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雑誌目次

雑誌文献

medicina30巻9号

1993年09月発行

雑誌目次

今月の主題 消化性潰瘍治療の新展開 EDITORIAL

消化性潰瘍治療の現状と展望

著者: 西元寺克禮

ページ範囲:P.1596 - P.1597

 消化性潰瘍と胃酸の関係は古くより知られ,酸を制することが潰瘍治療の目標であった.経験的に使われてきた酸中和剤(制酸剤)に加え,抗コリン剤が開発されたが,十分な効果を発揮するには至らなかった.酸分泌機構の解明とともに,抗ムスカリン剤が開発されたが,潰瘍の治療に決定的な影響を与えたのはヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2ブロッカー)である.その後,より強力な酸分泌抑制力を有するプロトンポンプ阻害剤が開発され,その適応について議論されているのが今日の姿である.

成因

自律神経と消化性潰瘍

著者: 松尾裕

ページ範囲:P.1598 - P.1603

●ヒトにみられる慢性潰瘍が,なぜ粘膜筋板を貫通して固有筋層に達し,胃の小彎胃角部に限局して好発するかは大きな謎である.
●筆者は,脳からの交感神経刺激による胃粘膜筋板下あるいは固有筋層における動脈の攣縮と,迷走神経刺激による胃液分泌の亢進により深い潰瘍が発生するという考えをもっている.
●十二指腸潰瘍が十二指腸球部に発生することは当然のごとく思われているが,なぜ十二指腸球部が存在するのか,その形成機序と潰瘍発生について迷走神経肝・十二指腸枝について検討した.

消化管ホルモンと消化性潰瘍

著者: 岸本眞也

ページ範囲:P.1604 - P.1608

●消化性潰瘍の成因に関与すると考えられる消化管ホルモンは,攻撃因子としてガストリン,防御因子としてソマトスタチンがある.
●ガストリンは胃酸分泌を刺激し,ソマトスタチンはガストリン分泌,酸分泌を抑制している.
●ガストリンが消化性潰瘍の成因に関与する疾患はZ-E症候群,偽Z-E症候群における十二指腸潰瘍である.
●高ガストリン血症,粘膜ソマトスタチン量の低下とH.pylori感染が潰瘍の成因に関与することが分かってきている.

壁細胞内情報伝達機構

著者: 菅野健太郎

ページ範囲:P.1610 - P.1614

●壁細胞膜の主要な受容体が分子クローニングされ,受容体の分子機構が解明されてきた.
●受容体情報を伝達するリン酸化反応カスケードは,極めて複雑なネットワークとなっている.
●リン酸化される標的蛋白およびその候補蛋白が明らかにされてきた.
●壁細胞活性化に関与する細胞骨格系蛋白ならびにその関連蛋白が明らかにされてきた.
●プロトンポンプの基本的な構成ユニットが解明された.

胃粘膜防御機構

著者: 寺野彰 ,   高橋盛雄 ,   椎名秀一朗 ,   太田慎一

ページ範囲:P.1616 - P.1619

●胃粘膜細胞保護作用(cytoprotection)は,胃粘膜保護機構の解明にとって最も重要な概念である.
●胃粘膜防御因子としては,粘液分泌,胃粘膜微小循環,細胞回転などがある.
●PGは,胃の表層細胞を障害物質から保護することはできないが,より深層の頸細胞,微小循環を保護している.
●胃粘膜防御機構の重要な要素として損傷治癒過程が考えられてきた.
●胃粘膜細胞がHGFを産生していることが発見され,注目されている.

病態生理

消化性潰瘍の病態生理

著者: 井上正規

ページ範囲:P.1620 - P.1626

●胃潰瘍では,胃・十二指腸液の逆流により胃粘膜関門の破壊が認められた.その他,胃排出遅延,プロスタグランジン低下や血流低下などの関与が推測されている.
●十二指腸潰瘍では胃酸分泌能は高く,ガストリンに対する感受性も高かった.また,酸の十二指腸における負のフィードバック機構の破綻が観察された.
●以上より,胃潰瘍の病態は胃粘膜防御機構の異常が,十二指腸潰瘍のそれは胃酸分泌の異常がその中心と考えられた.

