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雑誌目次

雑誌文献

medicina30巻7号

1993年07月発行

雑誌目次

今月の主題 抗生物質の使い方 1993 抗生物質の選択と投与の基本

抗生物質投与前に行うべきこと

著者: 稲松孝思

ページ範囲:P.1192 - P.1196

●抗菌薬投与の利点と失点を考慮して適応を判断する.
●耐性菌の増加を防ぐためには,切札的新薬の乱用を慎み,適応を慎重に選ぶ.
●病歴,身体所見から原因菌を推定する.
●抗菌薬開始前に細菌検査を行う.

抗生物質の変更と中止の目安

著者: 喜舎場朝和

ページ範囲:P.1198 - P.1199

●起炎菌の目途がたたない状況で治療を始めなければならないとき,広域スペクトル抗生物質または併用療法を開始するのも止むを得ないが,2〜4日後に培養で起炎菌とその薬剤感受性が判明したならば,感受性が高く“狭域”スペクトルの薬剤に変更する.
●治療期間は,感染病巣および起炎菌の種別によって大まかに決まってくる.
●病巣部に器質的異常(COPD,胆道・尿路の狭窄など)や異物(気管内挿管,尿道カテーテルなど)が存在するかぎり,“菌の根絶”を目標に治療を続けてはならない.

発熱へどう対応するか

著者: 比嘉太

ページ範囲:P.1200 - P.1201

●体温上昇は発熱,高体温症に分類される.
●発熱の原因疾患のなかで最も多いのは感染症であるが,その他の疾患も少なくない.
●治療には原因疾患の診断が不可欠であり,安易な抗生物質の投与は避ける.
●薬剤熱が疑われる場合は当該薬剤の投与の中止を考慮する.

培養検体の採取方法と同定結果の読み方

著者: 熊坂一成

ページ範囲:P.1202 - P.1204

●発病初期の化学療法開始前に,起病菌が最も多く存在していると考えられる材料をとる.
●通常,無菌の体液を採取する場合は常在細菌叢の汚染を避け,患者自身に検体採取を依頼するものは,その方法を教育する.
●検体の品質評価のために,検体の肉眼的観察と臭いに注意し,塗抹標本が作製できる検体はグラム染色をすることが重要である.
●培養以前の検査材料の保存条件も,その後の検査成績を左右する.
●検査結果を適切に解釈するためには,臨床微生物学と感染症学の両方の常識を必要とする.

感受性検査の判断

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.1206 - P.1209

●感染症の治療では,起炎菌種に治療実績がある抗菌剤を原則として選択すべきである.
●感受性検査は,起炎菌が選択した抗菌剤に耐性を示さないことを確認する意味が強い.
●抗菌剤の選択に当たっては,感染部位や抗菌剤の組織移行性を考慮する必要がある.
●感受性検査により感受・耐性の判定基準が異なるため,検査室が採用している検査法の基準を理解する必要がある.

ナロースペクトラム抗生物質選択の臨床状況

著者: 和田光一 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.1210 - P.1212

●ナロースペクトラム抗生物質は,起炎菌が決定された症例でのみ選択される.
●嫌気性菌に抗菌力の弱いナロースペクトラム抗生物質は,ヒトの常在細菌叢を乱さず,長期間使用しやすい.
●MRSA感染症におけるVancomycin(VCM)のように,広域抗菌剤の谷間をうめる狭域抗菌剤は重要である.

プロードスペクトラム抗生物質選択の臨床状況

著者: 蝶名林直彦 ,   田中純太 ,   青木真

ページ範囲:P.1214 - P.1217

●昨今のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の蔓延は,ブロードスペクトラム抗生物質の乱用と重大な関連があり,現在,その適応規準は厳格に見直されねばならない時期にきている.
●適応病態は,initial therapy(empiric therapy)として,①起炎菌不明の重症肺炎,②感染臓器に基礎疾患を有する場合,③免疫不全状態における感染,④敗血症および菌血症などの場合であり,second choiceとして,①他剤無効例,②複数菌感染症などが該当する.
●無菌手術や上部消化管術後の予防的化学療法や院外肺炎は本剤の適応外である.

