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雑誌目次

雑誌文献

medicina29巻6号

1992年06月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のためのCT・MRI

Editorial:CT・MRIの有効な使い方

著者: 水野富一

ページ範囲:P.921 - P.923

 軟部組織のコントラストを描出できる断層映像法として,超音波検査,CT,MRIがある.それぞれの検査法を有効に利用するためには,各検査法の特徴を熟知する必要がある.今回は内科系臨床医のためのCT,MRIの特集を組んだ.画像診断を専門とする医師は検査法の特徴,適応と限界,読影法まですべてを知っていなければならないが,内科医をはじめとする臨床医としては検査法についてすべてを知る必要はない.しかし,検査をオーダーする側として,それぞれの検査法の特徴や適応と限界について,熟知している必要がある.本稿ではCT,MRIの各検査法と他の検査法との比較,および,CT,MRIそれぞれの特徴と有効な使い方について述べる.

CT

X線CTの原理と検査法

著者: 荒木力

ページ範囲:P.924 - P.928

Hounsfield GNが,CTに関する最初の論文を「British Journal of Radiology」に発表したのは1973年である1).筆者が放射線科に入局した年で,毎日血管造影に追われていた我々に,大きな衝撃を与えた.その後のCTの進歩と臨床の場での普及は,他のいずれの画像診断装置も経験したことのない速さであった.1992年,すでにCTのない病院を捜すことが困難といえるまでになった.しかし,それらが,どの程度有効に,かつ正しく利用されているのだろうか?

CT—頭部

頭部CT診断の進め方

著者: 鎌田憲子

ページ範囲:P.930 - P.933

ポイント
1)CT像はコンピュータで作られた像であることを忘れてはいけない.
2)そのために起こるアーチファクトや異常なdensity像があることを十分に認識すべきである.
3)解剖学的変異や加齢に伴って起こる変化についても留意すべきである.

血管性病変

著者: 前原忠行 ,   小澤幸彦

ページ範囲:P.934 - P.941

ポイント
1)急性期脳出血は高吸収値陰影として描出される.血腫が吸収されるにつれて等吸収値から低吸収値へと変化し,瘢痕期には陳旧性梗塞と類似した所見を示す.
2)脳出血の大部分は高血圧性出血であるが若年者の脳出血や皮質下,小脳出血では脳動静脈奇形などが原因のことがある.
3)脳梗塞は低吸収値陰影を示すが,24時間以内の急性期には梗塞巣が描出されないこともある.
4)亜急性期にはfogging effectと呼ばれるX線吸収値の上昇により梗塞巣が不明瞭になることがある.
5)クモ膜下出血は通常,脳底部を中心とする脳槽の高吸収値陰影として認められる.
6)クモ膜下腔の血腫は移動しやすくX線吸収値の低下も早い.等吸収値を示す少量の血腫は見逃しやすいので注意を要する.

変性疾患

著者: 吉川宏起 ,   塩野孝博 ,   大久保敏之

ページ範囲:P.942 - P.947

ポイント
1)脳の変性疾患のCT所見を解説している.
2)変性萎縮疾患に対するCTの役割は,脳の萎縮の程度と範囲を知ることである.
3)脳の萎縮を考えるときに,加齢による萎縮や萎縮の個人差,性差などを考慮に入れる必要がある.
4)変性疾患や脱髄疾患の多くのCT所見は非特異的なもので,臨床的情報や生化学データが鑑別には重要である.
5)石灰化の検出率についてはCTはMRIより優れているが,脳の形態学的診断や大多数の病変の検出率ではMRIのほうが優れている.

頭部外傷

著者: 赤土みゆき ,   井上佑一

ページ範囲:P.948 - P.952

ポイント
1)頭部外傷の急性期には,CTで脳浮腫(低吸収域),脳挫傷(“salt and pepper”または“mottled”appearance),頭蓋内出血(高吸収域)などが抽出される.
2)受傷数時間から数日後に,血腫が発生あるいは増大することがある(delayed hem-atoma).
3)慢性硬膜下血腫は,進行性痴呆などで発症し,均一あるいは不均一な低〜高吸収値を示す.

