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雑誌目次

雑誌文献

medicina29巻8号

1992年08月発行

雑誌目次

今月の主題 胸部X線からの肺疾患の診断と治療 Introduction

胸部X線写真から何が読めるか

著者: 伊藤春海 ,   西村浩一

ページ範囲:P.1325 - P.1327

ポイント
1)肺の外形を立体的に理解することが大切である.
2)肺の既存構造とその病変を標本に基づいて理解することが大切である.
3)1),2)とそれらの投影像は同一でない.
読影技術はその違いをカバーするものである.

胸部X線像の読み方

著者: 酒井文和 ,   曽根脩輔 ,   丸山篤敬 ,   河合卓 ,   本田孝行

ページ範囲:P.1328 - P.1332

ポイント
1)肺の実質と間質
2)肺実質性病変と肺間質性病変の胸部X線像
3)肺野異常影のパターン化

均質性肺病変

均質性肺病変

著者: 平松慶博

ページ範囲:P.1336 - P.1338

 CTやMRIが普及してきた現在においても,胸部疾患診断における最初の検査は,胸部単純X線写真であることに変わりはない1)
 胸部写真にみられる陰影,特にびまん性陰影を血管性,肺胞性,間質性および混合性に分ける,いわゆるパターン分類を提唱したのはFelsonである2)が,X線所見を病理所見と相関させることにも問題があり,その提唱者であるFelson自身が,後にパターン分類にのみ頼ることをいましめている3)

肺炎球菌肺炎

著者: 渡辺古志郎

ページ範囲:P.1339 - P.1341

ポイント
1)肺炎双球菌肺炎は院外肺炎の主要な起炎菌である.
2)X線像の主体はair bronchogramを伴う肺実質の均一なconsolidationである.
3)第一選択薬剤はβ-ラクタム剤であり,新キノロン剤,アミノ配糖体剤は抗菌力が劣る.
4)予防に肺炎球菌ワクチンが有効といわれている.

グラム陰性桿菌肺炎

著者: 亀井俊彦

ページ範囲:P.1342 - P.1344

ポイント
1)肺炎桿菌肺炎は右上葉に多く,区域性の均等陰影をとる.
2)緑膿菌肺炎は両側性で,中下葉に多く,巣状陰影が基本となる.
3)グラム陰性桿菌肺炎は膿瘍性陰影,空洞をつくりやすい.
4)Empiric therapyとしては,第2,第3世代セフェム剤が第一選択となる.

ブドウ球菌肺炎

著者: 市川洋一郎

ページ範囲:P.1345 - P.1347

ポイント
1)黄色ブドウ球菌は市中肺炎,院内肺炎ともに起炎菌となりうる.
2)黄色ブドウ球菌肺炎の典型的胸部X線像は空洞を有するlobar consolidationを示すが,最近では気管支肺炎型も多い.
3)肺のseptic embolizationの起炎菌のほとんどは黄色ブドウ球菌であり,特徴的な空洞化多発円形陰影を呈する.
4)MRSA肺炎もMSSA肺炎と基本的には変わらない.

在郷軍人病(レジオネラ症)

著者: 石原享介 ,   冨岡洋海 ,   梅田文一 ,   中井準

ページ範囲:P.1348 - P.1350

ポイント
1)急速に進行する広範な肺胞性陰影.
2)初期には胸部X線所見に比して低酸素血症が高度.
3)喀痰が少なく気管支の炎症所見に乏しい傾向がある.
4)肺炎の診断・治療には,常に本症に留意する.
5)本症を疑えばまずEM投与を開始する.
6)呼吸器症状のほか,下痢,傾眠傾向などの全身症状に留意する.

