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雑誌目次

雑誌文献

medicina3巻11号

1966年11月発行

雑誌目次

EDITORIAL

日本のリハビリテーション—今後の問題

著者: 大島良雄

ページ範囲:P.1541 - P.1543

リハビリテーションの現状
 リハビリテーション医学の必要性は,いまさらいうまでもなく,十分滲透してきているが,その必要性はわかつていても,実際の知識なり,技術が伴つていかないというのが日本の現状であろう。なんといつても,日本では,まだ新しい医学の領域であり,関係書もわずか数冊,それも内容は翻訳を中心にして編集されたという状態である。日本人の生活の実状に則したリハビリテーション医学の建設もこれからである。本を読んだだけで,実践が伴わなければ,本当のリハビリテーション医学は身につかない。やはり,リハビリテーションを専門とする診療科が,綜合病院や大学にできて,自分の患者にどうやつたらよい結果が得られたか,その体験を通じて覚えていかなければならない。
 リハビリテーション部門でも物理療法のみならず神経病,整形など各専門家が集まり,問題となる症例の討議を行ないteam workでリハビリテーションを実施するのがたてまえとなつており,各方面の経験が集められて広い視野の知識を養うことができる。

今月の主題

肺性心—その成因と臨床

著者: 鷹津正

ページ範囲:P.1544 - P.1548

 肺性心は,呼吸器疾患と循環器疾患の境界領域にあるため,臨床上,その定義や診断に明確さの欠けるところが多く,しばしば,誤診や誤つた治療が行なわれる。成因,診断,治療などについてこんにちの見解を明らかにした。

<話合い>肺性心—新しい考えかたと臨床

著者: 笹本浩 ,   村尾誠 ,   光永慶吉 ,   藤田真之助

ページ範囲:P.1550 - P.1558

 最近,大気汚染などによる慢性呼吸器疾患が増え,さらに抗生物質の使用や肺剔出術の進歩にともなつて,肺疾患をもとにした二次性の心障害,肺性心に出あう機会も多い。肺性心の定義も,まだあいまいな今日,その反省もふくめて,肺性心についての新しい考えかた,予後・治療などについての話し合いを。

農村医学の新しい課題—その一つとしての口蹄病

著者: 若月俊一

ページ範囲:P.1559 - P.1562

 私ども,農村の第一線の臨床に従事する者にとつて,医学がいかに民族性や社会性と密着しているかを痛感せざるを得ないことが非常に多い。つまり「社会医学」の考え方なくしては,本当の仕事はできない。
 ここでは,その意味から,広い意味の農村病を,社会的病因論的分析を試み,その中の3つの比較的新しい問題をとり上げてみた。

診断のポイント

食道の通過障害

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.1563 - P.1564

悪性腫瘍をまず念頭に
 食道の通過障害を起こす原因にはいろいろあるが,まず最初に考えるべきことは悪性腫瘍が原因となつていないかどうかということである。食道の悪性腫瘍としては食道がんと食道肉腫とあるが,いずれも早期手術以外に根治する方法はないから,これを見おとさないことがたいせつである。そのほか縦隔腫瘍の圧迫による食道の通過障害も早期診断が必要である。また瘢痕性狭窄や特発性食道拡張症による食道の通過障害も,場合により手術を考慮しなければならないこともあるから診断上重要なものである。
 食道の通過障害を起こす良性の病気としては食道良性腫瘍,食道裂孔ヘルニア,食道憩室,噴門けいれん症などがあるから,これらの病気を正確に診断することも必要なことである。

