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雑誌目次

雑誌文献

medicina30巻11号

1993年10月発行

雑誌目次

今月の主題 膠原病—診断へのアプローチと最新の治療法 Editorial

膠原病の概念,範囲と診断,研究の動向

著者: 伊藤幸治

ページ範囲:P.1816 - P.1820

●膠原病は結合組織のフィブリノイド変性を特徴とする疾患群で,RA,SLE,PSS,PM/DM,PNを代表的疾患とし,その他に膠原病類縁疾患も含んでいる.
●膠原病は多臓器に変化を生じ,再燃と寛解を繰り返す慢性疾患で心肺障害例は予後がよくない.
●膠原病の多くに自己抗体が検出されるが,真の原因は不明である.
●DMARDおよびステロイドが有効であるが,免疫抑制薬,免疫調節薬を必要とする例は少なくない.
●原因解明,治療の開発に免疫学,ウイルス学,分子生物学,分子遺伝学の手法が用いられている.

膠原病理解のための臨床免疫学

膠原病と臨床免疫学との関わり

著者: 狩野庄吾

ページ範囲:P.1822 - P.1824

●膠原病は,抗核抗体,血中免疫複合体高値・血清補体低値,病変部への免疫グロブリン沈着・免疫細胞の集積から,自己免疫疾患と考えられる.
●抗核抗体の対応自己抗原はDNAの遺伝情報を発現する過程で働く機能分子で,機能に関係した部位が抗原決定基となっている.
●抗原呈示を通じて免疫応答に関与するHLA-DRが膠原病の遺伝的素因に関連する.
●免疫寛容,リンパ球機能的亜群,接着分子,サイトカインに関する臨床免疫学の進歩が膠原病の発症機序の理解に役立っている.

免疫担当細胞

著者: 尾崎承一

ページ範囲:P.1825 - P.1827

●免疫系の役割は非自己の識別と排除である.
●非自己の識別は抗原レセプターを有するB細胞とT細胞が担当するが,T細胞による抗原認識には抗原提示細胞が必要である.
●非自己の排除にはNK細胞,顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球),肥満細胞,細網内皮系および一部のT細胞が関与する.
●αβT細胞にはCD4陽性のヘルパーT細胞とCD8陽性のキラーT細胞があり,γδT細胞の多くはCD4-CD8-である.
●免疫担当細胞の起源は骨髄幹細胞であり,B細胞は骨髄で,T細胞は胸腺で分化する.

サイトカイン

著者: 熊谷俊一 ,   森信暁雄 ,   大田博之

ページ範囲:P.1828 - P.1830

●サイトカインは,その作用から,血球の分化や増殖に働くものと炎症に働くものとに分類される.
●免疫系はサイトカインとそのレセプターを仲介に,血液系や上皮系の細胞などを巻き込み,一大ネットワークを形成している.
●多くの膠原病は免疫異常を基礎とした炎症と組織傷害を伴っており,膠原病の病態はサイトカインネットワークの歪みとしても捉えられる.
●サイトカイン研究は,膠原病の病因・病態の解明のみならず,臨床的には診断や治療への応用へとつながりつつある.

補体と免疫複合体

著者: 上床周

ページ範囲:P.1831 - P.1833

●補体の主な機能は細胞融解,貪食作用の促進,炎症反応の惹起,および免疫複合体の除去・可溶化である.
●補体活性化には古典経路と副経路がある.前者はカスケード反応で抗体が必要であり,後者は増幅反応である.
●免疫複合体は,補体活性化,レセプターとの結合,組織への沈着など免疫複合体としての生物学的特性を有する.
●流血中免疫複合体は通常細網内皮系によって速やかに除去されるが,種々の条件下で組織へ沈着し,組織障害を惹起する.

