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雑誌目次

雑誌文献

medicina31巻3号

1994年03月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床医のための血液疾患の理解 知っておくべき基礎知識

血液標本をみて何がわかるか

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.468 - P.477

ポイント
●血液標本をきちんと見ることは血液疾患患者を診療する医師には必須である.
●血液塗抹標本の観察は引き終わりに近い部分で,赤血球が均等に分布している所を鏡検する.白血球数,血小板数の多寡や網赤血球数の増加なども判読する.
●赤血球の鏡検では,大きさ,色調,形などの形態異常を写真でよく見て覚え,その診断的な意義を把握する.
●白血球形態は,白血病および類白血病反応などの診断に極めて重要である.特に,各種白血病の診断には,白血病細胞の血液標本中での同定が大切である.各々の白血病細胞には形態学的特徴があるので,それらを視覚的に十分把握しておくことが重要である.

血液疾患と検査データ

著者: 竹村譲

ページ範囲:P.478 - P.482

ポイント
●血液疾患の確定診断は骨髄穿刺や生検によることが多いが,スクリーニング検査を組み合わせることにより診断のフォーカスを絞ることができる.
●鉄代謝にかかわる検査(血清鉄,総鉄結合能,フェリチン),溶血を反映する検査(ビリルビン,LDHとそのアイソザイム,ハプトグロビン,尿ヘモジデリンなど),ビタミンB12や葉酸,免疫電気泳動などは,血液疾患の病態生理の把握や機能的診断を可能とし,末梢血や骨髄の形態学的観察と並んで重要である.

凝固系データのとらえ方

著者: 高松純樹

ページ範囲:P.483 - P.485

ポイント
●臨床症状と考えられる疾患・病態を十分理解する.
●血小板系では,形態の観察や凝集の有無を確認する.
●凝固スクリ一ニングで異常が認められたら補正試験を行い,因子欠乏なのか,循環抗凝血素なのかを鑑別する.

染色体検査と遺伝子解析の利用方法

著者: 平井久丸

ページ範囲:P.486 - P.488

ポイント
●染色体検査や遺伝子解析は単クローン性疾患に対して有力な解析方法である.血液悪性腫瘍も他の悪性腫瘍と同様に単クローン性疾患である.
●白血病に対する遺伝子診断のなかで最も有用性が示されているものは,転座型白血病に対する遺伝子診断である.転座型白血病では,染色体転座によって転座点近傍の癌遺伝子などを活性化して白血病の発症に関与すると考えられている.
●遺伝子診断は診断のほか,微量残存白血病細胞の検出,治療効果や予後の判定に役立つことが示されている.

貧血への対応

貧血患者をみたらどう対応するか

著者: 木崎昌弘

ページ範囲:P.491 - P.495

ポイント
●貧血患者をみたらMCV, MCHCに注目し,3種類に貧血を分類する.
●小球性貧血で最も頻度の高いものは鉄欠乏性貧血である.その際,必ず原因疾患,ことに悪性腫瘍の有無を確認する.
●正球性貧血は最も頻度の高い貧血であるが,網赤血球数が溶血や出血性貧血の鑑別に重要である.
●大球性貧血では,巨赤芽球性貧血のほかにMDSも重要な鑑別疾患である.

貧血が急速に進行するときの鑑別

著者: 田口博國

ページ範囲:P.496 - P.499

ポイント
●貧血が急速に進行するときには,原因が出血か,産生の低下か,破壊の亢進(溶血)かを考える.
●白血球や血小板に異常が見られない場合は,網状赤血球数が正常であれば出血性貧血,著増していれば溶血性貧血を考えて鑑別をすすめる.
●白血球や血小板に異常があるときは,網状赤血球数が正常であれば,他にDICの所見があるかどうかにより鑑別をすすめる.網状赤血球数が低下していれば,再生不良性貧血,白血病,MDS,癌の骨髄転移を考えて,次に骨髄像から検査をすすめる.

自己免疫性溶血性貧血の診断と治療

著者: 藤井寿一

ページ範囲:P.500 - P.502

ポイント
●自己免疫性溶血性貧血とは,何らかの原因により赤血球に対する自己抗体が産生され,赤血球寿命の短縮をきたす疾患である.
●自己抗体の種類により温式抗体によるもの,冷式抗体によるもの,およびその混合型に分けれれる.
●一般に,温式抗体によるものは単に自己免疫性溶血性貧血と呼び,冷式抗体によるものには寒冷凝集素症と発作性寒冷ヘモグロビン尿症とがある.
●確定診断は直接抗グロブリン試験による自己抗体の証明によりなされる.
●治療の第一選択はステロイド剤で,第二選択として摘脾術あるいは免疫抑制剤がある.

