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雑誌目次

雑誌文献

medicina29巻5号

1992年05月発行

雑誌目次

今月の主題 よくわかる水・電解質と酸塩基平衡

Editorial/「水・電解質」の修業

著者: 石田尚志

ページ範囲:P.742 - P.743

●医学の進歩と情報の増大
 医学における進歩とあいまって,情報量が飛躍的に増え,雑誌・書物の類があふれている今日であるが,この状況は今後ますますその度合いが激しくなるであろうことは誰でも予想するところである.先日もHeptinstallの“Pathology of the Kidney”(Little,Brown)の第4版が本屋から持ち込まれ,そのボリュームと値段にため息をついたばかりである.昔は腎臓病の教科書として,たとえばStrauss & Weltの“Diseases of the Kidney”(Little,Brown)があり,なにかあるとまっすぐ手を伸ばしたものであるが,今やSeldin & Giebischの“The Kidney”(Paven Press)やBrenner & Rectorの“The Kidney”(Saunders)が書棚にあって,それを見るだけでも気が重くなるのである.腎臓学会の総会や東部部会では書籍の展示コーナーがあり,これも昔は眺めることが楽しみのひとつであったが,最近はあまりにも数が増えて,眺めている途中で「もういいや」との気分になってしまう.このようにどこに行っても本があふれていて,うんざりするのであるが,改めて自分の書棚を眺めると一冊一冊それぞれについて感慨が湧いてきて,ひとつの世界が展開してくる.

水・電解質はどのように調節されているか

Naの調節

著者: 丸茂文昭 ,   楊天新

ページ範囲:P.744 - P.746

ポイント
1)Naの調節では,いかにNaを細胞外液中に保持するかという自動調節機構が何重にも体内に存在する.Naを排泄しようとする機構は乏しく,わずかに心房性Na利尿ペプチドのみである.
2)自動制御機構の最大のものは,血圧上昇に対して糸球体濾過量を一定に保とうとする腎内血行動態調節機構である.
3)次いで重要なものは,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系で,アルドステロンの腎におけるNa再吸収作用である.
4)微小調節機構として,糸球体-尿細管バランス,および尿細管-糸球体フィードバックの2つの機構が存在する.
5)心房性Na利尿ペプチドのみがNa排泄に働き,循環血漿量増大などによる心房拡大により分泌が促進される.生理作用としては微小調節機構として働く程度と考えられる.

Kの調節

著者: 越川昭三 ,   飯塚一秀

ページ範囲:P.747 - P.749

●Kの摂取量と体内分布
 日本人の1日K摂取量は2〜4g(50〜100mEq)である.栄養所要量の目標として設定されたK摂取量は2〜4g/日で,これをほぼ達成している.
 生体内総K量は40〜50mEq/kgである.90%が細胞内,骨に8%存在しており,細胞外液に存在するKはわずか2%である(図1).大部分が細胞内に存在するということは,生体内K量は,細胞のマスによって影響されることを意味する.したがってK量は年齢とともに減少し,また女性では男性よりも少ない.ごく大雑把にいえば,30歳代で50mEq/kgのK量は50歳で45mEq/kg,70歳で40mEq/kgに減少し,女性は男性の約3/4である.

Ca,Pの調節

著者: 永田直一

ページ範囲:P.750 - P.753

ポイント
1)Ca代謝の主たる調節因子は副甲状腺ホルモン(PTH),1,25(OH)2Dおよびカルシトニンであり,調節器官は骨,腎,腸管である.
2)腫瘍産生骨吸収因子として新しく同定されたPTH関連蛋白(PTHrP)は胎生期のCa代謝に関与するらしい.
3)時々刻々の血清Caの変動に対してはPTHの骨からのCa流入,腎尿細管Ca再吸収の調節が重要である.PTHは1,25(OH)2Dの産生を高めるが,その効果発現に数時間を要する.
4)カルシトニンの生理作用は確立されていないが,体内外のCaバランスを正とするように働くとみられる.
5)血清PはCaほど厳密にコントロールされていなくて,細胞代謝に伴って変動しやすい.調節器である腎ではPTH,腸管では1,25(OH)2Dによる調節がある.

