icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina32巻9号

1995年09月発行

雑誌目次

今月の主題 呼吸器疾患の画像診断 Editorial

呼吸器疾患画像診断の今日

著者: 小野容明

ページ範囲:P.1680 - P.1681

胸部単純X線写真
 胸部単純X線フィルムを読影する場合,胸郭,縦隔,肺野の順にチェックしていくのが通例ですが,異常陰影が限局性の病巣なのか,びまん性肺疾患なのか,で留意する点が異なるように思います.例えば前者のケースでは,①気管支血管系の区域解剖を駆使すること,②同一患者の以前の胸部写真と比較読影すること,③特に陰影が小さい場合には両斜位あるいは腹背像との比較,が診断への手がかりを与えてくれます.一方,びまん性肺疾患の場合は,①上肺野優位なのか下肺野なのか,②病変の局在様式が末梢優位なのか中枢優位なのか,③Felson,Fraserらが提唱したいわゆる肺胞性パターンなのか間質性パターンなのか,あるいはその混在なのか,といったポイントをおさえることで,鑑別しなければならない疾患がある程度想定できます.しかしここで大事なことは,X線フィルムからだけではそうした病変の特異的診断ができない点にあります.診断する医師は,その肉眼的病理の復元と患者の臨床的評価とを関連づけなくてはなりません.いうまでもなく,注意深くとられた病歴,身体的所見,検査データといった補助的な情報なしにX線写真のみから診断するようなことがあれば,それはあたかも医師に,患者と話さずに,そして触れることも許さずに診断を求めるのと同じ過ちです.

胸部X線写真

胸部X線写真読影の手順

著者: 松山正也

ページ範囲:P.1682 - P.1687

ポイント
●正面像の読影では次の点に留意する.
 I.中央陰影:ⓐ心大血管解剖とそれに接する肺葉,肺区域(シルエットサインの応用に不可欠),ⓑ気管・気管支の形態と走行,縦隔線(縦隔病変の診断に極めて重要).
 II.肺野:ⓐ肺血管陰影の特徴(肺門・肺野の読影の基本),ⓑ心横隔膜角,肋骨横隔膜角(心膜・胸膜の診断に重要).
 III.骨・軟部胸郭:肋骨,胸骨,鎖骨,脊椎,肩甲骨(意外な診断情報が得られることがある).
●側面像については,心陰影と横隔膜,気管・気管支と肺動脈,大動脈・葉間裂・胸骨と脊柱などに注意する.

均等陰影—区域性

著者: 廣瀬正典

ページ範囲:P.1688 - P.1692

ポイント
●区域性均等陰影を呈する病変は,浸潤影と無気肺である.
●浸潤影の原因として最も多い疾患は急性肺炎である.しかし,肺胞上皮癌も忘れてはならない.
●成人の無気肺の原因として最も多い疾患は肺癌である.
●肺炎ではair bronchogramが存在することが多いが,無気肺では稀である.
●虚脱の進行した無気肺は,単純X線写真では見逃されることがある.
●右中葉無気肺の診断には,側面像や肺尖撮影が有用である.

均等陰影—非区域性

著者: 永友章 ,   渡辺古志郎

ページ範囲:P.1693 - P.1696

ポイント
●均等陰影とは肺胞性(実質性)陰影のことで,air bronchogramを伴うことが多い.
●急性の細菌性肺炎が疑われた場合は,喀痰培養を繰り返しながら抗生剤投与を行い,起因菌の同定に努める.
●慢性の感染症やその他の疾患の場合は,確定診断として気管支鏡が有用である.

不均等陰影—区域性

著者: 赤川志のぶ

ページ範囲:P.1698 - P.1701

ポイント
●区域性不均等陰影は気道および周囲病変,気道支配領域の細葉性病変およびその融合,周囲肺の過膨張や虚脱などの混合よりなる.
●急性気管支肺炎でよくみられるが,起炎菌に特徴的なX線所見はない.ただし,マイコプラズマでは2葉以上にわたり断続的に陰影がみられやすい.
●診断は,X線所見,臨床像,CT,検痰,血清学的検査などにより,総合的に下す.

