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雑誌目次

雑誌文献

medicina3巻2号

1966年02月発行

雑誌目次

EDITORIAL

基礎と臨床の共通の場を

著者: 平井秀松

ページ範囲:P.177 - P.180

基礎医学者から臨床医へ
 基礎医学者から臨床医への注文ということだが,その逆はたくさんあつても,われわれからそうはないように思う。むしろこの機会に基礎の方で大いに反省したいと思つている。大体私は大学を出るとすぐ生化学に入つてしまつたので,臨床のことはもちろんわからないし,医療の場も大学病院ぐらいしかみていない。
 土台,大学の生化学しか知らぬ私が臨床医に向つてつべこべいうのがおかしいので,第一線に働いている診療医から見れば,さぞかし現実ばなれのした,上つ調子な存在に見えることだろう。TCA-cycleがどう廻つていようと,酵素分子の構造が決まつたからといつて,毎日来る患者の腹いたを止めることに直接の関係はない。だから私がこれから書こうと思つていること自体臨床医から見れば片腹いたいことのように思うのだが,そう卑下ばかりしていても仕方がないので,主として大学や大病院で勉強中の医師を相手に思つたままを書いてみよう。

今月の主題

神経筋疾患—最近注目されている疾患を中心に

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.182 - P.185

 神経筋疾患とは,広い意味では,神経筋系径路に一次的な本質的障害がある場合が考えられ,そのなかに含まれる疾患や症候群は実にさまざまである。筋萎縮を伴うものもあれば,伴わないものもある。臨床像としては筋萎縮,筋力減弱,筋緊張異常,筋拘縮,筋麻痺など種々のものが,さまざまに組合わされている。障害部位別には,神経原性障害のもの,神経筋接合部障害によるもの,筋原性障害によるもの,などに大きく分けられるが,実際にはその限界がはつきりしないこともある。この領域の疾患は,筋電図などによる電気生理的検査,筋生検による組織形態や組織化学的検査,酵素化学やその他の生化学的検査などのいちじるしい進歩により,病態が細分化して検索されてきており,新しい面からの再分類が行なわれつつある。ここでは最近注目されつつある若患や症候群について述べることにした。

婦人の貧血

著者: 森田久男

ページ範囲:P.193 - P.196

はじめに
 婦人には貧血が多い。
 教室の過去一年間の外来患者のうちで,治療を必要とした貧血患者は,男29名に対し女90名である。

<話合い>神経筋疾患—最近の進歩

著者: 祖父江逸郎 ,   塚越広 ,   里吉営二郎 ,   佐々木智也

ページ範囲:P.186 - P.192

神経筋疾患を社会全般のレベルでみると
 佐々木(司会) きようは,遠いところをわざわざありがとうございました。神経筋疾患は,比較的最近注目され,いろいろな雑誌に解説が出ておりますけれども,これがどのくらい実在し,どの程度に重要なのかは,割合説明されていないですね。そういうことについて,祖父江先生からお願いいたします。
 祖父江 まず頻度のことですが,わたしどもの方で,名古屋市におけるミオパチーの頻度を調べたことがあります。広い意味のミオパチー全体を合わせますと,大体10万:7という比率なのです。その中進行性筋ジストロフィー症が,大体40%を占め,それにつづいて多いのは周期性四肢麻痺で36%くらい。それから最近注目されてきている多発性筋炎が10%ぐらいです。それにつづいて重症筋無力症が8.8%といつたところです。ミオパチーについては文部省綜合研究班が作られていますが,約1700例のミオパチー症例の相対頻度が出ています。それによると進行性筋ジストロフィー症が45%,重症筋無力症20%,皮膚筋炎,多発性筋炎7.1%,周期性四肢麻痺13.7%といつた割合で,その他のものがわずかずつ含まれています。

薬の反省

副腎皮質ステロイド剤

著者: 梅原千治

ページ範囲:P.198 - P.199

 いつもいうことだが,薬とはすべてこれ毒である。この毒をもつて毒を制することが,内科医の技術でもあり,人間の英智でもある。だから,使われるべき毒の性状と,毒物を使用する対象疾患への正確な知識の必要性がことさらに強調されることになる。

