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雑誌目次

雑誌文献

medicina32巻12号

1995年11月発行

雑誌目次

増刊号 Common Disease 200の治療戦略 循環器疾患

期外収縮

著者: 飯沼宏之

ページ範囲:P.10 - P.14

疾患概念と病態
 期外収縮は早期収縮(premature contraction)とも呼ばれるように,予期されるタイミングより早めに生じた心収縮の総称であり,その生じる部位によって心室性(VPC),上室性(SVPC)に2分される.両者ともその発生機序はリエントリー,自動能亢進(正常・異常),後脱分極(早期・後期)のいずれかであるが,昔から臨床不整脈上,発生頻度の最高位を占めてきた(VPCとSVPCのいずれが多いかは報告によってまちまちである).さらに最近はホルター心電図の普及につれ観測時間が増すとともに,期外収縮を生じやすい高齢者の人口が相対的に増えていることもあって,その発生率は100%近いとされている.したがって,その治療をどうするかは臨床上大問題である.

上室頻拍

著者: 杉薫

ページ範囲:P.16 - P.17

疾患概念と病態
 上室頻拍は心房または房室接合部が起源か臨界旋回路に入る頻拍であり,洞性頻拍のほかに異所性心房頻拍,WPW症候群にみられる房室回帰性頻拍,房室結節リエントリー性頻拍,心房内リエントリー性頻拍,洞結節リエントリー性頻拍,心房細動・粗動,非発作性房室接合部頻拍が含まれる.その発生機序は頻拍によって異なり,自動能亢進,リエントリー,triggered activity(誘発活動)が考えられている.いずれもHis束分岐部より上部から心室へ電気的興奮が伝播するために,基本的にQRS波は洞性心拍と同一となる.ただ,心拍数が多いために,His-Purkinje系へ興奮が伝導するときに脚枝以下の伝導系の一部が相対的不応期に入り,心室内変行伝導を生じてQRS波が幅広く変化することはある.血圧はある程度保たれるが,症例によっては心拍数が200/分以上になると血圧が著しく低下して虚脱状態になることがある.
 治療目的は正常の血行動態を維持するために,可及的に洞調律へ戻すことである.

心室頻拍

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.18 - P.22

疾患概念と病態
 心室頻拍(VT),特に持続性VTは血行動態の増悪をもたらし,Adams-Stokes発作や心不全を惹起し,突然死をきたしうる重症不整脈である.米国では心臓突然死の80〜90%がVT/心室細動(VF)によると考えられており,その治療は今日的な重要課題となっている.VTに対する薬物療法1)のみならず,非薬物療法(カテーテルアブレーション2),手術療法および植込み型除細動器3))は著しい進歩をとげている.
 本稿では,持続性VTに対する治療戦略について概説を加える.

心房粗・細動

著者: 井上博

ページ範囲:P.24 - P.25

疾患概念と病態
 心房細動は心房の興奮が高頻度かつ不規則になった状態で,心房の補助ポンプとしての有効な収縮が消失している.心房粗動は心房の興奮が300/分前後の規則的なもので,心房の補助ポンプの機能は低下している.その結果,心房粗動・細動では臨床上4つの事柄が問題となる(表1).したがって,治療の戦略は表1に掲げられた事項を目標に立てることになる.

洞機能不全症候群

著者: 山口巖

ページ範囲:P.26 - P.28

 洞機能不全症候群(sick sinus syndrome:SSS)は,永久ペースメーカー植込みの最も頻度の高い対象である.

房室ブロック

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.30 - P.32

疾患概念と病態
 心房興奮が心室に伝わる際に遅延を生じたり,伝導しないことを房室ブロックという.ブロック部位は心房と心室の間のすべて,つまり心房内,房室結節内,His束内,His-Purkinje系などであるが,下位になるほど重症で,治療が必要となる.
 原因となる基礎疾患は,虚血性心疾患,心筋症,心筋炎,先天性心疾患,心臓術後などの器質的なもの,迷走神経緊張,薬剤による機能的なものなどがある.

安定狭心症

著者: 山口徹 ,   杉山祐公

ページ範囲:P.33 - P.37

疾患概念と病態
 狭心症とは,心筋の一過性虚血により特有の胸部症状(狭心痛)を呈する疾患である.狭心症の発生要因としては,冠動脈硬化による器質的狭窄と,冠攣縮による機能的狭窄が挙げられる.
 一般的に,労作狭心症は冠動脈の器質的狭窄を背景に発生し,安静狭心症は冠攣縮を背景に発生する.また,安定狭心症は発作の頻度・強度・持続時間・発生状況などが一定しているのに対し,不安定狭心症は発作様式が一定でなく,急性心筋梗塞への移行も多いため,治療面や予後の面からも分けて考える必要がある.本稿では,安定狭心症の治療戦略に関して述べる.

不安定狭心症

著者: 土井修 ,   光藤和明

ページ範囲:P.39 - P.41

 疾患概念と病態
 不安定狭心症(UAP)は,①1~2ヵ月以内の新規発症で軽労作で誘発される,②安定狭心症の増悪(頻度の増加,より軽労作で誘発される),③安静時にも発作がある(血管攣縮性狭心症は除く),という3条件の一つ以上有するもので,急性心筋梗塞(AMI)に移行する可能性が高く,適切な治療が望まれる.
 UAPに含まれる範囲は広く,病態は複雑であるが,基本的には既存のアテロームに何らかの傷害が生じ,①血小板凝集による血小板血栓の形成,②フィブリン血栓の形成,③冠動脈スパスム,などが種々の程度に関与して発症するものと考えられる.

急性心筋梗塞症

著者: 有馬健 ,   長尾建 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.43 - P.45

疾患概念と病態
 急性心筋梗塞症(AMDは,冠状動脈の閉塞により生じるacute coronary syndromeの一つである.冠状動脈内の粥腫が破綻すると,血栓が形成され,成長し冠状動脈の閉塞に至る.この血栓に線溶が起こり短時間(20〜30分以内)に血流が再開した場合は,心筋の壊死が起こらない.この状態が不安定狭心症である.再開通に時間がかかると,心内膜側の壊死が起こり心内膜下梗塞となる.さらに再開通に時間がかかった場合や,再開通が得られなかった場合,貫壁性梗塞となる.これらの病態および冠動脈の閉塞による突然死がacutecoronary syndromeである(図1).
 AMIは死亡率の高い疾患であり,その死亡の大半は発症1時間以内に起こるとされる.したがって,初期治療が最も重要である.

うっ血性心不全

著者: 芹澤剛

ページ範囲:P.47 - P.50

疾患概念と病態
 うっ血性心不全または慢性うっ血性心不全という言葉が使われるが,うっ血と心不全は必ずしも同時に成立するわけではない,つまり,心不全自体が独立した単一の疾患でなく,様々な原因疾患による一つの症候群としてとらえられており,あえて定義してみれば,心臓の機能不全による心拍出量の低下ということになる.
 一方,うっ血状態とは,左室収縮機能の低下をFrank-Starling機序によって代償した結果,肺静脈圧が上昇する場合もあるし,左室拡張障害により左室拡張期圧が上昇した結果,左房圧,肺静脈圧が上昇する場合,あるいは僧帽弁狭窄症のように,左室機能には何ら異常がないにもかかわらず出現する場合もある.したがって,うっ血性心不全を起こす病態は単一ではないが,一般的には左室収縮機能障害に伴い,その代償機序の結果として肺うっ血が生じた状態ととらえられており,この状態が内科的な薬物療法の対象となる.

感染性心内膜炎

著者: 中村憲司

ページ範囲:P.52 - P.53

疾患概念と病態
 感染性心内膜炎(infective endocarditis:IEと略)の発症病理には基礎疾患,起炎菌,誘因などが大きく関与し,臨床像は時代とともに変貌しつつあるともいわれている.しかしながら,自己弁では緑色連鎖球菌が多く,人工弁患者ではブドウ球菌やグラム陰性桿菌が多くみられる.また,覚醒剤中毒患者では,静脈主射による黄色ブドウ球菌の多いのが特徴である.さらに,菌血症をきたす侵襲的処置もしくは検査部位に応じて,大腸菌やグラム陰性桿菌が多いのが通例である,起炎菌の培養されないものは菌培養陰性心内膜炎(culturenegative endocarditis:CNEと略)と呼ばれている.HACEK心内膜炎のように培養技術の改良により判明した起炎菌もあるが,CNEの大部分は血液培養施行前になされた抗生剤の投与によるものが多いといわれている.
 また,本症は何らかの基礎心疾患を有する例に発症することが多いが,基礎疾患の認められない例も増えつつあり,50%近くに及ぶとの報告もある.IEを起こしやすい先天性心疾患としては短絡疾患がよく知られているが,大動脈二尖弁,大動脈弁下狭窄症,肺動脈弁狭窄症などの狭窄病変も基礎疾患として重要である.そして,さらに重要なことは,これら各々の基礎疾患と心内膜炎病変ならびに発症部位との間には密接な関係がみられることである.

僧帽弁逸脱症候群

著者: 別府慎太郎

ページ範囲:P.54 - P.55

疾患概念と病態
 弁膜症の疾患体系は近年変化し,従来,大多数を占めたリウマチ性弁膜症は著しく減少し,代わって非リウマチ性のものが増加してきた.その中でも僧帽弁逸脱症は現在の成人の弁膜症で最も頻度の高いもので,全成人のおおむね4%であるといわれる.
 病理学的には弁尖部への粘液様変化が主体をなし,弁肥厚,膨隆,腱索の延長,細痩化がみられる.このような組織変化に基づき,弁接合面の狭小化や,さらには腱索断裂による僧帽弁逆流,脆弱組織に対する病原体侵入による感染性心内膜炎などを合併する.

狭窄性弁膜症

著者: 安村良男 ,   永田正毅

ページ範囲:P.56 - P.58

僧帽弁狭窄症
疾患概念と病態
 僧帽弁狭窄症は大部分がリウマチ熱の後遺症による.すなわち,リウマチ性心内膜炎による弁,腱索の肥厚・変形・癒着のため,弁口の狭小化ひいては左室流入障害をきたす.僧帽弁口は正常では4〜6cm2で,2cm2以上は血行動態上,問題はない.1.5cm2以下で症状が出現し,1.0cm2以下は重症とされる.発症様式は労作時動悸,息切れ,易疲労感などの心不全症状で初発し,それらが徐々に増悪する場合と,心房細動,塞栓症を契機に発症する場合とがある.

肥大型心筋症

著者: 住田英二 ,   梶山公則 ,   古賀義則

ページ範囲:P.59 - P.62

疾患概念と病態
 1.病因
 肥大型心筋症の約半数には家族性がみられ常染色体優性遺伝様式を示すが,その約20%は心筋βミオシン重鎖遺伝子の点変異が存在することが明らかにされ,その後裂トロポミオシン,トロポニンT遺伝子異常が発見されている1).肥大型心筋症はこのような収縮蛋白に異常を有するサルコメア病であることが推測されているが,残りの過半数の原因遺伝子はいまだ不明である.心尖部肥大型心筋症に代表される明らかな家族性のみられない孤発例では,中年以降の発症が多く,異常肥大の発現には高血圧,スポーツ,肉体労働などの後天的因子や環境要因の関与が考えられている.

拡張型心筋症

著者: 和泉徹

ページ範囲:P.63 - P.66

疾患概念と病態
 拡張型心筋症の基本概念は,図1に示したとおり3つの基本病像からなる.収縮力低下や拡張障害に基づく心筋不全と,左室や左房拡大を主徴とする心拡大,その結果生じた心筋重量の増大,すなわち心肥大の3つである.本症がうっ血型心筋症と呼ばれていた頃とは異なり,今日では早期発見が常識化した.したがって,心症状が乏しく,心筋不全を端的に示す壁運動低下(駆出率低下)と収縮末期容量の増加(左室拡大)を主徴とする患者が多くなってきている.その分,拡張型心筋症の診断と治療には心エコー検査が重要である.
 本症の成因はいまだ特定されていない.病因としては,遺伝子や代謝異常,心毒素,微小循環不全,活性化酸素,カルシウム過負荷,心筋炎,自己免疫,除神経などが候補としてあげられている.病因が何であるにせよ,①心筋病変の進行度,②慢性心不全の重症度,③致死性不整脈の合併,④血栓塞栓の発症,が生命予後を左右する.患者の治療においては,これらの病態の正確な診断を先行させなければならない.

心筋炎

著者: 河合祥雄 ,   久岡英彦 ,   片山尚子

ページ範囲:P.67 - P.69

疾患概念と病態
 1.疾患概念
 心筋炎は心(室)筋を主な障害部位とする炎症で,本来,顕微鏡所見に基づいた疾患概念であり,少なくとも1899年以来の長い歴史がある.しかし,一般的に心筋炎とは臨床的には心臓の炎症に基づく“徴候”と“症状”を有するものを指す.病理学総論で,炎症は「局所的な防御反応(組織における循環障害,滲出,細胞増殖,浸潤)」と理解される.微生物による感染以外に代謝,免疫学的機序,中毒性物質,結合組織病,肉芽腫性病変,物理的諸因子などが心筋炎を惹起する.炎症の原因が不明なものは特発性に分類され,実際,本邦の剖検例のほとんどは原因不明の非特異的心筋炎と診断されている.その大部分は,ウイルス性心筋炎と想定されている.

急性心膜炎

著者: 池田淳 ,   白土邦男

ページ範囲:P.71 - P.73

疾患概念と病態
 急性心膜炎は表1に示す種々の原因によって起こる.したがって,治療方針の決定には原因疾患の特定が必要で,原因疾患への特異的な治療が根本的な治療となる,急性心膜炎の主症状は炎症による胸痛であり,急性期の治療はこの胸痛への対策が主となる.
 また,急性心膜炎の約15%に心タンポナーデが合併するとされ,この場合は心タンポナーデへの対策が優先される.図1に急性心膜炎の治療方針をフローチャートとして示した.急性心膜炎は表1に示すような種々の疾患に伴って起こるが,原因疾患が診断できた場合は原因疾患に対する治療を行わなければならない.以下に,個々の場合についての診断に重要な検査,および治療方針を簡潔に述べる.

収縮性心膜炎

著者: 大島祥男 ,   一色高明

ページ範囲:P.74 - P.75

疾患概念と病態
 収縮性心膜炎は,心膜の線維性肥厚や癒着による心腔の拡張障害を主な病態とする疾患である.硬く肥厚・癒着した心膜による,①心室拡張期血流充満の障害とそれに伴う心拍出量の低下と,②右室拡張障害による静脈うっ血,静脈圧上昇とそれに伴う各種臓器障害,が主な病態である.
 急性心膜炎を起こすすべての疾患が本症の原因となり得るが,約半数は原因不明であり,急性期は無症状で経過するものも少なくない.原因の明らかな例では結核性が最も多く,特に小児の収縮性心膜炎は結核性の可能性が高いが,いずれも近年は減少傾向にある.

高血圧症

著者: 安東克之 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.76 - P.81

疾患概念と病態
 高血圧は脳卒中や心筋梗塞などの心血管合併症のリスクとして病的意義があるが,このリスクは血圧上昇とともに漸増するので,正常血圧と高血圧との間に明確な境界はない.疫学試験などでリスクが増加するポイントで恣意的に両者を分けることになる.現時点では,WHO/ISH(世界保健機構/国際高血圧学会)分類とJNCにV(全米合同委員会第5次報告)分類があるが,いずれも140/90mmHg以上を高血圧と定義している.さらに,高血圧治療においては標的臓器障害の有無と程度も重要であり,これについてもWHO/ISHならびにJNC-Vの分類に定義されているが,誌面の関係で割愛させていただく.文献を参照されたい.
 高血圧治療において認識しておくべきことは,対象となる高血圧症患者(本態性)は異なった特徴を有するheterogenousな集団であり,患者の特徴に合わせて非薬物療法や降圧薬療法を使い分けることが重要であるということである.なお,本稿では本態性高血圧症のみについて述べる.二次性高血圧症については他を参照されたい.

低血圧症

著者: 板岡慶憲 ,   樫田光夫

ページ範囲:P.82 - P.85

疾患概念と病態
 低血圧症は高血圧症と異なりWHOなどによる一定の診断基準は存在しない.
 一般的には収縮期血圧100〜110mmHg,拡張期血圧60〜70mmHg以下を低血圧症とすることが多い.しかし,拡張期血圧のみの低下は意味をもたないとされている.

心臓神経症

著者: 中野弘一 ,   今崎牧生 ,   平陽一

ページ範囲:P.86 - P.87

疾患概念と病態
 心臓神経症とは,動悸・息切れ・胸痛・胸部不快感などの循環器症状を主とする神経症と定義される.臨床の場では明らかな器質的心臓・脈管疾患を認めないが,心臓・脈管症状を主訴とし,心理的要素の関与しているものと考えられている.しかし,器質的障害は存在するが,症状は当該疾患に伴うものでないと判断される場合も心臓神経症と診断しうる.心理的には不安症状を主とするものが大部分であるが,恐怖・強迫・心気・ヒステリー症状を主とするものもある.歴史的にはirritable heart,effort syndrome,Da Costa syndrome,神経循環無力症など種々の呼称があるが,心臓神経症とほぼ同様な病態を持つ概念と考えられる.精神医学では不安神経症で包括できる病態であるとされている.臨床的推移から分類すると,急性型(パニック障害)と慢性型(全般性不安障害や身体化障害など)に分けられる.
 心臓神経症の病態については,中枢のメカニズムでは,脳幹にある青斑核の興奮によって不安が惹起され,動悸などの急性発作としての不安症状が生じるとする考え方が有力である.一方,末梢では,β遮断薬が奏効することなどから,β受容体の過敏性を介して動悸などの交感神経刺激症状が出現するとする考え方があり,現在では両者が影響し合って発症すると考えられている.

解離性大動脈瘤

著者: 増田善昭

ページ範囲:P.88 - P.90

疾患概念と病態
 解離性大動脈瘤は,大動脈内膜の破綻により壁内に侵入した血液が大動脈中膜を剥離して壁内に血腫を作った状態をいう.本症は必ずしも瘤状拡大を伴わないので,単に大動脈解離ともいう.
 本症の分類としてDeBakey分類(I〜III型)とStanford大分類(A,B型)があるが,最近は後者の分類が多く使われる.

大動脈炎症候群(脈なし病・高安動脈炎)

著者: 松﨑益徳 ,   山川克敏

ページ範囲:P.91 - P.93

疾患概念と病態
 大動脈炎症候群は,大動脈およびその主要分枝,肺動脈に起こる原因不明の非特異的動脈炎である.1908年,眼科医の高安による報告以来,脈なし病とも呼ばれたが,近年,上田らにより大動脈炎症候群という単一病名により総括されることとなった.しかし,現在でも国際的にはTakayasu'sarteritisが最も一般的な病名として用いられている.
 本症は慢性疾患であり,動脈病変が長期かつ広範囲に起こるため,多種多様の臓器障害が発症し,個々の臨床症候は極めて多彩である(表1).本症の病態は,①全身症状を主体とするprepulselessphase,②動脈炎による血管病変を主体とするpulselessあるいはvessel inflammatory phase,③主要動脈の非活動型狭窄閉塞病変および高血圧を呈するchronic occlusive phase,に分けられるが1),治療戦略上は①②を急性期,③を慢性安定期と分類している.

閉塞性動脈硬化症

著者: 黒木茂広 ,   島田和幸

ページ範囲:P.94 - P.95

疾患概念と病態
 大・中動脈における粥腫と血栓形成における動脈内腔の狭窄ないし閉塞により,末梢組織の阻血症状を呈する疾患で,腹部大動脈以下の比較的大型の血管に好発する.大動脈末端部から腸骨動脈,浅大腿動脈から近位膝窩動脈に多い.中高年の男性に多い.糖尿病合併例では,下腿動脈に多発性病変を合併する頻度が高いとされる.血管外科適応例が多い.患肢の局所的虚血は存在するが,大部分の症例で長期にわたって安定した血行動態を維持する.しかし,約10%は急性血栓症を起こし,急性増悪する.

レイノー病・レイノー症候群

著者: 大野実

ページ範囲:P.96 - P.97

疾患概念と病態
1.病態
 1986年にパリのMaurice Raynaudが発作性の皮膚の血行障害を報告して以来130年以上経過したが,この病態に関していまだ本質的な病態の解明はなされていない.
 一般にレイノー現象(Raynaud's phenomenon)は,寒冷などの刺激で皮膚細動脈の発作性収縮により四肢,特に手指の蒼白化を生ずる現象である.さらに,乳頭化細小静脈相のうっ血でチアノーゼをきたし,さらに乳頭化細小動脈相の拡張により潮紅を呈する.このような寒冷時の皮膚の血管の収縮は本来生理的反応であるが,これが過度に現れ,日常生活に支障をきたした場合は病的と考えられる.この現象は各種の全身疾患の部分症状としてみられることが多く,特に全身性エリテマトーデス(SLE)や全身性強皮症(PSS),混合型結合織病(MCTD)の初発症状として重要である.表1に記載したような全身疾患に併発するものはレイノー症候群(Raynaud's syndrome)と定義され,基礎疾患のないレイノー病(Raynaud's disease)とは区別される.

血栓性静脈炎(表在性血栓性静脈炎・深部静脈血栓症)

著者: 山下裕久

ページ範囲:P.98 - P.99

疾患概念と病態
 血栓性静脈炎は,臨床上,静脈壁を場とする炎症と,それに併発する静脈血栓症のすべてを含む概念であり,表在性血栓性静脈炎と深部静脈血栓症に分類される.前者は主に静脈や隣接組織に炎症変化を伴い,血小板が主体の白色血栓で,静脈壁との癒着が強く,局所的な炎症過程として経過することが多い.後者では,血液凝固性の亢進や血流のうっ滞により,炎症性成分を含まない赤色血栓が形成されることが多く,血栓の遊離により肺塞栓を起こし,また重篤な末梢循環障害をきたす例もある.近年,深部静脈血栓症は増加傾向にあるといわれている,日常診療上でも本症の可能性を念頭において診療する必要がある.

リンパ管炎・リンパ浮腫

著者: 福田信夫 ,   大木崇 ,   井内新 ,   田畑智継 ,   加藤逸夫 ,   北川哲也

ページ範囲:P.100 - P.102

リンパ管炎
疾患概念と病態
 組織の炎症がリンパ管に波及し,領域リンパ節に向かう疼痛を伴った線状発赤(赤線)をきたした状態をいう.溶血性連鎖球菌,ブドウ球菌などによる急性リンパ管炎と,結核,梅毒,フィラリアなどによる慢性リンパ管炎がある.通常,外傷部,水虫感染部,動脈虚血または静脈性うっ血による潰瘍部などから細菌の侵入が起こる.
 急性リンパ管炎では,悪寒・戦慄を伴う高熱,全身倦怠,食欲不振で発症し,四肢の感染部から中枢部へ長軸方向に走る赤線を認め,疼痛,圧痛を伴う.進行すると,所属リンパ節の腫脹・圧痛を認める.慢性リンパ管炎では硬い索状物を触れるが,圧痛は少なく,皮膚発赤や発熱はみられない.リンパ浮腫への進展が問題となることがある.

消化器疾患

逆流性食道炎・食道潰瘍

著者: 杉山雅

ページ範囲:P.105 - P.106

疾患概念と病態
 逆流性食道炎は,胃液あるいは/および小腸液の逆流により食道炎膜が障害された状態である.病理学的には,組織学的に好中球浸潤や乳頭の延長などを認めるだけのものから,明らかなびらんや潰瘍を形成するものまでみられる.
 逆流性食道炎は,いくつかの因子が組み合わさって発症すると考えられている(図1).ほとんどの逆流性食道炎に合併する食道裂孔ヘルニアは逆流防止機構を減弱すると考えられている.胃液の逆流を防いでいる下部食道括約筋(LES)は,通常の嚥下による弛緩とは異なった,一過性の,持続の長い,強い弛緩(一過性LES弛緩,transient LES relaxation)を時々起こす.LES圧からみると逆流は3つのタイプに分けられる.それらは,①一過性LES弛緩に伴う逆流,②腹圧上昇時のLES圧の昇圧不全に伴う逆流,③著明なLES静止圧の低下による逆流(free reflux),であり1),①は健常者にもみられるが,逆流性食道炎では頻度が増加しているとされている.②,③は病的な逆流である.攻撃(胃側)因子の側からみると,胃排出遅延は逆流を起こしやすくするため重要な因子であると考えられている.

アカラシア

著者: 本郷道夫 ,   佐竹学

ページ範囲:P.107 - P.109

疾患概念と病態
 アカラシアは,嚥下時の下部食道括約筋(loweresophageal sphincter:LES)の弛緩障害に基づく食物の通過障害を主徴とする疾患である.LESは嚥下運動とともに弛緩して食物の胃内流入を促し,嚥下運動の終了により一定圧で収縮して胃から食道への逆流を防止する.
 アカラシア患者ではLES部壁内神経叢のVIP(vasoactive intestinal peptide)含有神経の障害,NO合成酵素の欠損などの原因により,LESの弛緩障害が起こる.上位の神経系,ことに迷走神経系の異常については異論が多く,またその原因の詳細は確立されていない.

急性胃粘膜病変

著者: 柳川健

ページ範囲:P.111 - P.113

疾患概念と病態
 急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)は,突発する消化管出血や腹痛などをもって急激に発症する胃病変と一般的に理解されている.この疾患概念は1968年にKatzらが提唱1)し,内視鏡検査によって,①びらん性胃炎,②出血性胃炎,③急性胃潰瘍が確認されるものである.病変が必ずしも粘膜にとどまらないことも多いため,急性胃病変(acute gastric lesion:AGL)と呼ぶこともある.
 急性胃粘膜病変の原因の主なものを表1に示す.特に近年,Helicobacter prloriの関与や,内視鏡検査後に生ずるものが注目されている.

急性胃炎

著者: 柴田香織 ,   矢花剛

ページ範囲:P.115 - P.117

 急性胃炎は,本来病理組織学的疾患名である.他臓器の急性炎症と同様に,浮腫,充血,出血,滲出液,壊死などの表層性・びらん性変化がみられ,病理組織学的に好中球を主体とした炎症性細胞浸潤を特徴とする,胃粘膜の局所性あるいはびまん性炎症性変化を指している.急性胃粘膜病変(AGML)や慢性胃炎のいわゆる急性増悪などとともに,診断基準,病型分類,重症度ならびにその臨床的意義などについてはいまだ曖昧な点が多く残されている.しかし,この急性胃炎という病名は日常診療の場において,臨床症状,内視鏡所見などより汎用され,しかも治療の対象とされることが少なくない.
 本稿では,急性胃炎の病態,診断および薬物療法のあり方について概説し,実際的な処方例についても言及してみたい.

慢性胃炎

著者: 三木一正

ページ範囲:P.118 - P.119

疾患概念と病態
 慢性胃炎のうちで,最も重要なものが慢性萎縮性胃炎である.慢性胃炎の概念については種々の論議があり,時には否定され,あるいは再認識されながら今日に至っており,最近話題のHelicobacter Pylori(HP)をはじめとする最新の胃炎研究の成果を組み入れた新しい胃炎分類(シドニー分類)まで,種々の観点から様々な分類が行われている.
 慢性萎縮性胃炎は,病理組織学的には胃粘膜上皮の欠損に対する粘膜の特異な再生により,改築現象がびまん性に生じた状態であるといえる.その本態が,固有胃腺の減少・消失という非可逆性の粘膜の萎縮性変化である.この変化は加齢とともに増加する.

胃潰瘍

著者: 青野茂昭 ,   宮原透

ページ範囲:P.120 - P.123

 消化性潰瘍は疾風怒濤の時代に遭遇している.Helicobacter pyroliの出現により消化性潰瘍学は混乱と期待のなかで,“コペ転”的要素をふまえて一定の方向性を模索しているのが現状である.治療に限ってみると,Helicobacter pyloriの除菌の欧米における積極的なアプローチを,現時点の日本における保険制度でのもとでの治療に投影することには種々の問題がある.Helicobacter pyroliの除菌に関して,日常診療の治療法として扱うには時期尚早であり,日本消化器病学会のガイドラインなどを参照されたい.
 本稿では現状におけるconservativeな胃潰瘍の診療面に言及したい.

十二指腸潰瘍

著者: 芦田潔

ページ範囲:P.124 - P.127

疾患概念と病態
 十二指腸潰瘍は,胃潰瘍や逆流性食道炎とともに酸関連疾患という疾患概念でとらえられることもある.酸関連という言葉からもわかるように,これらの疾患はいずれも胃液酸度との関わりが強い疾患である.事実,強力な酸分泌抑制剤であるH2ブロッカー(H2-RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)により,これらの疾患のいずれに対しても極めて優れた治療効果が得られていることからこの疾患概念は容易に理解できよう.このなかで,十二指腸潰瘍は胃潰瘍や逆流性食道炎患者よりも好発年齢が若く,酸分泌能が高い患者のことが多く,病態から考えると最も酸分泌と関連がある疾患といえる.
 治療に関しては1920年のSchwartzの格言,すなわち“no acid, no ulcer”にもあるように,古くから胃液酸度の抑制が治療の原則であった.

胃手術後障害(ダンピング症候群)

著者: 小沢邦寿

ページ範囲:P.128 - P.129

疾患概念と病態
 1.早期ダンピング症候群
 胃切除後の患者に食後30分以内に起こる発汗,動悸,眩暈,顔面紅潮などの全身症状と,腹痛,下痢などの腹部症状である.高張の食餌(特に糖質の多い流動物)が急に小腸内に移動し,拡張や蠕動亢進が起こり,小腸内は高浸透圧となり,血流分布の異常や高血糖をきたす.セロトニン,ヒスタミンなどの血管作動物質の遊離や,VIP(vasoactive intestinal peptide)などの消化管ホルモンの作用の関与が指摘されており,神経質な人に多い傾向がみられる.ビルロートⅠ法よりⅡ法に多く,胃全摘でさらに頻度が高いとされるが,実際に薬物療法を要するほどのダンピング症候群はむしろ少ないと考えられる.症状による診断の指標としては,日本消化器外科学会の診断基準がある1)

胃ポリープ

著者: 大政良二

ページ範囲:P.130 - P.132

 治療を必要とするポリープとはどのようなものか,また,胃ポリープの治療法の中で,外科手術と比較して侵襲の少ない内視鏡的治療の選択法とまた内視鏡治療で起こり得る偶発症とその防止対策について述べる.

吸収不良症候群

著者: 星野恵津夫

ページ範囲:P.133 - P.135

疾患概念と病態
 吸収不良症候群とは,吸収不良のみならず消化不良も含めた概念であり,消化・吸収の過程(消化管腔内での消化,消化管粘膜での吸収,門脈/リンパ系での輸送)の何らかの障害により,摂取された食物中の栄養素が十分に利用されない状態を総称する.栄養素の吸収部位は,蛋白質・脂肪・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)は小腸全域であるが,糖・鉄,ビタミン類の多くは主として上部小腸であり,胆汁酸・ビタミンB12は回腸下部である.外科的切除や広範な粘膜障害などでは,障害部位の違いにより特定の栄養素が欠乏することになる.栄養素の点からは,脂肪・蛋白質.糖質・胆汁酸・葉酸・ビタミンB12・脂溶性ビタミン・鉄・亜鉛・Ca・Mgの吸収不良があるが,臨床的に頻度の多いものは脂肪吸収障害,乳糖不耐症,胃切除後の鉄・ビタミンB12吸収障害である.
 中性脂肪の吸収には,膵液・胆汁が正常に分泌され,腸管内でのリパーゼによる中性脂肪の脂肪酸とβ-monoglycerideへの分解,および胆汁酸によるミセル形成,さらにリンパ系が正常なことが必要である.

潰瘍性大腸炎

著者: 北洞哲治 ,   大原信 ,   田代博一 ,   林篤

ページ範囲:P.136 - P.140

疾患概念と病態
 潰瘍性大腸炎は腹痛,発熱,粘血便を主症状とする原因不明の特発性炎症性腸疾患であり,大腸粘膜が直腸よりびまん性,連続性に侵され,その病態に免疫学的機序の関与が考えられている.患者血清中に高率に自己抗体が出現すること,全身的な合併症が高率に合併することより,炎症は大腸を病変の主座とするが,その背景にはTリンパ球細胞成熟過程障害に基づく全身性の自己免疫異常が存在すると考えられている1)

クローン病

著者: 高添正和 ,   岩垂純一

ページ範囲:P.142 - P.148

 Crohnらが,腸結核が猖獗を極めていた時代の1932年に報告して以来,クローン病が若年者の新たなる慢性疾患として注目されるようになった.本邦では1976年以降,患者数は年15%という驚異的増加率を示し,1994年度末には11,337人にも達している.クローン病は難治性疾患であるが,その生命予後が比較的良いことや,患者数の驚異的増加率に鑑みて,長期間にわたる医学的管理の体制確立は急務である.
 さらには,その疾患の特性から,本疾患は常に内科系,外科系の双方の関わりと全人的アプローチが必要とされ,臨床家にとって各人の臨床能力を試される疾患ともいえる.

偽膜性腸炎・急性出血性大腸炎

著者: 勝又伴栄

ページ範囲:P.149 - P.151

疾患概念と病態
 antibiotics-associated enterocolitis(抗生物質起因性腸炎)とは抗生物質投与中または投与後に発症する下痢症状を主とする腸炎で,菌交代現象に伴うClostridum difficileの異常増殖とその毒素(enterotoxin)による偽膜性腸炎(pseudomembranous enterocolitis)と,発症機序が解明されていない急性出血性大腸炎(acute hemorrhagiccolitis)とに分かれる.