不均等陰影—非区域性

著者: 杉山幸比古

ページ範囲:P.1702 - P.1705

ポイント
●初期の肺結核では,陰影は主にS1,S2,S1+2,S6にみられる.
●初期の活動性肺結核の胸部X線像上の特徴は,境界不鮮明の不整形陰影で,一部融合傾向のある結節影を含む浸潤影である.
●治癒した肺結核の像は,硬い線状影,結節性陰影で石灰化を伴う.
●非区域性の不均等陰影としては,肺結核のほか,真菌症,細気管支肺胞上皮癌,リンパ腫,肺分画症,肺梗塞症,PIE症候群などを鑑別していく必要がある.

空洞・嚢胞性病変

著者: 本田孝行 ,   早坂宗治 ,   蜂谷勤

ページ範囲:P.1707 - P.1711

ポイント
●個々の陰影の部位,数,大きさ,広がり,性状,および随伴陰影を的確に把握する.
●空洞もしくは嚢胞に対して,単房か多房か,壁の厚さ,内壁の性状および空洞内陰影も検討する.
●経時的変化を常に念頭に置く.
●自覚症状および炎症所見を考慮にいれ鑑別する.

石灰化陰影

著者: 松迫正樹

ページ範囲:P.1712 - P.1716

ポイント
●胸部X線写真における石灰化は,石灰化の部位によって,肺内石灰化,縦隔石灰化,胸膜石灰化,胸壁石灰化の4つに大別される.
●肺内結節内石灰化の場合,孤立性か多発性か,石灰化の結節内の位置,形状などのほかに,周囲血管や気管支との関係など総合的に読影する.特徴的な石灰化(卵殻様石灰化,sand stormなど)をきたす疾患は知っておく.
●職歴・病歴・家族歴が重要な場合には問診も参考にする.肺内散在性石灰化や胸壁石灰化には,特有な疾患がいろいろ含まれるのでこれらを知っておくと役に立つ.

腫瘤陰影—孤立性(3cm未満)

著者: 柿沼龍太郎 ,   大松広伸 ,   西脇裕

ページ範囲:P.1719 - P.1722

ポイント
●肺腺癌は,組織分化度により画像所見が異なる.
●高分化型腺癌は辺縁が不明瞭であり,胸膜陥入像や,気管支肺血管の末梢性収束像が強い.
●低分化型腺癌は,辺縁が明瞭であることが多い.
●肺腺癌の場合,複数の亜区域にまたがることが多く,静脈が陰影の中に入っていることが多い.
●3cm未満の肺腺癌でも約20%の縦隔リンパ節転移があり,孤立性陰影を見つけたときは,一定の検査手順にて確診をつけるべきで,漫然と経過をみてはならない.

腫瘤陰影—孤立性(3cm以上)

著者: 櫻木徹 ,   江口研二

ページ範囲:P.1723 - P.1730

ポイント
●胸部単純X線写真にて比較的大きい孤立性の腫瘤陰影を認めた場合,その腫瘤の画像上の特徴をとらえ,鑑別診断を列挙し,臨床上の所見を参考にして胸部断層撮影および胸部CTなどの画像検査を進めるべきである.
●治療方針の決定において,画像診断の果たす役割は極めて大きい.

腫瘤陰影—多発性空洞性病変

著者: 松岡緑郎

ページ範囲:P.1731 - P.1735

ポイント
●空洞形成を伴う多発性腫瘤影を呈する疾患としては感染症,悪性新生物,肉芽形成疾患,その他(塵肺症,敗血症性塞栓症など)があげられる.
●一般細菌,抗酸菌を除けば,感染症で留意しなければならない疾患は肺クリプトコッカス症である.
●転移性肺腫瘍で空洞化をきたしやすいものには頭頸部癌,子宮癌,大腸癌,乳癌,膀胱癌,皮膚癌がある.
●発熱が続き,抗生剤,抗真菌剤に反応しない場合は,Wegener肉芽腫を鑑別診断にあげる.
●高熱が続き,急速に空洞化を呈する場合は,アスペルギルス症,敗血症性塞栓症などを考慮する.

