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雑誌目次

雑誌文献

medicina32巻3号

1995年03月発行

雑誌目次

今月の主題 免疫学の理解とその臨床 免疫学の基礎知識

免疫学進展の歴史と現状

著者: 香山雅子 ,   上野川修一 ,   石川博通

ページ範囲:P.422 - P.428

ポイント
●種痘の成功(1798),コレラ・炭疽病・狂犬病などに対する弱毒株ワクチン予防接種(1879),およびジフテリア・破傷風などの抗毒素血清療法(1890).
●免疫γ-グロブリンの発見(1939),同構造の決定(1959〜66),および免疫グロブリン多様性発現の基盤となる遺伝子再構成の発見(1980).
●主組織適合複合体(MHC)の記載(1936),MHCの多型性と移植免疫との関連(1944〜48),MHCが免疫応答遺伝子である事実の解明(1963),T細胞応答の自己MHC拘束性発見(1974),およびT細胞抗原受容体(TCR)遺伝子の解明(1984)とTCRがMHCに結合した抗原由来ペプタイドを認識する事実(trimolecular complex)の立証(1990〜).
●結核菌菌体成分によるアレルギー反応(1880),補体存在の確認(1901),アナフィラキシー反応(1902),自己抗体の検出(1904)と自己免疫疾患の概念(1956),馬杉腎炎(1933),膠原病の概念(1942),およびIgEの発見(1967)などによる免疫病変(アレルギー)解明の進展.

免疫学の現在と未来

著者: 多田隈卓史

ページ範囲:P.429 - P.431

ポイント
●現在免疫学の中心テーマとして,いかにして自己・非自己を識別し,自己には反応せず,非自己を能率よく排除し得るかの機序解明があげられる.クラスI,クラスII抗原を用いての抗原提示機構,自己反応性T細胞のアポトーシスによる除去,キラーT細胞などのアポトーシス機構による標的細胞傷害機序などの解明が進んでいる.
●遺伝子工学の発展はサイトカインの研究を爆発的に進展させ,その構造,機能,レセプターの同定,レセプターからのシグナル伝達機構などを明らかにしつつある.
●現在免疫学で蓄積されつつある知識や技術は将来臨床へと還元され,治療・診断などに広く応用されていくであろう.

免疫の細胞学と分子生物学の基礎

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.432 - P.435

ポイント
●リンパ球の抗原レセプター(B細胞では表面免疫グロブリン,T細胞ではT細胞レセプター)は遺伝子の再編成によってその多様性が用意されている.
●1個のリンパ球は1種類のみの抗原レセプターをもつ.自己抗原に対応するレセプターのものは消去されるか不応化され,非自己抗原に対応するリンパ球だけが残される.
●B細胞の抗原レセプターは抗原そのものに結合するが,T細胞の抗原レセプターはその個体のMHC分子とその溝に収まっている抗原ペプチドとの組み合わせと結合する.このことによりT細胞応答の個体差が生じる.

免疫機能の解説

Tリンパ球の役割

著者: 中村和史

ページ範囲:P.437 - P.440

ポイント
●T細胞抗原レセプター(TCR)は抗原提示細胞上のMHCと抗原ペプチドの複合体を認識する.
●TCRからのシグナルは免疫応答を調節する種々のサイトカインの産生誘導を促す.
●免疫抑制剤(CsA,FK506)はTCRからの細胞内シグナル伝達経路を阻害することにより免疫抑制作用をもつ.
●T細胞の活性化にはTCR刺激のみならず,CD28などの分子を介したco-stimulatoryなシグナルが必要である.

