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雑誌目次

雑誌文献

medicina33巻10号

1996年10月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のための痴呆の最新知識 Editorial

痴呆への多面的アプローチ

著者: 葛原茂樹

ページ範囲:P.1836 - P.1839

ポイント
●痴呆の原因は多様である.
●わが国の痴呆の原因疾患の頻度は,近年,脳血管性痴呆優位からアルツハイマー病優位に変化している.
●アルツハイマー病は,臨床像と病理像は同じでも,原因と発症因子が異なる複数の疾患から構成される症候群である.
●アルツハイマー病以外の新しい変性型痴呆が注目されている.
●エイズ痴呆や狂牛病のような,新たな感染性痴呆への対策も必要である.
●治療可能な痴呆の鑑別,治療可能な症状への対応が重要である.
●ケアシステム,社会的資療の利用など,疾患や家族を支える体制の整備が急務である.

ベッドサイドでの痴呆患者の診察

痴呆かどうかの見分け方—精神症状・異常行動のある患者の診察

著者: 平井俊策

ページ範囲:P.1840 - P.1843

ポイント
●痴呆の診断には,意識障害,機能的脳障害によるうつ病,ヒステリー,巣症状として高次脳機能障害のみを呈する場合などとの鑑別が必要である.
●うつ病による仮性痴呆と痴呆の鑑別には,問診時の表情・態度・答え方に特に注意することが大切である.
●幻覚妄想や異常行動は痴呆に伴う場合が多いが,必ずしもそうではないので,これのみで痴呆が基礎にあると即断すべきではなく,原因をよく検討する必要がある.

痴呆と紛らわしい病態—せん妄

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.1844 - P.1846

ポイント
●せん妄は急激に発症し,日中温和に過ごしながら夜間悪化して不穏となりやすい.
●せん妄の持続は数十分〜数時間と短いが,高齢者では数週間にわたることもある.
●せん妄では意識の低下や狭窄があり,注意を集中,維持,転換することが困難である.
●活動過剰型では錯視,幻視,多動などがあり,活動減少型では動きが乏しい.
●せん妄では常に睡眠覚醒周期の障害があり,日中の傾眠と夜間の不眠が多い.
●その原因には中枢神経疾患のほかに代謝障害,感染症などがあり,発症誘因として薬剤その他の身体因と心因ないし環境因がある.

痴呆と紛らわしい病態—失語・失行・失認など

著者: 板東充秋

ページ範囲:P.1847 - P.1849

ポイント
●痴呆という語には,疾患としての痴呆と,症状としての痴呆の,少なくとも2つの意味があり,混同しないよう注意する.
●失語は,①言語を介さない知能検査などが保たれること,②失語のポジティブな特徴より診断が可能である.痴呆症状が合併しても,②があれば診断できる.
●失行では,痴呆症状を伴う場合,麻痺のない一側性失行以外は,現在のところ診断が困難となる.視覚失認も痴呆症状を伴えば,診断は困難になる.
●診断には,痴呆を考慮した巣症状の検査と,病態に応じた適切な知能検査を行う.画像診断も活用する.

脳血管性痴呆

脳血管性痴呆—症状の特徴と診断

著者: 高橋智 ,   東儀英夫

ページ範囲:P.1851 - P.1853

ポイント
●脳血管性痴呆は病理学的にheterogenousな概念で,虚血性病変による痴呆と出血性病変による痴呆に大別される.
●虚血性病変による痴呆は,①大梗塞,認知機能全般に重要な影響を及ぼす部位の中梗塞による痴呆,②多発梗塞痴呆,③ビンスワンガー型脳血管性痴呆,④低環流による痴呆に分けられる.
●大梗塞および多発皮質梗塞痴呆では,巣症状を伴った皮質性痴呆を呈する.認知機能全般に重要な影響を及ぼす部位の中梗塞では,しばしば局所神経徴候に乏しい急性発症の痴呆症状で発症する.多発小梗塞痴呆およびビンスワンガー型脳血管性痴呆では,いわゆるまだら痴呆となる.