腫瘤陰影—多発性非空洞性病変

著者: 藤井忠重 ,   田中正雄 ,   関口守衛

ページ範囲:P.1736 - P.1742

ポイント
●多発性腫瘤状影は感染症,腫瘍(良・悪性),肉芽腫性疾患など,単発性陰影も呈する多様な疾患に認められる.
●X線像の読影には辺縁の性状,空洞,空気気管支像,石灰化,リンパ節腫脹,経時的変化(比較読影)などが重要である.
●臨床的診断の多くはX線像と一般臨床所見で可能であるが,確定診断や治療目標により開胸肺生検や他の臓器生検も必要である.
●転移性肺腫瘍のX線病型は多彩であるが,多発性腫瘤状影が最も高頻度であり,また,本X線病型を示す大部分は転移性肺腫瘍である.
●肺転移巣の数・分布の診断と原発巣の確定は,転移性肺腫瘍の手術や内分泌・化学療法の適応を考えるうえに重要である.
●転移性肺腫瘍には肺転移の遅発発生や緩徐発育の症例があり,経過観察や比較読影上注意すべきである.

びまん性細葉陰影

著者: 金沢実

ページ範囲:P.1744 - P.1747

ポイント
●細葉陰影(acinar shadow)とは,直径5〜7mmの境界不鮮明な小結節状の陰影である.
●肺胞腔内に液体や細胞成分が貯留したときにみられ,肺胞構造が比較的保たれていることを示す.
●細葉陰影は,air bronchogram,陰影の融合傾向,蝶形分布などの所見とともに肺胞性陰影であることを示す.
●粒状,網状,線状などの間質性陰影と混在することも多い.
●進行の早い疾患には,肺水腫/ARDS,急性の間質性肺疾患,刺激性ガス吸入,異型肺炎などがある.
●進行の遅い疾患には,肺胞上皮癌,肺胞蛋白症などがある.

びまん性間質性病変—粒状陰影

著者: 貞岡俊一 ,   三井田和夫 ,   尾尻博也

ページ範囲:P.1748 - P.1751

ポイント
●粒状陰影とは内部の均一な,大きさのほぼそろった散布性の円形のびまん性小結節性陰影(直径1〜4mm)をいい,通常肺間質の病変でみられる.
●しばしば小さな肺血管の断面を粒状陰影と見誤ることがあるが,正常血管の作るものよりももっとびまん性である.
●読影にあたっては,各々の粒状陰影の性状・分布,肺の容積減少や膨張,リンパ節腫大,胸水など他の異常陰影の有無を見ることが大切である.
●粒状陰影は画像上特異性に乏しいため,臨床データを参考にして,読影所見を診断に結びつけるように努力する必要がある.

びまん性間質性病変—網状影

著者: 田内胤泰

ページ範囲:P.1752 - P.1755

ポイント
●肺の間質は,気管支肺動脈周囲,肺胞隔壁,小葉間隔壁/胸膜などからなる.
●胸部単純X線上,健常間質は存在を認識できない.
●間質の肥厚は,既存構造の陰影の変化,または新たな陰影を生じるが,ほとんどは1対1の関係で投影されるのではなく,重なりにより生じたパターンとして認識される.
●“網状”が間質性陰影を代表する表現であるならば,“粒状網状”,“多発輪状”も含めて広義に考えるべきである.

