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雑誌目次

雑誌文献

medicina31巻11号

1994年10月発行

雑誌目次

血液生化学検査 蛋白

血清総蛋白と蛋白分画

著者: 櫻林郁之介 ,   小川実

ページ範囲:P.10 - P.11

 ヒト血清中の蛋白成分は100種類以上から構成されており,その機能や性状はそれぞれの成分によって異なる.
 日常の血清蛋白測定では,まずその総量である血清総蛋白量が測定される.一般的に血清総蛋白量の変動には,量的に多いアルブミンや免疫グロブリンの増減が大きく影響し,他の各成分が影響を及ぼすことは少ない.

免疫電気泳動

著者: 櫻林郁之介 ,   藤田清貴

ページ範囲:P.12 - P.13

検査の目的・意義
 免疫電気泳動とは,ゲル内沈降反応の一つの様式であって,抗原抗体反応にあずかる反応因子(抗原または抗体,その両方)が電気泳動法によって分離される過程とゲル内沈降反応とが組み合わされた分析方法を総称している.一般的には,免疫電気泳動法という場合Grabar-Williamsの方法を指す.
 蛋白成分の質的な変化,特に免疫グロブリンが均一な成分として血中に増量した場合のM-蛋白の同定,型判定,尿中Bence Jones蛋白の有無やその型を判定する上で重要な検査法である.また未知の蛋白の同定やその電気的易動度などを知る上でも有力な手段として用いることができる1)

プレアルブミン

著者: 高瀬修二郎

ページ範囲:P.14 - P.15

検査の目的・意義
 肝は血清蛋白の主たる合成の場であり,肝での蛋白合成能の指標として,従来より血清アルブミン濃度が用いられてきている.しかし,血清アルブミンの血中半減期は2〜3週間と比較的長く,またその血中濃度の維持には生体のホメオスターシスが強く働くために,必ずしも肝での蛋白合成能を鋭敏に反映しているとはいえない.
 プレアルブミンはそのほとんど(99%)が肝で合成され,かつ血中半減期が1.9日と極めて短い,いわゆるrapid turn over serum proteinであり,血清プレアルブミン濃度は肝の病変の有無とその程度によって大きく左右される.したがって,病因には関係なく,諸種の肝疾患における病態解析に利用される.急性肝炎では,初診時での重症度判定および回復期での肝機能の改善判定に用いられる.慢性肝障害では,肝硬変の機能的診断に有用である.また,術前や術後あるいは癌治療患者の栄養状態の評価指標として用いられている.

α1-マイクログロブリン

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.16 - P.17

 α1-マイクログロブリン(α1-M)は,protein HCとも呼ばれる分子量3万,糖含量約20%の低分子糖蛋白質である1,2).正常血中では,本来の低分子型α1-mと,単量体IgAと1:1モル比に結合した高分子型α1-mとがほぼ同一の比率で存在する.尿から精製した低分子型α1-mを標準物質とした現在の測定法は,厳密には両者を合わせた総量として“定量”していることになる3).これはレチノール結合蛋白,血清アミロイドA,リポ蛋白などと同様である.

α2-マクログロブリン

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.18 - P.19

 α2-マクログロブリン(α2-M)は,分子量約80万ダルトン,糖含量6〜7%の蛋白質で,肝細胞,単球-マクロファージ系細胞,星状グリア細胞など 全身の種々の細胞で産生されている.α2-Mの機能はトリプシン,アンチキモトリプシン,エラスターゼ,トロンビンなどの蛋白分解酵素と結合して複合体を形成し,血中から短時間のうちに除去することにより酵素機能の不活性化に作用する.また,ホルモン,インターロイキン-6などとも結合,その機能を調節する役割も担う(図1).α2-Mはラットなどの動物種では急性相反応物質で,組織の破壊,感染症などでは短時間に濃度の増加がみられるが,このような変化はヒトではほとんど認められない.

β2-マイクログロブリン

著者: 石井周一

ページ範囲:P.20 - P.21

検査の目的・意義
 β2-マイクログロブリン(β2-microglobulin;以下,β2-mと略す)は,1968年にBerggard1)らによって尿細管障害性蛋白尿患者の尿中から分離された,沈降係数1.6S,分子量11,800の低分子蛋白である.リンパ球をはじめとするほとんどの有核細胞で産生され,その表面に存在して主要組織適合遺伝子複合体クラスI分子のL鎖の構成成分となっている.
 β2-mは低分子であるため,健常人では腎臓の糸球体基底膜を容易に通過し,尿細管において大部分が再吸収,異化される.しかし,糸球体濾過値や腎血流量低下に伴い血清β2-m値は上昇するので,腎糸球体障害の指標としての意義を有している.なお,尿細管障害の際には,その再吸収,異化が障害されるため,尿中への排泄が増加する.したがって,尿中β2-mの測定は尿細管,とりわけ近位尿細管障害の指標として重要である(「尿中β2-マイクログロブリンとα1-マイクログロブリン」の項を参照).

フェリチン

著者: 小船雅義 ,   加藤淳二 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.22 - P.24

検査の目的・意義
 フェリチンは球状の鉄結合蛋白質で,組織中,特に肝臓や脾臓の中に存在し,鉄を貯蔵する機能をもつ.また,フェリチンは血中にも微量ながら存在し,組織内の貯蔵鉄量を反映して増減することから,その血中レベルより間接的に組織の鉄量を知ることができる.
 しかし,悪性腫瘍患者では組織中の鉄量に関係なく血清フェリチンは増加するため,腫瘍マーカーの一つとして診断や治療のモニタリングに用いられている1).また,肝炎,膵炎などでも組織障害を反映して上昇するので,病勢を知る指標ともなり得る.

セルロプラスミンと銅代謝

著者: 寺尾壽夫

ページ範囲:P.25 - P.27

 検査の目的・意義
 ヒトの血清中(血漿中)に含まれる銅は,その大部分はセルロプラスミン中に含まれており,残りのほとんどはdissociable bondをもってアルブミンとゆるく結合した銅が占めている.さらに残りのわずかな部分は低分子の物質と結合しているものであり,その中にはアミノ酸とcomplexをつくっているものがあると考えられる.
 セルロプラスミンは1分子中に6~8個の銅分子を有するsky blueの蛋白である.この蛋白はacute phase protein1)であり,外傷や敗血症のほか,悪性腫瘍でも上昇する.しかし,上昇する場合よりも低下する場合のほうが臨床的意義は大きく,Wilson病やMenkes症候群の診断に不可欠である.

フィブロネクチン

著者: 西成田進

ページ範囲:P.28 - P.29

検査の目的・意義
 フィブロネクチン(fibronectin:FN)は,血漿,羊水,体液,ほとんどすべての器官の細胞表面に存在する糖蛋白で,分子量は約46万である.主な産生細胞は肝細胞,血管内皮細胞,血液単球を含む網内系細胞と考えられている.その機能は,細胞と細胞の接着,細胞と基質との接着,細胞の移動,オプソニン作用,細胞の分化,損傷組織の修復などのほかに,最近では,癌転移の抑制作用,免疫・炎症反応におけるサイトカインとの協同作用なども報告されている.
 一般に臨床検査として,FNの測定が特定の疾患の診断に直接結びつくことは少なく,上記の多彩なFNの機能が何らかの形で関与するような,免疫・炎症反応の病態を反映する一つの指標としての意義を持つ.

炎症マーカー

CRP(C反応性蛋白)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.30 - P.31

検査の目的・意義
 CRP(C-reactive protein)は,急性相反応物質(acute-phase reactants),あるいは急性期蛋白(acute-phase proteins)と呼ばれる物質の一種である.
 感染症,手術,外傷,組織の炎症と壊死,免疫複合体の沈着,組織への自己抗体などにより,急性期蛋白が肝臓にて合成される.CRPは他の急性期蛋白に比較して,正常値の1,000倍にも増加するので,指標としやすい.

シアル酸

著者: 山田昭夫

ページ範囲:P.32 - P.33

検査の目的・意義
 シアル酸はノイラミン酸の誘導体であり,糖蛋白,糖脂質の糖鎖成分の一部として生体に広く分布している.

赤沈

著者: 入交昭一郎

ページ範囲:P.34 - P.35

検査の目的・意義
 赤沈は赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)の略で,CRPなどの急性相反応物質と同様に急性・慢性の炎症,腫瘍などによる組織破壊,あるいは血漿蛋白の異常を反映する非特異反応である.したがって,赤沈の亢進・遅延はこれらの病態の存在とその経過を知るうえに有用な指標となる.
 赤沈の本態は,今日なお不明な点があるが,赤血球の凝集(連銭形成)を促進する因子が重要視され,凝集が早く,大きいほど赤沈は亢進する.赤血球膜は陰性荷電であるので,陽性荷電のグロブリン,フィブリノゲンの増加は血球凝集を促進する.

α1-アンチトリプシン

著者: 稲田進一 ,   諏訪昭

ページ範囲:P.36 - P.38

検査の目的・意義
 α1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin:α1-AT)は血清蛋白分画上α1-グロブリンに移動度を有する糖蛋白の一種である.α1-ATは血中に存在する蛋白分解酵素のなかでも主要なインヒビターとして知られる.トリプシン,キモトリプシン,カテプシン,トロンビン,エラスターゼ,カリクレイン,ウロキナーゼ,レニン,プラスミン,コラゲナーゼなど種々のセリンプロテアーゼ活性を阻害する.プロテアーゼによりα1-ATの活性部位であるMet358-Ser359間が切断され,同時に1対1の安定な複合体を形成することにより,プロテアーゼ,α1-ATとも活性を失う.白血球や,マクロファージのカテプシン,エラスターゼに対し高い親和性を有し,α1-ATの生理的機能として重要と考えられている.なお,パパイン,ペプシン,プロナーゼなどは抑制しない.

α1-アンチキモトリプシン

著者: 稲田進一 ,   諏訪昭

ページ範囲:P.40 - P.41

検査の目的・意義
 α1-アンチキモトリプシン(α1-antichymotrypsin:α1-ACT)は7種類知られている血漿の蛋白分解酵素阻害因子蛋白の一つである.α1-ACT以外にはα2-マクログロブリン,別項のα1-アンチトリプシン,α2-プラスミンインヒビター,アンチトロンビンIII,そしてC1-アクチベーター,インター-α-トリプシンインヒビターなどが知られている.α1-ACTは1962年に,キモトリプシンによるフィブリン分解を阻害し,α1-グロブリン分画に存在する血清糖蛋白として発見されたものである.以前,α1X-グリコプロテインとよばれていたものと同一である.現在は全アミノ酸配列が決定されており,433個のアミノ酸からなる蛋白としてまず肝で合成される.ヒト血中には433個から25個のアミノ酸のシングルペプチド部分がはずれた408アミノ酸からなる蛋白が主として分泌され,これが血中のα1-ACTの90%を占めることになる.このアミノ酸のN末よりさらに15個のアミノ酸がとれた393個のminorα1-ACTも存在する.

ハプトグロビン

著者: 寺野由剛

ページ範囲:P.42 - P.47

検査の目的・意義
 ハプトグロビン(haptoglobin:Hp)分子の先天的異常を除外すれば,臨床上認められるHpの異常は,後述するHpの量的変動および遺伝型別の疾病によるもので,Hpの異常の出現頻度の把握が病態診断の指標となる.

APRスコア

著者: 西田陽

ページ範囲:P.48 - P.50

検査の目的・意義
 MRSA(methicillin-resistant Stmphylococcus aureus)の出現によって,細菌感染症は新しい局面を迎えたように思われる.細菌感染症の対策は,いたずらにパニックに陥ることなく,基本に返ることが大切であろう.確実な無菌操作,患者への確実な環境の整備がなされれば,基本的に,ヒトを介したすべての感染症への対策は成り立つといえる.
 基本に返ることで,医師に最も要求され,他の医療従事者には求めることのできないものに抗生物質の適切な投与がある.安心のためにしばしば行われる不必要に広域に有効な抗生剤の投与や不必要な長時間の投与は,菌交代を招き,本来弱毒菌である耐性菌による重症感染症の誘因となる.

顆粒球エラスターゼ

著者: 島貫公義 ,   櫻林郁之介 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.52 - P.53

検査の目的・意義
 顆粒球アズール顆粒に局在する顆粒球エラスターゼ(granulocyte elastase:GEL)は非特異的中性蛋白分解酵素であり,多くの生体構成成分を分解する.そのため,正常生体の血液・組織液中にはGEL作用を抑制する大量のα1-プロテアーゼインヒビター(以下α1-PI)とα2-マクログロブリン(以下α2-MG)が存在し,活性型GELの90%にα1-PIが,10%にα2-MGが結合してGELを不活性化し,生体を保護している(図1).
 GELは,生体が何らかの侵襲を受けたときに補体,サイトカイン,エンドトキシン,抗原抗体複合物などの刺激によって顆粒球より放出されるため,血中や体液中のGEL量を測定することにより,顆粒球の活性化の程度や活性化の原因となった何らかの侵襲の程度を評価できる1)

sICAM-1(可溶型細胞間接着分子-1)

著者: 今井浩三 ,   辻崎正幸 ,   伊藤文生

ページ範囲:P.54 - P.56

検査の目的・意義
 ヒトICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)遺伝子にコードされるcDNAは約2.5kbpであり,類推されるアミノ酸配列の解析により,ICAM-1分子は27アミノ酸残基のシグナルペプチド,453残基の細胞外領域,24残基の細胞内領域より構成される(図1).
 ICAM-1分子のドメイン構造は5個のC2ドメインを有し,そのリガンドであるLFA-1との結合部位も明らかにされている.

アミロイドA

著者: 惠以盛 ,   下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.58 - P.59

検査の目的・意義
 Serum amyloid A(SAA)蛋白は,アミロイド線維の生化学的研究の過程で,新しい蛋白として見いだされた.アミロイド構成蛋白としては,最初に免疫グロブリンのL鎖が同定されていたが,続発性アミロイドーシスの患者のアミロイド蛋白はこれとは別のものであり,アミロイドA(AA蛋白)といわれた.その後,血中にこれと同一の抗原性を持つ蛋白が見いだされ,SAAと呼ばれるようになった1)
 SAAは分子量約12,000の糖を含まない蛋白質で,血清中ではアポリポ蛋白の一つとしてHDL(high density lipoprotein),特にHDL3に大部分が存在している.また,荷電の差から3〜6種のポリモルフィズムが存在し,アミノ酸一次構造上も何種かの異なるものが報告されている.遺伝子レベルでは,少なくとも3種のgeneが存在するといわれている2)

窒素化合物

尿素窒素(BUN)

著者: 富野康日己

ページ範囲:P.60 - P.61

検査の目的・意義
 尿素は,アミノ酸の脱アミノによって生じたアンモニアとCO2から,主として肝臓において尿素サイクルによって合成される.血中尿素窒素(blood urea nitrogen:BUN)は,腎糸球体から濾過され,一部尿細管で再吸収されたのち,尿中に排泄される.BUN(または血清尿素窒素SUN:BUNよりやや高値を示す)の測定は,血清クレアチニン(s-Cr)の測定と同様に腎機能を反映する検査として用いられている.しかし,BUNは腎からの排泄に関係する腎性因子のみならず,腎前性因子(食事中の蛋白量,胃腸管出血,組織の崩壊など)や循環血液量の異常(脱水,浮腫,下痢など)によっても変動するので注意が必要である.

尿酸

著者: 河邊満彦 ,   飯野靖彦

ページ範囲:P.62 - P.64

検査の目的・意義
 尿酸は体細胞核の核蛋白プリン体の最終代謝産物として体内で合成された後,腎糸球体におけるfiltration,近位尿細管でのreabsorption,secretion,そしてpost-secretion reabsorptionの4つのcomponentを経て,結局,約1.0gの1日尿酸合成量の中の65±10%に当たる約500〜800mgの尿酸が尿に排泄される.血漿中に尿酸は尿酸塩として存在し,体温37℃,pH7.4のときの尿酸塩の溶解度は約7.0mg/dl,尿酸にして6.4mg/dlである.そしてその溶解度を越えるとき,物理化学的に過飽和状態にあり,腎髄質,耳介や関節腔への尿酸の沈着と結晶の析出を招くことになる.尿pHの酸性化や循環血液量の低下は間質および尿細管への尿酸沈着の原因になる.体内プールの約0.01%の尿酸は唾液や汗などに,また少量は胆汁中に排泄されており,腸内の細菌により分解されて生じたNH3は吸収されて尿素へと合成される.約20%の尿酸は体内で化学的分解により異化されると考えられている.
 そのようにして,血清尿酸値の測定はプリン体代謝異常や腎機能障害の発見に有用となる.

アンモニア

著者: 伏見了 ,   網野信行

ページ範囲:P.65 - P.67

血中アンモニア濃度測定の意義
 アンモニアは蛋白質およびアミノ酸の終末代謝産物として産生し,また摂取食物中の蛋白質およびアミノ酸の腸内細菌による分解にて産生し,門脈経由にて肝臓に運ばれ,尿素サイクルにより最終的に尿素として処理されている.したがって,肝臓機能の低下による尿素サイクル活性の低下,腸内におけるアンモニア産生の増加および門脈副血行枝による門脈血の大循環系への流入がある場合には,血中アンモニア濃度が高値となる.
 アンモニアは中枢神経系に強く作用する有害物質であり,肝臓機能の低下に伴い挙動や情動の変化および傾眠などの肝性脳症を呈する場合や,近年その有用性が認められ広く利用されている高カロリー輸液施行中の患者管理においても,定期的な血中アンモニア値の測定が必須である.

クレアチニン/クレアチン

著者: 堀岡理 ,   秋葉隆

ページ範囲:P.68 - P.69

検査の目的・意義
 クレアチニン(Cr)は,肝で合成され,骨格筋に含まれるクレアチンの代謝最終産物で,その血中濃度は血中尿素窒素(BUN)と並ぶ腎排泄機能の代表的指標である.腎機能が正常な場合,1日尿中Cr排泄量は蓄尿が正確に行われたか否かの良い目安になる.血清Cr値はBUNと異なり,蛋白異化の亢進や消化管出血の影響をほとんど受けないが,糸球体濾過量(GFR)低下とともに尿細管でのCr分泌が亢進するとされており,また測定値の変動幅が小さく,さらに性差や加齢変化があるので,微細なまたは急性の腎障害の早期診断には有用でない.
 Crは腎糸球体から排泄され尿細管からあまり再吸収・分泌されないため,クレアチニンクリアランス(Ccr)はGFRの近似値と考えてよい.高蛋白食は一過性にGFRを亢進させるとされており,Ccrは1日量で評価するべきで,旧来のml/分という単位にはあまり意味がない.また,Ccr比較のための体表面積Sでの補正式(Ccr×K/S)の係数Kについては,本邦では1949年頃から1.48が用いられてきたが,欧米では1.73であり,日本人の体格の向上により新たな係数が必要となっている.しかし,実用上,成人ではこの補正を行わない値が用いられることも多い.

アミノ酸

著者: 二村貢 ,   山中桓夫 ,   櫻林郁之介

ページ範囲:P.70 - P.72

検査の目的・意義
 血中(血漿)および尿中遊離アミノ酸の測定は,酵素異常に起因する先天性アミノ酸代謝異常の診断に有用である.尿細管のアミノ酸輸送機構の障害では,尿中アミノ酸のみが増加する.
 後天性疾患においても,肝疾患・腎疾患などに伴うアミノ酸代謝異常が知られており,その病態診断や治療方針の決定に有用である.

酵素および関連物質 心筋・肝関連

クレアチンキナーゼとそのアイソザイム

著者: 石井潤二 ,   野村雅則 ,   菱田仁

ページ範囲:P.73 - P.75

 クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)は測定が迅速・簡便であり,しかもアイソザイムの分析により心筋と骨格筋障害を鑑別することができる.しかし,CK(活性)値は種々の生理的および医原性因子によって異常値を生じることがあるので,このような場合にはデータの解釈に注意が必要である(表1).

LDHとそのアイソエンザイム

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.76 - P.78

検査の目的・意義
 LDH(lactate dehydrogenase,乳酸脱水素酵素)は解糖系の重要な酵素であることから,広く体内の各臓器の可溶性分画に存在する.したがって,どのような臓器でもその臓器に損傷が加われば,LDHの上昇が血中で観察される.臓器特異性はなく,非特異性であるが,一般的にどこかに病変がないかという観点で検索される.

AST(GOT)/ALT(GPT)

著者: 高取正雄 ,   岩渕省吾

ページ範囲:P.79 - P.81

検査の目的・意義
 その血中濃度を測定することにより,肝臓・胆道系疾患,心筋・筋肉疾患,溶血性疾患の有無と細胞障害の程度を把握する.

トロポニンT

著者: 安部智 ,   中尾正一朗 ,   田中弘允

ページ範囲:P.82 - P.83

検査の目的・意義
 トロポニンTは,横紋筋の薄いフィラメント上でトロポニンI,Cとともにトロポニン複合体を形成し,筋収縮の調整に関与している蛋白(分子量:39kD)である.平滑筋には存在せず,しかも構造が心筋と骨格筋とで異なるため両者を明確に識別することが可能となり,“心筋トロポニンT(TnT)”は現在最も特異的な心筋傷害のマーカーと考えられている.また,TnTは心筋ミオシン軽鎖I(MLC I)同様,心筋の構造蛋白であるが,一部が細胞質にも存在するため,心筋梗塞発症早期(3〜6時間後)から2〜3週後まで有意の上昇が持続する(diagnostic windowが極めて長い).
 再灌流に成功した急性心筋梗塞患者での血清TnTの経時的変化を図1に示す.TnTはクレアチンキナーゼ(CK)とほぼ同時相(ミオグロビン(Mb)よりやや遅く,MLCIより明らかに早期)にピークを示すが,CKが低下した後もTnTは高値を持続し,MLCI同様3〜7日後に第2のピークを認める(CKとMLCIを合わせたような二峰性の濃度時間曲線を描く).

ミオグロビン

著者: 阿部純一

ページ範囲:P.84 - P.86

検査の目的・意義
 ミオグロビン(Mb)は,分子量17,500 daltonsの赤褐色のヘム蛋白で,筋肉組織中に存在する.Mbの主な生理作用は,血色素(Hb)によって運搬されてきた酸素を筋組織で受け取り,これを筋組織中で運搬・貯蔵し,必要に応じてエネルギー産生系に供給することである.
 Mbは,ヒトでは主として骨格筋(5mg/g wetweight),心筋(3mg/g wet weight)に存在する.筋細胞の崩壊時に細胞外に逸脱して血中に流出し,尿中に排泄される.すなわち,筋障害を引き起こす可能性のある広範な疾患に対し異常値をきたし得るわけで,この点,非特異的で,いわゆる診断に対する有用性は高いものではない.

ミオシン軽鎖

著者: 永井良三

ページ範囲:P.88 - P.89

 虚血性心疾患は,病歴,理学所見,生理機能検査,画像,生化学的検査などの総合的な結果に基づいて診断が下される.生化学的検査は壊死心筋から血中に流出する逸脱物質を,酵素学的あるいは免疫学的方法によって検出するもので,心筋壊死の有無と壊死量の推定に有用である.ミオシン軽鎖は心筋の構造蛋白で,急性心筋梗塞ではCPKやGOTなどの酵素とは全く異なる流出パターンを示すのが特徴である.

ALPとそのアイソザイム

著者: 佐藤芳之 ,   池田有成

ページ範囲:P.90 - P.92

検査の目的・意義
 血清アルカリフォスファターゼ(ALP)は肝,骨,胎盤,小腸に由来しており,主な検査目的としては,①肝・胆道疾患,特に胆汁流出障害の有無,②骨新生の状態,③胎盤機能の状態,などを知ることである.また,ある種の腫瘍細胞からも産生され,腫瘍マーカーとしての意義もある.

γ-GTP

著者: 小貫誠

ページ範囲:P.94 - P.95

検査の目的・意義
 血清γ-GTP(γ-glutamyl transpeptidaseあるいはtransferase)は,γ-グルタミンペプチドを加水分解しγ-グルタミン基をペプチドやアミノ酸に転移させる作用を持つ転移酵素であり,グルタチオンを介し細胞内へペプチドやアミノ酸を取り込む機能を持つといわれている.吸収や分泌に関連する種々の臓器に分布し,腎,膵,肝,小腸,脳などに存在する.γ-GTPの組織内局在は,他のペプチダーゼと同様にbrush border membrane酵素として局在している.
 血清γ-GTPは主として肝由来で,尿γ-GTPは腎由来である.肝のγ-GTPは肝細胞のマイクロソーム分画や細胆管などに存在し,ALP,LAPなどとともに胆道系酵素とも呼ばれている.胆汁中のγ-GTP活性は正常血清のそれより約100倍高いといわれている.胆汁うっ滞では,γ-GTPの合成誘導と胆汁への排泄障害の結果,血清γ-GTP値が上昇する.アルコール性肝障害や薬剤性肝障害での上昇は,合成の誘導に起因する.

LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)

著者: 遠藤了一 ,   藤岡高弘 ,   上野幸久

ページ範囲:P.96 - P.97

検査の目的・意義
 日常臨床検査として測定されている血清LAP(EC 3.4.11.2,アリルアミダーゼ)は,ミクロゾーム由来のLAPが主体をなし,肝・胆道疾患を特異的に反映し,特に胆汁うっ滞時に異常高値を示す.血清ALP,γ-GTPなどとともに胆道系酵素群に分類され,胆汁うっ滞の指標とされている.γ-GTPは各種の薬剤,飲酒などによる肝薬物代謝酵素系の誘導と類似した活性変動を示し,ALPは骨疾患などに影響されるため,LAPの測定はこれらの相互評価にも有用である.

ADA(血清アデノシンデアミナーゼ)

著者: 飯塚誠一 ,   寺内一三 ,   柴田実

ページ範囲:P.98 - P.99

検査の目的・意義
 血清ADAは急性および慢性肝疾患の診断,経過観察,腫瘍性の血液疾患,ウイルス感染症,免疫不全などの診断に有用である.

IV型コラーゲン・7S

著者: 五十嵐省吾

ページ範囲:P.100 - P.101

 慢性肝疾患の終末像は肝硬変であり,慢性化の進展に伴ってコラーゲン線維の増成と蓄積が起こる.肝疾患の際に増生・蓄積されるコラーゲンはI,III,IV,V型コラーゲンであるといわれている.肝に蓄積されたコラーゲン線維はその量が増加すると,周知のごとく周囲組織を圧排し,肝細胞障害を招来し,その修復機転として,さらにコラーゲン線維の蓄積を促進するという悪循環に陥る.蓄積されたコラーゲン線維の量を知ることは疾患の治療や予後の判定に極めて重要である.肝生検はそのためには最も確実な検査法であるが,観血的検査法であり,時には危険を伴う.肝生検に代わるものとして,これまでに種々の試みがなされてきた.血液中に存在する結合組織成分を測定することにより線維化の程度を推定しようとして開発されたのが,いわゆる線維化マーカーである.1969年にIII型プロコラーゲンのN末端ペプチド(PIIIP)の測定法が開発されて,臨床に応用されて以来,ラミニン,プロリン水酸化酵素,IV型コラーゲン(Type IV-C,7S,NC 1)の測定が臨床に応用されている.

コリンエステラーゼ

著者: 柴田久雄

ページ範囲:P.102 - P.103

検査の目的・意義
 Cholinesterase(ChE)は肝の機能の中でも主として予備能を測定するのに用いられるが,また同時に全身の栄養状況を知るための検査でもある.

アルドラーゼ

著者: 高木康

ページ範囲:P.104 - P.105

検査の目的・意義
 アルドラーゼ(ALD:D-fructose-1,6-biphosphate-D-glyceraldehyde-3-phosphate-lyase,EC 4.1.2.13)は解糖系酵素の一つであり,フルクトース-1,6-ニリン酸(FDP)をジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とD-グルセルアルデヒド-3-リン酸とに可逆的に分解するとともに,フルクトース-1-リン酸(FIP)をDHAPとグルセルアルデヒドとに非可逆的に分解する.
 ALDは骨格筋,心筋,脾臓に高濃度に存在するA(FDP-ALD)型と,肝臓に高濃度に存在するB型(FIP-ALD),およびA型とB型の中間型で,脳,神経組織に多量に存在するC型の3つのアイソザイムが知られており,これらは免疫学的に区別される1).なお,通常の活性測定系は,A型の活性測定に適した条件であり,筋肉組織に由来するA型が優位に測定されている.

膵関連

アミラーゼとそのアイソザイム

著者: 森三樹雄

ページ範囲:P.106 - P.108

検査の目的・意義
 アミラーゼは膵,唾液腺,肝,腎,心,肺,卵管,横紋筋,乳腺,甲状腺などに存在する消化酵素の一種で,膵臓と唾液腺から消化管内に分泌される.一部は膵臓の腺房から血液中に逸脱する.
 血液中のアミラーゼは2種類あり,膵臓由来と唾液腺由来である.これらの臓器に由来するアミラーゼをアイソザイムと呼び,それぞれ膵型アミラーゼ,唾液腺型アミラーゼと呼ぶ.アミラーゼとそのアイソザイムの検査は膵疾患のスクリーニング,早期診断,経過観察などに有用である.

PSTI(膵分泌性トリプシンインヒビター)

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.109 - P.111

検査の目的・意義
 膵分泌性トリプシンインヒビター(pancreaticsecretory trypsin inhibitor:PSTI)は膵臓で合成されて膵液中に分泌されるポリペプチドで,膵内で活性化したトリプシンを阻害する作用をもつ物質として発見された1).筆者らは,体液中のPSTIを測定するためのRIA系を確立して臨床的,基礎的研究をすすめ,PSTIが単に膵臓のトリプシン阻害物質であるだけでなく,広く生体の防御反応に関与している物質であることを明らかにした1〜3)
 血中PSTIは,①膵疾患の診断,経過観察のよい指標となる,②膵炎以外の生体への種々の侵襲に際して大きく上昇する,③種々の悪性腫瘍患者でも高率に上昇する,という特徴をもつ.

リパーゼ

著者: 妹尾敏伸 ,   越智浩二 ,   原田英雄

ページ範囲:P.112 - P.113

検査の目的・意義
 血中リパーゼの測定は膵疾患の検出を目的に行う.異常値は膵疾患の存在を示唆する.正常値は必ずしも膵疾患の存在を否定できない.
 現在の測定法で検出される血中リパーゼはほぼ障由来と考えてよい.尿中には検出されない.膵盲の狭窄・閉塞による膵液のうっ滞または膵の組織破壊が存在すれば,血中へのリパーゼの逸脱が曽加する.膵液が後腹膜腔や腹腔内に漏れた場合には該当部位から血中に吸収される.血中リパーゼの一部は尿中に排泄され,尿細管上皮で不活性化されるが,大部分は網内系で代謝されると考えられている.血中に逸脱する量が生体の処理能を越えると血中高値を認める.急性期の血中値とその推移は必ずしも重症度を反映せず,高度の膵組織破壊が急速に起こると(劇症膵炎)正常値,時には低値を認めることさえある.回復期における正常化は臨床症状・所見を参考にして経過のモニターに使用できる.

エラスターゼ-1

著者: 渡辺伸一朗

ページ範囲:P.114 - P.115

検査の目的・意義
 エラスターゼは血管壁などの結合織のエラスチンを分解する蛋白分解酵素で,体内では主として膵臓に存在し,そのほか白血球,血小板,脾臓,大動脈壁などにもわずかに存在する.
 膵エラスターゼにはエラスターゼ-1および-2の2種類が存在し,血中ではほとんどがα1-アンチトリプシンやα2-マクログロブリンの蛋白分解酵素阻害物質と結合して存在する.このため,血中濃度は酵素活性としては測定困難で,免疫活性としてα1-アンチトリプシンと結合したエラスターゼ-1のみがRIA法によって測定される.