大球性貧血をみた場合

著者: 檀和夫

ページ範囲:P.503 - P.505

ポイント
●平均赤血球容積(MCV)が101 fl以上の貧血を大球性貧血に分類する.
●大球性貧血で最も多いのはビタミンBl2欠乏あるいは葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血であり,悪性貧血,胃全摘後貧血,blind loop syndromeなどの小腸病変および葉酸欠乏症が含まれる.
●骨髄異形成症候群も大球性貧血を呈する例が多く,鑑別を要する.末梢血および骨髄塗抹標本で形態異常の有無を注意深く観察する必要がある.
●そのほか,溶血性貧血,肝疾患,甲状腺機能低下症,再生不良性貧血の一部でも大球性貧血を呈することがある.

高齢者の貧血

著者: 森眞由美

ページ範囲:P.506 - P.508

ポイント
●加齢に伴いヘモグロビン(Hb)値は減少する.●Hb11〜12g/dl以下を貧血とすることが多い.赤血球恒数に異常がある場合には,これ以上でも貧血として精査する.
●鉄欠乏性貧血では出血源を精査する.鉄飽和度16%以下は鉄欠乏性貧血を考える.
●二次性貧血では原疾患を検索する.悪性腫瘍,感染,膠原病が多い.
●腎機能が正常でも,炎症所見がなく,血中エリスロポエチン値が正常の貧血は腎性貧血の可能性大である.
●正球性正色素性貧血,軽度の大球性を示す貧血では骨髄穿刺をし,血液疾患を鑑別する.

不応性貧血をどうフォローしていくか

著者: 浦部晶夫

ページ範囲:P.510 - P.513

ポイント
●不応性貧血(refractory anemia:RA)は,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の一型である.
●RAの臨床においては,貧血の推移および病型の進展を観察することが重要である.
●治療は必ずしも奏効しないので,患者の全身状態を慎重に見守りながら赤血球輸血などを適宜行う.
●貧血対策と感染症対策が治療の中心になる.

腎性貧血とエリスロポエチン

著者: 遠藤一靖 ,   宍戸友明 ,   阿部圭志

ページ範囲:P.514 - P.516

ポイント
●透析期腎不全患者の貧血に対するエリスロポエチン(rhEPO)の投与は,本邦で実用化され,すでに3年が経過し,現在では約4万人以上の患者で投与が行われていると推定される.
●rhEPOは100%に近い貧血の是正,飛躍的なQOL向上をもたらし,副作用の少ないことより,透析期腎性貧血の革命的治療薬となっている.
●保存期腎不全患者でも効果の検討が進んでおり,その有効性が明らかになっている.

多血症へのアプローチ

多血症の定義とワークアップの方法

著者: 森岡正信 ,   桜田恵右 ,   宮﨑保

ページ範囲:P.517 - P.521

ポイント
●多血症,すなわち赤血球増加症は,赤血球数,ヘモグロビン濃度あるいはヘマトクリット値が正常範囲を越えて増加した状態である.血液検査でこれらの数値が男子では600万,18g/dl,55%以上,女子では550万,17g/dl,50%以上を示す場合に赤血球増加症を疑い,原因精査をすべきである.
●これらの血液検査値は単位容積当たりで表現されるため,実際に循環赤血球量の増加した絶対的赤血球増加症と,循環血漿量が減少したために見かけ上の増加を示す相対的赤血球増加症とがある.この鑑別には,51Crを用いた循環赤血球量の測定が有用であるが,RI検査のためどこの施設でも可能なわけではない.
●日常臨床では,相対的赤血球増加症がしばしば経験されるので,まず脱水などの血液濃縮をきたす背景病態や基礎疾患の有無を慎重に診断することが大切である.
●次のステップとして,動脈血酸素飽和度と血清エリスロポエチン(EPO)を測定し,その結果により絶対的赤血球増加症の鑑別をすすめる.
●低酸素血症がなくEPO高値の場合は,腫瘍や腎疾患に伴う異所性EPO産生を疑い,画像・造影診断などを行う.
●低酸素血症によるEPO高値は慢性肺疾患や先天性心疾患などで見られる.EPOは低値で任酸素血症もない場合は直性多血症の鑑別が重要である.