CT—頸部

頸部のCT診断

著者: 山田恵子 ,   沢野誠志 ,   岡田進 ,   林真也 ,   砂川好光 ,   山下孝 ,   高橋久昭 ,   鎌田信悦 ,   鈴木恵子

ページ範囲:P.954 - P.959

ポイント
1)頭頸部には多くの臓器が含まれる.頭頸部のCTでは,対象となる臓器や疾患による検査方法の差が大きく,検査の目的を明確にすることが大切である.
2)側頭骨では,CTは多軌道断層撮影にとってかわる最も重要な画像診断法である.難聴や平衡機能障害を起こす種々の疾患が対象となる.
3)眼窩疾患および副鼻腔,咽頭,喉頭,唾液腺,甲状腺,その他頸部の疾患においては,腫瘤性病変の診断が主になる.CTでは病変の局在と進展範囲が分かり,質的診断もある程度可能である.
4)CTはMRIや超音波検査と比べて特に骨の変化の描出に優れ,骨折や腫瘍による浸潤などがよく分かる.微細な骨の変化を見るためには,それに合ったスキャン条件ならびに表示方法が必要となる.

CT—胸部

胸部CT診断の進め方

著者: 河合卓 ,   酒井文和 ,   曽根脩輔 ,   丸山篤敬 ,   渡辺智文

ページ範囲:P.960 - P.963

 胸部の放射線診断において,CT検査は非常に有用であり,縦隔や胸壁の診断については現在不可欠な検査法である.さらに最近は,高分解能CT(high resolution CT)を用いることにより,びまん性肺病変の鑑別診断が容易になってきたし,高速CTスキャンの導入により肺癌の診断面でも新しい展開が期待されている.本稿では胸部のCTの読影にあたり,まず必要である縦隔の見方を示し,さらに正常変異像や偽病変などについても解説を加える.

縦隔・心臓・大血管

著者: 成松明子

ページ範囲:P.966 - P.970

ポイント
1)縦隔の腫瘤性病変におけるCT診断の主な目的は,①従来のX線検査でみえにくい病変の検出,②CT値の測定による病変の質的診断,③病変の範囲の決定,の3点である.
2)心疾患におけるCT診断は,断面の死角がなく周囲の構造も含めて検査可能な点が利点であり,通常のCTでは①心膜病変,②心臓の腫瘤性病変,③冠動脈バイパス,グラフトの開存の有無の評価が主な適応となる.
3)大血管では,大動脈瘤と大動脈解離が主な適応となるが,CTは手術前後の評価に欠かせない検査法となっている.

肺の腫瘤性病変

著者: 坪井正博 ,   江口研二 ,   大松広伸 ,   名和健 ,   平野裕志 ,   金子昌弘

ページ範囲:P.972 - P.976

ポイント
1)thin-slice CTやcine-mode MPR-CTによって肺内血管や気管支の描出が改善され,微小病変の詳細な形態診断が得られるようになった.
2)悪性病変の存在が疑われる症例で胸部単純X線写真が無所見の場合にCTを撮ることも必要である.
3)CTの優れた存在診断能を生かし,heli-cal CTによる肺癌検診への応用が期待される.
4)病変の三次元的解析画像の質的向上とこれに基づく診断法の確立が必要である.

肺の浸潤性病変

著者: 森雅樹 ,   原田尚雄

ページ範囲:P.978 - P.981

ポイント
1)浸潤影とは,辺縁不明瞭な不整形の濃度上昇領域を指すことが多い.炎症性疾患のみならず,非炎症性疾患でもしばしば限局性の浸潤性陰影として認められる.
2)肺感染症においては,細葉陰影は融合して大きくなり,ついには区域〜肺葉の大きさになる.そのため,限局性の浸潤影を示すことが多く,しばしば区域性あるいは亜区域性を示す.
3)Wegener肉芽腫症は多発結節影や区域性分布を示す均等影を示し,しばしば空洞を伴う.
4)肺胞上皮癌では,多発する腫瘤影あるいは肺炎様陰影として認められることが多く,陰影内に見られる大小の透亮像の存在が特徴である.
5)肺梗塞を伴った肺塞栓症では,胸膜面に底を有する楔状陰影を示しやすい.