肺アスペルギルス症

著者: 榊原博樹 ,   赤座壽 ,   古川博史

ページ範囲:P.1352 - P.1356

ポイント
1)肺アスペルギルス症は宿主の免疫能や感染防御能の差異,肺局所疾患の有無により,侵襲性肺アスペルギルス症,菌球型アスペルギルス症,アレルギー性アスペルギルス症に大別される.
2)侵襲性肺アスペルギルス症は白血球の機能障害時に発症し,胸部X線写真上,区域~大葉性肺炎像,単発~多発性結節性陰影を呈することが多い.経過中に胸膜肥厚像やair crescent signを伴った空洞をみることが特徴である.
3)菌球型アスペルギルス症は胸部X線写真上,既存の空洞内にair crescent signを伴った特徴的な円形陰影として認められる.
4)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の急性期には,好酸球性肺炎による移動性反復性の浸潤影と粘液栓子による気管支の鋳型状陰影,無気肺像が特徴的である.慢性期には中枢性気管支拡張と肺の線維化による所見がみられる.

Pulmonary infiltration with eosinophilia

著者: 山川博生 ,   鈴木俊介

ページ範囲:P.1357 - P.1359

ポイント
1)末梢血好酸球増多と肺浸潤影を認めた場合は本疾患を念頭におく.
2)胸部X線上,陰影の特徴は肺野の外側領域を中心にphotographic negative pul-monary edemaと表現される辺縁不整な斑紋状浸潤陰影である.
3)薬剤,真菌・寄生虫感染が原因となるが,原因を特定できない場合が多い.
4)通常予後は良好であるが,時に重篤な呼吸困難が認められることがある.
5)治療としての第一選択薬剤はステロイド剤である.

気管支肺炎様病変

気管支肺炎様病変

著者: 水野富一

ページ範囲:P.1362 - P.1365

 発熱,咳,痰,胸痛などの炎症症状がある場合,気管支肺炎の有無を知るために胸部単純写真を撮影する.そのX線所見は一般的には局所的な肺胞性陰影と間質性陰影である.しかし,これらは非特異的であり,X線所見だけでは鑑別が難しい病変もある.一方,肺炎と似た像を呈しても,X線所見を詳細に観察することにより,鑑別可能な病態も存在する.本稿ではこれら気管支肺炎とまぎらわしいX線所見を呈する病変について述べる.

インフルエンザ菌肺炎

著者: 藤野忠彦

ページ範囲:P.1366 - P.1367

ポイント
1)インフルエンザ菌は市中感染肺炎の代表的な起炎菌の一つである.
2)インフルエンザ菌肺炎は慢性気道感染症を有する者,または高齢者に多い.
3)胸部X線像は細気管支炎像や間質性肺炎像を示し,病巣は下肺野に多い.
4)インフルエンザ菌肺炎の治療には広域合成ペニシリンが有効であるが,近年,耐性菌が増えてきている.

非定型肺炎

著者: 市瀬裕一 ,   山岸哲也

ページ範囲:P.1368 - P.1370

ポイント
1)非定型肺炎はペニシリンなどに抵抗性の軽症,中等症の肺炎で,症状の中心は咳嗽である.
2)病初期に胸部X線写真上下肺野にみられる間質性陰影が特徴である.
3)原因病原体はMycoplasma,Adenovirus,Chlamidiaなどであるが,Mycoplasmaが最も多い.
4)治療にはマクロライド系あるいはテトラサイクリン系抗生物質が投与される.

カンジダ肺炎

著者: 森茂久 ,   仲村洋 ,   大原博美

ページ範囲:P.1371 - P.1373

ポイント
1)カンジダ肺炎では続発性感染の頻度が高く,これはさらに経気管支感染と血行性播種に分けられる.
2)カンジダ肺炎のほとんどがimmuno-compromized hostや医原性要因により免疫能の低下した患者に発症する.
3)カンジダ肺炎に特徴的な胸部X線所見はない.
4)一般細菌に対する抗生物質療法に反応を示さないimmunocompromized hostの肺炎ではカンジダを含めた真菌性肺炎を積極的に疑う必要がある.
5)カンジダ肺炎が疑われた場合には早期にアンホテリシンB,フルコナゾール,ミコナゾール,フルシトシンなどによる抗生物質治療を開始する.
6)好中球,特に顆粒球減少時のカンジダ肺炎の場合には顆粒球コロニー形成刺激因子製剤などのサイトカイン投与が有効である.