限局性病変による痴呆

著者: 秋口一郎

ページ範囲:P.1854 - P.1856

ポイント
●限局性病変による痴呆は,①視床型,②海馬型,③側頭葉皮質下型,④前頭葉皮質下型,⑤その他に分けられる.
●①〜③は主に梗塞,一部出血(血腫)により出現し,④はくも膜下出血やそれに伴う血腫により好発する.いずれも急性発症で優位側病変が多い.
●これらの多くの患者では一般に脳梗塞であれ脳出血であれ,急性期の傾眠,自発性低下,confusionのあとにエピソード記憶ないし生活記憶の障害(健忘)を主訴として外来を訪れる場合がほとんどである.

ビンスワンガー病

著者: 山之内博

ページ範囲:P.1857 - P.1859

ポイント
●ビンスワンガー病(一型白質脳症)は脳血管性痴呆の代表的なものの一つである.
●本症は大脳白質が広汎に障害されるのが特徴であり,高血圧との関連が強く,高齢者に比較的多い.
●CT/MRI検査で大脳白質の広汎な異常を示すが,逆に画像上のこうした異常が本症を示すとは限らない.
●臨床像はアルツハイマー病とはかなり異なり,また,仮性球麻痺,パーキンソニズム,失禁などを伴うことが多い.

脳血管性痴呆の予防と治療

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.1861 - P.1863

ポイント
●脳血管性痴呆の予防には,high risk groupの早期発見,早期治療が大事である.
●白質障害が高度な脳血管障害はhigh riskである.
●このような例ではパーキンソニズムや仮性球麻痺がよくみられる.
●白質障害の最大の危険因子は高血圧であり,その管理が予防上重要である.
●脳血管性痴呆の初期症状は,やる気の低下とうつ状態である.
●長谷川スケール,やる気スケール,うつスケールは補助診断に有用である.
●徐々に進行する脳血管性痴呆にはビンスワンガー型痴呆が多い.
●脳血管性痴呆初期には,やはり高血圧などの危険因子の管理が治療の基本である.

治療困難な痴呆—変性型痴呆性疾患

皮質痴呆と皮質下痴呆

著者: 松下正明

ページ範囲:P.1864 - P.1866

ポイント
●臨床的特徴から,痴呆を皮質痴呆・皮質下痴呆・辺縁痴呆・白質痴呆の4群に大別することができる.
●皮質痴呆の特徴は,記憶障害,多彩な認知障害,失語・失行・失認などの高次精神機能障害,人格変化であり,皮質下痴呆の特徴は,精神機能の緩慢化,獲得された知識の操作障害,人格障害,意欲減退などである.
●皮質痴呆の代表的疾患はアルツハイマー型痴呆,血管性痴呆,ピック病,クロイツフェルト・ヤコブ病であり,皮質下痴呆のそれはパーキンソン病,舞踏病,進行性核上麻痺,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症,小脳変性症,ウィルソン病などである.

アルツハイマー型痴呆—症状の特徴と診断

著者: 松下正明

ページ範囲:P.1868 - P.1870

ポイント
●アルツハイマー型痴呆は,初老期発症のアルツハイマー病と高齢期発症の老年痴呆との2つのタイプに分けられる.
●アルツハイマー型痴呆は,詳しい症状と経過の観察,画像を中心とした検査所見によって,臨床診断が可能である.
●アルツハイマー型痴呆は,記憶障害を主とした痴呆症状を特徴とし,徐々に進行し,末期はあらゆる精神機能が障害された状態に至る.病期は3期に分けられ,初期(第1期)は記憶障害と意欲・自発性の低下,中期(第2期)は高度の記憶障害に加えて高度の痴呆,失語・失行・失認症,失見当識,人格変化,末期(第3期)は失外套症候群,ねたきりの状態が特徴である.

アルツハイマー型老年痴呆の画像診断

著者: 吉田亮一

ページ範囲:P.1871 - P.1873

ポイント
●アルツハイマー型老年痴呆(SDAT)の脳波は,病初期よりの基礎律動の徐波化,病中期,末期には時に発作波の出現がある.
●SDATをより早期に画像診断で理解するには,画像診断を広義に考えると,その病態異常を描出可能なのはSPECTやPETである.
●SDATのCTでは脳萎縮が生理的老化以上であり,脳血管障害や慢性硬膜下血腫などの除外診断である.
●SDATのMRIでは,大脳皮質が評価しやすいT1強調画像で,側頭葉の萎縮が著明で側脳室下角の拡大,海馬溝の開大,海馬の萎縮に注目する必要がある.