真性多血症の最近の治療

著者: 大屋敷一馬 ,   外山圭助

ページ範囲:P.522 - P.523

ポイント
●他の多血症をきたす疾患を完全に除外し,真性多血症(PV)の診断を下す.
●治療に重要なことは患者の年齢および血栓症のリスクである.
●ヘマトクリット値は45%以下を保つ.
●50歳未満の患者で血栓症のリスクがない場合は潟血のみでコントロールする.
●50歳以上の患者では血栓症のリスクを考慮しながらhydroxyurea投与と潟血の組み合わせでコントロールする.

二次性多血症とその治療

著者: 貞森直樹

ページ範囲:P.524 - P.526

ポイント
●二次性多血症は,何らかの基礎疾患に伴ってエリスロポエチンの産生が高まった結果起こる疾患で,生理的・代償的に産生される場合と,病的に産生される場合がある.前者は組織の低酸素状態の場合で,後者は腎臓の局所性低酸素血症やエリスロポエチン産生腫瘍などによる.
●相対的多血症や真性多血症との鑑別には,循環赤血球量,血清や尿のエリスロポエチン濃度などの測定が有用である.
●二次性多血症の治療の原則は原因の除去で,必要に応じて瀉血をする.

白血球の増多と減少

白血球増多症へのアプローチ

著者: 宮地勇人

ページ範囲:P.528 - P.531

ポイント
●慢性の好中球性白血球増多症で重要な血液学的問題に,骨髄増殖性疾患(慢性骨髄性白血病,骨髄線維症)と類白血病反応がある.これらの鑑別診断に末梢血液像が参考になる.
●赤血球形態異常は,骨髄増殖性疾患の鑑別に有用であり,類白血病反応では基礎疾患に伴う貧血の病態を考察できる.
●白血球の量的(分画)・質的(形態)異常は,白血球増多症の鑑別および病態診断に有用である.
●幼若白血球とともに赤芽球が多く出現する白赤芽球症の鑑別には,骨髄生検が大切である.

白血球減少症の原因と対応

著者: 藤盛好啓 ,   金丸昭久

ページ範囲:P.532 - P.534

ポイント
●白血球減少(4,000/μl以下)のなかで好中球減少(1,500/μl以下)が最も頻度が高く,臨床的に重要である.好中球が1,000/μl以下になると感染の危険性が高く,500/μl以下では重篤な感染症を併発することが多い.
●好中球減少では,病歴,理学所見のみならず,末梢血・骨髄像の鏡検が重要な鑑別手段となり,特に感染症を伴う急性の好中球減少の鑑別に有用である.
●好中球減少時の感染症に対して,速やかに強力な抗生物質療法を行う.顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与で,顆粒球の回復を促進することができる.
●リンパ球減少(1,500/μl以下)では,CD4リンパ球の絶対数を調べる.CD4リンパ球の著減は免疫不全症候を呈する.

好酸球増多症はどのようにワークアップするか

著者: 村上博和 ,   松島孝文 ,   田村遵一

ページ範囲:P.535 - P.537

ポイント
●著明な好酸球増多症(2,000/μl以上)はさまざまな臓器障害を伴うことがあるので,早期診断・治療が必要となる.
●好酸球増多症を認めた場合,隠れている基礎疾患の検索が重要である.
●末梢血液塗抹標本を必ず鏡検すること.
●Hypereosinophilic syndrome(HES)は,①1,500/μl以上の末梢血好酸球増多が6カ月以上持続,②他の好酸球増多をきたす明らかな原因が認められない,③好酸球浸潤による臓器障害が認められる,と診断基準が定められているが,除外診断が重要である.

血小板と凝固系異常

血小板減少へのアプローチ

著者: 倉田義之

ページ範囲:P.540 - P.542

ポイント
●血小板減少を惹起する病態には,ⓐ血小板産生の低下,ⓑ血小板破壊の亢進あるいは消費の亢進,ⓒ血小板の脾臓でのプーリング,がある.
●血小板減少症を鑑別診断するにあたっては,上記病態を考慮にいれ,下記に示すような各種検査をする必要がある.ⓐ各種血液検査,ⓑ骨髄穿刺・生検,ⓒ腹部エコー検査,ⓓ血小板寿命検査.
●自動血球計数器で血小板数を測定している場合には,偽性血小板減少症の可能性を考え,血液塗抹標本で血小板凝集像がないことを確認しておく必要がある.

