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雑誌目次

雑誌文献

medicina31巻13号

1994年12月発行

雑誌目次

今月の主題 狭心症—診断と治療の進歩 Editorial

わが国における狭心症の諸問題

著者: 中野赳

ページ範囲:P.2512 - P.2514

ポイント
●狭心症の成因について,形態学的変化から生化学的変化,分子レベルまで解明しようと試みられている.
●粗死亡率が戦後増加したが,1975年以降は横ばいである.しかし,血清コレステロール値は増加しており,発生率の増加が予想される.
●CABG,PTCAの出現とともに,治療は格段の進歩をみせたが,それに伴い医療費も高騰している.特にnew deviceといわれるDCA,stentは非常に有力な治療法だが,高額である.
●日本人に最も適した狭心症の治療は,いまだ模索の段階である.

疫学

わが国における虚血性心疾患の位置づけ

著者: 嶋本喬

ページ範囲:P.2516 - P.2519

ポイント
●虚血性心疾患の死亡数および患者数は増加している.これは高齢者人口の増加によるものである.
●死亡率を年齢別にみると,各年齢層で低下している.したがって,粗死亡率は増加,年齢調整死亡率は低下している.
●わが国では心不全による死亡率が高く,この中には虚血性心疾患が多く含まれるため,死亡統計のみでは正確な実態は把握し難い.
●わが国の虚血性心疾患の死亡率,発生率は,現在も欧米諸国より低率である。
●発生率は大都市集団で増加傾向,農村では不変であるが,これは主な危険因子の動向とも一致する.

冠危険因子

著者: 松村康弘

ページ範囲:P.2520 - P.2521

ポイント
●冠心疾患の危険因子には,高脂血症,高血圧,喫煙,肥満,糖尿病の五大因子のほかに,運動不足,過度の習慣的飲酒,精神的・心理的ストレス,性格行動特性,高尿酸血症,血液凝固因子,閉経,加齢,遺伝素因などが指摘されている.
●冠危険因子は,一部を除いてライフスタイルと密接に関連しており,冠心疾患の一次予防の観点から,適切なライフスタイルを身につけるよう指導することが重要である.

成因

動脈硬化の発症機序

著者: 小山則行

ページ範囲:P.2522 - P.2524

ポイント
●動脈硬化症に認められる内膜肥厚形成には,中膜平滑筋細胞の内膜への遊走,内膜での増殖,細胞外マトリックスの合成が重要である.
●病巣形成の初期には,内皮細胞・血小板・マクロファージから平滑筋細胞の遊走因子・増殖因子などの刺激因子が分泌され,また内膜肥厚が進行する過程で,内膜の平滑筋細胞から同様の因子が分泌され病巣形成を促進している.
●高脂血症など動脈硬化症の危険因子は,内皮細胞や単球・平滑筋細胞に作用して平滑筋細胞の遊走・増殖を間接的に亢進させることにより,病巣形成を促進している.

冠動脈血栓生成のメカニズム

著者: 黒川浩史 ,   水野杏一

ページ範囲:P.2526 - P.2527

ポイント
●冠動脈血栓の生成の機序として内膜障害が重要で,内膜障害が起こるとまず血小板の粘着・凝集が内膜下の膠原線維で起こる.血管壁の組織因子が血液と接触することにより凝固系が賦活される.
●凝固系が線溶系より強くなると血栓は増大し,壁在血栓より閉塞性血栓へ進行し,不安定狭心症や急性心筋梗塞などの多彩な臨床症状を呈する.
●薄い線維性被膜,マクロファージの集積,脂質の沈着などの冠動脈粥腫の形態は内膜障害(粥腫破壊)の大切な要因である.

冠動脈攣縮の発生機序と病態

著者: 久木山清貴 ,   泰江弘文

ページ範囲:P.2529 - P.2530

ポイント
●冠動脈攣縮の発生には著明な日内変動があり,特に夜間から早朝にかけての安静時に出現しやすい.
●冠動脈攣縮の病態に自律神経系が関与している.
●動脈硬化などによる内皮傷害と,血管平滑筋の血管作動性物質に対する過敏性が冠動脈攣縮の発生機序の背景にある.
●Ca2+が重要な役割を有する.

