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雑誌目次

雑誌文献

medicina29巻12号

1992年11月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床医のためのわかりやすい免疫学

今月号で使われている主な略語とグロッサリー

ページ範囲:P.1954 - P.1956

Ach R(acethylcholine receptor)アセチルコリン受容体
ADCC(antibody-dependent cell-mediated(or cellu-lar)cytotoxicity)抗体依存性細胞性細胞障害作用

Introduction

免疫学の理解のために

著者: 石和久 ,   齊藤啓

ページ範囲:P.1958 - P.1961

ポイント
1)免疫とは「非自己」と「自己」を識別する認識機構であり,体液性と細胞性の反応に分けられる.
2)免疫機構に関しては分子レベル,遺伝子レベルまで研究が進み,種々の免疫疾患の遺伝学的解釈や診断に応用されつつある.
3)免疫応答はリンパ球が主体であるが,その他種々の細胞が関与し,複雑な相互作用によって引き起こされている.

リンパ球と食細胞

食細胞とリンパ球の免疫への関わり

著者: 中野昌康

ページ範囲:P.1964 - P.1971

ポイント
1)食細胞(抗原提示細胞)は摂取した抗原をprocessingして,MHC分子の上に提示し,リンパ球へ伝える.通常の抗原はクラスII MHC分子上に,ウイルスやアロ抗原はクラスI MHC分子上に提示される.
2)MHC分子上の抗原はリンパ球の抗原レセプターを刺激し,その基部に存在するチロシンキナーゼを活性化させ,リンパ球の分裂,サイトカインや抗体の産生を起こさせる.そこには接着分子も関与する.
3)免疫反応の進行には複数のサイトカインが関与する.
4)ハプテン担体を抗原とした場合の抗体産生にも,抗原のprocessingとサイトカインの役割が重視される.
5)細胞傷害性T細胞,抗体依存性細胞障害作用(ADCC),遅延型過敏症に際しては細胞相互間にさまざまな液性因子が作用する.

Bリンパ球の役割

Bリンパ球の免疫における役目

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.1972 - P.1975

ポイント
1)Bリンパ球の役割は抗体(免疫グロブリン)を産生することである.
2)Bリンパ球はブルザ相同器官で分化・成熟し,抗原刺激によって抗体産生細胞となる.
3)Bリンパ球の抗体産生はヘルパーTリンパ球によって介助される.
4)Bリンパ球の抗体産生はサプレッサーTリンパ球や,イディオタイプネットワークで抑制,調節される.
5)抗体の多様性は免疫グロブリン遺伝子の再構成で説明できる.
6)記憶細胞により二次反応では速やかに抗体が産生される.
7)免疫学的寛容の成立により自己の細胞に対しては抗体産生は起こらない.

免疫抗体の遺伝子工学

著者: 石川博通

ページ範囲:P.1976 - P.1981

 生体は膨大な数の異なった免疫抗体(Ig)やT細胞抗原受容体(TCR)をつくり出すことができる.これらの蛋白質(厳密には糖蛋白質)をコードする遺伝子は,対応する数だけ存在するのではなく,例えばV-D-J-Cから成るIgのH鎖は,生殖細胞遺伝子上では,それぞれ一定の距離をおいて位置するm個のV遺伝子群,n個のD遺伝子群,o個のJ遺伝子群がB細胞の発達分化過程で再構成する.したがって,理論的には(mxnxo)個の異なったV-D-J-Cをつくり出すことが可能である.
 本稿ではマウスB細胞の発達分化の基本的事象を図1から図5を用いて解説したい.

免疫抗体の構造と働き

著者: 松浦靖 ,   大西三朗

ページ範囲:P.1982 - P.1984

ポイント
1)抗体の可変領域は,超可変領域と枠組み領域から成る.枠組み領域はβ構造から成る土台を形成し,その端に抗原認識を司る超可変領域がループをなして位置している.
2)抗体の定常部は抗原結合後の第2の生理機能を担う.
3)膜型免疫グロブリンは結合蛋白と複合体を形成しており,特異抗原の取り込みとシグナル伝達を司る.