診断のポイント

医原性心臓神経症

著者: 石川中

ページ範囲:P.201 - P.202

「医原性疾患」という概念
 医原性疾患(iatrogenic disease)という概念を最初に医学に導入したものは,Hurstであり,「医師の検査・態度・あるいは討論などに起因する,患者の自己暗示によつて惹起された病気に用いられる」と定義され,主として心理的メカニズムによる,純粋に医師が作り出した病気のみに限定していた。しかしその後,医師の言動のみならず,医師の行なつた手術,あるいは投与した薬剤などによつて惹起された器質的な障害などをも含める広い意味にも解釈されるようになり,若干の概念の混乱が見られている。医原性疾患を心理的メカニズムによる医師原因性疾患と考えるか,あるいは手術,薬剤などの副作用による医療原因性疾患とするかについては,学者によつて考えかたが異なり,まだ統一された見解がない。しかし本論文においては,Hurstの定義に従つて,心理的メカニズムによるものに限定し,ことにそのうちでももつとも頻度の多い,iatrogenic heart disease(医原性心疾患)の発生要因,診断などについて述べることにする。

ガストロカメラの限界

著者: 本田利男

ページ範囲:P.203 - P.205

 近年,内視鏡ことに胃カメラによる診断技術はめざましい進歩をとげているが,X線透視や胃生検による所見でもつとも合致しないのは慢性胃炎である。また胃潰瘍における良性悪性像の鑑別や胃がん,ことに早期がんについて手術胃の組織所見と比較してみると,その間にかなりの不一致があり,胃カメラの診断にもある程度の制約のあることが考えられる。

心因性運動障害

ページ範囲:P.206 - P.207

治療のポイント

肝疾患と脂肪

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.208 - P.209

脂肪制限は必要か
 肝疾患と診断された—あるいはその疑いをもつた—患者の大多数が,心ならずも金科玉条として守つている養生法のひとつは,脂肪食餌の厳格な制限であろう。つまり,肝疾患に対しては脂質を多く含む食品は有害に作用するという考えは,患者だけでなく,医師の大多数にも,現在なおその頭のなかに根強く残されていると思われる。しかし,これはどんな根拠にもとづいているのであろうか。
 今世紀の初めから四半世紀ほど経過するまでのあいだに発表された研究のうち,この問題に関するものには,およそふたとおりの流れが見られる。ひとつは脂肪の多い食餌によつて,動物に脂肪肝が発生しうるという観察であり,もうひとつは,種々の有害因子によつて肝障害を起こさせるさいに,脂肪豊富食で飼育した動物では,それらのNoxeに対する抵抗が弱いという成績が数多く見られているということである。

リウマチ熱

著者: 寺脇保

ページ範囲:P.210 - P.211

Jonesの診断基準
 リウマチ熱は,発熱,関節炎症状,心炎を主徴として,幼児期後半から学童期に多い疾患である。しかしその本態はまだ十分解明されていないのみならず,その呈する症状が多彩であるため,リウマチ熱の診断にはきめてがないが,臨床症状の組み合わせによるJonesの改訂診断基準が一般に用いられている。
 治療の眼目は,病原としての溶連菌撲滅に対する化学抗生物質療法とリウマチ性反応の治療としてのサリチル酸剤,ピラツォロン系製剤,副腎皮質ホルモン剤などを臨機応変に用いることである。

筋無力症

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.212 - P.214

 筋無力症の本態には,神経筋接合部におけるAcetylcholine(Ach)代謝異常,生化学的中間代謝異常,内分泌代謝異常,炎症ないしアレルギーなど種々の見地から考察が加えられてきたが,最近では自己免疫学的立場よりも再検討されている。
 本症の診断は既往,一般理学的所見のほか,運動負荷試験・Tensilon試験・Vagostigmine試験・筋電図所見などから比較的容易である。