抗核抗体

著者: 秋月正史

ページ範囲:P.1834 - P.1837

●抗核抗体の研究は,膠原病を全身性自己免疫疾患と確立させた.
●抗核抗体の測定は,膠原病の診断,予後を推定した治療法の選択,さらに治療効果の評価など臨床的に大切である.
●抗核抗体の対応抗原の研究は,細胞内の高分子物質の同定や機能の解析など基礎生物学的にも大きな成果を生んだ.
●細胞質成分に対する自己抗体も抗核抗体と同様な臨床的意義が確認されつつある.
●これら自己抗体の研究は,膠原病の病因追求さらに特異的な治療法への発展が期待される.

膠原病の免疫遺伝学

著者: 中野啓一郎

ページ範囲:P.1838 - P.1839

●膠原病は多発家系があること,一卵性双生児で一致率が高いことなどから発症に遺伝因子が関与していることは確実である.
●その遺伝様式は単純ではなく,複数の遺伝子が関与するポリジーン系の疾患である.
●HLA領域の中でSLEと最も強く相関するのはC4AQ0である.
●RAではHLA-DRβ鎖の第70~74位のアミノ酸が疾患感受性に影響している.

膠原病の分子生物学

著者: 山本一彦

ページ範囲:P.1840 - P.1841

●膠原病では,今のところ単一の原因遺伝子が存在するとは考えられておらず,病態を把握する手段として分子生物学的手法が用いられている.
●マウスを中心とした実験動物のレベルでは,単一の遺伝子の突然変異による自己免疫病態の発生が報告されており,またトランスジェニックマウスの手法による詳細な免疫反応の解析も進んでいる.

膠原病とウイルス

著者: 西岡久寿樹

ページ範囲:P.1844 - P.1846

●自己免疫疾患の成因として,近年レトロウイルスを中心としたウイルスの役割が注目を集めてきている.
●特定のウイルスがいわゆる膠原病に関与していることを明らかにするには,これまでの血清疫学的な手法では困難な点が多い.
●まず,①ウイルス遺伝子の病巣局所での存在,②ウイルス遺伝子の発現,③宿主細胞の生物活性の変異,の3つの点が重要なポイントになると考えられる.
●幾つかのウイルスの膠原病の成因について解説した.

膠原病の診断法と活動性の評価

膠原病を疑う時

著者: 谷本潔昭

ページ範囲:P.1847 - P.1851

●膠原病は結合組織を炎症の場とする多臓器障害疾患であり,病因的には自己免疫が考えられている慢性炎症性疾患である.
●膠原病は一般には若年女性に多い病気であるが,男女比は個々の疾患によって異なる.
●症状は,発熱,関節痛,体重減少などの共通してみられるものと,皮疹などの各疾患に特異性が高いものとに分けられる.
●検査では診断に必要な検査と,経過を追うのに役立つ検査があり,前者の代表的なものが抗核抗体,リウマチ反応であり,後者の代表的なものに,血沈,CRP,血算などがある.

膠原病の検査法と結果の解釈

著者: 吉野谷定美

ページ範囲:P.1853 - P.1857

●炎症マーカーが疾患活動性を反映する膠原病とそうでないものとがある.
●自己抗体は現在最も使用頻度の高い検査項目である.
●臓器障害検査は膠原病の診断と薬物の副作用モニターの目的に使用される.
●RAとSLEはおおむね臨床症状と検査成績が対比できる疾患である.
●Behçet病,PM/DMは臨床検査による診断の難しい疾患である.

慢性関節リウマチ

著者: 神宮政男

ページ範囲:P.1858 - P.1862

●RAの診断には1958年診断基準が汎用されるが,1987年改訂診断基準も利用されつつある.
●RAの活動性評価および治療評価には,血沈・握力・関節点数などの他,これらを組み合わせたランズバリー活動指数が汎用される.
●測定法がキット化されている,C3bi,C4d,C5a,TIMP-1,IgGRF,可溶性IL-2レセプター,IL-6なども活動性評価に応用されつつある.
●RAの診断および活動性評価項目として,特異的な臨床症状または検査項目はない.
●Stage II以上の関節X線変化はRAの診断上比較的特異的である.