空洞性・嚢胞性肺病変

著者: 大坪まゆみ ,   林邦昭

ページ範囲:P.982 - P.987

ポイント
1)空洞性・嚢胞性肺疾患について,その種類やCT所見を簡単に説明する.
2)空洞性・嚢胞性肺疾患におけるCTの有用性は病変の部位,広がり,数,壁の性状,内容物,周囲肺組織(血管や気管支),胸膜との関係が描出できる(特に高分解能CT:HR-CT)ことである.
3)肺空洞性・嚢胞性疾患には特徴的CT所見を有するものがあり,年齢・症状,検査データに画像所見を合わせると鑑別がより容易となる.

びまん性肺疾患

著者: 伊藤春海 ,   西村浩一

ページ範囲:P.988 - P.991

ポイント
1)びまん性肺疾患のCT読影技術は通常断層像のそれから多くのことを学んだ.
2)びまん性肺疾患のCTを理解するための中心となる肺既存構造は細気管支,肺血管周囲間質,そして肺胞と肺胞中隔である.
3)以上の肺既存構造に照らしてCTを理解する上で鍵となる疾患はDPB,サルコイドーシス,UIP,肺結核などである.

CT—腹部

腹部CT診断の進め方

著者: 黒崎喜久

ページ範囲:P.992 - P.995

ポイント
1)腹部CTの適応を明確にせよ,臨床的状況をよく検討し,CTが最適な検査法かどうか決める.
2)焦点を絞った濃厚かつ効率の良いCT検査を施行せよ.すでに行われている画像検査を見返して,問題点を明確にしてから検査に臨むことが肝要である.
3)CT画像を丹念に読影せよ.
4)偽病変を作り出すことは病変の見落としと同様に罪悪である.偽病変発生の防止策はnormal variantやアーチファクトに精通することである.
5)必要あれば,確定診断や病変進展診断のためにCT以外の検査を指摘せよ.

肝のCT

著者: 上野恵子 ,   磯部義憲 ,   近藤由美 ,   吉田泉

ページ範囲:P.996 - P.1004

ポイント
1)肝疾患に対するCT検査には,単純CTのみならず造影CTは必須である.造影CTは,できる限りbolus injectionを行う工夫が必要で,漫然と点滴を行ったのでは質的診断の向上は望めない.
2)Dynamic CT,table incremental dynamic CT,造影後時間が経過した後に再び撮影を行うなど,必要に応じて撮影法を工夫することにより,肝腫瘤に対する診断能は飛躍的に高まる.

胆道

著者: 澤田敏 ,   小林正美 ,   森岡伸夫 ,   岩宮孝司 ,   谷川昇 ,   大内泰文 ,   太田吉雄

ページ範囲:P.1006 - P.1011

ポイント
1)胆嚢結石の場合,結石に随伴する二次病変の診断および結石の性状の診断に有力である.
2)総胆管結石の診断にはthin slice scanが有力である.
3)急性胆嚢炎では典型像を呈することが多いが,慢性胆嚢炎では常に胆嚢癌との鑑別が必要である.
4)胆嚢癌は画像上3型に分けられ,その進展範囲や転移巣の検索に適している.
5)肝外胆管癌では腫瘍自体の描出は困難なことが多いが,血管浸潤やリンパ節転移の評価には適している.