Tリンパ球の役割

Tリンパ球の分化と機能

著者: 森尾友宏

ページ範囲:P.1986 - P.1990

ポイント
1)Tリンパ球は主に胸線内で分化し,自己MHCに対する拘束性を獲得するとともに,多様な外来抗原に対応するT細胞抗原レセプターを発現する.
2)胸線内では正の選択と負の選択が行われ,CD4+CD8+TCR-CD310Wの段階で自己のMHCを認識する細胞が選択され,さらに自己抗原に高親和性を示すTリンパ球が除去される.

抗原提示とmajor histocompatibility

著者: 八木淳二

ページ範囲:P.1992 - P.1994

ポイント
1)抗原提示細胞上のMHCクラスI分子およびクラスII分子とも,抗原ペプチドを結合するユニークなポケット状構造を持つ.
2)クラスI分子およびクラスII分子とともに提示される抗原の種類およびその提示までの経路はそれぞれ異なる.
3)抗原ペプチドの認識は,T細胞抗原レセプターα,β鎖D,J領域が関わる.
4)一般の抗原とは全く異なった機構でT細胞を活性化する一連の抗原(スーパー抗原)が存在する.

サイトカインの働き

著者: 中島泉

ページ範囲:P.1996 - P.1999

ポイント
1)免疫系の発生と機能の発現は様々な種類の細胞間の情報の伝達によって統御される.
2)細胞間の情報を微量で有効に伝達する,抗体とは違う比較的低分子の蛋白質また糖蛋白質がサイトカインである.
3)免疫系を統御するTリンパ球のエフェクター活性の多くが幾種類ものサイトカインに媒介される.
4)これらのサイトカインの働きは多様性と重複性により多彩であるが,T細胞レセプターの働きによって統御されて適正に働く.
5)サイトカインの臨床応用にはこうした特性を考慮する必要がある.

食細胞とその他の免疫細胞

好中球の働き

著者: 浦部晶夫

ページ範囲:P.2000 - P.2002

ポイント
1)好中球は細菌感染症に対する生体防御機構において中心的役割を果たしている.
2)好中球が細菌を殺す際には,粘着,遊走,貪食,脱顆粒,活性酸素の産生などの一連の行動を起こす.
3)好中球の機能が低下した状態では感染症に罹患しやすくなる.

好酸球の免疫への関わり

著者: 中島宏和 ,   福田健 ,   牧野荘平

ページ範囲:P.2004 - P.2006

ポイント
1)好酸球は最近ではアレルギー性炎症の形成に積極的に関与するエフェクター細胞として認識されるようになった.
2)好酸球の分化・増殖,組織への浸潤,局所での活性化において,Tリンパ球が重要な役割を演じ,サイトカインがこれらに深く関与していることが判明してきた.
3)好酸球には免疫グロブリンのFc部分に対するレセプターが存在し,液性免疫とも深く関与している.
4)喘息において,Tリンパ球から放出されるIL-5が好酸球機能と活性を調節していることが,in situ hybridization法で確認されている.

肥満細胞とケミカルメディエーター

著者: 茆原順一 ,   中島重徳

ページ範囲:P.2008 - P.2011

ポイント
1)I型アレルギーの学問的起点はP-K反応にあり,この反応での血清中の特異的反応因子は,石坂らによりIgEであることが判明し,組織側の非特異的反応因子が肥満細胞として認識され,この2つの因子を結ぶのがIgE-Fcレセプター(FcεRI)である.
2)I型アレルギーはFcεRIにIgEが架橋することで種々のケミカルメディエーターが放出される.それ以降の反応系は好酸球をはじめ種々の炎症細胞と器官が反応する多様性を呈する.
3)FcεRIの反応系ではメディエーターのみならずサイトカイン(IL-1,3,4,6,GM-CSF)などを産生・放出する.
4)FcεRIの分子生物学的研究の発展により,α,β,γ鎖より成り立ち,γ鎖はIgG-Fcレセプター,T cellレセプターと相同性を有し,分子生物学的アプローチで構築したFcεRIは将来的にI型アレルギーを根本的に遮断する新しい型の抗アレルギー薬の可能性を有する.