全身性エリテマトーデス

著者: 三森経世

ページ範囲:P.1864 - P.1866

●SLEの診断には,ARA改訂分類基準を利用してよい.
●自己抗体の測定は,SLEの補助診断,病型分類,予後推定,治療効果判定に役立つ.
●SLE疾患活動性の評価には,発熱,関節痛,紅斑,口腔潰瘍/大量脱毛,赤沈亢進,低補体血症,白血球減少,低アルブミン血症,LE細胞/LEテスト陽性のうち,3項目以上を満たせば活動性と判定してよい.
●腎炎活動性は全身活動性と異なる評価が必要な場合があり,腎生検組織像が大きな情報を与えてくれる.

強皮症

著者: 高崎芳成

ページ範囲:P.1867 - P.1869

●本症の診断にはその存在を疑うことが重要.
●典型的皮膚硬化のない例でもRaynaud現象,関節痛,皮膚の腫脹などの主訴は本症を疑わせる.
●肺拡散能は鋭敏に間質性肺炎の存在を捉える.
●肺高血圧は必ずしも肺線維症の重症度には相関しない.
●抗Scl-70抗体および抗セントロメア抗体は強皮症に特異的に検出され,後者はCREST型への強い相関を認める.
●臓器病変の先行する症例も存在する.
●活動性の評価には全身的な検索が重要.

多発性筋炎と皮膚筋炎

著者: 山内康平

ページ範囲:P.1870 - P.1873

●臨床的には上下肢筋力低下が主症状であり,近位筋脱力が鍵である.頸筋,顔面筋,眼輪筋,咬筋,嚥下筋などに筋力低下を認める.筋痛は,自発痛,圧痛,把握痛を含めると約半数例に認める.
●皮膚症状は上眼瞼の赤紫色紅斑(heliotrope疹)と手指関節背面の落屑性紅斑(Gottron徴候)が本症に特異性がある.
●炎症反応指標(WBC,ESR,CRP,fibrinogen,CH50など)を検査する.筋原性酵素はCPKが最重要で,aldolase,LDH,GOT,GPT,HBDを検査する.筋電図,筋生検はステロイド治療前に積極的に施行する.自己抗体としては抗Jo-1抗体と抗Mi-2抗体が診断的価値を持つ.

結節性多発動脈炎

著者: 三森明夫

ページ範囲:P.1874 - P.1876

●不明熱と炎症反応,炎症反応を伴う急速進行性糸球体腎炎,多発性単神経炎,複数の臓器障害,のいずれかが壊死性血管炎を想起するきっかけになる.
●PN様動脈炎は,SLE・RA・Sjögren症候群・hairy cell leukemia(日本に稀)にも伴うことがある.これらを除外した独立疾患がPNである.
●類縁疾患の,AGAは先行する喘息,Wegener肉芽腫症は上下気道の血管炎,によってPNと鑑別され,壊死性動脈炎に併存する血管外肉芽腫の生検像から診断する.

Sjögren症候群

著者: 住田孝之

ページ範囲:P.1878 - P.1880

●Sjögren症候群は原因不明の自己免疫疾患である.
●診断は厚生省シェーグレン病班が定めた診断基準により確定されるが,諸検査の進歩に伴い診断基準にいくつかの問題点も指摘されている.
●炎症が強くステロイド剤が必要となる場合に活動性があると考えられ,主に腺外型や二次性Sjögren症候群が治療対象となる.
●Sjögren症候群の病態解明は,近年,分子生物学的手法により著しく進展がみられた.今後,病因の全貌が明らかにされ,科学的な診断基準が作成されることが望まれる.

Overlap症候群と混合性結合組織病

著者: 海瀬俊治 ,   西間木友衛

ページ範囲:P.1881 - P.1883

●MCTDは,SLE,PSS,PM/DMなどにみられる症状や所見が混在し,血清中に抗nRNP(U1-RNP)抗体が認められる疾患である.
●MCTDの予後に最も影響する因子は肺高血圧症である.早期診断のために,MCTD肺高血圧症診断の手引きが有用である.
●Overlap症候群は確実膠原病+確実膠原病の完全重複例で,単独膠原病に比べ血管炎症状が出やすく,予後もあまりよくない.
●PSS-PM重複症候群に抗Ku抗体や抗PM-Scl抗体が特徴的である.

