icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina29巻7号

1992年07月発行

雑誌目次

今月の主題 虚血性心疾患Today

Editorial/急性心筋梗塞に対するt-PA治療をめぐって

著者: 山口徹

ページ範囲:P.1148 - P.1149

 急性心筋梗塞に対する治療が変わりつつある.第一線の病院では確実に死亡率は減少し,早期退院が可能になりつつある.血栓溶解療法,PTCAを始めとする治療法の進歩のおかげである。昨年11月にわが国でもt-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベーター)が認可され,急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法は,どこでも誰でも可能となった.すべての内科医が正しい知識をもって,かつ自分で初期治療を行うことを要求されるようになったわけであるが,現在のところ治療がプライマリーケアで急速に普及したわけではない.T-PA治療にも2,3の問題があり,未解決だからである.

狭心症へのアプローチ

狭心症の発生機序

著者: 垣花昌明

ページ範囲:P.1150 - P.1151

ポイント
1)狭心症とは冠循環の異常によって生ずる胸部ないしその近傍の疼痛・不快感である.ただし,心筋梗塞に伴うものではない.
2)狭心症の発生機序は,冠血流量と冠血流によって運搬される酸素の需要に比し供給が少ないことである.
3)この「需要>>供給」が生ずる病態生理として,①冠血流減少,②酸素運搬の障害,③心拍出量と心筋酸素需要の増加,④冠動脈スパズム,があげられる.
4)狭心症と類似の胸痛,不快感を生ずることのある疾患との鑑別が必要である.

どのような胸痛から狭心症を疑うか

著者: 平山治雄

ページ範囲:P.1152 - P.1154

ポイント
1)不安定狭心症の早期診断に,胸痛による鑑別はとくに重要である.
2)胸痛の起こる条件,性質,持続時間,冷汗の有無,再現性の有無,が問診の必須項目である.
3)症状はいかにも狭心症に一致するが非観血的検査は陰性という場合は,症状を優先し,冠動脈造影にて重症度判定を行った後,治療方針を決定すべきである.

どの心電図異常から狭心症を疑うか

著者: 高谷純司

ページ範囲:P.1155 - P.1157

ポイント
1)安静時心電図は,冠状動脈硬化症による狭心症に対しての診断価値は低い.
2)運動負荷心電図による虚血性ST,T波の変化は,狭心症の診断には不可欠である.
3)虚血性心電図変化を診断する際は,各冠状動脈支配領域の変化をみることが重要である.

無症候性心筋虚血とは

著者: 鷹津文麿

ページ範囲:P.1158 - P.1161

ポイント
1)無症候性心筋虚血とは,虚血性心疾患の患者の30〜40%にみられる,無症候性ではあるが明らかな心電図のST変化,心筋シンチ上のdefect,心エコー上の壁運動異常(いずれも一過性)などとして認識される明らかな虚血発作であり,単に(とくに虚血性心疾患であるかどうか,確定診断のされていない症例では)運動負荷心電図やホルター心電図上の原因不明のST変化を指すものではない.
2)無症候性心筋虚血の成因は不明の部分が多いが,臨床的意義は狭心発作と同等である.
3)無症候性心筋虚血発作を有する患者の多くは狭心症状をも有するが,少数例でまったく狭心症状を欠き,とくに冠動脈疾患の危険因子を複数もつ人では定期的に負荷心電図やホルター心電図でチェックしていくべきである.

ホルター心電図による狭心症診断のポイント

著者: 岸田浩

ページ範囲:P.1163 - P.1165

ポイント
1)誘導部位としてCM5誘導は有用である.
2)体動によるST偏位は,それに一致して大きな揺れがある.
3)心拍数のスペクトル,非スペクトル解析により,心臓自律神経系の影響がわかる.

超音波検査は何に役立つか

著者: 吉田清

ページ範囲:P.1167 - P.1169

 心臓の超音波イメージングには,形態および動きを捉えようとする心エコー図法と,心臓内の血流動態を計測するためのドプラ法があり,両者は互いに補完的に用いられている.超音波イメージングは非観血的にくり返し施行することができ,リアルタイムに多方向から心臓を観察しうるため,心疾患の診断に欠くべからざる検査法となっている.狭心症の診断においては通常,壁運動異常は認められないため,運動負荷や薬剤負荷などにより誘発することが大切である.また,最近では経食道心エコー図により,冠動脈の直接描出や冠動脈血流を捉えることができるようになっている.
 