トリプシン

著者: 早川哲夫 ,   成瀬達 ,   北川元二

ページ範囲:P.116 - P.117

 膵にはカチオニック(cationic)トリプシンとアニオニック(anionic)トリプシンがあり,正常の膵液には2:1の比で含まれている.これにごく少量のメゾトリプシンが存在している1).血中のトリプシンはα2-マクログロブリン(α2-M)とトリプシン(T)の複合体(α2M-T),α1-アンチトリプシン(α1-A)とトリプシンの複合体(α1A-T),トリプシノーゲン(Tgn)が主な存在様式である.血中にはトリプシンのほかに活性阻害物質や類似活性酵素も共存するので,酵素活性を特異的には測定できない.したがって,血中トリプシンの変動はRIAやEIAを用いた免疫活性で測定している.現在一般に用いられるキットはカチオニックトリプシンを測定するRIAあるいはEIAのキットで,標準物質により測定値が異なる.

膵ホスホリパーゼA2

著者: 伊佐地秀司

ページ範囲:P.119 - P.121

検査の目的・意義
 ホスホリパーゼA2(PLA2)は,リン脂質の2位の脂肪酸エステル結合を加水分解する酵素で,生体組織に広く分布する.現在までいくつかのアイソフォームの存在が明らかにされており,これらはI型(従来の膵性)およびII型からなる低分子量分泌型(secretory PLA2)と高分子量細胞質内在型(cytosolic PLA2)に分類されている(表1)1)
 膵PLA2は膵腺房細胞で,非活性型の前酵素(zymogen),すなわちpro PLA2として合成され,膵液中に分泌されて十二指腸内の活性型トリプシンによって活性化されて,リン脂質の分解酵素として働く.

その他

ACP(酸性フォスファターゼ)

著者: 井山茂 ,   網野信行

ページ範囲:P.122 - P.123

検査の目的・意義
 ACP(酸性フォスファターゼ)は,リン酸モノエステルを加水分解する酵素のうち,pH4.5〜6.0に至適pHを持つ酵素である.ACPには臓器特異性のあるアイソザイムが数種知られており,前立腺に多く存在するほか,骨,赤血球,白血球,血小板,肝臓など種々の臓器や細胞に存在する.ACPは,上記の臓器などの細胞破壊により血清中に遊出するものと考えられ,血清ACP値は,前立腺,骨,網内系などの疾患の診断のために測定される.
 なお,前立腺由来のACP(P-ACP)がL-酒石酸により100%阻害を受けるため,総活性とL-酒石酸阻害時の活性を測定し,その差をP-ACP活性とみなしている.しかし,白血球,血小板および実質臓器由来のACPもL-酒石酸により阻害される.そこで,前立腺疾患の診断には,免疫化学的測定法によるP-ACP蛋白濃度測定値(腫瘍マーカーの「PAP」の項参照)なども用いられる.

SOD(スーパーオキサイドジスムターゼ)

著者: 坂岸良克

ページ範囲:P.124 - P.127

活性酵素とSOD
 Big Bangに始まる宇宙の歴史からは,酸素の積極的作用によって生物進化が爆発的に進んだPasteur点は16億年前ということであるが,その前段階で,酸素は生物に多くの障害を与え,いわば酸素分子は両刃の剣であった.未熟児を保育箱で保育することによって生じた網膜剥離症は,この酸素中毒の代表的例である.また,慢性肉芽腫(chronic granulomatosis disease:CGD)が,実は貪食した白血球が活性酸素による殺菌能をもたないために生ずる疾患で,活性酸素の生体における意義を端的に示すことはいうまでもない.
 しかし,活性酸素(active oxygen)と称せられる一群の分子の強力な働きが明らかになるにつれて,生体への障害の恐れと同時に,生体内においても何らかの防御策が存在するのではないかとの予想がもたれるようになった.その間,1969年にI Fridovichらは,代表的活性酸素種の一つである・O2-(スーパーオキサイドアニオン)を除去(不均化消去)する酵素であるスーパーオキサイドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)が生体内に存在することを発見した.

ADH(アルコール脱水素酵素)

著者: 山内眞義 ,   前澤良彦 ,   戸田剛太郎

ページ範囲:P.128 - P.129

検査の目的・意義
 ADHは多数のアイソザイムが存在するが,エタノールを基質としてその活性を測定した場合,本酵素の生体内分布は,95%が肝で,他臓器では胃粘膜,腎,睾丸,脳,網膜などでわずかに活性を認めるのみであり,肝細胞内では細胞質に局在する.また肝臓の小葉内分布では,中心静脈周囲の小葉中心部に局在することが明らかにされている1).したがって,GPTやLDHなどと同様に,肝の逸脱酵素としての性格を有することから,本酵素の血清中の活性を測定することは,肝細胞障害の程度,特に肝の小葉中心部の肝細胞障害を把握するのに有用な検査である.

糖質および関連物質

グルコース

著者: 豊田隆謙

ページ範囲:P.130 - P.131

検査の目的・意義
 血液中グルコースは血糖として測定される.尿細管の糖閾値を越えると尿糖が排泄され陽性になる.この測定法は高血糖または低血糖疾患の診断に用いられる.血糖調節は主として内分泌ホルモンによって行われる.血糖を低下させるホルモンは膵β細胞で合成されるインスリンである.インスリンが不足すると高血糖になり,過剰なら低血糖になる.また,インスリンの拮抗ホルモンには膵α細胞で合成されるグルカゴン,副腎で合成されるコチゾール,カテコールアミンなどがある.拮抗ホルモンが過剰なら高血糖になり,不足すると低血糖になる.高血糖を示す疾患は糖尿病である.低血糖を示す代表的疾患はインスリノーマ,脳下垂体不全症である.

HbA1c(ヘモグロビンA1c

著者: 河津捷二 ,   伴野祥一

ページ範囲:P.132 - P.133

 血糖コントロールの指標として,血糖値とともにHbA1cは欠くことのできない検査である.糖尿病患者の血糖は,食事などによる変動も大きく,一点のみの血糖値から日常の血糖コントロール状態を判定することは不可能といえる.HbA1cは約1カ月間の血糖コントロール状態を反映する指標として活用され,将来の合併症の発症・進展を防止するためにも有用なものとなっている.

フルクトサミン

著者: 伴野祥一 ,   河津捷二

ページ範囲:P.134 - P.135

 血糖コントロールの長期指標として,約1カ月間のコントロール状態を反映するHbA1cに対し,フルクトサミンはHbA1cと同様の原理で血清蛋白のAmadori化合物を測定し,過去2〜3週間の血糖コントロール状態を判定する検査である.

糖化アルブミン

著者: 林洋一 ,   村上哲雄 ,   朝岡昭

ページ範囲:P.136 - P.137

検査の目的・意義
 糖化アルブミン(glycated albumin:GA)の検査は,中・長期の血糖コントロールの指標として行われる.健常人では血糖は狭い範囲に維持されており,いつ血糖検査しても差は少ない.しかし,糖尿病患者では血糖の変動が大きく,早朝空腹時血糖は比較的安定しているものの,特に薬物療法中の患者では,検査当日に薬物と食事を中止して外来で行う早朝空腹時採血は血糖コントロールを乱すことになったり,また,これらを中止していてもインスリン拮抗ホルモンの作用で血糖は上昇することがあるため非生理的な結果となり,外来ではみだりに早朝空腹時の検査は行うべきではないとされる.さらに,大きく変動している血糖の1ないし数ポイントの測定から,糖尿病患者の血糖コントロール良否の判定は困難なことが多い.そこで,中・長期の血糖コントロールの指標としてHbA1c,フルクトサミン,1,5-AGなどが臨床応用されてきた.

尿中微量アルブミン/尿中トランスフェリン

著者: 倉本充彦 ,   金塚東 ,   土田弘基 ,   牧野英一

ページ範囲:P.138 - P.140

検査の目的・意義
 尿蛋白は陰性であるが尿中アルブミン排泄が亢進している時期,すなわち微量アルブミン尿を呈する時期を早期腎症(incipient nephropathy)と定義して,糖尿病性腎症をより早期に診断し治療する試みがされている1)
 糖尿病性腎症において,尿蛋白が陽性となる時期にはすでに非可逆性の糸球体病変が存在することが知られている.しかし,早期腎症の時期であれば,血糖と血圧の厳格なコントロールにより腎症の進展を防止し,回復することも可能であることが示唆されている.また,微量アルブミン尿を呈する症例の多くは後に持続性蛋白尿を呈し,糖尿病性腎症に移行することが明らかにされている.したがって,尿中アルブミンを測定し,早期腎症の有無を確認して,糖尿病患者を管理・治療することは大変重要である.

1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)

著者: 山内俊一

ページ範囲:P.142 - P.143

検査の目的・意義
 血清(漿)1,5-AGは直前の血糖コントロール状況を鋭敏に反映する極めて高感度の血糖指標で,特に軽症糖尿病の血糖変動の把握に優れる.

インスリン

著者: 梶尾裕 ,   門脇孝

ページ範囲:P.145 - P.146

検査の目的・意義
 インスリン(IRI)の測定により,血糖値の測定と合わせて,膵β細胞からのインスリン分泌の状態とインスリンに対する生体のインスリン感受性の程度を推定できる.通常,空腹時だけでなく,ブドウ糖負荷などのインスリン分泌刺激試験における反応をみる場合が多い.
 血糖値に比べIRIが低値の場合,膵β細胞からのインスリン分泌不全が疑われ,その不全の程度はNIDDMとIDDMの鑑別,あるいは治療法の目安になる.血糖値が低値にもかかわらずIRIが高値の場合,インスリノーマやインスリン自己抗体の存在が疑われ,血糖値が正常または高値でIRIが高値の場合,インスリン抵抗性を生じる病態の存在が疑われる.

抗インスリン抗体

著者: 梶尾裕 ,   門脇孝

ページ範囲:P.147 - P.148

検査の目的・意義
 血中にインスリンに対する抗体が存在するか否か,以下の場合に測定する.
1)インスリン使用中の患者血中のインスリン抗体の存在の有無の検討①インスリン製剤の効果に異常,特にインスリン抵抗性を認めた場合(主にIgG)②インスリンアレルギーを生じた場合(特にIgE)

インスリン受容体と抗インスリン受容体抗体

著者: 小田原雅人

ページ範囲:P.150 - P.151

インスリン受容体
 糖尿病はインスリンの相対的な作用不足によって引き起こされるが,インスリンは標的細胞上の受容体に結合することにより,その作用を発現する.インスリン受容体は分子量135,000のαサブユニットと95,000のβサブユニットの2種の糖蛋白からなり,S-S結合によって四量体(β-α-α-β)として存在している.αサブユニットは細胞外に位置し,インスリン結合部位を有する.βサブユニットは細胞膜貫通部位(918-940番アミノ酸)を有し,インスリン作用の発現に重要な①チロシンキナーゼ領域(990-1247番)と,その中に存在するATP結合に重要な②Gly-X-Gly-X-X-Gly……Val-Ala-Val-Lysを持っている.インスリン受容体遺伝子の情報より,αサブユニットは719個(Ebinaらの報告では731個),βサブユニットは620個のアミノ酸よりなり,両サブユニットはArg-Lys-Arg-Argによって結ばれた一本鎖として生成された後,2つに切断されることが明らかになった.また,細胞外領域には糖鎖の結合部位が存在している.

C-ペプチド

著者: 河盛隆造

ページ範囲:P.152 - P.154

検査の目的・意義
 膵β細胞内でプロインスリンはインスリンとC-ペプチドに分解され,両者は等モルで分泌される.血中C-ペプチドの測定がRIA法で可能となったところ,同法で尿中C-ペプチド濃度も測定できることが判明した.血中および尿中の両者を組み合わせて測定すれば,インスリン分泌の時間的,量的動態を詳細に把握できよう.
 インスリンは主に肝で,C-ペプチドは腎で代謝されることから,分泌刺激時の血中動態では,インスリンのピークにやや遅れてC-ペプチドのピークがみられる.食事など種々の刺激に対するインスリン分泌の経時的動態の検索は,血中インスリンを測定すべきである.しかし,かつて動物種インスリン製剤の注射歴があり,インスリン抗体の存在が危惧される際や,外来性インスリン投与中の内因性インスリン分泌動態を追跡する際には,血中C-ペプチド動態を測定することになる.

血中ケトン体

著者: 小沼富男 ,   後藤尚 ,   武部和夫

ページ範囲:P.155 - P.157

検査の目的・意義
 血中ケトン体上昇の原因は,①肝ケトン体産生亢進,②末梢ケトン体利用低下,③腎尿細管機能異常などに帰せられる.また,ケトン体分画測定により得られる3-ヒドロキシ酪酸(3-OHBA)とアセト酢酸(AcAc)との比からは肝ミトコンドリア内の酸化還元状態(redox state)の把握が可能である.この目的ではケトン体の末梢でのクリアランスの影響を回避する目的で動脈採血が推奨されてきたが,静脈採血での検討で十分であるとする報告もある.
 血中ケトン体の測定は糖尿病性ケトアシドーシスの診断,治療効果の判定に必須であるが,その他,肥満症治療の際の体重減少が脱水によるものでないことの確認にも有用である.妊婦の場合,食事制限に加え,悪阻などによるケトン体上昇時には児の低酸素血症,心拍数増加への影響が報告されている.また,ケトン体の上昇が腎血流量,糸球体濾過率(GFR)を増加させ,腎糸球体硬化の一因となる可能性を指摘するものもある.しかし,アセトンの神経障害,意識障害への直接の関与は定説化していない.

乳酸

著者: 池澤嘉弘 ,   山谷恵一 ,   佐々木英夫

ページ範囲:P.158 - P.160

 検査の目的・意義
 乳酸はピルビン酸と密接に関係しており,嫌気的解糖の終末代謝産物である.肝や腎でTCA回路や糖新生の基質となっている.乳酸は血中に一価の陰イオン有機酸として存在し,酸塩基平衡に重要である.一方,ピルビン酸は糖,アミノ酸,脂肪酸代謝すべてに関与している.食事摂取,組織の酸素分圧,関連する代謝過程の酵素活性に影響され,組織の酸素分圧の状態,酵素活性の低下の有無などがわかる.
 酸塩基平衡の異常,anion gapの増加を伴うアシドーシスや急性循環不全が疑われるとき,血中乳酸値を測定する.また,臨床上は乳酸アシドーシス,ミトコンドリア脳筋症,糖原病,Leigh脳症,各種酵素欠損症などの診断に用いられる.

イノシトール/ミオイノシトール

著者: 堀田饒 ,   中村二郎

ページ範囲:P.162 - P.163

ミオイノシトールとは
 イノシトールは9種類あるD-グルコースの環状異性体の総称であり,唯一生理活性を持っといわれているのがミオイノシトールである(図1).

ヒアルロン酸

著者: 川上正舒

ページ範囲:P.164 - P.165

検査の目的・意義
 ヒアルロン酸(hyaluronic acid)はD-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンが繰り返し結合したムコ多糖で,眼硝子体,臍帯,関節,皮膚,軟骨のなどの結合組織に多い.生理的機能として細胞外基質の構造,水平衡の維持,血漿蛋白の組織漏出の制御,関節の潤滑性維持,細胞分裂時の補助などが挙げられる.
 最近,細胞表面のCD 44と結合することが明らかになり,リンパ球のリンパ節への集積やリンパ球・好中球の活性化など,細胞の機能制御への関与が注目されている.また,腫瘍細胞ではCD 44と異なる結合蛋白を有するものがあり,これに結合することにより癌の組織侵襲性が増加するとされている.細胞表面を被覆してウイルスや細胞傷害性リンパ球から保護する作用もあるとされる1)

ムコ蛋白/酸性ムコ多糖体

著者: 柏木厚典 ,   小畑利之

ページ範囲:P.166 - P.167

 酸性ムコ多糖体(acid mucopolysaccharides)はグルコサミノグリカン(glucosaminoglycans)とも総称され,蛋白コアと結合し,ムコ蛋白,すなわちプロテオグリカン(proteoglycans)を形成している1).グルコサミノグリカンはウロン酸とヘキソサミンが結合した二糖類が単位となって,直鎖状に並んだ酸性高分子物質である.グルコサミノグリカンはヘキソサミンの種類により6種類存在し,グルコサミンを構成体とするヘパリン,ヘパラン硫酸,ヒアルロン酸,ケラタン硫酸と,ガラクトサミンを構成体とするコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸に大別される.
 これらは生体内諸臓器および各種結合組織に分布し,潤滑液,陰性荷電物質,支持,軟性,弾性物質,抗血栓性機能および水・塩分保持機能を有している.さらに,これらは血球細胞にも存在している.したがって,尿,血清,関節液,胸水などの濃度を測定することにより,生体内先天性ムコ蛋白代謝異常を診断し,罹患臓器の炎症などによる障害の程度,病気の活動度を診断することが可能である.

糖質転送蛋白

著者: 増田一裕 ,   清野裕

ページ範囲:P.168 - P.169

 生体にとって必須のブドウ糖(糖質)は非極性分子であり,脂質二重層からなる細胞膜は容易に透過できない.細胞膜での糖輸送機構は,糖輸送担体と呼称される疎水性の高い糖蛋白質を介するものである.これには能動輸送に関わるNa/ブドウ糖共輸送担体と,促通拡散型糖輸送担体の2種類が存在する.両者の間にアミノ酸配列の類似性はなく,後者はあらゆる細胞に発現しているが,ヒトでは少なくとも5種類(GLUT 1〜GLUT 5)が存在し,1つのファミリーを形成している(表1).このうちGLUT 5はブドウ糖も輸送できるが,空腸刷子縁膜上ではフルクトース輸送担体として機能していると考えられている.

脂質・リポ蛋白

総コレステロール/エステル型コレステロール/LDLコレステロール

著者: 都島基夫

ページ範囲:P.171 - P.173

検査の目的・意義
 コレステロールは,リン脂質とともに細胞膜の構造脂質として重要な物質であり,またステロイドホルモンをはじめ,ホルモン産生の原料などとなる.
 コレステロールは大部分は肝臓で,一部は腸管,副腎皮質,皮膚,睾丸,大動脈などで合成される.血液中ではリポ蛋白(超低比重:VLDL,中間型:IDL,低比重:LDL)として存在し,全身の細胞に運ばれ,LDL(BE)レセプターから細胞内に取り込まれ利用される.残ったものは,肝臓内にLDL(BE)レセプターを通じて運ばれ代謝される.過剰のコレステロールは血管内皮細胞や細胞間隙を通過して,血管内膜で変性LDL,あるいはレムナント(IDL)としてスカベンジャーレセプターを介して単球由来のマクロファージ内に異物とみなされて取り込まれる.取り込まれた後,コレステロールオレイン酸エステルの液体結晶の形で蓄積して泡沫細胞化し,また一部はコレステロール結晶の形で粥状動脈硬化巣を形成する.このような蓄積したり余剰のリポ蛋白中のコレステロールの一部は高比重リポ蛋白(HDL)に取り込まれて運搬され,最終的には肝臓に運ばれ,胆汁酸などとなって,腸管内に排出される.

中性脂肪(トリグリセライド)

著者: 山口一郎 ,   齋藤康

ページ範囲:P.174 - P.175

検査の目的・意義
 近年数々の疫学調査によって,動脈硬化の進展に高脂血症が深くかかわり,治療により動脈硬化性疾患の発症を有意に抑制し得ることが明らかにされた.このような背景の下に,高脂血症を積極的に治療すべきだとの認識が医学界はもとより一般社会にも浸透し,中性脂肪はコレステロールとともに人間ドックや住民検診の基本検査項目にも組み込まれている.
 無症候者における中性脂肪検査の目的ならびに意義は,いうまでもなく脂質代謝異常のスクリーニングである.後述のように,中性脂肪はIIa型以外のすべての高脂血症で高値となるためにスクリーニング効果は大きい.しかし,原因の鑑別においては特異性に乏しく,別の情報が必要である.同じ理由からIIa型以外の高脂血症における治療効果判定に有用であり,高脂血症の管理に必須の検査である.

HDLコレステロール

著者: 村勢敏郎

ページ範囲:P.176 - P.178

検査の目的・意義
 HDLコレステロール(HDL-C)は,抗動脈硬化作用を有し,冠動脈疾患(CHD)の防御因子として重要であり,低HDL-C血症(<35mg/dl)はCHDの主要なリスクファクターの一つに数えられている1).したがって,HDL-Cは動脈硬化性疾患の予防という観点から,成人病検診においても必須検査項目である.血清脂質―コレステロール,トリグリセライド,Lp(a)など―と同時に測定する.

リポ蛋白分画

著者: 植山和久 ,   北徹

ページ範囲:P.179 - P.181

検査の目的・意義
 血清脂質は,リン脂質およびアポ蛋白と球状の複合体(リポ蛋白)をつくって血液中に存在しており,脂質代謝異常はリポ蛋白代謝異常として理解されている.それゆえ,高脂血症の診断と治療には,血清コレステロール値,血清トリグリセライド値の測定のみならず,リポ蛋白レベルでの検討が必要である.

アポリポ蛋白—A-I/A-II/B/C-II/C-III/E

著者: 佐々木淳

ページ範囲:P.182 - P.183

検査の目的・意義
 アポリポ(アポ)蛋白はリポ蛋白を構成する蛋白成分である.その役目は①脂質を血中で可溶にして各臓器へ運ぶこと,②リポ蛋白を種類別に各々の受容体へ結合させること,③脂質代謝に関係する酵素の活性化や抑制化などを行うこと,などである1).つまり,アポ蛋白はリポ蛋白の代謝調節に不可欠の重要な役割を果たしている.したがって,アポ蛋白の異常は直接脂質代謝の異常につながるので,その測定はリポ蛋白代謝異常の病態を理解するうえで重要である(表1).

Lp (a)〔リポプロテイン(a)〕

著者: 久保信彦 ,   剛勇 ,   櫻林郁之介

ページ範囲:P.184 - P.185

検査の目的・意義
 Lipoprotein(a)〔Lp(a)〕はLDL類似の特異なリポ蛋白である(図1)1).Lp(a)の血中濃度は虚血性心疾患,脳梗塞など各種疾患で動脈硬化に関する指標の一つとして測定されるが,他の脂質値と関連がないことなどから,独立した動脈硬化の危険因子とされている.Lp(a)は電気泳動上の異常バンド(mid bandなどと呼ばれる)として1970年代から各種の動脈硬化症とLp(a)の関連が研究されてきた.最近,このリポ蛋白に特徴的なアポ蛋白であるapolipoprotein(a)〔アポ(a)〕の蛋白構造が解明されて,プラスミノゲン(Pg)と類似していることが明らかになった.Pgはフィブリン上などのPgレセプターと結合してプラスミンとなり,フィブリン(血栓)を溶解する.高分子糖蛋白であるアポ(a)を有するLp(a)は,PgとPgレセプターの結合を競合拮抗して阻害することにより,血栓形成を促進する方向に作用する可能性が示された2).動脈硬化巣の組織でLp(a)が存在することも確認されている.

遊離脂肪酸

著者: 岡田映子 ,   中井継彦

ページ範囲:P.186 - P.188

検査の目的・意義
 血清中に存在する脂肪酸の多くはグリセロールエステル(トリグリセライドやリン脂質)やコレステロールエステルの形でリポ蛋白の構成成分となっている.一方,血清中の遊離脂肪酸(free fattyacid:FFA,またはnon-esterified fatty acid:NEFA)は,エステル化されないで脂肪酸そのままの形で存在する.リポ蛋白中のトリグリセライドは肝臓や腸管から末梢の脂肪組織や筋肉組織へと運ばれ,毛細血管壁上のリポ蛋白リパーゼ(LPL)により分解される.そして遊離脂肪酸は脂肪細胞に取り込まれ,トリグリセライドに再合成され蓄積される.蓄積されたトリグリセライドはホルモン感受性リパーゼにより分解され,遊離脂肪酸を放出する.脂肪組織から動員された遊離脂肪酸は,各末梢組織でエネルギー源として利用される.定常状態においては,ほとんどの組織はエネルギー供給の大半を遊離脂肪酸に依存している.血中では遊離脂肪酸の70〜87%がアルブミンと結合して存在する.血中遊離脂肪酸濃度は主として糖・脂質代謝状態を反映していると考えられるので,血中遊離脂肪酸の測定は糖尿病や高脂血症などの代謝性疾患の病態把握の一助となる.

リポ蛋白リパーゼ

著者: 嶋田昌子 ,   後藤田貴也 ,   山田信博

ページ範囲:P.190 - P.191

検査の目的・意義
 リポ蛋白リパーゼ(LPL)は,肝臓以外の脂肪組織,骨格筋,心臓の毛細血管内皮細胞表面にヘパラン硫酸を介して結合し,食事由来のカイロミクロンや肝臓で合成されたVLDLといった中性脂肪に富んでいるリポ蛋白を,アポ蛋白C-IIを必須因子として異化する酵素である.高中性脂肪血症の病因の解析の目的に測定される.

LCAT(レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ)

著者: 前田英一 ,   芳野原

ページ範囲:P.192 - P.194

検査の目的・意義
 LCAT(lecithin-cholesterol acyltransferase)は血漿中で主要なリン脂質であるレシチン(phostatidylcholine)の2位のアシル基(主として不飽和脂肪酸)をコレステロールの水酸基に転移する反応を触媒する酵素である.血漿中のコレステロールの約70〜80%は脂肪酸エステルとしてリポ蛋白粒子の核の部分に存在しているが,その大部分はHDL粒子上でLCATによって生成されたものである.HDL上でエステル化されたコレステロールは,その疎水性のためにHDL粒子の中心部に移行するか,コレステリルエステル転送蛋白(CETP)によって他のリポ蛋白に移動する.HDLはさらに末梢細胞より余剰なコレステロールを引き抜くことが可能となる.このように,LCATはコレステロールの末梢からの引き抜きや肝への逆転送に主要な役割を担っているが,一方,リン脂質の代謝という点でも重要である.
 本酵素活性の測定の主たる目的は脂質代謝異常症における病態の解析であるが,LCATは肝で合成される半減期の短い糖蛋白であることから,肝の合成能の指標として用いられることもある.

CETP(コレステロールエステル転送蛋白)

著者: 山下静也

ページ範囲:P.195 - P.199

検査の目的・意義
 末梢組織に蓄積した余剰のコレステロールが高比重リポ蛋白(HDL)により引き抜かれた後,そのコレステロールはlecithin-cholesterol acyltransferase(LCAT)によってHDL上でエステル化されて,コレステロールエステル(CE)となる.コレステロールエステル転送蛋白(CETP)は,HDL中に含まれるCEを超低比重リポ蛋白(VLDL)や低比重リポ蛋白(LDL)などのアポ蛋白B含有リポ蛋白へと転送する(図1).これらのアポB含有リポ蛋白が,LDL受容体により肝臓に取り込まれて代謝される.この過程はコレステロール逆転送系と呼ばれ,動脈硬化防御機構の一つであるが,末梢組織に蓄積したコレステロールは最終的に胆汁の一部として排泄される.
 CETPは分子量64,000〜74,000,476個のアミノ酸からなる疎水性の糖蛋白で,副腎,肝臓,脾臓などの臓器,脂肪組織,骨格筋,ヒト肝癌細胞由来株HepG 2細胞,小腸上皮細胞,CaCo 2細胞,ヒト単球由来マクロファージなどの細胞で合成される.

RLP(リポZ)

著者: 田中明

ページ範囲:P.200 - P.201

検査の目的・意義
 カイロミクロンおよびVLDLの代謝産物をレムナントという.マクロファージは容易にレムナントを取り込み,泡沫化し,動脈硬化巣を形成するため,高レムナント血症は高コレステロール血症(高LDL血症)とともに動脈硬化を惹起する脂質代謝異常として知られている.わが国は血清コレステロール高値を伴わない心筋梗塞が多く,この場合はレムナントの影響が大きいと考えられる.しかし,従来,レムナントの分離・測定が困難であったため,レムナントの意義が軽視されがちであった.RLPはremnant-like particles(レムナント様リポ蛋白)の略で,このレムナント量を反映し,簡便な操作で分離・測定が可能となった.RLPはリポZともいう.
 RLPは,アポB48とオーバーラップしないアポB100のアミノ酸領域を特異的に認識する抗アポB100モノクローナル抗体と,アポA-Iを認識する抗アポA-Iモノクローナル抗体の血清中非結合分画のリポ蛋白である.

血清胆汁酸とその分画

著者: 柴田実

ページ範囲:P.202 - P.204

検査の目的・意義
 肝・胆道疾患のスクリーニング,病態把握および経過観察の目的で測定する.慢性肝炎,特に非活動性では空腹時総胆汁酸(FTBA)は正常のことが多く,肝予備能のスクリーニングとしては肝硬変,あるいはそれに近い病態の判定に適している.鋭敏性と正確性をより増すには胆汁酸負荷試験が行われる1).負荷試験は原発性胆汁性肝硬変(PBC)における胆汁うっ滞2)や慢性肝疾患の重症度,組織学的進行度の判定3)に役立つ.
 胆汁酸分画は,胆汁酸の上昇が肝細胞性か胆汁うっ滞性かを鑑別したり,PBCに対するウルソデオキシコール酸(UDCA)療法の効果判定に用いられる2,4)

血液ガス・電解質・微量金属

血液ガス(pH/PaCO2/PaO2/HCO3/Base Excess/O2sat)

著者: 飯野靖彦

ページ範囲:P.207 - P.209

検査の目的・意義
 血液ガスは呼吸機能,循環器機能,腎機能,細胞代謝の異常を把握するために重要な検査である.血液ガスの評価でのポイントは,酸塩基平衡障害と呼吸・循環器障害を区別して考えることである.もちろん両者はお互いに関連をもって変化するが,評価をする場合,区別をしたほうが病態を理解しやすい.pH,PaCO2,HCO3,Base Excess(BE)は主として酸塩基平衡評価(腎機能,呼吸機能,細胞代謝)に,PaCO2,PaO2,O2satは主として呼吸・循環器異常の評価に重要である.
 基本的には呼吸によって血液中にO2を取り込み,CO2を排出する.血液のpHは炭酸-重炭酸緩衝系で調節を受けており,CO2濃度によってpHが変化する(呼吸性酸塩基平衡障害).腎臓でのHCO3産生によってもpHが変化する(代謝性酸塩基平衡障害).細胞の代謝障害によって酸の負荷が起こる場合もある.循環器異常では心不全による肺うっ血によってPaO2の低下が認められるし,先天性心疾患では動静脈シャントが生じてPaO2低下が認められる.

Na/K/Cl(ナトリウム/カリウム/クロール)

著者: 冨田公夫 ,   寺田典生 ,   野々口博史

ページ範囲:P.211 - P.214

検査の目的・意義
 Naは体液の主要な滲透圧物質であり,循環血漿の主要な陽イオンである.したがって,体内Naの欠乏は循環系の異常のみならず体細胞の滲透圧の異常,すなわち細胞の容積・代謝の異常にも関与してくる.測定している血清Naは濃度であり,体内の総Na量ではないので,低Na血症がすなわちNa欠乏ということにはならない1)
 Na濃度は水分との相対的な関係で決まる.体内の水,Na量は摂取量と排泄量の差によるので,消化器系疾患,腎疾患の異常の有無の検査が必要になってくる.

Ca/P(カルシウム/リン)

著者: 竹田秀 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.215 - P.217

Ca
 検査の目的・意義 Caは各種の細胞機能の維持に必須のイオンであると同時に,骨の主要構成分である.このため,血中のCaイオン濃度は狭い範囲内に維持されており,その異常はCa代謝あるいは骨代謝調節系の障害を意味する.