単剤療法の理由と利点

著者: 高橋洋 ,   渡辺彰

ページ範囲:P.1218 - P.1221

●抗生物質療法の理想は,起炎菌に対して最も強い抗菌力を持ち,他の菌にはあまり影響を及ぼさない狭域抗生物質による単剤療法である.
●単剤療法の主な利点は,①経済性,②基礎的成績に基づいた治療,③副作用の防止・軽減,④治療的診断,⑤常在細菌叢への影響が少ない(菌交代症の防止)などである.
●単剤療法を効率よく的確に行うためには,起炎菌を正しく把握し,使用する薬剤の抗菌力や抗菌スペクトラムを十分に理解しておく.

併用療法の必要な感染症

著者: 深谷一太

ページ範囲:P.1222 - P.1223

●最初に,併用療法の必要な感染症ないし病態として,経験的に知られているものを列記する.
 1.好中球が減少し免疫能低下を有する患者にみられる発熱
 2.感染性心内膜炎・敗血症
 3.結核症・非定型抗酸菌症
 4.内臓真菌症
 5.緑膿菌感染症(呼吸器・敗血症)
 6.新生児肺炎・小児の細菌性髄膜炎
 7.MRSA感染症 単剤投与で十分なことも多い
 8.腸球菌感染症 単剤投与で十分なことも多い
 9.混合感染 単剤投与で十分なことも多い

内科的予防的投与法

著者: 青木泰子

ページ範囲:P.1224 - P.1225

●内科領域の抗菌薬の予防的投与の適応となる疾患はごく限られている.
●リウマチ熱の発症,心炎合併,再発防止,および細菌性心内膜炎の防止は予防投与が重要であり,ペニシリンが多く用いられる.
●免疫不全は感染症合併のハイリスクであるが,予防投与と好中球減少患者の発熱時などに行われるエンピリック・セラピーとは区別して考えるべきである.
●AIDS患者やカリニ肺炎治癒例にはカリニ肺炎に対する予防投与が行われる.

外科的予防的投与法

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1226 - P.1228

●外科的予防的投与では術野に抗生物質の濃度が十分得られるように投与する.
●特に異物挿入手術や準清潔手術では術前投与が有効である.
●術後投与は薬剤アレルギーや耐性菌による発熱をきたすので行わない.

抗生物質の特徴と正しい使い方

ペニシリン系の使い方

著者: 澤江義郎

ページ範囲:P.1230 - P.1232

●ペニシリン系薬は細菌の細胞壁合成阻害薬で,殺菌的作用である.主としてグラム陽性・陰性球菌,Treponemaに有効である.
●天然ペニシリン系,ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン系,広域ペニシリン系の抗緑膿菌作用のあるもの,ないものに大別される.
●広域ペニシリン系薬はペニシリナーゼ非産生の大腸菌,赤痢菌,Salmonella,Proteusなどにも有効であるが,特に腸球菌,インフルエンザ菌に対して優れている.
●広域ペニシリンとβ-ラクタマーゼ阻害薬の併用は抗菌活性の増強が著明である.

第1世代セフェム系の使い方

著者: 川島崇 ,   和田光一 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.1234 - P.1235

●第1世代セフェム系抗生剤は,黄色ブドウ球菌(MRSAを除く),レンサ球菌,肺炎桿菌によい抗菌力を示す.大腸菌やインドール陰性プロテウスでは,一部耐性菌の増加を認める.
●術後の感染予防や皮膚,軟部組織の感染症に用いられる.

第2世代セフェム系の使い方

著者: 三笠桂一 ,   澤木政好 ,   成田亘啓

ページ範囲:P.1236 - P.1239

●第2世代セフェム剤は,第1世代セフェム剤に比べてグラム陰性桿菌への抗菌力の増強とβ-ラクタマーゼへの安定性を向上させた薬剤である.
●軽〜中等症の院外肺炎・尿路感染症・胆道感染症に有用である.
●ブドウ球菌に有効であるが,グラム陰性桿菌に対する抗菌力と抗菌スペクトラムは第3世代に劣る.