ピック病,非アルツハイマー前頭葉痴呆

著者: 三山吉夫

ページ範囲:P.1875 - P.1877

ポイント
●ピック病と非アルツハイマー前頭葉痴呆は,ともに前頭葉の萎縮を主病変とする変性型痴呆疾患である.
●多くが初老期に発症し,進行性で人格変化,行動障害(脱抑制行動),注意集中困難,判断力の低下,道徳・倫理観の減弱,知的作業の粗雑化,病識欠如が特徴とされる.●CT,MRIで前頭-側頭葉萎縮とSPECTで前頭葉での血流低下が診断に役立つ.
●非アルツハイマー前頭葉痴呆では早期から,原始反射(強迫握り・吸い付き反射),表情の乏しさ,尿失禁がみられる.
●近縁疾患として,進行性皮質下グリオーシス,運動ニューロン疾患を伴う痴呆,進行性失語などがある.最終診断は病理学的検索による.

パーキンソン病,レビー小体病,その他の錐体外路系変性疾患に伴う痴呆

著者: 小田原俊成 ,   井関栄三 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.1878 - P.1880

ポイント
●パーキンソン病,進行性核上性麻痺の痴呆像は皮質下性痴呆が特徴とされてきたが,高度の痴呆を呈する症例では大脳皮質病変が関与している可能性がある.
●レビー小体病はレビー小体出現を特徴とする神経変性疾患であり,脳幹型(パーキンソン病に相当)・移行型・びまん型の3型に分類される.
●びまん型は大脳皮質にも多数のレビー小体が出現し,アルツハイマー型痴呆に次いで多い痴呆性変性疾患である.

運動ニューロン疾患と痴呆

著者: 村上信之

ページ範囲:P.1881 - P.1883

ポイント
●運動ニューロン疾患にはいろいろな疾患があるが,筋萎縮性側索硬化症がその代表的なものである.
●筋萎縮性側索硬化症は,原則として痴呆を呈することはない.
●「痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症」は一つの疾患単位として提唱されており,この疾患単位には非定型例など変異が認められる.
●病理学的にアルツハイマー神経原線維変化を認める筋萎縮性側索硬化症が存在し,それは通常紀伊半島やグアム島などの多発地によく認められるものである.

治療困難な痴呆患者の治療・対処法

興奮・俳徊などの周辺精神症状の治療

著者: 山本光利

ページ範囲:P.1884 - P.1885

ポイント
●興奮,徘徊などに対する抗精神病薬投与は対症的療法であり,副作用の出現に注意する.
●抗精神病薬の副作用としてはパーキンソニズムが多いが,悪性症候群を忘れてはならない.
●脳循環代謝改善薬の有効な症状は薬理作用の違いにもかかわらず,血管性痴呆におけるうつ状態,意欲低下,感情失禁,俳徊,見当識障害とほぼ共通している.
●最低限数の薬の特徴を理解しておくことで,診療上は十分である.

痴呆患者の症状を悪くする薬

著者: 山本光利

ページ範囲:P.1886 - P.1887

ポイント
●症状の悪化を認めたら,第一に薬剤に起因するものではないかと考える.
●抗コリン作用を有する薬は多いので,薬理作用の理解が必要である.
●抗不安薬,睡眠薬は痴呆状態を生じさせることが稀でない.
●全身状態のよくない状態では薬剤性の症状悪化が生じやすいので,処方用量は通常の2〜3分の1を老人では投与の目安とし,副作用の防止に努める.
●副作用はその注意を忘れた頃に出現する.

痴呆患者の尿失禁の治療と対策

著者: 中内浩二

ページ範囲:P.1889 - P.1891

ポイント
●アルツハイマー型の痴呆に比べて,脳血管障害型では,神経因性膀胱の合併により尿失禁がより早期に発現することが多い.
●脳血管性痴呆患者の尿失禁の治療と対策が,痴呆患者のそれの代表となる.
●痴呆そのものの治療により,判断力や意欲の低下の改善を図る.
●麻痺による行動障害を改善する.
●神経因性膀胱による膀胱機能異常の調整を行う.
●高齢者に多い尿路系の異常に留意する.

