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雑誌目次

雑誌文献

medicina3巻7号

1966年07月発行

雑誌目次

EDITORIAL

公立病院のありかた

著者: 森泰樹

ページ範囲:P.941 - P.943

公立病院の発展
 戦後日本の経済が安定の度を増して行くにつれて,今まではまつたく忘れられていた社会保障制度が大きく前進したことは周知のとおりである。社会保障制度のもつとも進歩しているといわれているイギリスでは,
 No lasting Peace without social Justice.
 No social Justice without social security.

今月の主題

心筋硬塞

著者: 前川孫二郎

ページ範囲:P.944 - P.949

 心筋硬塞は今日わが国でも日常の疾患となり,もはや欧米のそれとして,対岸の火災視するわけにはいかなくなった。これは診断技術の進歩にもよるだろうが,それ以上にわが国民の生活様式が欧米化したことにあると思われる。原因であるアテローム性動脈硬化はともかくとして,本症に対するわれわれの知識は相当進歩した。しかしそれを十分理解し,確められた経験とするには,わが国の本症における歴史はまだ浅い。本稿はそういうことを頭において,簡にして要をえた記述を心掛けたものである。

妊娠と腎炎

著者: 上田泰

ページ範囲:P.950 - P.953

 腎炎患を多く取り扱う内科医がつねに困惑するのは糸球依腎炎に罹患した女性が妊娠した場合に,その対策があまり合理的でないことが驚くほど多いということである。妊娠の継続のまつたく不可能と思われる場合にその妊娠が漫然としてつづけられて好ましからざる事態をひき起こす一方,逆に当然妊娠の継続が可能と思われるようなものにもただ単に「尿蛋白陽性」ということだけでなんの躊躇もなく人工流産が行なわれる事実である。これらの問題についての幾つかを述べてみよう。

<話合い>心臓血管障害—その考えかたと臨床

著者: 和田敬 ,   尾前照雄 ,   中村元臣 ,   森博愛

ページ範囲:P.954 - P.962

 心臓病の臨床に関するあすへの展望という,大きな問題を話合つていただいた。脳出血と心筋硬塞との関係,高血圧と脳出血,心筋硬塞と血圧,高血圧と動脈硬化症,動脈硬化をどう考えるべきか,動脈硬化の促進因子など,多彩な問題から,生活指導が導き出されていく……。

薬の反省

性ホルモン

著者: 赤須文男

ページ範囲:P.964 - P.965

 昔の性ホルモンは臓器から抽出した天然のホルモンで有効成分が少なく,したがつて効果もむしろ暗示的程度であつたが,それだけに副作用もほとんど見られなかつた。いまの性ホルモンは性ステロイドといつたほうが正しく,いわゆる高単位で有効であるだけに,使用法が適切でないと思いがけない副作用を発現する。以下、編集者の依頼により,これらの点について2,3記述しようと思う。

診断のポイント

内科医のための頭部外傷の見分けかた—血腫と脳浮腫の鑑別

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.967 - P.969

 頭部外傷の患者が運び込まれたときに,内科医の立場からどう扱つたらよいかを簡単に述べる。

伝染性単核球症

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.970 - P.971

 伝染性単核球症とは別名腺熱ともよばれ,全身のリンパ節腫,発熱,単核球増多の主徴を有し,異種血球凝集反応で上昇を示す疾患をいい,本邦では鏡熱(熊本),日向熱(宮崎),土佐熱(高知)などの地方病として知られる疾患もその多くは本病に包含される。