マクロファージ

著者: 下条直樹 ,   河野陽一

ページ範囲:P.2012 - P.2014

ポイント
1)免疫応答はT,B細胞の認識に代表される高度の抗原特異性がその特徴の1つであるが,マクロファージがこれらの免疫反応に様々なレベルで関与している.
2)マクロファージの免疫反応に関連した機能は,①T細胞への抗原提示,②サイトカインなどを介するリンパ球機能の制御,③細胞性免疫におけるエフェクター細胞,の3つにまとめられる.
3)活性化マクロファージは,病原体,腫瘍細胞の破壊に関与するが,自己免疫疾患をはじめとする慢性炎症における臓器傷害の主要なエフェクター細胞でもある.マクロファージの機能の理解と制御が各種疾患の治療上きわめて重要である.

ナチュラル・キラー細胞

著者: 関秀俊

ページ範囲:P.2016 - P.2018

ポイント
1)NK細胞はCD 3抗原陰性で,CD 16とCD 56抗原陽性のLGLの形態をした細胞と定義される.
2)NK細胞はMHC非拘束性の細胞傷害活性を持ち,腫瘍監視とウイルス感染防御機能を有する.また種々のサイトカインを産生し造血や抗体産生を調節する.
3)NK細胞のレセプターは明らかにされていないが,CD 2,CD 11,CD 54,CD 58などの細胞接着分子が多く発現しており,標的細胞との結合に重要な役割を果たしている.
4)NK細胞はIL-2,IFN,IL-7,IL-12(NKSF)などのサイトカインにより活性化される.

免疫反応の調節と制御

調節・制御機構の必要性

著者: 中村玲子

ページ範囲:P.2020 - P.2023

ポイント
1)生体は内部環境の恒常性(ホメオスターシス)を維持しようとする.
2)免疫の調節・制御機構はその恒常性維持に必要な機構である.

補体の活性化とそのコントロール

著者: 稲井眞弥

ページ範囲:P.2024 - P.2026

ポイント
 補体系は活性化されて,貧食作用の亢進,殺菌,溶菌反応など免疫反応や炎症に関連する生物活性を表す反応系で,補体系の反応は次のようにコントロールされている.
 1)血清中にはCI INH,C4b結合蛋白,H因子,I因子およびP因子が存在し,補体系の反応が制御されている.これら蛋白によってC1の活性化,C3転換酵素(C4b2a,C3bBb)の形成や解離失活,C4bやC3bの分解が制御されている.
 2)赤血球などの細胞膜上にはCR1,DAF,MCPおよびCD59などの制御蛋白が存在する.これら蛋白の作用によって,細胞上のC3の分解が進み,またC3転換酵素の解離失活が促進され,さらに膜上でのC5b-9複合体の形成が阻止される.この結果,細胞は自己の補体による傷害から守られ,また自己と非自己が識別され,異物は速やかに排除される.

イディオタイプ—抗イディオタイプ

著者: 山元弘

ページ範囲:P.2028 - P.2029

ポイント
1)抗体分子が持つ固有の可変部構造をイディオタイプと呼ぶ.イディオタイプは同種異系・異種動物だけでなく,同一個体内でも抗イディオタイプ応答をひき起こす.
2)抗イディオタイプ抗体は,元の抗体産生に対し調節的に働く.
3)抗イディオタイプ抗体の中には,元の抗原と類似した構造を持つものがあり,これを用いて新しい治療法やワクチンの開発,あるいは受容体研究に応用されている.

T細胞による制御

著者: 中村和史 ,   淀井淳司

ページ範囲:P.2030 - P.2033

ポイント
1)T細胞抗原レセプター(TCR)はAPC上の抗原プラスMHCを認識する.
2)TCRによる抗原認識において,CD 4,CD 8分子は補助的に働く.
3)TCRにはαβ型とγδ型のものが存在する.
4)TH1細胞は細胞性免疫を,TH2細胞は体液性免疫をつかさどる.
5)CD 4 T細胞はCD 45のアイソフォームの発現の違いにより,naive T細胞とmemory T細胞とに分類される.

