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雑誌目次

雑誌文献

medicina30巻4号

1993年04月発行

雑誌目次

今月の主題 白血病—研究と診療の最新情報 EDITORIAL

白血病における病態解明の進歩と臨床への応用

著者: 浅野茂隆

ページ範囲:P.576 - P.577

白血病の病因と病型分類
 白血病は,正常造血幹細胞に比べて増殖優位性をもつ異常造血幹細胞クローンによって,もたらされる疾患である.その異常クローンがいつ,何が原因で発生し,どのようにして優位性を獲得していくのかは,一部の白血病の一部の事実を除いて分かっていない.疫学的研究が今後いかに重要かが指摘されるところである.多くの場合,診断は正常造血に何らかの障害が現れ,単一クローン性の異常細胞が検出できるまでに増加したときにはじめて可能となる.この時点で,主体を占めるようになった異常細胞の表現形質と増殖スピードはある特徴を有するが,それは症例により異なっている.また,疾患経過中に加わる多くの内的あるいは外的因子,特に増殖スピードは,治療法や最近明らかにされつつある内因性サイトカインの動態によって微妙な影響も受ける.
 このようなこともあり,白血病の病型はもっぱら無治療診断時に主体を占める白血病細胞の表現形質にもとついて分類される.この病型診断は古典的な形態学的方法や組織化学的方法のほか,近年は免疫学的方法や遺伝子学的方法によっても行われる.実際に用いられる方法の数は,特に種々の,モノクローナル抗体が開発されつつあることで年々増加している.

Introduction

白血病と正常幹細胞

著者: 三浦恭定

ページ範囲:P.578 - P.583

●正常造血幹細胞と造血因子の説明
●正常幹細胞の白血病化のメカニズム
●白血病細胞の正常幹細胞への影響
●白血病細胞コロニーと白血病幹細胞の概念,臨床的意義
●白血病治療への応用
 1)白血病化学療法と正常幹細胞との関係
 2)骨髄移植の意義

疫学と病因

わが国と欧米における白血病の発生動向の差異

著者: 川上憲人 ,   清水弘之

ページ範囲:P.584 - P.588

●わが国の男性の白血病の発生率は欧米とくらべて低いが,欧米の白血病発生率が横ばいとなる一方で,増加の傾向にある.
●わが国の女性の白血病の発生率は1962〜1977年にかけて増加したが,その後欧米とほぼ同等の値で横ばいとなっている.
●リンパ性白血病の発生率は欧米ではむしろ横ばいか減少傾向にあるが,わが国では男女とも増加傾向にある.
●骨髄性および単球性白血病の発生率は,欧米と同様に横ばいか減少傾向にある.

抗癌剤投与や放射線被曝による白血病の発生

著者: 月本一郎 ,   波多野道弘

ページ範囲:P.589 - P.591

●白血病の成因には,癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の変化の組み合わせが関与する.
●このような分子遺伝学的変化を起こす遺伝的要因,環境要因を明らかにする必要がある.
●二次性白血病は抗癌剤投与や放射線照射により引き起こされる.抗癌剤ではDNA合成阻害剤であるアルキル化剤とtopoisomerase阻害剤が,放射線では電離放射線被曝が重要な誘因.
●大量のアルキル化剤,放射線照射,長期間にわたる免疫抑制剤を使用する骨髄移植症例は,二次性白血病に対する厳重な観察と臨床的・疫学的研究が必要である.

ウイルスと白血病—HTLV-Iによる成人T細胞白血病の発生機序をめぐって

著者: 田口博國 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.592 - P.594

●HTLV-1感染により一部のヒトにのみATLが発症する機構は,まだよくわかっていない.
●感染から発症までに5つの要因が働くと考えられており,これらのうち,HTLV-IのpX遺伝子の産物p40taxによるウイルス自体の発現の促進,IL-2レセプタ一の発現,および細胞の増殖遺伝子の活性化,またウイルスの組み込みによる染色体異常,p53遺伝子の変異などの果たす役割が推定されている.
●特定のHLAの保持者,あるいはHTLV-I感染自体による宿主の免疫能の低下も,ATL発症に重要であると考えられる.