痴呆患者の介護のコツ

著者: 鎌田ケイ子

ページ範囲:P.1892 - P.1894

ポイント
●痴呆患者は,種々の精神障害から生活適応への障害を起こしているが,介護の対応次第で人間らしい生活を送れる.
●患者の訴えを否定せず,相手の世界に合わせた対応をする.
●叱らずに,行動の意味を察して,欲求を満たした介護を行うと問題行動は納まる.
●年長者として自尊心を傷つけないことが大切である.

痴呆患者の介護に利用できる社会的資源—医療・保健・福祉サービス

著者: 柄澤昭秀

ページ範囲:P.1895 - P.1898

ポイント
●近年わが国においても,痴呆患者やその家族に対する社会的支援サービスの整備が進んできたが,社会資源の充足度は地域によりかなり異なる.それぞれの地域において,今どのようなサービスが利用できるのかよく把握しておくことが望まれる.
●公的社会資源は医療,保健および福祉サービスの3つに大別できるが,各種サービスにはそれぞれ種類によって利用条件に違いがある.また名称や内容が似ていても,制度的に異なるものがあることに注意する必要がある.

痴呆老人の「入院」をめぐる問題

著者: 竹中星郎

ページ範囲:P.1900 - P.1901

ポイント
●痴呆老人の骨折や白内障,肺炎などは,治療により病前の生活に復帰することができるが,その入院にはせん妄への対応や痴呆の介護が必要とされる.しかし,現在の医療体制はこのような患者のニーズに十分には対応できない.
●「社会的入院」をめぐる諸条件—介護家族の状況や福祉施設の貧困など—を踏まえることが不可欠である.
●インフォームド・コンセントや,痴呆老人の看取りについてのコンセンサスの問題がある.

アルツハイマー型痴呆の治療の新しい試み

著者: 森松光紀

ページ範囲:P.1902 - P.1904

ポイント
●米国では,タクリンがアルツハイマー型痴呆(AD)の認知機能改善薬として承認された.
●タクリン類似薬を含め,ADの認知機能改善を目的とする抗痴呆薬が,現在多数開発されつつある.
●ADの発病または進行を抑制する目的で,病因的立場からの薬物開発が進められている.
●「総合的ケア」の立場からのリハビリテーションがAD患者のQOL改善に大切である.

治療可能な原因による痴呆症状

どんな痴呆をみたときに治療可能と考えるか

著者: 森松光紀

ページ範囲:P.1905 - P.1907

ポイント
●真の痴呆と,意識障害および仮性痴呆との鑑別が重要である.
●痴呆様症状を含めて,治療可能な痴呆の代表は内分泌代謝性および薬物性脳症である.
●治療可能な脳器質障害性痴呆では,治療までの期間が回復度を決定するので,早期診断・治療が必要である.
●痴呆患者には,治療可能性の判定のために頭部X線CT,MRIの画像検査,および血液・尿スクリーニング試験を行う.

内科疾患に伴う痴呆

著者: 宇高不可思 ,   西中和人 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.1909 - P.1911

ポイント
●内科疾患に伴う痴呆ないし痴呆様状態は,臨床実地上の概念である.原因疾患は多岐にわたり,“治療可能な痴呆”の多くはこれに含まれる.
●内科疾患に伴う痴呆ないし痴呆様状態は,高齢者に多く,アルツハイマー型や脳血管性痴呆に合併する場合もある.
●臨床的特徴は,経過が短い,症候の日差・日内変動が大きい,痴呆の中核症候である記憶障害は比較的軽い,原疾患による身体症候や神経症候を伴うことが多いなどであり,早期発見,早期治療が必要である.