虚血性大腸炎

著者: 北野厚生 ,   大川清孝 ,   押谷伸英 ,   松本誉之

ページ範囲:P.152 - P.153

疾患概念と病態
 1963年,Boleyらは腹痛,顕下血により発症し,注腸造影上栂指圧痕(thumb printing)像を呈し,その後痕跡を残さずに自然治癒した症例において,主幹動脈には明らかな閉塞が認められないこと,さらに大腸の血流遮断実験においても同様の像が再現されることから,これらの大腸病変は大腸の可逆性閉塞に基づくとする考えから“reversible vascular occulusion of the colon”というdisease entityを打ち出した1)
 1966年,Marstonらはischemic colitis(IC)なる病名を提唱し,重症度に準じて,①一過性型(transient type),②狭窄症(stricture type),③壊死型(gangrenous type),に分類した2).その後,1977年,臨床経過を加味して,③を除いた可逆性である①および②をICとして報告した3)

過敏性腸症候群

著者: 高橋裕 ,   上野文昭

ページ範囲:P.155 - P.157

疾患概念と病態
 過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は消化管の機能性疾患としてとらえられる.腹痛と便通異常の患者に,原因となる器質的疾患がない場合に用いられる疾患である.その様々な診断基準は,病歴を重視し臨床的になされている.IBSの病態生理は,自律神経失調による副交感神経緊張状態および腸管局所の壁在神経叢の過剰反応が合わさった全消化管の運動・分泌機能亢進状態と理解されている.病型は便通状態により,下痢型,便秘型,交替型に分類される.

大腸憩室症

著者: 桜井幸弘

ページ範囲:P.159 - P.160

疾患概念と病態
 大腸憩室症は高齢者になるほど増加するため,今後大きな臨床的問題となる疾患である.周知のごとく,その発生はほとんどが大腸内圧の増加による仮性憩室であり,憩室症自体では治療の対象とならないが,その合併症が問題となる.本邦では右側結腸に頻度が多いが,近年,左側結腸憩室の増加によりその差は縮小してきている.合併症は左右憩室で頻度に差があるとされているが,穿孔,炎症,出血であり,素早い診断と治療方針の決定が必要である.穿孔,炎症の症状である腹痛と出血に分けて戦略をたてる.

大腸ポリープ

著者: 舩山広幸 ,   樋渡信夫

ページ範囲:P.162 - P.163

疾患概念と病態
 大腸の隆起性病変(ポリープ)のうち,臨床的に最も高頻度に遭遇する腫瘍性ポリープについて,その取り扱いを中心に述べる.大腸腫瘍には最近,平坦・陥凹型の病変も発見されるようになったが,悪性化の頻度や発育速度などの生物学的態度についてまだ不明な点が多く,一律に取り扱うことはできないので,本稿では論じない,また,遺伝性疾患である大腸腺腫症やHNPCC(hereditarynonpolyposis colorectal cancer)には特別な対応が必要であり,これも本稿では扱わないことをあらかじめお断りしておく.
 腫瘍性ポリープの所見記載には,部位,大きさ,肉眼型などが必要である.肉眼型は早期胃癌の内視鏡分類を準用しており,頻度の多い隆起型を有茎性(Ip),亜有茎性(Isp),無茎性(Is)の3型に細分し,さらに偏平な表面隆起型(IIa)に分類される.腫瘍性ポリープが癌または腺腫内癌である比率(癌並存率,“癌化率”)は病変の大きさにより異なる.大きさ5mm以下では約1%であるが,6〜10mmで10%前後,10mm台で30%前後,20mm以上では50%程度である.

イレウス

著者: 吉野肇一 ,   田中豊治

ページ範囲:P.164 - P.165

疾患概念と病態
 様々な原因による消化管の閉塞に基づく病態で,「消化管閉塞症」ともいわれる.消化管の閉塞による腸管内容(食餌,ガス,消化液,糞便など)の停滞・逆流による症状のほかに,腸管内細菌の腹腔への透壁性逸脱による腹膜炎,腸管などの絞扼性壊死,脱水,電解質異常など,多彩かつ重篤な症状を呈し,迅速で正確な治療が要求される疾患である.閉塞部位により,小腸イレウス,大腸イレウスと呼ばれることもある.
 消化管の機械的な閉塞(機械的イレウス)によることが多く,その原因としては,既往開腹術に起因する腸管の不整癒着がほとんどで,ほかに消化管,特に大腸の悪性腫瘍,内・外ヘルニア,なかでも大腿ヘルニアの嵌頓,腸重積,糞塊,胆石,回虫などの寄生虫などがあげられる.

痔核

著者: 高橋俊毅

ページ範囲:P.167 - P.168

疾患概念と病態
 1.発症頻度
 Thomsonは粘膜下の血管周囲の結合織をクッションといい,これが崩壊・断裂し,痔核血管が拡張し,肛門外下方に下垂して症状が出てくるという1).これには遺伝的素因が関与し,管壁が薄く,静脈弁がなく,周囲組織の圧迫で容易に還流が阻害され,静脈系のうっ血を起こす.男性に多く,小児にはなく,30歳以上では約70%に認めるが,治療対象となるのは少ない.歯状線より口側のものを内痔核,以下のものを外痔核という.

急性腹膜炎

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.169 - P.170

疾患概念と病態
 急性腹膜炎とは,腹腔内に漏出した細菌や毒素(bacterial peritonitis),あるいは無菌的な消化酵素や尿(chemical peritonitis)によって生じた腹膜の炎症で,「腹膜が広範なやけどをおった」状態である.腹膜の表面積は皮膚の表面積とほぼ同じ1.5〜1.8m2であり,炎症で1mmの浮腫が生ずれば,1,500〜1,800mlの水分が貯留する.急性腹膜炎はその原因によって,食道,胃,小腸,大腸,胆嚢,膀胱などの腹腔内臓器が,外傷,腫瘍,潰瘍,血行障害などで穿孔・破裂を起こし,内容物が腹腔内に漏れ出して腹膜の急性炎症を起す続発性汎発性腹膜炎(最も頻度が高い)と,腹水著明な非代償性肝硬変を有する大人や,ネフローゼの子供に好発する,消化管穿孔を伴わない,したがって細菌の侵入経路が不明な,特発性細菌性腹膜炎(spontaneous(primary)bacterial peritonitis:SBP)に大別される.

急性肝炎

著者: 永井孝三 ,   上杉成人 ,   賀古眞

ページ範囲:P.171 - P.173

疾患概念と病態
 急性肝炎は肝親和性ウイルス感染に基づく肝細胞破壊によるもので,多くは一過性であり,原因ウイルスの排除とともにself limitedな良好な経過を示す.しかしながら一部に,初期の肝細胞破壊が高度で劇症化する例,ウイルス排除が不完全で慢性肝炎に移行する例がみられ,時に腎障害,造血障害など肝外合併症も認められ,治療的戦略として注目すべきはこの点にある.これら病型,予後は起因ウイルスにより違いがあり,病因診断を確実にするとともに,特に急性期の重症度判定を念頭におき治療にあたるべきである.

劇症肝炎

著者: 与芝真

ページ範囲:P.175 - P.177

疾患概念と病態
 肝は巨大な予備力と強力な再生力に恵まれた臓器である.肝はウイルス感染,アルコール,薬剤,虚血,変性など様々な侵襲を受けるが,大半の症例ではこの天賦の予備力と再生力により,黄疸や倦怠感など一定の症状は呈するものの破綻なく治癒する.しかし,肝細胞の破壊や変性がこの肝の持つ能力を越える範囲と速度で進行すると,肝再生力が追いつかなくなり,肝機能の不全状態に陥る.一般には発症後8週以内にこの状態に至ったものを急性肝不全,欧米ではfulminant hepaticfailure(FHF)と呼んでいる.わが国では劇症肝炎という病名が多用されているが,この用語を使用する場合,本来は基礎病変は肝炎に限られるべきだろう.
 欧米ではFHFはあくまでも急性肝障害の範疇でとらえているが,わが国の劇症肝炎の診断基準では,意図的にこの点を除いて単に肝炎としている.これは,東南アジアに多いHBVキャリア劇症化もこの診断基準に包摂する意図があったためであるが,それではC型を含め慢性肝炎の劇症化もこの診断に包摂するのかとなると,専門家の間でもはっきりしない.最近acute on chronicという名称が流布しており,この呼称は慢性肝炎の劇症化を包摂するが,先述の点の明確化がないうちに新しい病名を導入するのは好ましくないと思われる.

B型慢性肝炎

著者: 片山和宏 ,   林紀夫

ページ範囲:P.179 - P.181

疾患概念と病態
 B型肝炎ウイルス(HBV)により肝機能異常が6カ月以上持続し,肝生検で肝細胞に種々の程度の変性壊死が認められるほか,門脈域に円形細胞の浸潤や線維化がみられるものがB型慢性肝炎であり,門脈域の削り取り壊死の有無により活動性と持続性に分けられる.
 本邦ではHBV感染のほとんどが母児感染により成立しており,感染後の自然経過はほぼ次のように考えられている1).感染早期の若年齢では感染ウイルス量が多いにもかかわらず,免疫力が弱いために肝炎のない時期(1期)がみられるが,ウイルス抗原に対する免疫反応の出現とともに肝炎が発症し,ウイルス量が減少していく(2期).これ以降の過程で慢性肝炎や肝硬変,さらには肝癌の発生がみられる.ウイルスがほぼ排除されたのちも多くの場合宿主遺伝子に組み込まれたウイルスDNAからS抗原などが発現する(3期).

C型慢性肝炎

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.182 - P.184

疾患概念と病態
 今から遡ること約6年,それまで非A非B型肝炎と称されていたものの起因ウイルス(C型肝炎ウイルス:HCV)が発見され,わが国の肝臓病の研究ないし治療局面は大きく展開した.すなわち,アルコールないし自己免疫に起因すると考えられていた肝臓病のなかにも,HCV感染を伴う例が多く含まれ,わが国の肝細胞癌の90%以上がHCVないしHBV感染に起因することが明らかとなった.
 さらに,自然治癒の可能性の極めて低いC型慢性肝炎のなかで,インターフェロン(IFN)治療により根治する例もみられることがわかり,この数年に150万人以上の多数にIFN投与が行われている.その結果,30〜40%の症例に著効が得られる反面,IFN難治例の実態も明らかとなり,IFN治療の適応,投与法などに関しては第二段階に入りつつある.また難治例に対しては強力ネオミノファーゲンC®(SNMC)静注,経口剤としてウルソデオキシコール酸(UDCA)投与も見直されている.

自己免疫性肝炎

著者: 池田有成 ,   佐藤芳之

ページ範囲:P.185 - P.186

疾患概念と病態
 自己免疫性肝炎は女性に好発し,自己免疫性機序が病因として関与していると考えられる原因不明の慢性肝炎であり,ウイルス,アルコール,薬物などによるものは原則として除外される.現在,自己抗体の種類により表1のような分類が提唱されているが,IIb型はむしろC型慢性肝炎として扱うという意見もある.厚生省「難治性の肝炎」調査研究班の診断基準はこれらのうち,主として抗核抗体陽性の古典的な1型の自己免疫性肝炎の病像をもとにして考えられた基準であり,今後改訂される必要がある1)
 最近ではInternational Autoimmune Hepatitis Groupによる診断基準も用いられている2).診断に当たっては,肝炎ウイルスマーカー陽性であっても自己免疫性肝炎は否定できない.また,抗核抗体陰性の自己免疫性肝炎があることに注意すべきであり,あくまでも検査所見を含む臨床像より診断すべきである.

肝硬変による腹水

著者: 板倉勝

ページ範囲:P.187 - P.189

肝硬変における腹水の病態
 肝硬変による腹水の発生には数多くの因子が関与している1,2).すなわち,肝での線維増生と再生結節による圧迫のため門脈圧が亢進し(アルコール性肝硬変では,これらの病的変化に肝細胞の膨化と中心静脈周囲線維化の影響が加わる),一方,肝におけるアルブミンの合成能低下に伴い,血清アルブミンが減少して血漿浸透圧が低下する.その結果,腹腔内の毛細血管レベルでの血管内と腹腔内の物質平衡は大幅に腹水生成の方向に傾く.さらに,再生結節による肝静脈枝の圧迫と,アルコール性肝硬変における中心静脈周囲線維化は,ともに類洞内圧亢進の原因となり,肝で生成されるリンパ液の量が増加し,一部は腹腔内に漏出して腹水増加の一因となる.その結果,有効循環血漿量が減少し,本症における末梢での動静脈シャントと血中に増加する血管拡張因子による末梢での血管抵抗減少も加わって有効循環血漿量はさらに減少する.
 肝硬変において末梢血管を拡張させる因子としてはグルカゴン,サブスタンスP,エンドトキシンによって合成が増加するNOなどが考えられている.有効循環血漿量の減少に伴って生じるのは,交感神経の緊張増加による尿細管でのNa再吸収の亢進である.レニン・アンギオテンシン系の活性化に伴うアルドステロンの分泌亢進も生じ,肝での代謝能低下も相まって,血中濃度が増加し,Na・水の貯留傾向が増強する(図1).

肝性脳症

著者: 杉原潤一 ,   佐々木稔 ,   森脇久隆 ,   武藤泰敏

ページ範囲:P.191 - P.193

疾患概念と病態
 肝性脳症とは,高度な肝機能障害に基づいて,意識障害をはじめとする多彩な精神神経症状をきたす症候群である.肝性脳症は成因の面から,壊死型とシャント型に大別して理解されてきた.前者は広汎な肝細胞の壊死脱落により,アンモニアをはじめとする脳症惹起因子の解毒能が著減して肝性脳症をきたすものであり,劇症肝炎が代表的である.一方,後者は肝細胞量は保たれているものの,シャントのため肝血流量が低下しており,脳症惹起因子を処理する能率が低下して肝性脳症をきたすもので,Eck瘻症候群が代表的である.しかし日常臨床上,最も遭遇することの多い肝硬変脳症は,両者の要素が混り合った中間型として位置付けられている1).特に治療対策や予後の観点から,当教室では肝性脳症にかかわる各種パラメーターを多変量解析を用いて分析した結果,肝性脳症を①急性型,②末期昏睡型,③慢性再発型,の3型に分類することが最も有用であった2).このうち急性型は劇症肝炎が典型的であり,肝硬変にみられるのが慢性再発型と末期昏睡型である.
 このように肝性脳症の病態は多岐にわたるが,黄疸や腹水とともに肝不全の最も中心的な徴候の一つであり,病態を速やかに診断して早期に治療を開始することが重要である.劇症肝炎の治療については別項にゆずり,本稿では肝硬変脳症に対する治療を中心に概説する.

門脈圧亢進症

著者: 今井深

ページ範囲:P.194 - P.197

疾患概念と病態
 門脈圧亢進症は流入血液が門脈から肝臓を経て全身静脈系にいたる経過中に,血管の狭窄ないし閉塞により門脈循環抵抗が増大する結果,門脈圧が上昇する病態である.臨床的には,門脈圧亢進に伴う食道静脈瘤,腹壁静脈怒張,腹水,脾腫,貧血,消化管出血などの疾患群の総称である.
 閉塞の部位により肝前性,肝内性,肝後性の門脈圧亢進症に分類されるが,わが国では肝硬変に伴う肝内肝静脈閉塞症によるものが最も多く,次いで原因不明の肝内門脈閉塞症による特発性門脈圧亢進症がある.

原発性胆汁性肝硬変

著者: 柴田実

ページ範囲:P.198 - P.200

疾患概念と病態
 原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC)は1950年にAhrensらにより提唱された,自己免疫異常に基づく進行性の慢性肝内胆汁うっ滞性疾患である.中年以降の女性に好発し,胆道系酵素やIgMの上昇を認め,約85%に抗ミトコンドリア抗体(AMA)が出現する.無症候性PBCは癌痒感や黄疸を認めず,症候性PBCはこれらのいずれかの症状を伴った病態である.近年,血清ビリルビン,GOT,GPTおよびALPは正常だが,AMA陽性で肝生検でPBCと診断される“早期PBC”という病態があることが判明した1).早期PBCは発病初期のPBCなのか,あるいはPBCの不全型なのかは不明である.肝病変の進行度に関わりなく角膜口腔乾燥症(Sjögren症候群),Raynaud症状,慢性関節リウマチ,強皮症,甲状腺疾患などの自己免疫性疾患を高率に合併する.組織学的には小葉間胆管およびその周囲に慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)などの胆管障害像を認める.

アルコール性肝障害

著者: 重田洋介

ページ範囲:P.201 - P.203

疾患概念と病態
1.原因
 アルコール(A1)飲料の過剰摂取によって引き起こされる肝障害で,一気飲みなどによって起こる急性アルコール中毒は本稿では取り上げない.多くは日本酒に換算して毎日3合以上,5年間以上の常習飲酒家に認められるものをいう.その発現はA1の直接障害作用によるものであり,栄養障害の影響はあってもそれは二次的なものと考えられている.

肝膿瘍

著者: 永田博司

ページ範囲:P.204 - P.206

 疾患概念と病態
 全身衰弱,発熱,悪寒などの非特異的症状が潜行性に進行する.
 画像診断学ならびに微生物学的診断学の進歩と,抗生物質とドレナージ術の治療学の進歩により,治療成績が向上している.この4点について「戦略1」の項で述べる.反面,これらの戦略が遅延すれば,ruptureなどを合併し,致命的となる.

胆石症

著者: 田中直見

ページ範囲:P.207 - P.209

疾患概念と病態
 胆石とは胆道系に発生した固形物であり,症状の有無にかかわらず,石があれば胆石症と称する.食生活の欧米化に伴い,レステロール胆石を中心としてその頻度は増加している.胆石成分分析からコレステロール胆石と色素胆石に分類される.また,石の存在部位によって胆嚢胆石,肝内結石,総胆管結石に分類される.
 無症状胆石と有症状胆石の場合で対応が異なる.疼痛などの症状を取り除くことは勿論であるが,外科的処置が必要であるか否かを的確に判断することが肝要である.

胆嚢炎・胆管炎

著者: 河原弘規

ページ範囲:P.210 - P.211

疾患概念と病態
 胆嚢炎・胆管炎は胆嚢と胆管の炎症性疾患で,他の臓器の炎症性疾患と同様の概念である.胆石症とは密接な関係にある.胆石は胆嚢炎・胆管炎の最大の原因であり,胆嚢炎・胆管炎は胆石症の重大な合併症であり,同じ病態で異なった表現形であるともいえる.その病態は,胆汁の流出障害とうっ滞,細菌感染である.

急性膵炎

著者: 杉山恵一 ,   中野哲 ,   桐山勢生

ページ範囲:P.212 - P.214

疾患概念と病態
 急性膵炎は,様々な原因によって膵酵素が膵内で活性化されることによる,いわゆる“自己消化”が本態である.膵にはこの自己消化を防ぐための種々の防御機構があるが,表1に示すような膵炎の成因と考えられる膵障害因子がこの防御機構を破綻させ,種々の機転で膵障害を引き起こすとされている.
 厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班(1990年)による急性膵炎臨床診断基準によると,急性膵炎は,

慢性膵炎

著者: 田口進 ,   佐々木勝己

ページ範囲:P.215 - P.217

疾患概念と病態
 1.病態
 慢性膵炎は膵のびまん性または限局性の炎症の持続ならびにその後遺的変化で,その本態は線維化であり,膵の形態的な異常と機能異常を示す.
 原因の約60%はアルコールである.飲酒による膵液の過分泌および膵液中蛋白濃度の上昇に伴う膵液粘稠性の亢進,さらに十二指腸乳頭の浮腫などが加わり,膵液の流出低下に伴う膵管内圧上昇が膵炎を発症するといわれている1).病状が進行すると膵管内膵液中に蛋白栓が形成され,カルシウム沈着による膵石形成へと発展する.

膵仮性嚢胞

著者: 中迫利明 ,   今泉俊秀 ,   原田信比古 ,   羽鳥隆 ,   羽生富士夫 ,   高崎健

ページ範囲:P.219 - P.221

 最近の画像診断法の進歩により,膵仮性嚢胞の診断や病態観察が容易になり,治療の必要性と治療時期の的確な判断が可能となってきた.また,治療法も保存的治療や外科的治療ばかりではなく,映像下の経皮的減圧術や内視鏡的減圧術(以下,インターベンション治療)も導入されており,治療手段の選択肢も広がってきている.
 本稿では,膵仮性嚢胞に対する最近の治療戦略について述べることとする.

慢性便秘症

著者: 佐々木大輔

ページ範囲:P.222 - P.223

疾患概念と病態
 便秘は,排便回数が少ない,1回の排便量が少ない,便が硬い,便が出にくいなどと訴える症状群である.女性と老年者に多い.便秘の訴えがあっても,本人に苦痛がなく,肛門疾患などの合併症もないならば特に治療の必要はない,分類であるが,便秘の経過から急性と慢性に分ける.原因疾患および病態から器質的と機能的に分ける.器質的便秘は原因疾患の治療を第一とする.本稿では慢性機能的便秘について述べる.
 慢性機能的便秘には,腸管の運動機能が亢進している痙攣性便秘と低下している弛緩性便秘がある.痙攣性便秘は内臓知覚の過敏,弛緩性便秘は鈍麻を伴うことがある.痙攣性便秘の大部分は過敏性腸症候群である.弛緩性便秘の中で,直腸知覚の鈍麻の著しいものが直腸性便秘である.痙攣性便秘と弛緩性便秘の臨床的鑑別点は,前者は若年〜中年の女性に多い,便が兎糞状で腹痛,腹部不快感などの腹部症状に富む,後者は老年者に多く,便が太く硬く,腹部症状が少ない,などである.なお,薬剤による便秘もある.常用薬の有無は必ず聞く(表1).

感染性腸炎(腸チフス,細菌性赤痢,コレラ,その他)

著者: 林繁和

ページ範囲:P.224 - P.225

疾患概念と病態
 かつては感染性腸炎といえば腸チフス,細菌性赤痢,コレラなど法定伝染病がほとんどであったが,近年,衛生環境の向上により激減し,これらに代わってCampylobacter,腸炎ビブリオ,Salmonella,Aeromonas,病原性大腸菌,黄色ブドウ球菌などによる腸炎が増加している.従来恐れられていた法定伝染病も,典型的な激しい症状は稀になり,細菌培養ではじめて診断されることもあるので,安易な抗生剤投与で済ますことのないようにしたい.その他に,ロタウイルスやサイトメガロウイルスによる腸炎,あるいはアメーバ赤痢などがあるが,本稿では省略する.

神経・筋疾患

単純ヘルペス脳炎

著者: 千田光一

ページ範囲:P.228 - P.231

疾患概念と病態
 単純ヘルペス脳炎は,三叉神経節などに潜伏していたウイルスが何らかの原因で脳内に侵入して発症すると考えられている.ウイルス性脳炎の中では比較的頻度が高く,季節や流行と関係なく起こる散発性脳炎としては最も頻度が高い.また,特に目立った好発年齢もない.急性の髄膜脳炎としてみられることが多いが,亜急性の例や髄膜徴候に乏しい例もある.発熱,頭痛,意識障害,けいれんなどの髄膜脳炎で一般的にみられる症候に加えて,単純ヘルペス脳炎の特徴である側頭葉や前頭葉下部の病変を反映し,精神症状や失語などがみられることも多い.特徴的な局在性の主病変は各種神経画像検査でとらえることが可能で,脳波では左右差のある周期性同期性放電として認められることが多い.現在,有効で比較的副作用の少ない抗ヘルペスウイルス薬が利用できるが,単純ヘルペス脳炎では発症早期に治療を開始しないと予後改善につながらない.

片頭痛・緊張型頭痛

著者: 清水貴子 ,   渥美哲至

ページ範囲:P.232 - P.234

 頭痛は,外来診療で遭遇する最も多い主訴の一つで,病型については1988年,国際頭痛協会による新分類が発表された(表1)1),ここでは,頭痛の中で頻度の高い片頭痛と緊張型頭痛の治療について述べる.

一過性脳虚血発作

著者: 田中耕太郎 ,   福内靖男

ページ範囲:P.236 - P.239

疾患概念と病態
 1.疾患概念1)
 一過性脳虚血発作(transient ischemic at-tack;TIA)の概念は,脳血管障害の分類上の位置づけにおける考え方,発症機序に関する検討,治療法の開発や画像診断技術の進歩とともに変化してきている1).現在,われわれが日常臨床的にTIAを診断名として用いているときは,脳虚血は全脳虚血ではなく局所的であり,それによる巣症状が一過性(24時間以内,多くは数分以内)にみられる一過性局所性脳虚血発作を指す.
 TIAは脳血管障害の主要病型の一つとして,1958年のNIH委員会の分類に初めて記載された.そこでは脳梗塞を伴わない脳虚血“transientcerebral ischemia without infarction”として,反復性局所脳虚血発作(recurrent focal cerebralischemic attack),全身血圧低下に伴う一過性脳虚血発作および片頭痛が含まれていた.これらのうち,われわれがTIAとして臨床的に問題にするのは前2者の病型であり,本稿でもTIAはこの両者を指すものとする.

脳梗塞

著者: 田村乾一 ,   東儀英夫

ページ範囲:P.240 - P.242

疾患概念と病態
 脳梗塞とは,脳動脈の血流の途絶により,その灌流領域の脳組織に虚血性変化が生じた状態である.一般に発生機序は脳血栓,脳塞栓の2つに分類される.脳血栓はさらに主幹動脈の粥状動脈硬化と穿通動脈の閉塞によるラクネ(lacunae)の2つに分けられる.脳塞栓症では心臓弁膜疾患,壁在血栓を伴う急性心筋梗塞,心内膜炎,不整脈(特に弁膜疾患を伴わない心房細動)などの心原性塞栓症が重要である.

脳出血

著者: 塩田純一

ページ範囲:P.243 - P.245

疾患概念と病態
 脳出血は脳実質内の血管が破綻し,神経の脱落症状や脳圧亢進による様々な症状が出現する.これは一方で何らかの原因による血管の脆弱性が存在することに加えて,血圧の上昇や時には外的要因などが加わって出血を誘発することが多い,外傷を除く脳出血の80%は高血圧に起因し,その他の原因としてAVM(動静脈奇形),もやもや病,動脈瘤などの血管の奇形,アミロイドアンギオパチー,脳腫瘍,血液の凝固異常などがある.
 脳出血はわが国では脳卒中の17%を占め,重症例が多く,病初期に内科的・外科的治療法の選択をせまられることから,確実な早期診断が要求される.

血管性痴呆—無症候性脳梗塞を含む

著者: 福井俊哉

ページ範囲:P.247 - P.249

疾患概念と病態
 血管性痴呆(vascular dementia)とは,虚血か出血であるかを問わず,その原因が脳血管性病変であるものを指す.痴呆脳では,病理学的に血管性病変か老年性病変のいずれかが高度であることが知られており1),①一定量以上の血管性病変が主体の群,②アルツハイマー(Alzheimer)病でみられる老人性変化が主体の群,③両者が混合する群の3群に分類される.Hachinski2)は自らが作成した脳虚血スコアを用いて,これら3群の生前診断が可能であるとし,血管性病変による痴呆を“multi-infarct dementia”(多発梗塞性痴呆)と命名した.この名称は,白質の小梗塞多発状態だけでなく,皮質・白質の大小梗塞の多発状態も意味している.
 一方,Binswanger病(進行性血管性白質脳症)は,脳の慢性虚血が白質のびまん性髄鞘喪失をきたす病態であり,痴呆を特徴とする.他にも,多発性の脳出血や特定の脳部位(視床内側核,内包膝部,海馬など)の単発梗塞も痴呆の原因になることが知られている.以上のように,血管性痴呆とは多発梗塞性痴呆だけではなく,進行性血管性白質脳症,多発性脳出血,特定部位の単発性脳梗塞による痴呆などがすべて含まれた概念である.

高血圧性脳症

著者: 丹羽潔 ,   北川泰久

ページ範囲:P.250 - P.252

疾患概念と病態
 高血圧性脳症とは高血圧性緊急症の代表的疾患で,急激かつ著明な全身血圧(特に拡張期血圧)の上昇により,激しい頭痛,悪心,嘔吐,一過性視力障害,痙攣,意識障害などの脳症状を呈し,迅速かつ適切な降圧療法が行われないと致死的な転帰をとる疾患である.基礎疾患の有無は病態には関与しない.本疾患は血圧管理の普及した今日では極めて稀であり,一過性脳虚血発作,頭蓋内出血や脳幹部梗塞などの脳血管障害や尿毒症などとの鑑別が重要である.
 脳血流には脳循環自動調節能(autoregulation)が働くことはよく知られている.調節可能範囲内での全身血圧変動は脳血流量に影響を与えない,しかし,この範囲を越える全身血圧上昇では,図1に示すとおり脳細動脈が拡張し,脳血流は必要以上に増加する(breakthrough of autoregulation1)).この結果,血液脳関門は破綻し,その結果,血管透過性が亢進し,ひいては脳浮腫を引き起こす.現在ではこの現象が高血圧性脳症の原因と考えられている.

側頭動脈炎

著者: 廣瀬源二郎

ページ範囲:P.253 - P.255

疾患概念と病態
 一般に高齢者,特に60歳以上の患者にみられ,軽度の発熱,全身倦怠感,食欲不振,体重減少などの全身症状に加え,頭痛,貧血,赤沈亢進とともに,側頭動脈およびその周囲の頭皮に発赤,圧痛,自発痛を認める症候群をいう.最近では巨細胞動脈炎と呼ばれることが多い.ステロイド治療の遅れが治療不可能な眼動脈分枝閉塞による視力消失をきたすため,内科的救急治療を要する重要疾患として把握する必要がある.その病態の本質は中等大以上の動脈の巨細胞を伴う炎症性変化であり,その臨床症状は局所性と全身性の2つに分けられる.

ギラン・バレー症候群

著者: 結城伸𣳾

ページ範囲:P.256 - P.258

疾患概念と病態
 1.発症機序
 ギラン・バレー(Guillain-Barré)症候群は,上気道炎,胃腸炎症状などの1〜3週後に,四肢の筋力低下が急速に発症,進行し,4週以内にピークに達する末梢神経障害である.先行感染の主要な病原体Campylobacter jejuniのリポ多糖がGM1ガングリオシド様構造を有することが筆者らにより明らかにされ,先行感染の病原体が神経の構成成分ガングリオシドと共通する抗原を有し,病原体の交叉抗原に対する抗体が自己抗体(抗ガングリオシド抗体)として神経を障害する「交叉抗原説」が立証されつつある1).ウシ脳ガングリオシド注射後に多数のギラン・バレー症候群患者が発生した事実や,in vitroでの抗ガングリオシド抗体による神経障害作用も,その仮説を強く支持する.

パーキンソン病

著者: 横地正之

ページ範囲:P.259 - P.262

疾患概念と病態
 本症は1817年,英国の神経科医J.Parkinsonが「An Essay on the Shaking Palsy(振戦麻痺)』という小冊子を出版したことが疇矢である.しかし,長い間顧みられず,70年後の1888年,フランスのJ.M.Charcotがこの書物を激賞し,maladiede Parkinson(パーキンソン病)と呼んだ.本態を探る病理知見は,1913年Lewyによる細胞内封入体(Lewy小体)の発見,1919年Tretiakoffが本症の病理学的特徴は黒質の変性であることを明らかにし,1953年にGreenfieldらにより,黒質のメラニン含有細胞の変性・消失とLewy小体の出現が本症の病理所見として確立された.さらに1960年,EhringerとHornykiewiczにより本症患者の黒質-線条体ニューロンのdopamineが減少していることが発見され,本症の病理・病態プロセスが明らかとなった.直ちにdopamineの前駆物質であるL-Dopaの治療開発が始まった.
 本症の発症年齢は55歳ないし65歳で,男女差はない.稀に10〜30歳台の若い発症もあり,若年性パーキンソニズムといわれている.有病率は欧米より下回るとされてきたが,人口構成の高齢化とともに,欧米に近い100以上であることが中島らの米子市の疫学調査で明らかにされた.神経難病の中では圧倒的に多い疾患である.

ベル麻痺

著者: 岡安裕之

ページ範囲:P.264 - P.265

疾患概念と病態
 ベル麻痺は特発性の末梢性顔面神経麻痺であり,一側性の麻痺がほとんどである.発症は亜急性で,寝て起きたら気がつくようなときから,鏡を見ておかしい,あるいは家人から「顔の動きがいつもと違う」といわれてから数日のうちに麻痺が明らかとなることまである.発症すると,麻痺は急速に完成し,1週以上麻痺が進行することは少ない.半数近くの症例で感冒様の症状が先行する.表情筋の一側の麻痺に加えて,早期に約半数で耳介後部乳突突起の部分に痛みを認める.これより少ないが,舌先の味覚の低下,聴覚過敏,涙の分泌の異常(低下あるいは亢進)を認めることがある.
 病態は顔面神経管内での顔面神経内の浮腫と,それに伴う虚血,さらに虚血による浮腫の増悪が悪循環を形成し,神経の脱髄と,さらに進行すれば軸索変性が生じる結果,顔面神経の伝導が障害され,顔面表情筋の麻痺が生じるものと考えられる.初めに浮腫が生じる原因としては,先行感染に伴うアレルギー性機序や寒冷曝露が挙げられているが定説はない.

神経痛—三叉・舌咽・肋間・坐骨神経

著者: 新田清明 ,   塩澤全司

ページ範囲:P.266 - P.268

三叉神経痛
疾患概念と病態
 本態性と症候性とがある.
 本態性三叉神経痛は三叉神経が脳幹に入る部位で血管に圧迫されることにより生じ,多くはtrigger pointを認める.