第3世代セフェム系の使い方

著者: 泉川欣一

ページ範囲:P.1240 - P.1243

●第3世代セフェム系抗生剤は,β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌に強い抗菌力を有し,セラチア,緑膿菌へのスペクトラムが拡大された薬剤である.
●黄色ブドウ球菌に対し一部薬剤を除き抗菌力弱く,安易な使用がMRSA増加の一因となる.
●十分な病態の把握により,重症感染症,日和見感染症の第1選択剤となる.
●各薬剤間に体内動態,排泄経路の違いがあり,この点を十分に把握する必要がある.

イミペネムの特徴と使い方

著者: 相澤信行 ,   古川恵二

ページ範囲:P.1244 - P.1246

●新しいβ-ラクタム系抗生物質のカルバペネムに属する.
●抗菌スペクトラムは抗生物質の中で最も広く,大部分のグラム陽性菌,グラム陰性桿菌,嫌気性菌に有効である.
●複数菌感染症,多剤耐性グラム陰性桿菌感染症などに適応がある.
●MRSA感染症,大部分の院外感染症,手術での予防的投与での適応はない.

モノバクタムの使い方

著者: 市川洋一郎

ページ範囲:P.1248 - P.1249

 ●モノバクタムは,好気性グラム陰性菌感染症が 強く疑われる場合に有用な抗生物質である.
●炎症時の主要臓器に効率良く移行し,組織中・ 体液中濃度がグラム陰性菌の最小発育阻止濃度(MIC)を上回るので臨床効果に優れている.
●抗菌スペクトラムはアミノ配糖体に類似してい るのでアミノ配糖体にとって代わり,その腎毒 性を減じることができる.
●グラム陽性菌や嫌気性菌との混合感染が考えら れる場合には,他剤との併用療法が必要である.

アミノ配糖体抗生物質の使い方

著者: 増田剛太

ページ範囲:P.1250 - P.1251

●アミノ配糖体抗生物質は多くの好気性グラム陰性桿菌とブドウ球菌に対して強い抗菌力を示し,その作用は殺菌的である.
●各種の重症感染症に対し,単独あるいはβ-ラクタム抗生物質と併用して用いられ,高い有効率を示す.
●副作用としての聴力・腎障害は血中濃度と相関するため,アミノ配糖体使用時には血中濃度の確認を行う必要がある.

ニューキノロン剤の有用性と限界

著者: 苅部ひとみ ,   相澤好治 ,   高田勗

ページ範囲:P.1252 - P.1254

●キノロンカルボン酸系抗菌薬に比し,ニューキノロン剤は,菌体への透過性に優れ,NA耐性菌に対しても効果的である.
●また,ニューキノロン剤は,広域な抗菌力を持つ.
●薬物代謝能力の低下している患者に投与する際,副作用の多様性について熟慮すべきである.

新しいマクロライド剤の使い方

著者: 木村雅司 ,   岸本寿男

ページ範囲:P.1257 - P.1259

●新しいマクロライド剤は胃酸への安定性や吸収性の改善,さらに副作用も軽減したことにより臨床効果の向上が期待される.
●エリスロマイシンの長期連続投与によりびまん性汎細気管支炎の治療効果が改善された.
●β-ラクタム系抗生剤無効の感染症においてはマクロライド剤の適用も考慮する.
●グラム陽性菌の中にはマクロライド剤耐性菌も多く注意が必要.

ST合剤の使い方

著者: 廣田正毅

ページ範囲:P.1260 - P.1262

●ST合剤とはスルファメトキサゾールとトリメトプリムの2剤の合剤である.
●一般細菌に対する抗菌スペクトラムは広いが,他の抗菌剤を第1次選択薬とし,これらの薬剤が無効または使用できない場合に,本剤を第2次的に選択する.
●主として尿路感染症,呼吸器感染症に有用性が認められている.
●Pneumocystis carinii肺炎の治療および予防目的で本剤が用いられる.
●血液障害をはじめ重篤な副作用も報告されており,副作用には十分配慮しなければならない.