下剤

著者: 横山巌

ページ範囲:P.215 - P.217

 毒物の誤飲,食中毒,腹部X線診断の前処置,手術前後処置,発熱,長期安静就床などの便秘に一時的に使用される下剤は別として,多くは慢性的に持続するいわゆる常習性便秘が下剤投与の対象となる。したがつて激しい下剤よりもゆるやかな下剤が愛用される傾向がある。
 私が最近健康で働いている40歳以上の人,106名に「いつも便秘で悩んでいるか」の質問を行なつたところ,男子78名中16名,女子29名中過半数の15名が便秘に悩んでいると答えた。このような便秘の頻度の高さからみて,巷間,便秘薬あるいは便秘治療剤と称して,数多くの下剤が発売されているのも当然といえよう。

ファースト・エイド

胆石疝痛

著者: 山川邦夫

ページ範囲:P.252 - P.253

胆石疝痛とは
 胆石疝痛というものは,一つの症状をとくにとりあげたものであり,もちろんこれに発熱,時に悪感戦慄,嘔吐,黄疸,肝臓腫張などを伴うことが多く,胆のう炎の合併もまれではない。
 症状 胆のうの内臓痛は両側支配を受けるため,主として心窩部,右季肋下に周期性に起こり,関連痛として,右肩甲部におよぶことは,頸髄7〜8に放散するので説明される。胆のう,胆管の炎症浮腫が加わり,胆汁通過障害を示すときには,症状が強くなつてくる。悪感とともに高熱を発し,嘔吐をくりかえし,右季肋下の疝痛,腹壁の著明なデファンス,血沈の促進,白血球増多,時に軽度の黄疸の出現を見る。

器械の使い方

酸素吸入

著者: 稲田豊

ページ範囲:P.273 - P.275

 全身麻酔のもとに小手術を行なつた患者においてさえ,術後数時間は動脈血PO2が低下しHypoxiaの状態にあることを1962年にNunnらが発表して以来,術後酸素療法の意義および価値が改めて認識されるに至つた。この際,動脈血PCO2はそんなに高くなく,またすみやかに元の状態に戻ること,マスクによつて吸気の酸素濃度を中等度に上げてやると動脈血酸素飽和度が正常に帰ることなどの事実にもとづいて,肺内ガス分布異常,つまり一部の肺胞のunder-ventilationが原因として最も考えられると結論している。酸素療法はこのような術後患者に施行されるのみではなく,内科方面においても古くから末期患者,呼吸困難を訴える患者などに対して行なわれていた。しかし,金属製またはガラス製の漏斗ないしマスクを顔面から数cmの距離にぶら下げておいて,酸素をポコリ,ポコリと流す従来の方法は肺胞気中酸素濃度を上昇せしめるという点では全く無効である。この場合には,4l/minの酸素を流しても肺胞気中酸素濃度は14%に留まる。したがつて,どうせやるならもつと有効な酸素療法が望まれるわけである。

正常値

骨髄像

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.254 - P.255

正常骨髄像という意味
 健康な人からとつた骨髄穿刺液の所見というぐらいの意味にとれるが,だれが健康かということになると問題はそう簡単でない。
 われわれが正常骨髄像を出す材料にしたのは,"健康に"日常生活をおくつている若人で,日常検査により異常を認めず,血液像も"正常"なものにかぎった。健康と思われる442名の血液像を分析し,各要因において両極端にある5%のものを除外したのを"正常血液像"と考え,そのなかにはいらなかった2例をのぞいて17例につき骨髄像を出したのである。

他科との話合い

食事療法—その現状と今後のありかた

著者: 阿部達夫 ,   浅野誠一 ,   小池五郎

ページ範囲:P.243 - P.249

 食事療法は10年前と現在とではまつたく変わつてきた。かつては画一的な制限の一本槍であつたが,最近では各患者の代謝に合わせて食事内容も細分化され,かつ積極的な意味で考えられるようになつたが,その実施となると,医師,栄養士,患者の側といろいろ問題も多い。