Bリンパ球と免疫グロブリン

著者: 佐伯行彦

ページ範囲:P.441 - P.443

ポイント
●B細胞は成熟・分化して抗体産生細胞となり,抗体と呼ばれる糖蛋白である免疫グロブリン(Ig)を産生する.
●Igのgerm line geneは,そのままではIgを産生することはできず,発現型のIg遺伝子に再構成されなければならない.
●B細胞の分化は,抗原刺激の依存性の有無により2期に分けられる.まず,骨髄幹細胞から派生したリンパ系幹細胞がストローマ細胞の補助により,pre-pre B細胞,pre B細胞,未熟B細胞,そして成熟B細胞にいたる.この過程は,抗原刺激を必要としない.この抗原刺激非依存期には,Igの遺伝子の再構成がB細胞の分化に並行して生じる.一方,成熟したB細胞は,特異的な抗原刺激とT細胞の補助(サイトカインとcognate作用)により,抗体産生細胞へと分化する.

ナチュラルキラー(NK)細胞

著者: 鳥越俊彦 ,   石井良文

ページ範囲:P.444 - P.447

ポイント
●NK細胞はMHC非拘束性細胞障害活性をもつCD3-,CD16+,CD56+のリンパ球で,形態的にはアズール顆粒を細胞質にもつリンパ球である.末梢血リンパ球の10〜15%を占める.
●NK細胞は胸腺外で分化・成熟し,成人の赤脾髄,肝類洞などに分布するが,リンパ装置には分布しない.
●NK細胞は抗原の感作がなくともウイルス感染細胞や腫瘍細胞を障害するが,自己と非自己の識別にはMHCクラスI依存性の抑制シグナルが関与している.
●NK細胞は,急性ウイルス感染の初期に働く非特異的細胞性免疫の主役である.特にヘルペス群ウイルス感染の防御に重要である.また,腫瘍の免疫監視機構にもかかわっている.

好中球の免疫における働き

著者: 今信一郎 ,   今久子

ページ範囲:P.448 - P.450

ポイント
●好中球の炎症局所への浸潤には,ローリング,接着,浸潤の段階がある.
●好中球の血管内皮への接着にはセレクチンファミリー,インテグリンファミリー,免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分枝が関与する.
●ローリングの段階にはセレクチンファミリーが,接着・浸潤の段階にはインテグリンと免疫グロブリンスーパーファミリーが重要である.

好酸球と免疫

著者: 香坂隆夫 ,   海老澤元宏 ,   飯倉洋治

ページ範囲:P.452 - P.455

ポイント
●好酸球は,遅発型アレルギー反応での炎症の主体である.
●好酸球浸潤は,Th2細胞から放出されるサイトカインによって誘導される.
●即時反応と遅発反応の関連も,IgE-抗原複合体とその細胞のもとに生ずる免疫学的反応によって明らかにされてきている.

肥満細胞とメディエーター

著者: 三田晴久

ページ範囲:P.456 - P.459

ポイント
●肥満細胞から遊離されるケミカルメディエーターは,存在様式からヒスタミンに代表されるpreformedとアラキドン酸代謝産物やサイトカインなどのnewly generated mediatorに分けられる.また,作用様式から主に一次エフェクターとして働くもの,慢性炎症の誘導因子および酵素類に分けることもできる.
●ヒトの肥満細胞は中性プロテアーゼの種類と量をもとに大きく2種に分類でき,これらの間ではアラキドン酸代謝産物の生成量に相違がみられる.
●肥満細胞が生成するサイトカインが注目を集めているが,その種類や量,さらに生理的意義については不明の部分が多い.

単球-マクロファージの機能

著者: 楊河宏章 ,   曽根三郎

ページ範囲:P.460 - P.462

ポイント
●単球-マクロファージ系細胞は骨髄の造血幹細胞に由来し,末梢血中では単球,組織においては成熟したマクロファージとして存在する.
●単球-マクロファージ系細胞はそれ自身貪食,抗腫瘍活性などのエフェクター機能をもつとともに,抗原提示能やサイトカインなどの液性因子の産生能をもち,免疫,炎症反応の成立・維持に重要な役割を果たす.