多発筋炎

著者: 織茂智之

ページ範囲:P.270 - P.271

疾患概念と病態
 多発筋炎(polymyositis:PM)とは,急性または亜急性の骨格筋筋力低下を主徴とする炎症性筋疾患のうち,ウイルス・細菌・寄生虫など原因の明らかなものを除いたいわゆる特発性筋炎の一つであり,発症には自己免疫的機序が考えられている.PMでは筋病理学的にリンパ球を中心とする炎症性細胞浸潤がendomysium(筋線維と筋線維の間)に多いこと,非壊死筋線維にリンパ球が浸潤するところが観察され(図1),その多くがCD8陽性の細胞障害性T細胞(CTL)であることなどより,CTLの筋線維への直接の攻撃がその病態機序であろうと考えられている.
 最近,筆者らは,CTL内の細胞崩壊蛋白パーフォリンがPMにおける筋線維の障害に関与していることを報告した1)

てんかん

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.272 - P.274

疾患概念と病態
 「てんかん」または「てんかん症候群」とは,特定のてんかん発作が反復して起こる慢性の状態で,疾患単位ではなく症候群である(表1のII参照).
 てんかん発作は脳内ニューロン群の突発性過剰発射により引き起こされ,大脳皮質のどの領野からも起こるため,発作型も様々である(表1のII参照).

呼吸器疾患

かぜ症候群(上気道炎)

著者: 大石和徳

ページ範囲:P.277 - P.279

疾患概念と病態
 かぜ症候群は,種々の病原によって起こる上気道の非特異性急性カタル性炎症の総称であり,鼻閉,鼻汁,咽頭発赤,発熱などを主徴とする最も頻度の高い急性呼吸器感染症である.かぜ症候群の臨床症状は病型間(普通感冒,非細菌性咽頭炎,インフルエンザ,急性気管支炎など)でも互いにオーバーラップするために多彩である.発症の誘因として,宿主の状態(疲労,飲酒,脱水,免疫不全など)や環境の変化(乾燥,寒冷など)などが知られている.
 かぜ症候群の病原体の80〜90%はウイルスであり,細菌性,マイコプラズマ,クラミジアなどがその他を占める.ウイルスではライノウイルス,インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSウイルス,アデノウイルスなどがあげられる.これらの病原ウイルスの伝播は,患者の咳嗽・会話などにより空気伝染し,鼻粘膜や眼球結膜から体内へ侵入する.吸入ウイルス粒子は鼻咽頭を中心とした上気道から下気道に沈着する.こうしてウイルス感染による気道粘膜の急性炎症が惹起される.また,かぜ症候群に引き続いて二次性細菌感染を併発しやすくなる.この二次感染成立過程は以下のように説明される.ウイルスは気道上皮に親和性をもつが,感染により気道上皮を変性・脱落させ,気道クリアランスを著しく低下させる.この結果,気道親和性の病原性菌が容易に付着し,二次感染が成立する.

細菌性肺炎—主に市中感染肺炎

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.280 - P.281

疾患概念と病態
 細菌性肺炎は高齢者に多くみられる細菌によって起こる肺炎である.
 原因菌として最も多い細菌は肺炎球菌(60〜80%)であり,次いでインフルエンザ菌,クレブシエラ,大腸菌,ブドウ球菌があげられる.

異型肺炎

著者: 市川洋一郎 ,   大泉耕太郎

ページ範囲:P.282 - P.283

疾患概念と病態
 異型肺炎(atypical pneumonias)は,肺炎球菌などの一般細菌を病原とする細菌性肺炎(bacterialpneumonia)に比べて,その臨床像が異なることから名づけられた診断名である.現在では異型肺炎はウイルス,マイコプラズマやクラミジアなどの非細菌性病原によってひき起こされることが明らかになり,その結果,異型肺炎という総称は使用されなくなってきており,例えば“マイコプラズマ肺炎”のように,起炎病原体の名称を先につけて呼ばれる傾向にある.いわゆる異型肺炎の病原として頻度が高く重要なものは,マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)とクラミジア(Chlamydia psittaciとChlamydia pneumoniae)であり,本稿ではこれを中心に述べる.
 マイコプラズマ肺炎は小児や若年成人においては市中肺炎(community acquired pneumonia)の起炎病原として最も頻度が高い.発熱と激しい乾咳(non productive cough)が特徴であり,胸部X線像ではスリガラス状の淡い間質性陰影を呈することが多いとされているが,均等な浸潤影を呈することもある.

結核

著者: 赤川志のぶ

ページ範囲:P.284 - P.285

疾患概念と病態
 結核は,ナイアシン陽性の抗酸菌である結核菌の吸入によって感染する感染症である.初感染は肺末梢に微細な病巣を形成した後,肺門のリンパ節にも病巣を形成する.感染後2〜8週にて細胞性免疫が成立すると,多くは瘢痕治癒する.しかし,菌量が多かったり,免疫力が低下した場合は,引き続き炎症は進行し,胸膜炎や粟粒結核として発症する.
 一見治癒したかにみえる結核初期病巣も,免疫抑制剤投与や高齢などにて個体の免疫力が低下すると再燃しやすくなる.多くの肺結核はこの内因性再燃による慢性型結核である.病巣は肺葉の上部後方(S1,S2,S6)に好発し,空洞を有する結節性病変および周囲の散布性娘病巣をみることが多い.胸水貯留や粟粒結核をきたすものもある.

気管支喘息

著者: 喜屋武幸男

ページ範囲:P.286 - P.288

疾患概念と病態
 気管支喘息は,好酸球を中心とする炎症細胞による慢性の炎症性気管支炎と定義づけられ,その病態は種々の刺激に対する気道過敏性の増大に伴う広範囲の,可逆的かつ種々の程度の気道閉塞性障害と考えられる.
 患者の既往歴・家族歴におけるアレルギー性素因の有無,および過去における発作性の咳や喘鳴,呼吸困難の反復,さらには喘息治療を受けた経験があれば,その際の反応態度などを参考に本疾患を疑う.

慢性閉塞性肺疾患—慢性気管支炎・肺気腫

著者: 神野悟

ページ範囲:P.289 - P.293

疾患概念と病態
 肺気腫と慢性気管支炎は,慢性閉塞性肺疾患を構成する2大疾患である.いずれも喫煙によってもたらされる炎症性疾患で,肺機能上,臨床上,不可逆性の閉塞性換気障害を呈することより慢性閉塞性肺疾患(COPD)として一括されることが多い.しかし,肺気腫の定義は1987年の米国胸部疾患学会の定義によると,“終末細気管支より末梢の気腔,すなわち呼吸細気管支,導管,肺胞が破壊されて,そのため拡張した状態”と,純粋な病理学的診断である.すなわち,必ずしも肺気腫の進展と閉塞性換気障害は並行しない.Hoggらは,切除標本をもとに肺気腫の病理学的重症度との関連について調査した(Thorax,1994年).その結果,肺気腫の病理学的重症度と閉塞性換気障害とは相関しないことを示した.またBelbらは,CTの画像診断上の肺気腫重症度と閉塞性換気障害との関連を調査し,同様の結果を得ている(Am RevRespir Dis,1933年).
 一方,慢性気管支炎は米国胸部疾患学会の定義では“気管支における慢性,反復性(3カ月間ほとんど毎日,少なくとも2年連続)の過剰な粘液分泌状態で,気管支拡張症や結核などによるものは除外される”.

びまん性汎細気管支炎

著者: 吾妻安良太 ,   橋元恭士 ,   榎本達治 ,   工藤翔二

ページ範囲:P.295 - P.297

疾患概念と病態
 びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)は,1969年に本間,山中らによって臨床病理学的に独立した疾患として提案され,1983年に初めて欧米誌(Chest)にその疾患概念が紹介された.現在まで,日本人(モンゴリアン)に多いとされる慢性気道炎症性疾患である.
 その臨床像は,咳嗽,喀痰および息切れを主徴とし,胸部聴診上,80%以上に水泡音を聴取する.胸部X線像では両肺野のびまん性散布性粒状影(初診時約70%,最終診断時約90%に認められる),あるいは胸部CT像において小葉中心性の粒状影が認められ,しばしば過膨張所見を伴う.血液ガス所見では低酸素血症(80torr以下)を呈し,呼吸機能検査では1秒率低下(70%以下)が特徴的で,進行すると肺活量の減少,残気率(量)の増加を伴う.しかし,通常は拡散能の低下はみられない.さらに血清学的検査では寒冷凝集素価が64倍以上の高値を呈する.その持続的高値はDPBに特有とされ,単なる診断基準の一つにとどまらず,病因・病態の解明に重要な所見と考えられている.

気管支拡張症

著者: 富井啓介

ページ範囲:P.298 - P.299

疾患概念と病態
 気管支拡張症は“気道壁の破壊に伴う気管支の不可逆性拡張”と形態学的に規定された概念で,その成因,臨床像は多様である.これまで診断には気管支造影が必須であったが,昨今では高分解能CTにより非侵襲的に行えるようになった.ただし,一般に気管支拡張症という場合,肺癌,肺結核,肺化膿症,無気肺,肺線維症,アレルギー性気管支肺アスペルギールス症などに続発してできたものは除かれる.
 臨床的には,普段無症状で突発的な血痰を繰り返すdry typeと,大量の喀痰を主症状とするwettypeとに大別される.dry typeには中葉症候群や幼少時期の一過性の感染症が原因と推定されるものが多く1),通常いずれかの肺葉や区域に限局した分布(図1)をとり,肺機能の低下はあまり認めない.一方,wet typeの多くは慢性副鼻腔炎を伴い,いわゆる副鼻腔気管支症候群(SBS)に含まれ,中にはびまん性汎細気管支炎(DPB)が併存ないし進展した2)と考えられる重症例(びまん性気管支拡張症)(図2)もあり,総じて閉塞性換気障害を呈し,呼吸不全を併発する場合もある.

特発性間質性肺炎

著者: 小林龍一郎

ページ範囲:P.300 - P.301

疾患概念と病態
 特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)は原因不明の炎症性疾患である.急性型と慢性型に分類されるが,大多数は慢性型である.国により疾患概念の違いがあり,用語の混乱がみられるが,慢性型のIIPは米国のidiopathic pulmonary fibrosis(IPF)や英国のcryptogenic fibrosing alveolitis(CFA)と同義語である1,2).また,病理学的にはLiebowによる間質性肺炎の分類のうちのusual interstitial pneumonia(UIP)に相当して,一部がdesquamativeinterstitial pneumonia(DIP)に相当する1,3)
 IIPの病態は肺胞マクロファージ,リンパ球,顆粒球の炎症細胞が肺胞内と間質へ浸潤して,肺胞上皮や血管内皮細胞の変性をきたした胞隔炎を起こす.それが進行すると,細葉構造を形成する終末細気管支より末梢の気道・肺胞・毛細血管・間質の構造が破壊されて,線維芽細胞が遊走してきて線維組織に置き換わっていく3)

好酸球性肺炎

著者: 東田有智 ,   村木正人 ,   中島重徳

ページ範囲:P.302 - P.304

 好酸球性肺炎は1969年,Libbow & Carrington1)によって末梢血中好酸球増多の有無にかかわらず,肺組織内に好酸球浸潤を認める肺疾患の総称として定義された疾患である.1952年,Redder & Goodrich2)の提唱したPIE症候群(pulmonary infiltration with eosinophilia)が末梢血好酸球増多を伴う肺浸潤影を呈する一群の症候群であるのに対して,より広義の意味で呼ばれている.

過敏性肺臓炎

著者: 安藤正幸

ページ範囲:P.306 - P.307

疾患概念と病態
 過敏性肺臓炎は「有機あるいは無機塵埃を反復吸入しているうちにこれに感作されて,III型およびIV型アレルギー反応が細気管支から肺胞にかけて起こる結果発症するびまん性肉芽腫性間質性肺炎」の総称である.
 本症は,原因抗原の種類や発症環境の違いによって,夏型過敏性肺臓炎,農夫肺,鳥飼病,換気装置肺炎(空調病,加湿器肺),イソシアネートによる過敏性肺臓炎などに分けられる.また,これらの疾患は吸入する抗原の量と時間的推移によって,急性型,亜急性型,慢性型に分けられる.いずれの疾患あるいは病型にしても,その病態にはIII型アレルギー(免疫複合体)およびIV型アレルギー(細胞性免疫)が関与している.したがって,本症の治療の3原則は,①患者を抗原から隔離し,②発症環境から抗原を除去し,③薬物療法としてステロイドの投与を行う,ことにある.

過換気症候群

著者: 中谷龍王

ページ範囲:P.308 - P.309

疾患概念と病態
 過換気症候群とは,生理的にCO2排出を増す必要がないにもかかわらず,不髄意的に発作性過換気状態となり,それに伴って呼吸・筋・心血管・消化器・神経系および精神症状を起こす症候群である.過換気発作の発症誘因としては,心理的因子が強く関与している.

成人呼吸促迫症候群

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.310 - P.312

疾患概念と病態
 成人呼吸促迫症候群(adult respiratory distress syndrome:ARDS)は,Petty & Ashbaugh1)により1967年に提唱された疾患概念で,新生児のIRDSに相対する意味で,成人の重篤な急性呼吸不全例に対し命名されたものである.その基本的病態生理は非心原性の透過型肺水腫であり,種々の生体に対する侵襲の結果惹起される,しかし,その後の膨大な基礎的,臨床的研究にもかかわらず,本症の原因,病態,治療に関して絶対的なコンセンサスが得られていないのが実状である.そのため,1994年に米国と欧州の呼吸器病学会が合同でカンファランスレポート2)を発表しており,現時点での最良のコンセンサスと思われるので,本稿ではそれを中心に述べる.
 ARDSは必ずしも成人に限らないため,従来の“adult”を“acute”に変更する.ARDSの原因となる生体への侵襲(リスクファクター)は,表1に示すように,直接的な侵襲と間接的な侵襲があり,これらはいずれもARDSの原因となり得るが,なかでも頻度が高く,かつ治療が困難なのはsepsis syndromeによるものである.

肺塞栓症・肺梗塞

著者: 国枝武義

ページ範囲:P.313 - P.315

疾患概念と病態
 肺塞栓症は再発を繰り返して発症することが特徴であり,臨床症状を現さない軽微なものから,急性死に至る重篤なものまでがある.近年,わが国でも増加傾向にあり,致死性急性肺塞栓症も稀ではなくなった1).一方,肺塞栓症には器質化血栓が肺動脈を閉塞して肺高血圧をきたす疾患があり,血栓塞栓性肺高血圧症といわれるが,わが国では急性例に比べて相対的にこの慢性肺血栓塞栓症の頻度が高い2),肺塞栓症はこのように多彩であり,また肺梗塞を合併することもある.本症の治療戦略について述べる.

胸膜炎

著者: 青島正大 ,   蝶名林直彦

ページ範囲:P.316 - P.317

疾患概念と病態
 胸膜炎は,肺や胸膜に生じた炎症や悪性腫瘍の胸膜への波及により,胸水が貯留した状態と定義され,主なものとして,肺炎随伴性胸膜炎や結核性胸膜炎,膿胸,膠原病に伴う胸膜炎,癌性胸膜炎などがあげられる.

膿胸(誤嚥性肺炎)

著者: 野村浩一郎 ,   木田厚瑞

ページ範囲:P.318 - P.319

疾患概念と病態
 膿胸は,他の部位の炎症が胸膜に及び,胸膜腔に膿性の胸水の貯留したものと定義されている.この場合の胸水は,浸出性で多核白血球と線維素に富む.原因としては肺炎に伴う場合が最も多いが,その他,肺,口腔,咽頭・喉頭,椎体周囲,縦隔リンパ節,皮膚膿瘍などの炎症が二次的に波及したり,外傷や手術後の合併症として発症する場合などがある.急性期には,悪寒・戦慄を伴う高熱,咳,胸痛,発汗を訴える.このような膿胸に至る肺炎のうちで最も頻度の高いものは誤嚥性肺炎である.誤嚥性肺炎は3型に分類され,①pH2.5以下の胃内容物の逆流,②食物,飲水などの誤嚥,③口腔・咽頭粘膜に繁殖(colonization)した主としてグラム陰性桿菌の少量吸引(microaspiration),により発症する肺炎の総称である.誤嚥しやすい背景および基礎疾患(表1)と宿主の栄養状態,免疫能,および局所の防御因子の低下などが発症に関与する.
 膿胸は,症状のない誤嚥性肺炎や,症状があっても治療が不適切であれば,壊死性肺炎(necrotizing pneumonia)あるいは肺膿瘍に進展する場合がある2)

気胸

著者: 小澤志朗

ページ範囲:P.320 - P.321

疾患概念と病態
 自然気胸とは,肺胸膜に何らかの原因で破綻が生じ,肺胞気が胸腔内に漏出し,肺が虚脱した状態である.原因の有無により,種々の肺疾患に続発して生じる続発性気胸と特発性気胸に分類される.後者は近年,胸膜直下の気腫性嚢胞(ブラ,ブレブ)の破綻によって生じることが病理学的に確認されている.

肺性心

著者: 西村正治

ページ範囲:P.322 - P.324

疾患概念と病態
 肺性心とは「一次的に肺・肺血管または肺のガス交換を障害し肺高血圧を惹起する疾患によって生じた右室拡大(右室拡張および右室肥大)あるいは右室不全」とNYHA(New York Heart Association)により定義されている.病理学的所見に基づいた基準であるため,臨床的には肺高血圧症に右室の拡大をもって肺性心と診断する.肺性心は臨床経過より,①急性肺性心:急性肺血栓塞栓症などに伴うもの,②亜急性肺性心:悪性腫瘍の血行性肺転移など数カ月の経過で症状を呈するもの,③慢性肺性心:慢性肺疾患に伴うもの,と3型に分類されるが,通常は③の慢性肺性心をさすことが多い.
 肺性心の成立に関わる肺高血圧は,器質的な要因と機能的な要因の両者によって招来される.前者は肺気腫や肺塞栓症でみられる肺血管床の破壊・減少であり,後者は低酸素性肺血管攣縮が主体である.心拍出量の増加,多血症による血液粘性の上昇,高炭酸ガス血症はいずれも肺高血圧をさらに強めるように働く.

睡眠時無呼吸症候群

著者: 高崎雄司

ページ範囲:P.326 - P.328

疾患概念と病態
 覚醒時の呼吸は,主に代謝性呼吸調節,それに行動性呼吸調節が一時的に働いて,動脈血中の酸素と炭酸ガス分圧値(PaO2とPaCO2)を一定に保つよう,換気量が調節されている.一方,睡眠時,特にnon-REM睡眠に移行すると,行動性調節は消失し,換気は代謝性調節のみに依存するようになり,規則正しい換気が観察できるようになる(図1参照1)).この代謝性呼吸調節機構に何らかの機能的異常が生じると,睡眠時無呼吸症候群(sleepapnea syndrome:SAS)を代表とする,様々な睡眠呼吸障害が発症するようになる.本稿の目的はSASなので,SASに限って言及する.
 閉塞型SAS(obstructive SAS:OSA)は,上気道の相対的狭窄に基づく睡眠時の上気道閉塞がいったん起こると,呼吸調節機構の変調(周期性)を引き起こすため,結果として繰り返す無呼吸が出現した病態をいう2).一方,中枢型SAS(centralSAS:CSA)は多種多様な病態,すなわち入眠直後の覚醒と浅睡眠の繰り返し,左心不全にみられる血液循環時間の遅延,中枢神経障害患者の換気化学調節の反応性増大などが代謝性調節の安定性低下を惹起する結果,発症するものと思われる2)

血液・造血臓器疾患

鉄欠乏性貧血

著者: 澤田賢一

ページ範囲:P.330 - P.331

疾患概念と病態
 鉄欠乏性貧血(IDA)は,ヘモグロビン(Hb)合成に必要な鉄が欠乏することによって生ずる貧血である.すべての貧血性疾患の50%を占め,日常臨床の場で最もよく遭遇する疾患の一つである.大量出血による急激な貧血は,一般にはIDAの範疇に入れない.

悪性貧血

著者: 下平滋隆 ,   降旗謙一

ページ範囲:P.332 - P.334

疾患概念と病態
 DNA合成障害に基づく貧血を巨赤芽球性貧血といい,ビタミンB12(VB12)または葉酸の欠乏が主な原因となる.VB12の吸収には胃粘膜の壁細胞より分泌される内因子が必要で,その分泌不全のためVB12が欠乏し発症する巨赤芽球性貧血を悪性貧血という1).悪性貧血は遺伝的あるいは自己免疫的機序による胃粘膜の高度萎縮が成因となっており,抗内因子抗体や抗壁細胞抗体が証明されることが多い.胃粘膜の萎縮は胃底部から胃体上部において高度にみられ,組織学的に壁細胞の減少または消失,リンパ球および形質細胞の浸潤を認める.北欧に多く,本邦での症例は少ない.
 巨赤芽球性貧血を呈するVB12および葉酸欠乏の比較を表1に示す.主要病因として,前者では悪性貧血以外に胃全摘の既往のある患者や盲管症候群などVB12の吸収障害による欠乏症があり,後者では摂取不足,吸収障害,葉酸代謝拮抗剤投与などが考えられる.悪性貧血に特徴的な臨床所見として,舌乳頭萎縮,舌の発赤(Hunter舌炎),亜急性連合性脊髄変性症と呼ばれる神経障害がある.また,胃癌,橋本病の合併頻度が高く注意が必要である.

再生不良性貧血

著者: 中熊秀喜 ,   堀川健太郎

ページ範囲:P.336 - P.339

疾患概念と病態
 再生不良性貧血は末梢血の汎血球減少症と骨髄の低形成を特徴とする難治性の造血障害で,多くは特発性であるが,薬剤(クロラムフェニコール,抗痙攣剤,金製剤など),化学物質(ベンゼンなど)や放射線などによるもの,ウイルス性肝炎や感染症(Epstein-Barrウイルス,HIV)に続発するもの,さらに体質性(Fanconi貧血,家族性再生不良性貧血など)造血障害も知られる.
 発生病態として,造血幹細胞異常,造血微小環境障害,免疫異常などが想定されている.

自己免疫性溶血性貧血

著者: 杉原尚

ページ範囲:P.340 - P.341

疾患概念と病態
 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は,何らかの原因により自己赤血球膜上の抗原に対して自己抗体が産生され,抗原抗体反応の結果赤血球が傷害を受け,赤血球寿命が短縮する疾患群である.本症における自己抗体は,その至適温度によって温式抗体と冷式抗体に大別されてきた.温式抗体によるものを慣習上,単にあるいは狭義の自己免疫性溶血性貧血と呼び,冷式抗体によるものには寒冷凝集素症(coldagglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある.
 温式自己抗体は37℃,すなわち体温付近で最大活性を有し,原則としてIgG抗体である.実際,温式AIHA患者赤血球膜上にはIgGの結合,さらには結合IgG量やサブクラスによっては補体の結合を認める.IgG1とIgG3は補体活性化能を有しているが,IgG2は弱く,IgG4はその能力を欠いている.この結合IgGを証明するのに用いられるのが直接Coombs試験であり,陽性化には1個の赤血球に200〜250個のIgG分子結合が必要と考えられている.近年,IgG結合量の少ない,すなわち直接Coombs試験陰性のAIHAの存在も確認されており,疑わしき場合には患者赤血球膜のIgG量の確認が必要である.

多血症

著者: 小松則夫

ページ範囲:P.342 - P.344

 多血症とは,末梢血液単位体積あたりの赤血球数,ヘマトクリット(Ht)値,ヘモグロビン(Hb)が正常範囲を超えた状態を指し,貧血と対照的な疾患である.一般に赤血球数600×104/mm3,Ht値が53〜55%(女子では50%),Hb 18.0g/dl(女子では17.0g/dl)をいずれか超えた場合,本症を疑う.
 多血症の分類を表1に,診断のフローチャートを図1に示す.

顆粒球減少症(無顆粒球症)

著者: 今村展隆

ページ範囲:P.346 - P.348

疾患概念と病態
 1.疾患概念
 顆粒球減少症(granulocytopenia)は末梢血中の顆粒球(好中球,好酸球,好塩基球)の絶対値が正常値(中央値±2SD)以下に減少した状態で,小児(10歳以下)では1.5×109/l以下,成人では1.8×109/l以下と定義されている1).顆粒球は大部分が好中球で占められており,顆粒球減少症は好中球減少症(neutropenia)とほぼ同義語として使用されている.無顆粒球症は文字上は顆粒球が全くなくなった状態を意味するが,実際は好中球が激減(0.5×109/l以下)した状態を示す1)

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 安保浩伸 ,   半田誠

ページ範囲:P.349 - P.351

疾患概念と病態
 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)は血小板減少,正常骨髄像,そして他の血小板減少を起こす疾患の除外によって定義される.その病態は急性と慢性に分けられる.急性ITPはウイルス感染などにより生成された免疫複合体が血小板に結合して血小板減少が起こる.一方,慢性ITPは血小板に対する自己抗体がなんらかの原因により生成され,これが血小板に結合して血小板減少が起こる.前者は小児に多くself-limitingであり,後者は成人に多く慢性の経過をとる.
 本稿ではITPの治療を慢性ITPを中心に述べることにする.急性ITPにおいても慢性ITPとの鑑別が困難な場合,重篤な出血が疑われるときには慢性ITPの治療に準ずる.

播種性血管内凝固症候群

著者: 高松純樹

ページ範囲:P.352 - P.353

疾患概念と病態
 播種性血管内凝固症候群(DIC)とは以下の4項目を満たすことが必要である.①基礎疾患を有するものが何らかの原因で,②凝固系の亢進をきたし,全身に血栓を生じ閉塞症状を起こすとともに,③血栓形成に血小板,凝固線溶因子の消耗をきたし,④著明な出血症状をきたす病態である.したがって,病態把握のためには①基礎疾患の有無,②凝固系の亢進および血小板・線溶系の亢進の有無,③血小板・凝固線溶系因子の消耗の有無,④臨床症状の有無を検討することが重要である.

代謝・栄養障害

インスリン非依存型糖尿病

著者: 矢賀健 ,   岡芳知

ページ範囲:P.356 - P.359

疾患概念と病態
 インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)は,何らかの遺伝的素因に,運動不足,過食,肥満,感染,ストレスなどの後天的要因が加わり発症すると考えられている.病態としては,インスリン依存型糖尿病(IDDM)が膵ラ島の破壊によるインスリン分泌不全であるのに対し,NIDDMはインスリン分泌不全(特にブドウ糖に対して)に加え,末梢組織におけるインスリン作用の低下,すなわちインスリン抵抗性が関与していると考えられている.
 したがって,NIDDMの治療はインスリン分泌不全を補う(例えばSU〔スルホニル尿素〕剤やインスリン)ばかりでなく,インスリン抵抗性を改善する(例えば肥満の解消)ことに十分な配慮が必要である.

インスリン依存型糖尿病

著者: 石田俊彦

ページ範囲:P.360 - P.365

 疾患概念と病態
 糖尿病はインスリンの絶対的あるいは相対的作用不足による慢性の高血糖とWHOにより定義されていることより,一つの疾患というよりも高血糖症候群と考えられてきている.糖尿病は通常インスリン依存型糖尿病(IDDM)とインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)とに分類され,両者ともにいくつかの遺伝因子と多くの環境因子の双方により発症することはよく知られている.糖尿病患者の著しい増加に伴ってIDDMとNIDDMとの鑑別が困難な症例が最近増加していることは,糖尿病をIDDMとNIDDMの2つに分けること自体に無理があり,両者は連続した疾患であり,両者に共通したいくつかの遺伝因子と環境因子が存在している可能性が推察されている.
 さて,IDDMの遺伝的疾患感受性としてhuman leukocyte antigen(HLA)がよく知られているが,HLA DRよりもHLA DQがより強く関与している.最近,罹患同胞対法によりHLA領域が関与しているものをIDDM1と呼び,これが一番強く関与していることが明らかにされたが,さらにインスリン遺伝子領域が関与しているものをIDDM2とし,それ以外にもIDDM3やIDDM4の存在が指摘されている.

糖尿病性壊疽

著者: 紀田康雄 ,   柏木厚典

ページ範囲:P.367 - P.369

疾患概念と病態
 壊疽は主として下肢末梢にみられる皮膚および皮下組織,骨の壊死性病変で,本邦では比較的稀な糖尿病の合併症であるが,最近増加傾向にあり,おおむね2〜4%の頻度と考えられる.滋賀医科大学第3内科の統計では糖尿病の4.8%と高頻度であったが,地域差もあるようである1)
 閉塞性動脈硬化症(ASO)または自律神経障害(動静脈シャント)による虚血が主たる原因で,末梢神経障害による知覚低下,高血糖,免疫能低下も修飾因子として働く.詳細は他の文献を参照していただきたい2,3).足の火傷,しもやけ,深爪,足白癬,靴づれ,水泡などが引き金となることが多く,稀に手指に壊疽を認める場合もある.高血糖状態では感染の抵抗力が減弱しており,皮下組織から骨,骨髄へと感染,壊死が広がっていく.

糖尿病性昏睡

著者: 堀田饒

ページ範囲:P.371 - P.373

疾患概念と病態
 1.糖尿病性昏睡の病型分類
 高血糖状態下の糖尿病性昏睡は下記のように分けることができる1)
 1)糖尿病に比較的特異なもの:①ケトアシドーシス,②非ケトン性高浸透圧昏睡
 2)糖尿病に非特異的なもの:①乳酸アシドーシス,②合併症に起因するもの(肝不全,腎不全,脳血管障害など)

高脂血症

著者: 末廣正

ページ範囲:P.374 - P.377

疾患概念と病態
 コレステロール,トリグリセライドはいずれも血中ではリボ蛋白という複合体で存在している.リボ蛋白のうち,コレステロールエステルを多く含有するLDL(low density lipoprotein)はマクロファージなどを介して動脈壁に沈着し,粥状硬化巣の強い進展因子となる.血中コレステロールの増加が冠動脈疾患の発症率を高め,逆に,コレステロールを下げることにより,その発症率を減少させ得ることが疫学的に証明されている.高トリグリセライド血症も低HDL(high density lipoprotein)コレステロール血症とともに動脈硬化の危険因子であることが示され,特に肥満,耐糖能異常,高血圧などの危険因子と重複することにより,冠動脈疾患の発症を助長することが明らかにされている.すなわち,高脂血症の主なる治療目的は,動脈硬化性疾患の発症・再発を予防することにある.また,著しい高トリグリセライド血症,特に高カイロミクロン血症では膵炎を引き起こすため治療の対象となる.

肥満

著者: 小谷一晃 ,   松沢佑次

ページ範囲:P.378 - P.379

疾患概念と病態
 「肥満」とは体脂肪が過剰に蓄積した状態と定義されるが,現在のところ正確かつ簡便な体脂肪量の定量法がなく,一般臨床においては身長と体重によって肥満を判定している.日本肥満学会ではその基準となるべき標準体重として,最も有病率が少ない体重(kg)である「身長(m)2×22」を推奨しており,体重がこの標準体重の+20%以上である場合を「肥満」と定めている.
 それに対して「肥満症」という概念は,表1に示すように,一言でいえば「治療すべき肥満」である.ただし,ここでいう「将来合併症を発症すると予測される肥満」とは,国際的にその重要性が認められている「内臓脂肪型肥満」を指し,(腹腔内)内臓脂肪の蓄積に伴い,糖尿病・高脂血症・高血圧症・虚血性心疾患などの成人病を合併しやすい肥満のことである.この内臓脂肪型肥満は臍のレベルのCTスキャン像において,腹腔内内臓脂肪(V)と皮下脂肪(S)の面積比(V/S比)が0.4以上である場合,内臓脂肪型肥満と診断する.

痛風

著者: 山岡孝

ページ範囲:P.380 - P.382

疾患概念と病態
 痛風は高尿酸血症を背景とし,尿酸の異常蓄積によって生じる疾患で,急性関節炎,痛風結節,痛風腎,尿路結石を中心とした病態を呈する.

低・高カリウム血症

著者: 冨田公夫 ,   野々口博史

ページ範囲:P.383 - P.385

疾患概念と病態(表1)
 高カリウム(K)血症,低K血症はいずれも血清中のKの濃度であり,絶対量を表してはいないので,体内の総K量を考えた鑑別が必要である.
 高K血症は採血時の赤血球溶血による偽性高K血症が多く,100×104/mm3以上の血小板増加症や白血球増加症の場合にも細胞破壊による高K血症が起こりうる.

低・高ナトリウム血症

著者: 清水倉一

ページ範囲:P.386 - P.390

 正常者の自由飲水状態における血清の浸透圧は,抗利尿ホルモン(ADH)分泌による水分排泄の調節と口渇による水分摂取の調節により,287±5mOsm/kgH2Oという極めて狭い範囲に保たれている.
 血清(細胞外液)を構成する溶質の90%以上がナトリウム(Na)塩であることから,
 血清浸透圧(mOsm/kgH2O)≒2×血清Na濃度(mEq/l)
なる関係がある.すなわち,血清浸透圧(細胞内・外液とも体液の浸透圧は同じ)の調節によって,血清Na濃度が規定されるのである.

内分泌疾患

下垂体前葉機能低下症

著者: 板東浩 ,   斎藤史郎

ページ範囲:P.392 - P.393

疾患概念と病態
 下垂体前葉機能低下症(hypopituitarism)は,単独または複数の下垂体前葉ホルモン〔ACTH(副腎皮質刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン),LH(黄体ホルモン),FSH(卵胞刺激ホルモン),GH(成長ホルモン),PRL(プロラクチン)〕の分泌低下により生じる.原因は下垂体前葉障害と視床下部障害によるものがあり,下垂体腺腫,女性の分娩後下垂体壊死(Sheehan症候群),下垂体近傍の腫瘍(頭蓋咽頭腫,胚芽腫,髄膜腫など)の順に多く1),手術・放射線照射後,外傷,結核性髄膜炎,サルコイドーシス,自己免疫性下垂体炎,Hand-Schüller-Christian病などもある.
 診断には厚生省特定疾患間脳下垂体機能障害調査研究班が作成した「下垂体前葉機能低下症診断の手引き」2)が参考になる.手引きには主症候と検査所見がホルモン別に列挙されており,欠乏しているホルモンの組み合わせにより,①汎下垂体前葉機能低下症,②部分的下垂体前葉機能低下症,③下垂体前葉ホルモン単独欠損症と診断する.さらに,画像検査と病因検査により病因を明らかにし,治療法の選択や予後予測する.