いわゆる神経痛といわれるもの

著者: 吉田赳夫

ページ範囲:P.1565 - P.1566

神経痛の考えかた
 神経痛と称して治療をもとめてくるもののなかには,事実は関節痛や筋肉痛のことがしばしばある。これらは論外としても,少なくも関節痛や筋肉痛が,神経の痛みと共存していることが多い。それで,神経痛とは神経の走行に一致して起こる劇烈な痛みであり,発作的に出現し,神経の経路上に圧痛点があり,その他に神経病学的所見がない,などと定義されているような神経痛を考えると戸惑うことになる。
 たとえば,後頭部の痛みを訴えて後頭神経痛と診断されるもののなかに,神経経路上の圧痛点の他の部分にも諸所圧痛のある個所があり,それらの個所で,マッサージの強擦法や柔捏法のごとく圧迫や摩擦,振動すると,かえつて快感を覚えるというものがあり,むしろ筋肉痛が主で,いわゆる緊張性頭痛を考えさせることがある。また,腕神経痛と称してくるもののなかに,実は肩関節周囲炎で,関節運動時に痛みが上肢に放散するものがあつたりする。また,坐骨神経痛といわれるものに後仙腸長靱帯の痛みの関連痛であることがある。つまり,神経痛とはいつても,筋肉痛や,関節痛あるいは靱帯痛のことがある。また一方,いろんな原因で神経痛が起こつても,神経痛だけでとどまることなく,筋肉痛や関節運動痛を伴うようになることが多い。

喘鳴と"小児ぜんそく"

著者: 浦田久

ページ範囲:P.1567 - P.1569

ぜんそく様気管支炎とは
 日常診療で喘鳴を主訴として来院する乳幼児は少なくない。喘鳴を起こす病気のうちもつとも多いのはぜんそく様気管支炎といわれるぜんそく様症状を伴う一種の気管支炎である。
 しかしぜんそく様気管支炎という病名は,人によりその定義や対象とする疾患の範囲が異なつている。すなわち,気道粘膜が感染・寒冷などの刺激に反応して多量の滲出物を分泌し,乳幼児が喀痰の排出がへたなために起こる喘鳴,気道感染によりぜんそく様の症状を伴う気管支炎を起こしたもの,気管支ぜんそくの乳幼児が気道感染により笛声喘鳴などの気道閉塞症状を呈したもの,寒い季節中ゼロゼロがつづいたり,くりかえしたりする反復性ないし慢性気管支炎などさまざまである。

治療のポイント

便秘の対策

ページ範囲:P.1570 - P.1571

血清病の予防と治療

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.1572 - P.1573

 異種蛋白質である馬血清由来の抗毒素はほとんど精製,濃縮されたグロブリン分画より成つているが,われわれ人体にとつて異種であることには変わりない。こんにち主に用いられているのは破傷風,ジフテリア,ガス壊疽の抗毒素およびマムシとハブの抗蛇毒素である。さらに北海道や東北地方ではボツリヌスの抗毒素を使う場合もある。
 いずれの場合にも起こりうべき副作用は同じであり,大別してアナフィラキシー様ショックと血清病に分けられる。あわせて血清事故serumaccidentとよぶこともある。(表1参照)

菌交代症

著者: 真下啓明

ページ範囲:P.1574 - P.1575

菌交代症の概念
 化学療法剤ないし抗生物質の投与によつて感受性菌の減少ないし消失が起こり,これと形影相伴うごとくその薬剤に対する耐性菌の残存ないし増加が起こる。この状態を菌交代現象(microbismesubstitue)とよぶ。ここまでは化学療法の宿命的な問題であり,必発の現象であるといえる。混合感染巣あるいは常在菌叢部位において増加した耐性菌が,新しく炎症の主役を演じるにいたれば,これは菌交代症(Infektionswechsel)である。実際問題としてはこれが本来存在した菌叢中の弱少勢力であつた弱毒菌であるか,新しく外来性にはいつてきたものであるかはかならずしも決定しえない。つまり,apathogene bzw. fakultative pathogene Symbiontenであればendogene Superinfektionであるかexogene Superinfektionであるか区別しえないこともある。
 全身性カンジダ症は一般的に菌交代症として考えられているが,この病態にいたるためには基礎疾患として白血病,がんなどの生体防衛機転の低下をきたす重篤な疾患があり,この因子が大きくはたらいており,抗生物質による役割は菌交代現象までは確実であるが,むしろ生体防衛機転の低下を重視すべきで,この意味では厳密には菌交代症ではないといえる。