核医学検査でどこまで診断できるか

著者: 小西得司 ,   玉井琢也

ページ範囲:P.1170 - P.1171

ポイント
1)心筋虚血検出における最も鋭敏な非観血的検査法は核医学検査である.
2)負荷タリウム検査による運動負荷および薬物負荷は,心筋虚血の診断において両者に差はない.
3)負荷心プールシンチグラフィーは,虚血による壁運動異常と左室駆出率の異常反応を用い心筋虚血を診断する.
4)今後,随時使用可能な心筋イメージング剤や心筋代謝などのイメージング剤が発売される.

冠動脈造影で何を診断,評価できるか

著者: 水野杏一 ,   桜田真己

ページ範囲:P.1172 - P.1173

ポイント
1)重症度の把握ができ,治療法の選択に有用である.
2)冠動脈内血栓像,複雑な冠動脈病変は院内でのcardiac eventの発症率が高い.
3)リスクファクターに対する治療効果の判定が可能である.
4)不安定狭心症が疑われた場合には,時機を逸せず早急に冠動脈造影を実施すべきである.

心筋梗塞へのアプローチ

急性心筋梗塞の発生機序

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.1174 - P.1176

ポイント
1)心筋梗塞の成因は冠動脈の閉塞による心筋の虚血性壊死である.
2)心筋の壊死には凝固壊死と,閉塞冠動脈の再灌流が関与する収縮帯壊死がある.
3)冠動脈の閉塞機序は血栓が主であり,他に,粥状動脈硬化の成長増大,冠動脈スパズム,塞栓などがある.
4)冠動脈が突然閉塞する引き金としては粥腫内膜の破綻が有力である.

いつ急性心筋梗塞を疑うか

著者: 滝澤明憲

ページ範囲:P.1178 - P.1179

ポイント
1)典型的な心筋梗塞の胸痛は,前胸部の絞められる,押さえられる,焼けつくような感じの苦しさで,不安感,冷汗,嘔気,嘔吐などを伴うことが多い.狭心症より持続は長く,痛みの程度も強い.
2)胸痛の持続は数時間が普通で,30分〜1時間ぐらいで治ることもあるが,「治った」後も軽度の違和感が何時間も残るのが普通である.
3)糖尿病患者や高齢者では,胸痛の程度が軽かったり,まったく訴えない者もある(息苦しい,元気がないなどの訴え).
4)ニトログリセリンの舌下により痛みが軽減することがしばしばみられるが,狭心症のように完全には消失しない.
5)梗塞前狭心症が半数以上で認められる.

急性心筋梗塞の心電図診断とそのpitfall

著者: 長谷川彰彦 ,   吉本信雄

ページ範囲:P.1180 - P.1184

ポイント
1)急性心筋梗塞においては,典型的な心電図所見を認める場合,胸痛および心筋逸脱酵素の上昇があれば,診断は容易である.
2)non-Q波心筋梗塞や左脚ブロックでは梗塞の診断が難しい.また急性心筋梗塞類似の心電図所見を呈する疾患もある.
3)心電図の経時的変化や,過去に記録した心電図との比較が,診断上有用である.

急性心筋梗塞の生化学的診断とその進歩

著者: 野村雅則 ,   石井潤一

ページ範囲:P.1185 - P.1187

ポイント
1)急性心筋梗塞の発症4時間以内の診断に,ミオグロビンやCKMMアイソフォームはCKやCKMBより有用である.
2)心筋の構造蛋白であるミオシン軽鎖Iは,再疎通の影響を受けにくい梗塞サイズ指標である.
3)ミオグロビンやCKMMアイソフォームを測定すれば,CKより早期に梗塞責任冠動脈の再疎通の判定が可能である.