脳神経外科疾患に伴う痴呆様症状

著者: 小林秀

ページ範囲:P.1912 - P.1914

ポイント
●脳神経外科疾患の中で痴呆様症状を示すものとして,正常圧水頭症,脳腫瘍,慢性硬膜下血腫,脳挫傷などがあげられる.
●老年者に多い特発性正常圧水頭症は,痴呆・歩行障害・尿失禁を三主徴とする.初期の段階で歩行障害を示すのが特徴である.
●脳腫瘍の中では,高齢者に多い髄膜腫や転移性脳腫瘍のほか,グリオーマや悪性リンパ腫などで痴呆様症状が認められる.
●高齢者の慢性硬膜下血腫では,記銘力低下などの痴呆様症状を示すことが多い.老年痴呆などの痴呆患者は,転倒などにより頭部外傷を被りやすく,慢性硬膜下血腫を作りやすいことに留意すべきである.

仮性痴呆—精神疾患による痴呆様症状

著者: 木戸又三

ページ範囲:P.1915 - P.1917

ポイント
●仮性痴呆の原因疾患として最も多いのはうつ病で,次がせん妄である.
●抑うつ性仮性痴呆と診断するためには,経過や臨床像の中に種々のうつ病の特徴を見いださねばならないが,確証がつかめなくてもうつ病が疑われるならば,抗うつ薬治療を試みてみるべきである.
●痴呆様症状が急に始まり,幻覚,妄想,不穏などが見られるときには,せん妄を疑って,原因となり得る身体疾患や薬物の発見に努めなければならない.
●健忘症候群,分裂病,ヒステリーなどが原因の仮性痴呆もある.

薬物による痴呆類似症状

著者: 加瀬光一 ,   風祭元

ページ範囲:P.1919 - P.1921

ポイント
●高齢者では薬剤起因性の意識障害を呈しやすく,痴呆症と鑑別困難な場合がある.
●鎮静作用,抗コリン作用,抗ヒスタミン作用を有する薬剤は意識障害を起こしやすい.
●特に抗コリン作用の強い薬剤は,幻覚,妄想,興奮などを伴う意識障害を呈しやすく,臨床上最もせん妄を起こす頻度の高いのは,抗うつ薬と抗パーキンソン薬である.また,離脱病状で意識障害を呈する薬剤も多い.
●向精神薬はせん妄の治療薬として使用されるが,用量や種類によって逆にせん妄を引き起こすこともあることに注意すべきである.

最近注目されている痴呆の原因疾患

クロイツフェルト・ヤコブ病とプリオン病

著者: 堂浦克美

ページ範囲:P.1922 - P.1925

ポイント
●初老期に亜急性痴呆,ミオクローヌス,PSDが観察されれば,プリオン病(CJD)の可能性が高い.
●プリオン病には孤発性のものと家族性のものがある.プリオン蛋白遺伝子異常は,孤発性プリオン病患者にはないが,家族性プリオン病患者には認められる.
●家族性プリオン病は多彩な臨床像(病型)を示す.病型はプリオン蛋白遺伝子型と関連しており,プリオン蛋白遺伝子異常が診断のポイントとなる.
●下垂体ホルモン製剤による医原性プリオン病や,狂牛病との関連が疑われている新型CJDでは,若年者の発症が特徴である.
●プリオン病,特にCJDについては,患者材料の取り扱いに注意を払う必要がある.

AIDSと痴呆

著者: 矢野雄三

ページ範囲:P.1926 - P.1928

ポイント
●AIDS脳症はHIV-1ウイルスが中枢神経系に感染して発症するが,種々の日和見感染症が重複していることが少なくない.
●脳症はAIDSの中核症状の一つであり,25〜30%の患者にみられる.
●脳症がAIDSの初発症状となることも少なくない.
●AIDS脳症を特徴づけるのは,早期に知的活動の遅鈍化(mental〜psychomotor slowness)を認めることである.
●精神症状・知的機能の低下が進行するとともに,歩行障害,前頭葉症状,錐体路症状,錐体外路症状などを呈してき,皮質下性痴呆の形をとる.

脳アミロイドアンギオパチーと痴呆

著者: 池田修一

ページ範囲:P.1930 - P.1933

ポイント
●脳アミロイドアンギオパチー(CAA)は,脳の血管壁にアミロイドが沈着する病態である.
●CAAは,臨床的には高齢者の非高血圧性脳出血の原因となり,またアルツハイマー病では疾患の成因解明上重要な手がかりを与えている.
●CAAを構成するアミロイド蛋白は疾患により異なり,遺伝性疾患ではアミロイド前駆蛋白の遺伝子異常が明らかにされている.