水の調節

著者: 坪井靖 ,   斉藤寿一

ページ範囲:P.754 - P.757

ポイント
1)水の調節は体液の恒常性を維持するうえでもっとも基本的で,かつ重要な役割を果たしている.
2)生体内には多種のnegative feed back機構が存在し,fail safe systemが形成されている.
3)水代謝異常では,その病態を解析し診断することが,治療の選択上,とくに重要である.

内分泌因子と水・電解質調節

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.758 - P.760

 水・電解質調節に果たす内分泌因子の役割はきわめて重要であり,腎臓や消化管における水・電解質の吸収・排泄に関与するとともに,細胞内外の水・電解質の輸送に関与する内分泌因子もある.本稿では,水分およびNa,Kを中心とする電解質の調節に果たす内分泌因子の役割について概説する.

水・電解質異常の診断から治療まで

水・電解質異常にみられる症候は何か

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.762 - P.765

 一般に水・電解質異常においては,それぞれの電解質異常に特異的な自他覚症状が出現する.しかし,実際の臨床では体液異常が単一であることは少なく,複数の異常を伴っていることが多いため,ある症状は強められ,他の症状は打ち消しあって,複雑な臨床症状を呈することが少なくない.このため,症状のみによる体液異常の診断はしばしば困難となる.

浮腫の病態と診断

著者: 清水倉一 ,   小松義昌

ページ範囲:P.766 - P.770

 浮腫とは組織間液interstitial fluidが過剰に蓄積した状態と定義され,とくに皮下および胸腔,腹腔など広範に体液が貯留した状態を全身水腫anasarcaと呼ぶ.浮腫は日常診療上,比較的遭遇することの多い症状であるが,浮腫をきたす疾患は多岐にわたっているため(表1),診療の際にはこれら疾患を鑑別し,病態を正確に把握する必要がある.

脱水の診断と治療

著者: 篠田晤

ページ範囲:P.771 - P.774

 脱水(dehydration)は体液が本来の正常量より減少した状態を指すが,単に細胞外液から水分が失われる場合以外に,細胞外液の電解質の主体である食塩が単独または水分とともに失われる場合も含まれる.電解質が失われる場合には,本来,体液量は変わらないはずであるが,電解質喪失に伴う体液濃度の低下によって2次的な水喪失が起こり,脱水に陥る.
 脱水は,それに伴ってみられる細胞外液の浸透圧変化により,高張性,等張性,低張性脱水に分けられる(図).脱水がこれらのいずれをとるかは,原因が水喪失によるか,食塩喪失を主体とするかによるところが大きいが,2次的な調節機序や水分・食事摂取,補液の有無・種類によっても左右される.

多尿と乏尿—その成因と鑑別

著者: 磯田和雄 ,   笠原成彦

ページ範囲:P.775 - P.778

ポイント
1)患者の1日尿量を知ることは腎疾患の診断・治療の基本的事項である.
2)多尿は腎尿細管からの水再吸収障害で,これに関与する因子の原因追求が大切である.
3)多尿を呈する場合の鑑別診断には,血清と尿の浸透圧測定,血中ADH濃度測定が有効な手段となる.
4)腎前性乏尿と腎実質性乏尿の鑑別診断には,血清・尿浸透圧測定,尿中Na濃度,Fractional sodium excretion値の算出などが有効である.

水・電解質異常の診断に必要な検査とその注意点

著者: 鈴木誠 ,   川口良人

ページ範囲:P.779 - P.781

 水・電解質異常に必要な検査は血清,尿中電解質と血液ガス分析,および身体所見が重要であり,特殊な検査は限られる.もっとも重要なものは病態生理の十分な理解であろう.
 したがって本稿では電解質異常の各項目をあげ,つぎに考えるべき原則を記載した.病態の詳細は本誌の他項を参照されたい.