サイトカインと免疫調節

著者: 中野昌康

ページ範囲:P.464 - P.468

ポイント
●サイトカインは生体防御・免疫系細胞の分化・成熟・増殖,免疫応答,炎症に関係する(糖)蛋白活性因子で,多数の異なったサイトカインが知られている.
●刺激によりマクロファージ,T細胞,その他種々の細胞より産生され,レセプターのある標的細胞に作用する.
●マクロファージが産生するサイトカインは炎症・生体防御にかかわり合いが深い.
●ヘルパーT細胞はTH0からTH1あるいはTH2へ分化する.TH1の産生するサイトカインは細胞性免疫と,TH2の産生するそれらは抗体産生と関係が深い.
●サイトカイン同士の間で拮抗作用がみられる.TH1の産生するIFNγはTH2のサイトカイン産生を抑制し,逆にTH2の産生するIL-4,IL-10,IL-13はTH1のサイトカイン産生を抑制する.
●サイトカインは生体内で相互に複雑なネットワークを形成し,免疫応答の発現・調節を行っている.

補体と免疫

著者: 酒井好古

ページ範囲:P.469 - P.471

ポイント
●病原微生物,腫瘍細胞,免疫複合体などが補体系の古典的経路あるいは第2経路を活性化し,異物表面に分子集合型C3転換酵素を形成する.
●異物表面でC3を限定分解し,C3をはじめとする多数の分解産物を固定し,標的化する.
●標識のC3分解産物に対応するC3レセプターを有する血液細胞を動員して標的細胞を排除する.
●後期反応成分は膜攻撃複合体(MAC)を形成して異物細胞を溶解する.
●C3やC9のエフェクター分子の反応段階には細胞膜制御蛋白が存在し,自己と非自己を識別し,自己の細胞を保護している.

免疫疾患へのアプローチ

主要組織適合性と免疫疾患の感受性

著者: 伊藤直人 ,   花房俊昭

ページ範囲:P.474 - P.476

ポイント
●MHC抗原は,著しい遺伝的多型性を背景として,免疫系における“自己”と“非自己”の識別の手がかりとなっている.
●自己免疫疾患においては,本来,寛容が成立すべき“自己”が“非自己”として認識され,免疫反応の対象として傷害される.
●インスリン依存型糖尿病,慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患においては特定のHLA遺伝子との相関が認められる.特定のHLA抗原が自己抗原と結合しやすいためではないかと推定されている.

アレルギー性疾患の成立

著者: 大原守弘 ,   粕川禮司

ページ範囲:P.477 - P.479

ポイント
●アレルギーの成立にはCoombsの4型からなるアレルギーの反応型分類があり,アレルギー性疾患はアトピー性疾患とも呼ばれ,IgE抗体と肥満細胞の関与による主にI型のアレルギー反応によるものといわれてきた.
●アレルギーが成立するためには,ヘルパーT細胞の関与が重要である.
●ヘルパーT細胞の中の特にTh2細胞の活性化に伴い,B細胞,好酸球,肥満細胞などの細胞と産生されるカイトカインによる複雑なアレルギーのネットワークが働いて,アレルギー性疾患が成立するものと考えられている.

アレルギー性疾患のための検査

著者: 灰田美知子

ページ範囲:P.480 - P.483

ポイント
●皮膚反応,RASTなどでは保険の適応範囲が限定されているので,十分な問診で疑わしいアレルゲンを絞ったうえで検査項目を選択する.
●薬物・食物アレルギーの場合は,これらの検査を行っても問題のアレルゲンで陽性になるとは限らないので,より一層,問診や除去・誘発試験が大切となる.
●生体内検査法のなかでも皮内反応,粘膜誘発試験ではアナフィラキシーや喘息発作などを起こす可能性が常に存在するため,救急措置ができることを確認してから施行する.