治療のポイント

抗真菌剤

著者: 螺良英郎

ページ範囲:P.974 - P.975

真菌症
 微生物学のなかで"かび"の占める位置は大きい。遺伝の問題,抗生物質,菌体成分の問題など広い範囲にまたがつてかびは利用せられている。しかしかびによる病気一真菌症はヒトの皮膚(皮膚真菌症,dermatomycosis)はもちろん内臓諸臓器をもおかし(深在性真菌症,deep seated or systemic mycosis)治療の困難な点からいろいろ問題にされている。皮膚真菌症の治療は抗真菌剤の立場からは欠かすことはできないし,一部内臓真菌症とも関連しているが,筆者の専門外でもあるのでここでは内臓真菌症にかぎつて述べる。この内臓真菌症の種類とこの病気の原因となるかびpathogenic fungiは記憶しやすいように菌学的な立場から分類してみると以下のものがある。
 1.酵母様の真菌によるもの(yeastlike fungi)カンジダ症(Candida albicansほかのCandida属),ジオトリクム症(Geotrichum candidum),クリプトコックス症(Cryptococcus neoformans)

心因性胃腸疾患

著者: 伊藤薫二

ページ範囲:P.976 - P.977

胃腸疾患に対する基本的考えかた
 胃腸病として取り扱われているもののうち,腫瘍,細菌感染,機械的通過障害などをのぞけば日常遭遇する大半の胃腸病といわれているものの病名分類はウイルヒョーの細胞病理学にもとずいた形態学的分類である。これに近年だんだんと機能的見解がとりいれられてきているこの考えかたも多くは自律神経の機能的アンバランスという次元で考えられ,説明されている。
 一般に見られる胃腸病は局所の形態学的研究だけをもつてはその成立機転は解明されていない。

腎盂腎炎

著者: 大野丞二

ページ範囲:P.978 - P.979

急性腎盂腎炎
 発熱,腰部痛,白血球増多症などとともに顕著な尿所見を呈するので,診断は比較的容易であるが,外見上の治癒にあまんじてその後の観察を怠ると慢性腎盂腎炎に移行する危険を伴うこと,および急性腎盂腎炎と思つていたものがじつは慢性腎盂腎炎の急性増悪によることがあるので注意が肝要である。
 治療の要点は合理的な化学療法により数日間で自覚症状,病的尿所見が去つてもただちに化学療法を中止せず,約4週間にわたり有効な抗生剤投与をつづけることが必要である。また治療終了後は3カ月に一度ずつ1年間は尿所見を細菌学的にも追究し,かつ腎機能をもチェックして慢性化を防止する必要がある。

軽度の蛋白尿の生活指導

著者: 三条貞三

ページ範囲:P.980 - P.981

軽度の蛋白尿について
 尿蛋白の存在はすぐに腎疾患を考えさせる。しかしとくに腎に異常のない人でも微量の蛋白はつねに尿中に存在し,尿量と尿蛋自濃度との間には逆相関が見られる。したがつて尿量との関係を知るためにも尿比重を同時に測り,蛋白濃度が10〜20mg/dl以上の場合をふつう病的と考える。
 さて軽度(0.5g/日以下)の連続性蛋白尿の見られる場合は,慢性腎炎,尿細管異常,嚢胞腎,良性腎硬化症,腎盂腎炎などがあり,また間歇性蛋白尿では起立性蛋白尿のこともある。さらに無症候性間歇性蛋白尿の人でも,腎生検を行なうと約半数に慢性腎炎,腎盂腎炎,局所腎炎などの病変が認められている。

ファースト・エイド 座談会

救急疾患をめぐって(II)

著者: 川上武 ,   帯刀弘之 ,   毛利子来 ,   橋本貫一 ,   斎藤悦郎 ,   十念一浩

ページ範囲:P.982 - P.985

 前号(3巻6号)では,第一線の医師は,急患にどう対処すべきか,そのありかたが話題となつたが,さて,今回はより救急に腕をふるうために、それを可能とする条件,通常用意すべき器具・薬品などにふれ,救急体制におよんでいく……。