糖尿病の食事指導—糖尿病治療のための食品交換表を利用して

著者: 斎藤文子

ページ範囲:P.1576 - P.1578

糖尿病食事療法の原則
 糖尿病の食事療法の原則は,カロリーの制限,すなわち必要にして最低カロリーで,しかも各栄養素のバランスがとれた食餌をとることである。さらにたいせつなことは,患者がそれを実施するうえで永続性があることである。理論的にいかに厳密なカロリーと栄養素の配分がなされた献立であろうとも,それが作成に非常に頭を労し,長時間をついやすならば1カ月はおろか1週間でも悲鳴をあげ,さじを投げてしまうことになり,実用にはほど遠いといわざるをえない。しからば上記の原則にかなつた献立を簡単に作るためにはいかにすべきか,それは容易なことではない。外国においてもこの要望にこたえるために努力がなされており,その代表的なものにアメリカにおける糖尿病食品交換表1)がある。わが国においても昭和40年9月「糖尿病治療のための食品交換表」(以下交換表と略す)が糖尿病学会から出版されたのである。これは糖尿病の食事療法を正しく実施するうえに完全とはいえないが,少なくともいままでの多くの食品分析表よりすぐれていると思う。

器械の使い方

耳鏡・鼻鏡—その使いかた

著者: 岡本保茂

ページ範囲:P.1579 - P.1581

 日常,内科小児科の診療にあたる場合,耳鼻科的愁訴をもつ患者に遭遇することが少なからずあるであろう。また交通事故による急救患者の激増しつつある昨今,これの診療にあたる外科の方も耳鼻科的急救処置を余儀なくされる場合が多いのではないかと思われる。このようなとき,耳鏡あるいは鼻鏡の使いかたに習熟されているならば非常に便利であろう。ここに耳鏡および鼻鏡の使いかたの要領を述べてみよう。

ファースト・エイド

気管支喘息

著者: 杉田和春

ページ範囲:P.1582 - P.1583

気管支喘息かどうかの診断
 気管支喘息の発作をみたとき,まずどのような救急処置をしなければならないか? ということを書いてほしいという編集者の依頼であるが,まず治療の前に気管支喘息かどうかということの診断が必要である。それから治療にはいるのである。治療も発作の程度により,いろいろ考えなくてはならない。もちろん,診断から治療までの期間は短かくなくてはならない。

正常値

血清鉄,血清銅

著者: 茂手木皓喜

ページ範囲:P.1584 - P.1585

 血清中の鉄はsiderophilin(またはtransferrin)という特殊な蛋白と結合して存在するので,これを定量するにはまずこのsiderophilinから離して遊離のかたちにしたうえで種々の呈色試薬と反応させる。ふつう鉄をsiderophilinから遊離させるため塩酸を加えて加温し,ついで呈色を妨害するような血清蛋白部分を除蛋白して沈澱させ,この上澄に還元剤を加えて2価の鉄として呈色試薬に反応しやすいかたちにし,また発色のつごうのよいようなpHに修正し,最後に呈色試薬を加えて比色する。呈色試薬にはいままではo-phenanthroline,α-α′-dipyridy1などのキレート剤がもちいられていたが,最近ではbathophenanthrolineがもつとも特異性にすぐれる点で,おもにこれがもちいられているようである。微量成分なので試薬中に鉄が入らないよう,調整する水の質は十分吟味しなければならない。
 銅もやはりceruloplasminという銅蛋白として存在するので,鉄の場合と同じようにまず塩酸を加えて蛋白から分離させ,トリクロル酢酸で除蛋白し,上澄のpHを調整し,還元剤を加えて還元し,これに発色試薬bathocuproinを加えて呈色,比色する。銅も鉄と同じく微量成分なので,試薬を調整する水は十分吟味しなければならないが,測定の各段階において鉄と同様,これら成分の混入がないよう十分注意しなければならない。