冠血流と心筋虚血—特にsyndrome Xについて

著者: 濱口保武 ,   神原啓文

ページ範囲:P.2531 - P.2533

ポイント
●正常冠血管は冠灌流圧が変動しても,冠血流量をほぼ一定に保つ自己調節能がある.
●冠血管の自己調節には,血管内皮で生成されるプロスタサイクリン,エンドテリン,あるいは局所ホルモンであるEDRF(=NO)などが重要な役割を有する.
●Syndrome Xは,冠動脈造影上異常を認めないが,運動負荷により胸痛と虚血性ST低下を生じる病態と定義される.
●Syndrome Xは冠細小血管の機能障害が主たる原因と考えられているが,詳細は不明で,その予後は必ずしも良好とはいえない.

Coronary regression

著者: 山本章

ページ範囲:P.2534 - P.2536

ポイント
●粥状動脈硬化の発症・進展には高脂血症,耐糖能低下,高血圧,タバコ,ストレスというメジャーのリスクファクターがあるが,そのうち冠動脈硬化に最も強く働き,しかも定量的な関連性がはっきりしているのがコレステロールである.
●コレステロールを下げることによって動脈硬化性疾患の発生を予防しようとする動きに加えて,最近では,血管造影によってある程度の退縮の可能性を実証し,またおそらくはプラークの安定化によって心筋梗塞や心臓死のイベント発生を抑制できたとする論文が次々と発表されている.

診断

病歴聴取と理学所見の重要性

著者: 志賀幸夫 ,   鷹津文麿

ページ範囲:P.2538 - P.2541

ポイント
●胸部痛を訴えて受診した患者については,まず十分に病歴を聴取することが大切である.
●病歴聴取と同時に,的確な理学所見をとる必要がある.
●鑑別すべき各種疾患の特徴を熟知しておくことがポイントとなる.

狭心症を疑ったときのアプローチ法

著者: 横井尚 ,   山口洋

ページ範囲:P.2542 - P.2544

ポイント
●狭心症を疑ったときのアプローチとして,以下の順序で診断へと進めていく.
①臨床情報として詳細に病歴を聴取する.
②患者の臨床背景・身体所見をチェックする.
③冠危険因子の有無を調べる.
④安静時心電図変化を確認する.
⑤負荷検査(心電図,心筋シンチグラフィ,心エコー)を行う.
⑥負荷がかけられない場合,安静時狭心症を疑う場合,ホルター心電図を装着する.
⑦冠動脈造影を行う.

安静時心電図と運動負荷心電図

著者: 三宅良彦 ,   村山正博

ページ範囲:P.2545 - P.2547

ポイント
●胸痛患者の安静時心電図では非特異的な所見を見逃さないようにする.
●心筋虚血発現の判定には虚血性ST変化(ST下降・上昇)と陰性U波が重要である.
●運動負荷試験では見落とし(false negative)が35%,過剰診断(false positive)が10%程度ある.
●運動負荷試験は禁忌例には施行せず,負荷に際しては中止徴候に注意すれば,安全性は高い.

超音波検査の意義

著者: 時澤郁夫 ,   松﨑益徳

ページ範囲:P.2548 - P.2551

ポイント
●負荷心エコー法は狭心症の診断に非常に有用な検査法である.
●負荷心エコーにより壁運動の改善のみられないもの,新たな壁運動の低下を認めるものを心筋虚血陽性とする.
●負荷法は,運動負荷(エルゴメーター,トレッドミル)と薬物負荷(ドブタミン,ジピリダモール)が使用されている.
●薬物負荷心エコーは,良好な画像が得られ壁運動の記録や評価を容易にした.
●専用の画像処理装置の出現により,局所壁運動の評価がより簡便にかつ正確に行えるようになった.

心臓核医学検査とその展望—心筋シンチグラフィ

著者: 藤永剛 ,   村田啓

ページ範囲:P.2552 - P.2554

ポイント
●心臓核医学検査は,心筋虚血部位の検出において最も高い診断精度を持つ非観血的検査である.
201T1心筋シンチグラフィは虚血部位の検出のみならず,心筋viabilityの評価にも有用である.
99mTc標識心筋血流イメージング製剤は,心筋血流と心機能の同時評価が可能であり,緊急検査にも対応できる.
123I-BMIPP心筋イメージングは,心筋における脂肪酸代謝を反映する.
123I-MIBG心筋イメージングは,心臓交感神経活性および機能を生体内で評価し得る.