透過性亢進—両側肺

著者: 小林一郎

ページ範囲:P.1756 - P.1759

ポイント
●両側肺野の透過性亢進をきたす最も頻度の高い疾患は肺気腫である.
●肺気腫は病理学的に定義された疾患であるが,臨床症状,肺機能検査,画像所見を組み合わせて総合的に診断されている.
●単純X線上,肺の過膨張所見,肺紋理の減少,滴状心が肺気腫の特徴である.
●High-resolution CTで,小葉中心型,汎小葉型,傍隔壁型肺気腫の区別が可能である.
●両側肺野透過性亢進をきたす気管支喘息,先天性心疾患,原発性肺高血圧症,肺血栓塞栓症との鑑別を要する.

透過性亢進—一側肺

著者: 冬野玄太郎 ,   小林龍一郎

ページ範囲:P.1760 - P.1762

ポイント
●一側肺の透過性亢進では,まず大胸筋や乳房切除術後の有無と,側彎や身体のねじれの有無を確認する.
●気胸と巨大肺嚢胞を否定するために,透過性亢進内部での肺血管陰影の存在を確認する.
●吸気と呼気で胸部X線写真を比較し,呼気時に縦隔の対側肺への偏位を認めればairtrappingが示唆され,Swyer-James症候群や閉塞性肺気腫(異物,腫瘍)が疑われる.肺塞栓や肺動脈低形成では,呼気時に対側肺への偏位はない.
●胸部CT,気管支鏡にて気管支内の異物や腫瘍による閉塞性肺気腫を否定する.

胸水貯留—肺野病変あり

著者: 植木純 ,   檀原高

ページ範囲:P.1763 - P.1768

ポイント
●肺野病変を伴う胸水貯留は,悪性腫瘍,肺炎,左心不全症例が多い.
●悪性腫瘍では,原発性肺癌,乳癌,悪性リンパ腫が悪性胸水の主な原因疾患となる.
●嫌気性菌肺炎は膿胸を随伴し,胸腔ドレナージによる治療を要することが多い.
●少量胸水の存在診断には,側臥位正面像(lateral decubitus radiograph)および超音波診断法が有用となる.

胸水貯留—明らかな肺野病変なし

著者: 粟井和夫 ,   藤川光一 ,   関口善孝

ページ範囲:P.1769 - P.1774

ポイント
●立位の胸部単純X線写真における最も基本的な胸水貯留の所見は,肋骨横隔膜角の鈍化およびmeniscus arcである.
●X線上,肺野に明らかな病変が認められないにもかかわらず胸水が貯留している場合,まず心拡大の有無をチェックする.
●胸水貯留に心拡大を伴う場合は,まず心不全を疑う.心不全は肺水腫を伴うが,間質性肺水腫の場合,一見,正常肺のようにみえることがあるので,以前に撮影されたフィルムと比較することが重要である.
●心拡大がなく,慢性・再発性の胸水貯留が認められる場合は,結核性胸膜炎がまず疑われる.

肺門縦隔リンパ節腫脹

著者: 瀧藤伸英

ページ範囲:P.1776 - P.1779

ポイント
●肺門や縦隔のリンパ節腫脹の陰影を読影するには,これらリンパ節の解剖学的位置を知っておく必要がある.
●肺門陰影が肺門リンパ節の腫脹かどうかをみる.肺門陰影の腫大は,肺門リンパ節の腫脹以外に肺動脈の拡張,肺門部近くの肺病変などの場合がある.
●鑑別診断には腫大リンパ節の部位や性状(一側性か両側性か,対称性があるか,など),肺野の異常陰影の有無などのリンパ節以外の陰影,などを読影する.

縦隔陰影拡大

著者: 岩崎正之 ,   井上宏司

ページ範囲:P.1780 - P.1782

ポイント
●縦隔陰影拡大は,①腫瘍,②リンパ性疾患,③大血管関連疾患,④感染症で生じる.
●縦隔陰影の存在部位で疾患が限定されてくる.したがって,側面写真が重要である.
●片側性は,良性腫瘍や炎症によるものが多く,両側性は,悪性腫瘍が多い傾向がある.
●辺縁の不鮮明化は,肺への波及を示す.
●石灰化陰影(calcification)は,奇形腫(50%)や胸腺腫(10〜20%)で認められる.
●横隔神経麻痺は,動脈瘤や悪性腫瘍で認められることが多い.