薬の反省

解熱剤

著者: 北本治

ページ範囲:P.1586 - P.1587

診断の見当をつけてから
 解熱剤の使用が昔に比べれば,いちじるしく減つたことは,周知のとおりである。
 抗生物質その他化学療法剤の進歩によつて熱の原因である病原体の増殖を抑制し,熱の発生を少なくしうることが,非常に多くなつたからである。

他科との話合い

胆のう摘除の術後障害

著者: 槙哲夫 ,   増田久之

ページ範囲:P.1607 - P.1616

胆のう摘除後の障害を訴える患者は,術後患者の1/3にものほる。術後障害の予防と,予測,その対策をめぐつて,外科と内科の話合いをこころみた。摘除後障害の扱いかた,外科手術の適応,再手術上の注意など,内科,外科双方の緊密な連絡の重要ポイントを……

基礎医学

微小循環microcirculation—理解のために

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.1624 - P.1628

 微小循環は,単に生理学上の問題のみでなく,日常臨床におけるさまざまの疾病や病態の解明に大きな役割をもつことが明らかにされ,その重要性が注目されている。ここでは,微小循環のもつ臨床上の意味の理解のために,その概略を紹介する。

症例 心音図の読みかた(2)

僧帽弁膜症,大動脈弁膜症,三尖弁膜症の症例

著者: 楠川禮造

ページ範囲:P.1629 - P.1633

僧帽弁膜症(次号よりつづく)
 症例 25歳 女
 主訴は軽度の体動時の呼吸困難,心悸亢進および両下肢の浮腫,心電図で心房細動および左心室肥大像を呈し,胸部X線像で左第2,3,4弓および右第2弓の拡大を認める。

星状神経節ブロックによる幻肢痛の治療

著者: 森川賢一 ,   清原迪夫

ページ範囲:P.1634 - P.1637

 近年交通事故・労災事故などの増加に伴つて,致命的な頭部外傷を初め,種々の程度の人身事故が激増している。つぎに述べる幻肢痛Phantom limb painもかかる傷害の一つで,癌性疼痛,帯状疱疹後疼痛,causalgia,脊髄癆の疼痛,視床痛などとともに難治疼痛intractable painとしてかぞえられている。

グラフ

糖尿病の眼底所見

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.1530 - P.1531

 糖尿病性網膜病変は古くは動脈硬化,腎炎,血圧亢進による病変と区別し難いもの,あるいはその特殊型とみなされてきたが,Ballantyneによつて血管瘤の発見と静脈病変から網膜症の独立性が主張せられ,近年特に注目せられるようになつたのは,糖尿病患者の生存期間がのびて,網膜症の発生頻度が増加したこと,その治療はきわめて難治で,失明への危険を持ちながら適確な予防法がないことや,さらにKimmelstiel-Wilsonとの関係における重要性などが再認識されたことなどであろう.したがつて網膜病変は糖尿病における全身的病態の判定にある程度有力な手掛りを与えるものであることが十分了解できるわけである.
 糖尿病性網膜症の分類にはWagenerの分類あるいはScottの分類がよく利用される.