膵・脾臓

著者: 三谷尚 ,   津田恭 ,   中村仁信 ,   小塚隆弘

ページ範囲:P.1012 - P.1016

ポイント
1)CTは膵・脾の形状,大きさを正確に描出するため,膵・脾の腫大,膵管拡張,石灰化,限局性腫瘤,先天異常の診断に有用である.
2)膵炎では周囲,特に前傍腎腔への炎症の波及に留意する.一方,膵癌では周囲の脈管への浸潤の評価が重要であり,急速静注下の造影CTを行う.
3)膵には特異な嚢胞性腫瘍があり,嚢胞の大きさ,性状がCT診断のポイントである.また,小さな機能性膵島腫瘍ではダイナミックスキャンが有用である.

著者: 河野敦

ページ範囲:P.1018 - P.1021

 腎疾患におけるCTの有用性は非常に高く,現時点ではスクリーニング検査としても精密検査としても最良の画像診断方法と考えられる.本稿では腎CTの検査方法,正常像および代表的異常像について概略を述べる.

副腎・後腹膜

著者: 徳永仰

ページ範囲:P.1022 - P.1026

ポイント
1)CTは副腎・後腹膜の正常および異常像の把握に最も優れている.したがって,疾患が疑われた場合スクリーニングとしてまず第1に行われる検査法である.
2)副腎疾患は機能性(ホルモン産生性)と非機能性(ホルモン非産生性)に大別するのが臨床診断上重要である.機能性疾患の場合,対応する副腎の病態として,両側過形成,腺腫,癌がある.
3)機能性疾患で頻度が高く重要なものはCushing症候群,原発性アルドステロン症,褐色細胞腫である.
4)機能性副腎腫瘍は各々の疾患により腫瘍の大きさが異なることを理解することが大切である.原発性アルドステロン症の1cm前後の腺腫ではCT,MRIでも確定診断は困難で,副腎静脈造影と採血によるホルモン定量が必要になる.
5)非機能性疾患は無症状であるために超音波(US),CTで偶然発見(incidental-oma)されることが多い.

消化管—閉塞性疾患の鑑別診断について

著者: 斎田幸久 ,   田中優美子 ,   角田博子 ,   板井悠二

ページ範囲:P.1028 - P.1031

ポイント
1)手術既往のないイレウスはCTの適応.
2)大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアのCT診断の意義は高い.
3)脂肪を内部に含む腸管の二重構造は腸重積症に特異的.
4)腸間膜血管周囲の渦巻像は腸軸捻を示す所見.

MRI

MRIの基礎

著者: 小嶋馨

ページ範囲:P.1032 - P.1036

ポイント
1)今日,臨床のMRIで対象としているのは生体内に存在する水素の原子核(プロトン)である.
2)特定の電磁波を与えるとプロトンはいったんエネルギーの高い状態になり,それが元の状態に復する(緩和という)ときにMR信号を発する.これが核磁気共鳴現象である.
3)このMR信号を受信し,そのプロトンの位置,密度,化学的状態を解析して画像化したものがMRIである.
4)MRIでは撮影条件を変えることによって,同一の被検体から異なった画像を得ることができる.また矢状断,冠状断など任意の断層面の撮影が可能である.

MRI撮像・読影のポイント

著者: 平松慶博

ページ範囲:P.1038 - P.1042

●撮像法
 1)撮像体位
 MRIは基本的な横断像のほか,CTでは通常得られない冠状断像および矢状断像が得られるのが特徴であるが,X線撮影やCT撮影と異なり,患者は通常,背臥位のまま任意方向の断層像が得られる(図1).これは,患者の周囲にあるX方向,Y方向およびZ方向の3種類の傾斜コイルを用いることで可能となる.
 2)パルスシークエンス
 MRIは,X線のみを用いるX線撮影やCT,あるいは超音波のみを用いる超音波検査と異なり,多くの画像因子より成り立っている(式1).つまりT1,T2,プロトン密度(PD),流速などの因子が複雑に作用して画像を構成する.例えばT1強調像(図1a)やT2強調像(図1b)のように,それらの1つを強調することも可能であるが,“強調像”といわれるように,完全に1つの画像因子のみから像を構成することはむしろ困難であり,いくつかの因子を組み合わせるほうが像をつくりやすい.

