要である.
4)難治性頻脈型心房粗細動,上室性頻拍における房室接合部および房室結節内リエントリー性頻拍に対する高周波アブレーションの有用性は今後の課題である.

植え込み型除細動器(ICD)の臨床成績

著者: 田中茂夫

ページ範囲:P.1918 - P.1920

ポイント
1)心臓急死(cardiac sudden death)の原因となる心室頻拍(VT),心室細動(VF)に対し,体内に植え込まれた除細動装置にて蘇生し,突然死を防止する装置を植え込み型除細動器(ICD)という.
2)初めての臨床例は1980年の米国における植え込み手術であり,これまで全世界で30,000例以上の症例を数える.わが国では1990年1月から臨床治験が開始され,現在継続中である.致死性不整脈の治療法としては,現時点では最もすぐれた方法であり,今後の発展が期待される.

アミオダロン

著者: 山口巖

ページ範囲:P.1921 - P.1923

 アミオダロン(amiodarone;AMD)は1961年ベルギーで抗狭心症薬として開発されたベンゾフラン誘導体であるが,後に抗不整脈作用が注目され,現在では欧米80ヵ国で実用化されている.
 一方,AMDは多彩な副作用を有することでも注目を集め,特に肺線維症は致死的である.わが国では本薬を稀用医薬品類似の医薬品(orphanlike drug)としているが,その臨床治験によって,薬剤抵抗性の難治性の上室性および心室性頻脈性不整脈に対して,優れた効果を有することが確認されている1,2)

Late potential

著者: 徳田宇弘 ,   大江透

ページ範囲:P.1924 - P.1927

ポイント
1)late potentialの検出は非観血的に安全に体表から何回も繰り返し可能な検査法である.
2)late potentialの検出は不整脈源性基質の検索に有用である.
3)late potentialの検出は致死性不整脈や突然死の予知に有用である.
4)late potentialの新しい試みとして,latepotentialの周波数解析や心房におけるlate potentialの検出が行われている.

カラーグラフ 電子内視鏡による大腸疾患の診断・8

感染性腸炎

著者: 林繁和

ページ範囲:P.1929 - P.1933

 かつては粘血便といえばまず疑われた細菌性赤痢も,近年,激減し,また腸チフス,パラチフス,コレラも同様に減少している.これらの法定伝染病に代わり,最近ではCampylobacter,腸炎ビブリオ,Salmonellaなどによる腸炎が増加している.これらの感染性腸炎は血便を呈することも多く,近年注目されている薬剤性大腸炎や虚血性大腸炎のような新鮮血下血で発症する疾患とともに,緊急大腸内視鏡検査で観察される機会も多い.
 従来,感染性腸炎の内視鏡像といえば,直腸S状結腸に関しての報告がほとんどであったが,近年における大腸内視鏡機器の改良および挿入技術の進歩により回盲部までの観察が容易となり,その内視鏡像の特徴にも新知見が加えられつつある.日常臨床でしばしば遭遇するCampylobacter腸炎,腸炎ビブリオ腸炎,Salmonella腸炎を中心に,その内視鏡像の特徴を紹介する.

演習

心エコー図演習

著者: 清水智明 ,   別府慎太郎

ページ範囲:P.1935 - P.1938

 40歳の男性が発熱と労作時息切れを訴えて来院した.
 既往歴 特記すべきことなし
 家族歴 特記すべきことなし

Current Topics

慢性疲労症候群(CFS)の臨床像

著者: 橋本信也

ページ範囲:P.1940 - P.1945

●はじめに
 慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CFS)は,その名の示すとおり,慢性の激しい倦怠感を主症状とし,他に微熱,咽頭痛,頸部リンパ節腫脹,関節痛,筋痛など,多彩な臨床症状をもつ1つの病態である.これらは感冒の症状に似ている.事実,CFSの患者の多くは,最初感冒に罹ったと思い,いつまでも症状がぬけきれないと感じ,「今度の風邪はいつもと違う」と訴えることが多い.
 CFSの患者はいつまでも続く易疲労感のため医療機関を訪れるが,どこでも「異常ない」といわれ,納得がいかず転々と多くの病院を尋ね歩く.その結果,自律神経失調症,ノイローゼなどの病名をつけられる例が多かった.元来,全身倦怠感はほとんどすべての病気でみられるものであり,疾患特異性に乏しい.しかも自覚症状であるから,客観的に測定することが困難である.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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