甲状腺機能亢進症

著者: 中村浩淑

ページ範囲:P.394 - P.395

疾患概念と病態
 甲状腺機能亢進症の用語の使い方には,若干の混乱が見られる.それは,甲状腺ホルモンの合成,分泌が亢進し,ホルモン作用が過剰となった病態を甲状腺機能亢進症と呼ぶ立場と,これより広義に,甲状腺ホルモンの合成が亢進していなくても,血中ホルモンレベルが高まった状態をすべて甲状腺機能亢進症と呼ぶ場合があるからである.さらに,甲状腺ホルモンの作用が亢進する疾患としてはBasedow病が圧倒的に多いため,甲状腺機能亢進症がBasedow病の同意語として用いられることもある.表1に示すように,甲状腺機能亢進症状(甲状腺中毒症)をきたす疾患には種々のものがある.このうち甲状腺でのホルモン合成が亢進しているグループと,していないグループの区別は治療上大切である.前者が治療を行わない限り基本的にホルモン合成が亢進し続けるのに対し,後者の血中甲状腺ホルモン濃度の上昇は,多くの場合一過性であるからである.
 本稿では以下Basedow病の治療を述べる.

慢性甲状腺炎(橋本病)

著者: 藤田利枝 ,   川上康

ページ範囲:P.396 - P.397

疾患概念と病態
 確定診断は,甲状腺組織へのリンパ球浸潤などの病理組織所見によりなされる.診療の場では,びまん性の硬い甲状腺腫のある抗甲状腺抗体陽性症例,または甲状腺腫がなくとも甲状腺機能低下と抗甲状腺抗体を認める症例を“確からしい橋本病”として診断している.橋本病と診断されても,正常な甲状腺機能を有し,甲状腺ホルモン補充の必要がない症例は多い.

亜急性甲状腺炎・急性甲状腺炎

著者: 葛谷信明 ,   金澤康徳

ページ範囲:P.398 - P.400

亜急性甲状腺炎
疾患概念と病態
 本症は甲状腺の一部分に起きる非化膿性の炎症で,同部の自発痛と圧痛を訴え,触診で石様硬に触れる.甲状腺は一部,または全体として腫脹する.痛みの部位は一側から他側へと経過中に移動することがある,しかし,数週または数カ月後には完全に回復する疾患である.ウイルスが病因と考えられており,しばしば感冒様症状(発熱,四肢の筋肉痛,全身倦怠感,上気道炎)が前駆する.成人の女性に多く,小児には稀である.
 組織像は,急性期には濾胞の破壊,上皮細胞の変性,コロイドの消失と多核白血球やリンパ球の浸潤,さらにはコロイドを貪食した巨細胞がみられ,回復期には線維化とともに濾胞細胞の再生による小濾胞をみる.これらの組織像と正常の甲状腺組織像が不規則に境界をつくっている特徴ある病理所見を呈する.

高カルシウム血症

著者: 竹田秀 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.402 - P.403

疾患概念と病態
 高カルシウム(Ca)血症は様々な病態によりもたらされるが,原因疾患の大部分は悪性腫瘍に伴うものと,原発性副甲状腺機能亢進症である(表1).血清Ca濃度は副甲状腺ホルモン(PTH),活性型ビタミンDといったCa調節ホルモンにより,腸管からの吸収,骨での出入り,腎尿細管での再吸収の各段階で厳密に調節されている.そのなかで,悪性腫瘍に伴う高Ca血症や原発性副甲状腺機能亢進症では,骨吸収の亢進による骨からのCa動員が高Ca血症の主な発現機序となっている.一方,ビタミンD作用過剰症では,腸管からのCa吸収亢進が病態の中心である.
 一般に,高Ca血症では,尿濃縮力が低下することで高度の脱水状態にある.その結果,さらに高Ca血症が増悪してクリーゼに至ることもある.

副甲状腺機能亢進症

著者: 山本通子

ページ範囲:P.404 - P.406

疾患概念と病態
 副甲状腺機能亢進症は,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)が過剰に分泌される病態で,原発性と続発性に大別される.原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:1°HP)は副甲状腺の腺腫(稀に癌)または過形成によりPTHが過剰に分泌される結果生じる.一方,続発性副甲状腺機能亢進症は低カルシウム(Ca)血症によりPTHの分泌が刺激されている病態で,慢性腎不全やビタミンD欠乏症の患者などにみられる.本来,副甲状腺自体の病気ではなく,慢性腎不全の項で述べられると思うので,本稿では1°HPについてのみ述べる.
 最近のわが国の手術例における集計成績によると,患者の男女比は1:2で女性に多く,年齢分布は男女とも50歳台にピークがみられる1).特に女性では50歳以降の中高年層に患者数が多い.副甲状腺の病変としては,腺腫が約80%で一番多く,過形成15%,癌5%と続く.

副甲状腺機能低下症

著者: 古川洋太郎

ページ範囲:P.407 - P.410

疾患概念と病態
 副甲状腺機能低下症(HP)は副甲状腺ホルモン(PTH)の作用不全のため低カルシウム(Ca)血をきたす疾患であるが,PTHの欠乏による本来のHPと,標的臓器である腎のPTH不応による偽性副甲状腺機能低下症(PHP)とに大別される,両者の治療は,低Ca血の是正を目的に活性型ビタミンDを用いる点で変わりはないが,活性型ビタミンDの治療効果や治療上の問題点などにおいてかなりの違いがある.したがって,治療前に両者を正しく診断しておくことが必要である.
 PTHは骨細胞に働き,骨吸収を促進して血中にCaとリン酸を動員する.他方,PTHは腎組織に作用し,遠位尿細管においてCaの再吸収を高め,近位尿細管においてはリン酸と水酸イオンの再吸収を抑制する.この際,骨と遠位尿細管におけるCa作用は,活性型ビタミンDなしでは十分に発揮されない.

ADH分泌異常症

著者: 大磯ユタカ

ページ範囲:P.412 - P.413

疾患概念と病態
 ADH(抗利尿ホルモン)分泌異常症(syndromeof inappropriate secretion of ADH:SIADH)は抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの絶対的,相対的過機能状態を背景に生じる希釈性低Na血症である.急速に低Na血症を発生した場合を除き,SIADHの症候学的な特徴は乏しく,偶然行った血清電解質検査で発見する場合が多い.その診断は,①低浸透圧血症を伴う低Na血症の存在(高脂血症,高蛋白血症などによる見かけ上の低Na血症を除外),②尿中Na排泄が20mEq/日以上あり,尿が最大希釈されていないこと(尿浸透圧が100mOsm/kg以上を示す),③除外項目の確認(腹水を伴う肝硬変,心不全,低張性脱水,甲状腺機能低下症,副腎皮質機能低下症,利尿剤の過剰使用などを除外)に基づく.病因は異所性バゾプレシン産生腫瘍による自律的分泌によるもの,あるいは中枢神経系および肺に生じる多くの疾患を背景とするバゾプレシン分泌調節系の異常によるもの,さらに薬剤誘発群の3群に大別される.バゾプレシンの水貯留作用の不適切な亢進により,希釈性の低Na血症が発生することがSIADHの病態の第一ステップであり,その後,循環血漿量の増加による腎血行動態の変化,レニン・アルドステロン系の抑制,心房性Na利尿ペプチドの分泌増加などの要因により,低Na血症にもかかわらず尿中へのNa排泄が続き,低Na血症が固定化する.

アジソン病

著者: 名和田新 ,   高柳涼一 ,   柳瀬敏彦

ページ範囲:P.414 - P.417

疾患概念と病態
 アジソン(Addison)病は副腎に病変が原発する慢性副腎皮質機能低下症であり,その臨床像は副腎皮質ステロイドホルモン,すなわちアルドステロン,コルチゾール,副腎C19アンドロゲンの総合的な脱落により,両側副腎を合わせ少なくとも90%以上の破壊によって発症する.その原因として副腎結核と自己免疫機序の関与による特発性副腎萎縮が大部分を占める.
 本邦では,従来,副腎結核が過半数を占めていたが,結核化学療法の画期的進歩によってアジソン病は激減し,最近では特発性アジソン病の相対的増加がみられ,本邦でも欧米同様,特発性アジソン病が優位となった.

原発性アルドステロン症

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.418 - P.419

疾患概念と病態
 副腎でのアルドステロンが何らかの原因で過剰産生されるようになり,アルドステロンが遠位尿細管に作用し,低K血症と高血圧を引き起こす病態をいう.

クッシング症候群

著者: 山川正 ,   関原久彦

ページ範囲:P.420 - P.422

疾患概念と病態
 1.分類と病因
 クッシング(Cushing)症候群は副腎皮質ステロイドであるコルチゾールの過分泌により生ずる疾患である.本症候群はadrenocorticotropic hormone(ACTH)分泌により2つに分類される.ACTHが過剰に分泌され,副腎皮質よりコルチゾールを過剰に分泌するcorticotropin依存性Cushing症候群と,副腎皮質腺腫などによりコルチゾールが過剰に分泌され,corticotropin分泌は抑制されているcorticotropin非依存性Cushing症候群である.前者には視床下部下垂体系に異常があり,ACTHの過分泌されるものと,下垂体以外の腫瘍よりACTHまたはcorticotropin-releasing hormone(CRF)が過剰分泌される異所性ACTH症候群が含まれる.後者には副腎皮質腺腫あるいは癌,原発性副腎皮質結節性過形成によるものがある.Cushing症候群の病因としてはCushing病が最も多く,本邦では40〜60%,諸外国では60〜70%を占める.
 Cushing病の80%以上に下垂体腺腫が認められ,そのほとんどが微小腺腫(1cm以下)である.

褐色細胞腫

著者: 吉本勝彦

ページ範囲:P.423 - P.424

疾患概念と病態
 褐色細胞腫は副腎髄質から生じる腫瘍で,大量のカテコールアミンを産生・放出するため,種々の臨床症状を呈する疾患である.高血圧,頭痛,発汗,動悸,顔面潮紅あるいは蒼白,狭心症様症状,糖尿病,体重減少など多彩な臨床症状を呈する.臨床症状は発作型と持続型に分けられ,前者ではカテコールアミン大量放出時のみに高血圧などの症状を示す.この発作は1日に何回も起こす例から数カ月に1回の例とさまざまで,持続時間も一定しない.後者では高血圧が持続する.その比は2:1と発作型が多い.発作の誘因は,腹部圧迫,排尿,排便,腹部のマッサージなどがある.
 本症は全高血圧患者の0.1〜0.5%を占める.本腫瘍の約90%は左右いずれかの副腎から,残りの約10%は両側副腎から生じる.また副腎外発生が10%,悪性型が10%,家族性発生が10%を占めることより,本症は10%病ともいわれる.

アレルギー疾患

花粉症

著者: 鈴木修二

ページ範囲:P.426 - P.428

疾患概念と病態
 花粉症は花粉をアレルゲンとし,いくつもの反応段階を経て形成されたアレルギー性疾患の一つで,その病態は即時型炎症像と遅発型炎症像に大別される(図1).

アナフィラキシーショック

著者: 田所憲治

ページ範囲:P.429 - P.430

疾患概念と病態
 1.アナフィラキシーショックの病態
 ある抗原物質(アレルゲン)にさらされたとき,これに対するIgE抗体を作りやすい体質をアトピーという.産生されたIgEは肥満細胞,好塩基球に受容体を介して結合している.このようなときに抗原に曝露されると,細胞表面で抗原抗体反応が起こり,細胞からヒスタミンなどのケミカルメディエーターが放出され,血管の拡張,血管透過性の亢進,気管支・腸管の攣縮,神経末端の刺激などが惹起される,この反応は数秒から30分以内に起きるので即時型反応といわれるが,それが尋麻疹,鼻炎,下痢などの局所症状にとどまらず,全身違和感,呼吸困難,血圧低下など重篤な全身反応を伴うものをアナフィラキシーといい,こうした反応により引き起こされるショックをアナフィラキシーショックという.
 これに対して,IgE抗体を介さずに,アナフィラキシーと同様な症状を呈する反応をアナフィラキシー様反応という.例えば,X線造影剤によるショックは造影剤が補体やカリクレインにブラジキニン系を直接活性化させたり,肥満細胞,好塩基球からのメディエーター遊離を直接刺激したために起こると考えられている.アナフィラキシー様反応も,以上のようにアナフィラキシーにみられるケミカルメディエーターがその発症に関与しており,臨床的にはアナフィラキシーと同様に扱われる.

膠原病

全身性エリテマトーデス

著者: 橋本博史

ページ範囲:P.432 - P.437

疾患概念と病態
 全身性エリテマトーデス(SLE)は慢性に経過する全身性の炎症性疾患で,経過中,寛解と再燃を繰り返し多臓器病変を伴う.臨床的にはリウマチ性疾患,病理学的には結合組織疾患,病因論的には自己免疫疾患に属する.本邦におけるSLEの推定患者数は約2万5,000人とされ,約90%は女性で,20〜30歳台に好発するが,若年・高齢発症も存在する.SLEの臨床病態は画一的ではなく,軽症のものから重篤なものまで幅広く分布し,それらの病態により治療に対する反応性や予後が異なる.したがって,SLEの診断がなされれば,次の段階で詳細な病態の把握を行う.

多発性筋炎/皮膚筋炎

著者: 市川陽一 ,   下條貞友 ,   松田隆秀 ,   山田秀裕 ,   野口淳

ページ範囲:P.438 - P.440

疾患概念と病態
 多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)は横斑筋を主な炎症性病変の場とし,筋力低下を主症状とする疾患である.しかし,皮膚症状を主とし,筋症状の軽微な症例もあり,このような症例も含めて,合併する間質性肺炎,悪性腫瘍が予後を決定することが多いので,注意が必要である.

進行性全身性硬化症

著者: 谷本潔昭

ページ範囲:P.441 - P.444

疾患概念と病態
 進行性全身性硬化症(progressive systemic sclerosis:PSS)は,最近では進行性という言葉がはずされ,全身性硬化症(systemic sclerosis:SScと略)というように表現されることが多くなってきた.
 SScはびまん性結合組織疾患に属し,全身にびまん性に皮膚硬化がみられる全身型と,四肢末端や顔面にのみ皮膚硬化がみられる限局型に分けられる(CREST〔Calcinosis Cutis,RaynaUd's phenomenon,scleroderma,telangiectasia〕という名称は,石灰化,レイノー現象(Raynaud's phenomenon),食道蠕動運動低下,手指硬化,皮膚毛細血管拡張を兼ね備えた典型例が少ないためか,最近はあまり用いられなくなってきている),また,全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎/多発筋炎(DM/PM)などの他の結合組織疾患との合併もしばしばみられる.

混合性結合組織病

著者: 粕川禮司

ページ範囲:P.445 - P.447

疾患概念と病態
 全身性エリテマトーデス(SLE),強皮症,多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)にみられる症状が混在し,血清中に抗nRNP抗体が認められる疾患である.1972年,Gordon C Sharpによってmixed connective tissue disease(MCTD)として報告された.SLEにみられる強い腎障害や中枢神経症状はない.また,皮膚硬化は指端硬化が多く,躯幹にまで及ぶ例は少ない.時に慢性関節リウマチと同様の関節症状や所見がみられることもある.全体としてはステロイド薬に反応して予後が良いが,肺高血圧を発症した例の予後は極めて悪い.

慢性関節リウマチ

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.449 - P.455

疾患概念と病態
 1.病態
 慢性関節リウマチは自己免疫機序を病態の基礎に有する疾患である.多関節に慢性炎症を生じ,一部の自然寛解例を除くと,これが極めて長期間持続する.そして,この慢性関節炎の持続の中で関節構造の破壊性変化が蓄積し,関節機能障害がもたらされる.また,各種の関節外症状を合併する例も稀ではない.

シェーグレン症候群

著者: 山本一彦

ページ範囲:P.456 - P.457

疾患概念と病態
 シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome)は,原因不明の自己免疫的な機序によると考えられる炎症が外分泌腺に出現し,目,口腔,鼻などに乾燥症状が発症する病態である.病型としては,膠原病の合併のない原発性(primary)シェーグレン症候群と,慢性関節リウマチなどの各膠原病と併発する続発性(secondary)シェーグレン症候群とに大別される.橋本甲状腺炎,慢性肝炎,原発性胆汁性肝硬変などと併発することもある.
 臨床症状としては,口腔乾燥症(xerostomia)や眼乾燥症(xerophthalmia)を主体とし,鼻・腟乾燥症,気管支炎,間質性肺炎などの乾燥病態や唾液腺腫大がみられる.さらに,このほかに全身症状や臓器病変(腺外症状,extraglandular involvement)を伴うことがある.また,リンパ節腫脹,偽リンパ腫,悪性リンパ腫の合併などリンパ増殖性疾患の性格をも有する.

多発動脈炎

著者: 鈴木輝彦

ページ範囲:P.458 - P.459

疾患概念と病態
 血管炎をきたす疾患は多数存在するが,血管を主病変とし,壊死性,肉芽腫性など多様な組織学的炎症所見を呈する一群の血管炎症候群がある.しかし,従来から存在する臨床的診断名によって,出現する臨床症状も一定の傾向が認められることから,臨床的にはそれぞれの分類基準が用いられている.
 血管径による分類としては,大動脈,幹動脈病変として高安動脈炎,Behçet病,Buerger病,太い筋性動脈炎として結節性多発動脈炎(肉眼的PN),側頭動脈炎,川崎病がある.中小筋性動脈病変はWegener肉芽腫症,アレルギー性肉芽腫性血管炎ないしはChurg-Strauss症候群,膠原病に認められる血管炎,および顕微鏡的多発動脈炎などがある.

原因不明の全身疾患・肉芽腫症

ベーチェット病

著者: 広畑俊成

ページ範囲:P.462 - P.463

疾患概念と病態
 ベーチェット(Behçet)病は,再発性口腔内アフタ性潰瘍,皮膚症状(結節性紅斑,毛嚢炎様皮疹,皮下の血栓性静脈炎),外陰部潰瘍,ぶどう膜炎を主徴とする原因不明の炎症性疾患である.特殊な場合を除き,一定の部位の炎症性病変が慢性に持続するのではなく,急性の炎症が反復し,増悪と寛解を繰り返しつつ遷延した経過をとるのが特徴である.本症はトルコ,中東,中国,日本を結ぶ帯状のシルクロードに沿った地域に多く,欧米では少ない,本症の病因は不明であるが,HLA-B51と関連した遺伝的素因と何らかの外因が発症に関与すると考えられている.特に,本症患者には扁桃炎,う歯の既往や手術,外傷,抜歯などでの増悪が多いことから,ある種の細菌抗原が本症の発症に関与する可能性が考えられている1)
 本症の病態形成にあたっては,多少の例外はあるにせよ,Tリンパ球の過敏反応性による好中球の機能亢進が中心的役割を担っていると考えられる.こうしたTリンパ球の過敏反応が何らかの外因により誘発されて発作が生じると推察される.

サルコイドーシス

著者: 滝沢始

ページ範囲:P.464 - P.465

疾患概念と病態
 サルコイドーシスは,肺,眼,皮膚などを主病変とし,非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫の形成を認める病因不明の全身性疾患である.
 サルコイドーシスの病態には全身の免疫異常,特にT細胞の機能異常が重要な役割を果たすと考えられており,各臓器に形成される肉芽腫病変とひきつづく線維性変化により病変が形成される.

腎・尿路疾患

急性腎炎

著者: 山田明

ページ範囲:P.468 - P.469

疾患概念と病態
 急性腎炎は現在,一つの症候群と考えられており,「突然の肉眼的血尿,蛋白尿,高血圧,糸球体濾過量の低下,ナトリウム(Na)と水分の貯留を特徴とする症候群」というのが,急性腎炎症候群の定義である.
 表1に示すような様々な糸球体疾患がこのような症候群を呈し得るが,管内増殖性糸球体腎炎が主なる疾患である.この疾患はさらに,溶連菌感染後に発症するもの(溶連菌感染後急性糸球体腎炎:PSGN)と非溶連菌性のものに分けられるが,大多数はPSGNなので,主としてそれについて述べる.

慢性腎炎

著者: 御手洗哲也

ページ範囲:P.470 - P.471

疾患概念と病態
 慢性腎炎は,糸球体障害に起因する蛋白尿や血尿などの尿異常が長期にわたり持続し,高血圧,浮腫,腎機能障害などの臨床症状を伴う疾患群である.WHOの臨床症候分類では持続性蛋白尿・血尿症候群と慢性腎炎症候群に分類されているが,前者には潜在型の慢性腎炎が,後者には進行型の慢性腎炎が含まれる.一次性糸球体疾患としての組織型では,IgA腎症,非IgA腎症などのメサンギウム増殖性腎炎が多くを占めるが,膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,巣状糸球体硬化症なども含まれる.

ネフローゼ症候群

著者: 金内雅夫 ,   土肥和紘

ページ範囲:P.472 - P.473

疾患概念と病態
 1.ネフローゼ症候群の診断
 ①高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と②低蛋白血症(血清総蛋白6.0g/dl以下,血清アルブミン3.0g/dl以下)が必須条件であり,③高脂血症(血清コレステロール250mg/dl以上)と④浮腫は参考所見とされている.

IgA腎症

著者: 野本保夫

ページ範囲:P.474 - P.475

疾患概念と病態
 IgA腎症は1968年,BergerとHinglaisにより最初にその存在が報告された.糸球体メサンギウム領域にIgAを主体とする沈着物の存在を特徴とする.IgAがメサンギウムに沈着する病態としてはその他肝疾患,肺疾患などに続発する病態も知られているが,通常これらは含めない1)
 最近,わが国において厚生省特定疾患調査研究班,日本腎臓学会の合同委員会より「IgA腎症診療指針」(表1)が発表されている1).診断は現在のところ,腎生検によるしかない.すなわち,免疫蛍光抗体法でメサンギウム領域にIgAがpredominantに沈着を認めることによる.また,光顕的にPAS陽性に染色される半球状の沈着物の存在も参考になる.光顕像は組織障害度および予後判定に重要であるが,その際,光顕組織標本のサイズが重要で,1mm×7mm以上の皮質組織が信頼性の高い診断を得るために必要である3)

腎盂腎炎

著者: 篠﨑倫哉 ,   吉富宏治

ページ範囲:P.476 - P.478

疾患概念と病態
 腎盂腎炎とは腎実質の感染による炎症を指す.これは多くは細菌によって起こるが,時には真菌によって起こることもある.慢性腎盂腎炎は組織学的にびまん性の間質の炎症が腎臓に起こっている場合をいい,感染に特異的なものではない.感染によって起こった場合,現在,活動性かどうかを判定するのは困難である.現在でも慢性腎盂腎炎の名は慣習的に用いられているが,実地臨床的な意味合いは少なく,無症候な持続性の腎実質の炎症はむしろsubclinical pyelonephritisと呼ばれるべきである.
 感染経路には尿路から逆行性に感染するもの,血行性に起こるものがある.血行性の場合,グラム陰性菌敗血症の場合にも急性腎盂腎炎を起こすことがあるが,稀である.黄色ブドウ球菌による敗血症や感染性心内膜炎などの場合,腎膿瘍を形成する場合がある.

腎血管性高血圧

著者: 木村健二郎

ページ範囲:P.480 - P.482

疾患概念と病態
 腎動脈が狭窄することが原因で発症した高血圧を腎血管性高血圧という1).全高血圧の1〜5%を占める.狭窄の原因は欧米では動脈硬化によるものが最も多く,その他はほとんど線維筋性形成異常である.本邦では線維筋性形成異常と大動脈炎症候群の頻度が高い(表1).
 基本的な病態は狭窄側の腎灌流圧の低下によるレニン分泌亢進と,非狭窄側のレニン分泌抑制である.しかし,高血圧が成立している時期には必ずしも血漿レニン活性は高くなく,また多くの場合,ナトリウム(Na)貯留による循環血液量の増加もみられない2).両側に有意の腎動脈狭窄がある場合には,レニン分泌の亢進とともにNa貯留による循環血液量の増加の血圧上昇に対する役割が大きい.

急性腎不全

著者: 浅野健一郎 ,   深川雅史 ,   黒川清

ページ範囲:P.483 - P.486

疾患概念と病態
 急性腎不全は,糸球体濾過値の低下に基づく腎排泄能の低下により,窒素代謝物や電解質が急速に体内に貯留する症候群である.多くは乏尿性腎不全であるが,非乏尿性腎不全のように尿量が保たれたまま高窒素血症が増悪する場合もある.原因により,腎前性(腎血流量減少),腎性(腎実質障害),腎後性(尿路閉塞)腎不全に大別されるが,いずれも水分,電解質,有機酸,窒素代謝物などの貯留が病態を悪化させる直接の要因である.

慢性腎不全

著者: 宇田晋 ,   秋澤忠男

ページ範囲:P.487 - P.490

疾患概念と病態
 腎不全とは糸球体濾過値(GFR)の低下に伴う排泄機能障害を基本とする広範な腎臓機能低下を意味し,さらに慢性腎不全とは急性腎不全とは異なり「年」もしくは「月」の時間的単位で経過し,かつ非可逆的な病態を指す.
 図1に,慢性腎不全の自然経過の概略を模式的に示す.単一ネフロンあたりのGFRの低下に象徴される急性腎不全と異なり,慢性腎不全は「機能ネフロン数減少⇔残存ネフロンへの血行動態的過負荷(hyperfiltration;過濾過)」という悪性サイクルを形成することにより,緩徐ではあるが加速度的に腎機能低下は進行する.図1に示すように,クレアチニン(Cr)の逆数(1/Cr)を時間の経過とともにプロットすると,ほぼ直線上に描かれることが知られており(1/Cr直線),慢性腎不全進行の経過を把握する上で有用である.血清Cr値のみで腎機能を評価しようとすると,腎不全の経過を誤認し,ひいては腎不全とその合併症に対する治療開始時期を逸しかねない.一般的に,血清Cr値の正常値は1.3mg/dl前後を正常上限としている施設が多いが,図からもわかるように,Cr=2mg/dlでの残存腎機能はすでに約50%にまで低下しているという事実を忘れてはならない.

腎・尿管結石

著者: 矢後雅子 ,   内田俊也

ページ範囲:P.491 - P.493

疾患概念と病態
 腎・尿管結石は尿中の結晶成分が発育して結石となるもので,結石成分の溶解度と飽和度により結石のできやすさが規定され,尿路系の生理的狭窄部位と呼ばれるところ(腎盂尿管移行部,腸腰筋交叉部,尿管膀胱移行部)に発生することが多い.最近では結石のマトリックスにも注目がそそがれ,その成分はカルシウム(Ca)結合蛋白であるオステオポンチンやカルプロテクチンであることが判明した.結石形成に関するマトリックスの役割についての研究は緒についたばかりである.
 さて,尿路結石は結晶成分により蓚酸Ca/混合結石,感染結石,尿酸結石,シスチン結石の4つに分類されることが多い.

膀胱炎

著者: 高橋剛

ページ範囲:P.494 - P.495

疾患概念と病態
 細菌が尿路に付着し,感染を成立させたもののうち,病変が下部尿路に限局したものが膀胱炎である.
 患者は排尿痛,頻尿などの症状で来院し,通常発熱は伴わない.検査では膿尿(白血球>5〜10/HPF),細菌尿(>104CFU/ml)がみられる.原因が細菌であるので,治療の主体は抗生剤となるが,問題はその種類と投与期間である.また,一部に非感染性の膀胱炎(放射線,cyclophosphamide,tranilastなどの薬剤)があるが,本稿では割愛する.

神経因性膀胱

著者: 保坂義雄 ,   河邉香月

ページ範囲:P.497 - P.498

疾患概念と病態
 膀胱ないし排尿関連臓器の支配神経異常に起因する膀胱の機能障害で,二次的に膀胱の形態変化や上部尿路の障害なども生じてくる.支配神経は骨盤神経(主として副交感神経系)と下腹神経(交感神経系),陰部神経(主として体性神経)で,より上位の中枢神経や交感神経幹,関連する神経叢なども含まれ,それぞれに遠心性および求心性の経路がある.原因は炎症,変性,血管障害,腫瘍,先天異常,外傷など様々であるが,症状は原因でなく発生部位によって想定できる.しかし,実際には部位が特定できず,症状・経過や検査所見から診断することが多い.いずれの場合でも主症状は排尿障害が多く,排尿困難や尿失禁などの訴えがある.他の神経障害を合併することも稀でない.長期の経過をたどることが多く,慢性的な膿尿や膀胱の変形,さらには腎障害を生じることも珍しくない.

膀胱尿道結石

著者: 大石幸彦 ,   後藤博一

ページ範囲:P.499 - P.501

疾患概念と病態
 1.発生と原因
 膀胱結石の発生は原発性と続発性に分類される.前者は膀胱内,後者は上部尿路に発生した結石である.尿道結石の大多数は膀胱から下降し嵌頓した結石で,尿道狭窄や尿道憩室に合併して発生する結石も稀にある.
 膀胱結石は先進地域より発展途上地域に多く,往昔より近代では少ない.膀胱結石は上部尿路結石より発生頻度は少なく,高齢者で多く,小児で少ない.性別では地域,年代とにかかわらず男子に多い.膀胱結石が男子に多い理由として,男子では前立腺肥大症,尿道狭窄などにより尿停滞をきたし,結石が形成されやすく,結石が排出されにくいことが挙げられる.一方,女子では尿道の走行は直線的で太く,短く,拡張性に富み,結石は自然に排出されやすいが,逆に尿道が短く,経尿道的に異物を入れやすい.また,婦人科手術により膀胱周囲の結紮糸などの異物が膀胱内に入りやすく,異物を核とした結石形成が多い.

尿道炎

著者: 菊池孝治 ,   赤座英之

ページ範囲:P.502 - P.503

疾患概念と病態
 尿道炎は性交渉によって感染するSTD(sexually transmitted disease)と,尿道留置カテーテルなどに伴う非STD性に分けられるが,本稿ではSTDとしての男性の尿道炎の治療について解説する.
 尿道炎は起炎菌により淋菌性尿道炎(GU)と非淋菌性尿道炎(NGU)に分類される.NGUはクラミジア(Chlamydia trachomatis)のほか,ウレアプラズマ,グラム陽性球菌,グラム陰性桿菌も分離されるが,病原性が明かなものはクラミジアである.したがって,尿道炎の治療に当たっては,淋菌とクラミジアの2つの起炎菌を念頭においておかねばならない.

副睾丸炎

著者: 河村信夫

ページ範囲:P.504 - P.505

疾患概念と病態
 副睾丸を精巣上体というようになったため,精巣上体炎(epididymitis)というのが正しい.細菌感染によるものが主体であるが,それ以外のものもある.主にEschenichia coliの感染で,その他にKlebsiella pneumoniae,Staphylococcus epidermidisなどによるものもみられ,Chlamydia trachomatis,Neiseria gonorrhoeae,結核菌,カンジダ,腔トリコモナスなどの感染も無菌の炎症である.

前立腺肥大症

著者: 松山恭輔 ,   東原英二

ページ範囲:P.507 - P.508

疾患概念と病態
 前立腺肥大症は一般的には初老期以降の男性にみられる疾患であり,排尿困難をきたす原因として最も重要なものの一つである.成因は現時点において完全には明らかにされていないが,アンドロゲンに加えてエストロゲン(他にもいくつかのホルモンの関連が示唆されてはいるが)の作用により結節性増殖が起こり,これにさらにアンドロゲンの刺激が加わり,肥大結節が形成増殖されることにより発症すると考えられている.したがって,症状は肥大した前立腺結節による膀胱頸部,前立腺部尿道の圧迫に起因し,その程度により刺激症状から完全尿閉にまで至る多彩な症状をもたらす.しかし,前立腺腺腫の大きさと症状とは必ずしも相関せず,また一般的にいわれている4つの病期の症状とは異なる経過をとることも多々あることは記憶しておくべきである.

前立腺炎

著者: 熊澤淨一

ページ範囲:P.509 - P.511

疾患概念と病態
 前立腺炎は壮年から熟年に好発する男子性器感染症である.細菌性と非細菌性,急性と慢性に大別される1)

感染症

水痘・帯状疱疹

著者: 中田修二

ページ範囲:P.515 - P.517

疾患概念と病態
 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZVと略す)はヘルペスウイルス科に属し,初感染像は水痘として主に小児期にみられ,水痘罹患後に脊髄後根に潜伏感染していたVZVの再活性化による帯状疱疹は主に成人期にみられる.小児期でも,1歳未満で水痘に罹患したり,悪性腫瘍,臓器移植,AIDSなどなんらかの原因で免疫抑制状態にある場合には,帯状疱疹の発生頻度が高くなる.また,成人後に水痘に罹患すると,肺炎や脳炎などを合併する頻度が高くなり,一般的に重症化することが多い.また,小児では稀であるが,帯状疱疹では帯状疱疹後神経痛(PHN)などの後障害も問題となる.
 水痘においては,VZVは飛沫感染によって上気道粘膜から生体に侵入し,所属リンパ節で増殖する.その後,感染4〜6日目頃に第一次ウイルス血症を起こし,肝脾などの網内系で増殖する.さらに第二次ウイルス血症をきたして,発熱とともに全身の皮膚に丘疹状紅斑を生ずる.すなわち,感染後2〜3週間の潜伏期の後に発症する.これに対して帯状疱疹は,水痘罹患後に脊髄後根神経節や三叉神経節に潜伏していたVZVが,なんらかの誘因で再活性化されてそれぞれの神経支配領域に達して,片側性に有痛性の小水疱を生ずる.上述のように,水痘と帯状疱疹は対象となる年齢層が異なることが一般的であるが,それぞれ重症化したり後障害を呈する場合があり,その特徴に応じた治療対策が必要である.