狭心症におけるMRの位置づけ

著者: 佐久間肇 ,   チャールズ B ヒギンス

ページ範囲:P.2555 - P.2557

ポイント
●MRIによる心筋虚血の診断は,最近の高速撮像法の進歩に伴い可能になりつつある.
●シネMRIによる左室機能評価は再現性に優れ,薬物負荷を用いれば,冠動脈狭窄に伴う左室壁運動異常を検出できる.
●造影剤投与後に高速ダイナミックMRIを行えば,虚血心筋は造影剤の流入が遅延するため,低信号領域として認められる.
●MRIを用いた冠動脈の血流速度計測も可能になりつつある.

冠動脈造影検査の今後の方向性

著者: 西田隆寛 ,   出川敏行 ,   山口徹

ページ範囲:P.2558 - P.2560

ポイント
●冠動脈造影により冠動脈の解剖,病変形態,冠攣縮,側副血行路が評価できる.
●冠動脈造影は狭心症の重症度,治療法の選択,治療効果判定に必要である.
●動脈造影の現時点での問題点は,侵襲的であること,入院を要すること,冠動脈病変の描出が不十分であること,シネフィルムを要すること,などである.
●近い将来,より侵襲が少なく,容易に止血でき,外来での検査が可能となり,また,画像処理のコンピュータ化,シネレス化により患者情報の活用が容易になると予想される.

無症候性心筋虚血

著者: 岸田浩

ページ範囲:P.2562 - P.2563

ポイント
●無症候性心筋虚血の原因としては,anginal warning systemの障害,心筋虚血の程度,痛みの感知の差,などがある.
●本症では,心電図のみならず,心筋血流減少,壁運動異常などを調べる検査法によって定量的診断を行うことが必要である.
●健常者における運動負荷心電図異常の診断には,負荷心筋シンチの評価が必要である.
●冠動脈疾患が明らかな例では,ホルター心電図によるST下降は評価できるが,陽性基準を満たすものに限る.

冠攣縮の診断法および誘発試験

著者: 白壁昌憲 ,   友池仁暢

ページ範囲:P.2564 - P.2566

ポイント
●詳細な病歴の聴取(夜間・早朝の胸痛発作など)は,冠攣縮を診断し,より適切な治療法を選択するうえで必須である.
●狭心症例で発作時にST上昇を示す場合は冠攣縮が関与している.
●冠攣縮の誘発には,運動負荷,過呼吸負荷,寒冷負荷などの非薬理学的方法と,エルゴノビンやアセチルコリンなどの薬理学的誘発法とがある.

治療総論

狭心症の治療法の選択

著者: 光藤和明

ページ範囲:P.2567 - P.2569

ポイント
●狭心症に対する治療の第一選択はPTCAを含めた冠動脈インターベンションである.
●冠動脈インターベンションが不可能なら冠動脈バイパス術(CABG)を考える.
●CABGが不可能か血行再建が不要なら,薬物療法のみを考える.
●安定狭心症一枝疾患に対しては,比較的広い領域の虚血を認めるときは薬物療法よりも冠動脈インターベンションが選択される.多枝疾患になるにしたがって手術のウェイトが大きくなる.
●薬剤不応性狭心症や梗塞後狭心症に対するPTCAの成績は必ずしも良くない.不安定狭心症はできるだけ薬物療法で安定化させたい.

高齢者や心機能低下を合併した狭心症の治療の基本

著者: 向井済 ,   林田憲明

ページ範囲:P.2571 - P.2573

ポイント
●狭心症と診断したら,まず侵襲的治療の適応となるか否かを判断する.適応がなければ,冠動脈造影も大動脈バルーンパンピングも必要ない.
●増加する高齢者の狭心症は,陳旧性心筋梗塞や多枝病変例が多い.抗狭心症薬は臓器機能の低下傾向のため少量投与を原則とし,副作用に注意する.
●心・腎機能低下,不整脈,冠動脈バイパス術(CABG)・冠動脈形成術(PTCA)後,高血圧,脳血管障害,感染症,脱水,貧血など特殊な病態で生じた狭心症には,原因となった病態と狭心症の治療をあわせ行う.