器械の使い方

直示天びん

著者: 石井暢

ページ範囲:P.986 - P.988

 種々の物質を"ひよう量"することはすべての実験の基礎になる,試薬の調製,標準物質のひよう量,計算器の検定すべて天びんが使用されないことはない。
 最近種々の物理的検定手段をもちいて分析し測定する方法が開発されるにいたり,天びんの使用頻度は多少減少しているとはいいながら,なお物質のひよう量ということは一般的な実験の基礎をなしている。したがつて天びんの使用をまつたくさけることはできないし,またこれを正しくかつ能率的にもちいることは,実験能率を高めるとともに,その精度を維持するうえにきわめて重要な因子と考えられる。

正常値

出血時間と凝固時間

著者: 山中学

ページ範囲:P.1018 - P.1020

 この二つの測定は,出血性素因検査のなかで,もっとも基本的なものであるが,耳朶などの皮膚を刺して,湧出する血液が自然に止まるまでの時間である出血時間と,静脈穿刺により得た血液が,試験管内で自然に凝固するまでの凝固時間(正確には全血凝固時間)とは,まつたくべつのものである。通常生体において,出血が止まるためには,(1)傷害された血管壁に血小板がついて,いわゆる血小板血栓をつくる。(2)傷害血管壁が収縮する。(3)血液凝固反応が開始されてフィブリンを析出することが必要であるが,出血時間測定のごとく,毛細血管を傷つけた場合には,傷害部の皮膚組織の性状,血管壁の状態と,血小板の機能,とくに粘着凝集力に左右され,血液凝固因子はほとんど関与しない。血液凝固過程におけるフィブリン網の最初の析出まで,出血時間の正常値である3分以上を必要とすること,凝固時間の著明な延長を示す血友病で,出血時間は正常範囲にあり,逆に出血時間の長い血小板減少性紫斑病で,凝固時間はほとんど正常値を示すことからも,容易に理解されよう。

他科との話合い

胃切除後の障害と生活指導

著者: 松永藤雄 ,   浜口栄祐

ページ範囲:P.1010 - P.1015

 胃切除後の患者には,いろいろの障害がみられる。自然になおるものも多いが,時には危険なこともある。外科と内科からみた胃切除後障害と術後患者の管理について。

基礎医学

免疫グロブリン—臨床に必要な基礎的知識

著者: 高月清

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 生体はいろいろな仕組みで病原体その他異物の侵入を防いでいるが,重要な役割を演ずるものに免疫グロブリンがある。抗体が血清のγグロブリンに存在することは20年以上も前から認められていたが,現在では正常人血清の抗体成分にはγG,γA,γD,γMの種類が区別され,これらの循環抗体を総括して免疫グロブリンとよぶ。もちろん正常人の免疫グロブリンの全分子が抗体としての活性をもつているか否かについては疑問がある。研究の手段として免疫電気泳動法がよくもちいられるが,本誌2巻11号(昭和40年11月)に解説したから参照されたい。

症例 症例からみた心臓疾患の診断(1)

運動時の息ぎれと起床時のむくみを訴える患者の1例

著者: 伊藤良雄

ページ範囲:P.1029 - P.1032

症例
 36歳,男,会社員,中学校時代心臓が悪いといわれたことがある。現在急いで階段をのぼつたりすると少し息苦しい,起床時に顔や手がはれぼつたいなどの主訴がある。

レ線像から先天性心疾患をみわける(III)

著者: 高尾篤良

ページ範囲:P.1033 - P.1036

 第1回,第2回と,先天性心疾患レ線上の基本について復習してきたので,今回は,症例の写真のみをかかげてみる。前号を机上において,熟読した後,症例と対比しつつ読んでいただきたい。

グラフ

マイコプラスマ肺炎

著者: 北本治 ,   中村昭司

ページ範囲:P.930 - P.931

 いわゆる原発性非定型肺炎(PAP)の病原体の一つとして,近年Mycoplasma Pnumoniaeが重要な役割を果していることが判明した。病原体の名前をつけて「マイコプラスマ肺炎」と一応呼称している。詳細は17頁掲載の拙文を合わせて参照願いたい。