Epstein-Barrウイルス感染症

著者: 星岡明 ,   河野陽一

ページ範囲:P.519 - P.521

 Epstein-Barrウイルス(EBV)は人間界に広く蔓延しているウイルスであり,ほとんどの成人はEBVに対する抗体をもつ既感染者である.唾液を介して感染したEBVは,上咽頭の上皮細胞で増殖し,その後Bリンパ球に感染する.生体の免疫系は,EBVに対してcytotoxic T cell(CTL)を主体に応答しこれを制御するが,このときの反応の強さで病態が決定される.すなわち,免疫系の発達が不十分な乳幼児期に初感染した場合には,不顕性あるいは軽微な上気道症状を呈するのみであるが,免疫系が発達してきた学童期以後の初感染では伝染性単核球症を発症する.以上の急性EBV感染症は,一般にself limitingな疾患である.一方,EBVの活動性を十分に制御できずに慢性的に炎症が続く慢性活動性EBV感染症が稀に存在する.
 以下に,急性感染症としての伝染性単核球症と,慢性で重症な感染症としての慢性活動性EBV感染症について述べる.

つつが虫病

著者: 丹下宜紀 ,   安川正貴

ページ範囲:P.522 - P.523

疾患概念と病態
 つつが虫病はRickettsia tsutsugamushiを保有するツツガムシの幼虫に刺されて感染し,発熱・発疹・刺し口を特徴とする急性熱性疾患である.わが国では,1975年以降,全国各地で患者数の急激な増加がみられるようになり,最近では年間600〜1,000名の届出患者数に達している1)
 刺咬部の皮膚から侵入したリケッチアは,単核細胞や血管内皮細胞に侵入し,増殖する.リンパ行性に所属リンパ節に至り,さらに血行性に全身の網内系組織に拡がり,全身各臓器の巣状血管炎,血管周囲炎を起こす2)

ブドウ球菌感染症

著者: 長谷川廣文

ページ範囲:P.524 - P.526

 疾患概念と病態
 ブドウ球菌は,ヒトの皮膚,鼻腔,口腔,腸管,外陰部などの常在菌であり,コアグラーゼ陽性の黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusと,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis,Staphylococcus saprophiticus)などに分類される.
 臨床的には,黄色ブドウ球菌が化膿性疾患(毛嚢炎,せつ,癰,中耳炎,肺炎,肺膿瘍,膿胸,骨髄炎など)あるいは毒素性疾患(食中毒,毒素性ショック症候群〔TSS〕など)の起炎菌として重要である.最近,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の増加がみられているが,この菌は多剤耐性を示し,院内感染を引き起こすことから注目されている.CNSの病原性はこれまであまり問題とならなかったが,医学の進歩に伴う易感染患者の増加(血管内カテーテル留置,人工臓器手術,人工関節手術,持続性腹膜透析〔CAPD〕など)に付随して菌血症,感染性心内膜炎,腹膜炎などを起こし問題となってきている.

A群レンサ球菌感染症

著者: 山下直哉

ページ範囲:P.527 - P.528

疾患概念と病態
 A群溶血性レンサ球菌は多彩な急性化膿性感染症の原因であることと,時に急性感染症後にリウマチ熱・急性糸球体腎炎など非化膿性続発症を起こすことが臨床面での特徴である.
 最も頻度が高く,治療の対象となる急性感染症は咽頭炎・扁桃炎・猩紅熱など上気道炎症状を主体とするもので,次いで膿痂疹・蜂窩織炎などの皮膚・軟部組織感染症である.近年は頻度は低いが,肺炎・骨髄炎・壊死性筋膜炎・心内膜炎・敗血症など重症の深部あるいは全身感染症がある.

細菌性髄膜炎

著者: 星野晴彦

ページ範囲:P.529 - P.531

疾患概念と病態
 細菌性髄膜炎とは,くも膜,軟膜,くも膜下腔に細菌による感染性炎症をきたした状態を指す.細菌が脳室およびくも膜下腔に至る過程としては,敗血症,心内膜炎などの感染に伴う血行性の経路,頭蓋底・脊椎の感染,副鼻腔炎,耳炎,脳膿瘍などから直接感染が波及する経路,頭蓋底や鼻腔,乳突洞の骨折により直接外部から入り込む経路が考えられる.
 原因菌は表1に示すように年齢により特徴があるが,インフルエンザ桿菌,髄膜炎菌,肺炎球菌が3大起因菌であり,全症例の70%は5歳以下の小児である1).しかし,マサチューセッツ総合病院のような高度医療機関においては,16歳以上の細菌性髄膜炎の40%が院内感染であり,その起因菌としてはインフルエンザ桿菌を除いたグラム陰性桿菌が38%を占める2)と報告されている.院内発症であるのか,脳外科的な術後・頭部外傷の有無,免疫機能の状態などは起因菌を予測するにあたり重要な因子となる.

破傷風

著者: 飯国弥生

ページ範囲:P.532 - P.533

疾患概念と病態
 有芽胞嫌気性グラム陽性桿菌(Clostridiumtetani)が産生する外毒素(tetanospasmin)により起こる.破傷風菌は芽胞を形成し,酸素,湿度,高温度に抵抗を示す.土壌,肥料,埃などに生息し,時にヒトの皮膚・腸管などでもみられる.外傷,稀に分娩で感染する.外毒素は運動神経線維を伝達し,脊髄,中枢神経に到達し,横紋筋の硬直と痙攣を特徴とする.また自律神経に作用し,カテコールアミンの増加に伴う交感神経過緊張症状がみられる.潜伏期間は3日〜2カ月で,2週間以内が多いが,1/3は受傷の既往がない.
 臨床経過は4期に分けられ,①第1期(全駆期):肩こり,受傷側の手足の緊張感など,②第2期(onset timeで開口障害から全身痙攣出現までの期間):開口障害,嚥下痛・障害,発語障害,痙笑など.③第3期(痙攣発作期):後弓反張,排尿・排便障害,呼吸困難など.④第4期(回復期):痙攣は消失し,筋硬直は残るが徐々に回復する.重症では交感神経過緊張による不安定な高血圧,頻脈,不整脈,高熱,多汗,唾液分泌亢進などがみられる.意識は清明で,知覚障害はないが,痙攣のための強い痛みがある.

敗血症

著者: 杉本央

ページ範囲:P.534 - P.536

疾患概念と病態
 敗血症とは,微生物あるいはその産物またはその両方による組織破壊と,それに伴い全身に著しい炎症反応が生じている状態であり,全身性炎症反応症候群(systemic infiammatory responsesyndrome:SIRS)の一部を構成する1).症状としては,悪寒戦慄・高熱・弛張熱・関節痛・脾腫・白血球増多(重篤時には減少)などのほか,皮疹(Neisseria meningitidisなど)や溶血(Streptococcus pyogenes, Clostridium perfringensなど)など,原因病原体に特有な症状を呈する.各種臓器の機能不全を呈していれば重度敗血症(severesepsis)といい,循環不全が全面に現れたら敗血症ショック(septic shock)という.一方,菌血症(bacteremia)とは単に細菌が流血中に存在するのことのみを指し,症状のことは問わない.

ライム病

著者: 深谷修作 ,   鳥飼勝隆

ページ範囲:P.537 - P.539

疾患概念と病態
 ライム病は1977年に登場したマダニが媒介するスピロヘータの一種であるBorrelia burgdorferi感染症である.マダニ咬傷後の遊走性紅斑(ECM)として報告された疾患と同一で,世界的に存在し,北アメリカ,ヨーロッパが2大流行地である.本邦での媒介マダニはIxodes persulcatus(シュルツェマダニ)である.

カンジダ感染症

著者: 和田光一 ,   石塚康夫 ,   瀬賀弘行 ,   荒川正昭

ページ範囲:P.540 - P.542

疾患概念と病態
 真菌による感染は,生体の感染防御能が低下したときに起こる.真菌のなかでカンジダは,ヒトの消化管に常在するため,感染症を起こす頻度が高い.
 一方,近年,血管留置カテーテルの普及とともに皮膚に常在しているカンジダによる真菌血症が増加している.一般に,血液培養でカンジダを検出すると,侵襲性カンジダ症と考えることが多いが,カンジダ菌血症と侵襲性カンジダ症は異なっていることが多い.筆者らの施設では,菌血症の剖検例63例のうち27例で真菌による臓器感染を認めているが,カンジダ菌血症による剖検例6例では深在性真菌症は全く認めていない1).カンジダ菌血症は,必ずしも感染防御能が低下していなくても,感染経路の問題で発症することも多い.本稿では,これらのカンジダ感染症および消化管カンジダ症の治療について述べる.

寄生虫・原虫疾患

アメーバ症

著者: 奥沢英一 ,   浅井隆志

ページ範囲:P.544 - P.546

疾患概念と病態
 赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は寄生性の原生動物で,その発育史には2つの形態が出現する.一つは多糖の外壁に囲まれた嚢子と呼ばれる形態で,ヒトの糞便中に出現する.これは休眠状態の虫体で,感染型として重要である.もう一つは運動および増殖能力をもった栄養型と呼ばれる形態で,病変部から検出される.ヒトの糞便に排出された嚢子は,直接あるいは間接に,別のヒトに経口摂取され,これによって伝播が成立する.嚢子は腸内で栄養型に発育し,ここで分裂・増殖する.腸内で増殖した栄養型の一部は嚢子となって糞便中に排出される.

マラリア

著者: 狩野繁之

ページ範囲:P.547 - P.549

疾患概念と病態
 マラリアは,プラスモジウム属の原虫がハマダラ蚊を媒介して感染する伝染性疾患で,熱帯,亜熱帯のおよそ100カ国に広く流行し,世界の年間マラリア患者数は1億人を越えている.日本人年間海外出国者数が1,358万人となった現在,本邦の年間輸入マラリア患者数も,報告されるだけで100例を越えだした.マラリアは悪寒・戦慄を伴う間欠的な熱発作,貧血,脾腫を主症状とするので,臨床諸家は特に流行地への渡航歴がある発熱者を診たら,まずマラリアを疑うことが肝要である.ヒトのマラリアは,熱帯熱,三日熱,四日熱,卵形マラリアの4種類であるが,特に熱帯熱マラリアは悪性マラリアの異名もあり,診断・治療の遅れが致命的になる.また,既存の抗マラリア薬の治療に抵抗するマラリアも世界中に拡散しており,診断・治療の適切性が以前にも増して要求されてきている.

ニューモシスチスカリニ肺炎

著者: 柳原克紀 ,   河野茂

ページ範囲:P.550 - P.552

疾患概念と病態
 Pneumocystis cariniiは,常在場所は不明であるが,自然界に広く分布し,ヒトを含む哺乳類の肺に不顕性感染しているものと思われる.また,哺乳類でも,宿主によりヒト,マウス,ラットに感染するP. cariniiはそれぞれ種が異なることが知られている.ニューモシスチスカリニ肺炎は,P. cariniiが宿主の免疫不全に乗じて肺胞内で増殖して,重篤な肺炎を起こす典型的な日和見感染症の一つである.
 P. cariniiに感染しても,宿主の免疫能が正常であれば増殖が阻止され,発症することはない.そのため先天性免疫不全患者,長期にわたる免疫抑制療法が行われている白血病,悪性リンパ腫,固型癌,臓器移植患者やAIDS患者など,いわゆるimmunocompromised hostに日和見感染症として発症する例が大部分を占める.症状および症候として,乾性咳嗽,発熱,呼吸困難,チアノーゼなどがある.LDHの上昇も特徴であり,PaO2は病初期より著しく低下する.

精神疾患

せん妄

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.554 - P.555

疾患概念と病態
 1.疾患概念と症状
 WHOの国際疾患分類(1992年)によれば,せん妄とは「病因論的には非特異的な症状であり,その特徴は意識・注意力・認識・記憶・精神運動性行動・情動・および睡眠覚醒サイクルの障害が共存する点にある.どの年齢でも発現するが,60歳以後が最も多い.せん妄状態は一過性であり,症状の激しさも変動するが,ほとんどの場合,4週間かそれ以内に回復する.しかし,変動しつつも,半年以上にわたって続くせん妄も稀ではない.この経過は,特に慢性肝障害,悪性腫瘍,あるいは亜急性の細菌性心内膜炎のときにみられる.せん妄状態は痴呆に重なって出現することもあれば,痴呆に移行することもある」とする病態である.WHOのこの症状記述は公式論的にすぎるが,私見を記せば,「変動する軽度の意識混濁に,強い不安・恐怖を伴う精神運動性多動,思考の混乱,幻覚,失見当識などが出現し,精神活動の平常性は失われ,睡眠覚醒リズムの崩壊を伴いつつ,症状の夜間増悪を特徴とする状態」とみる程度が,日常診療上は妥当である.

うつ病

著者: 広瀬徹也

ページ範囲:P.556 - P.558

疾病概念と病態
 今日うつ病はかなり広範な概念となっており,いくつかの亜型に分けられている.米国精神医学会のDSM(Diagnostic and Statistical Manualof Mental Disorders)-IV(1994年)によると,気分障害は双極性障害と抑うつ性障害に二大別される.双極性障害は中等度以上の躁病相をもつ双極I型と,軽躁状態にとどまる双極II型(前者はうつ病相はなくても,軽いものでもよいが,後者では中等度以上のうつ病相をもつ),軽躁・軽うつ状態を繰り返す気分循環症に分けられる.抑うつ性障害は大うつ病と最低2年間持続的ないしは間欠的にうつ病相を示す気分変調症に分けられる.
 以上は躁病相の有無や程度・経過による分類であるが,その他に精神病像の有無,緊張病像を伴うもの,メランコリー病像を伴うもの,非定型病像を伴うものはそれぞれ明記するようになっている.さらに,産後発症,季節性発症や病相頻発型(rapid cycling)も特記され,DSM-IIIが出た1980年から十数年の間に亜型の明記が確実に増えているのがわかる.

アルコール依存症

著者: 鈴木良雄

ページ範囲:P.559 - P.561

疾患概念と病態
 近年,わが国におけるアルコール消費量は増加の一途をたどっている.そして,わが国のアルコール依存症者の数は220万人と推定されている.
 まずアルコール依存症というのは,一つの病い,身体と心の病いと認識することが治療に取り組む第一歩となる.ICD1IOでは「精神作用物質による精神および行動の障害」の中に含め,反復使用の後に発展し,摂取したいという強い渇望があり,その使用について制御が障害され,有害な結果があるにもかかわらず持続して使用し,その他の活動や義務よりもその使用に一層高度の優先権を与え,耐性が増加し,時には身体的離脱状態を示す」としている.ひと口でいえば,アルコールに支配され,それに対して自由であり得なくなった状態といってよい.

老年期のうつ状態,痴呆

著者: 竹中星郎

ページ範囲:P.562 - P.564

 総合病院や外来クリニックなどの医療の場で高齢患者が増加しているが,高齢者では身体疾患に精神症状を伴い,精神的疾患に身体的な異常が生じる心身相関が顕著である.なかでも共通のテーマである抑うつと痴呆の臨床的な特徴を記す.

運動器疾患

腰痛症

著者: 大木勲 ,   松本忠男 ,   明石裕地

ページ範囲:P.566 - P.569

疾患概念と病態
 腰痛症とは種々の原因で発症する症候群で,立位および坐位で生活する人間の宿命ともいえる.本症候群を原因別に分類すると,①脊椎疾患に由来するものが多いが,その他,②内臓疾患由来のもの(消化器系,腎尿路系,婦人科系など),③脈管疾患由来のもの(閉塞性動脈硬化症,腹部大動脈瘤など),④神経由来のもの(神経系腫瘍,糖尿病など),⑤心因性のもの(ヒステリー,うつ病など)に分けられる.本稿では脊椎疾患に由来するもののうち,common diseaseとして急性腰痛症,腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,腰椎分離症,分離すべり症,変性すべり症の6疾患について述べることにする.

化膿性関節炎

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.570 - P.571

疾患概念と病態
 化膿性関節炎は発熱や急激な落痛で発生し,局所の腫脹,発赤,熱感が著明である.乳幼児では感冒,リウマチ性疾患と間違えやすいが,関節液の細菌培養で化膿菌が証明されれば診断は確定する.in vitroの実験で,黄色ブドウ球菌と白血球に関節軟骨が晒されると,24時間でproteoglycanの溶解が始まる.急性化膿性関節炎の治療は可及的速やかに行われねばならない.

五十肩

著者: 田畑四郎

ページ範囲:P.572 - P.573

疾患概念と病態
 本症は50歳前後の年代に生じ,特別な誘因なく,肩関節の痛みと運動制限を伴い,年余で自然治癒する疾患とされている.五十肩の定義を五十肩症候群としてとらえている人は,clinical entityのはっきりした疾患(石灰沈着性腱板炎,腱板不全断裂など)を含めているが,ここで述べるのは狭義の五十肩を意味する.
 病態は病期によって異なるが,初期には肩峰下の滑液包炎と腱板の変性,ならびに関節内の腱や滑膜の炎症が主体となる.これらの炎症が,慢性化して晩期には関節包全体が縮小し,特に前内側関節包や腋窩陥凹の縮小が病態と有意に関連する.

肩凝り症

著者: 小川清久

ページ範囲:P.575 - P.577

疾患概念と病態
 “肩凝り”は,項部から肩および肩甲間部に及ぶ範囲の圧迫感・疲労感を伴う張るような重苦しい不快な感覚である.僧帽筋やこの近辺の筋緊張増加や硬結,末梢神経(肩甲背神経,肩甲上神経など)に沿う圧痛を認めることも多い.ひどくなると,筋緊張性頭痛を合併することもある.有症率は女性が男性より圧倒的に高く,40歳代をピークとして中・青年層に高い.高齢者ではかえって低くなる傾向にあるため,加齢的現象とはいえないばかりでなく,最近では若年層に高頻度に認められるようになり,心身へのストレスが原因として多くなっていることをうかがわせる.
 肩凝りが身体の他部位の“凝り”より多い理由としては,項部から肩部の筋が,重い頭部とともに上肢の土台をも支えなければならないという機能的特殊性が第1に挙げられる.第2は,これらの筋への交感神経の分布が多く,自律神経の影響を強く受けること,第3に,分業化によって前屈位で細かな手作業などの静的な筋肉作業を繰り返すことが多くなったことも与っている.すなわち,二足獣としての人間の宿命と現代病としての両側面を持つゆえに多いといえよう.

骨粗鬆症

著者: 林𣳾史

ページ範囲:P.579 - P.582

疾患概念と病態
 1993年の国際骨粗鬆症シンポジウムでは,骨粗鬆症は骨量の減少を示す全身性疾患で,骨微細構造の劣化を伴い,骨脆弱性と易骨折性を示す疾患であると定義づけられたが,この定義は世界で最も広く受け入れられている.
 この定義をもう少し易しく言い換えれば,日常遭遇する些細な外力,例えば同一平面上での転倒や重い物を持ち上げたなどでも,四肢や胸腰椎に骨折が生じるほどまでに骨が弱くなってしまった状態といえる.

変形性関節症

著者: 奥村秀雄

ページ範囲:P.583 - P.584

疾患概念と病態
 本症の初期変化は関節軟骨の変性と軟骨下骨の骨改変で,さらに進行するとそれらの破壊をきたす.滑膜の二次的炎症が加わって臨床症状を呈するためにosteoarthritis(OA)といわれる.
 関節は荷重支持と運動の2つの機能を果たしている.機能的要請が低ければ,構築上の形態学的変化が高度でも症状は出現しないが,機能的に過負荷が加われば,形態学的変化が軽くても症状が出現する.すなわち,関節症は形態学的変化と機能的要請との平衡関係が崩れた状態である.この平衡の破綻がさらに新しい形態学的変化を促して慢性に進行するのが変形性関節症(OA)である.

頸椎症

著者: 国分正一

ページ範囲:P.585 - P.586

疾患概念と病態
 1.頸椎関節の解剖
 軸椎(C2)以下の頸椎の関節には,線維軟骨からなる椎体間の椎間板と硝子軟骨からなる両側椎弓間の椎間関節がある.加えて,椎体間の側方部は上方に向きを変え,ルシュカ関節と呼ばれる構造となる.加齢によりそれらの関節が変性し,骨棘が生じたものが頸椎症であり,単純X線像でとらえられる(図1).

皮膚疾患

アトピー性皮膚炎

著者: 今山修平

ページ範囲:P.589 - P.591

疾患概念と病態
 軽微な刺激により皮膚に強い痒みを生じ,(反射としての)掻爬により皮膚が損傷され,そこからの抗原や細菌などの侵入により湿疹病変が形成されては,さらに痒みが増悪するという悪循環をきたした状態と考えられる.すなわち,本症の発現には皮膚の機能異常と,(食事を含めた環境抗原に対する)アレルギーの双方(図1)が関与しており,個々の患者ごとに主たる要因が異なることから,その臨床像は多彩である.
 皮膚病変には,IgE,肥満細胞,好酸球を介した即時型反応(および引き続いて起こるlate phasereaction)が主に関与するびまん性の紅斑病変と,遅延型反応によると思われる限局性の丘疹・結節(痒疹)とが混在する1)

手湿疹

著者: 松永佳世子

ページ範囲:P.592 - P.593

疾患概念と病態
 手は日常さまざまな物に接触するため,最も皮膚炎を発症しやすい部位である.主婦に発生する皮膚炎は仕事を中止することが困難なために難治で,主婦湿疹と呼ばれている.利き手の第1,2,3指に始まる異常乾燥,落屑,潮紅,ついで硬化する乾燥型(進行性指掌角皮症)と,指腹手掌から指背に及ぶ痒い紅斑,丘疹,小水疱を認める湿潤型とがある.手・指の皮膚炎はアトピー性皮膚炎などの素因のあるものに好発する.また,職業による接触皮膚炎としての手湿疹も難治なものが多く,原因として職業上接する物質の刺激やアレルギーによる.手湿疹はアトピー素因(アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,喘息を合併ないしは家族歴にもつ)を有する症例に頻度が高い.

蕁麻疹

著者: 小泉洋子

ページ範囲:P.594 - P.595

疾患概念と病態
 蕁麻疹は一過性に表在性限局性浮腫を生ずる疾患である.真皮の肥満細胞が刺激され,ヒスタミンなどの化学伝達物質を遊離し,毛細血管の透過性亢進と血管拡張を引き起こす.掻痒性の膨疹が,1〜数時間で消褪する.原因は多岐にわたる(表1).

皮膚瘙痒症

著者: 宮地良樹

ページ範囲:P.596 - P.597

疾患概念と病態
 原発疹を欠き,瘙痒のみを愁訴とする場合を皮膚瘙痒症と診断する.通常は掻破痕などの続発疹を有し,ドライスキン(乾皮症)を背景に有することが多い.皮膚瘙痒症は,限局性と汎発性とに分けられ,前者は外陰部皮膚瘙痒症として,前立腺肥大,尿道狭窄,膣トリコモナス症,痔,便秘,下痢などに起因する可能性がある.汎発性皮膚瘙痒症には多彩な内科疾患が関与するが,慢性腎不全や閉塞性胆道疾患などで瘙痒が愁訴となる時期には,すでに原疾患の診断は下されており,デルマドロームとして重要なのは糖尿病,甲状腺機能低下症,鉄欠乏性貧血,悪性腫瘍などである.その他,併用薬(降圧剤,精神安定剤など)や食品(魚介類,野菜など)でも瘙痒を惹起することがある.これらの可能性を否定したのち,乾皮症に基づく皮膚瘙痒症としての治療に入るべきである.

単純ヘルペス

著者: 漆畑修

ページ範囲:P.598 - P.599

疾患概念と病態
 単純ヘルペス(Herpes simplex)は,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1),単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)感染による皮膚・粘膜病変の総称で,初感染と再発型に分けられる.病型は口唇ヘルペス(癌疹性歯肉口内炎),性器ヘルペス,ヘルペス性瘭疽,躯幹・上肢のヘルペス,疱疹性湿疹(カポジ水痘様発疹症),角膜ヘルペス,新生児ヘルペスなど多彩である.
 初感染では皮膚あるいは粘膜の微小外傷部より感染するが,ほとんどは不顕性感染で,発症するのは10%前後といわれている.

薬疹

著者: 塩原哲夫

ページ範囲:P.600 - P.602

疾患概念と病態
 薬疹とは内服,注射などにより全身投与された薬剤により生じる皮疹(粘膜疹)の総称である.発症機序の見地からアレルギー性,非アレルギー性に分けるのが一般的になっている.
 「アレルギー性薬疹」とは「薬剤抗原に感作された個体にのみ生じ,免疫グロブリンやT細胞により生ずる薬疹」と定義できる.それに対し「非アレルギー性薬疹」とは「薬剤そのものが有する薬理作用に基づいて発症するもの」と定義されており,感作の必要がないため多くの個体に発症しうる.実際,臨床の場で問題となるのは一部の感作された個体にのみ生ずる「アレルギー性薬疹」のほうである.

熱傷

著者: 杉浦丹

ページ範囲:P.604 - P.605

疾患概念と病態
 熱傷は熱による皮膚の損傷であると同時に,一定範囲以上の熱傷は全身の諸臓器に障害をもたらす重篤な病態であるので,重症度により治療方針が異なり,重症度の判断と適正な治療方針をたてることが重要である.
 広範囲熱傷では一般に定型的な臨床経過をとり,ショック(血管透過性に亢進に基づくhypovolemic shock:48時間以内),呼吸障害(気道熱傷:24時間以内,浮腫の再吸収による肺水腫:3日目以降),感染症(敗血症:1週間後)など致死的な病態を生じるので,次に起こるべき病態を把握して,その都度適切な治療を行うことが肝要である.

光線過敏症

著者: 戸倉新樹

ページ範囲:P.606 - P.607

疾患概念と病態
 光線過敏症は日光などの照射を受けた皮膚に生じる皮膚炎の総称であり,原因的には,①内因性の光感受性物質生成(ポルフィリン症),②外因性光感受性物質投与(薬剤性光線過敏症,光接触性皮膚炎),③DNA修復機序の異常(色素性乾皮症),④その他原因不明のもの(日光蕁麻疹,種痘様水疱症,多形日光疹,慢性光線過敏性皮膚炎)などに分けられる.

痤瘡

著者: 山本綾子

ページ範囲:P.608 - P.609

疾患概念と病態
 痤瘡は通称“ニキビ”といわれ,多くは思春期に発症する.本症は軟らかい軟毛を持つ脂腺性毛包(皮脂を多く分泌する)に病変を生じるため,これが存在する顔面,胸背部が好発部位となっている.痤瘡の発疹は,面皰,丘疹,膿疱からなり多彩であるが,初期病変は面皰である.これは,思春期に男性ホルモンの作用により大きく発達した脂腺性毛包が閉塞し,毛包内部が角質塊の貯留により嚢腫状になったものである.面皰に炎症反応が加わると,紅色丘疹や膿疱を生じる.炎症の機序はいまだ不明であるが,毛包内の常在菌であるPropionibactenrium acnesが,炎症反応を惹起すると考える見方が多い.個々の発疹は,しばしば小瘢痕や色素沈着を残して消退するが,次々に新生する.通常,掻痒はない.

皮膚真菌症

著者: 渡辺晋一

ページ範囲:P.610 - P.611

疾患概念と病態
 1.疾患概念
 一般に真菌症は,病巣が表皮など生体表面にとどまるものを表在性真菌症,病変が皮膚の真皮からリンパ節,さらに内臓諸臓器を侵すものを深在性真菌症と分類されているが,大部分の皮膚真菌症は表在性真菌症である.
 種々の真菌が皮膚表面に感染し得るが,表皮のみに限局して病変を生ずるものは白癬,黄癬,渦状癬などの皮膚糸状菌症や,皮膚・粘膜のカンジダ症,手掌黒色癬,癜風などに限られ,このうちわが国では白癬,カンジダ症,癜風が皮膚真菌症のほとんどを占める.

疥癬

著者: 立花隆夫

ページ範囲:P.612 - P.613

疾患概念と病態
 本症は疥癬虫(ヒゼンダニ)がヒト皮膚の角層内に寄生して発症する皮膚疾患であり,ヒトからヒトに約1カ月の潜伏期間を経て感染する.その経路には,ヒトの皮膚から皮膚への直接接触による感染と,雑魚寝もしくは衣服や寝具を介しての感染がある.
 本症の臨床像は,臍周囲などにみられる紅色小丘疹(孤立性丘疹の集合であって融合しない),腋窩,外陰部などに認められる褐色調の小結節,および手掌,指間などに好発する疥癬トンネルの3種類からなり,夜間に増強する掻痒が特徴的である.小丘疹は虫体の排泄物,脱皮などに対するアレルギー反応であって,ここから虫体を検出することはきわめて稀なため,雌成虫が角層内に産卵することにより生じた後2者の皮疹(幼虫や雄成虫は皮表をうろつくだけ)から虫体や卵などを検出することによって診断を確定する(皮表をピンセットで出血するまでこそぐか,ハサミで切除し鏡検するのがコツ).疥癬虫の寿命は数カ月(雄:約1カ月,雌:約2カ月)とされるが,皮表から離れ温度や湿度が下がると動きが鈍くなり数日で死滅する.また,加熱にも弱く50℃では10分間で死滅する.

陥入爪

著者: 田村敦志

ページ範囲:P.614 - P.615

疾患概念と病態
 陥入爪は爪甲側縁の彎曲した部分が側爪廓に食い込み,同部の疼痛・炎症を引き起こす疾患である.これには爪甲の横方向の彎曲が増加しているものと,爪甲自体はほぼ正常で,炎症による爪廓の腫大により相対的に爪甲が側爪廓に食い込んでいるものとがあるが,後者が多い.陥入爪は若年者の拇趾爪に多く見られ,原因としては,先端の細い靴による足趾の圧迫や不適当な爪切り(深爪)で刺状に切り残された爪甲辺縁部による皮膚損傷が主である(図1).

褥瘡

著者: 石川治

ページ範囲:P.616 - P.617

疾患概念と病態
 褥瘡は局所の持続的圧迫による血流障害の結果起こる皮膚の阻血性壊死である.皮膚毛細血管圧は約32mmHgとされ,20〜60mmHg/cm2の圧力が2〜4時間加わると約50%に,60mmHg/cm2以上では100%に皮膚および皮下・筋組織の不可逆性変化を生じる.
 褥瘡は深達度により1〜4度に分けられ,1度は皮膚欠損のない浮腫性紅斑,2度は真皮まで,3度は皮下脂肪組織まで,4度は筋肉,腱までの皮膚欠損である.

産婦人科疾患

月経困難症

著者: 寺川直樹

ページ範囲:P.620 - P.621

 月経困難症とは,月経時期に一致して起こる下腹痛,腰痛,嘔気・嘔吐,精神不穏など骨盤内の痔痛を主徴とするもので,日常生活に支障をきたす場合に本症と診断される.これら月経随伴症状を主訴とする患者の頻度は婦人科外来のなかで最も高いが,患者の主観的な訴えに基づくことや精神的要素が関与することから,治療対象となる症例か否かの判定に迷うこともしばしばある.ちなみに,月経周期を有する婦人のおよそ8割が何らかの月経随伴症状を自覚する.

更年期障害

著者: 小山嵩夫

ページ範囲:P.622 - P.624

疾患概念と病態
 わが国の女性の平均の閉経年齢は50.5歳であるが,閉経とともに卵巣の機能は停止する.卵巣からは卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されているが,その欠乏症状が出現しやすくなる.
 閉経前後の5年間くらい,すなわち45〜55歳くらいを更年期と呼んでおり,その間に生ずる不定愁訴を更年期症状,その症状が日常生活に支障をきたす程度であれば更年期障害という.

耳鼻咽喉疾患

外耳炎

著者: 星野知之

ページ範囲:P.626 - P.627

 疾患概念と病態 外耳炎の大部分は急性化膿性外耳道炎であるが,慢性外耳道炎,外耳道湿疹など慢性に経過する皮膚疾患も含まれる.
 急性化膿性外耳道炎の主訴は耳痛で,耳介に触れたり,押したり,口を開けたりすると痛みが増強する特徴がある.腫脹や膿汁の貯留で外耳道が塞がれなければ,通常聴力に変化はみられない.慢性中耳炎がすでにあって,耳漏からの感染や刺激から起こる外耳道炎では難聴がみられる.

中耳炎

著者: 小林一女 ,   野村恭也

ページ範囲:P.628 - P.629

疾患概念と病態
 中耳炎は大きく急性中耳炎と慢性中耳炎に分けられる.
 急性中耳炎は耳管を介して,上気道の炎症が中耳腔に波及して生じる.一般に幼小児に多い.急性中耳炎に耳管機能不全,全身的な抵抗力の低下などの因子が加わると,慢性中耳炎へ移行する.

耳鳴

著者: 村井和夫

ページ範囲:P.630 - P.631

疾患の概念と病態
 耳鳴は外耳,中耳,内耳および後迷路を含む聴覚系を中心とした障害によって生ずる症状の一つと理解されているが,その病態はいまだ必ずしも明確にされるには至っていない.
 耳鳴は,聴覚系から発生するものと,聴覚系以外から発生するものの大きく2つに分けることができる.また,実際には音源のあるものと音源のないものに分けられる.主として聴覚系以外の部位から発生するものが音源のあるものに相当し,聴覚系より発生するものが音源のないものに相当する.音源のあるもの(血管性の疾患,筋性の疾患〔口蓋筋クローヌス,耳小骨筋の異常運動〕など)は適当な手段によって他人もこれを聞くことができるので,他覚的耳鳴と呼ばれる.これに対して音源のないものは自覚的耳鳴と呼ばれる.日常の臨床で大多数を占めるものは自覚的耳鳴であり,以下には自覚的耳鳴について述べることにする.