Conventional Therapy

一般療法—冠危険因子の是正

著者: 田村勤

ページ範囲:P.2574 - P.2576

ポイント
●新たな冠動脈狭窄の進展を予防するために,冠危険因子の是正は極めて重要である.
●冠危険因子としては,3大危険因子といわれる高血圧,高脂血症,喫煙のほか,糖尿病,虚血性心疾患の家族歴,肥満,ストレス,高尿酸血症などがあげられる.
●高脂血症は食餌ならびに薬物により血中コレステロール値を正常化し,HDLの上昇をはかり,高血圧も正常血圧にまで低下させる.喫煙者は完全喫煙とし,糖尿病も十分コントロールする.

亜硝酸薬の有用性と問題点

著者: 木之下正彦

ページ範囲:P.2579 - P.2581

ポイント
●硝酸薬は狭心症,急性心不全,急性前壁梗塞,急性高血圧,冠動脈造影時の冠攣縮緩解に有効である.
●硝酸薬の頻回,大量投与は耐性が生じやすい.
●耐性には血行動態耐性と生化学的耐性がある.
●血行動態耐性には神経体液因子の亢進,循環血漿量増加が関与する.
●耐性の回避には,無硝酸薬期間を置く間欠療法が現時点では最良の方法とされるが,その際硝酸薬の単独療法は勧められない.
●硝酸薬は外因性のNO(一酸化窒素)のドナーとして有望である.

β遮断薬の有用性と問題点

著者: 上田欽造 ,   玉井秀男

ページ範囲:P.2582 - P.2585

ポイント
●β受容体遮断薬は,内因性カテコールアミンとその受容体で競合的拮抗を行うことにより直接薬理作用を発現する薬剤である.
●β受容体遮断薬の主な抗狭心効果は降圧,徐脈,心筋収縮力抑制による心筋酸素消費量の減少であり,その適応の第一は心筋酸素消費量増大によりもたらされる労作性狭心症である.
●β受容体遮断薬の種類の選択に際しては,β1選択性か,内因性交感神経刺激作用の有無,α遮断作用の有無,中枢作用の有無(血液—脳関門通過性)などを考慮する.
●β受容体遮断薬の突然の中止により中断症候群(Withdrawal syndrome)を呈することがあり,注意を要する.

Ca拮抗薬の有用性と問題点

著者: 堀正二 ,   駒村和雄 ,   鎌田武信

ページ範囲:P.2587 - P.2589

ポイント
●Ca拮抗薬は冠攣縮性狭心症だけでなく,労作性狭心症にも有効である.
●Nifedipineの抗狭心症作用は冠動脈拡張作用が強く,diltiazemやVerapami1では心筋酸素消費量の抑制が大きい.
●Nifedipineとβ遮断との併用は両者の有利な作用(降圧と徐拍化)が強調されるが,diltiazemやVerapamilとβ遮断との併用は徐脈性不整脈・心収縮力抑制を認めるので注意を要する.
●Digitalis製剤と併用すると,digitalis血中濃度の上昇を招くことがあるため注意を要する.
●Cimetidineとの併用でnifedipine,verapamil,diltiazemの血中濃度上昇が認められている.

抗血小板薬

著者: 江見吉晴

ページ範囲:P.2590 - P.2591

ポイント
●狭心症の治療には,発作の寛解,予防,生命予後の改善が含まれる.
●抗血小板薬は血管障害因子の除去,血管内膜の保護の観点から,動脈硬化そのものの治療として期待し,使用されている.
●心事故発生の二次予防に抗血小板薬は効果がある.しかし,その種類,量には確立したものはない.
●健常成人に心事故の一次予防のために抗血小板薬を投与すべきかどうかは,相反する報告があり,確立されていない.

抗高脂血症薬

著者: 梶波康二 ,   馬渕宏

ページ範囲:P.2593 - P.2597

ポイント
●高脂血症の薬物療法はHMG-CoA還元酵素阻害薬の出現により大きく進歩した.
●高脂血症の治療により,冠動脈硬化症の進展予防のみならず,わずかながらもその退縮をもたらすことが可能である.また,病変の安定化を介して心事故を減少させることが示されている.
●高脂血症の治療目標は個々の症例別に設定されるべきであり,その際一次予防と二次予防の違い,年齢および性差を特に考慮すべきである.

不安定狭心症の薬物治療

著者: 土師一夫 ,   破戸克規

ページ範囲:P.2599 - P.2602

ポイント
●不安定狭心症の重症度は幅が広く,治療法の選択は重症度に応じた対策が重要である.
●不安定狭心症の薬物治療は軽症型では経口・外用薬,重症型では静注薬が中心となる.
●静注薬治療抵抗性の不安定狭心症に対して血栓溶解療法が有効な場合がある.
●不安定狭心症の約3/4は薬物治療で安定化する.