自己免疫疾患の成立

著者: 富田康之

ページ範囲:P.484 - P.486

ポイント
●臓器非特異的自己免疫疾患の成立には,ウイルスなどの外来抗原の侵入,自己反応性T/B細胞の増殖,自己抗体の産生などが関与する.
●免疫寛容(トレランス)の維持,破綻にアポトーシスが関与する.
●トレランスの破綻は自己反応性T/B細胞の増殖を誘導する.
●自己抗体の産生機序には,B細胞異常説,分子相同説,自己抗原刺激説,エピトープ・プログレッション説がある.

自己免疫疾患のための検査

著者: 秋月正史

ページ範囲:P.487 - P.490

ポイント
●臨床検査を念頭に置いた場合,自己免疫疾患を臓器特異的(性)と臓器非特異的(性)とに分類すると有用である.
●全身性自己免疫疾患では臓器非特異的な細胞成分に対する自己抗体産生が特徴であり,これは疾患標識抗体と症状特異的抗体とに大別される.
●膠原病患者の血清には複数の自己抗体が検出されることが多いが,その組み合わせは無原則ではなく,抗原の分子構造がこの併存機序を追求する手がかりと考えられる.
●全身性自己免疫疾患の自己抗体と臨床症状との関連は今のところ不明である.
●受容体に対する自己抗体が産生され,種々の病気が起こる.

リンパ球機能のアセスメント

著者: 小谷宏行 ,   岡諭 ,   三木知博

ページ範囲:P.491 - P.493

ポイント
●リンパ球サブセットは,自己免疫疾患の活動性の指標として有用であるが,サブセットが表現する抗原分子の機能もまた重要である.
●AMLR(自己リンパ球混合培養反応)は,生体の免疫防御機構を反映する検査といわれており,ほとんどの自己免疫疾患では低下している.
●細胞間接着分子は,癌や感染症,免疫疾患の病態の形成に重要な役割を演じており,T細胞機能の発現に必須の因子である.可溶性因子の半定量解析も現在行われている.

免疫疾患のメカニズム

アレルギー性鼻炎

著者: 大西正樹

ページ範囲:P.495 - P.497

ポイント
●アレルギー性鼻炎のI型アレルギー反応は鼻粘膜粘液上皮層で起こっている.
●鼻粘膜には2種類の肥満細胞が存在し,鼻アレルギー発症に重要な役割を果たしているのは粘膜型肥満細胞である.
●アレルギー性鼻炎の3大症状であるくしゃみ,水性鼻汁,鼻閉をすべて誘発できるケミカルメディエーターは現在のところヒスタミンだけである.

気管支喘息

著者: 井上洋西

ページ範囲:P.498 - P.500

ポイント
●喘息とは気道の慢性炎症性疾患である.
●この気道炎症と気道神経制御の異常が,喘息の繰り返す増悪の原因と考えられる.
●免疫学的な機序と非免疫学的機序が共に,この慢性気道炎症と喘息の繰り返す増悪に関与している.
●この喘息の気道炎症は,IgE依存性でTリンパ球依存性の機序のものと,IgE非依存性でTリンパ球依存性の機序があり,双方の機序からの伝達物質の遊離により,気道攣縮,粘液分泌亢進,気道浮腫が惹起されるものと考えられる.

過敏性肺臓炎

著者: 倉知大 ,   茆原順一 ,   中島重徳

ページ範囲:P.501 - P.503

ポイント
●過敏性肺臓炎は,抗原性のある物質の反復的吸入によるIII型およびIV型アレルギーによって引き起こされるびまん性肉芽腫性間質性肺炎である.
●多様な発症経過をとるが,III型・IV型アレルギーのかかわりの程度や抗原の種類・量などによって,急性型,亜急性型,慢性型などに分けられる.
●急性型はIII型アレルギーが主体であり,免疫複合体と補体の活性化,多核白血球の活性化などによって引き起こされる急性肺障害である.
●亜急性型はIV型アレルギーが主体であり,肺胞マクロファージ,Tリンパ球が中心となり,それらによって分泌されるサイトカインにより形成される類上皮細胞性肉芽腫,胞隔炎が特徴的である.
●治療は,原因抗原からの隔離,原因抗原の除去,ステロイドを中心とした薬物療法である.