Behçet病

著者: 嶋良仁 ,   吉崎和幸

ページ範囲:P.1884 - P.1886

●Behçet病は口腔のアフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状と外陰部潰瘍を主症状とする慢性の全身性疾患である.
●厚生省の難病特定疾患に指定されており,昭和63年統計で公費医療費受給を受けた患者は11,103人,主に東日本に多い.
●世界的には,地中海沿岸,中近東,本邦に多くシルクロード病と称される.
●本症が重要である点は,依然として後天性失明の重要な原因であることと,遺伝的素因が指摘されているにもかかわらず戦後患者数の爆発的増加をみた点にある.

膠原病の治療法とフォローアップ

膠原病の治療薬,治療法にはどのようなものがあるか

著者: 粕川禮司

ページ範囲:P.1888 - P.1891

●膠原病治療薬の種類として非ステロイド抗炎症剤,副腎皮質ステロイド剤,免疫抑制剤,抗リウマチ剤などにつき,それらの適用と種類,副作用について述べた.
●治療法としてプラスマフェレーシス,リンパ球除去法などを紹介した.

慢性関節リウマチ

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.1893 - P.1895

●慢性関節リウマチの治療に際しては,可能な限り炎症を抑制し,また可能な限り関節機能障害の出現を阻止,あるいはこれがすでに存在する場合には,これを改善することに主眼を置く.
●薬物療法は,非ステロイド性抗炎症剤,抗リウマチ剤,ステロイド剤,免疫抑制剤を組み合わせて行うが,その選択に際しては,薬剤の有効性と副作用のリスクから生じる薬剤の信頼性,有用性を考慮する.
●管理は長期にわたるため,治療効果の判定には定期的な臨床所見および検査所見の把握が必要である.

全身性エリテマトーデス

著者: 宮坂信之

ページ範囲:P.1896 - P.1898

●臓器病変の有無,程度を的確に評価し,血清学的データなどより総合的に活動性を判定する.
●ステロイド剤の適応,禁忌についてよく吟味をした後,初回投与量を決定する.
●ステロイド剤不応例,ステロイド剤の副作用が出現した例では,免疫抑制剤の投与を試みる.
●必要に応じて抗凝固療法,血漿交換療法などの補助療法を積極的に行う.
●寛解導入後も,維持療法を長期にわたって行う.
●日常の生活指導を十分に行い,家族の理解を得るように努める.

強皮症

著者: 三田村忠行

ページ範囲:P.1899 - P.1901

●根治的治療法はない.可能性のある新薬の治療試験への積極的参加が望まれる.
●皮膚病変に対する治療は本症に特異的なものであるが,血管病変や各臓器の病変には対症的治療が主体となる.
●他の膠原病と異なり,ステロイド剤の使用は慎重に行う.
●発症早期には積極的な薬物治療とリハビリテーションを行い,進行例では保存的治療を主眼とする.

多発性筋炎と皮膚筋炎

著者: 原まさ子

ページ範囲:P.1902 - P.1904

●血中の筋原性酵素,特にCPK値を指標にステロイド大量(PSL 40〜60 mg)が第一選択となる.
●初期投与量で反応がみられない時は50%増とするか,ステロイドパルス療法が試みられる.
●難治性あるいはステロイドの副作用で継続投与困難な例には免疫抑制剤が併用される.
●再燃防止のためPSL l0 mg前後の維持量を継続する.

結節性多発動脈炎

著者: 澤田滋正

ページ範囲:P.1906 - P.1908

●治療計画は生検により病期を決定し,病期にあった治療をする.
●治療効果は症状の改善とともに,炎症および免疫学的検査の鎮静化で判断する.
●死因は腎不全が最も多く,脳出血,消化器出血,次いで呼吸不全,心不全,感染症の順である.