めまい

著者: 小松崎篤

ページ範囲:P.632 - P.634

疾患概念と病態
 めまいは大きく「末梢性めまい」と「中枢性めまい」に分けることができる.「末梢性めまい」の代表的なものはメニエール(Ménière)病であるが,その他,めまいを伴う突発性難聴,前庭神経炎,良性発作性頭位眩暈症などもメニエール病と同様末梢性めまいであり,典型的な回転性めまいを発症させる疾患である.なお,内耳道内の主として前庭神経から由来する聴神経腫瘍なども初期には末梢性めまいの範疇に入る.ただ,聴神経腫瘍は内耳孔から小脳橋角部に進展し,小脳や脳幹を圧迫する場合には,それらによって出現するめまいは中枢性めまいを合併することになる.
 一方,「中枢性めまい」の代表的なものは,椎骨脳底動脈循環不全で出現するめまいなどである.その他,小脳や脳幹の腫瘍性病変なども前庭系に関係ある部位の障害ではめまいを発症させる.

副鼻腔炎

著者: 森山寛

ページ範囲:P.635 - P.636

疾患概念と病態
 元来,副鼻腔の自然孔は洞の大きさに比較して狭くつくられている.したがって,細菌感染などの炎症による副鼻腔自然孔の閉鎖により,洞内の排泄と換気が障害され,粘膜病変が引き起こされる.篩骨洞,上顎洞,前頭洞の自然孔は中鼻道に開口しており,細菌感染などの炎症によりこの中鼻道自然孔ルートが閉鎖され,節骨洞,上顎洞などに急性の炎症が惹起される.多くは一過性であり,洞内に膿汁の貯留や洞内粘膜の病的変化を引き起こすが,自然に治癒するか,あるいは保存的治療により軽快する.しかし,感染が長期にわたり,炎症が遷延化し慢性となる例もある.さらに病変が慢性化すると,中鼻道より鼻茸の発生がみられるようになる.かつては上顎洞,篩骨洞に病変を有する例が多く認められたが,最近は筋骨洞を主病変とする慢性副鼻腔炎が増えており,この点でも鼻内手術が第一選択となる.

扁桃炎

著者: 高橋宏明

ページ範囲:P.637 - P.638

疾患概念と病態
 扁桃とは,咽頭にあるリンパ組織で,上咽頭に咽頭扁桃(アデノイド)と耳管扁桃,口峡に口蓋扁桃,舌根に舌扁桃が存在する.また,このほか扁桃という名はついていないが,同様なリンパ組織として,中咽頭に咽頭側索と孤立性リンパ小節(濾胞)がある.これらを総称してワルダイエルのリンパ環(または咽頭輪)と呼ぶ.出生直後から吸気と摂食(哺乳)により身体に侵入する外界のさまざまな異物(抗原)を捕捉・識別し,抗体をつくる働きがある.
 上述のような位置および働きから,扁桃は炎症を起こしやすい.むしろ病理学的には常に炎症が存在するとも考えられる.したがって,特に扁桃炎というのは,何らかの症状がある場合を指す.

口腔疾患

口内炎

著者: 井田和徳

ページ範囲:P.640 - P.641

疾患概念と病態
 口内炎は口腔粘膜の炎症である.全身的・局所的な種々の原因によって発症するので,診断の際には原因を明らかにするよう努めなければならない.しかし,口腔粘膜病変は疾患に特異的でないものが多く,原因の究明が難しい場合も少なくない.前癌病変,悪性腫瘍,その他にも予後不良の疾患もある.
 口内炎には非感染性のものと感染性のものとがある.前者には熱い飲食物・タバコ・化学薬品などの局所的な粘膜障害によるものと,糖尿病,尿毒症,栄養不良などの全身的な要因によるものとがある.感染性口内炎は細菌,ウイルス,真菌などの感染によるが,非感染性口内炎にも感染がしばしば続発する.

“ホッ”とspot

99mTc-MAA動注肝血流シンチグラムにより動注化学療法中に発生した胃潰瘍の一過性増悪をきたした一例

著者: 増永高晴

ページ範囲:P.14 - P.14

 高度進行肝細胞癌に対するリザーバーを用いた抗癌剤の持続動注療法の際,抗癌剤の胃・十二指腸領域への肝外流出の有無を評価する目的では,リザーバーより99mTc-macroaggregated albumin(99mTc-MAA)注入による肝血流シンチグラムが有用と報告されている.しかし,今回,持続動注により発生した胃潰瘍が99mTc-AMM動注後一過性に増悪したと思われる一例を経験した.
 症例は60歳の男性.門脈腫瘍塞栓を伴うびまん性の肝細胞癌に対して,カテーテル先端を固有肝動脈起始部に置き,動注リザーバーを大腿部皮下に埋め込み,肝動脈持続動注療法(CDDP 10mg/day+5-FU 250 mg/day 3日間/週,5-FU 250mg/day 2日間/週,休薬2日間/週を1クール)を施行した.2クール施行中より空腹時の心窩部痛が出現し,上部消化管内視鏡検査にて胃幽門部大彎に凝血塊の付着を伴うAl stageの潰瘍を認めた.このためPPI(タケプロン®)などの抗潰瘍剤投与を開始し,痛みの軽減を認めた.

急激な糖尿病コントロール不良を呈し,著明な末梢組織インスリン抵抗性を伴う担癌糖尿病患者

著者: 飯塚孝

ページ範囲:P.22 - P.22

 糖尿病,特にNIDDM(インスリン非依存型糖尿病)患者では,肥満や高脂血症の合併が多く,末梢組織インスリン抵抗性をきたしやすい.さらに,経過中,食事や生活習慣の悪化によりコントロール不良となることも多い.しかし,その中で,肥満や高脂血症のない糖尿病患者で,ある時期より急激に糖尿病状態が悪化する場合があるが,そのとき,担癌状態の合併を疑うことが是非とも必要である.インスリン抵抗性は,正常血糖クランプ法でM値を測定し,正確かつ簡便に評価できる(図1).
 当院では,非肥満で,高脂血症のない糖尿病患者で,急速に糖尿病コントロールが不良となり入院したが,著明なインスリン抵抗性を呈したため,悪性疾患の合併を疑い,各種検査で悪性腫瘍を証明できた30例を経験した.癌種に関して,膵臓癌のほか,糖尿病コントロール不良な6カ月後にやっと原因の判明した悪性胸腺腫例や肺癌などの呼吸器系,さらに胃・大腸癌などの消化器系,甲状腺や下垂体・副腎腫瘍など,女性例では乳癌・生殖器系,男性例では,最近,高齢者の前立腺癌などが多く,癌種によらず,著明な末梢組織インスリン抵抗性を経験している.これら症例はすべて外科的治療後,糖尿病コントロールは急速に改善し,悪性腫瘍と末梢組織インスリン抵抗性とは,各種サイトカインなどを介して,深い因果関係を有すると考えられた.

For the second case

著者: 渡辺誠悦

ページ範囲:P.28 - P.28

 72歳になる女性患者のAさんが“めまい”ということで神経内科に紹介されてきた.Aさんの話を詳しく聞くと,その“めまい”の内容はフラフラとした感じがして,また最近は階段を昇ると少し息切れもするという.さっそく眼瞼結膜をみると蒼白で,末梢血のヘモグロビン濃度は4.8g/dlと高度の貧血が存在した.数日後に行った注腸造影の結果,横行結腸にapple core signが認められた.外来にきたAさんに注腸検査の結果を説明し,さらに大腸ファイバーが必要であることを話した.Aさんは渋々ながらも検査を受けることを同意した.私は大腸ファイバーの予約をする看護婦に,「ちょっと早めに検査を入れて下さい」と告げた.このとき,私はAさんに大腸の病気について不安を煽るようなことはいっさい何もいわなかった.
 翌日,Aさんが自殺して亡くなったことを知らされた.Aさんが何を思って自殺をしたのか,その真相を私は知る由もないが,前日の外来で私が看護婦にいった「ちょっと早めに」という言葉を聞いて,Aさんが自分の病気を悲観して自殺したのではないかと,当時私は思い悩んだ.

左主幹部閉塞から非ケトン性高浸透圧性昏睡まで

著者: 矢作友保

ページ範囲:P.32 - P.32

 症例は51歳の男性.1993年2月18日午後3時頃,強い胸痛が出現し当科受診.来院時(発症後2.7時間),心拍数98/分,血圧80mmHg,冷汗・末梢冷感など低灌流所見が著明.胸部X線上,肺水腫は明らか.心電図上,心室内伝導障害,II・III・aVF・V4・V5・V6でのST低下,I・aVL・V4・V5・V6でのT陰転,心室性期外収縮の頻発を認め,急性心筋梗塞(AMDによる心原性ショックとして緊急冠動脈造影(CAG)を施行.左主幹部(LMT)病変にて亜完全閉塞で,直ちにprimary PTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty)を施行して良好に拡張.低心拍出量症候群が続きIABP(intraaorticballoon pumping)からの離脱に難渋したが,3月1日抜去.このとき第1のeventが発生.抗凝固療法やIABPのウィーニングには細心の注意を払っていたが,両側総腸骨動脈分岐部にsaddle emboliによる完全閉塞が生じてしまった.これは緊急血栓除去術により事なきを得た.

人間ドックにERCPを

著者: 石川清隆

ページ範囲:P.41 - P.41

 膵癌が発見しにくいことは周知の事実であり,また見つかったときにはすでに手遅れなものが多いこともよく知られている.
 私が出会った症例は54歳の男性(昔は大酒家)で,軽度の上腹部痛・背部痛を訴え,総合病院の内科を受診し,血液・尿検査,上部消化管内視鏡,腹部CT検査などを施行された結果,ごく軽度の胃潰瘍と診断・投薬されており,また整形外科からは変形性腰椎症の診断で鎮痛薬も処方されていた.2ヵ月経過したが,症状は全く良くならず,食欲も低下してきたため,知人の勧めで当院内科を受診し,再度,血液・尿・便検査,上部消化管内視鏡,腹部エコー,腹部CT検査などを施行することになった.しかしながら,内科的には今回も特に大きな異常はなく(腹部エコー:膵尾部は腸管ガスで観察不良.膵CT:膵臓は全体に腫大傾向はあるが,明らかな占居性病変なし),こっちとしても整形外科に回したかったが,本人と知人もそれでは今までと同じだということで,徹底的な検査を強く希望した.内心,過剰医療かとも思いながらも,もしこれ以上診るとしたら膵臓しかないと思い,ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)を実施したところ,意外にも体尾部に及ぶ膵癌と判明した.

急変の前兆

著者: 佐藤祐二

ページ範囲:P.45 - P.45

 重症感染症を併発している患者さんが急変する場合などで,急変の数時間前から一種の前兆ともいえる変化に気づくことがあります.私どもの科では白血病などの血液系悪性腫瘍に対して強力な化学療法を行う関係で,重篤な骨髄抑制を経験することがしばしばあります.末梢血の白血球数が100/μlであるとか,好中球数が0/μlであるとかいうことも珍しくありません.こうした状態では,いきなり敗血症を起こして死亡することもあり得ますので,患者さんの状態の変化については注意深い観察が必要です.好中球が0/μlともなると,たいていの場合39℃や40℃の熱発をしており,熱の高低やCRPの高低自体は状態の悪化の直接の指標にはなりません.こうした場合に,言葉は悪いのですが,患者さんの「生き」の良し悪しが最も重要な目安となります.「生き」の良し悪しはもちろん数字で表せるものではありません.臨床医の経験から判断されるもので,「生き」の変化がすなわち急変の前兆となります.

虚血性心疾患の発症を簡便に予測するために

著者: 石黒俊彦

ページ範囲:P.50 - P.50

 高血圧,糖尿病などで外来通院中の患者が,ある日突然心筋梗塞を発症して担ぎ込まれ苦い思いをすることがある.また,特に冠危険因子を持たない中年女性が胸痛を訴え外来を受診,心電図には非特異的なST変化があり,負荷をかけるとSTが若干低下する.もしやと思い冠動脈造影(CAG)を行うと全くのnormal coronaryでスパスムの所見もない.このような経験は誰でも持っていると思われる.これらの苦い経験から,何とかなるべく簡便な方法で,ある程度冠動脈病変を予測することができないだろうかと考え,レジデント時代に経験した1,000例以上の患者について,冠危険因子とCAG所見の関係を調査した.冠危険因子のほか,心電図,負荷心電図所見,胸部症状などを含めた12項目を重症度によって2〜4段階に分け,それぞれの項目の冠動脈病変に対する寄与度を,多変量解析の結果をもとに整数値に表した.それらのポイントを加算することによって,冠動脈に有意狭窄を有する確率(%)を算出することができるCRI(Coronary-Risk-Index)を作成するに至った(詳細は文献参照).

下痢患者への抗生剤投与は慎重に

著者: 林勝吉

ページ範囲:P.58 - P.58

 下痢の患者に対し,その原因を十分に考えないで抗生剤を投与すると,火に油を注いだことになり,下痢がかえってひどくなることがある.
 71歳の女性の患者に手術が行われ,その日から抗生剤(CTM 2g/日)が4日間投与された.

インターフェロン治療後,気にかかる最近の2例

著者: 石沢優

ページ範囲:P.62 - P.62

 小生は人口10万の地方都市で市立病院に勤務し,消化器を中心として第一線で仕事に従事している.
 症例1は58歳,男性.C型慢性活動性肝炎でインターフェロン治療終了6カ月後,III度房室ブロックが出現したため,心臓ペースメーカー植え込み術を施行し,外来にて加療していた.本人の希望から大腸内視鏡検査を施行し,上行結腸に数mmのポリープを認め,ホットバイオプシーで問題なく摘出した.このポリープの傍にやや拡張した静脈があり,また血小板凝集抑制薬を内服していることを知りながら,バイオプシーを施行した.その約12日後,血便,ショックで緊急受診した.同部位から拍動性の出血を認め,HSE局注し,クリッピングで止血した.反省点として,いかに小さいポリープであれ,高周波スネアポリペクトミーと同様に,血小板凝集抑制薬の効果が消失した時点で治療を施行すべきであったし,また治療後,内服を中止すべきであった.静脈の拡張の裏には血管形成異常があったと思われる.しかしながら,ポリペクトミー施行後,出血する可能性は数日ぐらいまでと聞いていたから12日後に出血したのは驚きであった.

Back Knock Pain

著者: 中田安彦

ページ範囲:P.109 - P.109

 蒸し暑い当直の晩,そろそろ寝ようかとベッドに横になっていたところに電話のベルが鳴った.「先生,初診のカゼの患者さんがみえてますが,どうしましょうか?」と外来当番看護婦が告げた.薄暗い階段を降りて外来に向かった.
 患者は,浅黒いやや痩せ気味の40歳台の寝間着を着た営業マン風の多弁な男性であった.

「背部痛」に気をつけよう

著者: 和田志津子

ページ範囲:P.113 - P.113

 私は1994年12月から目白第三病院勤務になった.当院は救急病院で,一次から三次までの救急患者が搬送されてくるが,脳外科・腹部外科・整形外科は別にして,胸部外科の緊急手術はできない.人手・施設のcapacityを含め,迅速な判断を迫られる.時には冷やりとさせられたり,思わぬ展開に混乱させられる事態にも遭遇する.そんな中から3例を記す.
 症例1:78歳,男性.「背部痛」を主訴に入院.血圧180/90mmHg.心電図で左室肥大.胸部X線で心肥大,大動脈弓部拡張.造影CTでD-IIIb型大動脈解離を確認.偽腔形成なく陳旧性のものと判断したが,降圧剤・鎮痛剤使用にも反応せず,三次医療施設のCCUに転送した.その後,患者は内科的服薬治療のみで血圧・痛みともにコントロールされ退院された.

急性腎不全(ARF)治療のヒント

著者: 桜内靖浩

ページ範囲:P.129 - P.129

 急性腎不全(ARF)の原因の中には,専門医でなくとも治療可能なものも少なくなく,簡単な治療でほぼ完全に回復する場合もあるので,ぜひ注意を払っていただきたい.
 症例1:72歳,男性.腹部拍動性腫瘤を主訴にK病院受診.CTにて直径10cmの腹部大動脈瘤(および多発性嚢胞腎)を発見.翌日,大動脈瘤が破裂し,緊急入院し,手術を受けた.このときCr1.4.第2病日,右片麻痺出現.第8病日から尿量減少.第9病日Cr 8.4となり,血液透析(HD)開始.その後慢性腎不全(CRF)と判断され維持透析(MHD)となった.第44病日,MHDおよびリハビリテーションの目的でN病院へ転院.転院時体液量過剰の所見はなく,かつ収縮期血圧90〜100mmHg前後と低めであったため,MHDを行いつつ,心不全に注意しながら徐々に基礎体重を上方修正した.その結果,次第に尿量は増加し,Crは低下した.当院第7病日のHDを最後に離脱.Crは1.8程度で安定となった.

積極的治療により著明な改善が得られた特発性シャント型肝性脳症の一例

著者: 瀬古修二

ページ範囲:P.135 - P.135

 高アンモニア血症を伴う意識障害症例について紹介する.症例は71歳の女性.50歳頃ネフローゼ症候群,肝硬変と診断されているが詳細不明.69歳頃より意識障害出現し入院となった.精査の結果,著明な脾腎短絡路を認め(図A),血中アンモニア濃度260μg/dlと上昇,Fisher比は1.33と低下,脳波にて7Hz徐波出現などより門脈-大循環短絡による肝性脳症と診断した.一方,肝機能ではGOT 16U,GPT 12U,総ビリルビン0.8mg/dl,プロトロンビン時間10.7秒,ヘパプラスチンテスト70%と異常を認めず,HBs抗原,HCV抗体ともに陰性.肝生検でも非特異的変化にとどまり,肝硬変などの慢性肝疾患は認めなかった.以上より特発性シャント型肝性脳症と診断したが,年齢,合併する慢性腎不全などより手術など侵襲的治療は困難と考え,蛋白制限食,分枝鎖アミノ酸製剤,二糖類などいわゆる肝性脳症の保存的治療を実施した.しかし,再三脳症を繰り返し,日常生活は極めて制限された.そこで,カテーテル操作にて経皮経肝的に脾静脈にコイルを設け,脾動脈由来の短絡は温存しつつ,上腸間膜静脈由来の短絡を遮断する樫田らのシャント分流術を施行した(図B).

突然の失恋にはご用心!

著者: 古野泉

ページ範囲:P.148 - P.148

 症例は23歳,男性.表情の明るい,ごく普通の働く若者.平成5年4月に,初めて発作性心房細動(PAf)を起こし,近医に数日通院し,アミサリン内服,その後は投薬なしでも何も起こらなかった.平成6年10月13日,14日,2日連続でPAfを起こし,近医の紹介状を持参の上,10月15日当院初診となる.来院時心電図はsinusであったが,3連発までの上室性期外収縮連発を認め,近医での検査所見とあわせ,リスモダンR300mg,2×/日を14日分処方した.甲状腺機能を含む採血一式を行い,近日中の心エコー,ホルター心電図を予約し,本人は帰宅した.ところが,10月18日午後11時30分,その晩突然失恋した彼は発作的に手元にあったジゴシン6錠,リスモダンR22錠を服用した.その後,本人と電話で話していて様子がおかしいと感じた友人が10月19日午前2時30分,当院へ本人を連れて来院した.
 入院後は特に意識レベルに問題なく,もともと心機能正常,軽い僧帽弁前尖逸脱を認めるのみであり,入院直後の胸部X線写真でごく軽い心不全を認めたものの,補液と利尿剤にてモニター上全く不整脈なく経過し,約36時間で退院した.

ERCP直後には腹部CT検査を

著者: 桑原直昭

ページ範囲:P.151 - P.151

 胆道・膵臓の検査にERCP(内視鏡的逆行性膵管胆道造影)は一般に広く行われている検査です.しかし,末梢の病変に関してはX線写真のみでは所見を見落とす例があります.ERCP後に腹部CT検査を行い,有益な情報を得ました.
 症例は69歳の女性で,時々上腹部に激痛をきたしていました.腹部超音波・CTで多発性の肝嚢胞を指摘されていましたが,特には治療はされていませんでした.再度激痛が出現したため,当科に紹介入院となりました.ERCでは肝内胆管は左右ともに圧排・狭窄像を認めましたが,嚢胞との交通像は明らかではありませんでした.しかし,直後に行った腹部CTでは写真のように肝右葉の最大の嚢胞に造影剤の貯留を認め(図1),その他の嚢胞には造影剤の貯留は認められず,この最大の嚢胞のみが胆道との交通を持ち,感染を繰り返していたものと考えました.嚢胞穿刺では胆汁を採取したため,手術療法を施行しました.手術ではこの最大の嚢胞のみが胆汁により変色しており,他の嚢胞には異常を認めませんでした.胆道との交通孔の縫合および嚢胞の開窓術を行いました.

若年者癌性腹膜炎

著者: 益岡弘司

ページ範囲:P.173 - P.173

 生来神経質で内向的な性格の32歳の男性.平成5年8月頃より腹部全体の鈍痛が出現した.徐々に増強し夜も眠れなくなったため,同年10月に東京都内の某大学病院を受診した.過敏性腸症候群としての説明を受け,投薬にて経過観察されたが,改善しないため,同年12月に東京都内の某公立病院を受診した.やはり同様の説明を受け,外来にて投薬を受けた.腹痛の訴えが強くなったために,平成6年1月22日に精査目的で同院に入院した.入院時の腹部X線で初めてイレウスの状態であるのに気づかれ,また入院後の腹部超音波検査で右水腎症に気づかれた.2月23日に開腹手術となったが,結腸癌による癌性腹膜炎で,腹腔内は上行結腸から右尿管まで一塊となっていた.摘出不能にて,回腸横行結腸バイパス術のみ施行された.同年4月5日,家族の希望で出身地にある本院に転院となった.すでに経口摂取不能で,高カロリー輸液のための中心静脈カテーテルをヘパリンロックされて,新幹線に乗って東京から当地へ帰ってこられた.本院ではもっぱらモルヒネによる除痛と全身管理を行ったが,5月22日に死亡された.

病変は一つではない

著者: 斎藤祐一郎

ページ範囲:P.181 - P.181

 57歳時に,左耳下腺癌で手術の既往のある60歳の男性.今回は下咽頭癌の診断で,耳鼻科にて下咽頭喉頭頸部食道摘出術を受けたが,術直後に吻合部狭窄をきたし,経口摂取が全くできないとのことで当科を紹介受診した.何回か内視鏡下に拡張術を行うことで,内視鏡が吻合部を通過するようになり,やれやれと思ったが,念のため,その奥を観察すると,1m領域に長さ8cmにも及ぶ進行食道癌の病変を認めた.下咽頭の病変が,食道癌の転移か原発なのかは不明であるが,食道癌は手術不可能と判断し,放射線と抗癌剤による内科的治療を行い,無事に1年が経過した.しかし,患者は声帯がなくなってしまったために,会話ができないことには変わりはない.教科書的には,頭頸部癌と食道癌は高率に合併をみることは常識であるが,下咽頭の病変を見つけた際に,食道も検査していれば治療方針も異なっていたと推測される.内科的治療で改善はしたが,悔いの残る症例である.

ある夏の夜の当直で……

著者: 安達倫文

ページ範囲:P.193 - P.193

 無医村だった地に赴き,地元民からは心からの感謝と尊敬を受けながら一心に働く父の姿を見て,医師の道を志しました.そんな私も(父とは全く異なったタイプの)医者になって早や16年になります.その間,大学および大学関連病院に13年,一般病院に3年間勤務致しました.今思えば,それぞれに思い出はありますが,特に忘れられない出来事が以下に記した事件です.
 ある夏のN病院での当直の夜,消防署から一本の電話がありました.それは「事故があり,車内に閉じ込められている人の生死を確認してもらいたい」という依頼でした.私はそれまでにも当直では度々悲惨な目(例えば,飛び降り自殺で全身骨折だらけの患者に心肺蘇生を行ったり,列車の飛び込みでバラバラになった遺体を集める手伝いをしたり,溺水患者の心肺蘇生をしようとしたら,服の中からザリガニが出てきてびっくりしたりなど)に会っていましたから,「また,きたか」という程度の感じでした.しかし,迎えにきた救急車に乗りこみ,現場に着いて初めて,その事故が特急列車と自動車の衝突による大変な事故であることを知りました.

難治性腹水に対する腹水ECUM

著者: 堀口孝泰

ページ範囲:P.200 - P.200

 肝硬変・うつ血性心不全・ネフローゼ・癌性腹膜炎の腹水や透析腹水のコントロールに際して,直接排液・廃棄すると低蛋白血症や低栄養などの副作用をきたす.また,腹水濃縮再静注法はendotoxinを代表とする種々のpyrogenによる発熱などの問題が生じる.筆者らは,腹水を血液透析装置を用いて濃縮した上で直接腹腔内へ戻す方法を用いて十数例に良好な成績を得ている.体外循環は無ヘパリンでも可能であるが,フィブリンの析出が多いため回路や穿刺針の閉塞により治療を中断しなくてはならないことが多いので,今までは返血回路側に三方活栓を付け,析出するフィブリンを注射器にて排出し,穿刺針の閉塞を防止していた.しかし,常に監視が必要であり,廃棄するフィブリンを含む腹水量も少なくないために低蛋白血症をきたす危険があった.そこで,透析回路のチャンバーのメッシュを粗にすることで,回路閉塞をきたすような大きなフィブリン塊の析出は全く認めなくなり,簡便に腹水のコントロールが得られるようになった.腹水は含有蛋白濃度が高くなりreboundが生じると考えられるが,自験例では1例もreboundは認められなかった.

針生検とPEIT

著者: 島田昌和

ページ範囲:P.203 - P.203

 針生検を始めたのは大学医局入局後すぐのことで,当時はシルバーマン針を使った腹腔鏡下肝生検術が盛んに行われていた.しかし,この頃すでにエコー下肝生検術やアルコール注入術(PEIT)を積極的に行っている施設があると聞き,早速これらの方法を学んできた.その後C型肝炎ウイルスの発見と,それに続くインターフェロン療法から,エコーガイド下での肝生検術が広く一般病院にも普及し,腹腔鏡下胆摘術もすぐに全国に広まった.
 ところで,肝生検を日常の診療で行っていると,今度は他臓器の生検も行いたいと考えるものである.その結果,今では従来使用していた3種類の生検針に加えて,バイオプシーガンを臓器の種類や目的に応じて使用している.針の太さについては診断可能な最小限のゲージ数を使うのがよいと考える.例えば,大学時代には原発性胆汁性肝硬変症(PBC)の診断に18Gの生検針を使用し,肝組織を長く採取することによって,慢性非化膿性破壊性胆管炎などPBCに特徴的な病理組織を得ることができた症例を経験している.

ひと口に胸痛といっても

著者: 竹下泰

ページ範囲:P.217 - P.217

 患者は左鎖骨骨折と左肋骨骨折で整形外科病棟に入院中の50代の男性.既往に高血圧と狭心症があり,現在も加療中である.入院後1カ月くらいしてから時折り左胸痛を訴えるようになり,内科へ相談があった.入院時のX線に骨折以外の異常はない.胸痛時の心電図にわずかなST部分の変化を認めるため,亜硝酸剤などを増量すると症状は軽快し,これで一見落着と考えてしまった.
 ところが,1カ月くらいしてから再び左胸痛を訴えるようになってきた.心電図や血液検査では異常なく,骨折の経過観察のために撮影されたX線像にも骨折以外の異常は出ていない.

短期間にて消失した両側肺門リンパ節腫脹の経験

著者: 小林淳晃

ページ範囲:P.234 - P.234

 私は6年前にカナダ人男性の両側肺門リンパ節腫脹(以下,BHL)が2週間で消失し驚かされた経験があります.日常診療でわれわれが出会うBHLはサルコイドーシスや悪性疾患に伴う例がほとんどであり,欧米のテキストにみられる感染症由来のBHLを日本でみることは実際稀でしょう.結局,このカナダ人は伝染性単核球症であって,Paul-Bunnel反応も日本人と異なり,かなり高値を示していました.
 欧米ではわが国と逆に青年期にこの病気の発症が多くみられることは知られていて,確かに文献上でも海兵隊員ら多くの知見が報告されていました.その中で米国などでは伝染性単核球症に伴ってBHLや縦隔リンパ節腫脹が出現する頻度も実際に高いことを,その際初めて知り驚きました.しかし,頸部リンパ節の腫脹はこの病気の場合かなり長期にわたり観察されるのに対し,なぜBHLがこれほど速く消失したのかはわかりませんでした.

患者のことばを鵜呑みにしないように

著者: 林勝吉

ページ範囲:P.239 - P.239

 68歳の男性が,腹痛を主訴に来院した.腹痛の部位は初め不定であったが,数日後には左側腹部に限局したとのことである.初診時,理学的所見では腹部に圧痛部位はなく,特に異常はみられなかった.腹部X線,検尿に異常なく,血液検査では白血球数の軽度増加以外異常はみられなかった.抗コリン剤が腹痛時の頓服薬として処方された.
 しかし,患者は抗コリン剤では腹痛が軽快しなかったため3日後の深夜来院し,「腹の痛いところに湿布を貼ったら皮膚がかぶれた」といっていた.その際,鎮痛薬が処方されたが,それによる腹痛の軽減は一時的であり,その翌日,私の外来を受診した.腹部を診察しようと患者に衣服を脱いでもらうと,左の側腹部から腰部にかけて,一部水疱を伴う帯状の発疹が認められた.患者が訴えていた「湿布を貼ったら皮膚がかぶれた」は誤りで,herpes zosterによる発疹であった.

造影剤による中毒性腎症にご用心

著者: 島田薫

ページ範囲:P.242 - P.242

 経静脈的に造影剤を使用する検査はアナフィラキシーに注意をすれば,一般的には問題のないことが多いとされている.しかし,検査後に重大な問題を起こすこともある.
 症例1:66歳,女性.原疾患はインスリン非依存型糖尿病(NIDDM),糖尿病(DM)歴10余年で,食事療法をしていたが,コントロールは不十分であった.DM腎症については,微量アルブミン尿の出現は認められていたが,尿素窒素,クレアチニンは正常域であった.下血を契機とし,S状結腸に癌がみつかり,根治手術が予定された.術前検査として,連日DIP(drip infusion pyelography),腹部造影CTを施行したところ,その3日後に乏尿となった.血液透析など集中治療するも,急性腎不全は回復せず,多臓器不全(MOF)となり死亡された.

Münchhausen症候群

著者: 大居慎治

ページ範囲:P.255 - P.255

 Münchhausenとはドイツのお伽話に出てくるほら吹き男爵の名前である.派手な急性症状をくり返して治療を受けるが,訴えは虚偽やわざとらしさがあったり,検体に手を加えたり,時には自傷行為や異物を摂取するなどし,医療者とトラブルを起こすようなことをさしてMünchhausen症候群という.
 私の経験した患者は56歳の女性で,歯肉出血,皮下出血を主訴に来院した.もともと低体重出生児で歩行開始は3歳,精神発達遅延もあった.約10年前に糖尿病と診断され,通院治療を受けている.小児期にはよく皮下出血があったらしい.約10年前にも凝固時間の延長があり入院したが,原因不明であった.数年前,意識障害で救急外来を受診したが,何の異常もなく,つまりは“死んだふり”であった.義歯を飲み込んだこともあった.ただ,今回はプロトロンビン時間,活性化部分トロンボプラスチン時間とも著しく延長しており,糖尿病の主治医は今回は本当の病気かも知れないと語った.家族歴でも9人の兄弟のうち2人が生後まもなく死亡しており,両親と父方の祖父母の2代にわたり,いとこ同士の結婚であったから,何となく先天性の疾患を思わせた.

予想できなかった経過

著者: 斎藤雄介

ページ範囲:P.262 - P.262

 筆者が勤務医時代の頃の話です.胆石症,十二指腸潰瘍で以前通院していた45歳の女性が,6月26日付けの近医からの紹介状を持って,7月12日に約2年ぶりに筆者の外来を受診してきました.紹介状の内容は,「子宮筋腫と貧血がある.胃の調子が少し悪いとの訴えがあるので,胃の検査を」というものでした.患者の主訴は,「時々胃が痛む」というもの.顔色不良ですが,一般状態は比較的良好.当日の血液検査では,ヘモグロビン7.8の小球性低色素性貧血があるものの,生化学的にはTTT,ZTT,GOT,GPT,総ビリルビンなどすべて正常でした.7月23日に胃内視鏡を行い,十二指腸球部にH1 stageの潰瘍が認められました.腹部超音波検査では,小胆石多数と,胆嚢壁の軽度肥厚という検査報告を得ました.したがって,診断は①小球性低色素性貧血,②十二指腸潰瘍,③子宮筋腫,④胆石および慢性胆嚢炎と下して,ひと安心,内服薬を処方しました.以後,患者は受診せず.
 ここまでお読みになって,読者の皆さんはこの患者のその後の経過を予想できますか?

偽性腸閉塞とミノサイクリン

著者: 齋藤祐一郎

ページ範囲:P.268 - P.268

 35歳時に発症した強皮症(PSS)の女性,肺線維症も合併している.40歳より腹部膨満感,食欲低下の症状があり,私のところに紹介されてきた.検査の結果,偽性腸閉塞に気腹を生じているものと判明.当初は,シサプリドの投与にて症状は軽快していたが,徐々に反応しなくなり,入院のうえIVHによる管理も必要なほどになった.絶食中は気腹もなく,腸管の拡張も消失するが,経口摂取を開始すると,症状は悪化し治療に抵抗していた.文献を調べてみると,ミノサイクリンを用いると効果がみられるとの記載があり,半信半疑で使用したところ,症状は劇的に改善し,点滴も必要なくなり,通院可能となった.体重も5kg増加した.ミノサイクリンが有効であったことには間違いなつが,作用機序は消化管ホルモンのレセプターに作用するとの記載があるものの,本当のところは不明である.さらに検討をしたいところではあるが,臨床病院の常として今日に至っている.