マイコプラスマ肺炎

著者: 北本治 ,   中村昭司

ページ範囲:P.933 - P.935

 近年,マイコプラスマ(Mycoplasma,別称PPLO)の研究が急速に進展した。この微生物は,大きさはほとんどウイルスなみであるが,ウイルスとは異なり,無細胞培地でも増殖する。分類上は細菌に属しているが,一般細菌とはいくつかの点で性状を異にしている。
 これまでに,ヒトから分離されたマイコプラスマは数種知られているが,その中の一つであるMycoplasma pneumoniae(以下 M. pn. と略す)は,1944年にいわゆる原発性非定型肺炎(PAP)の患者から初めて分離され(Eatonら),さらに,1957年,螢光抗体法の導入によりPAPの病原体の一つであることが確認された(Liu)。以来,研究は各国で手広く行なわれ,現在ではPAPの一つの病原体であるばかりでなく,その他の気道炎をも起こすことが知られている。

血液培養

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.936 - P.938

 敗血症,菌血症の診療には,血液培養は不可欠である。血液培養によつて原因菌を検出し,その菌の感受性検査を行なうことによつて,初めて適切な治療を行なうことができる。血液培養を行なわないで化学療法を始めたために,原因菌が検出しにくくなり,敗血症の診断がつかず,したがつて適正な治療ができない場合もまれではない。
 ところが,従来は血液培養はなかなかめんどうであつた。ことに夜間や休日で検査室が休みの場合,あるいは往診先で,採血して培地へ無菌的に混ずることは,めんどうでもあるし,また熟練を要するので,なかなか実行できなかつた。

検査データーの考えかたとその対策

尿タンパク質陽性

著者: 林康之

ページ範囲:P.966 - P.966

 尿タンパク質定性検査はスクリーニングの目的でほとんどすべての患者に行なわれるが,結果の「陽性」がただちに正しい診断,治療につながるわけではない。またタンパク尿を見たとき,まず糸球体濾過,細尿管再吸収機構の異常による場合と,外傷,感染などによる血液または細胞タンパクの混入による場合とを鑑別することが常識となつている。したがつて「陽性」のとき,ただちにつぎの鑑別診断のための検査に移らねばタンパク尿を発見した臨床的意義は少ない。以下簡単に日常検査としてどのように検査を進めるかを中心に述べる。

きのう・きょう・あした

医学訓練について

著者: 榊原仟

ページ範囲:P.989 - P.989

×月×日
 私学の学長院長会議に出席。インターン問題が諸題の中心であつた。この問題は根本的な一点が改められないかぎり,問題は解決しないように思う。一点とは医療費制度の改革である。
 大学を卒業したというのでただちに一人前の医師ではないことはだれの目にも明らかで,だから卒業後一定期間の医学訓練が必要だということは異存がないだろう。この期間をインターンとよぼうが,副手とよぼうが,実質には変わりがないのである。

If…

"The goal of man is to become more human"—Ullung-do Schweitzer-hoseの李一善氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.990 - P.991

高橋功博士に会えないのは残念
 長谷川 今回の来日はAlbert Schweitzer International Convocationに参加するための途中ですね。スケジュールはどんなものですか。
 李 Convocationは5月の27日から6月1日までアメリカのコロラド州のAspenにあるAspenInstitute for Humanistic Studiesで開かれます。私はそれに参加して,それからニューヨークにゆき,各地の友人を約1カ月訪問する予定です。それから,できればランバレネのAlbert Schweitzer Hospitalに行きたいと思っています。しかし,高橋功博士は帰国されると聞いておりますので,お会いできないのは残念です。