ウイルス肺炎

著者: 小林龍一郎

ページ範囲:P.1374 - P.1376

ポイント
1)骨髄移植後の日和見感染は間質性肺炎が多く,半数近くはサイトメガロウイルスが原因である.
2)インフルエンザの肺炎はウイルス単独と細菌性肺炎の重感染がある.
3)ウイルス肺炎の胸部X線像はウイルスにより気管支肺炎,間質性肺炎,胸水,肺門リンパ節腫大など多彩な所見がある1)
4)HTLV-1感染に伴う肺合併症は,びまん性汎細気管支炎または間質性肺炎の胸部X線像を示す2)

空洞性病変

空洞性病変を呈する疾患

著者: 平野裕志 ,   江口研二

ページ範囲:P.1378 - P.1382

ポイント
1)空洞性肺病変(一部嚢胞性)を呈する疾患について,その種類・特徴について簡単に述べる.
2)空洞性病変の画像上の所見について,肺癌を中心に述べる.
3)肺癌で空洞の認められる頻度は2〜10%程度で,扁平上皮癌に多い.画像上の悪性を示唆する空洞の所見としては,壁の不整・最厚壁の厚いことなどがあげられるが,確実なものはない.
4)薄壁空洞は良性疾患に多いとの報告もあるが,原発性肺癌・転移性肺腫瘍でも薄壁空洞を呈するものがある.

空洞を生じる細菌感染症

著者: 松岡緑郎

ページ範囲:P.1383 - P.1385

ポイント
1)空洞を生じる細菌性肺炎の病原菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)である.
2)両者とも基礎疾患の有する症例に発生しやすい.特に肺炎桿菌はアルコール多飲者,糖尿病患者に多い.
3)胸部X線写真上は黄色ブドウ球菌肺炎は多発性の陰影,肺炎桿菌肺炎は上葉に好発し,容積の増大を伴うconsolidationを呈する.
4)空洞形成を認め,鑑別すべき疾患は,肺結核症,非定型抗酸菌症,嫌気性肺炎,肺膿瘍,肺真菌症,癌性空洞,Wegener肉芽腫症などである.
5)黄色ブドウ球菌肺炎の治療第一選択剤は第1,第2世代のセフェム剤,肺炎桿菌肺炎は第2,第3世代のセフェム剤である.

肺化膿症・壊死性肺炎

著者: 藤井忠重 ,   半田健次郎

ページ範囲:P.1386 - P.1391

ポイント
1)肺化膿症は口腔・鼻腔内病原菌の吸入・誤嚥との関連が深く,嫌気性菌および複数菌による混合感染が多い.
2)発熱,咳嗽,悪臭の膿性痰,血痰・喀血,白血球増多が主な症候である.
3)X線像は浸潤影中のニボー形成を伴う空洞影が特徴的であるが,浸潤影,結節・腫瘤影のみの場合がある.
4)X線CTでは小空洞,壊死巣,胸水の検出および肺癌,肺分画症,肺嚢胞など基礎疾患の診断に役立つ.
5)鑑別疾患ないし基礎疾患として原発性肺癌,肺結核,肺真菌症,肺分画症,肺嚢胞症などが重要である.
6)起炎菌不明の場合や嫌気性菌と好気性菌の混合感染にはリンコマイシン系とペニシリン系やセフェム系の併用が勧められる.
7)内科的治療の不成功例や続発性,特に肺癌に伴うものでは手術を考慮する.

ノカルジア症

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.1393 - P.1395

 Nocardiaは比較的稀ではあるが,ヒトに感染症を起こす菌として知られている.この疾患が最近注目されるようになったのは,この菌が弱毒菌で日和見感染の起炎菌となり,compromised症例の増加により,症例が増加しているからであり,米国で臓器移植やAIDSに伴い症例の急増が報告されている.

肺結核症

著者: 倉島篤行

ページ範囲:P.1396 - P.1398

ポイント
1)結核菌の好気性発育を反映し,空洞は各lobeの上方かつ背側(具体的には肺尖部やS6)に起きやすい.
2)空洞は単胞,多胞のいずれもあり,壁厚は中等度のことが多く,内面は比較的平滑である.
3)肺門と結合する索状影(巣門結合)がみられることが多い.
4)周囲に散布巣がみられることが多い.
5)古い空洞壁には時に石灰化所見をみるこ とがある.