薬物療法

薬物療法をどう進めるか

著者: 西元寺克禮

ページ範囲:P.1628 - P.1631

●高位胃潰瘍は高齢者に多く,酸分泌低下例のため,攻撃因子抑制剤と防御因子増強剤の併用(以下併用)を行う.
●胃角部潰瘍では難治例が少なくなく,併用が原則であるが,当初よりプロトンポンプ阻害剤(PPI)を難治例では用いてもより.
●十二指腸潰瘍は年代にかかわらず高酸であり,攻撃因子抑制剤単独でよい.また,併存潰瘍は十二指腸潰瘍に似るが,治療は胃角部潰瘍に準ずる.

制酸剤・抗コリン剤の評価と使い方

著者: 早川滉

ページ範囲:P.1632 - P.1634

●Mg剤は遅効性,緩下作用があり,A1製剤は粘膜親和性が強く,臨床的には両者の合剤である液剤(マーロックスR)が使用されている.作用時間は短く,抗コリン剤などとの併用が一般的である.
●抗コリン剤は3級アミン,4級アンモニウム塩に分類される.3級アミンは運動抑制が強く鎮痙剤として,4級アンモニウム塩は分泌,運動抑制が認められる.
●現在臨床的に多く用いられている種類は,その作用から抗コリン剤というより抗ムスカリン剤といったほうが理解しやすい.

選択的抗ムスカリン剤の評価と使い方

著者: 石森章

ページ範囲:P.1636 - P.1638

●選択的抗ムスカリン剤は第二世代の胃酸分泌抑制剤であり,内科的な選択的迷走神経切断術に相当する.
●防御因子増強作用も認められる.
●活動期潰瘍に対する急性治療は潰瘍病巣治癒促進だけでなく,瘢痕治癒達成後の再発予防にも効果を発揮する.
●維持療法も再発予防に有効である.
●特に禁忌はなく,逆流性食道炎や食道潰瘍,あるいは出血性潰瘍にも積極的に用いられる.
●急性治療から維持療法へと長期にわたって安心して使用できる.

H2受容体拮抗剤の評価と使い方

著者: 岩崎有良

ページ範囲:P.1640 - P.1642

●H2受容体拮抗剤は治癒率が高く,症状の消失も早いので,消化性潰瘍の治療薬としてfirstchoiceで用いる.
●胃潰瘍ではH2受容体拮抗剤と防御因子増強剤との併用療法,十二指腸潰瘍ではH2受容体拮抗剤の単独療法が基本である.
●治癒後の維持療法は再発予防に重要である.
●維持療法におけるH2受容体拮抗剤の投与法は一律にhalf doseとせずに,症例の背景因子などを考慮して使い分ける必要がある.
●維持療法は最低1年,できれば2〜3年は継続すべきである.

プロトンポンプ阻害剤の適応

著者: 浅木茂

ページ範囲:P.1644 - P.1647

●プロトンポンプ阻害剤(PPI)は,H2抵抗性潰瘍やNSAIDs投与中の潰瘍,出血性潰瘍内視鏡治療後例や穿孔の危険のある潰瘍を保存的に治す必要がある例,などの治療に必要である.
●しかし,PPIの使用期限の制約のためにH2ブロッカーへの移行が必要になるが,PPIで症状がとれ来院しなくなる例があり,大出血や穿孔を伴うような再発例の発生が懸念される.以前に増して患者管理が重要になった.
●PPIの安全性はほぼ確立されたが,わが国では胃粘膜萎縮を伴う例が多いので,長期的な安全性の確立にはもう少し時間を要すると思う.

プロトンポンプ阻害剤の使い方

著者: 福本四郎 ,   足立経一 ,   森真爾

ページ範囲:P.1648 - P.1649

●本剤の用法は,1日1錠1回の投与で,服薬時間は朝でも晩でもほぼ同じ効果であり,患者のコンプライアンスのよいほうに投与する.
●本剤は単独で高い治癒成績が得られるが,高齢者,合併症を有する患者には,防御因子増強剤の併用を行うとよい.
●胃潰瘍で8週間,十二指腸潰瘍で6週間が本剤の投与期間で,それで未治癒の場合は,H2ブロッカー治療量を用いて引き続き治療を行う.
●治癒後の維持療法は,H2ブロッカー半量単独,あるいはH2ブロッカー半量と防御因子増強剤の併用により行う.