診断とFAB分類

白血病の診断の進め方

著者: 吉田弥太郎

ページ範囲:P.596 - P.598

●白血病は,進行の早さ,予後,白血病細胞の分化の程度などから急性白血病と慢性白血病に分けられる.また両者それぞれが,白血病細胞の性格からリンパ性白血病と非リンパ性白血病とに分けられる.急性リンパ性白血病は主として小児,慢性リンパ性白血病は主として成人にみられる.急性リンパ性白血病や急性非リンパ性白血病は,白血病細胞の起源や性状からさらに細かく分類され,亜型によって治療法や予後が相当に異なるので,診断の正確さが要求される.最近では病型分類に細胞遺伝学や分子生物学的手法が導入され,予後の判定にも役立つようになっている.

FAB分類の整理—免疫学的マーカー,新しい病型AML-M0,CLLの分類を中心に

著者: 栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.600 - P.602

●免疫学的マーカーが診断上重要なAMLはM0とM7である.
●M0はmyeloperoxidase(MPO)陽性芽球が3%未満であるが,骨髄性抗原や電顕MPOが陽性(3%以上)でリンパ性抗原を有していない.
●ALLはL3以外はFAB病型と免疫学的分類が一致しない.
●AMLにはFAB分類に含まれなかったり,対象にならない症例がある.
●CLLのFAB分類は世界共通の分類法となる可能性がある.

分子病態からみた病型分類

染色体転座と癌遺伝子の活性化

著者: 鎌田七男 ,   江口真理子 ,  

ページ範囲:P.604 - P.608

●近年,MLL-ENLキメラ遺伝子,MTG8-AML1キメラ遺伝子など,転座に関わる遺伝子が次々と決定されてきている.
●染色体転座に伴う癌遺伝子の活性化は,転写調節部位に変異を生じ特定遺伝子の発現が増殖されるもの,および転座により新しいキメラ遺伝子が形成され,その産物が異常な機能を有するものの2通りが知られている.
●細胞系列により特異的な染色体転座・特定遺伝子の関与が証明されてきており,これらによる白血病の病型分類も可能ではないかと思われる.

慢性骨髄性白血病の急性転化と遺伝子異常

著者: 平井久丸

ページ範囲:P.609 - P.611

●慢性骨髄性白血病(CML)は,多能性造血幹細胞レベルの疾患であり,90%以上の症例にPh1染色体が認められる.Ph1染色体はt(9;22)の結果であり,この染色体上でBCR/ABLキメラ遺伝子が形成される.ほとんどの症例が急性転化を起こし,この際に80%以上の症例に付加的染色体異常が加わる.この付加的染色体異常と急性転化の関連が注目されているが,実際にi(17q)を持つ急性転化では,両方のアレルでp53遺伝子が不活化されていることが示されている.しかし,急性転化の分子機構はその多くがいまだ不明であり,今後の解明が待たれる.

サイトカインによる白血病細胞の増殖

著者: 小澤敬也

ページ範囲:P.612 - P.614

●骨髄性白血病細胞のIL-3,GM-CSF,G-CSF,M-CSFなどに対する反応性は,症例ごとに異なっている.
●サイトカインが白血病細胞に作用するパタ一ンとしては,外因性のサイトカインが刺激する場合と,autocrine機構あるいはparacrine機構が働く場合とがある.
●白血病細胞がautocrine機構によらない自律性増殖を示すことがあり,癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不渚化の関与などが考えられている.

白血病細胞における薬剤耐性遺伝子の発現

著者: 濱田洋文

ページ範囲:P.615 - P.617

●多剤耐性癌細胞に特異的に発現する分子量170〜180kDの膜糖タンパク(P-glycoprotein)は,抗癌剤を排出するポンプとして働き,臨床での薬剤耐性にも関与している.
●P-glycoprotein/MDR 1遺伝子の発現により,アントラサイクリン系,ビンカアルカロイド系,エピポドフィロトキシン系,アクチノマイシン系などの薬剤に対し,交差耐性となる.
●MDR 1遺伝子発現の臨床での薬剤耐性における役割,MDR1以外の耐性の機序などについて,今後さらに研究が必要である.

顆粒リンパ球増多症と単クローン性増殖

著者: 押味和夫

ページ範囲:P.618 - P.619

●T細胞型顆粒リンパ球増多症の大部分はT細胞の単クローン性増殖,すなわち白血病であり,NK細胞型顆粒リンパ球増多症の半数以上は多クローン性,すなわち反応性の増殖性疾患であろう.