尿中電解質の測定と臨床的意義

著者: 小椋陽介

ページ範囲:P.782 - P.785

 腎臓は尿をつくり排泄することによって,体液とくに細胞外液の量,浸透圧,電解質濃度,H濃度を正常範囲内の一定に維持する働きをしている.したがって尿量や尿中電解質を測定することは,水・電解質代謝の調節およびその障害を知るうえで大変に役に立ち,しかも簡便な方法といえる.
 細胞外液に対する負荷は絶えず変化しているため,尿は細胞外液の恒常性を維持調節した産物であり,その量も組成も常に変動する.したがって,尿中電解質の測定値も一定ではなく,ある範囲内を変動している.すなわち尿中電解質には正常値がなく,ある状態に対して推測されうる値が存在する.そこで尿中電解質を測定し,それが推測値と一致するか,または逸脱するかをみることによって,水・電解質異常の原因が腎臓にあるのか,腎以外にあるのかを知ることができる.

高Na血症と低Na血症

著者: 米村克彦 ,   菱田明

ページ範囲:P.786 - P.788

ポイント
1)高Na血症の成因は,①水分とNaの両方の喪失,②水分のみの喪失,③Na過剰の3つに大別することができ,それぞれの病態によって治療が異なる.
2)意識低下や口渇中枢の異常が存在する状態では著明な高Na血症を呈する.
3)低Na血症の成因は,①水分とNaの両方の喪失,②水分のみの貯留,③水分とNaの貯留の3つに大別することができる.
4)高脂血症や高蛋白血症が存在する場合,偽性低Na血症がみられることがある.

高K血症と低K血症

著者: 高橋進 ,   山内立行

ページ範囲:P.789 - P.793

 カリウム(K)は,健常人において,体内に約50mEq/kg・体重存在するが,その大部分(98%)が細胞内に分布し,細胞外液とくに血漿に存在するKはわずか1%にすぎない.つまりKは細胞内の主要な陽イオンであり,細胞内濃度は約150mEq/Lと細胞外液濃度(3.6〜5.0mEq/L)に比較し著しく高い.この著しい細胞内外K濃度勾配は主にNa-K依存性ATPaseのNa-K交換ポンプ作用によって維持されている.
 一方,生体内外のK出納については,通常50〜100mEq/日のKが摂取されて小腸粘膜から主に受動的に吸収され,その90%が腎から,10%が腸管より排泄され,健常人ではほとんど常に一定のバランスが保持されている.

高Ca血症と低Ca血症

著者: 奥野仙二 ,   森井浩世

ページ範囲:P.794 - P.798

ポイント
1)臨床的に問題となるのは血清総Caではなくてイオン化Caである.
2)高Ca血症
 ①原因疾患としては,原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍によるものが多い.
 ②症状は多彩であり,程度が軽いものは無症状のことがある.
 ③程度が著しい場合には,まず血清Caを低下させる処置をする.
3)低Ca血症
 ①原因としては,副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏や腎不全などがある.
 ②症状としてはテタニーが特徴的であるが,不定愁訴のような症状のことも多い.
 ③テタニーなどの症状がみられる場合には,Ca製剤の静注を行う.

消化管疾患と水・電解質異常

著者: 波多野道康 ,   安藤明利 ,   二瓶宏

ページ範囲:P.800 - P.803

ポイント
1)嘔吐による低K血症および代謝性アルカローシスの発現には,循環血漿量低下に対する腎臓での代償作用が関与する.
2)分泌性の下痢では下痢便の量に比例して排泄されるNa量は増加するが,浸透圧性の下痢では水がNaより多く失われる.
3)重症の下痢ではアニオン・ギャップ増加型の代謝性アシドーシスを呈することがある.

肝硬変と水・電解質異常

著者: 北岡建樹

ページ範囲:P.804 - P.807

ポイント
1)肝硬変に見られる体液・電解質異常は,浮腫,腹水,低ナトリウム(Na)血症,低カリウム(K)血症,各種酸塩基平衡異常がある.早期に発見し,適切な処置をとることが大切である.
2)腹水の成因としてunderfilling theoryとoverflow theoryに大別されているが,浮腫の原因となる局所性因子と全身性因子が複雑に関係している.近年注目されている治療法としてLeVeen shuntによる方法がある.基本的には安静,減塩食,利尿薬により過剰のNaを除去することである.