プロトンポンプ阻害剤使用上の注意

著者: 矢花剛 ,   落合亨 ,   小林壮光

ページ範囲:P.1650 - P.1652

●PPIは血中から速やかに消失し,壁細胞に選択的に蓄積するため,臨床上特に重篤な副作用は報告されていない.しかし,注意深い観察を怠ってはならない.
●PPIによる低・無酸状態下の壁細胞の形態学的変化,腸内細菌叢への影響,血中ガストリン上昇を介したECL細胞過形成(カルチノイド)の発生,遺伝子損傷作用などの諸問題が危惧されているが,ヒトでの報告はない.
●PPI常用量投与で十分な酸分泌抑制効果が得られない症例がある.

防御因子増強剤の評価と使い方

著者: 森賀本幸

ページ範囲:P.1654 - P.1656

●防御因子増強剤の開発,その評価にはわが国独自のものがある.背景粘膜に萎縮性胃炎のある胃潰瘍の頻度が高いことと関係がある.
●防御因子増強剤には胃・十二指腸粘膜の防御機構(被蓋上皮,粘液分泌,粘膜血流)の増強作用,さらに潰瘍修復促進作用の薬効薬理がある.
●防御因子増強剤が単独投与されることは少なく,H2受容体拮抗剤,プロトンポンプ阻害剤と併用されることが多い(併用療法).
●胃潰瘍の初期療法,さらに維持療法(再発予防)に有用である.
●十二指腸潰瘍に適応をもつものは少ない.

プロスタグランジン製剤の評価と使い方

著者: 荒川哲男 ,   小林絢三

ページ範囲:P.1658 - P.1660

●消化性潰瘍はプロスタグランジン(PG)欠乏症候群である.
●PGの欠乏は,quality of ulcer healing(QOUH:潰瘍治癒の質)を低下させる.
●PG製剤およびPG-inducerはQOUHを高め,再発しがたい潰瘍瘢痕を形成させるのに寄与する可能性が最も期待される抗潰瘍剤である.

抗潰瘍剤の予防的投与

著者: 高橋裕 ,   上野文昭

ページ範囲:P.1662 - P.1665

●重篤な基礎疾患を有する患者において,H2ブロッカーのストレス潰瘍に対する予防的投与の有用性は確立されている.
●NSAIDs使用例における予防的投与の効果は,ミソプロストールやラニチジンで認められているものの,その適応とすべき対象に関し未だ確立したものはない.
●リスクの高い患者に対しては,その基礎疾患や病態に合わせ適宜投与するといった“individu-alization”が必要と思われる.

特殊な潰瘍の治療

小児潰瘍の実態と治療

著者: 原田一道 ,   並木正義

ページ範囲:P.1669 - P.1671

●小児(0〜14歳)の消化性潰瘍が最近ますます増加している.
●確定診断には内視鏡検査が有用である.
●小児潰瘍は胃潰瘍より十二指腸潰瘍のほうが多く,かつ男子のほうが女子より明らかに発生率が高い.
●小児期に潰瘍になったものは,成人してからも潰瘍になりやすい.
●治療はH2ブロッカーと防御因子増強剤の併用療法が主体である.

高齢者潰瘍の治療

著者: 大島博

ページ範囲:P.1672 - P.1674

●高齢者潰瘍の薬物療法は,一般に攻撃因子抑制剤と防御因子増強剤の併用によって行われる.
●日本人の高齢者胃潰瘍では萎縮性胃粘膜を背景としていることが多いので,初期療法から防御因子増強剤を使用すべきである.できれば主作用の違った複数の防御因子増強剤を用いたい.
●潰瘍が活動期にあり疼痛などの著しい症例,ならびに潰瘍が胃角部およびそれより肛側あるいは十二指腸にある場合と併存潰瘍には,たとえ高齢者でも酸分泌抑制剤を用いる.
●維持療法における防御因子増強剤の使用にも,十分に留意すべきである.

NSAIDs併用例の治療

著者: 安達献 ,   石川主税 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1676 - P.1678

●NSAIDsはできるだけ少量使用し,坐剤やプロドラッグなどを第一選択とする.
●胃腸障害発生の比較的少ないNSAIDsでスタートし,その後,抗炎症作用の強い薬剤に切り替える.
●NSAIDs長期投与中に発症した潰瘍は通常の消化性潰瘍に比し,難治性潰瘍が多く,プロトンポンプ阻害剤やH2受容体拮抗剤の選択に加え,プロスタグランジン製剤の併用を考える.
●ステロイド併用例は予防的抗潰瘍薬投与の絶対的適用であり,プロスタグランジン製剤やH2受容体拮抗剤などを投与する.