サイクリンとB細胞型悪性腫瘍

著者: 本倉徹

ページ範囲:P.620 - P.622

●慢性リンパ球性白血病,多発性骨髄腫,低悪性度悪性リンパ腫の一部に染色体転座t(11:14)(q13:q32)が認められる.
●t(11:14)(q13:q32)により活性化されるPRAD1/BCL1癌遺伝子は,細胞周期制御因子サイクリンD1をコードしている.
●サイクリンD1は,細胞周期のG1-S移行期に関与し,その異常発現は多様な組織の腫瘍化に深く関わっていると考えられる.

残存白血病細胞の診断

著者: 松岡明 ,   堀田知光

ページ範囲:P.624 - P.626

●光顕による残存白血病細胞の検出感度は10-2レベルであることから,完全寛解でも1010オーダーの白血病細胞が残存する可能性がある.
●免疫化学的手法を用いると10-4レベルに検出感度は向上する.
●特異的な分子マーカーを指標としたPCR法では,10-5〜10-6レベルの残存白血病細胞を検出できる.
●体内に残存する微量の白血病細胞(MRD)を正しく評価することは,治療の中止,継続,変更の決定をより科学的に行うことを保証し,治癒率・長期生存率の向上への貢献が期待される.

治療の哲学

急性白血病治療の基本的な考え方

著者: 小峰光博

ページ範囲:P.628 - P.630

●急性白血病が化学療法によって治癒を望める数少ない悪性腫瘍の1つにあげられて,すでに20年余が過ぎている.
●積極的・攻撃的な化学療法の骨格となる理念はtotal cell kill説であるが,実際面では多くの工夫がなされ,より精緻な治療体系として洗練されてきた.
●白血病そのものの解明も急速に進んでおり,それらの成果は臨床的にも還元されるであろう.●患者はもっとも過酷な試練に直面しつつ,われわれの持つ限られた能力にすべての望みを託している.

慢性白血病治療の基本的な考え方

著者: 外山圭介

ページ範囲:P.632 - P.634

●CMLの発症には,染色体のフィラデルフィア転座による異常蛋白が必須と考えられ,かつ腫瘍化は多能性造血幹細胞に起こっているため,顆粒球のほか,赤血球,血小板,Bリンパ球も腫瘍クローンとみなされる.したがって,治療にあたっては,急性白血病のように白血病クローンを化学療法によって絶滅し,正常クローンの増殖を待つことは期待できないので,唯一の根本的治療は骨髄移植である.
●CLLは高齢者に多く,経過も緩慢であり,生命の予後が病期に一致しているので,病期の進展するまで治療する必要がない.

白血病患者への告知

著者: 武藤良知

ページ範囲:P.636 - P.638

●告知とは,単に病名を告げることではない.
●告知の目的:「患者自身に自分の病気を知ってもらったうえで,医療者,家族と協力して治療を受けつつ,最後まで納得のいく人生を送ってもらう」点にある.
●告知の前提:患者,家族,医師の間の信頼関係の確立,家族の同意,病気に対する正しい知識(特に家族側),医療者,家族を含めた強力なバックアップ体制.
●告知の時期:寛解期がよいと思う.
●患者家族への説明の際には,突き放すような言い方は慎み,前途に希望の持てる表現を.

治療の実際:薬物療法

急性白血病の寛解導入と寛解期治療の必要性

著者: 竹内仁

ページ範囲:P.640 - P.644

●急性骨髄性白血病(AML)の寛解導入には,ダウノルビシン・シタラビンまたはエノシタビン・メルカプトプリン・プレドニゾロン±ビンクリスチンの多剤併用療法がよい.
●AMLの寛解後療法は必要だが,短期間でも強力に行えば長期予後は良好である.
●急性リンパ性白血病(AML)の寛解導入は,ビンクリスチン,プロドニゾロン,ドキソルビシン,シクロホスファミド,L-アスパラギナーゼなどを組み合わせて投与するのが一般的である.
●ALLの長期予後はAMLに比して不良で,どのような寛解後療法がよいかは不明である.

成人難治性白血病の治療対策

著者: 内丸薫 ,   藤田彰

ページ範囲:P.646 - P.648

●難治性であることが予測される症例では,発症時から骨髄移植の適応の有無やタイミングなど,長期的視野にたった治療計画をたてる必要がある.
●難治性白血病に対しては,あくまでも治癒を目指す大量化学療法と,延命を目的とする少量化学療法の2つのアプローチがある.
●症例に応じて,いずれが最も適したアプローチであるかを決定することが必要である.