免疫異常と糸球体疾患

著者: 大井洋之

ページ範囲:P.504 - P.507

ポイント
●ヒト腎炎を解明するために,実験腎炎モデルの検討がある.
●主なモデルとして馬杉腎炎,血清病腎炎,Heymann腎炎などがある.
●馬杉腎炎はGoodpasture症候群が,Heymann腎炎は膜性腎症が,血清病腎炎は種々のIC腎炎がヒトにおける主な対応疾患である.
●腎炎において抗原抗体複合体の組織への沈着に関与する様々な要因がわかっている.
●その他にI型やIV型アレルギーの関与も考えられている.

胸腺腫にみられる疾患

著者: 安部明弘 ,   高松純樹

ページ範囲:P.509 - P.511

ポイント
●胸腺腫に伴う疾患の中では重症筋無力症が最も多く,次いで赤芽球癆,Good症候群があげられる.
●重症筋無力症では,抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体によるシナプスの変性・破壊が生じる.
●赤芽球癆のうち胸腺腫を伴う自己免疫機序が関与するのは後天性慢性赤芽球癆である.
●胸腺腫に伴う免疫不全症をGood症候群と総称し,低(無)γグロブリン血症と細胞性免疫不全およびそれらの混合型に分けられる.

自己免疫性内分泌疾患

著者: 森本勲夫

ページ範囲:P.512 - P.514

ポイント
●自己免疫性内分泌疾患は臓器特異性の自己免疫異常が内分泌腺に生じたために発生する内分泌機能異常で,臓器障害による内分泌機能不全と異常抗体産生(ホルモン受容体抗体など)による内分泌機能異常がある.
●単一の内分泌腺の機能障害のみならず,多腺性に機能障害が生じたり,他の自己免疫疾患の合併がみられる.
●本症の発生には遺伝的素因があり,同一家系に多発することがある.
●臓器特異抗体は機能障害の発生に先行して認められることがある.

炎症性腸疾患における免疫異常—IL-7の役割

著者: 渡辺守 ,   上野義隆 ,   日比紀文

ページ範囲:P.515 - P.520

ポイント
●炎症性腸疾患の病因解明が進まない一つの理由は,腸粘膜上皮細胞と粘膜局所リンパ球のinteractionを含めた正常のmucosal immune responseの解明が不十分なことである.
●炎症性腸疾患における炎症性サイトカインの異常は,単球-マクロファージ系細胞の活性化による二次的な変化をみている場合が多い.
●骨髄,胸腺において未熟なB,T細胞の増殖・分化を担うIL-7が腸管上皮細胞で発現・産生され,粘膜局所リンパ球の増殖・機能的分化に役割を果たしている.
●炎症性腸疾患IL-7を介した腸管局所免疫調節機構の異常がある.

自己免疫性肝炎

著者: 阿部和裕 ,   宮川浩 ,   賀古眞

ページ範囲:P.521 - P.523

ポイント
●肝の臓器特異的自己免疫疾患である自己免疫性肝炎の発症機序として,肝細胞膜に存在する膜抗原に対する免疫応答が最も重要な役割を担うと考えられ,現在,肝細胞膜上に存在するアシアロ糖蛋白受容体(AGPR)に対する抗体が有力視されているが,詳細は依然不明である.
●本疾患の診断として,国際的なクライテリアが提唱されるに至った.
●最近,C型肝炎ウイルスとの関連性について注目されており,外来抗原としてのエピトープ・プログレッション説も展開され,さらに,成人のLKM1抗体陽性のII型自己免疫性肝炎との関連についても注目されている.