狭心症と運動療法

著者: 吉田秀夫 ,   道場信孝

ページ範囲:P.2604 - P.2605

ポイント
●運動療法は狭心症治療の第一選択ではなく,矯正可能な冠動脈病変に対する修復が十分に行われており,かつ薬物療法や非薬物療法によって安定状態にあるものを対象とするが,開始に際しては虚血や心機能,合併症や併存する疾患などが適切に評価されていなければならない.
●運動処方の内容は運動の強度,頻度,持続時間,種類,環境条件を含むが,最も重要なのは運動強度の設定であり,安全で効果的な動的運動が勧められる.
●狭心症患者ケアの目標は,身体適性の回復と維持および向上,さらに生活習慣の変容によって危険因子を矯正するとともに,QOLを高く維持することにあり,運動療法はこれらに対する有力なアプローチの一つと考えられる.

狭心症と不整脈治療

著者: 井上博

ページ範囲:P.2606 - P.2608

ポイント
●狭心症患者では各種の不整脈がしばしば合併し,時に治療上問題となる.
●両者は,①不整脈による狭心症発作の誘発,②狭心症発作に伴う不整脈(異型狭心症では失神や突然死の原因となり得る),③抗狭心症薬による不整脈の悪化(特にβ遮断薬やCa拮抗薬による徐脈性不整脈),④徐脈の治療による狭心症の増悪,という形で互いに関係し合うことがある.
●臨床上主に問題となるのは,上記②の場合であるが,この場合は狭心症の治療を第一義とする.
●頻脈性不整脈と狭心症を併せ持つ例には,β遮断薬やCa拮抗薬がよい適応となる.

Interventional Therapy

冠動脈バイパス手術の適応

著者: 布施勝生

ページ範囲:P.2611 - P.2614

ポイント
●欧米で行われたprospective studyの結果,内科治療との比較のうえで,安定狭心症に対する手術適応は次第に明らかになってきた.
●その後,特に多枝病変において,PTCAと外科治療双方の適応とされる考えが生じ,患者選択の面で統一的な基準がなくなってしまった.したがって,ここに述べた適応の一部はPTCAの適応と重なり合う.
●この問題を解決するために,現在prospective studyが進行中であるが,現状では各施設ごとに異なった適応基準で患者選択を行っている.

PTCAの進歩と今後のあり方

著者: 中西成元

ページ範囲:P.2616 - P.2617

ポイント
●PTCAは1977年,チューリッヒでGrüntzigがヒトの冠動脈に施行し成功した1)
●1981年,SimpsonとRobertが新しいバルーンカテーテル2)の開発に成功し,以後同法の普及と用具の開発が並行して行われ,瞬く間にアメリカ,ヨーロッパ,日本などにおいて同法が広まった.
●現在,拡張不能,急性冠閉塞,再狭窄などの問題が残されている.
●今後,上記の問題点の解決とともに内科治療,外科治療との間の適切な関係についても長期予後を含めて解決されなければならない.

再狭窄は克服可能か

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.2618 - P.2620

ポイント
●PTCA後の再狭窄は早期に起こる血栓形成と,やや時間が経過してから起こる平滑筋細胞の増生による変化が主体である.
●PTCA後の治癒機転としては,①炎症期,②肉芽形成期,③基質形成期がある.
●炎症期には主として血小板,炎症細胞が,肉芽形成期には平滑筋細胞および平滑筋細胞のレセプターが,基質形成期には合成型平滑筋細胞や間葉系細胞が活動する.
●したがって,治療としては抗血小板薬,抗炎症薬,平滑筋細胞を破壊したり,生長因子を抑制する薬剤,基質の合成を阻害する薬剤が有用であると考えられる.

New deviceへの期待と問題点

著者: 木村剛

ページ範囲:P.2621 - P.2623

ポイント
●Balloon PTCAの問題点は,急性冠閉塞,遠隔期再狭窄,およびPTCA不適応病変におけるsuboptimal resultである.
●New device使用の目的は,可能な限り大きな内腔を安全に獲得することである.
●現在有望と考えられるnew deviceとして,stent,RotablatorTM,DCAがあげられる.
●New deviceの使用により,従来のballoon PTCAにはみられなかった新たな合併症もみられ,全体としての冠動脈インターベンションの安全性,有効性を高めるべく,newdeviceの適応を規定していくことが重要である.