難治性胃潰瘍の治療

著者: 大井田正人 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1679 - P.1681

●難治性胃潰瘍とは,初期治療で8週未治癒のもので,H2ブロッカー抵抗性潰瘍が多い.
●難治性胃潰瘍の判定には,局所所見が重要である.
●プロトンポンプインヒビターが,難治性胃潰瘍の治療には有用である.
●難治性胃潰瘍と判定し得るものは,プロトンポンプインヒビターを第一選択薬として使用するのがよい.
●難治性胃潰瘍の治療は,初期治療のみでなく再発も考慮すべきである.

難治性十二指腸潰瘍の治療

著者: 金子栄藏

ページ範囲:P.1682 - P.1684

●難治性十二指腸潰瘍はH2ブロッカーで3カ月,あるいはプロトンポンプ阻害剤で6週間の治療で治癒に至らないものであり,その頻度は2〜3%以下である.
●H2ブロッカーに抵抗する潰瘍の90%はプロトンポンプ阻害剤で治癒が得られる.しかし治癒後の再発率は,たとえH2ブロッカーを引き続き投与しても極めて高率で,問題が残されている.
●Helicobacter pylori感染が再発に関連しているとの報告が多いが,なお今後の検討を要する.

治癒判定

X線写真による治癒判定

著者: 渕上忠彦

ページ範囲:P.1686 - P.1690

●X線検査による胃潰瘍の治癒の判定は,ニッシェの消失のみにて行うと問題があり,ニッシェの消失した部位に粘膜模様(再生上皮)が読めるか否かによって判定すべきである.
●周囲粘膜像と比較した瘢痕部の陥凹の有無,再生粘膜模様のパターンから胃壁の修復度も推測できる.
●以上を判定するには,胃の微細模様である小区像の描出されたX線写真が必要である.
●潰瘍の治癒判定においても,X線検査は決して内視鏡検査に劣るものではない.

内視鏡による治癒判定

著者: 芳野純治 ,   中澤三郎

ページ範囲:P.1691 - P.1695

●酸分泌抑制薬により,消化性潰瘍は容易に治癒するようになった.しかし,再発も多くみられるため,治癒の判定は難しい.
●通常の内視鏡で観察されるS2期は,潰瘍の治癒判定としておおよその賛同が得られている.
しかし,再発もみられるため十分ではない.
●色素内視鏡・拡大内視鏡は瘢痕部の微細な中心陥凹の有無をより詳細に観察し,S1期をより厳密に評価する方法である.
●超音波内視鏡は潰瘍エコーのみられない瘢痕を治癒と判定する新しい方法で,有用な方法の1つと考えられる.

再発と維持療法

維持療法はなぜ必要か

著者: 中村孝司

ページ範囲:P.1698 - P.1702

●現在のところ,潰瘍の自然歴を変え得るような抗潰瘍薬はない。したがって,治療をやめると再発が高率に起こる.
●再発を繰り返すと難治化する.また,再発時には合併症が起こりやすくなる.
●このようなことから維持療法が必要となるが,画一的な維持療法ではいけない.
●維持療法不要のものから,H2-RA full doseでも再発を抑制できないものまで,個々の例で状況は異なる.
●将来は,維持療法のいらない治療をめざす方向にある.

胃潰瘍の長期予後

著者: 小越和栄

ページ範囲:P.1704 - P.1706

●胃潰瘍は再発を起こしやすい疾患で,いったん発生した潰瘍を永久に治癒させることは困難である.
●潰瘍瘢痕の内視鏡所見に,再発を起こしやすいものと起こしにくいものとの差が認められる.
●内視鏡的に潰瘍瘢痕が明瞭にみられる(粘膜ひだの集中や硬化像および色調の変化など)症例では再発を起こしやすく,維持療法が必要である.