アムホテリシンBとフルコナゾールの選択

著者: 舟田久

ページ範囲:P.1263 - P.1265

●AMPHは抗菌域が広いが,髄液移行が悪く副作用が多い.発熱は投与継続で軽減する.
●FLCZは副作用が少なく髄液移行がよいが,抗菌域はCandidaとCryptococcusに限られる.
●顆粒球減少患者の抗細菌薬に反応しない発熱には,経験的AMPH治療が行われる.
●Aspergillus症やMucor症にはAMPHを用いる.
●慢性播種性Candida症にはFLCZの長期投与やAMPHの門脈内持続投与が行われる.
●AIDSに合併するCryptococcus髄膜炎の再発予防にFLCZによる維持治療が勧められる.

バンコマイシンの使い方

著者: 味澤篤

ページ範囲:P.1266 - P.1267

●グラム陽性球菌に対してのみ抗菌力があり,その適応はMRSAなどの多剤耐性グラム陽性球菌に限定される.
●ペニシリン系,セファロスポリン系薬剤と構造がかなり異なっているため,これらのアレルギー患者にも使用しやすい.
●腎排泄であり,腎機能に応じて投与量の調節を行わなければならない.

抗ウイルス剤の使い方—アシクロビルの正しい使い方

著者: 西條政幸 ,   藤田晃三

ページ範囲:P.1268 - P.1269

●アシクロビルは,単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスが有しているウイルス性thymidine kinaseで燐酸化され3燐酸体になり,それがウイルスDNAに取り込まれることにより,ウイルスの増殖を抑制する.
●アシクロビルは,強い抗ウイルス活性に反し細胞毒性が低く,副作用も比較的少ない.
●アシクロビル療法の対象疾患の特徴を把握し,それに応じた使用法を選択する必要がある.
●ヘルペス脳炎,新生児ヘルペス,免疫不全状態での水痘は予後がきわめて悪いため,アシクロビル早期投与が重要である.

抗生物質のエンピリック・セラピー

抗生物質の正しいエンピリック・セラピー

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1272 - P.1273

●エンピリック・セラピーは十分な情報を得る方策を行ったのちに抗生物質を投与することである.
●投与前の状況判断が正しく行われると,エンピリック・セラピーはそのまま最終的治療方法となる.
●安易なエンピリック・セラピーはしばしば収拾がつかなくなる.

敗血症を疑わせる症例へのエンピリック・セラピー

著者: 西谷肇

ページ範囲:P.1274 - P.1276

●突然の悪寒,戦標,高熱,白血球著増では敗血症を疑う.
●低体温,頻脈,頻回呼吸でも敗血症を疑う.
●老人では,意識の変化(レベルダウン)や全身状態の悪化をみたら敗血症も疑う.
●敗血症を疑った場合,血液培養は抗菌薬投与前に最低2回,できれば3回行う.
●エンピリック・セラピーは原発感染巣と思われる病巣に多い原因菌をカバーするように選択する.
●基礎疾患のある場合や重症な場合にはアミノ配糖体を併用するとよい.

市中感染肺炎例へのエンピリック・セラピー

著者: 永武毅

ページ範囲:P.1278 - P.1282

●膿性痰の市中肺炎ではインフルエンザ菌,肺炎球菌,B. catarrhalisが中心で,黄色ブドウ球菌,肺炎桿菌も重要である.
●咳嗽が強く,β-ラクタム剤無効の肺炎ではMycoplasma,Chlamydia,結核などを考える.
●市中肺炎に対するエンピリック・セラピーでは,軽症肺炎で基礎疾患がなければ経口剤治療も可能である.中等症以上の肺炎には注射剤を用いる.広域で組織移行が良く,かつβ-ラクタマーゼ安定の抗菌剤がファースト・チョイスの薬剤となる.

院内感染肺炎例へのエンピリック・セラピー

著者: 下方薫

ページ範囲:P.1284 - P.1285

●院内感染を併発しやすい基礎疾患を有する患者では,常に院内感染肺炎の発症に細心の注意を払う.
●各医療施設で,どのような菌種が院内感染の主要起炎菌となっているのか,また,それらの菌の薬剤耐性についての知識が重要である.
●院内感染肺炎を疑ったら,最も適切と考えられる抗菌剤で直ちに治療を開始する.