Endotoxin shockと似て非なるtoxic shock syndrome

著者: 片桐有一

ページ範囲:P.279 - P.279

 Toxic shock syndrome(TSS)は黄色ブドウ球菌(以下,ブ菌)の産生する外毒素によって引き起こされる細菌性ショックである.グラム陰性桿菌の内毒素によるendotoxin shockとは,病像は類似するが病態は異なる.Endotoxin shockの診断には菌血症の存在が重要であるが,TSSは微量の毒素でも発症するため菌や毒素の検出は必須でなく,症候から診断される.診断基準は①発熱,②紅斑,③皮膚の落屑(発症1〜2週間後),④血圧低下,⑤多臓器障害(消化管,肝,筋肉,粘膜,腎臓,心血管系,血液,中枢神経系)である.多臓器障害の病像は多彩で,検査所見からendotoxin shockとの鑑別は困難である.特徴的な皮膚,粘膜の所見も軽微な場合もあり,起炎菌不明の敗血症性ショックと診断され,濃厚な治療が施されている場合もあると思われる.しかし,TSSと気づけばスマートな治療も時に可能である.
 症例1:20代の女性.来院4日前に乳腺炎に罹患し,その翌日より高熱と混濁尿,咽頭痛,項部痛が出現し来院となった.血圧低下,全身皮膚の紅斑と眼球結膜充血,苺舌などを認め,定型的な症状からTSSと診断した.

脳血管障害を合併した慢性腎不全患者における血夜浄化療法の選択について

著者: 武政敦夫

ページ範囲:P.288 - P.288

 近年,血液浄化療法の進歩により慢性腎不全患者の予後は著しく改善された.しかしながら,透析患者における脳血管障害の合併はしばしば致命的である.われわれはcontinuous ambulatory peritonealdialysis(CAPD)療法の経過中に橋出血を合併したにもかかわらず,CAPD療法を持続しながら救命しえた1症例を経験し報告したp1)
 症例:48歳の男性.1985年6月より慢性糸球体腎炎による慢性腎不全にてCAPD療法開始.経過良好であったが,1988年12月27日,腹膜炎を合併したため同日入院,同年12月31日,橋出血を合併した.CAPD療法を継続し,グリセオールとステロイド剤を脳浮腫に対して使用した.橋出血発症後約1カ月で脳浮腫は消失し,約4カ月後,経口摂取可能となり,約6カ月後,意識清明となった.リハビリテーションにより約8カ月後には歩行可能となり,1989年10月19日退院となった.

Wegener肉芽腫症との出会い

著者: 多田利彦

ページ範囲:P.304 - P.304

 ある日,外来に65歳の痩せた顔色の悪い男性が診察にこられた.話を聞くと,“半年前から体がだるくなり,食欲もない.仕事が忙しかったので,病院にもこれなかった.1週間前より声が出なくなり,食事もほとんどとれなくなったため病院にきた”と,かすれた声で答えた.あまりにも憔悴した表情であったため,耳鼻科に嗄声の検査を依頼し,とりあえず入院していただくことにした.耳鼻科からは,“声帯下喉頭に腫瘍があり,喉頭癌疑い”との返事があった.胸部X線写真では,右上肺に4cm大の腫瘤が見られ,左上肺にも2cm大の腫瘤が数個認められた.そのとき,直感的に喉頭癌,肺癌あるいはその転移と考えた.しかし,喉頭部からの生検標本からも肺からも,癌細胞は全く検出されなかった.喉頭鏡の写真,病理所見,胸部X線写真,慢性炎症を示す検査所見や,患者さんの痩せた顔などが雑然と脈絡もなく頭の中に残り,診断のつかないまま幾日かが過ぎた.そのうちに,肺の腫瘤はみるみる大きくなり,中には空洞が生じ始めた.
 診断のつかない“あせり”を感じながら,病室に向かっているとき,たまたま耳鼻科の医師と廊下で出会った.

補体検査はC3,C4,CH50を一緒に

著者: 野城宏夫

ページ範囲:P.312 - P.312

 日常の一般診療では,補体が活躍する場合は少ないが,膠原病,血液疾患,腎疾患診療では不可欠の検査である.また,補体はacute phase reactantであるので,炎症が存在するときに低補体を呈するのはただならぬことと考えたほうがよい.不明熱の症例にもぜひ検査すべきである.さらに,C3,C4,CH50は必ず一緒に検査するべきである.
 研修医時期に,次のような症例を経験した.

不明熱の心得

著者: 相澤研一

ページ範囲:P.328 - P.328

 発熱が続き,解熱しない.この状態が続くと医師は悩むことになる.もし2〜3週間も続けば,医師は正しく診断・治療することができないという自信喪失につながる不安・不快感と,さらに患者・家族との信頼関係に亀裂が生じてくることによる不全感,そしてそれらのストレスは日々ますます強まることになる.したがって,日頃から不明熱の対処なるものを自分なりにあらかじめ心得ておくことは有意義であると考えられる.
 発熱が続くのに診断できない場合として,①手がかりがつかめず診断できない,②明らかに特徴的な症状,症候が存在しているのに診断できない,③診断は正しいのに治療が適切でない,または逆に誤診のもとに加療している,などが挙げられる.②,③は経験不足,勉強不足であるから,その時点の解決策としては,その道の専門医に教えを乞うか,または先輩医師に診てもらうのが最良であろう.最大の難関は①であり,誰が診てもまずわからない場合であり,いわゆる本来の不明熱である.私が経験した印象深い不明熱の症例はpsoas abscessであった.思いもかけない疾患だった.次はFournier's gan-greneであった.私の専門は消化器だが,思いもかけない部位だった.

気持ちの“ゆとり”があるときには

著者: 佐藤規子

ページ範囲:P.334 - P.334

 外来や検査の忙しいときには,“1人あたり何分かけるか”ということしか頭にないことがあります.自分がどんな誤診をしているか自覚する機会もなく,なんだか一生懸命働いている気になっているのは本当に反省すべきことと思います.そんな日々の中で,ほんの少しの気持ちの“ゆとり”から意外な疾患をみつけたことを書いてみます.
 風邪症状を訴えてきた17歳の女性.熱もなく,一瞬診察を手抜きしたくなりました.しかし,風邪くらいのことで何時間も待っていたのだと思い直しました.聴診中にみつけたのは背中の大きなmassです.今まで恥ずかしくて放置してあったとのこと.精査にてliposarcomaと判明し,手術できました.

神経症といわれて5年

著者: 古野泉

ページ範囲:P.344 - P.344

 神経症といわれて5年,1枚の心電図がきっかけで,すべての自覚症状が改善した症例がある.
 症例は48歳の主婦.1991年1月18日,数秒の動悸,同時に胸部不快感を繰り返すため当院を受診.初診時,心電図上,単形性非持続性心室頻拍(NSVT)を認め,リスモダンR300mg/日投与,口渇のため1991年3月よりシベノール300mg/日に変更し,胸部症状は消失した.また,1990年8月頃より,緊張すると両手のしびれ感,硬直が数回あり,過呼吸症候群疑いといわれ,以後は現在まで精神安定剤をたびたび投与されていた.1995年4月12日,動悸が再発し,当科外来を受診した.精神的に極めてイライラした状態で,心電図上,単形性のNSVTおよび心室性期外収縮散発,ST部分の延長によるQT延長を認めた.Trousseau徴候陽性.QT延長があり,本人が極めて興奮していたため,シベノールを中止し,テノーミン50mg/日に変更した.心エコー正常.同日の採血データは,Na 143,K 3.7,Cl 103,Ca 5.4(正常8.0〜10.5),P 5.6で,Ellsworth-Howardtestの結果,原発性副甲状腺機能低下症と診断した.

“たいしたことのない”腹痛(その1)

著者: 高橋将

ページ範囲:P.351 - P.351

 34歳の男性が上腹部痛を主訴に救急室を受診した.問診上“とりたてたこと”はなく,腹部の理学的所見も“たいしたこと”はなかった.患者には胃の痛みだろうと告げた.少し休んでいきたいというので奥のベッドを指示し,それきり患者には注意を払わなかった.その夜の救急室は昼間の外来さながらに混雑しており,その対応に追われていた.ただ,患者がたびたび腹を抱えて部屋を出るのを不信に思った.トイレにでも行って吐いているのかな.それにしても,吐くとはいっていなかったはずだが……(後で聞いたところによると,水を飲みに行ったとのことだった.水を!飲みに!しかも何度も!).
 救急の診察室に並べられたカルテが一段落したところで,奥のベッドに様子を伺いに行った.「どうですか.帰れますか」.来院してから1時間が経っていた.「いや帰れない」という.腹部はやはり“たいしたこと”はない.しかし,患者の顔はどうも苦悶状である.はっと思い立って心電図をとって驚いた.前胸部でT波がテント状に高い.医者の顔色が変わった.急性心筋梗塞?!超急性期?!

偽性心室頻拍症だ!

著者: 牛山和憲

ページ範囲:P.365 - P.365

 QRS幅の広い頻脈性不整脈は,まず心室頻拍を考えて緊急の治療をしなければいけません.それらの中には,WPW症候群で心房細動を合併し,QRS幅の広い頻脈性不整脈,いわゆる偽性心室頻拍を示すことがあります.その偽性心室性頻拍で注意しなければならないことは,WPW症候群では,ジギタリス剤やベラバミルの使用が心房細動時のRR間隔の短縮や,さらに心室細動へ移行する恐れを生じさせるため禁忌とされ,ジソピラミドなどの1群抗不整脈薬の使用が勧められていることです.私は治療に難渋した偽性心室頻拍の症例を経験したので提示します.

小柴胡湯による偽性アルドステロン症

著者: 加藤明彦

ページ範囲:P.369 - P.369

 低カリウム(K)血症は臨床上,比較的よく遭遇する電解質異常であり,薬剤,特に甘草が原因になっていることも少なくない.
 高血圧を有する62歳の男性が,全身の脱力感,歩行困難を訴え入院した.入院時,振戦および遠位筋優位の筋力低下がみられ,血清Kは1.7mEq/1と低下し,CPK 20,065IU/1と著増していた.多尿(2,800ml/日)であり,尿中K排泄は50mEq/日と増加していた.血漿レニン活性0.1ng/ml/h,血漿アルドステロン10pg/ml以下と抑制され,代謝性アルカローシスを伴っていたことより,薬剤によるミネラルコルチコイド過剰が疑われた.慢性C型肝炎に対し,約1年前から小柴胡湯7.5g/日を内服していたことが判明し,薬剤の中止およびK補給により血清K値は1週間後に正常化した.本例は小柴胡湯による偽性アルドステロン症と診断した.

肝膿瘍と周期熱

著者: 近藤英樹

ページ範囲:P.377 - P.377

 一定の間隔をおいて,規則的,周期的に発熱を繰り返す病態は,周期熱と呼ばれている.その原因としては,マラリヤ,回帰熱,Hodgkin病,家族性地中海熱,エチオコラノロン熱などが一般に知られているが,肺結核,腸チフス,髄膜炎,歯周炎などの非特異的な感染症でも同様の発熱を呈することが報告されている.
 症例は32歳の女性.発熱,全身倦怠感を主訴として来院.2ヵ月前より,約10日間の発熱と約10日間の解熱期を繰り返しているという.白血球数 26,000/μl,ヘモグロビン 10.7g/dl,総ビリルビン 0.4mg/dl,GOT 9IU/l,GPT 221U/l,CRP 67.2mg/dlと高炎症反応は認められたが,肝機能は正常.胸腹部X線,心エコーでも異常は認められなかった.入院後も7〜12日間の有熱期と10〜12日間の無熱期を規則正しく繰り返した.約3カ月の経過中,腹部症状はみられなかったが,不明熱の精査のため,腹部CTを撮ったところ,肝内に多数の低吸収域が認められた.肝膿瘍を疑い,抗生剤を投与したところ,以後発熱は消失し,次第に肝内の低吸収域は吸収され,無事退院した.

PEGをご存じ?

著者: 小川滋彦

ページ範囲:P.382 - P.382

 駆け出しの消化器内科専門医として,第一線病院で張り切っていた頃の,今思えば恥ずかしい思い出がある(当時は恥ずかしいと思っていなかったことが問題!).その病院は県内でも有数の内科の専門外来制を敷いており,また基幹病院として数多くの患者さんが集まってきていた.その消化器内科はといえば,吐・下血,閉塞性黄疸,急性腹症と次々に運びこまれる活気にあふれた職場であった.
 ある日,神経内科から1人の老人が紹介されてきた.紹介状には,「食事が摂れないので貴科的によろしく」とある.脳梗塞で嚥下障害がある.ならば神径内科の問題じゃないか,なんでこの忙しいのにわざわざ消化器内科に!と,返事にはもちろん書かなかったけれども,上部消化管内視鏡だけして,「当科的には異常ありません」と,そそくさと帰してしまった.今,何かの御縁で経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG,ペグと読む)の普及のお手伝いをしている.脳血管障害などのため自発的な食事摂取のできない患者さんに対する経腸栄養の投与経路として,内視鏡医と協力してベッドサイドで15分くらいで胃瘻をつくることができる.

「胃けいれん」と総胆管結石

著者: 森昭裕

ページ範囲:P.400 - P.400

 総胆管結石症は,腹痛,悪心,嘔吐など消化器症状を呈し,胆石の既往,悪寒・戦慄を伴う発熱,黄疸を伴えば比較的容易に診断できる疾患ですが,これらの症状に乏しい場合,診断に苦慮する場合があります.
 数年前のある日,「胃けいれん」を主訴に中年男性が一般外来を受診されました.月に一度くらいの頻度で,まるで胃がけいれんしたような激しい痛みが心窩部に出現するというのですが,痛みはいずれも半日から1日で消失し,以後は全く痛みは感じないとのことでした.今回は2〜3日前に発作が起こったとのことで,診察時は無症状でした.

肺気腫の治療におけるリハビリテーションと禁煙指導

著者: 北川隆夫

ページ範囲:P.403 - P.403

 肺気腫の治療は主に気道閉塞に対する治療として,近年,抗コリン剤の吸入が第一選択として用いられている.しかしながら,各種気管支拡張剤を使用しても改善の少ない例も多い.最近,そのような改善の少なつ例にリハビリテーションの併用と禁煙指導が著効した例を経験した.
 症例1は63歳の男性.約8年前より息切れあり,近医にて肺気腫と診断され,禁煙を勧められ以後喫煙していないが,3年前に肺炎後よりHugh-Jonesの呼吸困難度分類(以下H-J分類と略す)IVとなり当科を受診する.抗コリン剤吸入,β2刺激剤,テオフィリン剤使用にて改善少なく,入院にて腹式呼吸(特に労作時の),口すぼめ呼吸,呼吸筋訓練などのリハビリテーション施行にて約2カ月後にはH-J分類IIIとなった.

思い込みは禁物

著者: 朝倉健一

ページ範囲:P.455 - P.455

 1例目は,救急搬送された60歳台の男性で,意識もなく救急外来に到着した.JCS 300のレベルである.瞳孔は両側ともpin pointで,四肢は弛緩性麻痺を呈し,Babinski反射も陽性であった.早速,頭部CTスキャンをとったが,high density area,lowdensity areaいずれもみられず,脳外科とも相談したが,診断は脳幹部梗塞の疑いということになった.しかし,血圧は正常で,既往歴にも特記事項なし.脳梗塞患者であれば,必ず何らかのリスクファクターを有しているが,この症例は心拡大もなく,心房細動もなく,高脂血症,糖尿病もなかった.こういう症例もあるのかと思って,家族に重篤である旨を伝えた後,内科病棟へ入院させた.ところが,翌日午後から,深い眠りからまさしく目醒めたのである.よくよく病歴をとりなおすと,睡眠薬の空き瓶がまわりにあり,家族はこれを隠していたことがわかった.患者は気分がすぐれず,睡眠薬を多量に服用していたために意識障害に陥ったのである.

“たいしたことのない”腹痛(その2)

著者: 高橋将

ページ範囲:P.493 - P.493

 33歳の女性が腹痛を主訴に来院した.2〜3日前より腹が痛みだし,気分も悪いという.夫とは半年前に別れた.今は3歳になる娘と2人暮らしである.“色白”でおとなしそうな女性だ.問診をすると,この3〜4日便秘気味であるという.生理は1週間前に“ちょっと”あった.“ちょっと”とはどういうことだろう.まあ,いつか.腹部は平坦で腸雑音が減弱しているが,触診上“たいしたことはない”.「どうでしょうか」.付き添ってきた妹が不安そうに医者の顔をのぞきこむ.「便秘です」.自信をもって答える(便が出ないのだから便秘には違いない).しかし,それにしても患者はやつれてみえる.心労が重なって夜も眠れないのだろうか.
 救急室から出ようと,ドアのノブに手をかけて振り返った.患者は妹に抱き起こされて起きあがったところだ.実に弱々しい風情.ちょっと不安が掠めたが,まあ,いいか.ドアを開けて廊下を歩きかけると,ドサッという鈍い音がした.あわてて戻ってみると,患者がベッドの横に倒れている!急いで脈をとった.速くて弱い.血圧は?血圧は—60mmHg!ショック?!—このときになって初めて患者の眼瞼結膜をみた.貧,貧血がある.“色白”でおとなしいのではなかった.

アルコール性肝炎と肝シンチ

著者: 山岡一昭

ページ範囲:P.501 - P.501

 アルコール性肝障害は日常臨床でよく遭遇し,多くは禁酒によって速やかに改善する良性疾患である.そのなかで,重症アルコール性肝炎は遭遇することは稀であるが,断酒にもかかわらず肝細胞の再生が起こらず,多臓器不全が進行し,救命しえない場合が多い.
 患者は45歳のスナック経営の女性で,20歳頃より4〜6合/日の大酒家,話を聞くと,入院する1週間ほど前から体がだるく,食事を作るのが億劫で,ウイスキーばかり飲んでいたとのことだった.入院時,黄疸,腹水貯留が著明で発熱があり,白血球数16,200/μl(そのうち好中球84%)と重症アルコール性肝炎が疑われた.当時私は研修医で,主任教授は武内重五郎先生だった.オーベンはすぐコロイド肝シンチを撮るように命じた.

Smiling depression

著者: 今村彰

ページ範囲:P.517 - P.517

 80歳台の女性.気管支喘息とのことで入院していたが,笛音が頸部中心であり,耳鼻科的に異常を認めなかったことから不安神経症による増悪と考え,メキサゾラムを投与した.投与後症状は消失,外来にて経過をみていたところ死亡の連絡あり,酒に酔っての自宅の二階からの転落死であった.聞いたところでは,家族がなく親戚と同居していた,とのことであった.状況から“うつ”による自殺を疑った.“うつ”への抗不安薬単独投与はsmiling depressionの原因となるため禁忌といわれている.smilingdepressionでは自殺率が高くなる,とされているからである.注意してみると,一般内科でも不安症状,強迫症状を主とする“うつ”の患者をみることは決して少なくはないことがわかる.特に身体症を基礎にもつ高齢者では症状の増悪因子としての“うつ”の合併に注意を向ける必要がある.

脾動脈塞栓術と東洋医学的ツボ

著者: 石川清隆

ページ範囲:P.521 - P.521

 近年,肝臓癌にPEI(percutaneous ethanol infusion),TAE(transcatheter arterial embolization)などの治療が積極的に行われるようになり,内科でもいわゆる人為的な疼痛をみる機会が多くなってきた.
 私の患者さんはC型肝硬変から肝臓癌を発病し,著明な脾腫を伴った血小板減少の強い(血小板2〜3万/μl)例であった.肝臓癌のほうはTAEを何度か施行し,特に合併症もなく順調に推移していたが,胆石からの疝痛発作を繰り返し,当時(平成2年頃)は腹腔鏡下の胆摘術もなく,血小板を何とか増加させてから手術にもって行くことになった.そこで,脾動脈の経皮的塞栓術を施行した.2分の1程度の脾臓梗塞になったが,その後の脾臓の部位の疼痛にはひどいものがあった.インダシン,ソセゴンなどの鎮痛剤を使用したが,なかなか抑えきれず,東洋医学的な治療も試みることとした.耳のツボを検察したら,脾臓点といわれる部位に著明な圧痛を訴え,またそこに体表電位の低下を認め器械が反応した.

多発性嚢胞腎に伴う脳動脈瘤

著者: 中山大典

ページ範囲:P.531 - P.531

 症例は42歳の男性.家族歴では父親が59歳で脳血管障害にて死亡.平成2年2月,胸痛あり,E病院で入院加療.狭心症といわれ,その後外来通院.12月,咳痰あり当院へ受診.肺炎,高血圧症で加療.平成3年2月,狭心症の診断のためT病院へ紹介入院.冠動脈造影を施行するも異常なし.3月,腹部超音波検査で多発性嚢胞腎と診断.腎結石と腎出血もみられた.その後受診せず.7月,めまい,頭重感あり受診.血圧160/100.脳神経学的に異常なかったが,脳動脈瘤の合併を疑い,脳神経外科へ紹介.MRAを施行し,中大脳動脈瘤が疑われた.10月,脳血管撮影施行.右中大脳動脈瘤ならびに左内頸後交通動脈瘤の診断.11月,T大学病院にてclipping手術施行.以後降圧療法施行.平成4年,風疹,5年,顎下部腫瘍(膠様癌,原発不明),6年,糖尿病併発.糖尿病,高血圧のコントロール良好であったが,7年4月11日未明,頭痛を訴え,昏睡となり翌々日死亡.頭部CT所見では,脳室穿破を伴うくも膜下出血であった(脳血管写未施行).
 本例は,多発性嚢胞腎に合併した脳動脈瘤が破裂前に発見でき,首尾よく手術ができたが,数年後くも膜下出血にて死亡した.

気管支喘息診療のpitfall

著者: 兼松隆志

ページ範囲:P.536 - P.536

 呼吸器外来の主要疾患の一つである気管支喘息診療のpitfallとして自験例2症例を報告します.
 症例1は,1989年に淀川キリスト教病院勤務時の症例で,31歳の女性.喘鳴と微熱を主訴とし,同院の一般内科で約4カ月間,気管支喘息と気管支炎で通院治療を受けていたが,増悪したため入院.筆者が主治医となった.胸部の聴診上,確かに両肺野にdry raleを聴取したが,胸部単純写真上,肺野は正常,しかし左主気管支に全長にわたる狭窄を疑い,断層写真を撮ったところ,同部位に著明な狭窄を認めた.気管支鏡では,気管分岐部から左主気管支にかけ,発赤,浮腫,狭窄,白苔著明で,気管吸引液から多数の抗酸菌を検出した。その後,14ヵ月間でさらに2例,やはり左主気管支の気管支結核を経験し,第36回日本胸部疾患学会近畿地方会で報告した.文献上,気管支結核は咳症状出現後確定診断に至るまで6〜9カ月の長期を要していた.

FISH法による骨髄生着確認

著者: 塩崎宏子

ページ範囲:P.542 - P.542

 私は北関東の一角で白血病と向かい合っている.総勢5名のスタッフで,約50床の,白血病を主とした血液疾患患者をかかえ,毎月1〜2例の骨髄移植を行っている.
 骨髄バンクの発足もあり,骨髄移植は名実ともに普及し,その技術・成績の向上は,日進月歩の勢いである.今や白血病の治療は骨髄移植なしには語れなくなった.

いったん寛解に入った胆嚢癌の全身転移例

著者: 大本晃裕

ページ範囲:P.549 - P.549

 以前私が経験した忘れられない症例をご紹介します.患者は34歳の女性で,某医より全身のリンパ節腫脹の精査目的で平成3年8月当科入院となりました.入院時すでに黄疸と全身の骨痛も認めました.全身の表在リンパ節はるいるいと腫脹し,生検により腺癌のリンパ節転移と判明しました.さらに全身検索により原発巣は胆嚢であり,肝臓,骨,骨髄への転移も明らかになりました.アドリアマイシン,5-FUによる化学療法に著明に反応し,自覚症状は消失,一時10.6mg/dlあった総ビリルビン値も5.3mg/dlまで低下し,本人,家族の希望を酌んで前医にお返ししました.その後もさらに改善し,検血,画像上も全く異常が認められなくなりました.当科入院時3,173.0ng/mlもあったCEA値も3.0>ng/mlとなったということです.前医の担当医もこれには驚き,私のところへ何度も問い合わせの連絡をくれたほどです.
 同年11月に退院となり,外来で加療ということになりましたが,残念なことに,余りにも体調が良いためか,家族や担当医の再三にわたる説得も振り切り,通院をやめてしまいました.

特異な経過をとった2例の肺癌

著者: 堀川博通

ページ範囲:P.569 - P.569

 肺癌のみならず,癌により不幸な転帰をとらないためには,一次予防のほか定期的癌検診による早期発見と早期治療が必要であるとされている.ところが,最近,無治療でも患者は無症状で経過する肺小細胞癌と,癌検診で早期発見は困難と思われる肺腺癌の対照的経過をとった2例の肺癌を経験した.
 第1例(66歳,男性)は定期検診で右肺上葉S2に3.0×2.5×2.0cm大の腫瘤状陰影が見つかり(1年前異常なし),入院精査の結果,肺小細胞癌の診断(T1N0M0,stage I期)となり,化学療法などが選択されたが,患者が治療を拒否し退院した.以降,無治療下で定期検査を行い,3年10ヵ月後の現在まで腫瘍は発育・増大しているが無症状で,PS0を維持している.胸部X線上,腫瘍は1年(4.5×3.8cm),1年6カ月(2.4×3.0cm),2年(3.0×3.0cm),3年(7.0×6.0cm),3年10カ月(9.0×8.0cm)と一時期縮小し,その後増大傾向をとっている.

脚気心による心不全・ネフローゼの一例

著者: 内藤真礼生

ページ範囲:P.593 - P.593

 卒業して早や11年目になり,現在豪州メルボルン大学に留学し,研究生活を送っております.大学病院,一般総合病院などでの臨床経験を通じて,印象に残った症例の一つを今回ご報告します.
 症例は20歳の男性で,主訴は労作時呼吸困難,全身浮腫です.14歳時にネフローゼ症候群(IgA腎症)がありましたが,寛解していました.1985年12月より主訴を認め,1986年1月,当院(慶應義塾大学病院)を受診し,心不全と診断され入院となりました.血圧190/130mmHg,脈拍112/分で,III音聴取し,心胸比69%と著明な心拡大を認めました.入院時の検査所見では,血沈18mm/時,尿蛋白3+(8.4g/日),末梢血,凝固系正常,総蛋白5.9g/dl,BUN 12.4mg/dl,クレアチニン1.2mg/dlとネフローゼ状態で,心エコーではびまん性の左室の拡張と運動能低下を認めました.一般的な心不全の治療(安静,減塩,利尿剤投与)で,浮腫の軽減,自覚症状,ネフローゼ所見の軽減を認めましたが,依然として心胸比は57.8%と大きく,高血圧も持続したため,心筋症なども考え,心カテーテル検査も施行したという症例です.

消炎鎮痛剤が効果的であった不安定狭心症

著者: 中瀬恵美子

ページ範囲:P.599 - P.599

 47歳の全身性エリテマトーデス(SLE)の既往を有する女性が,安静時・労作時ともに頻発する胸痛のために入院となった.心電図でI,aVL,V1〜6にて陰性Tを認め,前壁から側壁にかけての虚血状態が示唆された.血液検査では血沈90mm(1h),CRP5.9mg/dl,抗核抗体160倍,抗DNA抗体(RIA)23U/ml,LE細胞(+),WBC 2,500/mm3と免疫学的にSLEの活動性が高まっていた.入院後亜硝酸薬の点滴酸素吸入を行い,胸痛は軽減したが完全には消失しなかった.臥床による腰痛のために,非ステロイド系抗炎症剤(坐薬)を用いたところ,安静時胸痛は完全に消失した.第4病日に抗核抗体は80U/mlに低下したため,副作用を考慮しステロイド剤は使用しなかった.炎症所見が改善した後,選択的冠動脈造影(CAG)を施行した.左前下行枝#6に90%狭窄(smooth tapered stenosis)を認めた.左室造影にて壁運動異常は認めず,心筋生検にて心筋炎は認めなかった.#6に対して経皮的冠動脈形成術(PTCA)を施行し,良好な拡張を得た.約3カ月後のCAGで再狭窄は認めず,エルゴノビン負荷にても冠攣縮は認めなかった.

Wegener症候群の治療中に出現した結節影

著者: 黒木茂高

ページ範囲:P.602 - P.602

 胸部X線で見つかった腫瘤影が経過とともに縮小した場合,多くの例では炎症像の修復過程として経過観察のみで十分である.しかし,時には十分な精査をして治療が必要な場合がある.
 約10年ほど前に苦い経験をした症例を紹介する.70歳台の男性で,発熱ならびに胸部X線で左舌区右上葉の斑状・浸潤影の精査にて入院し,開胸肺生検で肺限局型のWegener症候群と診断された.プレドニゾロン,サイクロフォスファミドが投与され,臨床症状ならびに胸部陰影は著明に改善した.しかし,治療開始後約3カ月目の胸部X線で,右肋骨横隔膜角に淡い直径約2.5cmの,ほぼ円形の辺縁が整の結節影が出現した.陰影周囲には,散布巣はなく,血液検査でも炎症所見はなかった.新たに出現した陰影がWegener症候群の増悪にしては,臨床症状,検査所見が合致せず,経過が早いことより,炎症性疾患,偽リンパ腫,BOOP(bronchiolitis obliterans with orqanizing pneumonia)などを考え,経気管支肺生検をする目的で約2週間後に入院された.

印象に残った肺塞栓症の一例

著者: 田中里香

ページ範囲:P.607 - P.607

 症例は43歳の女性.職業はデパートのアナウンス係で,座位でいることが多い.昭和61年に子宮筋腫を指摘され,貧血と下腿浮腫のため近医で鉄剤と利尿剤を投与されていた.平成2年6月19日夜,布団を敷こうとして突然胸の重苦しい感じを自覚.そのまま就寝し,翌日自転車で会社へ行く途中,眼前暗黒感,次いで意識消失発作が出現した.救急車到着後意識は回復したが,その後軽労作で動悸,呼吸困難が出現するため,翌21日,当院外来を受診した.
 来院時,血圧120/80mmHg,脈拍120/分,体温37.1℃,眼球結膜貧血様,心雑音はなく心音のII p亢進,II音分裂を認めた.肺野は清,両下腿に浮腫,右大腿と下腿に静脈瘤を認めた.検査所見はHb 8.8g/dl(小球性低色素性貧血),Fe 15mg/dlと鉄欠乏性貧血の所見以外は生化学データもすべて正常.動脈血ガス分析では,PaCO2 24torr,PaO2 45.3torrと著明な低酸素血症を認め,胸部X線では左第2弓突出,両上肺野の透過度亢進,心電図では不完全右脚ブロック,右側胸部誘導でのT波陰転など,右心負荷所見を認めた.

しびれ

著者: 李宗泰

ページ範囲:P.609 - P.609

 内科の外来診察で,特に老人から頑固なしびれを訴えられることは誰もがよく経験することと思います.“両足がしびれて中腰になれない”とか“右手がしびれて物が持てない”などと訴えてきます.これらのしびれが,整形外科的にヘルニア,靱帯硬化などによる神経根の圧迫による症状であった場合,手術による減圧術が根治療法になるのは勿論ですが,一般的に老人の場合,むしろ手術適応とならないことも多いのではないでしょうか.忙しい外来であればあるほど,“たかがしびれだから”と考えがちですが,患者さん本人にとってはかなり深刻である場合もよくあり,実のところ,内科医としてはこのようなしびれにはほとんどお手上げの状態であるのも事実です.
 このような場合,私は根治ではなく,症状をとるだけと患者さんに説明し,抗てんかん薬であるリポトリール(0.5mg)と四環系抗うつ薬であるテシプール(1mg)を同時に1日1回から3回まで症状にあわせて処方することがあります.患者さんにもよりますが,効果は劇的である場合が多く,投薬翌日から全くしびれがなくなることもしばしばです.

高齢糖尿病患者に合併したBasedow病の症例

著者: 加藤雅彦

ページ範囲:P.611 - P.611

 慢性疾患を長期にわたり外来で診ていると,様々な疾患の合併に出会います.Basedow病もその一つで,典型的な症例では問診と理学所見のみでほぼ診断できるのですが,高齢者でははっきりとした自覚症状がなく,偶然の検査によって見つかることもあります.最近,私が経験した高齢糖尿病患者に合併したBasedow病の2例を紹介します.
 症例1:65歳,男性.約30年の罹病歴の糖尿病患者.インスリンで治療していたが,夜間低血糖を起こすため当科入院となる.血糖日内変動にて朝食前111mg/dlが食後2時間で413mg/dlと極端な上昇がみられるため,甲状腺ホルモン検査をしたところT3,T4の高値とTSH低値がみられた.TRAb,シンチグラフィーの結果よりBasedow病の診断となった.3カ月で5kgの体重減少があったが,頻脈,発汗過多はなかった.入院後の脈拍は70台/分で,入院時心電図は正常洞リズムで不整脈はなかった.甲状腺腫大もなかった.家族歴は母親がBasedow病だった.

牛乳飲用後の胸腔ドレナージ排液の白濁で確診した特発性食道破裂(Boerhaave症候群)

著者: 吉永恭彦

ページ範囲:P.613 - P.613

 ある日曜日の朝,58歳の男性が胸背部痛を主訴にプレショック状態で救急入院となりました.後で患者に聞けば,深夜2回の嘔吐に続いて左胸背部痛が突発したとのこと,この疾患としては典型的な発症の仕方です.前医の胸部X線とCTで左胸腔内に多量の液体貯留があり,直ちに胸腔ドレナージを開始しました.
 