胸部CT

胸部CTの正常所見

著者: 品川丈太郎 ,   近藤一男 ,   金子昌弘

ページ範囲:P.1785 - P.1788

ポイント
●CTは濃度分解能に優れ,死角が少なく,縦隔内の観察,淡い陰影の発見に有効である.
●胸部CTの依頼には造影剤使用の要否,スライス厚,表示条件,画像処理の方法の指定が必要である.
●被曝量の多さ,低処理能力は高速螺旋CTの登場で解決し,検診にも利用可能である.
●各種の画像処理や自動診断の,さらなる進歩が期待されている.

網状粒状病変

著者: 成井浩司

ページ範囲:P.1789 - P.1793

ポイント
●高解像CTによるびまん性肺疾患の画像診断は,日常臨床においても重要な役割を担うようになった.
●高解像CTは,病変の性状,分布を明確にすることができ,疾患に特異的な所見から,かなり高い確率で確定診断ができるようになった.
●二次小葉を基にした病変の分析を行い,診断をする.
●網状粒状病変をきたす疾患には,特発性間質性肺炎,膠原病肺,びまん性汎細気管支炎,転移性肺腫瘍,粟粒結核,サルコイドーシスなどがあげられる.

腫瘤影

著者: 礒部威 ,   山田耕三 ,   野田和正

ページ範囲:P.1794 - P.1797

ポイント
●肺癌の治療成績の向上のためには早期発見が重要であるが,その診断技術の一つとして胸部CT検査は必要不可欠である.
●高速螺旋(helical)CTの出現により,CTを用いた肺癌検診を行うことも可能になった.
●肺癌,特に肺野型の小型肺癌の質的診断には濃度・空間分解能にすぐれた高分解能(thin-slice)CT画像を用いた病変の詳細な解析が重要である.
●高分解能(thin-slice)CTでは,腫瘤の内部構造,辺縁の性状,気管支・血管の関与などに注目した読影が,肺野腫瘤影の良・悪性の鑑別診断のポイントとなる.

スリガラス状陰影

著者: 高際淳 ,   三浦溥太郎

ページ範囲:P.1798 - P.1801

ポイント
●スリガラス状陰影とは,ある程度の広がりのある比較的均一な淡い陰影で,肺血管が認識できる程度のものを指す.
●肺胞領域に細胞・液体成分と空気が混在した状態を反映したもので,浸潤影とは異なり,肺血管影はマスクされず,またair bronchogramも伴わない.
●初期には,単純X線写真では認めにくく,CTで初めて判明することがある.
●低酸素血症,A-aDo2開大が認められる.
●非心原性肺水腫は,肺胞毛細血管圧の上昇の有無によって,肺静脈疾患,神経原性肺水腫,透過性亢進型肺水腫に分けられる.

嚢胞状陰影

著者: 田村厚久 ,   毛利昌史

ページ範囲:P.1802 - P.1805

ポイント
●嚢胞状陰影の観察の基本項目:①陰影の部位,大きさ,数,広がり.②陰影辺縁部(嚢胞壁)の性状.③陰影内部(嚢胞内部)の性状.④陰影周囲の性状(周囲組織との関係).
●縦隔の嚢胞状陰影:①嚢胞病変内部は液体.②陰影の部位が鑑別診断上最も重要(例:傍心臓部→心膜嚢胞,肺門部→気管支嚢胞).③陰影内部のCT値も鑑別診断に有用(例:軟部組織のCT値→気管支嚢胞,一部に脂肪のCT値→嚢胞性奇形腫).
●肺の嚢胞状陰影:①嚢胞病変内部は基本的には気体(空気).②陰影の部位,広がりが鑑別診断上最も重要(例:肺尖〔限局性〕→ブラ,全肺野均一〔びまん性〕→リンパ管筋腫症).③陰影と周囲組織との関係や併存する他陰影の評価も鑑別診断に有用(例:異常血管陰影の存在→肺分画症,結節影の併存→好酸球性肉芽腫症やサルコイドーシス).