総合病院でのリハビリテーション—東大病院リハビリテーション・センター

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1533 - P.1538

 わが国においても,リハビリテーションの重要性が広く認識されるようになつたが,その体系ははなはだ不満足なものである。なかでも,身体障害を残す疾患を急性期ないし発病初期に治療する使命をもつている綜合病院にリハビリテーション設備を欠くものの多いことは,場合によつてはとりかえしのつかぬ結果をまねくものである。東京大学付属病院リハビリテーション・センターは,病院の規模と比較すればまことにささやかなものであるが,中央施設の一部として各科にサービスを提供し,綜合病院内の施設のよいモデルである。

検査データの考えかたとその対策

顕微鏡的血尿

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.1527 - P.1528

顕微鏡下に尿中赤血球をみた場合の注意点
 1)はたして赤血球か 尿沈渣中にみられる赤血球の形,色調,大きさは尿の比重により多彩な変化をみる。赤血球と誤認しやすいものは酵母のsporeや脂肪球などである。これらを確認する方法もあるが,臨床的には赤血球の存在を潜血反応により確認するほうが便利である。Haemastixを原尿でこころみた場合,赤血球による陽性化の限界は同じ尿を規定どおり遠心して沈渣検鏡した場合,強拡大(400倍)一視野に少なくとも5〜20個以上になる。尿沈渣でこころみた場合は一視野1〜0コで陽性となり十分鑑別に応用できる。
 2)どの程度以上を病的と判断するか Addis countでの尿中赤血球数正常域は12時間0〜42万5千個である。ふつうの遠沈の条件で強拡大下(400倍)で,各視野に赤血球が認められるためには尿沈渣0.1mlにつき赤血球2,500コ以上であり,各視野に2コ以上あれば病的であるとしてよい。通常,1コ/4〜5視野である。また肉眼的血尿と判断できる。限界は尿1000ml中1ml以上の血液の混在をみる場合である。

きのう・きょう・あした

結核病院の閉鎖

著者: 島村喜久治

ページ範囲:P.1589 - P.1589

結核病院の閉鎖
 ×月×日
 結核は,おかしな話だが,マスコミが減らしてしまつた。日本脳炎が3人出ても大騒ぎをするマスコミがほとんどまつたく結核の問題をとりあげない。もう日本中に結核患者は3人もいないかのごとくである。

野口英世の生誕90年

野口英世を偲ぶ

著者: 志賀潔 ,   高橋功

ページ範囲:P.1590 - P.1593

まえがき
 8年ぶりにランバレネから帰国して,書類を整理していると,手紙の裏にはしり書きした原稿が見つかつた。細菌学者評伝と頭書きして,野口英世と題してある。裏をかえしてみると,東北大眼科教室の便箋に林雄造教授が私の就職についていろいろ心配してくださつた文面がある。これには日付がないが,ほかの学兄,故小島修吾からのが11月5日,義兄渡辺綱彦からのが12月4日となつている。それは私が帰還復員した年すなわち昭和21年である。
 当時75歳の叔父志賀潔は自叙伝を整理するために,口述し,それを私に筆記させた。その出版を,ある事情で思いとどまつたが,この評伝「野口英世」はそれに付するつもりだつた。行間に青鉛筆で叔父が書き加えたあとがあり,私にはきわめてなつかしいものである。

私の意見

身体医学と精神医学の間—頭部外傷後遺症をめぐつて

著者: 小西輝夫

ページ範囲:P.1594 - P.1594

外来患者の1/4が頭部外傷後遺症
 頭部外傷後遺症をこんなにもひんぱんにわれわれ精神科医が扱うようになつたのはいつごろからであろう。学生時代の講義で脳振盪性精神病や外傷性神経症のことは聴いたが,草深いいなかの精神病院に勤務しているうちにそんなことはすつかり忘れてしまつていた。最近縁あつて衛星都市にある総合病院の精神神経科に勤めるようになつて驚いたのは,外来患者の約1/4が頭部外傷後遺症の患者だということである。いままでのんきに宗教精神病理学などという妙なものに首をつつこんでいたのが,急にGibbsのAtlasとくびつぴきで脳波を読んだり超音波脳検査装置を操作したりしなければならなくなり,交通戦争をあらためて身近かに実感したしだいである。頭部外傷患者を扱つていてその頑固な愁訴にも手こずるが,もつと困るのは被害者(患者)と加害者の対立になんらかのかたちでまきこまれてしまうことである。最近59歳の女子患者を診察した。軽四輪にはねられて脳振盪を起こし,外科病院に2週間入院していたが退院後もふらつきや頭重感がとれぬという典型的な頭部外傷後遺症の患者である。
 このごろ脳波がずいぶん一般にも知られているとみえ,脳波をとつてほしいというのが受診の理由である。