診断に苦慮した不明熱の一症例

著者: 小原直

ページ範囲:P.615 - P.615

 不明熱の原因を探索するとき,患者の病歴や症状および検査データの関連性について時々診断が困難な症例に遭遇することがある.
 症例は54歳の女性.主訴は発熱,咽頭痛,右肩関節痛である.既往歴では40歳時に左乳癌手術を施行.1994年3月下旬より,39℃台の発熱と咽頭痛,右肩関節痛があり,外来でインフルエンザとして内服抗生剤投与および消炎鎮痛剤を処方されるも改善せず,白血球数20,000/μl以上だったため精査目的で入院となった.

心不全,心房細動で入院中に腹痛,血便をきたした症例

著者: 児玉秋生

ページ範囲:P.617 - P.617

 病気を早期に発見し治療することは,どの疾患においても大切であるが,迅速な対処により後遺症なしに治療できた8年前の印象深い症例を紹介する.症例は62歳の女性.動悸,息切れを主訴に心不全,心房細動の診断で2月9日入院した.理学的には下肢に軽度の浮腫を認める以外異常所見は認めなかった.入院時の胸部X線写真では心拡大と軽度のうっ血,少量の胸水を認め,心電図では心房細動を認めた.心エコーでは軽度の僧帽弁狭窄症と大動脈弁狭窄症を認め,左室の収縮は全体に軽度の低下を認めたが左房内血栓は認めなかった.心房細動および心不全に対し少量の利尿剤,ジゴキシン,リスモダンを投与したところ,心不全は比較的速やかに改善し,心房細動も2月16日には洞調律に戻った.2月27日より再び心房細動となり,3月3日午前1時7分洞調律に戻った.同日の午前9時40分,突然臍周囲の激しい腹痛が出現し,嘔気,嘔吐あり.冷汗も伴っていた.

胆道鏡までの4カ月

著者: 井上裕彦

ページ範囲:P.621 - P.621

 当院は播磨平野の田舎にあり,総胆管結石症例が多い.ここへ化膿性胆管炎の80歳の女性が紹介入院.血圧 62/20mmHg,体温 38.6℃,WBC 10,200μl,Plt 34,000μl,CRP 15.8mg/dl,総ビリルビン 3.6mg/dl.バイタルサイン悪く高齢でもあり,経皮経肝胆道ドレナージを施行.5日後,内視鏡的乳頭切開術を行い,総胆管結石除去を試みた.しかし,直径6cmの結石によって総胆管が完全に閉塞されており,ガイドワイヤーが肝内胆管へ入らない.1カ月後,MRSA敗血症を経て小康となり,胆管造影をすると,石は5cmくらいに縮小しており,これは内視鏡的砕石術可能と考えた.
 しかし,4人の子供を女手一つで育て上げ,頑固で,自分を中心に世界が回っていると考えている人であった.内視鏡はえらかったから2度とのまないと言い張る(確かに非常に時間がかかった).おまけに,息子は病院内でサングラスをかける性格の方で,廊下でどなり散らし,もっと楽な方法でやれとおっしゃる.そこで,胆道鏡を考えた.しかし,そのためにはドレナージチューブを次々と太い口径へ入れ替えなければいけないし,2カ月は必要である.

最近の最も印象に残った出来事

著者: 渡辺文子

ページ範囲:P.627 - P.627

 癌告知をした.正確にいえば,癌再発の告知である.その患者さんは医療従事者で,すでに20年近く闘病生活を送ってこられた.原発部位の手術,化学療法,社会復帰,そして10年以上を経て局所再発した.放射線療法,化学療法に次いで再手術を受け,3カ月に及ぶ機能訓練を終えて退院間近での肺転移発見であった.
 初回の治療も局所再発時も,ご自分の病気について理解しておられたとはいえ,「肺転移がきたらもうおしまいだな」と日頃もらしていたことを知っていただけに,事実を話すことはためらわれた.外科系の主治医と何度も検討し,結局ありのまま伝えることにした.こちらの心配をよそに,患者さんのほうがはるかに落ち着いて受けとめられ,そして驚いたことに,その後も治療に積極的であった.胸部外科に相談してほしい,可能性があるなら手術を受けたいなどなど…….

S君のこと

著者: 大井宏夫

ページ範囲:P.629 - P.629

 S君は18歳.その年の3月下旬に就職のため郷里の青森から上京.会社の寮に入って研修を受けている最中であった.4月4日に肛門周囲痛を訴え本院外科を受診し,肛門周囲膿瘍の診断で外来で切開・排膿術を施行されたが,その日の夕刻より意識障害が出現し夜間緊急入院となった.168cmで70kgのやや小太りの体型の彼は特別な既往歴もない様子であり,当直医は「精神疾患の疑い」と初期の診断を記載している.
 翌朝の緊急検査の結果はglucose 1,416mg/dl,Na 161 mEq/l,尿中ケトン体(+++)であった.大量輸液とinsulinの併用で,速やかに血糖値は200mg/dl台に低下し,意識状態の改善を見たが,翌日の検査の結果はさらにGOT 909IU/l,LDH 5,944IU/l,CK 86,600IU/lという新たな問題の合併を示していた.

数年にわたり皮下にリンパ腫様病変をきたす一症例

著者: 坂井晃

ページ範囲:P.634 - P.634

 症例は現在80歳の女性であるが,数年前から1年に1回程度の割合で顔面,前胸部に皮下腫瘤が出現する.特に症状もなく,血液検査でも異常を認めない.生検ではpseudolymphoma,Castleman病(リンパ節に高度の形質細胞の増生を認める慢性炎症性疾患),ALH(atypical lymphoid hyperplasia)などと診断された.ALHと診断されたときの増殖しているB細胞にはmonoclonalityは認めず,Epstein-Barrウイルス(EBV)感染も疑い生検材料からのDNAを用いて検索したが陰性であった.また,一時プレドニンで治療されたこともあったが,病変は局所のみであり,生検後は経過観察された.さらに80歳になって原因不明の胸水貯留が出現,細胞診では悪性細胞は認めず,細胞表面マーカーの検索ではCD 4陽性のT細胞が優位に増加していた.この胸水貯留に対してはプレドニンの投与が有効であった.このように,本来リンパ節のある部位以外に節外性のリンパ球増殖を繰り返す興味ある疾患である.

夜10時の訪問者

著者: 野村勉

ページ範囲:P.636 - P.636

 症例は70歳の女性.主訴は心窩部痛.
 既往歴では73歳で腹膜炎.

肝硬変には頭部MRIを

著者: 桑原直昭

ページ範囲:P.638 - P.638

 画像診断の進歩は各種疾患にその応用範囲を広げてきています.肝疾患では主に肝臓自体に対する画像診断を中心に論じられてきていましたが,肝性脳症に対しての画像診断も行われるようになってきています.肝性脳症では頭部MRIのT1強調画像で左右対称性の大脳基底核部位の信号強度の増強が特徴的所見とされています.しかし,明らかな肝性脳症がない慢性肝疾患患者でもこの所見が認められます(図1,2).
 筆者らの施設では明らかな肝性脳症のないウイルス性肝硬変症の59.2%でこの所見が認められています.一方,慢性ウイルス性肝炎,急性肝炎重症例では変化が認められません.潜在性肝性脳症の診断は精神神経機能検査などが用いられてきていますが,時間的制約もあり,なかなか外来で検査しにくいのが現状です.しかし,この検査ではある程度客観的な判断ができ,今後ますます重要になっていくと思われます.

書評

—萬年徹・宮武正監訳—メリット神経病学 第3版(原著第8版)

著者: 柳原武彦

ページ範囲:P.85 - P.85

 本書の英文原著は1955年に故HH Merritt教授により“Text book of Neurology”として初版が出版されて以来,米国の代表的な神経学の教科書として広く親しまれ,現在第8版に至っている.初版から第6版まではMerritt教授がみずから手を下されたが,その後LP Rowland教授を編者として引き継がれ,1989年に出版された第8版はコロンビア大学のニューヨーク神経研究所で両教授の薫陶を受けた70人以上の神経学者,神経学専門医を中心に執筆されている.
 この第8版では前版までに広く記載のあった脳血管障害,中枢神経変性疾患,脱髄性疾患,神経系腫瘍,感染症,てんかん,末梢神経障害,筋疾患に新しい知見が加えられ,最近日本でも問題となってきているエイズに関しても,その神経系に見られる症候や合併症の記載がみられる.欧米では近年,悪性腫瘍に関連した神経疾患が臨床の場で鑑別診断の一つとしてよく問題になるが,この版でも傍腫瘍性症候群などに最新の知見が記載されている.また,神経系に数多くある遺伝性疾患についても,リソゾーム病のように代謝異常の確立されているものについて,その異常が詳細に記述されている.

—木村健監訳 谷口友志・佐藤貴一訳—ヘリコバクター・ピロリ感染症

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.90 - P.90

 1994年2月,NIHがだした消化性潰瘍に対するH.pyloriの除菌の勧告声明は,わが国に大きな衝撃を与えた.それまでは,多くの製薬メーカーが躊躇していたH.Pylori除菌による再発防止の治験も,にわかに現実のものとなりつつある.胃癌との関連が濃厚であるとなれば,マスメディア・国民の関心も極めて高くなるのも当然のこと.
 最近では,消化器の学会や研究会でも,H.pylori会場はむねに満席だ.製薬メーカーの講演会でも特別講演の主題がH.pyloriだと,必ず大入り満員となる.現につい先日のことであるが,木村健教授が「ヘリコバクター・ピロリと胃炎」という題で,某ホテルで特別講演したときも,1,000名を超える入場者があって,インターフェロンの登場の前夜を思わせるような熱気がこの列島に渦巻いていることを証明した.

—川井啓市編 井口秀人・清水誠治編集協力—胃—形態とその機能 第2版

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.117 - P.117

 この度,川井啓市先生ほかの方々の編集・執筆による著書「胃-形態とその機能(第2版)」が上梓の運びとなった.第1版から役立つ参考書として利用させていただいたが,もう20年近くたったので,改版されたらどうかなと思っていたところへの第2版の出版である.早速,拝読させていただいた.
 本書第2版にはいくつかの特徴がある.第1版では内容の一貫性を重視した結果,内容は優れていたが,執筆者が限られていた.しかし,第2版では,著しく進歩したこの分野の知識を十分に盛り込むため,日本全国の各分野の第一人者の方々が執筆されている.その結果,胃の形態と機能に関する辞典にも等しい,豊富で,かっ新しい内容が記載されている.次に“胃-形態とその機能”の表題に合致するように,第1版からの主旨を貫き,胃および胃に関連する十二指腸の形態と機能のみに焦点を絞り,胆道・膵に関連する十二指腸の形態と機能については割愛されているので,本書の目的が明らかで,大変理解しやすい.

—日野原重明監訳—学生のためのプライマリケア病院実習

著者: 吉岡守正

ページ範囲:P.132 - P.132

 大学病院での卒前卒後を通じて縦割の風習が根強く残っている.本書にはそのような現状に少しでも横並びの初期研修の模を打ち込みたいという若い医師たちの強い意欲が感じとられる.
 知識はもちろん必要であるが,臨床では経験を欠くことはできないという彼らの体験を生かして,医師を目指す学生の夢を実現するためには,既存のレールに乗っかることで妥協する以外に,いろいろな手だてがあるということを,学生の立場に立って手際よく纒めているのが特徴と思われる.なかでも第3章の「学生のための臨床的見識(臨床の力)」は,病人に接する態度として最小限要求される事柄を説得力をもって記述している.これらの態度は対病人だけでなく,不特定多数の人々を相手にする職業人ならぜひ身につけてほしい資質である.医学生であっても,低学年のうちから実践の場で学ぶ機会が増えてきており,その際には非礼は許されるべきでない.どのように振る舞えばよいかは知識として記憶しているだけでは実際にはうまく使えず,何度も使用してみる機会を持って(体験して)初めて生かすことができるものである.その意味で,医学部の教育カリキュラムに体験の時間を有機的に配置することが好ましい.

—岡本平次著—プラクティカルコロノスコピー—挿入手技から治療まで

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.177 - P.177

 わが国における大腸疾患の増加は著しいスピードで進んでおり,減速の兆しはない.その予防もさることながら,各種疾患の早期診断・早期治療がますます重要になってきた.周知のごとく大腸疾患の診断法には注腸造影検査と大腸内視鏡検査があるが,従来は注腸→内視鏡の順序で検査が行われてきた.しかし,検査件数の著しい増加に伴い,より効果的な検査システムを確立することが必要になってきた.すなわち,注腸造影検査で異常があれば再度内視鏡検査を行うという二重検査の無駄を省いて,最初から大腸内視鏡検査を行うという方法である.その実現のためには,安全かつ確実に盲腸まで挿入する技術を持った内視鏡医の養成が急務であることはいうまでもない,本書の著者岡本平次氏は早くからその必要性を説き,自らそれを実証してきたわが国におけるコロノスコピストのパイオニアとしてつとに有名である.本書は氏自らの経験を通して,一人でも多くの大腸内視鏡検査のエキスパートを育て,社会のニーズに応えようという情熱から生まれた好著である.

—市川平三郎監修,吉田裕司著—胃X線撮影技術の基礎と応用

著者: 馬場保昌

ページ範囲:P.184 - P.184

 本書は「胃X線診断の考え方と進め方」(1986年刊),「胃X線診影の基本と実際」(1989年刊)に続いて出版された第3作目の著書である.既刊の著書を読まれた方々には待望の書である.
 本書の内容はルーチン撮影と精密撮影に大きく分かれており,それぞれについて,①撮影の考え方,②撮影の基本,③撮影の実際,が詳細に述べられている.これまでの吉田氏の著書を見てもわかるように,経験に頼るだけでなく,しっかりした検査・診断の論理的背景があるから説得力がある.掲載されている写真は,意図的に原版に近い状態で掲載されているので親しみを覚える.

—西俣寿人・西沢護著—胃X線診断ブラッシュアップ—撮り方・読み方・考え方

著者: 土井偉誉

ページ範囲:P.221 - P.221

 ぜひ知っておいてほしい本書の特徴を最初に述べておく.第一にお2人の著者が消化管X線診断の名人であると同時に内視鏡専門医であり,病理組織学にも造詣の深い臨床医であることである.西沢氏は小生にとって,千葉大学第1内科で白壁研究室の先輩,西俣氏は鹿児島大学の政先生の弟分であり,ともに白壁先生の診断哲学を受け継いでおられる.本書の記述は西沢氏がテーマ提起,西俣氏が本音でそれに応える形式である.お2人の経歴を知る小生にとっては,特に感慨深く,まさに「ブラッシュアップ」である.同じ専門領域の対談では,得てして「遠慮と照れ」が潜在し,期待が裏切られることが多いのであるが,本書では見事に「プロの真髄」を伝えている.
 第二の特徴は,初心者向きではないことである.うわべだけを読まれたのでは本書の意味が薄れてしまう.少なくとも,ある程度胃X線診断の経験を積んだ人に読んでいただきたい.掲載されている写真はマスターピースの供覧ではなく,現場での実例であり,質の良い写真,良くない写真が混在しているが,それぞれの写真の成り立ちと診断上の意味が解説されている.

—伊藤直樹監訳/中村記念病院神経内科訳—やさしい神経診察

著者: 山本悌司

ページ範囲:P.231 - P.231

 片麻痺があるが,意識障害の程度はどのくらいかなどの神経学的所見は,神経系が専門でなくても容易にとることができる.しかし,失語・失行症などの高次脳機能の評価,神経眼科学的所見の取り方,運動・感覚障害の局在診断などは神経診断学をある程度修めなければ難しい.しかし,臨床神経学の面白さは,これらを理解することによって倍増してくるし,神経所見のしっかりした評価ができて,初めて神経内科医,脳神経外科医などの専門医としての存在意義も増してくる.
 本書は,神経学的所見のとり方を手引きした英国学派の書を伊藤直樹先生のグループが翻訳し,小冊子版,約250ページ,簡易装丁にしたものである.タイトルからは,学生,一般医向けと思われがちである.しかし,内容は実用的でありながらかなり高度な内容である.豊富なフローチャートとイラストを含み,病歴の取り方から言語,脳神経,運動,知覚,自律神経系までの神経学的診察法を網羅している.特にフローチャートは診断上の鑑別点を明らかにするよう十分な配慮のなされているものである.これはビジュアルに鑑別診断への思考過程を理解でき,秀逸である.

—戸田剛太郎・大原毅編—NIM消化器病学 第4版

著者: 磨伊正義

ページ範囲:P.258 - P.258

 この度,NIM Lecture seriesの一つとして戸田剛太郎,大原 毅両教授の編集による「NIM消化器病学(第4版)」が医学書院から出版された.
 最近の医学の進歩は著しいものがあり,なかでも分子生物学,特に遺伝子工学,サイトカイン,癌抑制遺伝子をはじめとする様々な生理活性物質の発見とその同定は各種疾患の病態に迫るものであり,教科書の少なからぬ部分が書き換えられようとしている.消化器病の分野も例外ではない.

—佐藤達夫訳—ペルンコップ臨床局所解剖学アトラス 第3版 第1巻 頭部・頸部

著者: 児玉公道

ページ範囲:P.293 - P.293

 本書はWemer Platzer編集“Pemkopf Anatomie,Atlas der topographischen und angewandten Anatomie des Mensdhen”第3版(全2巻)の日本語版「第1巻頭部・頸部」である.第1版は小川鼎三,石川浩一両氏が,第2版では佐藤達夫氏が加わり,今回は佐藤達夫氏が単独で本書の歴史を引き継いだ.各版はそれぞれ異なった特徴を持っているとはいえ,原著は1937年から1960年にかけて刊行されたEduard Pernkopfの名著“Topographischen Anatomie des Menschen”に求められる.全4巻7冊からなる大著は20世紀の代表的な古典であるが,今日でもわれわれ解剖学者を圧倒するばかりでなく,臨床医家の最も頼りになる局所解剖学書の1つである.“書物にも運命がある”と言われるように,軽く視覚に訴える現代の歴史的背景のもとでも,本書の存在価値は決して損なわれることはない.否,むしろ臨床局所的に人体を捉らえることが一層求められている現代,本書の価値は一層輝きを増している.では本書が今日でも己の運命を世に問うことができる根拠は何か.

—永井純編著—腹部単純X線診断 第4版

著者: 川原田嘉文

ページ範囲:P.315 - P.315

 近年の画像診断機器の進歩は著しいものがあり,US,CT,MRIなどにより疾患の早期診断,治療の向上に大いに貢献してきています.しかしながら,以前に比べ腹部単純X線写真の有用性はいささか軽視されがちであるような気がしますが,臨床の場で最も必要で,数多く目にするのは,依然これら腹部単純X線写真であることに変わりはありません.さらに急性腹症などで患者の一般状態が不良な場合,十分な時間をかけて種々の検査法を駆使することはできず,最小限の検査で治療方針を立てなければならない状況に遭遇することがしばしばあります.その際,単純X線写真は必須の検査であり,それよりいかに多くの情報を得るかはその読影力に頼るしかないのです.
 筆者は米国にて6年余の間,レジデントとして研修を積んだ時期がありましたが,その際,いろいろな専門家が一堂に会して1つのテーマについて議論する合同カンファレンスなどにおいて,画像診断の読影力の重要性を痛感したものでした.

—於保健吉・松川和世著—気管支鏡検査ハンドブック

著者: 松岡緑郎

ページ範囲:P.324 - P.324

 実にコンパクトに良くまとまっている本である.著者らは序の中で「本書は気管支内視鏡の初心者,研修医,気管支内視鏡診療をサポートするコ・メディカルの諸兄姉に正しい基礎知識をもっていただくように纏めた本である」と述べているが,その内容は実に詳細多岐に及び,気管支鏡指導医の必読書と言っても過言ではないであろう.
 全体は23章に分かれているが,その半数近くを機種や光源の取り扱いに当てている.特に電気系統が複雑なビデオシステムによる気管支ビデオスコピーの取り扱いは,使用する人の立場で微に入り細に入り記載してあり,その表現は具体的であり,説明書より理解しやすいものとなっている.

—北原光夫・上野文昭編—内科医の薬100—Minimum Requirement

著者: 青木眞

ページ範囲:P.339 - P.339

 私は感染症が専門なので,抗菌薬の部分を中心に書評を書かせていただくことにした.
 通常,病院予算の半分を占める抗菌薬は,本書の中では26種類,全体のおよそ1/4を占める.この26という数は,私が前の勤務先である聖路加国際病院で採用した抗菌薬の数と似ている.そしてこれは偶然ではなく,米国の一般的な病院では,だいたいどこの施設でも抗菌薬の種類はこのあたりに落ちつき,大学病院なども例外ではない.しかし,必要な抗菌薬の種類が,抗ウイルス薬や抗結核薬などのすべてのクラスを含めて26種類とは,わが国の一般病院がセフェム系だけでも20種類を越える品目を揃えている事実とは非常に対照的である.この違いはどこからくるのだろうか?これを説明するものは,私は基本的に抗菌薬の評価システムの差であると思う.

—永田和宏・長野敬・宮坂信之・宮坂昌之編—分子生物学・免疫学キーワード辞典

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.406 - P.406

 当然のことながら,言葉が通じなければコミュニケーションは成立しない.論文を読んでも講演を聞いても,ほんのわずかばかりの術語が理解できなかったばかりに,内容がいまひとつ納得がいかないような,あるいは何となく未消化に終わってしまったような無念さを味わった経験は,どなたにでも大なり小なりあるのではなかろうか.こういう場合に活用されるのが各種の用語辞典である.
 医学関係の用語辞典もいままでに多種類のものが出版されてきた.しかし,従来の辞典で収録されている用語は,通常その概念が定着し,一般化されているものに限られていることが多い.したがって,新しい用語や概念を調べるには不向きである.しかも,一つの用語を解説するのに使われる字数に制限があるためか,解説の仕方に軽重がなされておらず,用語の由来・成り立ちはもちろんのこと,用語間の関連性や実験の原理・技法の詳細までも知ろうとするには多くの場合,無理である.

—江川寛編—医療科学

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.410 - P.410

 今回医学書院から東邦大学病院管理学・江川寛教授の編集による「医療科学」という本が出版された.“医療科学”という言葉は私たちにとって目新しいものであるが,医学の社会的実践である医療を体系的にとらえ,組み立てていくことを学問的に体系づけることは医療の内容の拡がりを考えると当然必要なわけで,そのような体系を“医療科学”と名づけることに私自身大いに賛成である.
 編者の江川教授が所属されておられるのは病院管理学の分野であるが,本書の中に取り上げられている問題は,医療概論,社会と医療,医療関係法規,医療制度と行政,社会保障と医療経済,医療資源,医療供給体制,医療における医師患者関係,医療情報,医療管理,医療における意志決定,医療評価,と極めて多岐にわたっており,この本の標題である「医療科学」の全分野をカバーしたものになっている.従来,このような分野は公衆衛生関係の本の中で解説されることが多かったが,本書は,従来の公衆衛生学の本の内容よりもはるかに幅の広いものになっており,今までとは違った視点から医療に関する様々な問題を取り上げた新しい形の本といえるであろう.

—瀬尾攝・石川高明監修—産業医活動マニュアル(第2版)

著者: 近藤東郎

ページ範囲:P.428 - P.428

 「産業医活動マニュアル」第2版が上梓された.初版が1991年9月だから,第2版を出すまでに月日はそうたっていない.初版本が大方の読者に好感をもって迎えられた証拠と考えられる.
 さて,本書の内容は在来の記述の全面的改訂,増補に加えて「快適職場」という章を設け,さらに作業関連疾患について詳述している.すなわち,総論に始まって健康管理,環境管理,快適職場の理念と実際,作業管理,労働衛生教育,職場巡視の仕方,有害職場の産業医活動の実際,メンタルヘルス・ケア,健康保持増進と続き,最後に付録として法規および関連機関・施設を載せてある.これらの執筆者の顔ぶれは,大学で教鞭をとっている人から実務をこなしてきた経験豊富な産業医まで,たいへん豪勢である.今の日本で,これ以上の面々を揃えることはなかなか難しい.したがって,書評も気軽に書くのは私にとっては骨が折れる作業である.誉めるのは面映ゆい.すべて同学の仲間だからである.さりとて,けなして済むようないい加減な仕事をする種類の人達ではない.だから,困るわけである.

—多賀須幸男著—パンエンドスコピー—上部消化管の検査・診断・治療

著者: 藤野雅之

ページ範囲:P.437 - P.437

 つい最近まで関東逓信病院で副院長をしておられた多賀須幸男先生が『パンエンドスコピー—上部消化管の検査・診断・治療』を出版された.
 多賀須先生は周知のごとく,食道から十二指腸まで一本で苦痛なく内視鏡観察の可能な,細径前方視内視鏡の開発・普及に心血を注がれたが,この細径内視鏡を用いて関東逓信病院で行った100,000件のパンエンドスコピー(著者は,「一本の器械で食道から十二指腸球部まで一挙に行う上部消化管の内視鏡検査」と定義している)の経験をもとに執筆されたのが,この本である.周到に調査研究された内容が極めて平易な言葉で,理路整然と書かれており,たいへん分かりやすい.

—霞富士雄・大川智彦・坂元吾偉編—乳房温存療法

著者: 阿部光幸

ページ範囲:P.440 - P.440

 がんが不治の病であった時代には,大きな侵襲を伴う治療も,命が助かれば幸いとして受け入れられた.しかし,がん全体の治癒率が50%近くになった今日では,がんの治療は単に治癒率だけでなく,治癒の質が問われる時代になったといえよう.このことは乳癌についても例外ではなく,それどころか乳癌患者のQOLはますます重要な課題となりつつある.
 乳癌の治療法は時代により大きな変遷がある.初期の腫瘍摘除術から乳房切除術,拡大乳房切除術へと向かったが,近年は胸筋を温存する非定型乳房切除術と縮小手術に戻り,最近は,腫瘍部を切除して温存乳房に放射線治療を行う乳房温存療法が世界的に行われるようになった.

—猿田享男・斉藤郁夫・河邊博史・中里優一訳—カプラン臨床高血圧

著者: 日和田邦男

ページ範囲:P.444 - P.444

 昨年春,Kaplan教授の名著“Clinical Hypertension”の第6版が出版された.本書は,日進月歩の高血圧に関する進歩をいち早く取り入れ,世界的レベルにおける最新の高血圧の疫学,病因,診断,評価と治療に関する知識を提供して,世界的に高い評価を獲得している.また,医学はどの分野においても進歩が著しく,一人で一冊の本を執筆し,改訂を重ねていくことは至難の技であるが,それを見事に実現し,成功させているのが本書である.
 現在,高血圧に関する書物は,世界的に見ても専門的な大著であったり,わが国でもその全貌を過不足なく記載しているものがないなど,適当なものが見当たらない.このような状況の中,本年4月,『カプラン臨床高血圧』が原著の出版からわずか1年で医学書院MYWから出版された.しかも翻訳者は,Kaplan教授の高弟の一人である慶應義塾大学医学部内科の猿田享男教授を筆頭に,現在高血圧の領域で活躍されている斉藤郁夫助教授他2人で,Kaplan教授の意図するところを十二分に酌み取って翻訳が行われている.

—多田正大・長廻紘編—老健法大腸癌検診に対応するための大腸検査法マニュアル

著者: 高野正博

ページ範囲:P.478 - P.478

 食生活の欧米化や高齢化が大きな要因となって,男女ともに大腸癌が急激に増加し死因の上位を占めるようにもなった.
 大腸癌は,一次検診として便潜血検査が利用できる,比較的に悪性度が低い,成育が緩やかである,内視鏡あるいはX線で初期のものでも発見しやすい,早期のものは内視鏡などで侵襲が少なく切除できるなどの特徴があり,ある程度進行していても手術による根治性が高いなど,他癌に比して大変集検向きの癌である.したがって,これに対して1992年(平成4年)より老人保健法による大腸癌検診が実施されることとなったことは当を得ているといえる.しかし,国レベルの検診としては初めてのことであり,実際に集検業務に当たる者にとって,集検を開始するに当たって分からぬことが多く,実際に始めてみるとますます疑問点や問題点が生じてくることは想像に難くない.ことに本書でも強調されているように,保健と医療が密に協力し合わねば遂行できない業務である.したがって,かねてよりこのようなマニュアルの出版が強く要望されていた.今回,多田正大,長廻 紘両氏編集による『大腸検査法マニュアル』が出版されたことは実に時宜にかなったことだと思われる.

—高木康行・厚東篤生・海老原進一郎著—脳卒中ビジュアルテキスト 第2版

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.511 - P.511

 脳卒中の図解入りテキストとして定評のある本書の全面増補改訂版である.カラフルな図表をふんだんに取り入れ,CTやMRI診断の必需品である脳の解剖図から機能解剖図,画像上の病変に対応する病理像まで網羅している.神経学的診察法も極めて分かりやすく図説されており,初めて脳卒中患者を診察する研修医でもこれさえ読めば神経学的所見をとることができ,正確な診断に近づけるとともに,その病態生理,病理,予後についての理解ができるよう工夫されている.
 従来の脳卒中のテキストでは疫学,病因,解剖,病理,脳循環代謝,病態生理,検査,診断,予後,治療といった順序で系統的にまとめられたものが多く,専門的に勉強している医師や学会報告時などには有用であったが,第一線の臨床医が実際の脳卒中患者を診察するために勉強する本としては詳しすぎて難解であるきらいがあった.

—平田幸正・繁田幸男・松岡健平編—糖尿病のマネージメント—チームアプローチと患者指導の実際 第2版

著者: 陣内冨男

ページ範囲:P.523 - P.523

 この度,「糖尿病のマネージメント—チームアプローチと患者指導の実際』の第2版が出版された.
 本書は初版からすでに8年を経過しており,その間の糖尿病治療の進歩をさらに追加して出され,糖尿病治療に関する具体例をもった聖書とでもいうべきものと思われる.

—Charles R Scriver, Arthur L Beaudet, William S Sly, David Valle 著—The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 7th ed

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.558 - P.558

 “The Metabolic Basis of Inherited Disease”6版が,今回表題に“Molecular Basis”という言葉が入り,改訂された.本書では,特に遺伝性疾患の分子異常が強調されている.さらに遺伝性代謝疾患の分子異常のみならず,癌など非代謝性疾患の遺伝的背景までも分子レベルで検討されていることが,これまでと大きく異なっている.それに伴い,34の新しいトピックスが追加されている.第6版は1989年に出され,2巻の分冊であったものが,6年後の本版では3巻の分冊となり,ページ数もこれまでの3,006ページから600ページ増加し,参考論文も新しく,1994年のものも引用されている.
 内容に関して目立った点は,Part 1の前に50ページにわたって遺伝性疾患の遺伝様式,頻度,遺伝子座,遺伝異常が表にまとめられ,極めて分かりやすくなっている.さらにPart 1は大幅に改訂され,特に遺伝子組み替えを用いた遺伝子解析の戦略および遺伝子治療の可能性が概説されている.さらに圧巻は,ヒト遺伝子の遺伝子地図が110ページにわたって収録されていることであり,第6版に比べ約2倍の量となっている.

—平田結喜緒監訳—レジデントのための内分泌学

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.577 - P.577

 内分泌学は一般内科医にとって,必ずしも親しみやすい領域ではないようである.それはホルモンに関する一定の基礎知識を必要とすること,病気の診断にあたって煩雑な負荷試験を必要とすることが大きい理由であろう.研修医の中にも内分泌学は苦手であるという人が少なくない.負荷試験ばかりでは興味が持てないのは,むしろ当然であり,これには指導する側の責任もあるであろう.内分泌学の特徴である理論を重視するあまり,プラクティカルな立場を失いがちになってしまうからである.
 この度翻訳,出版された“レジデントのための内分泌学”は,実用性を重んじた,いかにもアメリカらしい書物である.デューク大学のW.M.バーチ準教授が著者で,東京医科歯科大学の平田結喜緒助教授らのグループが翻訳されたものである.内科を研修中のレジデントが日常の臨床で遭遇する主要な内分泌疾患が取り上げられている.頻度の多いものにページを割き,頻度の少ない疾患はやや簡単に書かれている.“インポテンス”や“多毛症”が1つの章で取り上げられているのも,いかにもアメリカらしい.“インポテンス”はアメリカの内分泌外来では,しばしば主訴となる疾患であるが,日本ではこれを主訴としてくることは少ない.

—Churg J, Bernstein J, and Glassock RJ 著—Renal Disease—Classification and Atlas of Glomerular Diseases(2nd ed)

著者: 重松秀一

ページ範囲:P.591 - P.591

 初版が出るまでに8年を要した本書には,その分類や腎病変の記載の仕方を全世界で通用するものにするという目的のため,それなりの討論が必要であったとのことである.幸いにして初版の意図は日本でもおおむね受け入れられてきた.今回の改訂では1982年以後の腎臓病学の発達の中での新しい概念も加えて加除が行われた.編集者の2/3が若手に替わってこの作業がなされている.

—青野敏博編—産婦人科ベッドサイドマニュアル 第2版

著者: 坂元正一

ページ範囲:P.597 - P.597

 徳島大学青野敏博教授編集のマニュアルが,初版発行後3年にして早くも第2版刊行となった.白衣のポケットに入る約440頁の内容がビニールコーティングの半ハードカバーにつつまれて誠に取り扱いやすく読みやすい.こうした本は,ベッドサイドでちらりと見て,必要にしてかつ十分なinformed consentや診断・治療が行えるよう,自らの知識の再確認をするのに使うものである.覚えきれない程の,あふれる最新の医学情報から抽出した臨床マニュアルであること,研修医が使いこなせること,そしてその教室なりの方針が貫かれていることが大切で,教科書のように詳しい必要はない.初版が出たときは,すでにそのような特色を備えているのに感心して青野教授に直接アイデアを伺ってみたことがある.もともと教室私家版であったものをもとに,医局員,関連病院医師の希望を入れ,5つの領域について5〜35個の合計81項目を選び,毎週月曜のスタッフミーティングで深夜まで討論し推敲を重ねたという.なるほど“こなれている”わけである.しかも,ギラギラした押しつけがない.内容の選択がいい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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