病変の局在様式

著者: 吉田和浩 ,   小場弘之 ,   阿部庄作

ページ範囲:P.1806 - P.1810

ポイント
●肺病変は疾患により特徴的な病変分布を呈することから,これが診断の一助となる.
●上肺野優位な疾患として,肺結核,小葉中心性気腫,サルコイドーシス,好酸球性肉芽腫症,塵肺などがある.
●下肺野優位な疾患としては特発性肺線維症,びまん性汎細気管支炎,汎小葉性肺気腫などがあげられる.
●特発性肺線維症,遠位細葉性肺気腫は外層優位に,小葉中心性肺気腫,好酸球性肉芽腫症,肺水腫は内層優位な分布を呈する.

胸部MRI

肺野情報

著者: 遠藤正浩 ,   楠本昌彦 ,   河野通雄

ページ範囲:P.1812 - P.1816

ポイント
●MRIの高コントラスト分解能,造影剤により,肺野腫瘤病変の質的診断に応用可能である.
●肺癌において,腫瘍と二次変化との識別,胸壁・縦隔浸潤の診断,および治療効果の判定にMRIは有用である.
●びまん性肺疾患の診断には,現在のMRIでは限界があり,今後の研究に期待したい.

縦隔情報—肺癌

著者: 滝口恭男 ,   長尾啓一 ,   栗山喬之

ページ範囲:P.1818 - P.1820

ポイント
●MRIは,①組織分解能に優れている,②任意の断層像が得られる,③造影剤なしで血管と他の組織を鑑別できる,などCTにはない特徴をもつ.
●肺癌の病期診断において,胸壁浸潤・心大血管浸潤・リンパ節転移などの評価に関してMRIはCTとほぼ同等の有用性がある.
●Pancoast腫瘍の進展範囲評価や#5,#7リンパ節の描出などのように,CTよりMRIが優れている場合もあり,CTとMRIを上手に組み合わせることが重要である.

縦隔情報—縦隔腫瘍

著者: 竹中一正 ,   人見滋樹

ページ範囲:P.1821 - P.1824

ポイント
●MRIは,CTより軟部組織間のコントラスト分解能に優れ病理像をよく反映することから,腫瘍の組織性状診断に有力な情報を提供する.
●縦隔腫瘍のうち充実性のものは,通常T1強調像で低信号,T2強調像で高信号を示す.
●充実性腫瘍でも内部に高度な壊死や嚢胞変性をきたす場合には,嚢胞性腫瘍と類似した信号パターンを呈するため鑑別に注意する.
●充実性部分と壊死や嚢胞が類似の信号強度を示す場合があり,その鑑別に造影MRIが有用である.

理解のための27題

ページ範囲:P.1829 - P.1833

カラーグラフ 写真でみる外科手術の実際・7

胸腔鏡下肺生検

著者: 野守裕明 ,   堀尾裕俊

ページ範囲:P.1836 - P.1837

 非小細胞肺癌の切除例の予後は,T1N0M0の症例では5生率約80%と良好であり,腫瘍径が20mm以下の場合では5生率はさらに約90%に向上する1,2).そのため,肺癌の治癒率を向上させるには腫瘍径の小さな時期の肺癌の発見が重要である.しかし,腫瘍径の小さな場合,気管支鏡や針生検などで確診をつけることはしばしば困難であり,以前は開胸生検に頼っていた.近年,胸腔鏡の手技の発達により,小さな肺腫瘤性病変を胸腔鏡という侵襲の少ない方法で生検することが可能となった.本稿では,その方法を述べるとともに具体的な症例を提示し,胸腔鏡下肺生検の有用性を述べる.