急性期冠動脈造影はいつ必要か

著者: 玉井秀男

ページ範囲:P.1188 - P.1189

ポイント
冠動脈造影はいつ必要か
1)一般的なCAGの時期
 心室中隔破裂などの合併症に対する外科
 治療の必要な時
2)再疎通療法とCAGの時期
 ①静脈内血栓溶解療法
  軽症例……1〜2週間後
  重症例……PTCA,CABGが必要な時
 ②PTCR,PTCA,CABG
  軽症例……原則として6時間以内
  重症例……PTCA,CABGが必要な時

心筋梗塞後患者に対してどの検査が必要か

著者: 星野恒雄

ページ範囲:P.1190 - P.1191

ポイント
1)予後を決定する因子は,①心機能障害の程度,②残存心筋虚血の有無,③不整脈の程度,である.
2)残存心筋虚血の評価では,梗塞部心筋のviabilityと,梗塞部および非梗塞部心筋の虚血の評価が大切である.
3)心機能評価は,心エコー法,RI心アンギオグラフィ,心臓カテーテル検査,それぞれの特徴を生かして検査すべきである.
4)ホルター心電図での不整脈チェックは,予後との関係で重要である.
5)リハビリテーションは,プログラム進行基準を参考に安全かつ迅速に進める.

陳旧性心筋梗塞をどのように診断,評価するか

著者: 門脇謙

ページ範囲:P.1192 - P.1193

ポイント
1)突然,外来を受診する患者には,狭心症の不安定化,再梗塞や心不全症状が多い.
2)無症候性心筋虚血患者は,ホルター心電図運動負荷や薬物負荷試験によって一過性の心筋虚血が発生する.
3)いずれの場合も,臨床症状,合併症や治療経過など,病歴の詳細な検討を要する.
4)冠動脈造影は不可欠で,左心機能と心筋の生存能を同時に評価する.
5)高度の残存狭窄や閉塞像をみる場合,PTCAやCABGなどの血行再建によって,収縮機能が回復する虚血心筋(stunned,hibernating心筋)を確認する.

狭心症の治療

治療法からみた狭心症の分類

著者: 田村勤

ページ範囲:P.1196 - P.1197

 狭心症は,冠動脈から心筋へ供給される血流量が絶対的または相対的に不足した状態で生じるが,従来より種々の観点から分類が行われてきた(表1).これらの分類上,安定狭心症のうち,労作により生じる労作性狭心症では器質的病変をもつ例が多く,夜間から早朝に起きる安静時狭心症では冠攣縮性狭心症が多い.また,心不全のNYHAの重症度分類と類似した分類法にCCS分類がある(表2).

安定狭心症に対する治療法の選択

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 狭心症を治療するうえで重要なことは,その原因に冠攣縮が関与しているか否かである.通常,安定狭心症は冠攣縮の関与は非常に少ない.今回のテーマが安定期狭心症であるので,この点につき解説したいと思う.
 安定型狭心症はいわゆるclassicalな狭心症で,通常高度の冠狭窄が存在し,労作や興奮などにより冠狭窄部より末梢部への心筋の酸素需要に対し,供給が不十分なために酸素欠乏症が起こり,そのために胸部圧迫感を主とする症状をきたすものである.高度冠狭窄に冠攣縮の関与している症例も存在する1)が,むしろまれである.この安定型狭心症は通常,運動負荷試験で陽性を示すので,診断は比較的容易である.さて治療法であるが,治療の目的には2つある.

不安定狭心症に対する治療法の選択

著者: 会沢治 ,   土師一夫

ページ範囲:P.1200 - P.1203

ポイント
1)不安定狭心症の治療の基本は薬物療法であり,本症の多くが薬物療法単独で安定化する.
2)一部の薬物治療抵抗性の不安定狭心症では,非薬物治療適応の判断を迅速・的確に行うことが重要である.
3)薬物治療抵抗性狭心症に対する緊急PTCA,CABGの治療成績は,安定化した後の待機的PTCA,CABGに比べて良好とはいえないので,その適応選択は慎重に行わなければならない.

狭心症に対する薬物治療の実際

著者: 平田健一 ,   横山光宏

ページ範囲:P.1204 - P.1207

ポイント
1)狭心症に対する薬物療法は症例の病態を十分に理解して行う.
2)労作狭心症に対する治療はβ遮断薬が,安静狭心症にはCa拮抗薬が主体となり,亜硝酸薬はいずれの病態の狭心症にも使用される.

狭心症に対するPTCA

著者: 藤井謙司 ,   東野順彦 ,   南野隆三

ページ範囲:P.1208 - P.1209

 1977年Gruntzig1)により始められたPTCAは,その後の器材の進歩,術者の熟練により,今や冠動脈バイパス術と並ぶ冠動脈再建術として普及している.本稿ではとくに狭心症に対するPTCAの適応,成績,さらに問題点について概説する.