Sjögren症候群

著者: 菅井進

ページ範囲:P.1910 - P.1913

●患者数については最近の正確な統計はないが,約50万人ほどが推定されている.
●眼乾燥,口腔乾燥を主徴とする.
●多彩な全身症状を伴いうる.
●リンパ増殖性疾患を発症しやすい.
●対症療法が主である.
●ニューロペプタイドの異常や,新しい治療法も報告されている(第4回国際Sjögren症候群シンポジウム).
●患者に対して疾患を理解させ,不要な不安感を取り除く教育が必要である.

Overlap症候群と混合性結合組織病

著者: 青塚新一

ページ範囲:P.1914 - P.1915

●混合性結合組織病(MCTD)の症状で,全身性エリテマトーデス様/多発性筋炎様の症状には,ステロイド剤,非ステロイド剤,免疫抑制剤が有効であるが,強皮症様症状は,治療に抵抗する.
●定型的Overlap症候群の予後は,非重複の組み合わせからなるMCTDよりは悪い.
●MCTDに特異的な肺高血圧症は,死亡率が高く,急速に進行するので,早期発見・治療が重要となる.

Behçet病

著者: 永渕裕子 ,   鈴木登 ,   坂根剛

ページ範囲:P.1916 - P.1918

●Behçet病は治療の対象になる病態の重症度により治療法を選択する必要がある.
●日常生活に影響が少なく,眼病変のない症例には局所療法が主体となる.
●前眼部型眼病変には眼局所療法で,重症の眼底型眼病変には眼局所療法に加えてコルヒチン,さらには病態に応じて免疫抑制薬やシクロスポリン,FK506の全身投与を考慮する.
●神経型,腸管型Behçet病にはステロイドの大量投与が必要になることが多い.
●Behçet病の症状は多彩なため,他科と密な連絡をとることが大切である.

知っておくべき膠原病関連疾患

Undifferentiated connective tissue syndrome(UCTS)

著者: 近藤啓文 ,   関山菜穂

ページ範囲:P.1920 - P.1921

●膠原病を含む結合組織疾患を示唆する症状を呈しながら,そのうちの1つの疾患とは診断し得ない状態の患者がいる.LeRoyらはこのような症例をUCTSと呼ぶことを提唱した.
●Raynaud現象で発症し,手指硬化症などの結合組織疾患を示唆する症状を有し,抗セントロメア抗体や抗nRNP抗体陽性の症例が代表的なUCTSである.

抗リン脂質抗体症候群

著者: 天崎吉晴 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.1922 - P.1924

●抗リン脂質抗体陽性の患者は,動静脈血栓症,習慣流産,血小板減少症を認めることが多く,抗リン脂質抗体症候群と呼ばれる.本症候群はSLEなどの自己免疫疾患患者の他,各種自己免疫疾患の診断基準を充足しない症例中にもみられる.
●血栓症などの既往がある場合,ワーファリンあるいは少量のアスピリンの予防的投与の他,ステロイド剤の併用が試みられる.また本症候群による習慣流産に対して少量アスピリン投与の有用性が報告されている.
●多臓器障害を呈する劇症型の症例も報告されており,注意が必要である.

成人Still病

著者: 鈴木博史

ページ範囲:P.1926 - P.1927

●成人Stil1病は若年性関節リウマチの全身型に相当する成人の疾患で,発熱,関節痛,皮疹を3主徴とする.
●不明熱の鑑別すべき基礎疾患の1つとして注目される.
●検査所見として,赤沈充進,CRP高値,白血球増加といった一般的炎症所見のほか,血清フェリチンの著増も特徴的とされる.
●治療には大部分の症例に副腎皮質ステロイドが必要である.また,難治性の関節炎のコントロールに,金塩,D-ペニシラミン,Methotrexateも用いられる.