私の意見

医師の待遇についての一試案

著者: 柏崎昭

ページ範囲:P.994 - P.994

 医療制度の混乱を解決するのに為政者たちは健保財政のたてなおしに狂奔している。しかしその原因の糾明なくしては,その成果も近くふたたび崩壊することは明らかであろう。貧困な財政で発足した国民皆保険制度と低医療費に由来する乱診,乱療がその原因となつているのは多くの人が認めることである。私はこの解決策の一つとして疾病予防に力をそそぐべきと考え,昨年春『医療の広場』に小文を投稿した。
 医学が国家の福祉に結びつくには疾病予防,医療,社会復帰の三者がうまくかみ合わなければならない。医師の数もそれ相当要求されるし,その専門も高度のものが要求されるはずである。しかし現況では医療制度の中心は診療であり,社会復帰がやや軌道にのり,疾病予防についてはまだ一般的に関心がうすく,国家予算もまことに少額である。医療給付にのみ追われて,その対策に腐心して社会復帰・疾病予防面が遅れているのはまったく遺憾にたえない。われわれ医師にしても診療に時間をとられすぎるし,また,経済的余裕もないので積極的に努力しないのが現在の状況であろう。病院にしても医療の給付によつて独立採算のもとで経営されているかぎり,給付の対象にならない他の面についてはあまり積極的に動かないのもよく理解できる。あれこれと考えてみると結局,日本の医学が現在では福祉事業面からみて,まだ不十分であるといわざるをえない。

一院長の願い

著者: 石原直

ページ範囲:P.995 - P.995

 私は国鉄の病院に終戦後まもなく就職したが当時は外地からの復員の軍医が多くてどこも就職難で医師があまつていたころである。
 給料も当時はまことに低くて駅の助役くらいのものであつた。そのころの炭鉱の景気はまことにすばらしくて安サラリーに厭気をさした鉄道病院の医師が炭鉱病院につぎつぎと鞍替えをして去つて行つた。

私のインターン生活

恵まれた環境,充実した教育

著者: 金子明博

ページ範囲:P.996 - P.996

はげしいインターン制度反対の中で
 卒業試験中も,級友との長時間にわたる討論,採用試験当日は,医学連の激しい説得と坐りこみを,警視庁特別機動隊の出動により排除し,22名の受験者中10名もおとされるという,まことに厳しい難関を突破して,東大での唯一の"脱落者"である私は,金沢大,三重大,昭和大各2名,千葉大,九大,名大,横浜大,東邦大各1名,計11名の方々とともに,いま,毎日を実に楽しく,有意義におくつています。
 「教育は総合病院の一つの使命であり,社会的要請である」また「このごろはインターン制度はだめだという意見が出て,やめたほうがいい,とまで極論する人がいる。悪い点を改める努力をしないでうまくいかないから廃止するなんていうのは,どう考えてもおかしい」と考えられ,インターンルームに著書や医学誌を多数寄贈してくださる,沖中院長のもとで,他の先生方もインターン生に対して非常に理解があり,新しい病院のありかたを日本でうち出そうという意気にあふれているこの病院のよさをつくづく感じ,2週間ある有給休暇をとつて休みたいと思う者もいないほどの出席率です。

この症例をどう診断する?・12

出題

ページ範囲:P.928 - P.928

■症例
 28歳,男子,店員
主訴:激烈な腹痛

討議

著者: 梅田博道 ,   和田敬 ,   土屋雅春 ,   高橋淳 ,   市川平三郎 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.1047 - P.1051

こんな病気のあることを心がけてほしい例
 梅田 では例によつて田崎先生に少し症例を簡単に説明していただきましようか。補足するところを…
 田崎 だいたいこの問題に出ているだけで本当は当てていただきたい病気という意味で出したのです。私の分担は神経系の病気ですけれども,主訴はまつたくお門違いの腹痛ということで出したのです。おなかが痛いんだけれども神経に関係のある病気ということで,よくみなさんに討議していただきたいということです。じつはこれは,私の病院にくる前に開業医のところに行つて,イレウスだということで,非常にいろいろと騒がれた患者なのです。私もなかなかそう簡単には診断がつかなかつたという病気です。ただこれは,日常臨床にたずさわつている人が,いつもこういう病気があるんだということを心がけておいてほしい神経疾患であるという意味で出した問題です。