冠動脈バイパス手術の適応とその進歩

著者: 一色高明

ページ範囲:P.1210 - P.1212

ポイント
1)冠動脈バイパス術の対象はPTCAの対象よりも重症例が多いが,その成績や長期予後はほぼ同等である.
2)長期開存率に優れる動脈グラフトを用いることが最近の傾向である.
3)胃大網動脈などの新しい動脈グラフトも積極的に使用されつつある.
4)1枝病変例は原則として冠動脈バイパスの適応ではない.
5)左主幹部病変と2枝完全閉塞を伴う3枝病変例は冠動脈バイパス術の絶対適応である.
6)PTCAの成績が不良なことが予想される病変を2枝以上に認める多枝病変例は冠動脈バイパス術の相対的適応である.

危険因子の管理とその効果

著者: 松田泰雄 ,   松田昌子

ページ範囲:P.1213 - P.1215

ポイント
1)抗コレステロール剤の冠動脈疾患進展の予防効果は十分期待できる.
2)糖尿病のコントロールで冠動脈疾患のリスクを減じるといった明確なデータはない.
3)高血圧はどのような方法で降圧するかが問題である.
4)禁煙で心筋梗塞のリスクは下がる.

狭心症患者に対する検査・手術と術前の評価

著者: 田中直秀 ,   住吉徹哉

ページ範囲:P.1216 - P.1218

ポイント
 狭心症を有する患者の検査・手術を行う場合,以下のことが重要である.
1)患者の狭心症の病態・重症度を明らかにする.
2)運動負荷試験,心エコー図,負荷心筋シンチグラムにより,心筋虚血の閾値,心機能,心筋虚血の範囲を評価する.
3)可能な限り冠動脈造影を行い,器質的冠動脈病変の重症度を評価し,術前のPTCA,CABG,術中IABPなどの処置を行うことによって,比較的安全に手術を施行できる.

心筋梗塞の治療

急性心筋梗塞プライマリケアのポイント

著者: 守内郁夫 ,   三船順一郎

ページ範囲:P.1220 - P.1221

ポイント
1)急性心筋梗塞は発作を起こしてから2時間以内の早期に,主に心室細動によって死亡するものが多いので,できるだけ早く診断し,できるだけ早くCCU(Coronary Care Unit)のあるような病院へ入院させることが最も重要である.
2)早期診断のためには発作時の症状が最も重要で,30分以上続く胸痛を訴えたときには本症を疑い,しかるべき処置を早くすべきである.
3)発作時の処置としては,安静,塩酸モルヒネ5〜10mg筋注による鎮痛,酸素吸入,心室細動の予防としてのリドカイン(キシロカイン®)50〜100mgの静注(徐脈には硫酸アトロピン静注)などを行う.

急性心筋梗塞に対するt-PAの適応と実際

著者: 石原正治 ,   佐藤光

ページ範囲:P.1222 - P.1225

 急性心筋梗塞は,冠動脈内の血栓形成により冠血流が途絶され,冠動脈の支配領域に心筋の壊死を生じて発症する.冠閉塞による心筋壊死は,まず冠動脈の支配領域中央の心内膜側に生じ,時間の経過とともに周辺や心外膜側へと広がる(wavefront現象)1).このwavefront現象は,心筋壊死が冠動脈の支配領域内に広く波及する前に冠動脈の閉塞を解除すれば,心筋salvageにより梗塞面積を縮小することが可能であることを示唆する.心筋梗塞は多くの場合すでに述べたように冠動脈内血栓の形成により生じるため,薬物による血栓溶解により冠動脈の閉塞を解除し,血流を再開することができる.このようにして再開された血流は,心筋壊死の周辺や心外膜側への波及を抑え,閉塞冠動脈の支配領域にあって壊死の危険にさらされている心筋をsalvageし,梗塞面積を縮小することが期待される.
 このような急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法は,臨床的には,Fletcherらによるストレプトキナーゼの静脈内投与法やRentropらによる冠動脈内注入法の試み以来,本邦でもウロキナーゼを用いて普及している.