リウマチ性多発筋痛症

著者: 竹内勤

ページ範囲:P.1928 - P.1930

●PMRは高齢者に好発するリウマチ性疾患で,10〜30%に側頭動脈炎を合併.
●臨床症状は,発熱・体重減少などの全身症状と肩・大腿を中心とした筋肉・関節症状.
●臨床症状は急速に出現して2週間ほどの短期間に病像が完成する.
●赤沈亢進,CRP高値などの非特異的炎症所見以外に,特異的検査はない.
●PMR単独では少量ステロイドが著効,側頭動脈炎合併例では大量ステロイドを考慮.

Shulman症候群および好酸球増加・筋痛症候群

著者: 針谷正祥

ページ範囲:P.1932 - P.1933

●末梢血好酸球増加を伴う結合組織疾患として,Shulman症候群とEMSが重要である.
●Shulman症候群は,四肢の強皮症様皮膚病変と好酸球浸潤を伴う筋膜の著明な肥厚を特徴とするが,一般に内臓病変を伴わない予後良好な疾患である.
●EMSは特定のメーカのtryptophan製剤摂取により発症する疾患で,激しい筋肉痛,皮疹,四肢の浮腫と,それらに引き続いて起こる皮膚硬化を特徴とし,肺病変,心病変,神経病変を合併する.病理学的所見はShulman症候群に類似している.

ヒトadjuvant病

著者: 熊谷安夫

ページ範囲:P.1934 - P.1936

●ヒトadjuvant病とは,異物を使用した美容外科術後に起こる膠原病もしくは自己免疫疾患様病態である.
●本邦の症例は,1950年代から60年代にかけて,パラフィンまたはシリコン注入による手術を受けた症例が多い.
●近年米国で報告されている症例は,1970年代以後に,シリコン・インプラントにより手術を受けた症例が大部分である.
●日米でこうした歴史的差はあるが,これらの症例では,強皮症およびその関連疾患の割合が高いという興味深い特徴がある.

無菌性骨壊死症

著者: 土屋尚之

ページ範囲:P.1938 - P.1939

●無菌性骨壊死症はステロイド治療中の膠原病患者,特にSLEに合併しやすく,若年患者のADLを低下させる原因として重要である.
●これらの患者に股関節,膝関節,肩関節の運動痛が現れたら疑う必要がある.
●MRIが最も感度のよい診断法である.
●免荷が保存的療法の主体である.

全身系統的疾患としての膠原病:鑑別のキーポイント

膠原病の皮膚病変

著者: 竹原和彦

ページ範囲:P.1940 - P.1945

●SLEの代表的な皮膚病変は蝶形紅斑や円板状ループスであり,その他多彩な皮膚病変を伴う.
●皮膚筋炎に特徴的な皮疹として,上眼瞼のヘリオトロープ疹,関節背面の角化性変化であるGottron徴候,あるいは廣痒を伴った浮腫性紅斑および落屑性紅斑やポイキロデルマ様皮疹が挙げられる.
●汎発性強皮症の主病変は皮膚硬化であるが,その他,指尖部虫喰い状瘢痕,舌小帯短縮,爪郭部出血の存在なども診断上重要である.
●Sjögren症候群の皮疹として特徴的なものは環状紅斑である.

膠原病の神経病変

著者: 広畑俊成

ページ範囲:P.1946 - P.1948

●日常臨床上では,CNSループスとsteroid psychosisおよび神経Behçet症候群と多発性硬化症の鑑別が問題となることが多い.
●鑑別診断に当たって,髄液検査(CSF Ig index・髄液中のサイトカイン)が有用である.
●髄液IL-6は,CNSループスおよび神経Behçet症候群の中枢神経病変の活動性を示し,治療効果の判定にも有用である.
●髄液IFN-αは精神症状を示すSLEで特異的上昇を示し,診断価値がある.