トピックス

血管内視鏡からの知見

著者: 白鳥健一 ,   吉川純一

ページ範囲:P.2624 - P.2626

ポイント
●血管内視鏡では,血栓や粥腫の性状について他の検査では得難い情報が得られる.
●このため,冠動脈病変の発生機序やcatheter interventionにおける諸問題の解明に有用である.

DCAから得られた動脈硬化像

著者: 笠行典章 ,   上田真喜子

ページ範囲:P.2627 - P.2629

ポイント
●DCAの際に得られる組織材料は,ヒト動脈硬化病変や再狭窄病変のメカニズムの解析に有用である.
●DCAの組織標本には,陳旧性動脈硬化病変,新生内膜,血栓あるいはその反応性組織など多彩な病像がみられる.
●新生内膜は再狭窄病変において極めて高率に認められるが,時に新規狭窄病変でも見いだされる.

カラーグラフ 生検による組織診断・12

骨髄(II)

著者: 北川昌伸

ページ範囲:P.2643 - P.2648

組織診断の実際(前号より続く)
 2.顆粒球系の異常
 1)類白血病反応(leukemoid reaction)
 末梢血中の全白血球数が50,000/mm3以上,または骨髄球より幼若な細胞の出現をきたした場合を類白血病反応としている.末梢血液像は一見白血病様であるが,類白血病反応を起こすような基礎疾患があること,血小板数に異常がないこと,幼若白血球の出現に対応して赤芽球も末梢血中に出現することなどから診断可能である.基礎疾患としては,悪性腫瘍(特に骨転移を伴うもので,多くは疼痛を伴う)あるいは粟粒結核や敗血症などの重症感染症が多い.骨髄は過形成性で,顆粒球系細胞の著明な増加がみられる(図13).

グラフ 内科疾患と骨・関節病変・12

骨粗鬆症

著者: 江原茂

ページ範囲:P.2651 - P.2656

 骨粗鬆症(osteoporosis)という言葉は日常の臨床では2つの異なる意味で用いられており,混乱をきたす一因となっている.その一つは,骨組織の減少に特徴づけられる疾患を意味し,もう一つは,X線検査での骨の密度の減少を示す所見を意味する.後者の意味では,osteoporosis以外にもdemineralization,undermineralization,deossificationなど各種の用語が同様の意味で用いられているが,放射線診断において最も頻繁に使われているのは,osteopenia(骨減少症)という言葉である.所見としての骨粗鬆症には,骨軟化症,副甲状腺機能亢進症や多発性骨髄腫,転移など,X線検査で鑑別が必ずしも可能ではない疾患群も含まれてくる.

MRI演習・12

臀部痛を訴えて来院した35歳女性

著者: 荒木力

ページ範囲:P.2657 - P.2662

Case
 35歳,女性.臀部の痛みを訴えて来院した.仙尾部の皮膚がびまん性に膨隆しているが,本人は気がついておらず,特に陥凹,色素沈着,毛密生などは認められない.

図解 病態のしくみ—遺伝子・サイトカインからみた血液疾患・12

発作性夜間血色素尿症

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.2663 - P.2666

発作性夜間血色素尿症の病態
 発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は,夜間睡眠時の血管内溶血により,早朝尿が暗赤色のヘモグロビン尿を呈する特異な後天性疾患である.PNHで認められる溶血は,赤血球膜の補体感受性が異常に亢進しているために起こると理解されている.本疾患の診断に用いられてきたHam試験,Sugar water試験などは,in vitroで血液中の補体を酸あるいは糖によって活性化させ補体感受性赤血球の存在を確認する検査である.夜間尿の血色素色調が濃くなりやすいのも,夜間のわずかな血清酸性化に伴う補体活性化により溶血が盛んになるためと考えられている.PNHに認められる補体感受性亢進の原因となる膜異常は,赤血球系にとどまらず骨髄系細胞・リンパ球にも及んでいる.つまり,PNHは一つの多能性造血幹細胞に起こった後天的異常による疾患と理解することができる.

薬を正しく使うためのDrug Information—副作用について・12

G-CSFと間質性肺炎

著者: 浦部晶夫

ページ範囲:P.2667 - P.2669

 顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)は,各種の好中球減少症の治療薬として広く用いられている.G-CSFは副作用の少ない薬剤であるが,G-CSFの使用に伴って間質性肺炎の発症をみたという報告がいくつかあり,これが果たしてG-CSFに特異的な副作用といえるのかどうか,必ずしも一定の見解は得られていない.本稿では,自験例の解説を含めて私見を述べてみたい.