Mg(マグネシウム)

著者: 荒川泰行 ,   鈴木壱知 ,   藤林敬三

ページ範囲:P.218 - P.220

検査の目的・意義
 1.Mgの生体内分布と生化学的作用 マグネシウム(Mg)は,生体内ではカルシウム(Ca),ナトリウム(Na),カリウム(K)についで多い陽イオン金属である.成人の生体内には20〜28gのMgが存在するが,そのうち60〜65%が骨中に,27%が筋肉中に,6〜7%がその他の組織中に,そして残りの1%が細胞外液中に存在する.臓器分布では,骨および筋肉のほか,代謝活性の高い神経組織および心筋,肝臓,消化管,腎臓,外分泌および内分泌腺,リンパ組織などに多い.
 Caが主として細胞外に存在するのに比べて,Mgは細胞内に存在して重要な役割を果たしている.特にリン酸伝達反応とATPが関与する酵素反応系にMgがアクチベーターとして必須であることより,膜輸送,アミノ酸活性化,核酸合成,蛋白質合成,酸化的リン酸化,筋収縮,赤血球と血小板の形態保持などに不可欠である.

亜鉛

著者: 田部井薫

ページ範囲:P.221 - P.223

検査の目的・意義
 亜鉛は必須元素の代表であり,時に中毒や欠乏症がみられることもある.亜鉛は補酵素(metalloenzyme)として重要で,亜鉛が補酵素として作用する酵素の数は100以上といわれている.特に炭酸脱水素酵素,蛋白分解酵素,乳酸脱水素酵素などが有名である1).血清亜鉛濃度の測定は,欠乏状態と過剰状態の指標として用いられる.血清亜鉛濃度測定の対象となる疾患は,①味覚・臭覚低下,②腸性肢端皮膚炎(acrodermatitis enteropathica),③長期にわたる高カロリー輸液,④未熟児などであるが,慢性腎不全にて血液透析を行っている患者での測定意義は大きい.

血清鉄と鉄結合能

著者: 秋澤忠男

ページ範囲:P.224 - P.225

検査の目的・意義
 鉄は体内に約4,000mg存在する微量元素で,そのうち約2/3がヘモグロビン内に含まれる.残り1/3のほとんどが,フェリチンやヘモジデリンなどの貯蔵鉄として肝臓,脾臓や骨髄の網内系に分布し,血漿中に存在する鉄はトランスフェリンと結合した約0.1%を占めるに過ぎない.トランスフェリンはβ1-グロブリン分画に含まれる分子量79,500の糖蛋白で,貯蔵鉄プールから骨髄の赤芽球に鉄を運搬する役割を演ずる.トランスフェリン1分子は鉄2原子を結合することから,血漿中のトランスフェリンが結合し得る鉄の総量を総鉄結合能(total iron binding capacity:TIBC)という.
 一方,健常人では通常トランスフェリンの持つTIBCの約1/3に鉄が結合しており,さらにトランスフェリンに結合し得る鉄の量を不飽和鉄結合能(unsaturated iron binding capacity:UIBC)と呼ぶ.したがって,
 UIBC=TIBC-血清鉄
の関係が成立する.

血漿浸透圧

著者: 菅野一男 ,   平田結喜緒

ページ範囲:P.226 - P.227

検査の目的・意義
 血漿浸透圧(Posm)はNa,K,ブドウ糖,尿素などの溶質濃度の総和によって決定される.臨床検査としては凝固点降下法によることが多いが,血中の各溶質成分濃度より次の計算式によって算出可能である.

ビタミンおよび生体色素関連物質

ビタミンA

著者: 安田和人

ページ範囲:P.228 - P.230

検査の目的・意義
 血漿(血清)レチノール濃度はビタミンA欠乏症,過剰症の診断に用いられる.ビタミンA活性をもつ物質の代表はレチノールであるが,血漿中にはその他レチニルエステル,レチノイン酸,プロビタミンAであるβ-カロチンなどが存在する.通常は主成分のレチノールのみが測定される.
 ビタミンAは動物性食品には主としてレチニルエステル,植物性食品にはβ-カロチンの形で含まれ,腸管から吸収されると小腸粘膜上皮細胞内でレチニルエステルとなり,カイロミクロンのコア(芯)を構成してリンパ管に分泌される.カイロミクロンは胸管を経て静脈に移行するが,その間にリポ蛋白リパーゼの作用を受け,トリグリセライドを放出してカイロミクロンレムナントとなり,一部はさらにLDL(低比重リポ蛋白)となって,アポEレセプター,アポB100レセプターを介して肝細胞に取り込まれる.この肝細胞に取り込まれたレチニルエステルは加水分解されてレチノールになり,脂肪貯蔵細胞(stellate cell,伊東細胞)に転送されて貯蔵され,または需要に応じて同じ肝細胞内でつくられるレチノール結合蛋白(RBP)と結合して血中に分泌され,さらにプレアルブミンと複合体を形成して標的臓器へ輸送される.したがって,それら過程のいずれかに障害が起こると血漿レチノール濃度に影響がみられる.

ビタミンB1,B2,B6と葉酸

著者: 橋詰直孝

ページ範囲:P.231 - P.233

血中総ビタミンB1
検査の目的・意義
 ビタミンB1欠乏症および潜在性ビタミンB1欠乏状態の指標として測定する.

ビタミンB12

著者: 井山茂 ,   網野信行

ページ範囲:P.234 - P.236

検査の目的・意義
 ビタミンB12は造血ビタミンの一つであり,欠乏すると貧血,特に巨赤芽球貧血を起こす.その欠乏の原因として,ビタミンB12の摂取不足,吸収障害,および需要増大が考えられる.
 また,血中ビタミンB12の異常高値は白血病,特に慢性骨髄性白血病や,肝障害,特に急性肝炎時などで顕著に現れる.

ビタミンD

著者: 江口純治 ,   清野佳紀

ページ範囲:P.237 - P.239

検査の目的・意義
 ビタミンD(以下Dと略)は,副甲状腺ホルモン(PTH),カルシトニン(CT)とともに小腸,骨組織,および腎臓に作用し,また相互に関連して作用し合って血中カルシウム(Ca)の恒常性を調節する重要な因子である.
 Dの代謝経路を図1に示す.

ビタミンE

著者: 遠藤了一 ,   安部正雄 ,   上野幸久

ページ範囲:P.240 - P.241

検査の目的・意義
 赤血球膜,血小板,ミトコンドリアをはじめ,各種の生体細胞構築には,多価不飽和脂肪酸(PUFA)がリン脂質などの存在様式で組み込まれその主要な部分を構成している.一方,生体は多彩な代謝系において,酸素をより反応性に富む活性酸素として利用している.ミクロゾーム電子伝達系(NADPH-cyt-P 450)1酸素添加反応はその代表的な例である.生体内には各種の活性酸素(表1)が誘発され,周辺の細胞構築に関与するPUFAは常に酸化の場にさらされている.ビタミンEは抗酸化的に働き,過酸化脂質の生成を抑制し,細胞の安定化と機能維持に関与している1).脂溶性ビタミンであるため,胆汁うっ滞など肝・胆道疾患,栄養不良,脂肪吸収障害などで血中ビタミンEの低下がみられ,溶血傾向,運動失調など神経症状を伴う場合もある.

ビリルビン(直接・間接)

著者: 大石尚文 ,   佐々木匡秀

ページ範囲:P.242 - P.243

検査の目的・意義
 ビリルビンは,ヘム蛋白(主にヘモグロビン)が網内系で処理されて生成する色素であり,肝臓で取り込まれてグルクロン酸抱合を受け,胆管を通じて腸管に排出される.血清中のビリルビン値に異常を認める場合,これらの過程のいずれかに異常が存在することを示している.肝臓でグルクロン酸抱合されたビリルビンを直接ビリルビン,抱合されていないビリルビンを間接ビリルビンといい,それぞれ異常をきたす病態が異なるので,ビリルビン分画を測定することにより疾患の鑑別がある程度可能である.

血中薬物濃度

血中薬物濃度測定のための採血の条件

著者: 中野重行 ,   堤喜美子

ページ範囲:P.245 - P.247

 血中薬物濃度と効果および副作用の関係についての研究から,すでに1960年にはフェニトインの有効血中濃度に関する報告がなされている.その後,今日に至るまで,薬物濃度の測定法および薬物動態学的手法の進歩などにより,血中薬物濃度モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring)が広く行われるようになってきた.わが国においても,1981年に抗躁薬の炭酸リチウムに「特定薬剤治療管理料」が適用され,保険請求が可能となった.現在では,ジギタリス製剤,テオフィリン製剤,抗不整脈薬,抗てんかん薬,アミノ配糖体抗生物質,バンコマイシン,免疫抑制薬,サリチル酸製剤,メトトレキサート,ハロペリドール製剤,リチウム製剤がその適用となっている.
 TDMは,①初期投与設計を行うとき,②有効に治療が行われているかどうかの確認をするとき,③服薬指示違反が疑われるとき,④中毒・副作用の疑いがあるとき,⑤肝機能・腎機能の変化などによる薬物の体内動態の変化が考えられるとき,⑥薬物相互作用が考えられるとき,⑦誤薬の疑いがあるとき,などに行われる.

抗てんかん薬/向精神薬

著者: 中島恵美 ,   市村藤雄

ページ範囲:P.248 - P.249

検査の目的・意義
 抗てんかん薬の効果は投与された薬物の血中濃度と相関する1).しかしながら,同一投与量でも患者によって薬物の血中濃度に差があるため,血中濃度の測定値をもとに患者ごとに投与量を補正する.また,過量投与時の症状が病気本来の症状と類似している場合にも血中濃度による判定が有効である,向精神薬については,患者の血中濃度と効果との関係はあまり明確ではなく,治療に反応する患者としない患者が知られている1).しかし,高濃度での中毒症状を避けるため血中濃度のモニタリングが有効である.

強心薬(ジギタリス)

著者: 中野重行 ,   八塚陽子 ,   堤喜美子

ページ範囲:P.250 - P.251

検査の目的・意義
 ジギタリスは約30年前より薬物動態の研究が始められ,1964年にはヒトの心筋内のジギタリス濃度と血中濃度との間に高い相関が認められることが報告された.このことより,血中濃度から心筋内の濃度が推定され,治療上の指標になることが明らかとなった.また,血中濃度と効果および副作用の発現についての研究より,ジギタリスの有効治療域は非常に狭く,中毒域とも近接しているために,血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)が行われるようになった.
 代表的なジギタリス製剤はジゴキシンとジギトキシンである.ジゴキシンは消化管からの吸収過程におけるばらつきが非常に大きいという欠点を持つが,ジギトキシンに比較して半減期が短く,注射剤と経口剤の両方が使用できるため,広く使用されている.一方,ジギトキシンは吸収が良好であるが,半減期が非常に長く(約7日),定常状態に達するのに約1カ月を要する.また,副作用発現後,投与を中止しても体内からの消失が非常に遅く,副作用症状がすぐに消失しないといったことがあり,現在はほとんど用いられていない.したがって,ここではジゴキシンを中心に述べることにする.

気管支拡張薬(テオフィリン)

著者: 中野重行 ,   上村尚人 ,   堤喜美子

ページ範囲:P.252 - P.254

検査の目的・意義
 テオフィリンは,気管支喘息をはじめとした閉塞性肺疾患の治療に広く使用されている代表的な“気管支拡張薬”である.テオフィリンの血中濃度と臨床効果(喘息の発作頻度,1秒量などの肺機能の改善度,気管支痙攣の抑制度)および副作用の発現頻度には相関性があることが報告されている.しかし,その有効治療域は非常に狭く,中毒域の濃度とも近い.テオフィリンは,投与量の約90%が肝臓で代謝されて排泄されるが,その過程には非常に大きな個人差があり,種々の要因によって影響を受ける(表1).したがって,患者個別の投与設計をし,有効な治療を行うためには,血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)が必要となる.`

抗菌薬

著者: 吉山友二

ページ範囲:P.255 - P.257

検査の目的・意義
 薬物動態学理論および微量薬物濃度測定技術の進歩に伴い,体液中薬物濃度を参考に投与設計や処方の改善,さらに服薬遵守の確保など,薬物治療の適正化を進めていく血中薬物濃度モニタリングが治療の場で普及してきた.
 アミノグリコシド系抗生物質の血中薬物濃度モニタリングの目的は,抗菌作用を十分に発揮させつつ,その有する生体への有害作用,とりわけ腎障害および聴覚障害(耳毒性)の発現をできるだけ少なく,また軽度に抑えるためである.このような背景により,多くの抗菌薬の中で,アミノグリコシド系抗生物質の血中薬物濃度測定だけが,計画的な治療計画を行ったことに対する診療報酬としての特定薬剤治療管理料の対象になっている.

免疫抑制薬(シクロスポリン)

著者: 打田和治 ,   高木弘

ページ範囲:P.258 - P.259

検査の目的・意義
 シクロスポリン(CS)は臓器移植における新しい強力な免疫抑制薬であり,その登場によって臓器移植の新しい幕が開けられたといって過言ではない.現在,CSを中心とした多剤免疫抑制療法の導入により,生体腎移植であれば95%,死体腎移植でも85%の移植腎1年生着率が得られ,良好な腎移植成績を示している.また,臓器移植以外の領域においても,例えばBehçet病,尋常性乾癬,特発性再生不良性貧血,原発性胆汁性肝硬変,微小変化ネフローゼ症候群,関節性リウマチ,多発性筋炎/皮膚筋炎などの自己免疫疾患,あるいは免疫調節障害の疾患の治療にも有効性が認められている.
 しかし,その著しい免疫抑制効果の反面,CS製剤そのものに起因する薬理動態の不安定性,狭い治療濃度域による不安定な薬効,そして腎毒性に代表される薬剤の直接の副作用が,CS免疫抑制療法下の患者管理を困難にしている.このため,CS免疫抑制療法を安全かつ有効に遂行するには,CsA血中濃度モニタリング(TDM)による投与量の決定が不可欠とされている.

先天性(代謝)異常のスクリーニング

新生児・乳児のマス・スクリーニング

著者: 伊藤道徳 ,   黒田泰弘

ページ範囲:P.260 - P.264

検査の目的・意義
 疾患のスクリーニングは,その疾患を疑わせる症状を認めるために行われるハイリスク・スクリーニングと,発症前に一般集団の中から患者を発見するマス・スクリーニングとに大別される.全国規模で実施されている新生児・乳児スクリーニングはマス・スクリーニング検査であり,発症前の患者発見と早期治療を目的としている.現在,わが国では,治療せずに放置すると死亡したり,生存しても重篤な後遺症を残すが,早期発見・早期治療によりスクリーニングの効果が期待される先天性(代謝)異常6疾患(表1),および白血病,脳腫瘍についで多い小児癌である神経芽細胞腫を対象として,検査費用公費負担による新生児・乳児マス・スクリーニング検査が実施され,治療効果を上げている1)

先天性酵素異常

著者: 横山䧺

ページ範囲:P.265 - P.268

グルコース6リン酸脱水素酵素(G-6-PD1〜3)
検査の目的・意義
 G-6-PDはグルコース6リン酸(G-6-P)→6ホスホグルコン酸(6-PG)の反応を触媒する,五炭糖回路の律速酵素である.この段階にはNADP→NADPHの反応が共役しており,その点G-6-PDはNADPHを供給することにより,細胞を酸化的侵襲から防御する重要な役割を担っている.本酵素の欠乏した赤血球は酸化的刺激に対し,容易に変性してハインツ小体を形成して溶血する.赤血球G-6-PD欠乏症は,世界で保因者が1億人以上と推定される,最も普遍的な先天性赤血球酵素異常症である.
 本症は遺伝的変異型が多く,症状のスペクトラムも無症状から溶血まで多様であるが,溶血の病態は薬剤誘発性溶血性貧血と慢性溶血性貧血に大別される.酸化的薬剤(サルファ剤や解熱剤,その他)の服用後1〜3日で赤褐色尿を呈する急激な溶血を示した場合や,原因不明の慢性非球状性溶血性貧血を呈する例では,赤血球のG-6-PD活性を測定する必要がある。

血液検査 血球検査

赤血球数/ヘモグロビン/ヘマトクリット

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.270 - P.271

検査の目的・意義
 いずれも貧血あるいは赤血球増加症の有無を調べるために行われる.かつてはそれぞれ別々に測定が行われていたが,現在は,静脈血を用いて自動血球計算器で一度に算定されることがほとんどである.また,それらの数字から,平均赤血球容積(MCV),平均ヘモグロビン量(MCH),平均ヘモグロビン濃度(MCHC)も自動的に算定される.MCVは1個の赤血球の体積の平均で,MCHは1個の赤血球の中に含まれるヘモグロビン量の平均である.MCHは赤血球の大きさ(MCV)にほぼ比例するので,MCVをみればすむと思う.MCHCは一定体積の赤血球あたりのヘモグロビン濃度である.これらの値は貧血の鑑別診断上有用である.

網赤血球数

著者: 兜森修 ,   網野信行

ページ範囲:P.272 - P.273

検査の目的・意義
 網赤血球は赤芽球から核の消失したミトコンドリア,リボソームを有する未熟な赤血球である.この網赤血球は1〜2日後には成熟赤血球になる.末梢血液の赤血球に認められる網赤血球を算定することにより,骨髄における赤血球の造血状態を間接的ではあるが把握することが可能であり,貧血の診断・治療に現在もなお活用されている.

赤血球寿命

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.274 - P.275

検査の目的・意義
 赤血球寿命の短縮による貧血,つまり溶血性貧血の確定診断のために行う.しかし,溶血性貧血の診断には,貧血,黄疸,脾腫,網赤血球増加,間接ビリルビン高値,ハプトグロビンの低下などの種々の目安があり,さらに溶血性貧血の種類を確定する詳細な検査が可能になっている.したがって,赤血球寿命測定の意義は以前ほど高くはない.しかし,溶血に関する種々の検査結果がちぐはぐであったり,異常が軽微である場合は赤血球寿命の測定が診断上必要になる.

砂糖水試験/HAM試験

著者: 新谷松知子 ,   川合陽子

ページ範囲:P.276 - P.278

検査の目的・意義
 砂糖水試験とHAM試験は,発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)のスクリーニングおよび診断に不可欠な検査として知られている.PNHは赤血球膜蛋白であるglycosyl phosphatidyl inositol(GPI)結合型膜蛋白の欠損により血管内で補体溶血を起こす,慢性の後天性の溶血性貧血である.この疾患は睡眠中に血液中にCO2がたまって血液pHが低下すると起こりやすく,早朝,暗赤褐色尿をみることが多いため,“発作性夜間血色素尿症”と名付けられた.この補体溶血をin vitroで起こさせ,診断に用いるのが本試験であり,砂糖水という低電離度液中で赤血球に補体を付着しやすくしたものが砂糖水試験,塩酸を加えてpHを酸性(pH6.5〜7.0)にすることにより補体を付着しやすくしたものがHAM試験と呼ばれている.なお,砂糖水試験は陽性に出やすく,スクリーニングとして普及しており,HAM試験はPNHに特異的といわれ,確認検査として用いられている.

白血球数

著者: 森山美昭

ページ範囲:P.279 - P.282

検査の目的・意義
 白血球系の数量的,形態的,機能的異常をきたすすべての疾患(表2)について,その病態(腫瘍性か反応性か,また産生低下か),経過(急性期か回復期か),さらに臨床効果(特に抗腫瘍薬やサイトカイン使用時)を評価するために測定する.その場合,白血球は顆粒球(好中球,好酸球,好塩基球),リンパ球,単球からなり,各々が別々の生理的機能を有しているので,単に数の増減だけではなく,同時にその分画(後述)を調べることが極めて重要である.

末梢血液像/白血球百分率

著者: 森山美昭

ページ範囲:P.283 - P.287

検査の目的・意義
 染色される血球には赤血球,白血球(好中球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球),血小板があり,これらの血球に量的・質的異常が生じると,貧血,免疫能低下,出血傾向などの症状を認めるが,これらの病態や疾患の診断,治療を評価するために検査する.一般に白血球百分率(分画)の異常は,その数の変化を伴って観察されることが多いが,白血球数が正常範囲でも,分画の異常や形態異常(dysplasia)をしばしば認める.特に骨髄異形成症候群(MDS)におけるdysplasiaの有無は重要な予後因子の一つであり,末梢血液像検索の意義は高い.

好酸球

著者: 榎原英夫

ページ範囲:P.288 - P.290

検査の目的・意義
 表1のごとく,好酸球が増加する疾患には多くのものがあり,これらの診断の一助として好酸球数が測定される.多くの場合,アレルギー性の病態の存在を示唆するが,好酸球増多症の診断において重要なことは,好酸球による臓器傷害の有無に注意することと,好酸球の増殖が腫瘍性か反応性かを判別し,また反応性であっても基礎疾患に悪性腫瘍が存在しないかを検索することである.

好塩基球

著者: 榎原英夫

ページ範囲:P.291 - P.291

検査の目的・意義
 表1のごとく,好塩基球が増加する疾患が知られている.これらの診断の一助として好塩基球が測定される.類白血病反応と骨髄増殖性疾患の鑑別にも用いられる.

血小板数

著者: 塚田理康

ページ範囲:P.292 - P.294

検査の目的・意義
 流血中の血小板は,傷害された血管壁の内皮細胞下組織と反応して止血血栓を形成することを主な機能としており,皮膚・粘膜出血など出血傾向の認められる例では,出血原因の鑑別に血小板数の算定は必須の検査である.また赤血球・白血球に異常のみられる症例でも,その病態を知るために検査が必要である.稀ではあるが,血小板増加が動脈血栓症を惹起させることがあるので,動脈血栓塞栓症例でも血小板数の算定を行っておく.
 血小板数10万/μl以下を血小板減少とするが,出血症状は血小板数が5万以下に減じて初めて出現する.3万以下では皮膚に出血斑・出血点が出現し,2万以下では粘膜出血(鼻出血,歯肉出血,性器出血,消化管出血,脳出血など)も認められる.血小板数5万以上の例で上記出血症状がみられた場合には,血小板機能障害・凝固異常の合併を考慮する必要がある.

骨髄像

著者: 河村雅明 ,   大島年照

ページ範囲:P.295 - P.298

検査の目的・意義
 骨髄像は,種々の原因によって引き起こされる血液疾患の診断や,急性白血病を代表とする造血器腫瘍の治療効果判定,悪性リンパ腫などの病期判定を行ううえで極めて重要な検査である1).また,癌の骨髄転移など,他の部位で発生した病変の骨髄への波及を検索する場合や,先天性代謝異常などの全身疾患の診断にも有用である.

特殊染色(アルカリホスファターゼ,ペルオキシダーゼ,エステラーゼ,PAS,鉄染色)

著者: 古沢新平 ,   山田圭志

ページ範囲:P.299 - P.303

アルカリホスファターゼ染色
検査の目的・意義(表1)
 末梢血の成熟好中球のアルカリホスファターゼ(ALP)活性の程度を,末梢血塗抹標本の本染色による陽性顆粒の密度から半定量的に測定するもので,好中球ALP(NAP)スコアとして表す.表1に示すような末梢血液検査異常を示す場合の鑑別診断にNAPスコアの測定は有用である.
 ことに慢性骨髄性白血病(CML),真性赤血球増加症(PV),発作性夜間血色素尿症(PNH),あるいは骨髄異形成症候群(MDS)が疑われる場合には,本検査は必須である.

異常ヘモグロビン

著者: 大庭雄三

ページ範囲:P.304 - P.305

検査の目的・意義
 ヘモグロビン(Hb)遺伝子における塩基置換,欠失/重複,不均等交差の結果は,①表現型に何らの変化も示さない単なるDNAレベルにおける遺伝子多形,②特定のグロビンの合成量の減少(サラミセア),③グロビンのアミノ酸配列異常,または④個体発生におけるグロビン合成スイッチの切り替えの異常(hereditary persistence of fetal Hb:HPFH)のどれかに該当する.臨床的には小球性貧血,血流閉塞,溶血,チアノーゼ,多血,貧血などが問題となる.簡単なスクリーニングテストによって蓋然的診断を行い,最終的にはグロビンのアミノ酸配列分析または遺伝子DNAの塩基配列分析を行う.

凝固/線溶系検査

PT(プロトロンビン時間)

著者: 横山健次 ,   池田康夫

ページ範囲:P.307 - P.308

 検査の目的・意義
 止血機構の異常がどこにあるかを調べる検査であり,本検査で異常値となれば外因系因子の異常が存在することになる.新生児メレナや幼少時より繰り返す出血症状など先天性出血性素因が疑われる場合,あるいは重症肝障害,悪性腫瘍,播種性血管内凝固異常(DIC)など後天的に凝固因子生成の低下または消費の亢進が疑われる場合,さらに手術前のスクリーニング検査などとして行われる.

APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)

著者: 横山健次 ,   池田康夫

ページ範囲:P.310 - P.311

検査の目的・意義
 止血機構の異常がどこにあるかを調べる検査であり,本検査で異常値となれば内因系因子の異常が存在することになる.
 PTと同様に,先天性出血性素因が疑われる場合,後天的な凝固因子の異常が疑われる場合,術前検査などとして行われる.

トロンボテスト/ヘパプラスチンテスト

著者: 福武勝幸 ,   杉村大作

ページ範囲:P.312 - P.313

検査の目的・意義
 トロンボテストとヘパプラスチンテストは,肝で産生されるビタミンK依存性凝固因子を総合的に測定するためにプロトロンビン時間(PT)に改良を加えたものである.
 1)トロンボテストは希釈したウシ脳トロンボプラスチンと精製セファリン(リン脂質)にフィブリノゲン,V因子などの補充源としてウシ吸着血漿を加えることにより,ビタミンK依存性凝固因子(FII,FVII,FX)活性の変化を鋭敏に検出する.また,ウシ脳トロンボプラスチンは,ビタミンK欠乏状態やワーファリンなどの経口抗凝固療法により産生されるPIVKA(proteins induced byvitamin K abscence)に対する感受性が高く,凝固が強く抑制されるため,わが国ではしばしば経口抗凝血薬療法のコントロールに用いられている.トロンボテストは,因子の低下とともにPIVKAによる抑制作用を反映するため,抗凝血薬にてFII,FVII,FXが低下した者と肝障害にて同程度の因子レベルに低下した者では前者のほうがより強く延長を示す.本法の測定範囲は5〜100%であり,低値域での測定精度が高いのが特徴である.

出血時間/毛細血管抵抗試験/全血凝固時間

著者: 松野一彦

ページ範囲:P.314 - P.315

検査の目的・意義
 出血時間は,血管が破綻して出血が起こった際に血小板が内皮下の膠原線維に粘着し,これが発端となって血小板が活性化され,顆粒に含有する種々の生理活性物質を放出し,血小板どうしが凝集し合って血小板凝集塊を形成して,一次止血を完了するまでの時間である.したがって出血時間測定の意義は,血小板の数および粘着・放出・凝集という機能が正常であるかどうかをみることにある.
 毛細血管抵抗試験は,毛細血管に陽圧あるいは陰圧の圧をかけ,赤血球が血管外に漏れやすいかどうかをみることにより,毛細血管の抵抗性を検査するものである.毛細血管の構造や透過性の変化のほかに,血小板や線溶因子なども関与している.血小板・凝固・線溶検査が進歩した現在では臨床的価値は低くなっているが,血管性出血傾向の数少ない簡便な検査として今なお用いられている.

フィブリノゲン

著者: 福武勝幸 ,   吉田信一

ページ範囲:P.317 - P.318

検査の目的・意義
 フィブリノゲンは凝固第I因子と呼ばれ,肝において産生される分子量約34万の糖蛋白である.出血時に,血管の障害部位で血液凝固反応の活性化により生成されたトロンビンによりフィブリンに転化し,止血血栓を形成する役割をになっている.このため,出血・血栓傾向を呈している種々の疾患・病態において検査を行う必要がある.また,フィブリノゲンは感染症,膠原病などの炎症性疾患で急性相反応物質として増加を認めるため,これらの疾患においては炎症マーカーの一つともなる.

アンチトロンビンIII

著者: 山岸哲也 ,   新井盛夫

ページ範囲:P.319 - P.321

検査の目的・意義
 アンチトロンビンIII(以下AT III)は肝で産生されるアミノ酸432個からなる分子量約56,000の一本鎖の糖蛋白である.凝固阻止因子として血液凝固反応が過度に進みすぎないよう調節的役割を担っており,トロンビン,活性化第X因子(以下FXa)をはじめ,血液凝固反応過程で生じるほとんどすべての活性化凝固因子(serine protease)と1対1の等モル比で結合して安定な複合体を形成することにより,それらを失活させる.この反応はヘパリンの存在下では著しく加速される(図1).
 AT IIIの検査法には,被検血漿中に存在する蛋白量として測定する免疫学的測定法と,検体中のAT IIIがどれだけの活性化凝固因子失活能をもつかという,機能面からとらえる活性測定法とがある.多くの場合,抗原量の低下は活性値の低下に反映される.最も頻繁に行われているものが,発色性合成基質を用いた活性測定法である(図2).

FDP/Dダイマー

著者: 緇莊和子 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.322 - P.323

検査の目的・意義
 血中に存在するフィブリノゲンや,凝固系の活性化で生じたフィブリンは,線溶系の活性化で生じたプラスミンにより分解され,FDP(fibrin/fibrinogen degradation products,フィブリン/フィブリノゲン分解産物)を生じる.フィブリノゲンの分解では,図1に示すように中間産物であるX,Y分画を経て,最終的には2分子のD分画(Dモノマー)と1分子のE分画が生成されるが,それぞれの分画には分解程度が異なる亜分画が存在する.一方,活性型XIII因子の作用でクロスリンクを受けた安定化フィブリンの分解では,Dダイマー分画(Ddimer)とE分画とが非共有結合的に会合したDD/E複合体(DD/E complex)を基本単位として,DD/EのほかYD/DY,YY/DXDなどのさまざまな高分子複合体が生じる1)
 血清FDPの測定は,血中での線溶亢進状態を検出する目的で行われる.また血漿(血清)Dダイマーは安定化フィブリンの分解でのみ生じることから,血栓溶解状態,すなわち二次線溶の検出を目的として行われる.

SFMC(可溶フィブリンモノマー複合体)

著者: 末久悦次 ,   網野信行

ページ範囲:P.324 - P.325

検査の目的・意義
 生体内での血液凝固反応の亢進は,一連の酵素転換反応によりトロンビンが生成されると,その基質であるフィブリノゲンからフィブリノペプタイドAおよびBが遊離され,フィブリンモノマーが生成される(図1).このフィブリンモノマーは互いに重合し,フィブリンポリマーを形成し,最終的に活性化された凝固第XIII因子による架橋反応により,安定したフィブリン(血栓)を形成する.この重合する前のフィブリンモノマーは,フィブリノゲン分解産物(FDP)の初期分解産物やフィプロネクチンなどと会合し,生体内では可溶性の状態で存在する.この状態のものは可溶性フィブリンモノマー複合体(soluble fibrinmonomercomplex:SFMC)と呼ばれる.
 したがって,SFMCを検出することは,生体内で凝固亢進に伴って生じたトロンビンによるフィブリン形成(血栓形成)を意味すると考えられる.

TAT(トロンビン—アンチトロンビンⅢ複合体)

著者: 末久悦次 ,   網野信行

ページ範囲:P.326 - P.327

検査の目的,意義
 血栓の形成は,血管内の血液凝固亢進に伴ってトロンビンが生成され,フィブリノゲンからフィブリンへの転換で終末となる.この一連の反応の中で生成されたトロンビンそのものを検出できれば,この血管内における血栓形成の初期段階を把握することが可能となる.
 しかし,血中には,トロンビンに対する生理的なインヒビターであるアンチトロンビンIII(ATIII)が存在し,血管壁に存在するヘパリン様物質を介して速やかに生成したトロンビンの活性を不活性化させるため,血中のトロンビンを直接測定することは困難である.