抗リン脂質抗体症候群

著者: 鏑木淳一

ページ範囲:P.524 - P.525

ポイント
●抗リン脂質抗体症候群の臨床特徴として,動静脈血栓症,習慣流産(子宮内胎児死亡),血小板減少症が重要である.
●抗リン脂質抗体症候群の血清学的特徴として,IgG抗カルジオリピン抗体,ループスアンチコアグラントが認められる.
●近年,IgGリン脂質依存性抗β2-GPI抗体が,病態に関連することが注目されている.

老齢者と免疫機能

著者: 岸本進

ページ範囲:P.527 - P.529

ポイント
●思春期以降,胸腺は顕著な退縮を起こし,この退縮が免疫機能の加齢変化に中心的役割を担っている.
●多くの外来性抗原に対する免疫応答は低下する.
●自己抗体産生は亢進している.
●血清IgG,IgA値は増加する.
●末梢血Tリンパ球は減少する.Bリンパ球は変わらない.
●抗原やマイトゲン刺激によるT・Bリンパ球増殖は低下している.
●Tリンパ球のIL-2分泌,IL-2レセプター発現は低下し,IL-4,IL-6分泌は増加する.
●Tリンパ球の細胞内シグナル伝達に障害が認められる.

HIV感染と免疫不全

著者: 栗村敬

ページ範囲:P.530 - P.533

ポイント
●AIDSとは,HIV感染による免疫不全のために日和見感染症,日和見腫瘍が起こった状態をいう.
●HIVは変異が頻繁に起こり,その生物学的性状は種々である.
●HIVは長年月にわたる無症候期にも,着実に生体内で増殖を続けている.
●HIV感染者の一部に長期未発症者(long-term non-progressor)が存在している.
●HIVの感染が成立してしまうと終生キャリアとなる.

免疫不全と日和見感染症

著者: 西谷肇

ページ範囲:P.534 - P.537

ポイント
●主要な易感染性要因として好中球減少,細胞性免疫障害,液性免疫障害があげられる.
●好中球減少は化学療法による骨髄抑制によることが多く,病原体としてグラム陰性桿菌,グラム陽性球菌,カンジダ,アスペルギルスがみられる.
●細胞性免疫障害は免疫抑制剤使用などでみられ,リステリア,サルモネラ,結核菌,非定型性抗酸菌,レジオネラ,クリプトコッカス,ウイルス,カリニがみられる.
●液性免疫障害は多発性骨髄腫などでみられ,肺炎球菌,インフルエンザ菌,髄膜炎菌がみられる.

γ-グロブリンの使用と感染症

著者: 青木眞

ページ範囲:P.539 - P.541

ポイント
●感染症治療上,γ-グロブリンの有効性が証明されている状況は限られており,使用適応には注意を要する.
●主に先天性,二次性の低γ-グロブリン血症における感染症の発症予防や,特殊なウイルス感染患者に曝露した後の発症予防が,広く一般に有効性の認められている適応である.このほか,臓器移植患者のウイルス性日和見感染症の予防にもある程度の効果が認められている.
●単なる重症感染症,抗菌薬のみで治療効果の認められない感染症に対して,適応を考えずに使用することは慎むべきである.

免疫疾患のトピックス

免疫不全の遺伝子治療

著者: 宮崎澄雄

ページ範囲:P.542 - P.544

ポイント
●遺伝子治療の対象となる先天性疾患は,病因である遺伝子が同定され,分子レベルでの解析がされている必要がある.
●原発性免疫不全のうちADA欠損症が遺伝子治療として最も有望である.
●遺伝子治療においては一般社会の理解を得ることが大切である.

臓器移植と免疫反応

著者: 森川雅之 ,   小松作蔵 ,   上出利光

ページ範囲:P.545 - P.549

ポイント
●臓器移植は免疫学的には非自己の移入であり,レシピエントに種々の免疫反応を惹起する.したがって,移植免疫における最終ゴールは,ドナーの移植抗原に特異的な免疫寛容をレシピエントに導入し維持することである.
●移植免疫反応の主体とされるT細胞の寛容においては,互いに排他的ではないdeletion,anergy,ignorance,suppressionという4つの基本的なメカニズムが想定されており,これらを理論的背景として種々の移植寛容へのアプローチが試みられている.