肺の結節性病変—孤立性と多発性

腫瘍性病変

著者: 荒井六郎 ,   多田弘人

ページ範囲:P.1400 - P.1402

ポイント
1)肺野孤立性陰影を呈する病変のうち,最多のものは肺野末梢部肺癌である.
2)多発性結節性陰影を呈する症例の大部分は転移性肺腫瘍である.
3)両疾患とも経気管支肺生検,経皮肺針生検などにより確定診断される.
4)肺野末梢部肺癌の根治には,早期発見による外科治療が基本である.

クリプトコッカス症

著者: 杉山幸比古

ページ範囲:P.1403 - P.1405

ポイント
1)肺クリプトコッカス症に特徴的な胸部X線像というものはないが,肺野末梢に存在する孤立性または多発性結節影が比較的多い.
2)治療としてはFluconazole,5-FCなどの抗真菌薬の併用療法が用いられる.
3)原発性肺クリプトコッカス症では,無治療で自然治癒する例もある.

ウェゲナー肉芽腫症

著者: 阿部庄作

ページ範囲:P.1407 - P.1409

ポイント
1)ウェゲナー(Wegener)肉芽腫症は上・下気道の壊死性肉芽腫,全身諸臓器の血管炎,巣状壊死性糸球体腎炎を主病変とする原因不明の疾患である.2)胸部X線所見は空洞を伴う多発性結節陰影が両側性にみられることが多いが,浸潤影を示すこともある.3)治療はステロイドとサイクロフォスファミドの併用療法が有効である.特に,病巣範囲の進展していない早期症例では著効を示し,完全寛解する症例も増加している.

リウマトイド結節

著者: 高野慎

ページ範囲:P.1410 - P.1412

 慢性関節リウマチ(RA)は慢性,多発性,対称性,変形性関節炎を主徴とする全身性炎症性疾患である.病因はいまなお不明であるが,炎症の主座は関節滑膜にあり,関節滑膜の増殖,パンヌスの形成,関節破壊,関節強直などをきたす.
 一方,RAでは関節以外に病変が認められることが少なくない.リウマトイド結節,動脈炎,神経炎,胸膜炎,心膜炎,リンパ節腫,脾腫などの関節外症状が知られている.肺はRAの関節外病変をきたすもっとも高頻度の臓器の一つであるが,RAに伴う肺病変としては,①胸膜炎,②間質性肺炎・肺線維症,③肺リウマトイド結節,④カプラン症候群(Caplan's syndrome)などが知られている.このほかにもRA患者では種々の肺病変を合併しうる.その中で特に本稿ではRA患者にみられる結節性肺病変につき述べる.

びまん性肺病変

びまん性肺病変

著者: 北市正則

ページ範囲:P.1415 - P.1418

ポイント
1)びまん性肺病変・びまん性肺疾患には多種類の疾患が含まれるが,臨床経過から急性と慢性に大別され,臨床経過と胸部X線所見との対応を検討して鑑別診断が進められる.
2)びまん性肺疾患は治療的立場からは感染性,非感染性,腫瘍性に大別される.疾患によって治療方法の選択が異なるために,現病歴,既往歴,職業歴,喫煙歴などの聴取,理学的所見,喀痰・尿・血液検査などとともに,胸部X線CT検査,気管支肺胞洗浄検査,経気管支肺生検の診断過程を順次進める.
3)上記の検査過程を経ても診断が確定しない症例では,開胸肺生検が必要な場合もある.

カリニ肺炎

著者: 味澤篤

ページ範囲:P.1419 - P.1421

 カリニ肺炎(Pneumocystis carinii pneumonia,以下PCPと略す)は従来血液疾患患者などの免疫不全患者に時にみられる日和見感染症であった.しかし,現在ではこれらの患者に対し予めST合剤による予防投与を行っている結果,その頻度はより少なくなっている.むしろPCPはヒト免疫不全ウイルス(以下HIVと略す)感染症の終末像である後天性免疫不全症候群(以下AIDSと略す)の主たる日和見感染症として頻度が増加しつつある.HIV感染者であっても,医療機関できちんとした経過観察を受けている患者はT4リンパ球数が200個/mm3以下となるとPCPに対する予防投与を受ける.その結果,血液疾患患者などと同様にPCPの発症率は減少する.またジドブジン(zidobudine,レトロビル®,以下AZTと略す)の投与も受けているのでAIDSへの進展も緩徐となり,無症候(キャリア)の時期が延長する1).しかし,HIVに感染しているにもかかわらず,本人が知らない,あるいは知っていても,医療機関で経過観察を受けていない感染者は,自覚症状のないまま次第に免疫力が低下し,AIDSの主要疾患であるPCPを発症することが多い.その典型的な1例をとりあげ,HIV感染に伴うPCPについて概説する.