痴呆の予知・予測・予防

アルツハイマー病の原因遺伝子

著者: 奥泉薫 ,   辻省次

ページ範囲:P.1935 - P.1938

ポイント
●早発型家族性アルツハイマー病では,原因遺伝子として単一遺伝子の点突然変異が明らかとなり,APP,PS-1,PS-2の3つの遺伝子の変異が報告されている.これらの症例は遺伝子診断が可能であるが,アルツハイマー病患者全体からみると極めて少数例である.
●アルツハイマー病の大多数を占める孤発性アルツハイマー病,晩発型家族性アルツハイマー病では,複数の遺伝学的要因が発症に関与している可能性が考えられている.その代表的なものはAPOEであるが,個々人の診断や発症の予測に際しては慎重な考え方が必要である.
●これらアルツハイマー病関連遺伝子の研究は,アルツハイマー病の予防や進行の抑制の試みに発展することが期待されている.

痴呆発症の促進・抑制因子としてのアポリポ蛋白

著者: 植木彰

ページ範囲:P.1939 - P.1941

ポイント
●アポリポ蛋白E(アポE)には,ε2,ε3,ε4の3つの遺伝子型があるが,アルツハイマー病(AD)では約60%が少なくとも1個のε4を持ち,対照(18%)の2〜3倍高い.
●ε4を持つ数が0,1,2と増えるに従って発症年齢が若くなり,脳でのアミロイド沈着量が多くなることにより,ε4はADの危険因子/感受性遺伝子とみなされている.
●アポEの本来の機能は髄鞘の維持やシナプス形成に重要であるが,アポE4は不溶性のアミロイドや神経原線維変化の形成に関係するらしい.
●ε4はADの原因遺伝子そのものではない.ε4保有者で健康な高齢者も存在するし,逆にADの40%はε4を持っていない.ApoE Testは,既に痴呆を発症している人の鑑別診断には有用だが,無症状の人の将来予測には用いられない.

痴呆を予防するライフスタイル—1次予防の試み

著者: 近藤喜代太郎

ページ範囲:P.1943 - P.1945

ポイント
●老年期痴呆も「成人病」であり,遺伝素因と半生にわたるライフスタイルの中で徐々に起こる.
●痴呆の危険要因には,その脳病変の要因のほか,脳病変の機序と関係なく痴呆化を促す非特異的要因があり,精神活動と運動の不活発,頭部外傷がその例である.
●誰でもボケたくないというが,痴呆の1次予防は直接の保健課題というよりも,心身ともに健やかに有意義な生涯をおくるなかで,結果的に達成されるものかもしれない.

理解のための29題

ページ範囲:P.1947 - P.1952

カラーグラフ 塗抹標本をよく見よう・10

リンパ球の異常・3

著者: 久保西一郎 ,   藤田智代 ,   久原太助 ,   浜田恭子 ,   高橋功 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.1957 - P.1960

悪性リンパ腫
 悪性リンパ腫とは,腫瘍化したリンパ球が,リンパ組織において異常に増殖する疾患である.リンパ節腫大あるいは脾腫が初発時の主要症状であり,この時期に末梢血に異常を認めることはほとんどない.病気が進行してくるとリンパ腫細胞は骨髄でも増殖し,末梢血中にも出現してくる.このような状態はリンパ腫の白血化と呼ばれるが,病気の拡大と予後不良をうかがわせる所見である.今回は,そのような白血化したリンパ腫細胞が認められた症例の末梢血塗抹標本を紹介する.