サイトカインと癌治療

著者: 小林正伸 ,   藏満保宏

ページ範囲:P.551 - P.553

ポイント
●インターフェロン,腫瘍壊死因子,インターロイキン-1は直接の抗腫瘍効果を示す.
●インターロイキン-2,インターフェロン,インターロイキン-12などは抗腫瘍免疫エフェクターを活性化して抗腫瘍効果を示す.
●コロニー刺激因子は抗癌剤の副作用である白血球減少を防止できる.
●インターロイキンの投与はサイトカインネットワークを動かし,生体内での二次的なサイトカイン産生を誘導する.

シクロスポリンと炎症性腸疾患

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.554 - P.556

ポイント
●シクロスポリンはTリンパ球由来の細胞性免疫を選択的に抑制する薬剤である.
●臓器移植における免疫抑制剤としての成功と,その速効性から,シクロスポリンは炎症性腸疾患の新しい治療薬として期待が持たれてきた.
●現在までの臨床データからは,他の薬剤に抗抵性の劇症型潰瘍性大腸炎や,ステロイド抵抗性の活動期Crohn病,Crohn病による瘻孔の早期治療に有用性が見いだせる.
●炎症性腸疾患の他の病態に対する有用性の検討は今後の課題である.

理解のための33題

ページ範囲:P.557 - P.563

カラーグラフ 写真でみる外科手術の実際・2

生体部分肝移植術

著者: 松波英寿 ,   川崎誠治 ,   橋倉泰彦 ,   池上俊彦 ,   中沢勇一 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.570 - P.571

 生体部分肝移植術は,ドナーからの肝切除とレシピエントへの肝移植によって成り立つ,本稿ではそれぞれの手術の実際を概説する.

グラフ 検査・診断のためのCurrent Technology—原理と臨床的意義・3

フローサイトメトリー

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.579 - P.582

 現代医学は数々のすばらしい機械を作り上げてきたが,本稿で述べるフローサイトメトリー(FCM)も現代先端技術の粋を集めて作製されたものである.FCMは従来は蛍光顕微鏡を使って読んでいた蛍光陽性細胞の比率を,自動的に算定できるようにした機器である.しかも非常に高速で,かつ客観的なデータが得られる点で,まさに夢の機械といってよい.その開発以後,急速に世界中に普及し,現在では,蛍光抗体法の検索にはなくてはならぬものとなっている.

MRI演習・15

T2強調像で基底核が低信号となる疾患

著者: 荒木力

ページ範囲:P.583 - P.588

Case
 図1Aと1Bは,49歳女性のT2強調スピンエコー像(T2 WI,TR 2000msec,TE 80msec)である.

薬を正しく使うためのDrug Information—副作用について・15

市販薬剤「金鵄丸」による肝障害

著者: 池上文詔

ページ範囲:P.590 - P.591

 漢方薬は一般的には慢性疾患に長期にわたり使用されることが多く,長年の臨床経験に基づいた処方のために副作用が極めて少ないと信じられているが,近年は重篤な副作用も散見されている.就中,肝障害に関しては防風通聖散・小柴胡湯などの医家向けの医薬品以外に,市販薬の改源・正露丸・恵命我神散などの報告もあるが,金鵄丸の報告例は11例と極めて多く,日常臨床上是非とも注意が必要と思われるので若干の解説を行う.

臨床医に必要な老人をみる眼・14

排尿障害

著者: 宮川美栄子

ページ範囲:P.592 - P.593

 排尿障害の症状は排尿困難,頻尿,尿失禁などである.痴呆や寝たきり老人の場合の排尿障害は別として,これらの症状が老化に伴う生理的範囲のものなのか,それとも疾病に伴うものであるのかを判断する必要がある.