医療の限界

著者: 田中重男

ページ範囲:P.1595 - P.1595

思わぬところに問題が
—公傷患者の場合—
 私たちの病院は,炭鉱会社経営の病院であるが,炭鉱の患者と同時に,関連事業所おもに化学工場の患者も診療にあたつている。健保本人の診療,とくに公傷患者の場合,労働組合の運動がさかんな時期には,思わぬことで,医師として当惑することがある。

請求明細書から診断・治療を検討する・I

糖尿病について

著者: 堀内光 ,   古平義郎 ,   知久祝康 ,   柴田一郎

ページ範囲:P.1640 - P.1646

 柴田(司会)それでは初診時を扱いましたAの症例を最初に検討したいと思います。
 糖尿病は最近非常に増加して,いろいろな意味で話題をよんでいる病気だと思いますが,たとえば私のところをひきあいに出して恐縮でございますが,社会保険と国民保険の請求のなかで約1割あまりが糖尿病関係で,これは最近2ヵ年間に増えてきた数字です。それ以前は1人か2人しかいないような状態でした。これは私だけではなくて,実地医家のほとんどのみなさんがこういう傾向を感じておられると思いますが…。

痛みのシリーズ・13

痛みの判断—ある会話から

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1620 - P.1621

 A.日常診療していますと,頭痛の患者,がん末期の患者,小児の腹痛など,本当に痛いのかどうかみわけるのに苦労しますが,なにかうまい方法はないものでしようか。

Bed-side Diagnosis・11

A Case of Vague Symptoms Simulating so-called Neurosis

著者: 和田敬

ページ範囲:P.1638 - P.1639

Dr. A (Medical Resident):Good morning, Dr. B. I have been waiting for you to come.
Dr. B (Medical Consultant):Good morning Dr. A What would you like me to do this morning? It seems that you have very interesting case for me.

ルポルタージュ

重症心身障害児の病院—第二びわこ学園を訪ねて

著者: 張知夫

ページ範囲:P.1647 - P.1649

 東海道線の下り列車で米原を過ぎ,ほどなく大津というころ,左手にくつきりと近江富士が見える。本当の名は三上山といつて,琵琶湖の対岸からもよく見える美しい山だ。名神高速道路がこの山の南麓をかすめて通るところに,第2びわこ学園がある。
 重症心身障害児療育施設びわこ学園が大津市神出町に開設されたのは昭和38年4月(現在90床)。そして,今年4月に,ここ野州町南桜に100床の新しい建物が完成するとともに,大津のほうを第1野州のほうを第2びわこ学園とよぶことになつた。

私の治療体験より

抗アドレナリン剤を用いて行なうショックの治療

著者: 飯田喜俊 ,  

ページ範囲:P.1622 - P.1623

はじめに
 ショックの原因にはいろいろあるが,心筋硬塞はそのうちの大きい原因の一つであり,死亡率の大きいものである。とくに近年,本疾患患者が増加してくるにつれてこれによるショックもまた増加して,しだいに重要な問題となつてきた。しかし,近年各種のすぐれた昇圧物質が登場してくるとともに,これによる治療によつて死亡率も減少してきている。そして一般にショックに対する治療として昇圧物質を用いるというのが常識となつているのであるが,最近になつて一方ではかえつてこれが有害であり,むしろ抗アドレナリン剤を用いるべきであるということがいわれてきた1,2,3)。ちよつと考えるとこれによつて血圧は下降し,それでなくてもショックによつて低血圧状態にあるものをいつそう増悪させるように考えられがちである。しかし実際,ショックにおいては血中カテコールアミン量は相当増加しており,ノルアドレナリン自体がショックをきたすという実験もあつて4),これにさらに昇圧アミンを加えると臓器血管の血行動態に影響をおよぼし,あるいはLilleheiらのいうVisceralfactors2)へ影響をおよぼして,ショック症状をいつそう増悪させるということが考えられるる。

