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雑誌目次

雑誌文献

medicina3巻1号

1966年01月発行

雑誌目次

EDITORIAL

薬の使い方—ひとつの反省

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.25 - P.27

乏しかつた戦中戦後
 もう2O年以上昔になつてしまつたが,戦争中のことである。東大の薬局から各医局に何ども通知がまわされた。それは,はじめのうちは,ある薬物は今後品切れとなるという通告であつたが,そのうちだんだんと,ないものばかりになつて,ついには,現在あるものはこれだけという,まつたくさむざむとするほど乏しい在庫薬のリストがとどけられたりして,まもなく戦争が終つた。
 戦争が終つたからといつて,今までないものづくしだつたのが,急に手に入るというわけにはいかず,当分の間は実に貧弱な処方箋しか書けなかつた。どういう根拠か今では覚えていないが,終戦後まがないころ,そのうちにインフルエンザの世界的な流行が来るだろうという説がもつぱら行なわれた。その対策の委員会というのができて,その集まりに厚生省に行つたのを記憶している(故柿沼先生の代理として)。その席上で,インフルエンザの罹患者が推定何百万人,その何%かが肺炎をおこすとして,それに要するスルファピリジン(当時はこれがほとんど唯一の抗肺炎性の化学療法剤)が総計何キログラム必要となるというような数字が,たしか宮川米次先生から提示された。そのころの日本の製鉄量から割り出して,ピリジンの年産はたしか5トンぐらい。それからつくられるスルファピリジンの量は,とてもその膨大な肺炎患者推定数には間に合わないという悲観論でその日の会議の空気はたいへん暗澹としたものであつた。

今月の主題

高血圧症—薬物療法の限界

著者: 大島研三

ページ範囲:P.29 - P.30

 現代の医学の一般的傾向として,あまりにも薬効に頼りすぎ,安易に多数の薬剤を使用する結果,不測の弊害をひきおこしていることは,心ある人の警告してやまないところである。幸いにして高血圧については,それが不便と物議の対象ではあつたが,10年前から 「高血圧の治療指針」にのつとつて治療の体系が形づくられることになつたので,実際問題として,これが薬物療法の弊害の実例であるというものをみることは,ほとんどないといつてよい。しかし一面降圧剤はきわめて長期にわたつて連用するものであるから,そこにある意味で誤解と危険がある。

胆道感染症の治療

著者: 真下啓明

ページ範囲:P.31 - P.34

胆道感染症とは
 一般に胆道感染症としてあつかわれるのは胆嚢炎,肝外胆管および肝内胆管のなかでも比較的太い胆管の急性および慢性炎症であり,細胆管炎はふくまない。
 第一にこの胆道感染症が真の感染性炎症であるか否かということが問題になる。つまり胆道感染症の治療を考える場合にも成立病理に対する理解が必要である。この成立病理については歴史的にもさまざまな変遷がみられ,しかも今日においてもなお十分明らかにされたとはいえない状態である。19世紀末より20世紀初頭にかけて種々の病原体発見の相次いだ時代においては当然各種の疾患の原因を微生物に求めた。このような背景においては本症に関しても細菌に第一次的役割を求める考え方が主流であつた。

リウマチ性心臓病

著者: 河北成一

ページ範囲:P.35 - P.39

その背景にあるもの
 リウマチ性心臓病とは"リウマチ熱に原因をもつ心臓疾患"であることはいうまでもないが,両者の関係はすでに18世紀後半に明らかにされ,Bouillaudによりリウマチ熱後に心内膜炎が発症し,弁膜症が形成されることが提案せられた。相前後してリウマチの心筋病変についてBretらを中心に病理学的な検討が加えられたが,1904年Aschoffはリウマチで死亡した心臓に,心筋間質の中小冠状血管枝の付近に存在し,間質結合織内で扇形またはロゼット形をなし,異常に大きく多核性の巨細胞を有する特殊結節(リウマチ結節またはアジョフ体)を発見し,結節の中心は壊死性原形質を有する細胞よりなり,周辺に大型核の細胞を有することを認め,これらの所見は弁膜症を伴つた心筋に普遍的に存在することを指摘して,リウマチ性心臓炎の病理規定がなされるとともに,以後リウマチ結節の成因をめぐつて論議が展開される導火線となつた。