これからの医療と医療制度・15

新看護体系

著者: 寺崎仁

ページ範囲:P.594 - P.595

 医療法施行規則には,病院の従業員数の標準として「入院患者4人につき看護婦もしくは准看護婦1人以上」との規定があり,診療報酬においてもこれを基本とした看護の体系が組まれている.それは「基準看護」とも呼ばれ長年親しまれてきた仕組みだが,昨年10月にこれが30数年ぶりに変更され,新しい看護体系が施行されている.そこで,今月はこのことについて述べてみる.
 まず最初に断っておくが,昨年10月1日を期して全国の病院が一斉に新しい看護体系に移行したわけではない.当分の間は,混乱を避けるために新旧両方の看護体系を並存させることとし,病院はどちらか有利なほうを採用してよいとされている.この両者並存の経過措置的な期間は,一応平成8年3月末までとされており,予定では「基準看護」という言葉もあと1年余りで消減する.

知っておきたい耳・鼻・のどの病気と病態・2

難聴患者のみかた

著者: 白幡雄一

ページ範囲:P.596 - P.600

 難聴者は全国に500万人もいるといわれている.聞こえが悪い人の多くは感音難聴であり,その多くは加齢現象だといってもよい.年のせいであれば仕方がない,と諦めているお年寄りが多いことに驚かされる.
 難聴の原因は多彩である.お年寄りの難聴といっても,年のせいとばかり言いきれない.年による難聴は治せないが,それ以外の難聴は治せるものがある.あるいは,治せなくとも予防が重要である.“人生の質”が問われるこれからの時代,内科臨床医も積極的に難聴患者の発見に努め,原因を探り,患者を指導することにより,人と人とのコミュニケーションが豊かになるよう援助の手をさしのべる必要があろう.本稿では内科臨床医の立場から難聴患者のみかたについて述べる.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.573 - P.578

アメリカ・ブラウン大学医学部在学日記・7

6週間と短いが,楽しい小児科実習

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.601 - P.603

 小児科の実習は3カ月ずつの内科や外科実習と比べて6週間と短い.うち3週間は入院病棟で,3週間は外来での実習となる.入院病棟での実習は先に述べた内科の入院病棟での実習とほぼ同様であるが,新生児室および未熟児室での短い実習が少し特殊な部分である.ここでは新生児検診の仕方を学ぶことが目的で,後は未熟児ケアの見学にとどまる.24週で生まれた赤ちゃん,550gや750gの赤ちゃん,まるで繊細な硝子細工のようである.この新生児集中治療室でケアを受ける場合,1日$15,000ほどと聞く.

SCOPE

てい談 陽子線照射療法による癌治療への新しい挑戦

著者: 大菅俊明 ,   松崎靖司 ,   門奈丈之

ページ範囲:P.609 - P.617

 門奈 昨年(1994年)の4月に新潟市で行われた第91回内科学会総会で,2日目にシンポジウムの2として「手術不適応癌の新しい治療」が組まれました.そこでは種々の手術不適応癌に対する各種の治療法に関する演題が発表されました.
 ご承知のように,癌に関しましては,内科的な化学療法,免疫療法などを中心に,外科的,放射線医学的な治療がいろいろ行われておりますが,早期の癌を除いては,なかなか期待したような成果が得られていないというのが現状だと思います.そのような状況の中で,松崎先生,大菅先生は先に述べたシンポジウムの中で,「手術不能肝癌に対する新しい陽子線照射療法」という演題を発表しておられます.聞くところでは,陽子線照射療法は単に肝癌のみならず,他の癌に対してもかなりの効果があるということですので,本日は両先生に,陽子線照射療法とは何か,なぜ肝癌に効果があるのか,他の癌に対する具体的な治療効果はどうなのか,そして陽子線がなぜ癌に効くのか,そのメカニズムなどについて,いろいろお話をうかがいたいと思います.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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