胃潰瘍の維持療法

著者: 塚本純久

ページ範囲:P.1708 - P.1709

●胃潰瘍の維持療法を考えるにはその治癒判定が重要であり,少なくとも瘢痕部の局所所見として“真の治癒”像を明らかにする必要がある.
●“真の治癒”を確認するまでには,通常,6〜12カ月間にわたる内科的治療が必要である.この期間の薬物療法(“維持療法”)は初期治療の延長と考えるべきである.
●“真の治癒”が得られた後の維持療法の要否については,画一的に論じられない.
●再発危険要因には種々のものがあり,それをもつ胃潰瘍例の維持療法は可能な限り長期間にわたって行う必要があろう.

十二指腸潰瘍の長期予後

著者: 児玉正

ページ範囲:P.1710 - P.1711

●十二指腸潰瘍は治癒しやすい疾患であるが,経過観察期間が長期になるにつれ,高い再発率を示すようになる.また中・高年者に比して若年者で再発しやすい傾向にある.
●十二指腸潰瘍の終末像と考えられる線状潰瘍は,単発・多発潰瘍が長期にわたり再発することにより形成される.このような線状潰瘍は頻回に再発するとともに,球部変形も高度である.
●狭窄,穿孔,出血による合併症例が手術例のほとんどを占めるが,内視鏡的止血術の普及により出血による手術例は減少している.

十二指腸潰瘍の維持療法

著者: 原澤茂

ページ範囲:P.1712 - P.1715

●十二指腸潰瘍は胃潰瘍と同様,初期治療による潰瘍の治癒は,H2ブロッカーやプロトンポンプインヒビター(PPI)の登場で約90%以上の成績をあげている.
●しかし,治癒後の再発は宿命的であり,現在までのところ,H2ブロッカーを中心に,半量投与を継続することで再発はある程度防止することができるが,完全とはいえない.
●今後,H.pyloriの除菌を考慮した初期治療が行われるとすると,維持療法にあまり重点を置かなくとも再発は防止できるかもしれない.

吻合部潰瘍の治療

著者: 塚本秀人 ,   比企能樹 ,   三橋利温

ページ範囲:P.1716 - P.1718

●吻合部潰瘍とは,胃切除術または胃空腸吻合術などの術後に発生する特殊な消化性潰瘍で,その成因としては初回手術の不完全,不適切による減酸不十分が考えられる.
●治療の第一選択は薬物療法であり,その基本はH2受容体拮抗剤,プロトンポンプ阻害剤などによる減酸であるが,瘢痕治癒後の再発率が高いため維持療法の重要性が問題となる.
●保存療法で止血困難な出血例や穿孔,狭窄例が絶対的手術適応となる.手術療法としては,再切除のみでは再々発の危険性があるため,迷切を加えたより完全な減酸手術が望まれる.

治癒・再発に関する諸因子

胃・十二指腸潰瘍の治癒に関係する因子

著者: 岡田光男

ページ範囲:P.1720 - P.1722

●20mm以上の潰瘍および再発性潰瘍はH2ブロッカー登場後も胃潰瘍の難治要因である.
●難治性胃潰瘍を正確に予測するためには3つのX線所見〔胃角部線状潰瘍(間接所見として胃角のU字変形を示す),Schwellungshof以外の潰瘍壁のあるもの,粘膜集中高度〕および治療開始後2週以内の症状消失の有無のチェックが有用である.
●十二指腸潰瘍の難治要因として,球部の変形高度および10mm以上の潰瘍,喫煙(20本/日以上),“治療開始後2週間以内に症状が消失しない”,男性,があげられる.

胃・十二指腸潰瘍の再発に関係する因子

著者: 横山善文 ,   伊藤誠 ,   横地潔

ページ範囲:P.1724 - P.1726

●消化性潰瘍の再発率は経時的に増加する.
●胃潰瘍の再発背景因子として年齢,喫煙,飲酒があげられる.
●胃角部,単発,線状,大きく深い潰瘍は再発しやすい.
●赤色瘢痕は白色瘢痕に比べ再発しやすく,非再発期間も短い.
●胃潰瘍の難治化と再発に共通する因子は,全身・環境因子よりも潰瘍そのものの性状である.
●消化性潰瘍の再発予防には,白色瘢痕になるまでH2ブロッカーを含む維持療法を継続することが重要である.