MRアンギオ

著者: 大内敏宏 ,   徳丸阿耶

ページ範囲:P.1044 - P.1047

ポイント
1)MRIでは血流はさまざまな信号を呈する.
2)MRアンギオにもさまざまな撮像方法があり,描出される血管像が異なる.
3)MRアンギオは現在のところ,空間分解能が悪いので大まかな情報しか得られないが,血管疾患のルールアウトに役立つ可能性がある.
4)高磁場MRI装置のほうが,より鮮明な画像が得られ,検査時間も短い.

MRI—頭部

頭部MRI診断の進め方

著者: 菅信一

ページ範囲:P.1048 - P.1051

 MRIが,日常臨床に広く用いられている状況下でのMRI診断の進め方について述べる.頭蓋内疾患に対するMRIの有用性を,従来の診断法であるCTと比較すると,一般的にMRIはCTに比し同等か,それ以上の診断能を持っていると見なすことができる.多くの施設で,MRIとCTの検査依頼は,互いに独立してなされていることが多く,検査の順番も疾患とは無関係にそれぞれの検査の予約状況に従って決まることが多い.しかしながら,このような状況下でもMRIを先行させるべき疾患あるいはCTを先行させるべき疾患がある.表は,それらの代表的なものである.次に主として内科的疾患を対象とした場合の,頭部MRI診断の進め方につき解説する.各種の疾患でのMRI診断については,次の章の各論の項を参考にされたい.

血管性病変

著者: 渡部恒也

ページ範囲:P.1052 - P.1055

ポイント
1)ヘモグロビンの緩和効果と脳出血の経時的なMR画像所見.
2)MR画像からみた虚血性脳浮腫の所見.
3)脳梗塞の経時的なMR画像所見.

炎症性疾患

著者: 畑雄一 ,   多田信平

ページ範囲:P.1056 - P.1059

ポイント
1)MRIはコントラスト分解能に優れ,一般に中枢神経系炎症性疾患に対し,CTより早期に病変を描出し得る.
2)MRIは骨からのアーチファクトが少なく,骨に接する部位の髄膜病変に対する感受性が高い.
3)頭蓋内炎症性疾患に対しGd-DTPAによるコントラスト増強法は必須の手法である.

脱髄・変性・代謝性疾患

著者: 百島祐貴 ,   志賀逸夫

ページ範囲:P.1060 - P.1063

ポイント
1)多発性硬化症の診断におけるMRIのsensitivityは極めて高い.
2)アルツハイマー病では,側頭葉内側の萎縮と異常信号が認められる.
3)パーキンソン病では,大脳基底核,黒質などに鉄の異常沈着をみる.
4)脊髄小脳変性症では,脳幹,小脳脚,小脳の萎縮が認められる.
5)筋萎縮性側索硬化症では,錐体路に異常信号をみることがある.
6)ウィルソン病では,大脳基底核,視床などに異常所見をみる.
7)慢性肝障害において,脳底部に異常物質の沈着をみることがある.

MRI—頸部・脊髄

頸部のMRI診断

著者: 三枝裕和 ,   井田正博 ,   水沼仁孝 ,   有泉光子 ,   山岸二郎 ,   多田信平

ページ範囲:P.1064 - P.1068

 頭頸部領域におけるコンピュータ断層撮影法(CT,MR)の意義は,耳鼻咽喉科学的に直視しえない深部組織を無侵襲に観察(病変の進展範囲を診断)しえることである.特にMRはCTに比較して軟部組織のコントラストに優れ(正常部と病変部の識別に優れ),非検者を横臥位のままあらゆる裁断面を撮像できることから,頭頸部領域の有力な診断法となった.
 反面,MRでは骨皮質や石灰化は無信号になるため(水分含量が低いため),微細な骨組織の変化(癌浸潤による骨皮質破壊や硬化)や病変内の石灰化の検出はCTのほうが優れている.歯料治療に用いた磁性物質はMRのアーチファクトの原因となる.さらにMRでは撮像に時間を要し,呼吸停止下の撮像ができないため,呼吸や嚥下による変動が大きい部位では微細構築の観察が難しいが,将来的には超高速撮影法の発展とともに解決されるであろう.