悪性腫瘍とSIADH

著者: 武藤重明 ,   浅野泰

ページ範囲:P.808 - P.811

ポイント
1)悪性腫瘍患者で低Na血症が認められた場合,SIADHを疑う。頻度が多いのは肺小細胞癌である.また,抗癌剤の副作用で出現することも稀にある.
2)SIADHは低浸透圧血症があるにもかかわらずADHの分泌が持続する病態である.①低浸透圧血症を伴った低Na血症,②持続するNa利尿,③血漿より高張な尿の排泄,④浮腫,脱水がない,⑤腎・副腎機能は正常,などの特徴がある.
3)腫瘍によるSIADHの治療の基本は,原疾患の治療と水制限である.

悪性腫瘍にみられる高Ca血症

著者: 池田恭治 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.812 - P.815

ポイント
1)高Ca血症は悪性腫瘍患者にしばしばみられる合併症で,その早期診断・治療が重要である.
2)悪性腫瘍に伴う高Ca血症は,発症機序のうえから局所性機序と全身性・体液性機序の2つに分類される.
3)骨髄腫細胞が骨局所で産生するIL-1やTNF-βは,骨吸収を促進し,高Ca血症を起こす.
4)各種の悪性腫瘍細胞が産生・分泌するPTH-related peptide(PTHrP)は,体液性機序で高Ca血症を起こす.
5)悪性腫瘍に併う高Ca血症の大部分を占めるHHM(humoral hypercalcemia ofmalignancy)の診断には,①高Ca血症,②低P血症,③血中PTHrPの上昇を証明することが基本である.
6)悪性腫瘍に伴う高Ca血症の治療の原則は,①原病に対する治療,②輸液による脱水の是正,③利尿剤による尿中Ca排泄促進,④骨吸収抑制剤の投与である.

悪性腫瘍にみられる低P血症

著者: 杉山誠 ,   小林智人 ,   石田尚志

ページ範囲:P.816 - P.818

ポイント
1)悪性腫瘍に低P血症を伴う頻度は比較的少ない.
2)腫瘍性低P血症性骨軟化症を呈するのは良性腫瘍に多く,約10%が悪性腫瘍である.
3)腫瘍性低P血症性骨軟化症は著明な低P血症,血中1,25(OH)2D低値および骨軟化症を伴い,腫瘍摘出により臨床成績の改善が認められる症候群である.腫瘍由来の液性因子が成因と考えられている.液性因子の本態は不明である.
4)前立腺癌,肝細胞癌,肺癌などは低P血症をきたすことがある.その特徴は腫瘍性低P血症性骨軟化症に類似している.

薬剤に関連した水・電解質異常

著者: 川口良人

ページ範囲:P.820 - P.822

 日常臨床において認められる水・電解質異常が薬剤に起因する場合は決して稀なものではなく,もしこれらの異常に遭遇した場合には,まず第一に薬剤起因性の病態を除外することが必要である.
 本項では薬剤別ではなく,水・電解質異常を中心に,それに関与する薬剤について述べる.

高齢者にみられる水・電解質異常

著者: 富田公夫 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.823 - P.826

ポイント
1)高齢者は体内の総水分量が減少しており,体液の変化に対する緩衝力が弱い.
2)高齢者の腎機能は正常成人者の50%ほどである.
3)高齢者では渇中枢機能が低下しており,脱水になりやすい.
4)高齢者では低アルドステロン傾向にあり,Naを喪失しやすい.
5)高齢者の水・電解質異常の原因として,消化器系疾患とともに悪性腫瘍関連のものが多い.

高齢者における輸液療法

著者: 前波輝彦 ,   三浦浩平 ,   原直 ,   石田尚志

ページ範囲:P.827 - P.829

ポイント
1)高齢者は各臓器の予備力が低下しており,容易に体液平衡のバランスがくずれる.
2)体液量・電解質異常の是正は3〜4日をかけて緩徐に行う.
3)輸液を実施する際には,詳細に患者観察を行い,水貯留をはじめとして医原性の水・電解質異常の発症に注意を払う.