免疫疾患へのアプローチ

免疫的検査法とその利用

著者: 夏田洋幹 ,   柏木平八郎

ページ範囲:P.2034 - P.2038

ポイント
1)自己抗体の検出は自己免疫疾患の診断に有用であるが,その力価の変動は必ずしも病勢と一致しない.
2)体内局所の免疫状態は必ずしも血清・血漿での検査値に反映されない.
3)抗リン脂質抗体の認識するエピトープは多様である.

リンパ球機能のアセスメント

著者: 岡田純 ,   野村正世

ページ範囲:P.2040 - P.2041

ポイント
1)免疫不全症ではリンパ球亜群,リンパ球幼若化試験が有用である.
2)自己免疫疾患では,可溶性IL-2受容体の測定などのリンパ球およびサイトカイン関連の可溶性物質が,間接的なリンパ球機能評価として注目されている.

自己免疫疾患とmajor histocompatibility complex

著者: 玉井誠一 ,   関口進

ページ範囲:P.2042 - P.2045

ポイント
1)特定の型のMHCを保有するものは,いろいろな自己免疫疾患に対する疾患感受性が高い.
2)疾患そのものより,自己抗体の種類とMHCとの相関が最近注目されている.
3)免疫の機能にとって重要な領域のHLAアミノ酸配列の差が,自己免疫疾患感受性の差と関連しているらしい.

どのような症例に自己免疫疾患を考慮するか

著者: 赤間高雄

ページ範囲:P.2046 - P.2048

ポイント
1)特定臓器の障害であれば,臓器特異的自己免疫疾患も考慮する.
2)全身症状を伴って,多臓器障害を呈すれば,全身性(臓器非特異的)自己免疫疾患を考慮する.
3)全身性自己免疫疾患の診断には主要症状や好発症状の組み合わせを念頭におく.

免疫疾患の臨床

アレルギー性鼻炎

著者: 鵜飼幸太郎

ページ範囲:P.2050 - P.2053

ポイント
1)アレルギー性鼻炎はI型アレルギーの代表的疾患である.
2)アレルギー性鼻炎の発症機序は,鼻粘膜表層に集まった肥満細胞に抗原が結合することにより,ヒスタミンを主とする化学物質が遊離され,知覚神経終末を刺激することによりくしゃみ発作,鼻汁分泌が,血管壁に使用することにより鼻閉が生ずる.
3)アレルギー性鼻炎の診断は鼻汁をエオジノステインRで染色,1,000倍の視野で5個以上の好酸球があれば本疾患の可能性が大である.抗原の決定は,皮内反応,特異IgE抗体,鼻粘膜誘発テストなどを行う.
4)アレルギー性鼻炎の治療は抗原除去,免疫療法,薬物療法,手術療法の4つに分けることができる.

気管支喘息

著者: 鏡味勝 ,   冨岡玖夫

ページ範囲:P.2054 - P.2057

ポイント
1)気管支喘息は,「慢性剥離性好酸球性気管支炎」という言葉で象徴されるように,気道のアレルギー性炎症反応として理解されるようになった.
2)即時型喘息反応の場合には,肥満細胞上のFcεR Iに結合したIgE抗体と抗原との反応(抗原抗体反応)が引き金となっている.
3)遅延型喘息反応は,好酸球を主体とした気道組織への炎症細胞浸潤が病像の主体をなしている.
4)気道の炎症による上皮障害が神経原性炎症を惹起し,気道の炎症反応を増幅し,気道の反応性を亢進させる.