脊髄のMRI診断

著者: 高橋元一郎 ,   望月隆男 ,   礒田治夫

ページ範囲:P.1070 - P.1075

 脊髄・脊椎系は,脳と同じく呼吸運動や心拍動の影響が少なく,MRIの良い対象としてその初期から臨床応用が行われてきた.特に,脊髄の内部構造と病変はMRIによってはじめて非侵襲的に描画されるに至った.ここでは,脊髄は脊柱管内に存在するものであり,脊髄と脊椎は不可分であるという観点から,脊髄・脊椎系疾患の診断におけるMRI診断の特徴,検査に対する注意事項,および撮影法のポイントを述べるとともに,典型的なMRIを提示する.

MRI—胸部

胸部MRI診断の進め方

著者: 似鳥俊明 ,   蜂屋順一

ページ範囲:P.1076 - P.1081

ポイント
1)胸部のMRI検査は心電図同期で行われる.
2)長軸断面が診断に有用となることが多いが,この際も撮像の基本は体軸横断面像である.
3)血流信号を無信号あるいは高信号に描出することが可能であり,部位や疾患により使い分けが重要である.
4)MRIの組織特異性は限界が大きく,CTを併用しない単独での診断は危険なことがある.

心大血管

著者: 西村恒彦

ページ範囲:P.1082 - P.1087

ポイント
1)心臓におけるX線CTは,高速シネCT(イマトロン)の導入により,精度の高い心形態,機能の診断が行えるようになってきた.特にX線CTは心内壁在血栓,冠動脈の石灰化や,心筋の脂肪変性の描出に優れている.また,ヨード造影剤を用いて心筋梗塞における心筋性状の評価が行える.
2)MRIは心電図同期撮像法およびシネMR法の導入により,心形態,機能の診断が行える.任意の断層面が得られるため,先天性心奇形や心臓腫瘍の検出に優れている.また,急性心筋梗塞における心筋性状の判定も行え,MRI造影剤であるGd-DTPAによる造影効果が有用である.
3)心大血管系におけるX線CT,MRIの有用性とその役割について表にまとめた.

肺・縦隔

著者: 田中宏

ページ範囲:P.1088 - P.1091

ポイント
1)組織濃度分解能に優れ,腫瘍の内部性状,肺の二次変化を伴う肺癌の同定,腫瘍の胸壁内浸潤範囲の把握に有用である.
2)多方向撮影が可能であるため,腫瘍の全体像の把握に役立つ.また気管分岐下,Botallo管リンパ節の検出能が良い.
3)血管が無信号域として描出されるため,造影剤なしで軟部組織との鑑別が可能である.

MRI—腹部

腹部MRI診断の進め方

著者: 湯浅祐二

ページ範囲:P.1092 - P.1097

ポイント
1)腹部MRI診断では,検査部位,疾患に合わせた検査法の選択が特に必要である.
2)呼吸,血流によるアーチファクトは腹部MRI検査では常に問題となり,画像の劣化という点のみならず,診断の際にも十分気をつける必要がある,
3)最近では,短時間撮影が可能な撮影方法が開発されており,腹部MRI検査の有効性,効率を高めている.
4)造影剤の使用も必要とされる場合が多く,その際には,適切な撮影法,撮影タイミングの選択が正確な診断につながる.
5)MRアンジオグラフィーなどの血流情報の検索も腹部領域で有効であり,適宜施行されることで,有用な診断情報が得られる.
6)表面コイルの使用なども有効であり,検索部位により工夫することで診断能は向上する.