ルポルタージュ

沖縄の医療事情

著者: 今村栄一

ページ範囲:P.1043 - P.1046

……2月の下旬,ひよつとした機会があつて沖縄へ行くことができた。その1日を病院へ行つたり医師会を訪れたりしてみた。わずか1日の印象でルポを書くなどということは,とんでもないことであるが,それでもよいからというご注文なのである……

痛みのシリーズ・9

関節の痛み

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 関節の痛みを起こす疾患のなかでも,激烈な痛みを特徴とする痛風は,高尿酸血症や尿酸塩の沈着による痛風結節の存在から,尿酸代謝異常による疾患であることが知られている。
 痛風患者の尿酸関節内注入実験では,尿酸塩溶液や無結晶尿酸塩は無効であるが,顕微鏡下で針状を示す尿酸塩結晶では.痛みを特徴とする明らかな炎症反応を示した(Howell & Seegmiller,1961)が,この反応は24時間以内で消失する。炎症反応初期には,注入尿酸結晶は.滑液の白血球中に見られ,痛風発作中この結晶の喰菌作用が見られたが,無症状間歓期には結晶を含んだ滑液中には特記すべきこともなかつたという。痛風関節から吸引した液の90%に尿酸塩結晶が発見され,これが尿酸塩注入実験の根拠になつた。結晶は長さ10〜15μ.15-24mg/mlの懸濁液でつくられ,pHは7.0〜7.2である。生理的食塩水を等量注入した対症例では反応が起こらないが,尿酸塩懸濁液では注射後2時間で,かるいこわばり,かるい腫張,圧痛,温感,紅斑,筋力低下が起こつている。痛みも注射後2時間で突然起こつて,初めはかるい刺痛様であるが,つぎの2時間は持続的な鈍痛であり,それにつづいて深部の挫されるような激痛が大腿全部から中枢端に放散する。これは不規則な発作型を示すが,引き裂かれるような痛みがこれに重畳し,関節の過度の伸展と圧痛が強くなる。4時間後には.被検者は激痛のために疲憊したという。

Bed-side Diagnosis・8

A Case of Problematic Congestive Heart Failure in a Middle-Aged Woman

著者: 和田敬

ページ範囲:P.1026 - P.1027

 Dr. A (Medical Resident):We have a very interesting diagncstic problem this morning. A case of congestive heart failure* simulating* mitra valvular disease.
 Dr. B (Medical Consultant):Please tell me the history of the case.

統計

主要疾患の退院患者数と退院の理由

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.963 - P.963

 前号と同じ患者調査の結果から,全国より1/10抽出した病院の退院患者数と退院の理由が,この10年の間にどのように変化したかをみてみましよう。
 昭和39年6月1カ月間の退院患者は,虫垂炎がもつとも多く,結核,胃・十二指腸潰瘍などがこれにつづいています。退院患者の増加は10年前と比べますと,全疾患では1.8倍となっていますが,5倍以上のいちじるしい増加をみせているのは,糖尿病,骨折のない頭部損傷,脳卒中,高血圧症などであります。一方,結核,伝染病はいずれも10年前の6割程度に減少しています。

文献抄録

"心筋硬塞と低脂肪食"—ある対照実験の成績—Lancet 2:501-504 (Sept.11) 1965

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1042 - P.1042

はじめに:
 ある患者が心筋硬塞の発作を生きのびたとする。そのとき,患者または家族の人に食餌はどんなものをとつたがいいかときかれた医師は,はたしてどう答えるだろうか。
 私の想像では,ほとんどの医師が,"低脂肪食をとりなさい。飽和脂肪酸の多い脂肪、たとえば四足獣の脂肪はさけて,高級不飽和脂肪酸の多い植物性の油などをとるようにしなさい"というだろうと思う。