プラスミン—α2プラスミンインヒビター複合体

著者: 松田道生

ページ範囲:P.328 - P.329

検査の目的・意義
 血管内で血栓が形成されると,フィブリンの析出を契機として線溶系が活性化され,線溶酵素プラスミン(plasmin:Plm)が形成される.血管の破綻孔に形成される止血血栓(hemostatic thrombus)では,止血という目的を達成するために,フィブリンにα2-プラスミンインヒビター(α2-plasmin inhibitor:α2-PI)が活性型XIII因子を介して架橋結合され,フィブリン血栓が容易に溶け去ることのないように保護している(図1).しかし,DIC症候群におけるように,微小血栓の形成が急激に進むと,Plmの産生も急激かつ過剰となり,時には出血性素因を招来するが,このPlmも血中に存在するα2-PIに捕捉され,失活してしまう(図1).
 α2-PIは,血中に存在するプロテアーゼインヒビターの中でも酵素を中和する力は抜群で,リジン結合部位(lysine binding site:LBS)を介してPlmと急速に結合し,次いで酵素結合部位でPlmの活性中心をなすセリン残基との間にアシル結合をつくってPlmを中和してしまう(図2).

PAI-1(プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1)

著者: 坂田洋一

ページ範囲:P.330 - P.331

 血管内血栓は,プラスミノゲンアクチベーター(PA)により活性化されたプラスミンにより分解除去される.PAインヒビター1(PAI-1)はPAの生理的に最も重要な阻害因子であり,血栓溶解反応の開始点を制御する.健常人血中では,血漿中以外に血小板α顆粒中にPAI-1が存在する.採血した検体中では,PAI-1は,活性型(恐らくそのほとんどが血中ビトロネクチンと結合して存在している),PAとの複合体,活性が隠れてしまったフリーの“潜在型”など多彩な存在形態を示す.それぞれの形態のPAI-1を分けて測定することは実験室レベルでは可能である.
 しかし,たとえ完全な手技で採血されたとしても,例えば活性型は,室温で時間とともに潜在型に変化していくために,in vivoで果たして,どれくらいが活性型で存在するかを一般の臨床検体で測定することはほとんど不可能である.したがって,測定されるPAI-1値としては,総PAI-1量が現在までのところ最も実際的で,信頼できるものと考えられる.

t-PA(組織性プラスミノゲンアクチベーター)

著者: 上嶋繁 ,   松尾理

ページ範囲:P.333 - P.335

 線溶系は,凝固系活性化の最終産物であるフィブリン(血栓)を溶解して,循環血液中よりこれを除去する生理的な機構である.フィブリンを溶解するのはプラスミンという酵素であるが,プラスミンは通常,その前駆体で酵素活性を持たないプラスミノゲンとして血液中に存在している.プラスミノゲンをプラスミンに活性化する酵素がプラスミノゲンアクチベーター(plasminogen activator:PA)である.
 組織性プラスミノゲンアクチベーター(tissue-type plasminogen activator:t-PA)は,ヒトの血管内皮細胞から循環血液中に分泌されるフィブリン親和性を有するPAで,フィブリン(血栓)上でプラスミノゲンをプラスミンに活性化してフィブリンの溶解を促進する.

t-PA・PAI-1(組織プラスミノゲンアクチベーター・プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1複合体)

著者: 三室淳

ページ範囲:P.336 - P.337

検査の目的・意義
 t-PAは血管内に生じた血栓の溶解反応を開始するプラスミノゲン活性化酵素である.t-PAはプラスミノゲンとともに血栓内のフィブリンに結合し,フィブリン分子の上でt-PAによりプラスミノゲンが活性化されてできたプラスミンがフィブリンを分解する.
 PAI-1はt-PAの活性を阻害する生理的インヒビターで,それゆえ線溶反応の重要な制御因子の一つといえる.プラスミノゲンやα2-プラスミンインヒビターがほぼ一定の血中レベルに保たれるのに対し,駆血や運動で血液中のt-PA濃度が上昇し,PAI-1はエンドトキシンやサイトカインなどの刺激で血管壁での産生が著しく増加することから,線溶開始活性はこれらの因子の動的なバランスの上になりたっているといえる1).心筋梗塞の冠動脈血栓溶解療法などにt-PAが応用されるようになり,血液中の線溶状態を的確にモニターすることはますます重要になり,t-PA,PAI-1のバランスを知ることが求められている.

プロテインC/プロテインS/APCコファクター2

著者: 鈴木宏治 ,   小川裕行 ,   安田冬彦

ページ範囲:P.338 - P.340

検査の目的・意義
 プロテインC(PC)とプロテインS(PS)は,主として肝臓で産生されるビタミンK依存性血漿蛋白質で,血液の流動性維持に不可欠なPC凝固制御系(図1)の中心的因子である.すなわち,内皮細胞上のトロンボモジュリン(TM)に結合したトロンビンによって活性化されたPC(APC)は,PSをコファクターとして,凝固第Va因子および第vIIIa因子を特異的に分解・失活化し,凝固反応を強く制御する.最近,新たに第V因子がPSとは異なる新しいAPCコファクター(APC cofactor 2)として機能することが発見され,その生理的意義と重要性が明らかになった.
 これまでに血栓症をきたした多数の先天性PC異常症,PS異常症,およびAPC抵抗症(APCresistant)が発見されている.これらの異常症の検査・診断は,血栓症の原因の解明と治療法の確立において非常に重要である.

第VIII因子/von Willebrand因子

著者: 新井盛夫

ページ範囲:P.341 - P.343

検査の目的・意義
 第VIII因子は内因系凝固因子の一つで,第IXa因子,リン脂質,Ca2+とともに第X因子活性化複合体(X-ase complex)を形成し,第X因子の活性化を促進する.また,von Willebrand因子は血中では第VIII因子と結合して,第VIII因子/von Willebrand因子複合体として循環しており,第VIII因子蛋白の活性を保護し,止血局所に導くという担体としての役割を果たす.その他,止血の場では,露出した血管内皮下組織のコラーゲンと血小板膜糖蛋白のGPIbを粘着させる分子糊として働き,一次止血に重要な役割を担っている.
 第VIII因子とvon Willebrand因子の先天性の欠損症はそれぞれ血友病A,von Willebrand病である.出血症状としては血友病Aでは皮下,筋肉内血腫,関節内出血,消化管出血などであるが,vonWillebrand病では点状出血,皮下溢血斑,鼻出血,過多月経などの表層性の出血が多いのが特徴である.第VIII因子やvon Willebrand因子の測定は,これらの鑑別診断や補充療法中の治療経過をモニターするうえで重要である.

第VIII因子以外の血液凝固因子

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.344 - P.346

検査の目的・意義
 血友病,その他の血液凝固因子欠乏症などの先天性血液凝固障害,およびビタミンK欠乏症,DIC(disseminated intravascular coagulation,播種性血管内凝固異常症),肝疾患,凝固インヒビターなどの後天性血液凝固障害の診断のために行う.
 具体的には出血傾向またはその他の理由で,APTTあるいはプロトロンビン時間(PT)を検査し,異常を認めるものの,その理由が不明のときに確定診断に迫るために行う.

血小板凝集能/血小板粘着能

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.347 - P.350

検査の目的・意義
 血小板凝集能と粘着能は血小板機能の中で最も重要である.これらを行うことにより,血小板機能異常が検出され,各種血小板機能異常症,vonWillebrand病などの出血性疾患の診断および血栓症の病態把握への指針となる.具体的には以下の2点のあるときに施行する.

内分泌学的検査 下垂体

GH(成長ホルモン)

著者: 對馬敏夫

ページ範囲:P.353 - P.354

検査の目的・意義
 血中あるいは尿中GH(growth hormone)の測定は,下垂体のGH分泌能を評価する目的で行われる.下垂体性小人症,末端肥大症の診断,治療効果の判定に不可欠である.また,各種の視床下部下垂体疾患では,GHの分泌はゴナドトロピンと並んで早期に分泌が障害されるので,視床下部下垂体機能の指標の一つとなる.

TSH(甲状腺刺激ホルモン)

著者: 内村英正

ページ範囲:P.355 - P.357

検査の目的・意義
 下垂体から分泌されるTSH(thyroid stimulating hormone)は甲状腺機能を調節しており,その血中濃度の変化は甲状腺機能を最も敏感に反映すると考えられる.
 甲状腺機能の調節は,視床下部から分泌されるthyrotropin releasing hormone(TRH)によるTSHの分泌刺激,さらにTSHは甲状腺ホルモン(T3,T4)の生成・分泌を刺激すると同時に,甲状腺の成長・発育の促進を行う.一方,甲状腺から分泌されたT3やT4は,逆に下垂体のTSH分泌細胞の機能を抑制し,TSHの分泌を減少させる(negative feed back system).また,T3,T4は視床下部に作用してTRHの分泌も抑制することがわかっている.

PRL(プロラクチン)

著者: 青野敏博

ページ範囲:P.358 - P.361

検査の目的・意義
 プロラクチン(PRL)は,脳下垂体前葉のPRL分泌細胞から分泌される分子量約22,000の単純蛋白ホルモンである.通常は妊娠,産褥期に分泌が亢進し,標的臓器である乳腺に作用し,腺の発達と乳汁の産生を促進する.
 一方,PRLが何らかの原因で下垂体から過剰に分泌され,高プロラクチン血症(hyperprolactinemia)になると,男女とも性機能が抑制される.女性では乳汁漏出症とともに,無排卵に基づく無月経や不妊が招来されるので,乳汁漏出無月経症候群(galactorrhea-amenorrhea syndrome)と呼ばれる.男性においても高プロラクチン血症は性欲減退,インポテンス,乏精子症などの原因となる.

LH(黄体化ホルモン)

著者: 三宅侃 ,   坂田正博 ,   和田和子

ページ範囲:P.362 - P.363

検査の目的・意義
 LH(luteinizing hormone,黄体化ホルモン)は下垂体のゴナドトロープから分泌されるFSH(follicle stimulating hormone,卵胞刺激ホルモン)とともにゴナドトロピンであり,測定値で下垂体のゴナドトロピンの産生・分泌能を知ることができる.
 また,下垂体は単独で機能してゴナドトロピンを分泌しているのではなく,視床下部,卵巣・精巣など他の生殖内分泌臓器とともに形成している機能環の一部としてゴナドトロピンを分泌しているので,ゴナドトロピンの一つであるLHを測定することは,この機能環が正常に作動しているかどうかを調べることにもなる.

FSH(卵胞刺激ホルモン)

著者: 三宅侃 ,   西崎孝道 ,   前田哲雄

ページ範囲:P.364 - P.365

検査の目的・意義
 FSH(follicle stimulating hormone,卵胞刺激ホルモン)は下垂体から分泌されるLH(luteinizing hormone,黄体化ホルモン)とともにゴナドトロピンであり,卵巣または精巣を刺激し,その機能を賦活する作用を有し,その測定値で下垂体のゴナドトロピンの産生・分泌能をおおよそ推定することができる.
 また,ゴナドトロピン分泌は視床下部からのGnRH(gonadotropin releasing hormone,ゴナドトロピン放出因子),卵巣・精巣からの性ステロイドホルモンとともに形成している機能環の一部の機能であるので,FSHを測定することは,この機能環が正常に作動しているかどうかを調べることにもなる.

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)

著者: 新谷保実 ,   齋藤史郎

ページ範囲:P.366 - P.367

検査の目的・意義
 ACTH(adrenocorticotropic hormone,副腎皮質刺激ホルモン)は39個のアミノ酸からなるポリペプチドで,下垂体前葉から分泌され,副腎皮質からのステロイド分泌を促進する.血漿ACTH濃度は下垂体からのACTH分泌能を反映し,その測定は視床下部・下垂体・副腎皮質系の疾患の診断と病態の解明に不可欠である.

ADH(抗利尿ホルモン)

著者: 時永耕太郎 ,   椎名達也 ,   吉田尚

ページ範囲:P.368 - P.370

検査の目的・意義
 ADH(antidiuretic hormone,抗利尿ホルモン)は視床下部-下垂体後葉系において合成分泌されるホルモンで,腎集合管における水透過性を高め,自由水再吸収を促進し,体液量と血漿浸透圧の調節を行っている.ADH分泌は血漿浸透圧および循環血液量,血圧により調節され,ADHの評価は,その分泌調節機序をふまえて行う必要がある.
 臨床的には,ADHの測定はその分泌の減少(欠乏)した病態としての尿崩症,および不適切に分泌の亢進しているSIADH(ADH分泌異常症候群)の診断に重要である.近年のradioimmunoassay(RIA)法による高感度ADH測定法の開発で,正常者と尿崩症患者の鑑別が比較的容易になりつつある.またSIADHの診断では,血漿浸透圧が低値であるにもかかわらず,血漿ADHの抑制のみられないこと,脱水のないことが重要である.

甲状腺・副甲状腺

T4/free T4(サイロキシン/フリーサイロキシン)

著者: 竹岡啓子 ,   網野信行

ページ範囲:P.371 - P.373

検査の目的・意義
 サイロキシン(thyroxine:T4)は甲状腺ホルモンであり,甲状腺疾患患者の甲状腺機能を把握する目的で測定され,診断および治療のモニターに用いられている.
 T4は甲状腺の濾胞細胞から分泌され,その大部分は甲状腺ホルモン結合蛋白(thyroxine bindingprotein:TBP)と結合している.正常人ではT4の約0.03%が遊離型T4(free T4:FT4)として存在し,細胞内に移行してT3に転換され,核内T3レプターに結合することによりホルモンとしての生物学的作用を発揮する.T4はTBP濃度の影響を直接うけるが,FT4はTBP濃度に関係なく生体では一定に保持される.したがって,甲状腺機能の判定にはT4よりFT4測定のほうが理想的といえる.

T3/free T3(トリヨードサイロニン/フリートリヨードサイロニン)

著者: 岩谷良則

ページ範囲:P.374 - P.376

目的と意義
 甲状腺機能を知るために測定する.ただし,甲状腺ホルモン1)にはT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)の2種類があり,T4が100%甲状腺でつくられるのに対して,T3は約20%が甲状腺から産生され,残りの約80%が末梢組織でT4からT3へ変換されることによりつくられている.T3はT4に比し速効性で,甲状腺ホルモン作用が強い.さらに,甲状腺ホルモンの大部分は甲状腺ホルモン結合蛋白に結合して血中を循環しているが,実際に末梢で生理作用を発揮しているのは遊離型のホルモンである.したがって,甲状腺機能を正確に把握するためには遊離型甲状腺ホルモン(free T4,free T3)を測定する必要がある,また,free T3はfree T4よりも甲状腺機能亢進状態をより鋭敏に検出する点で有用である.しかし,複雑な甲状腺疾患の病態を正確に把握するには,free T3,free T4,TSHの3項目を必ず同時に測定する必要がある.

TBG(サイロキシン結合グロブリン)

著者: 森祐一 ,   三浦義孝

ページ範囲:P.377 - P.379

 TBG(thyroxine-binding globulin,サイロキシン結合グロブリン)は肝臓で合成され,血中に分泌される分子量54kDa,395個のアミノ酸と4本の糖鎖からなる糖蛋白で,甲状腺ホルモンであるT4,T3の約70%を結合している.遺伝子はX染色体にあって,先天性異常症は伴性遺伝を示す1).男性ではX染色体が1本なので,遺伝子異常は完全に発現されるが,女性では正常と異常遺伝子が半々に発現するため,異常の程度は半減される.

サイログロブリン

著者: 葛谷信明 ,   金澤康徳

ページ範囲:P.380 - P.381

検査の目的・意義
 サイログロブリン(Tg)は,甲状腺濾胞細胞でつくられる分子量66万の糖蛋白である.生合成されたTgは濾胞腔の中へexocytosisによって放出される.この経過中に,ペルオキシダーゼの作用によってTg分子中のチロシン基にヨード分子が結合して,ヨードチロシンやT4やT3が分子中に形成される.コロイド中に蓄えられたTgは,TSHなどの刺激が加わるとendocytosisが起こり,コロイド小滴として濾胞細胞内に再吸収され,リソゾームと融合して,その蛋白分解酵素によって甲状腺ホルモンが分離され血中に分泌される.一部のTgは,加水分解を受けずに血液中に分泌される.ほかに,濾胞細胞間を通ってのリンパ液中や血中への分泌も推定されている.
 血中Tg濃度の測定は,甲状腺にいくつかの疾患や病態が存在することを示す指標として有用である.血中Tg濃度は,TSHやBasedow病にみられる異常甲状腺刺激IgGによって甲状腺が刺激された状態で,分泌亢進により上昇がみられる.

カルシトニン

著者: 廣谷淳 ,   森本茂人 ,   荻原俊男

ページ範囲:P.382 - P.383

検査の目的・意義
 カルシトニン(CT)は32個のアミノ酸よりなるペプチドホルモンで,血中カルシウム低下作用を有し,1,25-ジヒドロキシビタミンD,副甲状腺ホルモンとともにカルシウム代謝調節ホルモンの一つに数えられる.哺乳類においては,主として甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から分泌されているが,その他にも肺,胸腺,消化管内分泌細胞,脳などに免疫活性が見いだされている.
 臨床的に血中カルシトニン値の異常が問題になるのは,甲状腺髄様癌,および異所性カルシトニン産生腫瘍(カルチノイド症候群,肺小細胞癌,神経芽細胞腫など)である.これらの疾患の診断,経渦観察(術後の残存,再発)において血中カルシトニンの測定は重要な意義を持つ.また甲状腺髄様癌を合併しやすい多発性内分泌腺腫症II型を疑う症例,およびその家族の検索の際にも測定が必要となる.他にカルシウム代謝異常,膵炎,慢性腎不全,骨疾患などで異常値を示すことが認められているが,臨床的意義は少ない.

PTH(副甲状腺ホルモン)

著者: 深瀬正晃

ページ範囲:P.384 - P.386

検査の意義・目的
 循環血中の副甲状腺ホルモン(parathyroidhormone:PTH)の測定はカルシウム(Ca)代謝異常疾患の評価に用いられる.血中PTHの測定は,とりわけ原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:1゜HPT)を副甲状腺を介さない高Ca血症,例えば悪性腫瘍,サルコイドーシスや甲状腺中毒症などから鑑別するのに重要である.PTH分子の中間部を認識するM-PTH測定法では,1゜HPTの約95%で血中にPTH値が上昇しており,PTH分子の全配列を認識するintact PTH測定法は,それよりやや劣る.後者では恐らく血中に存在するPTH断片を検出しないこと,副甲状腺から分泌される脈動的intact PTHの分泌により血中PTHの広常上限値が決定しづらいためと考えられる.

PTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)

著者: 佐藤幹二

ページ範囲:P.388 - P.392

 PTHrP(parathyroid hormone-related protein,副甲状腺ホルモン関連蛋白)は悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(malignancy-associated hypercalcemia:MAH)の惹起因子として発見されたoncofetal proteinである.PTHrPは局所的に産生されて,元来paracrine的に作用している.しかし,腫瘍細胞で大量に産生されて血中に漏れ出てきた場合にはendocrine的に作用し,PTH receptorを刺激する結果,高カルシウム血症を惹起するに至る1)
 最近,血中濃度を測定できるほど高感度な測定キットが開発されたおかげで,MAHの鑑別診断は迅速かっ確実になった2,3).しかし,PTHrPは全身いたるところの細胞で産生されており,決して癌細胞の特産物ではない.したがって,その性質をよく知らないと,データの解釈を間違える危険性もある.そこで本稿では,まずPTHrPの一般的性状を述べたあと,各測定キットの特徴,およびその臨床的意義について解説する.

副腎

コルチゾール

著者: 柳瀬敏彦 ,   名和田新

ページ範囲:P.393 - P.395

検査の目的・意義
 副腎皮質機能を知るために行う検査で,原発性(副腎性),続発性(下垂体性または視床下部性)を含めた副腎皮質機能不全症や,コルチゾール過剰症であるCushing症候群の診断,ならびにステロイドホルモンを減量・離脱する際の指標として用いられる.

尿中17OHCS(尿中17ヒドロキシコルチコステロイド)

著者: 直海晶二郎 ,   岩岡大輔 ,   梅田照久

ページ範囲:P.396 - P.397

検査の目的・意義
 尿中17OHCSは,図1に示すように,主に副腎皮質束状層で産生されるデオキシコルチゾール(S)とコルチゾール(F),および肝・腎で11β-デヒドロゲナーゼの作用によりFから変換されるコルチゾン(E)の代謝産物であるテトラヒドロ型(THS,THF,alloTHF,THE)よりなる.尿中遊離Fも測定に含まれるが,尿中総17OHCSの1%未満である.
 一般には,尿中17OHCSはFの分泌量を反映しており,この値は視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能状態により左右され,その系の評価に用いられるが,どの部位の異常かを知るには,表1に示すように,さらに他の検査が必要である.

尿中17KS(尿中17-ケトステロイド)

著者: 岩岡大輔 ,   直海晶二郎 ,   梅田照久

ページ範囲:P.398 - P.399

検査の目的・意義
 17KSはC17位がケト基(-CO)になっているステロイドの総称で,副腎皮質網状層と睾丸(Leydig細胞)で生成され,男性ホルモンの産生分泌状態を示している.副腎アンドロジェンの産生はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の支配を受け,睾丸アンドロジェンはLH(黄体ホルモン)の支配を受けている.17KSに含まれるホルモンとしては,androsterone(An),ethiocholanolone(Et),dehydroepiandrosterone(DHEA),11-OH-An,11-OH-Et,11-keto-Etなどがある.An,Etは主として副腎アンドロジェンのDHEAやDHEA-Sが,また一部は睾丸より分泌されたtestosteroneが,いずれも肝で代謝されたものである.成人男性では2/3が副腎由来,1/3は睾丸由来であり,成人女性や小児ではすべてが副腎由来である.血中17KSには,An,Et,DHEAがあり,それぞれRIAで測定されるが,血中総17KSとして測定されることはなく,臨床で使われるのは尿中17KSである.

アルドステロン

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.400 - P.401

検査の目的・意義
 原発性アルドステロン症などの高血圧性諸疾患,Bartter症候群,Liddle症候群,17α-水酸化酵素欠損症や11β-水酸化酵素欠損症といった副腎皮質酵素欠損症,および選択的低アルドステロン症などにみられるような血清Kの異常症,さらに浮腫疾患などの鑑別診断に際して欠かすことができない検査である.
 アルドステロン測定の検体としては,血液と尿の両者が用いられるが,検体処理が簡単であり,少量の検体で正しい測定が可能な血漿あるいは血清を用いてアルドステロン測定が行われることが多い.

血中・尿中カテコールアミン

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.402 - P.403

検査の目的・意義
 カテコールアミンとしてアドレナリン,ノルアドレナリン,ドーパミンの3分画が測定される.アドレナリンは副腎髄質より分泌され,血中を流れて各効果器官に作用を及ぼすので循環ホルモンである.ノルアドレナリンは大部分が交感神経からのもので,副腎由来のものがわずかに(2〜3%)加わる.アドレナリンとノルアドレナリンはα,β-受容体への刺激効力が異なるので,アドレナリンは心臓賦活作用,糖や脂質に及ぼす作用が強く,一方,ノルアドレナリンは血圧上昇作用が著明である.ドーパミンはノルアドレナリン,アドレナリンの前駆物質であるとともに,それ自体中枢神経系,腎循環系などに作用を及ぼす.
 副腎髄質や交感神経終末から分泌されたカテコールアミンは,各作用臓器に取り込まれ作用を発揮したのち,代謝され尿中に代謝産物が排泄される.すなわちアドレナリン,ノルアドレナリンそのまま,メタアドレナリン,ノルメタアドレナリン,VMA,MHPG(MOPEG),DOPEG,DOMAなどである.この中で検査としては尿中アドレナリン,ノルアドレナリン,メタアドレナリン,VMAがよく測定されている.

尿中メタネフリン

著者: 西村眞人 ,   中西正 ,   吉村學

ページ範囲:P.404 - P.405

検査の目的・意義
 メタネフリンおよびノルメタネフリンは,カテコールアミンの中間代謝物であるが,その尿中排泄量は内因性アドレナリン,ノルアドレナリンの産生・分泌状態を示す安定した指標であり,尿中カテコールアミン,バニリルマンデル酸(VMA)と同様に,褐色細胞腫,交感神経芽細胞腫の診断,ならびに治療効果の判定・経過観察に有用である.

尿中VMA(尿中バニリルマンデル酸)

著者: 中西正 ,   西村眞人 ,   吉村學

ページ範囲:P.406 - P.407

検査の目的・意義
 バニリルマンデル酸(vanillyl mandelic acid:VMA)はカテコールアミン(CA),特にノルアドレナリン(NA)およびアドレナリン(A)の最終代謝産物で,尿中に排泄され,比較的安定な物質で測定が容易である,CA産生腫瘍(褐色細胞腫や交感神経芽細胞腫)の診断と治療効果の判定,さらには再発の有無を知るうえで検査上有用である.

性腺

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)

著者: 斉藤英和 ,   斉藤隆和 ,   広井正彦

ページ範囲:P.408 - P.410

検査の目的・意義
 hCG(human chorionic gonadotropin,ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は分子量37,000の糖蛋白ホルモンであり,分子量約14,000のα-subunitと分子量23,000のβ-subunitから成っている.α-subunitは,LH,FSH,TSHのα-subunitと極めて類似している.また,β-subunitは各ホルモンに固有の構造を持ち,特異性を有している.しかし,hCGとLHではβ-subunitについても相同性が高く,わずかhCG-βのC末端から30個のアミノ酸残基(β-subunit carboxyl terminal peptide:β-CTP)だけが,hCGの免疫学的特異性を有している.
 このhCGまたはsubunit測定の目的は,①妊娠の早期診断,②流産の治療指針,③子宮外妊娠の補助診断,化学療法の治療効果判定,④絨毛性疾患の診断,治療効果判定,follow up,⑤異所性hCG産生腫瘍の腫瘍マーカーとが考えられる.

エストロゲン

著者: 神崎秀陽 ,   高倉賢二 ,   森崇英

ページ範囲:P.411 - P.413

検査の目的・意義
 血中エストロゲン測定は,産婦人科領域では主にエストラジオール値が卵巣機能の評価に用いられ,性成熟婦人においては卵胞発育の機能的指標として,経腟超音波断層法による卵胞径の測定とともに不妊症診療の際のルーチン検査の一つとなっている(表1).排卵障害や体外受精・胚移植症例に対する排卵誘発療法の際に問題となる卵巣過剰刺激症候群の診断にも有用である.また,不妊症診療に限らず,思春期や更年期・閉経期婦人における卵巣機能の評価にも重要な検査である.GnRHアゴニスト投与によりmedical castration療法施行中の子宮内膜症や子宮筋腫症例では薬剤効果の判定に有用である.稀にはエストロゲン産生腫瘍や肝機能異常などのように男性でも上昇する場合がある.妊娠時には胎盤で大量に産生され胎盤機能の指標となる.尿中エストロゲンも胎盤機能や卵胞発育の指標として測定されるが,これについては次項を参照されたい.

尿中エストラジオール/エストリオール

著者: 野田洋一 ,   廣瀬雅哉

ページ範囲:P.414 - P.415

検査の目的・意義
 尿を検体としてホルモンを測定する意義は,ホルモンの1日の総活動量を測定できることと,その簡便さにある.通常,尿中エストラジオール(u-E2)の測定は,非妊娠時の卵巣機能低下症やエストロゲン産生腫瘍の診断,卵胞成熟の評価に,尿中エストリオール(u-E3)は,妊娠中の胎児胎盤機能の評価に用いられる.結果の評価にあたっては,エストロゲンは性差,年齢,性周期,脂肪量,妊娠(週数)などの生理的条件により変動するため,その対象にとって過剰なのか,不足なのかを判断する必要がある.

プロゲステロン

著者: 藤原敏博 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.416 - P.417

検査の目的・意義
 女性においてプロゲステロン(P4)は,黄体あるいは胎盤から生成・分泌され,その測定により黄体機能と胎盤機能を知ることが可能となる.男性では,P4は副腎皮質や精巣組織内で生成されるが,その血中値は低値をとるに過ぎず,検査値としての意義は低い.

テストステロン

著者: 野々村祝夫 ,   奥山明彦

ページ範囲:P.418 - P.419

テストステロンの産生とその調節
 テストステロン(testosterone:T)は男性ホルモンの代表であり,男性ではそのほとんどが精巣のLeydig細胞で産生される.成人男性では1日平均4〜9mg分泌されるが,血中ではその98%がアルブミンやグロブリン,さらにステロイド結合蛋白(sex-steroid binding protein)と結合した状態で存在する.標的臓器ホルモン作用を持つ遊離Tは血中全Tのわずか2%程度にすぎない.遊離Tは,標的細胞内で5α-reductaseにより5a-dihydrotestosterone(DHT)に還元された後,受容体と結合して作用を発現する.ただし,胎児のWolff管においては,5α-reductase活性が低いためT自体が受容体に結合する.Leydig細胞におけるTの産生は,下垂体前葉より分泌されるゴナドトロピン(luteinizing hormone:LH),および視床下部より分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(LH-releasing hormone:LH-RH)を介する間脳-下垂体-精巣系のフィードバック機構により調節されている1,2)

その他のホルモン

ガストリン

著者: 谷礼夫

ページ範囲:P.420 - P.421

検査の目的・意義
 ガストリンは,主として胃の幽門前庭部粘膜に分布するG細胞と呼ばれる内分泌細胞(図1)から分泌される消化管ホルモンで,主な作用は胃の体部腺にある壁細胞から胃酸を分泌させる作用である.G細胞は胃の内腔側に微絨毛を持っていて,この部で刺激を感受して基底側から血中にガストリンを放出する.
 通常,血中ガストリンが高まれば胃酸分泌も増加する.その典型例がガストリン産生腫瘍(gastrinoma,膵臓の非βランゲルハンス島細胞から生ずる)によって起こるZollinger-Ellison症候群(高ガストリン血症・胃酸分泌亢進・難治性消化性潰瘍を特徴とする.以下Z-E症候群と略す)1)である.しかし,ガストリンの分泌にはフィードバック機構が存在するので,逆の関係の場合もある.すなわち,胃酸分泌がある程度以上高まると,それにブレーキをかけるようにガストリン分泌は低下し,また胃酸分泌が低下している状態では血中ガストリン値は上昇する.このフィードバック機構はG細胞の微絨毛が胃内pHを感受することによる.血中ガストリン値の測定は,胃酸分泌と関連づけて意義づけされるべきものである.

レニン

著者: 檜垣實男 ,   荻原俊男

ページ範囲:P.423 - P.424

検査の目的・意義
 レニン-アンジオテンシン系は,体液を保持し,血圧を維持するシステムである.本系の律速酵素はレニンであり,血漿レニン活性(plasma reninactivity:PRA)の亢進により体内でNa貯留と末梢血管の収縮をきたす.したがって,PRA測定の意義は,①異常な亢進または抑制が二次性高血圧症の診断に役立つ,②高血圧以外の電解質代謝異常症の診断に役立つ,③本態性高血圧症の病態に応じた降圧薬の選択の助けとなる,④循環血液量の欠乏(脱水)と過剰(溢水)の目安となる,⑤高PRA血症は心筋梗塞の危険因子であることから予後予測に参考となる,などである.

ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)

著者: 高橋伯夫

ページ範囲:P.426 - P.427

検査の目的・意義
 流血中の心房性ナトリウム利尿ホルモン(α-ANP)は28個のアミノ酸からなるペプチドで,ほとんどは心房に局在している.その他では低濃度ながら脳,副腎,顎下腺,甲状腺などにも存在するが,流血中のα-ANPは心臓由来で,含量は少ないが産生されてそのまま放出(constitutive)される心室由来のものも心房と並んで多いものとされている.特に心不全や心肥大に伴う病態では心室でのANP遺伝子発現が亢進することから,心室由来のα-ANPはより多くなると考えられる.
 他方,ANPと高い相同性を示すBNPが脳より抽出されたが,その後の研究ではANPと同様に心臓にも高濃度で存在し,ANPと同一の作用を発揮し,ANPと同時に分泌されることが明らかになった.流血中の濃度はANPの数%程度の低濃度であるが,心不全などの病態ではANPに比較してより高濃度になることから,今後はANP以上に病態診断に活用できる可能性がある.

cAMP(環状アデノシン一リン酸)

著者: 竹田秀 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.428 - P.429

検査の目的・意義
 cAMPは,多くのペプチドホルモンの細胞内情報伝達にかかわる二次メッセンジャーとして,重要な役割を担っている.腎尿細管に作用し,細胞内cAMPを上昇させるホルモンとしては,副甲状腺ホルモン(PTH),グルカゴン,カテコールアミン,抗利尿ホルモンなどがあげられる.このうちPTHは,近位および遠位尿細管細胞に作用し,cAMP産生を高めると同時に尿中排泄も増加させる.
 一方,他のホルモンは尿細管細胞内cAMP濃度を上昇させるが,尿中排泄はほとんど増加させない.しかし,多くのホルモンが血中cAMP濃度を増加させる.

IGF-I(ソマトメジンC)

著者: 肥塚直美 ,   高野加寿恵

ページ範囲:P.430 - P.431

 ソマトメジンC(インスリン様成長因子-I:IGF-I)は種々の組織で産生され,成長促進作用,インスリン様作用,細胞の増殖・分化の促進など多様な作用を有するペプタイドである.この血中IGF-Iの主なsourceは肝臓であり,肝では成長ホルモン(GH)依存性にIGF-Iが産生される.

オステオカルシン

著者: 塩井淳 ,   西沢良記

ページ範囲:P.432 - P.433

検査の目的・意義
 オステオカルシン(OC)は骨基質内に存在する主要な非コラーゲン性蛋白の一つで,骨芽細胞により特異的に合成・分泌されるため,骨芽細胞機能(骨形成)を反映すると考えられている.血中に存在するOCは,骨芽細胞に直接由来するintactOCと,骨基質に沈着した後に破骨細胞による骨吸収に伴って遊離してくるOC fragmentsとからなっている(図1).後述するように,個々のOCの測定系はintact OCのみを測定しているか,あるいは両者を測定しているかによりその臨床的意義は異なる.すなわち,血中intact OCは骨形成の程度を,血中total OCは骨吸収を含めた骨代謝回転の状態を反映する.

負荷試験

TRHテスト

著者: 小林功

ページ範囲:P.434 - P.435

検査の目的・意義
 下垂体TSH産生細胞にターゲットをもつ視床下部ホルモン,サイロトロピン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)を用いるTRHテストは,従来,下垂体-甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌予備能を知るための負荷試験として広く用いられてきた1).またTRH投与により,血中プロラクチン(PRL)も増加することから,PRL分泌機能検査法としても定着した感があったのは確かである.しかし,TSHの高感度測定法が開発されるに及び,特殊な例を除いて,その臨床的有用性は失われつつある2)

LH-RHテスト

著者: 三宅侃 ,   田坂慶一 ,   田所千加枝

ページ範囲:P.436 - P.437

 検査の目的・意義
 LH-RH(luteinizing hormone-releasing hormone,gonadotropin releasing hormone:GnRH,ゴナドトロピン放出ホルモン)は,視床下部から分泌されるアミノ酸10個からなるペプチッドホルモンで,下垂体門脈を経由し,下垂体にある受容体(レセプター)に結合して,下垂体内でのゴナドトロピンであるLH,FSHの産生・分泌を調節している.
 LH-RHテストは,合成したLH-RHを1回投与して,下垂体から放出されるゴナドトロピンを測定し,その増加する量により下垂体のゴナドトロピン産生能力を知るために行われる.ただし,下垂体のこの機能は,下垂体自体のみならず,これを制御している視床下部の機能にも関連しているので,LH-RHテストは,視床下部のLH-RH(GnRH)分泌能力をも合わせた検査である.

GH-RHテスト

著者: 板東浩 ,   斎藤史郎

ページ範囲:P.438 - P.439

検査の目的・意義
 GH-RH(growth hormone-releasing hormone,成長ホルモン放出ホルモン)テストは,下垂体の成長ホルモン(growth hormone:GH)分泌機能検査法の一つである.視床下部ホルモンであるGH-RHは,正常人では下垂体前葉のGH分泌細胞(somatotroph)を刺激して,GHを分泌させる.したがって,GH-RH注射薬を静注して血漿GH濃度の変化を測定すれば,下垂体のGH分泌機能を判定することが可能である.対象となる疾患は,正常低身長者,ヒトGH分泌不全性低身長症(下垂体性小人症),下垂体機能低下症,Tumer症候群,その他の視床下部・下垂体疾患などである.

CRHテスト(コルチコトロピン放出ホルモンテスト)

著者: 芝崎保 ,   鈴木眞理 ,   出村博

ページ範囲:P.440 - P.441

検査の目的・意義
 CRH(corticotropin-releasing hormone)は下垂体のACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌細胞に作用し,ACTHの分泌・合成を刺激する視床下部ホルモンである.したがって,本テストを行い血漿ACTHとコルチゾールの反応を測定することは,副腎機能不全あるいは副腎機能亢進症の臨床症状を示す患者の障害部位の特定や,下垂体ACTH分泌細胞の機能の評価に役立つ.

Ellsworth-Howardテスト

著者: 塩井淳 ,   西沢良記

ページ範囲:P.442 - P.444

検査の目的・意義
 基本的には,副甲状腺ホルモン(PTH)の腎作用を調べる目的で行われるPTH負荷試験で,尿中リン酸およびcAMPを測定する.臨床的には,偽性副甲状腺機能低下症の診断の目的で行われる.特発性副甲状腺機能低下症と偽性副甲状腺機能低下症の鑑別に有用な検査である.

デキサメサゾン抑制試験

著者: 佐藤文三

ページ範囲:P.445 - P.447

検査の目的・意義
 副腎皮質から分泌される代表的ホルモンであるコルチゾールの合成は,生理的には下垂体から分泌されるACTH(副腎皮質ホルモン)に依存している.このACTHの分泌は,脳からの種々の刺激と血中のグルココルチコイド濃度を介したフィードバック機構により制御されている.それゆえ,外因性に薬理量のグルココルチコイドを投与すると,フィードバック機構が作動し,ACTH分泌抑制と血中コルチゾール値の低下が生じる.このフィードバック機構を利用して,ACTH過剰症の病態を鑑別することを目的にして行われるのがデキサメサゾン(Dex)抑制試験である.この古典的な目的以外にも,脳機能の指標やグルココルチコイドに対する標的細胞の感受性の指標としても本試験が行われている.それゆえ,本試験の対象となる疾患は,ACTH過剰症のみならず,うつ病などの精神科領域の疾患,脳卒中,グルココルチコイド不応症なども含まれることになる.

腫瘍マーカー 消化器系

AFP(α-フェトプロテイン)

著者: 遠藤康夫

ページ範囲:P.450 - P.451

検査の意義・目的
 胎生期の生理的血清蛋白であるAFP(α-フェトプロテイン)は,出生後はその産生が停止しており,健康成人・小児の血中AFP値は10ng/ml以下である.しかしながら,肝細胞癌,肝芽腫,ヨークザック(yolk sac)腫瘍などの際には,その産生が再開されるために血中AFPの増加が認められるようになる.これを指標に,これらの疾患の診断,病状経過の推移,治療効果の判定などが行われる.また,肝細胞癌発生の高危険度群と考えられているHBs抗原陽性あるいはHCV抗体陽性の肝硬変患者について,画像診断と併用して定期的に測定してゆくことにより,肝細胞癌の早期発見が可能となってきている.
 最近のAFP糖鎖の研究から,ヨークザック腫瘍,肝細胞癌および良性肝疾患などの際に出現するAFPの糖鎖に差のあることがわかってきている.レンズマメ・レクチン(LCA)あるいはインゲンマメ・レクチン(PHA-E4)を用いてAFPとレクチンの結合性を分析すると,肝硬変と肝細胞癌のAFP糖鎖に差が認められ,肝細胞癌の早期発見,予知に役立つことが報告されてきている.

CEA(癌胎児性抗原)

著者: 黒木政秀

ページ範囲:P.452 - P.454

検査の目的・意義
 CEA(carcinoembryonic antigen)は,本来消化器系の癌に特異的な腫瘍マーカーとして報告された物質であるが,その後各種の癌で産生されることが明らかになった.しかも,他の腫瘍マーカーと同様,早期癌における陽性率は低く,癌の診断に単独で利用するには無理がある.したがって,現時点での血清学的な意義は,次のようにまとめることができる1,2)

CA 19-9

著者: 大倉久直

ページ範囲:P.456 - P.457

検査の目的・意義
 膵・胆道系および消化管癌の腫瘍マーカーとして,これらの癌が疑われる症例に補助診断法の一つとして用いられる.肝・胆・膵および婦人科の良性疾患に偽陽性は多いが,消化器癌での産生量が多く,AFP,CEAに次ぐ有用な腫瘍マーカーである.CA 19-9陽性癌では,血清値の変動が臨床経過のモニターに利用される.
 日本人の約10%はLewis陰性者で,I型糖鎖からLea糖鎖がつくれず,sialyl Lewisa糖鎖もつくれない.

CA 50

著者: 川茂幸 ,   床尾万寿雄 ,   小口寿夫

ページ範囲:P.458 - P.459

検査の目的・意義
 CA 50は,Lindholm1)により開発されたC50モノクローナル抗体によって認識される糖鎖抗原で,Nilsson2)によりsialyl Lewisaとsialyl Lewiscと同定された.sialyl Lewisaはよく知られているCA 19-9である.sialyl Lewiscはsialyl Lewisaの前駆体であり,フコースが結合することによりsialyl Lewisaに転換される(図1).また,このフコース転換酵素は,Lewis式血液型が陰性の症例では,欠落もしくは活性が非常に低いためCA19-9を合成できず,sialyl Lewiscが血中に蓄積することになる.したがって,CA50はLewis陰性の悪性疾患でも診断的有用性が認められるマーカーと認識されてきた.しかし,C50抗体はsialylLewisaに対する反応性がはるかに強く2),したがってCA 50は大部分がsialyl Lewisaであり,一部にsialyl Lewiscを含むとするのが正しい.

KMO 1

著者: 堀裕一 ,   大柳治正

ページ範囲:P.460 - P.461

検査の目的・意義
 腫瘍マーカーの一つで,膵癌,胆嚢・胆管癌,肝癌患者血清において高率に陽性を呈する.

SPan-1

著者: 佐竹克介

ページ範囲:P.462 - P.463

検査の目的・意義
 ヒト膵癌培養株SW1990を用いて作製されたモノクローナル抗体が認識する癌関連抗原である.この抗原は膵癌細胞の膜構成成分であるとともに,強い分泌性の性格を有している.そのエピトープの詳細な糖鎖構造は不明である.本抗原は正常膵の膵管上皮と腺房細胞の一部に軽度に認められるが,ラ島細胞には認められていない.その他,胆管上皮,腎細尿管上皮,気管上皮にも軽度に認められるが,十二指腸,食道,副腎,心,肺,肝などには認められていない.
 悪性疾患での局在をみると,膵癌で最も高い陽性率を認め,次いで胆道癌,胆嚢癌にも高い陽性率がみられる.他の消化器癌(胃癌,大腸癌)や乳癌でもその局在がみられる.

シアリルSSEA-1

著者: 神奈木玲児

ページ範囲:P.464 - P.465

検査の目的・意義
 シアリルSSEA-1抗原は,SSEA-1抗原の類縁抗原の一つであり,その名称の示すごとく,シアル酸によって修飾されたSSEA-1抗原である.SSEA-1抗原は,はじめマウスの着床前の初期胚に発見された抗原であり,胚発生の一定の時期に特異的に出現するため,stage-specific embryonicantigen-1(発育時期に特異的な胎児性抗原の第1号)と名づけられた.SSEA-1系統の抗原は胎児性の糖鎖抗原であり,そのため癌細胞に高頻度に出現すると考えられている.本抗原の本体は,末端にシアリルLexハプテンの構造を有する一連の糖鎖抗原である.

NCC-ST-439

著者: 大倉久直

ページ範囲:P.466 - P.467

検査の目的・意義
 NCC-ST-439とは,渡辺らが胃癌をヌードマウスに継代して作製したモノクローナル抗体の認識するシアル化糖鎖の腫瘍マーカーであり,胃癌のほか乳癌,大腸癌,膵癌,胆道癌などで産生される.血清中NCC-ST-439の測定が,これらの癌の診断補助と治療経過のモニターに利用される.乳癌の中でNCC-ST-439だけを産生するものは比較的進行が遅く,術後予後の良いものが多い.
 肝疾患,閉塞性黄疸,炎症などに影響されず,比較的偽陽性が少ないので,陽性症例では血清レベルの変動が癌の動向と相関する.他のマーカーの値が不確かな場合に併用したい検査である.

DU-PAN-2

著者: 山川治 ,   里村吉威 ,   澤武紀雄

ページ範囲:P.468 - P.470

検査の目的・意義
 癌関連抗原の一つであるDU-PAN-2抗原は,Metzgarら1)により,ヒト膵腺癌培養細胞HPAF-1を免疫原として作製された一連のモノクローナル抗体(DU-PAN-1〜5)のうちIgM型抗体であるDU-PAN-2にて認識される糖蛋白抗原であり(そのエピトープはsialyl Lewiscであるという報告もある),ヒト腺癌組織に高率に発現している2)ことが知られている.Metzgarら3)は,このモノクローナル抗体を用いたRIA法にて,膵癌患者血清中に高率にDU-PAN-2抗原が検出されることを示し,筆者ら4)も同様の方法を用いての検討で,膵・胆道癌を中心とした腺癌に対して有力なマーカーであることを報告した.
 現在,検査室などにても簡便に測定を行い得るELISAキット5)が発売されており,膵・胆道癌を中心とした消化器系の腺癌の腫瘍マーカーとして広く普及している.

PIVKA-II

著者: 藤山重俊

ページ範囲:P.471 - P.473

検査の目的・意義
 PIVKA-II(protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)は,肝細胞癌(HCC)に高い特異性を示す腫瘍マーカーで,α-fetoprotein(AFP)とは互いに相補的な関係にある.したがって,各種画像診断とともにAFP,PIVKA-II両マーカーの推移をみることは,HCCの診断はもちろん,治療効果判定,再発の診断,再治療のタイミングや生命予後予測の指標として極めて有用である.

BFP(塩基性フェトプロテイン)

著者: 石井勝 ,   清野祐子

ページ範囲:P.474 - P.475

検査の目的・意義
 BFP(basic fetoprotein,塩基性フェトプロテイン)は,石井1)がヒト胎児に見いだした分子量55,000,等電点8.5〜9.2の塩基性のがん関連胎児蛋白である.血清BFPは,消化器癌,泌尿生殖器癌の腫瘍マーカーとして役立つ2).他方,尿BFPが膀胱癌などの尿路上皮癌の優れた腫瘍マーカーとして役立つことが最近判明した3)

YH-206抗原

著者: 今井浩三 ,   日野田裕治

ページ範囲:P.476 - P.477

検査の目的・意義
 YH-206抗原は,肺腺癌細胞株A-549を免疫原として作製されたモノクローナル抗体YH-206(IgM)によって検出される分子量の極めて大きなムチン抗原1,2)である.抗原決定基はノイラミダーゼ抵抗性である点,これまで実用化されてきた他のムチン抗原(CA 19-9,CA 125,CA 50など)とは異なり,またX,Yハプテン,T抗原などの血液型糖鎖とも異なっている.
 ムチン抗原であることから予想されるように,腺癌での発現率が高く3),これまで検索した限りでは,胃癌および膵癌の血中腫瘍マーカーとして有用である.

呼吸器系

NSE(神経細胞特異的エノラーゼ)

著者: 有吉寛 ,   桑原正喜

ページ範囲:P.478 - P.479

 解糖系酵素エノラーゼは3種類のサブユニットα,β,γのうち2つからなる二量体酵素であり,γサブユニットを有するγγおよびαγは,神経組織に特異的に局在するとしてneuron-specific enolase(NSE)と命名されている.
 NSEは正常組織では中枢または末梢神経組織に多量存在し,組織特異性を示すが,その他,下垂体,甲状腺,副腎髄質,膵臓,肺,腸管などに分布する神経内分泌細胞にも存在する.そして,それら細胞由来の腫瘍,あるいは神経内分泌腫瘍と類似性格を有する腫瘍にも多量に含有される.血清腫瘍マーカーとしてのNSEはそれら腫瘍から血清中に逸脱・増量したものである.

サイトケラチン19フラグメント

著者: 石井勝 ,   清野祐子

ページ範囲:P.481 - P.482

検査の目的・意義
 サイトケラチン19は,主に単一上皮細胞の細胞骨格を構成する分子量40,000,等電点5.2の線維性の蛋白質である.近年,このサイトケラチン19が肺癌組織で発現し,さらにそのサイトケラチン19フラグメント(以下,CK 19 F)が肺癌患者の血中に増加する知見が報告1,2)された.サイトケラチン19のドメイン2ペプタイドのN末端とC末端フラグメントを特異的に認識するマウスモノクローナル抗体が,ヒト乳癌培養細胞株MCF 7を免疫原として作製され,この2種類の抗体(KS19.1抗体とBM 19.21抗体)を用いたIRMA(immunoradiometric assay)キット(セントコア社製)が開発された.この2種類の抗体で検出されるCK19Fはシフラ21-1(CYFRA21-1)と呼ばれる.このCK 19F(以下シフラ)は肺癌,とりわけ肺扁平上皮癌の新しい腫瘍マーカーとしての高い評価が,本邦で筆者ら3)により報告された.

乳腺・婦人科系

CA 125

著者: 高松潔 ,   宇田川康博 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.483 - P.485

CA 125とは
 CA 125(carbohydrate antigen 125)は,1981年,Bastら1)がヒト卵巣漿液性嚢胞腺癌細胞株を免疫原として作製したモノクローナル抗体OC 125により認識される糖蛋白上の抗原決定基である.いわゆる糖鎖抗原系の腫瘍マーカーの一つであるコア蛋白関連抗原として,悪性卵巣腫瘍,特に表層上皮性卵巣癌で高い陽性率を示す.現在では卵巣癌,卵管癌など婦人科悪性腫瘍の診断や治療効果の指標として汎用されているほか,消化器癌のマーカーとしても用いられることがある.

CA 72-4

著者: 大内憲明

ページ範囲:P.486 - P.487

検査の目的・意義
 CA 72-4は,乳癌肝転移巣の細胞膜を免疫原として作製した単クローン抗体B72.3と,結腸癌培養細胞LS 174 Tを免疫原として作製した単クローン抗体CC 49により認識される,TAG-72抗原を検出するRIA測定系である1)
 TAG-72抗原は胃癌,結腸・直腸癌,卵巣癌,乳癌などの腺癌細胞の膜表面に広く発現する腫瘍関連抗原で,糖鎖エピトープであるシアリルTnが蛋白骨格とO-linkedに結合したムチン型糖蛋白である.分泌期の子宮内膜を除けば,正常上皮ではほとんど有意な発現を認めない.したがって,血清中のTAG-72抗原を検出するCA 72-4アッセイ系は,上皮性悪性疾患の病態の進展を示す腫瘍マーカーとしての意義をもつ2)

CA 15-3

著者: 稲治英生 ,   小山博記

ページ範囲:P.488 - P.489

検査の目的・意義
 1980年代前半の相次ぐ糖鎖抗原ラッシュの中で登場したCA 15-3は,代表的な乳癌腫瘍マーカーである.一般に,臨床医が腫瘍マーカーに求めるものは,①原発癌のスクリーニングや鑑別診断よりも,②術後のモニタリングや再発後治療効果判定の指標としての意義であろう.体表臓器に発生し,再発後も長期生存を望み得る乳癌にとっては,ことさら②の占めるウェイトが大きい.なぜならば,肺・骨・肝など多岐にわたる転移巣の診断をすべて画像診断に委ねるのは負担が大きすぎ,また骨転移のように画像のみでの効果判定が困難な場合,管理の指標としてCA 15-3が威力を発揮するからである.

SCC抗原

著者: 加藤紘

ページ範囲:P.490 - P.491

検査の目的・意義
 SCC抗原は扁平上皮癌の腫瘍マーカーである.扁平上皮癌には婦人科系領域の子宮頸癌,腔癌,外陰癌をはじめ,頭頸部癌,口腔癌,食道癌,肛門癌,肺癌,皮膚癌などがあるが,SCC抗原はこれら各扁平上皮癌の診断,腫瘍の進展度,予後,治療効果の評価,再発のモニターに利用できる.
 また,最近は乾癬や天疱瘡などの特殊な皮膚疾患でもSCC抗原が増加することが明らかになった.これらは本来偽陽性として取り扱われるべきものであるが,天疱瘡などは現在なお治療が困難な難病であり,その病状追跡の指標としてのSCC抗原の意義が注目されつつある.

エストロゲン/プロゲステロンレセプター

著者: 稲治英生 ,   小山博記

ページ範囲:P.492 - P.493

検査の目的・意義
 乳癌は性ホルモン依存性腫瘍の一つであり,その増殖にはエストロゲンとプロゲステロンが関与している.したがって,乳癌のエストロゲンレセプター(ER)およびプロゲステロンレセプター(PgR)の測定は,再発時の内分泌療法の適応決定および効果予測や,術後補助内分泌療法の選択基準に必須の情報を提供してくれるのみならず,ERは乳癌の予後因子としても重要視されている.

泌尿器系

γ-Sm(γ-セミノプロテイン)

著者: 松岡啓

ページ範囲:P.494 - P.495

検査の目的・意義
 γ-Sm(γ-seminoprotein)は,前立腺腺上皮と分泌液中のみに存在する臓器特異抗原である.前立腺癌患者の血清γ-Smが異常高値をとることより,腫瘍マーカーとして前立腺癌の診断や経過観察に用いられている.

PSA(前立腺特異抗原)

著者: 栗山学

ページ範囲:P.496 - P.497

検査の目的・意義
 前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSAまたはPA)は,prostatic acid phosphatase(PAP)以外の前立腺癌腫瘍マーカーを見いだす努力の成果として,1979年,米国Roswell Park Memorial InstituteのWang MCらによって分離・精製されたものである.PSAは分子量33,000〜34,000の糖蛋白であり,前立腺組織特異蛋白であることは,種々の検討結果から明らかである.また,その生物学的機能は一種のプロテアーゼであることも判明している.
 PSAは癌特異蛋白ではなく,組織特異抗原であるため一定の限界を有しているが,前項のγ-Smと同様に,前立腺癌患者のスクリーニング,診断,経過観察に際して測定するのが一般的である.なお米国においては,前立腺癌患者数の多いこともあいまって,最も測定される頻度の高い腫瘍マーカーである.

PAP(前立腺性酸性ホスファターゼ)

著者: 守殿貞夫 ,   後藤章暢

ページ範囲:P.498 - P.499

 ACP(acid phosphatase,酸性ホスファターゼ)は1924年に発見され,1936年,Gutmanらにより前立腺癌とのかかわりが報告されて以来,前立腺癌の診断,臨床病期の分類,治療経過のマーカーとして利用されてきた.しかし,ACPは特異性や測定感度に多くの問題点があった.
 しかしながら,1964年にはSchulmanらにより,ACP中の前立腺性酸性ホスファターゼ(prostatic acid phosphatase:PAP)に対する抗血清が作製され,PAPの免疫学的測定方法が開発された.また,1974年にはCooperによりradioimmunoassay(RIA)が開発され,ほかにも種々のPAP測定法がある1)

その他の腫瘍マーカー

パピローマウイルスDNA

著者: 中島孝 ,   福田利夫 ,   佐野孝昭

ページ範囲:P.500 - P.502

検査の目的・意義
 ヒトパピローマウイルス(HPV)は,これまで疣贅や尖圭コンジローマなどの原因ウイルスとして知られてきた.しかし,1970年代後半に至り,ヒト癌,特に疣贅状表皮発育異常症に発生する皮膚癌や子宮頸癌にHPV-DNAの存在が明らかになり,にわかに注目されるに至った.これまでに,皮膚や粘膜の良性過形成疾患,子宮頸部発癌過程にHPVが関連することが知られ,HPV検査が疾患の正確な診断に有用であり,さらに子宮頸部前癌病変などではHPVサブタイプとその病態が密接に関連しており,治療方針などの決定に有用であることが知られるようになってきた.

免疫学的検査 免疫グロブリンその他

免疫グロブリン(IgG/IgA/IgM)

著者: 河野均也

ページ範囲:P.504 - P.506

検査の目的・意義
 免疫グロブリン(Igs)は,抗原刺激を受けたB細胞系細胞が分化・成熟して産生する血漿蛋白成分であり,IgG,IgA,IgM,IgDおよびIgEの5つのクラスに分類され,それぞれ抗体としての活性を持つ.したがって,Igsの量的あるいは質的な異常をとらえれば,免疫機構の全体的な機能異常を知る手がかりが得られることになる.特に原発性あるいは続発性の免疫不全症では,すべてのクラスあるいは特定のクラスのIgsの著しい減少ないし欠如を示すことが多く,逆に慢性肝疾患や慢性感染症,悪性腫瘍,あるいは自己免疫性疾患では多クローン性の増加を伴うことが多い.したがって,Igsの測定はこれらの疾患の補助診断に利用されている.また,単一クローン性のIgs増加(M蛋白)は多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症で証明され,診断的価値が高い.

クリオグロブリン

著者: 大谷英樹

ページ範囲:P.507 - P.509

 クリオグロブリン(cryoglobulin)とは,血清を低温(4℃)に保存すると白色沈澱またはゲル化し,37℃に温めると再溶解する病的免疫グロブリン(M蛋白),あるいは免疫複合体の一種である.

パイログロブリン

著者: 大谷英樹

ページ範囲:P.510 - P.511

 パイログロブリン(pyroglobulin)とは,血清を56〜60℃に加温すると白濁凝固,あるいはゲル化する病的免疫グロブリンのことである.この蛋白はBence Jones蛋白とは異なり,100℃の加熱により再溶解せず,また冷却しても再溶解しない非可逆的な性質を示す.本邦では現在までに30例以下の報告にすぎず,非常に稀な現象である.

Bence Jones蛋白

著者: 中野栄二

ページ範囲:P.512 - P.513

検査の目的・意義
 悪性腫瘍のマーカーとしては尿中Bence Jones蛋白(以下,BJPと略)が最も古くから知られており,多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)のマーカーとして知られている異常蛋白である.BJPの化学的構造は免疫グロブリンのフラグメントであり,free light chain(L鎖)である.正常免疫グロブリンはheavy chain(H鎖)とL鎖から構成されており,L鎖にはκ鎖とλ鎖の2種類が存在する.BJPはいずれか一方のみの型であり,しかも単一クローン性であることが特徴で,健常者には存在しない.
 H鎖とL鎖は形質細胞内の異なるリボゾームで合成され,それぞれの2対から構成されてから分泌される.正常ではH鎖とL鎖が同量合成されているが,BJPはL鎖のみが腫瘍性に過剰産生されたものである.したがって単一クローン性であり,L鎖もいずれか一方のみの型で存在するのである.L鎖は分子量が約22,000であるが,BJPはほとんどがdimer(二量体)として合成・分泌され,正常な血清蛋白よりも分子量が小さく,尿中に漏出されてしまい,血清中では検出しにくい.

オリゴクロナルバンド

著者: 櫻林郁之介 ,   藤井英治

ページ範囲:P.514 - P.515

検査の目的・意義
 オリゴクロナルバンド(以下,OB)は髄液蛋白のアガロースゲル電気泳動においてγ分画に認められる1本から数本の不連続な異常バンドを意味する.OBの主成分はIgGであることが多く,中枢神経系内に存在する感作された2つ以上の形質細胞によって産生され,炎症の活動期に増加すると考えられている.したがって,OBは中枢神経系内の免疫反応または炎症の指標となるが,疾患特異性は低い.

IgE

著者: 馬島徹 ,   山口道也

ページ範囲:P.516 - P.517

検査の目的・意義
 IgEはレアギンと呼ばれ,アナフィラキシー様の過敏症が誘導されることが知られていたが,1966年に石坂ら1)によりレアギン抗体分子が解析され,IgEであることが同定された.IgEは沈降係数7.9S,分子量190,000であり,強い細胞親和性をもち,好塩基球や肥満細胞の表面に表現されるFcεレセプターを介して結合している2).IgEはアトピー性疾患や寄生虫疾患のスクリーニングに有用である.

アレルゲン特異的IgE抗体(RAST)

著者: 中島重徳 ,   東田有智

ページ範囲:P.518 - P.519

検査の目的・意義
 本邦において近年アレルギー疾患はますます増加の一途をたどり,10人に1人というような状況になっている.アレルギー反応は一般にI〜IV型反応に分類される.I型アレルギー反応は即時型あるいはアナフィラキシー型とも呼ばれ,抗原曝露後速やかに反応が起こるものである.このI型反応に関与する免疫グロブリンの主体はIgEであるが,一部にIgG(特にIgG4)も関与するといわれている.
 アレルギー反応には,まず抗原(アレルゲン)と免疫担当細胞との接触が必要であるが,このアレルゲンは反応の特異性を決定する重要な物質であり,アレルゲンを確定することは,診断とその後の治療の上で極めて重要である.この目的のため,今日in vivoに比べ安全性の点からもin vitroでの抗原特異的IgE抗体の検出法が一般に行われている.IgE RAST(radioallergosorbent test)法は,その代表的検出法である.

アレルゲン特異的IgG抗体

著者: 東田有智 ,   中島重徳

ページ範囲:P.520 - P.521

検査の目的・意義
 気管支喘息を代表的疾患とするI型アレルギー反応は,抗原(アレルゲン)によるIgE抗体の誘導に始まる.このアレルゲン特異的IgE抗体の存在は,決してアレルギー疾患の病態すべてを説明し得るものではないが,原因となるアレルゲンを見いだすのに有用である.
 それに対して特異的IgG抗体,中でもIgG4抗体はshort-term sensitizing anaphylactic antibody,あるいは遮断抗体(blocking antibody)として注目されているにもかかわらず,その臨床的意義についてはいまだ一定の見解は得られていない.しかし,アトピー性疾患でIgE抗体が高値であると同時に,特異的IgG抗体,IgG1抗体およびIgG4抗体も高値を示す傾向があり,特異的IgG抗体の測定は臨床的に有用な情報が得られる可能性がある.

感染症関連検査 ウイルス抗原・抗体検査

A型肝炎ウイルス抗原・抗体

著者: 佐田通夫 ,   谷川久一

ページ範囲:P.522 - P.523

検査の目的・意義
 A型肝炎ウイルス(HAV)は,遺伝子レベルでの解析結果から7種類の遺伝子型が明らかにされた.血清型は今のところ1種類のみである.わが国では,上下水道をはじめとした衛生環境の改善や衛生指導が進んだことによって,A型肝炎の大流行をみることはなくなった.ただ散発性のA型急性肝炎はここ数年増加の傾向にあり,散発性急性肝炎患者の50〜60%を占めている.最近のA型肝炎の特徴として罹患年齢の上昇と,それに伴う重症例の増加があげられる.また,不活化A型肝炎ワクチンも完成し,もうすぐ第一線の場で使用可能な状況になっており,感染の拡大防止にワクチンを使用する機会が多くなるものと考えられる.そこで,A型肝炎の診断や予防対策を立てるうえで,あるいは汚染源,汚染物の同定においてHAV抗体やHAV関連抗原測定の意義などを十分に理解しておく必要があろう.

B型肝炎ウイルス抗原・抗体

著者: 山中桓夫

ページ範囲:P.524 - P.526

B型肝炎ウイルス(HBV)
 約3.2kbの長さをもつ環状不完全二重鎖構造のDNAウイルスである.HBVゲノムはpre S1,pre S2,S領域・pre C,core領域・P領域・X領域の4つのopen reading frame(ORF)から成る.HBVの増殖はDNA-RNA-DNAの逆転写過程を経るため,RNAウイルス属と同様変異を生じやすい.