診断のポイント

肺硬塞

著者: 友松達弥

ページ範囲:P.41 - P.42

 肺硬塞とは肺実質の出血性壊死で,血流の遮断によるものである。血流の遮断は多くは栓塞の結果起こる。したがつて肺栓塞と肺硬塞とは同意語でないことはもちろんであるが,肺栓塞は必ずしも肺硬塞に発展するとは限らない。なぜなら肺血管床においては肺動脈系の相互間においてもまた気管支動脈系との間においても吻合があるからである。それで臨床的にも肺栓塞と肺硬塞との間に多少異なつた臨床所見が見出し得る。しかし常に正確に鑑別できるとはいえない。肺硬塞の診断に当つてはまず栓子の存在条件あるいは発生要因が認められること,ついで本症に特徴的な臨床症状のあること,肺栓塞あるいは肺栓塞を立証する諸検査成績が得られることを知つておかねばならない。

糖尿病

著者: 石渡和男

ページ範囲:P.43 - P.44

はじめに
 糖尿病はインスリン作用の不足によつて,物質代謝に異常をきたしている疾病であつて,その代謝異常は糖質代謝,脂質代謝,蛋白代謝,その他,各方面に及んでいる。したがつて,糖尿病患者の病態を把握するためには,各種の代謝異常について検査することが必要であつて,血清の各種脂質分劃の測定,アセトン体の測定などはroutineに行なわれている。しかし,糖尿病の病名決定に用いられているのは,糖質代謝異常に関する検査のみであつて,そのなかで過血糖と,それにもとづく糖尿の証明が糖尿病の診断に用いられる。

胆石症

著者: 藤田輝雄

ページ範囲:P.45 - P.46

 胆石症の診断ははなはだ容易な場合もあるが,また非常に困難な場合も多い。胆石症の場合に発現する症状は他の疾患の場合にもしばしば発現するため常にいろいろの疾患を念頭に置きながら鑑別診断を行なわねばならない。胆石症の診断に当つてはもちろん他の諸疾患の場合と同様詳細な病歴の聴取が大切であり,その中でも最も肝要なのは疼痛発作ことに疼痛の発現状況,黄疸発現の有無,発熱の有無などの症状である。これらの病歴を聴取するとともに正確に臨床所見を把握することも大切で,この両所見から多くの場合胆石症の診断は可能となる。なお胆石症の診断をより確実にするためにレ線撮影(単純撮影),胆道造影法,肝機能検査を施行し,それらの成績を綜合判断することが望ましい。
 次に胆石症の診断の指標となる2,3の事項について述べる。

治療のポイント

新しい抗結核剤

著者: 五味二郎

ページ範囲:P.47 - P.48

はじめに
 初回治療の結核患者であれば,SM,PAS,INHの3者併用療法によつて,6カ月~12カ月で,90%以上の患者が菌陰性化しうることが,結核療法研究協議会,国立療養所の化学療法研究班などの研究成績によつて明らかにされている.12か月のSM,PAS,INHの3者併用用法によつて菌陰性化をみなかつた患者では,多くの場合この3者に耐性を示すので,二次抗結核薬による治療が必要となる。このような初回治療患者の10%に相当する一次抗結核薬に耐性を示す患者であつても,KM,TH,CSの二次抗結核薬による3者併用療法によつてその約半数は菌陰性化しうる。したがつて現在研究的に臨床実験が行なわれている新しい抗拮抗薬は初回治療患者の5%以下のものに用いられることになる。