酸塩基平衡を理解する

酸塩基平衡に関する用語の解説

著者: 和田孝雄

ページ範囲:P.830 - P.833

ポイント
酸塩基平衡の重要な用語の解説を行う.
1)酸と塩基の平衡状態はHenderson-Hasselbalchの式に基づいて表現される.
2)生体内においては,単にpHの変化だけが問題とされるのではなく,そのpH変,化の原動力となる代謝性,呼吸性モーメントと,それに対する代償性の変化との兼ね合いが問題とされる.
3)その意味で,アシドーシスとアシデミア,アルカローシスとアルカレミアの区別が明瞭に理解されていなくてはならない.
4)以上の概念がきちんと整理されるように,酸塩基マップを利用した診断の行いかたについて解説する.

腎による調節

著者: 福原吉典 ,   折田義正

ページ範囲:P.834 - P.838

ポイント
1)腎における酸塩基平衡調節は,糸球体で濾過されるHCO3-の完全な回収,HCO3-の新生,尿の酸性化,滴定酸・NH4+の排泄調節を介して行われている.
2)腎からは体内組織で産生される不揮発性酸50〜100mEq/日(1mEq/kg/日)が排泄されるが,それと等量のHCO3-が腎において新生される.
3)糸球体で濾過される4,000mEqのHCO3-の99%以上が尿細管で再吸収される.この再吸収は,それと同量のH+が分泌されることにより成り立つ.
4)アシドーシスのように過剰の酸排泄を必要とする病態では,腎はNH3産生を増大させ,NH4+排泄を通常の10倍までにも促進することで対応している.

肺による調節

著者: 太田保世

ページ範囲:P.840 - P.843

ポイント
1)肺は,即時的な酸の調節器としてもっとも大きな役割を果たす.
2)動脈血CO2分圧は,肺胞換気量と反比例し,死腔換気率とも一定の関係をもつ.
3)CO2,H+,HCO3-,そしてO2,ヘモグロビンは相互に密接な関係をもつ.
4)高CO2症,低CO2症では,腎の代償機転によるHCO3-の変化がある.

測定法とデータの読み方

著者: 横山啓太郎 ,   小椋陽介

ページ範囲:P.844 - P.848

 細胞外液の[H]濃度は,毎日,大量のHの出納(Hの1日正味摂取量60,000,000nM)があるにもかかわらず,45nM/lから35nM/lのきわめて狭い範囲で維持されている.また,[H]が一定範囲から大きく偏位すれば,正常の代謝を営みえなくなり,生命維持は困難となる.酸塩基平衡に関する生理学的調節は,腎と肺を中心に複雑な調節を受けているが,別項でも述べられているので,それを参照されたい.
 ここでは,酸塩基平衡を理解するための測定法とその値の読み方について述べる.

酸塩基平衡異常の診断と治療

ベッドサイドにおける酸塩基平衡異常診断へのアプローチ

著者: 高見和孝 ,   安藤克之 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.849 - P.851

ポイント
1)血液ガスは常に一定の手順で読む習慣をつける.
2)血液ガスデータのみでなく,患者の基礎疾患の病態に戻って考える.

代謝性アシドーシス

著者: 穴井元暢 ,   黒川清

ページ範囲:P.852 - P.855

●Hバランスの生理と代謝性アシドーシスの原因
 生命活動を保つ代謝のプロセスでは,1日約15,000〜20,000mEqのHが発生する.このうちの大部分は糖,脂肪などの酸化によって生ずるCO2と,その水に溶けて存在するH2CO3,炭酸である.この炭酸は肺から呼吸によって速やかに排出されるので,これを揮発性酸volatile acidという.
 このほかに,蛋白の代謝によって生ずるリン酸,硫酸などの不揮発性酸non-volatile acidsは,肺から排出されず,腎臓を経由して尿中に排泄される.このような腎臓から尿中に排泄されるnon-volatile acidsの量は,普通,1日約50〜100mEq(1mEq/kg体重)である.

代謝性アルカローシス

著者: 羽田俊彦 ,   椎貝達夫

ページ範囲:P.856 - P.859

ポイント
1)代謝性アルカローシスは,①発症因子,②pHの上昇傾向に対する生体の防御反応,③維持・継続因子により規定される.
2)医原的要因が,①および②の因子となっていることも多く,不用意にアルカローシスの補正を行う前に,十分に病態を把握することが必要である.