甲状腺疾患

著者: 市川陽一 ,   吉田正

ページ範囲:P.2058 - P.2060

ポイント
1)免疫異常の関与する甲状腺疾患はバセドウ病と橋本病である.
2)バセドウ病の病因は刺激型抗TSH受容体抗体である.
3)橋本病の病因は細胞性免疫の異常であるが,亜型である特発性粘液水腫は阻害型抗TSH受容体抗体が病因となっている.
4)阻害型TSH受容体抗体は,胎児に移行し,新生児に一過性甲状腺機能低下症をきたす.

原発性胆汁性肝硬変

著者: 堺隆弘

ページ範囲:P.2062 - P.2066

ポイント
1)原発性胆汁性肝硬変(primary biliarycirrhosis:PBC)は自己免疫性胆管炎と考えられる疾患である.
2)中年女性に好発し,アルカリフォスファターゼ(ALP)を主とする胆道系酵素の著明な上昇,高コレステロール血症,皮膚掻痒に始まり,IgMの上昇,抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial anti-body:AMA)陽性によって診断される.最近ではAMAに対応するミトコンドリア抗原が解明され,pyruvate dehydrogenase complex(PDH),あるいはbranched chain 2-oxo-acid dehydrogenase complex(BCODH)などを用いてより特異的な診断がなされつつある.
3)胆汁うっ滞が進行して肝硬変が悪化すれば予後不良であり,肝移植以外に治療法はないが,初期にはウルソデオキシコール酸(UDCA)による治療によりある程度の効果が期待できる.

糸球体腎炎とサイトカイン

著者: 宇都宮保典

ページ範囲:P.2068 - P.2070

ポイント
1)腎,特にメサンギウム細胞は多種のサイトカインを産生している.
2)サイトカインにはメサンギウム細胞増殖誘導効果やメサンギウム基質産生誘導効果を有するものがある.
3)メサンギウム増殖性糸球体腎炎の発症・進展には,サイトカインの関与が考えられる.

溶血性貧血と血小板減少症

著者: 八木田正人

ページ範囲:P.2072 - P.2074

ポイント
1)温式抗体と冷式抗体によるAIHAはその病態と治療方針が違う.
2)ITPにおけるPAIgGの診断的意義とその限界を知る.

重症筋無力症

著者: 高木昭夫

ページ範囲:P.2076 - P.2079

ポイント
1)重症筋無力症は神経筋接合部のアセチルコリン受容体(Ach R)をターゲットとする自己免疫疾患である.
2)epitopeはAch R α-subunitの細胞外に露出する部分と推定され,現在解析が進行している.
3)80〜90%の患者血清で抗Ach R抗体が出現する.神経筋接合部では,後シナプス膜は萎縮し,Ach Rは減少している.
4)主要症状は眼瞼下垂,複視,発語困難,四肢脱力などであり,運動反復で増悪し,休息で回復する.
5)主要な治療法は胸腺摘除術およびプレドニゾロン内服である.

臓器移植へのイントロダクション

臓器移植と組織タイプ

著者: 小林賢

ページ範囲:P.2080 - P.2085

ポイント
1)HLA抗原はクラスI抗原としてA,B,Cが,クラスII抗原としてDR,DQ,DP抗原が発現され,その遺伝子産物が確認されている.
2)発現が認められる遺伝子としてクラスI抗原では6種,クラスII抗原では11種存在する.
3)HLA抗原は遺伝的に高度な多型性に富んでいる.
4)HLA抗原の機能は,外来抗原をT細胞に提示して活性化し,これらの外来抗原を排除するための免疫応答を誘導し,自己と非自己を識別する遺伝的標識である.
5)HLAは移植時におけるドナーとレシピエントの適合性を検査するために実施される.

骨髄移植

著者: 秋山秀樹

ページ範囲:P.2086 - P.2087

ポイント
1)骨髄移植ではGVHDを含め免疫機序による合併症への対応が重要である.
2)移植後の原疾患の再発にも免疫が関与しており,その機序の解明が急がれる.