慢性肺気腫の生活指導

著者: 梅田博道

ページ範囲:P.49 - P.50

 慢性肺気腫の病態は気管支の痙攣,気管支粘膜の浮腫,腫脹,たんの貯留,肺血管の痙攣,横隔膜運動障害などの可逆性障害因子と,肺の弾力性減退,胸廓変形,肺胞の拡張あるいは破砕,右心肥大などの不可逆性障害因子とが組み合わさつた悪循環連鎖である。われわれは,不可逆性因子を除くことはできないが,可逆性因子をできるだけ排除してこの連鎖を断ち切り,肺性心への進展を阻止する努力が必要である。とにかく慢性肺気腫は,肺胞腔の拡張,破砕といつた構造的変化を基盤として発する疾患であるから,根治療法は期待できない。したがつて,慢性肺気腫の患者にはその管理が一生涯の課題となるわけで,単なる投薬注射のみですませるわけにはいかない。日常生活の場での管理が必要であり,うまくコントロールすることによりその個人の余生を有意義ならしめることができよう。
 慢性肺気腫の対策としてわれわれが手をつけ易い方策は三つに大別できる。肺,胸廓の動きの合理化,気道の拡張,気道分泌物の除去の三つである。

虚血性心臓病

著者: 戸山靖一

ページ範囲:P.51 - P.52

 虚血性心臓病は冠動脈硬化にもとづく心臓疾患のことをさすので,心筋硬塞,中間型,労作性狭心症さらに無痛性の冠硬化症が含まれてくる。したがつて虚血性心臓病の治療といつてもその範囲は広く,ここで詳しくのべるだけの紙数のゆとりもないので,心筋硬塞は一応除外することにする。
 虚血性心臓病の治療に当たつては,狭心症のように狭心痛を訴えるものと,そうでない無痛性のものとではいささか異なる点があるのでこれを2つにわけてのべる。

睡眠剤の現状と使い分け

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.53 - P.54

睡眠剤の種類
 睡眠剤は薬理学的には,1)脳への作用部位から皮質性睡眠剤と脳幹性睡眠剤,2)化学構造式からバルビツール酸誘導体と非バルビツール酸誘導体,3)睡眠効果から入眠剤,熟眠剤,持続眠剤などに分けられる。
 臨床的には早く,深く眠れるもので,さめた時に頭痛,めまい,嘔気,ねむけなどの副作用がなくて爽快な感じがし,しかも習慣性がないものが最もよい。バルビツール酸誘導体は入眠剤,熟眠剤,持続眠剤とそれぞれ特徴のある各種の眠剤がつくられたが,習慣性があるので,習慣性のないものとして非バルビツール酸誘導体がいろいろつくられた。しかしこれらの新しい眠剤も最初は習慣性がないと宣伝されても,長期間使用しているうちに習慣性があることがわかり,現状ではこれらの睡眠剤を不眠の原因と型に応じていかに使い分けるかが一番重要である。

ファースト・エイド

脳卒中

著者: 亀山正邦

ページ範囲:P.55 - P.57

 脳卒中発作を起こした患者を診療するに当つて第一に重要なことは,その脳卒中発作がどのような原因によつて起こつたものかを判断することである。脳出血,脳硬塞,くも膜下出血などの,定型的な場合には問題はない。しかし,脳卒中例の約半数は,非定型的な発病様式を示す。脳出血か脳硬塞かの判定に迷うことも少なくない。また,脳卒中発作例の多くは,往診先で診せられる。したがつて,十分な検査成績に頼ることはできない。発病時,あるいは発病前の患者の状態についても重要な情報を得られないことがある。しかも,そのような状況下において,なお,医師は,的確な診断,予後の判定を要求されるのみならず,的確な処置を施さなければならない。また,患者を診療に便利な,自宅なり病院なりへ移送しなければならない事態も,しばしば起こる。その際,患者を移送することが,安全か否かの問題も生じてくる。そのためには,現状における患者の重症度をできるだけ正確に判定する必要がある。
 脳卒中発作例で,次のような症状が認められる場合は,きわめて重症であり,予後は悪い。万やむをえざる限り,移送は禁忌とみなされる。