粟粒結核

著者: 赤川志のぶ

ページ範囲:P.1422 - P.1424

ポイント
1)X線上典型的なびまん性粒状影を呈す.
しかし,初期にはしばしば異常影がみられず,不明熱として対処せざるを得ない.
2)ARDSをきたすことがある.
3)著しい免疫能低下例では典型像を示さないことが多く,経過が速い.
4)治療は重症結核に準じて行う.

癌性リンパ管症

著者: 近藤哲理

ページ範囲:P.1425 - P.1427

 肺の癌性リンパ管症(pulmonary lymphangiticcarcinomatosis)は転移性の肺腫瘍であり,肺や気管支のリンパ管に癌細胞が発育進展した状態をいう.原発巣としては,肺癌,乳癌,胃癌,大腸癌などが多い.

サルコイドーシス

著者: 四元秀毅

ページ範囲:P.1429 - P.1431

ポイント
1)サルコイドーシスの胸部X線写真のうえで最も特徴的な所見は両側肺門リンパ節腫脹であるが,また本症ではさまざまな肺野の異常所見がみられる.
2)本症の肺野所見としては網顆粒状陰影,綿状陰影,大結節性陰影および線維化性の所見などがあり,約30%程度の症例がこれらの異常所見を示す.この中で最も頻度が高いのはびまん性の網顆粒状陰影である.
3)同様のびまん性の肺陰影を呈する疾患として,粟粒結核,塵肺症,過敏性肺臓炎,好酸球性肉芽腫,あるいは悪性腫瘍の肺転移などの各種病態がある.
4)肺病変に対する本症の治療は,明らかな肺野の異常影を呈する有症状症例,あるいは胸部X線写真の異常所見が進行する症例を対象とする.通常は副腎皮質ステロイド剤の内服療法を行う.

脂肪塞栓症

著者: 高崎雄司

ページ範囲:P.1432 - P.1434

●定義
 肺脂肪塞栓症とは,内因性の脂肪が肺循環系に流入し塞栓形成する病態をいう.リンパ管造影などに用いる油性の造影剤に起因する脂肪塞栓はこの範疇に含めない.

びまん性肺出血とGoodpasture症候群

著者: 松井祐佐公 ,   木野稔也

ページ範囲:P.1435 - P.1439

ポイント
1)びまん性肺出血の臨床症状,胸部X線所見は病因とは関係なく類似している.
2)喀血は大量からない例まであり,肺出血の程度の指標としては信頼性が乏しい.
3)胸部X線所見はびまん性肺胞性陰影,肺胞・間質性陰影の混在,間質性陰影から正常まで,出血との時間関係により多彩である.
4)重症度の判定はヘモグロビン(Hb),動脈血ガス分析,胸部X線所見を参考にして行う.
5)診断は3大徴候(喀血,貧血,胸部異常影)で,肺胞出血症候群を疑診する.肺出血は喀疾や,通常,血性である気管支肺胞洗浄液中に,ヘモジデリン含有マクロファージを認めることで確認し,病因決定のため血清抗基底膜抗体の測定と腎生検を行う.
6)治療は肺出血のコントロール,再出血の防止,腎機能の温存を目的とする.ステロイド薬,サイクロフォスファマイド,血漿交換が主たる治療法であり,疑診時より開始する.さらに肺出血の助長増悪因子(喫煙,感染,過剰輸液など)の除去・補正に努める.