呼吸性アシドーシスとアルカローシス

著者: 大塚洋久

ページ範囲:P.860 - P.863

●呼吸性酸塩基調節障害とは
 1.低換気・過換気とCO2
 図1に瓶の形で示したのは人や実験動物などの生体である.瓶の口のところ(気管に相当)に換気扇で示した呼吸器の設定を変更することで,換気量を自由に変えることができる.体内のCO2は,換気量を減少させると増加し(低換気),逆に増加させると減少する(過換気).

尿細管性アシドーシスの分類と鑑別

著者: 佐々木成

ページ範囲:P.864 - P.866

ポイント
1)尿細管性アシドーシス(RTA)は症候群である.→原疾患は何か?
2)本当にRTAか?→アニオンギャップは正常か?
3)RTAは大きく3つに分けられる.
近位型,1型(古典型),高K型
4)血液K値はどうか?→K値から鑑別が始まる.
5)尿路に結石はないか?→あればI型の可能性大.
6)Hyporeninemic hypoaldosteronismはないか?→あれば高K型の可能性大.
7)アミノ酸尿,糖尿はないか?→あれば近位型の可能性大.

乳酸アシドーシス

著者: 杉野信博 ,   荒井純子 ,   望月隆弘 ,   小林英雄

ページ範囲:P.868 - P.871

 乳酸アシドーシスlactic acidosis(以下,LA)は重症患者,ことに術後,感染症,DIC,ショック,高齢などpoor riskに伴って起こりやすい代謝性アシドーシスであり,したがって予後は一般的に不良である.糖尿病性ケトアシドーシスとか尿毒症の場合と同様に,アニオン・ギャップ(AG)が上昇し(通常16mEq/l以上),血漿乳酸値(正常域2mM/l)を越えるが,一般的には5mM/lを越えたものがLAと言えよう.

トピックス

副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)

著者: 井上大輔 ,   池田恭治

ページ範囲:P.872 - P.875

ポイント
1)PTHrPは悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症のうち,液性因子を介するHHM(Humoral hypercalcemia of malig-nancy)の主な原因物質として1987年同定された,141個のアミノ酸から成る蛋白である.
2)PTHrPのN端の13個のアミノ酸のうち8個はPTHと同一であるが,それ以外の部位ではPTHとのホモロジーは認められない.
3)PTHrP遺伝子はPTH遺伝子と共通の祖先に由来し,同じ遺伝子ファミリーに属すると考えられている.
4)ヒトPTHrP遺伝子はPTH遺伝子とは対照的に複雑な構造をしており,単一のPTHrP遺伝子からalternative RNAsplicingによりC端のみが異なる3種のタンパクが産生される.
5)PTHrPのN端の合成ペプチドはinvitroおよびin vivoにおいて,高Ca血症・低P血症・尿中cAMP排泄の促進などPTHと同様の作用を発揮し,HHMの主要な病態を再現する.
6)PTHrPは,少量ながらほとんどすべての正常組織において産生が認められ,なんらかの生理作用を持つものと考えられている.

ANPとBNP

著者: 横田直人 ,   江藤胤尚

ページ範囲:P.876 - P.880

ポイント
1)ANPとBNPはともに心臓ホルモンで,ほぼ類似した薬理効果を有し,末梢性の血圧と体液の調節に重要な役割を果たしている.
2)ANPは主に心房より,BNPは心室より合成,分泌され,その遺伝子発現,生合成,プロセシング,分泌機構は異なる調節を受け,病態生理学的意義も異なると考えられる.
3)少なくとも3種類の受容体(A,B,C型)が存在し,A型は主にANPとBNPの,B型はCNPのbioactive receptorであり,C型はANP,BNP,CNPに共通なclearance receptorである.