高齢者白血病の治療のあり方

著者: 森眞由美

ページ範囲:P.649 - P.651

●高齢者の白血病は治療抵抗性のタイプが多い.
●治療により強度かつ長期の骨髄抑制が生じるため,早期化学療法死が多い.
●Performance Statusおよび各種臓器の機能に合わせ,投与薬剤の量,投与期間,投与間隔を変更する.
●高齢者低形成白血病には,Ara-C少量療法も有効である.
●CSFなどの補助療法を積極的に行う.

小児超ハイリスク急性リンパ性白血病の化学療法

著者: 中畑龍俊 ,   石井栄三郎

ページ範囲:P.652 - P.656

●支持療法や骨髄移植療法の進歩により,従来予後不良とされていた“ハイリスク”ALLに対しても,強力な化学療法が可能となり,必ずしも“ハイリスク”が“予後不良”を意味しなくなってきている.しかしながら,染色体転座型ALLなど,依然として予後不良な“超ハイリスク”群も存在するため,さらに成績向上をめざして,多くの多施設共同研究がなされている.
●筆者らの施設では,東京小児がん治療研究グループおよびAT研究会のプロトコールに従って治療しており,極めて予後不良と考えられる症例には積極的に骨髄移植を行っている.

ATRAによる急性前骨髄球性白血病の分化誘導療法

著者: 東條有伸

ページ範囲:P.658 - P.660

●急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)に対して,トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)による分化誘導療法が確立された.
●この治療法は化学療法抵抗例や再発例においても80%以上の高い完全寛解率をもたらしている.
●ATRAの作用機序はAPL細胞を成熟好中球へ分化誘導する画期的なものであり,骨髄低形性やDICの増悪をみることなく血液学的所見を改善しうる.

慢性骨髄性白血病の新しい治療薬—インターフエロンα

著者: 小山覚

ページ範囲:P.661 - P.665

●IFN-α療法はCMLの一部の患者で根治的治療法となる可能性がある.IFN-α投与によりCMLクローンが数%以下にまで減少し,正常造血の再構築が認められる症例が10〜20%存在し,さらに高感度RT-PCR法でもminimal residual CML cloneが検出されなくなる寛解症例も少数ながら報告されている.すなわち,FN-α単独投与で,CMLクローンが10-5〜10-6以下に減少する例が存在するという事実であり,IFN-αは画期的薬剤と評価される.しかし,過半数の症例ではIFN-α単独に限界があり,併用療法の検討が課題となっている.

ヒドロキシカルバミドによる慢性骨髄性白血病の治療

著者: 浦部晶夫

ページ範囲:P.666 - P.668

●ヒドロキシカルバミド(化学名ハイドロキシウレア)は,CML治療に有用な経口薬である.
●速やかな白血球減少効果がある.
●投与中止後に骨髄抑制が遷延することはない.
●副作用は少ない.
●インターフェロンとの併用は有用である.
●本薬剤には変異原性はないと考えられる.

慢性骨髄性白血病急性転化の化学療法

著者: 小林幸夫

ページ範囲:P.670 - P.673

●急性転化の型はさまざまであり,治療の反応も異なる.
●リンパ芽球性転化ではvincristine-steroid療法が有効である.
●リンパ芽球性転化寛解後は予防的髄注を行う.
●前骨髄球性急性転化に対してはretinoic acidが有効かもしれない.
●mithramycinによる骨髄性転化症例に対する分化誘導療法に関しては,最近では否定的見解が多い.
●Ara-Cを主体とした強力化学療法では,時に1年以上の長期生存が期待できる.

Hairy cell leukemiaのインターフェロン療法

著者: 徳嶺進洋 ,   木谷照夫

ページ範囲:P.674 - P.678

●HCLはまれな白血病であり,典型例,prolymphocytic variant,本邦型という3亜型が存在する.本邦での頻度は本邦型》典型例>prolymphocytic variantである.
●IFN-αの効果は各亜型間で異なる.典型例は有効率(CR+PR)約80%,CR率15%,本邦型PR率37.5%であり,prolymphocytic variantは無効である.
●IFN-αの抗腫瘍作用機序については,間接的な作用(抗腫瘍免疫能の増強)ではなく,腫瘍細胞に対する直接作用によるものと考えられている.

成人T細胞白血病の最近の治療成績

著者: 松崎博充 ,   松岡雅雄 ,   河北誠

ページ範囲:P.680 - P.682

●ATLの病態は多彩で,①急性型,②慢性型,③リンパ腫型,④くすぶり型,の4型に分類される.
●ATLの治療は病型に応じて異なり,急性型,リンパ腫型には多剤併用療法が試みられるが,慢性型,くすぶり型の無症状期には無治療で経過観察する.
●急性型,リンパ腫型の完全寛解率は低く,予後不良である.
●免疫不全による感染症と高カルシウム血症は致命的合併症であり,適切な対応が必要である.