C型肝炎ウイルス抗体および遺伝子

著者: 上村朝輝

ページ範囲:P.527 - P.531

 C型肝炎ウイルス(HCV)の遺伝子がクローニングされて,HCV抗体の測定系が確立した1)結果,C型肝炎の診断や病態の把握が飛躍的に進歩した.
 さらにpolymerase chain reaction(PCR)法によるHCV-RNAの測定も可能となったため,ウイルス血症をより直接的に証明できるようになり,インターフェロン治療における効果判定にも有力な指標となっている.

その他の肝炎ウイルス抗原・抗体

著者: 石川和克 ,   佐藤俊一

ページ範囲:P.532 - P.533

 ウイルス肝炎の診断は血清学的診断法の確立によりA〜Eの5型に分類可能となり,疫学的知見も集積され,病態や予後の把握が容易となった.すなわち,本邦においてはA,B,C型がほとんどで,D,E型は稀なことが明らかとなり,これらのいずれにも属さないF型肝炎の存在の有無が議論されている.しかし,一方ではウイルスマーカー陰性の非定型的B型肝炎の報告がみられ注目されている.また,ウイルス肝炎と紛らわしいある種のウイルスの全身感染の部分症による肝炎も存在する.
 本稿ではA,B,C型肝炎を除外し,なおかつ日常の臨床において診断に留意すべき肝炎の抗原・抗体と,遺伝子核酸配列の解析により初めて診断可能な非定型的肝炎についても述べる(表1).

日本脳炎ウイルス

著者: 五十嵐章

ページ範囲:P.534 - P.535

 日本脳炎は典型的な急性脳炎であり,致命率が20〜50%と高く,回復者の約半数も精神・神経障害を伴う後遺症を残すことから重要視され,日本では法定伝染病の一つである.病原体の日本脳炎ウイルスは黄熱で代表されるフラビウイルスに属するが,伝播様式からは水田で発生するコガタアカイエカなどの蚊で媒介されるアルボウイルスの一員である.日本以外に韓国・中国などの東アジア,ベトナム,タイなどの東南アジア,インド,ネパール,スリランカなどの南アジアで流行している.ウイルスに対する特効薬はないが,有効で安全なワクチンが予防に使用されている.

風疹ウイルス

著者: 右田琢生

ページ範囲:P.536 - P.538

検査の目的・意義
 風疹は風疹ウイルスの経気道飛沫感染による急性発疹性疾患で,学童を中心に流行する.発熱と発疹,リンパ節腫脹が主たる症状で,通常の経過では軽くすむことが多い.麻疹と違って不顕性感染の頻度が高い(25%)ので,正確に免疫保有の有無を知るためには臨床診断のみでは不十分で,血清検査などの実験室診断が必要である.
 一般的に予後良好な疾患と考えられているが,時に脳炎(1/5,000)や,血小板減少性紫斑病(1/3,000)などの合併症が認められる.重大なのは,妊婦(4カ月まで)が風疹に罹患した場合で,胎内感染による先天異常,すなわち先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)を起こす危険性があることである.CRSでは,白内障,先天性心疾患,感音性難聴の3主徴に加え,知能障害や成長障害,小頭症などがみられる.妊娠初期の感染ほど危険が高い(1カ月11〜58%,3カ月8〜15%,4ヵ月で7%以下).このため,免疫を持たない婦人が妊娠初期に発疹性疾患に罹患した場合に,これが風疹であったかどうかの検討が必要となる.この場合,抗体価の高低よりも抗体価の変動をみることが重要である.

インフルエンザウイルス

著者: 石田正年

ページ範囲:P.539 - P.542

 インフルエンザウイルスについて,かぜ様患者の検査を実施するためには,「かぜ」と「インフルエンザウイルス感染症」との本質的な違いを把握する必要がある.われわれは年に数回,くしやみ,鼻水,のどの痛み,咳が出て,しかも熱があってけだるい,気分が勝れないといった症状を軽重にかかわらず経験すると,「かぜ」または「インフルエンザ」に罹かったという.実際にはかぜもインフルエンザも急性の呼吸器粘膜の炎症性疾患で,これらの起因となるのは圧倒的にウイルスによるものが多く,インフルエンザウイルスもこの範疇に入る.特に寒い季節になると,いわゆるかぜ症候群ウイルスに感染する機会が多くなり,かぜで学校や会社を何日か休むことがある.このような場合,インフルエンザとして扱われがちだが,かぜ様患者の示す臨床像だけでは,他のかぜ症候群病原体に起因するものと区別しがたい.それゆえ,かぜ様患者のインフルエンザ確定診断には臨床検査が必要となる.

麻疹ウイルス

著者: 小浜友昭

ページ範囲:P.544 - P.545

 麻疹ウイルスはヒトの麻疹(はしか;measles)の原因ウイルスである.麻疹に罹患すると高熱,結膜炎,鼻カタル,発疹などを特徴とする全身症状を呈する.麻疹ウイルスは患者の咳の飛沫,鼻汁などを介して健康人の気道や鼻粘膜に感染する.ウイルスの感染力は極めて強く,かつ不顕性感染は稀である.そのため患者からウイルスをもたらされた感受性者(抗体陰性の人)のほとんどは罹患することになる.ウイルスの潜伏期は約10日である.この期間のあとに微熱,咳,鼻炎,結膜炎,高熱の順で臨床症状が現れる(前駆期).この期間が数日続いたのち発疹が生じる(発疹期).発疹期は約5日間続き,回復へと向う(回復期).症状は典型的であり,明確な診断基準が存在する.特に前駆期の終わりに口腔粘膜にみられるコプリック斑(Koplick spot)は麻疹に特徴的である.
 一方,臨床上麻疹に類似する猩紅熱,風疹,突発性発疹などとの区別が困難な場合,また気管支炎,肺炎,中耳炎などの合併症,さらに麻疹ウイルスによる持続感染症としての麻疹後脳炎,亜急性硬化性全脳炎(SSPE)などが疑われる場合には血清診断が必要となる.

ムンプスウイルス

著者: 中山哲夫

ページ範囲:P.546 - P.547

検査の目的・意義
 流行性耳下腺炎の原因はムンプスウイルスの感染により,多くは幼児・学童期に発症する.一般的に症状は軽微に経過し,特徴的な耳下腺の腫脹を認める.また,成人に感染した場合には,睾丸炎を合併したり重症に経過する.ムンプスウイルスは中枢神経系に親和性があり,無菌性髄膜炎を起こすことが知られており,ムンプス罹患時には約50〜60%に髄液細胞増多を認め,10%に症状を伴う無菌性髄膜炎を合併し,耳下腺腫脹を認めずに発症する例もあり,無菌性髄膜炎の起因ウイルスの第1位を占めるものである.こうした性状は,弱毒化されているとはいえムンプス生ワクチンにも残っており,接種後に無菌性髄膜炎を合併することが知られている.
 ムンプス罹患後の重大な後遺症として突発性難聴が認められる.耳下腺腫脹の鑑別診断として化膿性耳下腺炎,唾液腺結石,その他パラインフルエンザ,コクサッキーウイルス感染などがあげられる.上記の合併症の症例でも耳下腺腫脹を認めずに発症する場合もあるため,確定診断に際してウイルス学的診断が必要とされる.

HIV-1抗体/HIV-2抗体

著者: 中野達徳 ,   岡本尚

ページ範囲:P.548 - P.549

検査の目的・意義
 後天性免疫不全症候群(AIDS),AIDS関連症候群(ARC)の原因ウイルスであるhuman immunodeficiency virus(HIV)1型および2型の感染の有無を調べる検査である.感染者との性行為,感染者血液の輸血などによってこれらのウイルスに感染した場合に適切な治療を受けるため,また新たな感染者を出さないよう予防の意味でも,重要な検査である.HIV-1はいうまでもなく,西アフリカに多いとされていたHIV-2感染者が日本国内でも確認され,HIV-2抗体検査も今後注目されるべきである.

ATLウイルス(HTLV-I)抗体

著者: 平田美樹 ,   池松秀之 ,   柏木征三郎

ページ範囲:P.550 - P.552

検査の意義・目的
 HTLV-Iウイルス(human T cell lymphotropic virus type I)は,日本の南西部に多発する成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T cell leukemia/lymphoma;ATL)の病因ウイルスとして発見された.ATL患者血清中にウイルスに対する抗体(HTLV-I抗体)が証明され1),一般健康人の中にも抗体陽性者が存在することが明らかにされた.抗体陽性者の末梢血リンパ球を培養すると,リンパ球表面にウイルス抗原が発現されることから,抗体の存在は既感染を示すのではなく,持続感染を意味することが明らかになった.
 現在,HTLV-I抗体の測定は,HTLV-I感染のマーカーとして以下のような目的で行われている.

便中ロタウイルス抗原

著者: 林志直

ページ範囲:P.554 - P.555

検査の目的・意義
 1970年代には胃腸炎患者からのウイルス検索が精力的に行われるようになり,ロタウイルス(rotavirus:RV),小型球形ウイルス(smallround structured virus:SRSV),F群アデノウイルス,など新たなウイルスの報告が相次いで行われるようになった.RVは小児の急性胃腸炎の最も重要な病原ウイルスである.細菌性胃腸炎,RV以外のウイルスによる胃腸炎との鑑別のために,抗原検索および遺伝子診断を行う.

単純ヘルペスウイルス

著者: 川名尚

ページ範囲:P.556 - P.557

感染病理
 単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus:HSV)は,体の種々の部位に感染し,疾患を発症することもあるが,無症候に終わることも多い.HSV感染の特徴は,感染して,ひとたびヒトの体に入ると神経を伝って上行し,三叉神経節や仙骨神経節などの神経節に潜伏感染し,時々なんらかの刺激でこれが再活性化されて,再び神経を伝って下行し,皮膚・粘膜に病変を形成する,または病変は形成されずHSVのみが排泄されることである.したがって,疾患としては最初に罹患したとき(初感染)に発症する場合と,再活性化されたHSVが疾患をもたらす場合とに分かれる.このことは,特に血清抗体による診断に際して注意しなくてはならない.つまり,当該疾患がHSVの初感染によって惹起されているのか,HSVの再活性化によって惹起されているのかを知らないと,血清抗体を測定してみても正しい評価が難しい.

水痘・帯状疱疹ウイルス

著者: 高山直秀

ページ範囲:P.558 - P.561

検査の目的・意義
 水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster virus:VZV)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである.VZVは主に経気道的に感染し,局所のリンパ組織で増殖したのち第一次ウイルス血症を起こして肝臓や脾臓に達し,ここでさらに増殖して第二次ウイルス血症を引き起こして全身に散布される.皮膚に達したVZVは,毛細血管内皮細胞で増殖して水疱を形成し,臨床的に水痘を発症させる.水痘治癒後にも,VZVは神経節のサテライト細胞に潜伏感染しており,宿主の免疫能が低下したときなどに再活性化して,帯状疱疹を引き起こす.
 これまで水痘は子供の病気であり,帯状疱疹は高齢者の病気であると考えられてきた.しかし,生活様式の変化のためか,近年,成人の水痘患者も稀ではなくなった.さらに妊婦が妊娠末期に水痘に罹患したため,子供が胎内でVZVの感染を受けたり,出生後まもなく感染して発症する新生児水痘の症例も増しているように思われる.高齢者では水痘の再罹患がみられること,また水痘ワクチン接種を受けた者が,接種数カ月から数年後に自然水痘に罹患することが知られている.

コクサッキーウイルス

著者: 足立昭夫

ページ範囲:P.562 - P.563

 検査の目的・意義
 コクサッキーウイルス(Coxsackievirus)は,ピコルナウイルス(Picornavirus)科のエンテロウイルス(Enterovirus)属の一亜属で,非常に多数のウイルスから構成されている(表1).コクサッキーウイルスは哺乳マウスでの病変の相違からさらにA群およびB群に分かれている.中和試験による抗原性の違いから,A群は1~22および24型,B群は1~6型に分類される.コクサッキーウイルス感染症は一般に軽症で,多くは不顕性感染に終わる.しかし,コクサッキーウイルス感染症は小児に最もよくみられるウイルス感染症の一つで,時には重篤な症状を示す場合もある.多数の血清型のウイルスが同一症状を呈したり,逆に同じ血清型のウイルスが異なる疾患の原因にもなる.このようなウイルス感染症の場合には,病原ウイルスの同定により初めて診断が確定する.正確な診断が感染者の予後の推定,また処置の決定に重要なことは当然であるし,疫学的にも意味がある.

エコーウイルス

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.564 - P.565

検査の目的・意義
 エコーウイルスはピコルナウイルス科に属すRNAウイルスで,感染の成立と一次増殖の場が消化管にあるエンテロウイルスの一つである.抗原性によって1-9,11-27,29-34型の32種の血清型に分類されている.エコーウイルスが原因となる主な疾患としては,無菌性髄膜炎,夏かぜ症候群,咽頭炎・肺炎などの気道感染症,下痢症,発疹症などがあげられ,他のエンテロウイルスと同様に多彩な臨床症状を呈するのが特徴である(表1).中でも無菌性髄膜炎は,臨床症状が比較的重い点や地域的な大流行が認められる点などから特に重要である.これらの感染症の病因診断を正確に行うことは,治療の面もさることながら,疫学的な面で極めて重要なことである.

エンテロウイルス

著者: 山下育孝

ページ範囲:P.566 - P.567

検査の目的・意義
 この項の対象は,エンテロウイルス(EV)のなかでも比較的最近になって命名されたEV68からEV72型の5種類のウイルスであろう.表1にこれらのウイルスの感染に伴う臨床症状を示した.EV68,EV69は日本ではまだ検出されておらず,またEV72はA型肝炎ウイルスとして別に詳述されているので,本項ではEV70とEV71について述べる.
 EV70は急性出血性結膜炎(AHC),EV71は手足口病のそれぞれ主要な原因ウイルスであり,EV70は稀にポリオ様麻痺を生じ,EV71は無菌性髄膜炎や脳炎を合併することがあるため,起因ウイルスの診断が重要である.

EBウイルス(Epstein-Barr virus)

著者: 永淵正法 ,   大塚毅 ,   仁保喜之

ページ範囲:P.568 - P.570

検査の目的・意義
 EBウイルスは通常,幼少時に初感染し,臨床症状を呈さない(不顕性感染).終生の潜伏状態となるが,時には再活性化され,持続性ウイルス感染症としての側面も合わせ持っている.思春期以降の初感染では,高熱,全身リンパ節腫脹,白血球(単核球)増多を主徴として伝染性単核症を発症する.また,最近,より多くの疾患と関連のあることが明らかとなりつつある.
 良性疾患としては,ウイルス関連赤血球貪食症候群(VAHS),慢性EBウイルス感染症についての報告が相次いでいる.悪性疾患としては,従来よりよく知られているBurkittリンパ腫や上咽頭癌などばかりでなく,Hodgkin病,鼻リンパ腫(Tcell or NK cell),natural killer(NK)白血病,一部の胃癌などとEBウイルスが関連のあることが次々に明らかにされつっある1,2).今後の研究の進展に伴い,EBウイルス関連疾患のスペクトラムはさらに広がる可能性がある.EBウイルスと関連があると考えられている疾患群を表1に示す.したがって,EBウイルスの関連抗体検査は不明熱,伝染性単核症などの鑑別あるいは確定診断を行う目的で施行する.

サイトメガロウイルス

著者: 花房秀次

ページ範囲:P.571 - P.573

検査の目的・意義
 日本人の90%以上が小児期にサイトメガロウイルス(CMV)に感染している.しかし,胎内感染を除いて,初感染ではほとんどが臨床上問題とならない.
 CMVは他のヘルペス属ウイルスと同様に体内の細胞に潜み,免疫力の低下した状態で再活性化される.免疫抑制剤使用を必要とする臓器移植や後天性免疫不全症候群(AIDS)において,CMVは深刻な感染症状を引き起こす1).CMV感染症を認めた場合は,明らかな免疫異常を考える必要があり,今後は,human immunodeficiency virus(HIV)感染をはじめとする原因検索が必要である.CMV感染症の診断には,それぞれの検査の意義を理解し,慎重に検討しなければならない.

その他の微生物の抗原・抗体検査

クラミジア・トラコマティス抗原・抗体

著者: 副島林造 ,   宮下修行

ページ範囲:P.574 - P.576

検査の目的・意義
 クラミジア・トラコマティス感染症は日本や欧米をはじめ,世界的にも淋菌感染症を上まわり,最も頻度の高い性行為感染症と考えられている.本菌はヒトを自然宿主としてヒト・ヒト伝播し,封入体結膜炎やトラコーマなどの眼疾患,非淋菌性尿道炎,子宮頸管炎,骨盤内感染症,肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群),新生児封入体結膜炎・肺炎など,多彩な病気を引き起こしてくる.さらに本菌の特徴として無症候性感染例が多く,そのため男女間のピンポン感染,反復感染が起こりやすい状態にある.初感染,再感染時にはそれほど重篤でなくても,反復感染を繰り返すことにより,骨盤腹膜炎,卵管閉塞症,失明など重篤な続発症に発展することがあるため,早期診断,早期治療が重要となる.

ボレリア・ブルグドルフェリ抗体(ライム病)

著者: 川端眞人

ページ範囲:P.578 - P.579

検査の目的・意義
 ライム病は野山に生息する大型のマダニ(tick)によって媒介される感染症で,病原体はBorrreliaburgdorferiである.本症は全身性感染症で多彩な症状を呈するが(表1),特異的な所見は少なく,非典型的な臨床経過の症例が多い.マダニ刺咬傷後に遊走性紅斑が出現する症例はライム病と診断できるが,多くの症例の臨床診断は困難である.血清反応は補助診断として広く利用されている.遊走性紅斑または類似の皮膚所見が出現した症例,マダニ刺咬傷後にインフルエンザ様症状や神経症状,関節症状が出現する症例ではライム病を疑い血清診断を試みる.
 特殊な感染症であるため,以前はいくつかの研究施設が独自に開発した抗体測定系を応用していた.平成3年から保険適用となり,抗体測定キットの利用が頻繁になった.

ASO/ASK(抗ストレプトリジンO/抗ストレプトキナーゼ)

著者: 村田三紗子

ページ範囲:P.580 - P.581

検査の目的・意義
 ASO(anti-streptolysin O)とASK(anti-streptokinase)は,β溶血レンサ球菌(溶連菌)のうちA群,C群,G群が産生する代表的な菌体外産生物質である溶血毒(streptolysin O:SLO)と酵素(streptokinase:SK)に対する抗体で,溶連菌感染によって上昇する1).このうちA群溶連菌(菌名:化膿レンサ球菌Streptococcus pyogenes)はヒトの感染症の代表的原因菌で,患者の年齢,感染経路によって,急性咽頭炎,扁桃炎などの上気道感染,猩紅熱,とびひなどの皮膚化膿性疾患,丹毒,骨髄炎,敗血症など多彩な病像を呈する.Toxic shock like syndromeは激烈な経過と高い死亡率のために注目されている.さらに重要なのは,感染後の免疫反応として,リウマチ熱,急性糸球体腎炎などの発現に関与することである.
 A群溶連菌感染症の診断根拠として,急性期は感染病巣からの菌検出に重点が置かれるが,回復期や続発症では,ASOやASKなどの溶連菌抗体の有意上昇を血清学的に確認することによってA群溶連菌の先行感染を推定することができる.

エンドトキシン

著者: 斧康雄

ページ範囲:P.582 - P.584

検査の目的・意義
 エンドトキシン(Et:菌体内毒素)は,グラム陰性桿菌の外膜を構成するリポ多糖体(lipopolysaccharide:LPS)であり,その構造は一般にO抗原多糖,コア(R抗原)多糖,lipid A(抗原)から構成されている.その中でlipid AがEtの生物学的活性の中心を担っている.Etは感染に際して,発熱,ショック,播種性血管内凝固症候群(DIC)など生体に対して有害に作用することは周知のことであるが,抗腫瘍活性や感染防御能亢進作用など生体に対して有益に作用するなど,多彩な生物学的活性を有することが知られている(表1).
 臨床の場における体液中Etの測定は,感染症の起炎菌がグラム陰性桿菌であるか否かの早期診断への臨床応用のほかに,敗血症や原因不明のショック,重篤なグラム陰性桿菌感染症,DIC,成人呼吸窮迫症候群(ARDS)などの致命的な疾患を有する患者の病態を解明し,早期にその対策を立てるうえで意義がある.

梅毒血清反応

著者: 田口誠治 ,   片庭義雄

ページ範囲:P.585 - P.587

検査の目的・意義
 梅毒血清反応は,献血,妊婦検診,集団検診などに際して梅毒のスクリーニングテストとして,あるいは感染機会があった症例に対して梅毒感染の診断として行われる.また,梅毒患者における治療の適応あるいは治療効果の判定などにも欠かすことのできない検査である.さらにカルジオライピン症候群を含む生物学的偽陽性反応(BFP:biological false positive reaction)を示す疾患ないし状態の診断にも有用である.

マイコプラズマ抗体

著者: 吉田秀雄 ,   鳥飼勝隆

ページ範囲:P.588 - P.589

検査の目的・意義
 マイコプラズマは自己増殖の可能な最小の微生物で,直径150nm程度の大きさである.マイコプラズマの最大の特徴は,一般細菌と異なって細胞壁を持たないことである.そのために治療のうえでは,細胞壁の合成阻害で作用するペニシリン系およびセフェム系抗生剤が無効である.ヒトより分離されるマイコプラズマは12種あまりが知られているが,最も分離頻度が高く,病原性が確定されているものはMycoplasma pneumoniae(以下Mp)である.Mp以外では,近年Mycoplasma hominis,Ureaplasma urealyticumなども非淋菌性尿道炎,卵管炎などの泌尿生殖器疾患および流産などとの関連について検討されている.
 通常,マイコプラズマ抗体といえば,Mpに対する抗体をさすものであり,Mp感染症は小児,若年成人を中心とする急性呼吸器感染症の病原体として重要な位置を占めている.その他に髄膜炎などの神経系疾患,Stevens-Johnson症候群,関節炎などを起こすことがある1)

ツツガムシ病抗体/Weil-Felix反応

著者: 橘宣祥

ページ範囲:P.590 - P.591

検査の目的・意義
 ツツガムシ病抗体は,ツツガムシ病の病原体Rickettsia tsutsugamushi(R tSutsugamushi)に対する患者血清中の特異抗体で,その検出は診断確定に必須である.Weil-Felix反応は特異反応ではなく,確定診断の目的には用いられない.
 ツツガムシ病は北海道を除く全国各地で,主に秋から初冬にかけて発生する(東北地方では春から初夏にかけても発生する)急性熱性感染症である.臨床症状は38〜39℃の発熱,全身の発疹,ツツガムシが刺した部に生じる刺し口などが特徴であるが,確定診断にはR tsutsugamushiないしそのDNAの検出,または血清抗体の証明が必要である.

カンジダ抗原・抗体

著者: 多田尚人 ,   網野信行

ページ範囲:P.592 - P.593

検査の目的・意義
 深在性真菌症(カンジダ症,アスペルギルス症,クリプトコッカス症)は,日和見感染症として増加している疾患である.その診断には検体からの真菌の検出が重要であるが,必ずしもその検出率は高くなく,また培養に時間を要することも多い.そこで,血清学的な診断法が感度および迅速性の点から注目されてきている.カンジダ症の血清学的診断には,抗体を検出する方法と抗原またはカンジダ由来の代謝産物を測定する方法がある.カンジダは口腔や皮膚に常在するため,健常者でも自然抗体が存在することがあるので,診断的意義に問題があり,抗原またはカンジダ由来の代謝産物を測定する方法が主流となってきている.

抗酸菌

著者: 豊田丈夫

ページ範囲:P.594 - P.595

検査の目的・意義
 抗酸菌感染症の診断および治療を行うためには,基本的な菌の検査を十分に行わなければならない.通常行われる抗酸菌の検査には以下の4つがあげられる.

自己免疫関連検査

抗核抗体

著者: 東條毅

ページ範囲:P.596 - P.598

検査の目的・意義
 抗核抗体はAntinuclear Antibodiesの頭文字をとって,ANAと略される.これは細胞核内の抗原物質群に対する多種類の抗体群の総称である.膠原病患者の血清中には,細胞核や細胞質内の抗原性物質に対する自己抗体が高率に検出される.その中心となるのがANAである.
 ANAはLE細胞現象に必要な血清中の因子として発見された.このため長く全身性エリテマトーデス(SLE)に特有な抗体と思われていた.しかし,これは誤りで,ANAは膠原病各疾患に広く分布している.LE細胞因子は多数のANAの一つにすぎない.

抗RNP抗体(抗リボ核蛋白抗体)

著者: 天木聡

ページ範囲:P.599 - P.601

検査の目的・意義
 真核細胞の核には,ウリジンを多く含む低分子U-RNA群が存在するが,これらのRNAは非ヒストン核蛋白と複合体を形成し,snRNP(small nuclear ribonucleoprotein)と総称されている.抗RNP抗体(anti-ribonucleoprotein antibody)は,これらsnRNPのうち特にU1-RNPのみを沈降させる抗体を指すので,抗U1-RNP抗体と呼ばれるようになってきた.
 1972年,Sharp1)らは,臨床的に特徴ある疾患群としてMCTD(混合性結合組織病)の概念を提唱し,その中で抗ENA抗体の存在意義を取りあげた.抗ENA抗体は狭義には,今日の抗RNP抗体と抗Sm抗体に相当するものと考えてよいが,広義には,抗核抗体のうち等張緩衝液で抽出される細胞核分画に対する数々の自己抗体群をさす.

抗DNA抗体

著者: 宗像靖彦 ,   佐々木毅

ページ範囲:P.602 - P.603

 抗DNA抗体は,抗原をDNAとして用いたときに反応する抗体を総称する.二本鎖(ds)DNA,二本鎖および一本鎖(ds/ss)DNA,さらに一本鎖(ss)DNAに対する抗体に大別されるが,臨床上は,熱変性DNAに対する抗体を抗ssDNA抗体,nativeDNAに対する抗体を抗dsDNA抗体としている.

抗ENA抗体(抗Sm,抗RNP抗体を除く)

著者: 高崎芳成

ページ範囲:P.604 - P.605

検査の目的・意義
 抗ENA(extractable nuclear antigen)抗体は生理的食塩水に可溶性な核抗原に対する抗体の総称で,一連の抗原は主として非ヒストン核蛋白に属している.膠原病を中心とする自己免疫疾患で高率に検出され,特定の疾患や病像に相関を示すものが多く,その診断や治療の指標として用いられる.

抗Sm抗体

著者: 三森経世

ページ範囲:P.606 - P.607

検査の目的・意義
 抗Sm抗体は,1966年にTanらによってSLE患者血清に最初に報告された自己抗体である.SLEの補助診断上重要な自己抗体であり,ARAのSLE分類改訂基準にも採用されている.もともとは二重免疫拡散法によって同定される沈降抗体であるが,受身血球凝集反応(PHA法)で検出されるRNase抵抗性抗ENA抗体も抗Sm抗体と同じものと考えてよい.
 抗Sm抗体の対応抗原は,mRNAのスプライシングに関与する核内低分子リボ核蛋白(U1,U2,U4/U6,U5 RNP)である(図1左).抗Sm抗体陽性例はほとんど常に抗U1 RNP抗体を併存する.また二重免疫拡散法では,抗U1 RNP抗体の沈降線は抗Sm抗体の沈降線に対して部分的に一致する.このことは,U1 RNP抗原がSm抗原の一部であり,両者の分子構造の共通性に基づくものと考えられる.

抗Scl-70抗体

著者: 近藤啓文

ページ範囲:P.608 - P.609

検査の目的・意義
 抗Scl-70抗体は1976年,Tanらにより強皮症に特異的に出現する沈降抗体として抗Scl-1抗体の名称で報告された抗核抗体の一種である.同じ頃,東條らは同抗体を抗Og抗体として報告した.この抗体の対応抗原は生化学的分析により家兎胸腺抽出物より精製され,70kDaの塩基性蛋白であることが報告された.それ以来,抗Scl-70抗体と呼ばれるようになった1)
 その後,対応抗原に関する研究が進展し,抗体がDNA topoisomerase I(Topo I)活性を特異的に阻害することなどから,対応抗原がTopo Iであることが明らかになった2).これは,スーパーコイル構造をもつDNAの一本鎖に切断点を入れ,超らせん構造を弛緩させる作用をもつ酵素である.本抗体は強皮症以外の疾患ではほとんど検出されず,強皮症の病型や予後とも関連する抗体として臨床的意義の大きい抗核抗体である.

リウマトイド因子

著者: 隅谷護人

ページ範囲:P.610 - P.611

検査の目的・意義
 リウマトイド因子(RF)は,同種あるいは異種のIgGのFc部分と結合する自己抗体である.抗原となるIgG・FcのCγ2〜Cγ3領域にいくつかの異なる抗原決定基が存在する.RFの免疫グロブリンクラスとしてはIgM,IgG,IgAの各クラスのRFが存在し,血液中のみならず,関節液や唾液中にも存在する.RFの炎症の場での産生と病因的意義が注目されており,また少量ながら正常血清にも存在することから,生理的な役割も示唆されている.
 凝集反応を用いる一般的なRF検出法では,IgM・RFが検出されるが,最近ではELISA法により各免疫グロブリンクラスのRF測定が可能であり,IgM・RFとIgG・RF測定は保険点数が認められている.

抗Jo-1抗体およびその他の抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体

著者: 平形道人 ,   秋月正史

ページ範囲:P.612 - P.614

検査の目的・意義
 抗Jo-1(名称は患者名頭文字に由来)抗体は,西海とReichlinにより多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)に特異的な自己抗体として見いだされ,この成績は諸施設でも確認された1).すなわち,全身性エリテマトーデス(SLE)の抗Sm抗体,強皮症(SSc)の抗DNAトポイソメラーゼI抗体と並び,PM/DMの重要な疾患標識抗体(マーカー抗体)である.近年,間質性肺炎,多発性関節炎を伴うPM/DMとの密接な関連が明らかとなり,診断,臨床経過,予後の推定など,臨床的有用性が高まっている2)
 抗Jo-1抗体がtRNAhisを特異的に沈降すること,tRNAhisに結合する50 kDa蛋白二量体に抗原性があること,同抗体がtRNAのヒスチジル化を抑制することより,Jo-1抗原がヒスチジンをtRNAに結合させる反応を触媒するヒスチジルtRNA合成酵素であることが明らかとなった3)(図1,左).

抗サイログロブリン抗体

著者: 玉置治夫 ,   網野信行

ページ範囲:P.615 - P.617

検査の目的・意義
 サイログロブリン(Tg)は,分子量66万の可溶性糖蛋白で,甲状腺濾胞コロイドの主成分であるが,隔絶された抗原というわけでもなく,正常血清中にも存在する.このTgに対する自己抗体は,自己免疫性甲状腺炎の存在と関連があると考えられており,したがって,その測定は自己免疫性甲状腺疾患の診断に有用と考えられている1)
 抗体の測定法としては,最も古典的には,沈降法で測定されてきたが,その後,受身凝集反応法(TGHA:thyroglobulin hemagglutination test),RIA法,EIA法(ELISA法),プラーク形成法などの方法が開発されてきた.現在,日常臨床検査としては,受身凝集反応が最も普及して用いられている.

抗甲状腺マイクロゾーム抗体

著者: 玉置治夫 ,   網野信行

ページ範囲:P.618 - P.620

検査の目的・意義
 自己免疫性甲状腺疾患において,抗甲状腺マイクロゾーム抗体(antithyroid microsomal antibody)は高頻度に検出され,自己免疫性甲状腺炎の存在と密接な関連があると考えられている1).最近,抗甲状腺マイクロゾーム抗体が甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase:TPO)に対する抗体であることが証明され,in vitroの系では甲状腺細胞に対して細胞障害作用を有する2)ことが報告されているが,in vivoの系でこの抗体が及ぼす影響については意見の一致をみていないのが現状である.