基礎医学

胸腺—その機能についての最近の考えかた

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.256 - P.259

 長い間謎の臓器とされていた胸腺が,実は免疫機構の主役を演ずるものであることが最近になつてようやく解明された。それも若い医学者Millerが,生まれたばかりのハッカネズミで胸腺を摘除したのが契機となつたのであって,たまたま自己免疫や移植免疫など免疫学の領域でつぎつぎと新しい問題がでてきて,免疫機構の解明に世界中の医学者がおおわらわになつていた時期にこの画期的な知見が発表されたため,その後数多くの研究が相ついで行なわれ,まだわずかに5年しか経つていないのに,すでに胸腺のおもな機能がだいたい明るみに出されるにいたった。まだこまかい点では今後の研究にまつところが多いが,いままでにわかつたことをまとめて述べてみたい。

症例 心電図のよみ方(2)

神経筋疾患の心電図

著者: 難波和 ,   廓由起枝

ページ範囲:P.265 - P.268

 進行性筋ジストロフィー症,Friedreich運動失調症,強直性筋萎縮症,Thomsen病,重症筋無力症などの神経筋疾患で,心電図上,いろいろな所見を呈することは,以前から知られている。今回は心電図変化を認めた進行性筋ジストロフィー症(以下DMPと省略)と,脊髄性進行性筋萎縮症(Wohlfart-Kugelberg-Welander 病,以下SPMAと省略)とについて,その異常心電図所見を中心に文献的考察を加えてみたいと思う。

レントゲン写真を中心とした腰痛の症例(1)

腰仙移行椎,リチャード氏病,脊椎分離症,分離すべり症,非分離すべり症

著者: 恩地裕

ページ範囲:P.269 - P.272

 腰痛を訴えて来院する患者の数は非常に多い。しかるに,腰痛の原因をつきとめる診断方法はごくかぎられている。大部分がレントゲン検査によつているが,残念ながらレントゲンによつて腰痛の原因が確定されることは半数ぐらいといつてよいのではないか。しかし,他によい方法もないから,レントゲンを中心として,腰痛は診断しているのが現状であるから,以下に,腰痛を起こす疾患のレントゲンを示して,多少の説明を加えてみる。

グラフ

口角炎・舌炎

著者: 阿部達夫

ページ範囲:P.166 - P.167

 口角炎,舌炎は単独におこることもあるが,しばしば合併する.また口唇炎や口内炎と合併することもある.
 口角炎は1)細菌,ウイルス,真菌などによる感染性口角炎,2)ビタミン,主としてB2欠乏による欠乏性口角炎,3)唾液などの刺激による機械的口角炎,4)原因不明の特発性口角炎に区分される.もちろんこれらの原因が重なりあつておこることが多い.一般に小児期に多いが,成人でも重症疾患で衰弱した場合などにおこり易い.小児にみられるものは,俗に烏の灸などといつて,昔はかなり多かつたが,最近は少なくなつた.栄養や衛生環境がよくなつたことも関係しているのであろう.
 舌炎もその原因は大体口角炎のさいにのべたのと同様である.その他中毒性のもの,二次的ビタミン欠乏症のさいの舌炎などは注意されるべきものであろう.

凝血時間測定法

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.169 - P.171

 凝血時間というのは,採血した血液が採血直後から凝固が完結するまでの時間を測定する方法である。血液は生体の血管内では流動性を示しているが、採血にさいして注射器と試験管などの異物面に凝血因子が接触することにより不活性型の接触因子すなわち第XII,第XI因子が活性化されて凝血が開始し,フィブリンが形成されることにより凝血は完了する。
 したがって凝血機序に関与する各因子の欠乏(特に血友病および類血友病)は凝血時間の延長を呈する。しかし,血友病といえども軽度の欠乏症では正常値を呈するので注意しなければならない。スクリーニング・テストとして部分トロンボプラスチン時間partial thromboplastin time(PTT)など測定を行なう必要がある所以である。また無フィブリノデン血症afibrinogenemiaでは全く凝血は起こらない。

子どもの骨(2)—手部、足部の骨格変異

著者: 杉浦保夫

ページ範囲:P.172 - P.174

 手部や足部は多くの小骨により複雑,精巧に構築されているが,まつたく健康な児童にも種々な骨格変異Skeletal variantがかなりの頻度に観察されるし,軟骨性骨端核や軟骨性骨核の骨化過程の初期には様々な形の一過性の生理的不規則骨化X線像が認められる。
 これらX線像はしばしば骨端炎その他の骨疾患陰影と混同されたり,骨折その他の外傷性変化と誤診されたり,ただちに全身性疾患の随伴症状と判定されたりしており,病的所見を正しく判断するためにはこれらX線像の発生部位,頻度,年齢分布などに対する正しい知識を持つことが必要である。