統計

医師の死因

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.1525 - P.1525

 前号では医師(男)の死亡率は,一般国民よりどの年齢層でも低く,平均余命もやや長いことを記しましたが,ここでは医師の死因の特徴についてふれてみましよう。
 まず,図に示すごとく医師と一般国民の年齢別にみた死亡数の割合は,両者とも70〜74歳が15%前後でピークを示し,両曲線にはあまり大きな差はみられません。したがつて,死因の比較は表の総数だけを見てもよいと考えられますが,一応60歳を境として比べることにします。

文献抄録

性と医学—JAMA 197:214 (Editorials) July 18, 1966/"初期糖尿病の自然寛解"—Arch Intern Med X 17:769-774 (June) 1966

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1650 - P.1651

はじめに:
 先年"キンゼイ報告"が発表されるや,世のいわゆる"偽善者"たちはおおいに驚き,やがて没落の運命をたどつた。しかし,キンゼイの報告はどちらかというと性の"社会的側面"を主として客観的に調査研究したものであつた。本年マスターズとジョンソンは,性のオーガズムの前・中・後における性器の生理学的反応を研究して,これをまとめ,"人間の性反応"Human Sexual Responseなる一書を発行した。JAMAの社説欄Editorialsでは,さつそくこれをとりあげて"性と医学"という表題のもとに,その意義を論じた。今回はそれを抄訳紹介することにしたい。(浦田)

話題

第6回健康管理研究協議会総会から

著者: 秋山房雄

ページ範囲:P.1549 - P.1549

 今回のテーマも,昨年と同様「これからの健康管理」であつたが,昨年は,社会福祉計画,公衆衛生行政および臨床医学の立場から健康管理への期待が述べられ,さらに健康管理の目標をいかにとらえるかについては,衛生統計,マンパワーの開発の面から,また,その目標達成への方途については管理技術と管理能力の向上の面から論じられた。そこで今回は,ここで一度「健康」という概念の整理をしておき,今後の発展のための基礎工作の一つをすることになつたのである。
 まず,東大勝沼晴雄教授は「健康とは何か」といつてもこれを定義することはきわめて困難で,WHOの定義を一つの仮説としてこれを健康管理にかみ合わせて考えてみると,事業所で行なわれている健康管理は労務管理の一つであり,全入的な健康管理は地域社会においてのみ可能であると述べられた。また,健康水準の示標としては,集団として死亡率,平均余命,PMIなど比較的よいものがあるが,個人の場合には,抽象的な方法が多く,具体的でしかも適確につかまえうるよいものがないとのことであつた。

アメリカの神経学会から

著者: 後藤文男

ページ範囲:P.1588 - P.1588

 アメリカの神経学会には,American Neuroiogical Association(A. N. A.)とAmerican Academy of Neurology(A. A. N.)の二つがあり,それぞれ,機関紙として,"Archives of Neurology"と"Neurology"を出している。とくにA. N. A. は90年の伝統をもち,会員は超一流の学者に限定され,世界でももっとも権威ある神経学会として認められている。今年は6月13日より15日までWashingtonにおいてA. N. A. の第91回総会が行なわれた。演題は,全米の医学校の数よりもはるかに少ないわずか38題に厳選され,いずれもoriginalityのあるものばかりであつた。
 日本におけるような"猫も杓子も……"のところがまつたくなく、この学会全体から一つのトピックや流行というようなものを感じとることは不可能といつてよい.そこで,とくに著者の注意をひいたものを二,三ひろつてみよう。