内因性ジギタリス様物質

著者: 山田薫 ,   後藤淳郎

ページ範囲:P.882 - P.885

ポイント
1)内因性ジギタリス様物質は内因性Na,K-ATPase阻害因子とも呼ばれている.
2)内因性ジギタリス様物質の増加は,理論的にはNa利尿と血圧上昇をもたらすと考えられているが,この理論の正当性は立証されていない.
3)真のジギタリス様物質は,高親和性・可逆性・特異性の3条件を満たさなければならない.
4)3)の条件を満たすヒト血漿中の物質は抗ジゴキシン抗体では認識されず,抗ウアバイン抗体によって認識される.
5)内因性ジギタリス様物質は生体内で細胞内外のイオン環境調節に作用している可能性がある.

血管作動性物質と腎

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.886 - P.888

 腎臓は,血管,メサンジウム細胞を含む糸球体,それに尿細管の3つに大きく大別することができる.これらのいずれの組織に対しても,いわゆる血管作動性物質と呼ばれるホルモン,ペプタイドなどが作用することが知られている.
 これらの中で,最近多くの新しい知見が得られている物質として,強い血管収縮作用を有するエンドテリンと血管拡張作用を有する血管内皮依存性血管拡張因子(endothelium-derived relaxingfactor:EDRF)の2つがある.この両物質とも,従来知られている循環ホルモンではなく,局所ホルモンである.したがって局所で産生され,局所で働くことが特徴である.
 ここではトピックスの項であるので,この2つならびに最近再び注目を集めているアンジオテンシンII(AII)について述べたい.

低Na血症補正とcentral pontine myelinolysis

著者: 寺野隆 ,   吉田尚

ページ範囲:P.889 - P.892

 Central pontine myelinolysis(CPM)は,1959年Adamsら1)により最初に報告された疾患で,橋中心部の左右対称性の髄鞘の選択的脱随病変を特徴とする.元来,その原因として慢性アルコール中毒,低栄養状態に伴って生ずる疾患と考えられていた.CPM症例でアルコール中毒を伴う頻度は報告者により異なるが,外国の報告では51〜88%,国内では3%と大きく異なる.
 その後,成因に関しナトリウム(Na)異常との関連が注目され,近年,Norenberg2),Andersonらは臨床症例の検討より,低Na血症の急性補正が本症を発症させることを提唱した.その後,橋部以外に大脳皮質,小脳,中脳,内包前脚,被殼や視床などにも脱髄巣のみられる症例が報告されている3)

微量元素に関する最近の知見

著者: 塚本雄介

ページ範囲:P.893 - P.896

ポイント
1)微量元素のうち,生体活動に必須なのはZn,Cu,Cr,I,Co,Se,Mn,Moである.
2)亜鉛欠乏は皮膚症状で現れることが多い.
3)セレンは過酸化反応を抑制するのに重要な働きを有する.
4)高カロリー輸液では必須微量元素の補給が重要である.

座談会

水・電解質と酸塩基平衡異常—診断のポイントと問題点

著者: 小椋陽介 ,   浅野泰 ,   藤田敏郎 ,   石田尚志

ページ範囲:P.898 - P.906

 石田(司会) 今日は「水・電解質と酸塩基平衡異常—診断のポイントと問題点」ということでお話し合いいただきたいと思いますが,まず脱水,浮腫は日常の臨床でよく遭遇し,身近な問題です.この辺から話を始めさせていただきます.

カラーグラフ 電子内視鏡による大腸疾患の診断・5

粘膜脱症候群

著者: 多田正大

ページ範囲:P.909 - P.912

●疾患概念
 粘膜脱症候群は直腸に好発するものであるが,その概念は歴史的にみていろいろと変遷をとげてきた.直腸にみられる非特異性潰瘍について,Cruveilhier(1829年)の記述が嚆矢であるとされているが,今日までさまざまな名称で報告されてきた1).なかでも孤立性直腸潰瘍(solitary ulcer of the rectum)や深在嚢胞性大腸炎(colitis cystica profunda)として整理されてきた経緯がある.
 しかし本症には潰瘍性病変のみならず,隆起性病変を呈する場合もあり,過去に呼ばれてきた名称が必ずしも適切ではなくなってきている.そこでdu Boulay2)は本症が脱肛が原因となって生じることから,粘膜脱症候群(mucosal prolapus syndrome)の概念で呼称することを提言したが,その考え方が今日では支持されている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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