肺胞蛋白症

著者: 小林龍一郎 ,   平井雅道

ページ範囲:P.1440 - P.1441

ポイント
1)原因不明のびまん性肺疾患である.
2)両側びまん性の実質性浸潤影,air bron-chogramがみえる.
3)胸水貯留,肺門,縦隔リンパ節腫大はない.
4)診断はTBLBでPAS陽性物質の肺胞内の充満像によりなされる.
5)25%は自然寛解するが,重症例は全身麻酔での片肺洗浄が有効である.

薬剤性肺炎

著者: 瀧藤伸英 ,   福岡正博

ページ範囲:P.1442 - P.1445

ポイント
1)薬剤性肺炎には特徴的な臨床所見,胸部X線像などはない.
2)薬剤性肺炎を生じやすい薬物を予め知っておくこと,投薬の際は咳,発熱,呼吸困難などの症状に気をつけ,胸部X線写真撮影や肺機能検査を定期的に行い,薬剤性肺炎をできるだけ早期に発見・診断することが大切である.
3)薬物の投与を速やかに中止する.

肺紋理減少状態

肺気腫

著者: 松本浩平 ,   高木健三

ページ範囲:P.1447 - P.1449

ポイント
1)胸部単純X線写真は,肺機能検査とともに肺気腫に対するスクリーニング検査として重要である.
2)鑑別に苦慮する症例には,選択的肺胞気管支造影法や胸部CTが診断に有効である.
3)治療法に根本的なものはないが,禁煙の徹底の上,症状に応じた薬物療法,理学療法,日常生活の指導を行う.

肺病変を伴った胸水

肺塞栓と肺梗塞

著者: 飛世克之

ページ範囲:P.1451 - P.1453

ポイント
1)肺梗塞は広範な肺塞栓症の一部に合併してみられることが多いが,単発でもみられる.
2)肺塞栓を疑う諸症状とともに肺野に陰影があり,同側に胸水貯留があれば,肺梗塞の合併を疑う.
3)肺梗塞では下肺野の肋骨横隔膜洞近くの胸膜面を底として肺門に向かって丸い形をした3〜5cmの楔状陰影(Hampton'shump)を呈するといわれているが,このような定型的なものは稀で,肺炎様浸潤影を呈することが多い.

嫌気性細菌感染症

著者: 折津愈

ページ範囲:P.1454 - P.1456

 無芽胞嫌気性菌呼吸器感染症は,胸部X線所見や胸水の性状により,①誤嚥による肺炎,②肺膿瘍,③壊死性肺炎,④膿胸,に大別されるが1),本稿では自験例を含め,膿胸を中心に述べることとする.

肺病変を伴わない胸水

感染症

著者: 下方薫

ページ範囲:P.1458 - P.1460

ポイント
1)胸水の診断に胸部X線写真はもっとも感度のよい検査法である.
2)胸水をきたす疾患の鑑別に,胸水の性状および胸膜生検が重要である.
3)肺病変を伴わない胸水のうち,感染症でもっとも頻度の高いのは結核性胸膜炎である.
4)結核性胸膜炎の治療にはイソニアジドとリファンピシンの併用が有効である.

悪性疾患に合併した胸水

著者: 北條史彦 ,   西脇裕 ,   児玉哲郎 ,   林辺晃 ,   滝口裕一 ,   松本武敏

ページ範囲:P.1461 - P.1464

ポイント
1)胸部正面像では肋骨横隔膜角の鈍化,横隔膜に重なる肺底部の血管影の消失,横隔膜ドームでのX線減弱度の左右差に注意する.
2)少量胸水の存在診断には側臥位正面像(lateral decubitus view)が有用である.3)悪性胸水が疑われる場合,胸水細胞診は少なくとも3回は行う.

アスベストーシス(良性石綿胸水)

著者: 三浦溥太郎 ,   木村雄二

ページ範囲:P.1465 - P.1467

ポイント
1)石綿に起因する非悪性の胸水を良性石綿胸水という.
2)胸水は画像で確認されればよいが,鑑別は除外診断による.悪性腫瘍の除外には,発症後2〜3年の観察期間を要する.
3)胸水は滲出液で,少量のことが多く,しばしば肉眼的に血性である.また胸水中の好酸球増多が約20%にみられる.
4)約半数は無症状で,かつ自然に消退する.しかし,再発が約25%にみられる.
5)後に約半数は,びまん性胸膜肥厚に進展する.また円形無気肺や,肺尖胼胝を呈することもある.
6)肺病変(石綿肺)の程度とは無関係に,肺機能が著しく低下することがある.
7)確実な治療法はない.