器械の使い方

皮厚計

著者: 七理泰

ページ範囲:P.58 - P.59

 皮下脂肪を測る器具として使用されるものに皮厚計がある。栄養状態の調査と評価のためには皮下脂肪の測定は欠くことのできない身体計測の一つである。
 近頃食生活の向上とともに壮年層のみならず,幼児学童中にも多くの肥り過ぎがみられるようになつてきた。この体重の増加が,いわゆる脂肪による肥り過ぎなのか,筋肉量の増加によるものかを知ることは,栄養状態の判定,体育・スポーツ面での筋肉の発達状況の把握,肥満と関連ある諸疾患の診断治療上,必要である。

正常値

PSP試験

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.60 - P.61

PSP試験の精度をめぐって
 PSP排泄試験は腎機能検査のうち,もつとも実施容易で臨床的に広く応用されている。しかし方法があまりに簡便なためにかえつてその成績が粗雑で誤差の多いもののように考えられる傾向が少なくないが,測定やそれに伴う操作が簡単でステップ数が少ないほど誤差混入の機会は少ないのであり,単なる推量でこのような結論を下すのは妥当でない。この種の誤解の一因と思われるものは,この検査の桁数が2桁であるのに対し腎血行動態やその他のクリアランス値では計算上幾桁でも数値が得られることであろう。今日ではこれらの検査が腎機能の指標として有する精度はほとんど同じで有効数字桁数も2桁程度であろうということが理論的にも推定されているから,単に無意味な桁数の多寡で差別があると考えるのはナンセンスである。第3にPSP試験の数値から正常,異常が鑑別し難いことが挙げられる。これには数値であらわされる機能検査というものの宿命とでもいうべき問題がひそんでいるのであるがこれは後に考察を加える。

他科との話合い

精神科医と内科医の協力—精神病患者の早期発見のために

著者: 小林八郎 ,   大島英義

ページ範囲:P.97 - P.103

 精神病患者が内科にまぎれこんで来る場合は,かなりある。しかも初期の患者の場合,その発見はきわめて困難であり,不適当に処理されている場合も多い。内科医と精神科医の協力の道が大きく開かれるならば,精神病患者の早期発見に寄与するのみならず,もろもろの疾患に内在する精神的因子を理解することによつて,治療視野が大きく開かれてくるのではあるまいか。

基礎医学

内科的真菌症

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.106 - P.110

 真菌症は益々増加の傾向にあるが,まだ多い病気ではない。しかし病原菌が,雑菌として我々の身辺をとり巻いている菌であるので,何時でも感染発病の危険がある。したがつて,本症に関する絶えざる関心が維持されないと,思わぬ誤りをしてしうことがある。

症例 心電図のよみ方(1)

心房傷害の心電図

著者: 難波和 ,   廓由起枝

ページ範囲:P.113 - P.116

 心房傷害の診断で重要なのは,PTa seg.の偏位と,P波の変化であるがいずれも微細な変化で見逃がされやすい.心房粗細動,心房性頻拍,心房性期外収縮,歩調取り移動の出現などの場合は,これらを入念に観察しなければならない。

リウマチ熱の経過中に発症した脈なし病の1例

著者: 谷川久一 ,   渡辺英介

ページ範囲:P.117 - P.120

 脈なし病といわれる疾患が,多数報告されてきているが,最近リウマチ熱様の経過中に脈なし病の出現をみた1例を経験したので,そのあらましを述べ,さらに同疾患の診断,治療,成因についても若干ふれた。