急性心筋梗塞に対するPTCA

著者: 鈴木紳

ページ範囲:P.1226 - P.1228

ポイント
1)心筋梗塞急性期の再疎通療法には,血栓溶解療法とdirect PTCAがあるが,その選択は施設の能力において決めるべきである.
2)心原性ショックの場合はdirect PTCAを第1選択とするのがよい.
3)血栓溶解療法が成功し,TIMI grade II度以上の血流が得られたときには,引き続いてのPTCAは控えるほうがよい.
4)今後は急性心筋梗塞の診断がつき次第,血栓溶解剤の静注を開始し,カテーテル室の準備ができた時点で造影を行ってPTCAの適応を決めるのが最も効率的である.

急性心筋梗塞の心不全に対する治療

著者: 加藤修

ページ範囲:P.1230 - P.1233

ポイント
急性心筋梗塞の心不全の病態と診断
1)まず心不全の病因(左心不全,右室梗塞,機械的合併症)の鑑別診断が早急に必要である.
2)次に心不全の重症度と体循環不全の程度の把握をすべきであるが,注意すべきことは,入院時の心不全の程度のみにとらわれず,入院までの状態や心電図,心エコー所見などより総合的に判断されるべきである.
3)原則的に,心不全を伴うAMI例は緊急CAGが必要である.
心不全に対する治療法の選択と注意点
1)心不全を伴うAMI例は,発症からの時間にかかわらず再疎通療法の適応となる.t-PA静注を早急に開始し,ただちに緊急CAGを行う必要がある.再疎通が得られていなければ,緊急PTCAによる再疎通が図られるべきである.
2)薬物治療やIABPの効果は再疎通の有無により強く影響され,補助循環の効果も再疎通が得られなければ効果は期待できない.
3)血行動態,急性期冠血管病変,再疎通の有無により最終的な治療法(薬物療法,IABP,補助循環,緊急A-C bypass)が決定される.

高齢者急性心筋梗塞の治療と問題点

著者: 樫田光夫

ページ範囲:P.1234 - P.1236

ポイント
1)高齢者の心筋梗塞は,保存的療法では,若年者に比べ明らかに予後不良である.
2)経静脈的血栓溶解療法は,高齢者心筋梗塞の予後を改善するが,出血性合併症の発生頻度も高く,適応は慎重にすべきである.
3)primary PTCAは再開通率が高く,残存狭窄が少なく,出血性合併症もないことから,高齢者心筋梗塞の治療に期待される治療法である.
4)現時点での高齢者心筋梗塞に対する治療は,症例ごとに各施設で最も再開通率が高く,合併症発生率が低い方法を選択すべきである.

梗塞後狭心症の治療

著者: 鈴木孝彦 ,   池田浩志郎 ,   伊藤文則 ,   村上陽

ページ範囲:P.1237 - P.1239

ポイント
1)梗塞後狭心症を生ずる患者は多枝疾患,非貫壁性心筋梗塞をもつ場合が多く,予後不良の1因子である.
2)内科的治療に抵抗する場合はIABP挿入後にPTCAもしくはCABGを考慮する.

心筋梗塞後患者の治療指針

著者: 光藤和明 ,   藤井理樹

ページ範囲:P.1240 - P.1244

ポイント
1)退院時期にある,安定した心筋梗塞患者に対する薬物療法は,
 ①再開通した冠動脈の再閉塞の予防
 ②二次予防(長期的にみた再梗塞の予防)
 ③残存する一過性虚血の予防
 ④心不全,不整脈などの合併症の治療
などを目的とする.
2)退院前の冠動脈造影は一般的には虚血の危険性の高い症例に行うが,急性期再開通療法を積極的に行っている施設ではほぼ全例に冠動脈造影は行われている.
3)PTCAなどインターベンションの適応は,一般の待期的PTCAとほぼ同様に考えて差し支えないが,左室心筋の回復が十分でない可能性を考慮に入れておく必要がある.
4)リハビリテーション:運動プログラムの適応には,再開通できたかどうか,合併症があるかどうかにより大きな差がある.柔軟な対応が必要である.
5)冠動脈硬化の危険因子の制御:喫煙と脂質代謝異常の制御により二次予防を期待し得る.高血圧,糖尿病のコントロールに関しては二次予防の効果は明らかでないが,全体的な予後を考えて良好なコントロールを保つようにする.