治療の実際:骨髄移植療法

同種骨髄移植療法の最近の進歩と適応

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.686 - P.689

●白血病に対する同種骨髄移植の成績は近年向上している.この主な理由として支持療法の進歩と,移植関連合併症に伴う死亡の低下がある.
●支持療法の進歩は高齢者・非血縁者への移植適応拡大にも大きく貢献している.
●移植後再発は,依然その成功を妨げている大きな問題である.今後は前処置・移植免疫反応の抗白血病効果を選択的に増強する必要がある.
●移植以外の白血病に対する治療法も進歩しており,同種骨髄移植の適応は,各時点での両者の治癒率・生存率・治療に伴うmortality,morbidityを比較し決定する必要がある.

自己末梢血幹細胞移植療法の現状と問題点

著者: 原田実根

ページ範囲:P.690 - P.692

●自己末梢血幹細胞移植(ABSCT)は,同種骨髄移植,自家骨髄移植に比べて移植後の造血回復が速やかであり,安全性の高い治療法である.
●ABSCTは,第1寛解期のAMLやALLに対して通常化学療法より優れた成績が報告されており,寛解後療法として試みる価値がある.
●しかし,ABSCTは治療法として確立されていない点が少なくなく,白血病治療戦略の中でどのように位置づけるか,それを明らかにしうる検討が今後何よりも重要である.

造血幹細胞の採取・保存法

著者: 池淵研二

ページ範囲:P.693 - P.695

●骨髄単核細胞の分離には,無菌操作,回収効率,迅速性,簡便さが求められる.
●末梢血幹細胞採取は,末梢血CD 34陽性細胞率をモニターにし,効率よく実施でき,ドナー負担が軽い.
●造血前駆細胞アッセイに加え,造血幹細胞アッセイの開発が望まれる.

骨髄バンクと登録方法

著者: 加藤俊一

ページ範囲:P.696 - P.698

●骨髄バンクへの患者登録法は,以下の手順で行う.
 ①適応疾患であることの確認
 ②本人と両親,同胞のHLA検査
 ③患者登録
 ④HLA(human leukocyte antigen)照合
 ⑤MLC(mixed leukocyte culture)検査
 ⑥ドナー決定
 ⑦採取病院と移植病院の決定
 ⑧非血縁者間骨髄移植の実施

今後の展開

臨床治験の科学的評価

著者: 田野崎隆二 ,   池田康夫

ページ範囲:P.700 - P.703

●臨床治験とは新薬や新治療法を医学的,科学的かつ倫理的に評価する目的で計画された臨床における実験である.
●新薬導入における臨床治験には,厚生省の定めるGCPという基準がある.
●臨床治験の方法として,様々なバイアスを除くためには,無作為化臨床試験,特に二重盲検法がすぐれている.
●臨床治験が適切に行われるためには,審査および監視機関としてのコーディネーティング・センターの役割が重要である.

免疫療法とサイトカイン療法

著者: 幸道秀樹

ページ範囲:P.704 - P.706

●骨髄移植においてGVL(graft-versus-Leukemia)効果が明らかになり,ヒトにおいても免疫療法の可能性が出てきた.
●免疫学的作用をallogeneic effect(HLAなどの組織適合抗原が異なった時に発現する)と,そうでないものと分けて考えてみた.
●allogeneic effectであっても,サイトカインが媒介すると考えられ,サイトカインの投与でGVLと同様か,それ以上の効果が期待される.
●サイトカインの中ではインターフェロンとIL-2が注目され,特に後者は急性骨髄性白血病において,単独で寛解導入例が報告されている.

細胞移植と遺伝子治療

著者: 谷憲三朗

ページ範囲:P.708 - P.711

●細胞移植と遺伝子治療は,ともに次世代の移植療法の主流となっていくものと考えられる.
●しかし,この両者ともにまだ多くの問題をかかえており,臨床レベルで数多くの患者に利用されていくまでには時間がかかると思われる.
●本稿では膵細胞移植,癌に対する遺伝子治療,ならびにADA欠乏症に対する遺伝子治療の3つを例にとり上げ,各療法の現時点における臨床面での問題点と,これら先端医療の今後の方向性を論じる.