尿路感染症へのエンピリック・セラピー

著者: 上間健造 ,   香川征

ページ範囲:P.1286 - P.1288

●エンピリック・セラピー施行前に,尿路感染症(UTI)の的確な病態診断を行う.
●急性単純性UTIではE.coli,慢性複雑性UTIではP.aeneginosaとE.coliをターゲットとして抗菌薬を選択する.
●治療開始3〜5日後に抗菌薬への反応を検討し,無効例では病態の再検討と培養検査成績による抗菌薬の適否を検討する.
●化学療法無効例は,泌尿器科的処置の必要性を検討する.

感染性心内膜炎へのエンピリック・セラピー

著者: 渡辺健太郎

ページ範囲:P.1290 - P.1291

●本症を疑った場合,必ず血液培養を施行し,菌を同定するとともに薬剤感受性試験を施行する.
●培養結果判明前には臨床症状に従い最も耐性とされる菌を想定し,速やかに治療を開始する.
●常に第1選択の抗生剤を臨床的に十分と考えられる期間投与し,治療後も再発のないことを確認する.
●臨床症状に従い,適切に外科的治療を適用する.

細菌性髄膜炎へのエンピリック・セラピー

著者: 北川泰久

ページ範囲:P.1292 - P.1295

●髄液では一般検査,培養のほか,グラム染色による塗抹鏡検を,血液検査では血液培養を必ず行う.
●抗生剤を投与する場合は髄液への移行率,基礎疾患の有無を考慮する.
●中枢神経系に基礎疾患のない場合のエンピリック・セラピーとしては,第3世代のセフェムであるセフォタキシムまたはセフトリアキソンのどちらかとアンピシリンの併用がよい.
●脳外科手術では腸内細菌,緑膿菌を,髄液シャント感染ではブドウ球菌,特にMRSAを想定した治療をまず行う.

高齢者感染症へのエンピリック・セラピー

著者: 深山牧子

ページ範囲:P.1296 - P.1298

●高齢者の感染症は,基礎疾患を背景に発症することが多く,慢性化・難治化しやすく,耐性菌が出現しやすい.
●嚥下性肺炎,慢性複雑性尿路感染,褥瘡感染は抗菌剤の投与のみでは治癒せず,補助療法が必要.
●高齢者敗血症の侵入門戸は,尿路,静脈留置カテーテル,胆道など.
●高齢者では,抗菌剤の血中半減期は延長しており,投与量には注意.

抗生物質投与中に起こる問題とその対応

免疫機能正常例にみられる発熱

著者: 伊良部勇栄 ,   斎藤厚

ページ範囲:P.1300 - P.1301

●感染症では,アレルギー反応が起こりやすい状態にある.
●抗生物質による発熱は投与開始4〜5日目と10〜13日目に見られやすい.
●薬疹が合併する頻度は10〜20%.
●アレルギー疾患患者では出現頻度が高い.
●老齢者の場合は他の疾患の合併の頻度が高く,若年者の場合は原疾患に関連した原因が多い.
●使用抗生物質が無効の感染症あるいは非感染症による発熱であることも考慮する.
●併用薬剤や体内に挿入した医療器具による発熱も考慮する.

好中球減少時における発熱

著者: 大本英次郎

ページ範囲:P.1302 - P.1304

●好中球減少時の感染症は正常時と比較して重症化しやすく,それ以外にもいくつかの特徴を有する.
●好中球減少時,抗生物質の投与中に発熱がみられる場合,まず耐性菌の出現を疑う.他に薬剤アレルギー,輸血,腫瘍増殖などによる発熱も含まれるが,鑑別はさほど困難ではない.
●咽頭,便培養で検出される潜在的病原微生物は,正常細菌叢の破壊後の起炎菌である可能性が高く,感染症発症前,抗生物質投与中にも頻回に検索しておくと抗生物質変更時に有力な情報となる.