ニュース

41年度人事院勧告の医療職給与

ページ範囲:P.1617 - P.1617

 人事院が8月12日国会と内閣に提出した今年の国家公務員給与勧告では,全職員の平均で6.5%,2,440円の給与改善が勧告されている。ただし,扶養手当の0.5%,通勤手当の0.3%,寒冷地手当などへのはねかえり0.1%を含めると,合計6.9%,2,820円の改善である。
 このように本年の勧告は昨年のそれを若干下まわつているが,鈴木厚相の努力によつて,医師・歯科医師など医療職の改善には,特別の配慮がされているという。たとえば,医師・歯科医師の初任給は大幅に改善されており,免許をとつたばかりの医師の初任給は,従来の30,000円が33,000円に10%アップされ,初任給調整手当も現在の2,500円が5,000円に引き上げられて,本年4月の民間医師の初任給39,868円にいまひといきということになつた。また,初任給調整手当は,従来は卒業後4年間に就業した医師にだけ支給されていたのを7年間に延長し,支給期間は従来どおり5年とされているし,実施の時期もいままでは翌年4月からであつたものを,ベース・アップの時点から実行するといつている。しかし,医師・歯科医師全体の平均アップ率は6.4%,4,123円の引き上げで,アップ率では全職員の平均を下まわつている。また,看護婦・准看護婦では7.3%,2,112円,薬剤師・X線技師・衛生検査技士・PT,OTなどでは6.7%,2,362円のアップで,全職員の平均を上まわつている。

臨床メモ

糖尿病発見のコツ

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1569 - P.1569

 口渇,多尿,多飲,全身倦怠感などの臨床症状がみられれば,糖尿病をみおとすことはない。問題は進行した糖尿病の発見ではなく,ごく初期の臨床症状が表面に現われていない時期の糖尿病を,いかに発見すべきかということである。

小児と解熱剤

著者: 毛利子来

ページ範囲:P.1587 - P.1587

 第一線で小児を診療していると,解熱剤というもののもつ偉力に感嘆させられることしきりである。わずか数回の解熱剤で,なんと多くの熱発した小児が治癒に向かうことか。そのために,熱と聞けばなんでも解熱剤を使いたくなるくらいである。
 ところが,ときどき,それではうまくなおらなかつたり,かえつて悪化したりすることにもでくわす。

今月の表紙

「パリのサン・ルイ病院」

著者: 本田一二

ページ範囲:P.1548 - P.1548

 パリには,現存する世界最古のオテル・ディユ病院初め,由緒の深い病院が多い。サン・ルイ病院も,360年の歴史をもつ。アンリ4世が皮膚病専門病院として建設を命じたもので,1507年から6年間かかつて,クロード.ベルフォーが完成した。現在は,1450ベッドをもつ綜合病院に発展した。
 受付けで「サン・ルイ病院の歴史を知りたいのだが……」と申込んだら,ミュゼー(博物館)へ案内してくれた。バザン,ダリエなど皮膚科で有名な学者の像がかざつてあり,皮膚病の有名なムラージュのコレクションが,大講堂に並んでいた。

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開業医の意見の十分な反映をのぞむ—本誌特集ドイツの内科専門医制度を読んで

著者: 菊地博

ページ範囲:P.1628 - P.1628

 永野氏の書かれたものを読んで,かつて私も10年前に『ドイツにおける専門医制度』について日本医師会雑誌昭和32年5月1日号に拙文を発表したことを思い出します。
 この時は第59回 全ドイツ医師会の会議で決定した『ドイツ人医師に対する職業規定』のうち,専門医制度の規定事項を抜粋したもつとも新しい部分を掲載したはずであつたが,あれから10年の歳月が流れているのであるから,永野氏の書かれたごとく,ドイツのような国であつても,内科専門医(Facharzt furinnere Krankheiten)の中にも将来Facharzt für Kardiologie,Facharztfur Nephrologie,Facharzt für Endokrinologieのようなものも分科されて行くのも当然でしよう。

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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