座談会

白血病の治療はどうあるべきか?

著者: 大野竜三 ,   小寺良尚 ,   元吉和夫 ,   浅野茂隆

ページ範囲:P.712 - P.724

 浅野(司会) 今日は土曜日の雪の降る中を遠いところからご出席いただきましてありがとうございます.
 本誌のテーマは「白血病-研究と診療の最新情報」ということですが,本文中に各執筆者から詳しい情報をいただいておりますので,ここではその中でも特に興味あるトピックスをあげて,診療に関する面でディスカッションしていただきたいと思います.先生方はこの分野をリードする方々ですから,大変有意義なものになると期待しております.よろしくお願いします.

対談 内科診療のあゆみ・4

糖尿病—成因,治療ならびに最近のトピックス

著者: 春日雅人 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.766 - P.777

糖尿病の検査
糖尿病を疑った時まず何をするか?
 尾形 私が医師になって糖尿病の患者に関与した時のことを思い出すと,あの当時は自分で尿糖も血糖も測らなければいけなかったので,クマガワーベビー法とか,Hagedorn法で一生懸命測定をすることに主に気がとられて,イメージとしては,患者をしみじみみたという記憶があまりないんですね.
 治療としては,あの当時ももちろんインスリンはありましたから,インスリンを打つ.食事に関しては,食事制限という概念はあったけれど,今から考えてみると大分違っていたと思いますね.最近は自分で糖を測る必要はなく,全部検査室でやってもらえるのですが,糖尿病の場合にはいろいろemergencyの場面があるので,ある程度のことは自分でできなければならないと思います.

電子内視鏡による大腸疾患の診断・14

悪性黒色腫

著者: 後小路世士夫 ,   出月康夫

ページ範囲:P.727 - P.730

 大腸原発悪性黒色腫の大部分は直腸肛門移行部に発生する.直腸肛門部の悪性黒色腫(以下,本症と略)の術前正診率は極めて低く,40%に満たない2).血栓性痔核に酷似するものや,単なる腺腫と診断されるものがあり,誤った治療計画がなされる.現在でも確定診断は病理学的検索によらざるを得ないのが実情かと思われるが,HMB-45という抗メラノーマ抗体も開発されており,病理学的検索段階での診断の困難性は少なくなった.しかしながら,incisional biopsyは有意に転移を惹起し2),根治手術までの時間は可及的に短くされるべきである.擦過細胞診など細胞採取上の工夫も有用であろう6).進行例や,明らかに腫瘍全体が黒色調を呈する例に対しては,本症の存在さえ念頭に置いていれば,内視鏡診断は決して困難ではない.
 術前診断上最も問題になるのは,部分的に点状黒色斑を示すものや,無色素性のものである7).皮膚原発例と同様,本症においても,無色素性のものが10%程度存在するとの報告もあり2,5),決して無視できない.4mm大の微小なもの8)から,超手拳大のもの2)まで報告されており,ポリープ状,SMT様,2型進行癌様など形態学的には非常に変化に富んでいるが,100%隆起成分を伴っている.

演習

心エコー図演習

著者: 深谷隆

ページ範囲:P.733 - P.738

 13歳の男子中学生が心検診で異常を指摘され,精査を希望して受診した.
 既往歴:特記事項なし
 家族歴:特記事項なし

図解病態のしくみ—肝臓病・9

薬剤性肝障害

著者: 宮林千春 ,   渡辺明治

ページ範囲:P.740 - P.749

 医療現場において,抗生物質,抗悪性腫瘍薬,中枢神経作用薬あるいは抗結核薬などによる肝障害の例を経験することは多い.実際,添付文書には,時にGOT, GPTの上昇が現れることがあると記載されている薬剤がほとんどで,「薬剤は肝障害を惹起する」と考えて診療にあたることが肝要と考える.
 薬剤性肝障害とは,薬剤やその代謝産物が原因で肝細胞の機能や胆汁分泌に障害を与えることによって生じる病態といえる.その分類としては,臨床像から急性型と慢性型,発生機序からアレルギー性と中毒性,病理学的所見から肝細胞障害型,胆汁うつ滞型,混合型などに分類されている.

medicina Conference・1【新連載】

腹部膨満を主訴とし,38℃台の発熱が続いていた70歳の女性

著者: 櫻林眞 ,   北爪知恵子 ,   北原光夫 ,   西崎統

ページ範囲:P.752 - P.762

 主訴:腹部膨満 家族歴:特記すべきことなし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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