講座 図解病態のしくみ 肝臓病・4

肝疾患の病態

著者: 斎藤清二 ,   渡辺明治

ページ範囲:P.1470 - P.1478

黄疸・胆汁うっ滞
 黄疸とは,血液中の胆汁色素(ビリルビン)の増加により,皮膚,眼球結膜などが黄色を呈する状態をいう.また胆汁うっ滞は,本来肝臓から胆道系に分泌され十二指腸内に排泄される胆汁の諸成分が,なんらかの原因により肝組織内に停滞し,血液中に逆流する状態をいう.したがって,胆汁うっ滞が起こればしばしば黄疸を生じる結果となるが,黄疸と胆汁うっ滞は必ずしも同一の概念ではない.例えば,体質性黄疸は肝臓におけるビリルビン代謝異常であるが,胆汁うっ滞には含まれない.

カラーグラフ Oncology Round・23

骨肉腫の1例

著者: 千代倉吉宏 ,   畑中浩成 ,   片山勲

ページ範囲:P.1480 - P.1484

 骨腫瘍(bone tumor)には,骨を構成する骨,軟骨,線維組織,血管,脂肪,造血組織などの各構成成分に由来する組織型の腫瘍があり,それぞれ良性と悪性に分けられる.良性腫瘍はすべて骨原発性であるが,そのなかでは骨軟骨腫(osteochon-droma:長管骨の骨幹部に好発,10歳代に多い)が最も多い.悪性腫瘍には原発性のものと転移性のものがあり,原発性悪性腫瘍のなかでは骨肉腫(osteosarcoma)が最も多い.今回は19歳男性の骨肉腫症例を提示する.なお,転移性骨腫瘍のなかでは癌が圧倒的に多く,厚生省登録例では骨肉腫の約3倍である.

グラフ 内科医のための胸部X-P読影のポイント・12

BOOP/PIE

著者: 松井祐佐公 ,   佐竹範夫 ,   安場広高 ,   北市正則

ページ範囲:P.1486 - P.1492

症例1
 患者 57歳,男性
 主訴 乾性咳嗽,労作時呼吸困難,発熱,全身倦怠感

演習

心エコー図演習

著者: 水重克文 ,   平林浩一 ,   松尾裕英

ページ範囲:P.1493 - P.1496

45歳の男性が感冒様症状に続く胸痛と呼吸困難を訴えて来院した
 既往歴 特記事項なし
 家族歴 特記事項なし

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1502 - P.1507

心療内科コンサルテーション・5

原因不明の痛みをどのように考えるか

著者: 小宮山博朗

ページ範囲:P.1498 - P.1501

 痛みは日常診療上もっともありふれた訴えである.痛みは,通常,身体組織における病変(炎症,外傷,腫瘍など)の存在を示すサインと認識されている.したがって,痛みを訴える患者には,まず基礎疾患の検索が行われ,発見された基礎疾患の治療が痛みの治療となる.この基礎にあるのは,痛みの特殊説(von Frey)である.末梢の侵害刺激が,受容器(自由神経終末),末梢神経,脊髄視床路,視床を介して大脳皮質感覚領野に到達すると,痛みが知覚されるという理論である.ところが,心療内科にはこの極めて常識的な考えが通用しない痛みを訴える患者のコンサルテーションが依頼される.
 本稿では「原因」の見いだせない痛みの「原因」の考え方について紹介する.

総合診療minimum requirement

糖尿病の治療・1—急性増悪に対する治療

著者: 伊藤澄信

ページ範囲:P.1508 - P.1510

Point
●インスリンを必要とする糖尿病をIDDMとしているのではない.
●糖尿病患者が症状を呈したときは迅速に血糖を測定する.
●血糖のコントロールを悪くしている誘因に注意.
●高血糖の管理は血糖,補液,カリウムの補正が重要.
●血糖を急速に下げすぎると眼底出血を起こすことがある.
●スライディングスケールを絶対に使いこなせ.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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