If…

"死病はがんだといい"—九大名誉教授福岡赤十字病院長 楠五郎雄氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.226 - P.227

河上肇の「貧乏物語」を読む
 長谷川 医師になられる方の周囲には,何か,医師になるような雰囲気や,契機があるものですが,先生の場合,医師になられたのはどんな契機からですか。
 楠 別にいきさつはありませんね。兄が医師だつた。後藤外科の助教授になつて死んだ。兄のあとを歩いてゆけば楽だと思つて医師になつたようなものですな。

私の意見

保険診療と過剰な患者

著者: 浜馨

ページ範囲:P.230 - P.230

 現在の日本の医療制度を反省するとき,国民皆保険といえるいまでは,まず保険医療制度が問題になると思う。最近はとくに,健康保険の制度および診療報酬算定方法の改正をめぐつて,診療担当者側と支払者側との間の論争が絶えない。改正は行なわれても,まだまだ両者がともに納得のいく案が出るまでは,真剣に腰をおちつけて検討をつづけねばなるまいと思う。

社会保険診療の限界について

著者: I. M. 生

ページ範囲:P.231 - P.231

 政府管掌の保険が750億からの赤字に悩み,その打開策として保険料の値上げを含めた保険三法の改正が取り沙汰されている。
 日韓問題であおりをくつた国会が,この問題をとりあげるまでにはまだ多少の時日を要するとしても,いずれ国民の医療に関する負担は国民自身の負担において新しい局面を迎えることは必至である。濫(らん)療とさえいわれている現行の保険制度が,自分自身の犠牲において解決を強いられたとすれば,このさき,国民がどんなかたちで医療を期待するか,その混乱を恐れるのは私だけではあるまい。

われわれのインターン生活

インターン制度否定の実践

著者: 青年医師連合結成準備連絡会議東大病院支部

ページ範囲:P.232 - P.232

 われわれ,東大病院に結集した百数十名は,インターン制度という矛盾に満ちた状況の中に,自己自身の姿を見出し,そして,その状況の変革を目指すインターン完全廃止の闘争を介して,自らの生活と未来を創造的に作りあげてゆく過程を生きてきた。つまり,われわれのインターン生活とは,われわれ自身とわれわれを取り巻く状況の限りなき変革を追求して闘つた集団の知性と勇気が造りあげた一つの「記録」であり,「歴史」であり,また,一つの「潮流」でもある。

この症例をどう診断する?・7

出題

ページ範囲:P.164 - P.164

症例
 68歳,男子,職業,会社重役
主訴:発作性呼吸困難

討議

著者: 田崎義昭 ,   和田敬 ,   金上晴夫 ,   梅田博道

ページ範囲:P.282 - P.287

せき,たん,喘息様発作
 田崎 肺炎がなおつたあと呼吸困難があつて,喘鳴がある。せき,たんも多いということですね。とにかくこれは冬に悪くなつて,数年来つづいているんだから,一応基礎疾患としては,慢性の気管支炎があるんじやないかと思うんです。ただ,慢性気管支炎だけれども,発作性の呼吸困難が主訴なんだから,とにかく喘息様になつているんだろうと思うのです。そうすると,子どもではよく喘息性気管支炎というけど,おとなの場合でも慢性気管支炎の一つのタイプとして,やはりあつてもいいんじやないかと思うのですが,いかがでしよう。
 和田 隅田川の近くというのも変だね。

請求明細書から診断治療を検討する・2

2つの高血圧症について—降圧剤の使い方

著者: 古平義郎 ,   五島雄一郎 ,   井原仙二 ,   山田満雄

ページ範囲:P.218 - P.223

 1月号では,請求明細書のA・Bの症例について,主として診断と検査について,検討致しました。今月号では,治療,主として降圧剤の使い方,投与のし方などはこれでよいだろうかといつた使用上の注意点などを検討していただきました。

Bed-side Diagnosis・6

A Case of Acute Pulmonary Infection in a Young Male

著者: 和田敬

ページ範囲:P.280 - P.281

Dr. A (Medical Resident):This morning we are almost through with rounds, except for one more case. I already know the final diagnosis in this case but I would like to know your opinion, if you don't mind.
Dr. B (Medical Consultant):Sounds like I am having an examination. Of course I don't mind. Go ahead and tell me the story.