グラフ

内科的真菌症

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.14 - P.15

 内科的真菌症は,患者の局所的あるいは全身的弱点に乗じた発病が多い.呼吸器アスペルギウス症やクリプトコックス髄膜炎は,慢性の経過をとり,診断治療の暇があるので,患者を救い得る可能性が高いが,他の病型および他の真菌症の多くは,重症の基礎疾患がすでにあつて,その末期に併発発病するので,生前の診断が困難で剖検で始めて診断されるのが通例で,臨床家としては手の打ちようのないのが現状である.診断には,前者ではレ線写真上の菌球像,菌塊,菌苔の排出,臨床材料中での菌体の証明,菌の培養が重要であり,後者はもつぱら組織漂本中の菌体の証明によつている.
 図1 Aspergillus flarris,の集落,アスペルギルス症の病原真菌としては,Asp.fumigatusが約70%を占めるが,次いでAsp.flarrisが多い.サブロー寒天培地に値え37℃(あるいは室温)に培養する.Aspergillusの種別の同定は集落の形態,色,閉子器,菌核,さらにスライド培養を行なつて,菌糸,胞子頭,および胞子などの細い形態や色で行なわれる.

子どもの骨—骨年齢評価法

著者: 杉浦保夫

ページ範囲:P.17 - P.22

 人間の骨格は,出生直後のかなりの軟骨性部分を有する小さな未熟な形態から(図1 2カ月男子:各管骨は骨幹部のみ骨化しており,手根骨はまつたく出現していない.
 漸次骨端核,円形骨核が出現して2次骨化が始まり(図2 2歳1カ月女子:手根部では有頭骨,有鉤骨の骨核が出現し,中手骨,指節骨骨端核も出現し始めている),

私の意見

"TEAMWORK IN MEDICINE"

著者: 杉浦武朗

ページ範囲:P.74 - P.74

 1961年夏,ニューヨークで開かれた第110回アメリカ医学総会(A. M. A)で話題をよんだシンポジウム,Renal and Adrenal Hypertensionは,内・外・泌尿器・生理・病理と各専門分野の権威者が一堂に会し,内科的治療は斯界の第一人者,協同研究者ジョージタウン大学エトワード・D・フリーズ教授によつて発表されました。
 A. M. A. は,アメリカ医師会が,その権威と威容を誇示する一大祭典というべく,大会場正面ロビーに張りめぐらされた数十フィートにおよぶ横幕には,"Teamwork in Medicine"とあざやかに描き出され誠に印象的でいまもなお強く網膜にやきつけられています。この一句こそ,アメリカのドクターが開業医も,勤務医も,また大学の教授陣もこん(渾)然一体となり,世界に冠たる医師の社会的優位性を築くにいたつた基盤ともいえるでしよう。

初診料の自由化を

著者: 浅田晃彦

ページ範囲:P.75 - P.75

 保険診療の初診料が引きあげられた。再診料もわずかながら認められている。技術の価値が重んじられてきたわけだ。医師は薬を売る商売ではないから当然のことである。
 診察料というのはすべての診療報酬のなかでもつとも算定しにくいものである。原料はなにもかからない。しかしその結果は名医と凡医とでは雲泥の差異がある。これはその医師の学識と経験の深浅によつて割り出すべきものであろう。だから点数を規定せず,各医師が自由にその額を定めてよいことにしてはどうだろうか。患者の貧富により,診断の難易により,加減することも自由とする。とにかく今のままでは悪平等である。

If…

臨床経過と剖見所見との対比—国家公務員共済組合連合会浜の町病院長 操担道氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.76 - P.77

南海の孤島奄美大島で村夫子にでも
 長谷川 医師にならなかつたら,どんな人生コースを歩まれたとお思いですか。
 操 私の父は一応医師の修業をしたが,村の世話役やらで満足そうにすごしていたので,私も農科方面に志そうかと考えたこともありました。しかし兄が長崎医専の内科におり,休みごとに遊びに行つていたので,つい長崎医専と第七高等学校の第三部を受ける気になり,七高から九大医学部というコースをたどることになつたわけです。