再梗塞防止のための治療と効果

著者: 出川敏行

ページ範囲:P.1246 - P.1249

ポイント
1)急性心筋梗塞の治療法は,近年になり保存的治療法からPTCA,CABGの積極的適応へと大きな変貌をとげ,予後の改善に大きく貢献している.
2)それでも心筋梗塞の二次予防には,依然薬物療法と冠危険因子の除去が重要であることには変わりない点を留意すべきである.
3)薬物療法では,β遮断薬,抗血小板凝集薬が有効であることが統計学的に証明されている.

陳旧性心筋梗塞患者に対する検査,手術

著者: 上松瀬勝男

ページ範囲:P.1250 - P.1251

ポイント
1)責任冠動脈のみならず他枝病変も把握する.
2)責任冠動脈支配領域心筋のviabilityを心筋シンチグラフィにて確認する.
3)左心カテーテル,造影にてLVEDP,左室瘤の有無を検討する.
4)LVEDP 20mmHg以上,LVEF30%以下,ラシックス®80mg/日を要する心不全,NYHA IV度,左主幹病変,心筋梗塞スコア13以上では手術成績不良である.
5)術前検査としては他臓器機能のチェックも重要である.

トピックス

心筋viability

著者: 今井嘉門

ページ範囲:P.1252 - P.1253

ポイント
1)心筋viabilityとは,虚血性心疾患のため心筋収縮能が障害されているが,心筋細胞がまだ壊死には至らず回復の可能性のある状態をいう.
2)冠灌流の障害の程度よりstunned myocardiumとhibernating myocardiumに分けられる.
3)心筋にviabilityが存在するにもかかわらず,長期間虚血の状態が持続すると,不可逆的な壁運動に移行する可能性があるので,viabilityの有無を早期に評価すべきである.
4)心筋viabilityの診断方法には,負荷タリウム心筋シンチグラフィ,PET,ドブタミン負荷心エコー図などがある.

hibernationとstunned myocardium

著者: 佐田政隆 ,   芹澤剛

ページ範囲:P.1254 - P.1255

ポイント
1)stunningとは,一定期間の虚血の後,壊死に至らなかった心筋に壁運動異常が遷延する現象をいう.
2)hibernationとは,慢性的な虚血下でviableな心筋に壁運動異常が持続する状態をさす.
3)viableな心筋は,核医学検査や各種の刺激試験によって判定することができる.

冠動脈硬化の退縮

著者: 岩瀬孝 ,   中西成元

ページ範囲:P.1256 - P.1259

ポイント
1)動物実験や疫学的研究から,血清脂質の改善により冠硬化の進展阻止や退縮が得られるとされ,積極的なrisk factorinterventionの妥当性を支持する.
2)造影法による退縮に関する研究では狭窄度の改善=atheromaの退縮を意味せず,研究上の限界がある.退縮率は従来の報告から2.3〜4.7%とされている.

冠動脈内超音波検査法

著者: 平井寛則 ,   出川敏行 ,   山口徹 ,   町井潔

ページ範囲:P.1260 - P.1263

 現在,冠動脈内超音波検査法には,①血管内超音波法,②カテーテル型ドップラー法,の2つの方法がある.血管内超音波法は超音波断層法であり,血管断面の形態とその組織性状の観察に有用である.カテーテル型ドップラー法は血管内血流速度の測定に用いられている.
 本稿では最近,とくにその臨床的価値が高まっている血管内超音波法(intravascular ultra-sound:IVUS imaging)について紹介する.

冠動脈ステントとアテレクトミー

著者: 木村剛

ページ範囲:P.1264 - P.1265

ポイント
1)Palmaz-Schatz stent
2)Directional atherectomy
3)Rotational atherectomy
4)Extraction atherectomy
5)Excimer laser angioplasty

座談会

狭心症の治療と問題点

著者: 齋藤滋 ,   林田憲明 ,   田村勤 ,   山口徹

ページ範囲:P.1267 - P.1278

 山口(司会)本日は「狭心症の治療と問題点」ということで,現在第一線でご活躍の先生方にお集まりいただきました.狭心症の治療における問題点を少し洗い出してみたいと思います.