グラフ 検査・診断のためのCurrent Technology—原理と臨床的意義・9

in situ hybridization/FISH

著者: 河合俊明 ,   広井禎之

ページ範囲:P.1847 - P.1850

 従来,細胞および組織内に存在する蛋白の局在を検出する方法として免疫細胞および組織化学がある.その蛋白がそこで産生されたか否かを判断するために,DNA,mRNAのような核酸の有無を確認する方法としてin situ hybridization(ISH)がある.ISH法は核酸にアイソトープ(RI)を標識する方法と,ビオチンやジゴキシゲニンなどの非RIを標識する方法がある.後者の中で蛍光色素を使用する方法はfluorescence in situ hybridization(FISH)と呼ばれている.
 本稿では,取り扱いに特殊な施設の必要や被曝の危険がなく,さらにISH二重染色や免疫染色などとの重染色が可能な非RI法について,われわれが現在行っている組織および細胞診標本上において,ISH,FISHの手技を通して方法および臨床応用について解説する.

演習・胸部CTの読み方・3

咳嗽と労作時呼吸困難を主訴とする32歳の女性

著者: 土井正男 ,   宮澤輝臣 ,   西岡康二 ,   山木戸道郎 ,   粟井和夫

ページ範囲:P.1851 - P.1857

Case
 32歳,主婦.1990年夏頃に咳嗽があったが自然に消失した.1991年7月より咳嗽と労作時呼吸困難が出現し,徐々に増悪した.診察にて肺底部に乾性ラ音が聴取され,胸部X線写真ではびまん性陰影を認めたため,胸部CT検査を施行した(図1).
 血液検査はWBC 7,200/mm3,CRP 1.35mg/dl,LDH 562IU/l.肺機能検査は%VC 62.9%,FEV1.0% 93.3%と拘束性障害を認め,動脈血ガス分析はPaO2 50.8mmHgと低酸素血症を認めた.
 喫煙歴なし.家は築18年の木造家屋.ペットは飼っていない.

図解・病態のメカニズム—分子レベルからみた神経疾患・2

連鎖解析による疾患遺伝子座の決定

著者: 田中一

ページ範囲:P.1861 - P.1869

ポジショナルクローニング
 従来の手法では原因を同定することが困難であった遺伝性疾患において,近年ポジショナルクローニングと呼ばれる分子遺伝学的方法を駆使して多くの遺伝性疾患の病因遺伝子が解明されつつある.ポジショナルクローニングは病態機序について手がかりがなくともその疾患が単一遺伝子病であるならば,理論的に病因遺伝子を突きとめうる方法である.具体的には連鎖解析により疾患遺伝子の染色体上のおおよその位置を決定し,さらにその領域の詳細な解析をすることにより,疾患遺伝子を単離するという2つのステップからなる(図1).
 生殖細胞においては,減数分裂の際,対合した相同染色体間で,ヒトでは約30回ぐらい交差(crossing-over)を起こし,相同染色体同士では同部位で切断・再結合され,組換え(recombination)(図2)を生ずる.したがって,遺伝子間の距離が遠いほど交差の起こる確率は増加し,逆に近くに存在する遺伝子同士ほど連鎖する可能性が強くなる.すなわち,この議論を裏返せば,遺伝的連鎖の程度を物理的な距離の尺度と見なすことができる.

知っておきたい産科婦人科の疾患と知識・1【新連載】

急性腹症と卵巣腫瘍

著者: 奈須家栄 ,   管野輝勝 ,   宮川勇生

ページ範囲:P.1870 - P.1872

 女性が下腹痛を主訴に来院した場合,常に産婦人科疾患を念頭に置いた診療が必要となる.緊急の対応を要する産婦人科疾患による下腹痛としては卵巣腫瘍の茎捻転,子宮外妊娠,卵巣出血,卵巣過剰刺激症候群,月経困難症,流産などがある.
 本稿では,内科外来においても時に遭遇する卵巣腫瘍の茎捻転による下腹痛について,典型的な症例を提示して,その診断および対応のポイントを述べる.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・6