私のインターン生活

国家公務員共済組合立川病院にて

著者: 山前邦臣

ページ範囲:P.80 - P.80

専門別に細分化されていない病院
 東京駅から中央線で約1時間半,立川市の南端にあり,国家公務員共済組合連合会という組織によつて経営されている。病床550,医師約40,伝染病棟,精神病棟を含む全科があり,昨年新築されたところなので,設備は良いし,環境も良く,しかも大学病院なみの敷地を持つている。こう書くと聞こえは良いが,敷地の大半をしめるところの建物は,インターン寮を含めて,旧病院,看護婦寮,看護学院等々戦時中のオンボロ平家建である。院長は前田和三郎先生で,外科の出身。医師のすべてが慶応の医局出身者でしめられ,これ位の大きな病院で,各科がさらに専門分野に細分化されていないのも,この病院の特徴の一つである。建物は新しいが,内容は大多数の中小病院のように旧態依然ということらしい。しかし,各科をもらさず,しかも万遍なく修練することになつている今のインターン制には,かえつて向いている。教える先生方も,その科の全分野を万遍なく診療し,勉強しなければならないのだから。

この症例をどう診断する?・6

出題

ページ範囲:P.12 - P.12

■症例
 69歳の男子。弁護士。
 主訴:意識障害。

討議

著者: 和田敬 ,   梅田博道 ,   金上晴夫 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.133 - P.137

 和田 出題から考えられることを簡単に申します。主訴が,突発した意識障害ということですから,これは脳の血管障害によると考えられる。40歳ごろから胃潰瘍にかかつていたというのは,今回の主訴とは直接関係しているとは思えません。
 前に下痢の直後に2分間ぐらい失神したということですが,この下痢というのは,どのくらいのものですか。というのは,下痢による脱水とか電解質異常とか,そういうものでも意識障害が起こるんじやないかと思うんです。また,その時下血は伴いませんでしたか。

請求明細書から診断治療を検討する

2つの高血圧症について

著者: 古平義郎 ,   五島雄一郎 ,   井原仙二 ,   山田満雄

ページ範囲:P.64 - P.70

 請求明細書に現われた2つの高血圧症の症例をもとにして,本日は4人の先生方に,その診断から治療までを,批判検討していただきました。高血圧症としてうちだすまでに,はたしてこれだけの検査でよろしいかどうか,保険診療のなかでの検討を深めていきたいと思います。なお,治療,主として降圧剤につきましては次号に連載といたしました。

Bed-side Diagnosis・5

A Case of Neuropathy and Hemoptysis

著者: 和田敬

ページ範囲:P.128 - P.129

Dr. A (Medical Resident):We have one more patient to see this morning.
Dr. B (Medical Consultant):Tell me about the patient, Dr. A.

痛みのシリーズ・3

偏頭痛

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.62 - P.63

 この偏頭痛症候群は,Wolfらによって(1938〜1948年)研究されて,一つの血管性変化が注目された。すなわち,Scotomasのような前駆視力障害―後頭部皮質の脳血管の収縮による阻血―によることが示された。しかも,亜硝酸アミルの血圧低下を起こさない程度の吸入で,5〜7分後には症候緩解が見られることから,paresthesiaやaphasiaをも説明できるとされた。
 頭痛は,通常,視症状が消失した後に現われ,外頸動脈分枝血管の拍動の増大(血管拡張を示す)を示し,蓚酸エルゴタミン(0.4mg)の静注後,縮期および弛期血圧が上昇すると,側頭部の拍動振幅は減少し,そのあとで頭痛は軽減,ついで緩解する。このことは,総頸動脈の圧迫が一時的に頭痛を消失させ,圧迫除去で頭痛が再現するPickering(1939)の報告の裏づけをするものである。

ルポルタージュ

わが国はじめての小児専門病院—国立小児病院を訪ねて

著者: 水野肇

ページ範囲:P.124 - P.127

 国電渋谷駅から車で10分,東京都世田谷区太子堂は,付近に国立東京第二病院,大蔵病院などもある"東京の病院区"である。旧国立世田谷病院跡の33,000平方メートル(約10,000坪)に総工費7億円を投じてつくられた「国立小児病院」は,ベッド400床,地下1階地上5階のしようしやな建物。付近は高台の住宅街で,病院としては,都内では理想的な場所にある。