血小板増多へのアプローチ

著者: 高橋芳右

ページ範囲:P.543 - P.545

ポイント
●血小板増多症には,本態性血小板血症をはじめとする慢性骨髄増殖性疾患によるものと,反応性(二次性)のものがある.特に前者で血小板数が著増し,臨床的にも血栓.出血症状をきたしやすい.
●本態性血小板血症における血栓症状としては中枢神経系症状(一過性脳虚血発作など),指趾虚血,先端紅痛症が特徴的である.
●血小板増多の高度な慢性骨髄増殖性疾患では,特異的血小板機能異常としてエピネフリン凝集の欠如と血小板自然凝集が見られる.
●血小板増多が高度で,それに伴う臨床症状がある場合には,hydroxyureaにより血小板数を減少させるか,aspirinなどの抗血小板薬を投与する.
●血小板増多があると,血清Kが見かけ上高値を示すことがあり,注意を要する.

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 大橋一輝 ,   広沢信作

ページ範囲:P.546 - P.548

ポイント
●特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)は血小板減少とそれに起因する出血傾向を呈する疾患で,原因となる基礎疾患が不明なものをさす.
●ITPの診断は,基本的には除外診断であり,血小板減少をきたす他の疾患を除外することによってなされる.
●骨髄検査は必須であり,巨核球数の減少のないことを確認する.PAIgGはほとんどの例で高値となるが,他疾患でも上昇するため注意を要する.
●ITPにおいて頻度の高い自己抗原は血小板糖蛋白IIb/IIIa複合体である.

出血しやすい人をどうみていくか

著者: 朝倉英策

ページ範囲:P.549 - P.551

ポイント
●出血傾向をきたす病態としては,①血小板の数または機能の低下,②凝固線溶異常,③血管壁の脆弱化が挙げられる.
●血小板数が正常であり,出血時間の延長が見られれば,先天性・後天性の血小板機能低下,von Willebrand病,血管異常を疑う.血小板数,出血時間が正常であれば,凝固線溶異常を疑い,プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),フィブリノゲン,FDPをはじめとする検索を行う.

DICと悪性腫瘍

著者: 菊池正夫

ページ範囲:P.552 - P.555

ポイント
●DIC症例には必ず基礎疾患があり,悪性腫瘍はその代表的疾患である.
●DICとは,血中にトロンビンが過剰に形成されたことを意味する.
●トロンビン下アンチトロンビンIII複合体(TAT)の高値はトロンビンの形成を,またプラスミン-α2PI複合体(PlC)の高値はプラスミンの形成を意味する.
●担癌患者はDIC準備状態と考えられ,凝固線溶系の検査(分子マーカー,血小板数など)を適宜行い,その推移により病態の把握に努めなければならない.

血液・造血器腫瘍のプライマー

急性骨髄性白血病

著者: 押味和夫

ページ範囲:P.558 - P.561

ポイント
●急性骨髄性白血病(AML)はMOからM7まで8種類に分類される.
●AMLの診断と分類は骨髄中の芽球の割合や特殊染色,表面マーカーによりなされる.
●AMLでは正常造血能の抑制により起こる貧血,血小板減少,顆粒球減少,AML細胞の臓器浸潤に伴う症候などが診断を疑うきっかけとなる.
●貧血,出血傾向,感染症が疑われた場合,外来で患者を待たせておいて,至急,赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット,白血球数,血小板数を調べる.
●赤血球,白血球,血小板のうち2系統以上に強い異常がある場合,至急末梢血塗抹標本を鏡検し,芽球の有無を見る.

急性リンパ性白血病

著者: 辻本卓子 ,   河野道生

ページ範囲:P.562 - P.566

ポイント
●急性リンパ性白血病(ALL)には,芽球の分化度による不均一性がある.
●ALLの確定診断には,形態学的分類に加えて,細胞表面抗原の解析は不可欠である.
●細胞表面抗原の2カラー染色法(抗CD38抗体使用)により,白血病細胞集団の不均一性の詳細な解析が可能となる.
●成人ALLの予後は,小児と比し不良であり,化学療法では長期生存は期待できず,骨髄移植を第1寛解期に行うのが望ましい.