痛みのシリーズ・4

がんこな痛みの対策

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.260 - P.261

 日常,痛みを起こす原因が明らかであれば,それに従つて対策もたてられるが,実際によく考えてみると,痛みのよい客観的な測定法がないので,臨床医の苦労も大変のことと思われる。ここでは,そのなかでも頑固な痛みの問題にふれてみる。

ルポルタージュ

都大路の救急病院—京都第2赤十字病院救急分院を訪ねて

著者: 張知夫

ページ範囲:P.276 - P.279

 深夜の開頭手術で人手の足りぬときなど,かつてこの病院に勤め今は開業している医師が,よろこんで駆けつけてくれるという。救急医療に対する学問的人道的な熱意と,運営のウマサの一端をここにご紹介しよう。

統計

諸外国の成人病死亡

著者: 滝川勝人

ページ範囲:P.197 - P.197

 衛生状態の改善,人口の老齢化にともなつて,悪性新生物,中枢神経系の血管損傷,心臓の疾患,高血圧症,老衰など,いわゆる成人病による死亡が,世界各国とも逐年増加の傾向にあります。1962年の主な国における総死亡に対する成人病死亡の占める割合をみますと,日本57.6%,アメリカ68.3%,フランス64.7%,西ドイツ64.1%,オランダ68.9%,イングランド・ウェールス64.3%,オーストラリア66.0%,ニュージーランド64.3%と非常に高い割合を示しております。また,これら成人病のなかでも,死因別に人口10万対の死亡率でみますと,悪性新生物では,イングランド・ウェールスの217.5がもつとも高く,ついでデンマークの213.5,西ドイツの209.5とつづいており,中枢神経系の血管損傷では,西ドイツの173.3が最も高く,ついで日本の169.4,イングランド・ウェールスの167.6,心臓の疾患では,イングランド・ウェールスの369.4がもつとも高く,ついでアメリカの336.5,スウェーデンの317.9となつております。これらをなお詳細に観察するためには,それぞれの死因,国ごとに訂正死亡率を求めて,比較する必要があると思われます。
 最近10年間における日・英・米の成人病死亡について,死因別に人口10万対の粗死亡率をみたのが下図であります。悪性新生物、心臓の疾患については,三国とも増加の傾向にあります。

文献抄録

咳を科学的に分析して診断に役立てる/変質したテトラサイクリンの服用は危険—ファンコニー症候群を惹起する

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.262 - P.263

はじめに:
 咳は古くから実地医家になじみの深い自覚症状の一つである。咳の音響学的な性質を分析して,あるいは咳のさまざまな性質に病歴や理学所見を組合せて,主として呼吸器の病気の診断に役立てようと,先人は努力してきた。たとえば,犬の吠えるような咳は喉頭ジフテリアまたは仮性クルップを疑えとか,深い湿つた咳は肺炎を,気の抜けたような乾咳が長くつづくのは初期の肺結核を,そもそもの初めから膿性痰をともなう深い咳は気管支拡張を,また40歳を過ぎた人がいつもと違つた咳を数週間もつづければいちおう気管支ガンを疑え,などというのがそれである。また心因性の咳はすべての咳のうち2〜4%を占めるとか,後鼻腔の鼻汁も咳の原因になることが多いとかいうのも,咳に関する臨床的知識の一部である。
 しかし,以上は科学的データというには,余りにもお粗末である。むしろ,臨床診断のコツとでもいうべきカテゴリーに属するといつた方がよいようである。

話題

第3回日本がん治療学会総会より

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.161 - P.161

 第3回日本がん治療学会総会は,私が会長となり,昭和40年11月2日,3日の2日間にわたつて東北大学の講堂において行なわれ,180の一般演題と4つのシンポジウムにおいてがん治療の最新の研究成果の発表と活発な意見の交換がなされた。