統計

悪性新生物の罹患率

著者: 滝川勝人

ページ範囲:P.40 - P.40

 全国民の悪性新生物罹患の実態を把握することは,なかなか容易なことではありません。厚生省が昭和33年および35年に実施した「悪性新生物実態調査」においても,ごく一部の対象について調査が行なわれたにすぎません。したがつて,今後国として悪性新生物の罹患率を推定するためには,現在すでに数府県において行なわれておりますがん患者登録を,全国的な規模で行なうことも一つの方法と思われます。
 世界的には,がん患者の登録活動はすでに今世紀初頭より,行なわれており,現在かなりの国あるいは地域において,その罹患率が算定されております。近着のWHOの資料よりこれをみますと(以下若干年次の違いはありますがすべて人口10万対の率であらわします。)カナダ(オンタリオ)136.9,デンマーク303.9,アメリカ(コネチカット)345.0,チェッコスロヴァキア242.3,フィンランド224.9,ドイツ(ハンブルグ)301.6,ハンガリー179.6,ノールウェー225.3,スウェーデン274.9,イングランド・ウエールス234.7,ユーゴスラヴィア208.2,オーストラリア173.9,ニュージーランド190.4となつており,各国あるいは地域の間にかなりの差がみられます。また,これらのうち一部の国の患者について,性別にその部位別百分率をみたのが表であります。国により,性により,それぞれ特徴があり,興味深いものがあります。

文献抄録

慢性肝炎の問題点,他

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.130 - P.131

 慢性肝炎または肝炎後肝硬変の患者31名および栄養失調後肝炎の患者3名の病歴を,遡つて分析してみたところ,この両疾患の経過に有意の差のあることが判明した。
 "2次的"慢性肝炎,すなわち急性肝炎にかかつた時点から追求できた慢性肝炎の患者では,経過は進行的であつた。そのうちのあるものにいたつては,糖性コルチコイドで持続的に治療したにも拘らず,黄疽が再発した。7年問の観察中に,13名のうち8名が死亡した。ところが,これと対照的に,"原発性"慢性肝炎,つまり偶然に発見された慢性肝炎の患者8名では,その経過と予後は,持続的に治療しないばあいでも、比較的良好であつたのである。これら患者の大部分は肝機能検査は不変であつたが,改善をみたものも2,3あつた。組織学的には,両群のあいだに本質的な差はなかつた。

話題

中部肺がん研究会から

著者: 岡本一男

ページ範囲:P.9 - P.9

はじめに
 がんは医学の進歩の流れに頑強に抵抗する砦の一つである。これを打ち崩そうとする幾多の先人の営々たる努力は,枚挙にいとまがない。そしてその努力は今この瞬間も続けられ,将来もさらに大きな努力が続けられるであろう。
 さて,肺がんについては次の二つの特徴がある。その一つは,今世紀の初頭から約50年間に世界各国を通じて急激な増加を示していることであり,いま一つは,肺がんはがんの中でも,もつとも低い治癒率をもつことである。

シンポジユーム"慢性気管支炎"—第5回日本胸部疾患学会総会より

著者: 河盛勇造

ページ範囲:P.111 - P.111

 今回の日本胸部疾患学会では,シンポジュームとして"慢性気管支炎"1つだけをとりあげた。それは非結核性呼吸器疾患のうちで,現在もつとも問題の多い疾患であるからである。
 最近わが国で慢性気管支炎に関する多数の研究業績が発表され,ことに大気汚染との関連において,この病気についての疫学的調査を行なつている研究者も多い。ところがこの慢性気管支炎という診断名は,単に自覚症状だけで診断がつけられるのである。すなわち英国のFletcherの定義,また最近Brit. Med. Res. Councilから出された定義,あるいはAmerican Thoracic Societyの定義でもすべて年間に3カ月以上,ほとんど連日喀婆を伴う咳嗽を訴え,この状態が2年以上つづいて,しかもこのような症状をもたらす他の心・肺疾患がないもの,となつている。

ニュース

社会保険審議会200億の国庫負担と答申

著者:

ページ範囲:P.112 - P.112

 社会保険審議会(厚相の諮問機関,会長末高信早大教授)は,昨年1月末以来神田前厚相の諮問にこたえて健康保険法,日雇労働者健康保険法,船員保健法,つまりいわゆる保険三法の改正について審議していたが,さる10月20日総会を開き,「保険三法に関する答申および意見」を決定し,ただちに鈴木厚相に答申を提出した。
 この答申では,「政府諮問案である総報酬制,薬代の被保険者本人半額負担は,制度の根本にふれる問題であるので,この際は見送るという点で意見が一致し,政府案にかわる当面の赤字対策として,(1)標準報酬の最高限度額を現行の5万2千円から10万4千円に引上げる,(2)保険料率(現行標準報酬の千分の63)の法改正をしない範囲内(千分の65)での引上げはやむをえない,(3)保険財政の赤字は政府の行政責任であり,平年度2百億円に相当する国庫負担額を計上して,残りは借入金で賄うべきである,などを骨子としている。なお,この答申の審議にあたつて,標準報酬や保険料率についての具体的な引上げ幅などに関しては,公益側,事業主側,被保険者側の三者の意見が一致せず,答申は被保険者と事業主の多数の意見に押切られ,公益委員の意見は少数意見として付記されているにすぎない。

アメリカにおける薬事制度の動き

ページ範囲:P.72 - P.72

 かねてから世界における最高の水準の薬事行政をもつていると自他ともに認じているアメリカ合衆国食品および医薬品庁(FDA)は,サリドマイド事件以来さらに積極的に薬事制度の改善をはかるべく大きな努力をはらつている。同庁はまた,昨年の世界保健機構(WHO)総会において,国際医薬品毒性監視機関の設置を世界各国に強く要請するなど,国際的視野での活動を開始しているが,その過去1〜2年間における新しい政策を紹介すると次のとおりである。

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きのう・きよう・あした

著者: 和田武雄

ページ範囲:P.73 - P.73

 ×月×日 同じ桜の花が,ロンドンでは5日たつても10日たつても散らない。「3日見ぬ間の桜」といわれる日本的風情や,いさぎよく散る桜にかわつて,イギリスでの桜はイギリスらしくねばり強く咲く。それぞれの気候風土の中で自らの生命の開花をつらぬこうとする知恵の特徴になぞらえるとすれば,人間の思想についても似たようなことがいえまいか。そういつたことがある人の見聞記にしるされている。たしかに1つの物の見かたであろう。
 精神風土ということばを耳にするたびに考えさせられることだが,学風とかスクールカラーとかいわれるものも,国により,ところにより違つてよいはずだし,そうした特色をもつことがむしろ学問や教育の内包する一つの必要部分ではあるまいか。

臨床医の新しい生き方

著者: 川上武

ページ範囲:P.121 - P.123

患者の運命に結びつく臨床医の姿勢
 臨床医(患者を診療する医者)の理想像よりすれば,その間に上下・優劣の差別があるのは好ましいことではない。生死の境にある一人一入の患者にとつて,主治医のいかんによつて寿命が左右されるというのは,やりきれないに違いない。現実に,"医者の選び方も寿命のうち"という声が一部でしばしばきかれるのは,患者がなんとかしてそのような事態をさけようとする悲鳴であろう。
 人間の寿命が大局的には,医療技術の進歩・社会構造のあり方に支配されているのは,平均寿命の延長の分析よりみても明らかである。明治年代には40歳代を低迷していた日本人の平均寿命が,現在では男子69歳,女子70歳強というのは,臨床医のレベル以前の条件の変革に負うているところが大きい。

最近問題になつた職業病とその慢性中毒の症状

ページ範囲:P.11 - P.11

慢性の障害を起こす職業病としては,この他心肺機能障害を起こす「じん肺」や貧血・白血球減少・白血病・皮膚ガンなどの悪性腫瘍の発生を促す電離放射線障害などがある。(勁草書房・川上 武著・「医療の論理」より)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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