グラフ 高速CTによるイメージング・9

脳腫瘍診断における三次元CTの臨床応用

著者: 小倉祐子

ページ範囲:P.1963 - P.1968

 頭部における三次元画像診断は,身体の他の部分に比し早期から臨床応用がなされてきた.その理由としては,第一に生理的な動きが少ないため長時間を要する従来のデータ収集法においても,比較的良質のボリュームデータが得られたこと,第二に閾値処理によりCTデータから容易に頭蓋骨・顔面骨が抽出可能なこと,第三に形成外科・脳神経外科などの関連各科のニーズが高かったことなどがあげられる.ヘリカルスキャンCTの実用化以降,データ獲得は格段に容易となり,三次元CTの臨床応用も一層拡大した.特に撮影時間が従来法に比し驚異的に短縮されたことで,通常量の造影剤(100ml)で十分かつ一定の増強効果を保持した良好な三次元CT血管像(3D-CTA;three-dimensional CT angiography)が簡便に得られるようになってきた.頭部領域における血管病変の3D-CTAについては次号で解説するとし,本稿では脳腫瘍における三次元CTの可能性について言及する.

図解・病態のメカニズム—分子レベルからみた神経疾患・13

モデルマウスの作製

著者: 若松延昭

ページ範囲:P.1977 - P.1981

 近年の分子遺伝学の研究の発展により,遺伝性の神経変性疾患の病因遺伝子が次々とポジショナルクローニングにより同定されてきた.一方,その仕事とほぼ並行して,これらの疾患のモデルマウスが遺伝子操作により作製され,その病因の研究,治療法の開発のために使用されている.本稿では,gene targetingによるモデルマウスの作製法の原理を述べるとともに,すでに作製されている代表的なモデルマウスをヒトの同疾患の臨床症状と比較して述べる.

Drug Information 副作用情報・7

致死的だが稀な害反応の危険/利益比の考え方と情報提供のあり方

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.1983 - P.1988

 中毒性表皮壊死症(TEN)で死亡した患者の遺族が,治療にあたった高知医大附属病院を運営する国を相手取って損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で,1996年2月28日,医師の説明義務違反を認め,一審判決を覆して国側に110万円の支払いを命じる判決が下された.その後,国は上告を断念し,判決は確定した.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・18

ボローニヤ大学のモンディーノ

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1990 - P.1991

 パドヴァから急行で1時間,丘の間を緩やかに下るとボローニヤの駅に着く.ネプチューン(海神)の像の立つ広場の教会の横に,欧州最古の大学ボローニヤ大学がある.10世紀にはすでに法律学の講義が行われており,これに付属する法医学施設として医学校もあったらしい.その頃,十字軍で死んだ兵士の骨を煮て故郷に持ち帰る習慣があったが,教皇ボニファキウス8世は解剖を含めてこれを禁じた.しかし,この布告に反して,医学校では人体解剖も行われたらしい.
 ボローニヤ大学の中庭は,パドヴァ大学と同じ回廊が取り巻いている.壁にはここで学んだ学生たちの名楯(スティグマタ)がたくさん掲げられている.2階にある解剖示説室は大戦中に破壊され,修復再現されたものである.ヒポクラテス,ガレノスら古代の医師たちの像と並んで,モンディーノ・デ・ルッチの像が解剖台を見下ろしている.ルッチ出身のモンディーノ(1265年頃〜1326年)はボローニヤの薬剤師の息子で,ボローニヤ大学を出て1306年に解剖学の教授になり,60歳前後で死亡するまでその職にあった.モンペリエのモンデビユと同じ頃ボローニヤで学び,ギュイ・ド・シヨーリアクがボローニヤに留学したときには50歳を越えていて,すでに『解剖学』(アノトミア)を書き上げていた.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1971 - P.1976

medicina Conference・19

ホジキン病の既往があり,呼吸困難・発熱を呈した48歳の男性

著者: 内田耕 ,   半田祐一 ,   鈴木謙 ,   菊池隆秀 ,   北原光夫 ,   秋月正史

ページ範囲:P.1992 - P.2005

 症例:48歳,男性
 職 業:会社員
 入院日:1996年3月13日
 主 訴:呼吸困難
 既往歴:18年前より糖尿病で当院外来通院し,中間型インスリン朝8単位,夕6単位投与されている.平成7年10月,ホジキン病でC-MOPP/ABV(シクロフォスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロン,プロカルバジン/アドリアマイシン,ブレオマイシン,ビンブラスチン)交代療法計6クールを予定し,5クールまで終了している.最終クールは2月15日施行した.結核の既往なし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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