第7回日本老年医学会総会より

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.163 - P.163

 第7回日本老年医学会総会は私が会長となり,昭和40年10月31日,11月1日の2日間にわたつて東北大学の記念講堂および川内講堂の2会場において行なわれ,会長演説(老年者の消化器疾患),スエーデンのKarolinka研究所のS. Bergström教授の招待講演のほか,186の一般演題および2つのシンポジウムにおいて研究成果の発表と討議が活発に行なわれた。

ニュース

アメリカ合衆国医師会の活動

ページ範囲:P.224 - P.224

 アメリカ合衆国医師会の活動分野は,新薬の問題から健康保険の問題にいたるまできわめて広範であるが,大別すると医療水準の向上,医業の質と量の規制,医業の形態と報酬の決定,急激な進展をしめしつつある健康保険の分野での政府活動の抑制の四つに要約できる。つぎにその一部を紹介しよう。

大蔵省の保険三法改正意見

ページ範囲:P.264 - P.264

 厚生省の健保法など保険三法改正案は,社会保険審議会が国庫負担の大幅増額を前提とした赤字対策を答申したため,この趣旨にそつて手直しがおこなわれることになつたが,大蔵省当局はこの社会保険審議会の答申に抵抗をしめし,自民党医療基本問題調査会や同党政調社会部会などに,保険財政再建対策に関する大蔵省の意見書を提出した。このなかで,とくに大蔵省は「国庫負担の増額が問題の根本解決とはならない。今日の医療保険の財政危機は収支両面に問題がある」と国庫負担増額論に反論し,薬剤費の一部自己負担の必要性を強調している。
 この意見書によると,わが国の医療保険に対して国庫負担を増大すべしという意見は大別すると3つに分かれ,その1は,政管健保などの赤字はすべて国庫で負担せよというものであり,その2は,社会党の40年度予算修正案にも見られるように,日雇い健保と国保に対する国庫負担率を引き上げるとともに,一般被用者保険に対しても定率の補助を行なうというものであり,その3は,医療費緊急是正9.5%アップに見合う保険者負担増を国庫で肩代りせよという意見である。そして40年度の所要経費は1の場合1,300億円,2の場合830億円,3の場合は512億円である。

今月の表紙

ハイデルベルクの薬学博物館

著者: 本田一二

ページ範囲:P.200 - P.200

 ハイデルベルクの古城は,対岸の山腹をぬう「哲学者の小道」をたどりながら,ネカー川越しにながめる方が印象的である。緑の中に,淡褐色の古城のレンガが映えて美しい。この古城の中に「ドイツ薬学博物館」がある。中世の薬局が再現され,諸種の蒸留装置や大小のハカリ,製薬用の諸器具,薬を入れる美しい陶器のつぼなどが多数展示され,昔の薬学,化学者の苦心のあとをしのぶことができ,興味深い。
 ルプレヒト・カール大学ハイデルベルクは,1386年の創立で,ドイツ最古。年代記をひもとくと,医科の教授もはじめは僧籍の独身者であつたが,1498年から妻帯者を教授にしたという。学問が,僧職から俗人の手に移ったのである。中世の大学は,教育に重点がおかれ,研究は従であつたが,ハイデルベルク大学は,16世紀に植物園を設けて薬用植物を栽培,17世紀になると,実験室をつくつて製剤の研究をはじめた。臨床講義は,1743年から行なわれた。世界に冠たるドイツ医学も,200年前はきわめて牧歌的であつたらしい。

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きのう・きょう・あした

著者: 服部一郎

ページ範囲:P.225 - P.225

名刺
 迎えの自動車が来ず朝からいらいらする。約30分遅れて病院にかけこみ机の上に積まれたカルテの山を見ると,いよいよのぼせあがつて,いけないと思いながらつい語気も荒くなり,つつけんどんな応待をしてしまう。魔の時間はこんな日の外来をなんとかかたづけてやつと食堂で飯にありついた午後もだいぶ過ぎたころである。
 「新患が3名きています」

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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