喫煙,飲酒,食事は難治・再発と関係あるか

著者: 川野淳 ,   辻晋吾 ,   増田栄治

ページ範囲:P.1728 - P.1730

●喫煙,飲酒,食事は日常われわれが遭遇する因子であるが,粘膜防御因子に対する検討は比較的少ない.
●本稿では,各々の因子の粘膜血流に対する影響を中心に検討し,潰瘍の難治・再発への関わりを述べた.
●喫煙,飲酒ともに粘膜血行動態を障害することから,潰瘍治癒の遷延,再発に関与すると考えられた.
●食事の影響はまだ不明の点が多いが,最近話題になっている香辛料に含まれるカプサイシンの粘膜血流に対する影響を述べた.

Helicobacter pyloriは難治・再発と関係あるか

著者: 浅香正博

ページ範囲:P.1732 - P.1734

●Helicobacter pylori(H.pylori)の胃粘膜への感染と消化性潰瘍,殊に十二指腸潰瘍の再発とは密接な関わりを有している.
●消化性潰瘍の再発予防には,H2ブロッカーを中心とした維持療法が有効であるが,潰瘍の自然史には影響を与えないため,投薬を中止すると再発を引き起こしやすくなる.
●H.pyloriの除菌に成功すると,維持療法を行うことなしに再発が予防可能となる.
●H.pyloriが潰瘍の難治化と関わっていることも事実と思われるが,治療には除菌のみならず,酸分泌の抑制を行う必要がある.

合併症と外科治療の現状

潰瘍合併症は変化したか—内科の立場から

著者: 三橋利温 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1736 - P.1737

●H2-RAの登場前後での消化性潰瘍手術例を比較検討し,潰瘍合併症に与えた影響を検討すると,以下のごとくとなる.
●強力な酸分泌抑制作用を有するH2-RAの登場以降,消化性潰瘍の手術数は激減し,これは待機手術例の減少によるものであり,手術理由別には難治例と出血例の減少による.
●穿孔例には変化がみられず,また,穿孔で発症した初発潰瘍が少なからず存在する.
●出血例の減少は,待機手術症例の減少によるものであり,緊急手術症例はGU,DUともほとんど変化がない.

潰瘍合併症は変化したか—外科の立場から

著者: 青木照明 ,   秋元博 ,   柏木秀幸

ページ範囲:P.1738 - P.1739

●日本外科学会認定施設における消化性潰瘍手術例の5年ごと2回のアンケート調査結果を検討した.
●H2ブロッカーが使用されるようになった1982年以後,総手術例数は著明に減少した.
●潰瘍合併症に対する手術数も同様に減少しているが,非合併症例の減少がさらに著明なため,手術総数に占める割合は増加していた.
●潰瘍合併症のなかでは,穿孔症例の減少が出血症例の減少に比べ少なかった.

出血性潰瘍治療の現況

著者: 平尾雅紀 ,   腰山達美 ,   内沢政英

ページ範囲:P.1740 - P.1742

●出血性潰瘍に対する内視鏡的止血法の考え方として,初期・完全・永久止血というそれぞれのステップに対して明確な治療方針をもっことである.
●高張NaClエピネフリン液(HSE)局注止血法により緊急手術は21.7%から0.3%に激減させることができた.しかし,出血性潰瘍に対するHSE局注症例は減少していない.これは内視鏡的止血法の有効性を示している.
●出血性潰瘍の内視鏡的止血法を含む保存療法は,そのバックに手術療法があることが前提で成り立っている.

穿孔性潰瘍の治療の現況

著者: 渡部洋三

ページ範囲:P.1743 - P.1745

●強力な酸分泌抑制剤であるH2ブロッカーとプロトンポンプ阻害剤の導入後,難治性潰瘍の手術例は激減したが,合併症性潰瘍,中でも穿孔性潰瘍の手術例の実数は不変か,ないしは増加傾向にある.
●これらの薬剤は,穿孔性潰瘍に対する治療方針を変えた.すなわち,これまで大部分の症例は緊急手術がなされていたが,最近保存療法に対する関心が急速に高まってきた.
●穿孔性潰瘍に対する外科療法は,従来より根治的な術式の選択が主流であったが,これらの薬剤導入後は単純閉鎖術が見直されてきている.