抗生物質投与中に出現した下痢

著者: 木岡清英 ,   大川清孝 ,   針原重義

ページ範囲:P.1305 - P.1307

●“抗生物質投与中に出現した下痢”で臨床上問題になるものとして,①偽膜性大腸炎,②MRSA腸炎,③出血性大腸炎,があり,これらは抗生物質起因性大腸炎と呼ばれている.
●抗生物質起因性大腸炎の診断には,①下痢が抗生物質投与に関連すること,②腸炎の存在が確認されること(内視鏡検査),③既知の感染性腸炎や他の炎症性腸疾患の除外,が必要である.
●偽膜性大腸炎およびMRSA腸炎は,診断,治療が遅れると重篤化し,死亡することがある.下痢が出現した場合,迅速に検査を行い,早期診断,早期治療に努めることが重要である.

抗生物質と腎機能

著者: 鈴木幹三 ,   松浦徹 ,   山本俊幸

ページ範囲:P.1308 - P.1310

●腎毒性薬は,腎組織に直接作用するものと過敏反応によるものに大別される.
●抗菌薬の腎毒性は系統別に異なり,ポリエン系のアムホテリシンB,ポリペプチド薬,アミノ配糖体薬の腎毒性は強い.
●腎毒性を持つ抗菌薬を使用する際は,定期的に腎機能検査を行い,早期に腎障害をチェックする必要がある.
●腎不全患者に腎排泄型の抗菌薬を投与する場合は,腎障害の程度に応じて投与法を調節する必要がある.

MRSA感染症への対応

著者: 林泉 ,   一木昌郎 ,   中山耕之介

ページ範囲:P.1311 - P.1313

●超高度耐性MRSAは毒力が低下し,感染症は40%以下,深部感染症は10%程度である.
●第3世代セフェム剤は,MRSAのPBP-2'を増加(induction)させ,薬剤選択(selection)する.
●鼻腔・上気道・皮膚・創などの感染にイソジンクリーム,含嗽液.気管ストーマにABKまたはVCMの吸入療法.腸管感染にVCM内服.
●深部感染症にはMRSAのメチシリン耐性度をみて使い分ける.複数菌感染に注意.
●FOM-ABK-セフェム,FOM-セフェム-VCMの時間差攻撃療法を短期決戦として用いる.ステロイドを少量短期間加える.腎機能に注意.

必要かつ十分な抗生物質

オフィス・プラクティスと必要な抗生物質

著者: 吉原幸治郎 ,   福井次矢

ページ範囲:P.1315 - P.1317

●急性咽頭炎は一般にウイルス感染であり,予防的な抗生物質投与は必要ではない.
●二次感染の有無は白血球数,CRP,赤沈(ESR)の値を参考にする.
●扁桃腺炎の鑑別診断として伝染性単核球症などウイルス感染を常に考慮する.
●慢性下気道感染にはマクロライドや新キノロン系抗菌剤が有効である.
●尿路感染症の主な原因菌である大腸菌にはアンピシリン耐性株が増加している.
●急性腸炎は自然治癒傾向が強く,対症療法が治療の中心である.

MRSA感染を起こさないための抗生物質の使い方

著者: 小林芳夫

ページ範囲:P.1318 - P.1321

●MRSAの各種臨床検体からの分離株数の増加は広域セフェム系抗生剤の使用量の増加と無縁ではない.
●MRSA感染症の治療薬剤として,バンコマイシンあるいはアルベカシンを使用する.
●occult resistant strainを顕在化させないために,グラム陰性桿菌感染症の治療薬としてアズトレオナムを使用するのも一法である.

対談 内科診療のあゆみ・7

腎疾患診療の進歩

著者: 荒川正昭 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.1368 - P.1379

 尾形 私が昭和30年の前半に医者になった頃,結核とか腫瘍は別として,いわゆる内科的な腎疾患というと,すぐ思いつくのは腎不全,尿毒症,ネフローゼ症候群,それから,腎盂腎炎のような感染症に由来するものがありました.
 当時は,腎臓の病気というとglomerulusの病気であって,その治療というと,尿毒症になるから蛋白制限をし,血圧が上がるから食塩制限をしようというものでした.ネフローゼの場合には,尿に蛋白が出て,その大部分は,あの当時は確か尿細管の異常と理解されていて,治療は,むくみがひどいから,水の制限と適度の利尿薬でした.佐々廉平先生の本では,いかに利尿薬を使うか,その利尿薬も今と違って水銀利尿薬でした.そういうところまでしか医者の関与するところがなくて,あとは安静でした.