腎移植

著者: 畠亮

ページ範囲:P.2088 - P.2090

ポイント
1)腎移植は手技的には簡単な手術である.
2)移植された腎臓の抗原を認識するのはB細胞とT細胞である.
3)抗原認識のためにB細胞は抗原と直接結合すればよいが,T細胞は抗原提示細胞の助けを必要とする.
4)腎移植の成績はクラスIよりもクラスII抗原を適合させたほうが良い.
5)拒絶反応時には移植腎の尿細管細胞上にHLA-DR,浸潤リンパ球の表面にIL-2リセプターが表現されてくる.
6)現在用いられている免疫抑制剤は抗原非特異的である.
7)T細胞の抗原認識を脇から支持している接着因子の作用を抗体でブロックすると抗原特異的な免疫抑制が起きる.

心臓移植

著者: 鈴木暁 ,   西川邦 ,   田口真一

ページ範囲:P.2092 - P.2094

ポイント
1)免疫抑制療法はシクロスポリン,プレドニン,アザチオプリンの3者が中心で施行される.
2)急性拒絶反応の診断は経静脈的心内膜生検法による組織診断にて行っている.
3)慢性拒絶反応は冠動脈の動脈硬化性病変を生じる.
4)免疫抑制剤投与にて特殊な感染症が問題となっている.

免疫抑制の意義と必要性

著者: 辻公美 ,   萩原政夫 ,   志村龍男

ページ範囲:P.2096 - P.2099

ポイント
1)免疫抑制を行う基盤は,臓器移植の場合,組織適合性である.
2)そのためにHLA遺伝子ならびにHLA関連遺伝子を知らねばならない.

免疫抑制剤—作用と使用方法と評価

著者: 東條毅 ,   秋谷久美子

ページ範囲:P.2100 - P.2103

ポイント
1)臓器移植で用いられる免疫抑制剤は,シクロスポリンが中心となる.同剤は活性化されたヘルパーT細胞の増殖を抑制する.
2)シクロスポリンは,副腎皮質ステロイド剤,アザオチプリン,ミゾリビン,モノクローナル抗体などと併用されることが多い.
3)臓器移植後の経過がよければ,免疫抑制剤を維持量まで減量して長期間継続投与する.
4)骨髄移植時の免疫抑制剤としては,シクロスポリンとメトトレキサート短期間投与の併用療法が広く用いられている.
5)開発中の新しい免疫抑制剤としてFK502,デオキシスパガリンなどがある.

免疫不全と感染症

比較的よくみられる免疫異常と感染症

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.2104 - P.2106

ポイント
1)臨床で比較的よく認められる免疫異常は一次的なものと,二次的なものに分けることができる.
2)一次的免疫異常の例としてはリンパ系悪性腫瘍が,二次的な異常としては化学療法,移植後の状態があげられる.
3)この免疫機構の異常は臨床的に易感染性を招来するが,免疫機構の障害の内容により,起こりやすい感染症を予測することがある程度可能である.

薬剤による免疫不全と感染症

著者: 雨宮洋一

ページ範囲:P.2108 - P.2110

 免疫不全(immune deficiency)とは,免疫機構の不全に基づいた生体防御機能の低下状態で,感染の反復,遷延,重症化および日和見感染など,感染防御の低下をめぐる症状が前面に立つ一連の症候群である.原発性と続発性に大別され,臨床で遭遇する多くは続発性で,これはすでに確立された生体防御機序の発現障害といえ,疾病の自然経過あるいは治療に合併する免疫不全である.
 本稿では続発性免疫不全の原因となり得る薬剤について紹介する.

HIVと免疫と感染症

著者: 山本伸二 ,   仲宗根正 ,   本多三男

ページ範囲:P.2112 - P.2115

ポイント
1)HIV感染症が重篤な免疫不全症を引き起こすことは周知のとおりである.しかし,それはHIV感染症の終焉像であり,感染後の大部分は8〜10年間続く潜伏期である.臨床家にとって,この時期こそ重要な意味がある.
2)長期に及ぶ潜伏期は免疫不全状態ではなく,むしろサイトカイン産生の亢進を伴う免疫異常状態で,それに伴う自己免疫疾患様症状が観察されることがしばしばある.
3)ここではHIV感染症をサイトカイン産生異常症という概念で捉え直し,臨床においてパラメーターとして有用なサイトカインの可能性を探ってみる.