抗TSHレセプター抗体

著者: 吉田正 ,   市川陽一

ページ範囲:P.621 - P.624

検査の目的・意義
 Basedow病や特発性粘液水腫などの自己免疫性甲状腺疾患では,TSH(thyroid stimulating hormone,甲状腺刺激ホルモン)レセプターに対する自己抗体が検出される1,3).それは抗TSHレセプター抗体と呼ばれ,Basedow病に認められる甲状腺刺激型抗体と,特発性粘液水腫や一過性甲状腺機能低下症に認められる甲状腺抑制型抗体がある.
 抗TSHレセプター抗体の測定は,自己免疫性甲状腺疾患の診断に加え,Basedow病の治療効果の判定や寛解・再発の指標としても有用である.また,母親由来の抗TSHレセプター抗体により発症する新生児Basedow病や,一過性甲状腺機能低下症の発症を予測することも可能である.

抗アセチルコリンレセプター抗体

著者: 佐野正登 ,   高守正治

ページ範囲:P.626 - P.627

検査の目的・意義
 重症筋無力症を疑った場合に検査をする.重症筋無力症は骨格筋の易疲労性を主症状とし,眼瞼下垂,複視,鼻声,嚥下障害,四肢筋力低下などを初発・好発症状とする.
 この抗体の検出は本症の病因に直結する重要な所見となる.

抗ミトコンドリア抗体

著者: 前田隆 ,   山本泰猛

ページ範囲:P.628 - P.629

検査の目的・意義
 抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial antibody:AMA)は,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC)の診断に用いられる疾患特異性の高い自己抗体である.1965年,Walkerらが発見して以来,長らく不明であったAMAの対応抗原は,近年ミトコンドリア内膜に存在する酵素群,2-oxoacid dehydrogenase complex(2-OADC)であることが明らかにされた1)(図1).2-OADCのうち,最も高頻度に検出されるのはpyruvate dehydrogenase(PDH)complexに対する抗体であり,便宜的にAMAは抗PDH抗体とほぼ同義としても臨床的にはあまり問題はない.
 厚生省難治性の肝炎調査研究班の診断基準では,肝生検による組織学的な裏付けがなくとも,臨床的にPBCが考えられ,AMAまたは抗PDH抗体が陽性であればPBCと診断してもよいとしている.

抗平滑筋抗体

著者: 篠村恭久

ページ範囲:P.630 - P.631

検査の目的・意義
 抗平滑筋抗体は最初に慢性活動性肝炎患者の血清中に発見された平滑筋に反応する自己抗体である.その後,本抗体はさまざまな臓器の細胞と反応することが示され,本抗体の対応抗原は細胞骨格構成蛋白であることが明らかにされている.本抗体は自己免疫性肝炎で血液中に高力価,高頻度に陽性になるため,この疾患の診断の一助として用いられる.自己免疫性肝炎は女性に多く,自己免疫性機序により肝炎が慢性に持続する疾患であり,本抗体のほか,抗核抗体,抗肝細胞膜抗体や肝腎ミクロゾーム抗体などの自己抗体が出現することが知られている.SLEでは,肝障害を伴っていても通常抗平滑筋抗体がほとんど検出されないことから,本抗体の測定は自己免疫性肝炎とSLEの鑑別診断に有用とされる.
 自己免疫性肝炎で出現する抗平滑筋抗体は,主に細胞骨格のミクロフィラメントの構成成分であるアクチンであることが知られている1).一方,本抗体は他の肝疾患やウイルス感染でも低力価ながらしばしば陽性になるが,これらの疾患で出現する本抗体は中間径フィラメントやミクロチュブルスに対する抗体といわれる.抗アクチン抗体の測定が自己免疫性肝炎に特異性が高いことが報告されている3)

抗壁細胞抗体

著者: 篠村恭久

ページ範囲:P.632 - P.633

検査の目的・意義
 血清抗壁細胞抗体は胃壁細胞の成分に特異的に反応する自己抗体であり,主に自己免疫的機序で起こる慢性萎縮性胃炎(自己免疫性胃炎)で出現する.
 最近の研究により,この抗体は主に壁細胞の細管小胞膜に存在し,能動的酸分泌を司る酵素であるプロトン・ポンプ(H,K-ATPase)のαサブユニットあるいはβサブユニットに対する抗体であることが明らかになっている1).抗壁細胞抗体の認識するαサブユニット上のエピトープは症例によってさまざまであり,細胞内部分を認識する抗体も存在することから2),本自己抗体の出現は自己免疫性胃炎の原因というよりも結果であると考えられる.

抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント/抗カルジオリピン抗体)

著者: 浄土智 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.634 - P.635

検査の目的・意義
 全身性エリテマトーデス(SLE)は,多彩な自己抗体の出現と多臓器障害を特徴とする代表的な自己免疫疾患である.最近,SLEのいくつかの病態のうち,動・静脈血栓症,習慣流産,血小板減少と抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント:LA,および抗カルジオリピン抗体:aCL)との関係が注目され,さらにこれらの病態を有する患者の中にはSLEの診断基準を満たさない例もあり,抗リン脂質抗体症候群(APS)と呼ばれている1).APSでは表1に示すような多彩な病態が認められ,このような患者を診断するうえで,LAやaCLの有無を検索することは必要不可欠なことになってきている.

抗血小板抗体

著者: 野村昌作 ,   安永幸二郎

ページ範囲:P.636 - P.637

検査の目的・意義
 抗血小板抗体は,自己血小板抗体と同種血小板抗体の2つに大別される.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,抗血小板抗体によって引き起こされるが,その主要な原因は,自己血小板抗体である1).特に血小板表面上に結合しているIgG成分(PAIgG)を測定することが,ITPにおいて重要な診断的意義をもつと考えられている.この理由は,血小板数の減少が著しいITP例ではPAIgGの陽性率が高く,しかも血小板数が上昇すると,逆にPAIgGが減少する場合が多いことによる.

抗好中球細胞質抗体

著者: 吉田雅治

ページ範囲:P.638 - P.640

検査の目的・意義
 抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)は,1982年,Daviesらが半月体形成を伴う巣状,壊死性糸球体腎炎患者に蛍光抗体法により初めて検出したIgG分画に属する自己抗体である.その染色パターンよりC-ANCAと,P-ANCAに分類される.1985年,WoudeらはC-ANCAがWegener肉芽腫症,1988年にFalkらはP-ANCAが顕微鏡的多発動脈炎(MPA)とpauci-immune型半月体形成性腎炎(ICr-GN)で特異的に検出されることを明らかにした2).筆者らもわが国で初めて,これら諸疾患でANCAが検出できることを報告した3)
 近年,ANCAに関する基礎的,臨床的研究が進み,Wegener肉芽腫症,MPAをはじめとする血管炎,ICr-GNをはじめとする腎疾患,および潰瘍性大腸炎,Crohn病などの炎症性腸疾患においてANCAが陽性に検出され,病因・病態との関連が明らかにされている4).ANCAは血管炎,膠原病,腎疾患,炎症性腸疾患を呈する諸疾患において測定されるべき新しい自己抗体検査といえる.

免疫複合体

著者: 青塚新一

ページ範囲:P.642 - P.643

検査の目的・意義
 抗原と抗体が結合して形成される免疫複合体は,血中で生じた場合は,通常,貪食細胞により処理されるが,病的な状況下(免疫複合体の大量発生,抗体の産生不全,または貪食細胞の機能低下)では,血中に存続して腎糸球体や血管壁に沈着し,補体が活性化されたり,貪食細胞が引き寄せられたりして組織障害が引き起こされる.血中免疫複合体の検出は,このような病的な状況が存在するかどうかを判断するのに有用である.ある検査法で免疫複合体が陽性とされた場合,その経過を追うことで疾患活動性が評価でき,治療上の指標となる.

免疫血液学的検査

Coombs試験

著者: 小峰光博

ページ範囲:P.644 - P.645

検査の目的・意義
 抗グロブリン試験(antiglobulin test:AGT)とも呼ばれる.赤血球表面に抗赤血球抗体あるいは補体成分が結合しているか否かを調べる方法で,1945年,Coombsらが確立した.抗体がIgMクラスであれば赤血球は生理食塩水中で凝集する(完全抗体)が,IgGクラスの場合にはそのままでは凝集せず,Coombs血清(抗ヒトグロブリン家兎血清)の添加によって初めて凝集するので,そのようなIgGクラスの不完全抗体を検出するのに用いられる.広スペクトルの抗グロブリン血清にはヒトIgGと補体成分(C3およびC4)に対する抗体(主としてIgG抗体)が含まれており,スクリーニング検査に用いられる.
 Coombs試験は免疫機序による各種の溶血性貧血の診断,輸血の交差適合試験,不規則性抗体の検出などに広く利用されている1)

血液型検査—ABO型,Rh(D)型

著者: 松本美富士

ページ範囲:P.646 - P.648

検査の目的・意義
 輸血後肝炎,AIDS,HTLV-Iなどの感染症,GVHD(graft versus host disease)などの輸血に伴う新たな副作用の発生などを背景に,輸血医療に対して現在ほど医学的のみならず,社会的にも問題とされる時代はない.安全かつ効率的な輸血療法を行うため血液型検査は必須である.その検査法,意義を理解し,決して血液型不適合輸血を発生させない必要がある.ちなみに米国FDAの集計では,1976年から10年間の輸血事故死について報告しているが,総数355名中,輸血と直接関係のない99名を除く256名のうち,131名(51%)がABO不適合事故死である1)
 赤血球の溶血反応による副作用,赤血球寿命の短縮による輸血効率の低下を防止するため,輸血は血液型の一致した同型輸血が原則である.しかし,血液型には多数の種類があり,人種によってその分布に大きな差異がみられ,患者では妊娠や過去の輸血によって,ABO型を含めた各種血液型に対する不規則性抗体が存在する可能性がある.

交差適合試験

著者: 小松文夫

ページ範囲:P.649 - P.651

交差適合試験(クロスマッチ)の意義
 輸血に際してはABO式とRh式D因子の検査が必ず実施され,異型輸血を起こさないように注意が払われている.しかし,それ以外の血液型については検査はされていない.そのため,それらの血液型に関する異型輸血が行われ,結果として種々の赤血球抗体が産生される可能性がある.
 赤血球は多種の血液型抗原を有しており,輸血はいつの時点でも抗原感作の場となる.患者が妊娠や以前の輸血によって,すでに何らかの赤血球抗体を有しているとき,それに反応する血液を輸血してはならない.体内で輸注血球が破壊されるからである.そこでまず反応する血液を除外しなければならない.これが適合血の選択であり,適合血の選択は交差適合試験によってなされる.交差適合試験は輸血による溶血反応を防止する大切な検査である.

不規則性抗赤血球抗体

著者: 小松文夫

ページ範囲:P.652 - P.653

不規則性抗赤血球抗体とは
 ある血液型因子(抗原)を有する赤血球をその因子を欠く患者に輸血した場合,患者がその因子に対する抗体を産生することがある.Rh式血液型のうちRh陽性〔D(+)〕の血液をRh陰性〔D(-)〕の患者に輸血した場合,その20〜50%が抗D抗体を産生する.E(+)の血液をE(-)の患者に,c(+)の血液をc(-)の患者にそれぞれ輸血した場合にも,抗Eあるいは抗c抗体が産生される.同様のことは,Rh式以外の血液型についてもいえる.このようにして産生された抗体を不規則性抗赤血球抗体という.ここでは単に,赤血球抗体と記すことにする.

細胞性免疫検査

リンパ球表面マーカー—two-color,three-colorを中心に

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.654 - P.658

検査の目的・意義
 リンパ球は,形態学的にはせいぜい大リンパ球,中リンパ球,小リンパ球に分けられるぐらいで,それ以上の細かい分類は不可能である.しかも,このようにリンパ球を大きさで分ける意味はほとんど存在しない.しかし,リンパ球の膜表面には他の細胞と同様,それぞれの細胞に特有な抗原が分布している.これらの抗原を指標としてリンパ球を細かく分類することは,その分化段階や機能を知るうえで大変大きな意味がある.膜表面にある抗原を,それと特異的に反応する抗体を用いて検索することをリンパ球表面マーカーの検索という.リンパ球表面マーカーの検索は,特にリンパ性白血病や悪性リンパ腫などのリンパ球性血液疾患の診断や予後の判定に非常に大きな偉力を発揮する1).また,その他の疾患の病態解析にも有用である2)
 このような分析には,1種類の抗体ならびに蛍光色素を使う単染色(single-color)でも十分にこと足りるが,さらに2種類(two-color),3種類(three-color)の抗体と蛍光色素をうまく使用すれば,より一層詳細な検討が可能となる.本稿ではtwo-color,three-color染色を中心に,リンパ球表面マーカーの概説を行う.

PHA/ConA(リンパ球刺激試験)

著者: 荒川洋一 ,   笠原忠

ページ範囲:P.659 - P.661

検査の目的・意義
 リンパ球は,「非自己」である物質を抗原として認識し,それを排除しようとする働きをする.この検査は,抗原の代わりに非特異的なマイトジェンであるPHA(フィトヘマグルチニン)およびConA(コンカナバリン-A;ともに植物由来のレクチン)とともにリンパ球を培養し,その反応性からTリンパ球の機能を調べることを目的に行う.
 現在では種々のモノクローナル抗体によるTリンパ球サブセットの解析や,リンパ球からの種々のサイトカイン産生能,細胞障害活性などを簡単に測定できるが,リンパ球刺激試験による反応性の低下はリンパ球機能不全を疑うスクリーニングとして用いることができる.

CD 4・CD 8細胞マーカー

著者: 大川洋二

ページ範囲:P.662 - P.663

検査の目的・意義
 リンパ球のCD 4,CD 8の検査は,細胞性免疫能を数の上から検討するのに有効である.すなわちCD 4陽性細胞はhelper/inducer細胞を示し,CD 8陽性細胞はsuppressor/cytotoxic細胞を示している.その機能はCD 4陽性細胞ではHLAclass IIとともに抗原を提示する細胞に反応し,B細胞の抗体産生やキラーT細胞の誘導,マクロファージの活性化を促す.またHLA class IIを発現している標的細胞に対して細胞障害能を示すものもある.CD 4陽性細胞でCD 45 RA陽性細胞はnaiveT細胞,CD 45 RO陽性細胞はmemory T細胞である.CD 62 L陽性細胞は抗原刺激を受ける前のCD 4陽性細胞である.さらにサイトカイン産生能の上からTh 0,Th 1,Th 2に分類されている.Th 1細胞はIL-2,IFN-γを産生し,Th 2はIL-4,IL-5,IL-6,IL-10を産生し,Th-0はその両者を産生している.
 CD 8細胞はclass I MHC,あるいはそれと抗原との組み合わせを提示する細胞と反応して,細胞障害能を示したり,B細胞からの免疫グロブリンの産生を抑制する.CD 8弱陽性の細胞でCD 3が陰性のものにはNK細胞,LAK細胞が含まれている.

T細胞・B細胞百分率

著者: 松川吉博 ,   澤田滋正

ページ範囲:P.664 - P.665

検査の目的・意義
 末梢血リンパ球は種々の疾患や薬剤投与により増減する.T細胞とB細胞はおのおの細胞性免疫と液性免疫を担い,とりわけT細胞は免疫応答の中枢として重要である.したがって,血液・免疫性疾患,アレルギー性疾患や感染症において,両者の動向を検討することは診断・治療のうえで不可欠となってきている.
 末梢血リンパ球はT細胞・B細胞・Null細胞の3群に大別される.T細胞は免疫応答の中枢を担う細胞群であり,古典的にはヒツジ赤血球に対するレセプターを細胞膜表面に有することが特徴とされてきた.現在では,種々な細胞膜表面抗原に対するモノクローナル抗体が作製されており,これによってリンパ球を分画することが一般的である。すなわち,細胞膜表面にCD 2抗原を有する(CD 2モノクローナル抗体が結合する)細胞をT細胞とし,ヒツジ赤血球を用いた測定は一般的ではなくなっている.

白血病の細胞マーカー

著者: 黒川浩 ,   奈良信雄

ページ範囲:P.666 - P.669

検査の目的・意義
 近年のモノクローナル抗体を用いた免疫学的マーカー解析の進歩により,白血病細胞の血球系の同定や成熟度の判定は極めて精緻なものとなり,白血病の分類・診断における免疫学的検査の役割はますます重要なものとなりつつある.特に,最近FAB分類に新たに加えられた急性骨髄性白血病(AML)-M 0や,急性巨核芽球性白血病(M 7)では,その診断に免疫学的検査が必須のものであり,またAMLと急性リンパ性白血病(ALL)の両方の性格を併せ持つmixed lineage leukemiaは,免疫学的マーカーの検索により初めて詳細な性格づけが可能となるものである.
 本稿では,白血病細胞の細胞マーカーについて概説し,白血病診断における細胞性免疫検査の役割について解説する.

2-5 AS(2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素)

著者: 多田尚人 ,   網野信行

ページ範囲:P.670 - P.672

検査の目的・意義
 2-5 ASは,インターフェロンの抗ウイルス作用の重要な部分を担うと考えられている2'-5'-オリゴアデニル酸(2-5A)の合成酵素であって,その酵素活性は,インターフェロンによって誘起された生体内の抗ウイルス活性の指標と考えることができる1).ウイルス感染症などの,インターフェロンの関与するさまざまな病態で変化し,そのモニタリングに有用であるが,現在,保険診療が認められているのはウイルス肝炎のインターフェロン投与量・治療効果判定目的のみである.

サイトカイン

インターロイキン

著者: 宮坂信之

ページ範囲:P.674 - P.677

 サイトカインとは,免疫担当細胞をはじめとする種々の細胞から産生される生理活性物質の総称である.サイトカインとは造語であり,「サイト」とは「細胞」という意味の,「カイン」とは「作動物質」という意味である.従来は,リンパ球由来の液性物質をリンフォカイン,単球・マクロファージ由来のものをモノカインと呼んでいたが,最近ではこれらをまとめてサイトカインと呼ぶ傾向にある.
 また,インターロイキンということばもある.最近では,遺伝子クローニングがされ,その生理活性が明らかにされた物質に対して順番にインターロイキン(IL)1,2,3…と呼ぶ傾向にある.インターロイキンに関しては現在,IL-13まである.インターロイキンとは,「白血球同士の相互作用を司る物質」という意味をこめた造語である.

IL-1(インターロイキン-1)

著者: 森田光哉 ,   笠原忠

ページ範囲:P.678 - P.679

 インターロイキン-1(IL-1)は,当初リンパ球を活性化する因子(LAF)として同定された物質だが,その後,内因性の発熱因子,白血球増加や急性期蛋白質を誘導する因子と同一であることが明らかとなったサイトカインである.
 IL-1は,等電点の違いからpI 5のαとpI 7のβに分類され,それぞれ前駆体が酵素の修飾をうけ成熟型となる.これらのアミノ酸配列の相同性は低いが,いずれも同じレセプターに結合してほぼ同じ生物活性を示すことがわかっている.

IL-2/IL-2 R

著者: 仁保喜之

ページ範囲:P.681 - P.682

IL-2とは
 当初Tリンパ球を選択的に増殖させると考えられ,T細胞増殖因子(TCGF)1)と呼ばれていたが,現在はinterleukin-2(IL-2)と命名されB細胞,natural killer cell(NK細胞)にも作用することが判明している.IL-2のcDNAは1983年にクローニングされ2),一次構造が明らかにされ,大量生産も可能である.

IL-6/sIL-6 R

著者: 緒方篤 ,   西本憲弘 ,   嶋良仁 ,   吉崎和幸

ページ範囲:P.684 - P.685

検査の目的・意義
 IL-6はB細胞の分化増殖,急性期蛋白の合成刺激,血小板産生の刺激などのほかに,腎メサンギウム細胞や皮膚角化細胞の増殖などにも関与するなど,多彩な機能を有するサイトカインである.臨床的にはCRPなどの急性期蛋白と同様に,炎症の程度を示すマーカーとして利用可能である.
 可溶性IL-6受容体(soluble IL-6 receptor;sIL-6R)は,その産生細胞や病的意義については不明な点が多いが,血液中にIL-6に比べて大量に存在しており,IL-6の機能を修飾している可能性が示唆されている.

IL-8

著者: 向田直史

ページ範囲:P.686 - P.687

 IL-8は,好中球・好塩基球・Tリンパ球に対して走化活性を有するのみならず,接着因子発現の増強やリゾチーム酵素・活性酸素の放出を誘導するなど,好中球の活性化にも働くサイトカインである1)(図1).いくつかの炎症モデルにおいては,抗IL-8抗体を投与することによって好中球依存性の組織傷害が予防できることから2),炎症反応,なかでも急性期の好中球依存性に起きる組織傷害の成立に大きな役割を果たしていると考えられている.
 IL-8に対する酵素免疫測定法3)が,筆者らのグループをはじめとするいくつかのグループによって開発され,いくつかは市販されている.これらの測定系を用いることによって,好中球増多あるいは局所への好中球浸潤を伴う疾患において,血中あるいは局所の体液中でのIL-8濃度の上昇が報告されている(表1)4).血中などにおけるIL-8の動態は,炎症性刺激に応じて速やかに上昇することから,急性期相反応物質の範疇にも入ると考えられる.

TNF(腫瘍壊死因子)

著者: 川上正舒

ページ範囲:P.688 - P.689

検査の目的・意義
 TNF(tumor necrosis factor)は癌細胞を選択的に壊死させるサイトカインとして発見されたが,現在ではその作用は腫瘍細胞のみならず,免疫系,中枢神経系,血管,肝臓,脂肪組織を含む全身の正常な組織・器官に及び,またその作用も極めて多彩であることが知られている1).これらの作用の中には免疫反応や炎症反応を促進するものが多く,いわゆる生体防御に重要な役割を持つと考えられているが(図1),同時に感染や免疫反応を原因とする疾患の多くに関わりを持つことも推測され,感染症,癌,自己免疫性疾患患者において,血液,髄液,尿,腹水,関節液中のTNFが測定されている.しかし,生体材料中のTNF濃度は極めて低く,これを測定するには十分な感度を持つ方法がないことと,TNFはホルモンとして血中を循環するだけでなく,分泌局所における作用が重要であることから,TNFの測定は現在のところ研究目的が主であり,日常臨床における測定の意義は未だ確立されていない.

IFN(インターフェロン)

著者: 岡本哲郎 ,   渡辺直樹 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.690 - P.691

 IFN測定の意義 インターフェロン(interferon:IFN)は当初,抗ウイルス作用を有する物質として発見されたが,その後,抗腫瘍作用1),免疫調節作用,細胞表面抗原の発現増強作用などを発揮するサイトカインであることが明らかにされている.
 すなわち,ウイルスによる感染症のみならず,免疫系の関与する疾患において病態の形成,修飾に関与していると考えられる.

TGF-β(transforming growth factor-β)

著者: 佐藤典宏 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.692 - P.693

 検査の目的・意義
 TGF-β(transforming growth factor-β)は正常細胞の腫瘍細胞への形質転換を促進させる因子として報告された物質であるが,以来,多彩な生理活性を有する10種類以上の類似構造を持つ蛋白が同定され,TGF-βスーパーファミリーと総称されている1).TGF-βはβ1からβ5のアイソフォームが存在し,ヒトではβ1,β2,β3の構造が同定されている.TGF-βの受容体は大部分の細胞に存在しており,後述のごとく広範な病態・疾患への関与が推定されている.しかし,TGF-βの測定値と疾患の発症・進展に関する知見は十分ではなく,したがって検査の目的と意義はこの点の解明にあるということができる.

エリスロポエチン

著者: 別所正美

ページ範囲:P.694 - P.696

検査の目的・意義
 エリスロポエチン(Epo)は,その85〜90%が腎臓でつくられる分子量約35kDの糖蛋白で,骨髄における赤芽球系造血前駆細胞の分化・増殖を刺激し,同時にapoptosisを抑制することによって赤血球の産生を調節する造血因子である.したがって,血清Epo濃度の測定は,生体内での赤血球造血の状態を把握するうえで有用な指標になる.

HLA検査と染色体検査

HLA系とHLAタイピング

著者: 高田肇 ,   猪子英俊

ページ範囲:P.698 - P.705

 免疫応答において,自己を自己以外の他者(非自己)から識別するための遺伝マーカーとして,その中心的役割を担っている主要組織適合性(遺伝子)複合体(major histocompatibility complex:MHC)抗原は,ヒトではHLA抗原と呼ばれ,第6染色体短腕(6p21.3)上のHLA領域の遺伝子群によってコードされ,主に細胞膜表面に発現している.
 HLA抗原は自己と非自己の識別因子にふさわしく,数多くの対立形質(アロ抗原型)から構成されている(遺伝的多型性).現在公認されているアロ抗原型は161個(遺伝子をもとにした対立形質は112個,表1)であり,1994年3月,ストラスブールでのWHO命名委員会で公認された対立遺伝子(アリル)数は430個にのぼる1).また,その後も新しい特異性を認識するアロ抗血清の発見,モノクローナル抗体やT細胞クローンの作製,遺伝子の塩基配列の決定によって,その数はさらに増加すると予想される.

染色体検査

著者: 末原則幸

ページ範囲:P.706 - P.708

検査の目的・意義
 ヒトの染色体数が明確になったのは1956年であり,1959年,初めて染色体異常が報告された.現在行われている染色体分析の基本は,1961年頃に完成されたといわれている.しかし1968年,CasperssonらによってQバンド法が開発され,その後相次いで各種の分染法が開発され,染色体分析の技術は一気に進歩し,部分トリソミーなど細かな染色体異常が報告されるようになった.そして,1978年には現在の染色体分析の形は概略整い,当初,もっぱら染色体異常症(症候群)の診断に用いられていた染色体分析も,異常染色体の由来の同定や,骨髄細胞や固形腫瘍を検体とし,白血病や固形腫瘍の治療や再発などの指標に用いられるようになっている.また,婦人科領域では絨毛性腫瘍の成因に迫る解析がなされた.その後,高精度分染法の時代に入り,詳細な染色体異常の診断や染色体切断点の解析が行われ,また遺伝子地図の作成に大いに寄与した.
 臨床においても,原因不明の精神発達遅滞があれば染色体検査が行われるまでになった.

細菌検査

病原微生物の決定

著者: 町田勝彦

ページ範囲:P.710 - P.714

検査の目的・意義
 感染症患者の原因微生物を決定することは,その感染症に特有な薬物療法を含めた治療法を決めるのに有効であるだけでなく,防疫対策の必要性や予後の判定などを考慮するのに重要である.しかし,近年は易感染宿主が弱毒菌や常在菌に感染する日和見感染症が増加しているので,宿主側の感染防御能の検査結果などを総合的に考慮して判断しなければならない症例もある.

喀痰の細菌検査

著者: 石田一雄 ,   賀来満夫

ページ範囲:P.715 - P.717

検査の目的・意義
 呼吸器感染症に罹患した場合,一般に気道の分泌が過剰となり,喀痰として排出される.これは,炎症の原因菌(起炎菌)を体外へ排出しようという生体防御反応であるが,それゆえ喀痰中には起炎菌が多量に含まれており,喀痰を細菌学的に検査することにより,その患者の呼吸器感染症がいかなる種類の病原体によって生じているのかが明らかとなる.しかしながら,上気道および口腔には病原菌以外の一般細菌(常在菌)が一定量存在しており,これら常在菌を起炎菌と区別することが重要となる.今回は,呼吸器感染症の起炎菌決定に当たっての喀痰の細菌学的検査の意義および種類,方法について解説を行う.

細菌尿検査

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.718 - P.719

検査の目的
 尿路感染症の診断に細菌尿があるかどうか,その決め手にする.
 尿路感染症の臨床検査診断は尿の細菌学的検査により行われる.

血液培養検査

著者: 熊坂一成

ページ範囲:P.720 - P.721

検査の目的・意義
 菌血症・敗菌血の確定診断のために必要な検査である.悪寒,戦慄を伴う弛張熱で始まるような典型的な症状を呈さない敗血症も多い.老人では無熱性敗菌血がみられ,この場合は精神症状の不可解な変化や白血球数の増加など,些細な症状が敗血症に気がつくきっかけとなる.新生児やステロイド療法を受けている患者などでも同様なことがいえる.今日では,古典的な敗血症は減少し,opportunistic infectionとしての敗血症がほとんどを占める.

感受性検査

著者: 山口惠三

ページ範囲:P.722 - P.724

検査の目的・意義
 薬剤感受性試験は,感染症患者への抗菌薬の選択を考えるうえで重要な検査法の一つとなっている.臨床で行われている薬剤感受性試験は,ディスク拡散法による半定量的検査法が主流を占めているが,最近では微量液体希釈法を用いた,より定量的な最小発育阻止濃度(minimum inhibitoryconcentration:MIC)を報告する施設も増加しつつある.しかし,感受性試験結果はあくまでも試験管内における病原体と抗菌薬の関係を観察したものであり,感染症患者という生体内での両者の関係を確実に反映するものではない.したがって,臨床においてこの感受性試験を最大限に活用するためには,その有用性および問題点を良く熟知したうえで抗菌薬の選択を行うことが必要である.

一般検査 尿検査

尿量/尿比重/尿pH

著者: 惠以盛 ,   下条文武 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.726 - P.728

 一般に尿検査では,一時尿について,尿蛋白,尿糖,潜血反応,ウロビリノーゲン,さらに尿沈渣の鏡検が行われるが,24時間蓄尿を行って,尿量,尿比重(一時尿でも行う),尿pH(一時尿でも行う)を測定することも極めて重要である.

尿蛋白

著者: 松信精一 ,   飯野靖彦

ページ範囲:P.730 - P.731

検査の目的・意義
 尿蛋白検査は,健康診断や外来診療の場で侵襲なく簡便に行われる検査であるが,非常に重要な意義を持つ検査でもある.一般的に,尿蛋白というと,腎疾患において糸球体から尿中に漏出する血漿由来の蛋白(主にアルブミン)と考えることが多いが,実際には,さまざまな疾患において,血漿由来め蛋白や,通常,血漿中に存在しない異常蛋白が尿中より検出されることを意味する.そのため,尿中に検出される蛋白の質的・量的な検索によって,その病態をある程度把握することが可能である.本稿では,尿蛋白の病態とその検査法の概略について述べる.

尿糖

著者: 中尾俊之

ページ範囲:P.732 - P.733

 尿中の主要な糖質はグルコース(ブドウ糖)であり,通常「糖尿」といえばブドウ糖尿のことである.

尿ケトン体

著者: 中尾俊之

ページ範囲:P.734 - P.735

 ケトン体とはアセト酢酸(AcAc),3-ヒドロキシ酪酸(3-OHBA)およびアセトンを総称したものである.日常診療上で尿ケトン体は試験紙法により検査が行われている.本法はAcAcに最も鋭敏であり,アセトンの感度はその1/10〜1/20で,3-OHBAには反応しない.

尿中ウロビリノーゲン

著者: 神谷康司 ,   中林公正

ページ範囲:P.736 - P.738

検査の目的・意義
 ウロビリノーゲンは,胆汁中の抱合ビリルビンが,下部小腸または大腸にて腸内細菌により還元されて生成される.このウロビリノーゲンの一部は,腸から再吸収されて門脈より肝臓に至り,その大部分は肝細胞により酸化されて再びビリルビンとなる.また,一部分はウロビリノーゲンのまま胆汁中に再排泄される(腸肝循環).さらに門脈より吸収された一部のウロビリノーゲンは,肝臓を通過して大循環に入り,腎臓より尿中へ排泄される.
 尿中ウロビリノーゲンは,肝細胞障害,体内ビリルビンの生成亢進,腸内容物の停滞などで増加する.肝細胞障害で尿中ウロビリノーゲン排泄が増加する機序は,肝臓における酸化能の低下による.慢性肝障害,特に肝硬変の場合は,肝内・肝外短絡により,門脈より大循環へ直接ウロビリノーゲンが移行することも一因となる.肝細胞障害の機序が加わると酸化能の低下も加わり,増加は著明となる.また,総胆管閉塞,肝不全末期などでビリルビンが腸内に排泄されない場合には,減量もしくは欠如する.高度の腎機能障害が存在すると,尿中への排泄障害のために低値を示す.