慢性骨髄性白血病

著者: 西村純二

ページ範囲:P.568 - P.571

ポイント
●腫瘍化は多能性幹細胞レベルで起こり,顆粒球系細胞の増殖を主体とする慢性期を経て,骨髄系やリンパ系の芽球が増殖する急性期に移行する.
●Ph1染色体(9;22転座)が特異的であり,この変化に伴うbcr/ablキメラ遺伝子の形成が分子レベルでの腫瘍化の本態である.
●PCR法を用いた遺伝子診断がCMLの診断,治療後の残存白血病細胞の検出に応用されている.
●同種骨髄移植は治癒可能な唯一の治療法であり,インターフェロン-αはPh1クローンの消失を期待でき,ハイドロキシウレアは従来のブスルファンに替わる薬剤である.

二次性白血病

著者: 渡辺健太郎

ページ範囲:P.572 - P.575

ポイント
●二次性白血病(secondary leukemia,therapy-related leukemia)は,悪性腫瘍患者の長期生存に伴いその発症は増加している.
●二次性白血病の予後は一般的に不良であり,平均生存期間は2〜8カ月であるが,予後良好な一群も報告されている.
●高齢者や全身状態不良の場合には支持療法を考慮すべきである.
●de novo AMLの寛解導入療法と同様の化学療法で30〜70%の寛解を得られるが,寛解期間は数カ月と短い.
●同種骨髄移植は唯一の治癒可能な治療手段であるが,その適応は限られている.

白血病とリンパ腫の骨髄移植の現状

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.576 - P.582

ポイント
●骨髄移植は同種移植と自家移植に分けられ,白血病では同種移植が,リンパ腫では自家移植が主として施行されてきた.
●白血病・リンパ腫に対する骨髄移植の成績は移植施行時の病期,化学療法に対する反応性に大きく左右される.
●治癒を期待するという点からは,進行病期では骨髄移植が治療の第一選択となるが,病早期では,従来の治療により予後不良と考えられる症例に対して骨髄移植が行われている.
●最近では末梢血・臍帯血を用いた同種・自家移植(や非血縁者間同種骨髄移植)も盛んに行われている.今後は,これらのアプローチの治療戦略への位置づけを明らかにする必要がある.

多発性骨髄腫

著者: 畑裕之 ,   松崎博充

ページ範囲:P.584 - P.588

ポイント
●多発性骨髄腫は老人に多く見られ,人口の高齢化に伴い増加しつつある.
●形質細胞の腫瘍化により,単クローン性の免疫グロブリン増加が見られる(M蛋白血症).
●M蛋白血症が見られないタイプがあり,見過ごされがちであり,このような場合には骨髄標本の観察が非常に重要である.

リンパ腫の治療

著者: 田中健 ,   名取英世

ページ範囲:P.590 - P.595

ポイント
●悪性リンパ腫はホジキン病と非ホジキンリンパ腫に大別されるが,それぞれ相違点が多い.そのため組織型,病期に基づき治療方針を計画し,さらに個々の年齢,臨床病態などに応じた適切な治療法を選択する必要がある.
●ホジキン病では組織型より病期が重要であり,放射線療法の役割は比較的大きい.非ホジキンリンパ腫では病期よりも組織型による悪性度が重要となり,化学療法が主体である.
●化学療法の進歩により治療成績は向上してきており,専門施設での治療が重要であると考えられる.

カラーグラフ 生検による組織診断・3

肝臓(I)

著者: 中沼安二

ページ範囲:P.609 - P.613

生検の手技
 肝生検には針生検と楔状生検がある.針生検のなかで,ブラインド生検は最も頻繁に用いられ,肝炎,肝硬変などのびまん性肝疾患の診断に有効である.エコーガイド下肝生検は,エコーで同定される限局性病変,あるいは不均一に分布する病変に対して,病変部を狙って行われる肝生検で,近年,画像機器の進歩により腫瘤性病変がしばしばみつかり,この手法がよく用いられる.腹腔鏡下肝生検は,腹腔鏡施行時に行う肝生検である.腹腔鏡による観察が同時に行え,病変が肝被膜あるいはその直下にある場合には,狙撃的な肝生検ができる.楔状肝生検は,診断価値のある病変が肝で散在性に分布する疾患の診断やHodgkin病などの悪性疾患の病期決定のため,試験開腹により行われるが,適応は限定される.また,開腹手術時,肝の限局性病変の診断やびまん性肝疾患の病理診断を目的に行われる.
 胆道生検として,胆道内視鏡下に行う胆管膜のパンチ生検が現在,試みられている.