ニュース

健保の赤字1千億円

ページ範囲:P.1028 - P.1028

 与野党の意見が激しく対立した健康保険法の改正案は,去る4月末可決成立したが,当初千分の70に引き上げるべく予定されていた政管健保の保険料率の改正が,野党の反撃にあつて千分の65にとどまつたため,昭和41年度の単年度で224億円の赤字が予想され,累積赤字を加えると1千億円に近い食糧管理特別会計なみの赤字をだす見通しとなった。
 政管健保は,昭和37年度から収支のバランスがくずれ,昭和39年度には積立金のすべてを使いつくしてなお173億円の繰り越し赤字をだした。昭和40年度は単年度で535億円の赤字が見込まれたが,同年11月から実施された薬価基準の改正による支出減によつて523億円の赤宇となつたため,累積赤字は696億円となつた。このままで推移すると,昭和41年度単年度の赤字は720億円と予想されたので,政府は標準報酬の上限5万2千円を10万4千円に引き上げて138億円,保険料率を千分の63から千分の70に引き上げて290億円,国庫補助150億円,薬価基準の改正による支出減44億円,行政努力98億円,合わせて720億円の収入増加をはかり赤字をださない計画であつた。

話題 内科学会総会宿題報告

リウマチの臨床—九大温泉治療研究所・内科矢野良一教授の報告

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.925 - P.925

 従来内科学会の宿題報告のなかには,その専門分野以外の人々や診療の第一線に従事している医師には難解なものもあつたが,今回の矢野教授のご発表は,教授の永年にわたる豊富な材料と臨床経験にもとづく詳細な報告であるにかかわらず,聴衆に非常に理解しやすいように話され,また,いくつかの実際面での注意すべき点が指摘され,きわめて有益な報告であつた。

糖尿病に関する演題のなかから

著者: 北村信一 ,   田中剛二

ページ範囲:P.927 - P.927

 近年わが国の糖尿病は増えつつあり,これに伴い糖尿病に対する医師の関心もたかまつている。4月1日から3日間福岡において開催された第63回日本内科学会の報告にもこの傾向がうかがわれ,一般演題165題のうち糖尿病に関する演題は従来に比し増えて10題をかぞえ,その内容も多岐にわたつていた。このうち印象に残つたテーマについて感想を述べてみる。

今月の表紙

「メイヨー・クリニック」

著者: 本田一二

ページ範囲:P.949 - P.949

 アメリカの酪農地帯,ミネソタ州の東南部にあるロチェスターは,人口3万たらずの小さな町である。見るべき名所旧蹟もない。それなのに世界的に名がとおつているのは,メイヨー・クリニックがあるためである。
 メイヨー公園に行くと,ウィリアム・W・メイヨー(1819〜1911年)の銅像が立つている。「開拓者,医師,市民にして,青雲の志を抱ける,達見の人なりき」と,碑文に刻まれている。この初代メイヨー博士が,ロチェスターに小さな診療所を構えた1864年を,同クリニック創業の年とし,ついさきごろ100年祭の催しがあつたばかりである。

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技術者としての臨床医

著者: 川上武

ページ範囲:P.1037 - P.1039

臨床医の技術の誤解
 臨床医の生涯は技術問題をぬきには語れない。臨床医の技術をどう考えるかは,臨床医個人の問題にとどまらず,医療体系の展望と深くかかわりあつている。臨床医の技術と医療体系との関連を明らかにすることは,臨床医に技術者としての生きかたを示すと同時に,現在の混乱した医療体系の出口を探るうえで重要な意味をもつてくる。
 臨床医の技術というと一般には,専門医と一般医(家庭医)・年長の医者と若い医者・大病院と小病院,開業医といつた対比で,問題が考えられやすい。この場合に,技術的に前者は後者よりすぐれていると無条件に信じられ,その前提のうえにたつて論議が進められることが多い。この発想の根底には,技術を形骸化したものとして把握し,それと経済問題とをからませている点がある。このような技術を固定化して考える発想からなにものも生まれないことは,専門医問題・病院医療の混乱の解決にこれといつた見通しをえられないところにあらわれている。臨床医の技術をたえず前進しなくてはならないものとして,ダイナミックにとらえないかぎり,これらの問題は堂々めぐりに終つていくであろう。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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