膠原病の肺病変

著者: 平松和子 ,   猪熊茂子

ページ範囲:P.1950 - P.1953

●膠原病の肺病変で問質性肺炎は最も多くみられる.臨床上,鑑別が問題となるのはDMARDsによる薬剤性肺炎や感染,BOOPなどである.
●肺高血圧症は膠原病の予後関与因子として最近注目されている.発症機序は一律ではなく,血栓形成傾向・肺血管攣縮・内腔閉塞など,病態に応じた治療法の選択が必要となり,その点の鑑別も必要となる.
●最近しばしば報告される気道の病変としてBOOPがあり,13%程度が膠原病合併例である.DMで縦隔気腫を合併する例はBOOPに近似した病変を認めることが多い.
●膠原病の肺病変は,原病により予後や治療法が異なるため,他疾患との鑑別を行うとともに原病の特定が大切である.また活動性がない場合は積極的治療を必要としないので,活動性の評価も重要である.

膠原病の腎病変

著者: 有村義宏 ,   長澤俊彦

ページ範囲:P.1954 - P.1956

●膠原病では,膠原病内の疾患により腎病変の頻度,障害部位,発症機序などに相違がある.
●このため,個々の疾患で生じやすい腎病変を把握しておくことが,膠原病による腎病変の早期診断・治療に大切である.
●また,膠原病症例では,治療薬剤でも腎病変が生ずることがあり,原病によるものとの鑑別が必要である.

膠原病の血管病変

著者: 橋本嘉

ページ範囲:P.1958 - P.1960

●膠原病診療においては,血管病変の存在把握が肝要.
●系統的血管炎においては,組織所見が診断上有力となることが多い.
●その他の膠原病においては,原疾患の診断が確実であれば,血管病変の診断は比較的容易である.
●SLEに多くみられる抗リン脂質抗体症候群は,血管炎との鑑別上注意が必要である.

膠原病の心病変および肺高血圧

著者: 国枝武義

ページ範囲:P.1961 - P.1963

●心病変としては,心筋・心外膜・心内膜・冠動脈の病変があり,軽症から重症まで様々なものがある.
●膠原病で肺高血圧症を発症したものでは予後が悪く,その生存曲線を調べた成績では,原発性肺高血圧症とほぼ同様であることが知られる.
●膠原病性肺高血圧症は混合性結合組織病で最も高頻度にみられる.
●肺高血圧症の治療としては,肺血管拡張療法のほかに心房中隔孔作成術,肺移植・心肺移植などの方法がある.

膠原病の消化管病変

著者: 粒良邦彦

ページ範囲:P.1964 - P.1965

●膠原病特有の消化管病変は,原疾患の病態から直接派生した病変と,原疾患の治療などによって生じたものに分けられる.
●前者に属するものには,強皮症の消化管蠕動機能低下によるものや,SLEやPNの血管炎による小腸・大腸の潰瘍,Behçet病の食道潰瘍や回盲部潰瘍がある.
●後者には,ステロイド剤や非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)投与により生ずる消化性潰瘍があり,特にこれらの薬剤の長期投与によって生ずる幽門前部慢性潰瘍は特異性が高い.
●Behçet病と強皮症の食道潰瘍の形態に言及.

特殊治療法の適応と問題点

慢性関節リウマチのリハビリテーション

著者: 荻田忠厚

ページ範囲:P.1966 - P.1968

●薬物療法のみでは機能障害の防止は困難であり,早期からのリハビリテーション療法が望まれる.
●リハビリテーション療法ではADL機能の改善にとどまることなく,広くQOLの向上を目的として行われる.
●RA患者の特殊性を理解したうえで,安静と運動のバランスを考えながら根気よく訓練・指導を行う.
●病状の進展に応じて補装具や自助具,さらには家屋改造にも取り組む必要がでてくる.

人工関節置換術

著者: 松原司

ページ範囲:P.1970 - P.1972

●RA膝および股関節に対する人工関節置換術の適応と問題点について述べる.
●RAにおける人工関節置換術を成功させるためには,手術のタイミングと術前・術後のリハビリテーションが重要である.
●RAでは術後合併症である人工関節の感染や関節のゆるみの起こる頻度が高く,十分な注意が必要である.