肝・胆道—early HCCを含む肝細胞癌を中心に

著者: 若尾文彦 ,   村松幸男 ,   森山紀之 ,   高安賢一

ページ範囲:P.1098 - P.1105

ポイント
1)肝・胆道系のMRI診断には,S/N比が高く,解剖学的関係が明瞭に描出されるT1強調像と,組織間コントラストの優れたT2強調像の両者が不可欠である.
2)肝の腫瘤性病変において,T1強調像とT2強調像よりある程度の質的診断が可能であるが,Gd-DTPAによるdynamicstudyにより診断がさらに確実となる.
3)Advanced HCCは他の腫瘤性病変と異なり,T1強調像で高〜等信号を呈することもある.
4)Early HCCの検出能は通常のCTより優れ,さらに,T1強調像で高〜等,T2強調像で等(〜低)信号を呈することによりadvanced HCCと鑑別が可能である.

膵・脾臓

著者: 可知謙治 ,   大友邦

ページ範囲:P.1106 - P.1109

ポイント
1)膵病変におけるMRIの役割はいまだに明確ではない.
2)膵腫瘤性病変においてFat-SaturationMR画像はコントラスト分解能に優れている.
3)脾悪性腫瘍に対しては,フェライトの開発により,検出能の向上が期待される.

著者: 八代直文

ページ範囲:P.1110 - P.1114

 超電導装置の普及が進んだことによって,MRIによって,腎においても臨床的に有用な情報が得られるようになった.MRIの利点は,腎癌においては,静脈内進展やリンパ節転移の描出,冠状断,矢状断による立体的な観察などにある.腎過誤腫では,MRIによる脂肪成分の検出力は高く,質的診断に寄与できる.嚢胞性疾患や嚢胞性腫瘍では,嚢胞内への微量の出血がMRIでよく描出できる.
 移植腎のMRIは,移植後の急性,慢性拒絶の診断に有用であるが,限界も明らかになってきている.尿路奇形にもMRIは有効で,造影剤を用いることなく診断できる.また,X線被曝がないため,若年者や女性の検査には有利である.

副腎・後腹膜

著者: 宗近宏次 ,   李京七 ,   信澤宏

ページ範囲:P.1116 - P.1119

ポイント
1)副腎と後腹膜疾患で最も役立っ検査はCTとMRIである.MRIの長所は高い組織コントラスト,多断面撮像,造影剤を用いない血管の描出である.T2強調画像にはCTにない特徴がある.
2)副腎疾患の評価におけるMRIの利点は,異所性または多発性の褐色細胞腫の局在診断,非機能性腺腫と副腎転移癌の区別(20〜30%の腫瘤は区別できない)である.一般に,MRIはCTと同等またはCTがやや有利である.
3)後腹膜疾患の評価におけるMRIの利点は,造影剤を用いない腹部大動脈瘤または下大静脈疾患の描出,後腹膜線維症と悪性腫瘍の区別である.一般に,MRIは造影CTと同等である.

講座 図解病態のしくみ 肝臓病・3

肝疾患の画像診断

著者: 青山圭一 ,   月城孝志 ,   南部修二 ,   渡辺明治

ページ範囲:P.1120 - P.1128

 肝疾患の画像診断は,超音波検査の進歩,普及と血管造影下の肝動脈塞栓療法(TAE)の定着に伴い,大きく進歩してきている.ハイリスク患者群を対象とする超音波検査によるスクリーニングで小肝細胞癌が数多く発見され,手術例が増加し,一方では,TAEや超音波下経皮的エタノール注入療法が肝切除術を凌ぐほどの治療効果を示してきている.
 この稿では,各種の肝画像診断における検査手技のポイントや進歩,ならびに種々の肝疾患における典型像などについて解説したい.

演習

心エコー図演習

著者: 西上和宏 ,   吉田清

ページ範囲:P.1129 - P.1132

 55歳の男性が発熱と労作時の呼吸困難を訴えて来院した
 家族歴 特記事項なし
 現病歴 20歳頃より他人よりも体力が弱いと感じていたが,日常生活に支障なく,心雑音を指摘されたこともなかった.2ヵ月前より37℃台の発熱が持続し,全身倦怠感と食欲不振が出現した.1ヵ月前より労作時の呼吸困難が出現し,次第に増悪するため当院を受診し入院となった.

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1134 - P.1139

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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