臨床医に必要な老人をみる眼・11

ストーマ造設老人

著者: 片山隆市 ,   大塚正彦 ,   穴沢貞夫

ページ範囲:P.2670 - P.2673

 便の排泄経路を変えるために手術により腹腔外に引き出された腸管のことはこれまで人工肛門と呼ばれてきたが,最近ではより広い概念を示す単語としてストーマという名称が普及しつつある.ストーマは消化器ストーマ(狭義の人工肛門)と尿路ストーマ(尿管皮膚瘻,回腸導管など)に大別される(図1).ストーマ造設は排泄の状態が著しく変化することを意味し,その管理の良否は患者のquality of life(QOL)に大いに影響する.
 現在,わが国で消化器ストーマ造設術を受ける患者は年間1万人以上と推定され,日常診療でもオストメイト(ストーマ保持者)に接する機会が増加しでいる.1984年から1993年の10年間に,東京慈恵会医科大学第1外科においてストーマ造設術を施行した256症例について,その原因疾患を表1に示したが,その約80%が大腸癌であり,炎症性腸疾患,結腸憩室疾患および大腸癌以外の悪性腫瘍がこれに次いでいる.図2には造設年齢を示したが,平均は60.6歳で,60歳以上が全体の53.5%を占めている.すなわちオストメイトの大多数は原因疾患としての悪性腫瘍の治療を受け,また新たな経験であるストーマケアを高齢になってから開始しなければならない場合が多いことがわかる.

これからの医療と医療制度・12

療養環境とアメニティ

著者: 寺崎仁

ページ範囲:P.2674 - P.2675

 2年ほど前のことと思うが,東京都心のある病院が全病室を個室にして新築したと随分話題になった.それも半数の病室は差額の負担無しということで,週刊誌にも取り上げられ,「どうすれば入院できるのか」など,一般の人々にも大きな関心を呼んだ経緯がある.このように,最近では良質な医療サービス,とりわけ快適な入院生活が送れるよう病院の療養環境に対する国民の関心が高まってきており,「アメニティ」という言葉も一般的に使われるようになってきた.
 「アメニティ」(amenity)とは「快適さ」とか「心地よさ」と訳されるが,昔は一種の「贅沢」と考えられていたものである.しかし,近年では国民の生活水準も向上し,従来は高価で贅沢と思われていたさまざまなサービスが,日常生活でもごく普通に買えるようになり,国民は経済的な豊かさを随分と享受できるようになった.そして,日常生活における質的なレベルの高さと比較して,病院をはじめとする医療施設での療養環境が,余りにも時代遅れで貧相であることに国民が不満を持つようになってきたのである.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2636 - P.2641

アメリカ・ブラウン大学医学部在学日記・4

2年次になる前の1週間の集中講義Physical Diagnosis

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.2681 - P.2683

 医学部に入学して早や1年がたち,また新学年のスタート時期が巡ってきた.大学が9月に正式に始まる1週間前に,医学部2年生だけは,まだひっそりと静まりかえっているキャンパスに呼び戻される.これはPhysical Diagnosis/身体検査学という2年生の1年間を通じて一つの柱となるコースの1週間の集中講義のためであった.注文どおりにみんなの手もとに届いた医者の七つ道具を抱え,3カ月の夏休みですっかりリフレッシュかつ日焼けした顔が並んだ.ハードルレースのようだった1年目.終盤,学年末試験を控えた頃にはみんな寝不足で,ショボショボした目をしていた.そのためかどうか,私も含め,クラスのみんなはコンタクトレンズが入りにくくなったらしく,急に分厚いメガネで授業に出てきたものだった.それが今日はみんなメガネからコンタクトレンズに替え,女性はうっすらお化粧までして,「さあ〜また1年頑張るぞ!」というやる気と期待とエネルギーで顔がキラキラしている.
 この1週間の集中講義で血圧の測り方,聴診器の使い方から始まり,前立腺のチェックの仕方,神経系システムのチェックの仕方やら,痴呆症のスクリーニングの仕方まで,詳細かつ完全な身体検査のやり方を教えられた.

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「medicina」第31巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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