免疫抑制剤

著者: 佐々木毅

ページ範囲:P.1973 - P.1975

●ステロイド剤抵抗性などの難治性免疫病治療剤として免疫抑制剤が有用とされている.
●免疫抑制剤は,細胞障害作用あるいは重大な副作用を誘発することがある.したがって,その適応および使用法には慎重な対処が必要とされる.

血液浄化療法

著者: 津田裕士

ページ範囲:P.1976 - P.1978

●膠原病患者に対する血液浄化療法には,免疫吸着法,二重膜濾過法を含めた血漿交換療法やリンパ球除去療法がある.
●血漿交換療法では,自己抗体,免疫複合体などの液性因子の除去,網内系機能の改善,免疫調節作用が示唆され,リンパ球除去療法では細胞障害性T細胞,免疫担当細胞の除去とともに免疫調節作用も考えられる.
●血液浄化療法の適応は各疾患ごとに異なり,活動性の高い症例,主たる治療法への抵抗性の強い例などが考えられるが,主たる治療法との併用が望ましい.

対談 内科診療のあゆみ・10

感染症の変貌と臨床からの対応

著者: 斎藤厚 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.1997 - P.2010

 尾形 私が医者になった頃は,内科領域では形態を主とした病理学,そして細菌学が中心でした.それ以前は,感染症にかかればサルファ剤などが使われていたと思います.私は学生の頃,結核にかかりましたが,特効薬がなく,卒業する頃にやっとストレプトマイシンが登場しました.その後は結核の化学療法もどんどん進み,私が大学を卒業して医者になり,臨床トレーニングを始めた頃は,結核を含め感染症学は診断から治療への転換期を迎え,爆発的な発展を遂げるようになりました.
 また,その頃の感染症の診療を振り返ってみますと,感染症を疑った場合,昔の伝統に従って,まず起炎菌は何かを一生懸命検索したものです.そして,当時は抗生物質が使われ始めたので,どういう抗生物質をどう使うか考えました.ただ,起炎菌の検索といっても,現在のように中検,その他にお願いするわけではなく,担当医みずからが血液をとって培養したり,スメアを作製して染めたりしたわけです.たまにチールニールセン染色で結核菌などが染まると,鬼の首を取ったような気がしたものです(笑).

電子内視鏡による大腸疾患の診断・20

消化管悪性リンパ腫

著者: 多田正大 ,   北村千都 ,   藤田欣也 ,   伊藤義幸 ,   柴峠光成 ,   菅田信之 ,   清水誠治 ,   大塚弘友 ,   磯彰格 ,   杉本鏞正

ページ範囲:P.1988 - P.1992

●消化管悪性リンパ腫の臨床的事項
 消化管の悪性リンパ腫は比較的稀な悪性腫瘍である.全悪性リンパ腫の中で消化管原発悪性リンパ腫は約10%前後の頻度を占めるとされている.しかし,剖検では全身性悪性リンパ腫の50%以上に消化管にも病変を認めるとされているし,消化管原発であっても,末期になると全身のリンパ節腫大がみられ,全身性悪性リンパ腫と同様の臨床所見を表す.したがって,消化管病変が原発性か続発性か,判断に迷うことは少なくない.このような場合には病変の拡がり方から類推せざるを得ない.
 悪性リンパ腫が消化管原発であるとする根拠として,Dawsonら(1961年)1)の有名な定義があり,①表在リンパ節腫脹がない,②胸部X線検査で縦隔洞リンパ節腫脹がない,③末梢白血球数および分画が正常である,④病変が消化管および所属リンパ節を越えない,⑤肝脾腫がない,などの諸条件を満たすことが挙げられている.

内科医のための胸部X-P読影のポイント・23

結核性胸膜炎

著者: 奥田薫 ,   松井祐佐公

ページ範囲:P.1982 - P.1986

症例
 患者 44歳,男性,ホテル接客業.
 主訴 発熱,全身倦怠感.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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