癌と免疫

癌と免疫

著者: 茂木良弘 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.2116 - P.2121

 最近の分子生物学の急速な進歩により,腫瘍免疫に関しての遺伝子レベルでのアプローチが可能となり,診断法ならびに治療法も格段の進歩を遂げてきている.ことに腫瘍免疫学の最終目的である免疫療法は,広く担癌生体の抵抗力を高め,防御能を修飾して抗腫瘍効果を得ようとするBRM(biological response modifier)療法へと,その概念の変遷をみており,ごく最近ではそれを応用した遺伝子治療へのチャレンジもなされつつある.以下に癌の免疫応答の仕組みと免疫療法を中心に最近の知見を概説する.

カラーグラフ 電子内視鏡による大腸疾患の診断・9

虚血性大腸炎と抗生物質起因性出血性大腸炎

著者: 勝又伴栄

ページ範囲:P.2123 - P.2127

●虚血性大腸炎
 1)概念
 下(上)腸間膜動脈の血流減少や腸管壁内微小循環障害により起こる大腸の限局性(区域性)虚血病変である.左半結腸を灌流する下腸間膜動脈流域は交通枝の発達が悪く,普段より血流が少ないため好発部位となる.直腸および右側結腸には少ない.
 腸管壁の血流を減少させる原因となる血管側因子としては,動脈硬化,血栓,血管攣縮,血液粘稠度上昇などがあり,腸管側因子としては,便秘などに伴う腸管内圧亢進が考えられる.

講座 図解病態のしくみ 肝臓病・5

急性ウイルス肝炎

著者: 愛場信康 ,   渡辺明治

ページ範囲:P.2129 - P.2136

 急速な全身倦怠感,食欲不振,嘔気,嘔吐,発熱などの自覚症状と,黄疸,肝腫大などの他覚所見を認める急性の肝障害のうち,肝炎ウイルスの感染に起因するものを急性ウイルス肝炎と呼んでいる.その他,肝炎ウイルス以外のウイルス,特にEpstein-Barr(EB)ウイルス,サイトメガロウイルスなどでも類似した肝障害のみられることがあるが,通常別の疾患として取り扱っている.
 本稿では,急性ウイルス肝炎の成因,症状,診断法,治療などについて概説する.

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・14

肺梗塞

著者: 池田賢次 ,   中島明雄

ページ範囲:P.2138 - P.2143

症例
症例 51歳,男性
主訴 右側胸痛

心療内科コンサルテーション・6

心身症に対する漢方療法

著者: 岡孝和

ページ範囲:P.2144 - P.2148

漢方におけるストレスの理解
 一般に,生体にストレッサーが加わると,それに対処するために生体には様々な変化が生じる.漢方では個体のホメオスターシスを乱す因子(ストレッサー)を,内因(怒,喜,思,憂,恐,悲,驚の七情;情動ストレスに相当),外因(風,寒,暑,湿,燥,火の六淫:環境ストレスに相当),不内外因(食事の不摂生など;ライフスタイルの乱れに相当)という概念で,ホメオスターシス維持機構を,気血水および陰陽などのバランスとして,ストレス反応を気滞,気逆,気虚,瘀血,血虚,水滞という気血水分類(弁証)および陰(寒)陽(熱)分類(弁証)などでとらえている.
 現代医学においても,生体に同一のストレッサーが加わっても,過去の経験,学習に照らして,ストレッサーを制御可能か否かで,ストレス反応は異なることが知られている.実験動物では,制御可能と判断されれば,能動的ストレス反応パターンとして活動性,攻撃性の亢進,心拍出量の増加,血圧の上昇,骨格筋血流量の増加が生じ,一方,制御不可能と判断すれば,受動的ストレス反応パターンとして,行動抑制,意欲の低下,徐脈,末梢血管抵抗の増加が生じることが観察されている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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