外科治療の新しい展開—腹腔鏡下手術の導入

著者: 大上正裕 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1746 - P.1747

●十二指腸潰瘍穿孔例に対して腹腔鏡下穿孔部大網縫着術が可能となり,今後の普及が予想される.
●手術は腹腔鏡下に腹腔内を大量に洗浄し,穿孔部に大網を縫着し穿孔部を閉鎖する.
●本法の適応は,術前もしくは術中内視鏡により十二指腸に高度な狭窄がないことが確認されたものに限られ,上腹部開腹手術の既往例やpoor risk症例も除外される.
●本法の利点は,手術侵襲が少なく,術後疼痛が軽微で,美容上にも優れる点があげられる.

対談 内科診療のあゆみ・9

血液疾患診療の進歩

著者: 池田康夫 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.1788 - P.1800

 尾形 血液の分野といいますと,私が臨床を始めた頃にまずイメージとして上がった病気は貧血です.私どもは自分で血算をし,自分でsmearを作り,自分で染めて見ました.今はほとんど数字の書かれた伝票を見るだけと思うのですが.
 そんなことを思い出しながら貧血について考えてみますと,昔は寄生虫が多かったせいもあるのですが,貧血があるとまず内科医としては消化管の異常,あるいは寄生虫による異常,女性の場合には鉄欠乏性貧血などを考えて,そういう病気を鑑別診断していました.鉄欠乏性貧血が当時は一番多かったわけですが,治療としては,経口的にどういう鉄剤をやるか,あるいは鉄剤は還元剤と一緒にやるか,食事の前がいいか,後がいいか,お茶を飲むか飲まないか,あるいは急ぐ時には静脈注射で計算してやるか,そういうことが主として思い浮かびます.そこで,鉄欠乏性貧血について,現在の先生のご理解と臨床医としてのアプローチをお伺いしたいと思います.

電子内視鏡による大腸疾患の診断・19

大腸ポリープのいろいろ

著者: 加藤裕昭 ,   田島強

ページ範囲:P.1749 - P.1755

 ポリープとは「肉眼的に粘膜面に認められる限局性隆起の総称であって,組織学的な性格を規定するものではない」1)とされている.したがって,病理組織学的には性質の異なった種々のものが含まれている2)
 ポリープは組織学的に腫瘍性と非腫瘍性とに分けられるが,大腸ポリープの多くが腫瘍性の腺腫であり,その中に癌を伴うものが少なくない.その頻度は施設により異なるが,当院では20%となっている3).したがって,大腸の早期癌診断においてはポリープを見つけ出して内視鏡的に切除し,病理学的に検索することが非常に重要である.
 大腸の非腫瘍性ポリープには若年性ポリープ,Peutz-Jeghers型ポリープ,炎症性ポリープ,良性リンパ濾胞性ポリープ,化生性ポリープなどがある.

図解病態のしくみ—肝臓病・13

原発性胆汁性肝硬変・原発性硬化性胆管炎

著者: 斎藤清二 ,   康山俊学 ,   宮林千春 ,   渡辺明治

ページ範囲:P.1756 - P.1764

 肝内胆汁うっ滞と肝外胆汁うっ滞との鑑別診断は,超音波,CT検査や直接的胆道造影法などにより比較的容易となった.厚生省肝内胆汁うっ滞調査研究班によると,急性,反復性,慢性,乳児期肝内胆汁うっ滞と分類される.慢性型には薬剤に起因するものもあるが,代表的なものとして原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC)と原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)があり,黄疸や胆汁うっ滞の鑑別診断の際にはいつも問題となる重要な疾患といえる.

演習

心エコー図演習

著者: 横田慶之 ,   寺島充康

ページ範囲:P.1765 - P.1770

両心不全症状が進行した50歳の女性
Q1 本症例の心エコー図所見は?
Q2 考えられる疾患は?

内科医のための胸部X-P読影のポイント・22

気胸

著者: 田中茂 ,   松井祐佐公

ページ範囲:P.1802 - P.1808

症例
 患者 20歳,男性,大学生.
 主訴 乾性咳嗽および左胸部痛.

medicina Conference・3

発熱,肝腎障害,呼吸困難など多彩な臨床症状を主訴に転院してきた71歳の男性

著者: 遠藤昌彦 ,   杉謙一 ,   布井清秀 ,   福田賢治 ,   最所正純 ,   阿部隆三 ,   山田富美子 ,   藤田孝義 ,   森田博

ページ範囲:P.1774 - P.1787

 主訴:発熱,肝腎障害,呼吸困難
 家族歴:特記すべきことなし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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