尿ビリルビン

著者: 神谷康司 ,   中林公正

ページ範囲:P.739 - P.741

検査の目的・意義
 間接(非抱合)ビリルビンは,その80%は老化赤血球の破壊によって生じるヘモグロビンに由来し,網内系で生成される.残りの20%は,老化赤血球以外のヘモグロビン合成に関連する過程や骨髄での赤血球破壊,無効造血,さらにミオグロビンなどのヘム蛋白から生成される(シャントビリルビン).この間接ビリルビンは,アルブミンと結合した非水溶性の状態で肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け,水溶性の直接(抱合)ビリルビンとなり,胆汁中へ排泄される.肝細胞障害性黄疸や閉塞性黄疸では,直接ビリルビンが血中に逆流するが,その値が2.0〜3.0 mg/dl以上となれば,尿中に排泄される.しかし,溶血性黄疸などで上昇する間接ビリルビンは,アルブミンと結合しているため血中で高値になっても尿中には排泄されない.尿ビリルビン検査は黄疸の診断・鑑別に重要な検査である.また,すでに診断の確定した尿ビリルビン陽性患者においては,経過判定に利用し得る.

尿ポルフィリン体

著者: 竹内意 ,   織田昭義 ,   両角國男

ページ範囲:P.742 - P.744

検査の目的・意義
 ポルフィリンは,ヘモグロビンなどヘム蛋白の構成成分であるヘムの前駆物質である.ヘム合成はグリシンとサクシニルCoAを素材として行われるが,その中間産物であるウロポルフィリン(UP),コプロポルフィリン(CP),プロトポルフィリン(PP),さらに前駆物質であるδ-アミノレブリン酸(ALA),ポルフォビリノーゲン(PBG)を含めてポルフィリン体(P体)と呼ぶ.特に造血系と肝で合成が盛んであるため,尿中P体のほとんどはこの両臓器に由来している.
 ポルフィリンの水溶性はカルボン酸基の数に比例する.水溶性の最も低いPPは胆汁中に排泄され,尿中にはほとんど検出されない.またCPは一部尿中に排泄される.このため尿ではALA,PBG,UP,CPが,糞便ではCP,PPが測定される.また赤血球ではUP,CP,PPが測定対象となる.

尿中β2-マイクログロブリン/α1-マイクログロブリン

著者: 藤井謙裕 ,   土肥和紘

ページ範囲:P.745 - P.747

検査の目的・意義
 β2-マイクログロブリン(β2-m)とα1-マイクログロブリン(α1-m)は,尿中低分子量蛋白(lowmolecular weight protein)の主成分である.β2-mは分子量11,800 daltonで,すべての有核細胞で産生される.α1-mは分子量が33,000 daltonで,主として肝細胞で産生される.この両蛋白質は,低分子量であるために糸球体基底膜を容易に通過し,糸球体濾液として尿細管腔に到達する.尿細管腔に到達したβ2-mとα1-mは,95〜97%がエンドサイトーシスによって近位尿細管上皮細胞に取り込まれ,ライソゾーム酵素によってアミノ酸に異化される.
 β2-mとα1-mの尿中排泄が増加する機序には,①血中濃度の上昇,②尿細管機能障害,の2つが考えられる.血中濃度の上昇には,産生過剰による場合と,糸球体からの排泄障害による場合とがある.つまり,血中濃度の上昇に伴って,尿細管上皮細胞での再吸収能を凌駕する多量のものが尿細管腔に濾過されることになり,尿中排泄が増加する.また,尿細管上皮障害によって再吸収能が低下する場合も,尿中排泄は増加する.

尿潜血

著者: 齊藤博

ページ範囲:P.748 - P.749

検査の目的・意義
 尿潜血反応は腎臓から尿道にいたる幅広い領域の情報を与える.試験紙法は溶血などによるヘモグロビン尿,ミオグロビン尿などでも陽性を示す.したがって,尿潜血が陽性の場合は必ず尿沈渣の検査を行い,赤血球の存在を確認すると同時に,その赤血球の形態について検討する必要がある.

尿沈渣

著者: 石川勲

ページ範囲:P.750 - P.752

尿沈渣の目的・意義
 尿沈渣は腎・尿路系の疾患を診断するうえで最も重要な多くの情報を提供する1).すなわち,尿沈渣所見を十分得ることによって,腎における組織学的変化が推定できるのである.例えば,一般検尿で潜血反応が陽性の場合には,尿沈渣で赤血球の有無とその形態を観察することによって,その原因が血尿によるものか他の色素尿によるものか,あるいは糸球体由来の血尿か,泌尿器科的疾患による血尿か鑑別できるのである.なぜなら,円柱はTamm-Horsfallムコプロテインを基質とし,これに種々の細胞成分や蛋白成分その他を取り込み,尿細管内で形成されたものであり,円柱には円柱が形成された遠位尿細管や集合管など尿細管の太さ,尿細管腔内に存在する成分,停滞していた時間など多くの情報が反映されているからである.そこで,このように円柱の観察を通して腎の組織学的変化を推定するのである.

糞便検査

便潜血反応

著者: 伊藤機一

ページ範囲:P.753 - P.755

 大便中に微量に含まれる血液を,ヘモグロビン(Hb)のもつ化学作用または抗原性を利用し検出することにより,消化管出血の有無を知る検査が便潜血反応(便潜血検査ともいう)である.今世紀初頭より用いられてきたグアヤック法などの「化学法」は,簡単に実施できるものの,検査3日前から肉類を含む食品を摂ってはならない,鉄剤やアスコルビン酸を服用してはならないといった被検者にとって煩しい“制約”が必要であった.
 1980年代に入り,抗原抗体反応を利用した「免疫法」が開発され,ヒトHbに特異性が高いこと,検査前の制約が不要なことなどから脚光を浴びた.これに拍車をかけたのが1992年,老人保健法の改正により免疫便潜血反応が大腸癌のスクリーニング検査法として承認を受けたことであり,本法の需要はまさにウナギのぼりの状態となり,現在,臨床検査薬メーカーの主力製品(50億円市場)にもなっている.

虫卵検査

著者: 三瓶孝明 ,   伊藤機一

ページ範囲:P.756 - P.759

 寄生虫症の診断には,糞便,尿,血液などからその虫体,虫卵,原虫嚢子などを直接検出する方法と,免疫反応その他を利用して間接的に寄生虫感染を証明する方法がある.最近のわが国における寄生虫症は,その感染要因の多様化によって多種の幼虫移行症,AIDSなど免疫不全に乗じて発症する疾患や,海外輸入寄生虫症など多種多様にわたっている.これらの寄生虫症の診断に際しては,正確かつ迅速でなければならない.この稿では糞便での検査法について述べる.

髄液その他の穿刺液

穿刺液検査

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.760 - P.761

検査の目的・意義
 臨床検査としての穿刺液には胸水,腹水,心嚢液,関節腔液,陰嚢液などがある.ここでは,臨床検査の頻度の高い胸水と腹水についてまとめて述べることにしたい.
 胸水・腹水の検査は,貯留液が滲出液か漏出液かの診断と,その成因は何かの基礎疾患の診断が目的となる.

髄液検査

著者: 森若文雄 ,   田代邦雄

ページ範囲:P.762 - P.764

検査の目的・意義
 脳脊髄液(cerebrospinal fluid,以下髄液)は脳室とくも膜下腔を満たし,神経組織に隣接し,取り囲んでいる.神経系を侵す病変が存在する場合には,髄液の性状に変化がみられることが少なくなく,髄液検査は神経疾患の診断,治療において必要不可欠なものといえる.その採取には腰椎穿刺法が一般的に行われるが,時に後頭下穿刺法も用いられる.

関節液検査

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.765 - P.767

検査の目的・意義
 関節液は正常の関節でも存在するが,ごく少量であり,徒手的には確認できない.関節穿刺で関節液が得られた場合は病的状態であると考えてよい.関節液の検査は,ある疾患では確定診断に,ある疾患では補助的診断として有用である.本稿では外来で簡単にできる検査項目について記載する(表1).

病理検査

穿刺吸引細胞診

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.770 - P.772

 病理診断は病変の確定診断(確診)としての役割を担っている.ところで,病理診断の手法には細胞診,組織診,電子顕微鏡検査などがある.このうち,組織診が従来より確定診断に用いられており,“確定診断”=“組織診”という関係は病理診断のセントラル・ドグマとなっている.
 他方,剥離細胞診として出発した細胞診は補助診断の一つに位置づけられてきた.しかし,近年,穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration:FNA,aspiration biopsy cytology:ABC)が普及するに至り,本法による診断の中には確定診断としての扱いを受けるものも出現してきた.

病理診断における電子顕微鏡の応用

著者: 覚道健一 ,   宇都宮洋才

ページ範囲:P.773 - P.777

臨床における電子顕微鏡の有用性
 電子顕微鏡が研究目的のみならず日常の病理診断に用いられるようになって久しい.近年は免疫組織化学の進歩により,この2つの解析法が形態的な診断の中心的役割を担っている.特に腫瘍の病理診断においては広い範囲を検索できる免疫組織化学を用い,多くの症例で光顕レベルで十分診断が可能となってきた.腫瘍の病理診断ではその腫瘍細胞の起源,例えば上皮性か非上皮性かを明らかにすることが最も大切なことであり,その目的で種々の免疫染色を施行する.しかし,免疫組織化学的検索では,結果判定が困難な場合にしばしば遭遇する.すなわち,陽性か陰性か判然としない場合や,偽陽性,偽陰性の場合などである.その点,電顕による検索では細胞内外の小器官の有無や発達の程度を知ることが診断の助けとなることが多い.以下に具体例をあげて解説する.

迅速病理診断

著者: 林雄三

ページ範囲:P.778 - P.779

 1960年,HustonのM. D. Anderson病院癌研究所で開発されたcryostatによる迅速組織氷結検査法は,その後,種々の改良が加えられた結果,paraffin標本(以下,Pa-標本)に近い組織標本の作製が可能となり(図1),その適応範囲と診断精度は飛躍的に進歩した.そして近年,外科的治療の増加に伴い術中迅速組織診の重要性はさらに増し,依頼件数は増加の一途をたどっている.迅速の名のとおり極めて早く診断が得られるが,この方法には種々の制約があるので,その点を理解したうえでの本法の利用が必要である.

病理診断における免疫組織化学の応用

著者: 加藤良平

ページ範囲:P.780 - P.781

検査の目的・意義
 免疫組織化学は,抗体が特定の物質(抗原)に結合する性質(抗原抗体反応)を利用するもので,目的とする物質に対する抗体を動物あるいは細胞を用いて作製する.その抗体にマーカー(蛍光色素,酵素など)を標識し,そのマーカーを発色させることにより間接的に特定の物質を組織切片上で検出する方法である(図1).現在,極めて多数の物質に対する抗体が市販されており,組織あるいは細胞に含まれる病理診断上重要な物質を組織切片上で鋭敏かつ特異的に検出することが可能である.

癌遺伝子・癌抑制遺伝子と病理診断

著者: 小山徹也 ,   柏原賢治 ,   桜井信司

ページ範囲:P.782 - P.784

 現在,多数の癌遺伝子,癌抑制遺伝子が発見され,発癌においてその異常が報告されている(表1).現在のところ,実際の病理診断に利用されているものはそれほど多くはない.腫瘍が複数の遺伝子異常により多段階に発生すると考えられ,必ずしもkey oncogeneが明らかでないからであろう.また通常のホルマリン固定パラフィン包埋材料で利用可能なものもあるが,新鮮材料での検索可能なものが多い点にも注意すべきである.ここでは主として固型腫瘍の診断にしぼって,いくつかの癌遺伝子,癌抑制遺伝子について,①検査の目的と意義,②検査の種類と方法,③疾患・病態との関係,臨床的有用性の順序で述べ,最後に造血器の腫瘍について触れる.

機能検査とDNA診断 機能検査

クレアチニンクリアランス

著者: 葉山修陽

ページ範囲:P.786 - P.787

検査の目的・意義
 溶質Xのクリアランス(Cx)とは,X時間あたりに尿中排泄量を血清濃度に換算した場合の流量として表現したもので,溶質Xの尿中濃度(Ux)と血漿中濃度(Px)の比と,尿流量Vによって求めることができる.
Cx=Ux/Px×V
 したがって,糸球体で①糸球体毛細血管壁を自由に通過,②尿細管から再吸収も分泌もされない,③腎にて合成も分解もされない.以上の条件を満たすものが,正確に腎糸球体濾過値(GFR)を反映する.

Fishberg濃縮試験

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.788 - P.789

尿濃縮の機序
 正常の腎臓は1日500〜600mOsmの溶質を排泄する.それに見合う等張の尿が排泄されるとすると,1日の尿量は約2lである.
 尿の濃縮は図1に示すような機序によって行われている.この機構はカウンターカレント系と呼ばれている.まず,糸球体で濾過された尿は,Henleの下行脚に向かっていく間に水が間質に流出し,管腔内のNaC1濃度は上昇する.そしてHenleの係蹄の折り返し部分で,管腔内外の浸透圧はほぼ等しくなる.さらに,尿細管流はHenle上行脚に至ると,尿素より透過性に優れたNaClが主として受動的に管腔外に移行する,さらにHenle上行脚の太い部分は水に対して不透過性であり,Na,Cl,Kの共輸送が起こる.さらに,尿素は遠位尿細管に至るまではほとんど再吸収されずに遠位尿細管に入りこんでくる.ここではNa,Clは再吸収されているために,尿素を含んだ低張液が遠位尿細管に流入してくる.この結果,管腔周囲の間質の溶質濃度は上昇する.

PSP排泄試験

著者: 若林良則 ,   山田研一

ページ範囲:P.790 - P.791

検査の目的・意義
 Phenolsulfonphthalein(PSP)は,体内で代謝されずにほとんど腎のみから速やかに排泄され,かつアルカリ添加により簡単に発色定量できる.PSPを負荷して尿中への排泄量を測定することにより腎機能をみるのがPSP排泄試験である.
 静注されたPSPは,20%が遊離の状態で存在し,そのうちの20%(全体の4%)が糸球体で濾過される.残りの96%は近位尿細管からほほ選択的に能動分泌され,尿細管のその他の部位では分泌も再吸収もされない.したがって,原理的には本試験によって近位尿細管の排泄能力を判定し得るが,試験時のPSPの血中濃度(約0.2mg/dl)は近位尿細管における分泌極量(35〜40mg/dl)よりかなり低いため,PSPの排泄量は近位尿細管機能よりも腎血漿流量(RPF)を反映する.

ICG排泄試験(インドシアニングリーン排泄試験)

著者: 井上和明 ,   与芝真 ,   関山和彦

ページ範囲:P.792 - P.794

検査の目的・意義
 ICG(indocyanine green)は血中に注入されると,大半がα1リポ蛋白と結合し,肝外で代謝・排泄をほとんど受けることなく,肝細胞内でも抱合を受けずに胆汁中に排泄される.日常臨床においては簡便なために,15分後の血中停滞率(ICGR15)が汎用されている.同時にICGの血漿消失曲線よりICG血漿消失率(KICG)も求められる.
 この検査を行う目的は,急性肝炎の回復の判定や,慢性肝疾患の診断と予後判定,肝切除の術前の予備能判定などにおいてである.

PFD試験

著者: 加嶋敬 ,   細田正則 ,   山根行雄

ページ範囲:P.795 - P.797

検査の目的・意義
 膵疾患の診断や重症度判定を行う際には,膵機能を評価しなければならない.特に慢性膵炎では膵実質の脱落,線維化,膵管系の変化などにより,膵液量,膵液中の膵酵素,重炭酸塩の分泌低下が起こり,膵外分泌機能低下が診断根拠の一つとなる.
 膵外分泌機能検査法としては,被検者への侵襲が少なく,操作も簡便で短時間にでき,かつ障害の程度を正確に把握できる方法であることが理想である.また,診断確定後においても治療効果の判定,膵障害の進展の有無について経時的に反復施行でき,再現性や感受性に富むことも要求される.しかし,現時点ではそれらの条件をすべて満足させる検査法は存在しない.

DNA診断

DNA検査診断法

著者: 巽圭太

ページ範囲:P.798 - P.801

 遺伝子工学の進歩により,1980年頃よりDNA検査が研究室レベルで可能になり,最近では臨床レベルで,感染症における病原微生物の同定,遺伝病における病因遺伝子の同定,癌における変異遺伝子の検索などでDNA診断が利用され始めている.本稿では,現在DNA検査診断に用いられている基本技術を中心に述べる.

病因遺伝子の単離法

著者: 巽圭太

ページ範囲:P.802 - P.804

 ヒトのゲノム(ヒトをヒトたらしめる遺伝情報の総体)は22対の常染色体,1組の性染色体(XXまたはXY)とミトコンドリアDNAの合計30億塩基対からなり,10万種類の遺伝子が存在する.これらの遺伝子のうち,約1,000種類は精製された蛋白からアミノ酸配列が同定され,その数倍がDNAやmRNAの塩基配列から同定されたが,残る9割以上の遺伝子は未知のままである.
 現在,病因遺伝子として変異の発見された遺伝子は数百個あるが,その第一歩はいずれにおいても病因となる可能性のある遺伝子(病因候補遺伝子)を単離することから始まり,さらに症例で解析して遺伝子異常を見つけ出し,また遺伝子の生理的な機能,発現組織を解析するとともに,発見された遺伝子異常が機能異常を起こすことを示すことにより初めて病因遺伝子と結論される.本稿では,このうち病因候補遺伝子の単離法を述べる.

感染症のDNA診断

著者: 高野徹 ,   網野信行

ページ範囲:P.805 - P.807

検査の目的・意義
 PCR(polymerase chain reaction)の開発以来,DNA診断の分野の発展はめざましいものがある.数年前より感染症の領域にもDNA診断の技術が取り入れられるようになり,これまでの培養同定法,抗原・抗体法に続く方法として,将来的な発展が期待される分野である.
 DNA診断法の利点として,材料が少量でよいこと,また必ずしも生菌である必要はなく,危険な菌や,培養の困難な菌,ウイルスの同定に有利なことがあげられる.またDNAは蛋白質などと比べると生化学的に安定であり,例えば,パラフィン固定標本から,レトロスペクティブに感染の有無を判断することも可能である.

遺伝病のDNA診断

著者: 阿部達生

ページ範囲:P.808 - P.810

 遺伝子は生物の設計図であり,ヒトでその数は5〜10万とみなされていて,そのそれぞれが身体を構成するさまざまな蛋白をコードする.一方,単一遺伝子に生じた突然変異が主な原因となって発病するメンデル遺伝病はすでに4,000以上が確認されている.

癌のDNA診断

著者: 阿部達生

ページ範囲:P.811 - P.813

 つい先頃まで,環境変異原への曝露が癌の主な原因であるとする考えが支配的であった.ところが最近,著名な細胞遺伝学者Rowleyはしばしば“Cancer is a genetic disease”と述べている.したがって,表題の“癌の遺伝子(DNA)診断”を記述する前に,癌発生についての考え方を整理しておく必要があると思われる.

生理機能検査 心機能検査

12誘導心電図

著者: 三田村秀雄

ページ範囲:P.816 - P.819

検査の目的・意義
 心臓病の主たる生理的病態は虚血,不整脈,心不全の3つであるが,このうち前二者の診断には心電図が欠かせない.12誘導心電図はなかでも虚血や梗塞の診断に威力を発揮する.不整脈の診断にはより長時間の心電図記録が役立つが,刺激伝導系の伝導障害については,12誘導心電図によって診断できることも多い.
 このほか12誘導心電図は心臓の位置,形態,肥大の程度などの情報を簡便に(機械的に)提供するため,多人数の健康診断の手段としても極めて有用である(表1)1,2)

マスター2階段負荷心電図

著者: 岡本登

ページ範囲:P.820 - P.823

運動負荷心電図の目的・意義
 運動負荷心電図の主な目的は,虚血性心疾患の早期診断および心機能評価・重症度診断である.その他治療効果や予後の判定,運動機能訓練やリハビリテーション,さらに住民検診や職場検診,スポーツ検診(メディカルチェック)など,運動負荷検査の適応は広く,その臨床的意義は大きい.

トレッドミル負荷心電図

著者: 松﨑益徳 ,   古谷雄司

ページ範囲:P.824 - P.826

 運動負荷試験は冠動脈疾患の診断および重症度判定のほか,心機能や運動耐容能の評価だけでなく運動療法のために広く施行されている.種々の負荷試験の中でも,トレッドミル負荷は十分な負荷量が得られ,生理学的にも適した動的負荷法であるが,高齢者には施行が困難なこともある.

ホルター心電図

著者: 松田直樹

ページ範囲:P.829 - P.831

検査の目的・意義
 Holter博士によって開発された長時間心電図記録法(ホルター心電図)はこの20年間に急速に普及し,現在では循環器領域,特に不整脈の評価法として必要不可欠な検査となっている.本法の最大の利点は,日常生活中に長時間(通常24時間)にわたって心電図が記録できることにある.不整脈や狭心症の診断には発作時の心電図をとらえることが最も重要であるが,外来の安静時3分間心電図で発作時の心電図を得ることには限界があり,この点でホルター心電図は極めて有用である.また,入院や負荷試験などの特殊な状況ではなく,通常の日常生活中からの情報であることから,その臨床的価値は非常に高い.ボルター心電図を行う主な目的として以下の3つが挙げられる.
 1)自覚症状と心電図変化との関係の評価

心室遅延電位

著者: 下野真由美 ,   藤木明 ,   井上博

ページ範囲:P.832 - P.833

検査の目的・意義
 加算平均心電図は,従来の体表面12誘導心電図では記録できなかったμV単位の心臓の微小電位の測定を可能とした.特に,心室遅延電位(latepotential)の検出が,心筋梗塞後の症例の心室頻拍など重症心室不整脈の予知に有用であるとされる1).一般に不整脈の診断は,12誘導心電図やホルター心電図などにより行われるが,不整脈が認められない際には診断が困難となる.しかし,遅延電位は不整脈の認められない時期でも非観血的に検討できる利点がある.

心臓超音波検査

著者: 永野玲子 ,   増山理 ,   堀正二

ページ範囲:P.834 - P.836

 近年の超音波心臓診断装置の進歩は著しい.従来はMモードおよび断層心エコー図による形態診断が中心であったが,現在ではドプラ法を用いることにより血流や機能の情報をも得ることが可能である.臨床の現場では従来の心エコー法により得られる形態情報とドプラ法により得られる血流・機能情報を統合して超音波診断がなされる.それぞれの手法をいかに統合して心疾患の診断を行うかの詳細は成書に譲り,本稿ではこれらの手法それぞれの特徴を中心に解説したい.

心音図

著者: 福田信夫 ,   田畑智継 ,   大木崇

ページ範囲:P.837 - P.841

検査の目的・意義
 心音図は,心血管系の聴診所見を客観化し,心音および心雑音を視覚的に捕捉することにより,心疾患の診断および病態把握を容易にすると同時に,聴診能力の向上にも役立つ検査法である.

肺機能検査

スパイログラム

著者: 長坂行雄 ,   藤田悦生 ,   中島重徳

ページ範囲:P.842 - P.843

検査の目的・意義
 スパイログラムの目的は,換気障害のパターン(拘束性か閉塞性か,あるいは混合性か)と,その程度を知ることで,これは特に慢性呼吸器疾患の鑑別に重要である.スパイログラムで最も重要な検査値は(%)肺活量と1秒量(1秒率)で,再現性も良好で,病状の経過をみるのにもよい.その他の数値は鑑別診断には重要でないが,患者の症状などに生理学的な解釈を加える場合には役立つ.本稿では最近,気管支喘息診療によく用いられるピークフローについても解説する.

肺気量分画

著者: 桑平一郎 ,   太田保世

ページ範囲:P.844 - P.845

 肺気量の諸量は図1のように分類され,最小単位となる4つの基本容量(volume)と,この組み合わせからなる4つの肺容量(capacity)により構成される.肺気量分画のうち全肺気量(TLC),機能的残気量(FRC),残気量(RV),肺活量(VC)が重要な指標となる.この中でVC以外の指標は最大呼出時に肺内に残存する気量,すなわちRVの測定を必要とする.VCをはじめとする呼出可能な気量は,前項のスパイロメトリーにより測定されるので,ここではTLC,FRC,RVおよび残気率(RV/TLC)を中心に述べる.

肺内ガス分布

著者: 小山信一郎 ,   堀江孝至

ページ範囲:P.846 - P.847

検査の目的・意義
 肺内に吸入されたガスは,正常者でも不均一に分布し,立位では,その多くが下肺に達する.この換気不均等は各種疾患において増強され,ガス交換障害の原因となる.したがって,換気不均等が増強された状態を早期に知ることは,疾患の早期発見にもつながり,重要である.

肺拡散能力

著者: 小川浩正 ,   飛田渉

ページ範囲:P.848 - P.849

検査の目的・意義
 肺拡散能検査は,肺胞から肺毛細血管へのガスの移動の効率を求めるものである.したがって,本来のところ酸素(O2)についての肺拡散能力の測定が行われるべきであるが,理論的,技術的制約のため,一般的には低濃度のCOについての肺拡散能力(DLco)が用いられている.その理由として,一酸化炭素(CO)のヘモグロビンに対する親和性がO2の210倍と極めて大で,低濃度のCO(通常0.3%)で測定が可能であること,また肺毛細管内のCO分圧を0とみなすことができるので肺拡散能力の算出が容易なこと,があげられる.
 DLcoは,DLco=〔1分間に肺毛細血管膜を通って拡散するCO量(ml/min)〕/〔平均肺胞気CO分圧(mmHg)〕で示され,1mmHgのガス分圧差があるとき1分間に移動したCO量とされる.肺拡散能力の測定であるが,臨床的には主に単一呼吸法で行われている.これは,COを含む混合ガスを残気量位から最大吸気位まで1回吸入させ,10秒間息こらえさせた後,できるだけ速く呼出させて,その呼気ガス内のCO濃度を測定して,CO拡散量を測定するものである(この際,呼気の最初の750mlは,気道死腔として捨てる).

脳神経機能検査

脳波

著者: 黒岩義之

ページ範囲:P.850 - P.851

 検査の目的・意義
 脳波は,大脳や脳幹の機能障害を非侵襲的に検査する方法として意義を持つ.主な目的は大脳の全汎性異常と限局性異常の鑑別,てんかん性異常の検出,大脳の限局性異常の部位の決定,脳死判定への応用などである.脳波の応用的な検査法として,脳波に表面筋電図を組み合わせたポリグラフ測定,大脳・脳幹誘発電位,事象関連電位,脳波トポグラフィなどがあげられる.

筋電図

著者: 栗原照幸

ページ範囲:P.852 - P.855

検査の目的・意義
 筋電図室で行う検査は,①針筋電図,②末梢神経伝導速度,③神経反復刺激検査,の3つに分けることができる.本稿では,針筋電図についてどのような疾患で行うか,また検査の意義と読み方について述べる.

末梢神経伝導速度

著者: 渡辺知司

ページ範囲:P.856 - P.857

 末梢神経伝導検査は,1948年にHodesらによって初めて行われて以来,広く臨床応用され,今日では末梢神経疾患の診断に欠かせないものになっている.本稿では,末梢神経伝導速度(nerveconduction velocity:NCV)の測定法と正常値,異常値を示す病態と疾患,関連する検査,検査上の注意点などについて述べる.

誘発電位

著者: 宇川義一

ページ範囲:P.858 - P.859

誘発電位とは
 ヒトの脳の電気活動を記録しているものとして脳波がある.脳波は主としててんかんの診断に広く臨床応用されていて,脳内の現象をon timeで見ることができる.ヒトになんらかの外的刺激を加えた場合,脳波はそれに反応してなんらかの電気的変化が生じているはずである.この変化は脳波という経頭蓋的に電気現象を経時的にひろう方法ではとらえられない.そこで外部刺激をトリガーとして脳波を多数回加算し,この変化をとらえたのが誘発電位である.ごく微細な変化(μV)であり,1回の記録では背景脳波に埋もれて判別できないが,加算することにより反応として記録できるのである.

聴性脳幹反応

著者: 加我君孝

ページ範囲:P.860 - P.861

検査の目的・意義
 聴性脳幹反応(auditory brainstem response:ABR)は1970年にアメリカのJewett,イスラエルのSohmerによって見いだされた聴覚誘発電位の一つである.末梢性難聴の診断,聴神経腫瘍の診断,脳幹障害や脳死の診断の必須検査の一つとなっている.ABRが無反応であれば高度難聴か,蝸牛神経障害か脳幹死,ABRが正常であれば難聴はなく,脳幹障害もないというように,単純に考えて誤診をする例も少なくない.ABRの性質を知り正しく記録すること,ABRの結果を正しく評価できることが必要である.

前庭・聴力機能検査

標準聴力検査

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.862 - P.863

検査の目的・意義
 聴力検査は主として被検者の自覚的応答によって行われる心理学的検査の一種であるが,誘発反応などを用いた他覚的検査もある.心理学的検査の中で標準的に行われるのが,純音聴力検査であり,そのうちの気導聴力検査と骨導聴力検査が最も頻繁に行われる.ここでは主として気導・骨導検査について述べ,他の純音聴力検査である域値上検査や自記オージオメトリー,あるいは語音を用いた検査などについては言及しない.
 気導・骨導の検査はJIS規格に合致したオージオメーター(図1)を用いて検査する.気導は普段われわれが外界の音を聞いている経路であり,音が外耳道—鼓膜—耳小骨—内耳と入ってくる.検査は気導受話器を耳に当てて行う.一方,骨導は自分の声を聞いている経路で,音が頭蓋骨を振動させ直接内耳に到達する.検査は骨導受話器を乳突部あるいは前額部に当てて検査する.これらの検査から難聴の有無が分かる.また,難聴がある場合には,その難聴が伝音難聴であるか,感音難聴であるか,あるいは混合難聴であるかの鑑別ができる.

平衡機能検査

著者: 小松崎篤

ページ範囲:P.864 - P.867

 平衡機能検査の目的は,めまい・平衡障害の診断,あるいは経過観察に必要な機能検査ということができる.
 めまいや平衡障害の他覚的所見としては,眼振や異常眼球運動など眼球運動に現れた異常所見と,身体の動揺など身体に現れた異常の有無があり,それを検査するのが主な目的である.

眼科関連機能検査

眼底検査

著者: 岸章治

ページ範囲:P.868 - P.869

眼底検査の目的・意義
 眼底は脳から派生した網膜・視神経と,それを栄養する網膜血管と色素上皮・脈絡膜からなる.脳脊髄液を満たすくも膜下腔は眼球のすぐ後方まで続いており,脳圧の亢進は視神経乳頭の浮腫をきたす.眼底は,細動静脈から毛細血管までの血管系を直接,観察できる唯一の器官であり,高血圧,糖尿病,血液疾患などで診断的価値が高い.また網膜は透明であるため,滲出や虚血病変を白斑としてとらえることができる.
 眼底検査の目的は,眼に由来する訴えの原因を究明することと,全身病の一部としての眼合併症を調べることにある.後者の場合,眼科的には自覚症状のないこともある.しかし,放置すれば,失明につながりかねない場合もある.表1に眼底検査が絶対必要な疾患と,補助診断として有用な疾患を記した.また眼科的な訴えと,その場合の代表的な疾患をあげた.

基本情報

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出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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