ガイ病院のアジソンと副腎

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1876 - P.1877

 腎炎を発見したブライトと同じ頃,ガイ病院にはアジソン病で有名なトーマス・アジソン(1793-1860)もいました.やはりエジンバラ大学の出で,始めは性病に関心があり,皮膚病学を志し,黄色腫症を初めて記載した人ですが,やがて多年にわたる研究の末,副腎の病気について報告して不朽の貢献をしました.しかし,生存中はその論文のいくつかは医学界から拒絶されました.
 トーマス・アジソンは1793年,モーツァルトの没後2年,日本では松平定信が老中の頃に生まれました.たいへんラテン語に達者で,のちに医学校の講義のノートもラテン語で書いたそうです.エジンバラ大学を出るときの論文は梅毒に関するものでした.23歳でロンドンのロック病院で診療を始めたのですが,梅毒など皮膚病学への関心を生涯もち続けました.ガイが参与していたセント・トーマス病院には,英国で始めての梅毒患者の病棟がありましたが,ロック病院でも梅毒患者を治療しました.もともとのロック病院は12世紀頃からロンドンのサウスワークにあり,1549年にセント・バーソロミュー病院に併合されていました.18世紀にイギリスではハンセン病がなくなったので,代わりに性病患者を治療していたのです.

これからの医療と医療制度・21

専門医・認定医制度

著者: 寺崎仁

ページ範囲:P.1878 - P.1880

 医学関連の様々な学会による専門医制度の“創設ラッシュ”も,最近ではやや峠を越えた感があるが,現在のわが国には21万6千人余りもの各種学会の専門医・認定医がいることになっている(表1).わが国の医師数は現在約23万人程度と推計されるので,全体の90%位が何らかの専門医や認定医の資格を持っていることになる.もちろん,重複して幾つかの専門医資格を取得している医師もいるので実数としては不明だが,かなりの数の専門医や認定医がいることに変わりはない.
 実は,表に示してある認定医・専門医の数は,「学会認定医制度協議会」に加盟している45学会のものだけで,そのほかに協議会に加盟していない学会の認定医制度などもある.例えば,同じ名称で2つの学会がある「美容外科学会」にもそれぞれ独自の専門医制度があり,「集中治療医学会」など15前後の学会でも認定医・専門医あるいは指導医などの制度が作られている.また,今年からは「日本プライマリ・ケア学会」でも認定医制度をスタートさせており,さらには日本医師会の認定産業医などもあり,現在のわが国には極めて多種多様な専門医や認定医制度が,いわば乱立気味ともいえる状況で存在している.

アメリカ・ブラウン大学医学部在学日記・13

アルコール中毒患者のリハビリテーションに参加

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.1882 - P.1884

 フォード前米大統領の奥様Mrs Betty Fordは一時アルコール中毒にかかったが,無事リハビリテーションを行い回復した.その後,自身の資産でアルコールおよび麻薬中毒者のためのリハビリテーション・センターをカリフォルニアに設立,ベティー・フォード・センターと名づけた.このセンターにくる中毒患者は1カ月間センターに住み込み,グループ療法,個人カウンセリング,AA(アルコール中毒者厚生会)の参加などのカリキュラムをこなすこととなる.このセンターの医学部学生を対象とした1週間のトレーニングコースに4年生の夏参加した.研修費,宿泊費,交通費などはこのセンターが負担してくれる.この1週間に関してもブラウン大学医学部の選択実習の単位がもらえた.
 アメリカ,カナダから15人ほどの医学生がこのコースに集まってきた.学生は基本的に中毒患者と全く同じ日々のスケジュールを患者の立場でこなす.この1週間の目的は,アルコールあるいは麻薬に中毒するということがどういう状況であり,いったん中毒した状態から抜け出すことがどんなに苦痛であるのか,といった内面的な患者の動きを医学生が直接感じ,学ぶことであった.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1839 - P.1844

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?