内科医のための胸部X-P読影のポイント・20

特発性肺線維症

著者: 佐竹範夫 ,   西村浩一 ,   長井苑子

ページ範囲:P.1324 - P.1330

症例
 患者 58歳,男性,町長.
 主訴 胸部X線上の異常陰影の精査目的.

電子内視鏡による大腸疾患の診断・17

大腸の粘膜下腫瘍

著者: 多田正大 ,   清水誠治 ,   柴峠光成 ,   大塚弘友

ページ範囲:P.1332 - P.1337

 大腸腫瘍を大別すると,病理学的には上皮性腫瘍(癌腫,腺腫,化生性ポリープや過形成性ポリープ,カルチノイドなど)と非上皮性腫瘍(平滑筋腫,脂肪腫,線維種,神経線維種,リンパ管腫,悪性リンパ腫,平滑筋肉腫など)に分けられる.上皮性腫瘍は粘膜面に発生し,腸管腔へ向かって発育するのに対して,非上皮性腫瘍の多くは粘膜下層より深層に,すなわち粘膜下腫瘍として増殖することが多い.粘膜下腫瘍とは文字通り粘膜の下に存在する病変であり,その多くは非上皮性腫瘍であるが,種類は複雑多岐にわたる.上皮性腫瘍であるカルチノイドも代表的な粘膜下腫瘍であるし,癌も稀には粘膜下腫瘍としての増殖をみせることもあり,その鑑別診断は難しい.
 粘膜下腫瘍か否かの内視鏡診断は難しくない.なぜなら,上皮性腫瘍の内視鏡像をよく記憶しておくことによって,これらに該当しないような所見が得られたら非上皮性腫瘍が疑われ,粘膜下腫瘍として診断することができるからである.腫瘍の表面を正常上皮が被蓋していること,一部潰瘍を形成していても,その周辺の被蓋上皮は正常粘膜であること,病変の大きさの割には表面が平滑であり,癌や腺腫のように分葉や結節をつくらないこと,時には胃の粘膜下腫瘍と同様に,いわゆるbridging foldを形成すること,などが本症として積極的に診断する所見である.

図解病態のしくみ—肝臓病・12

肝硬変

著者: 高原照美 ,   渡辺明治

ページ範囲:P.1338 - P.1345

 肝硬変は慢性肝疾患の終末像と考えられており,肝障害に起因する直接的な臨床症状と検査成績の異常を示すのみでなく,全身諸臓器の障害を伴う多彩な全身性疾患である.最近の診断技術の確立や治療法の進歩により,生存期間が延長するとともに,肝細胞癌を高頻度に合併することが問題となっている.肝硬変と肝細胞癌の両者の総死亡率は全死亡の5.2%を占めており,わが国の成人病死亡の大きな要因となっている.

演習

心エコー図演習

著者: 羽田勝征

ページ範囲:P.1347 - P.1350

咳嗽と呼吸困難にて来院した27歳の主婦
 4年前,左房粘液腫で摘出術を受けた女性.今回2カ月ほど前より咳嗽と呼吸困難あり受診した.
 現症:血圧112/84mnHg,脈120/整,Levine 2/6の拡張期ランブルと摩擦音あり.浮腫なし.

medicina Conference・2

顎関節痛と発熱を主訴とし,一過性の視力障害を呈した67歳の女性

著者: 石井周一 ,   池田正行 ,   北原光夫 ,   小澤安則

ページ範囲:P.1354 - P.1365

 主訴:顎関節痛,発熱
 現病歴:生来健康であったが,1992年5月中旬頃より,咀嚼後に両側の顎関節の痛みが出現した.しかし,腫脹・発赤はその部位には見られなかった.5月の終わり頃,洗濯中に突然右眼の視野が「まっ白になり」,何も見えなくなった.この発作は5分間続いた.この頃より寝汗を経験するようになった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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