カラーグラフ 電子内視鏡による大腸疾患の診断・6

腸結核

著者: 多田正大

ページ範囲:P.1279 - P.1283

 いろいろな大腸疾患のうち,日本人に増加している疾病と減少しているものがある.腸結核も著しく減少している炎症性疾患である.治癒期(瘢痕期)の病像を内視鏡観察する機会は少なくないが,活動期の炎症を経験することは目立って減少している.その理由は,私達の生活環境の向上,化学療法の普及などによって肺結核が激減していることにほかならない.
 腸結核は肺結核患者が結核菌の混じった喀痰を嚥下することによって,腸管の中ではリンパ装置の豊富な回盲部を中心に炎症をきたすものである.肺に病変がなく,腸管単独に炎症をきたすこともある(孤在性腸結核症)が,そのようなケースは稀である.

演習

心エコー図演習

著者: 竹中克

ページ範囲:P.1285 - P.1289

45歳男性が呼吸困難を訴えて来院した
 既往歴 特記事項なし
 家族歴 特記事項なし

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1290 - P.1295

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・11

サルコイドーシス—肺野病変を呈する症例

著者: 田中茂 ,   西村浩一 ,   長井苑子

ページ範囲:P.1296 - P.1303

症例
 患者 24歳,女性
 主訴 労作時呼吸困難(H-J II度)

総合診療minimum requirement

高血圧の治療・3—α1遮断剤,中枢性交感神経抑制薬,血管拡張剤,妊娠中の降圧剤,非薬物的治療

著者: 伊藤澄信

ページ範囲:P.1305 - P.1307

point
●α1遮断剤
 HDLコレステロールを上げ,排尿障害を改善させる.
 起立性低血圧に注意.
●中枢性交換神経抑制剤,血管拡張剤はファーストチョイスではない.
●妊婦に対しては通常の降圧剤のほとんどが使えないことに留意する.
●非薬物的療法
 減塩,肥満防止,アルコールの制限,高脂血症の改善,禁煙,運動などが重要である.
 塩分制限の患者指導ができるように食品の塩分量を理解することも大切.

臨床医のための分子生物学・3

「人間の起源」の分子生物学

著者: 長野敬

ページ範囲:P.1308 - P.1312

●「人間の起源」の神話と科学
 人間はいつも人間自身の起源に多大の関心をもってきた.どの民族も自分たちの創造神話をもっている.エスキモーのアカパグ族では,創造主となったのは聖なる大カラスで,最初のものは失敗作であり,これは谷底にポイ捨てして,次にようやく人間ができたという.捨てられた試作品はのちに世の中で悪さをする悪霊になった.儀式ばって原始の海をかきまわすイザナギ,イザナミとか,アダムを眠らせておいて肋骨を引き抜く神様よりも,あっけらかんとしていて好感がもてる.
 神話は次第に科学に席をゆずる.というよりも,むしろ別世界に棲みわけるようになる.しかし,米国のファンダメンタリズムのように,聖書の7日間というのはまさに7日であり,われわれは聖なる記述のバーゲン・セールはしないと頑張る向きも時にはある.1981年にアーカンソー州では,(仮説であり,それゆえ否定することのできる)ダーウィンの進化論と,(仮説であり,それゆえ科学の一部といえる)創造説話を,高校の理科の内容としてともに享受すること,そういう平衡取扱い法案が州法として成立した(図1).

心療内科コンサルテーション・4

慢性の痛みをどのように治療するか

著者: 村岡衛

ページ範囲:P.1313 - P.1316

慢性の痛みとは
「慢性疼痛,慢性痛,心因性疼痛,身体表現性疼痛障害,原因不明の痛み」などという言葉で表現される痛みは,治療が難しい痛みという言葉に置き換えられる.では,痛みとは何か,という問題を明らかにして議論を進める必要があろう.国際疼痛学会の定義に従っておきたい1).その定義とは次のとおりである.「痛みとは不快な感覚的,情動体験で,実質的あるいは潜在的な組織損傷を伴うか,またはその損傷を表す.」
 痛みを主訴にした患者を目の前にしたとき,通常,医師はその痛みがあるのか否か,その痛みの原因は何かと考える.そして原因に対する治療を行い,それで改善すれば,それで終わりであることは言うまでもない.多くの患者はそれで解決し得る.しかし,様々な検査で異常が見つからないとき,次のような会話が成立するかも知れない.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?