グラフ 内科疾患と骨・関節病変・3

von Recklinghausen病における骨軟部病変の画像

著者: 福田国彦 ,   中島奈保子

ページ範囲:P.615 - P.619

症例
 患者:63歳,女性.
 現症:右顔面の腫瘤.

MRI演習・3

月経困難症

著者: 荒木力

ページ範囲:P.623 - P.627

Case
34歳,女性.月経困難症,腹部腫瘤を訴え,MRI検査を施行した.図1は,そのT2強調矢状断層像である.t:卵巣腫瘍,u:子宮体,v:椎体,r:直腸,b:膀胱,s:恥骨,m:腹直筋

図解 病態のしくみ—遺伝子・サイトカインからみた血液疾患・3

非ホジキンリンパ腫

著者: 田野崎隆二

ページ範囲:P.629 - P.637

 ●はじめに 多くの非ホジキンリンパ腫(以下,NHL)細胞において,多彩な染色体異常のあることが知られている.最近,染色体異常に関連して多くの癌遺伝子が発見され,その機能が同定されつつある.本稿では,まず,NHLにおける染色体異常と関連遺伝子について概説する.中でも,特に研究の進んでいる癌遺伝子bcl-2については,最近発見されてきたその蛋白質の発癌における重要な機能,その活性化の機序,臨床的意義,治療への応用に至るまでを述べたい.
 一方,サイトカインに関して近年の研究の中で特記すべきことは,治療における応用である.昨年アメリカで,従来からの標準的化学療法であるCHOP療法と,非交叉耐性の多種類の薬剤を用いたいわゆる第2,第3世代の治療法との間に有効性の差がないという,大規模な多施設無作為化試験の結果が報告され,この分野の研究者達は大いに戸惑った.その一方で,自家造血幹細胞移植の普及は,数少ない抗腫瘍剤でも早期に超大量を用いることにより治癒が期待されることが次々と報告されている.

臨床医に必要な老人をみる眼・3

狭心症を有する老人のケア

著者: 井上宗信 ,   茅野真男

ページ範囲:P.638 - P.640

◆狭心症老人の生理的特性
 1.病態生理
 石灰化を伴った冠動脈のびまん性多枝病変や左主幹部の器質的冠狭窄による狭心症が多く,機能的狭窄である冠攣縮の頻度は少ない.

薬を正しく使うためのDrug Information—副作用について・3

抗不整脈薬による不整脈の悪化

著者: 木全心一

ページ範囲:P.642 - P.648

 上室性および心室性期外収縮,心房細動などは極めて多い病気であり,これに対して抗不整脈薬を処方することが多い.ところが,不整脈の治療薬で,かえって不整脈が悪化するという困った問題がある.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.600 - P.607

これからの医療と医療制度・3

療養型病床群

著者: 寺崎仁

ページ範囲:P.641 - P.641

 「療養型病床群」とは何とも奇妙な名称であるが,分かりやすく言えば,長期療養に適した「病棟」あるいは「看護単位」のことである.何故,このような造語を作る必要があったのか.それは,現行の医療法には病棟や看護単位を意味する規定がなく,また医療の現場でもその運用や言葉としての使われ方がさまざまなので,法律上では「病棟」なるものを「一群の病床」という語句で表現する必要があったからである.また,「長期療養型病院」としなかったのにも訳がある.現場の病院経営者にすれば,病院全体が長期療養施設となることは,医療行為の中でも最もそれらしい急性期の医療を手放すことになり,彼らには極めて不本意で抵抗も多いだろうと配慮したからである.さらに,わが国の一般的な病院が,入院機能として急性期医療と慢性期医療の両者を,併せ持って運営されている実情をも考慮した結果である.
 言葉の問題はともかく,この「療養型病床群」とは「長期入院患者に適した医療を提供する施設」のことで,平成5年4月施行の改正医療法により「特定機能病院制度」とともに創設された新しい医療施設体系である.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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